Synchrotron-radiation angle-resolved...

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Synchrotron-radiation angle-resolved photoemission study on antiferromagnetic and superconducting phases in Ba(Fe 1-x Co x ) 2 As 2 and SmLa 1-x Sr x CuO 4 ղʹΑΔ Ba(Fe 1-x Co x ) 2 As 2 Αͼ SmLa 1 -x Sr x CuO 4 ʹΔڧ࣓૬ͱಋ૬ͷ ڀݚౡେେӃ ཧڀݚՊ ཧՊઐ ߈ ࠲ߨD103779 த ౡ ཅ ༞ ؾ߅શʹθϩʹͳΔͱ·ΛݱͰΓɺͷԠ ༻ແଛ༌ૹஷଂɺಋ࣓ੴͳͲଟʹذΔɻಋసҠԹͷ ঢ٫ߏػͷ؆ԽʹͳΔΊɺάϦʔϯɾΠϊϕʔγϣϯਪਐͷݪಈͱ ظΕΔɻདྷ T = 30 K ҎԼͷۃԹʹݶΒΕಋݱͰɺ1986 ʹಔΛΉঢ়ʹܥɺߴԹಋݱΕ[1]ɻ·2008ʹమΛ ΉʹܥɺಉͷߴԹಋݱΕ[2]ɻߴԹಋݱͷϝΧχ ζϜΕ·ͰΒʹΕΒɺͷߏػݱͷղసҠԹͷঢʹॏ ཁͳ՝ͱҐஔΒΕΔɻಔߴܥԹಋͱమߴܥԹಋʹ ڞ௨ΔɻͷҰɺ૬ਤͰಋ૬ͱڧ࣓૬Δͱ ͰΔɻʹނɺߴԹಋݱͱڧ࣓டংͷʹɺ׆ʹͳΕ ΔɻຊڀݚͰɺ૬సҠݱͷʹணɻ ܥಋBaFe2As2ɺݩૉஔʹΑΔϗʔϧͷΩϟϦΞೖɺΑͼԽ తͳѹҹՄͳͲͷଟͳͰ૬సҠੜΔΊɺ૬సҠݱΛڀݚΔͰద ͰΔɻΕͷݩૉஔʹɺஔͱͱʹڧ࣓Εɺʹޙ ݱΔΊɺBaFe2As2ʹΔڧ࣓டংͷఆԽͷΈಋ ݱͱʹΘΔͷͱߟΒΕΔɻ૬సҠݱϑΣϧϛ໘ͷΓɺͷΛߟΔΊͷͱɺඞਢͷใͱͳΔͷɺϑΣϧϛ໘ͷ ܗݩঢ়ͰΔɻΕ·ͰͷڀݚͰɺ·جຊͱͳΔBaFe2As2ͷϑΣϧ ϛ໘ܗঢ়ʹΒɺݧͷҧʹΑҟͳΔใͳΕΓɺ౷Ұݟղ ಘΒΕͳɻΤωϧΪʔҬ hν = 25-105 eV ͷىΛ༻ղ (ARPES) [3,4]ͰɺϑΣϧϛ໘ͷܗݩঢ়ඇ࣓ঢ়ଶͷୈҰݪܭ[5]ͱఆతʹ ҰகΔͱఠΕΔҰͰɺΤωϧΪʔͷϨʔβʔ ݯ(hν = 7 eV) Λ༻ARPES ݧͷՌڧ࣓ঢ়ଶͷୈҰݪܭͱҰகΔͱใΕΔ[6]ɻ·ݻ෦ͷใΛөΔৼಈଌఆͷݧͰɺڧ࣓டংʹΑߏ࠶ΕϑΣϧ ϛ໘ΛΔใΕΔɻ౷ҰݟղಘΒΕͳཧ༝ͱɺߏࢠ ໘ʹґଘΔͱɺද໘ͷ࣓ҟͳΔՄΔͱɺෳͷό ϯυΔͱʹΑΔͳͲݪҼͱߟΒΕΔɻΕΒͷഎܠΛ౿· ɺమܥಋBaFe2As2ͷϑΣϧϛ໘Λʹࡉఆɺ૬సҠݱͱݩతͳ ϑΣϧϛ໘ܗঢ়ͱͷΛΒʹΔඞཁΔͱߟɻ 1/4

