協同医書出版社 - 7 ýå · 2019-07-30 · z Chopart s joint £z ¤ ¢ tarsometatar sal...

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宮本省三・八坂一彦・平谷尚大・田渕充勇・園田義顕 共著 協同医書出版社 マン キネシオロジ 人間 運動学 教育臨床垣根をとりはら た、 すべての 運動専門家のための しいテキスト 最新刊 図版多数 2 色刷 800 ページ える 大著 B5 判・2 色刷・804 ページ 定価(本体 8,000 円+税) ISBN 978-4-7639-0039-5

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宮本省三八坂一彦平谷尚大田渕充勇園田義顕 共著

協同医書出版社

ヒューマンキネシオロジー人間の運動学教育臨床の垣根をとりはらったすべての「運動の専門家」のための新しいテキスト

最新刊

図版多数

2色刷

800ページを超える大著

B5判2色刷804ページ定価(本体8000円+税)ISBN 978-4-7639-0039-5

本書『人間の運動学』は基礎と臨床を合体させた画期的な内容構成で卒前教育から臨床現場まで長く活用できる運動学の基本図書というべき一冊です

理学療法士作業療法士柔道整復師スポーツ関連養成校等で必須の「運動学の基礎知識」を完全網羅教科書として日々の学習にはもちろん

国家試験対策にも充分な力を発揮します

本冊子ではその内容を実際のページをご覧いただきながらご紹介いたします

02 Human Kinesiology Human Kinesiology 03

人間の身体

は股関節(hip joint)膝関節(knee joint)大腿膝蓋関節(patellofemoral joint)脛腓関節(tibiofibular joint)足の関節(foot joint)として足関節(ankle joint)距骨下関節(subtalar joint)横足根関節(transverse tarsal joint=ショパール関節Chopartrsquos joint)足根中足関節(tarsometatar-sal joint=リスフラン関節Lisfrancrsquos joint)中足間関節(intermetatarsal joint)中足指節関節(metatarsophalangeal jointMP関節)指節間関節(interphalangeal jointIP関節)があるこうした身体の複数の関節運動の組み合わせに

よって3次元空間内で姿勢をダイナミックに変化させ四肢を目的に応じてさまざまな方向に動か

すことができるまた関節は運動器であると同時に空間を探索

する感覚器としての役割を有しているそれは関節包に存在する感覚受容器(mechanoreceptor機械受容器)が関節運動の位置や動く方向性を情報として脳に伝達するからに他ならないそれによって目を閉じていても自己の身体

がどのような姿勢をとっているか四肢がどのような位置にあるのかがわかるまた手足で物体に触れると身体周辺のどこにあるかもわかる人間は関節運動を介して自己の身体空間と身体周辺空間の両方を知ることができる

胸鎖関節

側頭下顎関節(顎関節)

環軸関節

肋椎関節

腕尺関節 肘関節腕橈関節

肩鎖関節

肩甲上腕関節(肩関節)

仙腸関節

膝関節

距腿関節(足関節)

大腿脛骨関節 (上)脛腓関節

距骨下関節

大腿膝蓋関節

上橈尺関節

橈骨手根関節(手関節)手根中手関節(CM関節)

指節間関節(IP関節)

股関節

下橈尺関節

中手指節関節(MP関節)

図12 関節の名称手関節

手根中手関節(CM関節)

(IP関節)

近位指節間関節(PIP関節)遠位指節間関節(DIP関節)

中手指節関節(MP関節)

右手掌側

足関節距骨下関節

横足根関節(ショパール関節)

足根中足関節(リスフラン関節)

近位指節間関節(PIP関節)

遠位指節間関節(DIP関節)中足指節関節

(MP関節)

(IP関節)右足背側

ウォーキングとゲイトあらゆる動物は移動(locomotion)を繰り返しているここでの移動とはある場所から他の場所へと位置を移すことであり自身の身体構造のみで行うものをさしているしたがって車で移動する時のような何か対象を操作して遂行するものではない

人間の二足移動には「歩行(walkinggait)」「走行(running)」「跳躍(jumping)」の3様式があるこれらを目的文脈状況などに応じて使い分けているその中でも歩行は最も多く用いられる移動様式である人間はなぜ移動するのであろうか人間以外の

動物は食物を探すためなど主に生き残るために移動するつまり種の保存という大きな前提に基づいている一方人間の移動は運動不足を解消するためかもしれないし友人に会いに行くた

[1]人間の歩行は巧緻運動である

図1 マイブリッジによる歩行の連続写真(Muybridge 1887)

人間の身体

Frontal Lobe

(action)

Frontal Lobe

(action)

Premotor Sequential thinking

Takes ideas actions andwords and puts them intolinear sequence

InhibitionsldquoNordquo

What NOT to SAYWorrying (talkingto yourself aboutwhat not to do)

Creates new patternsof ideas and languageWriter PhilosopherhellipImpulsive talking

ImaginationCreativityldquoYesrdquo

RightHand

Arm

Arm

Trunk

Trunk

Leg

Leg

Foot

Foot

Motorcontrols muscles

on Right side

Tongue

Tongue

Lips

Lips

Lips

Lips

Face

Face

Face

Face

ParietalLobe

(spatial)

ParietalLobe

(spatial)

Arm

Arm

Trunk

Trunk

Leg

Leg

Foot

Foot

Genitals

Genitals

Body Senseson right side

Fingers

Fingers

Symbols

Math symbols + - = xsup2Match body to ldquoleftldquorightrdquowordsReading clocks

Grammarspatial arrangementof language

IIIRecognize

Word soundsIIPhonemesI

(from ear)Frequencies Sounds of

LanguageEmotionalmemory

Emotions and language

Language memorystories

Memory

Face Names

TemporalLobe

(memory)

TemporalLobe

(memory)

SpellingPhonicsReading

Matching visionof letters withsounds of words

Vision ofAlphabet

IIIRecognizing letters and groups ch th ing

II Perceive Letter shapesd b p q

I(from eye) Lines Angles|_

OccipitalLobe

(vision)

OccipitalLobe

(vision)

Cerebellum

Cerebellum

MuscleCoordination

MuscleCoordination

Balance

Balance

Speed of Repetitive action

Speed of Repetitive action

Right Brain

Left Brain

Premotor

Learn how to do thingsplay sports musicalinstruments habits

ImaginationCreativity ldquoYesrdquo

Create new patternsof behavior art music

actions designs etcImpulsive Action

Inhibitions ldquoNordquo

What Not to doRightwrong behaviorMannersConscience

LeftHand

Motorcontrols muscles

on LEFT side

Body Senseson Left side

IIIHarmony(spatial) II

intervalsI (from ear)

PitchMusic

Emotionalmemory

FeelingsFearsHumor

Music memory

visual memory

Memory

Face memory

SpatialSense

Mental Math Body 3D awareness Touch 3D recognition Object 3D rotation Construction Navigation

I(from eye) Lines Angles

IIDistance Motion Shape

III Object Recognition

Vision

図10 大脳皮質の地図(Holland 2001)

行為する人間

感覚(臓性感覚)や消化循環生殖排便排尿などの臓性機能(植物機能)に関与していることをさす次に各脳神経の主な働きと特徴を記す(表2図

9)

四肢体幹の機能を担う31対の「脊髄神経」頸部以下の機能は脊髄から左右の椎間孔を経て

出入りする31対(頸神経cervical nerve8対胸神経 thoracic nerve12対腰神経 lumbar nerve5

対仙骨神経sacral nerve5対尾骨神経coccygeal

nerve1対)の脊髄神経が担う脊髄の下端部の高さは生後すぐの段階では第2~3腰椎に位置するが成人になると椎骨などの骨成長により第1~2腰椎の高さまで上昇するそのため脊髄神経

脳神経核の分類

求心性神経(知覚性神経)❶一般体性感覚(general somatic afferentGSA体性感覚)❷一般臓性感覚(general visceral afferentGVA内臓感覚)❸特殊体性感覚(special somatic afferentSSA視覚聴覚平衡覚)

❹特殊臓性感覚(special visceral afferentSVA味覚嗅覚)遠心性神経(運動性神経)❶一般体性運動(general somatic efferentGSE体節に由来する骨格筋[横紋筋]を支配)

❷特殊臓性運動(special visceral efferentSVE鰓弓に由来する横紋筋を支配)

❸一般臓性運動(general visceral efferentSVE内臓の平滑筋眼筋唾液腺などを支配)

図9 脳神経の機能(Gilroyら2010)

図10 脊椎と脊髄神経の高位

S5S4S3S2S1

L5

L4

L3

L2

L1

T12T11

T10T9T8T7T6T5T4T3T2T1C8C7C6C5C4C3C2C1

尾骨神経

仙骨神経

腰神経

胸神経

頸神経

〈起始〉腸骨窩仙骨翼〈停止〉大腿骨小転子〈支配神経〉大腿神経 L2~L3〈作用〉股関節屈曲

腸骨筋(Miliacs)

〈起始〉第 1~第 5腰椎横突起第 12胸椎~第 5腰椎椎体側部とそれらの椎間板〈停止〉大腿骨大転子〈支配神経〉腰神経叢 L2~L4〈作用〉股関節屈曲

大腰筋(Mpsoas major)

半腱様筋(Msemitendinosis)〈起始〉坐骨結節〈停止〉脛骨上部内側面(鵞足)〈支配神経〉坐骨(脛骨)神経 L 5~ S2〈作用〉股関節伸展膝関節屈曲

〈起始〉恥骨下枝坐骨枝坐骨結節〈停止〉大腿骨後面(粗線)内転筋結節〈支配神経〉閉鎖神経 L2~L4〈作用〉股関節内転

大内転筋(M adductor magnus)

〈起始〉恥骨体恥骨下枝〈停止〉大腿骨後面(粗線)上部〈支配神経〉閉鎖神経 L2~L4〈作用〉股関節内転

短内転筋(M adductor brevis)

〈起始〉恥骨体〈停止〉大腿骨後面(粗線)〈支配神経〉閉鎖神経 L2~L4〈作用〉股関節内転

長内転筋(M adductor longus)

〈起始〉恥骨上枝〈停止〉大腿骨後内側面〈支配神経〉大腿神経閉鎖神経 L2~L3〈作用〉股関節内転

恥骨筋(M pectineus)

大腿二頭筋(M biceps femoris)〈起始〉長頭坐骨結節短頭大腿骨粗線〈停止〉腓骨頭脛骨外側顆〈支配神経〉長頭脛骨神経 L5~S2短頭腓骨神経 L5~S1〈作用〉股関節伸展膝関節屈曲

半膜様筋(Msemimembranosis)〈起始〉坐骨結節〈停止〉脛骨内側顆〈支配神経〉坐骨(脛骨)神経 L5~S2〈作用〉股関節伸展膝関節屈曲

中殿筋(M gluteus medius)〈起始〉腸骨外側面〈停止〉大腿骨大転子〈支配神経〉上殿神経 L4~S1〈作用〉股関節外転内旋

小殿筋(M gluteus minimus)〈起始〉腸骨外側面〈停止〉大腿骨大転子〈支配神経〉上殿神経 L4~S1〈作用〉股関節外転内旋

〈起始〉腸骨仙骨尾骨の後面〈停止〉大腿骨殿筋粗面〈支配神経〉下殿神経 L5~S2〈作用〉股関節伸展外旋

大殿筋(Mgluteus maximus)

腸骨筋大腰筋

長内転筋 恥骨筋

図7 股関節の筋

身体化された心

C)効果器装置の形成

筋収縮(身体と物体の相互作用)

記憶

行為受納器

フィードバック方向づけフィードバック

効果器の実行

調節停止

効果器の形成

結果の指標

行為の結果意志決定

行為

求心性情報の統合

感覚状況

動機づけ

トリガー

D)感覚フィードバック(結果)

B)行為受納器(補足運動野)(運動前野)

A)求心性情報の統合(頭頂葉)

予測比較

情報

記 憶

聴覚

触覚

視覚

図9 アノーキンの機能システム(Anokhin 1965)

学習する人間

姿勢の分類体位(position)に着目した時姿勢は基本的に

臥位座位立位の3つに分けられその体位から派生するいくつもの肢位がある代表的なものを以下に列挙する(図1)bull背臥位(仰臥位supine position)(図1-a)bull腹臥位(prone position)(図1-b)bull側臥位(side lying position)(図1-c)bullパピー肢位(puppy position)(図1-d)bull長座位(long sitting position)(図1-e)bull座位(sitting position)(図1-f)bull 端座位(dangling position)=足底をつけない座位

bull 四つ這い位(all fours position creeping posi-tion prone kneeling position)(図1-g)

bull高這い位(bear walking position)(図1-h)bull膝立ち位(kneeling position)(図1-i)bull片膝立ち位(half kneeling position)(図1-j)bull立位(standing position)(図1-k)bull 片脚立位(half standing position one leg stand-

ing position)(図1-l)また姿勢は機能的な視点から静的姿勢

(static posture)と動的姿勢(dynamic posture)の2つに分類される静的姿勢とは安定性が良い姿勢とされ姿勢保持のみをさす一方動的姿勢とは外界の変化に対応したりある目的動作に移る準備のための姿勢のことである

姿勢変換と 起居動作ここでは背臥位から立位に至るまでの体位の

変換を考えてみよう(図2)3)たとえば背臥位腹臥位四つ這い位高這い位立位と5つの体位をとることになるこの他にもさまざまな起居動作の組み合わせが可能である

重心と支持基底面地球上のすべての物体には鉛直方向にその質量

図1 姿勢の分類

a 背臥位(仰臥位) b 腹臥位 c 側臥位

d パピー肢位 e 長座位 f 座位 g 四つ這い位

l 片脚立位i 膝立ち位 j 片膝立ち位h 高這い位 k 立位

身体化された心

の病態に対比すると理解しやすいすなわちどちらも道具使用が不器用でうまくできないしかし観念運動失行は「何をすればよいかは理解しているがどのようにすればよいかがわからない状態」であり観念失行は「どのようにすればよいかは理解しているが何をすればよいかがわからない状態」であるこの本質的な違いは道具の機能についての知識と道具を操作する知識の欠如に起因していると考えることができるここでは失行症(観念運動失行と観

念失行)の場合を説明する(図23)たとえば観念運動失行では道具(194797194797)の機能は正しく判断することが可能だが194797194797をどのように手で194797194797持すればよいかわからず間違った194797194797の持ち方をす

る(運動性の錯行為)一方観念失行では物体(194797194797)を正しく握ることが可能であっても根本的に間違った操作方法で使用するたとえば「194797194797の背部を使って髪をとく」といった行為をするあるいは別の目的に使用する(意味性の錯行為)つまり観念運動失行では道具のldquo機能rdquoにつ

いての知識はあるがどのような運動によって道具をldquo操作rdquoすべきかがわからない一方観念失行では道具のldquo操作rdquoについての知識はあるがその道具が何をするためのldquo機能rdquoをもっているかがわからないのである

[身体に関係づける道具と世界に関係づける道具]さらにエルクら41)は一連の研究から道具を

「body-related object(身体に関係づける物品や道具)」と「world-related object(外部世界に関係づける物品や道具)」とに区分している「Body-related object(身体に関係づける物品)」とは「ヒゲ剃りペットボトルブラシ194797194797194797194797メラ電話194797194797ップフルートハーモニ194797194797ヘルメット鏡マイクロホンスプーンフォーク歯ブラシhelliphellip」などである(図24)一方「world-related object(外部世界に関係づ

ける物品)」とは「エンピツハサミナイフかなづちノコギリドライバースパナーピザナイフチーズスライサーニンニク搾り器漂

図22 物体をどのように握るかどのように物体を使うのか(歯ブラシの場合)

図24 「Body-related object(身体に関係づける物品)」図23 行為のエラー(これは観念運動失行だろうか観念失行だろうか)

「人間の運動」とは何かサルと人間の運動を分かつものは何か「人間らしい」運動とはいったいどのようなものかという観点から「人間の運動」の持つ複雑さに迫ります1

徹底した「読みやすさ」

豊富な図版

一つひとつの章でテーマや流れを明快にまとめているためこの1冊を通して物語を読むように「運動学」を自然に理解することができます2800ページを超えるボリュームの中でほぼ毎ページに図表や写真イラストを配置し読者の理解を助けます3

本書の特徴

コンテンツ(本書の内容)序 章「人間の運動」の誕生 ~サルからヒトへの奇跡

第Ⅰ部 人間の身体 第1章 身体の解剖学 第2章 身体の運動学 第3章 身体の神経学 第4章 身体の生理学

第Ⅱ部 運動する人間 第5章 肩関節の運動学 第6章 肘関節と前腕の運動学 第7章 手関節の運動学 第8章 手指の運動学 第9章 股関節の運動学第10章 膝関節の運動学第11章 足関節と足部の運動学第12章 脊柱と頭部の運動学

第Ⅲ部 動作する人間第13章 発達の運動学第14章 姿勢と動作の運動学第15章 歩行の運動学

第Ⅳ部 行為する人間第16章 行為のニューラルネットワーク第17章 行為の運動学習第18章 行為システム

第Ⅴ部 身体化された心第19章 運動の鍵盤支配型モデルを超えて第20章 空間を生きる第21章 コミュニケーション行為第22章 人間は ldquo意識rdquo を動かして行為する

終 章 ヒューマンパフォーマンス

本書『人間の運動学』は基礎と臨床を合体させた画期的な内容構成で卒前教育から臨床現場まで長く活用できる運動学の基本図書というべき一冊です

理学療法士作業療法士柔道整復師スポーツ関連養成校等で必須の「運動学の基礎知識」を完全網羅教科書として日々の学習にはもちろん

国家試験対策にも充分な力を発揮します

本冊子ではその内容を実際のページをご覧いただきながらご紹介いたします

02 Human Kinesiology Human Kinesiology 03

人間の身体

は股関節(hip joint)膝関節(knee joint)大腿膝蓋関節(patellofemoral joint)脛腓関節(tibiofibular joint)足の関節(foot joint)として足関節(ankle joint)距骨下関節(subtalar joint)横足根関節(transverse tarsal joint=ショパール関節Chopartrsquos joint)足根中足関節(tarsometatar-sal joint=リスフラン関節Lisfrancrsquos joint)中足間関節(intermetatarsal joint)中足指節関節(metatarsophalangeal jointMP関節)指節間関節(interphalangeal jointIP関節)があるこうした身体の複数の関節運動の組み合わせに

よって3次元空間内で姿勢をダイナミックに変化させ四肢を目的に応じてさまざまな方向に動か

すことができるまた関節は運動器であると同時に空間を探索

する感覚器としての役割を有しているそれは関節包に存在する感覚受容器(mechanoreceptor機械受容器)が関節運動の位置や動く方向性を情報として脳に伝達するからに他ならないそれによって目を閉じていても自己の身体

がどのような姿勢をとっているか四肢がどのような位置にあるのかがわかるまた手足で物体に触れると身体周辺のどこにあるかもわかる人間は関節運動を介して自己の身体空間と身体周辺空間の両方を知ることができる

胸鎖関節

側頭下顎関節(顎関節)

環軸関節

肋椎関節

腕尺関節 肘関節腕橈関節

肩鎖関節

肩甲上腕関節(肩関節)

仙腸関節

膝関節

距腿関節(足関節)

大腿脛骨関節 (上)脛腓関節

距骨下関節

大腿膝蓋関節

上橈尺関節

橈骨手根関節(手関節)手根中手関節(CM関節)

指節間関節(IP関節)

股関節

下橈尺関節

中手指節関節(MP関節)

図12 関節の名称手関節

手根中手関節(CM関節)

(IP関節)

近位指節間関節(PIP関節)遠位指節間関節(DIP関節)

中手指節関節(MP関節)

右手掌側

足関節距骨下関節

横足根関節(ショパール関節)

足根中足関節(リスフラン関節)

近位指節間関節(PIP関節)

遠位指節間関節(DIP関節)中足指節関節

(MP関節)

(IP関節)右足背側

ウォーキングとゲイトあらゆる動物は移動(locomotion)を繰り返しているここでの移動とはある場所から他の場所へと位置を移すことであり自身の身体構造のみで行うものをさしているしたがって車で移動する時のような何か対象を操作して遂行するものではない

人間の二足移動には「歩行(walkinggait)」「走行(running)」「跳躍(jumping)」の3様式があるこれらを目的文脈状況などに応じて使い分けているその中でも歩行は最も多く用いられる移動様式である人間はなぜ移動するのであろうか人間以外の

動物は食物を探すためなど主に生き残るために移動するつまり種の保存という大きな前提に基づいている一方人間の移動は運動不足を解消するためかもしれないし友人に会いに行くた

[1]人間の歩行は巧緻運動である

図1 マイブリッジによる歩行の連続写真(Muybridge 1887)

人間の身体

Frontal Lobe

(action)

Frontal Lobe

(action)

Premotor Sequential thinking

Takes ideas actions andwords and puts them intolinear sequence

InhibitionsldquoNordquo

What NOT to SAYWorrying (talkingto yourself aboutwhat not to do)

Creates new patternsof ideas and languageWriter PhilosopherhellipImpulsive talking

ImaginationCreativityldquoYesrdquo

RightHand

Arm

Arm

Trunk

Trunk

Leg

Leg

Foot

Foot

Motorcontrols muscles

on Right side

Tongue

Tongue

Lips

Lips

Lips

Lips

Face

Face

Face

Face

ParietalLobe

(spatial)

ParietalLobe

(spatial)

Arm

Arm

Trunk

Trunk

Leg

Leg

Foot

Foot

Genitals

Genitals

Body Senseson right side

Fingers

Fingers

Symbols

Math symbols + - = xsup2Match body to ldquoleftldquorightrdquowordsReading clocks

Grammarspatial arrangementof language

IIIRecognize

Word soundsIIPhonemesI

(from ear)Frequencies Sounds of

LanguageEmotionalmemory

Emotions and language

Language memorystories

Memory

Face Names

TemporalLobe

(memory)

TemporalLobe

(memory)

SpellingPhonicsReading

Matching visionof letters withsounds of words

Vision ofAlphabet

IIIRecognizing letters and groups ch th ing

II Perceive Letter shapesd b p q

I(from eye) Lines Angles|_

OccipitalLobe

(vision)

OccipitalLobe

(vision)

Cerebellum

Cerebellum

MuscleCoordination

MuscleCoordination

Balance

Balance

Speed of Repetitive action

Speed of Repetitive action

Right Brain

Left Brain

Premotor

Learn how to do thingsplay sports musicalinstruments habits

ImaginationCreativity ldquoYesrdquo

Create new patternsof behavior art music

actions designs etcImpulsive Action

Inhibitions ldquoNordquo

What Not to doRightwrong behaviorMannersConscience

LeftHand

Motorcontrols muscles

on LEFT side

Body Senseson Left side

IIIHarmony(spatial) II

intervalsI (from ear)

PitchMusic

Emotionalmemory

FeelingsFearsHumor

Music memory

visual memory

Memory

Face memory

SpatialSense

Mental Math Body 3D awareness Touch 3D recognition Object 3D rotation Construction Navigation

I(from eye) Lines Angles

IIDistance Motion Shape

III Object Recognition

Vision

図10 大脳皮質の地図(Holland 2001)

行為する人間

感覚(臓性感覚)や消化循環生殖排便排尿などの臓性機能(植物機能)に関与していることをさす次に各脳神経の主な働きと特徴を記す(表2図

9)

四肢体幹の機能を担う31対の「脊髄神経」頸部以下の機能は脊髄から左右の椎間孔を経て

出入りする31対(頸神経cervical nerve8対胸神経 thoracic nerve12対腰神経 lumbar nerve5

対仙骨神経sacral nerve5対尾骨神経coccygeal

nerve1対)の脊髄神経が担う脊髄の下端部の高さは生後すぐの段階では第2~3腰椎に位置するが成人になると椎骨などの骨成長により第1~2腰椎の高さまで上昇するそのため脊髄神経

脳神経核の分類

求心性神経(知覚性神経)❶一般体性感覚(general somatic afferentGSA体性感覚)❷一般臓性感覚(general visceral afferentGVA内臓感覚)❸特殊体性感覚(special somatic afferentSSA視覚聴覚平衡覚)

❹特殊臓性感覚(special visceral afferentSVA味覚嗅覚)遠心性神経(運動性神経)❶一般体性運動(general somatic efferentGSE体節に由来する骨格筋[横紋筋]を支配)

❷特殊臓性運動(special visceral efferentSVE鰓弓に由来する横紋筋を支配)

❸一般臓性運動(general visceral efferentSVE内臓の平滑筋眼筋唾液腺などを支配)

図9 脳神経の機能(Gilroyら2010)

図10 脊椎と脊髄神経の高位

S5S4S3S2S1

L5

L4

L3

L2

L1

T12T11

T10T9T8T7T6T5T4T3T2T1C8C7C6C5C4C3C2C1

尾骨神経

仙骨神経

腰神経

胸神経

頸神経

〈起始〉腸骨窩仙骨翼〈停止〉大腿骨小転子〈支配神経〉大腿神経 L2~L3〈作用〉股関節屈曲

腸骨筋(Miliacs)

〈起始〉第 1~第 5腰椎横突起第 12胸椎~第 5腰椎椎体側部とそれらの椎間板〈停止〉大腿骨大転子〈支配神経〉腰神経叢 L2~L4〈作用〉股関節屈曲

大腰筋(Mpsoas major)

半腱様筋(Msemitendinosis)〈起始〉坐骨結節〈停止〉脛骨上部内側面(鵞足)〈支配神経〉坐骨(脛骨)神経 L 5~ S2〈作用〉股関節伸展膝関節屈曲

〈起始〉恥骨下枝坐骨枝坐骨結節〈停止〉大腿骨後面(粗線)内転筋結節〈支配神経〉閉鎖神経 L2~L4〈作用〉股関節内転

大内転筋(M adductor magnus)

〈起始〉恥骨体恥骨下枝〈停止〉大腿骨後面(粗線)上部〈支配神経〉閉鎖神経 L2~L4〈作用〉股関節内転

短内転筋(M adductor brevis)

〈起始〉恥骨体〈停止〉大腿骨後面(粗線)〈支配神経〉閉鎖神経 L2~L4〈作用〉股関節内転

長内転筋(M adductor longus)

〈起始〉恥骨上枝〈停止〉大腿骨後内側面〈支配神経〉大腿神経閉鎖神経 L2~L3〈作用〉股関節内転

恥骨筋(M pectineus)

大腿二頭筋(M biceps femoris)〈起始〉長頭坐骨結節短頭大腿骨粗線〈停止〉腓骨頭脛骨外側顆〈支配神経〉長頭脛骨神経 L5~S2短頭腓骨神経 L5~S1〈作用〉股関節伸展膝関節屈曲

半膜様筋(Msemimembranosis)〈起始〉坐骨結節〈停止〉脛骨内側顆〈支配神経〉坐骨(脛骨)神経 L5~S2〈作用〉股関節伸展膝関節屈曲

中殿筋(M gluteus medius)〈起始〉腸骨外側面〈停止〉大腿骨大転子〈支配神経〉上殿神経 L4~S1〈作用〉股関節外転内旋

小殿筋(M gluteus minimus)〈起始〉腸骨外側面〈停止〉大腿骨大転子〈支配神経〉上殿神経 L4~S1〈作用〉股関節外転内旋

〈起始〉腸骨仙骨尾骨の後面〈停止〉大腿骨殿筋粗面〈支配神経〉下殿神経 L5~S2〈作用〉股関節伸展外旋

大殿筋(Mgluteus maximus)

腸骨筋大腰筋

長内転筋 恥骨筋

図7 股関節の筋

身体化された心

C)効果器装置の形成

筋収縮(身体と物体の相互作用)

