ファッションは更新できるのか?会議vol.5『双方性とコミュニティからうまれるものづくりの生態系...

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水野──今日は趣向を変えてここ高円寺で、第5回ファッションは更新でき るのか?会議を開催したいと思います。これまでの会議では、様々な観点か らファッションの更新可能性についての新しい仕組みを中心に議論を重ねて きました。そこで今回は、実際にその仕組みの中で活動して面白い作品をつ くっている方、あるいはその作品づくりに関わっている方をお招きして、具 体的に今の仕組みの中でどういうことが実践されているのか、その生態系を 知っていこうと思っています。 【プレゼンテーション1──鈴木清之】 「つくり合うコミュニティの形成~デコクロ部の活動を事例に」 鈴木──個人的に愛用していたUNIQLOをもっと楽しくポジティブに着たい と思い、UNIQLO製品をみんなでデコって楽しむ方法を考えたことがデコク ロ部の始まりです。また、活動を共にしていたスタイリストの本間園子さん からは、最近のストリートスナップなどでは個性を感じられる若い方が少な いこと、またそれは低価格で高品質のブランド製品が溢れているために自分 で考えてお洒落を楽しむ子が少ないからではないか、というお話もあり、 もっと個性を楽しめるファッションの提案として立ち上げました。具体的に は、(株)オープンクローズ(http://www.open-clothes.org/)がプロデュース したWebコミュニティ上で作品を公開し、そのコミュニティの方同士で見て 楽しむという形式になっています。 水野──デコクロ部では、ビギナーの方に向けてどのようなきっかけがつく NPO法人ドリフターズ・インターナショナルの金森香、Arts and Lawの有志メンバー、有限会社オープンクローズの幸田康利が企画・制作し、批評誌『fashionista』 の責任編集を務める水野大二郎氏をモデレーターに、2012年9月から約半年、全7回にわたり、「ファッションは更新できるのか?」について議論するセミ クローズド会議です。 〈「ファッションは更新できるのか?会議」とは〉 消費者のソーシャル化、知的財産権への意識の高まりといった社会状況の変化は、現在のファッション産業に避け難い変容をもたらすと同時に、新しい創造 性を獲得する契機をもたらしています。この会議では、他分野における現状とファッション界の状況を対比し、社会の「設計」や「構造」=アーキテクチャ と向きあって試行錯誤を行っている実践者(デザイナー/メゾン関係者)、販売店、批評家、メディア関係者、ウェブデザイナー、研究者、法律家などを招 き、ファッションの更新の可能性について議論します。 〈会議の概要〉 vol.5 双方性とコミュニティからうまれるものづくりの生態系 ~コスプレイヤーズ、デコラー、ユザラー、デコクロ、キタコレ、手芸~議事録 られているのでしょうか? 鈴木──最初はワッペンなどアイロンですぐつけられる程度のものでワンポ イントをつけてもらったり、器用な方には布用の絵の具でペインティングを してもらったり、刺繍をしてもらったりすることもあります。 水野──だんだん上級者になってくと、自分でカスタマイゼーションできる ようになっているということですね。 鈴木──はい。ちなみにこのデコクロ部は現在活動休止状態にあります。そ の理由として、マスコミやテレビなどの取材で多忙を極めてデコクロを楽し めなくなってしまったこと、Webコミュニティの担当者以外につくる知識の ないメンバーが多く、結局その方に依存しすぎてしまったことがあります。 mixiに近いコミュニティサイトだったので、なかなかうまく発信出来なかっ たことも一因ですね。 水野──つまりそういったコミュニティは、運営する側もある程度知識がな いと成立しなかったり、リーダーになる人がいないと自立しないということ でしょうか。実際、つくり方からコミュニティの運営のすべてが手弁当とい うところが、Web上のコミュニティの特徴なのかなと。とにかくやりたい! という思いでひとが集まりどんどん回っていくけれど、ある程度の規模を超 えると利害関係が複雑になってきたり、お金の問題が出てきたり、内部の情 熱が燃え尽きたりする……そういうリスクは常にありますよね。 日時:2013.2.23 15:00 ~ 17:30 場所:こけむさズ 会議モデレーター:水野大二郎(慶応義塾大学環境情報学部専任講師/ fashionista 編集 委員/ FabLab Japan メンバー) ゲスト登壇者:山下陽光(途中でやめる)、横山泰明(WWD Japan 記者) ゲストプレゼンター:本橋康治(ウェブマガジン「アクロス」編集部)、鈴木清之(デコ クロ部発起人)、小竹一樹(伍戒)、幸田康利(有限会社オープンクローズ) 登壇者:永井幸輔(Arts and Law/弁護士)、金森香(NPO法人ドリフターズ・インター ナショナル) 常任委員:幸田康利(有限会社オープンクローズ)、岩倉悠子(Arts and Law)、山本さ くら(NPO 法人ドリフターズ・インターナショナル)、小原和也(慶應義塾大学大学院政策・ メディア研究科)、小林嶺(早稲田大学繊維研究会) No.
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〈「ファッションは更新できるのか?会議」とは〉NPO法人ドリフターズ・インターナショナルの金森香、Arts and Lawの永井幸輔・岩倉悠子、有限会社オープンクローズの幸田康利が企画・制作し、批評誌『fashionista』の責任編集を務める水野大二郎氏をモデレーターに、2012年9月から約半年、全7回にわたり、「ファッションは更新できるのか?」について議論するセミクローズド会議です。〈会議の概要〉消費者のソーシャル化、知的財産権への意識の高まり、といった社会状況の変化は、現在のファッション産業に避け難い変容をもたらすと同時に、新しい創造性を獲得する契機をもたらしています。この会議では、他分野における現状とファッション界の状況を対比し、社会の「設計」や「構造」=アーキテクチャと向きあって試行錯誤を行っている実践者(デザイナー/メゾン関係者)、販売店、批評家、メディア関係者、ウェブデザイナー、研究者、法律家などを招き、ファッションの更新の可能性について議論します。日時:2013.2.23 15:00~17:30場所:こけむさズ会議モデレーター:水野大二郎(慶応義塾大学環境情報学部専任講師/fashionista編集委員/FabLab Japanメンバー)ゲスト登壇者:山下陽光(途中でやめる)、横山泰明(WWD Japan記者)ゲストプレゼンター:本橋康治(ウェブマガジン「アクロス」編集部)、鈴木清之(デコクロ部発起人)、小竹一樹(伍戒)、幸田康利(有限会社オープンクローズ)登壇者:永井幸輔(Arts and Law/弁護士)、金森香(NPO法人ドリフターズ・インターナショナル)常任委員:幸田康利(有限会社オープンクローズ)、岩倉悠子(Arts and Law)、山本さくら(NPO法人ドリフターズ・インターナショナル)、小原和也(慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科)、小林嶺(早稲田大学繊維研究会)

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水野──今日は趣向を変えてここ高円寺で、第5回ファッションは更新できるのか?会議を開催したいと思います。これまでの会議では、様々な観点からファッションの更新可能性についての新しい仕組みを中心に議論を重ねてきました。そこで今回は、実際にその仕組みの中で活動して面白い作品をつくっている方、あるいはその作品づくりに関わっている方をお招きして、具体的に今の仕組みの中でどういうことが実践されているのか、その生態系を知っていこうと思っています。

【プレゼンテーション1──鈴木清之】

「つくり合うコミュニティの形成~デコクロ部の活動を事例に」

鈴木──個人的に愛用していたUNIQLOをもっと楽しくポジティブに着たいと思い、UNIQLO製品をみんなでデコって楽しむ方法を考えたことがデコクロ部の始まりです。また、活動を共にしていたスタイリストの本間園子さんからは、最近のストリートスナップなどでは個性を感じられる若い方が少ないこと、またそれは低価格で高品質のブランド製品が溢れているために自分で考えてお洒落を楽しむ子が少ないからではないか、というお話もあり、もっと個性を楽しめるファッションの提案として立ち上げました。具体的には、(株)オープンクローズ(http://www.open-clothes.org/)がプロデュースしたWebコミュニティ上で作品を公開し、そのコミュニティの方同士で見て楽しむという形式になっています。

水野──デコクロ部では、ビギナーの方に向けてどのようなきっかけがつく

(デコクロ部発起人)、山下陽光(途中でやめる)、小竹一樹(伍戒)、本橋康治(ウェブマガジン「アクロス」編集部)、そして会議内容と連動して新たにコラボレーションをすることになったよしだともふみ(テクノ手芸部)、山本詠美(FabLab Shibuya)、ヌケメ(デザイナー)の3人、さらに会議の実行委員としても名を連ねる幸田康利(有限会社オープンクローズ)とツッコミ役として横山泰明(WWD Japan 記者)を招き、野生のデザイナーのつくる作品やその方法論、コミュニティ、歴史など多様な観点から「等身大のものづくり」としてのファッションデザインについて議論がなされた。 最初に鈴木からはデコクロ部についてのプレゼンテーションがあった。2008年から始まった「ユニクロをもっとポジティブに楽しく着たい」という想いから、着る側が楽しむ=余地があるものを改造する行為としてユニクロの服を改造して自分らしく着こなすことを楽しむデコクロ部の紹介である。現在では部員同士が自生的に連携を図ることがある程度成功しており、運営側よりも部員によってコミュニティが維持されているという。だが、運営側にとって非営利活動に近いデコクロ部の活動が維持、継続されるためにはどのような中長期的視座に立った動機づけが必要なのだろうか。社会的紐帯の醸成の上に部員も運営側も情熱を燃え尽きさせない、維持可能な仕組みの可能性について意見が交換された。この話に続き、オープンクローズの幸田からプレゼンテーションがあった。幸田もデコクロ部の鈴木と同様、ファッションにおける社会的なプラットフォームづくりに情熱を燃やしてきた一人である。「着る人とつくる人の恊働」を実現すべく多様なプロジェクトを展開してきた事例の中にはハンドメイド・手作りマーケット「TETOTE」があり、2013年2月現在では17万点を超えるハンドメイド作品が掲載される巨大なプラットフォームとなっている。幸田は、日本では2008年頃からのECの隆盛、アメリカでのEtsyの成功などが自身の活動がその背景にあると指摘するが、顕名的関係性を象徴する「信頼」に根ざした日本では一点ものをつくるデザイナーの共感をどのように得てきたのだろうか。利用者間、利用者と運営者、デザイナーと利用者など、様々な利害関係者間の「信頼」を構築するために必要な金銭、時間、空間、労力や成果を情熱で回してきた両者の試みとその苦悩を感じ取ることができた。 次に、途中でやめる・山下が驚くべき日常の写真からプレゼンテーションを始めた。プレゼンテーションは浅草・アミューズミュージアムの田中忠三郎が収集した東北の古着あんどにも触れた。これは都築響一も『BORO』として編集しているが、何度もツギハギを施された古着には着用していた人の痕跡としてのブリコラージュ的創造力を見ることができる。ブリコラージュに必要な誤解、誤読、誤訳などの「誤り」がもたらす制度的なものづくりとしての大量生産のシステムにのりづらい独創的な創造性の発揮の仕方についてその具体例が示された後、「自分で責任がもてるスケールのものづくり」、「完全一点もの」といったキーワードを連発しながら山下の考える等身大のものづくりが素描された。 ところで、WWD Japanの横山は山下の批評としてファッション業界において評価されることの一つに「安さ」を指摘した。横山が示唆する「安さ」とは一見自明に聞こえるが、実は極めて重要な要素である。山下のいう「自分で責任がもてるスケールのものづくり」はつくる人̶着る人間に介入する利害関係者が少なく、ある程度は値段を下げても「つくる人」が生活をしていくことが容易なはずだ。この意味において「安さ」とは生活と制作の一致の痕跡であり、一点ものの作品に反映された唯一性としての「等身大のものづくり」とは作品の姿形だけの問題ではない。作品をつくる人が「どう生きのびるか」という態度を示唆する値段にも反映されているのではなかろうか。 そして、ウェブアクロス編集部・本橋からはコスプレ、衣装、身体表現と2次元/3次元の境界線についての話があった。猫耳や着ぐるみなど、キャラクター化するファッション表現の中で、着グルミスト「みーな」の自分=内

NPO法人ドリフターズ・インターナショナルの金森香、Arts and Lawの有志メンバー、有限会社オープンクローズの幸田康利が企画・制作し、批評誌『fashionista』の責任編集を務める水野大二郎氏をモデレーターに、2012年9月から約半年、全7回にわたり、「ファッションは更新できるのか?」について議論するセミクローズド会議です。

〈「ファッションは更新できるのか?会議」とは〉

消費者のソーシャル化、知的財産権への意識の高まりといった社会状況の変化は、現在のファッション産業に避け難い変容をもたらすと同時に、新しい創造性を獲得する契機をもたらしています。この会議では、他分野における現状とファッション界の状況を対比し、社会の「設計」や「構造」=アーキテクチャと向きあって試行錯誤を行っている実践者(デザイナー/メゾン関係者)、販売店、批評家、メディア関係者、ウェブデザイナー、研究者、法律家などを招き、ファッションの更新の可能性について議論します。

〈会議の概要〉

vol.5『双方性とコミュニティからうまれるものづくりの生態系 ~コスプレイヤーズ、デコラー、ユザラー、デコクロ、キタコレ、手芸~』

議 事 録

られているのでしょうか?

