海外でTPSを教えることの難しさ - ESD21 · 2019. 12. 18. · できない。...

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海外でTPSを教えることの難しさ KEアシスト 代表 川口 恭則 目次 1.海外への技術移転 (1)課題 (2)コミュニケーションの難しさ (3)課題克服のポイント 2.トヨタ生産方式(TPS) (1)原点 (2)ブレークスルー (3)トヨタ生産方式の構造 (4)基本となるマネジメント 3.TPSの指導 (1)モノ造りに必要な知識 (2)TPSの企業文化・価値観・行動指針 (3)T社における目で見る管理 (4)品質&造り方・生産性 4.よくある失敗事例 5.改善事例

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海外でTPSを教えることの難しさ

KEアシスト

代表 川口 恭則

目次

1.海外への技術移転(1)課題(2)コミュニケーションの難しさ(3)課題克服のポイント

2.トヨタ生産方式(TPS)(1)原点(2)ブレークスルー(3)トヨタ生産方式の構造(4)基本となるマネジメント

3.TPSの指導(1)モノ造りに必要な知識(2)TPSの企業文化・価値観・行動指針(3)T社における目で見る管理(4)品質&造り方・生産性

4.よくある失敗事例5.改善事例

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1) 突然に遭遇する異質な中でのグローバル生産

① 海外進出の理由:・ 親企業が進出するから付いて行く

・ 最近はサプライヤーも出て行く・ 国内市場の縮小・ 海外で販売量を稼ぐ

② 海外で生産するということ・ 従業員が外国人

・言葉/習慣/宗教/考え方・基礎知識・能力の差・商習慣の違い・国内本社との関係・地域社会との協調

1.海外への技術移転

(1)課題

共通の認識(価値観、行動規範)

日本

米の事例

就社新人を育てる

暗黙知

就職出来る人を雇う

形式知経営スタイル

海外事業体

日本語 英 語言語

違いを嫌う 違いを楽しむ価値観

伝達効率20%以下

(2) コミュニケーションの難しさ

参考出典: Geonexus Communications, Inc.

コミュニケーション(言語、非言語、通訳)

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1.絶対的な価値基準を持つ。

(黒/白、善/悪)

2.明確な表現が求められる。

3.責任の所在は契約によって決まる。

4.合意内容は文書化され保存される。

5.業績考課。

6.個人主義が尊ばれる。

7.クレームを受けた場合、弁解/弁明を

する傾向がある。

8.議論が本題から外れそうになった時など、

適当なタイミングで話を遮ることも許される。

9.論理的に物事を決定することが理想と

される。(例、ビジネス上の契約に際しては

厳然たる事実や価格が判断基準になる)

10.物事を部分部分に分けて認識し、各部分

は別個のものと捉える。

11.沈黙は気まずさを生む。(沈黙はコミュニ

ケーションの一時的な断絶を意味する。)

1.価値判断は相対的なものである。(何か善であり、何か悪であるかは状況によって変わる)

2.あいまいな表現が許容される。(言葉によらないコミュニケーションが同時に進行し、補完的に作用する。)

3.責任の所在は特に取り決めによらない。組織内部で自ずと了解されている。

4.合意事項を文書化することが、それほど重視されない。

5.情意考課。6.通常、集団の和が重んじられる。7.クレームに対し、まずは謝り、事実関係は後で明確にする傾向がある。8.特に目上の人物の話を遮るのは失礼と見なされる。9.物事の決定に感情が挟まることがある。10.一つ一つの物事が他の事柄とどのように係わり合っているかを認識し、全体像をとらえようとする傾向がある。11.沈黙に対して特に居心地悪さを感じない。(沈黙していても意思を通わせることは可能)

低コンテクスト文化 高コンテクスト文化

(by エドワード T. ホール)

1) 低コンテクスト文化と高コンテクスト文化

モノクロニックな文化(デジタル) ポリクロニックな文化(アナログ)

