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初級・初中級レベル学習者対象の 「日本の文化」授業の実践報告 Report on "Japanese Culture" course for elementary and pre-intermediate level learners 高岸 雅子 要 旨 外国人学習者の日本留学の動機づけとして「日本文化を学習する」というもの が多い。筆者が考える外国人学習者にとっての「日本の文化学習」というのは、 固定化された「日本の文化」の知識をそのまま受け取るのではなく、自らの目で 日本を見つめることによって、自らの「日本の文化」を発見することではないか と考えている。本稿では、筆者が同志社大学日本語・日本文化センターにおいて 担当している初級・初中級レベルの学習者対象の「日本の文化 A (日本文化の諸相)」 の授業で提出された期末レポートをもとに、授業を受けた外国人学習者はどのよ うなものを得られたと考えているかを明らかにした。 この授業は、(1) 講義、(2) 与えられたテーマについての話し合い、(3) 希望者 による各回のテーマについての発表、という 3 つの授業活動を組み合わせて行なっ た。学習者の期末レポートを読むと、「日本の文化」の授業を受けることによって 自らの視点や認識が変わったことを楽しんでいる者、日本での生活に役立ててい る者、日本文化という異文化を知った上で自国のあるべき姿を展望している者、 多様な国の学習者との話し合いを通じて異文化相互理解が図れたと考えている者、 さらに専門性を追求して学問を続けようとする者の姿が見られ、さまざまな成果 があったことが窺えた。「日本の文化」の授業を受けている学習者は、日本での日 常生活の中で、日本社会に積極的に関わり、自らの「日本の文化」を発見したと 言えるのではないかと考える。 キーワード 日本文化 発見する 話し合い 日本語授業ボランティア 異文化相互理解 1 はじめに 同志社大学日本語・日本文化教育センター(以下、日文センター)では、学期開始 前に新入の外国人学習者全員にクラス分けのための面接試験を行っている。面接試験 で日本留学の目的について尋ねると「日本の文化を勉強したい。」という答えが多く返っ 169 『同志社大学 日本語・日本文化研究』 第14号  pp. 169 - 189(2016. 3)

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初級・初中級レベル学習者対象の「日本の文化」授業の実践報告

Report on "Japanese Culture" course for elementary and pre-intermediate level learners

高岸 雅子

要 旨 外国人学習者の日本留学の動機づけとして「日本文化を学習する」というもの

が多い。筆者が考える外国人学習者にとっての「日本の文化学習」というのは、

固定化された「日本の文化」の知識をそのまま受け取るのではなく、自らの目で

日本を見つめることによって、自らの「日本の文化」を発見することではないか

と考えている。本稿では、筆者が同志社大学日本語・日本文化センターにおいて

担当している初級・初中級レベルの学習者対象の「日本の文化 A(日本文化の諸相)」

の授業で提出された期末レポートをもとに、授業を受けた外国人学習者はどのよ

うなものを得られたと考えているかを明らかにした。

 この授業は、(1) 講義、(2) 与えられたテーマについての話し合い、(3) 希望者

による各回のテーマについての発表、という 3つの授業活動を組み合わせて行なっ

た。学習者の期末レポートを読むと、「日本の文化」の授業を受けることによって

自らの視点や認識が変わったことを楽しんでいる者、日本での生活に役立ててい

る者、日本文化という異文化を知った上で自国のあるべき姿を展望している者、

多様な国の学習者との話し合いを通じて異文化相互理解が図れたと考えている者、

さらに専門性を追求して学問を続けようとする者の姿が見られ、さまざまな成果

があったことが窺えた。「日本の文化」の授業を受けている学習者は、日本での日

常生活の中で、日本社会に積極的に関わり、自らの「日本の文化」を発見したと

言えるのではないかと考える。

キーワード日本文化 発見する 話し合い 日本語授業ボランティア 異文化相互理解

1 はじめに 同志社大学日本語・日本文化教育センター(以下、日文センター)では、学期開始前に新入の外国人学習者全員にクラス分けのための面接試験を行っている。面接試験で日本留学の目的について尋ねると「日本の文化を勉強したい。」という答えが多く返っ

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『同志社大学 日本語・日本文化研究』 第 14 号  pp. 169 - 189(2016. 3)

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てくる。外国人学習者の日本留学の動機づけとして「日本へ来て、日本の文化を勉強する。」というものが多くあると言える。そこで筆者は、学習者は「日本の文化」の授業にどんなことを求めているのか、「日本の文化」の授業を受講してどうだったか、あるいはどのようなことが得られたと感じているかを明らかにしたいと思った。 本稿では、「日本の文化教育」の一例として、筆者が 2008 年秋学期から 2014 年秋学期にかけて日文センターにおいて担当してきた初級・初中級レベルの学習者対象の「日本の文化 A (日本文化の諸相)」の授業について紹介し、受講した学習者がどのような感想を持ったかについて述べたいと思う。 金本(1988)は、日本語教育における日本文化の教授は、現状では大きく二つに分けて考えることができると述べている。一つは日本語教授と一体のものとして言語の教授の中で行なわれているものであり、もう一方は、「日本事情」の科目名のもとで、日本そのものに関する知識の教授に重点を置いて捉えられているものである。筆者が担当した「日本の文化」の授業は、金本が二番目に述べていた、日本そのものに関する知識の教授に重点を置いて捉えられる「日本文化」の授業と考えられる。 以下で、まず「日本文化を学習する」とはどういうことかについて述べる。次に外国人学習者に対する「日本の文化」の教育にはどのような問題点や指導上の留意点があるかについて述べ、続いて筆者がそれらの点を考慮してどのような授業を行なってきたかを述べる。さらに筆者が担当する「日本の文化」の授業に、学習者がどのように取り組み、どのような成果があったと感じているかについて述べる。そして最後に、外国人学習者に日本の文化を教えるとはどういうことかを改めて考えていきたいと思う。

2 「日本の文化」を学習するとはどういうことか 日本へ来て日本の文化を学習するというのはどういうことなのだろうか。頼錦雀(2012)は、日本文化を教えることについて、下記のように述べている。

 日本文化をどう教えるか、いろいろな説が考えられるが、筆者としては日本文化を体験す

ること、母文化と比較する眼を持つこと、積極的に自律学習をする態度を養成すること、教

授法を工夫することなどが要務だと思う 1。

 倉地(1988)は日本の文化を学習することについて次のように述べている。

 留学生教育の究極的な目的は、留学生に日本語や、日本事情、専門などに関する知識、技

術を教えるというだけではなく、留学生が異文化との直接的な接触を通して、文化を積極的

に深く理解しようとする態度や能力を獲得するよう導き、彼らが“真の”国際人として生き

ていくために必要な人間的能力を、総合的に形成することではないだろうか 2。

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『同志社大学 日本語・日本文化研究』 第 14 号

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 以上から筆者も、学習者は固定化された「日本文化」の知識をそのまま受け取るのではなく、積極的に日本の文化に接触し、自らの目で日本人や日本社会を見つめることによって、自らの「日本の文化」を発見してほしいと考えている。それこそが学習者にとっての「日本の文化学習」ではないかと考えられる。それは自らの文化を見直したり異文化を理解することにつながり、やがてはグローバルな視点でものごとを見るという態度を培うことができるのではないかと思われる。

3 「日本の文化」を指導する際の問題点 筆者はこの科目を担当するにあたって、1)初級レベルの学習者を対象に「日本の文化」が教えられるか、2)「日本の文化」を教える際にどのような問題点があるか、という二つの問題に直面した。まず、1)について述べる。初級レベルの学習者に「日本の文化」を独立した授業において教えるのは一般的にむずかしいと言われている。池田(1975)は、学習者のレベルが初級段階にある時について、次のように述べている。