鈴木──最初はワッペンなどアイロンですぐつけられる程度のものでワンポイントをつけてもらったり、器用な方には布用の絵の具でペインティングをしてもらったり、刺繍をしてもらったりすることもあります。

水野──だんだん上級者になってくと、自分でカスタマイゼーションできるようになっているということですね。

鈴木──はい。ちなみにこのデコクロ部は現在活動休止状態にあります。その理由として、マスコミやテレビなどの取材で多忙を極めてデコクロを楽しめなくなってしまったこと、Webコミュニティの担当者以外につくる知識のないメンバーが多く、結局その方に依存しすぎてしまったことがあります。mixiに近いコミュニティサイトだったので、なかなかうまく発信出来なかったことも一因ですね。

水野──つまりそういったコミュニティは、運営する側もある程度知識がないと成立しなかったり、リーダーになる人がいないと自立しないということでしょうか。実際、つくり方からコミュニティの運営のすべてが手弁当というところが、Web上のコミュニティの特徴なのかなと。とにかくやりたい!という思いでひとが集まりどんどん回っていくけれど、ある程度の規模を超えると利害関係が複雑になってきたり、お金の問題が出てきたり、内部の情熱が燃え尽きたりする……そういうリスクは常にありますよね。

日時:2013.2.23 15:00 ~ 17:30場所:こけむさズ会議モデレーター:水野大二郎(慶応義塾大学環境情報学部専任講師/ fashionista 編集委員/ FabLab Japan メンバー)

ゲスト登壇者:山下陽光(途中でやめる)、横山泰明(WWD Japan 記者)

ゲストプレゼンター:本橋康治(ウェブマガジン「アクロス」編集部)、鈴木清之(デコクロ部発起人)、小竹一樹(伍戒)、幸田康利(有限会社オープンクローズ)

登壇者:永井幸輔(Arts and Law /弁護士)、金森香(NPO法人ドリフターズ・インターナショナル)

常任委員:幸田康利(有限会社オープンクローズ)、岩倉悠子(Arts and Law)、山本さくら(NPO 法人ドリフターズ・インターナショナル)、小原和也(慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科)、小林嶺(早稲田大学繊維研究会)

蔵という設定などをふまえつつ「トータル・エンクロージャー+コスプレ+周辺ジャンルの融合」や「内部/外部の関係性と共有の場づくり」、はたまた「自分らしさ+キャラクター性+エロス」などについて話が及んだ。現在コスプレは極めて多様で、マニアの表現はプロでは真似できない強みがある。このような「等身大の表現」が「ギャクヨガ」にあるような作り方の共有によって更に強化されていくことを鑑みると、アーカイブをつくり、歴史自体を作り始めたのもマニアによって自生的に成立していくのだろうか。とすると、これからのプロとしてのデザイナーの役割とは何なのだろうか。 また、会議会場に居合わせた五戒・小竹からも活動の紹介があった。小竹は秋葉原に店を構え、衣装貸し出し等も地下アイドルに行っているという。ある特定の文化的特性を持つ地域とファッションが連動してきたこれまでの日本のファッションの歴史をふまえ、小竹はあえて秋葉原の文化との連動を目論んで秋葉原に出展をしたという。 五戒でレンタル、あるいは販売されるアイテムの固有性をさらに拡張して展開しようとしているのがよしだ、山本、ヌケメの3名によるFabLab Shibuyaでの新しい服づくりの可能性としてのグリッチニットであるとすれば、今後のものづくりが大量生産と一品生産に二極化する中でハックや改造などのブリコラージュ的創造力を発揮するための場と人の繋がりをつくりだすこともまた、デザイナーの新しい役割になりえるだろう。 この後、会議全体の振り返りも含め来場していた有識者らを交えた討議がなされたが、会議全体を通して個の創造力に対して産業構造を揺るがす事の困難さが議題の一つとしてあった。個の創造性支援のためのエンジニアリングや法律などのプロトコルがどんどん整備されてきているとはいえ、それが離島に暮らす人々にまで波及するかのような力はまだ持ち得てはいない。だがしかし、無視できないような状況としてのコスプレの隆盛などが明らかとなる今こそ、主流に対しての傍流がもたらす力を批評の対象として据えていくことが必要であろう。そのためにもアーティストやユーザーによって揺るがされるアーキテクチャを、デザイナーが漸進的に改新していくことが今後、ますます求められるだろう。インフラ化したコンビニのように整備されてきたファストファッションに代表される大量生産品の利便性を引き受けつつも、固有のものづくりを希求する人々によって全体を前進的に改新していくためにプロトコルを的確にふまえたものづくりこそが、ファッションという文化を更新していく可能性そのものではないだろうか。

【プレゼンテーション2──幸田康利】

「ウェブコミュニティにおけるプラットフォームの形成」

幸田──オープンクローズでは、コミュティというプラットフォームを使って、世界の人口70億人それぞれが70億通りのファッションを楽しむ、という理念を掲げています。「開け、服」という意味でオープンクローズという名前をつけ、当初は「着る人とつくる人の共同制作システム」、「つくる人とつくる人の共同ネットワーク」、「つくる人とつくる業者の共同生産システム」という三つの軸の実現を試みました。具体的には、つくる人と着る人の両方に材料・ノウハウ・服が見つかるシステムを包含するようなプラットフォーム作りを目指したのですが、当時は全然お金になりませんでしたね。今は各個別の分野でサービスを提供していて、代表的なサービスに「TETOTE」(http://tetote-market.jp/)というECサイトがあります。このサービスは作ったものの売買に限定していて、その他のサポートサービスは別に展開しています。この方法が成功した理由として、近年、服飾産業での流通の利便性が非常にあがったことがあります。日本でも2007年頃からECが盛んになって、Webを介して人々がモノを売買する環境が整ってきたこと、低コストで販売を始めることが可能になってきたことが大きいですね。

【プレゼンテーション3──山下陽光】

「野生の創造性とその実践」

山下──95年くらいに高円寺に来て、現在「素人の乱1号店」のある場所にあった「NEW NEW」という古着屋でバイトを始めました。服だけ売っていればいいのかなと思っていたのに服を作れと言われ、ひたすら服を作って1ヶ月くらいしたら今度は「展示会やるぞ」と。その時に出展した合同展示会には台湾や台北などからバイヤーが来て、自分が作った服がなぜか飛ぶように売れました。専門学校卒業後は、プリント工場のバイトでギャルソンやイッセイミヤケ、裏原系のブランドのTシャツをひたすら転写しまくっていましたね。「裏原は俺が作ってる!」というくらい必死に。さて、今日持ってきた画像の中に、田中忠三郎という、東北で昔からの暮らしの民具を集めてるおじいちゃんがいます。足袋なども集めていますが、なんと自分の祖母が履いていた染みつきパンツまで展示しています。それで「東北地方は昔は綿がとれなかったから、生理のときはすごく大変だっただろう」などと言っている……すごいおじいちゃんですね。次の画像ですが、こういうのも面白いです、この椅子。こういうのが一番好きですね、この頼りない感じ。椅子で下の床を痛めないように布を巻いているんですよね。このオシャレにしようとしてない感じがすごく好きです。

水野──こういうところに日常の創造性みたいなものがありますよね。

横山──そういうの、ちょっとわかります。(笑)ところで「途中でやめる」の服の原材料はなんですか。

山下──フリマで買ったり、安い古着屋で買ったり。というか「いらない服ちょうだい。」と言えば集まるんですよね。日本人は年間9kgの洋服を買って8kgを捨てているらしく、それはすごく勿体ないじゃないですか。じゃあそれ古着屋さんで売ればいいじゃんと思っても古着屋さんで売ってるのはアメリカやヨーロッパの服ばかりで。だから「勿体なーい!」と言い始めたら山のように来ました。なんとマジックとか延長コードなんかまで送られてくるんですよ。服の考え方新しすぎんだろって思いますが(笑)。

水野──そのようなお店ってありますけど、完全に個人のモノづくりのための場所ですね。今の山下さんのお話の中から高円寺コミュニティがなんとなく見えてきますね、どういうことが高円寺で起きているのかということが。でもやはり一番分かるのは山下さんのモノづくりの方法論です。ちなみにコミュニティ的な視点でいうと、高円寺を皆で盛り上げようといった感覚はあるのでしょうか。あるいは、高円寺だから許されているようなことなど。

山下──そもそもそこまで考えてないんですよね。ビジネスになったらいいなと思わずやっていたらなんとなくそうなってきて、でもこの手法を守り続けようとも思ってなくて、すぐに駄目になるだろうなと。だからできるだけ手を広げずに、バレないようにコソコソやってる感じです。

水野──等身大でモノをつくってるなという感覚はすごくありますね。等身大の個人的なモノづくり、つまりパーソナルファブリケーションは、プロとしてやられている山下さんだけではなくて多くの方がやられているわけですが。

横山──この話は少しデコクロに近いと思います。さっき話に出た田中忠三郎さんも関わられている『BORO つぎ、はぎ、いかす。青森のぼろ布文化』のポイントは、着られなくなった服をその後も着れるように100年も200年も継ぎ接ぎしていくところかと。それもその当時の人がオシャレだと思う感じで継ぎ接ぎしている。例えば巾着袋だと、良い着物の端切れを使ったものはお出かけ用なんです。お百姓さんだから良いものは着れないけど、外出用のちょっとしたものにはそういう良いものを使う。『BORO』を見てると、日本の人って昔からオシャレなんだなと思います。“着飾る”って事に関してすご

く面白い。その力強さっていうのがみんなに新鮮に映っているんだろうなと。ただ、それがビジネスにどう絡んでくるのか、デザインにどうハマってくるのかは、ちょっとよく分からないところですね。

【プレゼンテーション4──本橋康治】

「トータルエンクロージャーとしてのフェティッシュ」

本橋──パルコのマーケティングサイト「ACROSS(http://www.web-across.com/)」で編集とライターをやっている本橋です。本日はコスプレとフェティッシュ文化の接点となる現場の話をさせていただきます。今、「コスプレ」と言ってもその解釈がすごく広くなっていて、コスプレイーヤーとして楽しむ人もいる一方、表現手段としてコスプレをするというアーティストも増えています。最近の特徴は二次元と三次元の間の表現が増えていることで、キャラクターの衣装を自分の身体に纏って表現しています。例えば、でんぱ組inc.のようにコスプレ感を表現のひとつにしているアイドルもいます。「みーな(http://ameblo.jp/renchinko/)」 ちゃんという着ぐるみストは中身も女の子で、わざわざ女子が女の子の着ぐるみを着て表現活動をしている。フェティッシュの世界では「トータルエンクロージャー」といいますが、全身タイツやラテックスで頭から足の先まで全部布で覆ってしまうことで、変身願望が満たされるというのと、ものに100%包まれることによって得られる快感があるからです。その二つのフェティッシュが結びつく先に着ぐるみという文化が形成されるわけですね。 「ケモナー」というのもあります。ケモナーは、動物の着ぐるみによるトータルエンクロージャーだというところと、さらにアニメのキャラ萌えの要素と動物に性的な視線を与える背徳感などさまざまなフェティッシュが結びついた複合形態であることが面白い。この分野はまだ新しいですが、多種のジャンルが結びついてちょっと大変なことになっています。

水野──重要なのは、着ていく場所かなと。そこに集って最新の情報を共有できるというのがポイントなのかなと思いました。

本橋──もちろん現場に着ていくということもあるのですが、彼らの表現の場としてニコニコ動画もあります。ケモナーというタグを探すとたくさん見つかりますが、音楽に合わせた可愛い動きやダンスのうまさなどが競われています。モノの完成度の自慢合戦というより、動きの可愛さとか文脈をモノとして完成度をシェアしていく感じです。ニコニコ動画はコメントも付くし、ネットの上でも場を共有していくのが大事なことなのかなと。

金森──検索中に見つけたのですが、この「ギャクヨガ(http://gyakuyoga.

hobby-web.net/)」という方は、武器や戦闘服、武将のコスチュームまですべてを手作りされています。アイテムをクリックすると、懇切丁寧につくり方が紹介されていて、さらに費用や作成時間まで出ている。道具の買付先や選び方なども紹介しています。オーダーメイドも受け付けていますね。

本橋──ゴスロリなどのファッション誌でも今では当たり前のように型紙が載っています。自分しか作れないという自慢よりも、プレーヤーが沢山いたほうが楽しいという考え方にシフトしてきたのかなと。お台場や豊島園にはイベントがなくてもコスプレの人が集まっていますが、そこで何をしているかというと、「キャラクターの合わせ」といって、ただ集まってまったり楽しんだり、撮影会をして解散する。つまり場所(=コミュニティ)を自分たちでつくるという方向にシフトしていて、そこが最近の新しい動きなのかなと思っています。

[討議]

「一般市民の創造力と新しい欲望の創出」

横山──今日の話を聞いていて、今回登場した人たちのインパクトも、ファッションやアパレルという非常に強い産業の中では、その形態を揺るがすほどには至っていないようにも感じています。例えばデコクロがレディーガガとテレビで取り上げられた時にはある意味無視できない状況にもなるのですが。あと、トータルエンクロージャーとしてのケモナーのようなコアな層が、ゆるキャラブームなどの非常に一般的な現象の中にまぎれこんできて興味深い部分もありますね。今後は一般的な産業形態とこういうアンダーグラウンドな動きがぶつかりあって、新しい動きが生まれたらすごく面白いのになと思います。

水野──もともとファッション業界全体としては予想不可能で突飛な創造力というのを寛容に受け入れてきたはずが、市場の議論優先になってきて、単に無難なものづくりにシフトしている。それがいわゆるファストファッションの隆盛となった気がします。

横山──デザイナーのコレクションなどを見ていると、やはりファストファッションや大手企業は洗練された印象を受けますね。そこと比較するとインディーズ系が魅力がなく見えてしまう、というのが自然な感覚です。

蘆田──京都服飾文化研究財団(http://www.kci.or.jp/)の蘆田です。確かに90年代以降、ファストファッションや大手のアパレルの物がそれなりにデザインも良く、クオリティも高い上に普通のインディペンデントブランドより安いので、インディペンデントブランドはそれなりの物を作っても受け入れられないという状況はあります。そうとは言ってもそのインディペンデントなブランドが見るところって服としてのクオリティと価格だけではないので、多分受け手側が服に対してどういう価値を見出していくかっていうことを考えないと、つまり受け手の意識をどう変えていくかということを考えていかないと、ファッションは更新できるのか?というところを深く掘り下げていくことが出来ないんじゃないかと思うんですね。

水野──なるほど。この一連の会議では、どちらかというと作り手あるいは売り手が抱える問題を中心に、例えばCCライセンスの話や、両者の関係性などがテーマにありました。というのも、この会議の中では、買い手となる人がすでにかなりの割合でプロシューマー的な立場として捉えられてきたからです。そしてデジタルファブリケーション。デジタル工作機械を使って物を

つくるということは、誰もが物をつくる可能性があるということですよね。そうなってきた時に、じゃあ何を持ってその価値とするのかが今は過渡期にあって分からない。今回の会議では、そこの辺りを中心に議論してきたのかなと思います。

金森──私がこの会議を始めたきっかけには、例えばCCライセンスという価値のありかたに出会ったり、私自身がファッションブランドを立ち上げて会社を運営する中で色んな時代の変化を感じてきたということがあります。加えて、「新しい欲望」というキーワードがこれまでの会議でも出ましたが、その欲望に対してファッションは何が出来るのか、ということを色んな人と議論したいと強く思うようになりました。それはファッションのデザインやファッションブランドのデザイン、あるいは小売の方法論かもしれないですが、何かしらのリアクションをしたいと。当然会議をするだけで何か結論に辿り着くとは思っていませんが、自分も含めて会議に参加した方それぞれが何らかの新しい方向にファッションを考えられるように、また次の時代に投げるボールの方向をより多様に考えられるようになったらと思っています。

【会議を終えて──水野大二郎】

 第5回ファッションは更新できるのか?会議は2013年2月23日、東京・高円寺にあるコワーキングスペース「こけむさズ」において開催された。これまで主に渋谷を中心に活動してきた「ファッションは更新できるのか?会議」が高円寺に場所を移したのは、メイカーズムーブメントにも明らかなように、一般市民の創造力が実空間のみならず情報空間の利活用によってこれまで以上に顕在化する中で、野生のデザイナーによる「等身大のものづくり」の生態系を、活動する場をつくってきた人、見てきた人、活動に参加してきた人を通してより身近に感じようという趣旨を反映させたものだ。消費社会研究家・三浦展も2000年代にその特性に注目したように、これまで多くのミュージシャンやアーティスト、デザイナーらによって維持されてきた独特の文化が高円寺にはある。個性的な古着屋が平然と並ぶ高円寺の商店街を行き交う人も高齢者から若者まで多様で、原宿や渋谷とはだいぶ異なる位相にあるといえるだろう。神戸・元町の高架下商店街にも通じる多様な文化が入り交じった雰囲気、と言えば関西の方にも高円寺界隈の独特さはお分かりいただけるだろうか。そんな高円寺の駅から徒歩2分、アパートの一室を改装した「こけむさズ」にて登壇者らはコタツに入りながら会議は進行された。街の独特なユルさが色濃く反映されたスペースで一般市民の創造性について議論が交わされたという意味において、垣根がこれまで以上に下がった中で会議は開催された。 ところで、今回の会議には非常に多くの登壇者が招聘された。鈴木清之

No.

