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No.C84 LAAN-A-LM056 トリプル四重極型LC/MS/MSを用いた 油脂中の3-MCPD脂肪酸ジエステルの分析 Analysis of 3-MCPD Fatty Acid Diesters in Palm Oil Using Triple Quadrupole LC/MS/MS [LCMS-8030] 3-MCPD(3-monochloropropane-1,2-diol)は,脱 脂 大 豆や小麦グルテンなどの植物性たん白を塩酸で加水分解し た醤油などの調味料を製造する際に生成する副産物です。 FAO/WHO合同食品添加物専門家会議(JECFA)によるリ スク評価では,3-MCPDに遺伝毒性発がん性は認められな いとされましたが,動物試験では長期間大量に摂取した場 合に腎臓に悪影響が生じるとされています。日本の醤油生 産量の85 %を占める「本醸造方式の醤油」には製法の違い により3-MCPDが含まれないことが確認されています。一 般的な食生活より摂取する量が健康上問題のない量である ことから,日本では規制の対象にはなっていません。しかし, 食品中への混入を製造法の改善でできる限り低くする対策 が進められています。 最近は,精製食用油を含む多くの食品中に3-MCPD脂 肪酸エステルの存在が報告されました。3-MCPD脂肪酸エ ステルの毒性についてはまだ解明されておりません。各種 研究を進める上で,3-MCPD脂肪酸エステルの分析が重要 となっています。3-MCPD脂肪酸エステルの分析は,フェ ニルボロン酸で誘導体化後,GC/MSで分析する手法(DGF Standard methods 2009, Section C-Fats)が知られていま すが,誘導体化なしに直接分析が可能なLC/MS/MSでの 分析が注目されています。3-MCPD脂肪酸エステルは,天 然の植物性油脂に多く存在し,特にパーム油の含有量が多 いのが特徴です。今回は,LC/MS/MSによるパーム油中 の定量分析をご紹介します。3-MCPDジパルミチン酸エステ ルと3-MCPDジオレイン酸エステルの合成品を標準品として 使用しました。エレクトロスプレーイオン化法(ESI法)では 3-MCPDジ脂肪酸エステルは酢酸アンモニウムを含む移動 相使用の条件下でNH4 + が付加したイオンが検出されます。 そのイオンをプリカーサイオンとして得られたMS/MSスペク トルをFig. 1に示します。上段から,コリジョンエネルギー (CE)10,30,40 Vです。各々1つの脂肪酸が脱離したも のがプロダクトイオンとして検出されています。Fig. 2には合 成品(1 μg/L)のMRMクロマトグラムを示しました。 0.0 0.5 1.0 A O O Cl O O 100 200 300 400 500 600 m/z 0.0 1.0 Inten.(×100,000) 604 331 100 200 300 400 500 600 m/z Inten.(×100,000) 100 200 300 400 500 600 m/z Inten.(×10,000) 10 V 30 V 40 V [M+H-C16H32O2] + [M+NH4] + 331 0.0 0.5 1.0 1.5 331 57 85 0.0 5.0 C35H67ClO4 Exact Mass: 586.47 Mol. Wt.: 587.36 O O O Cl O B 100 200 300 400 500 600 m/z Inten.(×100,000) 100 200 300 400 500 600 m/z Inten.(×100,000) 100 200 300 400 500 600 m/z Inten.(×10,000) 10 V 30 V 40 V [M+H-C18H34O2] + [M+NH4] + 0.0 0.5 1.0 1.5 0.0 5.0 C39H71ClO4 Exact Mass: 638.50 Mol. Wt.: 639.43 656 357 357 357 95 69 0 5 10 15 20 25 30 656.50>357.20(+) 6.083 0 5 10 15 20 25 30 35 40 604.40>331.10(+) 5.985 A B 4.0 5.0 6.0 7.0 min 5.0 6.0 7.0 8.0 min Fig. 1 合成品のMS/MSスペクトル(A: 3-MCPDジパルミチン酸エステル,B: 3-MCPDジオレイン酸エステル) MS/MS Spectra of the Synthetic (A: 3-MCPD Di-palmitoyl ester, B: 3-MCPD Di-oleoyl ester) Fig. 2 合成品のMRMクロマトグラム(1 μg/LA:3-MCPDジパルミチン酸エステル,B: 3-MCPDジオレイン酸エステル) MRM Chromatograms of the Synthetic (1 μg/L, A: 3-MCPD Di-palmitoyl ester, B: 3-MCPD Di-oleoyl ester)

