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− 17 − 1. はじめに 東日本大震災をとおして多くの尊い命が 失われ、福祉業界における防災についての 意識も変わってきている。しかし、ここで もう一度防災教育のあり方を問い直す必要 がある。今日、防災教育は、福祉や教育の 分野のみならず、産業や企業教育の一環と して取り入れられてきていることが通例と なっている。本論文の発行事務局が所在す る福島介護福祉専門学校でも、震災後「防 災介護」に関する学びの時間が、いち早く 導入されている。筆者は、2013年 8 月19日 から24日までアメリカ合衆国メリーランド 州エミッツバーグに所在する、米連邦緊急 事態管理局(Federal Emergency Management Agency:FEMAフィーマ)の緊急事態管理研 究所(Emergency Management Institute:EMIで、外国人特別枠で 3 度目の申請にてよう やく受理され研修を受けることができた。 そこで、CERT(サート)と呼ばれる自主防災 組織(Community Emergency Response Team の略称)が、アメリカ合衆国内全土に於い て専門職を超えて研修が実施されている (細田 2003)。しかしながら、この自主防 災組織のはじまりを、EMIの講師陣に尋ね たが判らなかったので、EMIの図書館で検 索したところ、その原型は、日本の静岡県 から発信したことを米国の研修中に知るこ とができた。また、CERTに関する紹介論 文とともにCERTという名前を使った研修 が国内でも実施されているが、筆者がアメ リカでの研修後に実際にアメリカ合衆国国 土安全保障局/連邦緊急事態管理庁、政策 プログラム分析事務局、国際実務部門の国 産関連専門官のキンベリー・ヘイワード女 史にお尋ねしたところ、日本からの正式 な問い合わせは未だないとのことであっ た(2013年 9 月16日時点の聴取)。という ことは、国内でのFEMAの研究をされて いる代表者にも問い合わせをしたが、研究 段階に留まっている状況にあるのが現状で あった。すなわち、実際には、内閣府や FEMAへのアプローチとしてのアクショ ンには至っておらず、書面上の情報はあっ ても、CERTという言葉を用いた訓練が国 内でも確認できるが、実際にFEMAで体験 学習をした上でのCERTの訓練が行われて いるとはいえないというのが実状である。 実際に筆者がアメリカのFEMAにおける 緊急事態管理研究所(EMI)で体験した研 修は、自主的で柔軟性、創造性、芸術性、 即興性に満ちた訓練であり、独創性と協調 性を求める教授法が取り入れられているこ とから、今日に一般的に実施されている講 義中心の研修形態とは教育アプローチその ものが異なるということも認識しておく必 要がある。したがって、本稿では、日本の 防災教育研修の現状を踏まえた上で、今後 の日本に実践的CERT共育訓練を導入する に当たって、単にアメリカのFEMAにおけ る訓練を導入するのではなく、日本の文化 に馴染んだ草の根的防災訓練プログラムを 構築することが必要である。本稿では、こ 日本におけるアメリカ合衆国連邦緊急事態 管理局(FEMA)の自主防災組織(CERT) 教育訓練の導入と今後の課題 高 橋   亮 (合同会社ジェロントロジーセンター;公益財団法人日本ケアフィット共育機構)

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1. はじめに  東日本大震災をとおして多くの尊い命が

失われ、福祉業界における防災についての

意識も変わってきている。しかし、ここで

もう一度防災教育のあり方を問い直す必要

がある。今日、防災教育は、福祉や教育の

分野のみならず、産業や企業教育の一環と

して取り入れられてきていることが通例と

なっている。本論文の発行事務局が所在す

る福島介護福祉専門学校でも、震災後「防

災介護」に関する学びの時間が、いち早く

導入されている。筆者は、2013年 8 月19日

から24日までアメリカ合衆国メリーランド

州エミッツバーグに所在する、米連邦緊急

事態管理局(Federal Emergency Management

Agency:FEMAフィーマ)の緊急事態管理研

究所(Emergency Management Institute:EMI)

で、外国人特別枠で 3 度目の申請にてよう

やく受理され研修を受けることができた。

そこで、CERT(サート)と呼ばれる自主防災

組織(Community Emergency Response Team

の略称)が、アメリカ合衆国内全土に於い

て専門職を超えて研修が実施されている

(細田 2003)。しかしながら、この自主防

災組織のはじまりを、EMIの講師陣に尋ね

たが判らなかったので、EMIの図書館で検

索したところ、その原型は、日本の静岡県

から発信したことを米国の研修中に知るこ

とができた。また、CERTに関する紹介論

文とともにCERTという名前を使った研修

が国内でも実施されているが、筆者がアメ

リカでの研修後に実際にアメリカ合衆国国

土安全保障局/連邦緊急事態管理庁、政策

プログラム分析事務局、国際実務部門の国

産関連専門官のキンベリー・ヘイワード女

史にお尋ねしたところ、日本からの正式

な問い合わせは未だないとのことであっ

た(2013年 9 月16日時点の聴取)。という

ことは、国内でのFEMAの研究をされて

いる代表者にも問い合わせをしたが、研究

段階に留まっている状況にあるのが現状で

あった。すなわち、実際には、内閣府や

FEMAへのアプローチとしてのアクショ

ンには至っておらず、書面上の情報はあっ

ても、CERTという言葉を用いた訓練が国

内でも確認できるが、実際にFEMAで体験

学習をした上でのCERTの訓練が行われて

いるとはいえないというのが実状である。

実際に筆者がアメリカのFEMAにおける

緊急事態管理研究所(EMI)で体験した研

修は、自主的で柔軟性、創造性、芸術性、

即興性に満ちた訓練であり、独創性と協調

性を求める教授法が取り入れられているこ

とから、今日に一般的に実施されている講

義中心の研修形態とは教育アプローチその

ものが異なるということも認識しておく必

要がある。したがって、本稿では、日本の

防災教育研修の現状を踏まえた上で、今後

の日本に実践的CERT共育訓練を導入する

に当たって、単にアメリカのFEMAにおけ

る訓練を導入するのではなく、日本の文化

に馴染んだ草の根的防災訓練プログラムを

構築することが必要である。本稿では、こ

日本におけるアメリカ合衆国連邦緊急事態管理局(FEMA)の自主防災組織(CERT)

教育訓練の導入と今後の課題高 橋   亮

(合同会社ジェロントロジーセンター;公益財団法人日本ケアフィット共育機構)

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れらのことを検討するために、CERTで実

施されている研修・訓練を紹介し、今後の

日本におけるCERT訓練の導入における方

向性と課題を検討し提言をしたいと考える。

2.米連邦緊急事態管理局(FEMA)とは

 FEMA(フィーマ)とは米連邦緊急事

態管理局の頭文字を(Federal Emergency

Management Agency)からとったもので

ある。レオ・ボスナーは、1979年にカーター

元米大統領(当時)が、大規模な災害やテ

ロなどの対応や復旧の専門機関としてつ

くったFEMAに創設と同時に入り、2008

年の退任までに多くの自然災害やテロを経

験しており、2000〜2001年に日本に留学し、

内閣府、東京都庁などで日本の危機管理を

研究したバックグランドを持った存在であ

る。ボスナーは2000年から2001年にかけて

の日本の滞在期間の調査を通して、次の20

項目の諸点を我が国に於ける危機管理の課

題して指摘している(務台 2002)。

 ①日本政府には米国の連邦対応計画

(US Federal Response Plan)に匹敵す

るような包括的な国の災害対応計画がな

い。

 ②国、都道府県、市町村の職員は、往々

にして災害対応計画に不慣れで、他の機

関や団体が有する資源についても知らな

いことが多い。

 ③日本の災害即応のための組織は、米

国ほど権限が与えられていない。米国の

システムでは、一つの組織の中で予め権

限行使の順位が決められているが、日本

では予め権限を委ねておくということが

ない。

 ④災害訓練は数多く行われているが、

台本にある技術の披露であることが多

く、能力とか計画とか意志決定の練習に

なっていない。即応計画の重大な瑕か し

疵が

見逃されている可能性がある。

 ⑤防災管理担当の機能は、大災害時に

現実的に調整機能を果たすには、組織が

小さすぎる。(それに比べ、FEMAは全

部で2,800名を超える陣容を誇る。)