水野──今日は趣向を変えてここ高円寺で、第5回ファッションは更新できるのか?会議を開催したいと思います。これまでの会議では、様々な観点からファッションの更新可能性についての新しい仕組みを中心に議論を重ねてきました。そこで今回は、実際にその仕組みの中で活動して面白い作品をつくっている方、あるいはその作品づくりに関わっている方をお招きして、具体的に今の仕組みの中でどういうことが実践されているのか、その生態系を知っていこうと思っています。

【プレゼンテーション1──鈴木清之】

「つくり合うコミュニティの形成~デコクロ部の活動を事例に」

鈴木──個人的に愛用していたUNIQLOをもっと楽しくポジティブに着たいと思い、UNIQLO製品をみんなでデコって楽しむ方法を考えたことがデコクロ部の始まりです。また、活動を共にしていたスタイリストの本間園子さんからは、最近のストリートスナップなどでは個性を感じられる若い方が少ないこと、またそれは低価格で高品質のブランド製品が溢れているために自分で考えてお洒落を楽しむ子が少ないからではないか、というお話もあり、もっと個性を楽しめるファッションの提案として立ち上げました。具体的には、(株)オープンクローズ(http://www.open-clothes.org/)がプロデュースしたWebコミュニティ上で作品を公開し、そのコミュニティの方同士で見て楽しむという形式になっています。

水野──デコクロ部では、ビギナーの方に向けてどのようなきっかけがつく

(デコクロ部発起人)、山下陽光(途中でやめる)、小竹一樹(伍戒)、本橋康治(ウェブマガジン「アクロス」編集部)、そして会議内容と連動して新たにコラボレーションをすることになったよしだともふみ(テクノ手芸部)、山本詠美(FabLab Shibuya)、ヌケメ(デザイナー)の3人、さらに会議の実行委員としても名を連ねる幸田康利(有限会社オープンクローズ)とツッコミ役として横山泰明(WWD Japan 記者)を招き、野生のデザイナーのつくる作品やその方法論、コミュニティ、歴史など多様な観点から「等身大のものづくり」としてのファッションデザインについて議論がなされた。 最初に鈴木からはデコクロ部についてのプレゼンテーションがあった。2008年から始まった「ユニクロをもっとポジティブに楽しく着たい」という想いから、着る側が楽しむ=余地があるものを改造する行為としてユニクロの服を改造して自分らしく着こなすことを楽しむデコクロ部の紹介である。現在では部員同士が自生的に連携を図ることがある程度成功しており、運営側よりも部員によってコミュニティが維持されているという。だが、運営側にとって非営利活動に近いデコクロ部の活動が維持、継続されるためにはどのような中長期的視座に立った動機づけが必要なのだろうか。社会的紐帯の醸成の上に部員も運営側も情熱を燃え尽きさせない、維持可能な仕組みの可能性について意見が交換された。この話に続き、オープンクローズの幸田からプレゼンテーションがあった。幸田もデコクロ部の鈴木と同様、ファッションにおける社会的なプラットフォームづくりに情熱を燃やしてきた一人である。「着る人とつくる人の恊働」を実現すべく多様なプロジェクトを展開してきた事例の中にはハンドメイド・手作りマーケット「TETOTE」があり、2013年2月現在では17万点を超えるハンドメイド作品が掲載される巨大なプラットフォームとなっている。幸田は、日本では2008年頃からのECの隆盛、アメリカでのEtsyの成功などが自身の活動がその背景にあると指摘するが、顕名的関係性を象徴する「信頼」に根ざした日本では一点ものをつくるデザイナーの共感をどのように得てきたのだろうか。利用者間、利用者と運営者、デザイナーと利用者など、様々な利害関係者間の「信頼」を構築するために必要な金銭、時間、空間、労力や成果を情熱で回してきた両者の試みとその苦悩を感じ取ることができた。 次に、途中でやめる・山下が驚くべき日常の写真からプレゼンテーションを始めた。プレゼンテーションは浅草・アミューズミュージアムの田中忠三郎が収集した東北の古着あんどにも触れた。これは都築響一も『BORO』として編集しているが、何度もツギハギを施された古着には着用していた人の痕跡としてのブリコラージュ的創造力を見ることができる。ブリコラージュに必要な誤解、誤読、誤訳などの「誤り」がもたらす制度的なものづくりとしての大量生産のシステムにのりづらい独創的な創造性の発揮の仕方についてその具体例が示された後、「自分で責任がもてるスケールのものづくり」、「完全一点もの」といったキーワードを連発しながら山下の考える等身大のものづくりが素描された。 ところで、WWD Japanの横山は山下の批評としてファッション業界において評価されることの一つに「安さ」を指摘した。横山が示唆する「安さ」とは一見自明に聞こえるが、実は極めて重要な要素である。山下のいう「自分で責任がもてるスケールのものづくり」はつくる人̶着る人間に介入する利害関係者が少なく、ある程度は値段を下げても「つくる人」が生活をしていくことが容易なはずだ。この意味において「安さ」とは生活と制作の一致の痕跡であり、一点ものの作品に反映された唯一性としての「等身大のものづくり」とは作品の姿形だけの問題ではない。作品をつくる人が「どう生きのびるか」という態度を示唆する値段にも反映されているのではなかろうか。 そして、ウェブアクロス編集部・本橋からはコスプレ、衣装、身体表現と2次元/3次元の境界線についての話があった。猫耳や着ぐるみなど、キャラクター化するファッション表現の中で、着グルミスト「みーな」の自分=内

られているのでしょうか?

鈴木──最初はワッペンなどアイロンですぐつけられる程度のものでワンポイントをつけてもらったり、器用な方には布用の絵の具でペインティングをしてもらったり、刺繍をしてもらったりすることもあります。

水野──だんだん上級者になってくと、自分でカスタマイゼーションできるようになっているということですね。

鈴木──はい。ちなみにこのデコクロ部は現在活動休止状態にあります。その理由として、マスコミやテレビなどの取材で多忙を極めてデコクロを楽しめなくなってしまったこと、Webコミュニティの担当者以外につくる知識のないメンバーが多く、結局その方に依存しすぎてしまったことがあります。mixiに近いコミュニティサイトだったので、なかなかうまく発信出来なかったことも一因ですね。

水野──つまりそういったコミュニティは、運営する側もある程度知識がないと成立しなかったり、リーダーになる人がいないと自立しないということでしょうか。実際、つくり方からコミュニティの運営のすべてが手弁当というところが、Web上のコミュニティの特徴なのかなと。とにかくやりたい!という思いでひとが集まりどんどん回っていくけれど、ある程度の規模を超えると利害関係が複雑になってきたり、お金の問題が出てきたり、内部の情熱が燃え尽きたりする……そういうリスクは常にありますよね。

蔵という設定などをふまえつつ「トータル・エンクロージャー+コスプレ+周辺ジャンルの融合」や「内部/外部の関係性と共有の場づくり」、はたまた「自分らしさ+キャラクター性+エロス」などについて話が及んだ。現在コスプレは極めて多様で、マニアの表現はプロでは真似できない強みがある。このような「等身大の表現」が「ギャクヨガ」にあるような作り方の共有によって更に強化されていくことを鑑みると、アーカイブをつくり、歴史自体を作り始めたのもマニアによって自生的に成立していくのだろうか。とすると、これからのプロとしてのデザイナーの役割とは何なのだろうか。 また、会議会場に居合わせた五戒・小竹からも活動の紹介があった。小竹は秋葉原に店を構え、衣装貸し出し等も地下アイドルに行っているという。ある特定の文化的特性を持つ地域とファッションが連動してきたこれまでの日本のファッションの歴史をふまえ、小竹はあえて秋葉原の文化との連動を目論んで秋葉原に出展をしたという。 五戒でレンタル、あるいは販売されるアイテムの固有性をさらに拡張して展開しようとしているのがよしだ、山本、ヌケメの3名によるFabLab Shibuyaでの新しい服づくりの可能性としてのグリッチニットであるとすれば、今後のものづくりが大量生産と一品生産に二極化する中でハックや改造などのブリコラージュ的創造力を発揮するための場と人の繋がりをつくりだすこともまた、デザイナーの新しい役割になりえるだろう。 この後、会議全体の振り返りも含め来場していた有識者らを交えた討議がなされたが、会議全体を通して個の創造力に対して産業構造を揺るがす事の困難さが議題の一つとしてあった。個の創造性支援のためのエンジニアリングや法律などのプロトコルがどんどん整備されてきているとはいえ、それが離島に暮らす人々にまで波及するかのような力はまだ持ち得てはいない。だがしかし、無視できないような状況としてのコスプレの隆盛などが明らかとなる今こそ、主流に対しての傍流がもたらす力を批評の対象として据えていくことが必要であろう。そのためにもアーティストやユーザーによって揺るがされるアーキテクチャを、デザイナーが漸進的に改新していくことが今後、ますます求められるだろう。インフラ化したコンビニのように整備されてきたファストファッションに代表される大量生産品の利便性を引き受けつつも、固有のものづくりを希求する人々によって全体を前進的に改新していくためにプロトコルを的確にふまえたものづくりこそが、ファッションという文化を更新していく可能性そのものではないだろうか。

【プレゼンテーション2──幸田康利】

「ウェブコミュニティにおけるプラットフォームの形成」

幸田──オープンクローズでは、コミュティというプラットフォームを使って、世界の人口70億人それぞれが70億通りのファッションを楽しむ、という理念を掲げています。「開け、服」という意味でオープンクローズという名前をつけ、当初は「着る人とつくる人の共同制作システム」、「つくる人とつくる人の共同ネットワーク」、「つくる人とつくる業者の共同生産システム」という三つの軸の実現を試みました。具体的には、つくる人と着る人の両方に材料・ノウハウ・服が見つかるシステムを包含するようなプラットフォーム作りを目指したのですが、当時は全然お金になりませんでしたね。今は各個別の分野でサービスを提供していて、代表的なサービスに「TETOTE」(http://tetote-market.jp/)というECサイトがあります。このサービスは作ったものの売買に限定していて、その他のサポートサービスは別に展開しています。この方法が成功した理由として、近年、服飾産業での流通の利便性が非常にあがったことがあります。日本でも2007年頃からECが盛んになって、Webを介して人々がモノを売買する環境が整ってきたこと、低コストで販売を始めることが可能になってきたことが大きいですね。

【プレゼンテーション3──山下陽光】

「野生の創造性とその実践」

山下──95年くらいに高円寺に来て、現在「素人の乱1号店」のある場所にあった「NEW NEW」という古着屋でバイトを始めました。服だけ売っていればいいのかなと思っていたのに服を作れと言われ、ひたすら服を作って1ヶ月くらいしたら今度は「展示会やるぞ」と。その時に出展した合同展示会には台湾や台北などからバイヤーが来て、自分が作った服がなぜか飛ぶように売れました。専門学校卒業後は、プリント工場のバイトでギャルソンやイッセイミヤケ、裏原系のブランドのTシャツをひたすら転写しまくっていましたね。「裏原は俺が作ってる!」というくらい必死に。さて、今日持ってきた画像の中に、田中忠三郎という、東北で昔からの暮らしの民具を集めてるおじいちゃんがいます。足袋なども集めていますが、なんと自分の祖母が履いていた染みつきパンツまで展示しています。それで「東北地方は昔は綿がとれなかったから、生理のときはすごく大変だっただろう」などと言っている……すごいおじいちゃんですね。次の画像ですが、こういうのも面白いです、この椅子。こういうのが一番好きですね、この頼りない感じ。椅子で下の床を痛めないように布を巻いているんですよね。このオシャレにしようとしてない感じがすごく好きです。

※1

水野──こういうところに日常の創造性みたいなものがありますよね。

横山──そういうの、ちょっとわかります。(笑)ところで「途中でやめる」の服の原材料はなんですか。

山下──フリマで買ったり、安い古着屋で買ったり。というか「いらない服ちょうだい。」と言えば集まるんですよね。日本人は年間9kgの洋服を買って8kgを捨てているらしく、それはすごく勿体ないじゃないですか。じゃあそれ古着屋さんで売ればいいじゃんと思っても古着屋さんで売ってるのはアメリカやヨーロッパの服ばかりで。だから「勿体なーい!」と言い始めたら山のように来ました。なんとマジックとか延長コードなんかまで送られてくるんですよ。服の考え方新しすぎんだろって思いますが(笑)。

水野──そのようなお店ってありますけど、完全に個人のモノづくりのための場所ですね。今の山下さんのお話の中から高円寺コミュニティがなんとなく見えてきますね、どういうことが高円寺で起きているのかということが。でもやはり一番分かるのは山下さんのモノづくりの方法論です。ちなみにコミュニティ的な視点でいうと、高円寺を皆で盛り上げようといった感覚はあるのでしょうか。あるいは、高円寺だから許されているようなことなど。

山下──そもそもそこまで考えてないんですよね。ビジネスになったらいいなと思わずやっていたらなんとなくそうなってきて、でもこの手法を守り続けようとも思ってなくて、すぐに駄目になるだろうなと。だからできるだけ手を広げずに、バレないようにコソコソやってる感じです。

水野──等身大でモノをつくってるなという感覚はすごくありますね。等身大の個人的なモノづくり、つまりパーソナルファブリケーションは、プロとしてやられている山下さんだけではなくて多くの方がやられているわけですが。

横山──この話は少しデコクロに近いと思います。さっき話に出た田中忠三郎さんも関わられている『BORO つぎ、はぎ、いかす。青森のぼろ布文化』のポイントは、着られなくなった服をその後も着れるように100年も200年も継ぎ接ぎしていくところかと。それもその当時の人がオシャレだと思う感じで継ぎ接ぎしている。例えば巾着袋だと、良い着物の端切れを使ったものはお出かけ用なんです。お百姓さんだから良いものは着れないけど、外出用のちょっとしたものにはそういう良いものを使う。『BORO』を見てると、日本の人って昔からオシャレなんだなと思います。“着飾る”って事に関してすご

く面白い。その力強さっていうのがみんなに新鮮に映っているんだろうなと。ただ、それがビジネスにどう絡んでくるのか、デザインにどうハマってくるのかは、ちょっとよく分からないところですね。