1.約束の時間や期日に厳格である。2.時間厳守が強調される。3.プランに忠実である。4.物事の処理は一つずつ行い、現在の案件が済んでから次に着手する。

5.公私の人間関係をはっきり区別する。6.グループで飲む場合、それぞれが別個に

注文し、各自グラスに注いで飲む。7.職場では各々が情報を保持・管理し必要と思われる場合にのみ同僚に伝える。

8.個々の職務責任は明確に決められている9.個人所有を尊重する。貸し借りはほとんどしない。

1.時間や期日は絶対的なものでなく、一つの目安だと考える。

2.予定通りに物事を行うかどうかは状況次第3.事情によってしばしばプランを変更する4.複数の仕事を同時に進める。5.仕事とプライベートの境界線があいまい6.グループで飲む時は大ビンで注文し、それを互いのコップに注ぎ合う。

7.情報は一箇所に滞留せず、スタッフ皆に伝わり、共有される。

8.グループ内で責任を共有する。9.他者と相互依存の関係にあり、物心両面で助け合う。そこに「恩」「義理」といった概念が介在。

「ポリクロニック(複線的時間感覚)」な文化

(by エドワード T. ホール)

2) 時間に関する感覚

(参考) 他にも、「権力格差」に基づく分析もある。

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3) 現場で使われる言語の問題

日本人マネージャートレーナー

現地人マネージャー

現地人職制

一般作業者

現地事業所日本本社・指導員

英語

英語

英語 現地語

現地語

現地一般作業者に届くには最低2回の翻訳が入る日本人の考えが正しく翻訳される保証は無い

日本語

翻訳日本人の意向は正しく作業者に伝わるか

海外生産事業体

◆転社により昇給

(引き抜き、退職・・・)

◆契約内容に依存

(職務で規定・契約の充実度)

日本

◆一つの会社で

ずっと働き続ける

◆職能(属人的)

上司:豊富な経験(経験: 上司>部下)

上司・部下の経験差少上司・部下の経験差少(経験:(経験: 上司<部下上司<部下 も有る)も有る)

仕事の

内容・進め方

社員の流動性

(労働慣習)

中途採用徒弟制度(新人を教育)

文化/価値観 ◆会社に忠誠心 ◆個人中心/契約社会

(改善を積み重ねる・

人にノーハウが蓄積)

- 労働習慣の違いによる従業員の質の差 -

4)労働習慣の違い

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5) 労働に対する価値観の違い

日本は唯一欧米列強の植民地にならなかった国

他の有色人種は、欧米文化(キリスト教)の影響を強く受けている

・死の前に平等 ・唯物神

・生有るもの全て平等 ・神の前の平等

・和を以て貴しとする ・敵と味方を分ける

・足を知る ・力の理論

・仕事はそれ自体貴いもの ・仕事は生活のための手段

日本の文化

(神道、仏教)

欧米の文化

(キリスト教)

(3) 課題克服のポイント

言葉も文化も異なる中での指導は、共通の価値観を構築し、単純明快なコミュニケーションを行うことが必要

最重要価値観:人間尊重=相手を認めること(RESPECT)

すなわち、違いを認めることから始める

改善は、現状を否定する活動である。それだけに下記の注意が必要。

まず、現状を認める。現状は、今までその会社の先輩達が長い年月をかけて築き上げた

もの。いきなり否定されては感情が優先し話をそれ以上聞いてくれない。改善提案は、理由・メリットを明確にして合理的に説明、納得させて

進める。

TPSは、従来の造り方を180度変えるしくみである。それを受け入れる理解力と度量を持った経営者の下で忍耐強くその魅力を納得させる活動が要求される。

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1937年 (昭和12年) トヨタ自動車工業㈱設立

1950年 (昭和25年) 経営危機/労働争議・人員整理

① 日本経済、戦後インフレ対策により不況にトヨタも在庫の山、販売不振、資金回収難

② お金もモノも技術もなく「人」だけしかなかった時代

・工業生産性は米国の1/9

・量の拡大が期待できない

<参考> 1950 GM 3,656千台(米国生産分)

トヨタ 11千台

多品種少量生産であった

① 徹底的なムダの排除

② 売れるモノを売れる時に売れるだけ造る

(ジャスト・イン・タイム 生産)

