山形大学医学部1年次講義
「ゲノム解析学」資料
遺伝子実験施設
中島 修
121024
遺伝様式・遺伝子変異
遺伝子の2つの定義
•A gene is a determinant, or a co-determinant, of a
character that is inherited in accordance with Mendel’s
rules.
•A gene is a functional unit of DNA.
A locus (遺伝子座,複数loci) is a unique chromosomal
location defining the position of an individual gene or
DNA sequence.
例 ABO blood group locus(ABO血液型遺伝子座)
Alleles(対立遺伝子) are alternative versions of a gene.
例 A, B, and O are alternative alleles at the ABO locus.
•The genotype(遺伝子型) is a list of the alleles present at one or
a number of loci.
•Phenotypes(表現型), characters, or traits(形質) are the
observable properties of an organism.
•A person or mouse is homozygous(ホモ接合体) at a locus if
both alleles at that locus are the same, and heterozygous(ヘテロ接合体) if they are different.
•A person or mouse is hemizygous(ヘミ接合体)if they have only
a single allele at a locus. This may be because the locus is on the
locus is on the X or Y chromosome in a male, or it may be
because on copy of au autosomal locus is deleted.
•A character is dominant(優性)if it is manifested in a
heterozygous person or mouse, recessive(劣性)if not.
The Online Mendelian Inheritance in Man (OMIM) database
(http://www.ncbi.nlm.nih.gov/omim)
身長
メンデル遺伝形質:特定の遺伝子座(locus)の遺伝子型(genoype)の存在が、形質の発現に必要かつ十分な形質(表現型)→家系
多因子形質(非メンデル遺伝形質):複数の遺伝子座に支配されるだけでなく、環境要因からも影響を受ける形質
←オリゴジーン形質、ポリジーン形質
大部分のヒトの形質は複数の遺伝子座の遺伝子によって支配される
感受性遺伝子(susceptibility gene):悉無形質(あるかないか、中間的なものがない形質)に関与する遺伝子
量的形質遺伝子座(quantitative trait locus):量的または連続的形質に関与する遺伝子
ヘテロ接合体(heterozygote)で形質発現→優性(dominant)
ヘテロ接合体では形質発現しない場合(ホモ接合体[homozygote]でしか発症しない)→劣性(recessive)
優性・劣性は遺伝子の特性ではなく、形質の特性
ヒトの優性遺伝病の大部分はヘテロ接合体だが、まれに重症化したホモ接合体がみられることがある。
実験動物ではヘテロ接合体が中間的表現型をとる場合は、半優性(semi-dominat)とよび、ホモ接合体とヘテロ接合体とを区別できない場合のみ優性と呼ぶことがある。
男性はXおよびY染色体上の遺伝子座については、ヘミ接合体(hemizygote)
近親婚
罹患者
保因者
流産
同胞
常染色体優性遺伝:患者の両親の少なくとも一方は患者
常染色体劣性遺伝:通常、患者の両親は非患者で無症状性保因者
X連鎖性劣性遺伝:主に男性に発症。X染色体の不活化(ライオニゼーション)の結果として、女性に発症することがある。
X連鎖性優性遺伝
Y連鎖性遺伝:実際には確認されていない
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バー小体 XX XXXXY
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常染色体(autosome)優性遺伝 常染色体劣性遺伝 X連鎖性劣性遺伝
X連鎖性優性遺伝 Y連鎖性遺伝 (存在しない)
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例:突然変異 X染色体に関しての女性の体細胞
遺伝子座異質性(locus heterogeneity is where the same clinical