【プレゼンテーション4──本橋康治】

「トータルエンクロージャーとしてのフェティッシュ」

本橋──パルコのマーケティングサイト「ACROSS(http://www.web-across.com/)」で編集とライターをやっている本橋です。本日はコスプレとフェティッシュ文化の接点となる現場の話をさせていただきます。今、「コスプレ」と言ってもその解釈がすごく広くなっていて、コスプレイーヤーとして楽しむ人もいる一方、表現手段としてコスプレをするというアーティストも増えています。最近の特徴は二次元と三次元の間の表現が増えていることで、キャラクターの衣装を自分の身体に纏って表現しています。例えば、でんぱ組inc.のようにコスプレ感を表現のひとつにしているアイドルもいます。「みーな(http://ameblo.jp/renchinko/)」 ちゃんという着ぐるみストは中身も女の子で、わざわざ女子が女の子の着ぐるみを着て表現活動をしている。フェティッシュの世界では「トータルエンクロージャー」といいますが、全身タイツやラテックスで頭から足の先まで全部布で覆ってしまうことで、変身願望が満たされるというのと、ものに100%包まれることによって得られる快感があるからです。その二つのフェティッシュが結びつく先に着ぐるみという文化が形成されるわけですね。 「ケモナー」というのもあります。ケモナーは、動物の着ぐるみによるトータルエンクロージャーだというところと、さらにアニメのキャラ萌えの要素と動物に性的な視線を与える背徳感などさまざまなフェティッシュが結びついた複合形態であることが面白い。この分野はまだ新しいですが、多種のジャンルが結びついてちょっと大変なことになっています。

水野──重要なのは、着ていく場所かなと。そこに集って最新の情報を共有できるというのがポイントなのかなと思いました。

本橋──もちろん現場に着ていくということもあるのですが、彼らの表現の場としてニコニコ動画もあります。ケモナーというタグを探すとたくさん見つかりますが、音楽に合わせた可愛い動きやダンスのうまさなどが競われています。モノの完成度の自慢合戦というより、動きの可愛さとか文脈をモノとして完成度をシェアしていく感じです。ニコニコ動画はコメントも付くし、ネットの上でも場を共有していくのが大事なことなのかなと。

金森──検索中に見つけたのですが、この「ギャクヨガ(http://gyakuyoga.

hobby-web.net/)」という方は、武器や戦闘服、武将のコスチュームまですべてを手作りされています。アイテムをクリックすると、懇切丁寧につくり方が紹介されていて、さらに費用や作成時間まで出ている。道具の買付先や選び方なども紹介しています。オーダーメイドも受け付けていますね。

本橋──ゴスロリなどのファッション誌でも今では当たり前のように型紙が載っています。自分しか作れないという自慢よりも、プレーヤーが沢山いたほうが楽しいという考え方にシフトしてきたのかなと。お台場や豊島園にはイベントがなくてもコスプレの人が集まっていますが、そこで何をしているかというと、「キャラクターの合わせ」といって、ただ集まってまったり楽しんだり、撮影会をして解散する。つまり場所(=コミュニティ)を自分たちでつくるという方向にシフトしていて、そこが最近の新しい動きなのかなと思っています。

[討議]

「一般市民の創造力と新しい欲望の創出」

横山──今日の話を聞いていて、今回登場した人たちのインパクトも、ファッションやアパレルという非常に強い産業の中では、その形態を揺るがすほどには至っていないようにも感じています。例えばデコクロがレディーガガとテレビで取り上げられた時にはある意味無視できない状況にもなるのですが。あと、トータルエンクロージャーとしてのケモナーのようなコアな層が、ゆるキャラブームなどの非常に一般的な現象の中にまぎれこんできて興味深い部分もありますね。今後は一般的な産業形態とこういうアンダーグラウンドな動きがぶつかりあって、新しい動きが生まれたらすごく面白いのになと思います。

水野──もともとファッション業界全体としては予想不可能で突飛な創造力というのを寛容に受け入れてきたはずが、市場の議論優先になってきて、単に無難なものづくりにシフトしている。それがいわゆるファストファッションの隆盛となった気がします。

横山──デザイナーのコレクションなどを見ていると、やはりファストファッションや大手企業は洗練された印象を受けますね。そこと比較するとインディーズ系が魅力がなく見えてしまう、というのが自然な感覚です。

蘆田──京都服飾文化研究財団(http://www.kci.or.jp/)の蘆田です。確かに90年代以降、ファストファッションや大手のアパレルの物がそれなりにデザインも良く、クオリティも高い上に普通のインディペンデントブランドより安いので、インディペンデントブランドはそれなりの物を作っても受け入れられないという状況はあります。そうとは言ってもそのインディペンデントなブランドが見るところって服としてのクオリティと価格だけではないので、多分受け手側が服に対してどういう価値を見出していくかっていうことを考えないと、つまり受け手の意識をどう変えていくかということを考えていかないと、ファッションは更新できるのか?というところを深く掘り下げていくことが出来ないんじゃないかと思うんですね。

水野──なるほど。この一連の会議では、どちらかというと作り手あるいは売り手が抱える問題を中心に、例えばCCライセンスの話や、両者の関係性などがテーマにありました。というのも、この会議の中では、買い手となる人がすでにかなりの割合でプロシューマー的な立場として捉えられてきたからです。そしてデジタルファブリケーション。デジタル工作機械を使って物を

つくるということは、誰もが物をつくる可能性があるということですよね。そうなってきた時に、じゃあ何を持ってその価値とするのかが今は過渡期にあって分からない。今回の会議では、そこの辺りを中心に議論してきたのかなと思います。

金森──私がこの会議を始めたきっかけには、例えばCCライセンスという価値のありかたに出会ったり、私自身がファッションブランドを立ち上げて会社を運営する中で色んな時代の変化を感じてきたということがあります。加えて、「新しい欲望」というキーワードがこれまでの会議でも出ましたが、その欲望に対してファッションは何が出来るのか、ということを色んな人と議論したいと強く思うようになりました。それはファッションのデザインやファッションブランドのデザイン、あるいは小売の方法論かもしれないですが、何かしらのリアクションをしたいと。当然会議をするだけで何か結論に辿り着くとは思っていませんが、自分も含めて会議に参加した方それぞれが何らかの新しい方向にファッションを考えられるように、また次の時代に投げるボールの方向をより多様に考えられるようになったらと思っています。

【会議を終えて──水野大二郎】

 第5回ファッションは更新できるのか?会議は2013年2月23日、東京・高円寺にあるコワーキングスペース「こけむさズ」において開催された。これまで主に渋谷を中心に活動してきた「ファッションは更新できるのか?会議」が高円寺に場所を移したのは、メイカーズムーブメントにも明らかなように、一般市民の創造力が実空間のみならず情報空間の利活用によってこれまで以上に顕在化する中で、野生のデザイナーによる「等身大のものづくり」の生態系を、活動する場をつくってきた人、見てきた人、活動に参加してきた人を通してより身近に感じようという趣旨を反映させたものだ。消費社会研究家・三浦展も2000年代にその特性に注目したように、これまで多くのミュージシャンやアーティスト、デザイナーらによって維持されてきた独特の文化が高円寺にはある。個性的な古着屋が平然と並ぶ高円寺の商店街を行き交う人も高齢者から若者まで多様で、原宿や渋谷とはだいぶ異なる位相にあるといえるだろう。神戸・元町の高架下商店街にも通じる多様な文化が入り交じった雰囲気、と言えば関西の方にも高円寺界隈の独特さはお分かりいただけるだろうか。そんな高円寺の駅から徒歩2分、アパートの一室を改装した「こけむさズ」にて登壇者らはコタツに入りながら会議は進行された。街の独特なユルさが色濃く反映されたスペースで一般市民の創造性について議論が交わされたという意味において、垣根がこれまで以上に下がった中で会議は開催された。 ところで、今回の会議には非常に多くの登壇者が招聘された。鈴木清之

No.vol.5『双方性とコミュニティからうまれるものづくりの生態系 ~コスプレイヤーズ、デコラー、ユザラー、デコクロ、キタコレ、手芸~』

山下──僕の服づくりはいつもこんな感じで、ツモリチサトをすごく意識してつくったのがこれなんですが……こういうのをみんな間違えて買ってくれてるのかな。お店をやっていた頃は誰からも評価されず、ひたすらヤバい服をつくっていました。目玉とかを付けてると、客が来て「これかわいいじゃん、目玉とっちゃえばすげぇいいじゃん!」とか言われたり。そんななかで3.11の震災があって、いよいよ大家さんにもうやめますって言った翌日にパルコから電話がかかってきました。服置きたいんだけどって。絶対ドッキリじゃないですか、そんなの。それで持って行ったら翌日にはもう全部売れたと電話がきたので、このドッキリすげぇ大掛かりだなと。未だにちょっとドッキリだと思ってますからね。

水野──今日は趣向を変えてここ高円寺で、第5回ファッションは更新できるのか?会議を開催したいと思います。これまでの会議では、様々な観点からファッションの更新可能性についての新しい仕組みを中心に議論を重ねてきました。そこで今回は、実際にその仕組みの中で活動して面白い作品をつくっている方、あるいはその作品づくりに関わっている方をお招きして、具体的に今の仕組みの中でどういうことが実践されているのか、その生態系を知っていこうと思っています。

【プレゼンテーション1──鈴木清之】

「つくり合うコミュニティの形成~デコクロ部の活動を事例に」

鈴木──個人的に愛用していたUNIQLOをもっと楽しくポジティブに着たいと思い、UNIQLO製品をみんなでデコって楽しむ方法を考えたことがデコクロ部の始まりです。また、活動を共にしていたスタイリストの本間園子さんからは、最近のストリートスナップなどでは個性を感じられる若い方が少ないこと、またそれは低価格で高品質のブランド製品が溢れているために自分で考えてお洒落を楽しむ子が少ないからではないか、というお話もあり、もっと個性を楽しめるファッションの提案として立ち上げました。具体的には、(株)オープンクローズ(http://www.open-clothes.org/)がプロデュースしたWebコミュニティ上で作品を公開し、そのコミュニティの方同士で見て楽しむという形式になっています。

水野──デコクロ部では、ビギナーの方に向けてどのようなきっかけがつく

(デコクロ部発起人)、山下陽光(途中でやめる)、小竹一樹(伍戒)、本橋康治(ウェブマガジン「アクロス」編集部)、そして会議内容と連動して新たにコラボレーションをすることになったよしだともふみ(テクノ手芸部)、山本詠美(FabLab Shibuya)、ヌケメ(デザイナー)の3人、さらに会議の実行委員としても名を連ねる幸田康利(有限会社オープンクローズ)とツッコミ役として横山泰明(WWD Japan 記者)を招き、野生のデザイナーのつくる作品やその方法論、コミュニティ、歴史など多様な観点から「等身大のものづくり」としてのファッションデザインについて議論がなされた。 最初に鈴木からはデコクロ部についてのプレゼンテーションがあった。2008年から始まった「ユニクロをもっとポジティブに楽しく着たい」という想いから、着る側が楽しむ=余地があるものを改造する行為としてユニクロの服を改造して自分らしく着こなすことを楽しむデコクロ部の紹介である。現在では部員同士が自生的に連携を図ることがある程度成功しており、運営側よりも部員によってコミュニティが維持されているという。だが、運営側にとって非営利活動に近いデコクロ部の活動が維持、継続されるためにはどのような中長期的視座に立った動機づけが必要なのだろうか。社会的紐帯の醸成の上に部員も運営側も情熱を燃え尽きさせない、維持可能な仕組みの可能性について意見が交換された。この話に続き、オープンクローズの幸田からプレゼンテーションがあった。幸田もデコクロ部の鈴木と同様、ファッションにおける社会的なプラットフォームづくりに情熱を燃やしてきた一人である。「着る人とつくる人の恊働」を実現すべく多様なプロジェクトを展開してきた事例の中にはハンドメイド・手作りマーケット「TETOTE」があり、2013年2月現在では17万点を超えるハンドメイド作品が掲載される巨大なプラットフォームとなっている。幸田は、日本では2008年頃からのECの隆盛、アメリカでのEtsyの成功などが自身の活動がその背景にあると指摘するが、顕名的関係性を象徴する「信頼」に根ざした日本では一点ものをつくるデザイナーの共感をどのように得てきたのだろうか。利用者間、利用者と運営者、デザイナーと利用者など、様々な利害関係者間の「信頼」を構築するために必要な金銭、時間、空間、労力や成果を情熱で回してきた両者の試みとその苦悩を感じ取ることができた。 次に、途中でやめる・山下が驚くべき日常の写真からプレゼンテーションを始めた。プレゼンテーションは浅草・アミューズミュージアムの田中忠三郎が収集した東北の古着あんどにも触れた。これは都築響一も『BORO』として編集しているが、何度もツギハギを施された古着には着用していた人の痕跡としてのブリコラージュ的創造力を見ることができる。ブリコラージュに必要な誤解、誤読、誤訳などの「誤り」がもたらす制度的なものづくりとしての大量生産のシステムにのりづらい独創的な創造性の発揮の仕方についてその具体例が示された後、「自分で責任がもてるスケールのものづくり」、「完全一点もの」といったキーワードを連発しながら山下の考える等身大のものづくりが素描された。 ところで、WWD Japanの横山は山下の批評としてファッション業界において評価されることの一つに「安さ」を指摘した。横山が示唆する「安さ」とは一見自明に聞こえるが、実は極めて重要な要素である。山下のいう「自分で責任がもてるスケールのものづくり」はつくる人̶着る人間に介入する利害関係者が少なく、ある程度は値段を下げても「つくる人」が生活をしていくことが容易なはずだ。この意味において「安さ」とは生活と制作の一致の痕跡であり、一点ものの作品に反映された唯一性としての「等身大のものづくり」とは作品の姿形だけの問題ではない。作品をつくる人が「どう生きのびるか」という態度を示唆する値段にも反映されているのではなかろうか。 そして、ウェブアクロス編集部・本橋からはコスプレ、衣装、身体表現と2次元/3次元の境界線についての話があった。猫耳や着ぐるみなど、キャラクター化するファッション表現の中で、着グルミスト「みーな」の自分=内

られているのでしょうか?