③ モノをつくる前にヒトをつくる

(1) 原点: 戦後の町工場から自動車の本場アメリカの大企業に挑んで編み出した造り方

11

2.トヨタ生産方式

自働化 ・ 造るモノは100%良品

・ 悪いモノは後工程に流さない

ジャストインタイム・ 必要なモノを

・ 必要な時に・ 必要なだけ

生産・供給

<トヨタ生産方式の2つの柱>

① 徹底的なムダの排除

② 売れるモノを売れる時に売れるだけ造る

(ジャスト・イン・タイム 生産)

③ モノをつくる前にヒトをつくる

(2) ブレークスルー

規模による競争力の差の克服

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1) 基本となる考え方:自働化

G型自動織機

縦糸

ドロッパー

概要

① 異常が発生したら、すぐに機械を止め知らせる

② 単なる機械の監視から作業者を開放する

後工程に不良品を送らない

人間の能力を付加価値を生む別の仕事に活用する

自動杼シャトル交換機 ドロッパー

<良品質の製品を安価で提供することで世界を席巻したトヨタの織機(第2次世界大戦前)>

13

経営に直結した全社的製造技術

自働化・ 悪いモノを造らない・ 造っても後工程に

流さない

経営哲学・行動指針(トヨタウェイ)・ 徹底的なムダの排除 (継続的改善)

・労働の価値全部を活用 ・廃物の出ない生産・ 人間の能力の最大活用 (人間尊重)・ 治療より予防

JIT(Just In Time)・必要なモノを・必要な時に 生産・供給・必要なだけ

● 淀み(停滞)のない、流れるような生産の実現● TPS は日本のモノづくりの基本。● ”de facto standard “ となって、多くの企業の生産方式を開発

するうえで参考にされている。

(3) トヨタ生産方式の構造

参考文献: Taiichi Ohno (CRC Press) 14

リーン生産方式として世界中で研究

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第2次世界大戦

敗戦

日本の戦後復興のためにGHQによる

工業立国になるための品質教育導入

1.競争力を保つため、製品やサービスの向上を常に心がける環境を作る。

2.新しい哲学を採用する。遅延、間違い、材料の欠陥、作業の欠陥

などの一般常識となっている水準には満足できない。

3.全品検査への依存を止める。4.価格だけに基づいて業者を選定することを

止める。価格と品質によって選定する。5.問題を見逃さない。

全体(設計、受け入れ材料、製造、保守、改良、トレーニング、監視、再教育)を継続的に向上させるのがマネジメントの役割である。

6.OJTの手法を導入する。7.職場のリーダーは単に結果数値では

なく 品質(プロセス)で評価せよ。

8.社員全員が会社のために効果的に作業

できるよう、不安を取り除く。9.部門間の障壁を取り除く。

研究、設計、販売、製造の各部門の人々は様々な問題に一丸となって対応しなければならない。

10.数値目標を排除する。新たな手法も提供せずに生産性の向上だけをノルマとしない。

11.数値割り当てを規定する作業標準を排除する。

12.時間給作業員から技量のプライドを奪わない。

13.強健な教育プログラムを実施する。14.最高経営陣の中で、上記13ポイントを

徹底させる構造を構築する。

<デミング博士の14のポイント> デミング博士等による指導

1) デミング博士の教え

(4) 基本となるマネジメント

① 企業の目的

会社(繁栄)

お客様(CS)

従業員(ES)

日本的経営

QC

QC QC

・製品の品質

・サービスの質 など・仕事の質

全ての品質の幅広いコントロール(統制、管理)

QC (Quality Control):

⇒ お客様の求めるモノ・サービスの提供

社会への貢献

⇒企業の利益・会社の発展

⇒雇用の確保・従業員の幸福

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2) トヨタのマネジメント(デミング博士の教え+日本の文化)

(参考) 欧米会社は株主のもの。

企業活動の目的は株主のための金儲け

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トヨタ 欧米

評価 組織の能力と結果 結果

評価指標財務指標+非財務指標

量指標と質指標

財務指標

量的指標

評価の視点 適切な中長期期間 しばしば短期間

アプローチトップダウンとボトムアップ

全員参加トップダウン

活動スタイル継続的改善

PDCAを回す

ゼロスタート

毎回PDC

(結果による管理)

