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The Journal of Japanese Operations Management and Strategy, Vol. 2, No. 1, pp. 70-83, 2011 70 半導体製品のサプライチェーンにおける生産能力予約契約 佐野宏樹(神戸大学) 松尾博文(神戸大学) 概要: 本論文では,半導体部品を使用するセットメーカーと半導体製造業者間のキャパシティ(生産能 力)予約契約を考察する.キャパシティ予約契約とは,セットメーカーがキャパシティ予約コスト を支払い,半導体製造業者のキャパシティ準備量の下限値を決める契約である.キャパシティ予 約コストは発注量ではなく,予約量に依存するので,セットメーカーがキャパシティ準備コスト の一部を負担することになる.既存論文のモデルでは,単位納入価格が外生変数であり,単位キ ャパシティ予約コストが半導体製造業者の決定変数であるため,サプライチェーン・コーディネ ーション,つまり,サプライチェーン全体最適期待利益につながるキャパシティ予約契約は必ず しも存在しない.本論文では,サプライチェーン・コーディネーションにつながるこの 2 変数の 組の範囲を導出する.さらに,サプライチェーン全体最適期待利益の両者への可能な配分の範囲 も示す. キーワード:サプライチェーン・マネジメント,キャパシティ予約契約,半導体産業 1. はじめに ハイテク産業,特に,半導体産業では,キャパシティ(生産能力)を確保するコストが高く, 製造リードタイムが長く,需要の不確実性が高い.本論文では,図1にあるような半導体製造業 者と半導体部品を用いる最終製品を設計,製造,販売するセットメーカーとからなるサプライチ ェーンを考える.半導体製造業者は,ある新規の特定用途向け半導体部品に対して,受注が確定 する前に,一連の製造装置・設備を割り当て,特定のセットアップ,試作等の量産へ向けての準 備をしなければならない.これは半導体製造装置・設備が非常に高価で,その稼働率を高く保た なければならず,さらに,技術的な理由で,調整と準備に長い時間がかかるからである.ここで, 半導体製造業者はどれだけのキャパシティを準備するか (以下,キャパシティ準備量と呼ぶ)を 決定しなければならない.そして,実際の生産は受注が確定してから開始することになる.受注 量の不確実性が高く,キャパシティ準備にかかるコストも高いので,適切なキャパシティ準備量 の設定は,半導体製造業者にとって重要な決定事項である.一方,セットメーカーにとっても, 半導体製造業者のキャパシティ準備量が少ない場合は,最終製品の生産に必要な半導体部品を確 保できず,売り逃しが発生する可能性が高くなる. セットメーカー 半導体製造業者 納入価格 小売価格 最終製品 半導体部品 製造コスト キャパシティ 準備コスト 顧客 1 - 半導体サプライチェーン

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The Journal of Japanese Operations Management and Strategy, Vol. 2, No. 1, pp. 70-83, 2011

70

半導体製品のサプライチェーンにおける生産能力予約契約

佐野宏樹(神戸大学) 松尾博文(神戸大学)

概要:

本論文では,半導体部品を使用するセットメーカーと半導体製造業者間のキャパシティ(生産能

力)予約契約を考察する.キャパシティ予約契約とは,セットメーカーがキャパシティ予約コスト

を支払い,半導体製造業者のキャパシティ準備量の下限値を決める契約である.キャパシティ予

約コストは発注量ではなく,予約量に依存するので,セットメーカーがキャパシティ準備コスト

の一部を負担することになる.既存論文のモデルでは,単位納入価格が外生変数であり,単位キ

ャパシティ予約コストが半導体製造業者の決定変数であるため,サプライチェーン・コーディネ

ーション,つまり,サプライチェーン全体最適期待利益につながるキャパシティ予約契約は必ず

しも存在しない.本論文では,サプライチェーン・コーディネーションにつながるこの 2変数の

組の範囲を導出する.さらに,サプライチェーン全体最適期待利益の両者への可能な配分の範囲

も示す.

キーワード:サプライチェーン・マネジメント,キャパシティ予約契約,半導体産業

1. はじめに ハイテク産業,特に,半導体産業では,キャパシティ(生産能力)を確保するコストが高く,

製造リードタイムが長く,需要の不確実性が高い.本論文では,図1にあるような半導体製造業

者と半導体部品を用いる最終製品を設計,製造,販売するセットメーカーとからなるサプライチ

ェーンを考える.半導体製造業者は,ある新規の特定用途向け半導体部品に対して,受注が確定

する前に,一連の製造装置・設備を割り当て,特定のセットアップ,試作等の量産へ向けての準

備をしなければならない.これは半導体製造装置・設備が非常に高価で,その稼働率を高く保た

なければならず,さらに,技術的な理由で,調整と準備に長い時間がかかるからである.ここで,

半導体製造業者はどれだけのキャパシティを準備するか (以下,キャパシティ準備量と呼ぶ)を

決定しなければならない.そして,実際の生産は受注が確定してから開始することになる.受注

量の不確実性が高く,キャパシティ準備にかかるコストも高いので,適切なキャパシティ準備量

の設定は,半導体製造業者にとって重要な決定事項である.一方,セットメーカーにとっても,

半導体製造業者のキャパシティ準備量が少ない場合は,最終製品の生産に必要な半導体部品を確

保できず,売り逃しが発生する可能性が高くなる.