鈴木──最初はワッペンなどアイロンですぐつけられる程度のものでワンポイントをつけてもらったり、器用な方には布用の絵の具でペインティングをしてもらったり、刺繍をしてもらったりすることもあります。

水野──だんだん上級者になってくと、自分でカスタマイゼーションできるようになっているということですね。

鈴木──はい。ちなみにこのデコクロ部は現在活動休止状態にあります。その理由として、マスコミやテレビなどの取材で多忙を極めてデコクロを楽しめなくなってしまったこと、Webコミュニティの担当者以外につくる知識のないメンバーが多く、結局その方に依存しすぎてしまったことがあります。mixiに近いコミュニティサイトだったので、なかなかうまく発信出来なかったことも一因ですね。

水野──つまりそういったコミュニティは、運営する側もある程度知識がないと成立しなかったり、リーダーになる人がいないと自立しないということでしょうか。実際、つくり方からコミュニティの運営のすべてが手弁当というところが、Web上のコミュニティの特徴なのかなと。とにかくやりたい!という思いでひとが集まりどんどん回っていくけれど、ある程度の規模を超えると利害関係が複雑になってきたり、お金の問題が出てきたり、内部の情熱が燃え尽きたりする……そういうリスクは常にありますよね。

蔵という設定などをふまえつつ「トータル・エンクロージャー+コスプレ+周辺ジャンルの融合」や「内部/外部の関係性と共有の場づくり」、はたまた「自分らしさ+キャラクター性+エロス」などについて話が及んだ。現在コスプレは極めて多様で、マニアの表現はプロでは真似できない強みがある。このような「等身大の表現」が「ギャクヨガ」にあるような作り方の共有によって更に強化されていくことを鑑みると、アーカイブをつくり、歴史自体を作り始めたのもマニアによって自生的に成立していくのだろうか。とすると、これからのプロとしてのデザイナーの役割とは何なのだろうか。 また、会議会場に居合わせた五戒・小竹からも活動の紹介があった。小竹は秋葉原に店を構え、衣装貸し出し等も地下アイドルに行っているという。ある特定の文化的特性を持つ地域とファッションが連動してきたこれまでの日本のファッションの歴史をふまえ、小竹はあえて秋葉原の文化との連動を目論んで秋葉原に出展をしたという。 五戒でレンタル、あるいは販売されるアイテムの固有性をさらに拡張して展開しようとしているのがよしだ、山本、ヌケメの3名によるFabLab Shibuyaでの新しい服づくりの可能性としてのグリッチニットであるとすれば、今後のものづくりが大量生産と一品生産に二極化する中でハックや改造などのブリコラージュ的創造力を発揮するための場と人の繋がりをつくりだすこともまた、デザイナーの新しい役割になりえるだろう。 この後、会議全体の振り返りも含め来場していた有識者らを交えた討議がなされたが、会議全体を通して個の創造力に対して産業構造を揺るがす事の困難さが議題の一つとしてあった。個の創造性支援のためのエンジニアリングや法律などのプロトコルがどんどん整備されてきているとはいえ、それが離島に暮らす人々にまで波及するかのような力はまだ持ち得てはいない。だがしかし、無視できないような状況としてのコスプレの隆盛などが明らかとなる今こそ、主流に対しての傍流がもたらす力を批評の対象として据えていくことが必要であろう。そのためにもアーティストやユーザーによって揺るがされるアーキテクチャを、デザイナーが漸進的に改新していくことが今後、ますます求められるだろう。インフラ化したコンビニのように整備されてきたファストファッションに代表される大量生産品の利便性を引き受けつつも、固有のものづくりを希求する人々によって全体を前進的に改新していくためにプロトコルを的確にふまえたものづくりこそが、ファッションという文化を更新していく可能性そのものではないだろうか。

【プレゼンテーション2──幸田康利】

「ウェブコミュニティにおけるプラットフォームの形成」

幸田──オープンクローズでは、コミュティというプラットフォームを使って、世界の人口70億人それぞれが70億通りのファッションを楽しむ、という理念を掲げています。「開け、服」という意味でオープンクローズという名前をつけ、当初は「着る人とつくる人の共同制作システム」、「つくる人とつくる人の共同ネットワーク」、「つくる人とつくる業者の共同生産システム」という三つの軸の実現を試みました。具体的には、つくる人と着る人の両方に材料・ノウハウ・服が見つかるシステムを包含するようなプラットフォーム作りを目指したのですが、当時は全然お金になりませんでしたね。今は各個別の分野でサービスを提供していて、代表的なサービスに「TETOTE」(http://tetote-market.jp/)というECサイトがあります。このサービスは作ったものの売買に限定していて、その他のサポートサービスは別に展開しています。この方法が成功した理由として、近年、服飾産業での流通の利便性が非常にあがったことがあります。日本でも2007年頃からECが盛んになって、Webを介して人々がモノを売買する環境が整ってきたこと、低コストで販売を始めることが可能になってきたことが大きいですね。

【プレゼンテーション3──山下陽光】

「野生の創造性とその実践」

山下──95年くらいに高円寺に来て、現在「素人の乱1号店」のある場所にあった「NEW NEW」という古着屋でバイトを始めました。服だけ売っていればいいのかなと思っていたのに服を作れと言われ、ひたすら服を作って1ヶ月くらいしたら今度は「展示会やるぞ」と。その時に出展した合同展示会には台湾や台北などからバイヤーが来て、自分が作った服がなぜか飛ぶように売れました。専門学校卒業後は、プリント工場のバイトでギャルソンやイッセイミヤケ、裏原系のブランドのTシャツをひたすら転写しまくっていましたね。「裏原は俺が作ってる!」というくらい必死に。さて、今日持ってきた画像の中に、田中忠三郎という、東北で昔からの暮らしの民具を集めてるおじいちゃんがいます。足袋なども集めていますが、なんと自分の祖母が履いていた染みつきパンツまで展示しています。それで「東北地方は昔は綿がとれなかったから、生理のときはすごく大変だっただろう」などと言っている……すごいおじいちゃんですね。次の画像ですが、こういうのも面白いです、この椅子。こういうのが一番好きですね、この頼りない感じ。椅子で下の床を痛めないように布を巻いているんですよね。このオシャレにしようとしてない感じがすごく好きです。

水野──こういうところに日常の創造性みたいなものがありますよね。

横山──そういうの、ちょっとわかります。(笑)ところで「途中でやめる」の服の原材料はなんですか。

山下──フリマで買ったり、安い古着屋で買ったり。というか「いらない服ちょうだい。」と言えば集まるんですよね。日本人は年間9kgの洋服を買って8kgを捨てているらしく、それはすごく勿体ないじゃないですか。じゃあそれ古着屋さんで売ればいいじゃんと思っても古着屋さんで売ってるのはアメリカやヨーロッパの服ばかりで。だから「勿体なーい!」と言い始めたら山のように来ました。なんとマジックとか延長コードなんかまで送られてくるんですよ。服の考え方新しすぎんだろって思いますが(笑)。

水野──そのようなお店ってありますけど、完全に個人のモノづくりのための場所ですね。今の山下さんのお話の中から高円寺コミュニティがなんとなく見えてきますね、どういうことが高円寺で起きているのかということが。でもやはり一番分かるのは山下さんのモノづくりの方法論です。ちなみにコミュニティ的な視点でいうと、高円寺を皆で盛り上げようといった感覚はあるのでしょうか。あるいは、高円寺だから許されているようなことなど。

山下──そもそもそこまで考えてないんですよね。ビジネスになったらいいなと思わずやっていたらなんとなくそうなってきて、でもこの手法を守り続けようとも思ってなくて、すぐに駄目になるだろうなと。だからできるだけ手を広げずに、バレないようにコソコソやってる感じです。

水野──等身大でモノをつくってるなという感覚はすごくありますね。等身大の個人的なモノづくり、つまりパーソナルファブリケーションは、プロとしてやられている山下さんだけではなくて多くの方がやられているわけですが。

横山──この話は少しデコクロに近いと思います。さっき話に出た田中忠三郎さんも関わられている『BORO つぎ、はぎ、いかす。青森のぼろ布文化』のポイントは、着られなくなった服をその後も着れるように100年も200年も継ぎ接ぎしていくところかと。それもその当時の人がオシャレだと思う感じで継ぎ接ぎしている。例えば巾着袋だと、良い着物の端切れを使ったものはお出かけ用なんです。お百姓さんだから良いものは着れないけど、外出用のちょっとしたものにはそういう良いものを使う。『BORO』を見てると、日本の人って昔からオシャレなんだなと思います。“着飾る”って事に関してすご

く面白い。その力強さっていうのがみんなに新鮮に映っているんだろうなと。ただ、それがビジネスにどう絡んでくるのか、デザインにどうハマってくるのかは、ちょっとよく分からないところですね。

【プレゼンテーション4──本橋康治】

「トータルエンクロージャーとしてのフェティッシュ」

本橋──パルコのマーケティングサイト「ACROSS(http://www.web-across.com/)」で編集とライターをやっている本橋です。本日はコスプレとフェティッシュ文化の接点となる現場の話をさせていただきます。今、「コスプレ」と言ってもその解釈がすごく広くなっていて、コスプレイーヤーとして楽しむ人もいる一方、表現手段としてコスプレをするというアーティストも増えています。最近の特徴は二次元と三次元の間の表現が増えていることで、キャラクターの衣装を自分の身体に纏って表現しています。例えば、でんぱ組inc.のようにコスプレ感を表現のひとつにしているアイドルもいます。「みーな(http://ameblo.jp/renchinko/)」 ちゃんという着ぐるみストは中身も女の子で、わざわざ女子が女の子の着ぐるみを着て表現活動をしている。フェティッシュの世界では「トータルエンクロージャー」といいますが、全身タイツやラテックスで頭から足の先まで全部布で覆ってしまうことで、変身願望が満たされるというのと、ものに100%包まれることによって得られる快感があるからです。その二つのフェティッシュが結びつく先に着ぐるみという文化が形成されるわけですね。 「ケモナー」というのもあります。ケモナーは、動物の着ぐるみによるトータルエンクロージャーだというところと、さらにアニメのキャラ萌えの要素と動物に性的な視線を与える背徳感などさまざまなフェティッシュが結びついた複合形態であることが面白い。この分野はまだ新しいですが、多種のジャンルが結びついてちょっと大変なことになっています。

水野──重要なのは、着ていく場所かなと。そこに集って最新の情報を共有できるというのがポイントなのかなと思いました。

本橋──もちろん現場に着ていくということもあるのですが、彼らの表現の場としてニコニコ動画もあります。ケモナーというタグを探すとたくさん見つかりますが、音楽に合わせた可愛い動きやダンスのうまさなどが競われています。モノの完成度の自慢合戦というより、動きの可愛さとか文脈をモノとして完成度をシェアしていく感じです。ニコニコ動画はコメントも付くし、ネットの上でも場を共有していくのが大事なことなのかなと。

金森──検索中に見つけたのですが、この「ギャクヨガ(http://gyakuyoga.

hobby-web.net/)」という方は、武器や戦闘服、武将のコスチュームまですべてを手作りされています。アイテムをクリックすると、懇切丁寧につくり方が紹介されていて、さらに費用や作成時間まで出ている。道具の買付先や選び方なども紹介しています。オーダーメイドも受け付けていますね。

本橋──ゴスロリなどのファッション誌でも今では当たり前のように型紙が載っています。自分しか作れないという自慢よりも、プレーヤーが沢山いたほうが楽しいという考え方にシフトしてきたのかなと。お台場や豊島園にはイベントがなくてもコスプレの人が集まっていますが、そこで何をしているかというと、「キャラクターの合わせ」といって、ただ集まってまったり楽しんだり、撮影会をして解散する。つまり場所(=コミュニティ)を自分たちでつくるという方向にシフトしていて、そこが最近の新しい動きなのかなと思っています。

[討議]

「一般市民の創造力と新しい欲望の創出」

横山──今日の話を聞いていて、今回登場した人たちのインパクトも、ファッションやアパレルという非常に強い産業の中では、その形態を揺るがすほどには至っていないようにも感じています。例えばデコクロがレディーガガとテレビで取り上げられた時にはある意味無視できない状況にもなるのですが。あと、トータルエンクロージャーとしてのケモナーのようなコアな層が、ゆるキャラブームなどの非常に一般的な現象の中にまぎれこんできて興味深い部分もありますね。今後は一般的な産業形態とこういうアンダーグラウンドな動きがぶつかりあって、新しい動きが生まれたらすごく面白いのになと思います。

水野──もともとファッション業界全体としては予想不可能で突飛な創造力というのを寛容に受け入れてきたはずが、市場の議論優先になってきて、単に無難なものづくりにシフトしている。それがいわゆるファストファッションの隆盛となった気がします。

横山──デザイナーのコレクションなどを見ていると、やはりファストファッションや大手企業は洗練された印象を受けますね。そこと比較するとインディーズ系が魅力がなく見えてしまう、というのが自然な感覚です。

蘆田──京都服飾文化研究財団(http://www.kci.or.jp/)の蘆田です。確かに90年代以降、ファストファッションや大手のアパレルの物がそれなりにデザインも良く、クオリティも高い上に普通のインディペンデントブランドより安いので、インディペンデントブランドはそれなりの物を作っても受け入れられないという状況はあります。そうとは言ってもそのインディペンデントなブランドが見るところって服としてのクオリティと価格だけではないので、多分受け手側が服に対してどういう価値を見出していくかっていうことを考えないと、つまり受け手の意識をどう変えていくかということを考えていかないと、ファッションは更新できるのか?というところを深く掘り下げていくことが出来ないんじゃないかと思うんですね。

水野──なるほど。この一連の会議では、どちらかというと作り手あるいは売り手が抱える問題を中心に、例えばCCライセンスの話や、両者の関係性などがテーマにありました。というのも、この会議の中では、買い手となる人がすでにかなりの割合でプロシューマー的な立場として捉えられてきたからです。そしてデジタルファブリケーション。デジタル工作機械を使って物を

つくるということは、誰もが物をつくる可能性があるということですよね。そうなってきた時に、じゃあ何を持ってその価値とするのかが今は過渡期にあって分からない。今回の会議では、そこの辺りを中心に議論してきたのかなと思います。

金森──私がこの会議を始めたきっかけには、例えばCCライセンスという価値のありかたに出会ったり、私自身がファッションブランドを立ち上げて会社を運営する中で色んな時代の変化を感じてきたということがあります。加えて、「新しい欲望」というキーワードがこれまでの会議でも出ましたが、その欲望に対してファッションは何が出来るのか、ということを色んな人と議論したいと強く思うようになりました。それはファッションのデザインやファッションブランドのデザイン、あるいは小売の方法論かもしれないですが、何かしらのリアクションをしたいと。当然会議をするだけで何か結論に辿り着くとは思っていませんが、自分も含めて会議に参加した方それぞれが何らかの新しい方向にファッションを考えられるように、また次の時代に投げるボールの方向をより多様に考えられるようになったらと思っています。

【会議を終えて──水野大二郎】

 第5回ファッションは更新できるのか?会議は2013年2月23日、東京・高円寺にあるコワーキングスペース「こけむさズ」において開催された。これまで主に渋谷を中心に活動してきた「ファッションは更新できるのか?会議」が高円寺に場所を移したのは、メイカーズムーブメントにも明らかなように、一般市民の創造力が実空間のみならず情報空間の利活用によってこれまで以上に顕在化する中で、野生のデザイナーによる「等身大のものづくり」の生態系を、活動する場をつくってきた人、見てきた人、活動に参加してきた人を通してより身近に感じようという趣旨を反映させたものだ。消費社会研究家・三浦展も2000年代にその特性に注目したように、これまで多くのミュージシャンやアーティスト、デザイナーらによって維持されてきた独特の文化が高円寺にはある。個性的な古着屋が平然と並ぶ高円寺の商店街を行き交う人も高齢者から若者まで多様で、原宿や渋谷とはだいぶ異なる位相にあるといえるだろう。神戸・元町の高架下商店街にも通じる多様な文化が入り交じった雰囲気、と言えば関西の方にも高円寺界隈の独特さはお分かりいただけるだろうか。そんな高円寺の駅から徒歩2分、アパートの一室を改装した「こけむさズ」にて登壇者らはコタツに入りながら会議は進行された。街の独特なユルさが色濃く反映されたスペースで一般市民の創造性について議論が交わされたという意味において、垣根がこれまで以上に下がった中で会議は開催された。 ところで、今回の会議には非常に多くの登壇者が招聘された。鈴木清之