 ⑥職員数の少ないことは、職員に大き

なストレスを生ぜしめている。多くの職

員数を擁するFEMAは交替制の勤務が

可能となっている。日本の場合,防災管

理担当の職員は、職員数が少なく、ほと

んど常に災害待機状態だ。FEMAの多

くの職員が10年でも20年でも危機管理部

門で働きたいと希望し、継続的に経験を

積み重ねることが出来るのに対し、日本

の防災管理担当の職員は、災害対応部門

からの異動を希望する。

 ⑦米国のFEMA長官が災害時に重要

な決定を行いうるのに対して、日本の災

害管理担当局の責任者は、内閣と総理に

アドバイスが出来るだけである。

 ⑧FEMAは米国災害救済基金を管理

し、米国の政府機関が災害応急対応の諸

活動で支出した経費を精算することとし

ているのに対し、日本の政府機関はそれ

ぞれが自らの災害対応予算を管理し、一

元的管理がされていない。

 ⑨日本政府においては、危機管理は 3

つの政府機関(内閣府防災担当政策統括

官、内閣官房危機管理室、総務省消防庁)

にわかれて計画されている。このこと

で、危機管理の任務がダブりを生じ、あ

るいは見逃されるということになりかね

ない。

 ⑩日本政府の各省庁は、常勤専任の応

急対応担当官を確保していない。ほとん

どの米国政府の機関には、応急対応の専

門的組織がある。

 ⑪ほとんどの県庁と市町村の災害対応

の職員は、片手間で災害対応任務を与え

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られているにすぎない。訓練もほんの少

し受けるか、ほとんど受けないかのいず

れかである。米国の全州政府、多くの米

国の市には、常勤の危機管理専門職員が

配置されている。

 ⑫自衛隊職員に対し定期的公式の災害

管理教育が施されることはほとんどな

い。自衛隊の中に専任の災害管理計画や

訓練を担当する専門組織もない。米国国

防総省には、災害などの際の軍による民

間支援を任務とする指揮官がいる。

 ⑬自衛隊員と他の機関の文民職員と

は、互いにそれぞれの災害応急活動や具

備する能力について情報共有していな

い。

 ⑭日本で大災害が起きたとした場合を

想定し、日本と外国諸機関との間で包括

的で詳細な災害応急協力に関する計画や

手続きが作られていない。

 ⑮阪神・淡路大震災以降多くの日本政

府関係者がFEMAを訪れたが、その後

も危機管理部門で仕事をしている人はご

く少ない。訪問者も個人的な見聞を広め

るためという感が強い。

 ⑯立川の広域防災拠点には政府の非常

用代替オペレーションセンターがある

が、この施設は、1 年に 1 回災害訓練に

使われる以外はほとんど使用されていな

い。

 ⑰NGO組織は、日本政府から,災害

時においてその果たすべき役割に関し、

認知と支援を受けていない。NGOだけ

でなく個人のボランティアも政府の災害

応急対応計画の上から外されている。

 ⑱日本では災害関係の洗練された電子

システムがあるが、その割に他の機関と

危機管理に関し話し合いを行うことがあ

まりない。

 ⑲米国では、政府はダムの代替策と

して洪水被害軽減のための計画がある。

FEMAは国土のほとんど100%にわたっ

て洪水危険地域を地図上に示し、その地

域の建物建設を抑制している。FEMA

は、全国洪水保険制度により、洪水に備

える保険を販売し、保険料は洪水の危険

度に応じたものとしている。日本の洪水

災害予防はダム建設に多くの資金が投ぜ

られ,洪水保険や洪水マップを活用した

氾濫地域の管理などの手法を含む包括的

な災害軽減戦略という視点が欠けてい

る。

 ⑳米国では大きな災害で被災した個人

や事業所に対し資金的援助が行われてい

る。日本では、逆に、個人や事業者の災

害復興の問題は体系的に検討されること

はない。

 その 9 年後、ボスナーは、東日本大震災

(2011)における日本の防災の対応に関し

て47News(2012)報道のインタビューの

中で繰り返し以下の回答をしている。

 日本政府については、「省庁間の連携

が少なく、調整もうまくいっていない印

象がある。米連邦緊急事態管理局も調整

が主な任務とはいえ、大統領直轄で強い

権限を持ち、連邦軍や州兵も指揮でき

る。被災者救援から復興支援まで行える

のが特徴である。日本に強力かつ一元的

な組織の創設を勧めたい」と。その一方

で、行政の連携の問題点については「被

災地の自治体からは中央政府は通知を出

すだけで現場に来ないなどの批判を聞い

た。災害では現場職員の声が最も大切で

あり、トップダウンだけでは乗り切れな

い」とも述べている。また、日本には内

閣府に防災担当部門があることについて

「常勤職員数が150人程度とあまりに貧弱

だ。FEMAには 2 千人以上の職員がい

るが、日本の場合、国土面積や人口から

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みて300人から400人程度が必要だろう」

と回答している。そして一元的組織の利

点としては、「強調したいのは災害に関

する情報や経験の蓄積である。日本は数

年ごとに大規模な地震などに見舞われる

災害大国である。内閣府の防災担当の職

員は多くが 2 年ほどで交代し、十分な経

験を積めない。私はFEMAで約26年間、

現場にいた。爆弾テロや竜巻、洪水、地

震など数多くの災害を担当してきた。こ

うした専門家が日本政府には少ない」と

回答している。日本の省庁間協力の評価

方法については「災害の実情把握のため

に被災地にヘリコプターを飛ばす場合も

日本では消防庁、自衛隊、さらに警察と

調整が不十分である。これは無駄じゃな

いのか。一元化するだけでかなりの費用

削減になる」。最後に、阪神大震災後に

日本版FEMAを創設すべきだとの議論

があったことに対して「あの時に創設し

ておけば、04年の新潟県中越地震はもと

より、今回の震災でも活躍できただろう。

米国では大規模災害の対応に失敗した政

権は、次の選挙に負けるのが通例である。

1992年 8 月にフロリダを襲ったハリケー

ンの対応遅れが指摘されたブッシュ(父)

政権は、同年11月の大統領選でビル・ク

リントン氏に負けた。日本の民主党政権

は防災政策の改革に関心があるようだ。

日本版FEMA創設は今が好機かもしれ

ない」というのがボスナーの日本の防災

に関する提言であった(ボスナ2013, 小

林 2012,岡村 2012)。

次に米国の地域レベルにおけるFEMA

が管轄している自主防災組織CERTにつ

いて確認したい(写真 1・2 )。

3. 自主防災組織(CERT)とは 米連邦緊急事態管理局(FEMA)にお

ける自主防災組織(CERT)の概念は、

1985年 2 月にフランク・W・ボーデン(ロ

サンゼルス市消防局 副司令官(LAFD)

を代表とする一団が静岡県の自主防災組織

を視察し、それを参考として、ロサンゼル

ス市消防局が始めた訓練プログラムは、住

民に対しての災害準備の重要性を理解させ

る訓練として構築されていった背景がある

(Jones 2005; Borden 1991)。静岡県は、防

災先進県として全国でも群を抜いて1974年

には自主防災組織が組織され、1981年には

静岡県地震対策課が「自主防災活動実践事

例集 自主防災活動をすすめるために」と

いう事例集をもって地域における自主防災

写真 1 FEMA・EMI正面

写真 2 グラウンドゼロ(著者撮影2013.8.20)