 この段階にある時、微妙で抽象的な事柄を、限られた用語、用法のみで誤解を与えずに表

現しようとすることは、もともと至難の業に近いのだ。ましてそれが“文化”に関連する事

であればなおのことである 3。

 次に、2)の「文化」を教える際の問題点について述べる。まず池田(1975)は次のように述べている。

 言葉の習得が非常に理論的、技術的なものに頼ることが多いのに対し、文化への接近、理

解は、どちらかといえば主観的、感性的な要素に影響されやすい。したがってそれは、受

け取る側の個人差が大きく、たとえば、10 のものを教えたからといって、習い手が 10 を 10

の形のままで受け取っているとは限らない 4。

 倉地(1990)も次のように述べている。

 どんなオーソリティーをもってしても、また何人に対しても文化を一方的に『教え込んだ

り、押し付けたり』することによって、目的文化を学習する人達に教授者の描く文化像と全

く同じものをそのままの形で移植することは困難であるし、教授者に『押し付けられた』文

化学習が成功すべくもないことは明白であろう 5。

 このように教授側と学習者側にギャップが生じる可能性があり、文化を教える際に特に気をつけなければいけないと述べている。

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初級・初中級レベル学習者対象の「日本の文化」授業の実践報告(高岸 雅子)

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 さらにトムソン(2012)は下記のように述べている。

 何を日本文化と呼ぶのかは大きな課題である。筆者は日本文化は固定的なものではなく、

誰かによって認識されるものだと考えている。(中略)この認識は流動的なもので、長期に

わたり歴史とともに変化したり、短期間に何らかのきっかけで変化したりする 6。

 このように「文化」の捉え方には流動性があることを述べている。 そして久保田(2013)は、文化の教授内容は広範であるため、学習者によって扱う内容を吟味する必要性について、下記のように述べている。

 日本語教育における文化の位置付けや扱う文化の内容は、学習者の年齢、バックグラウン

ド、学習動機、教育の目的、地域性などによっても異なってくる 7。

4 「日本の文化」を指導する上での留意点 以上の問題点を念頭に置いて、次のステップとしてどのような指導をすればよいのか考えなければいけないが、倉地(1988)は、外国人学習者に文化を指導する、つまり外国人学習者の異文化理解を目指す教育実践で留意しなければならないこととして次の四点を挙げている。

 まず第一に、学習者が主体になり、自分の力で異文化探究の道を切り開いて行こうとする

積極的な意欲とそれに伴う行動力を喚起させる事が必要で、これはともすれば、受け身の姿

勢になり易い、教師依存型の留学生にとって、極めて重要な事である。第二に日本に滞在し

ているということが異文化学習に利点になるように、学習の場を教室中心に考えるのではな

く、むしろ「一般社会との触れ合い、出合いの中にこそ、真の異文化理解に到達するような

機会があるのだ」という発想的転換をすることが指導者側に必要である。第三は、教師が一

つの枠にはまった教科内容を教え込むという指導だけではなく、多様な背景をもった学生の

発見学習や問題提起によって学習の方向性が教師の思惑を遥かに越えて広がり深まっていく

よう『開かれた』学習指導をめざすこと。そして第四に学生が、教師やみんなの前で独自の

考えや意見を躊躇なく自己開示出来るようなクラス環境を整えることである 8。

 筆者は上記に書かれているように、クラスでは「学習者は受け身の姿勢でなく主体的に学ぶ」「多様な背景を持った学習者の発見学習や問題提起により、学習の方向性が広がり深まっていく」「学習者独自の考えを躊躇なく自己開示できる」ということが可能なクラス環境を作っていこうと考えている。 次の章では、「日本文化 A(日本文化の諸相)」でどのように授業を行なってきたかを述べる。

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『同志社大学 日本語・日本文化研究』 第 14 号

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5 どのような授業を行なってきたか5.1 2008 年秋学期から 2014 年秋学期にかけての授業の構成と受講者の情報

 現在、総合Ⅰ(初級前半レベル)、総合Ⅱ(初級後半レベル)、総合Ⅲ(初中級レベル)の学習者対象に行なわれている「日本の文化 A(日本文化の諸相)」の授業は、2008 年秋学期より、脇田里子、パイエ由美子、筆者の 3名のオムニバス授業として始められた。翌年春学期よりブルース・ホワイトが加わり 2010 年秋学期まで 4名のオムニバスの授業が行なわれた。下記の表は、2008 年度秋学期から 2010 年秋学期までの科目名、担当者、授業内容、学習者情報をまとめたものである。

表 1 �2008 年度秋学期〜 2010 年度秋学期�「日本の文化」担当者、授業内容、受講者の人数・国籍

学 期科目名 担当者名 授業内容 受講者の人数・国籍

2008 年度秋学期「日本の文化 2-52」

高岸雅子・パイエ由美子・脇田里子

1~ 5回「京都クイズに挑戦」「日本の遊び」「日本の漫画」「関西弁講座」「若者ことば講座」(高岸担当)6~10回 神道と武道のつながり、合気道の体験、スポーツと武道の違い、座禅と呼吸法などの講座や実習(パイエ担当)11 ~ 14 回「京都ゆかりの歌」「京都の年中行事」「同志社大学建学の精神① 新島襄の生涯」「同志社大学建学の精神② 新島襄の残した言葉、重要文化財のキャンパスツアー」(脇田担当)15 回「総括」

35 名(1レベル(初級前半)~Ⅲレベル(初中級))(交換留学生 13 名、私費留学生 22 名)(中国 14 名、台湾 4 名、韓国・アメリカ各3 名、ドイツ・イギリス各2名、オランダ・フランス・メキシコ・ポーランド・チリ・フィンランド・カナダ各 1名)

2009 年度春学期「日本の文化 A-51」

脇田里子・高岸雅子・パイエ由美子・ブルース・ホワイト

1~ 3 回「京都ゆかりの歌」「京都の年中行事」「同志社大学建学の精神 新島襄の生涯、重要文化財のキャンパスツアー」(脇田担当)4~ 7 回「京都クイズ(京都の基礎知識を学ぶ)、日本の遊び」「京都の企業クイズ、日本の漫画」「京都クイズ(中級レベル)、関西弁講座」「京都クイズ(上級レベル)、若者ことば講座」(高岸担当)8回~ 11 回「神道と武道」「合気道の体験」「武道と禅① 禅について」「武道と禅② 座禅実習」(パイエ担当)12~ 14回「日本のポピュラー・カルチャー①(音楽)」、「日本のポピュラー・カルチャー②(サブカルチャー)」、「日本のポピュラー・カルチャー③(音楽)」(ホワイト担当)15 回「総括」

31 名(1レベル(初級前半)~Ⅲレベル(初中級))(交換留学生 17 名、私費留学生 14 名)(アメリカ 15 名、中国 6 名、台湾 5 名、韓国2名、スイス・スウェーデン・オーストラリア各 1名)

2009 年度秋学期「日本の文化 A-51」

脇田里子・パイエ由美子・高岸雅子・ブルース・ホワイト

1~ 3 回「京都ゆかりの歌」「京都の年中行事」「同志社大学建学の精神(新島襄の生涯、重要文化財のキャンパスツアー)」(脇田担当)4~ 7回「神道と武道」「合気道実習」「武道と禅① 禅について」「武道と禅② 座禅実習」(パイエ担当)8~ 11 回「京都の基礎知識を学ぶクイズと日本の遊び」「京都の最新の漫画クイズと日本の漫画」「中級レベルの京都クイズと関西弁」「上級レベルの京都クイズと若者ことば」(高岸担当)12~ 14回「日本のポピュラー・カルチャー①(音楽)」、「日本のポピュラー・カルチャー② (サブカルチャー)」、「日本のポピュラー・カルチャー③(音楽)」(ホワイト担当)15 回「総括」