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Synchrotron-radiation angle-resolved photoemission studyon antiferromagnetic and superconducting phases

in Ba(Fe1-xCox)2As2 and SmLa1-xSrxCuO4

放射光角度分解光電子分光によるBa(Fe1-xCox)2As2および SmLa1-xSrxCuO4 における反強磁性相と超伝導相の研究

広島大学大学院 理学研究科 物理科学専攻 光物性講座

D103779 中 島 陽 祐

超伝導は電気抵抗が完全にゼロになるという目覚ましい性質を示す現象であり、その応用は無損失電力輸送や電力貯蔵、超伝導電磁石など多岐に渡っている。超伝導転移温度の上昇は冷却機構の簡略化につながるため、グリーン・イノベーション推進の原動力として期待されている。従来 T = 30 K 以下の極低温に限られた超伝導現象であったが、1986年に銅を含む層状物質系において、高温超伝導現象が報告された[1]。また2008年に鉄を含む物質系においても、同様の高温超伝導現象が報告された[2]。高温超伝導現象のメカニズムはこれまで明らかにされておらず、その発現機構の解明は転移温度の上昇に向けた重要な課題として位置づけられている。銅系高温超伝導物質と鉄系高温超伝導物質にはいくつか共通点がある。その一つが、相図上で超伝導相と反強磁性相が隣接しているという点である。故に、高温超伝導現象と反強磁性秩序の関係について、活発に議論がなされている。本研究では、相転移現象の関係に着目した。

鉄系超伝導物質BaFe2As2は、元素置換による電子やホールのキャリア注入、および化学的な圧力印可などの多様な操作で相転移が生じるため、相転移現象を研究する上で適した物質である。いずれの元素置換においても、置換量とともに反強磁性が抑制され、後に超伝導が発現するため、母物質BaFe2As2における反強磁性秩序の安定化の仕組みは超伝導発現と密接に関わるものと考えられる。相転移現象はフェルミ面ごく近傍の電子だけが関与しており、両者の関係を考えるための土台として、必須の情報となるのが、フェルミ面の三次元形状である。しかしこれまでの研究では、まず基本となる母物質BaFe2As2のフェルミ面形状についてすら、実験条件の違いによって異なる報告がなされており、統一見解が得られていない。エネルギー領域 hν = 25-105 eV の励起光を用いた角度分解光電子分光(ARPES) [3,4]では、フェルミ面の三次元形状が非磁性状態の第一原理計算[5]と定性的に一致すると指摘される一方で、低エネルギーのレーザー光源 (hν = 7 eV) を用いたARPES実験の結果は反強磁性状態の第一原理計算と一致すると報告されている[6]。また固体内部の情報を反映する量子振動測定の実験では、反強磁性秩序によって再構成されたフェルミ面を示唆する報告がされている。統一見解が得られていない理由としては、電子構造が面直波数に依存すること、表面の磁性が異なっている可能性があること、そして複数のバンドが近接していることによる難しさなどが原因として考えられる。これらの背景を踏まえ、鉄系超伝導母物質BaFe2As2のフェルミ面を詳細に決定し、相転移現象と三次元的なフェルミ面形状との関係を明らかにする必要があると考えた。

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ARPESでは励起光エネルギーを変化させることで、観測される状態の面直波数kzを制御することができる。従って、電子構造を三次元的に決定するためには、エネルギー可変の放射光が必要になる。本研究では放射光源の中でも励起光エネルギー可変性に加え、以下に示す利点を持つ低エネルギー領域の放射光、および直線偏光放射光を用いてARPES実験を行い、BaFe2As2の三次元電子構造を詳細に測定した。低エネルギー領域の励起光を用いると、光電子の脱出深度が増加し、エネルギー及び運動量の分解能が向上する。これにより固体内部の電子構造を反映した高分解能光電子スペクトルを得ることが可能となる。また直線偏光放射光を用いたARPES測定では、選択則より波動関数の対称性に従ってバンドを分離観測できる。BaFe2As2はフェルミ準位近傍で、バンドが複雑に重なっているため、それぞれのバンドの特性を分離観測することを狙いとした。実験は広島大学放射光科学研究センターHiSOR BL-9AおよびBL-1で行った。本研究の特色は、低エネルギー励起光の利点を最大限活用した上で、kz不定性を排除した点であり、過去の研究と比べ決定的に新しい。