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の地域学習に強調点がおかれ防災訓練が実

施されてきた(牛山 2013,静岡県地震対

策課 1981)。これらの実践を基礎において

アメリカ合衆国でも、さらに充実したカリ

キュラムを構築して個人、家族及び隣人等

を安全に助けるための能力育成に寄与する

ものとなり、今日のCERTと呼ばれる自主

防災組織の研修内容に発展してきたのであ

る。すなわち、1993年、FEMA の緊急事

態管理研究所(Emergency Management

Institute:EMI)と全国消防学校(National

Fire Academy:NFA)は、ロサンゼルス市

消防局のプログラムが、あらゆる災害やコ

ミュニティにも適用できるとして、この概

念と訓練方法を全国の研修制度として保障

するために制度化し、全米においての普及

が進められている現状にある。CERTの主

な活動における任務および役割は以下の通

りである。CERT メンバーは、最優先事

項として、自身の安全を念頭に置くことか

ら、危険を冒してまで自らの能力や訓練以

上の活動は行わない。メンバーは、CERT

の活動期間中、行政職員等をサポートす

る。主な活動内容は、主に以下の12点であ

る。①住民の避難誘導、②道路での交通整

理の補助、③近隣住民の安否確認、④行政

の支援機関や他チームとの情報交換及び連

絡調整、⑤物品や食料等の運搬場所の指定、

⑥小規模火災の消火、⑦行方不明者の捜索

と救援、⑧建物の損壊評価、⑨トリアージ

や治療エリアの設置と医療措置、⑩遺体安

置所の保護、⑪訓練を受けていないボラン

ティアの管理、⑫その他リーダーによって

指示された任務、などである。そして、以

下の事柄はCERT により行われない活動

である。①大規模火災の消火活動、②極度

に破損し、危険と判断される建物内におけ

る活動、③専門的な危険性物質(放射性・

化学・核物質など)への対応、④訓練レベ

ル以上の医療措置、消火、捜索及び救援活

動などである。

 CERTの参加資格については、年齢制限

がなく誰しもが無料で受講でき、専門的

な特別な資格は求められてはおらず、イン

ストラクターの研修課程を修了した講師

によって研修が実施されている。CERTの

組織および訓練の詳細については、細田

(2013)が、「米国の防災に係る自治体と地

域コミュニティの取組み」と題して(財)

自治体国際化協会より報告書をまとめてい

るので参照されたい。実際の地域のボラン

ティア参加者に対するCERT訓練プログラ

ムは、FEMA作成のマニュアルに基づい

て実施できるようにアウトラインが明示さ

れている。訓練は、地域内の住民であれば、

誰でも自由に参加することができるような

積極的な参加型学習形態がとられている。

したがって、教育アプローチも共育的アプ

ローチで、相互学習でかつ互いによいもの

を引き出しあい分かち合うと言ったソクラ

テス教授法が用いられていることも特色と

してあげられる。基礎訓練は、通常、35人

前後(44名が定員)のグループレッスンに

よって実施され、合計20時間を 7 週に分け

て実施される。ただし、授業の運用、訓練

時間や回数などのスケジュール管理は、そ

の地域の事情に応じたスケジュールによっ

て実施されている。筆者が参加した、ト

レーナーの訓練コースのスケジュール設定

においても意見交換が行われたが、千差万

別のスケジュールであった。訓練の最終目

標は、CERTの参加者全員が、互いに協力

し合い、ひとりに重荷を負わすのではなく、

その場にいる全員が災害時において、何か

しらの役割を担い、問題解決に向かって即

座にかつ柔軟に判断し行動をして歩んでい

くことにある。以下は、細田(2013)によ

るFEMAの基礎訓練のモデルの提示から

の引用である。地域における訓練内容は、

以下の 9 つの項目から構成されている。

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<基礎訓練の内容> ( )は訓練時間の目安

(1)災害準備(2.5時間)

①コミュニティによる災害準備の役割と

責任 ②災害の概要と公共インフラに与

える影響

・個人と組織における準備 ③CERT

の役割など

(2)火災安全とユーティリティ(電気・ガ

ス・水道)の取扱い(2.5時間)

①火災化学 ②火災とユーティリティの

危険性 ③現場における火災規模の評価

と情報収集の方法 ④消火器の取扱いや

防護服の着用方法など 

(3)災害時の医療措置 その 1 (2.5時間)

①止血等の応急手当 ②トリアージなど

(4)災害時の医療措置 その 2 (2.5時間)

①公衆衛生の維持方法 ②医療措置エリ

アの設置方法 ③以下の症状に対する基

礎的な医療措置 ④骨折・脱臼・捻挫、

火傷、低体温症、刺傷等の外傷の取扱い

など

(5)簡単な捜索と救援活動(2.5時間)

①捜索と救援活動が行われる状況の判断 

②屋内と屋外の捜索活動 ③救援活動の

方法など

(6)CERTの組織(1.5時間)

①CERTの組織概要 ②インシデント・

コマンド・システムの概要 ③捜索や救

援活動中の身の守り方 ④報告書等の書

類作成方法など

(7)災害心理学( 1 時間)

①災害による救援者や犠牲者の心理的影

響と心のケア方法など

(8)テロ対策(2.5時間)

①テロリズムの概要 ②テロリストの標

的や武器 ③CBRNE(化学・生物・放

射性物質・核・爆発物)災害のサイン 

④テロ攻撃に対する準備

(9)コースレビューと災害シミュレーショ

ン(2.5時間)