29 名(1レベル(初級前半)~Ⅲレベル(初中級))(交換留学生 13 名、私費留学生 16 名)(中国 7 名、台湾 7 名、アメリカ 4 名、韓国 3 名、イギリス・オーストラリア各2名、フィンランド・フィリピン・フランス・日本 /アメリカ各 1名)

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初級・初中級レベル学習者対象の「日本の文化」授業の実践報告(高岸 雅子)

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2010 年度春学期「日本の文化 A-51」(日本文化の諸相)

脇田里子・高岸雅子・パイエ由美子・ブルース・ホワイト

1~ 3 回「京都ゆかりの歌」「京都の年中行事」「同志社大学建学の精神(新島襄の生涯、重要文化財のキャンパスツアー)」(脇田担当)4~7回「京都の基礎知識を学ぶクイズと日本の遊び」「京都の最新の漫画クイズと日本の漫画」「中級レベルの京都クイズと関西弁」「上級レベルの京都クイズと若者ことば」(高岸担当)8回~ 11 回「神道と武道」「合気道実習」「武道と禅① 禅について」「武道と禅② 座禅実習」(パイエ担当)12 ~ 15 回 日本のポピュラー・カルチャーについて「①音楽、②サブカルチャー、③音楽、④アイデンティティ」(ホワイト担当)

35 名(1レベル(初級前半)~Ⅲレベル(初中級))(交換留学生 15 名、私費留学生 20 名)(アメリカ 13 名、中国 8名、台湾・韓国各 5名、イギリス・スペイン・タイ・ロシア各 1名)

2010 年秋学期「日本の文化 A-52」(日本文化の諸相)

脇田里子・パイエ由美子・高岸雅子・ブルース・ホワイト

1~ 3 回「京都ゆかりの歌」「京都の年中行事」「同志社大学建学の精神(新島襄の生涯、重要文化財のキャンパスツアー)」(脇田担当)4~ 7回「神道と武道」「合気道実習」「武道と禅① 禅について」「武道と禅② 座禅実習」(パイエ担当)8~ 11 回「京都の基礎知識を学ぶクイズと日本の遊び」「京都の最新の漫画クイズと日本の漫画」「中級レベルの京都クイズと関西弁」「上級レベルの京都クイズと若者ことば」(高岸担当)12~ 15回「日本のポピュラー・カルチャー①(音楽)」、「日本のポピュラー・カルチャー② (サブカルチャー)」、「日本のポピュラー・カルチャー③(音楽)」(ホワイト担当)

39 名(1レベル(初級前半)~Ⅲレベル(初中級))(交換留学生 21 名、私費留学生 18 名)(アメリカ 10 名、中国 8 名、台湾 6 名、韓国4名、ドイツ 2名、イギリス・イスラエル・オーストラリア・カナダ・スペイン・日本・フランス・ポーランド・ロシア各 1名)

 そして 2011 年春学期より現在の、パイエ由美子と筆者との 2名体制になった。この授業は、「日本の文化」の入門のクラスであるため、現代文化と古典文化とどちらも学べた方がよいという判断から、2名の教員によるオムニバス授業を継続することになった。そして 2011 年ごろから総合Ⅰ~Ⅲレベルの学習者数が多くなり「日本の文化」の受講者も増えてきたため、2012 年度春学期から、Ⅰレベルの学習者とⅡ、Ⅲレベルの学習者と、2つのクラスに分けられた。Ⅰレベルのクラスでは、学期前半を高岸が担当し「現代文化」を扱い、後半をパイエ由美子が担当し「古典文化」を扱った。Ⅱ、Ⅲレベルでは学期前半をパイエが担当し、後半を筆者が担当している。それぞれのクラスの授業内容はほぼ同じだが、二つのクラスで学習者の日本語レベルに差があるため、各レベルに合わせて進度を調節している。 次に、「現代文化」「古典文化」を学ぶ順番について述べる。「現代文化」は、扱う内容が学習者に身近で語彙も比較的易しく、理解しやすいと考えられる。一方「古典文化」は、内容がやや難しく、使われる語彙も抽象的なものが多い。そのためⅠレベルのクラスでは、「現代文化」の授業を前半に、「古典文化」を後半に設定した方が理解する上でよいと考えている。 一方、Ⅱ、Ⅲレベルのクラスでは、「古典文化」「現代文化」の順番に学ぶ。そこには時代順に学ぶというメリットがある。例えば「古典文化」の授業で神道や仏教について学んだあと、「現代文化」の「京都の年中行事」を学ぶと、日本の祭りには、日本人の神仏への感謝や祈りの精神が形になったものが多いという説明がより深く理解できると考えられる。 2011 年春学期から 2014 年秋学期にかけての受講者数や国籍については下記の表の通りである。

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『同志社大学 日本語・日本文化研究』 第 14 号

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表 2 2011 年度秋学期〜 2014 年度秋学期�「日本の文化」、学習者の人数・国籍学期学期科目名 受講者の人数・国籍

2011 年春学期「日本の文化 A-71」(日本文化の諸相)

1レベル(初級前半)~Ⅲレベル(初中級)29 名(交換生 10 名、私費留学生 19 名)(中国 13 名、台湾 6名、韓国 3名、アメリカ 2名、スイス・ドイツ・イラン・シンガポール・ニュージーランド各 1名)

2011 年度秋学期「日本の文化 A-72」(日本文化の諸相)

1レベル(初級前半)~Ⅲレベル(初中級)34 名(交換生 16 名、私費留学生 18 名)(中国 12 名、台湾 6名、アメリカ・イギリス各 5名、フランス 2名、韓国・スペイン・カナダ・スイス各 1名)

2012 年度春学期「日本の文化 A-71」(日本文化の諸相)

1レベル(初級前半)25 名(交換留学生 19 名、私費留学生 6名)(アメリカ 9名、中国 5名、アゼルバイジャン 3名、台湾 2名、オーストラリア・デンマーク・カナダ・イラン・メキシコ・カンボジア各 1名)

2012 年度春学期「日本の文化 A-72」(日本文化の諸相)

Ⅱレベル(初級後半)、Ⅲレベル(初中級)33 名(交換留学生 11 名、私費留学生 22 名)(中国 15 名、アメリカ7名、台湾 3名、韓国・ドイツ各 2名、オーストラリア・カナダ・シンガポール・タイ各 1名)

2012 年度秋学期「日本の文化 A-74」(日本文化の諸相)

1レベル(初級前半)10 名(交換留学生 10 名)(アメリカ 3名、オーストラリア2名・フランス・ロシア・スウェーデン・フィンランド・日本)

2012 年度秋学期「日本の文化 A-73」(日本文化の諸相)

Ⅱレベル(初級後半)、Ⅲレベル(初中級)16 名(交換留学生 8名、私費留学生 8名)(中国 8名、フランス・オーストラリア各 2名、ロシア・イギリス・アメリカ・韓国各 1名)

2013 年春学期「日本の文化 A-71」(日本文化の諸相)

1レベル(初級前半)14 名(交換留学生 11 名、私費留学生 3名)(アメリカ 7名、中国 3名、デンマーク 2名、ドイツ・エルサルバドル各1名)

2013 年春学期「日本の文化 A-72」(日本文化の諸相)

Ⅱレベル(初級後半)、Ⅲレベル(初中級)24 名(交換留学生 3名、私費留学生 21 名)(中国 18 名、アメリカ・メキシコ・フランス・オーストラリア・デンマーク・韓国各 1名)

2013 年度秋学期「日本の文化 A-74」(日本文化の諸相)

1レベル(初級前半)17 名(交換留学生 16 名、私費留学生 1名)(アメリカ 7名、フランス・韓国各 3名、中国 2名、オーストラリア・フィンランド各1名)