記憶

行為受納器

フィードバック方向づけフィードバック

効果器の実行

調節停止

効果器の形成

結果の指標

行為の結果意志決定

行為

求心性情報の統合

感覚状況

動機づけ

トリガー

D)感覚フィードバック(結果)

B)行為受納器(補足運動野)(運動前野)

A)求心性情報の統合(頭頂葉)

予測比較

情報

記 憶

聴覚

触覚

視覚

図9 アノーキンの機能システム(Anokhin 1965)

学習する人間

姿勢の分類体位(position)に着目した時姿勢は基本的に

臥位座位立位の3つに分けられその体位から派生するいくつもの肢位がある代表的なものを以下に列挙する(図1)bull背臥位(仰臥位supine position)(図1-a)bull腹臥位(prone position)(図1-b)bull側臥位(side lying position)(図1-c)bullパピー肢位(puppy position)(図1-d)bull長座位(long sitting position)(図1-e)bull座位(sitting position)(図1-f)bull 端座位(dangling position)=足底をつけない座位

bull 四つ這い位(all fours position creeping posi-tion prone kneeling position)(図1-g)

bull高這い位(bear walking position)(図1-h)bull膝立ち位(kneeling position)(図1-i)bull片膝立ち位(half kneeling position)(図1-j)bull立位(standing position)(図1-k)bull 片脚立位(half standing position one leg stand-

ing position)(図1-l)また姿勢は機能的な視点から静的姿勢

(static posture)と動的姿勢(dynamic posture)の2つに分類される静的姿勢とは安定性が良い姿勢とされ姿勢保持のみをさす一方動的姿勢とは外界の変化に対応したりある目的動作に移る準備のための姿勢のことである

姿勢変換と 起居動作ここでは背臥位から立位に至るまでの体位の

変換を考えてみよう(図2)3)たとえば背臥位腹臥位四つ這い位高這い位立位と5つの体位をとることになるこの他にもさまざまな起居動作の組み合わせが可能である

重心と支持基底面地球上のすべての物体には鉛直方向にその質量

図1 姿勢の分類

a 背臥位(仰臥位) b 腹臥位 c 側臥位

d パピー肢位 e 長座位 f 座位 g 四つ這い位

l 片脚立位i 膝立ち位 j 片膝立ち位h 高這い位 k 立位

身体化された心

の病態に対比すると理解しやすいすなわちどちらも道具使用が不器用でうまくできないしかし観念運動失行は「何をすればよいかは理解しているがどのようにすればよいかがわからない状態」であり観念失行は「どのようにすればよいかは理解しているが何をすればよいかがわからない状態」であるこの本質的な違いは道具の機能についての知識と道具を操作する知識の欠如に起因していると考えることができるここでは失行症(観念運動失行と観

念失行)の場合を説明する(図23)たとえば観念運動失行では道具(194797194797)の機能は正しく判断することが可能だが194797194797をどのように手で194797194797持すればよいかわからず間違った194797194797の持ち方をす

る(運動性の錯行為)一方観念失行では物体(194797194797)を正しく握ることが可能であっても根本的に間違った操作方法で使用するたとえば「194797194797の背部を使って髪をとく」といった行為をするあるいは別の目的に使用する(意味性の錯行為)つまり観念運動失行では道具のldquo機能rdquoにつ

いての知識はあるがどのような運動によって道具をldquo操作rdquoすべきかがわからない一方観念失行では道具のldquo操作rdquoについての知識はあるがその道具が何をするためのldquo機能rdquoをもっているかがわからないのである

[身体に関係づける道具と世界に関係づける道具]さらにエルクら41)は一連の研究から道具を

「body-related object(身体に関係づける物品や道具)」と「world-related object(外部世界に関係づける物品や道具)」とに区分している「Body-related object(身体に関係づける物品)」とは「ヒゲ剃りペットボトルブラシ194797194797194797194797メラ電話194797194797ップフルートハーモニ194797194797ヘルメット鏡マイクロホンスプーンフォーク歯ブラシhelliphellip」などである(図24)一方「world-related object(外部世界に関係づ

ける物品)」とは「エンピツハサミナイフかなづちノコギリドライバースパナーピザナイフチーズスライサーニンニク搾り器漂

図22 物体をどのように握るかどのように物体を使うのか(歯ブラシの場合)

図24 「Body-related object(身体に関係づける物品)」図23 行為のエラー(これは観念運動失行だろうか観念失行だろうか)

「人間の運動」とは何かサルと人間の運動を分かつものは何か「人間らしい」運動とはいったいどのようなものかという観点から「人間の運動」の持つ複雑さに迫ります1

徹底した「読みやすさ」

豊富な図版

一つひとつの章でテーマや流れを明快にまとめているためこの1冊を通して物語を読むように「運動学」を自然に理解することができます2800ページを超えるボリュームの中でほぼ毎ページに図表や写真イラストを配置し読者の理解を助けます3

本書の特徴

コンテンツ(本書の内容)序 章「人間の運動」の誕生 ~サルからヒトへの奇跡

第Ⅰ部 人間の身体 第1章 身体の解剖学 第2章 身体の運動学 第3章 身体の神経学 第4章 身体の生理学

第Ⅱ部 運動する人間 第5章 肩関節の運動学 第6章 肘関節と前腕の運動学 第7章 手関節の運動学 第8章 手指の運動学 第9章 股関節の運動学第10章 膝関節の運動学第11章 足関節と足部の運動学第12章 脊柱と頭部の運動学

第Ⅲ部 動作する人間第13章 発達の運動学第14章 姿勢と動作の運動学第15章 歩行の運動学

第Ⅳ部 行為する人間第16章 行為のニューラルネットワーク第17章 行為の運動学習第18章 行為システム

第Ⅴ部 身体化された心第19章 運動の鍵盤支配型モデルを超えて第20章 空間を生きる第21章 コミュニケーション行為第22章 人間は ldquo意識rdquo を動かして行為する

終 章 ヒューマンパフォーマンス

縮の場合は筋が短縮し遠心性収縮の場合は筋収縮しているにもかかわらず筋が延長される「等尺性収縮(アイソメトリックコントラクション)」では筋の張力が発生しているが関節運動は生じない上腕二頭筋の筋収縮力と抵抗とが合致しており肘関節の運動は一定の角度で保持されており動かない重い物体を支えて静止している時などに起こり筋の伸縮度は変化しない

テコの原理テコの原理には第1第2第3のテコの3種

類がある(図62)ここでは力学メカニズム日常物品の例解剖学的関節との対応に区分して説明する

[力学メカニズム]筋収縮によって関節を動かす時には「テコの原

理」が働いているテコの原理では関節を「支点=軸(axis)」筋の付着部を「力点(force)」骨への作用部位を「荷重点(load)」あるいは「作用点」と見なすそして骨の支点と力点との距離を「力の腕(arm of force)」支点と荷重点との距離を「荷重の腕(arm of load)」と見なす筋作用においてこの「力の腕」が長くなるか「荷重の

腕」が短くなることを「力学的有利性(advantage

of force)」という第1のテコは「バランスのテコ」と呼ばれる関節運動は力点と荷重点に生じる力量の比率で決まる力点と荷重点の間に支点があるが力点と荷重点は同じ方向に働く第2のテコは「力のテコ」と呼ばれる関節運動の力では有利スピードでは不利である力点と支点との間に荷重点があり力点と荷重点は反対の方向に働く第3のテコは「スピードのテコ」と呼ばれる関節運動のスピードでは有利力では不利である力点と荷重点との間に支点があるが力点と荷重点は反対の方向に働く人体の関節運動では最も多いタイプである

運動なし

運動

求心性収縮

等尺性収縮

運動

遠心性収縮

等張性収縮

図61 上腕二頭筋の等張性収縮(求心性収縮遠心性収縮)と等尺性収縮

テコの分類

第1のテコrarrバランスのテコ第2のテコrarr力のテコ第3のテコrarrスピードのテコ

荷重点力点

第1のテコ

力点荷重点第2のテコ

荷重点力点第3のテコ

図62 テコの力学メカニズム(第1第2第3のテコ)

テコの力学メカニズム

支点(A)axis力点(F)force荷重点(w)load(W=重量weight

抵抗 resistance)力の腕(arm of force)荷重の腕(arm of load)

人間の身体

20

27

28

29

30

3132

3839

40

4142

43

44

4546

4748

333435

3637

1

1 前頭骨 Frontal bone2 眉結節 Superciliary eminence3 眼骨 Orbit4 鼻骨 Nasal bone5 上顎骨 Superior maxillary (Maxilla upper jaw)6 下顎骨 Inferior maxillary (Mandible lower jaw)7 鎖骨 Clavicle8 肩峰 Acromion process of scapula9 烏口突起 Coracoid process of scapula

10 肩甲骨 Scapula11 胸骨 Sternum12 上腕骨 Humerus13 橈骨 Radius14 尺骨 Ulna15 手根骨 Carpals16 中手骨 Metacarpals17 指骨 Phalanges18 骨盤上縁 High point of pelvis19 腸骨粗面 Iliac tubercle (Wide point)

20 頭頂骨 Parietal bone21 側頭骨 Temporal bone22 頰骨 Zygomatic (Malar cheek bone)23 乳様突起 Mastoid process of temporal bone24 下顎枝 Ramus of mandible25 頸椎 Cervical vertebrae26 第 1肋骨 First rib27 第 5肋骨 Fifth rib28 胸椎 oracic (dorsal) vertebrae29 肋軟骨線 Line where rib meets cartilage30 第 10肋骨 Tenth rib31 腰椎 Lumbar vertebrae32 腸骨稜 Iliac crest33 上前腸骨棘

Anterior superior iliac spine (Front point)34 腸骨 Ilium of pelvis35 仙骨 Sacrum36 恥骨 Pubis37 大転子 Great trochanter of femur38 坐骨 Ischium39 小転子 Lesser trochanter of femur40 大腿骨 Shaft (body) of femur41 膝蓋骨 Patella42 外側上顆 Outer epicondyle of femur43 脛骨 Tibia (Shin bone)44 腓骨 Fibula45 外果

Outer (lateral) malleolus of bula (Outer ankle)46 距骨 Tarsals47 中足骨 Metatarsals48 指骨 Phalanges49 踵骨 Calcaneus (Heel bone)

234

5

6

910

12

49

13

19

18

11

87

21222324

25

14

15

16

17

26

[母指球筋](図20)母指球筋は手掌橈側に位置し短母指外転筋短母指屈筋母指対立筋の3筋から構成されるこれらの筋の主な作用は母指を対立位にすることであり筋収縮により母指を他指へと近づける作用をもつなかでも母指対立筋は対立運動に必要不可欠な母指CM関節における内旋を生じさせる筋である

[小指球筋](図21)小指球筋は手掌尺側に位置し短小指屈筋小指

外転筋小指対立筋の3筋で構成されるが短掌筋を含める場合もある筋の走行が母指球筋と似ているためその機能も類似している小指球筋に共通する機能は手の尺側を持ち上げ曲げることであるまた小指外転筋は第5指外転の作用をもちこの運動は大きな物体を把持する際に役立つ

[母指内転筋](図22)母指内転筋は母指CM関節の屈曲内転作用をもつ筋である母指内転筋は母指と示指で物をつまむ際や日常生活動作においてはハサミを使用する際に強い活動を示す

[虫様筋と骨間筋](図23)虫様筋と骨間筋はMP関節屈曲筋でありかつ

PIP関節およびDIP関節の伸筋でもある虫様筋の近位付着は深指屈筋腱遠位付着部は伸展機構の側索であり骨に付着しない特徴的な筋である虫様筋の筋腹はMP関節の掌側を通過するためMP関節に対しては屈曲作用をもち遠位付着部である伸展機構の側索の作用により間接的にPIP関節DIP関節を伸展する骨間筋の主な作用はMP関節の外転および内転

であり掌側骨間筋と背側骨間筋の2つに分類されるまた遠位付着部を虫様筋と同様に伸展機

図20 母指球筋

〈起始〉舟状骨結節大菱形骨〈停止〉母指基節骨底橈側〈支配神経〉正中神経 C8~T1〈作用〉母指 CM関節外転

短母指外転筋(M abductor pollicis brevis)

母指対立筋(M opponens pollicis)〈起始〉大菱形骨結節〈停止〉第 1中手骨橈側〈支配神経〉正中神経 C8~T1〈作用〉母指 CM関節屈曲内旋

短母指屈筋(M flexor pollicis brevis)〈起始〉大菱形骨結節小菱形骨有頭骨〈停止〉母指基節骨底〈支配神経〉浅頭正中神経 C8~T1深頭尺骨神経 C8~T1〈作用〉母指 CM関節屈曲

図19 母指と小指対立時の手内在筋の作用F短母指屈筋と短小指屈筋 O母指対立筋と小指対立筋A短母指外転筋と小指外転筋FCU尺側手根屈筋FPP深指屈筋FPL長母指屈筋(Neumann 2012)

FCUFDP

FPL

AOF F

OA

豆状骨

深指屈筋(FDP)

長母指屈筋(FPL)

人間の身体

部筋収縮のメカニズム骨格筋の収縮に至る過程は興奮収縮連関(exci-

tation-contraction coupling)と呼ばれ次の順序で起こる(図5)1)①神経筋接合部で神経終末から神経伝達物質であるアセチルコリン(ACh)が放出され筋線維(骨格筋細胞)膜の受容体に結合する

②筋線維に活動電位が発生するとその活動電位が筋線維表面全体から横行小管に広がる③三連構造において横行小管の活動電位が隣接する筋小胞体のCaイオン放出チャネルを開き筋形質にCaイオンが放出され筋形質内のCaイオン濃度が増加する

④Caイオンがトロポニンに結合することによりトロポミオシンの立体構造が変化しアクチンの活性部位が露出する⑤ATPの加水分解によってミオシンとアクチンが結合(架橋結合)ミオシン頭部の屈曲解離が繰り返し起こりその結果アクチンが引き込まれ筋線維が短縮する一方骨格筋の収縮の終了に伴い筋の弛緩いわゆる筋が元の状態に戻る過程においては次の順序で起こる①神経終末においてアセチルコリン(ACh)がアセチルコリンエステラーゼ(AChE)によって分解され活動電位の発生が止まる②筋形質内のCaイオンが筋小胞体に取り込まれ筋形質内のCaイオン濃度が減少する

③Caイオン濃度が通常の静止期の値になるとトロポミオシンの立体構造が元の状態に戻りアクチンとミオシンの結合が抑制される④架橋結合がなくなり収縮が終わる⑤筋の弾性力や拮抗筋による牽引重力などの影響を受けて筋は受動的に静止期の長さに戻る図4 神経筋接合部

神経筋接合部α運動ニューロン

筋線維

活動電位

図5 筋の収縮過程(Martiniら 2000)

5弛緩静止時の長さへの受動的回復

4収縮の終了

3活性部位の被  覆架橋の消  失

2筋小胞体に  Caイオンが流入

1AChEによって  AChが分解

収縮終了の各段階

ミオシン

アクチン

Caイオン

5収縮の開始

4活性部位の露出  と架橋結合の形  成

3筋小胞体からの  Caイオン放出

2活動電位が  横行小管に  到達

1ACh放出とレセプター  への結合

横行小管シナプス終末運動終板

収縮開始の各段階

運動学に必須の基礎知識を完全網羅解剖学生理学力学的メカニズム関節運動学 といった運動学のベースとなる知識をくまなく網羅し国 試対策にも万全な内容です

①肩甲上腕リズム「肩甲上腕リズム(scapulohumeral rhythm)」とは肩関節の運動における肩甲上腕関節と肩甲胸郭関節との連動作用のことを表し肩関節挙上運動において肩甲上腕関節と肩甲胸郭関節は21の割合で動く(図19)1314)たとえば肩関節の外転において3degごとの外転のうち2degは肩甲上腕関節残りの1degは肩甲胸郭関節で生じるこの連動作用を肩甲上腕リズムと最初に名づけ

たのはコッドマン(Codman)15)であるコッドマンは肩甲骨を固定した状態で肩関節の運動を行うと90~120degまでの運動しか生じずまた肩関

節内旋位では60degの外転しか生じないことを報告したコッドマンのこの報告は肩関節の運動時に上腕骨と肩甲骨とが協調して動く必要があることを明らかにしたインマン(Inman)16)はさらにその研究を進め

肩関節外転において最初の30degは肩甲上腕関節で生じるがそれ以降では肩甲上腕関節肩甲胸郭関節=21になると報告しているこの原則に基づくと肩関節の完全外転180degは肩甲上腕関節の120deg外転と肩甲胸郭関節の60deg上方回旋が組み合わさって生じていることになるまた肩関節屈曲の際に最初の60degの屈曲は主に肩甲上腕関節で行われそれ以降の運動では外

転時と同様に肩甲上腕関節肩甲胸郭関節=21の関係で動くことが明らかにされている14)

1944年のインマンによる報告以降も数多くの報告がなされているがその多くはインマンが最初に報告した21に近いものばかりである外転時における各関節の動きをもう

少し詳しく説明すると肩甲上腕関節は自動運動では90degまでの外転が可能であり他動的な30degの外転が加わることで120degまで動かすことができる肩甲上腕関節の外転と同時に肩甲骨は回旋を開始するがこの肩甲骨の回旋は胸鎖関節と肩鎖関節によって起こる胸鎖関節の可動域は30degであ

[2]肩関節における運動学のポイント

図19 外転運動における肩甲骨と上腕骨の動き(肩甲上腕リズム)A上肢下垂位B肩関節90deg外転位のうち60degは肩甲上腕関節30degは肩甲胸郭関節で生じるC肩関節外転180degのうち120degは肩甲上腕関節60degは肩甲胸郭関節で生じるS肩甲骨H上腕骨ac肩鎖関節(Cailliet 1966 Ebskov 1975)

S SS

S30deg

60deg

60deg

120deg180deg

90deg

S

A B C

H

ac

H

H

H

04Human Kinesiology Human Kinesiology05

各筋の解説各筋の起始停止や作用についても各部位の筋ごとに詳細に解説し学生の自主学習の際にもとても参照しやすくしています

筋骨格の解剖図解剖学に関しては筋骨格の解剖図を大きく見やすい図を豊富に用いて分かりやすくしています多くの単語に英語解剖学用語にはラテン語の表記も併記ししっかりとした基礎知識を身につけることができます

運動の力学的メカニズム運動の力学的な理解に必須の知識を豊富な図を用いて詳しく解説していますそして評価に欠かせない筋力測定や関節可動域検査を始めとする種々の運動検査法についてもくまなく紹介しています

関節運動学各関節ごとの学習の「ポイント」が整理されているので非常に分かりやすくなっています

生理学生理学の基礎知識についての記述も充実しています特に運動に欠かせない筋収縮のメカニズム感覚調節呼吸循環などの知識について詳細に解説しています

縮の場合は筋が短縮し遠心性収縮の場合は筋収縮しているにもかかわらず筋が延長される「等尺性収縮(アイソメトリックコントラクション)」では筋の張力が発生しているが関節運動は生じない上腕二頭筋の筋収縮力と抵抗とが合致しており肘関節の運動は一定の角度で保持されており動かない重い物体を支えて静止している時などに起こり筋の伸縮度は変化しない

テコの原理テコの原理には第1第2第3のテコの3種

類がある(図62)ここでは力学メカニズム日常物品の例解剖学的関節との対応に区分して説明する

[力学メカニズム]筋収縮によって関節を動かす時には「テコの原

理」が働いているテコの原理では関節を「支点=軸(axis)」筋の付着部を「力点(force)」骨への作用部位を「荷重点(load)」あるいは「作用点」と見なすそして骨の支点と力点との距離を「力の腕(arm of force)」支点と荷重点との距離を「荷重の腕(arm of load)」と見なす筋作用においてこの「力の腕」が長くなるか「荷重の

腕」が短くなることを「力学的有利性(advantage

of force)」という第1のテコは「バランスのテコ」と呼ばれる関節運動は力点と荷重点に生じる力量の比率で決まる力点と荷重点の間に支点があるが力点と荷重点は同じ方向に働く第2のテコは「力のテコ」と呼ばれる関節運動の力では有利スピードでは不利である力点と支点との間に荷重点があり力点と荷重点は反対の方向に働く第3のテコは「スピードのテコ」と呼ばれる関節運動のスピードでは有利力では不利である力点と荷重点との間に支点があるが力点と荷重点は反対の方向に働く人体の関節運動では最も多いタイプである

運動なし

運動

求心性収縮

等尺性収縮

運動

遠心性収縮

等張性収縮

図61 上腕二頭筋の等張性収縮(求心性収縮遠心性収縮)と等尺性収縮

テコの分類

第1のテコrarrバランスのテコ第2のテコrarr力のテコ第3のテコrarrスピードのテコ

荷重点力点

第1のテコ

力点荷重点第2のテコ

荷重点力点第3のテコ

図62 テコの力学メカニズム(第1第2第3のテコ)

テコの力学メカニズム

支点(A)axis力点(F)force荷重点(w)load(W=重量weight

抵抗 resistance)力の腕(arm of force)荷重の腕(arm of load)

人間の身体

20

27

28

29

30

3132

3839

40

4142

43

44

4546

4748

333435

3637

1

1 前頭骨 Frontal bone2 眉結節 Superciliary eminence3 眼骨 Orbit4 鼻骨 Nasal bone5 上顎骨 Superior maxillary (Maxilla upper jaw)6 下顎骨 Inferior maxillary (Mandible lower jaw)7 鎖骨 Clavicle8 肩峰 Acromion process of scapula9 烏口突起 Coracoid process of scapula

10 肩甲骨 Scapula11 胸骨 Sternum12 上腕骨 Humerus13 橈骨 Radius14 尺骨 Ulna15 手根骨 Carpals16 中手骨 Metacarpals17 指骨 Phalanges18 骨盤上縁 High point of pelvis19 腸骨粗面 Iliac tubercle (Wide point)

20 頭頂骨 Parietal bone21 側頭骨 Temporal bone22 頰骨 Zygomatic (Malar cheek bone)23 乳様突起 Mastoid process of temporal bone24 下顎枝 Ramus of mandible25 頸椎 Cervical vertebrae26 第 1肋骨 First rib27 第 5肋骨 Fifth rib28 胸椎 oracic (dorsal) vertebrae29 肋軟骨線 Line where rib meets cartilage30 第 10肋骨 Tenth rib31 腰椎 Lumbar vertebrae32 腸骨稜 Iliac crest33 上前腸骨棘

Anterior superior iliac spine (Front point)34 腸骨 Ilium of pelvis35 仙骨 Sacrum36 恥骨 Pubis37 大転子 Great trochanter of femur38 坐骨 Ischium39 小転子 Lesser trochanter of femur40 大腿骨 Shaft (body) of femur41 膝蓋骨 Patella42 外側上顆 Outer epicondyle of femur43 脛骨 Tibia (Shin bone)44 腓骨 Fibula45 外果

Outer (lateral) malleolus of bula (Outer ankle)46 距骨 Tarsals47 中足骨 Metatarsals48 指骨 Phalanges49 踵骨 Calcaneus (Heel bone)

234

5

6

910

12

49

13

19

18

11

87

21222324

25

14

15

16

17

26

[母指球筋](図20)母指球筋は手掌橈側に位置し短母指外転筋短母指屈筋母指対立筋の3筋から構成されるこれらの筋の主な作用は母指を対立位にすることであり筋収縮により母指を他指へと近づける作用をもつなかでも母指対立筋は対立運動に必要不可欠な母指CM関節における内旋を生じさせる筋である

[小指球筋](図21)小指球筋は手掌尺側に位置し短小指屈筋小指

外転筋小指対立筋の3筋で構成されるが短掌筋を含める場合もある筋の走行が母指球筋と似ているためその機能も類似している小指球筋に共通する機能は手の尺側を持ち上げ曲げることであるまた小指外転筋は第5指外転の作用をもちこの運動は大きな物体を把持する際に役立つ

[母指内転筋](図22)母指内転筋は母指CM関節の屈曲内転作用を

もつ筋である母指内転筋は母指と示指で物をつまむ際や日常生活動作においてはハサミを使用する際に強い活動を示す

[虫様筋と骨間筋](図23)虫様筋と骨間筋はMP関節屈曲筋でありかつ

PIP関節およびDIP関節の伸筋でもある虫様筋の近位付着は深指屈筋腱遠位付着部は伸展機構の側索であり骨に付着しない特徴的な筋である虫様筋の筋腹はMP関節の掌側を通過するためMP関節に対しては屈曲作用をもち遠位付着部である伸展機構の側索の作用により間接的にPIP関節DIP関節を伸展する骨間筋の主な作用はMP関節の外転および内転

であり掌側骨間筋と背側骨間筋の2つに分類されるまた遠位付着部を虫様筋と同様に伸展機

図20 母指球筋

〈起始〉舟状骨結節大菱形骨〈停止〉母指基節骨底橈側〈支配神経〉正中神経 C8~T1〈作用〉母指 CM関節外転

短母指外転筋(M abductor pollicis brevis)

母指対立筋(M opponens pollicis)〈起始〉大菱形骨結節〈停止〉第 1中手骨橈側〈支配神経〉正中神経 C8~T1〈作用〉母指 CM関節屈曲内旋

短母指屈筋(M flexor pollicis brevis)〈起始〉大菱形骨結節小菱形骨有頭骨〈停止〉母指基節骨底〈支配神経〉浅頭正中神経 C8~T1深頭尺骨神経 C8~T1〈作用〉母指 CM関節屈曲

図19 母指と小指対立時の手内在筋の作用F短母指屈筋と短小指屈筋 O母指対立筋と小指対立筋A短母指外転筋と小指外転筋FCU尺側手根屈筋FPP深指屈筋FPL長母指屈筋(Neumann 2012)

FCUFDP

FPL

AOF F

OA

豆状骨

深指屈筋(FDP)

長母指屈筋(FPL)

人間の身体

部筋収縮のメカニズム骨格筋の収縮に至る過程は興奮収縮連関(exci-

tation-contraction coupling)と呼ばれ次の順序で起こる(図5)1)①神経筋接合部で神経終末から神経伝達物質であるアセチルコリン(ACh)が放出され筋線維(骨格筋細胞)膜の受容体に結合する

②筋線維に活動電位が発生するとその活動電位が筋線維表面全体から横行小管に広がる③三連構造において横行小管の活動電位が隣接する筋小胞体のCaイオン放出チャネルを開き筋形質にCaイオンが放出され筋形質内のCaイオン濃度が増加する

④Caイオンがトロポニンに結合することによりトロポミオシンの立体構造が変化しアクチンの活性部位が露出する⑤ATPの加水分解によってミオシンとアクチンが結合(架橋結合)ミオシン頭部の屈曲解離が繰り返し起こりその結果アクチンが引き込まれ筋線維が短縮する一方骨格筋の収縮の終了に伴い筋の弛緩いわゆる筋が元の状態に戻る過程においては次の順序で起こる①神経終末においてアセチルコリン(ACh)がアセチルコリンエステラーゼ(AChE)によって分解され活動電位の発生が止まる②筋形質内のCaイオンが筋小胞体に取り込まれ筋形質内のCaイオン濃度が減少する

③Caイオン濃度が通常の静止期の値になるとトロポミオシンの立体構造が元の状態に戻りアクチンとミオシンの結合が抑制される④架橋結合がなくなり収縮が終わる⑤筋の弾性力や拮抗筋による牽引重力などの影響を受けて筋は受動的に静止期の長さに戻る図4 神経筋接合部

神経筋接合部α運動ニューロン

筋線維

活動電位

図5 筋の収縮過程(Martiniら 2000)

