日本における医療制度の課題と 医療・健康産業の行方 - Fujitsu...Integrative...

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Copyright 2014 FUJITSU RESEARCH INSTITUTE 日本における医療制度の課題と 医療・健康産業の行方 2014年1月20日 富士通総研 経済研究所 上級研究員 河野敏鑑(KOUNO Toshiaki)

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日本における医療制度の課題と 医療・健康産業の行方

2014年1月20日 富士通総研 経済研究所 上級研究員 河野敏鑑(KOUNO Toshiaki)

経済学から見た問題意識

社会保障の観点から、日本の持続性を考える。

財政を持続可能にする。

人々の幸福の維持・向上

両者を満たすには、健康状態の維持・改善、

すなわち、予防を行うことが必要。

そのためには何が必要か。

予防に関する取り組みについて

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1. 高齢化を巡る日本の現状

2. 医療費増加への対応策

3. 海外でのデータ分析事例

4. 日本のデータ分析事例

5. 日本の予防活動の現状と将来像

6. 予防活動と医療・健康産業の行方

本日のご報告

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1.高齢化を巡る日本の現状

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少子高齢化の進展 (千人)

(出典) 国立社会保障・人口問題研究所 平成25年3月 人口推計による。 4

社会保障費用の増加

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(出典)内閣府社会保障改革に関する集中検討会議 「社会保障に係る費用の将来推計について」

http://www.cas.go.jp/jp/seisaku/syakaihosyou/syutyukento/dai10/siryou1-1.pdf

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2.医療費増加への対応策

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政府の施策

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診療報酬 の削減

病床数の 規制

ジェネリック 医薬品

このような施策は、財政的なつじつま合わせに終始したといわざるを得ない。

国民の健康水準の向上を伴わなければ、本当の問題解決にはならない。

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武豊町の事例①

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知多半島の武豊町で、サロンを作り、高齢者の健康度の改善といった効果があった。

(図表の出典)Ichida et. al.(2013)より

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武豊町の事例②

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参加者

非参加者

(グラフの出典)Ichida et. al.(2013)より作成

設置前 設置後

主観的健康度が よい人の割合

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課題解決の理想的な姿

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健康

医療財政 満足

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健康向上と財政問題解決のために

従業員の健康に熱心に取り組む会社に

ヒアリングに行くと、ほぼ必ず言われること。

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「健康指標を数値化する。」 「数値化しないと目標も戦略も立てられない。」

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3.海外でのデータ分析事例

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健康研究の動向

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病気 (罹患群)

健康 (罹患予備群)

集団

分子

個体

疾病解明を中心とした ライフサイエンス重要研究領域

健康・集団への拡大

(出典)CRDS資料を基に 富士通総研作成

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健康研究動向(米国まとめ)

慢性疾患の早期発見から「予測(Predict)」技術開発(NIH)

患者個人に合わせた治療(Personalized treatment)

(NIH)

慢性疾患に対する先制(Preempt)医療の実現

(NIH)

希少・未対応疾患・治療(NIH)

バイオディフェンスのための診断、新薬、ワクチンの開発(NIH)

エイズプログラム (NIH)

診断不能疾病 (NIH)

Engineering Research Centers (ERC) プログラム(橋渡し研究)

次世代のナノ、バイオ、情報技術を創出する生物学研究の推進

生物科学分野の研究資源と中核施設の確保(バイオリソースの蓄積とデジタル化、 バイオインフォマティクスの拡充)

NSF

NIH

NIH

基礎生物学の知見を疾患等の治療に役立てる橋渡

し研究へ(NSF)

罹患患者の治療を目的とした研究から、罹患の予防・予測を可能にする技術開発へ

(NIH)

病気 (罹患群)

健康 (罹患予備群)

分子

集団

個体

健常人を対象とした 研究開発の実施

(出典)CRDS資料

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健康研究動向(欧州まとめ)

Ageing-related research (MRC)

Infections and vaccine research Global health

(MRC)

Biomarkers (MRC)

Translating research for human health(FP7)

Biotechnology, generic tools and medical technologies for human health(FP7)

Optimising the delivery of health care to European citizens(FP7)

MRC

NIH

NIH

病気 (罹患群)

健康 (罹患予備群)

分子

集団

個体

Integrative Biology(BBSRC)

Bioscience for Industry (BBSRC)

The Healthy Organism(BBSRC)

•FP7とBBSRCは基礎研究の知見を「橋渡し」または「健康・予防」に展開させる研究

を重点化 •MRCは罹患患者の治療を目的とした研

究開発から老化関連研究へ

英国: 保険省(DH)および

イノベーション・大学・技能省(DIUS) の共同設立による

健康研究戦略連携局(OSCHR)等

健常人を対象とした 研究開発の実施

(出典)CRDS資料

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FP7

FP7

海外でのデータを用いた分析

英国MRCの生涯コホート研究

1946年、1958年、1970年の

ナショナル出生コホートの

データをもとに教育や雇用など

とメンタルヘルスとの関連に

ついて分析。

人生の最初に受けた精神的

問題が、成長してからの教育

や所得などとも関連することを

示し、早期の介入を政策提言。 Copyright 2014 FUJITSU RESEARCH INSTITUTE 16

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(出典)British Government office for Science Foresight System maps をもとに(独法)科学技術振興機構作成