セットメーカー 半導体製造業者

納入 価格小売価格

最終製品 半導体部品

製造コストキャパシティ

準備コスト

顧客

図 1 - 半導体サプライチェーン

佐野,松尾: 半導体製品のサプライチェーンにおける生産能力予約契約

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セットメーカーは,半導体製造業者が十分なキャパシティを準備するように促すために,最終

製品の需要予測や小売価格の情報を半導体製造業者と共有する.一般的な契約である卸売価格契

約 (wholesale price contract) では,卸売価格 (本論文では,単位納入価格に対応する)が事前に

決められ,需要発生後,取引が行われる.しかしながら,この契約では,半導体製造業者はキャ

パシティ準備量に対して需要が低い時に,キャパシティ準備コストを十分に回収できないリスク

を全て負担している.従って,半導体製造業者は最終顧客の需要を満たす十分なキャパシティを

準備できていないことになる. 半導体製造業者とセットメーカーのサプライチェーンについての既存研究では,このような卸

売価格契約における解と比較して,パレート効率的な解,即ち,どちらの主体の期待利益も減少

させず,少なくとも一主体の期待利益を増加させる解を実現しうる契約として,キャパシティ予

約契約 (capacity reservation contract) が提案されている.キャパシティ予約契約とは,セット

メーカーが対価を支払い,半導体製造業者のキャパシティ準備量の下限値を決めることができる

契約である.このキャパシティ準備量の下限値をキャパシティ予約量と呼び,その対価をキャパ

シティ予約コストと呼ぶ.キャパシティ予約コストは,発注量ではなく,予約量に依存するので,

セットメーカーがキャパシティ準備コストの一部を負担することになる.よって,キャパシティ

リスクの一部がセットメーカーに移ることになり,その結果,半導体製造業者が設定するキャパ

シティ準備量が増加し,セットメーカーの売り逃しが減少する.セットメーカーは,キャパシテ

ィ予約コストというオプションコストを支払って,キャパシティ予約量までの納入を確実にする

権利を買っていることになる. Erkoc and Wu (2005)は,図1のサプライチェーンにおいて,キャパシティ予約契約が卸売価

格契約と比較して,半導体製造業者のキャパシティ準備量の増加を促すことを数理モデルによっ

て示している.しかし,彼らのモデルでは,半導体製造業者からセットメーカーへの単位納入価

格が外生変数と仮定され,かつ,単位キャパシティ予約コストが半導体製造業者の決定変数であ

るため,サプライチェーン全体の期待利益の総和は必ずしも最大化されない.即ち,次節で議論

するサプライチェーン・コーディネーションが達成されない.そこで,本論文では,キャパシテ

ィ予約契約において,サプライチェーン・コーディネーションが達成される,単位納入価格と単

位キャパシティ予約コストの 2 変数の組の範囲を導出する.サプライチェーン全体最適期待利益

を達成する 2 変数の組の集合に属していても, 2 変数の値によって,全体期待利益の両者への配

分比率は異なったものとなる.よって,サプライチェーン全体最適期待利益の両者への配分比率

のとる範囲も導出する. 本論文は,以下,次のように構成される.2 節では本研究と関連する先行研究をまとめる.3

節では Erkoc and Wu (2005)のモデルを再検討し,キャパシティ予約契約において,サプライチ

ェーン・コーディネーションにつながる,単位納入価格と単位キャパシティ予約コストの 2 変数

の組の範囲を導出する.さらに,サプライチェーン全体最適期待利益の両者への配分比率がとる

範囲を示す.最後に,本論文全体のまとめを 4 節で行う. 2. 先行研究のレビュー 2.1. 新聞売り子問題とサプライチェーン・コーディネーション

新聞売り子問題 (newsvendor problem) は,リスク中立的な卸売業者と小売業者の 2 者間のサ

プライチェーンにおける在庫管理問題である.本論文では,新聞売り子問題での標準的なコンセ

プトと用語を使用する.但し,小売業者はセットメーカー,卸売業者は半導体製造業者に対応し,

在庫はキャパシティに置き換わる.新聞売り子問題では,1 販売期間を対象として,小売業者は

確率的な需要に直面する.需要発生前に,小売業者は卸売業者に発注し,製品を受納し,在庫を

持つ.需要発生後,小売業者は在庫を販売する.その期に売れ残った製品は,次の期に持ち越す

ことはできず,廃品価値を回収して処分される.また,その期に満たすことができなかった需要

は失われ,満たされなかった需要に関して,利益損失と共に,信用を失ったことに関するコスト

も発生する.この設定の下で,小売業者には,需要が在庫量よりも少ない場合は,売れ残る製品

佐野,松尾: 半導体製品のサプライチェーンにおける生産能力予約契約

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について 1 個当たり,(卸売価格-廃品価値)だけの売れ残りコストが発生する.一方,需要が小

売業者の在庫量を上回る場合は,売り逃しについて 1 個当たり(小売価格+信用コスト-卸売価

格)だけの売り逃しコストが発生する.小売業者は,これら 2 種類のコストの総和の期待値を最

小にする発注量を決定する.ここで,卸売業者は発注を満たす十分な在庫を持つと仮定している.

