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平成30年度質の高いエネルギーインフラの海外展開に向けた事業実施可能性調査事業 (米国における本邦脱塩技術を用いた下水再生処理プロセスにおける RO 濃縮水の減容化調査) 調査報告書 2019 3 8 経済産業省 委託先: みずほ情報総研株式会社 ゼオライト株式会社

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平成30年度質の高いエネルギーインフラの海外展開に向けた事業実施可能性調査事業

(米国における本邦脱塩技術を用いた下水再生処理プロセスにおける RO 濃縮水の減容化調査)

調査報告書

2019 年 3 月 8 日

経済産業省

委託先: みずほ情報総研株式会社

ゼオライト株式会社

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目 次

サマリー ................................................................................................................................. 1

用語集 ..................................................................................................................................... 5

1.米国における水循環・下水再生処理に関する政策動向調査 .......................................... 6

2.RO 膜濃縮排水の処理実態の把握 ................................................................................. 44

3.提案システムの考案と優位性の確認 ............................................................................ 46

4.ビジネスモデルの設定及び事業規模等の算出 .............................................................. 89

5.ファイナンスの検討および経済性評価 ......................................................................... 95

6.政策支援等の活用の検討 ............................................................................................... 97

7.エネルギー起源 CO2 の排出抑制量の試算、環境改善効果・環境社会面への影響等調査

............................................................................................................................................ 104

8.リスク分析 ................................................................................................................... 112

9.米国内外への横展開の可能性及び展開促進策の検討 .................................................. 117

10.日本企業の優位性の確認、日本への裨益(経済効果)予測 .................................. 121

11.報告会の実施 ........................................................................................................... 124

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サマリー

(1) 背景

1960 年代以降、アリゾナ州、カリフォルニア州、フロリダ州、テキサス州等において限

りある水源の持続的な使用を目的として再生水を利用するための事業が開発されてきた。

事業背景や要求される技術は様々だが、地下水依存の高い地域における過剰な地下水揚水

による地下水質の塩水化を防ぐという当初の目的から、徐々に、飲用に供する目的へと変遷

した。さらに、飲用化のニーズは、近年の都市化や干ばつなどの影響もあり、人工的な湛水

への依存を高めた。この流れの中で、より効率良く下水の再生、および、間接から直接的な

飲用化へと、水問題の解決が見出されるようになってきた。

1992 年には、連邦政府 EPA(環境保護庁)が、再生水の飲用利用に関するガイドライン

を作成し、再生水の直接的な利用(DPR)および間接的な利用(IPR)についての定義を体

系化した。その後は同ガイドラインに基づき、米国内の州や水事業者が主体的になって

IPR/DPR 事業が進められてきている。

ネバダ州北部は内陸部にあり、大河川からも遠いことから、飲用水の水源として地下水に

大きく依存している。近年の都市化は、臨海地での人口密集や物価高騰を受けて、臨海の大

都市圏やアクセスの良い内陸地の都市群において成長を促している。その中で、安定した産

業や生活用水の将来に向けて、水再利用の要求が高まっている。同地域に立地するリノ市は

その典型的な背景を有しており、IPR の実施に向けた検討および実証事業を行っている。

(2) 調査の目的

ネバダ州リノ市は広大な地下水涵養地を有しており、再生水を、土壌や地質による自浄、

地下水との希釈に依存した飲用化 IPRの実施を目指している。実施している実証事業には、

処理プロセスのコストとしては安価なオゾン+BAC(生物活性炭)処理の技術を適用されて

いる。米国西部では RO 膜を用いた処理が一般的である中、同実証事業の効果がまだ明確で

はない。一方では、RO 膜処理から発生するブライン(高濃度排水)の処理が内陸地のため

課題となることが懸念されており、RO 膜を用いないオゾン+BAC 処理が最初の実証事業

の適用技術として選択された経緯がある。

従って、本調査では、RO 膜からのブライン発生量を最小化するとともに、処理過程にお

いて利用される薬品を副生して再利用する技術として、ZCC(Zero Chemical Charge:薬品無

投入化)および ZLD(Zero Liquid Discharge:無排水化)を掲げ、同技術を適用した事業の

実現可能性を検討することを目的とする。

あわせて、それによるエネルギー消費量削減および CO2 発生量削減の効果を定量的に把

握するとともに、今後の事業展開について検討する。

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(3) 調査の主な結果

(a) 適用技術

技術的検討の結果、以下の技術の組み合わせを、リノ市における IPR 事業に最適なもの

として結論付ける。日本の技術優位性と新しい技術により、回収率 98%を超える減容化と

RO 膜超濃縮水の無排水化(ZLD)、および、ブラインから有価物を電気分解し生成する技術

で薬品の現地生成・現地消費(ZCC)を実現し、今までにない IPR 事業を可能とするもので

ある。

低圧 RO 膜(①)および晶析装置(②)によってカルシウム(設備や膜に付着する

スケール成分)を除去する。

晶析装置(②)の処理水を電気透析装置(③)によって脱塩処理を行い、その処理

水を、中圧 RO 膜(④)および高圧 RO 膜(⑤)によって処理し、ブラインの発生量

を最小化する。

晶析装置(②)の処理水の一部を電気透析装置(③)によって濃縮し、電気分解装

置(⑥)において薬品を生成する。

(b) 事業規模および経済性

実証事業、商用事業それぞれの事業規模は以下の通り評価される。

本事業の規模

事業フェーズ 原水流量 CAPEX

(million USD)

OPEX

(million USD/MGD)

実証事業 100 m3/h(約 0.634 MGD) 4.26 2.639

商用事業 1,000 m3/h(約 6.34 MGD) 35.55 2.615

CAPEX は他の技術(オゾン+BAC、従来の RO)と比肩しうる水準であり、米国側にも

好意的に評価された。一方、OPEX は他の技術よりも高コストとなる可能性があるが、リノ

市において求められる水質を前提として考えると悪くはない可能性があるとの指摘が米国

側から得られた。

回収年(ここでは、薬品のオンサイト調達や、コンパクト化された RO濃縮排泥の処理コ

ストによる効果をみたもの)は、原水の条件によって異なり、概ね 10~20 年程度の幅と試

算される。一方で、リノ市における原水の TDS(総溶解固形分)が高い場合、投資回収年は

9.0~12.5 年となり、米国側にとって経済的と評価される範囲内に入る。その場合には、IPR

実施のための競合技術であるオゾン+BAC 処理では低減できず、また従来の RO 膜処理で

は発生するブラインの処理という課題が解決されない。従って、本案件の適用技術のリノ市

における競合性が高いものとなる。

リノ市のエンドユーザー(ワショー郡)は、上記試算に対して、10 年程度の運用で現状

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よりも有意な差別化を図れるとの見解を示した。また、薬品のオンサイト調達や、コンパク

ト化された RO 濃縮排泥の処理コストの潜在的な可能性を評価した。

(c) エネルギー起源 CO2 の排出抑制効果

本案件(商用事業:原水流量 1,000 m3/h)の実現によるエネルギー削減量および CO2 削減

量は、従来 RO 膜処理と比較して、以下の通り評価される。削減のほとんどの量は、ブライ

ン処理の蒸発器において処理量が激減することに伴う。また、ブライン処理後の廃棄物の最

終処分を減少すること、化学品調達が不要になることによる削減も見込まれる。

エネルギー削減量および CO2 削減量

削減ポイント エネルギー削減量 CO2 削減量

(1) 蒸発器 508,724 MJ/日 58.8 t-CO2/日

(2) 最終処分 28,115 MJ/日 1.93 t-CO2/日

(3) 化学品調達 691 MJ/日 0.0474 t-CO2/日

合計 537,530 MJ/日

60.8 t-CO2/日

22,200 t-CO2/年

(4) 今後の展開

本案件は、フェーズ 1(2019 年)における知的財産権の取得、フェーズ 2(2020 年~)に

おける実証事業を経て、フェーズ 3(2021 年~)以降の商用化を目指すものである。

ビジネス形成に向けたフェーズ毎アクション

フェーズ 主なアクション

フェーズ 1

2019~

技術基礎調査

特許出願(国内、海外)

公知化(学会発表、論文発表など)

フェーズ 2

2020~

米国パートナー、エンドユーザ等と連携した実証によるショーケース

フェーズ 3

2021~

実証の継続

現地化に向けた認証、認定の取得

提案書の作成

米国市場における本事業の要素技術ごとの優位性は以下の通りであり、普及に伴い、製品

の供給を通じて日本への裨益効果を期待できる。なお、米国水分野の公共事業においては、

日系企業はエンジニアリングポジションで PQ(性能適格性確認)を有しておらず、有資格

企業とのコンソーシアムや、差別化された商材や知的財産の提供で活路を見出す方針が適

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切である。

本事業の要素技術の優位性

処理方法 日本技術の優位性 日本ポーション期待

① 低圧 RO 膜 超低圧 RO 膜を採用して、省電力での効率よ

い 75%の回収率を実現。

② 晶析装置 以下③④⑤に簡素な仕組みでスケール分を

大幅に軽減して供給できる

③ 電解装置 1 イオンの濃縮を行い、有価物生成効率を上げ

る。

④ 中圧 RO 膜 幅広い pH レンジで運転が可能な RO 膜で、

安定した稼働を実現。

⑤ 高圧 RO 膜 トータルで回収率 98%以上を実現。耐薬液洗

浄にも強く長寿命である。

⑥ 電解装置 2 本プロセス内で利用する有価物を十分に生

成する能力があり、廃棄物削減に貢献。

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用語集

ANSI American National Standards Institute 米国国家規格協会

AOP advanced oxidation processes 促進酸化処理

ASR aquifer storage and recovery 帯水層貯留涵養

BAC Biological Activated Carbon 生物活性炭処理

BOD biochemical oxygen demand 生物化学的酸素要求量

COD chemical oxygen demand 化学的酸素要求量

CR Crystallizer 晶析装置

CWA Clean Water Act 水質浄化法

DBP disinfection by-product 消毒副生成物

DO dissolved oxygen 溶存酸素量

DOC dissolved organic carbon 溶存有機炭素

DPR direct potable reuse 直接飲用利用

ELS1 Electrolytic system 1 電解装置 1

ELS2 Electrolytic system 2 電解装置 2

EPA U.S. Environmental Protection Agency 米国環境保護庁

GAC granular activated carbon 粒状活性炭処理

IPR indirect potable reuse 間接飲用利用

MF microfiltration 精密ろ過膜

NPDES National Pollutant Discharge Elimination

System

国家汚染物質排出削減システム

NWII Nevada Water Innovation Institute ネバダ水イノベーション機関

RO reverse osmosis 逆浸透膜

SAT soil-aquifer treatment 土壌浸透処理

SDWA Safe Drinking Water Act 安全飲料水法

TDS total dissolved solids 総溶解固形分

TOC total organic carbon 総有機炭素

TrOrCs trace organic compounds 微量有機物

TSS total suspended solids 総懸濁固体量

UF ultrafiltration 限外ろ過膜

UNR University of Reno, Nevada ネバダ大学リノ校

ZCC Zero Chemical Charge 薬品無投入化

ZLD Zero Liquid Discharge 無排水化

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1.米国における水循環・下水再生処理に関する政策動向調査

1-1 飲用化処理の概要

(1)分類

下水再利用による飲用化処理に関しては、その分類により求められる処理内容が異なっ

てくるため、事業検討の前提として明確化しておくことが必要である。

下水の再利用に対して、米国環境保護庁(Environmental Protection Agency:EPA)は、「2012

Guidelines “for Water Reuse”」(2012)において、飲用化(Potable Reuse)に向けた水循環シス

テムとして、De Facto Reuse、Direct Potable Reuse(DPR)、Indirect Potable Reuse(IPR)を体

系化した1。

De Facto Reuse は処理後に表流水での希釈に依存し、飲用以外の用途も含める従来の一般

的な方法である。また、飲用水とすることに限定した直接的な利用・間接的な利用の方法と

して DPR と IPR とが分類されている。一般的に、DPR は直接利用であるから良好な水質が

IPR よりも求められる。また、飲用前に利用するバッファーの種類が異なる。

表 1 飲用化に向けた水循環システム2

方法 概要

De Facto Reuse 河川水系において上流部で放流された下水処理水が、その

下流地域で水道水源として取水される循環方式である(河

川水や雨水によって十分に下水処理水の希釈を期待でき

る)。

Direct Potable Reuse(DPR) 下水処理水を直接飲用の上水として利用する。工学的バッ

ファー(engineered storage buffer)を利用する場合・しない

場合の両方の可能性がある。

Indirect Potable Reuse(IPR) 下水処理の後に環境バッファー(environmental buffer)にお

ける涵養を行い、飲用の水源(表流水、地下水)を増大さ

せる。

1 EPA 2012 Guidelines “for Water Reuse” (2012)

https://www3.epa.gov/region1/npdes/merrimackstation/pdfs/ar/AR-1530.pdf 2 EPA 2012 Guidelines “for Water Reuse” (2012)

https://www3.epa.gov/region1/npdes/merrimackstation/pdfs/ar/AR-1530.pdf

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図 1 飲用化に向けた水循環システム3

3 Texas Water Development Board “Direct Potable Reuse Resource Document” (2015)

http://www.twdb.texas.gov/publications/reports/contracted_reports/doc/1248321508_Vol1.pdf

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近年の水資源が逼迫した水事業において、De Facto Reuse による希釈を期待できない国や

地域では、飲用化処理を目的として多様な機械的な処理技術が適用され、異なった技術の組

み合わせが開発されてきている。EPA は、全体の処理フロー(Treatment Train)は適用する

地域の実状に応じて注意深く検討されるべきものとしている(以下参照)。

調整と協力とを如何に行うかについては、事業ごと、州ごとに異なる可能性がある。それ

ゆえ、水資源利用計画の目標を設定する州は、可能な範囲での規制施策を行う法制度を採

用するか、別々の州の組織間の施策を調整・協力させるような改善を行う4。

1960 年代以降、アリゾナ州、カリフォルニア州、フロリダ州、テキサス州等において再

生水の利用を目的とした事業が開発されてきたことから、EPA は、再生水の飲用利用に関す

る上記のガイドラインを作成した(1992 年)。同ガイドラインでは飲用水としての利用につ

いて取りまとめている(再生水を直接的に利用する(DPR)か、間接的に利用する(IPR)

かの相違はそれまで明確ではなかった)。

パイロット実験や実施設の一部が試験的な稼働を開始しており、人体に対して急性毒性

のある病原微生物や、慢性的な影響を及ぼす医薬品類、残留性有機化合物の再生水プロセス

における挙動が定量的に明らかになっている。これらリスクを有する物質の阻止を図るは

ずの再生水プロセスのうちオゾン処理や塩素処理は、新たな慢性毒性を有する消毒副生成

物を生じさせることから、このような異なったリスクのトレードオフの中で、膜分離、光分

解(不活化)、生分解、吸着など水質に応じた再生水プロセスの最適化に関心が急速に広ま

っている。

また、同ガイドラインは、再生水の飲用化処理にあたる DPR や IPR の実施にあたり、よ

り明確な技術検討や、法制度の整備、更には実施責任を州政府や水行政機関が負うよう言及

している。これを受けて、カリフォルニア州やテキサス州が、将来の州法整備に向けた技術

情報の体系化にイニシアチブを発揮している。

なお、米国における飲料水の水質基準等は Safe Drinking Water Act(SDWA)であり、排水

基準は Clean Water Act(CWA)で定められている。SDWA は、United States Environmental

Protection Agency(USEPA)が所管する連邦法である。米国の水道システムは、公営、民営

を問わず、EPA や州政府の公衆衛生局等が設定した水質規制を順守した水道水を供給しな

ければならない。CWA は、汚染物質の排出や水質基準を規制した連邦法である。点汚染源

から水域へと、汚染物質の排出を許可制にした国家汚染物質排出削減システム(National

Pollutant Discharge Elimination System:NPDES)として、排出限度を付している。水質基準

4 EPA 2012 Guidelines “for Water Reuse” (2012) Chapter 2.1

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は、技術基準による水質の修復や維持が困難な水域においてより厳格に課せられ、当該水域

の利用目的に応じて、各州が規制内容を決定する。再生水に関しては、EPA は州や地方機

関による規制やガイドライン策定の支援、再生水ガイドライン(上記)の策定を行っている。

再生水利用と水質基準は、州や地方機関の責任であり、連邦規制はない5。

カリフォルニア州が発信する情報は、米国他州の水循環、飲用化を含む再生水事業におい

ても影響を与えており、本調査事業はカリフォルニア州水資源管理委員会(State Water

Resources Control Board:SWRCB)が整備する法制度や技術情報に着目している。

世界における IPR の歴史は、カリフォルニア州沿岸地域のオレンジ郡において、SWRCB

が地下水への海水浸透による塩害防止の目的で、循環水の地下水浸透(1965 年)および表

流水の圧入(1976 年)開始したことに始まる。同州公衆衛生局(The California Department of

Public Health:CDPH)が初めて再生水を活用した地下水涵養に関わる法整備を行って以来

(1978 年)、地下水の帯水層への下水再生水を貯留目的に法律の改訂が進んでいる。

なお SWRCB は、IPR の定義として「2 か月以上の涵養後の再生水が地下水または環境水

として滞留する緩衝能がある」ことを明確にしている6。

既に普及する IPR の適用事例としては、以下に示すように、二次処理もしくは三次処理

を経て、高度処理としてオゾン処理よりも RO 膜処理を行う組み合わせが多い。

また、高度処理の後に帯水層において貯留し、その後に直接飲用または塩素処理を介して

飲用に供する IPR の事例が多くみられる。

DPR の事例としてはテキサス州ビッグスプリング市の事業があり、同事業においても、

RO 膜処理を適用している。

5 松井ら メタウォーター技報 2018 vol.1 6 SWRCB“A Proposed Framework For Regulating Direct Potable Reuse In California” (2018)

https://www.waterboards.ca.gov/drinking_water/certlic/drinkingwater/documents/direct_potable_reuse/dprframewk.p

df

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図 2 飲用処理の事例7

表 2 米国における DPR および IPR の初期事例8

タイプ 場所 概要

IPR カリフォルニア州

モンテベッロ・フ

ォアベイ市

最初の飲用処理として 1960 年代に実施。

二次処理、ろ過処理、塩素処理を経て、帯水層に圧入。

SAT (soil-aquifer treatment)および天然の地下水との混

合を経て、飲用に供された。

IPR カリフォルニア州

オレンジ郡

1976 年に開始。

従来の生物処理、MF、RO、AOP (UV/H2O2)、塩素処

理を経て、沿岸域の帯水層に圧入。

海水の帯水層への浸入を回避する。湖沼へ放流し地下

水脈に浸透。

DPR テキサス州ビッグ

スプリング市

2013 年に完工、2015 年までの TWDB(テキサス州水

資源開発委員会)による水質の検証を経て運開。

表流水が水資源として不足したことが背景。しかし同

地域に利用できる環境バッファー(表 4 参照)がない

7 WHO “Potable Reuse / Guidance for Producing Safe Drinking-Water” (2017)により作成

https://apps.who.int/iris/bitstream/handle/10665/258715/9789241512770-

eng.pdf;jsessionid=8412C8394FB973C50B8C4D866A2D4365?sequence=1 8 WHO “Potable Reuse / Guidance for Producing Safe Drinking-Water” (2017)

https://apps.who.int/iris/bitstream/handle/10665/258715/9789241512770-

eng.pdf;jsessionid=8412C8394FB973C50B8C4D866A2D4365?sequence=1

米国カリフォルニア州モンテベッロ・フォアベイ市

二次処理 塩素処理 土壌浸透処理(SAT)

塩素処理 飲用水

米国カリフォルニア州オレンジ郡

二次処理 塩素処理 MF膜処理 RO膜処理 促進酸化処理(AOP)

帯水層貯留 塩素処理 飲用水

ナミビアウィンドホーク市

前処理(オゾン処理)

溶解空気浮上処理

ろ過処理 オゾン処理 活性炭処理 UF膜処理 飲用水

シンガポール 二次処理 MF膜処理 RO膜処理 UV処理 貯水池貯留 上水施設 飲用水

米国ヴァージニア州USOA (Upper Occoquan Service Authority)(センターヴィル)

二次処理 石灰処理 ろ過処理 活性炭処理 塩素処理 貯水池貯留 上水施設 飲用水

ベルギーウルペン市

二次処理

二次処理 塩素処理 UF膜処理 RO膜処理 UV処理 土壌浸透処理(SAT)

飲用水

米国テキサス州ビッグスプリング市

二次処理 砂ろ過 塩素処理 MF膜処理 RO膜処理 促進酸化処理(AOP)

配水管内での希釈

上水施設 飲用水

オーストラリアパース市

二次処理 UF膜処理 RO膜処理 UV処理 帯水層貯留 飲用水

ろ過処理

: RO膜処理

: オゾン処理

: 帯水層での貯留

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タイプ 場所 概要

ため、IPR よりも DPR を選択。

膜と促進酸化処理の組み合わせにより、同地域の上水

の約 15%を供給している。(図 7 参照)

(2)処理方法

以下に、IPR の検討に際して重要な処理方法の概要について取りまとめる。

表 3 重要な処理方法の概要9

処理方法 概要

一次処理 浮遊物質を除去する処理プロセス。

有機性窒素、リン、重金属を除去できるが、病原微生物の除去には限ら

れた効果しか得られない。

二次処理 生物学的硝化を含み、一般的に活性汚泥または散水ろ床に基づく。

有機物を除去し、BOD や SS を 85%以上削減する。

粒子状の化学物質が除去され、病原微生物の濃度が削減される。

特に硝化および脱窒が下流の処理に有効となる(アンモニアや硝酸塩を

除去する塩素消毒)。

三次処理 二次処理の後に、凝集剤等を用いて懸濁物、浮遊物性の窒素・リン・有

機物などを除去する。

SAT (soil-

aquifer

treatment)

地下水脈において土壌をろ過・浸透することにより、栄養塩、微生物、

化学物質の濃度が吸着や分解で減衰する。

閉鎖されていない流動性のある帯水層、涵養に適した地下水域、浸透や

吸着ろ過に適した土壌を必要とする。

酸化処理 多くの飲用処理において、酸化処理が有機物の減衰や消毒のために使用

されている。

代表的なものがオゾン処理および促進酸化処理(H2O2 を併用して促進

されるラジカル反応:AOP)。

副生物質のモニタリングが必要(例:発癌リスクのある臭素酸イオン)。

オゾン処理に生物活性炭処理(BAC)を組み合わせる方法が有機物処理

に効果的だが、臭素酸イオン等が効果的に除去されない。

9 WHO “Potable Reuse / Guidance for Producing Safe Drinking-Water” (2017)等の記述を整理

https://apps.who.int/iris/bitstream/handle/10665/258715/9789241512770-

eng.pdf;jsessionid=8412C8394FB973C50B8C4D866A2D4365?sequence=1

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処理方法 概要

活性炭吸着 有機性物質を除去可能。

高コストであり、再活性化のための定期交換を必要とする。

粒状活性炭処理(GAC)が一般的であるが、GAC 表面に微生物が固定

された生物活性痰処理(BAC)として機能する場合が多い。

低圧膜処理

(MF、UF)