② プロセス重視

企業の生産活動(安全、品質、原価、生産性、労務、保全、環境)

品質(品質は工程で造り込む)

固有技術・管理技術

(生産技術、製造技術、TPM、TQC)

企業文化・価値観・行動指針

(安全最優先、現地・現物・現実、人間性尊重、チームワーク)

海外のモノ造りと日本のモノ造り

共通の部分

異なる部分

(1)モノ造りに必要な知識

生産性(JIT生産・改善)

伝え難い部分3.TPSの指導

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(2) TPSの企業文化・価値観・行動指針

1) 全員参加のマネジメント① 職場環境

・方針・現状の共有化・チームワーク重視・努力すれば報われる職場

② 分かりやすい管理による言葉の壁の克服・自律分散の仕事のしくみ

・標準作業と異常管理・目で見る管理

・5S ・標準化 ・異常の見える化・現地・現物

2)プロセス重視① 有るべき姿に向かっての地道な改善の積み重ねを評価② 人材育成重視

3)人間尊重① 安全最優先② 現場は性善説(生産準備は、性悪説でしくみ・設備を造る)

1) 情報(方針、販売、生産、品質 ・・・)の共有化と共通認識

① 情報の見える化 (目で見る管理) ② チームによる改善

管理者 監督者 作業者

共通認識

・知恵の交換

・知識・技能の伝授

QCサークル発表会

<個人の人間性尊重とチームの総合力発揮>

全員参加のマネジメント: 事例1

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<頑張れば報われる職場>

② 専門技能修得制度

(認定者公示ボード)

① 表彰制度

(表彰者紹介)

全員参加のマネジメント: 事例2

(3) T社における目で見る管理

<異常管理>

・ 5S ・ 標準化 ・ 自工程完結

○ 正常状態維持

○ 異常管理

ホウレンソウ

報告・連絡・相談

上司 関連部署監督者

・改

・再発防止

技能員

・アンドン ・定位置停止 ・生産管理板

全員で

問題解決

誰でも問題点が分る考える力

コミュニケーション

見える化

自律分散

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アンドン (ラインの異常の管理ツール)

使い方解説

生産管理板

アンドン観察

工程観察

異常の多いライン

・ゾーン

工程の特定

事例1 異常の見える化のしくみ

・言葉が不自由でも現場の異常把握、問題解決ができる

事例2: 生産管理板

ライン名: 02ライン #2 チームリーダー:□□ 日付: 07/15必要数

900個/直タクト タイム

40 秒/個シフト: 黄作業者数: 15

時間

計画 実績

問題/原因時間当たり/累積

時間当たり/累積

06:00~07:00 90/90 90/90

07:00~08:00 90/180 88/178 チョコ停

08:10~09:00 75/255 75/253

09:00~10:00 90/345 82/335 外観不良

10:00~11:00 90/435 90/425

11:00~12:00 90/525 90/515

生産管理板

ホットタイム

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「生産の進捗管理」 + 「現場と管理・監督者のコミュニケーションツール」

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事例3 日々の可動率管理

可動率管理表

3/1 3/2 3/3 3/4 3/5 3/6 3/7 3/8 3/9 3/10 3/11 3/12 3/13 3/14 3/15 3/16 3/17 3/18 3/19木 金 土 日 月 火 水 木 金 土 日 月 火 水 木 金 土 日 月

163 157 157 157 157 157

163 157 157 157 157 157

可動率 98% 97% 97% 99% 86% 96%ラインストップ(分) 9 15 15 5 70 16稼働時間(分) 465 455 455 445 510 456残業時間(分) 10 0 0 0 55 1

ライン終了時間 15:40 15:20 15:20 15:10 16:25 15:31

157 156 156 156 144 157

157 156 156 156 144 157

可動率 97% 95% 100% 100% 95%ラインストップ(分) 15 25 2 1 23稼働時間(分) 455 462 439 438 451残業時間(分) 0 7 0 0 0