phenotype can result from mutations at any one of several different
loci):複数の異なる遺伝子座のいずれかの突然変異で、同一の臨床的表現型が生じる場合
→相補性(complementation)(例:難聴)
対立遺伝子の異質性(allelic heterogeneity is where many different
mutations within a given gene can be seen in different patients with a
certain genetic condition):特定の遺伝的状態を示す患者間で、一つの責任遺伝子の中に多様な変異が認められる場合(例:筋ジストロフィー)
臨床的異質性(clinical heterogeneity is used to describe the situation
in which mutations in the same gene produce two or more different
disease in different people):同一の遺伝子の突然変異が複数の異なる病態を生じさせる場合(例:筋ジストロフィー、アンドロゲン受容体遺伝子変異によるアンドロゲン不応症とケネディ病)
難聴患者における相補性 complementation
ミトコンドリアの遺伝は、母系遺伝と高度なヘテロプラスミーを示す。
←精子のミトコンドリアが接合子に寄与しないため
ホモプラスミー:細胞のすべてのミトコンドリアゲノムに疾患の原因となる突然変異が認められる場合
ヘテロプラスミー:細胞内のミトコンドリアゲノムに、正常なゲノムと、疾患の原因となる突然変異が認められるゲノムが混在する場合
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ミトコンドリア病家系
メンデル遺伝の基本パターンの複雑化
•劣性形質の頻度が高い場合(例:O型血液型遺伝子) •浸透率(penetrance):ある遺伝子型をもつ者にその形質が現れる
確率。優性形質はヘテロ接合体で顕在化するから、定義的には100%の浸透率のはずだが、で、非浸透(nonpeneterance)が認められる場合がある。世代を飛び越えることがある。
•晩発性疾患は年齢に相関した浸透率を示す
•優性形質では、非浸透に関連して、表現度の差異(variable
expression)がしばしば認められる
←他の遺伝子や環境要因、または偶然が影響
•表現促進(anticipation):表現度の差異を示す優性形質が世代を経るごとにより重症化する→反復配列変異
•インプリンティング:特定の性別の親から原因遺伝子を伝達されたときにしか形質が顕在化しない現象
•X連鎖性優性遺伝での男性の致死性
•新たな突然変異がモザイクを生じさせる場合
体細胞モザイク
生殖細胞モザイク
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頻度の高い劣性遺伝 非浸透が認められる常染色体優性遺伝
表現度の差異を示す常染色体優性遺伝
遺伝的インプリンティング(父親から遺伝した場合のみ発症)の例
ハンチントン病の
発症年齢曲線
発症率
罹患者を親に持つ無症候者が疾患遺伝子を持つ確率
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遺伝的インプリンティング(母親から遺伝した場合のみ発症)の例
X連鎖性優性遺伝 雄性致死化 X連鎖性劣性遺伝 常染色体性突然変異
赤い矢印のバンドの濃さが違う
↓
体細胞性モザイク
I1の青い染色体にガン遺伝子あり
発症者の大腸にはガン遺伝子あるはず
血球細胞のゲノムを鋳型に使ったPCR
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小規模の変異(mutation)
塩基置換(base substitution):通常1塩基置換
欠失(deletion):1つ又は複数の塩基が除去
挿入(insertion): 1つ又は複数の塩基が挿入
生殖細胞系列での変異→子孫に伝達去れ、集団へ拡散する可能性有り→DNA多型(DNA polymorphism)
一塩基多型(single nucleotide polymorphism: SNP)
: ほとんどが塩基置換だが、indel多型も含まれる。ほとんどのSNPがイントロンや遺伝子間領域などの非コード領域に存在。
VNTR多型(variable number of tandem repeat polymorphism):複数の対立遺伝子をもつ
マイクロサテライトVNTR多型(単純反復配列多型):1-数bpの単純な反復単位、10-100bp
ミニサテライトVNTR多型:9-数十bpの反復単位、数百bp
ヒトゲノムDNAの平均ヘテロ接合性は0.08%、つまり、1250塩基に1塩基の違い
置換
挿入 または 欠失
置換 RFLP
NheI site
SNP (Single Nucleotide Polymorphism)とは?