2013 年度秋学期「日本の文化 A-73」(日本文化の諸相)

Ⅱレベル(初級後半)、Ⅲレベル(初中級)18 名(交換留学生 9名、私費留学生 9名)(中国 10 名、アメリカ 5名・オーストラリア・フランス・日本各 1名)

2014 年春学期「日本の文化 A-71」(日本文化の諸相)

1レベル(初級前半)10 名(交換留学生 10 名)(アメリカ 3名、スイス・中国各 2名、カナダ・ドイツ・イギリス各1名)

2014 年春学期「日本の文化 A-72」(日本文化の諸相)

Ⅱレベル(初級後半)、Ⅲレベル(初中級)23 名(交換留学生 19 名、私費留学生 4名)(アメリカ 11 名、中国 5名、台湾・ポーランド・韓国・フィリピン・デンマーク・スイス・オーストラリア各 1名)

2014 年度秋学期「日本の文化 A-74」(日本文化の諸相)

1レベル(初級前半)11 名(交換留学生 10 名、私費留学生 1名)(アメリカ 5名、フランス 2名、中国・オーストラリア・ロシア・タイ各1名)

2014 年度秋学期「日本の文化 A-73」(日本文化の諸相)

Ⅱレベル(初級後半)、Ⅲレベル(初中級)24 名(交換留学生 18 名、私費留学生 6名)(アメリカ 12 名、フランス・韓国各 2名、中国・ドイツ・スイス・フィンランド・アイルランド・イギリス・台湾・ブラジル各 1名)

 次に、筆者がどのような授業を行なってきたかを述べる。高岸の扱うテーマは、まずは自分の周りのことを知ってもらうために、「京都や同志社大学について知る」を取り上げ、次に多くの学習者にとって関心の高い「ポップカルチャー」を扱い、最後に日常生活でよく耳にする「言葉」を扱った。「言葉」を最後に設定したのは、標準日本語文法の基礎を学習している初級レベルの学生にとって、関西弁や若者言葉は難易度が高いと思われるためである。 以上のような 3つの大きな柱にしている。「自分の周りのこと」として「京都を知ろう」「京都の祭礼・行事」「同志社大学 :建学の精神とキャンパスツアー」、「ポップカル

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初級・初中級レベル学習者対象の「日本の文化」授業の実践報告(高岸 雅子)

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チャー」として「日本の漫画」「日本の流行歌」「日本の子供の遊び」、「言葉」として「関西弁と京ことば」「若者言葉」をそれぞれテーマにした授業を、90 分 1 コマを 1つずつのテーマで行なっている。 90 分の授業では、大きく分けて 3つの活動をしている。(1)その日の学習内容についての講義を聞く、(2)その日の学習内容に関連するテーマが与えられ、4~ 5人ずつのグループで話し合い、その後グループのリーダーが話し合いの内容について簡単に発表する(例:「京都の祭りと自分の出身地の地域文化の祭りの違い」「なぜ日本の漫画は世界中で人気を博しているか」「自分の国の若者言葉を紹介する」)、(3)希望する留学生がその日の学習に関連する内容について短いプレゼンテーションを行なう(例:「好きな漫画について」「自国の漫画事情」「好きな日本語の歌」)などである。倉地(1990)が述べているように、教科内容を教え込む一方的な講義だけでなく、日本文化のあるテーマについて多様な背景をもった学習者間で発表したり、話し合ったりする機会を多く持つことによって、学習者自身の考えを躊躇なく自己開示できるようになると考えられる。また問題提起や発見学習を繰り返すうちに、他文化、多文化理解に広がっていくと考えられる。

表 3 �2011 年春学期〜 2014 年秋学期のⅠレベル対象の「日本文化 A(日本文化の諸相)」の授業内容

(Ⅱ、Ⅲレベル対象のクラスではパイエが学期前半、筆者が学期後半を担当する)担当者、授業のテーマ 授業の活動

担当者:高岸自分の周りのこと①「京都を知ろう」

⑴ 京都クイズに挑戦しましょう。⑵地図で同志社大学の近くにどんな文化遺産があるか確かめましょう。⑶『京都の通り名の歌』を紹介します。一緒に歌いましょう。

担当者:高岸自分の周りのこと②「京都の祭礼と年中行事」

⑴ 京都の祭礼と年中行事について勉強しましょう。⑵ グループで、京都の祭りと自分の出身地の地域文化の祭りとを比べて話し合ってください。最後にリーダーが発表してください。

担当者:高岸自分の周りのこと③「同志社大学建学の精神と新島襄の生涯」

⑴ 同志社大学の創始者、新島襄先生の生涯や同志社大学の始まりについて勉強しましょう。⑵学内の重要な文化財や建築物が見られるキャンパスツアーに参加しましょう。

担当者:高岸ポップカルチャー①「昔の日本の子供の遊び」

⑴ テレビゲームがなかった頃、日本の子供達はどんな遊びをしていたのか、子供の遊びにはどんな意味があるのか、一緒に考えましょう。⑵昔の遊び道具を使って、実際に昔の遊びを体験しましょう。⑶みなさんの国の遊びも紹介してください。

担当者:高岸ポップカルチャー②「日本の漫画」

⑴ 日本の漫画の歴史、日本の漫画が社会にどのような影響を与えているかを説明します。⑵ 「どうして日本の漫画は世界中で人気があるか」について話し合いましょう。最後にリーダーが発表してください。⑶「好きな日本の漫画」「自分の国の漫画事情」について発表してください。

担当者:高岸ポップカルチャー③「日本の流行歌の歴史」

⑴ 第二次世界大戦後の流行歌『りんごの歌』から最近の流行歌まで、日本の社会情勢の歴史とともにいろいろなジャンルの歌を紹介します。知っている歌があれば一緒に歌いましょう。⑵ 20 世紀と 21 世紀以降の歌を比べてどんな点が違うか話し合いましょう。⑶自分の好きな日本の歌、歌手について発表してください。

担当者:高岸言葉①「関西弁講座」

⑴ 関西弁は、おもに近畿地方で話される方言ですが、今では日本で標準語の次に知られている言葉になっています。関西弁の音の特徴や文法、生活でよく使われる表現を勉強しましょう。⑵ 発音やイントネーションに気をつけながら関西弁の短いスキットを練習して発表しましょう。

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『同志社大学 日本語・日本文化研究』 第 14 号

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担当者:高岸言葉②「若者言葉」

⑴ 若者言葉とは、若い人達が生活の中で使っている俗語のことです。今の日本の若者言葉にどんな特徴があるのか、どのようなメカニズムで若者言葉が作られているか考えましょう。⑵グループごとに、自分の国の若者言葉を紹介し合ってください。⑶関西弁と若者言葉を使って短いスキットを作って発表しましょう。

担当者:パイエ神道の文化 1

⑴ 神道クイズに挑戦しましょう。⑵ 日本の神話を読み,日本にはどんな神々がいるのか,また,神社との関わりを学びましょう。⑶各国の聖人やヒーロー,ヒロインについてグループで話し合い,発表しましょう。

担当者:パイエ神道の文化 2

⑴ 神道の概観について学び,日本人の生活との関わりを知りましょう。⑵ 日本の生活の中でのタブーについて知りましょう。各国のタブーについてグループで話し合い,発表しましょう。

担当者:パイエ神道の文化 3

⑴ 京都の町・祭りとのつながりについて勉強しましょう。⑵ 神道と武道とのつながりについて学び,次回実習する合気道の歴史や理念について知りましょう。

担当者:パイエ合気道の実習 「調和の武道」と呼ばれ,力を使わない武道を実際に体験してみましょう。

担当者:パイエ禅の文化1

⑴ 禅の歴史,概観を学び,禅と武道のつながりについて知りましょう。⑵禅のお坊さん,一休さんのクイズにグループで挑戦してみましょう。

担当者:パイエ禅の文化2

⑴ 禅文化について知りましょう。禅画を見て何を感じるか話し合ってみましょう。⑵座禅実習の前に,座禅について学び、呼吸の練習をしてみましょう。⑶茶道のお点前を体験してみましょう。