①各授業の復習 ②最終筆記テスト ③

災害シミュレーションによる実践訓練

(図上訓練等)以上が訓練内容である。

 研修・訓練を行う際、各分野の専門家や

技術職員の協力を求めて実施されることが

望ましいが、参加者の中からも指導を仰ぐ

ことも可能であり、操作盤別に内容を構築

することも重要なポイントでもある。イン

ストラクターは、FEMAで提供されてい

るE428 (CERT) トレーナー研修を履修し

修了することが条件となっている。この内

容については筆者の経験も踏まえて後ほど

紹介する。インストラクターは、訓練の授

業の組立てや教材作成、受講者の出欠記

録、専門家を講師として招いた際のサポー

ト等を行う。また、FEMAは、前述の「ト

レーナー研修」コースの中で訓練参加者の

マニュアルに加えて、インストラクター用

マニュアルも準備されており、項目の指導

のポイントや解説が記載されている。こ

れらの教材は、動画でも配信されており

FEMAのホームページ等で閲覧でき、著

作権を主張していないので自由に用いるこ

とができるようになっている。FEMAは、

トレーナー養成のなかで事前研修確認調査

ミニテストと事後研修調査ミニテストを実

施するが、これは合否を判断するものでは

なく、インストラクター自身の教授方法向

上のためであり、またマニュアルの向上の

ためにアドバイスを求めるものとして用い

られ、それらの情報や意見を定期的に教材

の内容を見直し更新して、研修内容の向上

に努めている。つぎに、インストラクター

として受講しなければならないインストラ

クター研修コースについて紹介する。まず

はじめに、インストラクター研修コースを

受講するに当たって、CERTの全体的な理

解をするためにオンラインプログラムに

よって、CERTの基礎編となるIS-317を履

修し、最後の試験で40問中31問以上の正解

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回答で合格し修了書が発行される仕組みと

なっている。そして、所属長の推薦と申請

者の経歴を提出して複数の部署を経ての受

講資格審査が行われる。筆者の場合、唯一

の海外からの申請者だったこともあり、特

別配慮のもとで受講許可を受けた経緯があ

る。しかしながら、実際には、メリーラン

ド州エミッツバーグに所在する米連邦緊急

事態管理局(FEMA)の危機管理インス

ティチュート(EMI)で受講できることは、

アメリカに住む防災関係に従事するスタッ

フにとっても大変名誉なことであり、多く

の希望者からの選抜で参加されていること

を現地で知った次第である。参加受講者35

名は、すでに現役のインストラクターとし

て指導力豊富なメンバーであり、新たなこ

とを学ぶと言うよりも参加者らの意見を含

めて如何に即興的協力的判断において創造

的に問題を解決していくかに重点がおかれ

た研修内容であった。参加者らの構成は、

州郡市レベルの危機管理部門の職員、大学

教授、消防所長・次長、総合病院臨床危機

管理職員、警察官、防災調査研修センター

およびFEMAのスタッフでありさらに軍

隊経験者も数名おり、すべて熟練のインス

トラクターの経験者であった。

 この受講コースの条件としては、事前準

備としてCERTの総合基礎編にあたるIS-

317(CERT)のコースをオンラインにお

いて受講することが可能であるので参照

されたい。(http://www.citizencorps.gov/

cert/IS317/basics/basics/index01.htm)。

 次の項においては、講師を養成するに当

たって必修コースにあたる 2 つの人材育成

コースである「E428 (CERT) トレーナー

研修」と「E427 (CERT) プログラムマ

ネージャー」について紹介する。まず、研

修室に入ると、学ぶものとしての学習者倫

理規定(写真 3 )が掲げられている。①私

は、自ら学習することに対して責任を負い

ます。②私は、新しい知識や技術を習得す

るために、自ら探求心を持って積極的に参

加することに賛同します。③私は、正直に

評価しながら参加します。④私は、ほかの

人々が学習する邪魔をしません。

 上記は、インストラクターの倫理規定

で、教室に掲げられている(写真 4 )。①私

は、常に全ての学習スタイルを考慮し様々

な教授法を用いることによって学習してい

る人々の必要性が合致するようにそのクラ

スで応用します。②私は、学習するに当たっ

て最高の機会となり教化しうるクラス環境

を創造します。③私はインストラクターと

して、トレーナーとして、教師として自ら

の技能が高められるため努力を絶えず惜し

みません。

写真 3 学習者倫理規定

写真 4 インストラクター倫理規定  (著者撮影 2013.8.20)

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− 24 −

4. E428 自主防災組織(CERT) トレーナー研修の内容

コース内容:このコースは、連邦危機管理

局(FEMA)のCERT基礎訓練コースを進

行するための準備となる(写真 5 )。

コース目標:このトレーナー研修コース

は、インストラクターを以下の観点から備

えることに焦点をおいている。

1 .CERT基礎研修を進行すること。

2 .CERTプログラムの内容とメッセージ

を理解する。(例:安全性、チームワーク、

総合的な自主防災機能計画の立場)

3 .CERT基礎訓練の目標を達成したかを

確認する。

4 .安らぎを感じかつ学びやすい環境を構

築する。

事前準備必修事項:このコースの参加者ら

は以下のことを修了していなければなら

ない。

1 .公的な地域、地区、または州行政機関

などのCERT協賛団体からの推薦状

2 .CERT基礎訓練コースまたはIS317CERT

基礎編を履修完了していること。

(http://www.citizencorps.gov/cert/

IS317/)

コースの期間 : 2 日半間

履修に対する焦点:このコース履修者は、

以下の責任を伴うことになります。それら

は、CERT基礎トレーニングの全体または

1 クラスのコースマネージャとしての任務

を果たすことである。

生涯教育部門:緊急事態管理研究所は、こ

のコースを履修するために2.3CEUを授与

する。

申請方法:FEMA申請書Form 75-5に内容

を記載して、受講者と上司または協賛組織

役員のサインを記載すること。州立緊急事

態訓練センター事務所を通じて国立緊急事

態訓練センターFAX(301)447-1658に提

出すること。問い合わせは、直接コースマ

ネージャ担当窓口電話番号 (301) 447-1326

CERTトレーニング研修コースは、E427プ

ログラムマネージャーコースがEMIで実施

される同じ週に実施される。両方のコース

を受講希望する受講者らは、各のコースの

ために別々に分けて申請書を提出しなけれ

ばなりません。コースは別々に履修するこ

とになるが、EMIは同じ週に二つのコース

を履修することを推奨している(写真 6・7 )。

5.E427 (CERT) プログラムマネージャー研修の内容

コース内容:このコースは、活発なCERT

プログラムを設立維持するために参加者ら

を備える。

コース目標:このコースは、CERTプログ

ラムと効果的な研修を実施するために重要

な内容に焦点をおいている。

1.地域CERTプログラムの目標と関連戦

略プランを計画すること。

2.地域CERTプログラムを宣伝すること。

3.CERTメンバーに,説明して、調整し、

そして継続できるようにすること。

4.CERTトレーナーを、募集して、雇用し、

調整し、そして継続できるようにするこ

と。

5 .プログラム情報を習得して調整する。

6 .効果的な訓練と練習を提供し調整する。

写真 5 クラス受講風景(著者撮影2013.8.20)

Page 9: ÓxÄ 6 gÁ¢'&.£w× wBÊ ë¢$&35£ Åw Öq w] J › img › project_3 › symposium › fema...µ µ µ µ oM tbWsM{ Å w ` !Z Tz q r !ZsMTwMc TpK { w - S Îz Xw w¢txz ×Èw);

− 24 − − 25 −

7 .地域CERTプログラムを進行するため

に指針や順序段階について計画する。

8 .プログラムを評価して持続維持する。

事前準備必修事項:このコースの参加者ら

がしなければけらないことは:

1 .公的な地域、地区、または州行政機関

などのCERT協賛団体からの推薦状

2 .CERT基礎訓練コースまたはIS317CERT

基礎編を履修完了していること。

(http://www.citizencorps.gov/cert/

IS317/)

コースの期間: 2 日間

このコース履修者は、以下の責任を伴うこ

とになる。それらは、CERT基礎トレーニ

ングの全体または 1 クラスのコースマネー

ジャとしての任務を果たすことである。

履修者の焦点:このコース履修者は、CERT

を目指しているひと、またはCERTメン

バーの専門家とボランティアも含まれる。

CERTプログラムマネージャーまたは既に

プログラムマネージャーのポジションにあ

るとして働いている方たちを対象とする。

生涯教育部門:緊急事態管理研究所は、こ

のコースを履修するために1.3CEUを授与

する。

場所:アメリカ合衆国メリーランド州エ

ミッツバーグ、緊急事態管理研究所(EMI)、

国立危機管理訓練センター

申請方法:FEMA申請書Form 119-25-1に

内容を記載して、受講者と上司または協賛

組織役員のサインを記載すること。州立緊

急事態訓練センター事務所を通じて国立危

機管理訓練センターFAX(301)447-1658

に提出すること。追加履修情報は、EMI

ウ ェ ブ サ イ トhttp://training.fema.gov/

EMIWeb/applyを確認のこと。

6.本部研修センター以外の国内外における研修方法

 緊急事態管理研究所(EMI)よび州の

FEMA管轄地区またはその他の適切な団体

は、L(E)427CERT マネージャー及び・ま

たはL(E)428CERT トレーナー研修を共催

することができる(表 1・2 ,27頁参照)。「L」

宅配型研修は、全国を横断するひとり一人

がこれらのコースの履修ができるように準

備されたものである。EMIは、地方の団体

における「L」宅配型研修は共催しない。

経費:EMIは講師料、旅費、学生補助費、

その他クラス運営に関わる如何なる経費も

提供しない。

講師陣:2 名以上のEMIで認定している兼

任講師が各のクラスを運営することが一般

的である。州のトレーニング事務官の判断

により、依頼をうけた人物は、クラス運営

をするに当たって認定インストラクターと

して任務を遂行することも可能であろう。

EMIの兼任インストラクターのひとりが、

写真 6 トレーナー研修修了者 写真 7 プログラムマネージャー研修修了者       (著者撮影 2013.8.20)

Page 10: ÓxÄ 6 gÁ¢'&.£w× wBÊ ë¢$&35£ Åw Öq w] J › img › project_3 › symposium › fema...µ µ µ µ oM tbWsM{ Å w ` !Z Tz q r !ZsMTwMc TpK { w - S Îz Xw w¢txz ×Èw);

− 26 −

指導インストラクターとして役割を果たす。

L(E)427とL(E)428の両方のコースを同

時に開講し、これらのコースは同じインス

トラクターらによって反復講習することを

推奨する。双方の受講者は44名に限定する。

スケジュール:クラスは、開講 8 週間前には

日程の調整が行わなければならない。このこ

とで、印刷物の準備と配送の時間を確保する

ことができる(これは、EMIと契約を結んで

いる配送センターとの要請である。したがっ

て、EMIは 8 週間以上の前の印刷依頼でなけ

れば取り扱うことはできない。)教材を配送

するためのコンタクト先および現地の住所

もクラス日程にあわせて求められる。

教材:準備担当者は教室でCERTトレーナー

研修の教え返し活動(teach-back activities)

