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Title NiAs型遷移金属化合物の電子状態と物性(修士論文 (1998年度)) Author(s) 川上, 卓也 Citation 物性研究 (2000), 73(4): 789-803 Issue Date 2000-01-20 URL http://hdl.handle.net/2433/96755 Right Type Departmental Bulletin Paper Textversion publisher Kyoto University

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Title NiAs型遷移金属化合物の電子状態と物性(修士論文(1998年度))

Author(s) 川上, 卓也

Citation 物性研究 (2000), 73(4): 789-803

Issue Date 2000-01-20

URL http://hdl.handle.net/2433/96755

Right

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Kyoto University

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物性研究 73-4(2000-1)

修士論文 (1998年度)

NiAs型遷移金属化合物の電子状態と物性

岡山理科大学大学院 理学研究科

応用物理学専攻 量子物理研究室 川上 卓也

目次§1.はじめに

§2.結晶構造

§3.CrTe、CrSe、CrSの電子状態と圧力効果

3.1 CrTeの電子状態と圧力効果

3.1.1分散曲線 と状態密度

3.1.2全エネルギー

3.1.3磁気モーメン トと圧力効果

3.2CrSe、CrSの電子状態と圧力効果

§4.NiAsの電子状態とフェル ミ面及び deHaas-vanAlphen効果

4.1バンド計算

4.2NiAsの分散曲線 と状態密度

4.3フェル ミ面とdHvA振動、サイクロ トロン質量

§5.まとめ

参考文献、論文 リス ト

謝辞

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川上 卓也

§1.はじめに

3d遷移金属元素とⅥ族のS、Se、TeあるいはⅤ族のAs、Sbから作られる1対 1の化合物

(MX)の多くは高温でNiAs型結晶構造をとる。種々の M とⅩの組み合わせの違いによ

り、各物質が示す強磁性、反強磁性、非磁性などの多彩な磁気配列と、Mn、Co、Fe-アル

セナイ ドの常磁性帯磁率の温度変化にみられる異常な振舞いに古くから関心がもたれ

てきた。従来は、これらの物質の磁性は局在スピンモデルに基づいた分子場理論で議論

されてきた。 しかし望月等 1)は、これらの物質の磁性に重要な役割を担 うd電子を電子

相関のかなり強い遍歴電子として捉えなければならないと考え、特に NiAs型プニクタ

イ ドをとりあげ、一連の化合物の電子状態をAPW(augmentedplanewave)法による第-原

理バンド計算によって求めた。さらに、異なる磁気配列、常磁性帯磁率の温度変化の異

常、NiAs型からMnP型-の構造変化の起因が、物質によって異なる電子帯構造の特徴

を考慮した理論によって説明できることを明らかにした。有限温度の扱いではスピンの

ゆらぎの効果の重要性も取り入れられている。さらに NiAsについてはバンド計算の結

果からA軸の周 りに cylindricalなタイプの二つのホール面と、やや複雑な一つの電子面

の存在を予想 している2)。また、C.Haas3)のグループでもNiAs型化合物のバンド計算を

ASW(augmentedsphericalwave)法を用いて行い、とりわけCrカルコゲナイ ドについてバ

ンド計算に基づいた磁性と輸送現象の研究が行われた。

Cトカルコゲナイ ドの磁性に関する実験的研究は金子等 4)のグループによって精力的に

進められてきた。CrTe、CrSe、CrSの中ではCrTeだけが唯一強磁性体でそのキュリー温度

はTc-343Kである。CrSe、CrSはTN-320K、500Kの反強磁性体であると報告されている。

最近、磁性体の圧力効果に関する実験が盛んになってきたが、鹿又等 5)はCrTeに圧力を

かけることによりTcの減少と磁気モーメントの急激な減少を見出した。また、旧ソ連の

V.A.Shanditsev等 6)はESRの線幅の変化から28kbarの圧力下で強磁性が消滅して他の磁

気構造が実現しているのではないかと指摘している。我々は圧力効果の実験に刺激され

て以前にLAPW(linearizedAPW)法を用いたバンド計算を行い、格子定数の変化によるバ

ンド構造の違いから圧力効果を議論して、CrTeでは圧力誘起強磁性-反強磁性転移の可

能性があることを指摘した 7)。最近、大阪大学の石塚等の測定によって CrTeは 16GPa

の圧力下で磁化が消失していることが観測された 8)。一方、NiAsはNiAs型遷移金属化

合物の中で低温まで磁性を示さない唯一の物質である。NiAsの電子状態に関する測定は

J.W.Allen等 9)が光電子分光法の測定でNi-3dのスペクトルを観測している。そして近年

東北大学上村グループの野末氏により良質の単結晶を用いてdeHaas-VanAIphen(dHvA)

