SIXP37 1CBL P4-5 · 台にした未公開のドラマ『Unchained』(1955年)...

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4 5 SIXP37[BD] 『ゴースト/ニューヨークの幻』 (1990年)にフィー チュアされてリバイバル・ヒットしたライチャス・ブラ ザーズ(1964年に全米4位)のイタリア語ヴァージョ ンであるが、曲自体のルーツはもっと古く、監獄を舞 台にした未公開のドラマ『Unchained』 (1955年) のためにアレックス・ノースが作曲、ハイ・ザレットが作 詞し、ガーシュウィンの『ポーギーとベス』初演にも 主演した名優・歌手トッド・ダンカンが歌って、アカデ ミー賞主題歌賞にノミネートされた曲が原点であ る。ただし、受賞したのは『 別働隊 』 (1950年)の「モ ナ・リサ(リザ)」だった。「モナ・リサ」は#14同様ナット がカヴァーしてヒットさせたことでも知られている曲 であった。この曲に続く#16もナットが歌詞を付けて ヒットさせている。深読みすると、#14#15#16は 偉大な歌手=ナットをリスペクトして彼の曲やリンク する曲を続けた、ヒネリを効かせた構成になってい るわけである。 ■16.スマイル ナットの名唱でも知られているこの曲は、『タイム レス』のエンディングを飾ったチャールズ・チャップリ ンの名曲で、名作『 モダン・タイムス』 (1936年)の た めにチャップリン自 身 が 作 曲した 。イ ル・ディー ヴォ公演に先駆けて2018年2月に実現したソロ公 演でセブが披露してくれたが、同じ年に二つの ヴァージョンでこの名曲を満喫出来たのは大きな 収穫だった。今から思えば、あのセブの披露は『タ イムレス 』と続くこのツアーのためのシークレット・ プレビューだったのかも。 ■17.キングダム・カム [セバスチャン・ソロ] 「スマイル」からこの曲に続くあたりは、セブのソロ 公演を思い出させてくれて、これまたいい感じの流れ だ。セブことセバスチャンのソロは自身のアルバム 『ウィ・カム・ヒア・トゥ・ラヴ』 (2017年)のリードソングと なったおなじみのスピリチュアルなブルース・ロック 曲。アルバムを出したばかりのソロ公演時に比べて、 何度も聴きなおしているからか、今回のツアーでは オーディエンスにも浸透していたようで、手拍子も ピッタリだ。 18.この素晴らしき世界(ケ・ボニート・エス・ビビール) イル・ディーヴォが満を持して『 タイムレス 』でレ コーディングした名曲。スーザン・ボイルら、様々な アーティストが取り上げている。もちろん、オリジナ ルはルイ・アームストロングが1967年に発表して 以来スタンダードになっており、ルイのレコーディン グをテーマ曲に使用した名作『グッドモーニング、ベ トナム』 (1987年)では、DJに扮したロビン・ウィリ アムズにより“偉大なサッチモ(ルイの愛称)”の曲と して紹介され、悲惨な戦争のシーンの鎮魂の意味 を込めた映画史上に記録されるべきメッセージを 伝えた。そのルイの曲をイル・ディーヴォはスペイ ン語で歌い、時代や国籍を越えたこの名曲の普遍 的なテーマを伝えてくれる。 ■19.故 ふるさと 2011年の東日本大震災の被害者に鎮魂を込め て日本語によって歌われた。2012年のジャパン・ツ アー以来、我が国の公演では欠かせない曲で、4人 の美しく清楚な歌声は真摯な気持ちにさせてくれ る。常に鎮魂の思いが込めて歌われているが、今回 は#18「この素晴らしき世界」に続けて歌われたこ とで、一つの人生讃歌的な意味合いも生まれてい て、ますますこの曲は日本人に欠かせなくなった。 ■20.追憶(トワ・エ・モワ) 名曲・名唱揃いの『タイムレス』の中でもことのほか 感動的なこの曲は、ファンの間でも非常に評価が高 く、イル・ディーヴォの4人やスタッフもその評価を意 識して、アルバムでは中盤にフィーチュアしていたこ の曲をライヴ・パフォーマンスのクライマックスに持っ てきた。