No.vol.5『双方性とコミュニティからうまれるものづくりの生態系 ~コスプレイヤーズ、デコラー、ユザラー、デコクロ、キタコレ、手芸~』

水野──今日は趣向を変えてここ高円寺で、第5回ファッションは更新できるのか?会議を開催したいと思います。これまでの会議では、様々な観点からファッションの更新可能性についての新しい仕組みを中心に議論を重ねてきました。そこで今回は、実際にその仕組みの中で活動して面白い作品をつくっている方、あるいはその作品づくりに関わっている方をお招きして、具体的に今の仕組みの中でどういうことが実践されているのか、その生態系を知っていこうと思っています。

【プレゼンテーション1──鈴木清之】

「つくり合うコミュニティの形成~デコクロ部の活動を事例に」

鈴木──個人的に愛用していたUNIQLOをもっと楽しくポジティブに着たいと思い、UNIQLO製品をみんなでデコって楽しむ方法を考えたことがデコクロ部の始まりです。また、活動を共にしていたスタイリストの本間園子さんからは、最近のストリートスナップなどでは個性を感じられる若い方が少ないこと、またそれは低価格で高品質のブランド製品が溢れているために自分で考えてお洒落を楽しむ子が少ないからではないか、というお話もあり、もっと個性を楽しめるファッションの提案として立ち上げました。具体的には、(株)オープンクローズ(http://www.open-clothes.org/)がプロデュースしたWebコミュニティ上で作品を公開し、そのコミュニティの方同士で見て楽しむという形式になっています。

水野──デコクロ部では、ビギナーの方に向けてどのようなきっかけがつく

(デコクロ部発起人)、山下陽光(途中でやめる)、小竹一樹(伍戒)、本橋康治(ウェブマガジン「アクロス」編集部)、そして会議内容と連動して新たにコラボレーションをすることになったよしだともふみ(テクノ手芸部)、山本詠美(FabLab Shibuya)、ヌケメ(デザイナー)の3人、さらに会議の実行委員としても名を連ねる幸田康利(有限会社オープンクローズ)とツッコミ役として横山泰明(WWD Japan 記者)を招き、野生のデザイナーのつくる作品やその方法論、コミュニティ、歴史など多様な観点から「等身大のものづくり」としてのファッションデザインについて議論がなされた。 最初に鈴木からはデコクロ部についてのプレゼンテーションがあった。2008年から始まった「ユニクロをもっとポジティブに楽しく着たい」という想いから、着る側が楽しむ=余地があるものを改造する行為としてユニクロの服を改造して自分らしく着こなすことを楽しむデコクロ部の紹介である。現在では部員同士が自生的に連携を図ることがある程度成功しており、運営側よりも部員によってコミュニティが維持されているという。だが、運営側にとって非営利活動に近いデコクロ部の活動が維持、継続されるためにはどのような中長期的視座に立った動機づけが必要なのだろうか。社会的紐帯の醸成の上に部員も運営側も情熱を燃え尽きさせない、維持可能な仕組みの可能性について意見が交換された。この話に続き、オープンクローズの幸田からプレゼンテーションがあった。幸田もデコクロ部の鈴木と同様、ファッションにおける社会的なプラットフォームづくりに情熱を燃やしてきた一人である。「着る人とつくる人の恊働」を実現すべく多様なプロジェクトを展開してきた事例の中にはハンドメイド・手作りマーケット「TETOTE」があり、2013年2月現在では17万点を超えるハンドメイド作品が掲載される巨大なプラットフォームとなっている。幸田は、日本では2008年頃からのECの隆盛、アメリカでのEtsyの成功などが自身の活動がその背景にあると指摘するが、顕名的関係性を象徴する「信頼」に根ざした日本では一点ものをつくるデザイナーの共感をどのように得てきたのだろうか。利用者間、利用者と運営者、デザイナーと利用者など、様々な利害関係者間の「信頼」を構築するために必要な金銭、時間、空間、労力や成果を情熱で回してきた両者の試みとその苦悩を感じ取ることができた。 次に、途中でやめる・山下が驚くべき日常の写真からプレゼンテーションを始めた。プレゼンテーションは浅草・アミューズミュージアムの田中忠三郎が収集した東北の古着あんどにも触れた。これは都築響一も『BORO』として編集しているが、何度もツギハギを施された古着には着用していた人の痕跡としてのブリコラージュ的創造力を見ることができる。ブリコラージュに必要な誤解、誤読、誤訳などの「誤り」がもたらす制度的なものづくりとしての大量生産のシステムにのりづらい独創的な創造性の発揮の仕方についてその具体例が示された後、「自分で責任がもてるスケールのものづくり」、「完全一点もの」といったキーワードを連発しながら山下の考える等身大のものづくりが素描された。 ところで、WWD Japanの横山は山下の批評としてファッション業界において評価されることの一つに「安さ」を指摘した。横山が示唆する「安さ」とは一見自明に聞こえるが、実は極めて重要な要素である。山下のいう「自分で責任がもてるスケールのものづくり」はつくる人̶着る人間に介入する利害関係者が少なく、ある程度は値段を下げても「つくる人」が生活をしていくことが容易なはずだ。この意味において「安さ」とは生活と制作の一致の痕跡であり、一点ものの作品に反映された唯一性としての「等身大のものづくり」とは作品の姿形だけの問題ではない。作品をつくる人が「どう生きのびるか」という態度を示唆する値段にも反映されているのではなかろうか。 そして、ウェブアクロス編集部・本橋からはコスプレ、衣装、身体表現と2次元/3次元の境界線についての話があった。猫耳や着ぐるみなど、キャラクター化するファッション表現の中で、着グルミスト「みーな」の自分=内

られているのでしょうか?

鈴木──最初はワッペンなどアイロンですぐつけられる程度のものでワンポイントをつけてもらったり、器用な方には布用の絵の具でペインティングをしてもらったり、刺繍をしてもらったりすることもあります。

水野──だんだん上級者になってくと、自分でカスタマイゼーションできるようになっているということですね。

鈴木──はい。ちなみにこのデコクロ部は現在活動休止状態にあります。その理由として、マスコミやテレビなどの取材で多忙を極めてデコクロを楽しめなくなってしまったこと、Webコミュニティの担当者以外につくる知識のないメンバーが多く、結局その方に依存しすぎてしまったことがあります。mixiに近いコミュニティサイトだったので、なかなかうまく発信出来なかったことも一因ですね。

水野──つまりそういったコミュニティは、運営する側もある程度知識がないと成立しなかったり、リーダーになる人がいないと自立しないということでしょうか。実際、つくり方からコミュニティの運営のすべてが手弁当というところが、Web上のコミュニティの特徴なのかなと。とにかくやりたい!という思いでひとが集まりどんどん回っていくけれど、ある程度の規模を超えると利害関係が複雑になってきたり、お金の問題が出てきたり、内部の情熱が燃え尽きたりする……そういうリスクは常にありますよね。

蔵という設定などをふまえつつ「トータル・エンクロージャー+コスプレ+周辺ジャンルの融合」や「内部/外部の関係性と共有の場づくり」、はたまた「自分らしさ+キャラクター性+エロス」などについて話が及んだ。現在コスプレは極めて多様で、マニアの表現はプロでは真似できない強みがある。このような「等身大の表現」が「ギャクヨガ」にあるような作り方の共有によって更に強化されていくことを鑑みると、アーカイブをつくり、歴史自体を作り始めたのもマニアによって自生的に成立していくのだろうか。とすると、これからのプロとしてのデザイナーの役割とは何なのだろうか。 また、会議会場に居合わせた五戒・小竹からも活動の紹介があった。小竹は秋葉原に店を構え、衣装貸し出し等も地下アイドルに行っているという。ある特定の文化的特性を持つ地域とファッションが連動してきたこれまでの日本のファッションの歴史をふまえ、小竹はあえて秋葉原の文化との連動を目論んで秋葉原に出展をしたという。 五戒でレンタル、あるいは販売されるアイテムの固有性をさらに拡張して展開しようとしているのがよしだ、山本、ヌケメの3名によるFabLab Shibuyaでの新しい服づくりの可能性としてのグリッチニットであるとすれば、今後のものづくりが大量生産と一品生産に二極化する中でハックや改造などのブリコラージュ的創造力を発揮するための場と人の繋がりをつくりだすこともまた、デザイナーの新しい役割になりえるだろう。 この後、会議全体の振り返りも含め来場していた有識者らを交えた討議がなされたが、会議全体を通して個の創造力に対して産業構造を揺るがす事の困難さが議題の一つとしてあった。個の創造性支援のためのエンジニアリングや法律などのプロトコルがどんどん整備されてきているとはいえ、それが離島に暮らす人々にまで波及するかのような力はまだ持ち得てはいない。だがしかし、無視できないような状況としてのコスプレの隆盛などが明らかとなる今こそ、主流に対しての傍流がもたらす力を批評の対象として据えていくことが必要であろう。そのためにもアーティストやユーザーによって揺るがされるアーキテクチャを、デザイナーが漸進的に改新していくことが今後、ますます求められるだろう。インフラ化したコンビニのように整備されてきたファストファッションに代表される大量生産品の利便性を引き受けつつも、固有のものづくりを希求する人々によって全体を前進的に改新していくためにプロトコルを的確にふまえたものづくりこそが、ファッションという文化を更新していく可能性そのものではないだろうか。

【プレゼンテーション2──幸田康利】

「ウェブコミュニティにおけるプラットフォームの形成」

幸田──オープンクローズでは、コミュティというプラットフォームを使って、世界の人口70億人それぞれが70億通りのファッションを楽しむ、という理念を掲げています。「開け、服」という意味でオープンクローズという名前をつけ、当初は「着る人とつくる人の共同制作システム」、「つくる人とつくる人の共同ネットワーク」、「つくる人とつくる業者の共同生産システム」という三つの軸の実現を試みました。具体的には、つくる人と着る人の両方に材料・ノウハウ・服が見つかるシステムを包含するようなプラットフォーム作りを目指したのですが、当時は全然お金になりませんでしたね。今は各個別の分野でサービスを提供していて、代表的なサービスに「TETOTE」(http://tetote-market.jp/)というECサイトがあります。このサービスは作ったものの売買に限定していて、その他のサポートサービスは別に展開しています。この方法が成功した理由として、近年、服飾産業での流通の利便性が非常にあがったことがあります。日本でも2007年頃からECが盛んになって、Webを介して人々がモノを売買する環境が整ってきたこと、低コストで販売を始めることが可能になってきたことが大きいですね。

【プレゼンテーション3──山下陽光】

「野生の創造性とその実践」

山下──95年くらいに高円寺に来て、現在「素人の乱1号店」のある場所にあった「NEW NEW」という古着屋でバイトを始めました。服だけ売っていればいいのかなと思っていたのに服を作れと言われ、ひたすら服を作って1ヶ月くらいしたら今度は「展示会やるぞ」と。その時に出展した合同展示会には台湾や台北などからバイヤーが来て、自分が作った服がなぜか飛ぶように売れました。専門学校卒業後は、プリント工場のバイトでギャルソンやイッセイミヤケ、裏原系のブランドのTシャツをひたすら転写しまくっていましたね。「裏原は俺が作ってる!」というくらい必死に。さて、今日持ってきた画像の中に、田中忠三郎という、東北で昔からの暮らしの民具を集めてるおじいちゃんがいます。足袋なども集めていますが、なんと自分の祖母が履いていた染みつきパンツまで展示しています。それで「東北地方は昔は綿がとれなかったから、生理のときはすごく大変だっただろう」などと言っている……すごいおじいちゃんですね。次の画像ですが、こういうのも面白いです、この椅子。こういうのが一番好きですね、この頼りない感じ。椅子で下の床を痛めないように布を巻いているんですよね。このオシャレにしようとしてない感じがすごく好きです。

水野──こういうところに日常の創造性みたいなものがありますよね。

横山──そういうの、ちょっとわかります。(笑)ところで「途中でやめる」の服の原材料はなんですか。

山下──フリマで買ったり、安い古着屋で買ったり。というか「いらない服ちょうだい。」と言えば集まるんですよね。日本人は年間9kgの洋服を買って8kgを捨てているらしく、それはすごく勿体ないじゃないですか。じゃあそれ古着屋さんで売ればいいじゃんと思っても古着屋さんで売ってるのはアメリカやヨーロッパの服ばかりで。だから「勿体なーい!」と言い始めたら山のように来ました。なんとマジックとか延長コードなんかまで送られてくるんですよ。服の考え方新しすぎんだろって思いますが(笑)。

水野──そのようなお店ってありますけど、完全に個人のモノづくりのための場所ですね。今の山下さんのお話の中から高円寺コミュニティがなんとなく見えてきますね、どういうことが高円寺で起きているのかということが。でもやはり一番分かるのは山下さんのモノづくりの方法論です。ちなみにコミュニティ的な視点でいうと、高円寺を皆で盛り上げようといった感覚はあるのでしょうか。あるいは、高円寺だから許されているようなことなど。

山下──そもそもそこまで考えてないんですよね。ビジネスになったらいいなと思わずやっていたらなんとなくそうなってきて、でもこの手法を守り続けようとも思ってなくて、すぐに駄目になるだろうなと。だからできるだけ手を広げずに、バレないようにコソコソやってる感じです。

水野──等身大でモノをつくってるなという感覚はすごくありますね。等身大の個人的なモノづくり、つまりパーソナルファブリケーションは、プロとしてやられている山下さんだけではなくて多くの方がやられているわけですが。

横山──この話は少しデコクロに近いと思います。さっき話に出た田中忠三郎さんも関わられている『BORO つぎ、はぎ、いかす。青森のぼろ布文化』のポイントは、着られなくなった服をその後も着れるように100年も200年も継ぎ接ぎしていくところかと。それもその当時の人がオシャレだと思う感じで継ぎ接ぎしている。例えば巾着袋だと、良い着物の端切れを使ったものはお出かけ用なんです。お百姓さんだから良いものは着れないけど、外出用のちょっとしたものにはそういう良いものを使う。『BORO』を見てると、日本の人って昔からオシャレなんだなと思います。“着飾る”って事に関してすご

く面白い。その力強さっていうのがみんなに新鮮に映っているんだろうなと。ただ、それがビジネスにどう絡んでくるのか、デザインにどうハマってくるのかは、ちょっとよく分からないところですね。

【プレゼンテーション4──本橋康治】

「トータルエンクロージャーとしてのフェティッシュ」

本橋──パルコのマーケティングサイト「ACROSS(http://www.web-across.com/)」で編集とライターをやっている本橋です。本日はコスプレとフェティッシュ文化の接点となる現場の話をさせていただきます。今、「コスプレ」と言ってもその解釈がすごく広くなっていて、コスプレイーヤーとして楽しむ人もいる一方、表現手段としてコスプレをするというアーティストも増えています。最近の特徴は二次元と三次元の間の表現が増えていることで、キャラクターの衣装を自分の身体に纏って表現しています。例えば、でんぱ組inc.のようにコスプレ感を表現のひとつにしているアイドルもいます。「みーな(http://ameblo.jp/renchinko/)」 ちゃんという着ぐるみストは中身も女の子で、わざわざ女子が女の子の着ぐるみを着て表現活動をしている。フェティッシュの世界では「トータルエンクロージャー」といいますが、全身タイツやラテックスで頭から足の先まで全部布で覆ってしまうことで、変身願望が満たされるというのと、ものに100%包まれることによって得られる快感があるからです。その二つのフェティッシュが結びつく先に着ぐるみという文化が形成されるわけですね。 「ケモナー」というのもあります。ケモナーは、動物の着ぐるみによるトータルエンクロージャーだというところと、さらにアニメのキャラ萌えの要素と動物に性的な視線を与える背徳感などさまざまなフェティッシュが結びついた複合形態であることが面白い。この分野はまだ新しいですが、多種のジャンルが結びついてちょっと大変なことになっています。