担当者:パイエ座禅実習 和尚様と一緒に心を静めて座禅を試してみましょう。

5.2 初級レベルの学習者に対する「日本の文化」の授業で行なった工夫 ここでは、初級レベル対象の授業ならではの工夫について述べる。5.2.1 講義のときに用いる表記について

 初級レベルの学習者が受講するクラスでは、英語という媒介語を使うことはやむを得ないと考えている。しかし授業ではあくまで日本語だけで講義をする。そして配布するレジュメや授業で見せるパワーポイント画面に日本語と英語訳を載せている。講義スタイルの授業の時は次のような手順で行なう。教師がゆっくりと簡単な日本語で話し、パワーポイントには話した内容と同じ日本語の文をアニメーションで見せる。少し時間を置いてからその英語訳をアニメーションで示すようにしている。英語訳まで少し間をとるのは、日本語の説明を聞く、文字を読むなどしてどれぐらい理解できるのか試してほしいからである。またレジュメと PPT画面に載せる日本語は漢字仮名交じり文を用い、ほぼすべての漢字にふりがなを打っている。はじめに漢字だけを見せて、そのあとふりがなをアニメーションで示すようにしている。漢字が読めなくても意味がわからなくても、常に漢字仮名まじり文を眼にしながら、「日本の文化」を少しずつ理解してほしいと思うからである。 英語圏以外の初級レベルの学習者については、日本語授業ボランティアの学生(5.2.2で後述)に学習者の横に座ってもらいサポートをしてもらう。漢字圏の学習者には横について漢字を書くなどのサポートをしてもらう。非漢字圏の学習者に対しては、上級レベルの同じ国の学習者に来てもらい通訳をしてもらったこともある。

177

初級・初中級レベル学習者対象の「日本の文化」授業の実践報告(高岸 雅子)

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5.2.2 日本語授業ボランティアによるサポート

 日文センターでは同志社大学・同志社女子大学の学生に向けて、留学生の日本語授業をサポートし、会話練習やディスカッションをしてもらう「日本語授業ボランティア」を募集している。「日本語授業ボランティア」を希望する教師は日文センターの担当者に申し込む。日文センターの募集方法として、日文センターのホームページに掲載する、校門付近の立て看板やキャンパス内の掲示板に掲示するなどがある。日本語授業ボランティアを希望する学生は、希望する授業の担当教師へ直接 E-mailを送って申し込みをする。学生からの Email受信後 1週間以内に、教師から学生に参加可か不可かを連絡し、参加可の場合は教室や授業内容について連絡する。 このような方法で、筆者の「日本の文化」の授業に多くの日本語授業ボランティアが参加してくれた。参加してくれる学生は、数年前までは 3,4 回生が多かったが、最近では入学してすぐの 1回生の学生からの応募も多くなった。学生の所属学部はさまざまである。中には海外留学経験者や、日本語教師を志望している学生もいる。筆者は「日本の文化」以外の授業でも日本語授業ボランティアを募集しているが、中でも「日本の文化」の授業に来てくれる日本語授業ボランティアは多い。もともとの参加者が友人を勧誘して連れてきてくれることもあり、ボランティアの人数は、回を追うごとに増えていくことが多い。学期の終わり頃には登録している学習者数を上回ったこともあった。 「日本の文化」での日本語授業ボランティアの役割は、授業中の日本語サポートと「話し合いの活動」の時のサポートである。4、5 人のグループに分かれて話し合う時、その中に必ず日本語授業ボランティアに 1~ 2 人ぐらい入ってもらう。外国人学習者だけでは話し合いが盛り上がらない場合、日本語授業ボランティアの方から話題を持ちかけることにより、活発な話し合いに発展することが多い。そして外国人学習者がリーダーになって話し合いの内容について日本語で発表するときも、日本語授業ボランティアが手助けをしてくれる。また話し合いを通して、外国人学習者、日本語授業ボランティアともに、普段気にとめずにいる事柄を意識化したり、考えたりするきっかけになっている。さらにグループで一つのことを話し合い、協働作業をすることにより、外国人学習者と日本語授業ボランティアとの間に深い交流の場が生まれることもある。

6 学習者は何を得たのか 「日本文化」の授業を受講した学習者は、何を得ることができたのだろうか。この章では、学習者がどのようにこの授業に取り組み、どのような印象を持ち、どのような成果があったと感じているかを紹介する。以下で、2008 年度から 2014 年度の授業を受講した学習者が期末レポートとして提出した「授業の感想」をもとに、学習者の反応を下記のように 8つの項目に分けて、項目別に紹介していきたい。1. 日本語での講義の理解度について、日本語能力について

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『同志社大学 日本語・日本文化研究』 第 14 号

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2. 授業を受けて「日本の文化」に対する認識、視点が変化したこと3. 日常生活で「日本の文化」を学ぶ必要性を実感したこと4.「日本の文化」に触れて自文化を内省したこと5. 様々な国の外国人学習者や日本人学生との協働作業によって異文化相互理解が図れたこと

6.人前で発表する経験ができたこと7.「日本の文化」に触れて、さらに挑戦したいと感じたこと8. 授業の問題点

 期末レポートは、これまでの「日本の文化の諸相」の授業を受講した学習者全員が提出しているので、合計 457 名のレポートがある。457 名分のレポートの文面から、本稿で紹介する文章をどのように選んだかについては下記の通りである。(1)まずすべてのレポートを読み直したうえで、8つの項目を考えた。(2)8つの項目それぞれに適した内容の文章を抜き出して振り分けていった。(3) 1 つの項目に多くの文章が振り分けられたが、そのうち特に視点がおもしろいと

感じた文章、深く学んだと感じられる文章を、1項目につき 2つか 3つずつ選んでいった。

6.1 日本語での講義の理解度について、日本語能力について6.1.1 聴解力と会話力について

「私は日本の文化に興味がありますが、難しすぎる言葉で教えられたら困ると思い

ました。けれども先生は、簡単な言葉を使いました。とてもわかりやすかったです。」

(ドイツ人、女性)

「授業の前に、このクラスは全部日本語で教えると聞いてびっくりしました。でも、はじめ

の頃は 50%しかわからなくてもいろいろ習えました。そしてだんだん慣れてきました。」(ア

メリカ人、女性)

「グループで話すのがよかったです。みなが日本語で話す練習ができました。わからなかっ

たら、ボランティアさんが教えてくれました。発表のときも助けてくれました。世界中のお

祭りについていろいろわかりました。これは一石二鳥ではないでしょうか。」(韓国人、男性)

6.1.2 筆者の見解

 初級レベルの学習者にとって、日本語だけで難しい内容の講義を聞くのは大きな負担になると考えられる。けれども、5.2.1 で述べたような表記上の工夫をしたり、わからない時には日本語授業ボランティアに教えてもらったりすることにより、ほとんど

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初級・初中級レベル学習者対象の「日本の文化」授業の実践報告(高岸 雅子)

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の学習者は継続して出席している。これまでの学期で日本語の難易度を理由にキャンセルした学習者は、ほんの僅かな人数である。またこの「日本の文化 A(日本文化の諸相)」の授業の出席率が 100%という学習者は、毎学期 90%以上であったということも付け加えたい。

6.2 授業を受けて「日本の文化」に対する認識、視点が変化したこと 6.2.1 関西弁について「『関西弁』の授業で、関西弁と標準語の違いについて学びました。標準語との大きい違いは