効果の測定 10)が行われ、外部磁場の方向の関数として多くのブランチのdHvA振動が観

測された。

本研究では self-consistentfullpotentialLAPW(以下 FLAPW という)法を用いて CrTe、crse、crsのバンド構造を非磁性、強磁性、反強磁性状態のそれぞれに対して行い、圧力

効果を調べた。格子定数を変化させて、それぞれの格子定数のもとでバンド計算を行う

ことで圧力効果を考慮した。また NiAsは非磁性状態のバンド計算を行い、その結果を

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もちいてフェルミ面を描いた。さらにそのフェルミ面から予測されるdHvA振動の角度

依存性を計算して測定結果との比較を行った。

§2.結晶構造

NiAs型遷移金属化合物の結晶構造を図 1に示す。三角格子を作る遷移金属元素の層の

間に三角格子を作るカルコゲンやプニコゲン元素(Ⅹ)の層が入りこんでいて、それらの層

は C軸方向にABCABC-・と積み重なっている。単位胞にはCr元素が2個(1、2)、Ⅹ元素

が2個(3、4)が含まれる。空間群はD46h(又はP6,/mmc)である。格子定数を以下に示す。

CrTe:α-3.981A c-6.211A c/α-1.56

CrSe:α-3.684A c-6.019A c/α-1.63

CrS: α-3.348A c-5.590A (:/α-1.67

NiAs:α-3.60A c-5.01A c/a-1.39

§3.CrTe,CrSe,CrSの電子状態と圧力効果

バンド計算

バンド計算は FLAPW 法を用いて行 う。交換項と相関項に対しては局所密度汎関数近

似(LDA)を用い、0.Gum∬SSOnとB.Ⅰ.Lundqvistll)により定式化されたものを用いる。軌道

量子数はImax-7までとり、逆格子ベク トル GはIk+Glmax-(27t/a)×3.199までとった (kは

ブリルアンゾーンの波数ベクトル)。 以上のパラメーターのもとでは補強する平面波の

数は約 300となる。

出発点の電子配置としては以下に示すものをとった。

非磁性 Cr(34)5(4S)1Te(5S)2(5p)4se(4S)2(4p)4

S(3S)2(3p)4

強磁性 CrT(34)3・8(4S)0・5 TeT(5S)1(5p)2

crJ(34)112(4S)0・5 Tel(5S)1(5p)2

seI(4∫)1(㊥)2

sei(4S)1(4p)2

sT(3S)1(3p)2

si(3S)1(3p)2

反強磁性 Cr(1)I(34)3・8(4S)0・5 cr(2)†(34)1・2(4S)0・5cr(1)1(34)i・2(4S)015 cr(2)1(34)3・8(4S)0・5