なお,本論文では,簡単化のために,単位信用コストを考慮せずに議論を進めるが,必要な場合

は,すべての式において,単位小売価格を(単位小売価格+単位信用コスト)で置き換えれば良い. 卸売業者と小売業者は取引前に契約を結ぶ.新聞売り子問題で最も単純な契約は,卸売業者が

単位卸売価格を決め,その価格を所与に小売業者が在庫量を決定する卸売価格契約である.卸売

価格契約で小売業者が決定する在庫量は,サプライチェーン全体最適期待利益,即ち,卸売業者

と小売業者の利益の総和の期待値を最大化する在庫量よりも少ない (Cachon 2003).これは,卸

売業者がマージンを付加した分,小売業者が支払う卸売価格が増加し,小売業者の最適在庫量が

低減するからである.このような在庫システムに関する問題は,二重マージン (double marginalization) 問題 (Spengler 1950)の一つと位置付けられている (Cachon 2003). 契約の内容を工夫することによって,二重マージン問題を解消し,サプライチェーン全体最適

期待利益を実現することは,コーディネーション (coordination) と呼ばれる.Cachon (2003)は,

新聞売り子問題においてコーディネーションを実現する契約の研究を概説している.コーディネ

ーションを実現するためには,各主体の個別の期待利益最大化行動の結果として,サプライチェ

ーン全体最適期待利益が実現されるように契約を設定しなければならない.さらに,コーディネ

ーションを実現する契約における均衡が,卸売価格契約における均衡と比較して,パレート効率

的であることが望ましい.このため,利益配分の任意性は,コーディネーションにおける重要な

事項として認識されている.本論文では,半導体製造業者とセットメーカーのサプライチェーン

において,キャパシティ予約契約によるコーディネーションを考察する.また,利益配分の任意

性は成り立たないが,利益配分比率がとる範囲を導出する. 本論文の半導体サプライチェーンモデルにおけるキャパシティ準備量は,新聞売り子モデルに

おける在庫量に対応する.Van Mieghem (2003)では,キャパシティはある工程の最大処理能力を

表し,在庫は工程を通過する最終製品を製造するための投入物を意味するとしている.しかしな

がら,需要が一期のみに発生する場合には,在庫量とキャパシティの決定とは,本質的に等価と

なることを指摘している. 2.2. 半導体サプライチェーンモデルとキャパシティ予約契約 本論文で考察する半導体製造業者とセットメーカーのサプライチェーンのモデルとキャパシテ

ィ予約契約は,Erkoc and Wu (2005)と Jin and Wu (2007)で導入され,議論されている.Erkoc and Wu (2005)は,本論文の仮定と異なる点として,単位納入価格を外生変数とし,単位キャパ

シティ予約コストを半導体製造業者の決定変数としている.そうすると,キャパシティ予約契約

において,コーディネーションを実現できない.そこで,彼らは,PARD (partly deductable) 契約と COSH (cost sharing) 契約という,キャパシティ予約契約のルールの一部を変更した新たな

契約を提案し,これらの契約によるコーディネーションを考察している.PARD 契約では,単位

キャパシティ予約コストと,製品の引渡し時の支払いにおける単位払い戻し額とを異なる値に設

定できる.一方,COSH 契約とは,セットメーカーがキャパシティ予約コストとして,キャパシ

ティ予約量に対応するキャパシティ準備コストの倍 (0 1) を半導体製造業者に支払う契約

である.Jin and Wu (2007)もまた,コーディネーションを実現するために,キャパシティ予約契

約のルールに別の変更を与えている.彼らのモデルでは,セットメーカーがキャパシティ予約量

を決める前に,半導体製造業者がセットメーカーに,キャパシティ予約量を超えて必ず用意する

キャパシティ準備量を提示する契約を考察している. 半導体製造業者のキャパシティ準備コストについて,Erkoc and Wu (2005)は凸の増加関数,

Jin and Wu (2007)は線形の増加関数を仮定しているが,本論文では,分析を単純にするために,

Jin and Wu (2007)にならい,キャパシティ準備コストは線形の増加関数であると仮定する.固定

費用については,どちらの論文でも考慮されておらず,本論文でもゼロとする.

佐野,松尾: 半導体製品のサプライチェーンにおける生産能力予約契約

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キャパシティ予約契約を研究している他の論文としては,Ozer and Wei (2006),Serel et al. (2001)がある.Ozer and Wei (2006)は,需要分布について,買い手は売り手よりも精度の高い情

報を持っていると仮定している.このように,買い手と売り手に情報の非対称性が存在する場合,

売り手はキャパシティ予約契約によって,買い手から需要分布に関する真実の情報を聞き出し,

卸売価格契約に比べて,両者がより高い期待利益を得られることを示している.Serel et al. (2001) は,買い手がタイプの異なる 2 人の売り手から製品を調達し,一方の売り手のみとキャパシティ

予約契約を結ぶ状況を考えている.彼らは新聞売り子モデルではなく,多期間の在庫管理モデル

を分析している.キャパシティ予約契約を含めた,ハイテク産業におけるキャパシティ管理の研

究のレビューについては,Wu et al. (2005)がある. 3. キャパシティ予約契約モデルとサプライチェーン・コーディネーション 本節では,Erkoc and Wu (2005),Jin and Wu (2007)が導入した,半導体製造業者とセットメ

ーカーの間のキャパシティ予約契約のモデルを,最初に,単位納入価格と単位キャパシティ予約

コストの 2 変数をモデルの外生変数として再構築する.補題 1 から命題 3 までは,Erkoc and Wu (2005),Jin and Wu (2007)が同様の議論を展開しているが,本論文独自の考察である命題 4,5を導出するために記述し直す.次に,命題 4 では,コーディネーションが達成されるこの 2 変数

の組の範囲を示す.さらに,命題 5 においては,サプライチェーン全体最適期待利益の両者への

可能な配分の範囲を示す.キャパシティ準備コストに関して,Erkoc and Wu (2005)は凸関数を,

Jin and Wu (2007)は線形関数を仮定しているが,本論文では線形関数に仮定を統一する.なお,

パラメータの置き方は,Erkoc and Wu (2005)にならっている.