⇩ 塩基配列の点突然変異
遺伝子変異の起こる仕組み(生体内で起こる塩基や糖への化学的修飾)
脱プリン化
シトシンの脱アミノ化 による ウラシルへの変換
UV照射によるチミンダイマーの形成
生体内で自然に起こるDNAへのダメージ(加水分解)
塩基置換の影響
1. アミノ酸置換(終止コドンへの置換では途中で切れたタンパク質になる)
2. 転写修飾(転写因子の結合部位での置換)
3. ペプチド付加(終止コドンでの置換)
4. スプライシングへの影響
鎌状赤血球貧血(Sickle-cell anemia)を引き起こすアミノ酸置換
グルタミン酸→バリン
サラセミアを引き起こす点変異
β-グロビン遺伝子プロモーター(TATA box)での点変異
α-グロビン遺伝子の終止コドンでの点変異
転写抑制
タンパク質の不安定化
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イントロンが除かれない
エクソンが飛ばされる
11_11_2.jpg 潜在的須プライス部位が活性化され,新たなスプライシングが起こる
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アミノ酸置換が起こらない沈黙変異がスプライシングへ影響する場合
挿入変異の翻訳に対する影響
→出鱈目なアミノ酸配列が翻訳される
欠失変異の翻訳に対する影響
突然変異は、DNA複製ミスとして生じることが多い。
DNAポリメラーゼの複製精度:10-9〜10-11
ヒト遺伝子(平均1.65kb)1個あたり1回の細胞分裂に生じる突然変異:1.65×10-6〜10-8個
生存期間中のヒトの減数分裂数:1016
生存期間中の各遺伝子に生じる突然変異の数:108〜1010
体細胞での変異は癌化の原因になる場合あり
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赤:トランスバーション(例プリン→ピリミジン) 黒:トランジション(例プリン→プリン)
哺乳類ゲノムでトランジションが起こる確率はトランスバーションが起こる確率より高い
アミノ酸置換が起こらない場合:1.4倍
アミノ酸置換が起こる場合:>2倍
←トランジションの方がアミノ酸配列を保存する結果が多い
←CpGジヌクレオチドのシトシンが不安定なため、比較的高頻度でC→Tトランジションが起こる
→疾患を引き起こす点突然変異で、CpG→TpGが最もよく認められる
多くの突然変異は本質的にランダムに起こる
→コードDNAにも非コードDNAにもほぼ同じ確率で変異が生じる
コードDNAに起こる変異
同義的変異(silent mutation)
非同義的変異
個体にとって、有害・無害・有益に分類できる
集団における変異の頻度は、自然選択により極めて低く抑制されている(選択圧) →コードDNA全体の変異率は、非コードDNAに比べてはるかに低い
→コードDNA配列や重要な調節配列は進化の過程で比較的高度に保存
→indel変異はコードDNAではほとんど認められない
←フレームシフト変異
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非縮重部位:3種類の塩基置換のすべてが非同義的置換となる塩基位置。コドンの塩基位置の〜65%を占める。塩基置換率は極めて低い←選択圧
4重縮重置換: 3種類の塩基置換のすべてが同義的置換となる塩基位置。コドンの塩基位置の〜16%。塩基置換率はイントロンや偽遺伝子に近い
2重縮重置換: 3種類の塩基置換のうち、1つが同義的置換となる塩基位置。
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コドン1000個あたりの出現頻度
1番目のコドンの塩基置換は96%が非同義的で
2番目のそれは100%非同義的
3番目のコドンのそれは33%が非同義的
アミノ酸の易変異性(mutability):遺伝コードの仕組みと、アミノ酸の機能的類似性に左右される
Thr 116 ←コドンの類似性
Ser 114 ←
His 107
Ala 100
Ile 92
Lys 77
Pro 67
Leu 58
Gly 57
Phe 55
Tyr 53
Trp 31
Cys 29 ←機能の独自性
ナンセンス変異:終止コドンへ変化
ミスセンス変異
保存的置換(conservative substitution)
非保存的置換(nonconservative sub.)
