Rewriting the Formula for Fireworks...Rewriting the Formula for Fireworks...
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Rewriting the Formula for Fireworks花火ショーをより見応えのあるものにする秘訣とは
何でしょうか?シミュレーションを利用して,花火
の煙を低減すれば,これまで以上に鮮やかでダイナ
ミックな花火大会を実現することができます.この
問題に取り組んだのが,化学反応速度論の研究者で
あるとともに,花火大会の審査員でもある越光男氏
です.
越光男(日本,東京大学 名誉教授)
花火の常識を書き換える
24 I ANSYS ADVANTAGE ISSUE 2 | 2019
燃焼
煙生成のシミュレーション関連する現象を把握しようとする最初の試みでは,粒子形成とこれに伴う物理現象のメカニズムを明らかにするために,古典的核生成理論(CNT)を用いて,煙生成コードが構築されました.しかし残念なことに,花火の非常に小さい粒子を測定して,黒色火薬がどのように煙を発生させるかを予測する作業には CNT を適用できませんでした.
この問題を克服するため,自動車メーカーが自動車エンジンのすす生成を予測する際に使用しているのと同じ燃焼モデリングツール「ANSYS Chemkin-Pro」を用いて,従来と異なる手法が試みられました.すすは炭化水素で構成され,花火の煙はカリウム塩から成ります.
モデリング研究の取り組みでは,最初に,花火の化学物質のガス濃度が予測されました.単純な反応 / 化学反応速度論モデルを作成して,これを Chemkin-Pro の粒子追跡機能に入力すると,Chemkin-Pro が凝集や凝縮などのプロセスに基づいて煙の粒径と粒子数密度を予測し,粒子計算が可能になります.この手法は,問題の全体像を明らかにし,粒径分布のマスター方程式の解と,煙生成の低減に関する提案をたった 1 ヵ月で導き出しました.
シミュレーションを利用していなかったら,粒子のサイズ,分布,密度をほとんど予測できなかった可能性があります.これらの値を実験だけで求めていたら,多額の費用がかかっていたはずです.それに加えて,単純に実験に取り組んでいたら,煙生成はとうてい解析できていなかったでしょう.この最も重要な問題を解決するに
黒色火薬が燃焼して発生した煙粒子の平均体積分率 (ANSYS Chemkin-Proを使用して,スモルコフスキーの方程式を解き,過塩素酸アンモニウムの添加量の関数として計算)
は,黒色火薬の燃焼におけるカリウム塩粒子の形成の背後にある化学反応と物理現象を把握することが不可欠でした.
花火の新しい配合法を設計シミュレーションから導き出された提案は,花火の化学式を変えて,大量の黒色火薬の代わりに過塩素酸アンモニウムを使用しつつ,黒色火薬の配合でカリウム塩の量を減らすというものでした.この手法により,煙粒子の数を大幅に減らして,発煙量を 90% 近く低減し,花火大会の質を高めることができます.
横浜国立大学と東京大学の研究者は今後,これらのモデルに基づいて,広範囲の実験を実施してから,最先端の計測器を使用して煙を測定し,モデリングから導いた結論を検証したいと考えています.
化学反応速度論シミュレーションに対応する ANSYS Chemkinの概要(英語)ansys.com/chemkin-intro
0 10 20 30
1.0E-04
1.0E-05
1.0E-06
1.0E-07
1.0E-08
過塩素酸アンモニウムの重量パーセント
合計
K2Cl2
K2CO3
K2SO4体積分率
日本では,夏になると,多くの花火大会が開催され,夜空を照らします.これらの花火大会には,数十万人
もの来場者が訪れ,その多くが最高のビュースポットを確保するために数時間前から会場入りします.
しかし,穏やかな天候の場合には,花火に使われる黒色火薬の爆発燃焼によって,大きな雲のような煙が
発生し,これによって,鑑賞している観客の視界が妨げられてしまいます.この問題は毎年悪化
しています.それは,様々な花火大会主催者,そして花火メーカー各社が,より大規模で手の込んだ花火
大会を開催し,チケットの売り上げ増を目指して競い合っているからです.
この問題を解決するために花火内の煙の形成をモデル化し,
化学反応を調査するために,燃焼シミュレーションに特化した
ANSYS Chemkin-Pro が使用されました.これによって得られた
データは,煙を低減するための提案につながる貴重な知見をもたら
しました.
© 2019 ANSYS, INC. ANSYS ADVANTAGE I 25
興味深いことに,この花火研究は,他の用途,プロセス,業界にも適用できます.たとえば,化粧品業界では,化粧品に使われる二酸化珪素,二酸化チタン,窒化アルミニウムのナノ粒子を小さくして,より高品質な製品を製造する新しい方法を常に追求しています.これを成し遂げたいと考えている研究者は,反応 / 化学反応速度論モデルを Chemkin-Pro に入力することで,粒子の凝結などの重要なプロセスをモデリングし,ナノ粒子を小さくするための重要な知見を得ることができます.
この最先端の研究により,日本の花火大会は近いうちにこれまで以上に明るく見やすくなると思われます.この研究では,シミュレーションを利用したことで,これまでの配合方式を書き換え,花火の煙をほとんど除去するという,これまで不可能と思われていた偉業を短期間で成し遂げることができました.
反応流と燃焼(英語)ansys.com/reacting-flows
「花火の煙生成をモデリングして,その化学反応を調査するために,ANSYS Chemkin-Pro が使用されました.」
越光男氏について越光男教授は,世界的に有名な化学反応速度論の研究者ですが,日本の有名な花火大会の審査員も務めています.燃焼反応モデリングと爆発物の化学反応速度論 / 反応の専門家で,以前は日本火薬学会の会長でもあった越氏は,同氏のノウハウを日本の花火業界に伝えることによって,花火の煙を低減するというエンジニアリング上の課題の克服を支援しました.これにより,日本で開催されるすべての花火ショーが最も質の高い体験を提供できるようになるでしょう.
ReferenceKoshi, M. Smoke Generation in Black Powder Combustion. 2018. Science and Technology of Energetic Materials, Vol. 79, Issue 3.
26 I ANSYS ADVANTAGE ISSUE 2 | 2019
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