単語ではなくアクセントとイントネーションです。文字だけ見ると、これらの違いはわかり

にくいですが、聞くとその違いが感じられます。関西弁は標準語に比べると、長く伸ばして

発音します。そしてもっとフィーリングがあると思います。」(中国人、女性)

6.2.2 若者言葉について「若者が使う言葉の意味は時とともに変化しています。「やばい」は、元々は「危ない」とい

う意味でしたが、今は「とてもよくてたまらない」という意味にもなると習いました。この

ように言葉は生きているということがよくわかりました。日本語学習者にとって若者言葉は

はじめて聞いたとき、まったく意味がわからず混乱することもあるでしょう。でも若者言葉

が作られるメカニズムや日本の若者の考え方がわかると、だんだんそのおもしろさがわかっ

てきました。」(中国人、男性)

6.2.3 「日本の漫画」について「アメリカで日本の漫画はかなり人気がありますが、その理由がよくわかりませんでした。

グループで『なぜ日本の漫画は世界で人気があるのか』について話し合いました。「いろい

ろなジャンルの漫画があるので好きなものを選ぶことができる」「メッセージ性が強い」「登

場人物に共感できる」「読むと元気になれる」「擬音語・擬態語など日本語表現のおもしろさ

を感じることができる」など、いろいろな意見がでました。それからもっと漫画が読みたく

なりました。」(アメリカ人、女性)

「私の国では、漫画は子供にとって教育的効果があるべきものであるという考え方ですが、

それに比べて日本の漫画家は自由に作品を作っていると思います。例えば強盗が主人公の漫

画や、どんなに苦労しても報われずに死んでしまう主人公の漫画などもあり、まったく教育

的ではないですが、大人が読んでもおもしろく、意味が深いものが多いです。」(中国人、女性)

6.2.4 「同志社の建学の精神:新島襄の生涯」について「私は同志社の創始者の話を聞いて感動しました。江戸時代日本人は外国に行けなかったこ

と、京都にキリスト教の学校を作る前に仏教徒から強い反対を受けたことなど知りました。

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『同志社大学 日本語・日本文化研究』 第 14 号

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けれども新島襄は自分の夢を実現するためにあきらめずに努力しました。そのような姿に感

動しました。その話を聞いたあとでキャンパスツアーに行きました。普段何も考えずに通り

過ぎていた建物について、深い思いで説明を聞くことができました。」(台湾人、女性)

「私の母校、アーモスト大学のチャペルの祭壇の右側に新島襄の肖像画があります。これは

とても大切な場所だと言われています。きょうその新島襄の話が聞けてよかったと思いま

す。」(アメリカ人、女性)

6.2.5 筆者の見解

 池田(1975)は学習者の学びについて下記のように述べている。

学習者が大人であればあるほど、“言葉”を学ぼうとするのは、何か新しい“こと”が学び

たいからである。それは表面的には“言葉”の学習という形にみえるが、彼らは無意識的に

はそれで満足しているわけではない。“言葉”の学習の中で、抽象的な世界に遊び、価値観

の相違に驚くといった、非常に高度な精神的な要求を充足させているのである 9。

  外国人学習者は、自国の社会においてそれぞれ固有の価値観を持っている。けれども日本の文化を学ぶことで、それまでの価値観と違うことに驚いたり視点や認識が変わることを楽しんだりしているようである。このように自国との違いに違和感や拒否反応を感じるのではなく、「おもしろい」と感じている。その気持ちは日本の文化理解につながり、やがては自らの「日本文化」を発見することにつながっていくのではないかと感じた。

6.3 日常生活で「日本の文化」を学ぶ必要性を実感したこと

6.3.1 日常生活で使う言葉について「日本人の友達と日本語の教科書の文法を使って話したら笑われてしまったので、それ以降、

日本人と話すたびに緊張するようになりました。けれども、日本人みんなが使っている関西

弁や若者言葉を使うとみんなが喜んでくれてお互いの間にあった壁がなくなったように感じ

ました。自然にコミュニケーションをするために、今使われている言葉を聞いたり話したり

することは大切だと思いました。」(中国人、女性)

「今私の周りには、『毎日クラスで勉強する言葉』と、キャンパスで耳にする『関西弁』『若

者言葉』の 3つの言葉があることがわかった。3つの言葉は、話し相手や場面によってきち

んと使い分けなければいけないこともわかった。このようなことは学期のできるだけ早い時

期に学んだ方がいいと思った。」(アメリカ人、女性)

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初級・初中級レベル学習者対象の「日本の文化」授業の実践報告(高岸 雅子)

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「母国の大学院の外国人対象の中国語授業の研修を受けているとき、先生から「教師である

以上、学生たちに正しくていい言葉を教えなければいけない。」と叩き込まれた。しかし私は、

言語と文化は離れられない共同体だと思う。正式な言葉ではないがよく使われている若者言

葉や方言も教えてもよいのではないかと思っている。「関西弁」「若者言葉」の授業を受けて

から、自分の考え方は間違っていないことを実感した。」(中国人、女性)

6.3.2 筆者の見解 

 学習者の中には日常生活でよく使われる言葉に敏感で、その言葉を使えた方がスムーズにコミュニケーションが図れると感じている者が多い。それだけに「関西弁」や「若者言葉」など言葉についての授業は、普通の生活につながっていて役に立つ、またこのような言葉を習うことに意味があると考えていることがわかった。中には「京都に住んでいるうちに、標準語より関西弁で話した方が自分の気持ちを伝え易いし、自然な行動もできると感じるようになった。」というアメリカ人男性の学習者もいた。この学習者は、異文化の中で生きていくための新しい学習方法、つまり新しい文化を体得したと言えるのかもしれない。

6.4 「日本の文化」に触れて自文化を内省したこと

6.4.1 自国の祭りについて「韓国は戦争や急速な経済発展などの理由で、いくつかの伝統的なお祭りはなくなってしま

いました。今韓国には、地域の経済発展のために始めた祭りが多く、外国からの観光客も楽

しめるようなエンターティメント性のあるものが多いです。一方日本には、古くからの伝統

的な祭りがたくさん残っているようです。私は近い将来、韓国でも伝統的で独自性のある文

化を伝えていけるような祭りを新たに興したいと思っています。」(韓国人、女性)

6.4.2 筆者の見解

 日本のことや京都のことを伝えたあとは、必ず自国の状況を振り返ってクラスメートと伝え合う時間を持たせている。この活動を通して自分の文化を客観的な視点で見つめ直した上で、物事を全体的に把握する能力がつけてほしいと思う。それによって異なる多様な文化を受け入れる柔軟性を養うことができる。さらに自国の将来のあるべき姿を展望することもできると考えられる。

6.5 様々な国の留学生や日本人学生との協働作業によって異文化相互理解が図れたこと

6.5.1 予想外の発見があった例「ヨーロッパから来た留学生が、日本に近い韓国から来た自分より、もっと日本の文化につ

いてよく知っていることにとても驚きました。」(韓国人、女性)

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『同志社大学 日本語・日本文化研究』 第 14 号

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「アメリカ人留学生が、韓国の歌手の日本発売の曲を紹介したことが記憶に残っています。

他の国の留学生が日本の文化だけでなく、私の国の文化を紹介してくれたのでとても嬉し

かったです」(韓国人、女性)

6.5.2 話し合いの重要性を知った例 「グループで自国の若者言葉について話し合いました。それで、若者言葉は若者同士が分か

り合う鍵になるということも、世界中の若者の考え方が似ていることもわかりました。昔か

ら外国人の考え方は理解できないと思っていましたが、話し合うと理解し合えるということ

がわかったような気がしました。」(中国人、男性)

6.5.3  異文化交流を楽しんだ例「皆がたくさん意見と感想を言う時間がありました。他の国から来た学生は漫画についての

意見が私と結構違いましたが、異なった意見を持っていたからこそ、いい議論ができました。」

(台湾人、女性)