MF 膜(孔径 0.1-1 ミクロン)、UF膜(孔径 0.01-0.05 ミクロン、あるい

はそれ未満)を用いた固液分離過程。

病原原生動物の除去には効果的だが、病原ウイルスの除去効果は限定

的。

NF 膜・RO 膜の前処理として行われることが多い。

高圧膜処理

(RO、NF)

全ての病原微生物、ほとんどの有機性物質の除去に非常に効果的。

RO 膜は塩分濃度の 99%以上を除去し、それゆえに微生物の除去にも効

果がある。

NF 膜は、カルシウム、マグネシウム、硫黄等の高原子価のイオンを除

去するのに効果的。

図 3 病原微生物と膜のサイズ比較10

(3)処理以降のプロセス

以下に、各種膜処理など単体での処理以降の重要なプロセスについて取りまとめる。特に、

病原微生物の種類ごとに当該州規制において定められた LRV(Log Reduction Value)の水準

の妥当性を検討することが重要となる。

10 WHO “Potable Reuse / Guidance for Producing Safe Drinking-Water” (2017)

https://apps.who.int/iris/bitstream/handle/10665/258715/9789241512770-

eng.pdf;jsessionid=3645469ED5C540BE09855A6EB31C2074?sequence=1

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表 4 重要な処理プロセス

プロセス 概要

環境バッファー

(environmental buffer)11

IPR において必要とされる事業要素であり、帯水槽または

地上の貯水池が使われる。汚染物質の濃度減衰、希釈・混

合、最終的な処理と配水との時間差による事故の回避等

がメリットとして挙げられる。

工学的バッファー

(engineered storage buffer)12

DPR において、事故の回避のために数時間~数日間の滞

留を行うための機能として設備に含める。貯水タンク・パ

イプライン等。

LRV13 常用対数で示された残存率の正負の記号を逆にした値。

すなわち以下のようになる。

除去率 残存率 LRV

――――――――――――――――――

90% 10% 1

99% 1% 2

99.9% 0.1% 3

99.99% 0.01% 4

99.999% 0.001% 5

理論上、除去率 90%の処理(LRV=1)に加えて、除去率

99%の処理(LRV=2)を行うと、除去率は 99.9%となり、

LRV は 1 と 2 の和で、3 と表される。

11 WHO “Potable Reuse / Guidance for Producing Safe Drinking-Water” (2017)

https://apps.who.int/iris/bitstream/handle/10665/258715/9789241512770-

eng.pdf;jsessionid=8412C8394FB973C50B8C4D866A2D4365?sequence=1 12 WHO “Potable Reuse / Guidance for Producing Safe Drinking-Water” (2017)

https://apps.who.int/iris/bitstream/handle/10665/258715/9789241512770-

eng.pdf;jsessionid=8412C8394FB973C50B8C4D866A2D4365?sequence=1 13 国立保健医療科学院

Page 16: RO 濃縮水の減容化調査) - METIト化されたRO 濃縮排泥の処理コストの潜在的な可能性を評価した。 (c) エネルギー起源CO2 の排出抑制効果

14

(4)社会受容性14

ネバダ州リノ市においては、IPR を実施するための水資源計画を 5 年以内に策定すること

を目標として、以下の実施を重視してきている。またそのプロセスにおいては、米国水研究

所(National Water Research Institute)が外部有識者会議を設置・運営している。

事業形成

住民説明

州の規制

パイロット試験

実証事業

水文地質調査

財源確保

事業の進め方は以下の通りである。

表 5 リノ市における事業の進め方

フェーズ 実施項目 内容

フェーズ 1 関係機関協議

スタッフ整備 研究部門での学識者(ネバダ大学リ

ノ校/NWII の Krishna Pagilla 教授)

3 名の博士課程の学生

同大学の施設等を利用

ボード・委員会協議

公的な承認

フェーズ 2 パイロット試験 オゾン+BAC 処理の最適化

9 ヶ月の試験を実施

Xylem(水処理機器)、Stantec(技術

コンサルティング)、American Water

(水処理事業)、ワショー郡が協力

実証事業 ネバダ大学リノ校・NWII が主体

Xylem が水処理機器を提供

14 Rick Warner (Washoe County, NWII Board Chair, WEF President) “Water Reuse in the United States / A New

Era”, Water Environment Federation (2017)

Page 17: RO 濃縮水の減容化調査) - METIト化されたRO 濃縮排泥の処理コストの潜在的な可能性を評価した。 (c) エネルギー起源CO2 の排出抑制効果

15

1-2 飲用処理の米国における動向

(1)概況

以下に、米国における IPR および DPR の事業を示す。RO 膜を採用している事例は、主

に先進的に IPR 事業を推進してきたカリフォルニア州を含め、米国西部において多数存在

する。カリフォルニア州の IPR 事業は、再生水の貯水池への放流とともに、土壌吸着や地

層ろ過に依存した地下水涵養による飲料水化を企図したものである。2016 年 9 月に、The

State Water Resources Control Board による 2 年越しの審議を経て、DPR に関する答申を発表

しており、下水由来の再生水の上水利用について、適切な規制や制御により可能と結論付け

ている。それを踏まえ、同州は、DPR 実現に向けた具体的な規制の検討に入っている。15

一方、干ばつ地域ゆえに塩分濃度が高く飲料水に適さない地域は、RO 膜法による脱塩処

理が IPR に必須と認識されていることがわかる。

なお、本案件の実施を検討するネバダ州においては、これまでに膜分離技術を用いた IPR、

DPRともに商用化事業の事例が存在しない。South Truckee Meadows Water Reclamation Facility

において、オゾン+BAC 処理による IPR 実証事業が行われている。

図 4 米国における IPR/DPR 事業および RO 膜の適用状況16

15 松井ら メタウォーター技報 2018 vol.1 16 EPA “2017 Potable Reuse Compendium” (2017)より作成

https://www.epa.gov/sites/production/files/2018-01/documents/potablereusecompendium_3.pdf

RO applied

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16

(2)重要な州における水処理の状況

本調査では、米国において今後下水処理が重要視されると考える 5 州(ネバダ、カリフォ

ルニア、テキサス、フロリダ、アリゾナ)に注目し、概況を調査した。その理由は以下の通

りである。

図 5 に示すように、2025 年において見込まれる再生水市場規模のうち、カリフォルニア

州およびフロリダ州の 2 州における処理規模 110 万 m3/日であり、これは同年における全米

の合計 139 万 m3/日の 79%を占める(造水量ベース)。

第 3 位の造水規模と見込まれるテキサス州は、処理水の希釈を前提としており、そのため

に病原微生物の処理水準が高くないという特徴を持っている(表 6 における「テキサス」

アプローチ)。

ネバダ州およびアリゾナ州は、再生水ガイドライン・規制の導入にあたり、カリフォルニ

ア州を模範として進めている(表 6 における「カリフォルニア」アプローチ)。また、カリ

フォルニア州の都市圏人口および都市機能が、フェニックス市(アリゾナ州)やラスベガス

市(ネバダ州)へ移行する傾向にあり、カリフォルニア州での動向が波及しやすい特徴を有

する。従って、上位 3 州に加えてカリフォルニア州を模範として水処理を進める 2 州を対

象とする。

図 5 米国 5 州で予想される再生水施設の新規造水能力(m3/日)17

17 BlueField Research

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17

図 6 米国における下水処理が重要な 5 州

① 病原微生物の処理レベル

飲料水としての再利用にあたり、特に病原微生物の処理レベルが重視される。

処理水準の指標としては、一般的に LRV(log reduction values)が参照されている。下表

に示すように、ネバダ州において要請される処理レベルはカリフォルニア州と同水準であ

る。但し、ネバダ州では IPR・DPR 事業の事例がなく、特に同州北部では飲料水の地下水依

存度がカリフォルニア州よりもはるかに高いため、より慎重な検討が進められているとい

うことが推測できる。

表 6 飲料水再利用にあたっての病原微生物処理水準(ガイドライン、規制)

州 ウイルス ジアルジア クリプトス

ポルジウム

バクテリア 汚染物質

ネバダ18 12 10 10 特定なし MCLs、2 次 MCLs

18 NAC 445A.27612 Reuse category A+: Water quality requirements (December 2016)

https://www.leg.state.nv.us/nac/NAC-445A.html#NAC445ASec2761

カリフォルニア州

ネバダ州

アリゾナ州

テキサス州

フロリダ州

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18

州 ウイルス ジアルジア クリプトス

ポルジウム

バクテリア 汚染物質

アリゾナ(「カリフォル

ニア」アプローチ)19

12 10 10 9 MCLs、2 次 MCLs

アリゾナ(「テキサス」

アプローチ)

≧8 ≧6 ≧5.5 特定なし MCLs

テキサス20 ≧8 ≧6 ≧5.5 特定なし MCLs

フロリダ21 特定なし 特定なし 特定なし 特定なし MCLs、2 次 MCLs、

TOC、TOX

カリフォルニア22

(地下水)

12 10 10 9 MCLs、2 次 MCLs、

CECs

カリフォルニア23

(表流水)

12 10 10 9 MCLs、2 次 MCLs、

CECs

(注 1)MCLs:最大許容汚染レベル(Maximum Contaminant Levels)

(注 2)CECs:新たな懸念対象となる汚染物質(Contaminants of Emerging Concern)

(注 3)TOC:全有機炭素(Total Organic Carbon)

(注 4)TOX:全有機ハロゲン(Total Organic Halide)

② 病原微生物の処理方法(飲料水再利用)

飲料水再利用(IPR、DPR)のための水処理のアプローチは、RO(逆浸透膜)ベースおよ

び GAC(粒状活性炭)ベースの 2 つに大別される。原水や処理レベル等の事業条件に応じ

て、これらのアプローチを基本として様々な高度処理の組み合わせがなされている。

なお、装置の稼働初期に投入するのは粒状活性炭(GAC)であり、オゾン処理により発生

19 Water Reuse Arizona “Guidance Framework for Direct Potable Reuse in Arizona” (2018)

https://west.arizona.edu/sites/default/files/NWRI-Guidance-Framework-for-DPR-in-Arizona-2018.pdf 20 Texas Commission on Environmental Quality “Title 30 Texas Administrative Code, Chapter 210”

https://www.tceq.texas.gov/assistance/water/reclaimed_water.html 21 Florida Department of State “Reuse of Reclaimed Water and Land Application“ (2007)

https://www.flrules.org/gateway/ChapterHome.asp?Chapter=62-610 22 State Water Resources Control Board “Policy for Water Quality Control for Recycled Water” (Recycled Water

Policy) (2013) https://www.waterboards.ca.gov/water_issues/programs/water_recycling_policy/docs/rwp_revtoc.pdf

State Water Resources Control Board “A Proposed Framework for Regulating Direct Potable Reuse in California”

(2017) https://www.waterboards.ca.gov/drinking_water/certlic/drinkingwater/direct_potable_reuse.html

State Water Resources Control Board “A Proposed Framework for Regulating Direct Potable Reuse in California”

(2018)

https://www.waterboards.ca.gov/drinking_water/certlic/drinkingwater/documents/direct_potable_reuse/dprframewk.p

df

AB-574 Potable reuse.(2017-2018)

http://leginfo.legislature.ca.gov/faces/billTextClient.xhtml?bill_id=201720180AB574 23 State Water Resources Control Board “SBDDW-16-02 Surface Water Augmentation (SWA) Regulations”

https://www.waterboards.ca.gov/drinking_water/certlic/drinkingwater/Surface_Water_Augmentation_Regulations.ht

ml

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19

した親水性有機物によって微生物合成が進み、GAC 表層に生物が固定して、経時的に生物

ろ過が徐々に可能となる。これを生物活性炭(BAC)という。BAC は、GAC が自然に機能

向上したものである。

a. RO(逆浸透膜)ベース

従来多く適用されており、FAT (Full Advanced Treatment)として参照されることが多い。基

本的には RO 膜(逆浸透膜)および紫外線・促進酸化処理(UV/AOP)によって、有機物、

病原微生物、CECs(新たな懸念対象となる汚染物質)の除去・破壊がなされる。

以下の GAC(粒状活性炭)ベースに比べて処理ステップは少ないものの、コストは初期

投資(CAPEX)、運用保守費(OPEX)ともに高いものとなる。条件によっては、晶析技術

(Crystallization)等の前処理や、RO 膜処理で発生した濃縮水(ブライン)の海洋投棄が不

可能な場合に深層への圧入を行うなど、別プロセスが必要となる場合にさらに高コストと

なる。

典型的な適用事例としては、テキサス州ビッグスプリング市(City of Big Spring)におけ

る DPR 事業である CRMWD (Colorado River Municipal Water District)プロジェクトが挙げら

れる。膜と促進酸化処理の組み合わせにより、同地域の上水の約 15%を供給している。ま

た、類似するアプローチによって、カリフォルニア州等において IPR 事業が実施されてい

る。

図 7 テキサス州ビッグスプリング市の処理フロー

b. GAC(粒状活性炭)ベース

酸化処理、物理的な除去、吸着が組み合わせられている。病原微生物や CECs(新たな懸

念対象となる汚染物質)の処理には適しているものの、TDS(総溶解固形分:total dissolved

solids)の除去には向いていない。本案件の検討においても、原水における TDS 濃度が、オ

ゾン+BAC 処理よりも適合していることを判断する材料となる。

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20

図 8 オゾン+BAC の典型的な処理フロー

③ 5 州の処理動向

以下に、上記重点 5 州の飲料水再利用のための処理動向を取りまとめる。

a. カリフォルニア州

カリフォルニア州では、規制検討段階の 1970 年代より IPR 事業を実施している。地下水

層を用いた IPR の規制は 2014 年に最終的に導入された(カリフォルニア州公衆衛生局/

CDPH: California Department of Public Health)。

同州ではこれまでに IPR 事業が多数実施されているが(図 4)、そのタイプは以下の 3 つ

のアプローチに集約される。

① 南カリフォルニアにおける長期の三次処理水の涵養(浸透)事業。

② 地下水帯水層への処理水の直接注入事業。主な例は 100 MGD のオレンジ郡水道区

地下水補給システム(GWRS)であり、処理後の再生水による地表水(貯水池など)

の供給強化はカリフォルニア州では初めて。

③ 地下水帯水層への処理水の直接注入事業。2019 年にサンディエゴ市の事業として

建設開始の計画がある。

上記 3 つのアプローチは、すべて、環境バッファー(例:地下水帯水層、地表水貯水池)

を組み込んでいるため、IPR と認識されている。環境バッファーがない、または、環境バッ

ファーが非常に小さい飲料水再利用プロジェクトは DPR プロジェクトに分類される。

カリフォルニアには稼働中の飲料水再利用事業が7プロジェクトあり、総容量は 206 MGD

である。これらの種類のプロジェクトに関するカリフォルニア州の病原微生物に関する処

理基準を、表 6 に整理した。

2010 年には、上院法案(SB)918 が、SWRCB(州水資源管理委員会:State Water Resource

Control Board)に対し、DPR のための統一的な水リサイクル基準の開発の実現可能性を調査

Page 23: RO 濃縮水の減容化調査) - METIト化されたRO 濃縮排泥の処理コストの潜在的な可能性を評価した。 (c) エネルギー起源CO2 の排出抑制効果

21

し、専門家パネルを開いて技術的・科学的課題を検討し、2016 年 12 月 31 日までにカリフ

ォルニア州議会に最終報告書を提出するよう指示した。2013 年、SB 322 は、さらに、SWRCB

が公益事業のステークホルダーからなるアドバイザリーグループを開き、SWRCB とその専

門家に助言するよう要請した。SB 322 はまた、DPR のための統一的な水リサイクルのクラ

イテリアの策定を支援して調査を補足するよう、専門家パネルのスコープを訂正した。専門

家パネルの推薦に基づき、2016 年 12 月、SWRCB はカリフォルニア州における DPR の実現

可能性に関する最終報告書「The Feasibility of Developing Uniform Water Recycling Criteria for

Direct Potable Reuse」を提出した。

その内容は、DPR 事業の規制を開発することは可能であり、さまざまなタイプの DPR に

適用可能な汎用的なフレームワークがあれば、異なる DPR であってもリスクアセスメント

やマネジメントのアプローチを個々に検討しなくてもよいというものだった。また、さらな

る実証により信頼性を向上させることが、カリフォルニア州における DPR の規制のクライ

テリアを完成させるために必要であると付記した。報告書には公衆衛生を守るための DPR

の統一的な水質基準を正当に適用するための検討事項も言及されている。

2017 年には、上記報告書を踏まえ、カリフォルニア州議会で州法案(AB)574 が通過し

た。AB574 はカリフォルニア州における DPR のロードマップを規定するものとなった。同

法案は DPR を「水道原水の増加」と「飲料水再利用の増加」とに分類し、SWRCB に対し、

2023 年 12 月 31 日までに「原水の増加」における統一的な水リサイクルのクライテリアを

採用し、そのクライテリアをレビューする専門家レビューパネルを設置・登録するよう要請

した。

2018 年には、SWRCB は将来的な DPR の規制の方針となるようクライテリアのドラフト

を作成し、あわせて必要な調査を行った。

b. テキサス州

テキサス州では多くの水再利用事業が実施されている。DPR については 2 事業が成功し

ており(Big Spring 市および Wichita Falls 市)、3 番目の事業が設計段階にある(El Paso Water

市)。

① Big Spring: 2013 年に DPR として運用開始

② Wichita Falls: 2015 年に DPR を改修(2014 年に運用許可)、表流水を増加させ

る IPR 事業として運用開始。

③ El Paso Water: DPR 事業として設計されており、処理水が直接飲料水の上水シ

ステムに供給される米国初の「再生水増加」事業となる予定。

Page 24: RO 濃縮水の減容化調査) - METIト化されたRO 濃縮排泥の処理コストの潜在的な可能性を評価した。 (c) エネルギー起源CO2 の排出抑制効果

22

Big Spring および Wichita Falls 事業は、「Texas Administrative Code」の革新的/代替的処理

条項たる Chapter 290「Public Drinking Water」24(特定の設計要求がない処理プロセス)に沿

って、ケース・バイ・ケースの扱いで承認された。TWDB(テキサス州水資源開発委員会:

Texas Water Development Board)が、水資源をサポートするドキュメント類を開発する技術

チーム、コンサルタント、その他テキサス州の DPR 事業を検討する者を任命した。

「Direct Potable Reuse Resource Document」(TWDB、2015 年)は DPR に関する課題、それ

らの課題解決策、事業やサイト特有の考慮点に対する規制対応スケジュール等を示したも

のとなっている。

テキサス州の DPR 事業は飲料用水向けの既存の要求内容を充足するよう設計されなけれ

ばならない。さらに、規制対象外の物質(CECs 等)のモニタリングが TCEQ(テキサス州

環境品質委員会:Texas Commission on Environmental Quality)によって奨励されている(義

務ではない)。TCEQ のアプローチは、原水における病原微生物の濃度から高度水処理施設

(AWTF:advanced water treatment facility)を把握し、その上で、許容可能なリスク基準を充

足するよう病原微生物の必要な低減を行うよう、複数のバリアによる処理システムを要求

する形である。

TCEQ は連邦政府(EPA)のガイドラインに沿って、飲料用水に対する病原微生物のリス

ク基準を採用した。すなわち、各病原微生物グループについての年間感染リスクを 10,000 人

のうち 1 人未満としている。その後採用されたカリフォルニア州の公衆衛生局(CDPH:

California Department of Public Health)および NWRI(National Water Research Institute)のア

プローチ25とも類似しており、特定の病原微生物(表 6 参照)の許容濃度は連邦政府の現行

の飲料水規制を基にしたものである。

ウイルス: 2.2 x 10-7 virus/L (Regli et al, 1991)

ジアルジア: 6.8 x 10-6 cysts/L (Regli et al, 1991)

クリプトスポリジウム: 3.0 x 10-5 oocysts/L (Haas et al, 1999)

個々の事業に対する LRV のターゲットは、上記の目標値と原水の濃度との差によって決

定される。さらに、TCEQ は LRV の最低値を「ベンチマーク」として定めている。

ウイルス: 8-log

ジアルジア: 6-log

クリプトスポリジウム: 5.5-log

24 https://www.tceq.texas.gov/rules/indxpdf.html#290 25 NWRI “Examining the Criteria for Direct Potable Reuse, a National Water Research Institute Independent

Advisory Panel Final Report prepared for Trussell Technologies under WateReuse Research Foundation Project No.