イル・ディーヴォとは縁が深いバーブラ・ストラ イサンドが主演映画『追憶』(1973年)のために歌い アカデミー賞主題歌賞に輝いた名曲がオリジナル。 オーケストラ、ライティング、シンプルな舞台美術も含 めて、今回のライヴの中でもパーフェクトの一曲。 21.オールウェイズ・ラヴ・ユー(シエンプレ・テ・アマーレ) # 2 0「 追 憶 」と表 裏 一 体 的 なインパクトを 持 つ この 名 曲は、世 紀 の 歌 姫ホイットニー・ヒューストン が初主演した映画『ボディガード』 (1992年)で切 なく歌って全米No.1など世界的な大ヒットになっ た名曲だが、この曲自体もルーツは古くカントリー の女王ドリー・パートンによる1974年のヒット曲が オリジナル。イル・ディーヴォのヴァージョンは『グレ イテスト・ヒッツ』に初収録された。感傷的にさせる 曲であり、実際セブのアカペラで胸がジーンとして いたら、デイヴィッドがあたたかなヴォーカルを加え ながらお茶目に絡んできて、パフォーマンスは面白 い効果を生んでいた。 ■22.衣装をつけろ[デイヴィッド・ソロ] 「やっと歌う声になったと思う」と謙遜するコメン トを出しているデイヴィッドだが、とんでもない、彼 のヴォーカルはすごすぎる。ソロ・アルバムを出すべ きだ。前ツアーにおける「誰も寝てはならぬ」もすご かったが、今回はエンリコ・カルーソーの歴史的なレ コーディングを筆頭に数多くの名録音があるルッ ジェーロ・レオンカヴァッロ作 曲 のオペラ『 道 化 師 』 の中で、道化一座のカニオが歌うあまりにも有名な アリアを披露した。あのクイーンの名曲「It's a Hard Life」では、フレディが歌う冒頭のメロディに も引用されている。 ■23.愛なき人生 デイヴィッドのソロを受けて最後の締め括りの パートからアンコールは、クライマックスにふさわし く、イル・ディーヴォの全キャリアにおいて欠かせな い4曲をフィーチュア。トップを飾るこの曲は、アル バム『 オー ルウェイズ 』 (2006年)で初紹介されて 以来、ライヴ・パフォーマンスに欠かせないメランコ リックなラテン・ポップス。ラテン系のカルロス・ゴメ スにスウェー デンのヒットメイカー 、デヴィッド・ク ルーガーとパー・マグヌソンが組んだオリジナル曲 ながら、既にラテン・クラシックの風格を感じさせる 名曲で、ダンサーをフィーチュアした楽しいパ フォーマンスになっている。 ■24.サムホエア ミュージカル の 金 字 塔『 ウエスト・サ イド物 語 』 (1957年ブロードウェイ初演、1961年映画化)から 生 ま れ た 名 曲 の 一 つ で 、日 本 で は パ ナソ ニック 「 V I E R A 」の C Mやテレビ 神 奈 川『 洋 楽 天 国   TUESDAY』のテーマ曲に使われたこともあり絶大 な人気を誇っている。『オールウェイズ』に初収録さ れた他、バーブラ・ストライサンドとの共演ヴァージョ ンもある。 ■25.アンブレイク・マイ・ハート(レグレサ・ア・ミ) まさに、イル・ディーヴォの原点的名曲。デビュー・ ア ル バム『 イ ル・ディーヴォ』( 2 0 0 4 年 )にフィー チュアされた名曲で、「MAMA」に続いてシングル 化もされた。オリジナルはイル・ディーヴォとは縁が 深 い R & B ディー ヴァ、ト ニ・ブ ラクストン に よ る 1996年の大ヒット曲で、イル・ディーヴォのマネー ジメントをしていたサイモン・コーウェルが直々に作 者ダイアン・ウォーレンから権利を購入してスペイ ン語でレコーディングされた。 ■26.マイ・ウェイ これも『イル・ディーヴォ』より。クロード・フランソ ワ1967年のフレンチ・ポップスがルーツで、フラン ク・シナトラやエルヴィス・プレスリーを筆 頭に数々 の名録音が生まれている曲だ。ポップスの名曲をク ラシック・テイストで表現するコンセプトで登場した イル・ディーヴォの立ち位置を示すには分かりやす い選曲。極上のディナー=イル・ディーヴォのライヴ の締め括りにふさわしい。 2019年4月11日 村岡裕司/YUJI MURAOKA 本作ではBDのチャプター順に楽曲解説を掲載しております。