「授業を通じて、同じ趣味を持っている同級生と知り合えて本当に嬉しかったです。これか

らも同じ趣味を通してたくさんの友達を作りたいです。」(フィンランド人、女性)

「クラス全員で遊ぶことを体験しました。留学生は、いろいろな国から来ているので文化も

言葉も違いますが、子供のときの遊びには同じものがあります。みんなで一緒に子供のよう

に遊んだり笑ったりして、すごく不思議な時間でした。」(イスラエル人、女性)

「最初はこのクラスは「日本の文化」だけ一方的に習うと思ったが、そうではなく自分の文

化を見直せるし、さまざまな国の文化についても学ぶことができる。だからこそ教科書以外

の貴重な知識を勉強でき、国際交流も築くことができる。」(中国人、男性)

6.5.4 筆者の見解 

 倉地(1990)は、異文化接触について次のように述べている。

 多民族・多文化的背景を持った学習者によってクラスが構成されている場合、クラスその

ものが異文化接触の日常的な場となり、異文化理解教育の大切な機会となることを充分に配

慮し、この多文化的グループ・ダイナミックスを最大限に学習活動に発揮出来るような教育

方法を生み出すことも肝要である 10。

 授業での学習者の様子を見ていると、グループで話し合うように教師から指示されると、普段はそれほど深い付き合いをしていない学習者同士でも真剣に話し合おうと

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初級・初中級レベル学習者対象の「日本の文化」授業の実践報告(高岸 雅子)

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している。その際、相手の話を日本語で聞こうとし、自分の伝えたいことを日本語で伝えようとしている。このように日本語を駆使してお互いの文化について分かり合おうとしている。そうしたことが繰り返されることによって、さまざまな国の文化を理解しようとする態度が育まれ、異文化理解が深まっていくように感じた。

6.6 人前で発表する経験ができたこと「私は漫画が大好きですから、『フランスの漫画事情』について発表しました。私は初級なの

で難しかったですが、初めて自分で日本語で話しました。自分の好きなことについて話すの

はおもしろい経験だったと思います。」(フランス人、女性)

「関西弁と若者言葉の会話を練習して発表しました。先生やボランティアさんの細やかな指

導のもとで発音とアクセントを直していただき何回も練習してやっとみんなの前で発表しま

した。日本語がもっと好きになりました。」(アメリカ人、女性)

「友達と一緒にある漫画について発表しました。同じ漫画好きの友達と大好きな漫画につい

ての発表だったので、日本語で発表する緊張感すら忘れてしまうほど楽しかったです。」(台

湾人、女性)

「学生の発表はおもしろかったです。授業で習うことも多いですが、いろいろな学生達が発

表して、その学生の考え方が分かるようになっておもしろかったです。そして私が好きなも

のとよく似ていることもあって嬉しかったし、新しい情報も得ることができました。」(アメ

リカ人、女性)

6.6.1 筆者の見解

 まだ初級前半レベルで語彙数が極端に少ない学習者でも、自分の好きなこと、例えばアニメや漫画、歌などについてであれば、「そのことについて話したい」という強い動機づけになり、驚くほどの集中力で発表原稿を書き、教師に添削を求め、さらに発表のために凝った視覚教材を作ってきたりすることがある。日本語レベルの高い学習者が混じっているクラスなら発表を躊躇するかもしれないが、同じぐらいのレベルの学習者だけのクラスなら、それほど躊躇なく発表できるようだ。発表のあと達成感に浸っている学習者を見ていると、教師の方で「初級前半レベルの学習者は言葉も足りないし、むずかしいテーマの発表は無理だ。」と勝手に決めつけてはいけない、学習者の可能性を引き出すために教師も努力しなければならないと感じた。

6.7 「日本の文化」に触れてさらに挑戦したいと感じたこと「祇園祭はどういう祭りかという説明だけでなく、祇園祭の起源について勉強できたのがお

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『同志社大学 日本語・日本文化研究』 第 14 号

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もしろかったです。今後は日本人の習慣の歴史的意義を現代的意義と比べたいと思います。

一例として、多くの人々は今も鬼や厄払いを信じているかどうかを調べたいです。」(アメリ

カ人、男性)

「新島襄の授業が一番印象に残りました。国禁を犯して船で脱出する情熱、死ぬ前まで熱心

に運動する教育精神、仏教徒の反対が強い京都の町にキリスト教の学校を作りたいという強

い挑戦の気持ちもすごかったです。私も若者として高い志を持って、全力を尽くして夢に向

かって頑張ろうと思いました。」(中国人、女性)

6.7.1 筆者の見解 

 この「日本の文化」の授業では、90 分 1 コマで 1つのテーマを扱っているので、それほど深い内容の授業はできないが、この授業をきっかけに、もっと深く勉強したい、全力を尽くしたいという動機付けになることがあれば、この授業はその学習者の目標決定に一役買ったことになる。今後も学習者の関心を大いに喚起するような内容の授業を考えたいと思う。

6.8 授業の問題点

6.8.1 授業のやり方、テーマの選び方、課題の与え方などについての問題点

「希望者だけにプレゼンテーションをさせるのでなく、学生全員にさせた方がいいと思う。

そうすれば、みんな頑張って準備をしたと思う。」(アメリカ人、男性)

「学生にとって、授業を受けてそれで終わりというのはよくないです。やはりそれぞれのテー

マについてどんなことでもいいから日本語で語れるようになりたいです。そうでないと自分

たちに進歩がないと思います。」(ドイツ人、男性)

「授業の内容は、私の役に立つこともそうじゃないこともありました。身近なことは役に立

ちましたが、流行歌は歌詞の意味もわからないし、よく聞こえなかったし難しかったです。

そして若者言葉は、標準日本語もわからないのに、若者言葉はもっとわかりにくいです。」(韓

国人、男性)

「それぞれのトピックの勉強の時間はちょっと短いと思います。 1 つのテーマで 1コマしか

勉強しませんでした。 1 つのテーマで 2,3 コマ勉強した方がいいです。」(台湾人、女性)

6.8.2 授業の問題点についてどう改善したか

 以上のような授業に対する不満や授業への注文については、これからも耳を傾けて

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初級・初中級レベル学習者対象の「日本の文化」授業の実践報告(高岸 雅子)

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いきたいと思う。登録学習者の数や授業時間数などの事情により改善できない点もあるが、授業のやり方については改善できる。たとえば、「学生にとって、授業を受けてそれで終わりというのはよくない。」という学習者の指摘を受けて、以降の学期では、毎回授業内容について感想を書かせる、または質問に答えさせるなどの課題レポートを宿題として課し、日本語で書いて提出させることにした。提出された宿題は、教師が添削し文法的誤りを訂正し、内容についてわかりにくいところは翌週、書いた本人に聞いて直させたりしている。それにより習ったテーマについて自分の意見を少しでも話すことができるようになったと思われる。 一方、「標準日本語もわからないのに、若者言葉はもっとわかりにくい。」という声もあった。このように初級学習者に関西弁や若者言葉を教えることについての負の影響も考えなければならない。初級学習者に関西弁の文法や若者言葉の作られるメカニズムを説明しても、混乱を招くおそれがある。そこで負の影響をできるだけ小さくするために、(1)関西弁、若者言葉を扱う授業は、筆者担当の学期の最後の 2コマの授業に設定している。(2)文法の説明をできるだけ減らし、ひとことで使える役に立つ表現、例えば「ほんま?」「めっちゃ○○い!」などを紹介している。(3)アクセントやイントネーションの違いであれば初級学習者にもわかりやすいと考えられる。そこで標準日本語と関西弁の違いの一つとして、アクセントやイントネーションの違いを耳で聞かせてその違いがわかるようにしている。 また、「1つのテーマで 1コマしか勉強できないので、学習内容が深まらない。」という不満点についてだが、この授業は「日本文化の諸相」というタイトルのとおり、日本文化のさまざまな断面を紹介していくものであり、初級の学習者が理解できる日本語で伝えられる範囲の内容を、毎週テーマを変えて紹介していく授業だと考えている。けれども不満点を書いた学習者にとっては物足りないと感じたのかもしれない。今後はできるだけ表面的な紹介のみに終わらないように、それぞれの「文化」が学習者自身の身近な生活、あるいは今後の社会にどのような影響を与えるかを考えさせるような内容にしていきたいと考えている。

