University of Hyogo€¦ · Web viewi-5 作用と反作用...
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ニュートン力学の概要
March 2020. Shoji
I-1 力とは何か
「力」は「作用」を表す物理量で,ゴムやバネを変形さ
せたり,物体の運動を変化させる働きです.目には見えま
せんが,我々は押されれば力の大きさや向きを感じます.
これは皮膚の僅かな凹み(変形)を感じるのです.さらに,
押されたときに支えがなければ動き出すのも「作用」で
す.
Q アリストテレスは「力が働いている時だけ物体は動く」と考えました.馬車
は馬が曳くのを止めたら止まるからです.後年ガリレオは「力が働かなければ,
物体はそのままの運動を続ける」と考えました.正しいのはガリレオです.馬
車の論理の誤りを説明しなさい.
力は大きさのある面に作用しますが、単純化
して 1 点に作用すると考えても十分な場合が多
いのです。このとき力が作用する点を作用点と
言います.
力には大きさと方向があるので,数学的にはベクトルです。図で示す場合は、
作用点を起点とする矢印で表現できます.
I-2 様々な力
[重力―地球がおよぼす力] 地球が物体を引っ張る力は重力です.方向は地球の中心(正
しくは重心)を向き,大きさは物体の質量 m に比例します.重
力の大きさを F とすると
F=m𝑔 (1.1)です.比例係数 𝑔 は(物体が加速しない場合でも)重力加速度といいます.
[弾性力―ばねがおよぼす力] 伸びたり縮んだりするばねは,もとの長さ
(自然長といいます)に戻ろうとします.その
とき,ばねは結び付けられている物体に力を及
ぼします.この力を弾性力といいます.力の方
向は変形を戻す方向で、力の大きさは変形の大
きさ𝑥に比例します.比例定数(ばね定数という)を𝑘ととすると、力の大きさ
F は、下式で表せます.F=–k𝑥 (1.2)比例定数はプラスの値で、式のマイナス符号は、変形方向と力の方向が逆だか
らです。方向を無視すると F, k, x の全てがプラスなので式にマイナスを付けま
せん。
[垂直抗力―面を支える力] 重力によって、りんごは落下しますが台の上
に置かれた本は動きません.これは台が本を支
えるからで,重力と同じ大きさで、逆方向の力
を返しているのです。この力は台が動かないよ
うにする(壊れないようにする)力なので、面に垂直で、垂直抗力と言います。
Q 力には必ず、力を作用する物体と力を受ける物体があります.重力,面を押
す力,面の抗力という3つの中で,本が受ける力(本にに働く力は)どれで
しょう.
[摩擦力―面上の滑りを邪魔する力] 摩擦が大きいと台を傾けても本は動きません。
台の面上を滑らないようにする力を静止摩擦力
といいます。滑らせようとする力と同じ大きさ
で逆方向です.この力は滑りを妨げる力なので、
力の向きは面と平行です。
I-3 力の釣り合い
本が動かないとき、本に働く力は「釣り合い条件」を満たしています。これ
は、本に働く全ての力のベクトル和をとると(ベクトルの合成)ゼロとなる条
件です。以後の式で直立太字は力などのベクトル
を表します。
傾いた台の上の本に働く力は、地球からの重力
FG、台からの垂直抗力 FR、台からの静止摩擦力
FSF の三つです。したがって本が動かない条件は
FG+FR+FSF=0、つまり図の 3 つの矢印の合成がゼロです。
[分力と合力] 右の図は 3 つの力ですが、その上の図は 4 つの
力で、重力 FG の代わりに面を押す力 F⊥と面上を
滑らせようとする力 F//が描かれています。この 2 つの図はともに正しく、右下
の図のように FG= F⊥+ F//なのです。ここでは重力を、重力と等価になる 2 つ
の力に分けて考えたので「F⊥と F//は FG の分力」または「FG は F⊥と F//の合
力」と表現します。FG は様々な分力に分けることができますが、F⊥と F//に分
けると便利でした。それは、力の釣り合い条件 FG+FR+FSF=0 を方向別に FR+
F⊥=0(面に垂直な方向)と、FSF+ F//=0(面に水平な方向)に分けて考えられ
るからです。
I-4 動摩擦力
[動摩擦力] 台をさらに傾けると、本は滑り始めます。摩擦力に限界があるからで、この
ギリギリの摩擦力を最大静止摩擦力と言います。本を面に押しつける力 F⊥に比
例し、その係数を静止摩擦係数といいます。
最大|FSF|=| F⊥| (1.3) 本が滑り落ちる間も摩擦力は働き、これが動
摩擦力です。動摩擦力 FDF も面を押す力 F_|_に比
例し、その係数’を動摩擦係数と言います。
|FDF|=’| F⊥| (1.4)通常は ’<であって、動摩擦力は最大静止摩擦力より弱くなります。このとき
本は面に水平な方向に加速し、|FDF|<| F//|です。動摩擦力は速度で変わりませ
ん。
[摩擦力をグラフで考える] やや粗い面上に置かれた物
体を水平に引く場合を考えま
す。方向は 1 方向だけなので、
力を実数(ベクトルの水平方向成分)で表します。
引く力 F に対して摩擦力 FFをグラフにします。
