2018神奈川大学講義資料Elem(辻本)
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マススペクトロメトリー(2018集中講義最終)
• マススペクトロメトリーの学習方法• 基礎の基礎とは
⋆ 質量(マス)と重量(ウエイト)⋆ イオン化法⋆ 質量分離と検出⋆ スペクトル解析
フラグメンテーション (ここまで基礎)
• その先には▸ 最近のイオン化▸ 電場と磁場▸ 構造解析▸ 無機イオンとICP-MS▸ 装置の使用
神奈川大学理学部化学教室 辻本和雄
よろしく。
目次
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質量を量るってどういう風に
• 目に見える質量を量る → 天秤
分子の重量を量る天秤はない。
(故桜井達博士の表現)
• 中性分子をイオンにする → 電磁気の力 1電子を奪う → M+・ ラジカルカチオン
プロトンを付加する → MH+ プロトン化分子
基礎
中性分子の質量 ⇒ イオンの質量
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ここで疑問が出てくる!
中性分子の質量 ≠ イオンの質量というのは電子1つ分の違いがあるから。
計算すると,
陽子の質量: 1.007 276 u
電子の質量: 0.000 548 579 9 u
水素原子の質量=陽子の質量+電子の質量=1.007825 uただし, 統一原子質量単位 u 炭素12の質量の1/12 = 1.660 539 040(20)×10−27 kg
従って,水素原子の質量は,質量分析で測定される陽子の質量より,0.0545%重い。
この差は分子質量が大きくなると,電子1つ分の質量は無視できる。結果として,
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中性分子の質量 ≒ イオンの質量
疑問
質量は速度と力で求める
• 物の質量は加速度と力で量る
F = � (dv/dt )↑ ニュートンの運動方程式
• イオンの速度と力は電磁場で量る
F = e・(E + v×B)↑ ローレンツの式
物理基礎
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イオン質量を電場や磁場で分かる方程式
V :イオンの速度 電流の方向
E :電場の大きさ
B :磁場の強さ
F :力
電流
磁場
力
フレミングの左手
物理基礎
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たとえば磁場で量る
イオンは円運動する
基礎
m が小さいものは小回り6
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基礎の流れ
• ハード: イオン化
• ソフト: マススペクトル
• ゴール: 化学構造
マス 分子構造
基礎
想像
推測7
もう一度 原子や分子の質量
• 原子や分子の質量はgで表わすには小さ過ぎる。
• そこで原子質量の単位を決めておけば取扱いが便利になる。
• 統一原子質量単位: 1u = 1.660 538 ×10−24 g, ダルトン Da
これはアボガドロ数の逆数にあたる。 NA=6.02214×1023
この基準は,炭素12の原子質量を厳密に12とする。
すなわち,12Cの質量の1/12を1uとする。
参考:質量
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分子質量
分子質量 ≠ 分子量
分子量: (同位体存在率×分子質量)の総和
例外: 天然に一つだけの同位体をもつ元素がある。
例えば,F, Al, P, Rh 原子質量=原子量
参考:質量
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間違え易い
Brの原子質量と原子量(分子質量と分子量)
Br原子は自然界に79Brと81Brがほぼ1:1で存在する。
質量分析では79Brと81Brは区別する。
原子量 : それぞれの原子質量×存在率であるから,
79Br: 81Br=1:1、
原子量: 79×0.5+81×0.5 =80
質量数: 質量に最も近い整数値
基礎
言葉の定義
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それでは,Br2の質量分布と存在確率は?
Brの質量分布は79Brと81Brが1:1
Br2の質量分布は,
79Br- 79Br, 79Br- 81Brと81Br -79Br , 81Br- 81Brが1:2:1
つまり,質量数158,160,162が1:2:1の二項分布をする。
Qiuz
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原発メルトダウンから7年で,放射性セシウム は何割になったか?
話題
放射性物質の崩壊する量と時間の関係式は,半減期(T)で表すと
ただし,Nは放射性物質の量,tは時間を表す。
2011年3月11日に発生したときを1として,2018年3月11日にはχ7になったとする。
T=30年,ln2=0.69315
結果: 7年で,15%減じて,85%残っている
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7 0.85
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原子番号119
• 113番元素の名前: ニホニウム
Zn(亜鉛30番)をBi(ビスマス83番)に高速で打ち込んで作った
• 119番元素のつくり方
V(バナジウム23番)をCm(キュリウム96番)に高速で打ち込んで作る計画
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どのようにして測定するか? ⇒ 質量分析装置
Y. Ito, P. Schury, M. Wada, et al, Phys Rev Lett, 120, 152501 (2018).朝日新聞,2018年6月28日(木),科学の欄で紹介
話題
マススペクトルを見てみよう
横軸 m/z は質量と電荷の比を示す。(ラジカルイオンのとき,z=1)縦軸 % は最大ピーク強度を100とする相対イオン強度を示す。では,・ 横軸のm/zは連続した値か?・ 縦軸強度は線スペクトルですか?
質問
最も強いピークを100%とする。
No
Yes
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簡単にまとめると,
概略と流れ
• Mass(質量)とWeight(重量)は違う。
• マスは離散的である。
復習: マスを量る天秤はあるか?
• 中性の分子質量を測定することはできない
• 中性分子から極小さな電子を加減しても
質量は変わらない。イオン質量測定はできる。
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質量分析は イオン質量の測定 なんだ
イオン質量分離 イオン検出イオン化
原理
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分子
電子をとる or プロトン化
イオン質量によって振り分ける
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中性分子をイオン化する
質量分析測定は気相中で行う
気化した中性分子に電子線を照射
分子電子線
電子
分子イオン
分子イオン:中性分子から1電子脱離;M+.