ナンセンス変異:終止コドンへ変化
ミスセンス変異
保存的置換(conservative substitution):化学的性質の似ているアミノ酸への置換
非保存的置換(nonconservative sub.)
反復配列の配列交換を引き起こす遺伝的機構
スリップ複製は短い縦列反復配列(マイクロサテライト)にVNTR多型を引き起こす
←スリップ鎖誤対合
縦列反復配列の大きな単位は、不等交差(非対立遺伝子間での相同組換えの一種)や不等姉妹染色分体交換により、挿入や欠失を起こしやすい
相同組換えや姉妹染色分体交換(対立遺伝子間の均等交差)により、融合遺伝子
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スリップ複製と推定される欠失と挿入の例
プロモーターのメチル化
異常スプライシングの誘発
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対立遺伝子間での相同均等交差による融合遺伝子の形成
不等交差・不等姉妹染色分体交換による挿入や欠失
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短い分散型反復配列による不等交差・不等姉妹染色分体交換から生じる縦列遺伝子重複(非アレル間相同組換え)
αサラセミアにおけるαグロビン遺伝子の欠失
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遺伝子座間遺伝子交換の説明モデル
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相同組換え 非相同末端結合
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遺伝子多型の意義
疾患との関係
潜在的リスクの判定
薬剤効果の推定
個人の同定(DNAプロファイリング) 互いに連鎖していない多型の度合いの高い10-15遺伝子
座のマイクロサテライトを解析することで、父子鑑定や犯罪捜査に利用
集団遺伝学・考古学
多型分布から民族の由来や来歴を推定
ゲノム
ヒトゲノムの構成
核ゲノム
l ~3200Mb(3200000Kb),24本の線状DNA
l 1.5%がcoding DNA(約3万遺伝子。そのうちの,少なく
とも5%は翻訳されることのないRNA遺伝子)。Gene
duplication→DNAシークエンスファミリー, primate-specific
segmental duplication
l 3%が非翻訳領域や制御エレメント,機能しない遺伝子
関連シークエンス(2万偽遺伝子,遺伝子断片)
l 95%がnon-coding DNA,head-to-tailの繰り返し配列レト
ロトランスポジションにより形成された(cDNAのゲノムへの挿
入)。
ミトコンドリアゲノム
l16.6Kb,1個の環状DNA,97%がcoding DNA。37遺伝子。
l2本の相補鎖は,重鎖(G-rich)および軽鎖(C-rich)から成る
lヒト細胞内には1000-10000コピー含まれている。
l母系遺伝(精子のミトコンドリアゲノムは寄与しない)
ミトコンドリア遺伝子
l37遺伝子のうち,H鎖(重鎖)に28個,L鎖(軽鎖)に9個コードされている。
l22遺伝子からミトコンドリアtRNA,2遺伝子からミトコンドリアrRNAが合成
される。残りはミトコンドリアリボソームで合成される呼吸鎖複合体サブユ
ニットの一部のポリペプチドをコードしている。
lミトコンドリアの酸化的リン酸化酵素群は約100種のサブユニットが関与
し,その多くは核遺伝子にコードされている。その他のミトコンドリアタンパ
ク質,すべてが核にコードされている。
lミトコンドリア遺伝子はイントロンが無く高密度で,一部はcoding DNAが
オーバーラップしている。遺伝子間が1,2塩基の非コード塩基しか離れてい
ないため,転写後に終止コドン(UAA)が導入される場合がある。
lH/L鎖が逆方向へ継続して転写され,多遺伝子転写産物が出来,その後,