5弛緩静止時の長さへの受動的回復

4収縮の終了

3活性部位の被  覆架橋の消  失

2筋小胞体に  Caイオンが流入

1AChEによって  AChが分解

収縮終了の各段階

ミオシン

アクチン

Caイオン

5収縮の開始

4活性部位の露出  と架橋結合の形  成

3筋小胞体からの  Caイオン放出

2活動電位が  横行小管に  到達

1ACh放出とレセプター  への結合

横行小管シナプス終末運動終板

収縮開始の各段階

運動学に必須の基礎知識を完全網羅解剖学生理学力学的メカニズム関節運動学 といった運動学のベースとなる知識をくまなく網羅し国 試対策にも万全な内容です

①肩甲上腕リズム「肩甲上腕リズム(scapulohumeral rhythm)」とは肩関節の運動における肩甲上腕関節と肩甲胸郭関節との連動作用のことを表し肩関節挙上運動において肩甲上腕関節と肩甲胸郭関節は21の割合で動く(図19)1314)たとえば肩関節の外転において3degごとの外転のうち2degは肩甲上腕関節残りの1degは肩甲胸郭関節で生じるこの連動作用を肩甲上腕リズムと最初に名づけ

たのはコッドマン(Codman)15)であるコッドマンは肩甲骨を固定した状態で肩関節の運動を行うと90~120degまでの運動しか生じずまた肩関

節内旋位では60degの外転しか生じないことを報告したコッドマンのこの報告は肩関節の運動時に上腕骨と肩甲骨とが協調して動く必要があることを明らかにしたインマン(Inman)16)はさらにその研究を進め

肩関節外転において最初の30degは肩甲上腕関節で生じるがそれ以降では肩甲上腕関節肩甲胸郭関節=21になると報告しているこの原則に基づくと肩関節の完全外転180degは肩甲上腕関節の120deg外転と肩甲胸郭関節の60deg上方回旋が組み合わさって生じていることになるまた肩関節屈曲の際に最初の60degの屈曲は主に肩甲上腕関節で行われそれ以降の運動では外

転時と同様に肩甲上腕関節肩甲胸郭関節=21の関係で動くことが明らかにされている14)

1944年のインマンによる報告以降も数多くの報告がなされているがその多くはインマンが最初に報告した21に近いものばかりである外転時における各関節の動きをもう

少し詳しく説明すると肩甲上腕関節は自動運動では90degまでの外転が可能であり他動的な30degの外転が加わることで120degまで動かすことができる肩甲上腕関節の外転と同時に肩甲骨は回旋を開始するがこの肩甲骨の回旋は胸鎖関節と肩鎖関節によって起こる胸鎖関節の可動域は30degであ

[2]肩関節における運動学のポイント

図19 外転運動における肩甲骨と上腕骨の動き(肩甲上腕リズム)A上肢下垂位B肩関節90deg外転位のうち60degは肩甲上腕関節30degは肩甲胸郭関節で生じるC肩関節外転180degのうち120degは肩甲上腕関節60degは肩甲胸郭関節で生じるS肩甲骨H上腕骨ac肩鎖関節(Cailliet 1966 Ebskov 1975)

S SS

S30deg

60deg

60deg

120deg180deg

90deg

S

A B C

H

ac

H

H

H

04Human Kinesiology Human Kinesiology05

各筋の解説各筋の起始停止や作用についても各部位の筋ごとに詳細に解説し学生の自主学習の際にもとても参照しやすくしています

筋骨格の解剖図解剖学に関しては筋骨格の解剖図を大きく見やすい図を豊富に用いて分かりやすくしています多くの単語に英語解剖学用語にはラテン語の表記も併記ししっかりとした基礎知識を身につけることができます

運動の力学的メカニズム運動の力学的な理解に必須の知識を豊富な図を用いて詳しく解説していますそして評価に欠かせない筋力測定や関節可動域検査を始めとする種々の運動検査法についてもくまなく紹介しています

関節運動学各関節ごとの学習の「ポイント」が整理されているので非常に分かりやすくなっています

生理学生理学の基礎知識についての記述も充実しています特に運動に欠かせない筋収縮のメカニズム感覚調節呼吸循環などの知識について詳細に解説しています

学習する人間

①初期接地(initial contactIC)(図21)

歩行周期の0~2の時期であり地面への最初の接地を行う相である反対側は前遊脚期の始まりである従来は踵接地(heel contact)とされていたが踵以外で接地する場合に説明できないため現在では初期接地(initial contact)が用いられることが多い接地の際には直前の約1cmの高さからの自由落下により短時間に激しい床反力が生じその強度は体重の50~125に及ぶとされるそのためこの相では衝撃の吸収を行う必要があり遊脚相から続く筋の収縮とヒールロッカー機能を達成するために踵の位置を決定する下肢の位置関係が重要であるまた前方への運動量の生成という機能も要求される衝撃の吸収は主に遠心性収縮で行われ

るがそれでは身体にブレーキがかかることになるため前進への運動量が低下してしまうそこで踵の形状を利用したヒールロッカーによって前方への回転運動に変換される

[機能]この相の機能は以下の2つである

[各関節の詳細]筋活動の詳細は表2に示す中足指節間(MP)関節関節角度伸展0~25deg床 反 力

筋 活 動長指伸筋長母指伸筋知 覚足尖と地面との距離距骨下関節関節角度0degもしくは軽度内反床 反 力外反方向筋 活 動 前脛骨筋長母指伸筋後脛骨

筋長指伸筋知 覚足底の方向足関節関節角度0degもしくは背屈3~5deg床 反 力底屈方向

初期接地の機能

❶地面への接地(接床)と衝撃の吸収❷ヒールロッカーによるエネルギー変換

[9]歩行分析

図21 初期接地(initial contact)

学習する人間

る神経と筋肉の関係がある程度明確であるため代償動作として典型的な歩容として観察されることが多い

鶏歩(steppage gait)腓骨神経麻痺などによる足関節背屈筋の機能不

全が生じると下垂足(drop foot)を呈し遊脚期に地面とのクリアランスを確保するため下肢を高く挙上しつま先から投げ出すように歩行を行う完全な麻痺ではなく筋が弱化している場合は初期接地期に急激な足関節底屈が生じるスタンプ歩行(stamp gait)がみられる

踵歩行(calcaneal gait)脛骨神経麻痺などによる足関節底屈筋の機能不

全が生じると常に足関節背屈位での歩行となる

大殿筋歩行(gluteus maximus gait)大殿筋は股関節伸筋でありこの筋が機能不全

を起こすと初期接地直後に体幹を伸展骨盤を前方偏位させ股関節に伸展の外部モーメントを発生させながら歩行する

大腿四頭筋歩行(quadriceps femoris gait)大腿四頭筋は膝関節伸筋でありこの筋が機能

不全を起こすと反張膝や膝折れを呈する初期接地直後に膝の不安定性を呈するものは自身の手で大腿を押して膝関節伸展させることがある立ち上がり時にみられる一度体幹を前傾させ上肢で大腿を押し込んで起立するものは登攀(とはん)性起立(Gowers徴候)と呼ばれる

トレンデレンブルグ歩行(Trendelenburg gait)立脚側の中殿筋の機能不全や股関節内転筋の機

能不全脚長差が3cm以上の場合に立脚中期に遊脚側骨盤が過度に下制した歩容となる中殿筋歩行(gluteus medius gait)とも呼ばれる両側で

図66 失調症患者にみられる歩行

小脳性歩行 酩酊歩行

脊髄癆性歩行

図67 末梢神経疾患患者でみられる歩行大殿筋歩行鶏歩 踵歩行 大腿四頭筋歩行 トレンデレンブルグ歩行 デュシェンヌ歩行

患側

動作する人間

交叉性伸展反射( )出現時期 ~ か月背臥位で一側下肢を屈曲一側下肢を伸展させた状態で伸展した下肢を屈曲すると反対側下肢の伸展パターンが出現するまた背臥位で一側の下肢を伸展した状態で足底を刺激すると反対側下肢の伸展パターンが出現するさらに一側下肢の大腿部の内側を検者が軽叩すると反対側下肢の股関節が内転内旋膝関節が伸展足関節が底屈し鋏状肢位(scissors position=下肢の伸展パターン)となる

新生児期と乳児期の反射

バブキン反射( )出現時期 ~ か月背臥位で乳児の両手掌を検者が母指で強く圧迫して刺激すると開口する手掌口反射(hand-mouth

reflex)とも呼ばれる

口角反射( )出現時期 ~ か月口唇の周囲に乳首や指が触れると口や頭部を刺激した方向に動かして乳首や指を探索する探索反射口唇反射十字反射とも呼ばれる

吸啜反射( )出現時期 ~ か月口唇に乳首や指が触れると乳首や指を吸い込む吸啜(きゅうてつ)運動が出現する吸引反射とも呼ばれる

伸筋突張反射( )出現時期 ~ か月背臥位で下肢を屈曲させた状態で足底を刺激すると下肢の伸展パターン(伸展内転内旋)が出現する

屈筋収引反射( )出現時期 ~ か月背臥位で下肢を伸展させた状態で足底を刺激すると下肢を引っ込めるような屈曲パターン(屈曲外転外旋)が出現する逃避反射とも呼ばれる

脊髄レベルの原始反射

運動学習とは 知覚運動の 協応過程である運動学習(motor learning)とは「練習

や経験に関係した一連のプロセスであり結果として熟練した運動を遂行するための能力に比較的永続的な変化をもたらすもの」と定義されている2)運動行動における運動能力は運動体力と運動技能に分けられておりこの定義の中で示されている「熟練した運動を遂行するための能力」とは運動技能のことを表す運動技能は身体内外から発する感覚を手がかりに中枢神経系を通して運動行動をコントロールする能力であることから運動学習において知覚系と運動系の協応関係を構築していくことが重要となる

運動学習の理論アダムズの閉回路理論(closed loop theory)アダムズ(Adams)8)は従来の学習理論である

連合説(ある特定の刺激に対して特定の反応が生じるといった理論)に対する批判のうえに立ちサイバネティクス(cybernetics)における閉回路の考え方を学習の理論へ発展させたサイバネティクスにおける閉回路の考え方は以下のようなものである(図4)ヒトは環境から情報を取り入れその情報を手がかりに目標とする正しい運動行動を引き起こすであろう運動プログ

ラムを生成して運動行動を開始するそしてその運動行動の経過や結果を再び情報として取り入れ(フィードバック)意図している運動行動すなわち目標と比較して差異を調べる(誤差検出error detection)そして誤差が発見されたなら現在行っている運動行動もしくは次の運動行動を修正するよう試みる(誤差修正error correc-tion)これを繰り返すことで正しい運動行動が学習されるという考えである9)アダムズはフィードバックが生起する以前の運動行動の選択を開始するように働く限定的な運動プログラムのことを記憶痕跡(memory trace)と呼びフィードバック情報と比較して誤差を検出するための内的基準のことを知覚痕跡(percep-tual trace)と呼んだ知覚痕跡は過去の運動行動の経験によって形成されこの運動行動を実行すればこのような感じがするといった予期や期待のことを表す運動行動遂行中知覚痕跡は実際の運動行動によって生起されるフィードバック情

[2]運動学習理論

図4 運動学習と誤差検出誤差修正メカニズムのモデル(Keel amp Summers 1976)

基準or

比較センター

その他のフィードバック視覚的聴覚的など

筋肉

修正

運動指令のコピー

筋運動感覚的

フィードバック

筋への

運動指令

運動発生器or

運動プログラムシステム

基礎と臨床をつなぐ運動発達学姿勢動作歩行運動学習運動心理学など臨床で必須となる知識も詳細に解説し卒前教育から臨床現場まで長く活用できます

学習する人間

この合成されたベクトルのことを床反力ベクトルといい鉛直上方前後左右方向の3つの方向の成分に分解して考えることができ前後成分をFx左右成分をFy鉛直上方成分をFzの記号で表す(図8)また床反力ベクトルが作用する点は床反力作用点または足圧中心(COPcenter of pressure)と呼ばれるこの床反力作用点は床反力の平均位置であり身体を支持する力の中心であるそし

て身体が静止する時は重心に作用する重力と床反力ベクトルが同じ大きさかつ互いに逆向きに一直線上に作用している状態であるまた床

図4 身体の重心線

外果の約2~6cm前方

膝関節前部(膝蓋骨後面)

大転子

肩峰

耳垂のやや後方

両内果間の中心

両膝関節内側間の中心

殿裂

椎骨棘突起

後頭隆起

図5  主要なランドマークと重心線との位置関係 (Steen 2010)

前後(矢状面)の偏位(+前 -後)

耳介

T1

T4

T9

L3

股関節中心

-150 -100 -50 0重心線

ステファン2010ラファージュ2008

ガングネット2003シュワブ2006

50 100

図6 支持基底面の変化

椅子座位

両松葉杖の使用

開脚立位閉脚立位

図7 床反力ベクトル

床反力ベクトル

無数の床反力

図8 力の分解

z

Fz

0

Fy

y

x

Fx

06Human Kinesiology Human Kinesiology07

発達反射随意運動の仕組みとその発達のプロセスを詳細に説明しています

臨床的な知見様々な病態やその障害について説明し基礎を臨床へとつなげていくための知識を数多く紹介しています

運動学習近年新しく分かってきた知見も含めて運動学習について詳細に解説し治療を考える際に欠かすことのできない知識を身につけることができます

姿勢動作臨床現場で欠かすことのできない姿勢動作の分析力を支える知識を詳しく解説しています

歩行歩行のメカニズムおよび歩行分析について最新の知見も含めて詳細に解説し臨床現場で歩行を観察する能力を身につけることができます

学習する人間

①初期接地(initial contactIC)(図21)

歩行周期の0~2の時期であり地面への最初の接地を行う相である反対側は前遊脚期の始まりである従来は踵接地(heel contact)とされていたが踵以外で接地する場合に説明できないため現在では初期接地(initial contact)が用いられることが多い接地の際には直前の約1cmの高さからの自由落下により短時間に激しい床反力が生じその強度は体重の50~125に及ぶとされるそのためこの相では衝撃の吸収を行う必要があり遊脚相から続く筋の収縮とヒールロッカー機能を達成するために踵の位置を決定する下肢の位置関係が重要であるまた前方への運動量の生成という機能も要求される衝撃の吸収は主に遠心性収縮で行われ

るがそれでは身体にブレーキがかかることになるため前進への運動量が低下してしまうそこで踵の形状を利用したヒールロッカーによって前方への回転運動に変換される

[機能]この相の機能は以下の2つである

[各関節の詳細]筋活動の詳細は表2に示す中足指節間(MP)関節関節角度伸展0~25deg床 反 力

筋 活 動長指伸筋長母指伸筋知 覚足尖と地面との距離距骨下関節関節角度0degもしくは軽度内反床 反 力外反方向筋 活 動 前脛骨筋長母指伸筋後脛骨

筋長指伸筋知 覚足底の方向足関節関節角度0degもしくは背屈3~5deg床 反 力底屈方向

初期接地の機能

❶地面への接地(接床)と衝撃の吸収❷ヒールロッカーによるエネルギー変換

[9]歩行分析

図21 初期接地(initial contact)

学習する人間

る神経と筋肉の関係がある程度明確であるため代償動作として典型的な歩容として観察されることが多い

鶏歩(steppage gait)腓骨神経麻痺などによる足関節背屈筋の機能不

全が生じると下垂足(drop foot)を呈し遊脚期に地面とのクリアランスを確保するため下肢を高く挙上しつま先から投げ出すように歩行を行う完全な麻痺ではなく筋が弱化している場合は初期接地期に急激な足関節底屈が生じるスタンプ歩行(stamp gait)がみられる

踵歩行(calcaneal gait)脛骨神経麻痺などによる足関節底屈筋の機能不

全が生じると常に足関節背屈位での歩行となる

大殿筋歩行(gluteus maximus gait)大殿筋は股関節伸筋でありこの筋が機能不全

を起こすと初期接地直後に体幹を伸展骨盤を前方偏位させ股関節に伸展の外部モーメントを発生させながら歩行する

大腿四頭筋歩行(quadriceps femoris gait)大腿四頭筋は膝関節伸筋でありこの筋が機能

不全を起こすと反張膝や膝折れを呈する初期接地直後に膝の不安定性を呈するものは自身の手で大腿を押して膝関節伸展させることがある立ち上がり時にみられる一度体幹を前傾させ上肢で大腿を押し込んで起立するものは登攀(とはん)性起立(Gowers徴候)と呼ばれる

トレンデレンブルグ歩行(Trendelenburg gait)立脚側の中殿筋の機能不全や股関節内転筋の機

能不全脚長差が3cm以上の場合に立脚中期に遊脚側骨盤が過度に下制した歩容となる中殿筋歩行(gluteus medius gait)とも呼ばれる両側で

図66 失調症患者にみられる歩行

小脳性歩行 酩酊歩行

脊髄癆性歩行

図67 末梢神経疾患患者でみられる歩行大殿筋歩行鶏歩 踵歩行 大腿四頭筋歩行 トレンデレンブルグ歩行 デュシェンヌ歩行

患側

動作する人間

交叉性伸展反射( )出現時期 ~ か月背臥位で一側下肢を屈曲一側下肢を伸展させた状態で伸展した下肢を屈曲すると反対側下肢の伸展パターンが出現するまた背臥位で一側の下肢を伸展した状態で足底を刺激すると反対側下肢の伸展パターンが出現するさらに一側下肢の大腿部の内側を検者が軽叩すると反対側下肢の股関節が内転内旋膝関節が伸展足関節が底屈し鋏状肢位(scissors position=下肢の伸展パターン)となる

新生児期と乳児期の反射

バブキン反射( )出現時期 ~ か月背臥位で乳児の両手掌を検者が母指で強く圧迫して刺激すると開口する手掌口反射(hand-mouth

reflex)とも呼ばれる

口角反射( )出現時期 ~ か月口唇の周囲に乳首や指が触れると口や頭部を刺激した方向に動かして乳首や指を探索する探索反射口唇反射十字反射とも呼ばれる

吸啜反射( )出現時期 ~ か月口唇に乳首や指が触れると乳首や指を吸い込む吸啜(きゅうてつ)運動が出現する吸引反射とも呼ばれる

伸筋突張反射( )出現時期 ~ か月背臥位で下肢を屈曲させた状態で足底を刺激すると下肢の伸展パターン(伸展内転内旋)が出現する

屈筋収引反射( )出現時期 ~ か月背臥位で下肢を伸展させた状態で足底を刺激すると下肢を引っ込めるような屈曲パターン(屈曲外転外旋)が出現する逃避反射とも呼ばれる

脊髄レベルの原始反射

運動学習とは 知覚運動の 協応過程である運動学習(motor learning)とは「練習

や経験に関係した一連のプロセスであり結果として熟練した運動を遂行するための能力に比較的永続的な変化をもたらすもの」と定義されている2)運動行動における運動能力は運動体力と運動技能に分けられておりこの定義の中で示されている「熟練した運動を遂行するための能力」とは運動技能のことを表す運動技能は身体内外から発する感覚を手がかりに中枢神経系を通して運動行動をコントロールする能力であることから運動学習において知覚系と運動系の協応関係を構築していくことが重要となる

運動学習の理論アダムズの閉回路理論(closed loop theory)アダムズ(Adams)8)は従来の学習理論である

連合説(ある特定の刺激に対して特定の反応が生じるといった理論)に対する批判のうえに立ちサイバネティクス(cybernetics)における閉回路の考え方を学習の理論へ発展させたサイバネティクスにおける閉回路の考え方は以下のようなものである(図4)ヒトは環境から情報を取り入れその情報を手がかりに目標とする正しい運動行動を引き起こすであろう運動プログ

ラムを生成して運動行動を開始するそしてその運動行動の経過や結果を再び情報として取り入れ(フィードバック)意図している運動行動すなわち目標と比較して差異を調べる(誤差検出error detection)そして誤差が発見されたなら現在行っている運動行動もしくは次の運動行動を修正するよう試みる(誤差修正error correc-tion)これを繰り返すことで正しい運動行動が学習されるという考えである9)アダムズはフィードバックが生起する以前の運動行動の選択を開始するように働く限定的な運動プログラムのことを記憶痕跡(memory trace)と呼びフィードバック情報と比較して誤差を検出するための内的基準のことを知覚痕跡(percep-tual trace)と呼んだ知覚痕跡は過去の運動行動の経験によって形成されこの運動行動を実行すればこのような感じがするといった予期や期待のことを表す運動行動遂行中知覚痕跡は実際の運動行動によって生起されるフィードバック情

[2]運動学習理論

図4 運動学習と誤差検出誤差修正メカニズムのモデル(Keel amp Summers 1976)

基準or

比較センター

その他のフィードバック視覚的聴覚的など

筋肉

修正

運動指令のコピー

筋運動感覚的

フィードバック

筋への

運動指令

運動発生器or

運動プログラムシステム

基礎と臨床をつなぐ運動発達学姿勢動作歩行運動学習運動心理学など臨床で必須となる知識も詳細に解説し卒前教育から臨床現場まで長く活用できます

学習する人間

この合成されたベクトルのことを床反力ベクトルといい鉛直上方前後左右方向の3つの方向の成分に分解して考えることができ前後成分をFx左右成分をFy鉛直上方成分をFzの記号で表す(図8)また床反力ベクトルが作用する点は床反力作用点または足圧中心(COPcenter of pressure)と呼ばれるこの床反力作用点は床反力の平均位置であり身体を支持する力の中心であるそし

て身体が静止する時は重心に作用する重力と床反力ベクトルが同じ大きさかつ互いに逆向きに一直線上に作用している状態であるまた床

図4 身体の重心線

外果の約2~6cm前方

膝関節前部(膝蓋骨後面)

大転子

肩峰

耳垂のやや後方

両内果間の中心

両膝関節内側間の中心

殿裂

椎骨棘突起

後頭隆起

図5  主要なランドマークと重心線との位置関係 (Steen 2010)

前後(矢状面)の偏位(+前 -後)

耳介

T1

T4

T9

L3

股関節中心

-150 -100 -50 0重心線

ステファン2010ラファージュ2008

ガングネット2003シュワブ2006

50 100

図6 支持基底面の変化

椅子座位

両松葉杖の使用

開脚立位閉脚立位

図7 床反力ベクトル

床反力ベクトル

無数の床反力

図8 力の分解

z

Fz

0

Fy

y

x

Fx

06Human Kinesiology Human Kinesiology07

発達反射随意運動の仕組みとその発達のプロセスを詳細に説明しています

臨床的な知見様々な病態やその障害について説明し基礎を臨床へとつなげていくための知識を数多く紹介しています

運動学習近年新しく分かってきた知見も含めて運動学習について詳細に解説し治療を考える際に欠かすことのできない知識を身につけることができます

姿勢動作臨床現場で欠かすことのできない姿勢動作の分析力を支える知識を詳しく解説しています

歩行歩行のメカニズムおよび歩行分析について最新の知見も含めて詳細に解説し臨床現場で歩行を観察する能力を身につけることができます

人間の「錐体路」錐体路(pyramidal tract)あるいは皮質脊

髄路(corticospinal tract)は系統発生的に新しく哺乳類で初めて見られるようになりヒトで最もよく発達した脳内最大の下行性線維束である多くの異なる皮質領域に起始をもち前頭葉では一次運動野運動前野補足運動野帯状皮質運動野から頭頂葉では一次感覚野とさらに高次な57野に由来するまた錐体路の起始細胞は形状の特徴から錐体細胞(pyramidal

cell)といい特に一次運動野の巨大錐体細胞はBetz細胞と呼ばれすべて大脳皮質の第Ⅴ層に位置するこれら錐体路をなす軸索の起始細胞を錐体路ニューロン(PTNspyramidal tract neurons)という「錐体路」の名称は下行する際に延髄の錐体を通ることに由来しておりこれら起始細胞の名称に由来しているのではない大脳皮質の第Ⅴ層に起始した軸索は放線冠を形成し内包の前脚と後脚を通るが一次運動野からの線維はほとんど後脚を通って中脳に至る中脳では大脳脚を通り橋では橋核の間をいくつかの束に分かれて通過し延髄で再びまとまった束となる延髄下部ではおよそ90が対側へ交叉しておりこれを錐体交叉(pyramidal decussation)という交叉した線維は外側皮質脊髄路となって対

側の脊髄側索を下行し脊髄前角の主に四肢遠位の制御に関わる外側領域の運動ニューロンと中間層の介在ニューロンに終止する非交叉線維は前

[6]ヒトの行為と脳機能システム

図53 錐体路の走行(Baumlhrら2010)

C1ⅪⅫⅩⅨ

ⅦⅥⅤ

ⅣⅢ

運動終板

外側皮質脊髄路(交叉)

延髄

大脳脚皮質橋路

中脳

前皮質脊髄路(非交叉)錐体交叉

錐体

皮質脊髄路(錐体路)皮質核路

皮質中脳路尾状核(頭部)内包

レンズ核

視床尾状核(尾部)

第8野から

中心前回

[4] 運動制御のための下行路

人間の身体

[4] 運動制御のための下行路

には1m以上の長さに及ぶものもある特に運動野のベッツ巨大細胞からの軸索は大きく伝導速度が速いしかしながらその大きな軸索の錐体路に占める割合は3程度とわずかであり錐体路のほとんどは運動野の第5層にある錐体路細胞に起始している錐体路の大多数は延髄で錐体交叉し反対側の脊髄側索を下行する外側皮質脊髄路と交叉せずに脊髄前索を下行する前皮質脊髄路とに区分されている錐体交叉率は90以上であり特に手指の筋を支配する錐体路の交叉率は100近いとされている錐体路は個々の運動の個別性分別性分離性といった機能との関係がきわめて深く手指の巧緻動作や道具使用の特殊性の視点から「最も人間的なものである(Pyramidal tract is such a human

feature)」といわれているしかしながら運動野に起始する錐体路(皮質

脊髄路)は筋収縮を引き起こす脊髄前角の運動細胞にすべて直接投射しているわけではない運動野からの下行性の神経線維は脊髄後索の「介在ニューロン(spinal interneuron)」にも接続して「予測的に末梢からの感覚入力を調節する機能」を有していると主張する研究者もいるしたがって運動野は脊髄後索の介在ニューロンを介して体性感覚入力によって引き起こされる反射を制御していると考えられる(図25)50)

人間の巧緻的な運動はこれらの脊髄介在ニューロンを含んだ神経回路のネットワークによって達成されているその意味で錐体路は行為を予測的に制御する機能を有していると考えるべきであろう

[錐体路障害]錐体路障害では痙縮(spasticity)をきたす臨床上錐体路障害が顕著に出現するのは脳性麻痺の両麻痺(diplegia)脳卒中片麻痺(hemi-plegia)脊髄損傷による対麻痺(paraplegia)などであり痙性麻痺深部反射(腱反射)亢進バビンスキー反射陽性が錐体路徴候とされている特徴的な異常姿勢としては片麻痺におけるウェルニッケマン(Wernicke-Mann)肢位(図26)や脳性麻痺の鋏(ハサミ)状肢位(scissors posi-tion)が有名である(上肢屈筋下肢伸筋優位)51)また痙性麻痺に認められる筋緊張の亢進

(hypertone)折りたたみナイフ現象(clasp-knife

phenomenon)クローヌス(clonus)腱反射の亢進(hypertendon refl ex)などは錐体路損傷によって大脳皮質からの脊髄運動ニューロンへの抑制が弱まることで出現する解放現象と考えられているバビンスキー(Babinski)反射は正常な新生児で