データ分析から分かったこと

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データ分析から分かったこと

健康寿命を決める要因として、「身体の発達・加齢」、「遺伝子」、「環境」の3つが重要。

環境は社会的側面が強い。

(ストレス、タバコなど)

遺伝子解析は進んだが、多様性や環境、加齢に関する研究はこれから。

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健康寿命を伸ばすための研究や戦略が要求され、 そのために精緻な個人のデータが必要

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個人データを海外ではどう集め、活かしているか

追跡率を上げて、データベースの精緻化

(正確性、最新性)に力点を置く。

MBA holderがプログラムをマネジメント

インタビュアーを独自プログラムで養成

バースディカードの送付、被険者を集めたパーティ、facebookで被険者といつでもコンタクトが取れる。

自殺の危険性がある被険者に研究者が電話

研究成果を共有するための対話集会

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4.日本のデータ分析事例

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日本でのデータを用いた分析

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(出典)CRDS資料

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日本の研究

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病気 (罹患群)

健康 (罹患予備群)

集団

分子

個体

癌受診コホート

JALS (糖尿病)

(iPS細胞の研究など)

久山スタディー

エコチル

(出典)CRDS資料をベースに 富士通総研作成

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日本のデータの問題点

特定の疾病(がんなど)、特定の年代(子供、

高齢者など)を対象にしたものが多い。

一部の地域、特に農村部に偏っている

なぜ都市部でデータ分析がやりずらいのか

•都市部では健保・共済加入者が多く、保険者がばらばらでデータが集めにくい。

•医療機関(特に病院)の数が多く、個人単位のデータが集めにくい。

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都市部こそ高齢者問題が重要に

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千葉県柏市の人口予測 千葉県鴨川市の人口予測

(出典)国立社会保障・人口問題研究所(平成25年3月推計) 24

日本における問題点

日本で行われているコホート研究は断片的

(子供、高齢者といった人生の一部分のみor

一部の地域)。

社会制度や人種・生活習慣が異なる海外の

研究成果を、そのまま日本に適用することは

不可能。

高齢化が進む都市部の実態を把握できないまま、政策が進められかねない。

分析の成果が政策に活かされていない。

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5.日本の予防活動の現状と将来像

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予防活動はされているが…

データの科学的な分析に基づく予防活動が実践されているとは言いがたい。

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広報誌

保養所

人間ドック

(写真の出典) 公的医療保険者ホームページより (写真はイメージです。)

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なぜ非効率?

日本の公的医療制度は感染症(典型的には

結核)に対応するシステムとして戦後整備。

出来高払い

保養所(結核療養所)

→生活習慣病など慢性疾患の増加に対応できず

福利厚生の一部という認識に留まっていることも。

人事のローテーションでノウハウが蓄積されていない。

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先進的な予防活動のために

上医治国、中医治人、下医治病。

本来であれば、「国を治す」ためには、国レベルの集団で、教育や雇用を含めた長期の健康に関するデータが必要。

いますぐできることとして、健康保険などの

データを用いて、企業レベル、地域レベルで

効率的に予防活動を行った事例を紹介する。

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(出典)『小品方』

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会社における先進事例

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(出典)三井化学ホームページ

メンタルヘルスが増加→ ・「新職場ストレス度調査」を全社で実施し、調査結果は個人にフィードバックするだけでなく、 各職場にも所属長に説明。 ・ストレスが高いと考えられる職場では、ストレス低減計画(コミュニケーション向上計画)を 立案・計画・実行。 ・メンタルヘルス風土が良好な職場事例をグッドプラクティスとして抽出、水平展開。

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組合別データを用いた研究

高く見積もっても、現状の予防活動は、費用を

1円投じても医療費を0.14円程度減少させるに

すぎない。(河野 2005)

出産育児一時金を増額しても、出生率を向上させる効果は低所得層に限定される。 (田中・河野 2009)

所得格差が大きい組合は、平均所得や年齢で調整しても長期休業率や死亡率が高い。 (Kouno & Saito-Umeno 2012)

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6.予防活動と医療・健康産業の行方

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ITを利用した予防活動

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携帯メールを利用した栄養管理

(出典)(公財)福井県健康管理協会HP

西会津町における遠隔医療システムを 用いた在宅健康管理システム

(出典)総務省HP

SNSを用いた健康管理ツール

(出典)ウェルスタイル株式会社HP

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ITを利用した医療・健康サービス

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医療・健康産業への示唆

個人のストレス状態を的確に捉え、 ストレスを切り口に組織の実態と改善のポイントを明示する

(出典)株式会社ロブ ホームページより

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ITを利用した医療・健康サービス

メールのやりとりから、ストレスのリスク要因をさぐる。

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(出典)田中滋・川渕孝一・河野敏鑑編『会社と社会を幸せにする健康経営』より、 秋山美紀・野田啓一両氏執筆部分

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予防活動とITのあるべき姿

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学校健診

企業での健診

NIKE+ (スポーツのデータ)

ライフログ

購買履歴

母子手帳 (幼児期のデータ)

個人の満足度

生産性

ストレス調査

メールデータ

(出典)富士通総研作成

所得

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