Notation p 製品の単位小売価格 c 製品の単位製造コスト v 単位キャパシティ準備コスト w 製品の単位納入価格(セットメーカーと半導体製造業者が同時提案する変数) r 単位キャパシティ予約コスト(セットメーカーと半導体製造業者が同時提案する変数) K キャパシティ準備量(半導体製造業者の決定変数) R キャパシティ予約量(セットメーカーの決定変数) x 製品需要を表す確率変数 f(x) 製品需要の確率密度関数, x 0 に対して f(x) 0,かつ,f(x)は微分可能とする. F(x) 製品需要の累積分布関数.x 0 に対して F(x)は微分可能,逆関数が存在するものとする. b セットメーカーの利益 s 半導体製造業者の利益 i 半導体製造業者とセットメーカーの利益の和 この論文を通して次の条件を仮定する: p cv,w cv,p w,0 r w,c 0,v 0. 本節では,図2にあるようなセットメーカーと半導体製造業者からなるサプライチェーンを考

える.セットメーカーと半導体製造業者は,リスク中立的であると仮定する.半導体部品への最

終顧客の需要はセットメーカーに対して一度のみ発生し,半導体製造業者とセットメーカーは,

その需要 x の確率分布関数 f(x), 単位小売価格 p, 単位製造コスト c の情報を共有するとする. 卸売価格契約においては,需要発生前に決定された単位納入価格 w のもと,半導体製造業者は

自己の期待利益を最大化するように,その製品のキャパシティ準備量 K を決定し,キャパシティ

準備コスト vK を負担する.その後,需要が発生し,セットメーカーからの発注 x を受ける.半

導体製造業者は,キャパシティ準備量の制約のもとで製品を可能な限り製造し,単位納入価格 wでセットメーカーに min(x, K)だけ供給する.セットメーカーは,調達した製品から単位当たり pの販売収益を得る.満たされなかった需要は失われるものとする.

佐野,松尾: 半導体製品のサプライチェーンにおける生産能力予約契約

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セットメーカー 半導体製造業者

単位キャパシティ予約コスト r

単位納入価格 w

K

キャパシティ準備量 KR単位小売価格 p

販売量 min(x, K) 納入量 min(x, K)

単位製造コスト c単位キャパシティ

準備コスト v

キャパシティ予約量 R

需要 x

R顧客

図 2 - キャパシティ予約契約モデル

このような卸売価格契約のもとでは,確保されたキャパシティ準備量 K に余剰が発生し,損失

を被るリスクを半導体製造業者のみで負うことになるので,以下で明らかになるように,K はサ

プライチェーン全体最適なキャパシティより小さくなる.そこで,半導体製造業者のキャパシテ

ィ準備量を増加させる手段として,次のようなキャパシティ予約契約を考える. キャパシティ予約契約において,まず,セットメーカーと半導体業者は,単位納入価格 w と単

位キャパシティ予約コスト r の組について同時に提案する.両者の提案した(w, r)の組が一致しな

い場合は,取引を終了する.一致する場合は,次に,セットメーカーはキャパシティ予約量 R を

決定する.半導体製造業者は,キャパシティ準備量 K を R 以上に設定するという制約の対価とし

て,最低受取金額を rR とするという保障を受ける.即ち,半導体製造業者は,rR という固定の

支払いを受けることに加えて,需要発生後の発注量のうち,R 以下の分については(wr)の単価で

納入し,発注量の R の超過分については w の単価で納入する.この契約により,キャパシティ準

備量が余剰となるリスクが半導体製造業者とセットメーカーで共有されることになり,半導体製

造業者のキャパシティ準備量が増加することが予想される.より厳密に,キャパシティ予約契約

の各ステップは時系列順に次のように記述できる. キャパシティ予約契約 Step 0. 半導体製造業者とセットメーカーは,単位小売価格 p,単位製造コスト c,単位キャパシ

ティ準備コスト v,需要の確率密度関数 f(x)について情報を共有する. Step 1. 半導体製造業者とセットメーカーは,単位納入価格 w と単位キャパシティ予約コスト r

の組を同時に提案する.但し,0 r w とする.両者の提案した(w, r)の組が一致した場

合は Step 2 に進み,一致しない場合は取引せずに,このステップで終了する. Step 2. セットメーカーは予約キャパシティ量 R を決定し,キャパシティ予約コスト rR を支払

う約束をする.但し,R 0 とする. Step 3. 半導体製造業者はキャパシティ準備量 K を決定して,キャパシティ準備コスト vK を負

担する.但し,K R とする. Step 4. 需要 x が発生し,セットメーカーは半導体製造業者に製品を x だけ発注する. Step 5. 半導体製造業者は min(x, K)だけ製造し,セットメーカーに納入する.この時,セットメ

ーカーは半導体製造業者に,キャパシティ予約コスト rR に加えて,次の金額を支払う.

(wr)x for 0 x R (wr)Rw(xR) for R x K (1) (wr)Rw(KR) for x K

セットメーカーは購入した製品によって,p・min(x, K)だけの収益を得る.満たされなかった需

要は失われる.

佐野,松尾: 半導体製品のサプライチェーンにおける生産能力予約契約

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補題 1. キャパシティ予約契約の Step 3 における半導体製造業者の期待利益関数と,Step 2 にお

けるセットメーカーの期待利益関数は,それぞれ次式で表される.