水野──重要なのは、着ていく場所かなと。そこに集って最新の情報を共有できるというのがポイントなのかなと思いました。

本橋──もちろん現場に着ていくということもあるのですが、彼らの表現の場としてニコニコ動画もあります。ケモナーというタグを探すとたくさん見つかりますが、音楽に合わせた可愛い動きやダンスのうまさなどが競われています。モノの完成度の自慢合戦というより、動きの可愛さとか文脈をモノとして完成度をシェアしていく感じです。ニコニコ動画はコメントも付くし、ネットの上でも場を共有していくのが大事なことなのかなと。

金森──検索中に見つけたのですが、この「ギャクヨガ(http://gyakuyoga.

hobby-web.net/)」という方は、武器や戦闘服、武将のコスチュームまですべてを手作りされています。アイテムをクリックすると、懇切丁寧につくり方が紹介されていて、さらに費用や作成時間まで出ている。道具の買付先や選び方なども紹介しています。オーダーメイドも受け付けていますね。

本橋──ゴスロリなどのファッション誌でも今では当たり前のように型紙が載っています。自分しか作れないという自慢よりも、プレーヤーが沢山いたほうが楽しいという考え方にシフトしてきたのかなと。お台場や豊島園にはイベントがなくてもコスプレの人が集まっていますが、そこで何をしているかというと、「キャラクターの合わせ」といって、ただ集まってまったり楽しんだり、撮影会をして解散する。つまり場所(=コミュニティ)を自分たちでつくるという方向にシフトしていて、そこが最近の新しい動きなのかなと思っています。

[討議]

「一般市民の創造力と新しい欲望の創出」

横山──今日の話を聞いていて、今回登場した人たちのインパクトも、ファッションやアパレルという非常に強い産業の中では、その形態を揺るがすほどには至っていないようにも感じています。例えばデコクロがレディーガガとテレビで取り上げられた時にはある意味無視できない状況にもなるのですが。あと、トータルエンクロージャーとしてのケモナーのようなコアな層が、ゆるキャラブームなどの非常に一般的な現象の中にまぎれこんできて興味深い部分もありますね。今後は一般的な産業形態とこういうアンダーグラウンドな動きがぶつかりあって、新しい動きが生まれたらすごく面白いのになと思います。

水野──もともとファッション業界全体としては予想不可能で突飛な創造力というのを寛容に受け入れてきたはずが、市場の議論優先になってきて、単に無難なものづくりにシフトしている。それがいわゆるファストファッションの隆盛となった気がします。

横山──デザイナーのコレクションなどを見ていると、やはりファストファッションや大手企業は洗練された印象を受けますね。そこと比較するとインディーズ系が魅力がなく見えてしまう、というのが自然な感覚です。

蘆田──京都服飾文化研究財団(http://www.kci.or.jp/)の蘆田です。確かに90年代以降、ファストファッションや大手のアパレルの物がそれなりにデザインも良く、クオリティも高い上に普通のインディペンデントブランドより安いので、インディペンデントブランドはそれなりの物を作っても受け入れられないという状況はあります。そうとは言ってもそのインディペンデントなブランドが見るところって服としてのクオリティと価格だけではないので、多分受け手側が服に対してどういう価値を見出していくかっていうことを考えないと、つまり受け手の意識をどう変えていくかということを考えていかないと、ファッションは更新できるのか?というところを深く掘り下げていくことが出来ないんじゃないかと思うんですね。

水野──なるほど。この一連の会議では、どちらかというと作り手あるいは売り手が抱える問題を中心に、例えばCCライセンスの話や、両者の関係性などがテーマにありました。というのも、この会議の中では、買い手となる人がすでにかなりの割合でプロシューマー的な立場として捉えられてきたからです。そしてデジタルファブリケーション。デジタル工作機械を使って物を

つくるということは、誰もが物をつくる可能性があるということですよね。そうなってきた時に、じゃあ何を持ってその価値とするのかが今は過渡期にあって分からない。今回の会議では、そこの辺りを中心に議論してきたのかなと思います。

金森──私がこの会議を始めたきっかけには、例えばCCライセンスという価値のありかたに出会ったり、私自身がファッションブランドを立ち上げて会社を運営する中で色んな時代の変化を感じてきたということがあります。加えて、「新しい欲望」というキーワードがこれまでの会議でも出ましたが、その欲望に対してファッションは何が出来るのか、ということを色んな人と議論したいと強く思うようになりました。それはファッションのデザインやファッションブランドのデザイン、あるいは小売の方法論かもしれないですが、何かしらのリアクションをしたいと。当然会議をするだけで何か結論に辿り着くとは思っていませんが、自分も含めて会議に参加した方それぞれが何らかの新しい方向にファッションを考えられるように、また次の時代に投げるボールの方向をより多様に考えられるようになったらと思っています。

【会議を終えて──水野大二郎】

 第5回ファッションは更新できるのか?会議は2013年2月23日、東京・高円寺にあるコワーキングスペース「こけむさズ」において開催された。これまで主に渋谷を中心に活動してきた「ファッションは更新できるのか?会議」が高円寺に場所を移したのは、メイカーズムーブメントにも明らかなように、一般市民の創造力が実空間のみならず情報空間の利活用によってこれまで以上に顕在化する中で、野生のデザイナーによる「等身大のものづくり」の生態系を、活動する場をつくってきた人、見てきた人、活動に参加してきた人を通してより身近に感じようという趣旨を反映させたものだ。消費社会研究家・三浦展も2000年代にその特性に注目したように、これまで多くのミュージシャンやアーティスト、デザイナーらによって維持されてきた独特の文化が高円寺にはある。個性的な古着屋が平然と並ぶ高円寺の商店街を行き交う人も高齢者から若者まで多様で、原宿や渋谷とはだいぶ異なる位相にあるといえるだろう。神戸・元町の高架下商店街にも通じる多様な文化が入り交じった雰囲気、と言えば関西の方にも高円寺界隈の独特さはお分かりいただけるだろうか。そんな高円寺の駅から徒歩2分、アパートの一室を改装した「こけむさズ」にて登壇者らはコタツに入りながら会議は進行された。街の独特なユルさが色濃く反映されたスペースで一般市民の創造性について議論が交わされたという意味において、垣根がこれまで以上に下がった中で会議は開催された。 ところで、今回の会議には非常に多くの登壇者が招聘された。鈴木清之

No.vol.5『双方性とコミュニティからうまれるものづくりの生態系 ~コスプレイヤーズ、デコラー、ユザラー、デコクロ、キタコレ、手芸~』

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水野──今日は趣向を変えてここ高円寺で、第5回ファッションは更新できるのか?会議を開催したいと思います。これまでの会議では、様々な観点からファッションの更新可能性についての新しい仕組みを中心に議論を重ねてきました。そこで今回は、実際にその仕組みの中で活動して面白い作品をつくっている方、あるいはその作品づくりに関わっている方をお招きして、具体的に今の仕組みの中でどういうことが実践されているのか、その生態系を知っていこうと思っています。

【プレゼンテーション1──鈴木清之】

「つくり合うコミュニティの形成~デコクロ部の活動を事例に」

鈴木──個人的に愛用していたUNIQLOをもっと楽しくポジティブに着たいと思い、UNIQLO製品をみんなでデコって楽しむ方法を考えたことがデコクロ部の始まりです。また、活動を共にしていたスタイリストの本間園子さんからは、最近のストリートスナップなどでは個性を感じられる若い方が少ないこと、またそれは低価格で高品質のブランド製品が溢れているために自分で考えてお洒落を楽しむ子が少ないからではないか、というお話もあり、もっと個性を楽しめるファッションの提案として立ち上げました。具体的には、(株)オープンクローズ(http://www.open-clothes.org/)がプロデュースしたWebコミュニティ上で作品を公開し、そのコミュニティの方同士で見て楽しむという形式になっています。

水野──デコクロ部では、ビギナーの方に向けてどのようなきっかけがつく

(デコクロ部発起人)、山下陽光(途中でやめる)、小竹一樹(伍戒)、本橋康治(ウェブマガジン「アクロス」編集部)、そして会議内容と連動して新たにコラボレーションをすることになったよしだともふみ(テクノ手芸部)、山本詠美(FabLab Shibuya)、ヌケメ(デザイナー)の3人、さらに会議の実行委員としても名を連ねる幸田康利(有限会社オープンクローズ)とツッコミ役として横山泰明(WWD Japan 記者)を招き、野生のデザイナーのつくる作品やその方法論、コミュニティ、歴史など多様な観点から「等身大のものづくり」としてのファッションデザインについて議論がなされた。 最初に鈴木からはデコクロ部についてのプレゼンテーションがあった。2008年から始まった「ユニクロをもっとポジティブに楽しく着たい」という想いから、着る側が楽しむ=余地があるものを改造する行為としてユニクロの服を改造して自分らしく着こなすことを楽しむデコクロ部の紹介である。現在では部員同士が自生的に連携を図ることがある程度成功しており、運営側よりも部員によってコミュニティが維持されているという。だが、運営側にとって非営利活動に近いデコクロ部の活動が維持、継続されるためにはどのような中長期的視座に立った動機づけが必要なのだろうか。社会的紐帯の醸成の上に部員も運営側も情熱を燃え尽きさせない、維持可能な仕組みの可能性について意見が交換された。この話に続き、オープンクローズの幸田からプレゼンテーションがあった。幸田もデコクロ部の鈴木と同様、ファッションにおける社会的なプラットフォームづくりに情熱を燃やしてきた一人である。「着る人とつくる人の恊働」を実現すべく多様なプロジェクトを展開してきた事例の中にはハンドメイド・手作りマーケット「TETOTE」があり、2013年2月現在では17万点を超えるハンドメイド作品が掲載される巨大なプラットフォームとなっている。幸田は、日本では2008年頃からのECの隆盛、アメリカでのEtsyの成功などが自身の活動がその背景にあると指摘するが、顕名的関係性を象徴する「信頼」に根ざした日本では一点ものをつくるデザイナーの共感をどのように得てきたのだろうか。利用者間、利用者と運営者、デザイナーと利用者など、様々な利害関係者間の「信頼」を構築するために必要な金銭、時間、空間、労力や成果を情熱で回してきた両者の試みとその苦悩を感じ取ることができた。 次に、途中でやめる・山下が驚くべき日常の写真からプレゼンテーションを始めた。プレゼンテーションは浅草・アミューズミュージアムの田中忠三郎が収集した東北の古着あんどにも触れた。これは都築響一も『BORO』として編集しているが、何度もツギハギを施された古着には着用していた人の痕跡としてのブリコラージュ的創造力を見ることができる。ブリコラージュに必要な誤解、誤読、誤訳などの「誤り」がもたらす制度的なものづくりとしての大量生産のシステムにのりづらい独創的な創造性の発揮の仕方についてその具体例が示された後、「自分で責任がもてるスケールのものづくり」、「完全一点もの」といったキーワードを連発しながら山下の考える等身大のものづくりが素描された。 ところで、WWD Japanの横山は山下の批評としてファッション業界において評価されることの一つに「安さ」を指摘した。横山が示唆する「安さ」とは一見自明に聞こえるが、実は極めて重要な要素である。山下のいう「自分で責任がもてるスケールのものづくり」はつくる人̶着る人間に介入する利害関係者が少なく、ある程度は値段を下げても「つくる人」が生活をしていくことが容易なはずだ。この意味において「安さ」とは生活と制作の一致の痕跡であり、一点ものの作品に反映された唯一性としての「等身大のものづくり」とは作品の姿形だけの問題ではない。作品をつくる人が「どう生きのびるか」という態度を示唆する値段にも反映されているのではなかろうか。 そして、ウェブアクロス編集部・本橋からはコスプレ、衣装、身体表現と2次元/3次元の境界線についての話があった。猫耳や着ぐるみなど、キャラクター化するファッション表現の中で、着グルミスト「みーな」の自分=内

られているのでしょうか?

鈴木──最初はワッペンなどアイロンですぐつけられる程度のものでワンポイントをつけてもらったり、器用な方には布用の絵の具でペインティングをしてもらったり、刺繍をしてもらったりすることもあります。

水野──だんだん上級者になってくと、自分でカスタマイゼーションできるようになっているということですね。

鈴木──はい。ちなみにこのデコクロ部は現在活動休止状態にあります。その理由として、マスコミやテレビなどの取材で多忙を極めてデコクロを楽しめなくなってしまったこと、Webコミュニティの担当者以外につくる知識のないメンバーが多く、結局その方に依存しすぎてしまったことがあります。mixiに近いコミュニティサイトだったので、なかなかうまく発信出来なかったことも一因ですね。

水野──つまりそういったコミュニティは、運営する側もある程度知識がないと成立しなかったり、リーダーになる人がいないと自立しないということでしょうか。実際、つくり方からコミュニティの運営のすべてが手弁当というところが、Web上のコミュニティの特徴なのかなと。とにかくやりたい!という思いでひとが集まりどんどん回っていくけれど、ある程度の規模を超えると利害関係が複雑になってきたり、お金の問題が出てきたり、内部の情熱が燃え尽きたりする……そういうリスクは常にありますよね。

「ファッションは更新できるのか?会議」Vol.5 『双方性とコミュニティからうまれるものづくりの生態系 ~コスプレイヤーズ、デコラー、ユザラー、デコクロ、キタコレ、手芸~』 議事録

発行 2013年5月30日編集・構成 「ファッションは更新できるのか?会議」実行委員会2012年9月から約半年、全7回にわたり実施される議論するセミクローズド会議公式 Facebook ページ:www.facebook.com/fashion.koushin公式 Twitter アカウント:@fashion_koushin写真 中野美登樹