切断されて成熟mRNAになる。
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ヒト核ゲノムの染色体
l24種類の線状の二本鎖DNA(50〜280Mb)
lDNA分子にヒストンおよび非ヒストンタンパク質が結合して染
色体(22種の常染色体および2種類の性染色体)を形成
l染色体は染色体バンド法により識別可能。
l染色体には,セントロメアおよび非セントロメアヘテロクロマチ
ンから成る構成的ヘテロクロマチン(200Mb,恒常的に凝縮され
転写不活性な領域)とユークロマチン(3000Mb)が存在する。
ヒトゲノムの塩基組成
lゲノム全体ではGC含有率は41%。染色体間でも38-49%のば
らつきがある。また,同一染色体の部位によってもばらつきがあ
る。
l脊椎動物ゲノムでは,CpG配列(同じDNA鎖上でシトシンとグア
ニンが5’→3’方向に並んだ配列)の存在が期待値の1/5程度の頻
度しかない。
l脊椎動物ではCpG配列のシトシン残基の5位炭素がメチル化の
標的となる。ヒトDNAでは3%のシトシンがメチル化されるが,そ
のほとんどがCpG配列。
lCpG配列は化学的に変化を受けやすく,チミンに変換されやす
いにもかかわらず,転写活性の高いDNA領域には高いCpG密度
を示すCpGアイランドがある。
縦列遺伝子重複
反復配列
16番染色体での染色体内および染色体間での重複化領域
ヒトゲノムの遺伝子分布密度
lヒトゲノムにおける遺伝子の総数は〜3万と考えられている。こ
の中にはポリペプチドには翻訳されないRNA遺伝子が5%以上含
まれている。
lゲノムサイズがヒトの1/30である線虫のゲノムには2万遺伝子が
含まれており,生物学的複雑性とゲノムの複雑性(遺伝子数)は
パラレルではない。
l分裂中期(metaphase)の染色体ゲノムにCpGアイランド領域を
ハイブリダイズさせる研究から,テロメア近傍領域に,遺伝子が高
密度で分布し,染色体によって遺伝子分布密度が異なることが明
らかになった。
lGC-rich領域が比較的遺伝子分布密度が高い。
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RNA機能の多様性
RNA遺伝子
lヒト核ゲノムには〜3000のRNA遺伝子がある。
リボソームRNA(rRNA)
l700-800種あるヒトリボソームRNA(rRNA)遺伝子は,各遺伝子が多くの偽遺伝子と共
にタンデムに繰り返されたクラスターを形成している。例えば,28S, 18S, 5.8SのrRNA遺
伝子は,それぞれが30-40タンデムリピートした一つの転写単位として,5本の染色体に
コードされている。
l細胞質リボソームRNA遺伝子が多数の反復配列として存在する理由としては,遺伝子
量を増やし,タンパク合成に必要とされる膨大な細胞質リボソームを供給するためと考え
られる。
転写RNA(tRNA)
l497種の細胞質tRNA遺伝子と,324種のtRNA由来の偽遺伝子がある。細胞質tRNA遺
伝子はアンチコドンの特異性から49ファミリーに分けられる。
l61の異なるセンスコドンを認識するために,一部のtRNAはコドン認識の厳密性が緩和
されている。
核内低分子RNA(snRNA)
lsnRNA は100種近く遺伝子がある。
lsnRNA分子は,ウリジンに富み,スプライソームの機能に必要である。
核小体内低分子RNA(snoRNA)
lsnoRNAは100種以上の遺伝子がある。
lsnoRNAは核小体におけるrRNAの成熟過程での修飾に関与する。
teromerase RNA:テロメラーゼのRNA成分
SRP RNA(signal recognition particleは,膜を通過するタンパク質輸送に関
わる)
マイクロRNA(miRNA)
l約22塩基のRNA分子で,他の遺伝子に対して,antisense regulaorとして機
能する。
lヘアピン様二本鎖RNAを形成する約70塩基の前駆体から,ribonuclease III