11-02.” (2013)

Page 25: RO 濃縮水の減容化調査) - METIト化されたRO 濃縮排泥の処理コストの潜在的な可能性を評価した。 (c) エネルギー起源CO2 の排出抑制効果

23

どの場合においても、LRV のクレジットは以下のようなガイダンス文書に即して実施す

ることでのみ達成される。

UV: 「Ultraviolet Disinfection Guidance Manual」(EPA、2006b)

膜システム: 「Membrane Filtration Guidance Manual」(EPA、2005)

全般: 「Long Term 2 Enhanced Surface Water Treatment Rule (LT2) Toolbox

Guidance Manual」(EPA、2010)

TCEQ は、既存の上記 LT2ESWTR(EPA、2010)に基づくクリプトスポリジウム対策プロ

セスに実質的に類似する原水対策システムを構築した。しかし、TCEQ のアプローチは、原

水中のこれら病原微生物濃度がさらに高い方に想定し、従来の要求水準以上とするもので

ある。

c. フロリダ州

フロリダ州環境保全庁(Florida Department of Environmental Protection:FDEP)は IPR に対

する規制を有している。

Chapter 62-610 Reuse of Reclaimed Water and Land Application and drinking water

regulations

Chapter 62-550 Drinking Water Standards, Monitoring, and Reporting

フロリダ州では IPR 事業は複数実施されているが、まだ DPR 事業が行われていない

(Jacsonville 事業が検討中)。フロリダ州における将来の DPR 事業(2019 年に完工見通し)

に対する規制として、現在、ガイダンス文書の作成が行われている。FDEP は、原水および

処理水の MCLs(最大濃度)に加えて、IPR 事業が以下の基準を充足するよう求めている。

TOC(全有機炭素): 3 mg/L 以下

TOX(全有機ハロゲン化合物): 0.2 mg/L 未満

d. アリゾナ州

アリゾナ州において、非飲料用水の再利用は特に灌漑用(農業、造園)や親水用途で普及

しており、また、冷却などの産業用にも実用的に再利用されている。

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24

同州において最初の水処理規制は 1972 年に交付された。IPR については、地下水での貯

留・再利用、または、表流水の増加のいずれでも、連邦 SDWA(Safe Drinking Water Act)を

充足している条件のもとで承認された。

スコッツデール市は、1998 年以降、以下の通り非飲料用事業および IPR 事業を実施して

いる。

地下水涵養に日量 1.5~2 万トン、周辺の灌漑・芝養生用水に日量 8 万トンを造水。

標準活性汚泥法、硝化脱窒処理、三次処理(ろ布ろ過)、クロラミン処理に続き、オゾ

ン処理、加圧型 MF膜処理による固液分離、RO 膜による脱塩処理、UV 消毒を実施。

回収率は 84~86%の設計。

RO 濃縮水(ブライン)は専用排水路に排出され、下水として処理。

アリゾナ州における DPR の実施は禁止されていたが、2017 年に禁止規制が廃止された。

ガイダンスのフレームワーク文書は 2018 年に発行され、それがアリゾナ州における将来の

DPR 規制の基となる。近い将来に最終的な DPR 規制が Arizona Administrative Code に追加

される見込みである(2019 年の可能性あり)。アリゾナ州における飲料用水再利用の規制の

アプローチは、テキサス州のように最低限の LRV を定めるリスクベースのもの、カリフォ

ルニア州のように先行的な事業に対して病原微生物の LRV を 12/10/10 とするもののいずれ

かと考えられる。

但し、RO 膜の適用は、濃縮排水の処理の問題から、アリゾナ州においては求められてい

る技術とみなされていないことに留意すべきである26。

e. ネバダ州

ネバダ州においては、R101-16(A REGULATION relating to water pollution controls; revising

and adding certain definitions)が水処理に関する規制として適用されている。再利用にあたっ

ては、非飲用(造園、農業用の灌漑)、IPR(地下水での貯留または表流水での拡散)が、処

理水準・用途によりカテゴリーA から E まで定められている。

カテゴリーA+(NAC 445A.2761.1)での IPR を実施する場合には、以下の LRV が求めら

れる。(表 6 参照)

ウイルス: 12-log(排水の処理原水から涵養後の帯水層からの取水に至

るまでの低減率)

クリプトスポリジウム: 10-log(排水の処理原水から涵養後の帯水層からの取水に至

るまでの低減率)

26 Carollo Engineers の見解

Page 27: RO 濃縮水の減容化調査) - METIト化されたRO 濃縮排泥の処理コストの潜在的な可能性を評価した。 (c) エネルギー起源CO2 の排出抑制効果

25

ジアルジア: 10-log(排水の処理原水から涵養後の帯水層からの取水に至

るまでの低減率)

ネバダ州の規制(R101-16)は、カリフォルニア州の IPR 規制をモデルとして導入されて

いる。

◎ ワショー郡およびネバダ州北部

図 9 ネバダ州内のワショー郡および同州北部主要都市の位置

リノ市はネバダ州の中心都市のひとつであり、同州北西部のワショー郡に立地している。

また、スパークス市はリノ市の東に隣接している。なお、ネバダ州の州都はワショー郡の南

に隣接し、どの郡にも属さないカーソンシティである。

リノ市はネバダ州の中で比較すればさほどの水不足が発生しているわけではなく、水資

源のほとんどをシエラネバダ山脈の雪融け水に依存している。この雪解け水は干ばつ(降雪

が少ない)に影響を受けやすく、そのため、灌漑用の非飲料用水再利用が、表流水の供給を

保全するために実施されてきた。さらに、IPR 規制の開発によって、非飲料水利用から飲料

水利用への展開が促進されてきた。リノ市を含め、ネバダ州北部は内陸部にあるため、RO

膜処理については、高回収率および高濃度排水処理を可能とする革新的な方法が必要であ

ワショー郡

リノ市

カーソンシティ

スパークス市

ウィネマッカ市

Page 28: RO 濃縮水の減容化調査) - METIト化されたRO 濃縮排泥の処理コストの潜在的な可能性を評価した。 (c) エネルギー起源CO2 の排出抑制効果

26

るものと認識されている。

TMWA(The Truckee Meadows Water Authority)はリノ市、スパークス市、ワショー郡にお

ける主要な水供給事業者(地域所有、非営利)であり、同地域内で約 400,000 人の住民に水

を供給している。上水の主な水源はトラッキー川(Truckee River)および地下水である。ま

た、TMWA は年間約 11,000 エーカー・フィートの水を供給している。内、3,000 エーカー・

フィートがトラッキー川、8,000 エーカー・フィートがカリフォルニア州ハニー湖(Honey

Lake)からの地下水である。

図 10 トラッキー川(右)およびハニー湖(左)の位置

ワショー郡の主な排水処理施設は以下の通りである。

表 7 ワショー郡の排水処理施設

施設名 処理規模

(処理能力)

所有者 運用状況

STMWRF (South Truckee Meadows

Water Reclamation Facility)

1.8 MGD

(3.0 MGD)

ワショー郡 運用中

RSWRF (Reno/Stead Water

Reclamation Facility)

1.1 MGD

(1.5 MGD)

ワショー郡レモン

バレー(CDP27)

TMWRF (Truckee Meadows Water

Reclamation Facility)

31.5 MGD

(40 MGD)

ワショー郡リノ

市・スパークス市

Cold Springs Wastewater Treatment

Facility

0.13 MGD

(0.35 MGD)

ワショー郡 〃

27 国勢調査指定地域(CDP)は米国の地域区分のひとつである。

Honey Lake (Dry)

Pyramid Lake

左図の位置

Page 29: RO 濃縮水の減容化調査) - METIト化されたRO 濃縮排泥の処理コストの潜在的な可能性を評価した。 (c) エネルギー起源CO2 の排出抑制効果

27

施設名 処理規模

(処理能力)

所有者 運用状況

Verdi Meadows Wastewater

Treatment Plant

0.023 MGD

(0.028 MGD)

Verdi Meadows

Utility Company

計画中

Boomtown Wastewater Facility 0.14 MGD

(0.18 MGD)

ワショー郡ヴェル

ディ(CDP)

Gold Ranch 0.010 MGD

(0.010 MGD)

ワショー郡ゴール

ドランチ(CDP)

Lemmon Valley Wastewater

Treatment Plant

0.22 MGD

(0.3 MGD)

ワショー郡 〃

○ STMWRF(South Truckee Meadows Water Reclamation Facility)

ワショー郡の地域サービス庁 CSD(Community Services Department:CSD)は、豪雨

(stormwater)の管理、排水の処理(5 MGD)、再生水を管轄している。対象人口は約 16,000

人の住民であり、ワショー郡の人口の中では小さい割合である。

CSD は排水処理施設を 3 施設運用しているが、STMWRF(South Truckee Meadows Water

Reclamation Facility)のみが非飲用の灌漑用に再生水を供給している。処理規模 4.1 MGD で

あり(2000 年から運用)、クラス A の再生水を生産している。同施設では、活性汚泥、ろ過、

砂ろ過、塩素殺菌処理を行っている。灌漑を行う時期には再生水が配水システムによって供

給され、冬季には再生水が野外の貯水池に蓄えられる。

なお、本施設では IPR の実現に向けた実証事業としてオゾン+BAC 処理を実施している

(後述)。

○ RSWRF(Reno/Stead Water Reclamation Facility)

リノ市は RSWRF(Reno/Stead Water Reclamation Facility)を運用している。処理規模 1.5

MGD であり、非飲用の灌漑および野生生物保護地域のスワン湖(Swan Lake)への放流が行

われている。STMWRF と同様、活性汚泥処理の後に三次処理および殺菌処理を行っている。

○ TMWRF(Truckee Meadows Water Reclamation Facility)

スパークス市は TMWRF(Truckee Meadows Water Reclamation Facility)を運用している(所

有はスパークス市およびリノ市)。処理規模 39.8 MGD の三次処理施設であり、ろ過、二次

処理(活性汚泥、リン除去)、固定膜法による硝化、流動床による脱窒、粒状媒体フィルタ

ー処理、次亜塩素酸ナトリウムによる殺菌処理、亜硫酸ナトリウムによる脱塩素を実施して

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28

いる。処理水は、年間を通して、用水路(Steamboat Creek)を経てトラッキー川に放流して

いる。

○ Cold Springs Wastewater Treatment Facility

ごく小規模の処理施設。

なお、以下はワショー郡以外の近郊の主な排水処理施設である(参考)。

○ Carson City Water Resource Recovery Facility

カーソンシティ(ネバダ州の州都であり、どの郡にも属さない)は、Carson City Water

Resource Recovery Facility を運用している。処理規模が 6.9 MGD の三次処理施設であり、活

性汚泥処理(バイオリアクター、二次処理のろ過処理)、三次処理、塩素殺菌処理を実施し

ている。処理水は、灌漑の時期には地域のゴルフコースおよび公園に散水され、冬季には貯

水池に蓄えられている。

○ Winnemucca Wastewater Treatment Facility

ウィネマッカ市(ワショー郡の東側に隣接するハンボルト郡の郡庁)では Winnemucca

Wastewater Treatment Facility が運用されている。処理規模 3.5 MGD であり、二次処理(バイ

オリアクター、ろ過処理)によって脱窒がなされている。処理水は農業用水(人間用ではな

い農作物)である。

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29

図 11 ワショー郡の主要な水処理施設28

28 Northern Nevada Water Planning Commission

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30

(3)ネバダ州および近隣州における事例

ここでは、本案件の比較を行う参照事例として、以下の 4 案件を取りまとめる。

表 8 参照事例

事業 特徴

① カリフォルニア州オレンジ郡 処理水を地下水に圧入する最初の事業(当

初は海水による地下水の塩水阻止として)

世界最大規模の IPR 事業

② カリフォルニア州チノ市 最新の IPR 事業(2017 年 5 月完工)

RO 膜を使用

高回収率(94%超)

③ ネバダ州ヘンダーソン市 ネバダ州南部モデル29

水資源を表流水に依存

RO 膜を使用していない

④ ネバダ州リノ市 ネバダ州北部モデル30

水資源を地下水に依存

オゾン+BAC 処理による実証事業

図 12 参照事例の位置

これらの案件を取り上げた観点を以下の表に示す。

29 水需要という観点では、ネバダ州の人口の約 4 分の 3 が南部クラーク郡に集中しており(ラスベガス、

ヘンダーソン等)、いずれもコロラド川に近いことが特徴である。 30 水需要という観点では、北部の人口はワショー郡のリノ・スパークス大都市圏に集中しており、内陸地

のために地下水に大きく依存している特徴がある。

カリフォルニア州チノ市

カリフォルニア州オレンジ郡

ネバダ州ヘンダーソン市

ネバダ州リノ市

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31

表 9 参照事例の特徴分類

事業 処理水の

地下水涵養

RO への

依存

高回収率

RO の利用

IPR 事業

① カリフォルニア州オレンジ郡 ○ ○ ×(沿岸) ○(最大)

② カリフォルニア州チノ市 ○ ○ ○(内陸) ○(最新)

③ ネバダ州ヘンダーソン市 × × - ×

④ ネバダ州リノ市 ○ ×(O3) - ○(実証)

① カリフォルニア州オレンジ郡

オレンジ郡(Orange County)はロサンゼルス市の南、サンディエゴ市の北に位置する。両

大都市圏に挟まれた郊外の立地のためもあり、2018 年時点で人口は 320 万人を超え、年間

増加率 0.7%を示している。なお、同年のロサンゼルス市、サンディエゴ市の人口はそれぞ

れ 1,028 万人、334 万人であり、人口増加率はそれぞれ 0.5%、0.8%である。同年の年間人口

増加率の全米平均は 0.6%である31。

図 13 オレンジ郡の位置

31 カリフォルニア州 Department of Finance

コロラド川

サンフランシスコ市

ロサンゼルス市

カリフォルニア州

ネバダ州

オレンジ郡

サンバーナーディーノ郡

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32

水源はコロラド川および北カリフォルニアからの遠距離導水と地域内の地下水でまかな

っている。2 つの遠距離導水事業は水不足に脅かされており、郡の北部と中部では地下水へ

の依存度が 50%程度に高まっているが、地下水の過剰揚水は地下水脈への海水の浸入によ

る塩水化を招くリスクがある。

そのため、オレンジ郡の水組合および衛生組合(The Orange County Water District, OCWD)

は、下水処理水を地下水脈に圧入し、それによる地下水脈の涵養と塩水化の防止を目的とし

て、世界最大規模の IPR 事業(The Groundwater Replenishment System, GWRS)を 2008 年に

開始した。処理能力は約 71 MGD と世界最大規模である。

通常の生物処理による下水処理水を、MF膜(前処理)、UF膜、さらに過酸化水素と紫外

線を用いた高度な酸化処理を行って化学物質や病原微生物に対する安全性を高め、飲料水

と同等のレベルまで処理するとしている。これを地下水脈に浸透させて海水の侵入を防ぐ

とともに、地下水脈で貯留し、井戸を通じて揚水する水道水源として利用している。

MF からの洗浄排水は下水処理場に返送して処理し、UF からの濃縮水は下水処理場の放

流口で処理水とブレンドして放流している。

図 14 下水処理フロー32

32 オレンジ郡資料

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33

表 10 オレンジ郡下水処理場

諸元 処理能力 27 万 m3/日(約 71 MGD)

処理フロー 原水(下水処理水)

MF 膜(一部 UF膜)

RO 膜

UV+過酸化水素(高度酸化)

地下水

本案件の立地するネバダ州北部は内陸地のため、地下水への依存度が約 50%と高く33(同

州南部やカリフォルニア州のように表流水を利用できない)、地下水汚染リスクを最小化す

ることが求められている。

33 Laura Haak, Vijay Sundaram, Lydia Peri, Rick Warner and Krishna Pagilla “Economic Benefits of Indirect Potable

Reuse in Reno, NV” (2019)

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34

② カリフォルニア州チノ市34

チノ市(City of Chino)はカリフォルニア州南部・サンバーナーディーノ郡(San Bernardino

County)の南西端に位置する。

同郡は米国本土の中でも最大の面積を持つ郡であり、チノ市や州都のサンバーナーディ

ーノ市等の都市部が南西部に集中している他の内陸部は沙漠地帯である。東端にコロラド

川が位置しているものの、全域での水需要は大きい。また、チノ市は農業・酪農の拠点でも

あり、そのための用水も必要としている。

図 15 チノ市の位置

同市では 2007 年より、「Chino Basin Groundwater Recharge Project」として、処理水を地下

水に圧入し、SAT (soil-aquifer treatment)により飲用に供する IPR 事業を実施している(18

MGD)。しかし、その後の増設もあり、ブライン処理コストが増大し、83.5%の回収率をよ

り高める事業が企画された。

ブライン処理は、地域のパイプライン(The Inland Empire Brine Line)を介して、最終的に

海洋投棄されている35。それを受けて、脱塩装置が「Chino Desalter II」として建設され、以

下の事業が開始されている(2017 年 5 月完工)。すなわち処理本体は高度処理ではない。な

お副生ペレット(軟水化により得られる CaCO3)は有価物として利用されている。

34 Carollo Engineers 35 Western Municipal Water District(上水事業者)

コロラド川

カリフォルニア州

サンバーナーディーノ郡

サンバーナーディーノ郡

チノ市

オレンジ郡

ロサンゼルス市

サンフランシスコ市

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35

表 11 チノ市下水処理場

諸元 処理能力 20.5 MGD

脱塩装置処理能力 2.5 MGD

処理フロー 原水(地下水)

RO 膜

イオン交換設備

脱塩装置

飲料水

ブライン処理

回収率 脱塩装置設置前 83.5%

脱塩装置設置後 94%超

※下図では、22.23 / (22.23+0.95) = 約 96%

コスト CAPEX(脱塩装置) 50 million USD

OPEX(全体) 6.8 million USD/年

図 16 下水処理フロー

Low-Pressure RO High-Pressure ROPre-Treatment

Chino Desalter II

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36

図 17 脱塩フロー

本案件については、チノ市の事業を技術諸元の比較やコスト比較のために用いる。

なお、模式的にチノ市事業と本案件との比較を以下に示す。発生するブラインを海洋投棄

できない点が、内陸地たるネバダ州の出口制約である。

表 12 チノ市事業と本案件との比較

ステップ

事業

脱塩処理 (1) 軟水処理 脱塩処理 (2) ブライン処理

チノ市 Low-Pressure RO Pellet Softener

Clarifier

Media Filtration

High-Pressure RO 海洋投棄

本案件 Low-Pressure RO Crystellizer High-Pressure RO

ELS2

ELS1

Evaporator

最終処分

High-Pressure ROPre-Treatment

Low-Pressure RO

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37

③ ネバダ州ヘンダーソン市36

ヘンダーソン市(City of Henderson)はネバダ州南部・クラーク郡(Clarke County)のラス

ベガス都市圏に位置する。ラスベガス都市圏は、人口 2.3 百万人と推定される中、同州では

ラスベガス市に次いで 2 番目に人口が多い。

ラスベガス都市圏は、人口の自然増に加えた州からの移住のため、全米でも有数の人口密

度の高さと人口の増加率が高い特徴を有している。

ネバダ州南東部のアリゾナ州との州境界はコロラド川であり、流域のミード湖において

フーヴァー・ダムが、電力・水道事業に運用されている。ヘンダーソン市は同ダムから 20km

程度の至近距離にある。

図 18 ヘンダーソン市の位置

南ネバダ地域では、南ネバダ都市圏の人口増に対応した水道事業を支えるため、コロラド

川を中心とした水循環事業「Return-Flow Credits」が実施されており、ヘンダーソン市の下

水および再生水施設がその水フローを大きく担っている。

36 視察およびヒアリング(2018 年 8 月)

コロラド川

フーヴァー・ダム

ネバダ州

クラーク郡

クラーク郡

ヘンダーソン市

ラスベガス市

ワショー郡

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下水を高度に処理された再生水は、日量 60 万トン以上がその循環を目的に放流されてお

り、その水量は上水道として供給される 40%以上を占めている。

すなわち、同市の水利用の特徴は、地下水に過度に依存していない表流水の循環である。

同市の下水処理場の特徴は以下の通りであり、膜処理を行っていない。

表 13 ヘンダーソン市下水処理場

諸元 計画時間最大処理能力 32 MGD(12.1 万 m3/日)

現在 22 MGD(83,600 m3/d = 3,500 m3/h)

処理フロー 流入

スクリーン

調整槽(緊急用調整池有)

曝気槽(脱窒、脱リン)(好気+嫌気)

沈殿槽

砂ろ過(現在使用していない)

UV 1 槽、UV 2 槽で放流

ミード湖灌漑用

今後の処理計画については以下の通りである。

市の新マスタープランにおいて、今後 25 年程度は高度処理の予定がない。

電気代が高い印象をもっており、RO 膜を導入するモチベーションが働きにくい。

ミード湖は人口湖であり、また水量も大幅に減っていることから(取水点を下げて対

応している)、特に表層の水質が悪化している(TDS = 600 mg/L 程度)。また、水質

の季節変動として表層水質と底質の混合が指摘されている(影響は不明)。

同施設からの放流水は Class D(灌漑再利用を想定した水質)の遵守に留まっている。

しかし、Class A や A+が要求する高度処理を行うまでの状況とはなっていない。

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39

従って、水質悪化の現況は認めつつも、政策としては高度処理の計画が策定されておらず、

本案件の実現可能性は当面は低い。しかし、同市における上水道の水質が TDS=600 mg/L以

上と大変高く、将来的には現在の処理水準で問題ないか懸念される。

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④ ネバダ州リノ市

リノ市(City of Reno)はネバダ州北西部に位置し、州内の規模は南部ラスベガス市(広

域)に次ぐ。同州南部とは異なり、コロラド川からも遠い。州境界のカリフォルニア州側、

シエラネバダ山脈との間には、世界で最も暑い乾燥した盆地・デスヴァレー(Death Valley)

があるように、同市も、極めて乾燥した内陸地域である。

図 19 リノ市の位置(再掲)

従って、リノ市ではその飲料水のほとんどを地下水に依存している。水需要の増加が考え

られることからも、同市では、以前より IPR の実施を検討している。

リノ市には 4か所の下水処理場があり、現在、同市で 2番目の規模の下水処理場(3.8 MGD)

である South Truckee Meadows Water Reclamation Facility において、高度処理の実証事業が実

施されている。なお、最大規模の処理場は 20 MGD である。

実証事業の概要は以下の通りである。

ワショー郡

クラーク郡

ワショー郡

リノ市

ネバダ州

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処理水(二次処理水)は一旦貯水池に貯め、灌漑・農業等の直接利用のみに使っている。

なお、最大規模の下水処理場は処理水を河川に放流している。

処理水(三次処理水)を原水として用いて、以下の実証事業を行っている。

表 14 リノ市実証事業のプロセス

No. 実施内容 関係者

1 前処理(三次処理を含む) Xylem(アメリカ)

2 オゾン+BAC の IPR Xylem(アメリカ)

3 UV-AOP(促進酸化処理)(※作成中) Trojan(カナダ)

オゾン+生物活性炭(O3+BAC)の IPR の実証実験(上記 No. 2)を行っており、ワシ

ョー群の職員、ネバダ大学リノ校(UNR)の学生が実験を行っている(Washoe County

Community Services Department の申請による Northern Nevada Indirect Potable Reuse

Feasibility Study に基づいた IPR の実証実験)。

IPR 処理能力 8 GPM

投資額 約 7.5 億円

実証期間 7 年

(Northern Nevada Indirect Potable Reuse Feasibility Study より)

図 20 リノ市実証設備 (1)

設備構成としては沈殿槽から塩素処理をおこなっており、前処理用コンテナで第二塩

化鉄を注入し浮上分離槽に傾斜版を設け上向越流後、繊維ろ過で処理を行っている。そ

の後、オゾン+生物活性炭(O3+BAC)用コンテナ設備にて処理を行っている。水質

項目(UVT、BOD、TSS、NO2-N、NO3-N、COD、TOC)の水質を常時監視している。

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実証実験処理水の利用方法: 貯水池に貯留され、夏場の水需要(ゴルフ場散水、農業

用水など)に利用している。

観測井戸(recovery wells): 観測用井戸としてΦ3 インチ、30~60m の深さの井戸が 100

か所以上あり、水位を年間通して監視している。

オゾン+生物活性炭(O3+BAC): 20ppm のオゾン注入濃度。空気圧縮機と電気放電

を用いてオゾンを生成している。

薬品の調達: ワショー郡にて調達

図 21 リノ市実証設備 (2)

図 22 リノ市実証設備 (3)

想定される問題点は以下の通りである。

ホウ素およびヒ素の検出が認められ、その挙動を注視する必要がある。

オゾン+BAC での処理水に関しては、難分解性物質や微量化学物質への関心が高

く、ネバダ大学リノ校(UNR)において水質検査が行われている。

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本案件は、この実証事業と同様の目的を掲げ、ネバダ州北部での実施を目指して検討する

ものである。そのため、技術的検討にあたり共通の前提条件を設定する。(「3-1 ねらい」

参照)