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SIXP37[BD]

『ゴースト/ニューヨークの幻』(1990年)にフィー

チュアされてリバイバル・ヒットしたライチャス・ブラ

ザーズ(1964年に全米4位)のイタリア語ヴァージョ

ンであるが、曲自体のルーツはもっと古く、監獄を舞

台にした未公開のドラマ『Unchained』(1955年)

のためにアレックス・ノースが作曲、ハイ・ザレットが作

詞し、ガーシュウィンの『ポーギーとベス』初演にも

主演した名優・歌手トッド・ダンカンが歌って、アカデ

ミー賞主題歌賞にノミネートされた曲が原点であ

る。ただし、受賞したのは『別働隊』(1950年)の「モ

ナ・リサ(リザ)」だった。「モナ・リサ」は#14同様ナット

がカヴァーしてヒットさせたことでも知られている曲

であった。この曲に続く#16もナットが歌詞を付けて

ヒットさせている。深読みすると、#14#15#16は

偉大な歌手=ナットをリスペクトして彼の曲やリンク

する曲を続けた、ヒネリを効かせた構成になってい

るわけである。

■16.スマイル ナットの名唱でも知られているこの曲は、『タイム

レス』のエンディングを飾ったチャールズ・チャップリ

ンの名曲で、名作『モダン・タイムス』(1936年)の

ためにチャップリン自身が作曲した。イル・ディー

ヴォ公演に先駆けて2018年2月に実現したソロ公

演でセブが披露してくれたが、同じ年に二つの

ヴァージョンでこの名曲を満喫出来たのは大きな

収穫だった。今から思えば、あのセブの披露は『タ

イムレス』と続くこのツアーのためのシークレット・

プレビューだったのかも。

■17.キングダム・カム [セバスチャン・ソロ] 「スマイル」からこの曲に続くあたりは、セブのソロ

公演を思い出させてくれて、これまたいい感じの流れ

だ。セブことセバスチャンのソロは自身のアルバム

『ウィ・カム・ヒア・トゥ・ラヴ』(2017年)のリードソングと

なったおなじみのスピリチュアルなブルース・ロック

曲。アルバムを出したばかりのソロ公演時に比べて、

何度も聴きなおしているからか、今回のツアーでは

オーディエンスにも浸透していたようで、手拍子も

ピッタリだ。

■18.この素晴らしき世界(ケ・ボニート・エス・ビビール) イル・ディーヴォが満を持して『タイムレス』でレ

コーディングした名曲。スーザン・ボイルら、様々な

アーティストが取り上げている。もちろん、オリジナ

ルはルイ・アームストロングが1967年に発表して

以来スタンダードになっており、ルイのレコーディン

グをテーマ曲に使用した名作『グッドモーニング、ベ

トナム』(1987年)では、DJに扮したロビン・ウィリ

アムズにより“偉大なサッチモ(ルイの愛称)”の曲と

して紹介され、悲惨な戦争のシーンの鎮魂の意味

を込めた映画史上に記録されるべきメッセージを

伝えた。そのルイの曲をイル・ディーヴォはスペイ

ン語で歌い、時代や国籍を越えたこの名曲の普遍

的なテーマを伝えてくれる。

■19.故ふるさと

郷 2011年の東日本大震災の被害者に鎮魂を込め

て日本語によって歌われた。2012年のジャパン・ツ

アー以来、我が国の公演では欠かせない曲で、4人

の美しく清楚な歌声は真摯な気持ちにさせてくれ

る。常に鎮魂の思いが込めて歌われているが、今回

は#18「この素晴らしき世界」に続けて歌われたこ

とで、一つの人生讃歌的な意味合いも生まれてい

て、ますますこの曲は日本人に欠かせなくなった。

■20.追憶(トワ・エ・モワ) 名曲・名唱揃いの『タイムレス』の中でもことのほか

感動的なこの曲は、ファンの間でも非常に評価が高

く、イル・ディーヴォの4人やスタッフもその評価を意

識して、アルバムでは中盤にフィーチュアしていたこ

の曲をライヴ・パフォーマンスのクライマックスに持っ

てきた。イル・ディーヴォとは縁が深いバーブラ・ストラ