に必要となる鉛筆、マーカー、コンピュー

タ、プロジェクターなど全ての教材や備品

を提供する(写真 8・9・10・11)。各のコー

スで必要な教材リストは添付してある。

EMIは、クラスの参加者のために参加者用

のマニュアル、インストラクターガイド、

コースの事前テストと事後テストおよび

FEMAコース申請書(FEMA Form 119-

25-1)を提供する。教材宅配物の中に、コー

ス教材とパワーポイントプレゼンテーショ

ンのCDも梱包し提供される。

コース修了書:EMIは、コースを完了した

受講生には修了書が提供される。それぞれ

のコースを完了するごとに、修了者は受講

したコースの申請書に必要情報を記載しな

ければならない。申請内容には間違いがな

いように再確認した上でEMI管理事務所に

送付することが必要である(申請書の裏側

には住所を明記のこと)。直ちに必要事項

を記載し申請書類を受領次第、管理事務所

は申請手続きを行い各々の申請者に修了書

を送付する。

写真 8 台紙に発表された意見を掲示する

写真 9 色紙を用いてのタワー作りゲーム

写真10 CERT活動道具ボックス  (著者撮影2013.8.20)

写真11 消火器・ガスメーター   (著者撮影2013.8.20)

Page 11: ÓxÄ 6 gÁ¢'&.£w× wBÊ ë¢$&35£ Åw Öq w] J › img › project_3 › symposium › fema...µ µ µ µ oM tbWsM{ Å w ` !Z Tz q r !ZsMTwMc TpK { w - S Îz Xw w¢txz ×Èw);

− 27 −− 26 −

表 1 E427: 自主防災組織(CERT) プログラムマネージャーコース用品と道具

表 2 E428: 自助防災組織(CERT) トレーナー研修コース用具と道具リスト

個数              用  品  と  道  具

全て □ 自助防災組織プログラムマネージャーインストラクターガイドをプログラムマネー

ジャーインストラクターのために(「L」宅配でEMIより提供)

□ 個々の自助防災組織参加者のためのCERTプログラムマネージャー参加マニュアル

(「L」宅配でEMIより提供)

□ このユニットのパワーポイントスライド (「L」宅配でEMIより提供)

□ パワーポイントソフト付きのコンピュータ 

□ コンピュータプロジェクターとスクリーン 

□ マスキングテープ 

□ 画板サイズの台紙と台紙 

□ ホワイトボード(任意)

□ 色彩マーカー

1 □ 事前テストのコピー 参加者分各 1 枚(「L」宅配でEMIより提供)

10 □ 台紙にプログラムの要旨を時系列でまとめる訓練: 台紙の上からプログラムの重要

なる事柄を 5 項目にまとめて表記する (またはホワイトボード)

11 □ 事後テストのコピー印刷を参加人数分行う (「L」宅配でEMIより提供) 

□ 修了証書を各々参加者1枚ずつ (「L」宅配でEMIより提供されたものを郵送)

個数              用  品  と  道  具

全部 □ 自助防災組織トレーナー研修インストラクターガイドをトレーナーインストラク

ターのために(「L」宅配でEMIより提供) 

□ 個々の自助防災組織参加者のためのCERTトレーニング研修参加マニュアルを参加人

数分 (「L」宅配でEMIより提供) 

□ 個々の自助防災組織参加者のための基本トレーニングインストラクターガイドを参

加人数分 (「L」宅配でEMIより提供)

□ パワーポイントソフト付きのコンピュータ 

□ コンピュータプロジェクターとスクリーン 

□ マスキングテープ 

□ 画板サイズの台紙と台紙 

□ ホワイトボード(任意)

□ マーカー

1 □ 事前テストのコピー 参加者分各一枚(「L」宅配でEMIより提供) 

2 □ 「スーパートレーナー」配付資料を参加人数分(トレーナー研修インストラクターガ

イドユニット 2 資料参照) 

4 □ 小クラス A:B:Cに分けて 5 つの消火器 (2)

6 □ ポリウレタン製手袋 参加者各 1 セット

□ シェビングクリームカン (1)

□ 10cm正方形のガーゼパッド (10)

7 □ 基本的な副木措置訓練のデモンストレーション資料(例:ボール紙、ダクトテープ、

雑誌など)

□ (任意) 5 分間ビデオ、「頭部からつま先までの診断デモンストレーション」は、技

術を効果的に用いる方法を解説し紹介している 

□ (CERTウェブサイトにて視聴可能: http://www.citizencorps.gov/cert)  

Page 12: ÓxÄ 6 gÁ¢'&.£w× wBÊ ë¢$&35£ Åw Öq w] J › img › project_3 › symposium › fema...µ µ µ µ oM tbWsM{ Å w ` !Z Tz q r !ZsMTwMc TpK { w - S Îz Xw w¢txz ×Èw);

− 28 −

7.「プログラムマネージャー」と「トレーナー」研修コースの内容

 「プログラムマネージャーコース」の目

的は、活発な地域のCERTプログラムを設

立し維持するために求められるプログラム

マネージャーを養成するためのものであ

る。各自は、新しいプログラムを始めた

り、既存のプログラムに活気を与えるため

に新しいアイディアを考案すべきである。

プログラムマネージャを学ぶに当たって最

終的には10の項目について理解し行動に移

す準備ができることが期待されている。第

1 に、地方のCERTプログラム主要なる目

的と内容を判断すること。第 2 に、地域

CERTプログラムの使命と目標を判断する

ための戦略区的計画を用いること。第 3 に、

地域CERTプログラムを推進するために必

要な目標と戦略を論述すること。第 4 に、

ボランティアと働くための流れを構築する

こと。第 5 に、インストラクターと共に働

くプロセスを構築すること。第 6 に、プロ

グラム資源を習得しマネージするための経

緯を構築すること。第 7 に、安全トレーニ

ングと練習を実施し、マネージするための

計画を立てること。第 8 に、CERTプログ

9 □ フィードバックチェックリストのコピー、9 枚×参加人数分

□ CERTトレーニングユニットパワーポイントスライド ユニット 1, 2, 3, 4, 10

人に付き一枚のコピー用紙(参加者全員の個人のコンピューターに全てのパワーポ

イントのファイルデジタルファイルをコピーして教え返し(Teach-back)トレーニ

ングに用いることが望ましい。)

□ CERT キット (2)*

□ 小クラス Class A:B:C 消火器 (4)*

□ デモキットに包帯する (10人に1つ割り振る) 

   − 縦横10センチパッド(6)

   − 包帯 (一巻き)

   − 医療用はさみ

□ デモキットに副木をつける(10人に 1 つ割り振る)

   − ボール紙、ダクトテープ、雑誌など

10 □ (任意) 2 つの短編ビデオ(各 5 − 6 分)はユニット 5 において適切にトレーニング

活動を行えるように解説している:「けが人を移送するデモンストレーション」 と「実

施訓練: 犠牲者救出」 

□ (CERTウェブサイトにて視聴可能: http://www.citizencorps.gov/cert)  

11 □ 「学習者の挑戦」の配付資料(3) (T-T-T IG, p. 11-6)

□ プレゼンテーションのコピー(3) (T-T-T IG, p. 11-7/8)

15 □ フィードバックチェックリストのコピー, 9 ×参加者全員分

□ CERT基礎トレーニングユニット5,6,7のパワーポイントスライドを10人に 1 枚のコ

ピー(参加者全員の個人のコンピューターに全てのパワーポイントのファイルデジ

タルファイルをコピーして教え返し(Teach-back)トレーニングに用いることが望

ましい。)

□ 台紙板と台紙を参加者10人に 1 枚 

□ マーカー ブランケット(2)*

□ 椅子で移送する方法を教える (2)*

17 □ 事後テストのコピー印刷を参加人数分行う (「L」宅配でEMIより提供) 