により切り出されることで機能する。(ribonuclease IIIの活性を利用して,RNA
interference(RNAi)が案出されている。22塩基のアンチセンスRNA分子
(siRNA)を細胞内へ導入し二本鎖RNAの形成を促すことで,これが
ribonuclease IIIにより分解されることを利用して特定の遺伝子発現を不活化
する)
l標的遺伝子の3’UTR(非翻訳領域)に相補的に結合することで翻訳を阻害
する。
比較的長い非コード制御RNA
l7SK RNA(RNA polymerase II伸長の抑制性転写制御因子),SRA1(ステロ
イド受容体活性化因子),XIST遺伝子(X染色体の不活化の中心因子)
lTSIXはXISTやimprinted genesを制御するアンチセンスRNAを制御する。
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ポリペプチドをコードする遺伝子の構造の多様性
l遺伝子の大きさの多様性(1Kb以下から2400Kb)
lエクソン-イントロン構造の多様性
イントロンがない遺伝子がわずかにある
遺伝子の長さとエクソンの占める割合は逆相関するが,イントロンの長
さは大きな遺伝子ほど長くなる。
エクソンの平均長は200bp以下
高発現遺伝子はイントロンが短い傾向にある(長いイントロンの転写に
必要な時間とエネルギーが無駄なため)。
l 反復DNAの含量
イントロンやflanking sequences内には,反復配列がよく認められるが,
一 部ではコードDNA内においても反復配列が見つかる。
マイクロサテライトシークエンスのtandem反復した配列や,既知のある
いは推定されるタンパク質ドメインをコードするシークエンスのtandem
反復はよく認められる。
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Exon content
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機能的に同一の遺伝子群の分布
l遺伝子クラスター内で,重複化する場合(例:α-グロビン遺伝子)。
l異なった染色体間で,重複化する場合(例:ヒストン遺伝子,ユビキチン遺伝子)。
機能的に類似した遺伝子群の分布
lシークエンスにおいて,近縁であるが同一でない遺伝子群:遺伝子ファミリー
ltandem重複化して遺伝子クラスターを形成する場合(例:α-グロビン遺伝子,β-グ
ロビン遺伝子)
l異なった染色体上で重複化した遺伝子間では,遺伝子クラスター形成している遺伝
子間よりも相同性が低くなる。(例:α-グロビン遺伝子とβ-グロビン遺伝子)
lHOXホメオボックス遺伝子ファミリーは,約10遺伝子から成るクラスターを形成し,こ
のクラスターが4本の異なった染色体に存在するが,この場合は同一染色体上のクラ
スター内の遺伝子間よりも,各染色体上の個々の遺伝子の方が,相同性が高い。
l組織特異的アイソフォームや細胞内器官特異的アイソザイムなどは,異なる染色体
間にコードされている場合が多い。
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機能的に関連性のある遺伝子
l シークエンスにおいては関連性はないが,機能的に明らかに関連
した場合(例:同じタンパク質のサブユニットや同じ代謝系や発生経路の構
成遺伝子群)は通常,異なる染色体にコードされている。
特殊な構造を持った遺伝子
l 両方向性遺伝子構造:センス・アンチセンスの両方のDNA鎖に
コードされた2種の遺伝子の5’端が近傍に存在し,同期して転写される遺伝
子ペア(例:DNA修復遺伝子ペア)
l 部分的に重なった遺伝子:通常は,それぞれ,異なるDNA鎖に
コードされている。
l 遺伝子内遺伝子:snoRNA遺伝子の大半が,リボソーム親和性タン
パク質や核小体タンパク質の遺伝子内に存在する。親遺伝子に同調した発
現が維持されるため。ポリペプチドをコードする遺伝子内遺伝子も存在する。