- 79 1 -

TeT(5S)l・0(5p)2・O

Tel(5S)1・0(5p)2・O

seT(4S)ILO(4p)210sel(4S)LO(4p)210sT(3S)M(3p)2・O

si(3S)M(3p)2・0

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Muffin-Tin半径は

CrTe: rc,-0.328a、rTe-0.362a

CrSe: rc,-0.34la、rTe-0349a

CrS: rcr-0.34a 、rs-0.34a

計算の精度は 104Rydである。

各物質に対 し、非磁性p)、強磁性(F)、反強磁性(AF)状態のバン ド計算を格子定数 a

を変化させて行 う。ただし、C/aは一定としその値には測定値を用いた。バン ド計算の結

果から、それぞれの状態での全エネルギーを格子定数 αの関数として求めれば、どの状

態が最もエネルギー的に安定であるかを議論することができる。なお、反強磁性状態と

しては、 C面内ではモーメン トが平行で、となり合 うC 面間でモーメン トが反平行とい

う構造を仮定した。

3.1CrTeの電子状態と圧力効果

3.1.1分散曲線と状態密度

crTeの非磁性状態に対するバンドの分散曲線と状態密度を図 2(a)、(b)に示す。 格子定

数としては次の値を用いた。α-3.981A、C/α-1.56(いずれも測定値。ただし、この値は 3.2

で示すように強磁性状態で αの平衡値 α0-3.981Aに非常に近い)。分散曲線はエネルギー

の低い方からTeの Sバン ド、gapを隔てて Teの 5pとCrの 3dの混成バンドである。こ

の混成バン ドは2(b)図から分るように 3つの部分に分れているとみることができる。即

ち、低エネルギー側(0.oRyd~0.25Ryd)の p-dbondingband、高エネルギー側(0.53Ryd~

0.64Ryd)のantibondingband、中間領域(0.25Ryd~0.53Ryd)の主としてCrのd軌道からなる

non-bondingbandである。フェルミ・レベルはnon-bondingbandのpeakの辺 りに位置して

いて、p(EF)-107.9(states/Ryd.unitcell.spin)である。この値はCrSe、CrSのp(EF)に比べて

大きく、このことはCrTeが強磁性になりやすいことを示している。図2(a)の分散曲線で、

r点における波動関数の性質を下から順に示すと次のようになる。

1番目 Te-5∫

2番目 Te-5S

3番 目 Te-5pz

4番目 Cr-3d、Te-5pの面内でのbondingstate

5番目 Cr-3d3Z2_,2

6番 目 C面内に広がりを持つ Cr-3d軌道

7番目 C面内に広がりを持っ Te-5p軌道

8番目 C面内に広がりを持っ Cr-3d軌道

9番目 Te-5pz

lO番目 C面内に広がりを持つ Cr-3d軌道

- 792 -

・T

n

n

n

n

n

n

n

n

f=

J_+

+

+

「ノト.i

r

r

r

r

r

r

(

(

-

(

(

(

(

-

(

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NiAs型遷移金属化合物の電子状態と物性

ll% 目 Cr-3d3Z2_,2 (r3')12番 目 Cr-3d、Te-5pの面内でのanti-bondingstate (r5')

13番 目 Te-S (r4-)14番 目 Cr-S、Te-S (rl')