□ 修了証書を各々参加者1枚ずつ (「L」宅配でEMIより提供されたものを郵送)

*ユニット 9 と 5 の教え返しのセッションの際に、CERTキット、消化器、ブランケット、椅子で

の移送を方法を教えるために教え返しグループ間において分かち合うことができる。

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− 29 −− 28 −

ラムを運営するにあたっての規約や手順の

役割を理解すること。第 9 に、CERTプロ

グラムを評価するための流れを開発するこ

と。そして第10に、CERTプログラムを支

持する方法を理解することである。

 「トレーナー研修コース」の目的は、CERT

基礎トレーニングコースのために有能なイ

ンストラクターを輩出することである。有

能なインストラクターには大きくは以下の

4 つのことが期待されている。第 1 に、有

能なインストラクターは、CERT基礎ト

レーニングコースにおけるメッセージと

CERTプログラムの内容(例:安全、チー

ムワーク、全体的な地域危機管理計画の位

置づけ)をしっかりと理解して、かつ適切

に伝える。第 2 に、有能なインストラク

ターは、学生たちがCERT基礎トレーニン

グコースの諸目的を達成することを保証す

る。第 3 に、有能なインストラクターは、

効果的で、適切なレベルに応じた訓練が施

せるが故に学生に習得した技術を適切に応

用できる学習力を引き出せる。第 4 に、有

能なインストラクターは、心地がよく、か

つ調整した学習環境を創り出すと明記され

ている。

 全体のコースの目標は、以下の 6 点であ

る。第 1 に、CERT基礎トレーニングコー

スで理解したことを実際にデモンストレー

ションすることができる。第 2 に、このコー

スで学んだことを「教え返し」として割り

当てられた事柄を示す能力を表現すること

ができる。第 3 に、プログラムの中心とな

る価値を踏まえて触れあうことができる。

第 4 に、クラスルームマネージメントテク

ニックを用いることができる。第 5 に、効

果的な教育技術を立ち振る舞うことができ

る。第 6 は、インストラクターとして適切

な行動規範を示すべきである、と明示され

ている。つぎに、トレーナー研修では、17

の章立てに分けられて実施される。その中

でも興味深い内容は、第 5 章の「学習力を

最大限とする」と第11章の「クラスルーム

をマネージする教授法」である。第 5 章で

は、大まかに 7 点のことを学習する。第 1

に、どのように人々は学習するか、第 2 に、

積極的な学習環境を創造する方法について、

第 3 に、学習効果を最大限に引き出す方法

について、第 4 に、インストラクターが評

価をすることが必要な理由について、第 5

に、公式的、非公式的に評価をすることに

ついて、第 6 に、質問と回答のガイドライ

ンについて、そして第 7 に、いつ、どのよ

うにフィードバックをするかのガイドライ

ンについてである。実際に、筆者がコース

に参加したときに視聴覚による学習スタイ

ルについて討議された。それは、聴くこと

(言語的表現)、見ること(模倣)、言うこと

(反復)、行うこと(練習訓練)である。「積

極的な学習環境を創造する」ことについて

は、第 1 に、身体的要因、第 2 に、情緒的

要因、第 3 に、知的要因があげられている。

身体的な要因については、部屋の温度は暑

すぎることもなく、寒すぎることもないこ

と、第 2 に、教室において、参加者らはイ

ンストラクターを見ることができ、話を聴

くことができるように整えられていること

である。第 3 に、照明と音量に関しては、

視界と聴力を狭めることになる。そして第

4 は、許容範囲は、疲労回復のために存在

している。活動が多いと参加者らは、長い

間座っている必要もない。休憩を定期的に

取ることも大切である。

 情緒的要因としては、5 点あげられてい

る。第 1 に、大人として尊重して接する(学

生らは、インストラクターと仲間で有りた

い)。第 2 に、いつでも、かれらの自ら学

びやすい方法で導く(成人は自分で学びた

いときに学ぶ)。第 3 に、かれらは、トレー

ニングにきているのは自ら選んだのであ

り、誰かが来るように言われてきたのでは

Page 14: ÓxÄ 6 gÁ¢'&.£w× wBÊ ë¢$&35£ Åw Öq w] J › img › project_3 › symposium › fema...µ µ µ µ oM tbWsM{ Å w ` !Z Tz q r !ZsMTwMc TpK { w - S Îz Xw w¢txz ×Èw);

− 30 −

ない。第 4 に、かれらは、正しい目的のも

とで行っている(あるいは、かれらは、少

なくとも一生懸命に頑張っている)。第 5

に、かれら自身を、ありのまま受け入れる

(成人は色々な姿やスタイルで来る。かれ

らは、皆CERTに持ち場がある)。第 6 に、

トレーニングには、理由があることを理解

する(成人はかれら自身や家族のために変

化をもたらすのかを知りたい。)

 インストラクターは、次のことを行うこ

とによって情緒的なニーズに対応ができ

る。第 1 に、学習の情報源およびコーチに

なる、第 2 に、トレーニングの成果による

収穫的利益を説明し(WIIFM:WHAT's In

It For Me 私のための何があるか)、そし

て参加者自身で可能な限り冒険的な探究を

してもらう(彼ら自身の利益を発見するた

めに)。第 3 に、かれらを尊敬する(かれ

らを見下げない)。第 4 に、かれらのレベ

ルで教える(上でも下でもなく)。第 5 に、

かれらに恥をかかせない。第 6 に、意味の

ある動機付けと同僚のフィードバックを提

供する(これもパワフルな動機付けとなる)

学習することに恐怖感を与えない(彼らの

学習習熟度によって教えることに関連性が

ある)、現実問題を中心において学ぶ。「も

し、私がこの立場だったら」というシナリ

オを用いてあたかもそこに遭遇しているよ

うなイメージを持って考える学習を行うこ

とである。身体的要因と情緒的要因に加え

て、成人は知的ニーズが伴っている。第 1

に、彼らは様々な人生を生き抜いてきてお

り、経験したことを分かち合いたいと思っ

ている。第 2 に、かれらは、既に知ってい

る事柄と新しく学んだ情報を繋げたいと

思っている。第 3 に、かれらは、学ぶこと

に対して積極的な参加者になりたいと思っ

ている。第 4 に、かれらは、自分の学びた

い方法(自分のやり方で)で学びたいと思っ

ている(聴いたり、観たり、行ったりする

なかで)。

 インストラクターは、次のことをするこ

とによって知的ニーズに応えることができ

る。第 1 に、新しい概念を学ぶために質問

や話し合いを通して学習らの人生経験を用

いる。第 2 に、新しい情報と古い情報を分

析、事例、仕事関連情報を用いて繋げる。

第 3 に、学ぶことを積極的に行う。身体を

動かすなど体験的な学習方法を取り入れ

て、講義形態やスライドだけを観るような

ことは行わない。そして第 4 に、すべての

学習スタイルにマッチするように教授法に

おいて様々なアプローチを用いる(例えば、

講義、討議、ロールプレイ、デモンストレー

ション、活動、ゲームなど)。

8.お わ り に これらの学習形態は、まさしく生きるた

めの即興的学習であり、それ自体が防災共

育でもある。すなわち教育とは本来一方通

行のものではなく、相互交流的な共育的ア

プローチがあって、生きた学習を継続する

ことができる。そのもの自体が生涯の経験

的学習とも言える。筆者はこれまでジェロ

ントロジーを共育コンセプトとして構築し

て実践的哲学にまで本来存在していた年輪

が外側から内側へと見えない「気づき」を

とおして構築されてきた。このコンセプト

を筆者はインドでの実践研究を基盤にヨ

ガーユニバーサルジェロントロジーと命名

して、カリキュラムを構築してきた(高橋 

2011,2010,2009)。すなわち、「きょういく」

の語源は、才能を引き出すという意味であ

り、上記のCERTの教授法でも説明してあ

るように、学びたい意志のある者が集まる

ことで様々な発想も生じるからである。そ

れに加えて、本来の教授法とは学びたくな

い者や関心のない者もいつの間にか周囲の

人々や事象に感化され教化されるような学

習環境を構築していく能力を身につける必

Page 15: ÓxÄ 6 gÁ¢'&.£w× wBÊ ë¢$&35£ Åw Öq w] J › img › project_3 › symposium › fema...µ µ µ µ oM tbWsM{ Å w ` !Z Tz q r !ZsMTwMc TpK { w - S Îz Xw w¢txz ×Èw);