ライン終了時間 2:20 2:37 2:04 2:03 2:16

2

指示台数生産実績

直日付

曜日

指示台数生産実績

1

75%

80%

85%

90%

95%

100%

3/1 3/2 3/3 3/4 3/5 3/6 3/7 3/8 3/9 3/10 3/11 3/12 3/13 3/14 3/15 3/16 3/17 3/18 3/19

可動率

目標値

設備故障

1直2直

4)品質&造り方・生産性

項目 トヨタ生産方式 欧米生産方式

考え方 品質保証・不良の未然防止・不良ゼロを狙う

品質管理・不良はある確率で発生・不良は検査で撥ねる

ツール 自工程完結QAネットワークQCMS

Quality CheckManagement System

SQC(統計的品質管理)シックスシグマ 等

造り方・生産性

考え方 JIT・必要なモノを必要なときに必要なだけ造る

製造側の造りやすさ優先・一度にまとめて造る

造り方の原則

・1個ずつ流れで造る・後補充生産・売れる速度で造る

・ロット生産・押込生産・造れるときに造る

指標 ・可動率・1人工作業

・歩合

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良品を造り込むための工程ごと(個々の作業点・加工点)の要件が明確で、

そのために必要な維持管理が実施されている状態

・後工程はお客様

・不良ゼロの工程

・後工程への

不具合流出ゼロ

1) 品質

自工程完結工程毎に

確認のしくみ

自動機工程能力の確保

(Cp, Cpk)

検査

良品条件の維持管理

① 自工程完結の概念図

海外では、不良はコスト(不良発生を無くすより検査で撥ねる方が安い)で有るという考え方が強く、理解させるのは難しい

2) JITは問題を見え易くするツール

① AB制御

・AB制御 → 工程から標準手持ちを搬出しても良い条件A点 ・・・ 製品ありB点 ・・・ 製品無し

A点 B点

工程

製品の流れ

1台の設備停止でも全体のラインが停止

設備停止

アンドンで異常を全員に通知

AB制御で構成したライン

リアルタイムでラインの異常を発見

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進捗管理

生産計画

計画の悪さ

品質トラブル・手直し

(含、安全・環境)

段取替えに時間がかかる

人員配置のアンバランス

(含む、技術・技能

の未熟)

生産技術の悪さ(含、製品技術との関係)

設備・工程間能力のアンバランス(不均衡)

モノの流し方・レイアウトのアンバランス

生産形態(工法)の誤り

設備故障・チョコ停(頻発停止)

「計画管理のまずさ」

(含、リーダシップ・

コミュニケーション不足)

在庫が多いときは多くの問題点が表面化しません

在庫が減ると多くの問題が露わになる 水位(在庫量)

② 理由の無い仕掛品在庫は持たない

中間在庫は少なく

・ロットサイズは実力を上げて低減(理想は1個)

・不良は基本的にゼロを目指す

③ リアルタイムの進捗管理

<事例: T社の生産管理システム>

生産の特徴 ・モノが情報を持って生産ラインを流れる  → 作業者はモノを見て作業を判断 ・平準化するために、1日の生産必要量は  1ヶ月間同じ  → 生産の遅れ進みが製造現場にも   わかりやすい    部品工場、協力工場とも必要量が   共有される ・カンバンを使って必要量変動の微調整を  実施  → カンバンを在庫の状況を見て現場で    進捗管理ができる(自律分散)

平準化ワークAワークBワークC

溶接ライン 塗装ライン 総組立ライン

部品工場 協力メーカープレス工場

カンバンカンバン

生産計画: 稼働日と1ヶ月分の生産量を関係全社に提示(前月25日)

生産指示: 平準化した情報を溶接ラインに1台ずつ順番に1日分

コンベアの速度は 1日の必要量を定時で造りきる速度遅れた分は、残業して造りきる。

まとめ生産平準化

平準化 → どのライン、仕入れ先にも売れの速度が伝わる(同期化)

モノが情報を持って走る。作業者はモノを見て作業を判断

カンバンと在庫情報を見て現場で進捗管理ができる

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出展: 中堅・中小・町工場向きのJIT経営入門“わくわくJIT研究”第1ラウンド報告“ 三恵社 発行