R

0

K

0b

R

0

K

0s

dx)x(Frdx))x(F1()wp(][E

dx)x(FrvKdx))x(F1()cw(][E

* (2)

但し,

R

))cw/()vcw((FK

1*

))cw/()vcw((FRfor

))cw/()vcw((FR0for1

1

(3)

Step 2 で R 0 とすると,この契約は卸売価格契約と同等になる.即ち,卸売価格契約はキャ

パシティ予約契約の特殊な場合と言える.従って,(3)において,R = 0 として,次の命題が導か

れる. 命題 1. 卸売価格契約における半導体製造業者の最適なキャパシティ準備量は,

F1((wcv)/(wc))である. セットメーカーと半導体製造業者の期待利益の和を最大とする,サプライチェーン全体最適な

キャパシティは,命題1における w に p を代入することによって得られる. 命題 2. サプライチェーン全体最適なキャパシティ準備量は,Ki F1((pcv)/(pc))である. 命題 1,命題 2,w p より,卸売価格契約における半導体製造業者の最適なキャパシティ準備

量は,Ki よりも小さい.従って,卸売契約では,コーディネーションを実現できない.このよう

な結果となるのは,卸売価格契約において,キャパシティ準備コストを半導体製造業者が全て負

担しているからである.この場合,実際の需要が小さく,キャパシティ準備量の一部が無駄にな

るリスクは,全て半導体製造業者が抱えることとなり,半導体製造業者は投資に消極的になる.

一方,キャパシティ予約契約では,このようなキャパシティリスクがセットメーカーに一部移る

ことが,(2)の E[b]の第 2 項からわかる. Step 2 におけるセットメーカーの意思決定については,次の命題が成り立つ.

命題 3. キャパシティ予約契約の Step 2 において,w,r が所与の時,セットメーカーの最適なキ

ャパシティ予約量 R*について,次式が成り立つ.

0

))rwp/()wp((FR1

* r̂rfor

r̂r0for

但し, r̂ は,次式を満たす一意に決まる正値である.

))cw/()vcw((F

0

))r̂wp/()wp((F

0

))r̂wp/()wp((F

0

111

dx))x(F1()wp(dx)x(Fr̂dx))x(F1()wp(

セットメーカーは,R 0 とすれば,卸売価格契約における期待利益を得る.従って,セットメ

ーカーが自身の最適化行動としてキャパシティ予約を行うためには,その期待利益が卸売価格契

約の場合以上でなければならない.命題 3 は,0 r r̂ ならばこの条件が満たされることを示し

ている.(2)の E[b]は,区間 0 r r̂ において,r についての厳密な減少関数である.従って, r̂は所与の w に対して,セットメーカーが許容できる単位キャパシティ予約コストの上限であると

佐野,松尾: 半導体製品のサプライチェーンにおける生産能力予約契約

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解釈できる. Erkoc and Wu (2005)は,納入価格 w を外生変数とし,半導体製造業者が Step 1 で単位キャパ

シティ予約コスト r を決定するものとしている.この場合,r は,特別な場合を除き,サプライチ

ェーン全体最適なキャパシティ準備量を実現する値とは一致しない.それどころか,パラメータ

p,w,c,v と,需要の確率密度関数の設定によっては,キャパシティ予約契約が成立しない場合

も考えられる.この問題を解消するために,次の命題 4 では,キャパシティ予約契約において,

コーディネーションを実現する w, r の組の導出に着目する. 命題 4. キャパシティ予約契約において,半導体製造業者とセットメーカーが Step 1 で(w, r)の組

を次のように同時提案し,一致すると,サプライチェーン・コーディネーションを実現できる.

w cv,r v(1/(pcv)),0 (4) 但し,は次式を満たす一意に決まる正値である.

iK

0

))v/((F

0vKdx))x(F1()cp(dx))x(F1()vcp(

i1

(5)

Ki F1((pcv)/(pc)) (6) 命題 4 では,サプライチェーン・コーディネーションを実現する w, r が満たすべき式として,

(4)式が導出されている.つまり,半導体製造業者とセットメーカーが w, r について(4)式のように

Step 1 で同時提案し,一致すると,その後のステップにおいて,両者が自身にとって最適行動を

とると,サプライチェーン全体最適なキャパシティ準備量が実現されることを意味する.(4)式を

満たすw, r は,が増加すれば,w が増加し,r が減少するという関係を満たす.従って,が増

加すれば,半導体製造業者へのサプライチェーン全体最適期待利益の配分比率が増加することが

予想される.次の命題は,この配分比率の範囲を示す. 命題 5. キャパシティ予約契約において,半導体製造業者とセットメーカーが Step 1 で,(w, r)の組を(4)-(6)式を満たすように同時提案し,一致すると,達成されるサプライチェーン全体最適

期待利益は半導体製造業者とセットメーカーへ次式のように配分される. E[s] {/(pcv)}E[i] (7) E[b] {1/(pcv)}E[i] (8)

但し, 0 , iK

0i vKdx))x(F1()cp(][E

i . (9)

つまり,半導体製造業者へのサプライチェーン全体最適期待利益の配分比率の取る値の範囲は,

次式で表される. 0 E[s]/E[i] /(pcv) (10) 命題 5 は,サプライチェーン全体最適期待利益の両者への配分を,特定の範囲内で,の値によ

って変えられることを示している.また,(5)と(6)より, /(pcv) 1 が成り立つことを証明で

きる.即ち,サプライチェーン全体最適期待利益を任意に配分することはできない. に対

応する w,r の組を用いたキャパシティ予約契約に対しては,R = 0 とする卸売価格契約が,セッ

トメーカーにとって,最適となり,サプライチェーン・コーディネーションを実現できない. (7)-(9)より,サプライチェーン全体最適期待利益の両者への配分はともに正値をとるので,Step

1 において,両者が(7)-(9)を満たすような同じ(w, r)の組を提案することは,お互いにとって最適

反応となっている.よって,全体最適期待利益を達成する契約はサブゲーム完全均衡として達成

することができる.ナッシュ均衡については,Gibbons (1992)を参照されたい.