Q FFと F+FFがどうしてこようなグラフになるの
か.説明しなさい。途中の段差では何が起きていますか。
I-5 作用と反作用
ニュートン力学の第 3法則は「物体 B が物体 A に力𝑭F をおよぼすとき,物体 B には物体 A から
力−F(大きさが同じで逆向きの力)がはたらく」
です.これらの力を作用と反作用といいます.本
が台を押す力と台からの垂直抗力がこの関係
で FR= – F⊥です。また摩擦力は、本が台に
及ぼす摩擦力と台が本の及ぼす摩擦力が作用
と反作用の関係です。
A と B の間にばねを取り付けて力を測ります。ばねの縮みが示す力は、A に
作用する力か、B から Aへの反作用か、どちらでしょう? 実は力は一方的では
なく,物体間で相互に作用し合うのです.作用と反作用は同じ作用(力)を、
作用者の立場を変えて表現しただけです。作用と反作用は、同じ物体に作用す
る力ではないので力の和はとれません。力の釣り合いで合成した力は同じ物体
に作用している力であったから、和を取れたのです。
I-6 圧力
単位面積あたりに作用する力が圧力で
す.その 1 例が水圧です.図は自由に動
くピストンがついた太いシリンダーと細
いシリンダーを水で満たし,パイプで繋げた様子です。これで同じ高さの圧力
は同じになります。太いシリンダーのピストンを質量 m1の重りで抑えます。
これに対して細いシリンダーのピストンを抑えるのは、質量 m2 の軽い重りで
十分です。圧力が等しいならば「面積あたりの力」が等しくなるので、それぞ
れのピストンの面積を S1 と S2とすれば、m1/S1=m2/S2 になるからです。
Q 「面積あたりの力」でいう「あたり」とはどういう意味か
説明しなさい.
水圧の方向は面に垂直で、大きさは、同じ深さであれば同
じです。図のような三角の物体であれば、面に垂直な力を 3方向から受けます.
Q 図のような縦長の円柱を水槽に沈めた。上面から作用する
水圧と、下面から作用する水圧の絶対値(圧力の大きさ)は
どちらが大きいか?それはなぜか?
II-1 ニュートン力学の第1,第2法則
ニュートンの第一法則は「物体
は力が働かない限り,そのままの
運動を続ける」です.平らで滑ら
かな氷面上を走るカーリングス
トーンは次第に速度を落とします
が,これは摩擦があるからです.摩擦がなければストーンはどこまでも直進し
ます.
ニュートンの第二法則は力と加速度,質量の関係を示したものです.加速度
を a, 力を F,質量を m として式で表現すると
F = m a (2.1)
という式になります.ここで加速度 a は単位時間あたりの速度の変化で,方向
を持つベクトルです.速度 v もベクトルです。この質量は、運動の変えにくさ
で「慣性質量」といい、式(1.1)の質量は重力の係数で「重力質量」といいます。
2種類の呼び方は役割を示したのであり、これらは同じ質量なのです。
第二法則から第一法則を導出できます.力がゼロであれば加速度もゼロで,
速度は変化しません.「そのままの運動を続ける」というのは「速度が変化し
ない」という意味です.摩擦がないならば、カーリングストーンに作用する力
はゼロで、ストーンは速度(方向と速さ)を変えないのです。
II-2位置,速度,加速度;時間あたりの変化量
加速度は速度変化を時間変化で割ったもので a = dv/dtとなります。「d」は
微小変化を表す記号で、dtは時間の微小変化量、dv はこの微小時間内の速度の
変化です。この、微小変化の比をとる操作が微分です。加速度と速度以外に位
置 x もベクトルで速度は位置の変化率です。位置を表すには基準点が必要で、
位置は基準点からの移動量で示します。移動
量は距離と方向を持つのでベクトルになりま
す。この位置をすると速度は v = dx/dt と表
せます。
Q あなたの現在位置を、基準点を前提とせずに誰かに説明してください。でき
ないのであれば、できない理由を考えなさい。
II-3 積分計算
ここで扱うのは 1次元の運動(力も運動も同一直線上)なのでベクトルでは
なく実数を使い、位置を x,速度を v,加速度を a,時間を t で表します。そし
て「加速度が一定」の運動をグラフに図示します.まずは、微分積分の知識が
なかった 17世紀に、物理学者ガリレオが行なった計算方法を試してみましょ
う。
横軸を時間 t,縦軸を加速度 a として描いた図を a-t 図と言います.時間に対
して加速度は一定値 a0 でなので図 1a になります.次に,横軸は t のまま縦軸を
速度 v とした v-t 図を描きます.v は時間とともに一定割合で増え続けるので,
図 2a になります.最後に,縦軸を位置 x とした x-t 図を描きます.時間ととも
に「変化割合=傾き」が大きくなっていくので、図 3a のような曲線になります。
図 2a の当たり前の結果を積分の考え方で説明します。まず「d」の代わりに
図で示せる程度の微少量を示す「」を使います。微少時間内t内の速度増加v
は v = a t (2.4)です。これを a-t 図で面見ると、図 1b の濃い斜線部分の面積になります.さら
に 0 から t までの速度増加はこの時間区間の面積(粗い斜線部分)です.