も出現するが錐体路損傷の指標として信頼できるものである足底を刺激すると母指が背屈し他の指が扇状に広がる現象であるなおサルで錐体路を実験的に切断すると個々の手指の巧緻運動ができなくなるが筋緊張の亢進や腱反射の亢進はほとんど認められないという

図26 片麻痺におけるウェルニッケマン肢位

図25 錐体路による反射の制御錐体路は前角の運動ニューロンだけでなく同時に脊髄介在ニューロンを支配して感覚ニューロンを予測的に制御する(Perfetti 1987)

具体的には予測的な運動プランと運動結果との因果関係である「再生スキーマ」と実際の運動と感覚フィードバックとの因果関係である「再認スキーマ」が想定されており運動学習は運動課題の多様な経験に対するスキーマ(運動プログラム)の再組織化や改変によって達成されるシュミットはなぜ練習していない左手やペンを口にくわえても文字が書けるのかという謎に対してスキーマ理論を導入することで運動の長期記憶の理論化に一定の成功を収めた

脳の運動制御モデル20世紀後半の脳科学の進歩を集積してつくら

れたアレン(Allen)と塚原20)による「脳の運動制御モデル」によれば随意運動を発現するための頭頂葉の感覚情報が前頭葉の補足運動野や運動前

野に入力されそこで運動のプランとプログラムが大脳基底核と小脳の調節を経て形成され運動野に伝達された後運動野が脊髄の前角細胞に運動指令(motor command)を出して筋収縮が発現するとされている(図6)つまりある目的を達成する随意運動の脳内の神経情報(neural information)流れには運動のプランやプログラムを構築する「認知過程」と実際に運動を実行する「行為過程」が存在しているこの観点に立てば随意運動の最高中枢とされてきた運動野は単に運動を遂行する出口にすぎない随意運動の最高中枢は補足運動野と運動前野でありそこでは具体的な運動のプログラムが決定されている脳の運動制御モデルは随意運動のメカニズムを理解するうえできわめて重要である

図6 随意運動における神経情報の流れ(Allenと塚原1974)

感覚連合野(頭頂葉他)

意 志

体性感覚

大脳基底核

運動前野脊 髄 筋

補足運動野

小 脳

運動遂行運動プログラム

運動野

再生スキーマ(演繹的)

運動プラン

運動結果

再認スキーマ(帰納的)

運動結果

感覚フィードバック

図5 スキーマ理論(Schmidt 1975)

図16 筋皮神経(C5 6)および腋窩神経(C5 6)(Joseph 1982)

筋皮神経

腋窩神経

後枝

前枝

外側前腕皮神経

長頭

短頭上腕二頭筋

烏口腕筋

外側上腕皮神経

三角筋(上枝より)

上腕筋

筋皮神経小円筋後枝腋窩神経

橈骨神経尺骨神経

内側神経束後神経束外側神経束腕神経叢

図18 正中神経(C6~8 T1)(Joseph 1982)

第1および第2虫様筋

尺骨神経との吻合

方形回内筋

深指屈筋(橈側部)関節枝(2)

短母指屈筋(浅頭)

母指対立筋短母指外転筋母指球筋

長母指屈筋

浅指屈筋

橈側手根屈筋長掌筋円回内筋

屈-回内筋群

内側神経束外側神経束

単独支配域

知覚神経分布

図19 尺骨神経(C8 T1)(Joseph 1982)

正中神経参照

短母指屈筋(内側頭)

母指内転筋

正中神経参照

正中神経

尺側虫様筋掌側骨間筋背側骨間筋

23

4小指屈筋小指対立筋小指外転筋短掌筋

皮枝

尺骨神経

深指屈筋(内側12)

尺側手骨屈筋

内側上顆

上腕骨部(分枝なし)

内側神経束外側神経束 単独支配域

知覚神経分布

図17 橈骨神経(C6~8 T1)(Joseph 1982)

単独支配域

知覚神経分布

示指伸筋

短母指伸筋長母指伸筋

長母指外転筋回外筋

尺側手根伸筋小指伸筋総指伸筋

短橈側手根伸筋

深枝肘筋

長橈側手根伸筋腕橈骨筋

伸-回外筋群上腕筋長頭

外側頭上腕三頭筋

橈骨神経浅枝

後前腕皮皮神経

後上腕神経知覚枝上腕三頭筋の内側頭腋窩神経

内側神経束後神経束外側神経束

行為する人間

このような身体意識の成立の背景には前頭頭頂の神経ネットワークが特に重要な役割を担っているがこれは基本的に視覚や触覚といった外受容感覚のネットワークであり人間の自己感の形成にはさらに島皮質の特に右半球前部を中心とした内受容感覚のネットワークが重要である内受容感覚は皮膚や筋などから上行する体性神経信号と血行リンパ行性に上行する体液性の化学信号内臓感覚の自律神経信号によって構成されこれらの身体情報は体性感覚野島帯状皮質に到達したのちヒトで特に発達している前部島(anterior insula cortex)に統合される(図62)32)つまり自己感は視覚や触覚などの外受容感覚と内臓や血中の情報などの内受容感覚の両方のボトムアップ情報が統合されることが基盤となっているがこれらは理想的な状態を仮説的予測的に生成されるトップダウンモデルの随伴発射あるいは遠心性コピーと身体を介したオンラインのボトムアップ情報とが比較照合されなければならないそこで生じた予測誤差(prediction error)を最小化するべくまたモデルをアップデートするという循環によって統一的で整合性のある自己が維持される人間の運動制御と運動学習には身体と外部環境との相互関係を表象する内部モデルが必要とされておりそれには「順モデル(forward model)」と「逆モデル(inverse model)」があるたとえば視覚的に捉えた物体を目標とする時目標から逆算してそれを手にするのに必要な関節や筋の動きを推定するこれが逆モデルである一方実際にそれを行うと手がどのように動くかの予測が成立するこれが順モデルであるすなわち行為を行う際の目的目標に対しては逆モデルを用いて運動プログラムを立て必要な運動指令を生み出すそれをもとに実際に運動を行うがそれと同時にこの運動指令の遠心性コピー情報が身体運動の予測として順モデルを成立させる実際に運動を行うと同時にこの推定された逆モデルと予測される順モデルとが比較照合されることで

不一致があればその段階での修正が可能となるため外部環境や状況に応じた円滑で調節された運動の実行が可能となるまた順モデルで成立させた予測には運動の予測とともに「こういう運動を行えばこんな感じが生じるはずだ」という感覚の予測が含まれているため実際に生じた感覚の求心情報と一致することにより「これを行っているのは私である」という運動の主体感が生じるといえるまたこのような予測と実際の求心情報の不一致あるいは異なる求心情報間の不一致が生じた場合自分の身体自分の運動といった主体感が成立せず適切な運動プログラムの生成に影響を及ぼすことになる

ミラーニューロンシステム高次運動野である腹側運動前野にはつまむ握る引っかくといった特定の行為をコードしているニューロンがあるこれらは行為ごとに選択的な応答を示しまた対象の視覚提示だけでも活動するこれらのニューロンは感覚情報から運動

図62 外受容感覚と内受容感覚の内的モデル(Seth 2013)

望ましい推測された状態

覚醒ネットワーク

生成モデル

生成モデル 運動コントロール

外界

身体

外受容感覚予測誤差

内受容感覚予測誤差

自律神経系コントロール

随伴反射

図61 運動主体感の生成モデル予測である遠心性コピー情報と実際の感覚フィードバック情報が一致することによって運動主体感が生起される(Blakemoreら1999)

予測器

感覚運動システム

遠心性コピー 運動主体感 感覚誤差

実際の感覚フィードバック

一致

予測感覚フィードバック(随伴発射)

運動指令

「脳科学の世紀」の運動学この本の最大の特徴の一つが豊富な「脳神経 科学」についての内容です運動の理解に必要不可欠な脳神経科学の知識 を基礎から最新研究まで幅広く紹介し病態解釈や臨床思考に役立てることができます

08Human Kinesiology Human Kinesiology09

神経解剖学重要な神経構造の図表をくまなく記載しています

脳の運動制御随意運動運動制御の脳神経学的メカニズムについても詳細に解説しています

脳機能と脳障害各神経部位の機能特性の説明に加えその部位が損傷されることでどのような障害がもたらされるかについても詳細に解説していますまた高次脳機能障害についても様々な知見を紹介し臨床に役立てることができます

「人間の運動」の神経基盤「人間の運動」を生み出す脳の仕組みについて分かりやすく解説しています

最新研究の紹介脳科学の最新のトピックスについても豊富に紹介しています

人間の「錐体路」錐体路(pyramidal tract)あるいは皮質脊

髄路(corticospinal tract)は系統発生的に新しく哺乳類で初めて見られるようになりヒトで最もよく発達した脳内最大の下行性線維束である多くの異なる皮質領域に起始をもち前頭葉では一次運動野運動前野補足運動野帯状皮質運動野から頭頂葉では一次感覚野とさらに高次な57野に由来するまた錐体路の起始細胞は形状の特徴から錐体細胞(pyramidal

cell)といい特に一次運動野の巨大錐体細胞はBetz細胞と呼ばれすべて大脳皮質の第Ⅴ層に位置するこれら錐体路をなす軸索の起始細胞を錐体路ニューロン(PTNspyramidal tract neurons)という「錐体路」の名称は下行する際に延髄の錐体を通ることに由来しておりこれら起始細胞の名称に由来しているのではない大脳皮質の第Ⅴ層に起始した軸索は放線冠を形成し内包の前脚と後脚を通るが一次運動野からの線維はほとんど後脚を通って中脳に至る中脳では大脳脚を通り橋では橋核の間をいくつかの束に分かれて通過し延髄で再びまとまった束となる延髄下部ではおよそ90が対側へ交叉しておりこれを錐体交叉(pyramidal decussation)という交叉した線維は外側皮質脊髄路となって対

側の脊髄側索を下行し脊髄前角の主に四肢遠位の制御に関わる外側領域の運動ニューロンと中間層の介在ニューロンに終止する非交叉線維は前

[6]ヒトの行為と脳機能システム

図53 錐体路の走行(Baumlhrら2010)

C1ⅪⅫⅩⅨ

ⅦⅥⅤ

ⅣⅢ

運動終板

外側皮質脊髄路(交叉)

延髄

大脳脚皮質橋路

中脳

前皮質脊髄路(非交叉)錐体交叉

錐体

皮質脊髄路(錐体路)皮質核路

皮質中脳路尾状核(頭部)内包

レンズ核

視床尾状核(尾部)

第8野から

中心前回

[4] 運動制御のための下行路

人間の身体

[4] 運動制御のための下行路

には1m以上の長さに及ぶものもある特に運動野のベッツ巨大細胞からの軸索は大きく伝導速度が速いしかしながらその大きな軸索の錐体路に占める割合は3程度とわずかであり錐体路のほとんどは運動野の第5層にある錐体路細胞に起始している錐体路の大多数は延髄で錐体交叉し反対側の脊髄側索を下行する外側皮質脊髄路と交叉せずに脊髄前索を下行する前皮質脊髄路とに区分されている錐体交叉率は90以上であり特に手指の筋を支配する錐体路の交叉率は100近いとされている錐体路は個々の運動の個別性分別性分離性といった機能との関係がきわめて深く手指の巧緻動作や道具使用の特殊性の視点から「最も人間的なものである(Pyramidal tract is such a human

feature)」といわれているしかしながら運動野に起始する錐体路(皮質

脊髄路)は筋収縮を引き起こす脊髄前角の運動細胞にすべて直接投射しているわけではない運動野からの下行性の神経線維は脊髄後索の「介在ニューロン(spinal interneuron)」にも接続して「予測的に末梢からの感覚入力を調節する機能」を有していると主張する研究者もいるしたがって運動野は脊髄後索の介在ニューロンを介して体性感覚入力によって引き起こされる反射を制御していると考えられる(図25)50)

人間の巧緻的な運動はこれらの脊髄介在ニューロンを含んだ神経回路のネットワークによって達成されているその意味で錐体路は行為を予測的に制御する機能を有していると考えるべきであろう

[錐体路障害]錐体路障害では痙縮(spasticity)をきたす臨床上錐体路障害が顕著に出現するのは脳性麻痺の両麻痺(diplegia)脳卒中片麻痺(hemi-plegia)脊髄損傷による対麻痺(paraplegia)などであり痙性麻痺深部反射(腱反射)亢進バビンスキー反射陽性が錐体路徴候とされている特徴的な異常姿勢としては片麻痺におけるウェルニッケマン(Wernicke-Mann)肢位(図26)や脳性麻痺の鋏(ハサミ)状肢位(scissors posi-tion)が有名である(上肢屈筋下肢伸筋優位)51)また痙性麻痺に認められる筋緊張の亢進

(hypertone)折りたたみナイフ現象(clasp-knife

phenomenon)クローヌス(clonus)腱反射の亢進(hypertendon refl ex)などは錐体路損傷によって大脳皮質からの脊髄運動ニューロンへの抑制が弱まることで出現する解放現象と考えられているバビンスキー(Babinski)反射は正常な新生児でも出現するが錐体路損傷の指標として信頼できるものである足底を刺激すると母指が背屈し他の指が扇状に広がる現象であるなおサルで錐体路を実験的に切断すると個々の手指の巧緻運動ができなくなるが筋緊張の亢進や腱反射の亢進はほとんど認められないという

図26 片麻痺におけるウェルニッケマン肢位

図25 錐体路による反射の制御錐体路は前角の運動ニューロンだけでなく同時に脊髄介在ニューロンを支配して感覚ニューロンを予測的に制御する(Perfetti 1987)

具体的には予測的な運動プランと運動結果との因果関係である「再生スキーマ」と実際の運動と感覚フィードバックとの因果関係である「再認スキーマ」が想定されており運動学習は運動課題の多様な経験に対するスキーマ(運動プログラム)の再組織化や改変によって達成されるシュミットはなぜ練習していない左手やペンを口にくわえても文字が書けるのかという謎に対してスキーマ理論を導入することで運動の長期記憶の理論化に一定の成功を収めた

脳の運動制御モデル20世紀後半の脳科学の進歩を集積してつくられたアレン(Allen)と塚原20)による「脳の運動制御モデル」によれば随意運動を発現するための頭頂葉の感覚情報が前頭葉の補足運動野や運動前

野に入力されそこで運動のプランとプログラムが大脳基底核と小脳の調節を経て形成され運動野に伝達された後運動野が脊髄の前角細胞に運動指令(motor command)を出して筋収縮が発現するとされている(図6)つまりある目的を達成する随意運動の脳内の神経情報(neural information)流れには運動のプランやプログラムを構築する「認知過程」と実際に運動を実行する「行為過程」が存在しているこの観点に立てば随意運動の最高中枢とされてきた運動野は単に運動を遂行する出口にすぎない随意運動の最高中枢は補足運動野と運動前野でありそこでは具体的な運動のプログラムが決定されている脳の運動制御モデルは随意運動のメカニズムを理解するうえできわめて重要である

図6 随意運動における神経情報の流れ(Allenと塚原1974)

感覚連合野(頭頂葉他)

意 志

体性感覚

大脳基底核

運動前野脊 髄 筋

補足運動野

小 脳

運動遂行運動プログラム

運動野

再生スキーマ(演繹的)

運動プラン

運動結果

再認スキーマ(帰納的)

運動結果

感覚フィードバック

図5 スキーマ理論(Schmidt 1975)

図16 筋皮神経(C5 6)および腋窩神経(C5 6)(Joseph 1982)

筋皮神経

腋窩神経

後枝

前枝

外側前腕皮神経

長頭

短頭上腕二頭筋

烏口腕筋

外側上腕皮神経

三角筋(上枝より)

上腕筋

筋皮神経小円筋後枝腋窩神経

橈骨神経尺骨神経

内側神経束後神経束外側神経束腕神経叢

図18 正中神経(C6~8 T1)(Joseph 1982)

第1および第2虫様筋

尺骨神経との吻合

方形回内筋

深指屈筋(橈側部)関節枝(2)

短母指屈筋(浅頭)

母指対立筋短母指外転筋母指球筋

長母指屈筋

浅指屈筋

橈側手根屈筋長掌筋円回内筋

屈-回内筋群

内側神経束外側神経束

単独支配域

知覚神経分布

図19 尺骨神経(C8 T1)(Joseph 1982)

正中神経参照

短母指屈筋(内側頭)

母指内転筋

正中神経参照

正中神経

尺側虫様筋掌側骨間筋背側骨間筋

23

4小指屈筋小指対立筋小指外転筋短掌筋

皮枝

尺骨神経

深指屈筋(内側12)

尺側手骨屈筋

内側上顆

上腕骨部(分枝なし)

内側神経束外側神経束 単独支配域

知覚神経分布

図17 橈骨神経(C6~8 T1)(Joseph 1982)

単独支配域

知覚神経分布

示指伸筋

短母指伸筋長母指伸筋

長母指外転筋回外筋

尺側手根伸筋小指伸筋総指伸筋

短橈側手根伸筋

深枝肘筋

長橈側手根伸筋腕橈骨筋

伸-回外筋群上腕筋長頭

外側頭上腕三頭筋

橈骨神経浅枝

後前腕皮皮神経

後上腕神経知覚枝上腕三頭筋の内側頭腋窩神経

内側神経束後神経束外側神経束

行為する人間

このような身体意識の成立の背景には前頭頭頂の神経ネットワークが特に重要な役割を担っているがこれは基本的に視覚や触覚といった外受容感覚のネットワークであり人間の自己感の形成にはさらに島皮質の特に右半球前部を中心とした内受容感覚のネットワークが重要である内受容感覚は皮膚や筋などから上行する体性神経信号と血行リンパ行性に上行する体液性の化学信号内臓感覚の自律神経信号によって構成されこれらの身体情報は体性感覚野島帯状皮質に到達したのちヒトで特に発達している前部島(anterior insula cortex)に統合される(図62)32)つまり自己感は視覚や触覚などの外受容感覚と内臓や血中の情報などの内受容感覚の両方のボトムアップ情報が統合されることが基盤となっているがこれらは理想的な状態を仮説的予測的に生成されるトップダウンモデルの随伴発射あるいは遠心性コピーと身体を介したオンラインのボトムアップ情報とが比較照合されなければならないそこで生じた予測誤差(prediction error)を最小化するべくまたモデルをアップデートするという循環によって統一的で整合性のある自己が維持される人間の運動制御と運動学習には身体と外部環境との相互関係を表象する内部モデルが必要とされておりそれには「順モデル(forward model)」と「逆モデル(inverse model)」があるたとえば視覚的に捉えた物体を目標とする時目標から逆算してそれを手にするのに必要な関節や筋の動きを推定するこれが逆モデルである一方実際にそれを行うと手がどのように動くかの予測が成立するこれが順モデルであるすなわち行為を行う際の目的目標に対しては逆モデルを用いて運動プログラムを立て必要な運動指令を生み出すそれをもとに実際に運動を行うがそれと同時にこの運動指令の遠心性コピー情報が身体運動の予測として順モデルを成立させる実際に運動を行うと同時にこの推定された逆モデルと予測される順モデルとが比較照合されることで

不一致があればその段階での修正が可能となるため外部環境や状況に応じた円滑で調節された運動の実行が可能となるまた順モデルで成立させた予測には運動の予測とともに「こういう運動を行えばこんな感じが生じるはずだ」という感覚の予測が含まれているため実際に生じた感覚の求心情報と一致することにより「これを行っているのは私である」という運動の主体感が生じるといえるまたこのような予測と実際の求心情報の不一致あるいは異なる求心情報間の不一致が生じた場合自分の身体自分の運動といった主体感が成立せず適切な運動プログラムの生成に影響を及ぼすことになる

ミラーニューロンシステム高次運動野である腹側運動前野にはつまむ握る引っかくといった特定の行為をコードしているニューロンがあるこれらは行為ごとに選択的な応答を示しまた対象の視覚提示だけでも活動するこれらのニューロンは感覚情報から運動

図62 外受容感覚と内受容感覚の内的モデル(Seth 2013)

望ましい推測された状態

覚醒ネットワーク

生成モデル

生成モデル 運動コントロール

外界

身体

外受容感覚予測誤差

内受容感覚予測誤差

自律神経系コントロール

随伴反射

図61 運動主体感の生成モデル予測である遠心性コピー情報と実際の感覚フィードバック情報が一致することによって運動主体感が生起される(Blakemoreら1999)

予測器

感覚運動システム

遠心性コピー 運動主体感 感覚誤差

実際の感覚フィードバック

一致

予測感覚フィードバック(随伴発射)

運動指令

「脳科学の世紀」の運動学この本の最大の特徴の一つが豊富な「脳神経 科学」についての内容です運動の理解に必要不可欠な脳神経科学の知識 を基礎から最新研究まで幅広く紹介し病態解釈や臨床思考に役立てることができます

08Human Kinesiology Human Kinesiology09

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脳機能と脳障害各神経部位の機能特性の説明に加えその部位が損傷されることでどのような障害がもたらされるかについても詳細に解説していますまた高次脳機能障害についても様々な知見を紹介し臨床に役立てることができます

「人間の運動」の神経基盤「人間の運動」を生み出す脳の仕組みについて分かりやすく解説しています

最新研究の紹介脳科学の最新のトピックスについても豊富に紹介しています

まったく新しい運動学の教科書

これが『人間の運動学』のコンセプトですここでいう「新しい」とは

今までの運動学とは別物という意味ではありません

解剖学生理学運動の力学的メカニズム関節運動学といった運動学の基礎となる知識を本書はくまなく網羅しています

そのうえで運動学では今まで扱われる事の無かった学際的な観点や近年新しく分かってきた最新の研究などを加えることで「運動学」をより良くアップデートすることが

本書の狙いです

その中心となるのは近年目覚ましい発展を遂げている脳神経科学そしてそれに伴って少しずつ明らかになってきた

「自己感覚」や「社会脳」をめぐる「意識」についての知識です人間の運動の背後にある神経作用

そしてその源である「身体化された心」までをも視野に入れた学問としての「新しい運動学」というヴィジョンを

本書は提示しています

人間の運動学

運動学

オートポイエーシス

ミラーニューロン社会脳

アフォーダンス

心の理論

行為システム

心の神経哲学

身体表象空間表象

身体所有感運動主体感

意識のハードプロブレム

解剖学

力学的メカニズム 関節運動学

運動発達学

生理学

運動学習

10Human Kinesiology Human Kinesiology11

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今までの運動学とは別物という意味ではありません

解剖学生理学運動の力学的メカニズム関節運動学といった運動学の基礎となる知識を本書はくまなく網羅しています

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解剖学

力学的メカニズム 関節運動学

運動発達学

生理学

運動学習

10Human Kinesiology Human Kinesiology11

序章 「人間の運動」の誕生 ~サルからヒトへの奇跡

1人類の誕生2人間の運動の進化3 第1の運動革命~樹上生活での移動と手の使用

4 第2の運動革命~サバンナ生活による直立二足歩行と手の対立運動の発達

5手の進化6人間の営みとしての行為

第Ⅰ部 人間の身体第1章身体の解剖学1解剖学は「運動器」という概念を誕生させた2 身体は左右対称形だが「運動器」の変化によってさまざまな「姿勢」がつくられる

3骨は支持器官であり運動の可動性を決める4関節は連結器官であり運動の空間性をもたらす5靭帯は保護器官であり運動の安定性を与える6筋は実行器官であり運動の出現を可能にする7「人間機械論」の誕生

第2章身体の運動学1運動学は運動動作行為の「観察」から始まる2運動学には「キネマティクス」と「キネティクス」がある

3キネマティクスの基本4キネティクスの基本5立位における重心重心線アライメント基底面体重抗重力筋

6運動連鎖と筋収縮シークエンスを観察する7基本姿勢日常生活動作随意運動代償運動を観察する

8 19世紀の整形外科医と神経科医たちが運動学を進歩させた

第3章身体の神経学1随意運動のメカニズム2大脳皮質の機能局在3大脳皮質の運動制御機構4運動制御のための下行路5運動制御の感覚調節機構6大脳皮質の可塑性7皮質下の運動調節機構8脊髄の運動制御9発達と学習⓾社会脳としての心の器官

第4章身体の生理学1筋収縮のメカニズム2運動の感覚調節機構3運動時の内部環境を調整する呼吸循環4体力トレーニング

第Ⅱ部 運動する人間第5章肩関節の運動学1肩関節の基本事項2肩関節における運動学のポイント3肩関節の進化と機能の変遷

第6章肘関節と前腕の運動学1肘関節と前腕の基本事項

2肘関節と前腕における運動学のポイント3肘関節と前腕の進化と機能の変遷

第7章手関節の運動学1手関節の基本事項2手関節における運動学のポイント3手関節の進化と機能の変遷

第8章手指の運動学1手指の基本事項2手指における運動学のポイント3手指の進化と機能の変遷

第9章股関節の運動学1股関節の基本事項2股関節における運動学のポイント3股関節の進化と機能の変遷

第10章膝関節の運動学1膝関節の基本事項2膝関節における運動学のポイント3膝関節の進化と機能の変遷

第11章足関節と足部の運動学1足関節と足部の基本事項2足関節と足部における運動学のポイント3足関節と足部の進化と機能の変遷

第12章脊柱と頭部の運動学1脊柱の基本事項2脊柱における運動学のポイント3頭部の基本事項と運動学のポイント4脊柱と頭部の進化と機能の変遷

第Ⅲ部 動作する人間第13章発達の運動学1子どもの反射と反応2子どもの運動発達3運動発達と反射反応の関連性4手の運動発達5感覚運動統合6子どもの発達理論7自己意識の誕生

第14章姿勢と動作の運動学1姿勢2上肢の動作3寝返り動作4起き上がり動作5座位6立ち上がり動作7立位

第15章歩行の運動学1人間の歩行は巧緻運動である2歩行周期3パッセンジャーとロコモーター4関節運動と筋活動5重心移動6床反力7ロッカー機能と足圧の変化8歩行の開始停止方向転換9歩行分析⓾歩行の決定要因⓫歩行調節における3つのポイント⓬歩行調節における各関節の機能⓭歩行の障害⓮ヒトの二足移動の特徴

第Ⅳ部行為する人間第16章 行為のニューラルネット

ワーク1行為に向けられた観察者のまなざし2行為を生み出す神経システムの基礎3末梢神経系のニューラルネットワーク4中枢神経各部のニューラルネットワーク5脊髄反射のサーキット6ヒトの行為と脳機能システム

第17章行為の運動学習1運動学習が運動行動を生み出す2運動学習理論3運動学習における知覚の役割4運動学習における注意の役割5運動学習における記憶の役割6運動学習における感覚フィードバックの役割7運動学習における言語の役割8運動学習の転移と発達の最近接領域

第18章行為システム1行為はシステムによって制御されている2 ldquo認知する行為rdquoという捉え方3行為システムの階層性4上肢体幹下肢の行為システム5情報性の運動学へ

第Ⅴ部 身体化された心第19章 運動の鍵盤支配型モデル

を超えて1運動の鍵盤支配型モデルの誕生2頭のないカエル3反射から脳へ4生命の演ずる人形劇5ベルンシュタインの「運動制御理論」6アノーキンによる機能システムの概念7遠心性インパルスだけでは運動を制御することは不可能である

8 ldquo美しい音楽rdquoを奏でる「運動野のピアノ」には音符と和音がある

9人間はldquo無限の意図の自由度rdquoを奏でる

第20章空間を生きる1空間の誕生2身体表象3空間表象4身体空間5身体周辺空間6身体外空間7「私」というイメージ

第21章コミュニケーション行為1世界と対話するための行為2 ldquo指差しrdquoという行為3身振りとしての行為4道具使用という行為

第22章人間はldquo意識rdquoを動かして行為する1意識とは何だろうか2 ldquo意識の志向性rdquoとldquo志向的な関係性rdquo3意識による行為の制御4行為の発達学習回復のために5身体を生きる6身体化された心