実験の結果、BaFe2As2が反強磁性状態において強い面直波数kz依存性をもつことが判明した。異なる面直波数kzにおける光電子スペクトルのエネルギー・波数表示を、図1(d1)-(d4)に示す。いずれにおいても、3つのホール的バンドα, βおよびγと1つの電子的バンドδが見られる [図1(d1)参照]。特に内側のバンドαをみると、Γ点 (hν = 23 eV) およびZ点 (hν = 13 eV) ではαバンドの頂上が占有側にあるが、その中間では非占有側にあることがわかる。これはαバンドが面直波数kz方向に強く分散することを示している。各kzにおけるフェルミ面マッピングの結果を図1(c1)-(c4)に示す。フェルミ面の断面の形状が、kzに依存して大きく変化している。Γ点およびZ点周りのマッピングの結果では、光電子強度が中心付近で極大となっているのに対して、その中間のkzでは円環状の強度分布が見られる。これは、kzに依存してフェルミ面の断面

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Mom

entu

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)

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Γ

Z

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0

-0.2

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-1

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hν =23 eV

hν =20 eV

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hν =13 eV

(a)

Momentum, kX (Å )

Γ

Z

(d1)

(d2)

(d3)

(d4)

-0.2 0.20

α

β γδ

-1

0

0

0

0

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-100

-50

-50

-50

-100

-100

-100

#1

#2

#3

#4

Momentum, kX (Å )

Energy, ω (meV)

High

Low

kX

(b)kY

図1 : BaFe2As2の電子構造。(a) ブリルアン・ゾーン。紫線は反強磁性状態のもの。(b) 波数空間の断面図。励起光 hν = 23, 20, 16.5, 13 eV で測定される波数経路 #1-#4 を曲線で示す。(c1)-(c4) 各波数経路 #1-#4 におけるフェルミ面マッピング。(d1)-(d4) 光電子スペクトルのエネルギー・波数表示。茶線はバンド分散に対応する。

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積が大きく変化することを示す。 次に、フェルミ面のマッピングをkz軸方向に連続的に行った結果を、図2(a)に示す。γとδのフェルミ面が広いkz範囲で近接しており、ネスティングの成立を示唆している。また、内側のホール的バンドαはΓ点とZ点で分離した二つの卵形をしている。これに伴って、Γ点だけでなく、Z点においても、バンド分散が鞍状になっていることを、初めて観測した。これらは、フェルミ準位近傍の状態密度にvan Hove特異点を生じさせることから、2つの相転移現象と密接に関係することを示唆している。これらの結果は非磁性状態の第一原理計算[4]とは全く異なっている。一方、反強磁性状態の第一原理計算と比較を、図2(b)に示す。実験と計算の双方ににおいて、kz方向の分散が強いこと、ΓおよびZに鞍点、その間に涙型のフェルミ面があること、γとδが広い範囲で近接しているおり、定性的に一致しているといえる。また、Z鞍点について、第一原理計算に比べてkz方向に約8倍繰り込まれていることを明らかにした。実際に温度を上げ、非磁性状態において同様の測定を行うと、δバンドが消失し、二つの鞍点が非占有側へ移動することを観測した。鞍点の移動に伴って、フェルミ面が分離した涙型から、繋がった円筒型へと変形する。このフェルミ面のトポロジーの変化は、高温超伝導現象に対する磁気揺らぎの影響を理解する上で、重要な知見となる。本研究により、反強磁性転移によって、フェルミ面が2つのvan Hove特異点を巻き込みつつ三次元波数空間で、大々的に再構成されることが明らかとなった。二つの鞍点とフェルミ面のネスティングが反強磁性状態の安定化に密接に寄与していることを示唆している。特にZ鞍点は繰り込みが大きく、相転移に大きく寄与しているものと考えられる。