 2015 年度秋学期から「日本のきもの文化」をテーマとした授業を取り入れ、ゲストスピーカーとして京都のきものメーカー会社の社長で小紋研究家である方に講演をお願いすることにした。今後できれば、「京都の企業」「京の食文化」「日本の昔話」などについても扱ってみたいと考えている。可能であれば、3コマで 1つのテーマを扱う教室活動や教室外での活動も取り入れることができればと思っている。3コマの内訳は、「事前学習(テーマについての基礎知識を学ぶ。)」「現地の見学または調査」「事後学習(見学の感想の発表、現地調査の結果発表、ディスカッションなど)」である。このような教室活動を取り入れることにより、学習者はこれまでより主体的な態度で「日本の文化」を探究することが求められる。

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『同志社大学 日本語・日本文化研究』 第 14 号

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7 まとめ 学習者の中には、筆者が担当している「日本の文化」の授業を受けることにより、これまでの既成概念との違いに驚き視点や認識が変わることを楽しんでいる者、生活に直接役立てている者、異文化を知って自文化を内省し今後の自国のあるべき姿を展望しようとしている者、さまざまな国の学習者と異文化相互理解が図れたと考えている者、授業を受けてさらに学問を深めていこうとする者など、さまざまな成果があったことを挙げてくれた。以上の学習者の成果を考えると、固定化された日本文化の知識をそのまま受け取るのではなく、学習者それぞれが日本の文化、日本人、日本の社会に接触し、自らの体験や世界観を拡大している。それは自らの「日本の文化」を発見したと言えるのではないだろうか。その学習は、自文化を見直したり異文化を理解したりすることにつながり、やがてはグローバルな視点でものごとを見るという態度を培うことができると思われる。 これまでは、授業を登録している外国人学習者の声だけ聞いてきたが、今度は継続してこの授業に通い留学生のサポートをしてくれた日本語授業ボランティアの学生の声も聞いてみたいと思う。そして日本人が「日本の文化」の授業を外国人学習者と一緒に受けることやサポートをすることにはどういう意味があるか、従来の視点や認識が変わるなどの結果があるかなどを聞いてみたい。そのうえで登録している外国人学習者にはもちろん、協力してくれる日本語授業ボランティアに少しでも得るものがあるような授業を作っていきたいと思う。

 急速に高まるグローバル化の波は大学の世界にも押し寄せている。そして多くの大学が国際化・グローバル化への対応が求められている中で、同志社大学でもグローバル化への取り組みが積極的に進められている。そのためにも、今後外国人学習者と日本人学生の多面的な交流を促進する必要があると考えられている。今後も、多様な文化背景を持った学習者同士が、互いに議論をしたり協働作業をしたりすることによって、共に学び合うような機会を多く持たせることが肝要だと思われる。「日本の文化」の授業は、そのような役割も担っていきたいと考えている。

謝辞 最後に、筆者の「日本の文化」の授業に出席し熱心に学び、貴重な感想を残してくれた多くの外国人学習者の皆さん、また授業に継続して参加し日本語のサポートをしてくださった日本語授業ボランティアの皆さんにも、心より感謝の気持ちを示したいと思います。

注 1 徐一平,トムソン木下千尋,崔官他(2012)「第 10 回日本語教育国際研究大会;日本

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初級・初中級レベル学習者対象の「日本の文化」授業の実践報告(高岸 雅子)

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研究と日本語教育のクロスロード:日本語教育における日本文化理解」『日本語教育』

151 号,日本語教育学会,p.25. 

2 倉地暁美(1988)「中級学習者の日本語日本事情教育におけるグループ研究プロジェク

トの試み̶異文化間教育心理学の視座から̶」『日本語教育』66号,日本語教育学会,p.48.

3 池田摩耶子(1975)「日本語教育の中での“言葉と文化”の扱い方」『日本語教育』27 号,

日本語教育学会,p.11.

4 池田摩耶子(1975)「日本語教育の中での“言葉と文化”の扱い方」『日本語教育』27 号,

日本語教育学会,pp.9-10.

5 倉地暁美(1990)「学習者の異文化理解についての一考察̶日本語・日本事情教育の場

合̶」『日本語教育』71 号,日本語教育学会,p.161.

6 徐一平,トムソン木下千尋,崔官他(2012)「第 10 回日本語教育国際研究大会;日本

研究と日本語教育のクロスロード:日本語教育における日本文化理解」『日本語教育』

151 号,日本語教育学会,p.29.

7 久保田竜子(2013)「日本語教育における文化」『アメリカにおける日本語教育の過去・

現在・未来(Japanese Language Education in the U.S.-Past, Present and Futures)』,

国際交流基金,p.1.

8 倉地暁美(1988)「中級学習者の日本語日本事情教育におけるグループ研究プロジェク

トの試み̶異文化間教育心理学の視座から̶」『日本語教育』66 号,日本語教育学会,

pp.50-51.

9 池田摩耶子(1975)「日本語教育の中での“言葉と文化”の扱い方」『日本語教育』27 号,

日本語教育学会,p.16.

10 倉地暁美(1990)「学習者の異文化理解についての一考察̶日本語・日本事情教育の場

合̶」『日本語教育』71 号,日本語教育学会,pp.168-169.

参考文献池田摩耶子(1975)「日本語教育の中での“言葉と文化”の扱い方」『日本語教育』27 号,

日本語教育学会,pp.9-16.

金本節子(1988)「日本語教育における日本文化の教授」『日本語教育』65 号 . 日本語教育学会,

pp.1-15.

久保田竜子(2013)「日本語教育における文化」『アメリカにおける日本語教育の過去・現在・

未来(Japanese Language Education in the U.S.-Past, Present and Futures)』,国際交

流基金

倉地暁美(1988)「中級学習者の日本語日本事情教育におけるグループ研究プロジェクトの

試み̶異文化間教育心理学の視座から̶」『日本語教育』66 号,日本語教育学会,pp.48-

62.

――――(1990)「学習者の異文化理解についての一考察̶日本語・日本事情教育の場合̶」

188

『同志社大学 日本語・日本文化研究』 第 14 号

Page 21: Report on Japanese Culture course for elementary …...初級・初中級レベル学習者対象の 「日本の文化」授業の実践報告 Report on "Japanese Culture" course

『日本語教育』71 号,日本語教育学会,pp.158-170.

国際交流基金(2014)『日本事情・日本文化を教える 第 2版』国際交流基金日本語教授法シ

リーズ 11,ひつじ書房 .

徐一平,トムソン木下千尋,崔官他(2012)「第 10 回日本語教育国際研究大会;日本研究

と日本語教育のクロスロード:日本語教育における日本文化理解」『日本語教育』151 号,

日本語教育学会,pp.21-33.

細川英雄(1995)「教育方法論としての「日本事情」-その位置づけと可能性 -」『日本語教育』 

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――――(1997)「言語習得における「文化」の意味について」,『早稲田大学日本語研究教

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――――(2002)『ことばと文化を結ぶ日本語教育』(日本語教師のための知識本シリーズ②) 

凡人社 .

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初級・初中級レベル学習者対象の「日本の文化」授業の実践報告(高岸 雅子)