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2.RO 膜濃縮排水の処理実態の把握

前章においては、米国における水循環・下水再生処理に関する政策動向を確認し、米国内

での RO 膜を使用した IPR、DPR が多く検討されていることが確認できた。その中でも沿岸

部と内陸部では RO 濃縮水の処理方法が大きく異なり、コスト面においても大きな影響要因

となっている。

2-1 処理方法

IPR、DPR において RO 膜を利用する際に、RO 膜から排出される濃縮水(Concentrated

water)は、一般的に通常沿岸部では河川や海域への放流になる。しかし、内陸部において河

川に放流すると、河川水のイオン濃度が高くなり、河川下流部で飲料水の取水が難しくなる

課題がある。すなわち、内陸部では取水の水質を考慮すると RO 膜濃縮水を河川放流するこ

とが難しくなり、RO 膜を採用するためには濃縮水の減容化が必須となる。

下図の通り、RO 膜では、増圧された供給水を RO 膜面で濃縮し、処理水は中心部の集水

管へ流れて透過水として利用される。その間、濃縮水は海水の場合で回収率約 35%程度~

淡水で回収率 75%程度、濃縮率で 1.5 倍~4 倍濃縮を膜面で行い、水に含まれるイオン成分

(塩化物イオン、全硬度、蒸発残留物)などを濃縮水側に排水する。この濃縮された排水が

課題となる。

上記の通り、米国内においては RO 膜の回収率を 97%以上に高濃縮している事例(チノ

市)があり、以下に示すように、Evaporator、Lime softner、Crystallizer を駆使した ZLD(Zero

Liquid Discharge)が行われている。

図 23 RO 膜処理

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※ Evaporator: 固体または液体を蒸発させる機能をもつ装置

※ Lime softner: 石灰水(水酸化カルシウム)を添加して沈殿によって

硬度分(カルシウムおよびマグネシウム)を除去する。

※ Crystallizer: 晶析装置により、濃縮による結晶化、冷却による結晶

化、化学反応または平衡移動による結晶化を言う。

※ ZLD (Zero Liquid Discharge): 水循環を実現するための水質汚染リスクの低減と,排

水の再生及び再利用の視点から液体廃棄物をゼロに

する排水処理の無排水化を行う。

チノ市の事例(図 16、図 17)では、イオン交換樹脂、炭酸カルシウム成分のペレットを

活用した晶析、沈降分離などを用いて、RO 濃縮水の減容化を達成している。これらのシス

テムでは、装置反応に不可欠な薬剤(アルカリ剤や石灰、炭酸ガス)を外部から運搬、貯蔵

する手間があり、また、その消耗品費が大きい負担となる。

2-2 本案件における適用

本案件においては、RO 濃縮水の無排水化(Zero Liquid Discharge:ZLD)を達成するため、

RO 膜濃縮水の有効活用として電気分解(Electolytic system 1: ELS1)を用いて効率よく濃縮

し、電気分解(Electolytic system 2: ELS2)を用いて HCl、NaOH、NaClO など有価薬品を生

成し、それを利用する計画を検討する。

これらの ZLD に加え、外部から水処理用の薬剤を運搬搬入することなく、オンサイトで

現地生成・現地消費という完結型 ZCC(Zero Chemical Charge:ZCC)様式を目指す。

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3.提案システムの考案と優位性の確認

3-1 ねらい

1 章~2 章においては、米国西部における IPR/DPR の検討を行う中で RO 膜処理を既に導

入または検討している地域が多くあることが判明した。

これを踏まえて、日本の技術優位性を発揮できるシステムを提案し、その実現性、有効性

について定量的に検討する。米国内での実績から RO 膜処理の有効性は十分に理解される

が、内陸部における RO 膜濃縮水処理に対する懸念を払拭することが課題であると考えられ

る。

現在、ネバダ州 UNR(ネバダ大学リノ校)および同校内 NWII(Nevada Water Innovation

Institute)が、リノ市の排水処理施設 STMWRF(South Truckee Meadows Water Reclamation

Facility)において、IPR として、オゾン+生物活性炭(O3+BAC)による高度処理の実証事

業に取り組んでいる。本調査では、同サイトにおける RO 実証の受け入れ可能性の検討を行

う。

① 日本の技術の優位性を活かした提案技術の特徴

本調査では、RO 膜処理とオンサイトで薬剤を生成する電気分解を組み合わせた新しい技

術を米国への IPR/DPR 施設に提案し、日本の技術を将来的に米国内で実機運用すること、

海外展開が可能になることを前提に検討を進めた。

② 米国内の動向

米国における IPR/DPR の事業において RO 膜を採用している事例は、主に先進的に IPR

事業を推進してきたカリフォルニア州を含め、米国西部において多数存在する。カリフォル

ニア州の IPR 事業は、再生水の貯水池への放流とともに、土壌吸着や地層ろ過に依存した

地下水涵養による飲料水化を企図したものである。2016 年 9 月に、The State Water Resources

Control Board による 2 年越しの審議を経て、DPR に関する答申を発表しており、下水由来

の再生水の上水利用について、適切な規制や制御により可能と結論付けている。それを踏ま

え、同州は、DPR 実現に向けた具体的な規制の検討に入っている37。

一方、オゾン処理の事例は西側にはほとんど見当たらないことから、RO 膜法による処理

が IPR に適していると認識されていることがわかる。

なお、本調査の実施を検討するネバダ州においては、これまでに膜分離技術を用いた IPR、

DPR ともに商用化事業の事例が存在しない。それを目指して、1-2(3)のネバダ州リノ

37 メタウォーター技報 2018 vol.1

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市 STMWRF(South Truckee Meadows Water Reclamation Facility)において、O3+BAC 処理

による実証事業が行われている。

③ 調査方針

米国西部における内陸部での IPR/DPR は、リノ市で実証事業が実施されているオゾン+

生物活性炭との比較検討になる。

コスト面(イニシャルおよびランニング)では劣後する可能性があるが、① RO 膜濃縮水

を大きく減容化できること、② RO 膜処理水を地下浸透することで将来的な地下水の水質

を維持できることを考慮すると、RO 膜処理が有効であると考えられる。

本調査において提案する RO 膜処理における濃縮水の ZLD 方式が、有効な解決策の1つ

となる。

④ 米国内における RO 膜処理での IPR 事業

米国内においては、世界最大のカリフォルニア州オレンジ郡にある IPR では 378,500 ㎥/d

(100MGD)の処理38を実施しており、RO 膜処理の有効性が認められている。しかし、同施

設では、RO 膜処理の濃縮水の海域放流が許容されていることにより実現している面がある。

本調査では、米国西部内陸部に対応する処理システムを検討した。

⑤ リノ市または米国西部内陸部における RO 膜での ZLD+ZCC

本調査では、4 種類の RO 膜処理+電気分解技術からなる ZLD + ZCC システムを検討

した。

日本の技術優位性と新しい技術により、回収率 98%を超える減容化、および、RO 膜濃縮

水から有価物を電気分解し生成する技術で薬品の現地生成・現地消費(ZCC)を実現し、今

までにない IPR/DPR を可能とする。

38 Indirect Potable Reuse in Orange County California (November 17 , 2016)

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48

⑥ 本調査での検討結果

水質条件として以下を想定する。(「B’プラン」とその他の比較については後述する)

IPR: 98.13 m3/h

TDS: 500 mg/L

A.ZLD フロー

RO1stの処理水を地下浸透へ、濃縮水を CR(晶析)に送る。CR にてスケール成分の一部

を沈殿分離し ELS1(電気分解装置)と RO2ndへ送る。ELS1 で得た濃縮水を ELS2(電気分

解装置)へ、希釈水(脱塩水)を RO2ndへ送る。ELS2 にて有価物を生成し、本プロセスで

使用する。また RO2ndの処理水を地下浸透へ、濃縮水を RO3rdに送る。RO3rdの処理水を地

下浸透へ、濃縮水を EVA(エバポレータ)へ送る。EVA にてゲル状の廃棄物とする。

図 24 B’プラン概要

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49

B.ZCC 生成有価物

表 15 B'プランで生成される有価物

薬品種類 塩酸(HCl) 苛性ソーダ(NaOH)

濃度 流量

(m3/H)

濃度

(mg/L)

(mg/L)

流量

(m3/H)

濃度

(mg/L)

(mg/L)

TDS500 1.8 338 6,490 0.9 1,017 8,270

オプションとして、次亜塩素酸ナトリウムを生成可能である。

表 16 B'プランで生成可能な薬品

薬品種類 次亜塩素(NaOCl)

濃度 流量

(m3/H)

濃度

(mg/L)

(mg/L)

TDS500 2.7 1,894 7,380

C.CAPEX・OPEX

表 17 B'プランの CAPEX

CAPEX

流量: 100 m3/H

TDS:500 mg/L

調査 Plan B’ ZLD

(回収率 98%)

RO 1.26M$

CR(晶析) 0.13M$

EVA(エバポレータ) 1.34M$

ELS1(電気分解装置) 0.42M$

ELS2(電気分解装置) 0.34M$

その他 0.78M$

合計 4.26M$

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50

表 18 B'プランの OPEX

OPEX

流量: 100 m3/H

TDS:500 mg/L

Plan B’ ZLD

(回収率 98%)

RO 0.112$/m3 0.423M$/MGD

CR(晶析) 0.023$/m³ 0.087M$/MGD

EVA(エバポレータ)

(廃棄物 40 トン/月) 0.185$/m³ 0.700M$/MGD

ELS1(電気分解装置) 0.01$/m³ 0.038M$/MGD

ELS2(電気分解装置) 0.095$/m³ 0.359M$/MGD

その他 0.175$/m³ 0.661M$/MGD

消費電力 0.098$/m³ 0.371M$/MGD

合計 0.600$/m³ 2.639M$/MGD

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51

3-2 4種類のプラン検討

米国における IPR および DPR の事業において適している RO 膜法による処理を用いたシ

ステムを採用し(第 1 章)、RO 膜濃縮水の減容化および有効活用適用技術を用いた ZLD

(Zero Liquid Discharge)+ZCC(Zero Chemical Charge)計画(第 2 章)を検討する。

RO 膜と電気分解装置を用いた下水再生処理プロセスにおける RO 濃縮水の減容化として、

ZLD+ZCC を目標としたいくつかの処理プランを考案し、その中から適用性、汎用性の高

いプランを選択して考察した。その結果、メリット・デメリットより、B'プランを選択した。

Aプラン検討(図 25 A プラン概要参照)

特徴:低圧 RO 膜処理、高圧 RO 膜処理し、さらに濃縮水を NF膜処理にて生成された

NF 膜処理水を EL に供給。薬品を生成する。地下浸透は 96%の結果で、有価物も必要

量を十分に生成することが可能。尚、オプションとして次亜塩素酸ナトリウムの生成も

可能である。

経緯:2 段の RO 膜処理でイオンを効率よく濃縮し、NF膜で一価のイオンを NF処理水

で造水し、EL にて電気分解を行うことで有価物を生成し、膜処理におけるオンサイト

で現地生成・現地消費を可能とする。

評価:NF膜処理水において、2 価イオンの分離特性が、本システムで要求するレベル

に達してなく、実運用が難しい。

図 25 A プラン概要

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52

B プラン検討(図 26 B プラン概要、図 25 A プラン概要参照)

特徴: 地下浸透率を効率的に上げるために、高圧 RO 膜処理の回収率を上げる必要か

ら、晶析装置を検討。また ELS2S1 にて一価のイオンを濃縮し且つ二価のイオンを原

水へリターンする仕組みで、96%の地下浸透を行う。

経緯:Aプランで ELS2 が要求する水質を満足することが出来なかった経緯から、一

価のイオンを効率よく濃縮できる選択性のある電解装置(ELS1)を導入。さらに各機

器や膜へのカルシウムによるスケールを防止するために晶析工程を導入。

評価:ELS1 からのリターン水により、低圧 RO 膜処理に高い負荷が掛かり、また

ELS2 でのカルシウム析出も懸念され、長期的な安定稼働に適さないと判断された。

図 26 B プラン概要

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53

C プラン検討(図 27 C プラン概要参照)

特徴:低圧 RO 膜処理並びに ELS1 の単純構成で有価物を生成できるシステムを検

討。ELS2 にて生成された薬液はすべて外部にて利用できる考え方で、地下浸透につ

いては 80%の結果となる。

経緯:有価物を最優先に生成した場合を検討、シンプルな仕組みであるが本来の目的

である地下浸透の率が低下している。

評価:生成した酸、アルカリ、次亜塩素酸などが過不足なく有価物として利用される

か不明、現地生成・現地消費という方向性からも難しいと判断。

図 27 C プラン概要

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54

B'プラン検討(図 28 B’プラン概要参照)

特徴:地下浸透の効率が最も良く、98%を実現。また有価物も処理プロセス内におい

て、必要量を現地生成・現地消費しておりとても効率よい処理プロセスである。

経緯:有効であったBプランを、課題であった低圧 RO 膜処理のスケール低減並びに

ELS2 への供給水質改善を行うために晶析処理水を ELS1 に供給、さらに ELS1 の濃縮

水をリターンすることなく中圧 RO 処理にフィードすることで解決している。

評価:RO2ndの負荷が大きく、処理水効率が低下するが、RO3rdを導入することで、

ELS1+ELS2 の導入メリットが期待できる。

図 28 B’プラン概要

記号の説明

A:RO1stの原料水

B:RO1stにおける処理された清水

C:RO1stにおける濃縮排水

D:晶析の原料水

E:晶析の出口水

N:ELS2 で生成した酸性水

O:ELS2 で生成したアルカリ性水

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H:RO2ndにおける処理された清水

J:RO2ndにおける濃縮排水

K:RO3rdにおける処理された清水

L:RO3rdにおける濃縮排水

Z:総清水

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56

3-3 プラン検討結果

提案したプランの比較は以下の通りである。本調査においては、ZLD+ZCC 計画として

適用性、汎用性の高いものとして B’プランを採用する。

表 19 提案したプランの比較

種類 特 徴 評価結果 査定

A プラン RO 膜、NF 膜を用いて、ELS2 にて有

価物を取得し、RO 濃縮水を最大限少

なくする計画。コストパフォーマンス

が高く、96%の地下浸透が可能。また

エネルギー効率もとても良い。

NF 膜の 2 価イオンの分離特性が本

システムの要求するレベルに達し

ていない為、ELS2 の電極にスケー

ル成分が急速に発生し、ELS2 の機

能低下が著しく発生することから

検討断念。

×

B プラン Aプランで課題となったスケール成

分に対応すべく、ELS1 を設置。特に

スケール成分の除去を行い、ELS2 に

効果的にフィードして有価物を所得

する検討を行った。また後段の

RO(High pressure)へのファウリング

を抑制するために CR の設置を検討。

原水の水質が良質な時は対応化の

であるが、今回検討した TDS100 を

超えたとき、ELS1 からのリターン

水で低圧 RO の負荷が大きくなり、

膜詰まりが懸念される。また ELS2

でもスケール分が多く、負荷も大き

いため、長期的な安定稼働に適さな

いと判断。

C プラン もっとも簡素なシステムで、Capex が

ハイパフォーマンスである分、地下浸

透は 80%と低い結果です。ELS2 にて

生成した有価物はすべてを外部にて

利用する計画。

生成した酸、アルカリ、次亜塩素酸

などが過不足なく有価物として利

用されるか疑問あり。また運搬費用

を考慮した際、濃度の薄い薬液を運

ぶのは効率が悪く、検討から除外

×

B'プラン A~C 案を踏まえて、スケール対策と

して ELS1 並びに RO2ndの前に CR を

設置して、各機器のスケール負荷を無

くし、ELS2 で効率よく有価物を生成

できる計画です。地下浸透 98%

RO2nd の負荷が大きく、処理水効率

が低下するが、高圧 RO を導入する

ことで、ELS1+ELS2の導入メリット

が期待できる。ただし、原料水質に

は TDS の上限範囲がある。

CR(晶析)、ELS2(電気分解装置)、ELS1(電気分解装置)

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57

図 29 B’プランの詳細フロー

B’プランの試算において、構成する主な装置の目的と効果、概略処理フローの説明、晶析

における反応、調査に用いた原料水質、ELS2 電気分解セル特性値の算出方法、試算結果を

示す。

また本調査で合成される薬品、装置の潜在的な利用について検討した。

B'プランの CAPEX、OPEX、消費電力、さらに各機器の詳細は以下とする。

ELS1

ELS2 ELS2’

Feed Tank

Treated Tank

Feed Tank

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3-4 B’プラン詳細検討結果

① コスト

表 20 CAPEX

流量:100 m3/H

TDS:500 mg/L

Plan B’ ZLD

(回収率 98%)

RO 1.26M$

CR 0.13M$

EVA 1.34M$

ELS1 0.42M$

ELS2 0.34M$

Other 0.78M$

TOTAL 4.26M$

表 21 OPEX

流量: 100 m3/H

TDS:500 mg/L

Plan B’ ZLD

(回収率 98%)

RO 0.112$/m³ 0.423M$/MGD

CR 0.023$/m³ 0.087M$/MGD

EVA(廃棄物 40 トン/月) 0.185$/m³ 0.700M$/MGD

ELS1 0.01$/m³ 0.038M$/MGD

ELS2 0.095$/m³ 0.359M$/MGD

other 0.175$/m³ 0.661M$/MGD

Power Consumption 0.098$/m³ 0.371M$/MGD

TOTAL 0.600$/m³ 2.639M$/MGD

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59

② 消費電力

表 22 消費電力

③ 各機器における詳細仕様

水質、水量条件 : TDS500mg/Lm、100m3/H 、 24h/d

電力代金 : ¥10/kWh

RO1st(低圧)

CAPEX : 0.75M$

OPEX(inlet100m3) : 0.257M$/MGD

消費電力(kW) : フィードポンプ、 5.5kW×3、556L/min×25m

RO1st高圧ポンプ、 15kW×3、556L/min×80m

RO 膜型式 :TMG20-400

RO 有効膜面積 :4440m2(120pcs)

その他 :CAPEX に含む

4 ユニット

ベッセル(3m):10pcs/Unit

RO 膜:30pcs/unit

RO 膜総本数:120pcs

流量: 100 m3/H( 0. 634 MGD)

TDS:500 mg/L

Plan B’ ZLD

(回収率 98%)

RO 89.4kW

CR 4.5kW

EVA 72kW

ELS1 63.4kW

ELS2 10.5kW

その他

(Injection pump, Chemical pump) 5.5kW

合計 245.35kW

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60

OPEX に含む

RO 膜交換費用

Crystallizer(晶析)

CAPEX : 0.13M$

OPEX(inlet100m3) : 0.087M$/MGD

消費電力(kW) : ブロワ、 1.5kW×1、65L/min×0.78MPa

リサイクルポンプ、1.5kW×1、200L/min×25m

スラリー、1.5kW×1、 150L/min×12m

その他 : ―

ELS1(電気分解)

CAPEX : 0.42M$

OPEX (inlet 100m3) : 0.038M$/MGD

消費電力(kW) : ELS1 フィードポンプ、1.5kW×1、520L/min×10m

ELS1 処理水ポンプ、0.4kW×1、200L/min×8m

ELS1 濃縮ポンプ、1.5kW×1、45L/min×20m

ELS1、60kW×1

電流効率 : 90%

処理量 : 25m3/h

膜面積 : 0.7m2

耐用年数 : 7-8 年

電力量 : 0.6kWh/ton

電源仕様 : 最大 DC10V

電流 : 最大 0.1A/cm2

その他 : OPEX に含む

膜交換費用

ELS2(電気分解)

CAPEX : 0.34M$

OPEX (inlet100m3) : 0.359M$/MGD

消費電力(kW) : ELS2 フィード、0.75kW×1

薬液注入ポンプ 1、0.4kW×1

薬液注入ポンプ 2、0.4kW×1

ELS2、9.0kW×1

電流効率 : 90%

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61

部材耐用年数 : 3-4 年

電源仕様 : 最大 DC10V

電流 : 最大 0.2A/cm2

その他 : OPEX に含む

電極交換

RO2nd (中圧)

CAPEX : 0.28M$

OPEX(inlet100m3) : 0.117M$/MGD

消費電力(kW) : フィードポンプ、3.7kW×1、520L/min×20m

RO2 nd高圧ポンプ、11kW×1、520L/min×200m

RO 膜型式 :TM720-400

RO 有効膜面積 :1998m2(54pcs)

その他 : CAPEX に含む

2 Unit

ベッセル(3m):9pcs/Unit

RO 膜:27pcs/unit

RO 膜総本数:54pcs

OPEX に含む

RO 膜交換費用

RO3rd(高圧)

CAPEX : 0.24M$

OPEX(inlet100m3) : 0.049M$/MGD

消費電力(kW) : フィードポンプ、2.2kW×1、130L/min×20m

RO3rd高圧ポンプ、11kW×1、130L/min×200m

RO 膜型式 :TM820C-400

RO 有効膜面積 :740m2(20pcs)

その他 : APEX に含む

2 Unit

ベッセル(2m):5pcs/Unit

RO 膜:10pcs/unit

RO 膜総本数:20pcs

OPEX に含む

RO 膜交換費用

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EVA(エバポレータ)

CAPEX : 1.34M$

OPEX(inlet100m3) : 0.700M$/MGD

消費電力(kW) : EVA、72kW

その他 : OPEX に含む

ゲル状態で 40 トン/月の廃棄物とした。

Other

CAPEX : 0.78M$

OPEX(inlet100m3) : 0.661M$/MGD

消費電力(kW) : 機械室電気代:<1kW

インジェクションポンプ、5.5kW×1、1650L/min×12m

その他 : CAPEX に含む

ケミカルポンプユニット

コントロールパネル

機械室

現場工事費用

輸送費

経費

OPEX に含む

カートリッジフィルター

水質分析費用

TOTAL

CAPEX : 4.26M$

OPEX(inlet100m3) : 2.268M$/MGD(0.53M$/year)

消費電力(kW) : 245.35kW(0.371M$/MGD)

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表 23 B'プランにおける RO 膜の選定と高圧ポンプのまとめ

