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SG150069-A-16008 - JST · 2017. 12. 7. · 2...
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1. タイトル
植物の香り成分を使った殺虫及び防虫効果の検証と分析
2. 背景・目的
講義の中で唯一除虫菊にだけ殺虫成分が含まれているという話があり、虫に対する死などの負
の影響を知りたいということから、除虫菊に関する研究を行った。また、人体に害がなく、刈り
取ったあと燃やしてしまう農家にとって都合の悪い雑草を利用して、環境にも農家にも有益な防
虫剤を作りたいという理由から、昨年に引き続き防虫に関する研究を行った。さらに昨年と同様
に、需要が高く、害虫の被害にあいやすいハクサイを対象に行った。
本研究では、防虫と殺虫について扱う。
3. 方法
準備物、使用機器
(対象に用いた植物) ハクサイ(みねぶき) 30株
(殺虫剤に用いた植物) 乾燥させた除虫菊(因島除虫菊の里連絡協議会より) 1㎏
(ハクサイの栽培に用いたもの) 土、プランター(20.5㎝×61.5㎝) 15個
(防虫剤・防虫剤作成に用いた薬品) Acetone(アセトン), Hexane(ヘキサン),
3-hexen-1-ol(サンヘキセンイチオール), Eucalyptol(ユーカリプトール),
Dyne(ダイン), Ethyl acetate(酢酸エチル), Methanol(メタノール),PMA
(使用器具) ビーカー,ナスフラスコ,三角フラスコ,ピペット,メスシリンダー,
TLCガラスプレート,ガラスキャピラリー
(使用機器)ウォーターバス,エバポレーター
[殺虫]
まず初めに、除虫菊の子房の下の部分に殺虫成分であるピレトリンが含まれているという情報
を得たので 1 、ピレトリンが含まれる部分を取り出そうとしたが、子房全体とピレトリンが含ま
れる部分を完全に区別ができないことから子房全体をアセトン 660mLにつけて三日間おいて、ピ
レトリンをアセトンに抽出した。なお、不純物が混ざっている。次に、互いに交じり合わない液
体を分離する為に使用される分液漏斗を使って、アセトンに含まれているピレトリンをヘキサン
に移そうとした。しかし、アセトンとヘキサンは混ざり合ってしまい分液漏斗を使用できなかっ
たため、アセトンを蒸発させて抽出物を取り出し、ヘキサンに溶かすという方法を用いた。アセ
トンの沸点は 56℃だが、40℃以上になるとピレトリンが安定しないため、約 40℃を維持して 24
時間かけて蒸発させた(写真1)。その結果、赤茶色で粘り気が強い物質が残った。それらをヘキ
サン 200mLに溶かしたが溶けきらない物質があったため、ろ過して溶け残った物質をもう一度ア
セトンに溶かした。そのためピレトリンが含まれると予想される液体を 2種類作成した。その後、
京都学園大学の清水先生のご協力のもと、薄層クロマトグラフィー※1を用いて含まれる成分につ
いて分析した。まず、10%の酢酸エチルを含むヘキサン溶液の展開溶媒作る。展開溶媒を容器に
入れ、下から 0.5㎝のところに線を引いた TLCガラスプレートを入れた。除虫菊抽出物エキスを
ガラスキャピラリーを使って 2μLずつ 0.5㎝の印のところに 2か所ずつ落とした。ガラスプレー
トを展開溶媒につけ、ガラスプレートの 9割程度まで上がってきたら、線を引いた。そのガラス
プレートをハンディーUVランプ 254nmに入れて観察した。反応した部分に印をつけて、下から 0.5
整理番号 SG150069
活動番号 008
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㎝の線から反応した部分までの長さをはかった(写真 2)。
その後、除虫菊抽出物が含まれるアセトン、ヘキサンをエバポレーター※2を用いて濃縮し、エ
タノール1mLに溶かした(写真 3)。後日、その液体の濃度が1%になるように水をそれぞれ加え
た。これらをハクサイに 1週間に 2回 0.86mLずつ散布し、11月 12日から 12月 8日までの 4週