− 30 − − 31 −

要もある。このことに関連した学びの母体

がジェロントロジーという学問である。筆

者は、アメリカ合衆国で留学中にジェロン

トロジーと出会い、アメリカジェロントロ

ジー高等教育学会(AGHE)で学び、多く

の出会いがあり、そのなかでもエドワー

ド・F・アンセロ博士(バージニアコモン

ウェルス大学バージニアエイジングセン

ター及びバージニア老年医学教育センター

ディレクター)との出会いが著者にとって

多大なる哲学の影響をもたらしている。ア

ンセロ博士はこれまでの高等教育における

ジェロントロジー教育と研究実践が評価

されて、2011年 3 月17−20日にアメリカの

ジェロントロジスト教育最高賞といえるク

ラーク・ティビッツ賞を受賞された。受賞

講演においては、筆者の名前と共にこれま

でのNPO法人日本ケアフィットサービス

協会ジェロントロジーセンターでの実践を

紹介していただく名誉にも預かった。しか

しながら、同年 3 月11日の東日本大震災を

境に筆者の価値観も大きく変わりジェロン

トロジーにも平常時と有事の環境や災害が

伴った実践的な学問が必要であると認識し

なければならない状況におかれたのであっ

た(Ansello 2011)。それは、その 1 年前

から「防災介助士」という視点から、緊急

時にも即対応できる介助士を養成するため

のカリキュラムを構築して、東京都の本

所都民防災教育センターで地震体験をし

て、阪神淡路の大地震(マグニチュード

7.3)をはじめ様々な地震を体験したまさ

にその翌日、福島県二本松市の自宅にてマ

グニチュード9.0の東日本大震災を体験し

たのであった。電気、水、食料のない生活

が周囲でもあり、夜中は蝋燭を灯してラジ

オで行方不明の捜索情報を聴いては日記に

記録していたことを回想する。そして今も

尚、放射能という見えない魔物が福島県近

隣に住む人々の人生を変えてしまった。筆

者は、このことがきっかけで半世紀を生き

てなにかできないものかと思ったときに予

備自衛官の募集に目がとまり、専門職をも

つ技能の募集は年齢が53歳までとあった

ので、語学の技能(英語)の部で筆記試

験(小論文)、口述試験(個別面接)、適性

試験(予備自衛官補としての適性を判定す

る検査)、身体検査を経て合格通知を受け

た後に、予備自衛官補および予備自衛官の

訓練を受けることとなった。そのような訓

練時に、命をかけて人々の救命に励まれた

指導教官の方々より現場での働きを聴くこ

とができた。そのなかで求められているの

は、その場での瞬時の判断による救出行動

とともに被災者と救出にあたった自衛官自

身の心のケアであった。筆者が講義を担当

している福島介護福祉専門学校でも専任教

員を中心として防災介護と称して独自の学

習を取り入れて高齢者や障がいのある人へ

の震災時における防災について学ぶ時間が

取り入れられおり、その重要性も確認され

ている。実際に、震災時に介護職をはじめ

とする福祉従事者が防災における訓練や

学びに欠けていたために本人をはじめ家

族や利用者らも多くの震災の犠牲をうけ

てしまったことも報告されている(田代 

2013a,2013b)。以上のことから、防災の共

育は、老若男女すべての人々が学んでいか

なければならない実践的な学びであるとも

いえる。筆者がFEMAで学んできた同じ

時期にも、防災に関する訓練は個人のみな

らず政府機関の職員が団体で緊急時の予備

訓練のためにワシントン州シアトル市役所

から70名のスタッフが 1 週間の訓練で来て

おり、その現場を見学させていただいた。

その訓練は、施設そのものが、VIP本部室

から行政スタッフ室まで管理されており、

電話での調整から災害の状況をスクリーン

で流し、その問題解決のために、あたかも

緊急事態に行政側がどう対応するかの訓練

Page 16: ÓxÄ 6 gÁ¢'&.£w× wBÊ ë¢$&35£ Åw Öq w] J › img › project_3 › symposium › fema...µ µ µ µ oM tbWsM{ Å w ` !Z Tz q r !ZsMTwMc TpK { w - S Îz Xw w¢txz ×Èw);