参照:他に分子関連イオンは,プロトン付加:MH+
基礎
ラジカルカチオン
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イオンってなあに? Ion ≠ AEON
考え方:水素分子の結合切断
分子イオン = イオン + ラジカル
基礎の基礎
H H
2 HH + H
正負イオンラジカル
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イオン化は基本的に2種類
電子イオン化: ラジカルイオン
電子線を使う
プロトン化: プロトン化分子
気相中でプロトン化する
分子電子線
電子
分子イオン
ラジカルカチオン
プロトン化分子
分子 + プロトン
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電子イオン化(Electron Ionization)
電子線のエネルギー: 70 eV (1610 kcal)のエネルギー
分子のイオン化エネルギー: 7-15 eV
過剰のエネルギー: 衝突断面積に依存、 並進,振動,励起
エネルギーに分配、 振動の自由度に応じ分配(分解)
イオン化
ここ重要
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電子イオン化源
電子線は,細いレニウム線に電流を流して発生する
イオン化
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プロトン化分子
プロトン化分子の生成方法
M + H+ → MH+
水溶液では簡単だが, 気相では難しい!
気相中でプロトンをつくる点
分子とプロトンの反応をする点
イオン化
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例えば,化学イオン化
化学反応を使う
CH4+. + CH4 CH5
+ + CH3.
CH3+ + CH4 C2H5
+ + H2
CH5+ や C2H5
+ はプロトン化分子である。
プロトンを放出して安定な中性分子となる。(発熱反応)
イオン化
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イオン化法
• 電子イオン化方法 ✔
• プロトン化分子
○ 化学イオン化 CH5+のような気体の酸を発生 ✓
○ FABイオン化 高速重粒子をマトリックスに衝撃
○ MALDI レーザー光をマトリックスに照射
○ ESI 毛細管先端を高電圧で+に印可
イオン化
これらのイオン化法について,後にノーベル賞の裏話と共に話す。
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質量の測定
質量分離
イオン質量分離 イオン検出
分子
電子
イオン化
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質量の測定
y
x
重力場: a =g,質量の大小に無関係
原理
重いものほど遠くへ質量によって軌道が違う
電場: a は m に反比例する
重力場 電場
電場では重いものほどゆっくりと動く
m e a E
すべての質量で同じ軌道を通る
eEa
m
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イオン化法と質量分離
• イオン化 気相において、A・+ または AH+を作る
• 電子イオン化 (EI)
• 高速原子衝撃 (FAB)イオン化
• マトリクス支援レーザーイオン化 (MALDI)
• エレクトロスプレーイオン化 (ESI)
• 誘導結合プラズマイオン化 (ICPI)
• 質量分離 電磁場でイオン質量を振り分ける
• 振動電場
• 飛行時間
• 磁場
• MS/MS
• IMS
組合せ
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相性1:質量分離とイオン化
Q-pole Ion-trap TOF 磁場 FTICR
EI ◎ ○ ○ ◎ ○
FAB ◎ △ △ ◎ △
MALDI × × ◎ △ ○
ESI ◎ ◎ ○ ○ ○
組合せ
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相性2:質量分離と化合物種
Q-pole Ion-trap TOF 磁場 FTICR
低分子化合物(構造) ○ ○ △ ○ ○
低分子化合物(定量) ○ × × ○ ×
生体分子 ○ ○ ○ × ○
合成高分子 × × ○ × ×
組合せ
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マススペクトルと構造
構造既知の化合物マススペクトル
スペクトル推定
構造式の推定
化合物の構造とマススペクトルが分かっているとき、構造とスペクトルの関係を説明する
スペクトル
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精密質量と組成式
O Chemical Formula: C6H10OExact Mass: 98.073Molecular Weight: 98.143m/z: 98.073 (100.0%), 99.077 (6.5%)Elemental Analysis: C, 73.43; H, 10.27; O, 16.30
精密質量という言葉は二様
• 計算精密質量 (Exact Mass)
• 測定精密質量 (Accurate Mass)
スペクトル
Chem Draw
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フラグメンテーション(EI)
ラジカルカチオンの分解反応過程
ラジカルイオン
A - B
ダイコン型
トウモロコシ型
開裂
単純開裂
転位反応
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1,2-開裂(α‐開裂) ダイコン型
α‐位とは酸素のようなヘテロ原子に結合している炭素の隣の炭素を指し、
また、炭素原子間の結合が切れることをα‐開裂という。
Acylium (Acyl cation)のように、生成するカチオンが安定化されると
スペクトル強度が大きくなる。
単純開裂
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McLafferty転位(‐H) トウモロコシ型
HO
H
HO
H
HO
H
+
m/z 44はラジカルカチオン
転位反応
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H転位によりラジカルとイオンに解離
トウモロコシ型
O
H
O
H
O O
m/z 55
1回目の開裂 2回目の開裂
1,5-H移動
Distonic ion: このようなラジカルとイオンが異なる原子位置で表されるイオン
転位反応
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質量分析(概略)まとめ
• 質量を分析するには ⇒ イオンを作る、電磁場で振分ける
• イオン化法 ⇒ 中性分子において1電子を脱離 or プロトン付加する
• 質量分離と検出 ⇒ 距離や時間で分ける、周期で分ける
• イオンの種類 ⇒ 分子イオン、プロトン化分子
• 精密質量と分子式 ⇒ 計算と測定の質量一致
• スペクトル解析 ⇒ フラグメンテーション:部品と全体構成,パターン
ラジカルイオンかプロトン化分子から部品のイオンに分解する化学反応
まとめ
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