また超伝導状態では、電子対形成のエネルギーの利得が超伝導ギャップとして現れる。銅系高温超伝導物質では超伝導ギャップに加えて、超伝導転移温度より高い温度においてもギャップが閉じない、擬ギャップと呼ばれる電子構造が報告されている。擬ギャップは反強磁性秩序が残る低キャリアドープ領域において発達する。また銅系高温超伝導物質では、二次元CuO2面が超伝導の主な舞台であると考えられているが、一方で隣接する頂点サイトの距離や元素によって転移温度の変化や、擬ギャップの振る舞いに違いが見られる[7-9]。よって反強磁秩序と超伝導の相転移現象を研究する上で、電子構造の頂点サイト依存性を明らかにする必要がある。銅系超伝導物質の中でも、SmLa1-xSrxCuO4系は単層CuO2面の片側にのみ頂点酸素が配位

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3.0

2.5

Mom

entu

m, k

z c /

Γ

Z

#1

#2

#3

#4

BaFe2As2ω = 0 T = 10 Khν = 6.5 - 30 eV

(a) Cut #5

α β γ δ

3.0

2.5M

omen

tum

, kz c

/ 4π

-0.4 -0.2 0 0.2 0.4Momentum, kX (Å )

Γ

Z

-1

(b)

図2 : (a) kz軸方向におけるフェルミ面マッピング。(b) 反強磁性状態の第一原理計算の結果との比較。

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するT*相という独特な結晶構造をもち、頂点サイトが電子構造に及ぼす影響を調べるのに適している。本研究では複数のSr置換量 x = 0.15, 0.175, 0.20 の試料を用いて放射光ARPESよりフェルミ面を直接観測した。図3(a)にSr置換量 x = 0.20におけるフェルミ面のマッピングの結果を示す。超伝導ギャップのノードとなる(π/2,π/2)周辺では、フェルミ準位を横切るバンド分散が、 図3(b)(d)に示すように明瞭に観測されたが、(π,0)方向へ行くと、図3(c)(e)に示すように準粒子ピークが急に幅広くなるとともに、フェルミ準位上のスペクトル強度が消失し、フェルミ面が円弧状になることが明らかとなった。Sr置換量 x = 0.15, 0.175 の試料においても、同様の円弧状のフェルミ面が観測された。また光電子強度のピーク位置から評価した擬ギャップの大きさを、図4に示す。測定したいずれのホール濃度の試料においても、フェルミ準位上でスペクトル強度が消失するアンチ・ノード周辺において30 meVを超える擬ギャップが形成されていることが分かった。フェルミ面の直接観測から、SmLa1-xSrxCuO4

系では反強磁性秩序に関係する擬ギャップがLa2-xSrxCuO4系[7]に比べて強く発達し、形状が円弧状になることが明らかとなった。

本研究では、高温超伝導物質BaFe2As2系、およびT*相SmLa1-xSrxCuO4系の電子構造を放射光ARPESを用いて決定した。相転移を担うフェルミ準位近傍の電子状態は、これまで考えられていた以上に反強磁性秩序に強く影響されていることが明らかとなった。得られた結果は、相転移現象の重要な波数点を特定し、相転移現象に対する新たな知見を与えたものとして位置づけることができる。

[1] J. D. Bednorz and K. A. Muller, Z. Phys. B 64, 189 (1986). [2] Y. Kamihara et al., J. AM. Chem. Soc. 130, 3296 (2008).[3] W. Malaeb et al., J. Phys. Soc. Jpn. 78, 123706 (2009).[4] C. Liu et al., Phys. Rev. Lett. 102, 167004 (2009).[5] G. Xu et al., Europhys. Lett. 82, 67002 (2008).[6] T. Shimojima et al., Phys. Rev. Lett. 104, 057002 (2010).[7] T. Yoshida et al., Phys. Rev. B 74, 224510 (2006).[8] Kyle M. Shen et al., Science 307, 901 (2005).[9] N. P. Armitag et al., Phys. Rev. Lett. 88, 257001 (2002).

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図3: T*相SmLa1-xSrxCuO4におけるARPESスペクトル。(a) x = 0.20の試料における, フェルミ面マッピングの結果。(b,c) 図2(a)中に示した波数経路#1および#2に対応する運動量分布曲線。赤色はフェルミ準位の分布曲線。(d,e) (b)および(c)に対応するバンド分散の光電子強度。

図4: SmLa1-xSrxCuO4におけるギャップの方向依存性。x = 0.15, 0.175, 0.20の各Sr置換量の試料についての結果を示す。高いSr置換量の試料においても、アンチ・ノード周辺で擬ギャップが発達し, 円弧状のフェルミ面が観測される。