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No.C84LAAN-A-LM056

トリプル四重極型LC/MS/MSを用いた油脂中の3-MCPD脂肪酸ジエステルの分析

Analysis of 3-MCPD Fatty Acid Diesters in Palm Oil Using Triple Quadrupole LC/MS/MS [LCMS-8030]3-MCPD(3-monochloropropane-1,2-diol)は,脱脂大

豆や小麦グルテンなどの植物性たん白を塩酸で加水分解し

た醤油などの調味料を製造する際に生成する副産物です。

FAO/WHO合同食品添加物専門家会議(JECFA)によるリ

スク評価では,3-MCPDに遺伝毒性発がん性は認められな

いとされましたが,動物試験では長期間大量に摂取した場

合に腎臓に悪影響が生じるとされています。日本の醤油生

産量の85 %を占める「本醸造方式の醤油」には製法の違い

により3-MCPDが含まれないことが確認されています。一

般的な食生活より摂取する量が健康上問題のない量である

ことから,日本では規制の対象にはなっていません。しかし,

食品中への混入を製造法の改善でできる限り低くする対策

が進められています。

最近は,精製食用油を含む多くの食品中に3-MCPD脂

肪酸エステルの存在が報告されました。3-MCPD脂肪酸エ

ステルの毒性についてはまだ解明されておりません。各種

研究を進める上で,3-MCPD脂肪酸エステルの分析が重要

となっています。3-MCPD脂肪酸エステルの分析は,フェ

ニルボロン酸で誘導体化後,GC/MSで分析する手法(DGF

Standard methods 2009, Section C-Fats)が知られていま

すが,誘導体化なしに直接分析が可能なLC/MS/MSでの

分析が注目されています。3-MCPD脂肪酸エステルは,天

然の植物性油脂に多く存在し,特にパーム油の含有量が多

いのが特徴です。今回は,LC/MS/MSによるパーム油中

の定量分析をご紹介します。3-MCPDジパルミチン酸エステ

ルと3-MCPDジオレイン酸エステルの合成品を標準品として

使用しました。エレクトロスプレーイオン化法(ESI法)では

3-MCPDジ脂肪酸エステルは酢酸アンモニウムを含む移動

相使用の条件下でNH4+が付加したイオンが検出されます。

そのイオンをプリカーサイオンとして得られたMS/MSスペク

トルをFig. 1に示します。上段から,コリジョンエネルギー

(CE) 10,30,40 Vです。各 1々つの脂肪酸が脱離したも

のがプロダクトイオンとして検出されています。Fig. 2には合

成品(1 μg/L)のMRMクロマトグラムを示しました。

0.0

0.5

1.0

A O

O

Cl

O

O

100 200 300 400 500 600 m/z0.0

1.0

Inten.(×100,000)

604331

100 200 300 400 500 600 m/z

Inten.(×100,000)

100 200 300 400 500 600 m/z

Inten.(×10,000)

10 V

30 V

40 V

[M+H-C16H32O2]+

[M+NH4]+

331

0.0

0.5

1.0

1.5

33157 85

0.0

5.0

C35H67ClO4

Exact Mass: 586.47Mol. Wt.: 587.36

O

O

O

Cl

OB

100 200 300 400 500 600 m/z

Inten.(×100,000)

100 200 300 400 500 600 m/z

Inten.(×100,000)

100 200 300 400 500 600 m/z

Inten.(×10,000)

10 V

30 V

40 V

[M+H-C18H34O2]+

[M+NH4]+

0.0

0.5

1.0

1.5

0.0

5.0

C39H71ClO4

Exact Mass: 638.50Mol. Wt.: 639.43

656

357

357

357

9569

0

5

10

15

20

25

30 656.50>357.20(+)

6.083

0

5

10

15

20

25

30

35

40604.40>331.10(+)