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64

3-5 要約

B'プランの技術的特性を踏まえて、調査を行い採算性並びに処理水質について検討した。

具体的には HERO™プロセス(以下)との対比を行うため、利用されるアルカリや酸の濃

度、水量は、同プロセスで要求される総量を満たすことを前提に、ELS1 や ELS2 の能力、

同設備コストを試算した。

※ HERO™プロセス: イオン交換樹脂、脱ガス装置、高 pH 操作によるすべてのスケ

ール/ファウリング要因(硬度、アルカリ度、シリカ沈殿、有機ファウリング、バイ

オファウリング)を防止し、RO システム全体の回収率を最大化する技術

(1) 総括

図 30 に示す B'案の試算に基づく性能結果例を表 24、表 25 に示した。また、電気透析・

電気分解装置により生成された薬液の種類と濃度は表 26、表 27 に示した。今回プラン A、

プラン B、プラン C、プラン B'の 4 プランを本調査で検討した。そのフロー図は図 25 A

プラン概要、図 26 B プラン概要、図 27 C プラン概要、図 28 B’プラン概要、提案し

たプランの比較は3-3の表 19 提案したプランの比較に示した。

総括として、以下にまとめた。

① RO+CR 系における従来の薬液購入方式と電気分解装置(ELS1+ELS2)導入方式との

Capex、Opex の比較では、TDS が 500 以上、薬品価格が 400 円/kg 以上の地域では、回

収年数はほぼ 20 年となり、提案方式の採算性が確認された(薬品購入費>オンサイト

製造費)。

② B’プランでは処理水回収率の低下が懸念されるが、限定的な範囲では実現性が高い。

RO3rdを設置することで回収率は改善可能であり 97%以上の結果が望めた。

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65

図 30 B’プランのフロー図例

表 24 電力消費例

ELS1

ELS2

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66

表 25 物質収支例

表 26 主薬品として HCl と NaOH を ELS2 で生成した場合

薬品種類 HCL NaOH

濃 度 量(㎥/H) 濃度(mg/L) 質(TDS) 量(㎥/H) 濃度(mg/L) 質(TDS)

TDS250 1.8 169 3245 0.9 462 4135

TDS500 1.8 338 6490 0.9 1017 8270

TDS1000 1.8 676 12980 0.9 1848 16540

TDS1500 1.8 1014 19470 0.9 2772 24810

表 27 主薬品として NaOCl を ELS2 で生成した場合(参考)

薬品種類 NaOCl

濃 度 量(㎥/H) 濃度(mg/L) 質(TDS)

TDS250 2.7 861 3690

TDS500 2.7 1894 7380

TDS1000 2.7 3442 14760

TDS1500 2.7 5164 22140

※ 薬品の濃度については、ppm 表示であり質は TDS として不純物の多さで表示している。

※NaOH 並びに NaOCl は同時に生成する事も可能であるが、今回の計画では同時生成は行

わない。

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67

(2)B’プランを構成する主な装置

B’プランを構成する主な装置と役割を以下に述べる。

① RO:1 段目(RO1st)に低圧型(除去率:97%)、2 段目(RO2nd)に中圧型(除去率:

97%)、3 段目(RO3rd)に高圧型(除去率:99.5%)の各 1 台を用いて、イオン性物質

を分離し、清水を得る。1 段目の RO(RO1st)から得られる濃縮水から有価物を回収

する。必須の装置である。低圧で高い回収率での運転と膜面積が大きく効率よく処理

水量を確保できる市販品を選定する。

② 晶析:アルカリ添加により CaCO3を除去する(NaHCO3が生成)、原料水に依らず必

須の装置である。

③ ELS1:晶析反応を確実に進行させるためには高濃度のアルカリを生成する必要がある

が、RO1st濃縮水の塩濃度では不足する場合があり、本調査では、RO1st濃縮水をさらに

4 倍程度に濃縮する。必須の装置である。

④ ELS2:晶析反応を確実に進行させるためには高濃度のアルカリを生成、また、晶析後

の水質を適切な pH(8.5-9 程度)に維持するため、中和に利用する酸を生成する。

ELS2、RO 装置などの定期的な洗浄に利用する。過剰な薬品は他用途にて活用でき、

原料水の水質に依らずに必須の装置である。

表 28 構成装置の目的と効果

処理方法 処理目的

RO1st(低圧) 低圧 RO は TDS が 500mg/L 以下で利用し 1.0kWh/m3 の電気消

費量となる。

Crystallizer(晶析装

置)

炭酸塩と沈殿した二価カチオンイオンは低圧 RO を通して 3〜

4 倍高い濃度で過飽和となる。 晶析装置は、溶解度平衡におい

て CaCO3 の晶析を効果的に促進する。

ELS1(電気分解装

置)

RO 濃縮水から有効塩分を濃縮する電気分解装置。

ELS2(電気分解装

置)

塩水を用いて塩酸、水酸化ナトリウム、次亜塩素酸などを合成

する電気分解装置。合成された化学物質は、農業、灌漑用水、

工業用水および下水処理に使用することができる。

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68

RO2nd(中圧) 中圧 RO は TDS が 2000mg/L 以下で利用し、2.0~3.0kWh/m3 の

電気消費量となる。

RO3rd(高圧) 5.5MPa(800psi)の高耐圧性の RO 膜を利用する。98%の水回

収率を達成する。

図 31 B’プランのフロー図例

各ポイントの流量、濃度、物質量は、例えば A では、流量を VA(m3/h)濃度 CA

(g/m3=mg/L)、物質量 Q(g/h)と表記し、また、水に含まれる成分については、例えば A

ポイントでの Na イオンを特定する場合、VANa(m3/h)濃度 CA

Naと記載した。

Q = V × C

水量として、以下が成立する。

VG = VE-VF+VW

VZ =V B-VM+VH+VK

VF = VE-VG +(N 水の一部)

VN = 2VW/3

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69

VO = VW/3

CECa = CD

Ca/2 (試算 a,c における仮定)or CDCa/3 (試算 b における仮定)

E 水の F水としての分岐率は、晶析に必要となるアルカリ量 NaOH を、ELS2 にて作製

するために必要十分な量によって決定される。本調査での試算においてはこれを 1 とし

て、すべての E 水を F 水とした。

VE= VF

物質収支として以下が成立する。

QA = QB + QC

VA = VB + VC

VA×CA = VB×CB + VC×CC

電気分解において、膜を透過した物質の濃度は q 倍(1 価イオンの q = 3 - 5、Ca は 1.5

より小さい)となる。q は物質により異なる。

CY = q CX

一方、膜を透過しない物質の濃度はほとんど変化しない。

CW = CF

(3)概略処理フロー

B’プランにおける概略フローを以下に説明する。

① 晶析後の E 水の一部を pH8 以下まで下げるために酸性水を適量添加(pH 計にて調節)

し、ELS1 希釈室に供給する(F水)。

② F水の一部を分岐し、RO1st処理水で希釈し X 水とし ELS1 濃縮室に供給する。F水の一

部ではなく、生成した濃縮水を分岐して利用すると、病原菌が残留する RO1stの濃縮水

を用いないため安全である。ELS2S1 の希釈水には病原菌が残留する恐れがあるが、

RO2ndにて分離される。

③ ELS1 にて電気分解処理を施した濃縮室出口水を電気分解セル ELS2 に供給する。1/3 を

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70

カソード室(電気分解によりアルカリ性水を合成)、2/3 をアノード室(電気分解により

酸性水を合成)に供給する。これはアノード室の pH 低下におけるプロトンのカソード

室への移動(濃度分極、電気泳動に起因)を抑制するためである。プロトンの輸率はイ

オンの中では特異的に大きく、適切な分解率(33%)以下に保つことで、プロトンと水

酸イオンの再結合反応(中和反応)を避けることができる(これにより塩の分解率が 33%

程度にしか上げられない)。表 29、表 30 はイオン交換膜の情報である。

表 29 イオン交換膜電気分解における不純物の影響①39

39 ソーダ技術ハンドブック 2009、日本ソーダ工業会(2009)

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71

表 30 イオン交換膜電気分解における不純物の影響②

④ 電気分解室において、酸性水である N 水とアルカリ性水である O 水を生成する。Ca イ

オン濃度は 100mg/L 以下にする必要がある。硬度成分はカソード上にて析出するが、こ

れによる電気分解性能への影響はわずかである。電圧が上昇した場合に間欠的に酸性水

(アノード室にて生成させた酸性 N 水)で洗浄することで回復する。

⑤ 酸性 N 水は RO2nd水に供給する水の pH9 程度に低減させる分を供給する。これはシリ

カをイオン状に保ち、RO2ndでの除去率を向上させるためである。また、最終濃縮水の

pH を中性にする必要がある場合、RO1stの供給水の pH を調製する必要がある場合に利

用できる。

⑥ K 水は晶析前で RO1st濃縮 C 水と混合され D 水となる。(1)式により CaCO3が沈殿分離

される。反応を進行させるために L 水の pH は 10.3 以上が目標である。CaCO3の平衡反

応(1)式を完結するためには、D 水の水質として Na/Ca>1 とする必要がある。

⑦ 晶析にて分離され、分岐された E 水は CR 出口の pHは TDSの値に依らず、10.4 程度

と試算された。この pH では一部の CaCO3 は析出せず Ca イオンと重炭酸イオンとし

て存在し、SiO2はイオン化され、Mgイオンも沈殿しない範囲であり、RO2ndを閉塞す

ることはないが、ELS1 希釈水を混合した後、酸性の N 水により pH を 9 程度に調製す

る(RO2nd、RO3rdとしての適正範囲)。希釈水と E 水を混合し、RO2ndに供給する。

⑧ ELS2 では次亜塩素酸も生成できるが、本調査では主たる目的生成物ではないので、こ

こでは製造しないこととする。しかしながら、前後の水処理プロセスでの利用が期待さ

れる場合、ELS2 にて合成することはできる。アノード室の pH は 2 前後であり、遊離塩

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72

素として塩素ガスとしての発生が想定される。

(4)晶析における反応

晶析における Ca 分離反応に関与する物質を表 31 に列記した。CaCO3の析出は以下の平

衡式に基づいている。pH と存在イオン形態の関係を図 32 に示した。

Ca(HCO3)2 + NaOH = CaCO3↓+ NaHCO3 + 2H2O (1)

図 32 pH と炭酸系化合物の平衡関係図 表 31 溶解度

(5)ELS電気分解セル特性値の算定方法

①セル電圧

セル電圧 V は(2)式で表される.

V = V0 + Ση + ΣIR (2)

(V0 :酸化・還元反応の各平衡電極電位差および膜電位の和,Ση:各電極反応過電圧 η の

和,ΣIR:溶液,膜,電極基材抵抗による電圧損失 IR の和)

η は、本ケースでは電極材料にもよるが、アノード、カソードそれぞれ 0.3V、0.2V 程度

表:溶解度

物質名 溶解度(g/100g)

炭酸カルシウム 0.0015

炭酸水素カルシウム 16.6

水酸化カルシウム 172

塩化カルシウム 74.5

炭酸ナトリウム 21.5

炭酸水素ナトリウム 9.6

水酸化ナトリウム 109

塩化ナトリウム 35.9

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73

を推定する。基材抵抗は無視できるほど小さく、また膜電位も無視できる程度に小さいと推

定する。

導電率 σ(S/cm)は、RENO 分析結果では、塩化物イオン濃度が 15mg/L(0.015w/v%)、

TDS=250 にて 0.4mS/cm が得られており、他の異なる対象原水でも同様な関係が成立する。

σ = 18.1 × C (w / v%) (3)

300mg/L では、σ は 20 倍、抵抗率 ρ(Ωcm)は 20 分の 1 となる。ELS2S2 のセル電圧のう

ち、溶液抵抗電圧損失 VIR (V)は、電流密度 j (A/cm2)、電極間距離 d (cm)として、

VIR = j d ρ = j d /σ (4)

で表される。ここでは d は 0.2cm に固定する。これに隔膜による抵抗損失が加わるが、その

抵抗損失は溶液抵抗損失に比較して小さいとして考慮しないこととする。j は通常の工業電

気分解(食塩電気分解以外)の範囲 0.05~0.3A/cm2以内とし、定電流操作を行う。セル電圧

を 10V 以下にする必要がある。

水電気分解の理論分解電圧 V0 はアノード室、カソード室の pH を中性とすれば、室温に

て V0=1.23V であるが、実際は各溶液の pH はそれぞれ 2、12 程度となり、これを考慮す

ると、

V0=1.23 + 0.059×10 = 1.82V (5)

となる。これに過電圧 0.5V(簡単のために一定とする)が加わる。また、隔膜の抵抗損失

から求める電圧損失を加える。使用材料の腐食を抑制するために、セル電圧を 10V 以下に

する必要がある。

電気分解に必要な電流値は、ELS2S2 の入口濃度の 3 分の 1 が分解することを条件とした

(塩分解率 33%)。

②電流効率

目的物質の電流効率を Ce(%)とすると,電力原単位 Pc(Wh/g)は(5)式で表される.

Pc = 100 n F V / (3600 Ce M) (6)

(M:生成物質の分子量,n:電子数,F:Faraday 定数)

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電流効率は経済性の観点から重要であり,セル構造に大きく依存する特性である.また,

非電流効率分の副反応は,製品純度を低下させ,製品分離のための後処理が無視できない場

合もある。本ケースの電流効率は 90%、このときカソードでは塩分解率は 33%とする。

アノード側の液流量は 2 倍である、副反応がないとして電流効率はアノード室、カソード室

で同等であるとした。

(6)試算結果(ELS1+ELS2 の導入と薬液購入の比較、RO などの他システムは同等と仮

定)

本調査では総括に記載したように、RO+CR+EVA 系における従来の薬液購入方式と同系

に電気分解装置(ELS1+ELS2)を導入した方式との Capex、Opex の比較を行った。

① 価格算定の根拠

a. Capex について

Capex は流量に比例するとし、すなわち 1000m3/h は 100m3/h の 10 倍として算定した。

以下の結果では 100m3/h について記載した。

電極の必要な面積、電流値、ポンプ能力は晶析プロセスでの反応完結に必要な最小量の

NaOH を合成できる能力を選定した。

ELS2、ELS2 には付属機器、タンク、ポンプの設備費が含まれる。配管費、据付費が考

慮していない。

b. Opex について

電極の必要な面積、電流値、ポンプ能力は晶析プロセスでの反応完結に必要な最小量を

電気分解 ELS2 にて合成できることとして、運転条件を設計した。

ELS1+ELS2 を入れたときの導入メリットとしては、晶析プロセスの導入を前提として、

CaCO3除去のためのアルカリ購入費、ELS、RO2nd、RO3rdの原料水の pH 調製、電気分

解セルの定期洗浄に利用するための塩酸購入費である。それぞれの市販+輸送費は、使

用量に応じた価格単価をパラメータとして¥300~500/kg の範囲で算定した。ここでは

電気分解により合成した薬液がすべて有効に利用されるとする。次亜塩素酸について

は考慮していない。

晶析プロセスの導入を前提として、供給していた薬剤で濃縮乾固し、廃棄物処理されて

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75

いた塩分の増加がない(原料水水質のみを反映)メリットが期待される。ここではこの

メリットは考慮したが、メリットはわずかであった)。

② 調査に用いた原料水質

今回解析する対象水のパラメータ範囲は、設置が期待される地域の水質範囲とし、TDS

は 250、500、1000、1500、原水流量は、実機規模を想定して 100m3/h、300m3/h、500m3/h、

1000m3/h とした。

表 32 は調査した水質および試算対象とした水質と Na/Ca 比率を示した。SS-1 と SS-2 の

模擬液について主に試算検討した。

表 32 評価対象水の水質

③ 試算対象水質の選定

原料水の Na/Ca 比率と晶析装置入口での Na/Ca 比率 R との関係、解析範囲について検討

した。原料水の Na/Ca 比率が大きい場合、晶析装置入口での Na/Ca 比率も増加する。

B’プランでは、CR 出口水の多くを ELS1 に送り、ELS2 の希釈水を RO1st には戻さず、

RO2ndに供給する。このため RO1stの負荷が小さく(再処理プロセスがない)、RO2nd供給水

の水質には改善があり、安定稼働が期待できる、一方で、RO2nd水量は増加し、濃縮排水は

増加し RO2nd処理水が大きくなるため、RO2ndでの高効率の維持、あるいは RO3rdの導入が

重要といえる。

異なる Na/Ca 比率の原料水 A に対して、ELS1 での RO1st処理水利用量(解析用変数)を

パラメータとして CR における R(除去性能に相当)を求めた結果を図 33 に示した。上辺

に近いほど晶析における Ca 析出量が増加できる。Na/Ca 比率 0.8 以上であれば 50%以上の

Ca 析出を達成できることを示している。

以上より、原水 Na/Ca 比率は 1.33、1 とし、晶析における除去率を 0.5 および 0.67 となる

ように、プロセスの各装置の給水量、ELS1 での濃縮率をパラメータとして、上記の各流量、

TDS 値の原料水について算定した。

Water qualityRENO

Tap waterUS

InlandSNWSdata

Simulated Solution-1

Simulated Solution-2

Simulated Solution-3

Carollo AMTAdata

Na (mg/L) 20 90 89 40 40 40 39Cl (mg/L) 15 92 93 75 75 75 75Ca (mg/L) 10 68 76 30 40 67 113

Alkalinity (mg/L) 120 135 140 140 140 214Ratio of Na/Ca

in Source2.00 1.32 1.17 1.33 1.00 0.60 0.35

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76

図 33 原料水質に対する ELS1 の R 値の変化(データ表付)

a. Na/Ca 比率が 2 より大きいとき、晶析における Ca のほぼ完全な除去(R=1、但し飽和

溶解度分は除去できない)が達成され、かつ必要に応じて CR 以外に使用するアルカリ

も生成できる。Na/Ca 比率が 2 以上の原料水で本調査プロセスの利用は容易である。し

かしながら、このような原料水が得られる流域、浄水場の占める割合はわずかといえる。

b. Na/Ca 比率が 0.8~2 のとき、R=は 0.4~1 となり、晶析における Ca の半分以上の除去

が達成される。残量した溶解度分の Ca の一部は ELS1 および ELS2 カソードや隔膜に

おいて沈殿するが、ELS2 で生成した酸によって洗浄する。晶析装置における Ca の除

去効率を高めるほど(NaOH の高濃度化に相当)と、必要な電力、ELS1、ELS2 装置規

模が増加する傾向にある。ELS2 内での酸洗浄も考慮しつつ、最適なシステム稼働条件

を確認する必要がある。

c. Na/Ca 比率が 0.8 以下では R=0.4 以下であり、CR における Ca 分離が半分以下にとどま

る。晶析装置を導入したメリットが小さく、本調査プロセスは適用できないといえる。

④ ELS1 濃縮室における濃縮率(出口濃度/入口濃度)

図 34 に、ELS1 濃縮率に対する RO1st 処理水利用量を示した。濃縮率を高めることで利

用量を低減できる。一方、図 35 に示したように、濃縮された水、すなわち、ELS2 原料水

の Ca 濃度の増加が顕著であり、ELS2S2 への負荷が大きくなる。これらの傾向を考慮して、

本調査では濃縮率を 5~8 倍として算定した。ELS2 に供給する Ca 濃度は 100mg/L 以下に維

持するように設定することを目標とした。

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77

図 34 ELS1 濃縮室における濃縮率に対する RO1st処理水利用量の関係

図 35 ELS1 濃縮室における濃縮率に対する RO1st処理水利用量と Ca 濃度の関係

0

5

10

15

20

25

0 20 40 60 80

Na/Ca ratio in source water A

0.8

1.0

1.3R

O1

tre

ate

d w

ate

r M (

m3/

h)

Condensation ratio from water X to Y in ELS1

0

50

100

150

200

250

300

350

400

0 20 40 60 80

Na/Ca ratio in source water A

0.8

1.0

1.3

Co

nd

en

sed

Ca

con

c. in

Y (

g/m

3)

Condensation ratio from water X to Y in ELS1

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78

結果

a. Na/Ca 比率 1.33(SS-1)の場合 CR 分離率 50%

模擬液 Simulated solution-1(SS-1)では Alkalinity を 140 としたが、CR 入口において ELS2

からのアルカリ性溶液(NaOH と Na2CO3)と混合することで、Na/Ca 比率は 1.33 から約 2

程度まで増加する。ここでの比率は、ELS2 からのアルカリに含まれる重炭酸イオンからの

Na イオンを含まない値、すなわち、原水での比率として定義した。すなわち、(3)⑦の重

炭酸イオンの溶液内反応は考慮せずに試算した。

表 33 に ELS2 電流密度に対する消費電力の変化を示した。ELS2 の電流密度に依存し大

きいほど電圧が増加した。但し全体の電力消費の中では ELS1 の電力消費に比較して小さ

い。

表 33 Na/Ca 比率 1.33(SS-1)、CR50%分解での ELS 電力消費の電流密度依存性の試算結果

表 34 に原料水の TDS を変数としたときの、ELS1 および ELS2 の消費電力(A)および

料金、それらの消耗品費(C)の合計(D)と、生成する薬品の購入費(塩酸+水酸化ナト

リウム+炭酸ナトリウム)合計(E)を Opex と記載した。また、オンサイト装置の導入価

格の合計(G)と導入によるメリット(E)-(D)を基に装置の回収期間として算定した。

図 36 に消費電力の結果を示した。TDS の増加に伴い、消費電力は単純に増加し、処理水

量当たりの消費電力は 1 つの直線で表された(図 37)。Capex(図 38)について、TDS の

増加に伴い単純に増加し、回収期間については薬品単価 300 円~500 円の範囲でパラメータ

として示した(図 39)。

TDS の増加に伴い単純に増加し、回収期間について、TDS が小さい範囲ではメリットが

得られなかったが、薬品単価 400 円、TDS=500 で 28.1 年、TDS=1,500 で 12.5 年と試算され、

P C 10 10 10 \/kW h

EL total current 1,911 1,911 1,911 A

EL C .D . 500 1,000 2,000 A /m 2

EL A rea 3.82 1.91 0.96 m 2

R esistivity of w ater Y 368 368 368 O hm cm

IR drop 3.7 7.4 14.7 V

C ell voltage 5.9 9.6 16.9 V

ELS2 pow er consum ption 11.2 18.3 32.3 kW

ELS1 pow er consum ption 54.7 54.7 54.7 kW

Total pow er consum ption 66 73 87 kW

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TDS の大きい範囲で採算性が向上することが示された。

表 34 Na/Ca 比率 1.33(SS-1)、CR50%分解での試算結果

(薬品代 400 円ベース、電力代 10 円/kWh)

図 36 消費電力の TDS 依存性

TD S m g/L 250 500 1000 1500

ELS1電力(100m 3/h) kW 21.3 42.6 85.1 127.5

ELS2電力(100m 3/h) kW 21.5 22.8 25.7 28.6

合計(100m 3/h) kW 42.8 65.4 110.8 156.2

電力費(A) \/year 3,752,758 5,729,887 9,702,307 13678762.5

ELS1消耗品費(B) \/year 17,792 35,487 70,877 106,268

ELS2消耗品費(C) \/year 45,291 89,955 179,284 268,613

経費合計(D = A+B+C) \/year 3,815,840 5,855,329 9,952,469 14,053,643

薬品購入費(E) \/year 4,424,347 8,808,051 17,575,458 26,342,865導入メリット \/year 4,476,907 8,913,171 17,785,698 26,658,225