親遺伝子とは反対のDNA鎖にコードされている。
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ポリシストロン転写単位をもつ遺伝子
l細菌等で見られるポリシストロン転写単位が認められる遺伝子として,インシュリンA
鎖およびB鎖が合成されるインシュリン遺伝子がある。まったく関連のない2種のタンパ
ク質を産生する場合もある(例:UBA52遺伝子,ユビキチンとリボソームタンパク質)。
lその他のユビキチン遺伝子は,イントロンがないポリシストロン転写単位をもつ。
ポリペプチドをコードする遺伝子ファミリー
l古典的遺伝子ファミリー:ヒストン遺伝子やα-/β-グロビン遺伝子は,遺伝子全体あ
るいはコードDNA部分が高い相同性をもつ。
l保存性の高いドメインを有する遺伝子ファミリー:各遺伝子内の特定の領域において
高い相同性を有するが,その他の部分では相同性が低い。保存性の高い領域がDNA
結合能などの機能に必要なドメインをコードしている。
l短い保存されたアミノ酸モチーフをもつタンパク質をコードする遺伝子ファミリー:DNA
シークエンスレベルでは,あまり明確な関連性が無いが,遺伝子産物が共通の一般的
機能を有し,短いアミノ酸保存配列モチーフによって特徴づけられた遺伝子ファミリー
(例:DEAD box,WD repeat)。
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遺伝子スーパーファミリー
l 一般的な似ているタンパク質をコードしているが,全体としての
配列の相同性は弱く,保存されたアミノ酸モチーフも無いにもかかわらず,
構造的特徴に一般的な共通性がある遺伝子ファミリー。
免疫グロブリンスーパーファミリー:免疫グロブリン(Ig)遺伝子・T細胞受
容体遺伝子,HLA遺伝子など。免疫システムにおいて機能し,Ig-likeドメ
インをもっている。
グロビンスーパーファミリー:酸素輸送に関わるα-/β-グロビン遺伝子
ファミリーに加え,ミオグロビンやニューログロビン遺伝子も含まれる。
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単一クラスターにおいて構成される遺伝子ファミリー
l縦列(タンデム)遺伝子重複によりにより形成されたと考えられる。
l縦列遺伝子構成:これらの遺伝子は,シークエンス・機能ともに高い相同性が
見られる,一方で,機能のない偽遺伝子(pseudogene)もつ場合がある。(例:ポ
リユビキチン遺伝子)
l近接クラスター:縦列遺伝子構成と比べると,遺伝子間は離れているが,
個々の遺伝子が比較的近傍に密集している。単一の遺伝子座制御領域により
発現調節されている。ファミリー遺伝子間のシークエンス・機能の相同性はかな
り高いが,偽遺伝子も多い。(例:α-/β-グロビン遺伝子クラスター)
l複合クラスター:クラスター内で遺伝子同士があまり近傍に存在せず,また,
無関係の遺伝子も存在する遺伝子クラスター(例:HLA複合体,クラスI/IIHLA
抗原群及び血清補体因子をコ−ドするファミリー遺伝子で構成されているが,ス
テロイド21ヒドロキシラーゼ遺伝子ファミリーなどの機能的に無関係な遺伝子が
介在している)
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多重クラスターにおいて構成される遺伝子ファミリー
l一般に複数の染色体上に分布した遺伝子クラスター(例:嗅覚受容体遺伝
子ファミリー:900以上の遺伝子が,大きなクラスターを構成して,20番とY染色
体以外の染色体すべてにコードされている。
lクラスター間よりも,クラスター内の遺伝子間の方が相同性が高い。(例:α-
グロビン遺伝子とβ-グロビン遺伝子)
lHOXホメオボックス遺伝子ファミリーは,強い機能的選別のため,同一染色
体上のクラスター内の遺伝子間よりも,各染色体上の個々の遺伝子の方が,
相同性が高い。
分散型遺伝子ファミリー
