電子書籍版「デザイニングWebアクセシビリティ」制作秘話 ~...

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電子書籍版 「デザイニングWebアクセシビリティ」 制作秘話~Web制作者が電子書籍を作ってみた! 株式会社ビジネス・アーキテクツ 伊原 力也・太田 良典

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電子書籍版「デザイニングWebアクセシビリティ」制作秘話~Web制作者が電子書籍を作ってみた!

株式会社ビジネス・アーキテクツ伊原力也・太田良典

自己紹介

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BA

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ウェブアクセシビリティ基盤委員会(WAIC)

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デザイニングWebアクセシビリティ

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「デザイニングWebアクセシビリティ」とは?

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デザイニングWebアクセシビリティとは?

誰でもアクセスしやすいWebサイトの制作プロセスについて語る本 障害の有無や、状況にかかわらずアクセスできる

戦略や設計、ビジュアルデザインも重視 ガイドラインの解説ではない

BAが手がけた実例も豊富に収録

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重要な問題

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紙である

重要な問題

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紙の制約

読めない・読みにくい人がいる 全盲の人は紙の本を読めない

ロービジョン (弱視) の人は拡大読書器に頼ることに

上肢障害があると読んだり持ち運んだりに苦労する

実際に複数の問い合わせを受けた アクセシビリティをテーマにした本であるため、

障害当事者の方の関心も高かった

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電子書籍版

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電子書籍版発売までの大まかな流れ

2015年7月 紙版の発売

2016年9月 電子版の作業開始

2016年12月 直販・委託にて発売

2017年2月 Amazonで発売

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「デザイニングWebアクセシビリティ」電子書籍化にあたっての方針

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電子書籍版の基本方針

アクセシビリティを重視 さまざまな環境で読めるようにする

ユーザビリティの高いものに 電子書籍の特性を活かした構成にする

現状のリーディングシステム(RS)の実装に合わせた構成にする

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さまざまな環境

モバイルデバイスで読む

スクリーンリーダーで読む

拡大して読む

色を反転する設定で読む

モノクロ端末で読む

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リフローかFixedか?

拡大を想定するなら圧倒的にリフロー 拡大したときにテキストが折り返される

Fixedではスクロールを繰り返しながら読む羽目に

固定レイアウト版も用意 紙と同じレイアウトで読みたい人もいるかも

そんな方向けに固定レイアウト版も用意

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電子化にあたっての作業方針

リフロー版のEPUBを作る アクセシビリティ・ユーザビリティに配慮

固定レイアウト版のPDFも提供する こちらは最終原稿をそのままPDF化

自分たちで電子化作業を行う Web制作者なら可能、制作プロセスへの関心も

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EPUB版における方針

なるべくスタイルをつけない アクセシビリティを重視し、

「直販でDRMフリーEPUBを配布する」という決断

RSによってCSSの対応度はさまざまだが、対象RSは固定できない

多くのRSに対応すべくスタイル指定は極力回避

「スタイル込みで見たい人はPDFを」という割り切り

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「デザイニングWebアクセシビリティ」電子化作業

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電子化作業プロセス

1. テキスト原稿と画像を用意(原稿起こし)

2. EPUBオーサリング PandocでXHTMLに変換 エディタでXHTMLとメタデータを調整 ZIPで固める

3. RS検証とレビュアーチェック

4. 結果を受けて調整

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原稿起こしの作業

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原稿起こしの作業・概要

テキストの原稿を用意する作業

画像の調整

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テキストの原稿を用意

InDesignデータからテキストを起こす PDFからエディタにコピペしていく

フォーマットはMarkdown形式を選択 あとで変換しやすくするため

Githubの無料のリポジトリで管理 公開されてしまうが、出版社の好意でOKに

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PDFからエディタにコピペ

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Markdown + GitHub

25https://github.com/bakera/designing_web_accessibility/blob/master/md_text/1-1%20なぜWebはアクセシブルなのか.md

テキストを起こす作業が大変

一部記号類の文字化け

順番の入れ替わり InDesign上でテクニカルにレイアウトされたものは

順番がおかしくなっている

テキストの抜け落ち 段落丸ごと抜けていると気づかない

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テキスト取り出し

27http://www.jepa.or.jp/ebookpedia/201508_2546/

本当でした

「一括でのテキスト書き出しは、その後のチェックと調整を考慮すると現実的とは言えず、ここはページ単位またはページ内のテキストブロック単位でコツコツとテキストをコピー&ペーストしていくのが、遠回りのように見えて、結局、一番効率が良い。」

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画像の調整も発生

画像の多くがInDesign上で加工されていた レイアウトに収めるためのトリミング

強調のための枠や、転換を示す矢印などの付与

版下PDFからキャプチャしなおして対応 350dpi、長辺3200pxでページをPNG書き出し

図版部分だけに絞ってトリミング

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InDesign上で加工された図版の例

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なぜこんな作業が必要だったのか?

最終データがInDesignのみだった 最初はMarkdownで原稿を書いていた

DTP作業の後にチェックと修正を行った

この際、修正をInDesignデータのみに反映していた

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どうすればよかったか?