− 32 −

が部署ごとに連携しておこなわれていた。

筆者は70名ものスタッフが訓練に来られて

いる間、シアトル市内の行政のお仕事はど

うなっているのか尋ねたところ、シアトル

行政スタッフが留守の間は、近隣の州から

援護スタッフが、シアトル市内の業務を引

き継いでおり、近隣の州の間でも十分な協

力体制が準備されているということであっ

た。また、海外からの研修の要請もあり翌

週は中国行政からも訓練を受けに来るとい

うことで、危機管理に対する地方・国家間

の取り組みの真剣さを窺い知ることができ

るとともに、我が国の危機管理の縦のみな

らず都道府県を越えた横の連携も重要であ

ることを認識させたられたとともに、国家

全体としての取り組みが急務であること強

く訴える次第である。今後の課題は、この

ような防災意識を単に専門家のみならず、

一般市民に定着させることであり、向学心

のある人々には、単に専門領域や学閥など

にとらわれないでさらなる学びの場を提供

することが重要である(高橋 2012a)。筆

者が、消防学校で学びたい旨をお願いした

ところ制度上、消防隊員でなければ学べな

いとのことであった。また、地元の消防団

においても新団員で入団しても年齢が上す

ぎて、実質的な訓練上やりにくいというこ

とで丁重にお断りされた経緯がある。そう

なると、地域においても学ぶ機会が限定さ

れ現存する消防や日赤で提供している救助

法の講習会や民間で提供している防災関係

の認定資格にとどまっているのが現状であ

る。したがって、今後の課題は、地方・国

家を含めて防災教育の認識をもっと広い視

点からとらえることが重要である。すなわ

ち、防災とは、生きる力および生き抜く力

を育むことであり、それを国籍、宗教、文

化、職種、老若男女の年齢を超えて相互に

学びあう共育的社会を構築することである

(高橋 2013,2012b)。それを行うためには、

教育力を共育力に変えることであり、暗記

力から創造力をさらに熟成構築していくこ

とである。そのこと自体が、今日の「ひ

と」の「きょういく」に従事している現在

の「教師教育」にも反映し、生徒の登校拒

否から教師の登校拒否に変容してきている

のが日本の現状である。それは、教師とし

て働く周囲の環境や社会の影響ともいえよ

うが、実際には教師自身も一社会人であり

子供の親であり、個人でもあり一方通行的

な役割を果たしているわけではない。防災

力とは、「思いやりの力」であり、「気づき

の力」でもあり「行動の力」でもある。す

なわち、FEMAで提供している学び自体

は受講できようが、実際にCERTで取り上

げられた議論の核も、この「気づきの力」

であった。これまで筆者が、この防災訓練

に関心を持つに至った背景を振り返ると、

第 1 に父が音楽教師として指導していた吹

奏楽部での指導のもとで、吹奏楽の演奏を

する全体演奏のなかのトロンボーン・ユー

フォニアム奏者としてのパートを受け持つ

立場や、アンサンブルとしてのパートを受

け持つ役割や、個人としてのソロを伴奏者

と息を合わせて感じかつ聴衆の空気を感じ

取りながら演奏を表現する立場や指揮者と

して全体をみながら繊細な表現を演奏者と

共に一体となり、音の響きを通しての感動

を聴衆ともに醸し出す感動を感じ取ってき

たことに関連していると感じている。それ

が「共(響)育力」であり、防災共育、人

間力の核をなるものであると回想している

(高橋 2005)。これは、読者らのこれまで

の体験から得意とする才能や趣味から導入

して関連付けていくことが可能である。筆

者は、このような人と人との関連性を実際

に見出してそれをさらに引き出していくと

いう経験から、教育は何かを探究してきて

到達したのが「教育」から「共育」という

発想であった。すなわち、音響とは一方通

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行ではなく共鳴やハーモニーがあって感動

が伴うからである。筆者の共育経験は中学

の地元旧岩代町の非常勤講師から始まり、

福島県内矢吹町、旧岩代町の高校学校総合

学科(社会福祉基礎担当)、白河市の総合

病院の高等看護学院(社会学、倫理学、カ

ウンセリング担当)、二本松市に市町村で

法人を設立し開校した介護福祉専門学校

(保健体育、社会政策論、社会福祉概論担

当)、社会福祉士養成および教員養成で社

会人を対象をしている通信制大学(死生学、

福祉教育指導法、福祉援助技術演習、障害

者福祉論、社会福祉士実習指導)を経て、

中学校、高等学校、看護師養成学校、介護

福祉士養成学校、大学の社社会福祉士養成

課程、保育士、小学校、特別支援教員養成

課程で学ぶ生徒、学生の方々と共に学び成

長してきた。この「気づき」をベースに、

年輪のごとく構築された哲学が「共育哲学」

である。今後、これまで、教育にかかわる

人々と共に共育してきた経験からも、社会

福祉士養成課程、介護福祉士課程養成、看

護師養成課程、保育士養成課程、および教

員養成課程など「ひと」にかかわることを

お仕事とするために学ぶ人々は、みな危機

管理を含む防災共育を、単に単位履修とし

て学ぶのではなく、福祉実践や教授方法や

実践に応用できる発想を踏まえて「生きる

力」を育むために創造的に学ぶことは職種

を超えて大変重要であり、またこれらの領

域の熟練者をはじめ退職された諸先輩にこ

れまでの英知を生かしリーダーとして学び

活躍して頂くためにも大変有効である(若

井 2013)。そして、CERTプログラムの

受講には、前述したように年齢制限もな

く、発想をより創造的にすれば、子供たち

が立派なインストラクターとしての役割を

担うことも現実的に可能ともいえる(片田 

2012,谷本 2012)。

 FEMAにおいても、青少年向けのCERT

研修プログラムもすでに実施されている。

これに関連して、筆者が所属している内閣

府認証NPO法人日本ケアフィットサービ

ス協会は、1999年の国際高齢者年に開設さ

れ「2000年からの介護保険制度を目前に

「高齢者を寝たきりにさせない!」をテー

マに任意団体として発足」し年間の資格取

得者が125名からはじまり、今日では約900

社の企業がサービス介助士の導入に至って

いる。また、青少年向けのジュニアケア

フィッターとしてのプログラムも導入され

ており、高校における総合学科をはじめ特

別支援学校においても導入されてきている

経緯がある。今日、同協会には共育センター

としてインストラクターがサービス介助士

の研修を実施してきている。筆者が2004年

にNPO法人日本ケアフィットサービス協

会所属し、当協会にジェロントロジーセン

ターを開設した時期に、研修の方針を紹介

する際に、当初「共育」という言葉をパソ

コンで検索しても一つもヒットしなかった

ことを覚えている。ただし、太田(1990)

が、既に「共育」という用語を文献で紹介

しており、2012年 8 月 9 日に教育科学研究

会全国大会(法政大学)で太田尭先生の講

演会の際に「共育」の用語の発祥について

お尋ねしたところ、1970年代において企業

関係者らの勉強会のなかで使われ始めたの

がはじめではないかとの事であった。白石

(2009)は、「教育」と言う言葉の語源に関

しては、「教」の漢字は、「コウ(×が2つ

重なった字)」と「子」、そして「ボク(右

側のツクリの部分)」の 3 つの部分から成っ

ており、「コウ」には、交差・交流の意味

があると述べている。また「子」の上に「コ

ウ」があるのは、子が(対義語である親ま

たは親に類する者)と交わるという意味と

なる。「ボク」は、棒をもって悪いことを

注意する様を表す象形文字である。これを

総合すると、「教」の漢字は、棒を持って

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− 34 −

注意する親子関係を示す字となると解説し

ている。しかしながら、「コウ」は交流すな

わち相互関係を意味し、一方的な命令−服

従関係を示すものではなく、「教」の字は、

親が善悪を注意して教えるだけでなく、子

がその注意・教えを受け入れる意味も示し

ていると説明している。また白石は、「お

しえる」という日本語は、「ヲシム」「ヲサ

ヘ」「ヲシアヘ」という語が転じたもので、

「ヲシム」は「愛しむ」であり、愛情をもっ

て接すること、「ヲサヘ」は「抑え」であり、

抑制すること、「ヲシアヘ」は「食饗」で

あり、ごちそうでもてなすこと、転じて生

きるための何らかを十分に与えることを示

唆していると説明している。以上のことか

ら、「おしえる」という日本語には、愛情を

もって接する、何かを抑制する、生きるす

べを与えるといった意味があるということ

である。したがって、実際には「きょうい

く」の用語を理解するにおいては、「教育」

「共育」の漢字そのものに問題があるのでは

なく、両者の意味を踏まえた中での「きょ

ういく」のアプローチが重要であることが

理解できよう。

 前述のように、筆者の所属している協会

では「共育」を同協会のモットーとしてイ

ンストラクター養成研修に導入し「共育室

および共育センター」として、インストラ

クターらが地道に活動を展開してきた。そ

の結果、インストラクターおよびスタッフ

らの尽力により約900社の企業をはじめ学

校関連にも導入されていき、2013年11月 1

日には「サービス介助士」10万人感謝祭が

開催された多くの理解者が今日も広がって

いる。この学びとともに、障がいのある方

やご高齢で身体の不自由な方を含む日常生

活支援を災害を含む有事の時にも支援対応

のニーズが高まり、研修プログラムが「防

災介助士」養成として構築され実施されて

いる。今後の防災研修は、防災の意識を共

に学び共有して、世界と国の平和と安寧の

ために教育界をはじめとする企業や地域の

社会貢献に寄与していくことが重要であ

る。これらの理解を支持される協力者らの

元、2012年には一般財団日本ケアフィット

共育機構が設立され、2013年には、これま

での顕著なる日本国内外における社会貢献

の実績が内閣府より評価され「公益財団法

人」と認可され、2014年 4 月から新規事業

が展開される基盤が構築されているところ

である。筆者は、今後の事業展開に当たり、

防災に関する共育機構としてFEMA連携

による共同プログラムを実施するための方

法をFEMA本部に尋ねたところ、日本政

府よりFEMAに正式依頼をされて、日本

政府が訓練にかかる経費を捻出することに

合意することで可能となるということで

あった。その手順は、内閣府を代表するワ

シントンDCの日本大使館よりFEMAに要

請があって正式に日本においてFEMAの

トレーニングが実施可能となるということ

である。今後の課題については、第 1 に、

筆者が受講してきたコースを日本において

実施して日本語で行えるインストラクター

を養成することである。第 2 に、防災共

育研修といえども、座学中心の傾向がある

ので、実践体験学習もしうる体験訓練セン

ターも必要である。第 3 に、資格を認定さ

れた後も継続的研鑽が求められる実学が重

要であるがゆえに、定期的なフォローアッ

プ研修およびスキルアップの研修が必要で

ある。第 4 に、防災人材養成は、単発的な

ものではなく、長いスパンからみて計画さ

れた、継続的でかつ反復的な研修を実施す

ることが重要である。今後とも、防災共育

のなかにジェロントロジー的発想を生かし

た生涯学習的実践防災訓練が実施されるこ

とを祈念し、我々の人生のテーマを以下に

記して末筆とする。

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「若さは賜であり、齢は芸術であるYouth

is a gift &Age is an art」

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− 36 −

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http://blog.goo.ne.jp/sirtakky4170/e/c62ce0

3d5448011d4f1101d8aeeeb23b