縮退度は、rl+、r2㌦r3+、r4~が一重縮退、r5+、r∴ r6~が二重縮退となっている。

強磁性状態の状態密度を図 3に示す。図2(b)との比較から明らかなように、強磁性状

態のバンドは非磁性状態のスピンに関して縮退 したバンドの単なる rigidな分裂では記

述できない。部分状態密度に示されたように、Crのdバンドが大きなexchangesplitting

を示 し、Teのp、S-バンドのexchangesplittingは僅かである。磁気モーメン トは主として

Cr-siteから生じ、Te-siteには Crのモーメン トと逆向きに僅かなモーメン トが誘起され

ている。

Cト3dup-spinのピーク位置はフェル ミ・レベル以下 1・3eV,にあり、光電子分光の測定

では -1eV と報告されている 12)。したがってピークの位置は良く一致している。しか

し計算によるモーメン トが測定値のものよりも大きくなっている。

3.1.2全エネルギー

第 4図にF、AF、N状態の全エネルギーの計算結果を示す。 この図から明らかなように、

3つの状態の中で強磁性状態が格子定数 αの広い範囲にわたって最も安定であることが

分る。F状態での最小エネルギーを与えるαの値はα0-3.97Aで、これが crTeの低温に

おける格子定数の実測値 a-3.981Aと非常に良い一致を示している.今回の計算結果は、

以前のLAPW 法によるバン ド計算 7)で得られたα0-4.181Aと比べると、かなり改善され

ている。F状態とAF状態のエネルギー差はαが αOより小さくなるにつれ次第に減少し

て、a~3.581Aで両エネルギー曲線は交差し、a<3.581AではAF状態の方がF状態より

僅かにエネルギーが低くなっている。このことから、CrTeではαの減少(体積の減少)に

伴って強磁性状態から反強磁性状態に転移することが期待される。即ち、圧力誘起磁気

相転移の可能性がある。

強磁性状態のエネルギー曲線は格子定数 αの関数として次のような四次の多項式でフ

イットできる :E-Eo+a2(a-ao)2+a3(a-a。)3+a4(a-ao)4、ここで a0-3.97、E。-131357.17、

a2-0.471、a3--0.575、a4-1.686である。ElectronicpressurePは体積を Vとするとp--∂E/

∂V--0.247a-2∂E/∂aの関係からaの関数として見積もることができる。Pとaの関係

を第 5図の挿入図に示す。この結果から強磁性から反強磁性-の転移をおこす pは約

40Gpaと見積もられる。

3.1.3磁気モーメン トの圧力効果

バンド計算から得られた強磁性状態の磁気モーメン トを格子定数 〟の関数として図 5

に示す。全磁気モーメン ト、Cr-siteのモーメン ト、Te-siteのモーメン トがそれぞれ示され

ている。磁気モーメン トは主として Cr-siteから生じているが、Te-siteにも僅かなモーメ

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ン トがcrのものと逆向きに誘起されていて、これはCrの3d軌道とTeのp軌道間の混

成によるものである。図に示されたように、磁気モーメントの大きさはαの減少即ち圧

力の増加と共に急激に減少している。a-aoでのモーメントの値は 3.16FLBで、実測値の

飽和値 2.5〝B12)より少し大きめであるが、LAPW 法で得られた磁気モーメント3.59〃B

に比べてかなり実測値に近くなっている。

BulkModulusはBニーdP/dlnFで定義され、compressibility FCはFC-1/B、magneticmoment

のreductionrateはkM--∂lnM!∂Pで定義される。これらの諸量は計算によりB-405.4kbar、

rc-2.43×10-3kbar~1、kMニー4.21×10-3kbar -1と得られた。鹿又等の測定 13)では kMニー12

×10~3kbar~1である。

3.2CrSe、CrSの電子状態と圧力効果

crse、crsについても非磁性状態、強磁性状態、反強磁性状態に対するバンド計算を格

子定数 αを変えて行った。各状態に対する全エネルギーを格子定数 αの関数として示し

たものが図 6(a)、図 7(a)である。図 6(b)、図 7(b)にバンド計算から得られた磁気モーメン

トを格子定数 αの関数として示す。CrSeでは反強磁性状態における平衡の格子定数は

α0-3.584Aで、三つの状態の中で反強磁性状態が最低のエネルギーを示す。 従って CrSe

はCrTeと異なって反強磁性状態が最も安定で、このことは実験結果 3)と一致している。

a<aoに対しても常に反強磁性状態のエネルギーが他の状態のエネルギーより低く、圧

力誘起相転移はおこらない。しかし、αをdoより増加させると強磁性状態の方が反強磁

性状態より安定になることを示している。CrSもCrSeと同様の傾向を示している。CrSe、

crsでは格子定数が平衡値 αOより大きく反強磁性状態の方がェネルギーが低くなってい

る。このことは負の圧力により反強磁性から強磁性-うつる可能性を示していると思わ

れる。

§4.NiAsの電子状態とフェルミ面及びdeHaas-vanAlphen効果

4.1バンド計算

バンド計算の手法は§3と同様のFLAPW 法で行った。軌道量子数はJmax-7までとり、

逆格子ベクトル GはIk+GLmax-(2冗/a)×3.268までとった (kはブリルアンゾーンの波数ベ

クトル)。 以上のパラメーターのもとでは補強する平面波の数は約 300となる。出発点

の電子配置としては以下に示すものをとった。

Ni(34)8(4S)2As(4S)2(4p)3

非磁性状態のバンド計算を格子定数 〟を変化させて行い格子定数 αの関数として トー

タルエネルギーのプロットを図 8に示す。ただしC/αは測定値に固定している。 トータ

ルエネルギーが最少となる αは α-3.60A で測定結果の格子定数と大変良く一致してい

る。そこで、以下はこの格子定数での計算結果をしめす。

- 79 4 -

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NiAs型遷移金属化合物の電子状態と物性

4.2NiAsの分散曲線と状態密度

NiAsの非磁性状態の分散曲線と状態密度を図9(a)、9(b)に示す。分散曲線はエネルギー

の低い方からAsの Sバン ド、gapを隔ててAsの4pとNiの3dの混成バンドである。分

散曲線でr点における波動関数の性質を示すと次のようになっている0

1番 目 As-4∫ (rl+)