1) TPSの改善のほとんどは余力を生み出すが、直接利益を生み出すものでは無い。余力を活用して初めて利益を生み出す。

欧米式改善: 改善→余力→余剰人員解雇・余力埋没→改善意欲減退

4.よくある失敗事例

トヨタ生産方式と欧米の生産方式の違いが理解されず、下記のようなトラブルが発生する。

事例: ・出来高が上がったから給料を上げてくれという要求・異常が有ってもラインを止めてくれない・改善を行ってもすぐにもとに戻る

トヨタ生産方式 欧米・ 改善によりムダをつぶし正味作業を

増やす・正しい仕事のしかたを教えるのは

上司の役割。失敗するのは、正しい仕事のやり方を教えていないから。

・歩合給(個人の頑張り)

・失敗は作業者の責任。罰する

・異常発生時、ラインを止めて不具合を治す

・ラインを止めるのは悪。

<生産性向上活動の進め方>

時間をかけて、共同作業をやりながら作業者との信頼関係を構築。改善により小さな成功体験を積み重ね、理解を得る活動が必要。

2)欧米文化の会社でのTPSの指導

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「ローコンテクスト文化」のコミュニケーション

・ コミュニケーションに占める「言葉自体」のもつ重要性が大(文脈の中で理解する日本型、言葉自体で理解する欧米型)

・ 言葉の意味が厳密/狭義に規定されている

・ 口約束は契約とみなす日本流、書かれたものだけが契約の欧米流

・ 「説明責任」 が重要な意味を持つ

・ 説明は常に「結承結」で

・ 沈黙は金からの脱却 (コミュニケーションの破綻を意味)

日本

中国

アラブ

ギリシャ

イタリア

イギリス

フランス

アメリカ

スカンジナビア

ドイツ

ドイツ系スイス

ハイコンテクスト ローコンテクストメキシコ

5.改善事例: メキシコのローカルメーカー指導経験を通して

a.改善の洗礼を受けていない企業・整理・整頓の実施・社長以下に活動の動機付

・TOPダウンの5S推進組織構築・従業員全員への社内教育を実施

b.改善の洗礼を受けている企業・活動のマンネリ状態からの打破

・重点目標が「躾」であることを再確認

<文化の壁を越える企業文化の構築>

・ノーハウの整理と文書化・管理資料の見える化による現場情報の共有・日本的マネジメント手法(アメリカとの合弁企業)

重点指導事項

① 5S活動を中心に展開

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海外でもチームワーク作業が可能であることを実証

チームワークの基本は、個人が力を合わせ、協力して一つの共通の目的を達成すること。

工場運営のしくみとして、個人が力を出せば共通の目標を達成できるしくみを考えた。

② チームワークの構築

E社における実施事例(次スライドで説明)

STEP1: 活動目標の統一

STEP2: 現状の課題を可視化

STEP3: チームで改善

ステップ1) 活動目標の統一:

(改善前)

製造ライン指標

生産が止まってから生産開始までの時間

保全指標OEE、MTBF、MTTR設備修理時間 等

製造ライン生産性 設備故障時間・頻度

設備が故障しても保全マンがなかなか来ない保全マンは、自分が納得するまで時間をかけて直す

対立

(改善後)

・ 保全組織を製造部に編入し、メイン指標を製造ライン指標に統一

・ 生産が止まってから保全が駆けつけるまでの時間を管理指標に追加

指標を「製造ラインの生産性向上」に統一

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ステップ 2) 現状と課題を見える化

日々のライン生産状況と課題を現場で誰でも見えるようにして関係者全員が共有

生産管理板;時間毎の生産の遅れ進みと停止原因

日々の可動率の変化

型の段取り替え時間の実績推移

ステップ3) チームで改善

生産管理板の情報を活用。各担当部署に改善計画を展開

型交換時間短縮 ⇒ 型交換班

設備異常対策 ⇒ 保全班

型異常対策 ⇒ 型整備班

チーム活動

設備故障によるライン停止時間短縮活動(E社)

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メッキ液管理の見える化

③ 品質

課題: 「不良はコストである」からの脱却

自工程完結のしくみづくり= 良品条件の管理状況を見える化

お疲れ様でした