イサンドが主演映画『追憶』(1973年)のために歌い

アカデミー賞主題歌賞に輝いた名曲がオリジナル。

オーケストラ、ライティング、シンプルな舞台美術も含

めて、今回のライヴの中でもパーフェクトの一曲。

■21.オールウェイズ・ラヴ・ユー(シエンプレ・テ・アマーレ) #20「追憶」と表裏一体的なインパクトを持つ

この名曲は、世紀の歌姫ホイットニー・ヒューストン

が初主演した映画『ボディガード』(1992年)で切

なく歌って全米No.1など世界的な大ヒットになっ

た名曲だが、この曲自体もルーツは古くカントリー

の女王ドリー・パートンによる1974年のヒット曲が

オリジナル。イル・ディーヴォのヴァージョンは『グレ

イテスト・ヒッツ』に初収録された。感傷的にさせる

曲であり、実際セブのアカペラで胸がジーンとして

いたら、デイヴィッドがあたたかなヴォーカルを加え

ながらお茶目に絡んできて、パフォーマンスは面白

い効果を生んでいた。

■22.衣装をつけろ[デイヴィッド・ソロ] 「やっと歌う声になったと思う」と謙遜するコメン

トを出しているデイヴィッドだが、とんでもない、彼

のヴォーカルはすごすぎる。ソロ・アルバムを出すべ

きだ。前ツアーにおける「誰も寝てはならぬ」もすご

かったが、今回はエンリコ・カルーソーの歴史的なレ

コーディングを筆頭に数多くの名録音があるルッ

ジェーロ・レオンカヴァッロ作曲のオペラ『道化師』

の中で、道化一座のカニオが歌うあまりにも有名な

アリアを披露した。あのクイーンの名曲「It 's a

Hard Life」では、フレディが歌う冒頭のメロディに

も引用されている。

■23.愛なき人生 デイヴィッドのソロを受けて最後の締め括りの

パートからアンコールは、クライマックスにふさわし

く、イル・ディーヴォの全キャリアにおいて欠かせな

い4曲をフィーチュア。トップを飾るこの曲は、アル

バム『オールウェイズ』(2006年)で初紹介されて

以来、ライヴ・パフォーマンスに欠かせないメランコ

リックなラテン・ポップス。ラテン系のカルロス・ゴメ

スにスウェーデンのヒットメイカー、デヴィッド・ク

ルーガーとパー・マグヌソンが組んだオリジナル曲

ながら、既にラテン・クラシックの風格を感じさせる

名 曲で、ダンサ ーをフィーチュアした楽しいパ

フォーマンスになっている。

■24.サムホエア ミュージカルの金字塔『ウエスト・サイド物語』

(1957年ブロードウェイ初演、1961年映画化)から

生まれた名曲の一つで、日本ではパナソニック

「VIERA」のCMやテレビ神奈川『 洋楽天国 

TUESDAY』のテーマ曲に使われたこともあり絶大

な人気を誇っている。『オールウェイズ』に初収録さ

れた他、バーブラ・ストライサンドとの共演ヴァージョ

ンもある。

■25.アンブレイク・マイ・ハート(レグレサ・ア・ミ) まさに、イル・ディーヴォの原点的名曲。デビュー・

アルバム『イル・ディーヴォ』(2004年)にフィー

チュアされた名曲で、「MAMA」に続いてシングル

化もされた。オリジナルはイル・ディーヴォとは縁が

深いR&Bディーヴァ、トニ・ブラクストンによる

1996年の大ヒット曲で、イル・ディーヴォのマネー

ジメントをしていたサイモン・コーウェルが直々に作

者ダイアン・ウォーレンから権利を購入してスペイ

ン語でレコーディングされた。

■26.マイ・ウェイ これも『イル・ディーヴォ』より。クロード・フランソ

ワ1967年のフレンチ・ポップスがルーツで、フラン

ク・シナトラやエルヴィス・プレスリーを筆頭に数々

の名録音が生まれている曲だ。ポップスの名曲をク

ラシック・テイストで表現するコンセプトで登場した

イル・ディーヴォの立ち位置を示すには分かりやす

い選曲。極上のディナー=イル・ディーヴォのライヴ

の締め括りにふさわしい。

2019年4月11日 村岡裕司/YUJI MURAOKA

本作ではBDのチャプター順に楽曲解説を掲載しております。