終章ヒューマンパフォーマンス

人間の運動学ヒューマンキネシオロジー

目次

協同医書出版社 113-0033 東京都文京区本郷3-21-10Tel03-3818-2361Fax03-3818-2368 httpwwwkyodo-ishocojp

Page 2: 協同医書出版社 - 7 ýå · 2019-07-30 · z Chopart s joint £z ¤ ¢ tarsometatar sal joint¹ æµÑåï z Lisfranc s joint£z ¤ ¢ intermetatarsal joint£z ¤ ... $ 12 y

本書『人間の運動学』は基礎と臨床を合体させた画期的な内容構成で卒前教育から臨床現場まで長く活用できる運動学の基本図書というべき一冊です

理学療法士作業療法士柔道整復師スポーツ関連養成校等で必須の「運動学の基礎知識」を完全網羅教科書として日々の学習にはもちろん

国家試験対策にも充分な力を発揮します

本冊子ではその内容を実際のページをご覧いただきながらご紹介いたします

02 Human Kinesiology Human Kinesiology 03

人間の身体

は股関節(hip joint)膝関節(knee joint)大腿膝蓋関節(patellofemoral joint)脛腓関節(tibiofibular joint)足の関節(foot joint)として足関節(ankle joint)距骨下関節(subtalar joint)横足根関節(transverse tarsal joint=ショパール関節Chopartrsquos joint)足根中足関節(tarsometatar-sal joint=リスフラン関節Lisfrancrsquos joint)中足間関節(intermetatarsal joint)中足指節関節(metatarsophalangeal jointMP関節)指節間関節(interphalangeal jointIP関節)があるこうした身体の複数の関節運動の組み合わせに

よって3次元空間内で姿勢をダイナミックに変化させ四肢を目的に応じてさまざまな方向に動か

すことができるまた関節は運動器であると同時に空間を探索

する感覚器としての役割を有しているそれは関節包に存在する感覚受容器(mechanoreceptor機械受容器)が関節運動の位置や動く方向性を情報として脳に伝達するからに他ならないそれによって目を閉じていても自己の身体

がどのような姿勢をとっているか四肢がどのような位置にあるのかがわかるまた手足で物体に触れると身体周辺のどこにあるかもわかる人間は関節運動を介して自己の身体空間と身体周辺空間の両方を知ることができる

胸鎖関節

側頭下顎関節(顎関節)

環軸関節

肋椎関節

腕尺関節 肘関節腕橈関節

肩鎖関節

肩甲上腕関節(肩関節)

仙腸関節

膝関節

距腿関節(足関節)

大腿脛骨関節 (上)脛腓関節

距骨下関節

大腿膝蓋関節

上橈尺関節

橈骨手根関節(手関節)手根中手関節(CM関節)

指節間関節(IP関節)

股関節

下橈尺関節

中手指節関節(MP関節)

図12 関節の名称手関節

手根中手関節(CM関節)

(IP関節)

近位指節間関節(PIP関節)遠位指節間関節(DIP関節)

中手指節関節(MP関節)

右手掌側

足関節距骨下関節

横足根関節(ショパール関節)

足根中足関節(リスフラン関節)

近位指節間関節(PIP関節)

遠位指節間関節(DIP関節)中足指節関節

(MP関節)

(IP関節)右足背側

ウォーキングとゲイトあらゆる動物は移動(locomotion)を繰り返しているここでの移動とはある場所から他の場所へと位置を移すことであり自身の身体構造のみで行うものをさしているしたがって車で移動する時のような何か対象を操作して遂行するものではない

人間の二足移動には「歩行(walkinggait)」「走行(running)」「跳躍(jumping)」の3様式があるこれらを目的文脈状況などに応じて使い分けているその中でも歩行は最も多く用いられる移動様式である人間はなぜ移動するのであろうか人間以外の

動物は食物を探すためなど主に生き残るために移動するつまり種の保存という大きな前提に基づいている一方人間の移動は運動不足を解消するためかもしれないし友人に会いに行くた

[1]人間の歩行は巧緻運動である

図1 マイブリッジによる歩行の連続写真(Muybridge 1887)

人間の身体

Frontal Lobe

(action)

Frontal Lobe

(action)

Premotor Sequential thinking

Takes ideas actions andwords and puts them intolinear sequence

InhibitionsldquoNordquo

What NOT to SAYWorrying (talkingto yourself aboutwhat not to do)

Creates new patternsof ideas and languageWriter PhilosopherhellipImpulsive talking

ImaginationCreativityldquoYesrdquo

RightHand

Arm

Arm

Trunk

Trunk

Leg

Leg

Foot

Foot

Motorcontrols muscles

on Right side

Tongue

Tongue

Lips

Lips

Lips

Lips

Face

Face

Face

Face

ParietalLobe

(spatial)

ParietalLobe

(spatial)

Arm

Arm

Trunk

Trunk

Leg

Leg

Foot

Foot

Genitals

Genitals

Body Senseson right side

Fingers

Fingers

Symbols

Math symbols + - = xsup2Match body to ldquoleftldquorightrdquowordsReading clocks

Grammarspatial arrangementof language

IIIRecognize

Word soundsIIPhonemesI

(from ear)Frequencies Sounds of

LanguageEmotionalmemory

Emotions and language

Language memorystories

Memory

Face Names

TemporalLobe

(memory)

TemporalLobe

(memory)

SpellingPhonicsReading

Matching visionof letters withsounds of words

Vision ofAlphabet

IIIRecognizing letters and groups ch th ing

II Perceive Letter shapesd b p q

I(from eye) Lines Angles|_

OccipitalLobe

(vision)

OccipitalLobe

(vision)

Cerebellum

Cerebellum

MuscleCoordination

MuscleCoordination

Balance

Balance

Speed of Repetitive action

Speed of Repetitive action

Right Brain

Left Brain

Premotor

Learn how to do thingsplay sports musicalinstruments habits

ImaginationCreativity ldquoYesrdquo

Create new patternsof behavior art music

actions designs etcImpulsive Action

Inhibitions ldquoNordquo

What Not to doRightwrong behaviorMannersConscience

LeftHand

Motorcontrols muscles

on LEFT side

Body Senseson Left side

IIIHarmony(spatial) II

intervalsI (from ear)

PitchMusic

Emotionalmemory

FeelingsFearsHumor

Music memory

visual memory

Memory

Face memory

SpatialSense

Mental Math Body 3D awareness Touch 3D recognition Object 3D rotation Construction Navigation

I(from eye) Lines Angles

IIDistance Motion Shape

III Object Recognition

Vision

図10 大脳皮質の地図(Holland 2001)

行為する人間

感覚(臓性感覚)や消化循環生殖排便排尿などの臓性機能(植物機能)に関与していることをさす次に各脳神経の主な働きと特徴を記す(表2図

9)

四肢体幹の機能を担う31対の「脊髄神経」頸部以下の機能は脊髄から左右の椎間孔を経て

出入りする31対(頸神経cervical nerve8対胸神経 thoracic nerve12対腰神経 lumbar nerve5

対仙骨神経sacral nerve5対尾骨神経coccygeal

nerve1対)の脊髄神経が担う脊髄の下端部の高さは生後すぐの段階では第2~3腰椎に位置するが成人になると椎骨などの骨成長により第1~2腰椎の高さまで上昇するそのため脊髄神経

脳神経核の分類

求心性神経(知覚性神経)❶一般体性感覚(general somatic afferentGSA体性感覚)❷一般臓性感覚(general visceral afferentGVA内臓感覚)❸特殊体性感覚(special somatic afferentSSA視覚聴覚平衡覚)

❹特殊臓性感覚(special visceral afferentSVA味覚嗅覚)遠心性神経(運動性神経)❶一般体性運動(general somatic efferentGSE体節に由来する骨格筋[横紋筋]を支配)

❷特殊臓性運動(special visceral efferentSVE鰓弓に由来する横紋筋を支配)

❸一般臓性運動(general visceral efferentSVE内臓の平滑筋眼筋唾液腺などを支配)

図9 脳神経の機能(Gilroyら2010)

図10 脊椎と脊髄神経の高位

S5S4S3S2S1

L5

L4

L3

L2

L1

T12T11

T10T9T8T7T6T5T4T3T2T1C8C7C6C5C4C3C2C1

尾骨神経

仙骨神経

腰神経

胸神経

頸神経

〈起始〉腸骨窩仙骨翼〈停止〉大腿骨小転子〈支配神経〉大腿神経 L2~L3〈作用〉股関節屈曲

腸骨筋(Miliacs)

〈起始〉第 1~第 5腰椎横突起第 12胸椎~第 5腰椎椎体側部とそれらの椎間板〈停止〉大腿骨大転子〈支配神経〉腰神経叢 L2~L4〈作用〉股関節屈曲

大腰筋(Mpsoas major)

半腱様筋(Msemitendinosis)〈起始〉坐骨結節〈停止〉脛骨上部内側面(鵞足)〈支配神経〉坐骨(脛骨)神経 L 5~ S2〈作用〉股関節伸展膝関節屈曲

〈起始〉恥骨下枝坐骨枝坐骨結節〈停止〉大腿骨後面(粗線)内転筋結節〈支配神経〉閉鎖神経 L2~L4〈作用〉股関節内転

大内転筋(M adductor magnus)

〈起始〉恥骨体恥骨下枝〈停止〉大腿骨後面(粗線)上部〈支配神経〉閉鎖神経 L2~L4〈作用〉股関節内転

短内転筋(M adductor brevis)

〈起始〉恥骨体〈停止〉大腿骨後面(粗線)〈支配神経〉閉鎖神経 L2~L4〈作用〉股関節内転

長内転筋(M adductor longus)

〈起始〉恥骨上枝〈停止〉大腿骨後内側面〈支配神経〉大腿神経閉鎖神経 L2~L3〈作用〉股関節内転

恥骨筋(M pectineus)

大腿二頭筋(M biceps femoris)〈起始〉長頭坐骨結節短頭大腿骨粗線〈停止〉腓骨頭脛骨外側顆〈支配神経〉長頭脛骨神経 L5~S2短頭腓骨神経 L5~S1〈作用〉股関節伸展膝関節屈曲

半膜様筋(Msemimembranosis)〈起始〉坐骨結節〈停止〉脛骨内側顆〈支配神経〉坐骨(脛骨)神経 L5~S2〈作用〉股関節伸展膝関節屈曲

中殿筋(M gluteus medius)〈起始〉腸骨外側面〈停止〉大腿骨大転子〈支配神経〉上殿神経 L4~S1〈作用〉股関節外転内旋

小殿筋(M gluteus minimus)〈起始〉腸骨外側面〈停止〉大腿骨大転子〈支配神経〉上殿神経 L4~S1〈作用〉股関節外転内旋

〈起始〉腸骨仙骨尾骨の後面〈停止〉大腿骨殿筋粗面〈支配神経〉下殿神経 L5~S2〈作用〉股関節伸展外旋

大殿筋(Mgluteus maximus)

腸骨筋大腰筋

長内転筋 恥骨筋

図7 股関節の筋

身体化された心

C)効果器装置の形成

筋収縮(身体と物体の相互作用)

記憶

行為受納器

フィードバック方向づけフィードバック

効果器の実行

調節停止

効果器の形成

結果の指標

行為の結果意志決定

行為

求心性情報の統合

感覚状況

動機づけ

トリガー

D)感覚フィードバック(結果)

B)行為受納器(補足運動野)(運動前野)

A)求心性情報の統合(頭頂葉)

予測比較

情報

記 憶

聴覚

触覚

視覚

図9 アノーキンの機能システム(Anokhin 1965)

学習する人間

姿勢の分類体位(position)に着目した時姿勢は基本的に

臥位座位立位の3つに分けられその体位から派生するいくつもの肢位がある代表的なものを以下に列挙する(図1)bull背臥位(仰臥位supine position)(図1-a)bull腹臥位(prone position)(図1-b)bull側臥位(side lying position)(図1-c)bullパピー肢位(puppy position)(図1-d)bull長座位(long sitting position)(図1-e)bull座位(sitting position)(図1-f)bull 端座位(dangling position)=足底をつけない座位

bull 四つ這い位(all fours position creeping posi-tion prone kneeling position)(図1-g)

bull高這い位(bear walking position)(図1-h)bull膝立ち位(kneeling position)(図1-i)bull片膝立ち位(half kneeling position)(図1-j)bull立位(standing position)(図1-k)bull 片脚立位(half standing position one leg stand-

ing position)(図1-l)また姿勢は機能的な視点から静的姿勢

(static posture)と動的姿勢(dynamic posture)の2つに分類される静的姿勢とは安定性が良い姿勢とされ姿勢保持のみをさす一方動的姿勢とは外界の変化に対応したりある目的動作に移る準備のための姿勢のことである

姿勢変換と 起居動作ここでは背臥位から立位に至るまでの体位の

変換を考えてみよう(図2)3)たとえば背臥位腹臥位四つ這い位高這い位立位と5つの体位をとることになるこの他にもさまざまな起居動作の組み合わせが可能である

重心と支持基底面地球上のすべての物体には鉛直方向にその質量

図1 姿勢の分類

a 背臥位(仰臥位) b 腹臥位 c 側臥位

d パピー肢位 e 長座位 f 座位 g 四つ這い位

l 片脚立位i 膝立ち位 j 片膝立ち位h 高這い位 k 立位

身体化された心

の病態に対比すると理解しやすいすなわちどちらも道具使用が不器用でうまくできないしかし観念運動失行は「何をすればよいかは理解しているがどのようにすればよいかがわからない状態」であり観念失行は「どのようにすればよいかは理解しているが何をすればよいかがわからない状態」であるこの本質的な違いは道具の機能についての知識と道具を操作する知識の欠如に起因していると考えることができるここでは失行症(観念運動失行と観

念失行)の場合を説明する(図23)たとえば観念運動失行では道具(194797194797)の機能は正しく判断することが可能だが194797194797をどのように手で194797194797持すればよいかわからず間違った194797194797の持ち方をす

る(運動性の錯行為)一方観念失行では物体(194797194797)を正しく握ることが可能であっても根本的に間違った操作方法で使用するたとえば「194797194797の背部を使って髪をとく」といった行為をするあるいは別の目的に使用する(意味性の錯行為)つまり観念運動失行では道具のldquo機能rdquoにつ

いての知識はあるがどのような運動によって道具をldquo操作rdquoすべきかがわからない一方観念失行では道具のldquo操作rdquoについての知識はあるがその道具が何をするためのldquo機能rdquoをもっているかがわからないのである

[身体に関係づける道具と世界に関係づける道具]さらにエルクら41)は一連の研究から道具を

「body-related object(身体に関係づける物品や道具)」と「world-related object(外部世界に関係づける物品や道具)」とに区分している「Body-related object(身体に関係づける物品)」とは「ヒゲ剃りペットボトルブラシ194797194797194797194797メラ電話194797194797ップフルートハーモニ194797194797ヘルメット鏡マイクロホンスプーンフォーク歯ブラシhelliphellip」などである(図24)一方「world-related object(外部世界に関係づ

ける物品)」とは「エンピツハサミナイフかなづちノコギリドライバースパナーピザナイフチーズスライサーニンニク搾り器漂

図22 物体をどのように握るかどのように物体を使うのか(歯ブラシの場合)

図24 「Body-related object(身体に関係づける物品)」図23 行為のエラー(これは観念運動失行だろうか観念失行だろうか)

「人間の運動」とは何かサルと人間の運動を分かつものは何か「人間らしい」運動とはいったいどのようなものかという観点から「人間の運動」の持つ複雑さに迫ります1

徹底した「読みやすさ」

豊富な図版

一つひとつの章でテーマや流れを明快にまとめているためこの1冊を通して物語を読むように「運動学」を自然に理解することができます2800ページを超えるボリュームの中でほぼ毎ページに図表や写真イラストを配置し読者の理解を助けます3

本書の特徴

コンテンツ(本書の内容)序 章「人間の運動」の誕生 ~サルからヒトへの奇跡

第Ⅰ部 人間の身体 第1章 身体の解剖学 第2章 身体の運動学 第3章 身体の神経学 第4章 身体の生理学

第Ⅱ部 運動する人間 第5章 肩関節の運動学 第6章 肘関節と前腕の運動学 第7章 手関節の運動学 第8章 手指の運動学 第9章 股関節の運動学第10章 膝関節の運動学第11章 足関節と足部の運動学第12章 脊柱と頭部の運動学

第Ⅲ部 動作する人間第13章 発達の運動学第14章 姿勢と動作の運動学第15章 歩行の運動学

第Ⅳ部 行為する人間第16章 行為のニューラルネットワーク第17章 行為の運動学習第18章 行為システム

第Ⅴ部 身体化された心第19章 運動の鍵盤支配型モデルを超えて第20章 空間を生きる第21章 コミュニケーション行為第22章 人間は ldquo意識rdquo を動かして行為する

終 章 ヒューマンパフォーマンス

本書『人間の運動学』は基礎と臨床を合体させた画期的な内容構成で卒前教育から臨床現場まで長く活用できる運動学の基本図書というべき一冊です

理学療法士作業療法士柔道整復師スポーツ関連養成校等で必須の「運動学の基礎知識」を完全網羅教科書として日々の学習にはもちろん

国家試験対策にも充分な力を発揮します

本冊子ではその内容を実際のページをご覧いただきながらご紹介いたします

02 Human Kinesiology Human Kinesiology 03

人間の身体

は股関節(hip joint)膝関節(knee joint)大腿膝蓋関節(patellofemoral joint)脛腓関節(tibiofibular joint)足の関節(foot joint)として足関節(ankle joint)距骨下関節(subtalar joint)横足根関節(transverse tarsal joint=ショパール関節Chopartrsquos joint)足根中足関節(tarsometatar-sal joint=リスフラン関節Lisfrancrsquos joint)中足間関節(intermetatarsal joint)中足指節関節(metatarsophalangeal jointMP関節)指節間関節(interphalangeal jointIP関節)があるこうした身体の複数の関節運動の組み合わせに

よって3次元空間内で姿勢をダイナミックに変化させ四肢を目的に応じてさまざまな方向に動か

すことができるまた関節は運動器であると同時に空間を探索

する感覚器としての役割を有しているそれは関節包に存在する感覚受容器(mechanoreceptor機械受容器)が関節運動の位置や動く方向性を情報として脳に伝達するからに他ならないそれによって目を閉じていても自己の身体

がどのような姿勢をとっているか四肢がどのような位置にあるのかがわかるまた手足で物体に触れると身体周辺のどこにあるかもわかる人間は関節運動を介して自己の身体空間と身体周辺空間の両方を知ることができる

胸鎖関節

側頭下顎関節(顎関節)

環軸関節

肋椎関節

腕尺関節 肘関節腕橈関節

肩鎖関節

肩甲上腕関節(肩関節)

仙腸関節

膝関節

距腿関節(足関節)

大腿脛骨関節 (上)脛腓関節

距骨下関節

大腿膝蓋関節

上橈尺関節

橈骨手根関節(手関節)手根中手関節(CM関節)

指節間関節(IP関節)

股関節

下橈尺関節

中手指節関節(MP関節)

図12 関節の名称手関節

手根中手関節(CM関節)

(IP関節)

近位指節間関節(PIP関節)遠位指節間関節(DIP関節)

中手指節関節(MP関節)

右手掌側

足関節距骨下関節

横足根関節(ショパール関節)

足根中足関節(リスフラン関節)

近位指節間関節(PIP関節)

遠位指節間関節(DIP関節)中足指節関節

(MP関節)

(IP関節)右足背側

ウォーキングとゲイトあらゆる動物は移動(locomotion)を繰り返しているここでの移動とはある場所から他の場所へと位置を移すことであり自身の身体構造のみで行うものをさしているしたがって車で移動する時のような何か対象を操作して遂行するものではない

人間の二足移動には「歩行(walkinggait)」「走行(running)」「跳躍(jumping)」の3様式があるこれらを目的文脈状況などに応じて使い分けているその中でも歩行は最も多く用いられる移動様式である人間はなぜ移動するのであろうか人間以外の

動物は食物を探すためなど主に生き残るために移動するつまり種の保存という大きな前提に基づいている一方人間の移動は運動不足を解消するためかもしれないし友人に会いに行くた

[1]人間の歩行は巧緻運動である

図1 マイブリッジによる歩行の連続写真(Muybridge 1887)

人間の身体

Frontal Lobe

(action)

Frontal Lobe

(action)

Premotor Sequential thinking

Takes ideas actions andwords and puts them intolinear sequence

InhibitionsldquoNordquo

What NOT to SAYWorrying (talkingto yourself aboutwhat not to do)

Creates new patternsof ideas and languageWriter PhilosopherhellipImpulsive talking

ImaginationCreativityldquoYesrdquo

RightHand

Arm

Arm

Trunk

Trunk

Leg

Leg

Foot

Foot

Motorcontrols muscles

on Right side

Tongue

Tongue

Lips

Lips

Lips

Lips

Face

Face

Face

Face

ParietalLobe

(spatial)

ParietalLobe

(spatial)

Arm

Arm

Trunk

Trunk

Leg

Leg

Foot

Foot

Genitals

Genitals

Body Senseson right side

Fingers

Fingers

Symbols

Math symbols + - = xsup2Match body to ldquoleftldquorightrdquowordsReading clocks

Grammarspatial arrangementof language

IIIRecognize

Word soundsIIPhonemesI

(from ear)Frequencies Sounds of

LanguageEmotionalmemory

Emotions and language

Language memorystories

Memory

Face Names

TemporalLobe

(memory)

TemporalLobe

(memory)

SpellingPhonicsReading

Matching visionof letters withsounds of words

Vision ofAlphabet

IIIRecognizing letters and groups ch th ing

II Perceive Letter shapesd b p q

I(from eye) Lines Angles|_

OccipitalLobe

(vision)

OccipitalLobe

(vision)

Cerebellum

Cerebellum

MuscleCoordination

MuscleCoordination

Balance

Balance

Speed of Repetitive action

Speed of Repetitive action

Right Brain

Left Brain

Premotor

Learn how to do thingsplay sports musicalinstruments habits

ImaginationCreativity ldquoYesrdquo

Create new patternsof behavior art music

actions designs etcImpulsive Action

Inhibitions ldquoNordquo

What Not to doRightwrong behaviorMannersConscience

LeftHand

Motorcontrols muscles

on LEFT side

Body Senseson Left side

IIIHarmony(spatial) II

intervalsI (from ear)

PitchMusic

Emotionalmemory

FeelingsFearsHumor

Music memory

visual memory

Memory

Face memory

SpatialSense

Mental Math Body 3D awareness Touch 3D recognition Object 3D rotation Construction Navigation

I(from eye) Lines Angles

IIDistance Motion Shape

III Object Recognition

Vision

図10 大脳皮質の地図(Holland 2001)

行為する人間

感覚(臓性感覚)や消化循環生殖排便排尿などの臓性機能(植物機能)に関与していることをさす次に各脳神経の主な働きと特徴を記す(表2図

9)

四肢体幹の機能を担う31対の「脊髄神経」頸部以下の機能は脊髄から左右の椎間孔を経て

出入りする31対(頸神経cervical nerve8対胸神経 thoracic nerve12対腰神経 lumbar nerve5

対仙骨神経sacral nerve5対尾骨神経coccygeal

nerve1対)の脊髄神経が担う脊髄の下端部の高さは生後すぐの段階では第2~3腰椎に位置するが成人になると椎骨などの骨成長により第1~2腰椎の高さまで上昇するそのため脊髄神経

脳神経核の分類

求心性神経(知覚性神経)❶一般体性感覚(general somatic afferentGSA体性感覚)❷一般臓性感覚(general visceral afferentGVA内臓感覚)❸特殊体性感覚(special somatic afferentSSA視覚聴覚平衡覚)

❹特殊臓性感覚(special visceral afferentSVA味覚嗅覚)遠心性神経(運動性神経)❶一般体性運動(general somatic efferentGSE体節に由来する骨格筋[横紋筋]を支配)

❷特殊臓性運動(special visceral efferentSVE鰓弓に由来する横紋筋を支配)

❸一般臓性運動(general visceral efferentSVE内臓の平滑筋眼筋唾液腺などを支配)

図9 脳神経の機能(Gilroyら2010)

図10 脊椎と脊髄神経の高位

S5S4S3S2S1

L5

L4

L3

L2

L1

T12T11

T10T9T8T7T6T5T4T3T2T1C8C7C6C5C4C3C2C1

尾骨神経

仙骨神経

腰神経

胸神経

頸神経

〈起始〉腸骨窩仙骨翼〈停止〉大腿骨小転子〈支配神経〉大腿神経 L2~L3〈作用〉股関節屈曲

腸骨筋(Miliacs)

〈起始〉第 1~第 5腰椎横突起第 12胸椎~第 5腰椎椎体側部とそれらの椎間板〈停止〉大腿骨大転子〈支配神経〉腰神経叢 L2~L4〈作用〉股関節屈曲

大腰筋(Mpsoas major)

半腱様筋(Msemitendinosis)〈起始〉坐骨結節〈停止〉脛骨上部内側面(鵞足)〈支配神経〉坐骨(脛骨)神経 L 5~ S2〈作用〉股関節伸展膝関節屈曲

〈起始〉恥骨下枝坐骨枝坐骨結節〈停止〉大腿骨後面(粗線)内転筋結節〈支配神経〉閉鎖神経 L2~L4〈作用〉股関節内転

大内転筋(M adductor magnus)

〈起始〉恥骨体恥骨下枝〈停止〉大腿骨後面(粗線)上部〈支配神経〉閉鎖神経 L2~L4〈作用〉股関節内転

短内転筋(M adductor brevis)

〈起始〉恥骨体〈停止〉大腿骨後面(粗線)〈支配神経〉閉鎖神経 L2~L4〈作用〉股関節内転

長内転筋(M adductor longus)

〈起始〉恥骨上枝〈停止〉大腿骨後内側面〈支配神経〉大腿神経閉鎖神経 L2~L3〈作用〉股関節内転

恥骨筋(M pectineus)

大腿二頭筋(M biceps femoris)〈起始〉長頭坐骨結節短頭大腿骨粗線〈停止〉腓骨頭脛骨外側顆〈支配神経〉長頭脛骨神経 L5~S2短頭腓骨神経 L5~S1〈作用〉股関節伸展膝関節屈曲

半膜様筋(Msemimembranosis)〈起始〉坐骨結節〈停止〉脛骨内側顆〈支配神経〉坐骨(脛骨)神経 L5~S2〈作用〉股関節伸展膝関節屈曲

中殿筋(M gluteus medius)〈起始〉腸骨外側面〈停止〉大腿骨大転子〈支配神経〉上殿神経 L4~S1〈作用〉股関節外転内旋

小殿筋(M gluteus minimus)〈起始〉腸骨外側面〈停止〉大腿骨大転子〈支配神経〉上殿神経 L4~S1〈作用〉股関節外転内旋

〈起始〉腸骨仙骨尾骨の後面〈停止〉大腿骨殿筋粗面〈支配神経〉下殿神経 L5~S2〈作用〉股関節伸展外旋

大殿筋(Mgluteus maximus)

腸骨筋大腰筋

長内転筋 恥骨筋

図7 股関節の筋

身体化された心

C)効果器装置の形成

筋収縮(身体と物体の相互作用)

記憶

行為受納器

フィードバック方向づけフィードバック

効果器の実行

調節停止

効果器の形成

結果の指標

行為の結果意志決定

行為

求心性情報の統合

感覚状況

動機づけ

トリガー

D)感覚フィードバック(結果)