佐野,松尾: 半導体製品のサプライチェーンにおける生産能力予約契約

77

命題 4 と 5 の証明で, = の場合のセットメーカーの期待利益は,卸売価格契約(R=0)の場合

の期待利益と等しいことが示されている. = の場合,コーディネーションが実現されている

ことと,卸売価格契約では,コーディネーションを実現できないことから,半導体製造業者の期

待利益は,対応する卸売価格契約の期待利益より大きいことがわかる.従って,単位納入価格 w cv に対して,コーディネーションを実現する契約は,卸売価格契約と比較して,パレート効

率的である.

4. まとめ 本論文では,Erkoc and Wu (2005),Jin and Wu (2007)で導入された半導体サプライチェーン

モデルにおける,キャパシティ予約契約によるサプライチェーン・コーディネーションの実現可

能性を考察した.本論文の貢献は次の二点である.第一に,キャパシティ予約契約において,サ

プライチェーン・コーディネーションが達成される,単位納入価格と単位キャパシティ予約コス

トの 2 変数の組の範囲を導出した.第二に,サプライチェーン・コーディネーションを実現する

時に可能な,サプライチェーン全体最適期待利益の両者への配分の範囲も示した. 本研究から派生する次の研究課題として,買い手も半導体部品のキャパシティを所有し,自社

製造と,外部の売り手からの調達の二つの手段によって需要を満たそうとする,水平的なキャパ

シティ・ネットワークモデルの構築が考えられる.このような設定のモデルは,半導体部品の開

発から製造,販売までを自社で行う垂直統合型半導体製造業者と,半導体部品の委託製造サービ

スのみを行うファウンドリの関係を論じる上で有用であることが期待できる. 本論文では,研究対象を半導体製品産業と想定して,既存研究にある単純化されたモデルを分

析することにより,実際の問題に対する洞察を導くことに主眼をおいている.本モデルを現場で

応用するためには,需要が複数期に及ぶモデルに拡張することが必要となる.しかしながら,本

論文からの洞察と手法は,現場に応用可能なモデル構築実現の第一歩となると信じる.Beckman and Sinha (2005)が論じているように,半導体製品産業を含むハイテク産業は,オペレーション

ズ・マネジメント分野において,更なる研究の進展が期待される領域である.今後は,フィール

ド・リサーチ等,実務家からの知識を得る機会を積極的に探索し,モデルの拡充に努めたい. 謝辞 本稿を改訂するにあたり,2 名の査読者とエリア編集長からの様々なコメントを参考とした.

また,神戸大学経営学研究科の宮原泰之先生からゲーム理論と契約理論についての助言を頂いた.

先生方に記して感謝したい. 参考文献 Beckman, S. and Sinha, K. K. (2005), “Conducting academic research with an industry focus: Production and

operations management in the high tech industry,” Production and Operations Management, Vol. 14, No. 2, pp. 115-124.

Cachon, G. P. (2003), “Supply chain coordination with contracts,” in Graves, S. C. and De Kok, A. G. (Eds.), Handbooks in Operations Research and Management Science: Supply Chain Management, North Holland.

Erkoc, M. and Wu, S. D. (2005), “Managing high-tech capacity expansion via reservation contracts,” Production and Operations Management, Vol. 14, No. 2, pp. 232-251.

Gibbons, R. (1992), Game Theory for Applied Economics, Princeton University Press, Princeton, New Jersey. Jin, M. and Wu, S. D. (2007), “Capacity reservation contracts for high-tech industry,” European Journal of

Operational Research, Vol. 176, No. 3, pp. 1659-1677. Ozer, O. and Wei, W. (2006), “Strategic commitments for an optimal capacity decision under asymmetric

forecast information”, Management Science, Vol. 52, No. 8, pp. 1238-1257. Serel, D. A., Dada, M. and Moskowitz, H. (2001), “Sourcing decisions with capacity reservation contracts,”

European Journal of Operational Research, Vol. 131, No. 3, pp. 635-648. Spengler, J. (1950), “Vertical integration and antitrust policy,” Journal of Political Economy, Vol. 58, No. 4, pp.

347-352. Van Mieghem, J. A. (2003), “Capacity management, investment, and hedging: Review and recent

developments,” Manufacturing and Service Operations Management, Vol. 5, No. 4, pp. 269-302.

佐野,松尾: 半導体製品のサプライチェーンにおける生産能力予約契約

78

Wu, S. D., Erkoc, M. and Karabuk, S. (2005), “Managing capacity in the high-tech industry: A review of literature,” The Engineering Economist, Vol. 50, No. 2, pp. 125-158.

付録.補題と命題の証明. 補題 1 の証明.

Step 5 において,p,w,c,v,f(x),r,R,K,x は両者にとって既知である.(1)より,セッ

トメーカーは最終的に,キャパシティ予約コストを含めて半導体製造業者に合計 w・min(x, K)r(Rx)だけのコストを支払う.但し,(y) は max(0,y)を表すとする.半導体製造業者の利益

sとセットメーカーの利益bは,それぞれ次のように記述できる.

s (wc)min(x, K)vKr(Rx) b (pw)min(x, K)r(Rx)

Step 3 において,p,w,c,v,f(x),r,R は,半導体製造業者にとって既知である.この時,

半導体製造業者は K R の区間において,E[s]を最大化するように K を決定する.即ち,このス

テップにおける半導体製造業者の最適化問題は,次のように定式化される.

max K R E[s] max K R {(wc)E[min(x, K)]vKrE[(Rx)]} (A1) E[min(x, K)],E[(Rx)]はそれぞれ次のように求められる.