購入費-経費 (E)-(D ) \/year 661,068 3,057,842 7,833,229 12,604,582

ELSのCapex(G ) ¥ 68,116,251 85,982,070 121,713,709 157,445,347

ELSの回収期間 year 103.0 28.1 15.5 12.5

0

200

400

600

800

1,000

1,200

1,400

1,600

1,800

0 500 1000 1500 2000

TDS (mg/L)

PC

(kW

)

Volume rate

1,000 m3/h

500 m3/h

300 m3/h

100 m3/h

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80

図 37 単位処理量に要する消費電力の TDS 依存性

図 38 Capex の TDS 依存性

0.0

0.2

0.4

0.6

0.8

1.0

1.2

1.4

1.6

1.8

0 500 1000 1500 2000

TDS (mg/L)

kWh

/m3

0.0

2.0

4.0

6.0

8.0

10.0

12.0

14.0

16.0

18.0

0 500 1000 1500 2000

TDS (mg/L)

Cap

ex (億円

)

Volume rate1,000 m3/h

500 m3/h

300 m3/h

100 m3/h

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81

図 39 回収期間の TDS 依存性

0

20

40

60

80

100

120

0 500 1000 1500 2000

Chemical PRICE300 ¥/kg400 ¥/kg500 y¥kg

回収期間(年)

TDS (mg/L)

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82

b. Na/Ca 比率 1.33(SS-1)の場合 CR 分離率 67%

表 35 に TDS ごとに消費電力、消耗品費を Opex として ELS2+ELS1 購入装置の回収期間

を算定した。

図 40 に消費電力の結果を示した。TDS の増加に伴い、消費電力は単純に増加し、処理水

量当たりの消費電力は 1 つの直線で表された(図 41)。

Capex(図 42)について、TDS の増加に伴い単純に増加し、回収期間については薬品単価

300 円~500 円の範囲でパラメータとして示した(図 43)。薬品単価 400 円、TDS=500 で

13.8 年、TDS=1,500 で 9 年であり採算性が向上することが示された。

表 35 Na/Ca 比率 1.33(SS-1)、CR67%分解での試算結果

(薬品代 400 円ベース、電力代 10 円/kWh)

図 40 消費電力の TDS 依存性

TD S m g/L 250 500 1000 1500

ELS1電力(100m 3/h) kW 33.0 65.7 131.7 197.4

ELS2電力(100m 3/h) kW 14.6 17.1 22.5 27.8

合計(100m 3/h) kW 47.6 82.9 154.3 225.2

電力費 円/年 4,168,564 7,260,491 13,512,773 19,729,245

ELS1消耗品費 円/年 27,490 54,780 109,765 164,482

ELS2消耗品費 円/年 81,338 161,391 323,718 484,926

経費合計 円/年 4,277,392 7,476,661 13,946,256 20,378,653

薬品購入費(E) 円/年 7,947,854 15,791,366 31,685,259 47,485,594

購入費-経費 (E)-(D ) 円/年 3,670,462 8,314,705 17,739,003 27,106,941

ELSのCapex(G ) 円 82,535,364 114,556,223 179,487,356 243,970,433

ELSの回収期間 年 22.5 13.8 10.1 9.0

0

500

1,000

1,500

2,000

2,500

0 500 1000 1500 2000

TDS (mg/L)

PC

(kW

)

Volume rate

1,000 m3/h

500 m3/h

300 m3/h

100 m3/h

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83

図 41 単位処理量に要する消費電力の TDS 依存性

図 42 Capex の TDS 依存性

0.0

0.5

1.0

1.5

2.0

2.5

0 500 1000 1500 2000

TDS (mg/L)

kWh

/m3

0.0

5.0

10.0

15.0

20.0

25.0

30.0

0 500 1000 1500 2000

TDS (mg/L)

Cap

ex (億円

)

Volume rate

1,000 m3/h

500 m3/h

300 m3/h

100 m3/h

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84

図 43 回収期間の TDS 依存性

0

5

10

15

20

25

30

35

40

45

50

0 500 1000 1500 2000

Chemical PRICE300 ¥/kg

400 ¥/kg500 y¥kg

回収期間(年)

TDS (mg/L)

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85

c. Na/Ca 比率 1(SS-2)の場合 CR 分離率 50%

表 36 に TDS ごとに消費電力、消耗品費を Opex として ELS2+ELS1 購入装置の回収期間

を算定した。別添表 12 に ELS2 電流密度に対する採算性を検討した。

図 44 に消費電力の結果を示した。TDS の増加に伴い、消費電力は単純に増加し、処理水

量当たりの消費電力は 1 つの直線で表された(図 45)。Capex(図 46)について、TDS の

増加に伴い単純に増加し、回収期間については薬品単価 300 円~500 円の範囲でパラメータ

として示した(図 47)。薬品単価 400 円、TDS=500 で 21.5 年、TDS=1,500 で 10.8 年であり

採算性が向上することが示された。

表 36 Na/Ca 比率 1(SS-2)、CR50%分解での試算結果

(薬品代 400 円ベース、電力代 10 円/kWh)

図 44 消費電力の TDS 依存性

TD S m g/L 250 500 1000 1500

ELS1電力(100m 3/h) kW 27.0 54.7 107.6 161.3

ELS2電力(100m 3/h) kW 29.8 32.3 35.6 39.7

合計(100m 3/h) kW 56.8 87.0 143.2 200.9

電力費(A) \/year 4,975,025 7,622,467 12,542,531 17,601,558

ELS1消耗品費(B) \/year 22,508 45,575 89,631 134,379

ELS2消耗品費(C) \/year 62,768 127,391 248,462 372,258

経費合計(D = A+B+C) \/year 5,060,302 7,795,433 12,880,624 18,108,195

薬品購入費(E) \/year 6,137,771 12,486,122 24,381,599 36,544,152

購入費-経費 (E)-(D ) \/year 1,077,469 4,690,689 11,500,975 18,435,956

ELSのCapex(G ) ¥ 75,107,277 100,956,401 149,384,813 198,903,171

ELSの回収期間 year 69.7 21.5 13.0 10.8

0

500

1,000

1,500

2,000

2,500

0 500 1000 1500 2000

TDS (mg/L)

PC

(kW

)

Volume rate1,000 m3/h

500 m3/h

300 m3/h

100 m3/h

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86

図 45 単位処理量に要する消費電力の TDS 依存性

図 46 Capex の TDS 依存性

0.0

0.5

1.0

1.5

2.0

2.5

0 500 1000 1500 2000

TDS (mg/L)

kWh

/m3

0.0

5.0

10.0

15.0

20.0

25.0

0 500 1000 1500 2000

TDS (mg/L)

Cap

ex (億円

)

Volume rate

1,000 m3/h

500 m3/h

300 m3/h

100 m3/h

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87

図 47 回収期間の TDS 依存性

0

10

20

30

40

50

60

70

0 500 1000 1500 2000

Chemical PRICE300 ¥/kg400 ¥/kg

500 y¥kg回収期間(年)

TDS (mg/L)

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88

⑤ 試算結果の総括

a. 回収年数 は ELS2 の電流密度に依存し、大きいほど回収年数が減少し、0.05A/cm2から

0.2A/cm2の 4 倍にすると、回収年数がほぼ半減(20 年から 10 年程度)する。

b. TDS が大きいほど電力消費、原単位(m3あたりの処理費)が増加した。TDS500 で 0.6

~1kWh/m3、1500 で 2~3kWh/m3であった。

c. Capex は TDS の増加に伴い単調に増加した。TDS500 で 0.6~0.8 億円、1500 で 1.0~1.4

億円であった。

d. Opex のうち、ELS1 の電力は TDS に従い増加する一方、ELS2 の電力消費は TDS に対

してあまり大きく増加しない。これは原料塩濃度が大きいほど、電気分解における抵抗

損失が小さくなり、セル電圧が低減されるためである。

e. Opex における ELS1+ELS2 の電力消費に占める割合は大きいが、導入メリットがある。

f. 回収年数 は TDS が大きいほど短縮される。有価物である薬品の製造量が増加するため

である。TDS500 で、14~28 年、TDS1500 で 8~12 年で回収できる。

g. 回収期間は、薬品価格、蒸発処理費、廃棄物処理費によって変動するため、設置地域ご

との現地価格を把握する必要がある。

h. 原水水質で Na/Ca 比率が大きいほど、Capex は増加するが、回収年数は減少する(⑤-a

と⑤-c の対比)

i. CR での Ca 除去率が大きいほど、Capex は増加するか、回収年数は減少する(⑤-a と⑤

-b の対比)。

j. 薬品組成は Ca イオンを 100mg/L 程度含む以外には多価イオンをほとんど含まない酸

およびアルカリである。TDS 濃度の増加に伴い高濃度の薬品が生成され、100m3/h にお

ける薬品は、TDS の 500 から 1,500 の範囲で、NaOH 濃度:0.9g/L~2.8g/L、量:0.9kg/h

~2.6kg/h、HCl 濃度:0.3g/L~1.0g/L、量:0.8kg/h~2.3kg/h である。オンサイト生成薬

品は低濃度であるから法規制はなく、これは高濃度な購入薬品との大きな違いであり

メリットである(UNR の指摘)。

k. CR における CaCO3の析出量は 4kg/h~11kg/h の範囲である。

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89

4.ビジネスモデルの設定及び事業規模等の算出

4-1 事業規模

本事業は、「4-3 ビジネスモデルの検討」において示すように、フェーズ 2(2020 年

~)における実証事業を経て、フェーズ 3(2021 年~)以降の商用化を目指すものである。

実証事業、商用事業それぞれの事業規模は以下の通り評価される。

原水流量は実証事業の場合に 100 m3/h、商用事業の場合に 1,000 m3/h を単位ユニットとし

た大規模化を想定しており、スケールメリットの効果がみられる。

表 37 本事業の規模

事業フェーズ 原水流量 CAPEX

(million USD)

OPEX

(million USD/MGD)

実証事業 100 m3/h(約 0.634 MGD) 4.26 2.639

商用事業 1,000 m3/h(約 6.34 MGD) 35.55 2.615

4-2 コスト比較

IPR のコスト比較の研究事例を以下に示す。これが上記「4-1 事業規模」と比較した

場合に、妥当性を判断する材料のひとつとなる。

① CAPEX

商業ベース(20 MGD)での米国における試算が以下のようになされている。また規模に

応じてスケールメリットが効いてくると想定されている。

コストだけで判断すればオゾン+BAC 処理が有利だが、TDS(総溶解固形分:total dissolved

solids)の除去の課題があり、必ずしも本案件の実施を想定するネバダ州北部で適用できる

とは限らない。それは現在同地において実証中の結果と比較のうえ判断されることとなる。

また、RO 膜処理を適用する場合でも、ネバダ州においては海洋投棄が困難であり、その場

合には蒸発器(evaporator)を適用することが前提となる。

表 38 CAPEX 比較(20 MGD)40

処理方法 コスト(million USD) 本案件の

適用可能性

オゾン+BAC 91 △

RO 濃縮排水処理:海洋投棄 120 ×

40 EPA “2017 Potable Reuse Compendium” (2017)

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90

濃縮排水処理:蒸発器(mechanical) 172 ○

濃縮排水処理:蒸発器(ponds) 303 △

図 48 CAPEX(GAC:粒状活性炭ろ過、RO ブライン海洋投棄、蒸発器 2 パターン)

(※赤点線は表 38 に対応)41

一方、本案件において評価した CAPEX は 6.34 MGD において 35.55 million USD であり、

ラフな比較においては他の処理方法と比肩しうる。

図 49 CAPEX(GAC:粒状活性炭ろ過、RO ブライン海洋投棄、蒸発器 2 パターン)

(※赤線は本案件)42

41 Schimmoller, L; Kealy, M.J.: Fit for Purpose Water: The Cost of Over‐treating Reclaimed Water (WRRF 10‐01). The Water Research Foundation (formerly the WateReuse Research Foundation): Denver, CO, 2014. 42 Schimmoller, L; Kealy, M.J.: Fit for Purpose Water: The Cost of Over‐treating Reclaimed Water (WRRF 10‐01). The Water Research Foundation (formerly the WateReuse Research Foundation): Denver, CO, 2014.

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91

② OPEX

商業ベース(20 MGD)での米国における試算が以下のようになされている。また規模に

応じてスケールメリットが効いてくると想定されている。ネバダ州北部において適用可能

かどうかについては、CAPEX と同様の制約がある。

表 39 OPEX 比較(20 MGD)43

処理方法 コスト(million USD/y) 本案件の

適用可能性

オゾン+BAC 4.2 △

RO 濃縮排水処理:海洋投棄 5.9 ×

濃縮排水処理:蒸発器(mechanical) 10.9 ○

濃縮排水処理:蒸発器(ponds) 6.3 △

図 50 OPEX(GAC:粒状活性炭ろ過、RO ブライン海洋投棄、蒸発器 2 パターン)

(※赤点線は表 39 に対応)44

一方、本案件において評価した OPEX は 6.34 MGD において 16.58 million USD(6.34 MGD

×2.615 million USD/MGD)であり、他の処理方法に比べて高コストとなる。

43 EPA “2017 Potable Reuse Compendium” (2017) 44 Schimmoller, L; Kealy, M.J.: Fit for Purpose Water: The Cost of Over‐treating Reclaimed Water (WRRF 10‐01). The Water Research Foundation (formerly the WateReuse Research Foundation): Denver, CO, 2014.

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92

図 51 OPEX(GAC:粒状活性炭ろ過、RO ブライン海洋投棄、蒸発器 2 パターン)

(※赤線は本案件)45

なお、RO 濃縮排水の処理コストについては、以下のように評価されている。本案件では

蒸発器の適用を想定する。

表 40 RO 濃縮排水の方法別コスト比較46

処理方法 コスト(USD/kgal)

本案件の

適用可能性

備考

地下深層圧入 0.21 × 水文学的な考慮、高圧ポンプが

必要

海洋投棄 0.35 × 海域への距離および既存の投棄

制度が必要

最終処分場 0.35 △ 濃縮排水が一定程度低濃度であ

り、十分な処分場面積が必要

蒸発器(ponds) 0.48 ○ 十分な池面積が必要であり、有

害廃棄物の処分場が必要

Zero Liquid Discharge

(ZLD)

2.38 比較検討 ZLD の技術による

45 Schimmoller, L; Kealy, M.J.: Fit for Purpose Water: The Cost of Over‐treating Reclaimed Water (WRRF 10‐01). The Water Research Foundation (formerly the WateReuse Research Foundation): Denver, CO, 2014. 46 EPA “2017 Potable Reuse Compendium” (2017)

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93

4-3 ビジネスモデルの検討

本案件のユニークな技術側面は、RO 膜を用いた物理化学的な脱塩プロセスと電気分解を

用いた電気化学的な分離合成技術による相乗効果を期待できる点である。

現有する技術の単なる組み合わせにとどまらず、電気化学技術によってもたらされる希

釈水および濃縮水を適宜活用することによって、RO 膜による高回収率運転が実現でき、従

来の回収率を改善し、RO 濃縮水の更なる減容化に貢献する。

また、処理プロセスに必須な薬品の生成を RO 濃縮水の化学組成に着目して、オンサイト

で実施する点も特長である。

これらの技術および派生する技術群には新規性を見出せることから、まずは、参加企業及

び協力企業によって知的財産権を日本、米国、将来普及を見込める諸国において取得するこ

とを優先させる。

以下にビジネス化に向けたシナリオを示す。

表 41 ビジネス形成に向けたフェーズ毎アクション

フェーズ 主なアクション

フェーズ 1

2019~

技術基礎調査

特許出願(国内、海外)

公知化(学会発表、論文発表など)

フェーズ 2

2020~

米国パートナー、エンドユーザ等と連携した実証によるショーケース

フェーズ 3

2021~

実証の継続

現地化に向けた認証、認定の取得

提案書の作成

◎ フェーズ 1(2019 年~)

技術コンセプトのうち新規性及びその適用可能性を追求し、基礎情報を整理の上、知的財

産権の取得から着手する。これは、米国における特定企業や研究機関等との協業や共同研究

前に、パートナーによる侵害や紛争を避けるため、背景技術として特許権を取得することを

目的とする。

これは、特許として情報公開後に後続の類似研究との競争による侵害リスクや、特許の維

持コストを想定しており、出願後に積極的な学会発表や論文発表によって技術を公知化さ

せる策も他社による特許取得のリスクを避ける上で有効である。

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94

このように、本調査を通じて整理できた技術情報に基づき、知的財産戦略の下、基礎調査

及び権利化対応を展開する。

◎ フェーズ 2(2020 年~)

米国側パートナーとの協業を画策するが、主にパートナー企業やエンドユーザへの提案

技術の認知や浸透を図る目的で、パイロット実証によるショーケース化を狙う。

その際、パートナー戦略と知的財産戦略については以下のように想定する。

表 42 実施内容別のパートナー候補とビジネス戦略

実施内容 パートナー候補とビジネス戦略

特許技術をコアとした展開 製造系エンジニアリング企業(例:H2O Innovation、

Saltworks Technologies、Aquatech)と、技術の現地化

を図るため、実証による性能確認や検証を行う。

特許ロイヤリティー、OEM 生産、商材の提供(現地

製作もしくは本邦輸出)を狙う。

出願、公知化による技術の浸

上記製造系エンジニアリング企業、あるいは、設計

や EPC を請負うエンジニアリング企業(例:CDM

Smith、Black & Beach、Arcadis、Carollo Engineers)と

協力し、実証・ショーケース化を図る。

第三者(例:大学、研究機関、事業体)と共同でパイ

ロットスケールでの長期間運転を行い、それを通じ

て性能評価、技術仕様を整理する。

ノウハウ秘蔵 上記製造系エンジニアリング企業との連携を強化す

る。

ロイヤリティー、OEM 生産、商材の提供(現地製作

あるいは本邦輸出)を狙う。

◎ フェーズ 3(2021 年~)

エンドユーザが要求する認証や、エンドユーザより委託を受けたエンジニアリング企業

が要求する仕様情報を獲得する。

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95

5.ファイナンスの検討および経済性評価

○ 経済性評価

「3.提案システムの考案と優位性の確認」における検討により、本事業の事業規模

(CAPEX、OPEX)は以下の通り試算される。

表 43 本事業の規模

前提条件 処理規模: 100 m3/h

原水の TDS: 500 mg/L

CAPEX 4.6 million USD

OPEX 0.600 USD/m3 (2.639 million USD/MGD)

これを含め、現実的な設定幅として、原水の Na/Ca 比率(1.33 または 1.0)、晶析装置(CR)

での分離率(50%または 67%)、原水の TDS(500 または 1,500)を組み合わせ、試算した投

資回収年は以下の通りである。

表 44 投資回収年

シナリオ 原水の条件 投資回収年 感度分析

① Na/Ca 比率=1.33

CR 分離率=50%

TDS=500 28.1 年 図 52

TDS=1,500 12.5 年

② Na/Ca 比率=1.33

CR 分離率=67%

TDS=500 13.8 年 図 53

TDS=1,500 9.0 年

③ Na/Ca 比率=1

CR 分離率=50%

TDS=500 21.5 年 図 54

TDS=1,500 10.8 年

図 52 回収期間の TDS 依

存性(シナリオ①)

図 53 回収期間の TDS 依

存性(シナリオ②)

図 54 回収期間の TDS 依

存性(シナリオ③)

0

20

40

60

80

100

120

0 500 1000 1500 2000

Chemical PRICE300 ¥/kg400 ¥/kg500 y¥kg

回収期間(年)

TDS (mg/L)

0

5

10

15

20

25

30

35

40

45

50

0 500 1000 1500 2000

Chemical PRICE300 ¥/kg

400 ¥/kg500 y¥kg

回収期間(年)

TDS (mg/L)

0

10

20

30

40

50

60

70

0 500 1000 1500 2000

Chemical PRICE300 ¥/kg400 ¥/kg

500 y¥kg

回収期間(年)

TDS (mg/L)

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96

実証事業の設備所有者・運用者として想定する UNR(ネバダ大学リノ校)・NWII(Nevada

Water Innovation Institute)は、本件の経済性について以下のようにコメントしている(「11.