B)行為受納器(補足運動野)(運動前野)

A)求心性情報の統合(頭頂葉)

予測比較

情報

記 憶

聴覚

触覚

視覚

図9 アノーキンの機能システム(Anokhin 1965)

学習する人間

姿勢の分類体位(position)に着目した時姿勢は基本的に

臥位座位立位の3つに分けられその体位から派生するいくつもの肢位がある代表的なものを以下に列挙する(図1)bull背臥位(仰臥位supine position)(図1-a)bull腹臥位(prone position)(図1-b)bull側臥位(side lying position)(図1-c)bullパピー肢位(puppy position)(図1-d)bull長座位(long sitting position)(図1-e)bull座位(sitting position)(図1-f)bull 端座位(dangling position)=足底をつけない座位

bull 四つ這い位(all fours position creeping posi-tion prone kneeling position)(図1-g)

bull高這い位(bear walking position)(図1-h)bull膝立ち位(kneeling position)(図1-i)bull片膝立ち位(half kneeling position)(図1-j)bull立位(standing position)(図1-k)bull 片脚立位(half standing position one leg stand-

ing position)(図1-l)また姿勢は機能的な視点から静的姿勢

(static posture)と動的姿勢(dynamic posture)の2つに分類される静的姿勢とは安定性が良い姿勢とされ姿勢保持のみをさす一方動的姿勢とは外界の変化に対応したりある目的動作に移る準備のための姿勢のことである

姿勢変換と 起居動作ここでは背臥位から立位に至るまでの体位の

変換を考えてみよう(図2)3)たとえば背臥位腹臥位四つ這い位高這い位立位と5つの体位をとることになるこの他にもさまざまな起居動作の組み合わせが可能である

重心と支持基底面地球上のすべての物体には鉛直方向にその質量

図1 姿勢の分類

a 背臥位(仰臥位) b 腹臥位 c 側臥位

d パピー肢位 e 長座位 f 座位 g 四つ這い位

l 片脚立位i 膝立ち位 j 片膝立ち位h 高這い位 k 立位

身体化された心

の病態に対比すると理解しやすいすなわちどちらも道具使用が不器用でうまくできないしかし観念運動失行は「何をすればよいかは理解しているがどのようにすればよいかがわからない状態」であり観念失行は「どのようにすればよいかは理解しているが何をすればよいかがわからない状態」であるこの本質的な違いは道具の機能についての知識と道具を操作する知識の欠如に起因していると考えることができるここでは失行症(観念運動失行と観

念失行)の場合を説明する(図23)たとえば観念運動失行では道具(194797194797)の機能は正しく判断することが可能だが194797194797をどのように手で194797194797持すればよいかわからず間違った194797194797の持ち方をす

る(運動性の錯行為)一方観念失行では物体(194797194797)を正しく握ることが可能であっても根本的に間違った操作方法で使用するたとえば「194797194797の背部を使って髪をとく」といった行為をするあるいは別の目的に使用する(意味性の錯行為)つまり観念運動失行では道具のldquo機能rdquoにつ

いての知識はあるがどのような運動によって道具をldquo操作rdquoすべきかがわからない一方観念失行では道具のldquo操作rdquoについての知識はあるがその道具が何をするためのldquo機能rdquoをもっているかがわからないのである

[身体に関係づける道具と世界に関係づける道具]さらにエルクら41)は一連の研究から道具を

「body-related object(身体に関係づける物品や道具)」と「world-related object(外部世界に関係づける物品や道具)」とに区分している「Body-related object(身体に関係づける物品)」とは「ヒゲ剃りペットボトルブラシ194797194797194797194797メラ電話194797194797ップフルートハーモニ194797194797ヘルメット鏡マイクロホンスプーンフォーク歯ブラシhelliphellip」などである(図24)一方「world-related object(外部世界に関係づ

ける物品)」とは「エンピツハサミナイフかなづちノコギリドライバースパナーピザナイフチーズスライサーニンニク搾り器漂

図22 物体をどのように握るかどのように物体を使うのか(歯ブラシの場合)

図24 「Body-related object(身体に関係づける物品)」図23 行為のエラー(これは観念運動失行だろうか観念失行だろうか)

「人間の運動」とは何かサルと人間の運動を分かつものは何か「人間らしい」運動とはいったいどのようなものかという観点から「人間の運動」の持つ複雑さに迫ります1

徹底した「読みやすさ」

豊富な図版

一つひとつの章でテーマや流れを明快にまとめているためこの1冊を通して物語を読むように「運動学」を自然に理解することができます2800ページを超えるボリュームの中でほぼ毎ページに図表や写真イラストを配置し読者の理解を助けます3

本書の特徴

コンテンツ(本書の内容)序 章「人間の運動」の誕生 ~サルからヒトへの奇跡

第Ⅰ部 人間の身体 第1章 身体の解剖学 第2章 身体の運動学 第3章 身体の神経学 第4章 身体の生理学

第Ⅱ部 運動する人間 第5章 肩関節の運動学 第6章 肘関節と前腕の運動学 第7章 手関節の運動学 第8章 手指の運動学 第9章 股関節の運動学第10章 膝関節の運動学第11章 足関節と足部の運動学第12章 脊柱と頭部の運動学

第Ⅲ部 動作する人間第13章 発達の運動学第14章 姿勢と動作の運動学第15章 歩行の運動学

第Ⅳ部 行為する人間第16章 行為のニューラルネットワーク第17章 行為の運動学習第18章 行為システム

第Ⅴ部 身体化された心第19章 運動の鍵盤支配型モデルを超えて第20章 空間を生きる第21章 コミュニケーション行為第22章 人間は ldquo意識rdquo を動かして行為する

終 章 ヒューマンパフォーマンス

縮の場合は筋が短縮し遠心性収縮の場合は筋収縮しているにもかかわらず筋が延長される「等尺性収縮(アイソメトリックコントラクション)」では筋の張力が発生しているが関節運動は生じない上腕二頭筋の筋収縮力と抵抗とが合致しており肘関節の運動は一定の角度で保持されており動かない重い物体を支えて静止している時などに起こり筋の伸縮度は変化しない

テコの原理テコの原理には第1第2第3のテコの3種

類がある(図62)ここでは力学メカニズム日常物品の例解剖学的関節との対応に区分して説明する

[力学メカニズム]筋収縮によって関節を動かす時には「テコの原

理」が働いているテコの原理では関節を「支点=軸(axis)」筋の付着部を「力点(force)」骨への作用部位を「荷重点(load)」あるいは「作用点」と見なすそして骨の支点と力点との距離を「力の腕(arm of force)」支点と荷重点との距離を「荷重の腕(arm of load)」と見なす筋作用においてこの「力の腕」が長くなるか「荷重の

腕」が短くなることを「力学的有利性(advantage

of force)」という第1のテコは「バランスのテコ」と呼ばれる関節運動は力点と荷重点に生じる力量の比率で決まる力点と荷重点の間に支点があるが力点と荷重点は同じ方向に働く第2のテコは「力のテコ」と呼ばれる関節運動の力では有利スピードでは不利である力点と支点との間に荷重点があり力点と荷重点は反対の方向に働く第3のテコは「スピードのテコ」と呼ばれる関節運動のスピードでは有利力では不利である力点と荷重点との間に支点があるが力点と荷重点は反対の方向に働く人体の関節運動では最も多いタイプである

運動なし

運動

求心性収縮

等尺性収縮

運動

遠心性収縮

等張性収縮

図61 上腕二頭筋の等張性収縮(求心性収縮遠心性収縮)と等尺性収縮

テコの分類

第1のテコrarrバランスのテコ第2のテコrarr力のテコ第3のテコrarrスピードのテコ

荷重点力点

第1のテコ

力点荷重点第2のテコ

荷重点力点第3のテコ

図62 テコの力学メカニズム(第1第2第3のテコ)

テコの力学メカニズム

支点(A)axis力点(F)force荷重点(w)load(W=重量weight

抵抗 resistance)力の腕(arm of force)荷重の腕(arm of load)

人間の身体

20

27

28

29

30

3132

3839

40

4142

43

44

4546

4748

333435

3637

1

1 前頭骨 Frontal bone2 眉結節 Superciliary eminence3 眼骨 Orbit4 鼻骨 Nasal bone5 上顎骨 Superior maxillary (Maxilla upper jaw)6 下顎骨 Inferior maxillary (Mandible lower jaw)7 鎖骨 Clavicle8 肩峰 Acromion process of scapula9 烏口突起 Coracoid process of scapula

10 肩甲骨 Scapula11 胸骨 Sternum12 上腕骨 Humerus13 橈骨 Radius14 尺骨 Ulna15 手根骨 Carpals16 中手骨 Metacarpals17 指骨 Phalanges18 骨盤上縁 High point of pelvis19 腸骨粗面 Iliac tubercle (Wide point)

20 頭頂骨 Parietal bone21 側頭骨 Temporal bone22 頰骨 Zygomatic (Malar cheek bone)23 乳様突起 Mastoid process of temporal bone24 下顎枝 Ramus of mandible25 頸椎 Cervical vertebrae26 第 1肋骨 First rib27 第 5肋骨 Fifth rib28 胸椎 oracic (dorsal) vertebrae29 肋軟骨線 Line where rib meets cartilage30 第 10肋骨 Tenth rib31 腰椎 Lumbar vertebrae32 腸骨稜 Iliac crest33 上前腸骨棘

Anterior superior iliac spine (Front point)34 腸骨 Ilium of pelvis35 仙骨 Sacrum36 恥骨 Pubis37 大転子 Great trochanter of femur38 坐骨 Ischium39 小転子 Lesser trochanter of femur40 大腿骨 Shaft (body) of femur41 膝蓋骨 Patella42 外側上顆 Outer epicondyle of femur43 脛骨 Tibia (Shin bone)44 腓骨 Fibula45 外果

Outer (lateral) malleolus of bula (Outer ankle)46 距骨 Tarsals47 中足骨 Metatarsals48 指骨 Phalanges49 踵骨 Calcaneus (Heel bone)

234

5

6

910

12

49

13

19

18

11

87

21222324

25

14

15

16

17

26

[母指球筋](図20)母指球筋は手掌橈側に位置し短母指外転筋短母指屈筋母指対立筋の3筋から構成されるこれらの筋の主な作用は母指を対立位にすることであり筋収縮により母指を他指へと近づける作用をもつなかでも母指対立筋は対立運動に必要不可欠な母指CM関節における内旋を生じさせる筋である

[小指球筋](図21)小指球筋は手掌尺側に位置し短小指屈筋小指

外転筋小指対立筋の3筋で構成されるが短掌筋を含める場合もある筋の走行が母指球筋と似ているためその機能も類似している小指球筋に共通する機能は手の尺側を持ち上げ曲げることであるまた小指外転筋は第5指外転の作用をもちこの運動は大きな物体を把持する際に役立つ

[母指内転筋](図22)母指内転筋は母指CM関節の屈曲内転作用をもつ筋である母指内転筋は母指と示指で物をつまむ際や日常生活動作においてはハサミを使用する際に強い活動を示す

[虫様筋と骨間筋](図23)虫様筋と骨間筋はMP関節屈曲筋でありかつ

PIP関節およびDIP関節の伸筋でもある虫様筋の近位付着は深指屈筋腱遠位付着部は伸展機構の側索であり骨に付着しない特徴的な筋である虫様筋の筋腹はMP関節の掌側を通過するためMP関節に対しては屈曲作用をもち遠位付着部である伸展機構の側索の作用により間接的にPIP関節DIP関節を伸展する骨間筋の主な作用はMP関節の外転および内転

であり掌側骨間筋と背側骨間筋の2つに分類されるまた遠位付着部を虫様筋と同様に伸展機

図20 母指球筋

〈起始〉舟状骨結節大菱形骨〈停止〉母指基節骨底橈側〈支配神経〉正中神経 C8~T1〈作用〉母指 CM関節外転

短母指外転筋(M abductor pollicis brevis)

母指対立筋(M opponens pollicis)〈起始〉大菱形骨結節〈停止〉第 1中手骨橈側〈支配神経〉正中神経 C8~T1〈作用〉母指 CM関節屈曲内旋

短母指屈筋(M flexor pollicis brevis)〈起始〉大菱形骨結節小菱形骨有頭骨〈停止〉母指基節骨底〈支配神経〉浅頭正中神経 C8~T1深頭尺骨神経 C8~T1〈作用〉母指 CM関節屈曲

図19 母指と小指対立時の手内在筋の作用F短母指屈筋と短小指屈筋 O母指対立筋と小指対立筋A短母指外転筋と小指外転筋FCU尺側手根屈筋FPP深指屈筋FPL長母指屈筋(Neumann 2012)

FCUFDP

FPL

AOF F

OA

豆状骨

深指屈筋(FDP)

長母指屈筋(FPL)

人間の身体

部筋収縮のメカニズム骨格筋の収縮に至る過程は興奮収縮連関(exci-

tation-contraction coupling)と呼ばれ次の順序で起こる(図5)1)①神経筋接合部で神経終末から神経伝達物質であるアセチルコリン(ACh)が放出され筋線維(骨格筋細胞)膜の受容体に結合する

②筋線維に活動電位が発生するとその活動電位が筋線維表面全体から横行小管に広がる③三連構造において横行小管の活動電位が隣接する筋小胞体のCaイオン放出チャネルを開き筋形質にCaイオンが放出され筋形質内のCaイオン濃度が増加する

④Caイオンがトロポニンに結合することによりトロポミオシンの立体構造が変化しアクチンの活性部位が露出する⑤ATPの加水分解によってミオシンとアクチンが結合(架橋結合)ミオシン頭部の屈曲解離が繰り返し起こりその結果アクチンが引き込まれ筋線維が短縮する一方骨格筋の収縮の終了に伴い筋の弛緩いわゆる筋が元の状態に戻る過程においては次の順序で起こる①神経終末においてアセチルコリン(ACh)がアセチルコリンエステラーゼ(AChE)によって分解され活動電位の発生が止まる②筋形質内のCaイオンが筋小胞体に取り込まれ筋形質内のCaイオン濃度が減少する

③Caイオン濃度が通常の静止期の値になるとトロポミオシンの立体構造が元の状態に戻りアクチンとミオシンの結合が抑制される④架橋結合がなくなり収縮が終わる⑤筋の弾性力や拮抗筋による牽引重力などの影響を受けて筋は受動的に静止期の長さに戻る図4 神経筋接合部

神経筋接合部α運動ニューロン

筋線維

活動電位

図5 筋の収縮過程(Martiniら 2000)

5弛緩静止時の長さへの受動的回復

4収縮の終了

3活性部位の被  覆架橋の消  失

2筋小胞体に  Caイオンが流入

1AChEによって  AChが分解

収縮終了の各段階

ミオシン

アクチン

Caイオン

5収縮の開始

4活性部位の露出  と架橋結合の形  成

3筋小胞体からの  Caイオン放出

2活動電位が  横行小管に  到達

1ACh放出とレセプター  への結合

横行小管シナプス終末運動終板

収縮開始の各段階

運動学に必須の基礎知識を完全網羅解剖学生理学力学的メカニズム関節運動学 といった運動学のベースとなる知識をくまなく網羅し国 試対策にも万全な内容です

①肩甲上腕リズム「肩甲上腕リズム(scapulohumeral rhythm)」とは肩関節の運動における肩甲上腕関節と肩甲胸郭関節との連動作用のことを表し肩関節挙上運動において肩甲上腕関節と肩甲胸郭関節は21の割合で動く(図19)1314)たとえば肩関節の外転において3degごとの外転のうち2degは肩甲上腕関節残りの1degは肩甲胸郭関節で生じるこの連動作用を肩甲上腕リズムと最初に名づけ

たのはコッドマン(Codman)15)であるコッドマンは肩甲骨を固定した状態で肩関節の運動を行うと90~120degまでの運動しか生じずまた肩関

節内旋位では60degの外転しか生じないことを報告したコッドマンのこの報告は肩関節の運動時に上腕骨と肩甲骨とが協調して動く必要があることを明らかにしたインマン(Inman)16)はさらにその研究を進め

肩関節外転において最初の30degは肩甲上腕関節で生じるがそれ以降では肩甲上腕関節肩甲胸郭関節=21になると報告しているこの原則に基づくと肩関節の完全外転180degは肩甲上腕関節の120deg外転と肩甲胸郭関節の60deg上方回旋が組み合わさって生じていることになるまた肩関節屈曲の際に最初の60degの屈曲は主に肩甲上腕関節で行われそれ以降の運動では外

転時と同様に肩甲上腕関節肩甲胸郭関節=21の関係で動くことが明らかにされている14)

1944年のインマンによる報告以降も数多くの報告がなされているがその多くはインマンが最初に報告した21に近いものばかりである外転時における各関節の動きをもう

少し詳しく説明すると肩甲上腕関節は自動運動では90degまでの外転が可能であり他動的な30degの外転が加わることで120degまで動かすことができる肩甲上腕関節の外転と同時に肩甲骨は回旋を開始するがこの肩甲骨の回旋は胸鎖関節と肩鎖関節によって起こる胸鎖関節の可動域は30degであ

[2]肩関節における運動学のポイント

図19 外転運動における肩甲骨と上腕骨の動き(肩甲上腕リズム)A上肢下垂位B肩関節90deg外転位のうち60degは肩甲上腕関節30degは肩甲胸郭関節で生じるC肩関節外転180degのうち120degは肩甲上腕関節60degは肩甲胸郭関節で生じるS肩甲骨H上腕骨ac肩鎖関節(Cailliet 1966 Ebskov 1975)

S SS

S30deg

60deg

60deg

120deg180deg

90deg

S

A B C

H

ac

H

H

H

04Human Kinesiology Human Kinesiology05

各筋の解説各筋の起始停止や作用についても各部位の筋ごとに詳細に解説し学生の自主学習の際にもとても参照しやすくしています

筋骨格の解剖図解剖学に関しては筋骨格の解剖図を大きく見やすい図を豊富に用いて分かりやすくしています多くの単語に英語解剖学用語にはラテン語の表記も併記ししっかりとした基礎知識を身につけることができます

運動の力学的メカニズム運動の力学的な理解に必須の知識を豊富な図を用いて詳しく解説していますそして評価に欠かせない筋力測定や関節可動域検査を始めとする種々の運動検査法についてもくまなく紹介しています

関節運動学各関節ごとの学習の「ポイント」が整理されているので非常に分かりやすくなっています

生理学生理学の基礎知識についての記述も充実しています特に運動に欠かせない筋収縮のメカニズム感覚調節呼吸循環などの知識について詳細に解説しています

縮の場合は筋が短縮し遠心性収縮の場合は筋収縮しているにもかかわらず筋が延長される「等尺性収縮(アイソメトリックコントラクション)」では筋の張力が発生しているが関節運動は生じない上腕二頭筋の筋収縮力と抵抗とが合致しており肘関節の運動は一定の角度で保持されており動かない重い物体を支えて静止している時などに起こり筋の伸縮度は変化しない

テコの原理テコの原理には第1第2第3のテコの3種

類がある(図62)ここでは力学メカニズム日常物品の例解剖学的関節との対応に区分して説明する

[力学メカニズム]筋収縮によって関節を動かす時には「テコの原

理」が働いているテコの原理では関節を「支点=軸(axis)」筋の付着部を「力点(force)」骨への作用部位を「荷重点(load)」あるいは「作用点」と見なすそして骨の支点と力点との距離を「力の腕(arm of force)」支点と荷重点との距離を「荷重の腕(arm of load)」と見なす筋作用においてこの「力の腕」が長くなるか「荷重の

腕」が短くなることを「力学的有利性(advantage

of force)」という第1のテコは「バランスのテコ」と呼ばれる関節運動は力点と荷重点に生じる力量の比率で決まる力点と荷重点の間に支点があるが力点と荷重点は同じ方向に働く第2のテコは「力のテコ」と呼ばれる関節運動の力では有利スピードでは不利である力点と支点との間に荷重点があり力点と荷重点は反対の方向に働く第3のテコは「スピードのテコ」と呼ばれる関節運動のスピードでは有利力では不利である力点と荷重点との間に支点があるが力点と荷重点は反対の方向に働く人体の関節運動では最も多いタイプである

運動なし

運動

求心性収縮

等尺性収縮

運動

遠心性収縮

等張性収縮

図61 上腕二頭筋の等張性収縮(求心性収縮遠心性収縮)と等尺性収縮

テコの分類

第1のテコrarrバランスのテコ第2のテコrarr力のテコ第3のテコrarrスピードのテコ

荷重点力点

第1のテコ

力点荷重点第2のテコ

荷重点力点第3のテコ

図62 テコの力学メカニズム(第1第2第3のテコ)

テコの力学メカニズム

支点(A)axis力点(F)force荷重点(w)load(W=重量weight

抵抗 resistance)力の腕(arm of force)荷重の腕(arm of load)

人間の身体

20

27

28

29

30

3132

3839

40

4142

43

44

4546

4748

333435

3637

1

1 前頭骨 Frontal bone2 眉結節 Superciliary eminence3 眼骨 Orbit4 鼻骨 Nasal bone5 上顎骨 Superior maxillary (Maxilla upper jaw)6 下顎骨 Inferior maxillary (Mandible lower jaw)7 鎖骨 Clavicle8 肩峰 Acromion process of scapula9 烏口突起 Coracoid process of scapula

10 肩甲骨 Scapula11 胸骨 Sternum12 上腕骨 Humerus13 橈骨 Radius14 尺骨 Ulna15 手根骨 Carpals16 中手骨 Metacarpals17 指骨 Phalanges18 骨盤上縁 High point of pelvis19 腸骨粗面 Iliac tubercle (Wide point)

20 頭頂骨 Parietal bone21 側頭骨 Temporal bone22 頰骨 Zygomatic (Malar cheek bone)23 乳様突起 Mastoid process of temporal bone24 下顎枝 Ramus of mandible25 頸椎 Cervical vertebrae26 第 1肋骨 First rib27 第 5肋骨 Fifth rib28 胸椎 oracic (dorsal) vertebrae29 肋軟骨線 Line where rib meets cartilage30 第 10肋骨 Tenth rib31 腰椎 Lumbar vertebrae32 腸骨稜 Iliac crest33 上前腸骨棘

Anterior superior iliac spine (Front point)34 腸骨 Ilium of pelvis35 仙骨 Sacrum36 恥骨 Pubis37 大転子 Great trochanter of femur38 坐骨 Ischium39 小転子 Lesser trochanter of femur40 大腿骨 Shaft (body) of femur41 膝蓋骨 Patella42 外側上顆 Outer epicondyle of femur43 脛骨 Tibia (Shin bone)44 腓骨 Fibula45 外果

Outer (lateral) malleolus of bula (Outer ankle)46 距骨 Tarsals47 中足骨 Metatarsals48 指骨 Phalanges49 踵骨 Calcaneus (Heel bone)

234

5

6

910

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11

87

21222324

25

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15

16

17

26

[母指球筋](図20)母指球筋は手掌橈側に位置し短母指外転筋短母指屈筋母指対立筋の3筋から構成されるこれらの筋の主な作用は母指を対立位にすることであり筋収縮により母指を他指へと近づける作用をもつなかでも母指対立筋は対立運動に必要不可欠な母指CM関節における内旋を生じさせる筋である

[小指球筋](図21)小指球筋は手掌尺側に位置し短小指屈筋小指

外転筋小指対立筋の3筋で構成されるが短掌筋を含める場合もある筋の走行が母指球筋と似ているためその機能も類似している小指球筋に共通する機能は手の尺側を持ち上げ曲げることであるまた小指外転筋は第5指外転の作用をもちこの運動は大きな物体を把持する際に役立つ

[母指内転筋](図22)母指内転筋は母指CM関節の屈曲内転作用を

もつ筋である母指内転筋は母指と示指で物をつまむ際や日常生活動作においてはハサミを使用する際に強い活動を示す

[虫様筋と骨間筋](図23)虫様筋と骨間筋はMP関節屈曲筋でありかつ

PIP関節およびDIP関節の伸筋でもある虫様筋の近位付着は深指屈筋腱遠位付着部は伸展機構の側索であり骨に付着しない特徴的な筋である虫様筋の筋腹はMP関節の掌側を通過するためMP関節に対しては屈曲作用をもち遠位付着部である伸展機構の側索の作用により間接的にPIP関節DIP関節を伸展する骨間筋の主な作用はMP関節の外転および内転

であり掌側骨間筋と背側骨間筋の2つに分類されるまた遠位付着部を虫様筋と同様に伸展機

図20 母指球筋

〈起始〉舟状骨結節大菱形骨〈停止〉母指基節骨底橈側〈支配神経〉正中神経 C8~T1〈作用〉母指 CM関節外転

短母指外転筋(M abductor pollicis brevis)

母指対立筋(M opponens pollicis)〈起始〉大菱形骨結節〈停止〉第 1中手骨橈側〈支配神経〉正中神経 C8~T1〈作用〉母指 CM関節屈曲内旋

短母指屈筋(M flexor pollicis brevis)〈起始〉大菱形骨結節小菱形骨有頭骨〈停止〉母指基節骨底〈支配神経〉浅頭正中神経 C8~T1深頭尺骨神経 C8~T1〈作用〉母指 CM関節屈曲

図19 母指と小指対立時の手内在筋の作用F短母指屈筋と短小指屈筋 O母指対立筋と小指対立筋A短母指外転筋と小指外転筋FCU尺側手根屈筋FPP深指屈筋FPL長母指屈筋(Neumann 2012)

FCUFDP

FPL

AOF F

OA

豆状骨

深指屈筋(FDP)

長母指屈筋(FPL)

人間の身体

部筋収縮のメカニズム骨格筋の収縮に至る過程は興奮収縮連関(exci-

tation-contraction coupling)と呼ばれ次の順序で起こる(図5)1)①神経筋接合部で神経終末から神経伝達物質であるアセチルコリン(ACh)が放出され筋線維(骨格筋細胞)膜の受容体に結合する

②筋線維に活動電位が発生するとその活動電位が筋線維表面全体から横行小管に広がる③三連構造において横行小管の活動電位が隣接する筋小胞体のCaイオン放出チャネルを開き筋形質にCaイオンが放出され筋形質内のCaイオン濃度が増加する

④Caイオンがトロポニンに結合することによりトロポミオシンの立体構造が変化しアクチンの活性部位が露出する⑤ATPの加水分解によってミオシンとアクチンが結合(架橋結合)ミオシン頭部の屈曲解離が繰り返し起こりその結果アクチンが引き込まれ筋線維が短縮する一方骨格筋の収縮の終了に伴い筋の弛緩いわゆる筋が元の状態に戻る過程においては次の順序で起こる①神経終末においてアセチルコリン(ACh)がアセチルコリンエステラーゼ(AChE)によって分解され活動電位の発生が止まる②筋形質内のCaイオンが筋小胞体に取り込まれ筋形質内のCaイオン濃度が減少する

③Caイオン濃度が通常の静止期の値になるとトロポミオシンの立体構造が元の状態に戻りアクチンとミオシンの結合が抑制される④架橋結合がなくなり収縮が終わる⑤筋の弾性力や拮抗筋による牽引重力などの影響を受けて筋は受動的に静止期の長さに戻る図4 神経筋接合部

神経筋接合部α運動ニューロン

筋線維

活動電位

図5 筋の収縮過程(Martiniら 2000)