蔵という設定などをふまえつつ「トータル・エンクロージャー+コスプレ+周辺ジャンルの融合」や「内部/外部の関係性と共有の場づくり」、はたまた「自分らしさ+キャラクター性+エロス」などについて話が及んだ。現在コスプレは極めて多様で、マニアの表現はプロでは真似できない強みがある。このような「等身大の表現」が「ギャクヨガ」にあるような作り方の共有によって更に強化されていくことを鑑みると、アーカイブをつくり、歴史自体を作り始めたのもマニアによって自生的に成立していくのだろうか。とすると、これからのプロとしてのデザイナーの役割とは何なのだろうか。 また、会議会場に居合わせた五戒・小竹からも活動の紹介があった。小竹は秋葉原に店を構え、衣装貸し出し等も地下アイドルに行っているという。ある特定の文化的特性を持つ地域とファッションが連動してきたこれまでの日本のファッションの歴史をふまえ、小竹はあえて秋葉原の文化との連動を目論んで秋葉原に出展をしたという。 五戒でレンタル、あるいは販売されるアイテムの固有性をさらに拡張して展開しようとしているのがよしだ、山本、ヌケメの3名によるFabLab Shibuyaでの新しい服づくりの可能性としてのグリッチニットであるとすれば、今後のものづくりが大量生産と一品生産に二極化する中でハックや改造などのブリコラージュ的創造力を発揮するための場と人の繋がりをつくりだすこともまた、デザイナーの新しい役割になりえるだろう。 この後、会議全体の振り返りも含め来場していた有識者らを交えた討議がなされたが、会議全体を通して個の創造力に対して産業構造を揺るがす事の困難さが議題の一つとしてあった。個の創造性支援のためのエンジニアリングや法律などのプロトコルがどんどん整備されてきているとはいえ、それが離島に暮らす人々にまで波及するかのような力はまだ持ち得てはいない。だがしかし、無視できないような状況としてのコスプレの隆盛などが明らかとなる今こそ、主流に対しての傍流がもたらす力を批評の対象として据えていくことが必要であろう。そのためにもアーティストやユーザーによって揺るがされるアーキテクチャを、デザイナーが漸進的に改新していくことが今後、ますます求められるだろう。インフラ化したコンビニのように整備されてきたファストファッションに代表される大量生産品の利便性を引き受けつつも、固有のものづくりを希求する人々によって全体を前進的に改新していくためにプロトコルを的確にふまえたものづくりこそが、ファッションという文化を更新していく可能性そのものではないだろうか。

※1

※2

『BORO つぎ、はぎ、いかす。青森のぼろ布文化』(小出由紀子, 都築響一, 2009, アスペクト社)

インターネット時代のための新しい著作権ルールの普及を目指し、様々な作品の作者が自ら「この条件を守れば私の作品を自由に使って良いですよ」という意思表示をするためのライセンス。このライセンスを利用することで、作者は著作権を保持したまま作品を自由に流通させることができ、受け手はライセンス条件の範囲内で再配布やリミックスなどをすることができる。http://creativecommons.jp/licenses/

【プレゼンテーション2──幸田康利】

「ウェブコミュニティにおけるプラットフォームの形成」

幸田──オープンクローズでは、コミュティというプラットフォームを使って、世界の人口70億人それぞれが70億通りのファッションを楽しむ、という理念を掲げています。「開け、服」という意味でオープンクローズという名前をつけ、当初は「着る人とつくる人の共同制作システム」、「つくる人とつくる人の共同ネットワーク」、「つくる人とつくる業者の共同生産システム」という三つの軸の実現を試みました。具体的には、つくる人と着る人の両方に材料・ノウハウ・服が見つかるシステムを包含するようなプラットフォーム作りを目指したのですが、当時は全然お金になりませんでしたね。今は各個別の分野でサービスを提供していて、代表的なサービスに「TETOTE」(http://tetote-market.jp/)というECサイトがあります。このサービスは作ったものの売買に限定していて、その他のサポートサービスは別に展開しています。この方法が成功した理由として、近年、服飾産業での流通の利便性が非常にあがったことがあります。日本でも2007年頃からECが盛んになって、Webを介して人々がモノを売買する環境が整ってきたこと、低コストで販売を始めることが可能になってきたことが大きいですね。

【プレゼンテーション3──山下陽光】

「野生の創造性とその実践」

山下──95年くらいに高円寺に来て、現在「素人の乱1号店」のある場所にあった「NEW NEW」という古着屋でバイトを始めました。服だけ売っていればいいのかなと思っていたのに服を作れと言われ、ひたすら服を作って1ヶ月くらいしたら今度は「展示会やるぞ」と。その時に出展した合同展示会には台湾や台北などからバイヤーが来て、自分が作った服がなぜか飛ぶように売れました。専門学校卒業後は、プリント工場のバイトでギャルソンやイッセイミヤケ、裏原系のブランドのTシャツをひたすら転写しまくっていましたね。「裏原は俺が作ってる!」というくらい必死に。さて、今日持ってきた画像の中に、田中忠三郎という、東北で昔からの暮らしの民具を集めてるおじいちゃんがいます。足袋なども集めていますが、なんと自分の祖母が履いていた染みつきパンツまで展示しています。それで「東北地方は昔は綿がとれなかったから、生理のときはすごく大変だっただろう」などと言っている……すごいおじいちゃんですね。次の画像ですが、こういうのも面白いです、この椅子。こういうのが一番好きですね、この頼りない感じ。椅子で下の床を痛めないように布を巻いているんですよね。このオシャレにしようとしてない感じがすごく好きです。

水野──こういうところに日常の創造性みたいなものがありますよね。

横山──そういうの、ちょっとわかります。(笑)ところで「途中でやめる」の服の原材料はなんですか。

山下──フリマで買ったり、安い古着屋で買ったり。というか「いらない服ちょうだい。」と言えば集まるんですよね。日本人は年間9kgの洋服を買って8kgを捨てているらしく、それはすごく勿体ないじゃないですか。じゃあそれ古着屋さんで売ればいいじゃんと思っても古着屋さんで売ってるのはアメリカやヨーロッパの服ばかりで。だから「勿体なーい!」と言い始めたら山のように来ました。なんとマジックとか延長コードなんかまで送られてくるんですよ。服の考え方新しすぎんだろって思いますが(笑)。

水野──そのようなお店ってありますけど、完全に個人のモノづくりのための場所ですね。今の山下さんのお話の中から高円寺コミュニティがなんとなく見えてきますね、どういうことが高円寺で起きているのかということが。でもやはり一番分かるのは山下さんのモノづくりの方法論です。ちなみにコミュニティ的な視点でいうと、高円寺を皆で盛り上げようといった感覚はあるのでしょうか。あるいは、高円寺だから許されているようなことなど。

山下──そもそもそこまで考えてないんですよね。ビジネスになったらいいなと思わずやっていたらなんとなくそうなってきて、でもこの手法を守り続けようとも思ってなくて、すぐに駄目になるだろうなと。だからできるだけ手を広げずに、バレないようにコソコソやってる感じです。

水野──等身大でモノをつくってるなという感覚はすごくありますね。等身大の個人的なモノづくり、つまりパーソナルファブリケーションは、プロとしてやられている山下さんだけではなくて多くの方がやられているわけですが。

横山──この話は少しデコクロに近いと思います。さっき話に出た田中忠三郎さんも関わられている『BORO つぎ、はぎ、いかす。青森のぼろ布文化』のポイントは、着られなくなった服をその後も着れるように100年も200年も継ぎ接ぎしていくところかと。それもその当時の人がオシャレだと思う感じで継ぎ接ぎしている。例えば巾着袋だと、良い着物の端切れを使ったものはお出かけ用なんです。お百姓さんだから良いものは着れないけど、外出用のちょっとしたものにはそういう良いものを使う。『BORO』を見てると、日本の人って昔からオシャレなんだなと思います。“着飾る”って事に関してすご

く面白い。その力強さっていうのがみんなに新鮮に映っているんだろうなと。ただ、それがビジネスにどう絡んでくるのか、デザインにどうハマってくるのかは、ちょっとよく分からないところですね。

【プレゼンテーション4──本橋康治】

「トータルエンクロージャーとしてのフェティッシュ」

本橋──パルコのマーケティングサイト「ACROSS(http://www.web-across.com/)」で編集とライターをやっている本橋です。本日はコスプレとフェティッシュ文化の接点となる現場の話をさせていただきます。今、「コスプレ」と言ってもその解釈がすごく広くなっていて、コスプレイーヤーとして楽しむ人もいる一方、表現手段としてコスプレをするというアーティストも増えています。最近の特徴は二次元と三次元の間の表現が増えていることで、キャラクターの衣装を自分の身体に纏って表現しています。例えば、でんぱ組inc.のようにコスプレ感を表現のひとつにしているアイドルもいます。「みーな(http://ameblo.jp/renchinko/)」 ちゃんという着ぐるみストは中身も女の子で、わざわざ女子が女の子の着ぐるみを着て表現活動をしている。フェティッシュの世界では「トータルエンクロージャー」といいますが、全身タイツやラテックスで頭から足の先まで全部布で覆ってしまうことで、変身願望が満たされるというのと、ものに100%包まれることによって得られる快感があるからです。その二つのフェティッシュが結びつく先に着ぐるみという文化が形成されるわけですね。 「ケモナー」というのもあります。ケモナーは、動物の着ぐるみによるトータルエンクロージャーだというところと、さらにアニメのキャラ萌えの要素と動物に性的な視線を与える背徳感などさまざまなフェティッシュが結びついた複合形態であることが面白い。この分野はまだ新しいですが、多種のジャンルが結びついてちょっと大変なことになっています。

水野──重要なのは、着ていく場所かなと。そこに集って最新の情報を共有できるというのがポイントなのかなと思いました。

本橋──もちろん現場に着ていくということもあるのですが、彼らの表現の場としてニコニコ動画もあります。ケモナーというタグを探すとたくさん見つかりますが、音楽に合わせた可愛い動きやダンスのうまさなどが競われています。モノの完成度の自慢合戦というより、動きの可愛さとか文脈をモノとして完成度をシェアしていく感じです。ニコニコ動画はコメントも付くし、ネットの上でも場を共有していくのが大事なことなのかなと。

金森──検索中に見つけたのですが、この「ギャクヨガ(http://gyakuyoga.

hobby-web.net/)」という方は、武器や戦闘服、武将のコスチュームまですべてを手作りされています。アイテムをクリックすると、懇切丁寧につくり方が紹介されていて、さらに費用や作成時間まで出ている。道具の買付先や選び方なども紹介しています。オーダーメイドも受け付けていますね。

本橋──ゴスロリなどのファッション誌でも今では当たり前のように型紙が載っています。自分しか作れないという自慢よりも、プレーヤーが沢山いたほうが楽しいという考え方にシフトしてきたのかなと。お台場や豊島園にはイベントがなくてもコスプレの人が集まっていますが、そこで何をしているかというと、「キャラクターの合わせ」といって、ただ集まってまったり楽しんだり、撮影会をして解散する。つまり場所(=コミュニティ)を自分たちでつくるという方向にシフトしていて、そこが最近の新しい動きなのかなと思っています。

[討議]

「一般市民の創造力と新しい欲望の創出」

横山──今日の話を聞いていて、今回登場した人たちのインパクトも、ファッションやアパレルという非常に強い産業の中では、その形態を揺るがすほどには至っていないようにも感じています。例えばデコクロがレディーガガとテレビで取り上げられた時にはある意味無視できない状況にもなるのですが。あと、トータルエンクロージャーとしてのケモナーのようなコアな層が、ゆるキャラブームなどの非常に一般的な現象の中にまぎれこんできて興味深い部分もありますね。今後は一般的な産業形態とこういうアンダーグラウンドな動きがぶつかりあって、新しい動きが生まれたらすごく面白いのになと思います。

水野──もともとファッション業界全体としては予想不可能で突飛な創造力というのを寛容に受け入れてきたはずが、市場の議論優先になってきて、単に無難なものづくりにシフトしている。それがいわゆるファストファッションの隆盛となった気がします。

横山──デザイナーのコレクションなどを見ていると、やはりファストファッションや大手企業は洗練された印象を受けますね。そこと比較するとインディーズ系が魅力がなく見えてしまう、というのが自然な感覚です。

蘆田──京都服飾文化研究財団(http://www.kci.or.jp/)の蘆田です。確かに90年代以降、ファストファッションや大手のアパレルの物がそれなりにデザインも良く、クオリティも高い上に普通のインディペンデントブランドより安いので、インディペンデントブランドはそれなりの物を作っても受け入れられないという状況はあります。そうとは言ってもそのインディペンデントなブランドが見るところって服としてのクオリティと価格だけではないので、多分受け手側が服に対してどういう価値を見出していくかっていうことを考えないと、つまり受け手の意識をどう変えていくかということを考えていかないと、ファッションは更新できるのか?というところを深く掘り下げていくことが出来ないんじゃないかと思うんですね。

水野──なるほど。この一連の会議では、どちらかというと作り手あるいは売り手が抱える問題を中心に、例えばCCライセンスの話や、両者の関係性などがテーマにありました。というのも、この会議の中では、買い手となる人がすでにかなりの割合でプロシューマー的な立場として捉えられてきたからです。そしてデジタルファブリケーション。デジタル工作機械を使って物を

つくるということは、誰もが物をつくる可能性があるということですよね。そうなってきた時に、じゃあ何を持ってその価値とするのかが今は過渡期にあって分からない。今回の会議では、そこの辺りを中心に議論してきたのかなと思います。

金森──私がこの会議を始めたきっかけには、例えばCCライセンスという価値のありかたに出会ったり、私自身がファッションブランドを立ち上げて会社を運営する中で色んな時代の変化を感じてきたということがあります。加えて、「新しい欲望」というキーワードがこれまでの会議でも出ましたが、その欲望に対してファッションは何が出来るのか、ということを色んな人と議論したいと強く思うようになりました。それはファッションのデザインやファッションブランドのデザイン、あるいは小売の方法論かもしれないですが、何かしらのリアクションをしたいと。当然会議をするだけで何か結論に辿り着くとは思っていませんが、自分も含めて会議に参加した方それぞれが何らかの新しい方向にファッションを考えられるように、また次の時代に投げるボールの方向をより多様に考えられるようになったらと思っています。

【会議を終えて──水野大二郎】

 第5回ファッションは更新できるのか?会議は2013年2月23日、東京・高円寺にあるコワーキングスペース「こけむさズ」において開催された。これまで主に渋谷を中心に活動してきた「ファッションは更新できるのか?会議」が高円寺に場所を移したのは、メイカーズムーブメントにも明らかなように、一般市民の創造力が実空間のみならず情報空間の利活用によってこれまで以上に顕在化する中で、野生のデザイナーによる「等身大のものづくり」の生態系を、活動する場をつくってきた人、見てきた人、活動に参加してきた人を通してより身近に感じようという趣旨を反映させたものだ。消費社会研究家・三浦展も2000年代にその特性に注目したように、これまで多くのミュージシャンやアーティスト、デザイナーらによって維持されてきた独特の文化が高円寺にはある。個性的な古着屋が平然と並ぶ高円寺の商店街を行き交う人も高齢者から若者まで多様で、原宿や渋谷とはだいぶ異なる位相にあるといえるだろう。神戸・元町の高架下商店街にも通じる多様な文化が入り交じった雰囲気、と言えば関西の方にも高円寺界隈の独特さはお分かりいただけるだろうか。そんな高円寺の駅から徒歩2分、アパートの一室を改装した「こけむさズ」にて登壇者らはコタツに入りながら会議は進行された。街の独特なユルさが色濃く反映されたスペースで一般市民の創造性について議論が交わされたという意味において、垣根がこれまで以上に下がった中で会議は開催された。 ところで、今回の会議には非常に多くの登壇者が招聘された。鈴木清之

No.vol.5『双方性とコミュニティからうまれるものづくりの生態系 ~コスプレイヤーズ、デコラー、ユザラー、デコクロ、キタコレ、手芸~』