報告会の実施」参照)。

Capex については「Competitive」(検討の範囲内)であり、好意的に評価する。

Opex については、やや高いかもしれない。しかし、DPR 相当の水質を得ることを前

提として考えるのであれば、他のプロセスで同等の水質を得るために各種処理費用

が別途かかることを考慮すると、悪くはない可能性がある。

重要なパラメータについて Capex、Opex の感度分析があると良いだろう。

投資回収が 10 年であれば経済的と考えてよい。

また、原水の水質については明らかな計測値がないものの、TDS が高く、オゾン+BAC

処理では低減できず帯水層内で逆に増えてしまう可能性を示唆している。すなわち、上記評

価において TDS=1,500 も可能性のある幅の中にあると推測される。

この場合、投資回収年は 9.0~12.5 年となり、米国側にとって経済的と評価される範囲内

に入る。

○ ファイナンス

上の経済性評価では、資金調達の手段を考慮せず(Debt Equity Ratio、金利、融資期間等)、

単純な投資回収年計算を行っている。

そのため、フェーズ 2 のショーケース化段階・実証段階(「4-3 ビジネスモデルの検

討」参照)においては、グラントや長期低利融資等の日米政府の支援策(「6.政策支援等

の活用の検討」参照)の活用を検討し、経済性評価を精緻に行う検討が必要となる。

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97

6.政策支援等の活用の検討

6-1 米国政府の支援策活用

◎ 連邦政府

米国内務省開拓局(Bureau of Reclamation)は、米国内で広域かつ深刻化する干ばつ、人

口増、老朽化する社会インフラといった水資源の持続的な水利用を律速する要因を勘案し、

これらの問題解決に有効な技術を扱った実証を支援している。

近年の支援事業例においては、「WaterSMART」がキーワードとして掲げられ、水需要に

対する供給が逼迫した水ストレスの強い地域において「流域の持続的な水資源管理」、「干ば

つ地域で有効な対応技術」、「水及びエネルギー効率の向上」の分野で、地方水道事業者また

は灌漑水供給事業者を対象とした技術実証を取り扱っている。

いずれも公募テーマ毎に財政支援が実施されており、予算規模は 1 件当たり 5 万~100 万

ドルとし、単年~3 年以内の事業履行を対象としている。また、支援予算額が 30 万ドル以

上の場合には、連邦政府からの財政支援額の 50%相当を、申請者独自による資金拠出(マッ

チングコスト)あるいは相当の貢献を要求している。同局の現在の公募では総額 24 百万ド

ルの予算を掲げており、1 件当たり 30 万ドル、3 年を最長に最大で 150 万ドルまでの複数

年事業への拠出を準備している47。

また、同局は、水ストレスを著しく強めているカリフォルニア州の水事業者を対象として、

代表的な水再生事業への財政支援プログラムを 2019 年に実施する予定であり、その支援事

業は 6 事業者、実績は総額 35.3 百万ドルとなっている(以下に支援事業者、概要、支援額

を示す)。

表 45 米国内務省開拓局によるカリフォルニア州水事業者の支援実績

申請事業者 概要 支援額

(ドル)

City of Escondido RO 膜を用いた再生水技術の開発 5,000,000

City of San Diego 同市「 Pure Water San Diego Program」の推進 9,000,000

City of San Jose 「South Bay Water Recycling Phase 1B」事業に

おける基幹インフラの改修

2,545,471

Elsinore Valley

Municipal Water District 「Horsethief Canyon Wastewater Reclamation

Facility」の拡張及び更新

2,693,455

Hi-Desert Water District 「Hi-Desert Water District, Wastewater Treatment

and Reclamation」の支援

8,668,500

47 米国内務省開拓局 https://www.usbr.gov/newsroom/newsrelease/detail.cfm?RecordID=64444

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98

申請事業者 概要 支援額

(ドル)

Padre Dam Municipal

Water District 「Padre Dam Municipal Water District, East

County Advanced Water Purification Program」の

支援

7,392,351

◎ カリフォルニア州

カリフォルニア州は Water Recycling Funding Program (WRFP)を運用しており、飲料水確保

に向けた下水や再生水処理に関連した研究開発や事業支援を水事業者向けに実施している。

同プログラムは、The Clean Water State Revolving Fund (CWSRF)と連携し、百万~100 百万ド

ルの事業に対して低金利 1%でのローンを供与している。2019 年 2 月までに、水事業者によ

る再生水に関わる 36 事業への支援の契約が締結されており、CWSRF から総額 1,203 百万ド

ルが供与されている48。

また、WRFP は、水事業者による再生水の飲用化に寄与する新技術を用いた実証に対して

も支援プログラムを運用しており、導入建設コストの 35%、最大百万ドルまでの負担を認

めている49。

これらの支援プログラムは、公共水事業者を支援の対象としているが、新技術の導入が可

能な事業領域や、同領域のコア技術を保有する民間企業との連携に積極的である。

カリフォルニア州オレンジ郡水道局(Orange County Water District)は、高度に処理を施し

た再生水を地下水涵養に活用しているため再生水プラントを運営しているが、将来の拡張

や処理効率のさらなる向上に寄与する技術に対して積極的な研究や実証を展開しており、

民間企業や大学との実証事業 10 件以上を実施している。

◎ ネバダ州

ネバダ州は、知事室経済局(Nevada Governor’s Office of Economic Development)管轄の NPO

法人である WaterStart によって、民間企業による同州水分野に寄与する技術開発の支援や、

同州の水ビジネスへの民間参入を促す支援を行っている。

WaterStart は、安全な水へのアクセスにおいて優先度の高い技術(漏水検知、迅速水質モ

ニタリング、健康阻害物質の低減、高耐久性素材による配管素材など)を掲げ、関連技術を

48 California Control Boards https://www.waterboards.ca.gov/water_issues/programs/grants_loans/water_recycling/docs/1percent_wrd_projects.pd

f 49 California Control Boards

https://www.waterboards.ca.gov/water_issues/programs/grants_loans/water_recycling/water_recycling_funding_prog

ram.html

Page 101: RO 濃縮水の減容化調査) - METIト化されたRO 濃縮排泥の処理コストの潜在的な可能性を評価した。 (c) エネルギー起源CO2 の排出抑制効果

99

保有する民間企業による提案から技術・企業を選定し、10 万ドルまでの活動資金を提供し

ている50。

以下に、連邦政府等による政策支援プログラムを示す。これらを活用した実証事業や、提

案技術の浸透を狙ったショーケース化を実施することが検討できる。

表 46 政府による政策支援プログラム

予算源 プログラム 金額

USEPA Water Infrastructure

Finance Iinnovation Act

(WIFIA)

事業コストの 49%までの長期融資(35 年間)。

20 million USD:大規模自治体に対する最低額

5 million USD 小規模自治体に対する最低額

(人口 25,000 人以下)

USDA Rural Utilities

Service

Water & Waste Disposal

Loan & Grant Program

人口、貧困人口、都市以外の雇用人口を 2:1:1 で重

み付けして評価し、融資・グラントを供与。

USDA Rural Utilities

Service

Individual Water and

Wastewater Grants

家庭に対し水道サービスを受けられるようグラ

ントを供与。

上水等: 最大 3,500 USD

下水等: 最大 4,000 USD

合計: 最大 5,000 USD

Bureau of Reclamation Cooperative Watershed

Management Program:

Phase II

地域の水域に対し水処理事業に 2 年間で最大

100,000 USD を供与。受け手にも 50%以上のマッ

チング予算が必要。

Bureau of Reclamation Cooperative Watershed

Management Program:

Phase I

地域の水域に対し水処理事業に 2 年間で最大

50,000 USD を供与。受け手のマッチング予算は不

要。

Bureau of Reclamation WaterSMART Drought

Response Program:

Drought Resiliency

Projects

上水事業等に資金供与。

2 年以内の完工: 最大 300,000 USD

3 年以内の完工: 最大 750,000 USD

受け手は 50%以上の連邦以外のマッチング予算

を準備する必要。

Bureau of Reclamation WaterSMART Drought

Response Program:

Drought Contingency

Planning

下水事業に対する資金供与。

50 WaterStart https://waterstart.com/work-with-us/rfps/

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100

Bureau of Reclamation WaterSMART Grants:

Water and Energy

Efficiency Grants

最大 1 million USD 規模の下水事業に対する最大

300,000 USD の資金供与。受け手は 50%以上の連

邦以外のマッチング予算を準備する必要。

Bureau of Reclamation Title XVI Water

Reclamation & Reuse

Program

米国西部州・ハワイ州における再生水事業の F/S

および調査に対し資金供与。

2017 年実績

計画・設計・建設(6 事業)に対し、合計

20,980,129 USD が供与された。

新規再生水事業の F/S(13 事業)に対し、合

計 1,791,561 USD が供与された。

再生水市場の確立・拡大、既存の再生水施設

の改善・拡張、新規設備への水処理技術の適

用の調査(4 事業)に対し、合計 847,701 USD

が供与された。

CoBank Rural Water and

Wastewater Lending

連邦貸出機関による地域の水関連事業に対する

融資。500,000 USD 超。

Bureau of Reclamation Water Purification

Research Program

コスト削減・エネルギー消費削減・未利用水の低

減により上水供給を増やすことを目的として、再

生水事業の調査に資金を供与。

The Water Research

Foundation

Private (subscribers)

and other funding (state

and federal)

水部門の科学的な調査研究の予算を供与。これま

でに 2,300 案件・700 million USD 以上が供与され

ている。

国境域

Border Environment

Cooperation

Commission (BECC)

Technical Assistance

(TA) Fund

BECC は NAFTA 推進のために米墨政府により設

置された機関であり、国境近くの事業に資金供与

(テキサス、ニューメキシコ、アリゾナ、カリフ

ォルニア)。

Border Environment

Infrastructure Fund

(BEIF)

Border Environment

Infrastructure Fund

(BEIF)

BEIF は北米開発銀行(NABB)により設立された

環境インフラファンドであり、米墨国境近く(100

km 以内)の上下水事業に資金供与。

North American

Development Bank

(NADB)

North American

Development Bank

(NADB) Loans

北米開発銀行(NABB)による米墨国境近く(100

km 以内/テキサス、ニューメキシコ、アリゾナ、

カリフォルニア)の上下水事業に対する融資。健

康影響の緩和等が条件。

North American

Development Bank

Community Assistance

Program (CAP)

北米開発銀行(NABB)による米墨国境近く(100

km 以内/テキサス、ニューメキシコ、アリゾナ、

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101

(NADB) カリフォルニア)の上下水事業に対する融資。他

の資金提供を受けていないことが条件。最大

500,000 USD。スポンサーは事業費の最低 10%を

負担しなければならない。

USEPA & Border

Environmental

Cooperation

Commission (BECC)

Project Development

Assistance Program

(PDAP)

USEPA と BECC により、上下水事業の開発・設計

に資金供与。米墨国境近く(100 km 以内/テキサ

ス、ニューメキシコ、アリゾナ、カリフォルニア)

にあることが条件。

6-2 日本政府の支援策活用

NEDO では、①「エネルギー消費の効率化等に資する我が国技術の国際実証事業」(分野:

国際展開支援)および②「民間主導による低炭素技術普及促進事業」(分野:地球温暖化対

策)として、以下の観点で実証事業を行っている。

① 日本が強みを有するエネルギー技術・システムに関する実証事業を、相手国政府・

公共機関との協力の下で実施することを通じて、日本企業の国際競争力の強化や地

球規模のエネルギー環境問題の解決に貢献51

② 先駆性があり高付加価値化・最適化を図ることのできる ICT 等の先端技術等を利用

して、費用対効果が高く、排出削減と定量化を同時に達成出来る事業を実施し、並

行して相手国における当該技術・システムの普及促進に資する政策との連携や制度

整備支援を日本政府と連携して取り組むことで、我が国の低炭素技術・システムの

普及拡大を図る52

これらは NEDO の委託事業であり、実証設備の導入工事、実証試験運転等が実施される。

事業コストとして重要な点は以下の通りであり、この活用により、実証段階でのコスト抑制

を図ることができる。

導入工事の検収を踏まえて日本ポーションに対して事業費が支払われ、実証試験運転

の後に、設備の所有権が NEDO から事業者に移転される。

設備の償却期間は 4 年間、残存価額は 10%とする。

設備の所有権を NEDO から事業者に移転する際に、NEDO は償却後の価額の払い戻し

を受ける。

51 NEDO https://www.nedo.go.jp/activities/AT1_00175.html 52 NEDO https://www.nedo.go.jp/activities/ZZJP_100022.html

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102

払い戻し額は以下の通り計算される。

実証期間が 1 年間の場合の払い戻し額(日本ポーションに対する割合)

= (1 – 1 年間/4 年間)×(1 – 10%)

= 77.5%

実証期間が 2 年間の場合の払い戻し額(日本ポーションに対する割合)

= (1 – 2 年間/4 年間)×(1 – 10%)

= 55.0%

図 55 実証事業の原価償却(実証期間が 1 年間の場合)

表 47 日本ポーションおよび相手国ポーション53

53 NEDO

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103

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104

7.エネルギー起源 CO2 の排出抑制量の試算、環境改善効果・環境社会面への

影響等調査

ネバダ州においては、発電に用いる一次エネルギーとして約 72%を天然ガスに依存して

いる。また石炭火力は既にフェーズアウトしているが、未だ既設の発電所が稼動している

(約 7%)。

残りの約 21%を再生可能エネルギーが占めており(30MW 超の水力を含む)、前任の

Sandoval 知事のもとで 2011 年から倍増させている。発電容量としては太陽光発電が過半数

だが、発電量としてはベース電源として利用されている地熱発電が過半数となっている。ま

た、隣接するカリフォルニア州でも目立っている太陽熱発電も運用されている(容量で約

7%、発電量で約 4%)。現在は、再生可能エネルギーの割合を 2025 年に 25%とする目標を掲

げ、ネバダ州 RPS 法(Renewable Portfolio Standard)(1997 年)により導入を推進している。

図 56 ネバダ州の電源構成(2017 年 8 月)54

図 57 ネバダ州の再生可能エネルギー発電実績(2016 年)(左:容量、右:発電量)54

54 State of Nevada Governor’s Office of Energy “2017 Status of Energy Report”

http://energy.nv.gov/uploadedFiles/energynvgov/content/About/2017%20SOE%20v10.4%20(High%20Res).pdf

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105

エネルギー消費においては、民生家庭、民生業務、産業、運輸すべてのセクターで一様に

消費がなされている。化石燃料の約 88%が州外からの輸入でもあり、省エネルギー・再生可

能エネルギーの推進には注力されている。

その中で、本案件も関連する水処理事業のエネルギー消費削減には期待が寄せられてい

る55。

図 58 ネバダ州のエネルギー消費実績(2015 年)(左:消費量、右:支出額)56

その一方で、自治体の水処理側にはエネルギー消費削減に向けた直接的なモチベーショ

ンが出ている状況にはない。ネバダ州でも低エネルギー水処理の事例はあるが、現在は軍の

基地で省エネニーズがあって適用しているにとどまっている57。従って、本案件の実現によ

るエネルギー消費削減の評価を共有するとともに、今後の事業化にあたり、州の推進施策を

活用していくことが重要となる。

本案件に具体的に関連する可能性のある施策(プログラム)は、以下の通りである。現在

は直接利用できるファイナンスサポートは用意されていないが、民主党知事(Steve Sisolak)

への交代により、政策が変化する可能性がある(実際の動きは 2019 年 6 月以降と想定され

ている)。

55 State of Nevada Governor’s Office of Energy へのヒアリング(2018 年 11 月) 56 State of Nevada Governor’s Office of Energy “2017 Status of Energy Report”

http://energy.nv.gov/uploadedFiles/energynvgov/content/About/2017%20SOE%20v10.4%20(High%20Res).pdf 57 State of Nevada Governor’s Office of Energy へのヒアリング(2018 年 11 月)

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106

表 48 ネバダ州のエネルギー関連施策58

施策・プログラム 概要 本事業との関連

AB5 / Property Assessed

Clean Energy (PACE)

再エネや省エネの取り組み

に当り実際のエネルギー使

用量を確認し(導入前後)、

それに応じて低利融資を用

意。金利 3%、融資期間 15 年

間、上限 50,000 USD。

新知事のもとで、実証事業の対

象化(過去は商業ベースのみ)、

融資規模の拡大、グラント(過去

に中止されてローンのみとなっ

た)の活用可能性に期待。

Revolving Loans for

Energy Efficiency and

Renewable Energy (NRS

701.545)

事業者に再エネ・省エネ向

け融資を供与。融資条件は、

金利 3%、融資期間 15 年間、

融資額 100,000~ 1 million

USD。

新知事のもとでの活用可能性に

期待。

RPS (Renewable

Portfolio Standard)

2025 年に再生可能エネルギ

ー25%を目標としている。

州内の発電事業者(NV Energy が

9 割程度)からの購入電力に起因

する CO2 を評価する。

AB223、SB150 発電事業者に5%以上のエネ

ルギー効率予算支出を担保

させる仕組。発電事業者自

体の取り組みが対象であ

り、需要側の省エネは対象

ではない。

なし

Performance Contact

Audit Assistance Program

(PCAAP)

エネルギー監査の補助を行

う。

なし

58 NWIC へのヒアリング(2018 年 8 月)

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107

○ エネルギー削減量

本案件の実現によるエネルギー削減量は以下の通り評価される。

表 49 エネルギー削減量評価のシナリオ

シナリオ 水処理タイプ ポイント 1

ブライン処理

ポイント 2

化学品調達

リファレンス 従来型 RO 蒸発器により処理(①)

+最終処分(②)

HCl、NaClO、NaOH

を外部調達(③)

プロジェクト Zero Liquid Discharge

(ZLD)

蒸発器により処理(①’)

+最終処分(②’)

(リファレンスより量が

少ない)

ゼロ(③’)

表 50 エネルギー削減量の評価方法

削減ポイント エネルギー削減

量(表 49)

検討内容(今後)

(1) 蒸発器 差分 ①-①' 蒸発器でのブライン処理量(両シナリオ)

蒸発器でのエネルギー消費原単位

電力の CO2 排出係数

(2) 最終処分 差分 ②-②' 蒸発処理後の最終処分量(両シナリオ)

但し、事業バウンダリー外でのエネルギー削減

であるため、参考として、ブラインの最終処分

場までの輸送に伴う量の評価にとどめる。

(3) 化学品調達 差分 ③-③'=③ 化学品の調達量(リファレンス)=生産量(プ

ロジェクト)

但し、事業バウンダリー外でのエネルギー削減

であるため、参考として、化学品調達の輸送に

伴う量の評価にとどめる。

評価の前提となるブラインの削減量は以下の通りである。なお、TDS = 500、流量 1,000m3/H

とする。

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108

表 51 ブラインの発生量(リファレンス、プロジェクト)

シナリオ 回収率 ブライン発生量

リファレンス 75% 250 m3/H

プロジェクト 98% 20 m3/H

(1) 蒸発器

蒸発器の 1m3 当たりの電気消費量(kWh)は以下の通り。

72kWh × 24H × 80% ÷ (2m3/H × 24H) =28.8kWh/m3

(1kWh=3.6MJ)

○ 従来型 RO 蒸発器処理エネルギー消費

1 日の濃縮排水の電気消費量は

28.8kWh/m3 × 250m3/H × 24H = 172,800kWh/日

電気消費量を国際単位系(SI)におけるエネルギーの単位であるジュール(J)に変換

172,800kWh/日 × 3.2 MJ/kWh = 552,960MJ/日 ・・・①

○ ZLD 蒸発器処理エネルギー消費

1 日の濃縮排水の電気消費量は

28.8kWh/m3 × 20m3/H × 24H = 13,820kWh/日

電気消費量を国際単位系(SI)におけるエネルギーの単位であるジュール(J)に変換

13,820kWh/日 × 3.2MJ/kWh = 44,236 MJ/日 ・・・①'

CO2 削減量については、ネバダ州のグリッド排出係数 0.37 t-CO2/MWh59を用いて、

(172,800 – 13,820) kWh/日 ÷ 1,000 × 0.37 t-CO2/MWh

= 58.8 t-CO2/日

差分 ①-①' = 508,724 MJ/日、58.8 t-CO2/日

59 メタウォーター・みずほ情報総研「平成 29 年度質の高いエネルギーインフラ等の海外展開に向けた事

業実施可能性調査事業/我が国企業によるインフラ海外展開促進調査:米国・南西部干ばつ地域における

水循環に寄与する本邦技術を用いた事業化調査」

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109

(2) 最終処分

最終処分場までの距離片道 200km、1 回の処分量を 10m3 と仮定する。

車の燃費を 10km/L(軽油)と仮定する。

軽油 1L=38.2MJ/L(「省エネ法」エネルギー使用量の原油換算方法より)

○ 従来型 RO 濃縮量

1 日に発生する産業廃棄物量:

(250m3/H × 24H) ÷ 30(濃縮) = 200m3/日

1 日に処分する回数:

200m3/日 ÷ 10m3/回 = 20 回/日

1 日に走行する距離:

20 回/日 × 200km × 2(往復) = 8000km/日

1 日に使用する軽油量:

8000km/日 ÷ 10km/L = 800L/日

軽油使用量を国際単位系(SI)におけるエネルギーの単位であるジュール(J)に変換

800L/日 × 38.2 MJ/L =30,560MJ/日 ・・・②

○ ZLD 濃縮量

1 日に発生する産業廃棄物量:

(20m3/H × 24H) ÷ 30(濃縮)3 = 16m3/日

1 日に処分する回数:

16m3/日 ÷ 10m3/回 = 1.6 回/日

1 日に走行する距離:

1.6 回/日 × 200km × 2(往復) = 640km/日

1 日に使用する軽油量:

640km/日 ÷ 10km/L = 64L/日

軽油使用量を国際単位系(SI)におけるエネルギーの単位であるジュール(J)に変換

64L/日 × 38.2 MJ/L =2445MJ/日 ・・・②'

CO2 排出削減量に関しては、軽油の CO2 排出係数を 0.0686 tCO2/GJ として、

(30,560 – 2,445) MJ/日 ÷ 1,000 × 0.0686 t-CO2/GJ

= 1.93 t-CO2/日

差分 ②-②' = 28,115 MJ/日、1.93 t-CO2/日

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110

(3) 化学品調達

化学品調達からの距離片道を 200km、燃料を軽油と仮定する。

軽油 1L=38.2MJ/L(「省エネ法」エネルギー使用量の原油換算方法より)

○ 従来型 RO 化学品の調達量

HCL

時間当たりの HCL 使用量:

18m3/ H × 338mg/L = 6.084kg/H

1 日当たりの HCL 使用量:

6.084kg/H × 24H = 146kg/日

35%濃度換算した場合の薬品量:

146kg/日 ÷ 35% =417kg/日 ・・・ⓐ

薬品補充タンクローリーによる運送可能な HCL濃度 35%を 10m3 の運搬

とすると:

35% = 350,000 mg/L =350kg/m3 ・・・ⓑ

35%の濃度での HCL 運搬量 10m3/回あたりの薬品保有日数:

ⓑ ×10m3/回÷ ⓐ = 8.39 日/回 ・・・©

1 回あたりの運搬に使用する軽油量:

200km × 2(往復) = 400km/回

1 回に薬品補充に必要な軽油量:

400km/回 ÷ 10km/L = 40L/回

©より 1 回の薬品補充で 8.39 日分の薬品保有が可能であるため

1 日当たりの運搬に使用する軽油量に換算:

40L/回 ÷ 8.39 日/回 = 4.77L/日

4.77L/日 × 38.2 MJ/L =182MJ/日 ・・・Ⓐ

NaOH

時間当たりの NaOH 使用量:

9m3/ H × 924mg/L = 8.316kg/H

1 日当たりの NaOH 使用量:

8.316kg/H × 24H = 200kg/日

24%濃度換算した場合の薬品量:

200kg/日 ÷ 24% =833kg/日 ・・・ⓐ'

薬品補充タンクローリーによる運送可能な NaOH 濃度 25%を 10m3 の運

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111

搬とすると:

25% = 250,000 mg/L =250kg/m3 ・・・ⓑ'

25%の濃度での NaOH 運搬量 10m3/回あたりの薬品保有日数:

ⓑ' ×10m3/回÷ ⓐ' = 3.00 日/回 ・・・© '

1 回あたりの運搬に使用する軽油量:

200km × 2(往復) = 400km/回

1 回に薬品補充に必要な軽油量:

400km/回 ÷ 10km/L = 40L/回

©'より 1 回の薬品補充で 3.00 日分の薬品保有が可能であるため

1 日当たりの運搬に使用する軽油量に換算:

40L/回 ÷ 3.00 日/回 = 13.33L/日

13.33L/日 × 38.2 MJ/L =509MJ/日 ・・・Ⓑ

Ⓐ+Ⓑ=691MJ/日 ・・・③

○ ZLD 生産量

オンサイトで薬品を生成するため 0 MJ/日 ・・・③'

CO2 排出削減量に関しては、軽油の CO2 排出係数を 0.0686 tCO2/GJ として、

(691 – 0) MJ/日 ÷ 1,000 × 0.0686 t-CO2/GJ

= 0.0474 t-CO2/日

差分 ③-③' = 691 MJ/日、0.0474 t-CO2/日

以上により、本事業によるエネルギー削減量および CO2 削減量は以下の通り評価される。

エネルギー・CO2 削減量のほとんどは電気消費量削減に伴う。

表 52 エネルギー削減量および CO2 削減量

削減ポイント エネルギー削減量 CO2 削減量

(1) 蒸発器 508,724 MJ/日 58.8 t-CO2/日

(2) 最終処分 28,115 MJ/日 1.93 t-CO2/日

(3) 化学品調達 691 MJ/日 0.0474 t-CO2/日

合計 537,530 MJ/日

60.8 t-CO2/日

22,200 t-CO2/年

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112

8.リスク分析

ここでは、事業を実施する際に発生するリスクについて取りまとめる。

具体的なリスク分析自体は、事業計画および並行して資金計画等を固めた段階で行うべ

きものである。現段階での整理においては、大きなリスク懸念はみられない。

リスク項目は一般的にコマーシャル・リスク、経済リスク、政治リスクに大別される。

以下の整理は下表に沿う。

表 53 リスク分類

政治リスク コマーシャル・リスク 経済リスク

制裁リスク

法制度変更

契約義務履行違反

事業性

スポンサー

完工

許認可

技術

操業

オフテイク(マーケット)