位置変化は図 2b の三角部分の面積になります.この面積計算は積分になって
います.この教科書では扱いませんが,関数と式を使って面積を求めることで,
より複雑な動きも扱えます.
Q ガリレオは図 2b のように
面を同形の三角形に分割して,
その数を数えることで面積比
を計算しました.時間 1 マス
の 小 三 角 形 の 数 は ,
1,3,5,7,,と奇数です.そこで斜面に図のようにベルを置いて球を転がし
ました.人々は,球がベルを通過する際に出す音の間隔の規則性に驚きました.
その音の間隔はどんな間隔だったでしょう?
II-4 平均速度と瞬間速度(微分計算)
[平均速度] 次に説明するのは微分で,積分とは逆に x → v → a と遡っ
て計算します.まず以下の前提を確認してください。
1)x-t 図を「x は t の関数である」と考えて x(t)と表現する.
2) スタート時の時刻と位置を t=0,x =0 とする.x (0)=0.
3) 時間の単位を秒(s)、位置の単位をメートル(m)とする。
4) 定数 k= 1 m/s2 を使い、x(t)=k t2 とする。
Q 移動時間をt、移動距離をx
とすると平均速度は<v>=x/t
です。上の条件で t= 2s から
t= 4s 間の平均速度を求めなさ
い。
[瞬間速度] 微分が与えるのは瞬間速度で,
t を短くしていった極限で定義
図 1a 加速度 a は一定 図 2a 速度の時間変化 図 3a 位置の時間変化
図 1b 面積が速度変化 図 2b 面積が位置変化
a = dv/dt (2.2) v = dx/dt (2.3)
できます.図 3b を例に t=2s からt を小さくしていくと平均速度がどう変るか
を図 4 に示しました.t を 3s から 2s,1s と小さくするのに従って,平均速度
(2点を結ぶ直線の傾き)は小さくなっていきt =0 におけるx/t の値は 4 m/s でこれが瞬間速度です.図 3b から,瞬間速度は x-t 図の曲線の接線の傾き
であることがわかります.
以上の定義を式で表し,定性的ではなく定量的に数値計算します.式表現は
v(t)= lim∆t →0
x (t +∆ t )−x (t)( t+∆ t )−t
(2.5)
となります.やや面倒ですが lim は極限(limit)を意味する数学記号です.この
式を x(t)=kt2として計算します.
x (t+∆ t )−x (t)(t+∆t )−t
= k (t +∆ t)2−k t2
( t +∆ t )−t=2kt ∆ t +k ∆ t 2
∆ t¿2 kt+k ∆ t
(2.6)なので, t を 0 に近づけた極限(瞬間速度)は簡単に計算できます.それは,
v(t)= 2kt (2.7)です.この操作が微分で「関数 v(t)は関数 x(t)の時間微分」と表現します.
[瞬間加速度] 加速度は速度変化なので
加速度 = 速度増加/増加時間 a=v /t (2.8)であり,瞬間加速度も同じように計算できます.
a(t)= lim∆ t →0
v (t+∆ t )−v( t)(t+∆ t )−t
= lim∆ t →0
2 k (t+∆ t )−2 kt(t +∆ t )−t
= lim∆ t →0
2k ∆ t∆ t
(2.9)
なので,
a ( t )=2 k (2.10)
です.つまり,この 2k が一定値の加速度 a0なので,結局位置を表す関数は
x(t)= ( a0
2 ) t2 (2.11)
となります.Q 力が一定ではなく増加する場合の位置は、定数 b を使うと x(t)=bt3 という形に
なります。この式を微分して a(t)を計算しなさい。