5弛緩静止時の長さへの受動的回復

4収縮の終了

3活性部位の被  覆架橋の消  失

2筋小胞体に  Caイオンが流入

1AChEによって  AChが分解

収縮終了の各段階

ミオシン

アクチン

Caイオン

5収縮の開始

4活性部位の露出  と架橋結合の形  成

3筋小胞体からの  Caイオン放出

2活動電位が  横行小管に  到達

1ACh放出とレセプター  への結合

横行小管シナプス終末運動終板

収縮開始の各段階

運動学に必須の基礎知識を完全網羅解剖学生理学力学的メカニズム関節運動学 といった運動学のベースとなる知識をくまなく網羅し国 試対策にも万全な内容です

①肩甲上腕リズム「肩甲上腕リズム(scapulohumeral rhythm)」とは肩関節の運動における肩甲上腕関節と肩甲胸郭関節との連動作用のことを表し肩関節挙上運動において肩甲上腕関節と肩甲胸郭関節は21の割合で動く(図19)1314)たとえば肩関節の外転において3degごとの外転のうち2degは肩甲上腕関節残りの1degは肩甲胸郭関節で生じるこの連動作用を肩甲上腕リズムと最初に名づけ

たのはコッドマン(Codman)15)であるコッドマンは肩甲骨を固定した状態で肩関節の運動を行うと90~120degまでの運動しか生じずまた肩関

節内旋位では60degの外転しか生じないことを報告したコッドマンのこの報告は肩関節の運動時に上腕骨と肩甲骨とが協調して動く必要があることを明らかにしたインマン(Inman)16)はさらにその研究を進め

肩関節外転において最初の30degは肩甲上腕関節で生じるがそれ以降では肩甲上腕関節肩甲胸郭関節=21になると報告しているこの原則に基づくと肩関節の完全外転180degは肩甲上腕関節の120deg外転と肩甲胸郭関節の60deg上方回旋が組み合わさって生じていることになるまた肩関節屈曲の際に最初の60degの屈曲は主に肩甲上腕関節で行われそれ以降の運動では外

転時と同様に肩甲上腕関節肩甲胸郭関節=21の関係で動くことが明らかにされている14)

1944年のインマンによる報告以降も数多くの報告がなされているがその多くはインマンが最初に報告した21に近いものばかりである外転時における各関節の動きをもう

少し詳しく説明すると肩甲上腕関節は自動運動では90degまでの外転が可能であり他動的な30degの外転が加わることで120degまで動かすことができる肩甲上腕関節の外転と同時に肩甲骨は回旋を開始するがこの肩甲骨の回旋は胸鎖関節と肩鎖関節によって起こる胸鎖関節の可動域は30degであ

[2]肩関節における運動学のポイント

図19 外転運動における肩甲骨と上腕骨の動き(肩甲上腕リズム)A上肢下垂位B肩関節90deg外転位のうち60degは肩甲上腕関節30degは肩甲胸郭関節で生じるC肩関節外転180degのうち120degは肩甲上腕関節60degは肩甲胸郭関節で生じるS肩甲骨H上腕骨ac肩鎖関節(Cailliet 1966 Ebskov 1975)

S SS

S30deg

60deg

60deg

120deg180deg

90deg

S

A B C

H

ac

H

H

H

04Human Kinesiology Human Kinesiology05

各筋の解説各筋の起始停止や作用についても各部位の筋ごとに詳細に解説し学生の自主学習の際にもとても参照しやすくしています

筋骨格の解剖図解剖学に関しては筋骨格の解剖図を大きく見やすい図を豊富に用いて分かりやすくしています多くの単語に英語解剖学用語にはラテン語の表記も併記ししっかりとした基礎知識を身につけることができます

運動の力学的メカニズム運動の力学的な理解に必須の知識を豊富な図を用いて詳しく解説していますそして評価に欠かせない筋力測定や関節可動域検査を始めとする種々の運動検査法についてもくまなく紹介しています

関節運動学各関節ごとの学習の「ポイント」が整理されているので非常に分かりやすくなっています

生理学生理学の基礎知識についての記述も充実しています特に運動に欠かせない筋収縮のメカニズム感覚調節呼吸循環などの知識について詳細に解説しています

学習する人間

①初期接地(initial contactIC)(図21)

歩行周期の0~2の時期であり地面への最初の接地を行う相である反対側は前遊脚期の始まりである従来は踵接地(heel contact)とされていたが踵以外で接地する場合に説明できないため現在では初期接地(initial contact)が用いられることが多い接地の際には直前の約1cmの高さからの自由落下により短時間に激しい床反力が生じその強度は体重の50~125に及ぶとされるそのためこの相では衝撃の吸収を行う必要があり遊脚相から続く筋の収縮とヒールロッカー機能を達成するために踵の位置を決定する下肢の位置関係が重要であるまた前方への運動量の生成という機能も要求される衝撃の吸収は主に遠心性収縮で行われ

るがそれでは身体にブレーキがかかることになるため前進への運動量が低下してしまうそこで踵の形状を利用したヒールロッカーによって前方への回転運動に変換される

[機能]この相の機能は以下の2つである

[各関節の詳細]筋活動の詳細は表2に示す中足指節間(MP)関節関節角度伸展0~25deg床 反 力

筋 活 動長指伸筋長母指伸筋知 覚足尖と地面との距離距骨下関節関節角度0degもしくは軽度内反床 反 力外反方向筋 活 動 前脛骨筋長母指伸筋後脛骨

筋長指伸筋知 覚足底の方向足関節関節角度0degもしくは背屈3~5deg床 反 力底屈方向

初期接地の機能

❶地面への接地(接床)と衝撃の吸収❷ヒールロッカーによるエネルギー変換

[9]歩行分析

図21 初期接地(initial contact)

学習する人間

る神経と筋肉の関係がある程度明確であるため代償動作として典型的な歩容として観察されることが多い

鶏歩(steppage gait)腓骨神経麻痺などによる足関節背屈筋の機能不

全が生じると下垂足(drop foot)を呈し遊脚期に地面とのクリアランスを確保するため下肢を高く挙上しつま先から投げ出すように歩行を行う完全な麻痺ではなく筋が弱化している場合は初期接地期に急激な足関節底屈が生じるスタンプ歩行(stamp gait)がみられる

踵歩行(calcaneal gait)脛骨神経麻痺などによる足関節底屈筋の機能不

全が生じると常に足関節背屈位での歩行となる

大殿筋歩行(gluteus maximus gait)大殿筋は股関節伸筋でありこの筋が機能不全

を起こすと初期接地直後に体幹を伸展骨盤を前方偏位させ股関節に伸展の外部モーメントを発生させながら歩行する

大腿四頭筋歩行(quadriceps femoris gait)大腿四頭筋は膝関節伸筋でありこの筋が機能

不全を起こすと反張膝や膝折れを呈する初期接地直後に膝の不安定性を呈するものは自身の手で大腿を押して膝関節伸展させることがある立ち上がり時にみられる一度体幹を前傾させ上肢で大腿を押し込んで起立するものは登攀(とはん)性起立(Gowers徴候)と呼ばれる

トレンデレンブルグ歩行(Trendelenburg gait)立脚側の中殿筋の機能不全や股関節内転筋の機

能不全脚長差が3cm以上の場合に立脚中期に遊脚側骨盤が過度に下制した歩容となる中殿筋歩行(gluteus medius gait)とも呼ばれる両側で

図66 失調症患者にみられる歩行

小脳性歩行 酩酊歩行

脊髄癆性歩行

図67 末梢神経疾患患者でみられる歩行大殿筋歩行鶏歩 踵歩行 大腿四頭筋歩行 トレンデレンブルグ歩行 デュシェンヌ歩行

患側

動作する人間

交叉性伸展反射( )出現時期 ~ か月背臥位で一側下肢を屈曲一側下肢を伸展させた状態で伸展した下肢を屈曲すると反対側下肢の伸展パターンが出現するまた背臥位で一側の下肢を伸展した状態で足底を刺激すると反対側下肢の伸展パターンが出現するさらに一側下肢の大腿部の内側を検者が軽叩すると反対側下肢の股関節が内転内旋膝関節が伸展足関節が底屈し鋏状肢位(scissors position=下肢の伸展パターン)となる

新生児期と乳児期の反射

バブキン反射( )出現時期 ~ か月背臥位で乳児の両手掌を検者が母指で強く圧迫して刺激すると開口する手掌口反射(hand-mouth

reflex)とも呼ばれる

口角反射( )出現時期 ~ か月口唇の周囲に乳首や指が触れると口や頭部を刺激した方向に動かして乳首や指を探索する探索反射口唇反射十字反射とも呼ばれる

吸啜反射( )出現時期 ~ か月口唇に乳首や指が触れると乳首や指を吸い込む吸啜(きゅうてつ)運動が出現する吸引反射とも呼ばれる

伸筋突張反射( )出現時期 ~ か月背臥位で下肢を屈曲させた状態で足底を刺激すると下肢の伸展パターン(伸展内転内旋)が出現する

屈筋収引反射( )出現時期 ~ か月背臥位で下肢を伸展させた状態で足底を刺激すると下肢を引っ込めるような屈曲パターン(屈曲外転外旋)が出現する逃避反射とも呼ばれる

脊髄レベルの原始反射

運動学習とは 知覚運動の 協応過程である運動学習(motor learning)とは「練習

や経験に関係した一連のプロセスであり結果として熟練した運動を遂行するための能力に比較的永続的な変化をもたらすもの」と定義されている2)運動行動における運動能力は運動体力と運動技能に分けられておりこの定義の中で示されている「熟練した運動を遂行するための能力」とは運動技能のことを表す運動技能は身体内外から発する感覚を手がかりに中枢神経系を通して運動行動をコントロールする能力であることから運動学習において知覚系と運動系の協応関係を構築していくことが重要となる

運動学習の理論アダムズの閉回路理論(closed loop theory)アダムズ(Adams)8)は従来の学習理論である

連合説(ある特定の刺激に対して特定の反応が生じるといった理論)に対する批判のうえに立ちサイバネティクス(cybernetics)における閉回路の考え方を学習の理論へ発展させたサイバネティクスにおける閉回路の考え方は以下のようなものである(図4)ヒトは環境から情報を取り入れその情報を手がかりに目標とする正しい運動行動を引き起こすであろう運動プログ

ラムを生成して運動行動を開始するそしてその運動行動の経過や結果を再び情報として取り入れ(フィードバック)意図している運動行動すなわち目標と比較して差異を調べる(誤差検出error detection)そして誤差が発見されたなら現在行っている運動行動もしくは次の運動行動を修正するよう試みる(誤差修正error correc-tion)これを繰り返すことで正しい運動行動が学習されるという考えである9)アダムズはフィードバックが生起する以前の運動行動の選択を開始するように働く限定的な運動プログラムのことを記憶痕跡(memory trace)と呼びフィードバック情報と比較して誤差を検出するための内的基準のことを知覚痕跡(percep-tual trace)と呼んだ知覚痕跡は過去の運動行動の経験によって形成されこの運動行動を実行すればこのような感じがするといった予期や期待のことを表す運動行動遂行中知覚痕跡は実際の運動行動によって生起されるフィードバック情

[2]運動学習理論

図4 運動学習と誤差検出誤差修正メカニズムのモデル(Keel amp Summers 1976)

基準or

比較センター

その他のフィードバック視覚的聴覚的など

筋肉

修正

運動指令のコピー

筋運動感覚的

フィードバック

筋への

運動指令

運動発生器or

運動プログラムシステム

基礎と臨床をつなぐ運動発達学姿勢動作歩行運動学習運動心理学など臨床で必須となる知識も詳細に解説し卒前教育から臨床現場まで長く活用できます

学習する人間

この合成されたベクトルのことを床反力ベクトルといい鉛直上方前後左右方向の3つの方向の成分に分解して考えることができ前後成分をFx左右成分をFy鉛直上方成分をFzの記号で表す(図8)また床反力ベクトルが作用する点は床反力作用点または足圧中心(COPcenter of pressure)と呼ばれるこの床反力作用点は床反力の平均位置であり身体を支持する力の中心であるそし

て身体が静止する時は重心に作用する重力と床反力ベクトルが同じ大きさかつ互いに逆向きに一直線上に作用している状態であるまた床

図4 身体の重心線

外果の約2~6cm前方

膝関節前部(膝蓋骨後面)

大転子

肩峰

耳垂のやや後方

両内果間の中心

両膝関節内側間の中心

殿裂

椎骨棘突起

後頭隆起

図5  主要なランドマークと重心線との位置関係 (Steen 2010)

前後(矢状面)の偏位(+前 -後)

耳介

T1

T4

T9

L3

股関節中心

-150 -100 -50 0重心線

ステファン2010ラファージュ2008

ガングネット2003シュワブ2006

50 100

図6 支持基底面の変化

椅子座位

両松葉杖の使用

開脚立位閉脚立位

図7 床反力ベクトル

床反力ベクトル

無数の床反力

図8 力の分解

z

Fz

0

Fy

y

x

Fx

06Human Kinesiology Human Kinesiology07

発達反射随意運動の仕組みとその発達のプロセスを詳細に説明しています

臨床的な知見様々な病態やその障害について説明し基礎を臨床へとつなげていくための知識を数多く紹介しています

運動学習近年新しく分かってきた知見も含めて運動学習について詳細に解説し治療を考える際に欠かすことのできない知識を身につけることができます

姿勢動作臨床現場で欠かすことのできない姿勢動作の分析力を支える知識を詳しく解説しています

歩行歩行のメカニズムおよび歩行分析について最新の知見も含めて詳細に解説し臨床現場で歩行を観察する能力を身につけることができます

学習する人間

①初期接地(initial contactIC)(図21)

歩行周期の0~2の時期であり地面への最初の接地を行う相である反対側は前遊脚期の始まりである従来は踵接地(heel contact)とされていたが踵以外で接地する場合に説明できないため現在では初期接地(initial contact)が用いられることが多い接地の際には直前の約1cmの高さからの自由落下により短時間に激しい床反力が生じその強度は体重の50~125に及ぶとされるそのためこの相では衝撃の吸収を行う必要があり遊脚相から続く筋の収縮とヒールロッカー機能を達成するために踵の位置を決定する下肢の位置関係が重要であるまた前方への運動量の生成という機能も要求される衝撃の吸収は主に遠心性収縮で行われ

るがそれでは身体にブレーキがかかることになるため前進への運動量が低下してしまうそこで踵の形状を利用したヒールロッカーによって前方への回転運動に変換される

[機能]この相の機能は以下の2つである

[各関節の詳細]筋活動の詳細は表2に示す中足指節間(MP)関節関節角度伸展0~25deg床 反 力

筋 活 動長指伸筋長母指伸筋知 覚足尖と地面との距離距骨下関節関節角度0degもしくは軽度内反床 反 力外反方向筋 活 動 前脛骨筋長母指伸筋後脛骨

筋長指伸筋知 覚足底の方向足関節関節角度0degもしくは背屈3~5deg床 反 力底屈方向

初期接地の機能

❶地面への接地(接床)と衝撃の吸収❷ヒールロッカーによるエネルギー変換

[9]歩行分析

図21 初期接地(initial contact)

学習する人間

る神経と筋肉の関係がある程度明確であるため代償動作として典型的な歩容として観察されることが多い

鶏歩(steppage gait)腓骨神経麻痺などによる足関節背屈筋の機能不

全が生じると下垂足(drop foot)を呈し遊脚期に地面とのクリアランスを確保するため下肢を高く挙上しつま先から投げ出すように歩行を行う完全な麻痺ではなく筋が弱化している場合は初期接地期に急激な足関節底屈が生じるスタンプ歩行(stamp gait)がみられる

踵歩行(calcaneal gait)脛骨神経麻痺などによる足関節底屈筋の機能不

全が生じると常に足関節背屈位での歩行となる

大殿筋歩行(gluteus maximus gait)大殿筋は股関節伸筋でありこの筋が機能不全

を起こすと初期接地直後に体幹を伸展骨盤を前方偏位させ股関節に伸展の外部モーメントを発生させながら歩行する

大腿四頭筋歩行(quadriceps femoris gait)大腿四頭筋は膝関節伸筋でありこの筋が機能

不全を起こすと反張膝や膝折れを呈する初期接地直後に膝の不安定性を呈するものは自身の手で大腿を押して膝関節伸展させることがある立ち上がり時にみられる一度体幹を前傾させ上肢で大腿を押し込んで起立するものは登攀(とはん)性起立(Gowers徴候)と呼ばれる

トレンデレンブルグ歩行(Trendelenburg gait)立脚側の中殿筋の機能不全や股関節内転筋の機

能不全脚長差が3cm以上の場合に立脚中期に遊脚側骨盤が過度に下制した歩容となる中殿筋歩行(gluteus medius gait)とも呼ばれる両側で

図66 失調症患者にみられる歩行

小脳性歩行 酩酊歩行

脊髄癆性歩行

図67 末梢神経疾患患者でみられる歩行大殿筋歩行鶏歩 踵歩行 大腿四頭筋歩行 トレンデレンブルグ歩行 デュシェンヌ歩行

患側

動作する人間

交叉性伸展反射( )出現時期 ~ か月背臥位で一側下肢を屈曲一側下肢を伸展させた状態で伸展した下肢を屈曲すると反対側下肢の伸展パターンが出現するまた背臥位で一側の下肢を伸展した状態で足底を刺激すると反対側下肢の伸展パターンが出現するさらに一側下肢の大腿部の内側を検者が軽叩すると反対側下肢の股関節が内転内旋膝関節が伸展足関節が底屈し鋏状肢位(scissors position=下肢の伸展パターン)となる

新生児期と乳児期の反射

バブキン反射( )出現時期 ~ か月背臥位で乳児の両手掌を検者が母指で強く圧迫して刺激すると開口する手掌口反射(hand-mouth

reflex)とも呼ばれる

口角反射( )出現時期 ~ か月口唇の周囲に乳首や指が触れると口や頭部を刺激した方向に動かして乳首や指を探索する探索反射口唇反射十字反射とも呼ばれる

吸啜反射( )出現時期 ~ か月口唇に乳首や指が触れると乳首や指を吸い込む吸啜(きゅうてつ)運動が出現する吸引反射とも呼ばれる

伸筋突張反射( )出現時期 ~ か月背臥位で下肢を屈曲させた状態で足底を刺激すると下肢の伸展パターン(伸展内転内旋)が出現する

屈筋収引反射( )出現時期 ~ か月背臥位で下肢を伸展させた状態で足底を刺激すると下肢を引っ込めるような屈曲パターン(屈曲外転外旋)が出現する逃避反射とも呼ばれる

脊髄レベルの原始反射

運動学習とは 知覚運動の 協応過程である運動学習(motor learning)とは「練習

や経験に関係した一連のプロセスであり結果として熟練した運動を遂行するための能力に比較的永続的な変化をもたらすもの」と定義されている2)運動行動における運動能力は運動体力と運動技能に分けられておりこの定義の中で示されている「熟練した運動を遂行するための能力」とは運動技能のことを表す運動技能は身体内外から発する感覚を手がかりに中枢神経系を通して運動行動をコントロールする能力であることから運動学習において知覚系と運動系の協応関係を構築していくことが重要となる

運動学習の理論アダムズの閉回路理論(closed loop theory)アダムズ(Adams)8)は従来の学習理論である

連合説(ある特定の刺激に対して特定の反応が生じるといった理論)に対する批判のうえに立ちサイバネティクス(cybernetics)における閉回路の考え方を学習の理論へ発展させたサイバネティクスにおける閉回路の考え方は以下のようなものである(図4)ヒトは環境から情報を取り入れその情報を手がかりに目標とする正しい運動行動を引き起こすであろう運動プログ

ラムを生成して運動行動を開始するそしてその運動行動の経過や結果を再び情報として取り入れ(フィードバック)意図している運動行動すなわち目標と比較して差異を調べる(誤差検出error detection)そして誤差が発見されたなら現在行っている運動行動もしくは次の運動行動を修正するよう試みる(誤差修正error correc-tion)これを繰り返すことで正しい運動行動が学習されるという考えである9)アダムズはフィードバックが生起する以前の運動行動の選択を開始するように働く限定的な運動プログラムのことを記憶痕跡(memory trace)と呼びフィードバック情報と比較して誤差を検出するための内的基準のことを知覚痕跡(percep-tual trace)と呼んだ知覚痕跡は過去の運動行動の経験によって形成されこの運動行動を実行すればこのような感じがするといった予期や期待のことを表す運動行動遂行中知覚痕跡は実際の運動行動によって生起されるフィードバック情

[2]運動学習理論

図4 運動学習と誤差検出誤差修正メカニズムのモデル(Keel amp Summers 1976)

基準or

比較センター

その他のフィードバック視覚的聴覚的など

筋肉

修正

運動指令のコピー

筋運動感覚的

フィードバック

筋への

運動指令

運動発生器or

運動プログラムシステム

基礎と臨床をつなぐ運動発達学姿勢動作歩行運動学習運動心理学など臨床で必須となる知識も詳細に解説し卒前教育から臨床現場まで長く活用できます

学習する人間

この合成されたベクトルのことを床反力ベクトルといい鉛直上方前後左右方向の3つの方向の成分に分解して考えることができ前後成分をFx左右成分をFy鉛直上方成分をFzの記号で表す(図8)また床反力ベクトルが作用する点は床反力作用点または足圧中心(COPcenter of pressure)と呼ばれるこの床反力作用点は床反力の平均位置であり身体を支持する力の中心であるそし

て身体が静止する時は重心に作用する重力と床反力ベクトルが同じ大きさかつ互いに逆向きに一直線上に作用している状態であるまた床

図4 身体の重心線

外果の約2~6cm前方

膝関節前部(膝蓋骨後面)

大転子

肩峰

耳垂のやや後方

両内果間の中心

両膝関節内側間の中心

殿裂

椎骨棘突起

後頭隆起

図5  主要なランドマークと重心線との位置関係 (Steen 2010)

前後(矢状面)の偏位(+前 -後)

耳介

T1

T4

T9

L3

股関節中心

-150 -100 -50 0重心線

ステファン2010ラファージュ2008

ガングネット2003シュワブ2006

50 100

図6 支持基底面の変化

椅子座位

両松葉杖の使用

開脚立位閉脚立位

図7 床反力ベクトル

床反力ベクトル

無数の床反力

図8 力の分解

z

Fz

0

Fy

y

x

Fx

06Human Kinesiology Human Kinesiology07

発達反射随意運動の仕組みとその発達のプロセスを詳細に説明しています

臨床的な知見様々な病態やその障害について説明し基礎を臨床へとつなげていくための知識を数多く紹介しています

運動学習近年新しく分かってきた知見も含めて運動学習について詳細に解説し治療を考える際に欠かすことのできない知識を身につけることができます

姿勢動作臨床現場で欠かすことのできない姿勢動作の分析力を支える知識を詳しく解説しています

歩行歩行のメカニズムおよび歩行分析について最新の知見も含めて詳細に解説し臨床現場で歩行を観察する能力を身につけることができます

人間の「錐体路」錐体路(pyramidal tract)あるいは皮質脊

髄路(corticospinal tract)は系統発生的に新しく哺乳類で初めて見られるようになりヒトで最もよく発達した脳内最大の下行性線維束である多くの異なる皮質領域に起始をもち前頭葉では一次運動野運動前野補足運動野帯状皮質運動野から頭頂葉では一次感覚野とさらに高次な57野に由来するまた錐体路の起始細胞は形状の特徴から錐体細胞(pyramidal

cell)といい特に一次運動野の巨大錐体細胞はBetz細胞と呼ばれすべて大脳皮質の第Ⅴ層に位置するこれら錐体路をなす軸索の起始細胞を錐体路ニューロン(PTNspyramidal tract neurons)という「錐体路」の名称は下行する際に延髄の錐体を通ることに由来しておりこれら起始細胞の名称に由来しているのではない大脳皮質の第Ⅴ層に起始した軸索は放線冠を形成し内包の前脚と後脚を通るが一次運動野からの線維はほとんど後脚を通って中脳に至る中脳では大脳脚を通り橋では橋核の間をいくつかの束に分かれて通過し延髄で再びまとまった束となる延髄下部ではおよそ90が対側へ交叉しておりこれを錐体交叉(pyramidal decussation)という交叉した線維は外側皮質脊髄路となって対

側の脊髄側索を下行し脊髄前角の主に四肢遠位の制御に関わる外側領域の運動ニューロンと中間層の介在ニューロンに終止する非交叉線維は前

[6]ヒトの行為と脳機能システム

図53 錐体路の走行(Baumlhrら2010)

C1ⅪⅫⅩⅨ

ⅦⅥⅤ

ⅣⅢ

運動終板

外側皮質脊髄路(交叉)

延髄

大脳脚皮質橋路

中脳

前皮質脊髄路(非交叉)錐体交叉

錐体

皮質脊髄路(錐体路)皮質核路

皮質中脳路尾状核(頭部)内包

レンズ核

視床尾状核(尾部)

第8野から

中心前回

[4] 運動制御のための下行路

人間の身体

[4] 運動制御のための下行路

には1m以上の長さに及ぶものもある特に運動野のベッツ巨大細胞からの軸索は大きく伝導速度が速いしかしながらその大きな軸索の錐体路に占める割合は3程度とわずかであり錐体路のほとんどは運動野の第5層にある錐体路細胞に起始している錐体路の大多数は延髄で錐体交叉し反対側の脊髄側索を下行する外側皮質脊髄路と交叉せずに脊髄前索を下行する前皮質脊髄路とに区分されている錐体交叉率は90以上であり特に手指の筋を支配する錐体路の交叉率は100近いとされている錐体路は個々の運動の個別性分別性分離性といった機能との関係がきわめて深く手指の巧緻動作や道具使用の特殊性の視点から「最も人間的なものである(Pyramidal tract is such a human

feature)」といわれているしかしながら運動野に起始する錐体路(皮質

脊髄路)は筋収縮を引き起こす脊髄前角の運動細胞にすべて直接投射しているわけではない運動野からの下行性の神経線維は脊髄後索の「介在ニューロン(spinal interneuron)」にも接続して「予測的に末梢からの感覚入力を調節する機能」を有していると主張する研究者もいるしたがって運動野は脊髄後索の介在ニューロンを介して体性感覚入力によって引き起こされる反射を制御していると考えられる(図25)50)

人間の巧緻的な運動はこれらの脊髄介在ニューロンを含んだ神経回路のネットワークによって達成されているその意味で錐体路は行為を予測的に制御する機能を有していると考えるべきであろう

[錐体路障害]錐体路障害では痙縮(spasticity)をきたす臨床上錐体路障害が顕著に出現するのは脳性麻痺の両麻痺(diplegia)脳卒中片麻痺(hemi-plegia)脊髄損傷による対麻痺(paraplegia)などであり痙性麻痺深部反射(腱反射)亢進バビンスキー反射陽性が錐体路徴候とされている特徴的な異常姿勢としては片麻痺におけるウェルニッケマン(Wernicke-Mann)肢位(図26)や脳性麻痺の鋏(ハサミ)状肢位(scissors posi-tion)が有名である(上肢屈筋下肢伸筋優位)51)また痙性麻痺に認められる筋緊張の亢進

(hypertone)折りたたみナイフ現象(clasp-knife

phenomenon)クローヌス(clonus)腱反射の亢進(hypertendon refl ex)などは錐体路損傷によって大脳皮質からの脊髄運動ニューロンへの抑制が弱まることで出現する解放現象と考えられているバビンスキー(Babinski)反射は正常な新生児で

も出現するが錐体路損傷の指標として信頼できるものである足底を刺激すると母指が背屈し他の指が扇状に広がる現象であるなおサルで錐体路を実験的に切断すると個々の手指の巧緻運動ができなくなるが筋緊張の亢進や腱反射の亢進はほとんど認められないという