環境

フォース・マジュール

物価

為替

金利

○ 政治リスク

政治リスクの内容および対応策を以下に示す。

表 54 政治リスクの内容および対応策

分類 内容 低減・対応策

法令変更

リスク

法制度が変更されるリスク 州による IPR 規制(ネバダ州のカテゴリー

A+の LRV 等)が変更されるリスクについ

て留意する必要があるが、その指摘はなさ

れていない。

契約義務

履行違反

リスク

公共事業の場合、借入人の政府機関

が返済を延滞するリスクがある。

一般的には、投融資にもオフテイク

契約にも政府保証は付与されない。

州の延滞債務の可能性を確認する。ただし

その指摘はなされていない。

公共事業への融資に対する政府保証の付与

検討

公共事業のオフテイク契約(処理水の帯水

層圧入に相当)に対する政府保証の付与検

Page 115: RO 濃縮水の減容化調査) - METIト化されたRO 濃縮排泥の処理コストの潜在的な可能性を評価した。 (c) エネルギー起源CO2 の排出抑制効果

113

○ コマーシャル・リスク

コマーシャル・リスクの内容および対応策を以下に示す。

表 55 コマーシャル・リスクの内容および対応策

分類 項目 内容 低減・対応策

事業性 初期費用

の削減

詳細な CAPEX を評価。 適用技術の絞込

海外生産等(本邦品)の検討

原水の水質、化学品価格等事業条件の精緻化

日米政府の支援策適用

収益の確

詳細な OPEX および事業

収益を評価。

資金調達の具体化に伴うキャッシュフロー分析

の精緻化

スポンサ

ー・リス

業務遂行

能力

スポンサー(特にイニシ

アチブを持つ)投資・操業

実績を確認。

フェーズ 3 の事業主体を想定する際に確認。

フェーズ 2 の事業主体として想定する NWII は

既に実証事業(オゾン+BAC)を実施してお

り、特段の懸念はない。

資金拠出

能力

スポンサーの格付け

(Moody’s/S&P あるいは

融資を行う銀行の行内格

付け)、信用力(財務内容)

を確認。

本事業の事業主体の財務状況確認。

格付け、信用力が不十分な場合は、以下 3 案を

検討。

(1) 銀行、親会社等による信用補完(Letter of

Credit, 以下 LC)の提供

(2) 出資金の融資前払い込み(Equity First)

(3) 連帯保証

完工保証

能力

スポンサーの完工保証能

力(財務的能力)を確認。

保証能力が不十分な場合は、以下 2 案を検討。

(1) LC の提供

(2) 連帯保証

完工リス

EPC コン

トラクタ

ーの選定

EPC コントラクターの建

設実績、信用力、会社全体

の事業規模と EPC契約金

額の割合等を確認。

レンダーの技術アドバイザーは市場における当

該 EPCコントラクターの一般的な評価を調べる

とともに、EPC コントラクターの提示価格の妥

当性を含めた詳細な評価を行う。なお、EPC コ

ントラクターが海外企業の場合は、事業所在国

における実績や有力サブコントラクターとの関

係も重要な要素である。

EPC コントラクターが十分な信用力を有してい

ない場合、より規模の大きなコントラクターと

JV を組んでの EPC 契約を締結してもらうこと、

Page 116: RO 濃縮水の減容化調査) - METIト化されたRO 濃縮排泥の処理コストの潜在的な可能性を評価した。 (c) エネルギー起源CO2 の排出抑制効果

114

分類 項目 内容 低減・対応策

また EPC コントラクターの親会社がある場合、

その親会社からその EPCコントラクターが負う

義務に関する保証を提供してもらうこともあり

得る。

EPC コントラクターがスポンサーを兼ねる場

合、利益相反の問題が生じる。その場合のリスク

低減方法としては以下がありうる。

(1) EPC コントラクターを兼ねるスポンサー以

外のスポンサーが、EPC 契約の仕様作成と交

渉を行う。

(2) 工事監理は、EPC コントラクターと直接の関

係を持たないプロジェクトカンパニーの技

術者が行う。

(3) レンダーの技術アドバイザーによる精査・支

援を強化する。

コストオ

ーバーラ

ファイナンスクローズ時

点でコミットされない建

設費用の有無を確認。

コスト等の上振れ要因に

ついて検討。

充分な予備費を積み立てる。

1 つの目安として、EPC 契約金額の 10%程度、

事業の初期投資額全体の 7~8%に相当する予備

費を積み立てることが多い。

スポンサーによる完工保証あるいはコストオー

バーラン・サポートの提供。

仮に日本の輸出金融を適用する場合には信用保

険の付保率 100%カバー(NEXI)

完工遅延 遅延の理由になる可能性

を確認。

EPC コントラクターによる工事遅延の場合は、

予定遅延損害金を支払う旨を定める。

不可抗力やその国の特殊な事情による場合は、

対応策を建設計画に適切に盛り込む。

性能未達 完工終了の定義が明確に

なっているかを確認。

完工終了の条件を明確化する。

(1) 再生水施設の物理的な完工と試運転の終了。

(2) レンダー雇用のテクニカルコンサルタント

による完工状況の現地検証。

EPC コントラクターがプロジェクトカンパニー

に対して、性能未達損害金を支払う旨を定める。

スポンサーに完工保証を徴求する。

許認可リ すべての 許認可取得有無、遅延可 低減/対応策として以下 2 案を要検討。

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115

分類 項目 内容 低減・対応策

スク 施設の建

設に関す

る許認可

能性を確認。 (1) 必要な許認可取得、登録を完工の条件にする。

(2) 許認可取得の遅延による完工遅延は EPC コ

ントラクターが責任を負う。

技術リス

新技術の

信頼性お

よび技術

の陳腐化

新技術や商業ベースでの

十分な実績が無い技術、

当初予定していた技術が

陳腐化してしまうリスク

を考慮。

レンダーの技術コンサルタントによる技術の精

査やスポンサー、EPC コントラクター保証(通

常の工事保証ではなく、長期にわたる事業施設

の性能をカバーする保証)等によるリスク分担

を求める。

特に本事業では技術の新規な組み合わせを検討

しており留意する。

技術の優

位性

技術の優位性により、享

受できる要素を確認。

ZLD および ZCC によるメリット(化学品の生

成、ブラインの最小化等)を州の政策と関連付け

てスペックインをねらう。

環境リス

現地環境

関連法制

環境影響評価が承認済み

か確認。

本事業における環境影響評価の必要性を確認す

る(現段階では不要と認識)。

その他環

境ガイド

ライン

国際金融機関融資を受け

る場合、当該金融機関の

環境ガイドラインの充足

や、その他関連国際的環

境基準を遵守しているの

か確認。

仮に日本の輸出金融を適用する場合には、その

環境ガイドラインを充足すること、また赤道原

則(Equator Principles)の遵守を義務付ける。

運営リス

事業施設

のアベイ

ラビリテ

操業者の運営実績・ノウ

ハウを確認。

操業者に実績が充分ではない場合は、その他実

績豊富な会社のサポートの可能性を確認。操業

中の事故・災害に対する損害保険をかけておく

ことが望ましい。

費用 運営費のコストオーバー

ラン、大規模修繕に必要

な費用を捻出するための

キャッシュに余裕がある

のか確認。

オペレーティングリザーブアカウントに充分な

準備金を積む。

オフテイ

クリスク

オフテイ

カーの信

用力

処理水のオフテイカーの

信用力を検討。

処理水の帯水層圧入に制度的な問題がないこと

を十分考慮する(政治リスク)。

販売量、販 特になし

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116

分類 項目 内容 低減・対応策

売価格

原料供給

リスク

- 下水の供給安定性を確

認。

下水の量が十分確保できない実態を想定し、ス

ポンサー保証の徴収、将来の減産に備えてのプ

ロジェクト会社内の内部留保金の厚めの確保を

検討。

不可抗力 - 天災など不可抗力の可能

性要因を確認。

仮に輸出金融を適用する場合には非常保険の付

保率 100%カバー(NEXI)

輸入時の海上保険についての制裁回避検討

○ 経済リスク

経済リスクの内容および対応策を以下に示す。

表 56 経済リスクの内容および対応策

分類 内容 低減・対応策

物価変動

リスク

インフレによる建設のコスト

オーバーラン、運営時のレン

ダーに対するデットサービス

のカバー率低下を確認。

EPC 契約金額、資金調達費用、アドバイザー費用等の固

定化

金額を固定できない費用項目について安全率の設定

料金の構成要素を物価変動に連動

金利変動

リスク

融資金利の変動による採算性

への影響を確認。

固定金利の採用

金利スワップ等の採用

為替変動

リスク

資金調達の通貨の交換レート

変動に伴う影響を確認。

(1) 国内通貨の交換対象とな

る外貨が不足するリスク

(2) 外貨交換が承認されない

リスク

(3) 外貨を外国に送金できな

いリスク

円建ての採用

米ドルの場合にはさほど同リスクは懸念されない。

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9.米国内外への横展開の可能性及び展開促進策の検討

カリフォルニア州では 2023 年 12 月 31 日までに DPR の運用が開始される。それにより、

2020 年から 2025 年の期間に RO 膜濃縮水の減容化への訴求が一層高まると想定される。以

下に、ZLD および ZCC の普及を目指した横展開を検討する。

◎ IPR と DPR における ZLD・ZCC のニーズ

IPR は、再生水処理施設からの高度処理水を貯水池、地下水、河川等への放流といった希

釈に依存するため、飲用化に向けた水質管理が自然環境の緩衝効果に期待できる場合、必ず

しも RO 膜を用いた脱塩プロセスや、同膜による水質阻害物質の阻止を必要としない再生水

プロセスが存在する。RO 膜を必要しない IPR 市場には、ZLD 及び ZCC のニーズがない。

一方で、DPR は機械的な阻止機構に強く依存して、再生水の飲用化にむけた水質改善を

図るため、酸化処理と RO 膜を含む膜ろ過処理の組み合わせが必須となる。カリフォルニア

州での法規制の動向が、とりわけ水ストレスの強い米国南西部において影響を与えると考

えられる。

◎ 米国内の横展開地域の特徴

米国内での展開地域として、本調査においては、カリフォルニア州に加え、フロリダ州、

テキサス州、アリゾナ州及び、ネバダ州の市場に着目している。図 59 は、2020~2025 年に

おいて 5 州で新規に建設(拡張や増設を含む)が予想される再生水施設の造水量規模(m3/

日)を示す60。当該期間の全米再生水市場において、5 州は要求造水能力の 83%から 90%を

占める(なお、この再生水の造水には、飲用化目的に加え、灌漑や工業目的の再利用を含む)。

フロリダ州は、2025 年までに 4.9 百万 m3/日の再生水の造水規模を備えると想定されてい

るが、主に発電所とのオフテイク契約に基づき大型施設の建設を行うことが特徴である。

カリフォルニア州は、今後の干ばつ状況にもよるところが大きいが、ロサンゼルス市やサ

ンディエゴ市といった大都市において 20 万 m3/日級規模の大型再生水施設の建設が予定さ

れている。気象状況によって、小規模な再生水施設が普及する可能性もある。

テキサス州は、年毎の気象条件が極端に異なっており、政治判断により干ばつ時の対応事

業として再生水事業の予算化が進んだ経緯がある。2025 年までに 56 万 m3/日の再生水の造

水規模を備える見込みである。

アリゾナ州およびネバダ州は、コロラド川水系の表流水と地下水への飲料水依存が強い。

人口が大都市圏(フェニックス、ツーソン、ラスベガス等)に偏っていることから、これら

60 Bluefield Research 2015, Focus Report US municipal Wastewater & Reuse: Market Trends,

Opportunities, & Forecasts, 2015-2025.

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都市圏の成長に沿った現有施設の拡張ニーズがあると捉えることができる。

図 59 米国 5 州で予想される再生水施設の新規造水能力(m3/日)(再掲)61

◎ ショーケース化の方針

横展開に欠かせない活動は、ZLD および ZCC のコンセプトによるショーケースを設ける

ことである。

通常は、主要州において予算化を目指した自治体や民間ユーザーが、技術情報を集約する

ために基本設計を目的としたエンジニアリング系企業へ事業化調査を委託することが多く、

その際には技術の認知化が必須とされる。

主要なエンジニアリング系企業については、技術概要を浸透させ、技術評価に対して積極

的なユーザー、ユーザーと連携した拠点大学、研究機関とともに実証事業を推進しながら、

ショーケース化を図ることが有効である。

以下に、可能性のある都市の特徴、RO 濃縮水の処理への訴求内容を示す。なお、これら

の都市については、Carollo Engineers が今後の事業可能性を想定し絞り込んだものである。

61 BlueField Research

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119

図 60 ショーケース実施に向けて可能性のある都市

表 57 ショーケース実施に向けて可能性のある都市

都市 特徴と訴求の背景

ネバダ州リノ市

(本事業の実証ターゲッ

ト)

リノ市および周辺自治体が、ネバダ大学リノ校を拠点とし

た NWII と連携して技術評価を展開中である。内陸地であ

り水道水源が閉鎖性水域ゆえに処理プロセスで濃縮水を

発生させないニーズや、遠隔地ゆえに薬品輸送を省力化さ

せたいニーズがある。

フロリダ州アルタモンテ・

スプリングス市

フロリダ州は RO 濃縮水の海洋への放流を禁止しており、

RO 濃縮水の処理は蒸発乾固など高価な処理に依存してい

る。アルタモンテ・スプリングス市は、RO 膜濃縮水を発生

させられない背景より、RO 膜を用いない処理プロセスで

パイロット実証を行っている。

カリフォルニア州クローヴ

ィス市

ロサンゼルス市やサンフランシスコ都市圏に属さない人

口 10 万人程度の地方都市。再生水事業を構想しているが、

太平洋から 160km の内陸地にあり、RO 濃縮水の処理に広

大な土地を要する蒸発濃縮池が検討されている。

テキサス州エルパソ市 内陸地の干ばつ地であり、蒸発量が多いリオ・グランデ川

の中流域ゆえに下水の塩分濃度が高い。再生水の飲用化に

向けたパイロット実証が展開されており、RO 膜による脱

アリゾナ州サプライズ市

テキサス州エルパソ市

フロリダ州アルタモンテ・スプリングス市

カリフォルニア州クローヴィス市

ネバダ州リノ市

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120

都市 特徴と訴求の背景

塩プロセスが提案されている。RO 濃縮水の処理法に、高

価な蒸発乾固が前提となっている。

アリゾナ州サプライズ市 フェニックスに隣接する内陸地であり、再生水は灌漑や修

景用水として、または地下水涵養に活用されている。RO 濃

縮水の処理方法に対して検討が進んでいる。

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10.日本企業の優位性の確認、日本への裨益(経済効果)予測

10-1 オゾン+BAC 処理との比較

上述の通り、ネバダ州リノ市の STMWRF(South Truckee Meadows Water Reclamation Facility)

において、オゾン+BAC 処理による実証事業が行われている。同事業を推進する NWII は、

オゾン+BAC 処理と通常の RO 膜処理とを比較し、以下のようにまとめている。

表 58 オゾン+BAC 処理と通常の RO 膜処理との比較62

比較項目 通常の RO 膜処理 オゾン+BAC 処理

難分解性有機物 ブライン内に濃縮される 減衰・吸着される

系外排出 あり(ブライン) なし

TDS (Total Dissolves Solids) ブライン内に濃縮される 変化なし

TOC (Total Organic Carbon) 0.5 mg/L 以下まで低減可能 炭素化合物の形状を変え、

分解が期待できる

エネルギー、CAPEX/OPEX 高い 低い

本事業の結果(コスト、ブライン発生量、薬品等生成量等)を用いてリノ市における今後

の IPR 適用技術を検討するのは NWII 側だが、その比較においては、処理水質がカテゴリー

A+であることに加え、他の水質項目が許容範囲内にあることが前提条件となる。

NWII では、実証中のオゾン+BAC 処理の結果(水質、コスト)を明らかにしていない。

また、TDS について、帯水層においてむしろ濃度が高くなることを指摘している(「11.

報告会の実施」参照)。本事業の検討においては、投資回収年が原水の TDS 増加に伴い短く

なり採算性が向上することが示されている。

従って、環境バッファーが閉鎖的な条件下においては、オゾン+BAC 処理の実証結果次

第で、本事業の技術優位性が大きくなるものと考えられる。

10-2 通常の RO 膜処理との比較

今後の事業化にあたりショーケース化の可能性があるサイト候補(「9.米国内外への横

展開の可能性及び展開促進策の検討」参照)における本事業と通常の RO 膜処理とのコスト

比較は以下の通りである。

62 Vijay Sundaram PE, Lin Li, Tatiana Guarin, Lydia Peri PE, Rick Warner PE and Krishna Pagilla PhD, PE

“Overcoming Challenges in Ozone-Biofiltation Treatment Systems for IPR Applications” (2019/1/30)

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122

本事業は通常の RO 膜処理よりも 2.7~5.7 倍と高コストだが、高回収率化・ブラインの最

小化を必要とするサイトであれば許容される可能性がある。

表 59 本事業と通常の RO 膜処理とのコスト比較

都市 通常の RO 膜処理単価

(USD/日)

本事業の処理単価

(USD/日)

比率

ネバダ州リノ市

(本事業の実証ターゲット)

(比較対象がオゾン+BAC 処理

のため比較しない)

フロリダ州アルタモンテ・ス

プリングス市

1,500 4,240 2.8

カリフォルニア州クローヴ

ィス市

240 749 3.1

テキサス州エルパソ市 1,284 7,252 5.7

アリゾナ州サプライズ市 569 3,873 4.3

10-3 日本ポーションの特定

米国市場における本事業の要素技術ごとの優位性は以下の通りである。

表 60 本事業の要素技術の優位性

処理方法 日本技術の優位性 日本ポーション

としての想定

RO1st(低圧) 超低圧 RO 膜を採用して、省電力での効

率よい 75%の回収率を実現。

東レ製超低圧膜の

採用

Crystallizer(晶析装置) RO2nd、RO3rd、ELS1 にて簡素な仕組みで

スケール分を大幅に軽減して供給できる

海外調達の必要

ELS1(電解装置 1) イオンの濃縮を行い、有価物生成効率を

上げる

日本の技術

ELS2(電解装置 2) 本プロセス内で利用する有価物を十分に

生成する能力があり、廃棄物削減に貢献

日本の技術

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123

RO2nd(中圧) 幅広い pH レンジで運転が可能な RO 膜

で、安定した稼働を実現

東レ製中圧膜の採

RO3rd(高圧) RO3rdにて、トータル回収率 98%以上を実

現。耐薬液洗浄にも強く長寿命である。

東レ製高圧膜の採

10-4 日本への裨益(経済効果)予測

再生水施設に関する今後の米国市場のうち、最もポテンシャルの大きい州のひとつであ

るカリフォルニア州については以下のように予測されている。

表 61 カリフォルニア州における IPR/DPR 投資額予測63

年 投資額

(million USD)

2023 350

2024 380

2025 606

以下の想定に基づき日本への裨益効果を試算する。

カリフォルニア州と同様の投資傾向が本調査の主要 5 州に当てはまる

主要 5 州/カリフォルニア州= 4.4(2023)、4.7(2024)、3.0(2025)

(図 59 参照)

投資額に占める日本ポーションの割合 = 90%

IPR/DPR 市場における獲得ターゲット = 10%

日本への裨益効果 = IPR/DPR 市場規模

× 主要 5 州/カリフォルニア州

× 日本ポーションの割合

× 獲得ターゲット

= 139(2023)、161(2024)、164(2025)million USD/年程度

63 BlueField Research

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124

11.報告会の実施

2019 年 1 月 31 日にネバダ大学リノ校・NWII において、本検討の報告会を行った。以下

にそれを踏まえての協議内容を示す。

日時 2019 年 1 月 31 日(木)8:30~12:30

場所 ネバダ大学リノ校(米国ネバダ州リノ市)

表 62 ネバダ大学リノ校・NWII との協議概要(2019 年 1 月 31 日)

分類 先方の指摘

事業の検討方法 腐食(RO 処理後は最終 Discharge において低 TDS となる

ため)の件でランゲリア指数を考慮してほしい。

電力単価は 5cent/kWh(全米平均水準)ではなく、10~

12cent/kWh(ネバダ州水準)で算出してほしい。

システム内で生成した薬品利用に関して、濃度的に高いも

のではないため恐らく取り扱い基準は厳格ではない可能性

高い(低濃度次亜はオンサイトにて生成されることが多

く、基本的にはその扱いと近いものになるのではないかと

推測される)。従って、本事業についても現段階でシステ

ム内生成の薬品利用の手続を考慮しなくてもよいだろう。

外部から購入する薬品などは高濃度となるため取り扱い費

用の面においても調査に反映させるとより魅力的になる可

能性がある。

事業内容 既設の IPR 事業において、帯水層での TDS の数値が高くな

っている可能性がある(その場合、オゾン+BAC 処理では

TDS を削減できないため、本事業の優位性が出てくる)。

これは冬季と夏季との水利用のバランスによるものと考え

られる。

次亜塩素酸ソーダ精製に興味がある。(水処理施設では酸

や苛性よりも次亜の方が魅力的に映る可能性がある。)

経済性 Capex については「Competitive」(検討の範囲内)であり、好意

的に評価する。

Opex については、やや高いかもしれない。しかし、DPR 相当

の水質を得ることを前提として考えるのであれば、他のプロセ

スで同等の水質を得るために各種処理費用が別途かかること

を考慮すると、悪くはない可能性がある。

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125

分類 先方の指摘

重要なパラメータについて Capex、Opex の感度分析があると

良いだろう。

投資回収が 10 年であれば経済的と考えてよい。

今後の展開 日本側の計画について承知した。

日本のパイロット試験は個別に試験をする。すべてのユニ

ットを組み合わせた形での試験を日本で実施してから UNR

に持ち込むのか、そこを含めて UNR に持ち込むのかは非

常に重要なポイントであるため要検討(システムとして組

み込んで運転する際には色々なバランス調整作業が発生し

てくるため)。

デモプラントタンクは基準(各地域によって排出前のモニ

タリング期間が異なる)にそって作る必要はあるがコンテ

ナ内に納めてほしい。

以上