R

0

R

0

K

0K

K

0

dx)x(Fdx)x(f)xR(])xR[(E

dx))x(F1(dx)x(Kfdx)x(xf)]K,x[min(E (A2)

(A1),(A2)より半導体製造業者の目的関数は次式で表される.

R

0

K

0s dx)x(FrvKdx))x(F1()cw(][E (A3)

E[s]の K についての 1 階微分,2 階微分はそれぞれ次のように求められる.

dE[s]/dK (wc)(1F(K))v d2E[s]/dK2 (wc)f(K)

w c と f(K) 0 の仮定より,d2E[s]/dK2 0 となり,E[s]は K について凹である.wcv 0の仮定と K R の制約により,Step 3 において半導体製造業者は最適解 K*を次式のように決定す

る.

R

))cw/()vcw((FK1

* ))cw/()vcw((FRfor

))cw/()vcw((FR0for1

1

(A4)

Step 2 において,p,w,c,v,f(x),r は,セットメーカーにとって既知である.この時,セ

ットメーカーは K K*のもとで,E[b]を最大化するように R を決定する.即ち,このステップ

におけるセットメーカーの決定問題は,次のように定式化される.

max R 0 E[b] max R 0 {(pw)E[min(x, K*)]rE[(Rx)]} (A5)

佐野,松尾: 半導体製品のサプライチェーンにおける生産能力予約契約

79

(A2),(A5)より,セットメーカーの目的関数は次式で表される.

R

0

K

0b dx)x(Frdx))x(F1()wp(][E

*

(A6)

(A3),(A4),(A6)より補題 1 が成り立つ. 命題 1 の証明.

卸売価格契約における半導体製造業者の目的関数は,補題 1 で R 0 と設定することによって

得られる.すなわち,半導体製造業者は次の決定問題に直面する.

}vK)dx)x(FK)(cw{(max][EmaxK

00Ks0K

E[s]の K についての 1 階微分,2 階微分はそれぞれ次のように求められる.

dE[s]/dK (wc)(1F(K))v d2E[s]/dK2 (wc)f(K)

w c と f(K) 0 の仮定より,d2E[s]/dK2 0 となり,E[s]は K について凹である.wcv 0の仮定より,半導体製造業者は K*を次式のように決定する. K* F1((wcv)/(wc)) よって,命題 1 が成り立つ. 命題 2 の証明.

argmax K 0 E[i]を求める.補題 1 において K* K とおくと,E[i]は次のように求められる.

vK)dx)x(FK)(cp(][E][E][E

K

0bsi

命題 1 の証明と同様に,この決定問題の解 Kiは次式を満たす.

Ki F1((pcv)/(pc)) よって,命題 2 が成り立つ. 命題 3 の証明.

Step 2 において,セットメーカーは(2)の E[b]を最大化するように R = R*を決定する.ここで,

R について次の 2 つの区間に分けて考える.

(3-1) 0 R F1((wcv)/(wc)) 区間 0 R F1((wcv)/(wc))に R を決めると,(3)より K* F1((wcv)/(wc))となる.この時,

dE[b]/dR rF(R) 0 なので,E[b]は 0 R F1((wcv)/(wc))において, R 0 (A7) で最大となる.

佐野,松尾: 半導体製品のサプライチェーンにおける生産能力予約契約

80

(3-2) R F1((wcv)/(wc)) R F1((wcv)/(wc))のとき,(3)より K* R となり,E[b]の R についての 1 階微分,2 階微分

はそれぞれ次のように求められる.

dE[b]/dR (pw)(1F(R))rF(R) d2E[b]/dR2 (pwr)f(R)

w p より d2E[b]/dR2 0 となり,E[b]は R について凹である.ここで,r について次の 2 つの

ケースを考える. (3-2-1) r v(pw)/(wcv) r v(pw)/(wcv)は次式と等価である.

(wcv)/(wc) (pw)/(pwr)

従って,R F1((wcv)/(wc))に dE[b]/dR 0 となる R が存在する.即ち,

R F1((pw)/(pwr)) (A8) で最大となる.(A7),(A8)より,R* 0 または R* F1((pw)/(pwr))となる. (3-2-2) r v(pw)/(wcv) r v(pw)/(wcv)は次式と等価である.

(pw)/(pwr) (wcv)/(wc) 従って,R F1((wcv)/(wc))において dE[b]/dR 0 であり,E[b]は R F1((wcv)/(wc))で最大となる.この点は 0 R F1((wcv)/(wc))に属するので,(3-1)における最適解に支配さ

れる.ゆえに,R* 0 となる. (3-2-1)において,R* F1((pw)/(pwr))に対する期待利益が R* 0 に対する期待利益以上の

時,次式を得る.

))cw)/(vcw((F

0

))rwp)/(wp((F

0

))rwp)/(wp((F

0

111

dx))x(F1()wp(dx)x(Frdx))x(F1()wp(

(A9)

(A9)の左辺の r についての 1 階微分は

))rwp)/(wp((F

0

1

dx)x(F であるので,(A9)の左辺は r につ

いて厳密な減少関数である.また,十分に小さな r 0 に対して,(A9)が成立し,r v(pw)/(wcv)に対して,(A9)が成り立たないことを示せば, r̂ が区間 0 r̂ v(pw)/(wcv)に一意に存在する

ことが証明できる. (A8)を r について解くと,r (pw)(1F(R))/F(R)が得られる.これと部分積分を用いて,(A9)

の左辺は次のように変形できる.