2番目 As-4∫ (r4つ

3番目 As一旬Z (r3+)

4番目 Ni-3d、As-4pのbondingband (r5')

5番目 Ni-3d3Z2_,2 (r1+)

68 日 Ni-3d (r5')

7番目 Ni-3d (r6')

8% 目 Ni-3d (r6')

9番目 Ni-3d3Z2_r2 (r3')

10番 目 As-4px,y (r6-)

11番 目 Ni-3d、Asl4pのantibondingband (r5+)

12% 目 As-4pz (r2-)

13番 目 As-4∫ (r了)

p-d混成バンドは図9(b)から分かるように3つの部分から成っている。低エネルギー側

(0.07-0.38Ryd)のp-dbondingband、高エネルギー側(0.65-0.85Ryd)のp-dantibondingband、

中間領域(0.38-0.65Ryd)の主としてNiのd軌道からなるnon-bondingbandである。フェ

ルミ・レベルはNi-dのピークを越えた所に位置していて、フェルミ・レベルでの状態密皮

はp(EF)-14.45(states/Ryd.unitcell.spin)である。この値は非磁性状態のCrTeのそれに比べ

てかなり小さい。したがって、NiAsは磁性秩序を示 しにくいことを示唆している。野末

等 10)の行った電子比熱係数 γ及び帯磁率の測定結果から見積もった状態密度はそれぞ

れ 17.27(states/Ryd.unitcell.spin)、22.29(states/Ryd.unitcell.spin)である。 これらの値はバン

ド計算から得られたフェル ミ・レベルでの状態密度より若干大きくなっている。この違

いは電子一格子相互作用や電子一電子相互作用の効果によるものと考えられる。Ni-dの部

分状態密度からフェル ミ・レベル以下 2eV の所のピークがあり、6eV の所まで裾を引い

ていることがわかる。この様子はJ.W.Allen等 9)が行った光電子分光の測定と大変良く対

応 している。

4.3フェル ミ面とdHvA振動、サイクロトロン質量

バンド計算の結果からフェルミ面を計算 した。NiAsのフェルミ面は 14番目のバンド

と 15番目のバン ドが構成する二つのホール面と、16番 目のバンドが構成する電子面の

- 795 -

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川上 卓也

計三つのフェルミ面から成っている。それぞれのフェルミ面を図 10(a)、10(b)、10(C)に示

す。また磁場をC'からC'b'、b'a'、a'C'の各面内で回転させていったときの、極値断面積

に対応するdHvA振動をプロットしたものを図 11(a)、11(b)、11(C)に示す。 14番目のバン

ドが作るホール面はC'軸の周りに cylindricalな形をしている.磁場倉がC'軸(rA方向)