間観察した。
また同時に、作成した殺虫剤に効果があるのかを検証するために、シャーレにモンシロチョウ
の幼虫を 3匹と、除虫菊抽出物ヘキサン溶液と、除虫菊抽出物アセトン溶液のそれぞれを吹きか
けたハクサイを入れてモンシロチョウの幼虫の様子を観察した。また、アセトンやヘキサンに殺
虫効果があるかもしれないため、その 2種類のみを吹きかけたハクサイとモンシロチョウの幼虫
を 3匹ずつ入れて、合計 5種類のシャーレで結果を観察した(表 1)。
※1吸着剤を薄層状に固定した薄層プレートを用いて、ある物質を分離、精製する方法のこと ※2減圧することによって固体または液体を積極的に蒸発させる機能をもつ装置のこと
(写真 1)アセトンの留却 (写真 2)薄層クロマトグラフィー
(写真 3)エバポレーター
(表 1)
除虫菊抽出物ヘキサン溶液
除虫菊抽出物アセトン溶液
ヘキサン
アセトン
何もなし
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[防虫]
昨年度の実験から、3-hexen-1-ol と Eucalyptol が防虫に有効な成分であるとわかっていたた
め、それらの 2種類とその 2つを混ぜた物質の合計 3種類の防虫剤を用いて屋外(図 2,3)で実
験を行った。また、昨年は散布量をそれぞれ変えて実験を行っていたが、今年は濃度をそれぞれ
倍にして実験を行った。3種類の液体の濃度は 0.18mol/Lと 0.36mol/Lの 2種類作成した。(表 2)
これらをハクサイに 1週間に 5回 0.86mLずつ散布し 11月 12日から 12月 8日までの 4週間観察
した。
図 2 プランター設置場所
図 3 プランターの配置
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表 2 使用薬品一覧
薬品の散布開始から 4 週間後、ハクサイを収穫した。ハクサ
イは切り取って洗い、すべての葉をスキャナーで取り込んだ。
その後、ImageJ を用いてハクサイの葉の総面積(㎟)と、虫食
い面積(㎟)を求め、虫食い面積の割合を計算した。また昨年
は、屋外の実験で、2 種類の成分に効果はあるとわかって
いたが、屋外では様々な条件が複合的に重なるので単純系
で検証するために、屋内での検証も行った。トレーに薬品
をかけたハクサイと、何もかけないハクサイを対角線上に
置いて、中心にモンシロチョウの幼虫を 3匹入れ、ラップ
をした。なお、トレーとラップの間に空間を作るために、
ラップを段ボールで支え、2時間観察した。
物質名 濃度(mol/L)
3hexen1-ol 置く X 0.18
3hexen1-ol 置く Y 0.36
3hexen1-ol かける X 0.18
3hexen1-ol かける Y 0.36
混合 置く X 0.18
混合 置く Y 0.36
混合 かける X 0.18
混合 かける Y 0.36
ユーカリプトール 置く X 0.18
ユーカリプトール 置く Y 0.36
ユーカリプトール かける X 0.18
ユーカリプトール かける Y 0.36
アセトン 1.0%
ヘキサン 1.0%
図 4 忌避効果の検証
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〔殺虫〕
除虫菊抽出物ヘキサン溶液が最も殺虫効果を発揮する。
〔防虫〕
効果の高い 2 つの薬品を混ぜているため、混合の薬品をかけたものが最も効果が高く、濃度が高い
方が防虫効果も高い。
4.実験結果
[防虫]
室内に運び込む際に、どのプランターにどの薬品を散布したのかが分からなくなってしまったため、
判別できた 10種類のみの結果とする。(グラフ 1)
グラフ 1 葉の面積に対する虫食い面積の割合
忌避効果の実験は段ボールに幼虫が寄ったため、検証ができなかった。
[殺虫]
除虫菊抽出物アセトン溶液は、葉を全く食べずに 3匹とも死んだ。除虫菊抽出物ヘキサン溶液
は葉を食べずに 1匹は死んで、1匹は寄生虫により死んで、1匹は生きていた。アセトンは、葉