佐野,松尾: 半導体製品のサプライチェーンにおける生産能力予約契約

81

)R(F/dx)x(xf)wp(

)R(F/}dx)x(F)R(RF){wp(

)R(F/}dx)x(F))R(F1(dx))x(F1()R(F){wp(

)R(F/dx)x(F))R(F1)(wp(dx))x(F1()wp(dx)x(Frdx))x(F1()wp(

R

0

R

0

R

0

R

0

R

0

R

0

R

0

R

0

これの r0 の極限をとると,

]X[E)wp(dx)x(xf)wp()R(F/dx)x(xf)wp(lim0

R

00r

と求められる.一方,(A9)の右辺は K について増加関数であり,Kの極限は

]X[E)wp(dx)x(xf)wp(

))}K(F1(Kdx)x(xf){wp(limdx))x(F1()wp(lim

0

K

0K

K

0K

と求められる.ゆえに,十分に小さな r 0 に対して,(A9)は成り立つ.また,r v(pw)/(wcv)のときは,F1((pw)/(pwr)) F1((wcv)/(wc))となるので,(A9)は成り立たない.以上より,

命題 3 が成り立つ. 命題 4 と 5 の証明.

w cv であるので,w を次のように表す.

w cv,但し, 0. (A10) さらに,r を次のようにおく.

r v(1/(pcv)) (A11)

w p より, pcv であるので,r 0. (A10)と(A11)より,

(pw)/(pwr) (pcv)/(pc) (A12)

が成り立つ. 命題 3 より,Step 2 で w,r が所与の時,セットメーカーの最適なキャパシティ予約量 R*は,

F1((pw)/(pwr)) = F1((pcv)/(pc)) = Ki,或いは,0 である. R* Kiのとき,補題 1 の(2)の E[s],E[b]において R* Ki,K* Kiとなり,両者の期待利益

は,それぞれ次式で表される.

ii

ii

K

0

K

0b

K

0i

K

0s

dx)x(Frdx))x(F1()wp(][E

dx)x(FrvKdx))x(F1()cw(][E

佐野,松尾: 半導体製品のサプライチェーンにおける生産能力予約契約

82

これらの式に(A10)と(A11)を代入すると,次が得られる.

][E)}vcp/(1{][E

][E)}vcp/({

}vKdx))x(F1()cp)}{(vcp/({

dx)x(F)}vcp/(vv{vKdx))x(F1()v(][E

ib

i

iK

0

K

0i

K

0s

i

ii

(A13)

セットメーカーがキャパシティを予約するためには,(A13)の E[b]が,R 0 とするときの期待利

益以上でなければならない.即ち,

}vKF(x))dx1(c)v)}{(pcα/(p1{F(x))dx1(v)cα(p i

K

0

v))/((F

0

i1

(A14)

但し, Ki F1((pcv)/(pc)) が成り立たなければならない.pcv 0 より,(A14)は次式と等価である.

i

K

0

))v/((F

0vKdx))x(F1()cp(dx))x(F1()vcp(

i1

(A15)

(A15)の右辺は,について一定,左辺は,について厳密な増加関数である. pcv の時,K* Kiとなり,(左辺) (右辺)を求めると

0dx)x(Fv

}dx))x(F1(K{v}vKdx))x(F1()cp{(dx))x(F1()vcp(

i

iii

K

0

K

0ii

K

0

K

0

であり,(A15)は成り立たない.従って,0 pcv の区間内に(A15)の等号を成り立たせる一

意なが存在して,0 の場合に限りセットメーカーはキャパシティを予約する.ここで,

= の時,セットメーカーの期待利益は,卸売契約の場合の期待利益と等しい. のときの半導体製造業者の期待利益は,(A13)より E[s] ( /(pcv))E[i]と表せる.従

って,コーディネーションを実現する契約において,半導体製造業者の期待利益の配分は,0 E[s]/E[i] /(pcv)の範囲をとる.

以上より,命題 4,5 が成り立つ.

The Journal of Japanese Operations Management and Strategy, Vol. 2, No. 1, pp. 70-83, 2011

83

CAPACITY RESERVATION CONTRACTS IN SEMICONDUCTOR SUPPLY CHAIN

Hiroki Sano

Kobe University

Hirofumi Matsuo Kobe University

ABSTRACT We study a capacity reservation contract for a product between a set-maker and a semiconductor manufacturer. In the capacity reservation contract, the set-maker pays a capacity reservation cost for the product in return for the minimum amount of capacity to be prepared by the semiconductor manufacturer. Since the capacity reservation cost depends not on the order quantity but on the reservation quantity, the set-maker shares the part of capacity preparation cost. In the literature dealing with this model, the unit ordering cost is treated as exogenous, and the unit capacity preparation cost is a decision variable of the semiconductor manufacturer. As a consequence, there does not necessarily exist any capacity reservation contract that leads to the supply chain coordination, i.e., the maximum sum of the both players’ expected profits. In this paper, we derive the region of two variables leading to the supply chain coordination. Furthermore, we derive the range of allocation of the optimal expected supply chain profit to the both players.

Keywords: Supply Chain Management, Capacity Reservation Contract, Semiconductor Manufacturing