と平行な場合は極値断面積としてal、a2が存在する。jlをC'b'面内でb'軸(rK方向)の方

向に回転させていくとalの断面積は大きくなり、a2のそれは小さくなっていく。そして

C'軸とHのなす角度が520のところでal、a2の断面積が等しくなり一つのブランチaに

縮退する。図 11(a)のdHvA振動数は左右対照になっており、cylindricalなフェルミ面の

対称性を反映している。15番目のバンドが作るホール面は、jIをC'の方向からb'の方

向へ回転させていくと b'の断面積は増加する。HがC'b'面内を向いているときは b2、b3

の断面積は等しく一つのブランチ b2,3に縮退している。kがb'a'面内にあるときは bl、

b2、b3の断面積はそれぞれ異なり三つのブランチに分れる。そしてkがa'軸方向を向い

ている場合はbl、b3の断面積が等しくなりブランチb1,3に縮退する。このようなブランチ

の分離や縮退は結晶の対称性によるものである。16番目のバンドが作る電子面、及びそ

れから期待されるブランチの分離や縮退についても結晶の対称性から考察できる。

バンド計算から得られたdHvA振動の角度依存を野末等 10)が測定したdHvAの結果(図

12)と比較すると、まず b'と〝、bl、b2、b3が6、βと良く対応している。そして、cl、C2、

C3とえ、p、Eが大変良く一致している。高い振動数領域のブランチに関して計算結果と

測定結果は良く一致している。しかし低振動数のαブランチは計算では得られなかった。

このことは精密な Ⅹ一線回折 10)で測定されている微少な格子ずれによるものと考えられ

る。

計算から得られたサイクロトロン質量と実験 10)によるものを比較したものを表 Ⅰに

示す。実験結果は計算値よりも大きくでている。この違いは電子一格子相互作用、電子一

電子相互作用によってenhanceされていると考えられる。

実験 (m'/mo) 計算 (m'/mo)

α 0.49(650)

¢ 1.2(00) 0.67(Oo)

1.3(650) i.13(650)(cl.3)

〝 1.2(Oo) 0.64(Oo)(b')

表 Ⅰ.サイクロトロン質量

-796-

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NiAs型遷移金属化合物の電子状態と物性

§5.まとめ

本研究ではNiAs型遷移金属化合物のうちクロムカルコゲナイ ド、及びNiAsの電子状

態について研究を行った。クロムカルコゲナイ ドの非磁性、強磁性、反強磁性状態の各

状態に対して格子定数 αを変化させて、それぞれのαでFLAPW 法を用いてバンド計算

を行った。その結果、CrTeでエネルギーの最小を与える状態は強磁性状態で、α-3.97A

と得られた。この値は、格子定数の測定値 α-3.981Aと大変良く一致している。さらに、

格子定数を小さくしてゆくと強磁性と反強磁性のエネルギー曲線が交差する。 この事か

ら圧力誘起磁気相転移が期待され、その転移圧力は~40Gpaと見積もられた。crse、CrS

は共にエネルギー最小を与える状態は反強磁性状態であり、格子定数を小さくしてもエ

ネルギー曲線の交差は起こらない。したがってこれらの物質では圧力誘起磁気相転移は

期待できない。

NiAsについては非磁性状態を格子定数 αを変化させて、それぞれのαでFLAPW 法で

バンド計算を行った。NiAsのエネルギーの最少を与えるαは3.60Aと得られた。この値

は測定による格子定数 3.61A と大変良く一致した。Ni-3dの部分状態密度と光電子分光

の測定結果の間には、フェルミ・レベル以下 2eV にピークがあり、6eV のあたりまで裾

を引いているなどの対応が見られる。また三種類のフェルミ面を描き、それぞれのフェ

ルミ面から予想されるdHvA振動数を計算した。それをdHvA効果の測定結果と比較し

たところ、高振動数領域では良い一致がみられた。

参考文献

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【6】V.A.Shanditsev,LF.Vereshchagin,E.N.Yakovlev,N.P.GrazhdankinaandT.Ⅰ.Alaeva:

Soy.Phys.-SolidState15(1973)146.

[7]M.Takagaki,T.Kawakam i,N.TanakaandK.Motizuki:J.Phys.Soc.Jpn.67(1998)1014.

[8]加藤 博秋、石塚 守、遠藤 将一、鹿又 武:日本物理学会 1998秋の分科会、27a-YS-10・

[9]W.P.Ellis,R.C.Albers,J.W.Allen,Y・Laissailly,andJ:S・Kang:

SolidStateCommun.62(1987)591.

[10]野末 竜弘、物性研究、811(1997-9)

【11]0.Gunnarsson,B.Ⅰ.Lundqvist:Phys.Rev.B13(1976)4274.

[12]K.Shimada,T.Saitoh,H.Nam atame,andA・Fujimori:Phys・Rev・B53(1996)7673・

【13]鹿又 武、私信

【141中山 正敏、「ランダウ準位」固体物理 4No.6(1969)335.