l一般的に,異なる遺伝子座の遺伝子間では,多様性に富むことが多いが,
比較的最近に遺伝子重複が起こった場合や,大きな選択圧が働いて配列
保存が続くときは,相同性が高い場合がある。
l2種のゲノム由来のファミリー:ミトコンドリアゲノムは好気細菌から派生し
たが,多くのバクテリア由来の遺伝子が核ゲノムへ移行したと考えられてい
る。結果として,核ゲノムには重複した遺伝子が存在し,細胞質特異的およ
びミトコンドリア特異的アイソフォームをコードしている。
l太古の遺伝子またはゲノムの重複に由来するファミリー:進化の長期にわ
たり遺伝子重複などが組み合わさって進化したと考えられ,この種のファミ
リーには数個の遺伝子しか含まれない(例:PAX遺伝子ファミリー)。ほとん
どのファミリー遺伝子は機能的であり,決定的に重要なドメインに限られる場
合もあるが,高い相同性がある。
lレトロトランスポジションにより生じたファミリー:進化の比較的最近の段階
で,RNAが細胞内逆転写酵素によりcDNAに変換され,これが染色体へ挿
入される過程で形成されたファミリー。但し,大半のコピーは機能しない。
遺伝子ファミリー内の偽遺伝子
lプロセシングを受けていない偽遺伝子:遺伝子クラスター内に存在する,縦列遺伝子重
複によるゲノムDNAレベルでコピーされた偽遺伝子。エクソン,イントロン,プロモーターを
含むが,不適切な終止コドンの存在により不活化されている(例:α-/β-グロビン遺伝子
クラスター)。
lプロセシングを受けていない偽遺伝子,短縮遺伝子や部分遺伝子が含まれる遺伝子クラスター(例:クラスI HLA遺伝子,17ファミリー遺伝子中,6個が発現し,4個が遺伝子全長をもつ偽遺伝子,5個が短縮遺伝子,2個が小部分遺伝子) l分散型遺伝子ファミリーにおけるプロセシングを受けていない偽遺伝子の存在:
リ ヒトセントロメア近傍は,進化において最近にコピーされた配列で構成されてい
る。
リ テロメア近傍も比較的不安定で,遺伝子重複を受けやすい。 リ ヒトセントロメア近傍に位置するNF1遺伝子は,7つの異なる染色体にまたがり,
11以上の偽遺伝子が分布するが,そのうちの9個はセントロメア近傍に位置する。 リ テロメア近傍に位置するPKD1遺伝子では,短縮遺伝子が少なくとも3回複製さ
れ,同一染色体上に挿入されている。
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l分散型遺伝子ファミリーにおけるプロセシングを受けた偽遺伝子の存在: プロセシングを受けた偽遺伝子には一方の端にオリゴdA/dTをもつ。 LINE1トランスポジション機構の助けにより染色体へ挿入されると考えられる。 プロセシングを受けた偽遺伝子は大変多く,95リボソームタンパク質遺伝子ファミリーに対して,2090のプロセシングを受けた偽遺伝子が同定されている。 一部のプロセシングを受けた偽遺伝子には,発現されるものがある。これは偶然にプロセシングを受けた偽遺伝子が発現誘導可能なプロモーター近傍へ挿入されたことによる。レトロ遺伝子という。 レトロ遺伝子の多くは,イントロンを含んだX染色体遺伝子由来で,常染色体ホ
モログである。 lRNA遺伝子ファミリーにおけるプロセシングを受けた偽遺伝子: Alu反復配列ファミリーは,RNAポリメラーゼIIIにより転写されるSRP RNAをコードするRNA遺伝子の偽遺伝子から生じたと考えられているが,これは転写産物内部
にプロモーターをもっているため,レトロ遺伝子として,挿入されたゲノム上での発現が可能になる。これにより,レトロトランスポジションを起こすのに大変有利であることからゲノム全体に分布していると推定される。 lプロテオーム分類:タンパク質ファミリー,ドメイン,分子機能,生物学的役割
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偽遺伝子やレトロ遺伝子はmRNAの逆転写産物がゲノム内へ挿入されて生じる
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