5.985

A B

4.0 5.0 6.0 7.0 min 5.0 6.0 7.0 8.0 min

Fig. 1 合成品のMS/MSスペクトル(A: 3-MCPDジパルミチン酸エステル,B: 3-MCPDジオレイン酸エステル)MS/MS Spectra of the Synthetic (A: 3-MCPD Di-palmitoyl ester, B: 3-MCPD Di-oleoyl ester)

Fig. 2 合成品のMRMクロマトグラム(1 μg/L,A:3-MCPDジパルミチン酸エステル,B: 3-MCPDジオレイン酸エステル)MRM Chromatograms of the Synthetic (1 μg/L, A: 3-MCPD Di-palmitoyl ester, B: 3-MCPD Di-oleoyl ester)

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島津コールセンター  0120-131691TEL:075-813-1691

No.C84

次に,3-MCPDジパルミチン酸エステルと3-MCPDジオレ

イン酸エステルの検量線をFig. 3AとFig. 3Bに示します。1

~1000 μg/Lと広範囲において寄与率0.999以上の良好な

直線性でした。3-MCPDジパルミチン酸エステルと3-MCPD

ジオレイン酸エステルの6回繰り返し再現性は,1 μg/Lの

時,面積値%RSDが15.47と19.64,10 μg/Lの時,6.54,9.32

でした。

0 250 500 750 濃度0

25000

50000

75000

100000

125000面積

0 250 500 750 濃度0

2500050000

75000100000

125000150000

175000

面積

A B

R2=0.9992873 R2=0.9998887

4.0 5.0 6.0 7.0 min 5.0 6.0 7.0 8.0 min

0

25

50

75

100

125

150

175

200 2:656.50>357.20(+)

6.108

0

50

100

150

200

250

300

3501:604.40>331.10(+)

6.020 BA

Fig. 3 検量線(1-1000 μg/L, n=6)Calibration Curves (1-1000 μg/L , n=6)

Fig. 4 パーム油中の3-MCPD脂肪酸ジエステルのMRMクロマトグラム(A:3-MCPDジパルミチン酸エステル,B: 3-MCPDジオレイン酸エステル)MRM Chromatograms of 3-MCPD Fatty Acid Diesters in Palm Oil (A: 3-MCPD Di-palmitoyl ester, B: 3-MCPD Di-oleoyl ester)

次のFig. 4では,パーム油分析の例をご紹介します。パー

ム油は169.9 mg を秤量し,ヘキサン1 mL に溶解後,アセ

トンで100倍に希釈したものを分析に供しました(588.6倍

希釈)。この希釈した溶液中には約10 μg/Lの3-MCPDジ

パルミチン酸エステルと3-MCPDジオレイン酸エステルが検

出されました(Fig. 4AとB)。パーム油中には,それぞれ約

6 mg/Lの 濃 度 で3-MCPDジパルミチン 酸 エステルと

3-MCPDジオレイン酸エステルが含まれている計算となりま

す。このようにトリプル四重極型質量分析計では油脂に含

まれる3-MCPD脂肪酸エステルを希釈するのみの簡単な処

理で検出することができます。

M. Kobayashi

Table 1 分析条件Analytical Conditions

Column : Shim-pack XR-ODSⅡ (75 mmL. × 2.0 mmI.D., 2.2 μm)Mobile Phase A : Methanol with 3 mmol/L Ammonium Acetate / Acetonitrile = 9 / 1Mobile Phase B : Acetone / Methanol with 3 mmol/L Ammonium Acetate / Acetonitrile = 8 / 1 / 1Time Program : 0 %B (0-2.5 min) → 65 %B (7.5 min) → 100 %B (7.51-10 min)→ 0 %B (10.01-15 min)Flow Rate : 0.4 mL/minInjection Volume : 2 μL Column Temperature : 40 °CProbe Voltage : 4.5 kV (ESI-Positive mode) Nebulizing Gas Flow : 1.5 L/minDL Temperature : 300 °C Block Heater Temperature : 400 °CDL / Q-array Voltage : Using default values Drying Gas Flow : 20 L/min

3100-09103-570-IK2011.11

2011年11月