- 797 -

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川上 卓也

【15]C.Kittel著、固体物理学入門 (上) (第 6版)

[16]良.B.Diggle:Proc.Roy.Soc.A211(1952)500.

論文 リス ト

[1]MagneticanisotropyenergyofantiferromagneticBi2CuO4.

N.Tanaka,Y.Hirota,T.Kawakami,K.Motizuki:J.Magn.Magn.Matter.177-181(1998)1387.

[2]PressureeffectonelectronicbandstructureofNiAs-typechromiumchalcogenides.

M.Takagaki,T.Kawakam i,M.Shirai,K.Motizuki:

J.Magn.Magn.Matter.177-181(1998)1385.

[3]PressureEffectonElectronicBandStructureofNiAs-typeCrTe・

M.Takagaki,T.Kawakam i,N.Tanaka,M.Shirai,K.Motizuki:J.Phys.Soc.JprL67(199・8)10114.

[4]PressureeffectonelectronicbandstructureofNiAs-typeCrTe,CrSeandCrS.

T・Kawakami,N・Tanaka,K・Motizuki:tobepublishedinJ・Magn.Magn・Matter.

[5]NiAs型 cr-カルコゲナイ ドの電子状態と圧力効果

川上 卓也、田中 憲和、望月 和子:岡山理科大学紀要 近刊。

[6]deHaas-VanAIphenEffectandElectronicBandStructureofNiAs.

T.Nozue,H.Kobayashi,T.Kam imura,T.Kawakami,H.Harima,K.Motizuki:

tobepublishedinJ.Phys.Soc.Jpn.

謝辞

本研究を行 うにあたり、大変多くの方々に御協力をいただきました0

望月和子教授には研究生活全般にわたり熱心な御指導を頂きました。また様々な経験

をさせていただき、大変充実した研究生活を送ることができました。感謝申し上げます。

大阪大学の白井正文助教授、播磨尚朝助教授、松下電器産業の鈴木政勝博士ならびに

電子技術総合研究所の川本徹博士にはバン ド計算等の技術的な御指導、御協力を頂きま

した。感謝いたします。

東北学院大学の鹿又武教授、大阪大学の石塚守博士、東北大学の上村孝教授には貴重

な実験結果を頂きました。感謝い たします。

田中憲和氏には物理についてのことにとどまらず、その他いろいろなア ドバイスをい

ただきました。ありがとうございました。

最後に学生生活を終えるにあたり、今まで辛抱強く見守ってくれた両親に感謝いたし

ます。

1798-

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NiAs型遷移金属化合物の電子状態と物性

図1NiAs型結晶構造

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図2(a)非磁性状態crTeの分散曲線

- 799 -

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図3強磁性状態crTeの状態密度

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川上 卓也

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図4非磁性、強磁性、反強磁性状態crTeの全エネルギーのaによる変化

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図6(a)非磁性、強磁性、反強磁性状態crSeの全エネルギーのaによる変化

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図7(a)非磁性、強磁性、反強磁性状態crsの全エネルギーのaによる変化

-800-

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図5強磁性状態crTeの磁気モーメントのaによる変化

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図6(b)反強磁性状態crsの磁気モーメントのaによる変化

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NiAs型遷移金属化合物の電子状態と物性

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図8非磁性状態NiAsの全エネルギーの

aによる変化

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図9(ち)非磁性状態NiAsの状態密度

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図9(a)非磁性状態NiAsの分散曲線

-801-

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川上 卓也

図10(a)14番 目のバン ドが構成するNiAsのフェル ミ面

b2図10(b)15番 目のバン ドが構成する

NiAsのフェル ミ面

-802-

図10(C)16番 目のバン ドが構成するNiAsのフェル ミ面

0001] lI2]01 ll)001 [00011

図11(a)図10(a)のフェル ミ面から計算 したdHvA振動数

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図11(b)図10(b)のフェル ミ面から計算 したdHvA振動数

[00011 【1210】 tll00】 【00)1】

図11(C)図10(C)のフェル ミ面から計算 したdHvA振動数

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NiAs型遷移金属化合物の電子状態と物性

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図 12NiAsのdHvA効果の角度依存性

-803-