A) InDesignで編集したら原稿や元画像も更新する 校了が近づいても強い心を持って同期する

B) InDesignでは編集せず常に元データを参照する 事前にワークフローの整備とすり合わせが必要

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電子化にあたって工夫した点

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電子化にあたって工夫した点

目次の変更

巨大な表の扱い

索引リンクの設定

リンクのルール統一

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目次の変更

目次を先頭に移動 紙版は 刊行に寄せて→本書の構成→目次 の順

電子書籍版では目次を先頭に移動した

目次の内容を調整 紙版ではコラムが目次に掲載されていない

電子書籍版ではコラムも掲載

目次の階層を深くする案もあったが、長すぎて断念

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紙版・PDF版:6ページ目

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EPUB版:先頭、コラムあり

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巨大な表の扱い

巻末に「WCAG 2.0と本書内容の対照表」 紙版では見開き3面の巨大な表

電子書籍版では大胆に構成を変更 巨大な表は現状のRSで再現できず、

またモバイルデバイスで非常に読みにくい

表ではなくリスト形式に変更

表もWeb上に用意。PDF版でも表は参照可能

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紙版・PDF版:表

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EPUB版:リスト

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索引リンクの設定

巻末の索引を大幅に調整、強化 文中の単語と索引との相互リンク

索引から本文へのリンクだけでなく、文中の該当の語から索引へのリンクも設定

リーダーの検索機能を使えばよいのでは? 意図しない単語にヒットするケース

関連する項目をたどるには索引のほうが使いやすい

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紙版・PDF版:索引

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EPUB:索引リンク

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EPUB:索引リンク

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リンクのルール統一

文中リンクは「書籍内リンク」で統一 索引、あるいは本書の別の章などの参照のみ

外部サイトへのリンクは文中に入れない 段落の外に出し、対応する段落の近くに配置

巻末の「引用事例一覧」のリンクも同様に処理

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検証から生まれた課題と解決案

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検証プロセス

各種RSでの検証 Windows / Mac / iOS / Android / Kindle

PC / スマートフォン / タブレット / 電書リーダー

アクセシビリティ専門家によるチェック 中根さん(全盲):スクリーンリーダー

伊敷さん(弱視):拡大・反転

たださん(電書に詳しい):総合評価

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索引リンクの試行錯誤

索引へのリンクであると分かるべき 単にリンクにしても、何へのリンクか分からない

[索引] というテキストを入れてみると 拡大して読むユーザーからは分かりやすいと評価

しかし読み上げでは……

結局、プレーンなリンクにするという判断

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索引、索引、索引、索引、索引

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見出しのスタイル (見た目)

見出しは色つきに 本書のメイン部分は

「問題」「解決アプローチ」の2つに分かれる

それぞれの見出しに異なる色をつけ、どこを読んでいるか分かりやすくした

しかし……

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色の問題

特定環境における色の問題: RSで色反転しても文字色が変わらず読めなくなる

Kindle E-Ink端末などのモノクロ端末の存在

解決アプローチ: Kindleフォーマットのみ色指定なしにした

夜間モード時のリンク色の問題は解決せず

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Kindle for iOS 夜間モード × 文字色指定

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電子化作業で得た教訓

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電子書籍作りには「元ネタ」が重要

最初から電子化を見越しておく アクセシブル・ライティングを実践

電子化をふまえて原稿や画像などを用意

InDesign上だけで編集しない

それができていれば、EPUB化は容易 中身はHTMLとXMLとCSS、すでに知っているもの

スタイルも、必要最低限なら検証は容易

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アクセシブル・ライティングとは?

さまざまな環境で読まれることを想定した、電子化前提のライティング モバイルデバイスで読む

スクリーンリーダーで読む

拡大して読む

色を反転する設定で読む

モノクロ端末で読む

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これが真の「アクセシブル・ライティング」だ!

altに頼らない文章 適切なキャプションがあれば、altは「図」でよい

ノンブル・色・レイアウトに頼らない文章 固定形を前提にせず、リフロー×多数のRSを前提に

構造化された文章 Markdownで準備すれば、おのずと構造化される

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思ったこと

Web開発の手法と相性がよさそう Gitでの管理、共有は効率が良かった

タスクランナー、テストの自動化、CIといったさまざまなエンジニアリング手法も適用できそう

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参考事例

Markdownを起点とするワークフロー

Markdownで書く電子書籍開発環境

GitHubで雑誌・書籍を作る

執筆を支える技術

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まとめ

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書籍を手に取ってもらう機会を増やすには

まずリフロー版の電子書籍を出そう

特別な技術や過度な負荷は必要ない

工夫や試行錯誤はオプション

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まずリフロー版の電子書籍を出そう

無いものは買えない 紙だと読めない人がいる

PDFでも読めない人、読みにくい人がいる

読めるものがなかったら存在しないのと同じ

最重要な「書籍のアクセシビリティ」=「リフローな電子書籍」を出すこと

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特別な技術や過度な負荷は必要ない

必要なこと1:方針を決める リフロー? Fixed? 本書は最初から方針が明確だった

必要なこと2:原稿の用意 元原稿、元素材が扱いやすい形かどうかが鍵

必要なこと3:EPUBに変換 ツールでさっくりもよし、Web技術を活かすもよし

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工夫や試行錯誤はオプション

電書の特性と、現在のRSに合わせて目次・表・索引・リンクを構成 ぜひ本書の使い勝手を評価ください

この工夫はあくまで「やってみた」レベル 「必ずやらなければいけない」類のものではない

書籍の内容に応じて取捨選択を

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電書業界に乗り込め!今がそのときだ!

Web制作者による電子出版の実践

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ありがとうございました

会場よりご案内

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