を全て食べた状態で 3匹とも死んでいた。ヘキサンは、1 匹は寄生虫により死んだが他の 2 匹
は葉をほとんど食べた状態で死んでいた(表 3)。
表 3 殺虫効果の検証結果
0
0.02
0.04
0.06
0.08
0.1
0.12
0.14
虫食い面積の割合(%)
生存数(匹) 薬品による死亡数(匹) 寄生虫による死亡数(匹)
除虫菊抽出物アセトン溶液 0 3 0
除虫菊抽出物ヘキサン溶液 1 1 1
アセトン 3 0 0
ヘキサン 2 0 1
水 3 0 0
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京都学園大学での薄層クロマトグラフィーによる実験の結果、同じ網掛けの部分が対応しており、
同様の物質が 4種類含まれていた(表 4)。
表 4 薄層クロマトグラフィーの結果
1個目 2個目 3個目 4個目 5個目 6個目
ヘキサン Rf値 平均 0.05 0.13 0.215 0.335 0.51 0.715
アセトン Rf値 平均 0.09 0.215 0.345 0.46 0.6 0.675
また後日、京都学園大学の清水先生にGC‐MSを用いて分析していただいた結果ピレトリンがふくま
れていることが分かった。(グラフ 2)
グラフ 2 GC‐MSの結果
1-allyl-2-methylbenzene 2. (2-methyl-1-propenyl)benzene 3.ピレトリン類 4.ピレトリン類
5. ピレトリン類 6. Pentacosane (C25) 7. ピレトリン類 8. ピレトリン類
5.考察
殺虫においては、アセトンとヘキサンには殺虫効果がなかったが、除虫菊抽出物アセトン溶液と除虫
菊抽出物ヘキサン溶液には殺虫効果があったため、除虫菊抽出物に殺虫効果があるとわかった。
屋外での実験において、虫食いの面積が極端に小さかった原因として、2 つ挙げられる。1つ目は、
虫が昨年よりも少なかったことである。その根拠に気温の低さがある。気象庁によると、2015年11月の月
平均気温は 11.9℃であったのに対し、2016 年 11 月の月平均気温は 9.8℃であった。2016 年の方が
2015年よりも 2℃ほど低いため、その気温差が虫に影響していると考えた(表 4)。調べた結果、モンシロ
チョウの幼虫は 10℃を下回ると活動が低下することが分かった 2。2016年の 11月の月平均気温は 10℃
を下回っていたため、虫の活動が低下し、ハクサイに虫が寄り付かなかったと考えられる。2 つ目は、昨
年度との実験場所が違ったことである。昨年度は畑で栽培したため、土の中に住む虫がくることが考えら
れるが、今年度はプランターでの栽培だったため、土の中に住む虫がいなかったと考えられる。
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表 5 月平均気温(℃)
11月 12月
2015年 11.9 6.2
2016年 9.8 5.4
6.結論
除虫菊アセトン抽出物のモンシロチョウの幼虫への殺虫効果を確認できた。
防虫については昨年度と実験場所を同じにして、濃度や散布量だけを変えて検証をしたい。また、殺
虫についてはピレトリンの抽出量を増やすことにより、さまざまな条件で再度実験を行い、検証したい。
除虫菊抽出物の殺虫効果についてはピレトリンの揮発による死亡なのかピレトリンを摂取したことによる
死亡なのかはっきりさせたい。経口摂取により効果が発現したのであればある植物を食べる特定の虫に
対する農薬など応用可能性が大きくなる。
7.謝辞
研究に際して、京都学園大学 准教授 清水伸泰先生、JA 黒田支店 野村英樹様、京都府立園部高
等学校 佐原大河先生及び、技術職員の方々、大変お世話になりました。研究に協力していただき本当
にありがとうございました。
8.参考文献
1岡崎恵視、橋本健一,瀬戸口浩彰.花の観察学入門-葉から花への進化を探る-.59.1999
2気温と害虫の活動の関係
http://gaityuu.com/mametisiki/gaityuu/kion.html
9.成績発表実績
1.平成 29年 1月 19日 課題研究実践発表会 研究発表