図26 片麻痺におけるウェルニッケマン肢位

図25 錐体路による反射の制御錐体路は前角の運動ニューロンだけでなく同時に脊髄介在ニューロンを支配して感覚ニューロンを予測的に制御する(Perfetti 1987)

具体的には予測的な運動プランと運動結果との因果関係である「再生スキーマ」と実際の運動と感覚フィードバックとの因果関係である「再認スキーマ」が想定されており運動学習は運動課題の多様な経験に対するスキーマ(運動プログラム)の再組織化や改変によって達成されるシュミットはなぜ練習していない左手やペンを口にくわえても文字が書けるのかという謎に対してスキーマ理論を導入することで運動の長期記憶の理論化に一定の成功を収めた

脳の運動制御モデル20世紀後半の脳科学の進歩を集積してつくら

れたアレン(Allen)と塚原20)による「脳の運動制御モデル」によれば随意運動を発現するための頭頂葉の感覚情報が前頭葉の補足運動野や運動前

野に入力されそこで運動のプランとプログラムが大脳基底核と小脳の調節を経て形成され運動野に伝達された後運動野が脊髄の前角細胞に運動指令(motor command)を出して筋収縮が発現するとされている(図6)つまりある目的を達成する随意運動の脳内の神経情報(neural information)流れには運動のプランやプログラムを構築する「認知過程」と実際に運動を実行する「行為過程」が存在しているこの観点に立てば随意運動の最高中枢とされてきた運動野は単に運動を遂行する出口にすぎない随意運動の最高中枢は補足運動野と運動前野でありそこでは具体的な運動のプログラムが決定されている脳の運動制御モデルは随意運動のメカニズムを理解するうえできわめて重要である

図6 随意運動における神経情報の流れ(Allenと塚原1974)

感覚連合野(頭頂葉他)

意 志

体性感覚

大脳基底核

運動前野脊 髄 筋

補足運動野

小 脳

運動遂行運動プログラム

運動野

再生スキーマ(演繹的)

運動プラン

運動結果

再認スキーマ(帰納的)

運動結果

感覚フィードバック

図5 スキーマ理論(Schmidt 1975)

図16 筋皮神経(C5 6)および腋窩神経(C5 6)(Joseph 1982)

筋皮神経

腋窩神経

後枝

前枝

外側前腕皮神経

長頭

短頭上腕二頭筋

烏口腕筋

外側上腕皮神経

三角筋(上枝より)

上腕筋

筋皮神経小円筋後枝腋窩神経

橈骨神経尺骨神経

内側神経束後神経束外側神経束腕神経叢

図18 正中神経(C6~8 T1)(Joseph 1982)

第1および第2虫様筋

尺骨神経との吻合

方形回内筋

深指屈筋(橈側部)関節枝(2)

短母指屈筋(浅頭)

母指対立筋短母指外転筋母指球筋

長母指屈筋

浅指屈筋

橈側手根屈筋長掌筋円回内筋

屈-回内筋群

内側神経束外側神経束

単独支配域

知覚神経分布

図19 尺骨神経(C8 T1)(Joseph 1982)

正中神経参照

短母指屈筋(内側頭)

母指内転筋

正中神経参照

正中神経

尺側虫様筋掌側骨間筋背側骨間筋

23

4小指屈筋小指対立筋小指外転筋短掌筋

皮枝

尺骨神経

深指屈筋(内側12)

尺側手骨屈筋

内側上顆

上腕骨部(分枝なし)

内側神経束外側神経束 単独支配域

知覚神経分布

図17 橈骨神経(C6~8 T1)(Joseph 1982)

単独支配域

知覚神経分布

示指伸筋

短母指伸筋長母指伸筋

長母指外転筋回外筋

尺側手根伸筋小指伸筋総指伸筋

短橈側手根伸筋

深枝肘筋

長橈側手根伸筋腕橈骨筋

伸-回外筋群上腕筋長頭

外側頭上腕三頭筋

橈骨神経浅枝

後前腕皮皮神経

後上腕神経知覚枝上腕三頭筋の内側頭腋窩神経

内側神経束後神経束外側神経束

行為する人間

このような身体意識の成立の背景には前頭頭頂の神経ネットワークが特に重要な役割を担っているがこれは基本的に視覚や触覚といった外受容感覚のネットワークであり人間の自己感の形成にはさらに島皮質の特に右半球前部を中心とした内受容感覚のネットワークが重要である内受容感覚は皮膚や筋などから上行する体性神経信号と血行リンパ行性に上行する体液性の化学信号内臓感覚の自律神経信号によって構成されこれらの身体情報は体性感覚野島帯状皮質に到達したのちヒトで特に発達している前部島(anterior insula cortex)に統合される(図62)32)つまり自己感は視覚や触覚などの外受容感覚と内臓や血中の情報などの内受容感覚の両方のボトムアップ情報が統合されることが基盤となっているがこれらは理想的な状態を仮説的予測的に生成されるトップダウンモデルの随伴発射あるいは遠心性コピーと身体を介したオンラインのボトムアップ情報とが比較照合されなければならないそこで生じた予測誤差(prediction error)を最小化するべくまたモデルをアップデートするという循環によって統一的で整合性のある自己が維持される人間の運動制御と運動学習には身体と外部環境との相互関係を表象する内部モデルが必要とされておりそれには「順モデル(forward model)」と「逆モデル(inverse model)」があるたとえば視覚的に捉えた物体を目標とする時目標から逆算してそれを手にするのに必要な関節や筋の動きを推定するこれが逆モデルである一方実際にそれを行うと手がどのように動くかの予測が成立するこれが順モデルであるすなわち行為を行う際の目的目標に対しては逆モデルを用いて運動プログラムを立て必要な運動指令を生み出すそれをもとに実際に運動を行うがそれと同時にこの運動指令の遠心性コピー情報が身体運動の予測として順モデルを成立させる実際に運動を行うと同時にこの推定された逆モデルと予測される順モデルとが比較照合されることで

不一致があればその段階での修正が可能となるため外部環境や状況に応じた円滑で調節された運動の実行が可能となるまた順モデルで成立させた予測には運動の予測とともに「こういう運動を行えばこんな感じが生じるはずだ」という感覚の予測が含まれているため実際に生じた感覚の求心情報と一致することにより「これを行っているのは私である」という運動の主体感が生じるといえるまたこのような予測と実際の求心情報の不一致あるいは異なる求心情報間の不一致が生じた場合自分の身体自分の運動といった主体感が成立せず適切な運動プログラムの生成に影響を及ぼすことになる

ミラーニューロンシステム高次運動野である腹側運動前野にはつまむ握る引っかくといった特定の行為をコードしているニューロンがあるこれらは行為ごとに選択的な応答を示しまた対象の視覚提示だけでも活動するこれらのニューロンは感覚情報から運動

図62 外受容感覚と内受容感覚の内的モデル(Seth 2013)

望ましい推測された状態

覚醒ネットワーク

生成モデル

生成モデル 運動コントロール

外界

身体

外受容感覚予測誤差

内受容感覚予測誤差

自律神経系コントロール

随伴反射

図61 運動主体感の生成モデル予測である遠心性コピー情報と実際の感覚フィードバック情報が一致することによって運動主体感が生起される(Blakemoreら1999)

予測器

感覚運動システム

遠心性コピー 運動主体感 感覚誤差

実際の感覚フィードバック

一致

予測感覚フィードバック(随伴発射)

運動指令

「脳科学の世紀」の運動学この本の最大の特徴の一つが豊富な「脳神経 科学」についての内容です運動の理解に必要不可欠な脳神経科学の知識 を基礎から最新研究まで幅広く紹介し病態解釈や臨床思考に役立てることができます

08Human Kinesiology Human Kinesiology09

神経解剖学重要な神経構造の図表をくまなく記載しています

脳の運動制御随意運動運動制御の脳神経学的メカニズムについても詳細に解説しています

脳機能と脳障害各神経部位の機能特性の説明に加えその部位が損傷されることでどのような障害がもたらされるかについても詳細に解説していますまた高次脳機能障害についても様々な知見を紹介し臨床に役立てることができます

「人間の運動」の神経基盤「人間の運動」を生み出す脳の仕組みについて分かりやすく解説しています

最新研究の紹介脳科学の最新のトピックスについても豊富に紹介しています

人間の「錐体路」錐体路(pyramidal tract)あるいは皮質脊

髄路(corticospinal tract)は系統発生的に新しく哺乳類で初めて見られるようになりヒトで最もよく発達した脳内最大の下行性線維束である多くの異なる皮質領域に起始をもち前頭葉では一次運動野運動前野補足運動野帯状皮質運動野から頭頂葉では一次感覚野とさらに高次な57野に由来するまた錐体路の起始細胞は形状の特徴から錐体細胞(pyramidal

cell)といい特に一次運動野の巨大錐体細胞はBetz細胞と呼ばれすべて大脳皮質の第Ⅴ層に位置するこれら錐体路をなす軸索の起始細胞を錐体路ニューロン(PTNspyramidal tract neurons)という「錐体路」の名称は下行する際に延髄の錐体を通ることに由来しておりこれら起始細胞の名称に由来しているのではない大脳皮質の第Ⅴ層に起始した軸索は放線冠を形成し内包の前脚と後脚を通るが一次運動野からの線維はほとんど後脚を通って中脳に至る中脳では大脳脚を通り橋では橋核の間をいくつかの束に分かれて通過し延髄で再びまとまった束となる延髄下部ではおよそ90が対側へ交叉しておりこれを錐体交叉(pyramidal decussation)という交叉した線維は外側皮質脊髄路となって対

側の脊髄側索を下行し脊髄前角の主に四肢遠位の制御に関わる外側領域の運動ニューロンと中間層の介在ニューロンに終止する非交叉線維は前

[6]ヒトの行為と脳機能システム

図53 錐体路の走行(Baumlhrら2010)

C1ⅪⅫⅩⅨ

ⅦⅥⅤ

ⅣⅢ

運動終板

外側皮質脊髄路(交叉)

延髄

大脳脚皮質橋路

中脳

前皮質脊髄路(非交叉)錐体交叉

錐体

皮質脊髄路(錐体路)皮質核路

皮質中脳路尾状核(頭部)内包

レンズ核

視床尾状核(尾部)

第8野から

中心前回

[4] 運動制御のための下行路

人間の身体

[4] 運動制御のための下行路

には1m以上の長さに及ぶものもある特に運動野のベッツ巨大細胞からの軸索は大きく伝導速度が速いしかしながらその大きな軸索の錐体路に占める割合は3程度とわずかであり錐体路のほとんどは運動野の第5層にある錐体路細胞に起始している錐体路の大多数は延髄で錐体交叉し反対側の脊髄側索を下行する外側皮質脊髄路と交叉せずに脊髄前索を下行する前皮質脊髄路とに区分されている錐体交叉率は90以上であり特に手指の筋を支配する錐体路の交叉率は100近いとされている錐体路は個々の運動の個別性分別性分離性といった機能との関係がきわめて深く手指の巧緻動作や道具使用の特殊性の視点から「最も人間的なものである(Pyramidal tract is such a human

feature)」といわれているしかしながら運動野に起始する錐体路(皮質

脊髄路)は筋収縮を引き起こす脊髄前角の運動細胞にすべて直接投射しているわけではない運動野からの下行性の神経線維は脊髄後索の「介在ニューロン(spinal interneuron)」にも接続して「予測的に末梢からの感覚入力を調節する機能」を有していると主張する研究者もいるしたがって運動野は脊髄後索の介在ニューロンを介して体性感覚入力によって引き起こされる反射を制御していると考えられる(図25)50)

人間の巧緻的な運動はこれらの脊髄介在ニューロンを含んだ神経回路のネットワークによって達成されているその意味で錐体路は行為を予測的に制御する機能を有していると考えるべきであろう

[錐体路障害]錐体路障害では痙縮(spasticity)をきたす臨床上錐体路障害が顕著に出現するのは脳性麻痺の両麻痺(diplegia)脳卒中片麻痺(hemi-plegia)脊髄損傷による対麻痺(paraplegia)などであり痙性麻痺深部反射(腱反射)亢進バビンスキー反射陽性が錐体路徴候とされている特徴的な異常姿勢としては片麻痺におけるウェルニッケマン(Wernicke-Mann)肢位(図26)や脳性麻痺の鋏(ハサミ)状肢位(scissors posi-tion)が有名である(上肢屈筋下肢伸筋優位)51)また痙性麻痺に認められる筋緊張の亢進

(hypertone)折りたたみナイフ現象(clasp-knife

phenomenon)クローヌス(clonus)腱反射の亢進(hypertendon refl ex)などは錐体路損傷によって大脳皮質からの脊髄運動ニューロンへの抑制が弱まることで出現する解放現象と考えられているバビンスキー(Babinski)反射は正常な新生児でも出現するが錐体路損傷の指標として信頼できるものである足底を刺激すると母指が背屈し他の指が扇状に広がる現象であるなおサルで錐体路を実験的に切断すると個々の手指の巧緻運動ができなくなるが筋緊張の亢進や腱反射の亢進はほとんど認められないという

図26 片麻痺におけるウェルニッケマン肢位

図25 錐体路による反射の制御錐体路は前角の運動ニューロンだけでなく同時に脊髄介在ニューロンを支配して感覚ニューロンを予測的に制御する(Perfetti 1987)

具体的には予測的な運動プランと運動結果との因果関係である「再生スキーマ」と実際の運動と感覚フィードバックとの因果関係である「再認スキーマ」が想定されており運動学習は運動課題の多様な経験に対するスキーマ(運動プログラム)の再組織化や改変によって達成されるシュミットはなぜ練習していない左手やペンを口にくわえても文字が書けるのかという謎に対してスキーマ理論を導入することで運動の長期記憶の理論化に一定の成功を収めた

脳の運動制御モデル20世紀後半の脳科学の進歩を集積してつくられたアレン(Allen)と塚原20)による「脳の運動制御モデル」によれば随意運動を発現するための頭頂葉の感覚情報が前頭葉の補足運動野や運動前

野に入力されそこで運動のプランとプログラムが大脳基底核と小脳の調節を経て形成され運動野に伝達された後運動野が脊髄の前角細胞に運動指令(motor command)を出して筋収縮が発現するとされている(図6)つまりある目的を達成する随意運動の脳内の神経情報(neural information)流れには運動のプランやプログラムを構築する「認知過程」と実際に運動を実行する「行為過程」が存在しているこの観点に立てば随意運動の最高中枢とされてきた運動野は単に運動を遂行する出口にすぎない随意運動の最高中枢は補足運動野と運動前野でありそこでは具体的な運動のプログラムが決定されている脳の運動制御モデルは随意運動のメカニズムを理解するうえできわめて重要である

図6 随意運動における神経情報の流れ(Allenと塚原1974)

感覚連合野(頭頂葉他)

意 志

体性感覚

大脳基底核

運動前野脊 髄 筋

補足運動野

小 脳

運動遂行運動プログラム

運動野

再生スキーマ(演繹的)

運動プラン

運動結果

再認スキーマ(帰納的)

運動結果

感覚フィードバック

図5 スキーマ理論(Schmidt 1975)

図16 筋皮神経(C5 6)および腋窩神経(C5 6)(Joseph 1982)

筋皮神経

腋窩神経

後枝

前枝

外側前腕皮神経

長頭

短頭上腕二頭筋

烏口腕筋

外側上腕皮神経

三角筋(上枝より)

上腕筋

筋皮神経小円筋後枝腋窩神経

橈骨神経尺骨神経

内側神経束後神経束外側神経束腕神経叢

図18 正中神経(C6~8 T1)(Joseph 1982)

第1および第2虫様筋

尺骨神経との吻合

方形回内筋

深指屈筋(橈側部)関節枝(2)

短母指屈筋(浅頭)

母指対立筋短母指外転筋母指球筋

長母指屈筋

浅指屈筋

橈側手根屈筋長掌筋円回内筋

屈-回内筋群

内側神経束外側神経束

単独支配域

知覚神経分布

図19 尺骨神経(C8 T1)(Joseph 1982)

正中神経参照

短母指屈筋(内側頭)

母指内転筋

正中神経参照

正中神経

尺側虫様筋掌側骨間筋背側骨間筋

23

4小指屈筋小指対立筋小指外転筋短掌筋

皮枝

尺骨神経

深指屈筋(内側12)

尺側手骨屈筋

内側上顆

上腕骨部(分枝なし)

内側神経束外側神経束 単独支配域

知覚神経分布

図17 橈骨神経(C6~8 T1)(Joseph 1982)

単独支配域

知覚神経分布

示指伸筋

短母指伸筋長母指伸筋

長母指外転筋回外筋

尺側手根伸筋小指伸筋総指伸筋

短橈側手根伸筋

深枝肘筋

長橈側手根伸筋腕橈骨筋

伸-回外筋群上腕筋長頭

外側頭上腕三頭筋

橈骨神経浅枝

後前腕皮皮神経

後上腕神経知覚枝上腕三頭筋の内側頭腋窩神経

内側神経束後神経束外側神経束

行為する人間

このような身体意識の成立の背景には前頭頭頂の神経ネットワークが特に重要な役割を担っているがこれは基本的に視覚や触覚といった外受容感覚のネットワークであり人間の自己感の形成にはさらに島皮質の特に右半球前部を中心とした内受容感覚のネットワークが重要である内受容感覚は皮膚や筋などから上行する体性神経信号と血行リンパ行性に上行する体液性の化学信号内臓感覚の自律神経信号によって構成されこれらの身体情報は体性感覚野島帯状皮質に到達したのちヒトで特に発達している前部島(anterior insula cortex)に統合される(図62)32)つまり自己感は視覚や触覚などの外受容感覚と内臓や血中の情報などの内受容感覚の両方のボトムアップ情報が統合されることが基盤となっているがこれらは理想的な状態を仮説的予測的に生成されるトップダウンモデルの随伴発射あるいは遠心性コピーと身体を介したオンラインのボトムアップ情報とが比較照合されなければならないそこで生じた予測誤差(prediction error)を最小化するべくまたモデルをアップデートするという循環によって統一的で整合性のある自己が維持される人間の運動制御と運動学習には身体と外部環境との相互関係を表象する内部モデルが必要とされておりそれには「順モデル(forward model)」と「逆モデル(inverse model)」があるたとえば視覚的に捉えた物体を目標とする時目標から逆算してそれを手にするのに必要な関節や筋の動きを推定するこれが逆モデルである一方実際にそれを行うと手がどのように動くかの予測が成立するこれが順モデルであるすなわち行為を行う際の目的目標に対しては逆モデルを用いて運動プログラムを立て必要な運動指令を生み出すそれをもとに実際に運動を行うがそれと同時にこの運動指令の遠心性コピー情報が身体運動の予測として順モデルを成立させる実際に運動を行うと同時にこの推定された逆モデルと予測される順モデルとが比較照合されることで

不一致があればその段階での修正が可能となるため外部環境や状況に応じた円滑で調節された運動の実行が可能となるまた順モデルで成立させた予測には運動の予測とともに「こういう運動を行えばこんな感じが生じるはずだ」という感覚の予測が含まれているため実際に生じた感覚の求心情報と一致することにより「これを行っているのは私である」という運動の主体感が生じるといえるまたこのような予測と実際の求心情報の不一致あるいは異なる求心情報間の不一致が生じた場合自分の身体自分の運動といった主体感が成立せず適切な運動プログラムの生成に影響を及ぼすことになる

ミラーニューロンシステム高次運動野である腹側運動前野にはつまむ握る引っかくといった特定の行為をコードしているニューロンがあるこれらは行為ごとに選択的な応答を示しまた対象の視覚提示だけでも活動するこれらのニューロンは感覚情報から運動

図62 外受容感覚と内受容感覚の内的モデル(Seth 2013)

望ましい推測された状態

覚醒ネットワーク

生成モデル

生成モデル 運動コントロール

外界

身体

外受容感覚予測誤差

内受容感覚予測誤差

自律神経系コントロール

随伴反射

図61 運動主体感の生成モデル予測である遠心性コピー情報と実際の感覚フィードバック情報が一致することによって運動主体感が生起される(Blakemoreら1999)

予測器

感覚運動システム

遠心性コピー 運動主体感 感覚誤差

実際の感覚フィードバック

一致

予測感覚フィードバック(随伴発射)

運動指令

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まったく新しい運動学の教科書

これが『人間の運動学』のコンセプトですここでいう「新しい」とは

今までの運動学とは別物という意味ではありません

解剖学生理学運動の力学的メカニズム関節運動学といった運動学の基礎となる知識を本書はくまなく網羅しています

そのうえで運動学では今まで扱われる事の無かった学際的な観点や近年新しく分かってきた最新の研究などを加えることで「運動学」をより良くアップデートすることが

本書の狙いです

その中心となるのは近年目覚ましい発展を遂げている脳神経科学そしてそれに伴って少しずつ明らかになってきた

「自己感覚」や「社会脳」をめぐる「意識」についての知識です人間の運動の背後にある神経作用

そしてその源である「身体化された心」までをも視野に入れた学問としての「新しい運動学」というヴィジョンを

本書は提示しています

人間の運動学

運動学

オートポイエーシス

ミラーニューロン社会脳

アフォーダンス

心の理論

行為システム

心の神経哲学

身体表象空間表象

身体所有感運動主体感

意識のハードプロブレム

解剖学

力学的メカニズム 関節運動学

運動発達学

生理学

運動学習

10Human Kinesiology Human Kinesiology11

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力学的メカニズム 関節運動学

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運動学習

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序章 「人間の運動」の誕生 ~サルからヒトへの奇跡

1人類の誕生2人間の運動の進化3 第1の運動革命~樹上生活での移動と手の使用

4 第2の運動革命~サバンナ生活による直立二足歩行と手の対立運動の発達

5手の進化6人間の営みとしての行為

第Ⅰ部 人間の身体第1章身体の解剖学1解剖学は「運動器」という概念を誕生させた2 身体は左右対称形だが「運動器」の変化によってさまざまな「姿勢」がつくられる

3骨は支持器官であり運動の可動性を決める4関節は連結器官であり運動の空間性をもたらす5靭帯は保護器官であり運動の安定性を与える6筋は実行器官であり運動の出現を可能にする7「人間機械論」の誕生

第2章身体の運動学1運動学は運動動作行為の「観察」から始まる2運動学には「キネマティクス」と「キネティクス」がある

3キネマティクスの基本4キネティクスの基本5立位における重心重心線アライメント基底面体重抗重力筋

6運動連鎖と筋収縮シークエンスを観察する7基本姿勢日常生活動作随意運動代償運動を観察する

8 19世紀の整形外科医と神経科医たちが運動学を進歩させた

第3章身体の神経学1随意運動のメカニズム2大脳皮質の機能局在3大脳皮質の運動制御機構4運動制御のための下行路5運動制御の感覚調節機構6大脳皮質の可塑性7皮質下の運動調節機構8脊髄の運動制御9発達と学習⓾社会脳としての心の器官

第4章身体の生理学1筋収縮のメカニズム2運動の感覚調節機構3運動時の内部環境を調整する呼吸循環4体力トレーニング

第Ⅱ部 運動する人間第5章肩関節の運動学1肩関節の基本事項2肩関節における運動学のポイント3肩関節の進化と機能の変遷

第6章肘関節と前腕の運動学1肘関節と前腕の基本事項

2肘関節と前腕における運動学のポイント3肘関節と前腕の進化と機能の変遷

第7章手関節の運動学1手関節の基本事項2手関節における運動学のポイント3手関節の進化と機能の変遷

第8章手指の運動学1手指の基本事項2手指における運動学のポイント3手指の進化と機能の変遷

第9章股関節の運動学1股関節の基本事項2股関節における運動学のポイント3股関節の進化と機能の変遷

第10章膝関節の運動学1膝関節の基本事項2膝関節における運動学のポイント3膝関節の進化と機能の変遷

第11章足関節と足部の運動学1足関節と足部の基本事項2足関節と足部における運動学のポイント3足関節と足部の進化と機能の変遷

第12章脊柱と頭部の運動学1脊柱の基本事項2脊柱における運動学のポイント3頭部の基本事項と運動学のポイント4脊柱と頭部の進化と機能の変遷

第Ⅲ部 動作する人間第13章発達の運動学1子どもの反射と反応2子どもの運動発達3運動発達と反射反応の関連性4手の運動発達5感覚運動統合6子どもの発達理論7自己意識の誕生

第14章姿勢と動作の運動学1姿勢2上肢の動作3寝返り動作4起き上がり動作5座位6立ち上がり動作7立位

第15章歩行の運動学1人間の歩行は巧緻運動である2歩行周期3パッセンジャーとロコモーター4関節運動と筋活動5重心移動6床反力7ロッカー機能と足圧の変化8歩行の開始停止方向転換9歩行分析⓾歩行の決定要因⓫歩行調節における3つのポイント⓬歩行調節における各関節の機能⓭歩行の障害⓮ヒトの二足移動の特徴

第Ⅳ部行為する人間第16章 行為のニューラルネット

ワーク1行為に向けられた観察者のまなざし2行為を生み出す神経システムの基礎3末梢神経系のニューラルネットワーク4中枢神経各部のニューラルネットワーク5脊髄反射のサーキット6ヒトの行為と脳機能システム

第17章行為の運動学習1運動学習が運動行動を生み出す2運動学習理論3運動学習における知覚の役割4運動学習における注意の役割5運動学習における記憶の役割6運動学習における感覚フィードバックの役割7運動学習における言語の役割8運動学習の転移と発達の最近接領域

第18章行為システム1行為はシステムによって制御されている2 ldquo認知する行為rdquoという捉え方3行為システムの階層性4上肢体幹下肢の行為システム5情報性の運動学へ

第Ⅴ部 身体化された心第19章 運動の鍵盤支配型モデル

を超えて1運動の鍵盤支配型モデルの誕生2頭のないカエル3反射から脳へ4生命の演ずる人形劇5ベルンシュタインの「運動制御理論」6アノーキンによる機能システムの概念7遠心性インパルスだけでは運動を制御することは不可能である

8 ldquo美しい音楽rdquoを奏でる「運動野のピアノ」には音符と和音がある

9人間はldquo無限の意図の自由度rdquoを奏でる

第20章空間を生きる1空間の誕生2身体表象3空間表象4身体空間5身体周辺空間6身体外空間7「私」というイメージ

第21章コミュニケーション行為1世界と対話するための行為2 ldquo指差しrdquoという行為3身振りとしての行為4道具使用という行為

第22章人間はldquo意識rdquoを動かして行為する1意識とは何だろうか2 ldquo意識の志向性rdquoとldquo志向的な関係性rdquo3意識による行為の制御4行為の発達学習回復のために5身体を生きる6身体化された心

終章ヒューマンパフォーマンス

人間の運動学ヒューマンキネシオロジー

目次

協同医書出版社 113-0033 東京都文京区本郷3-21-10Tel03-3818-2361Fax03-3818-2368 httpwwwkyodo-ishocojp

Page 3: 協同医書出版社 - 7 ýå · 2019-07-30 · z Chopart s joint £z ¤ ¢ tarsometatar sal joint¹ æµÑåï z Lisfranc s joint£z ¤ ¢ intermetatarsal joint£z ¤ ... $ 12 y

縮の場合は筋が短縮し遠心性収縮の場合は筋収縮しているにもかかわらず筋が延長される「等尺性収縮(アイソメトリックコントラクション)」では筋の張力が発生しているが関節運動は生じない上腕二頭筋の筋収縮力と抵抗とが合致しており肘関節の運動は一定の角度で保持されており動かない重い物体を支えて静止している時などに起こり筋の伸縮度は変化しない

テコの原理テコの原理には第1第2第3のテコの3種

類がある(図62)ここでは力学メカニズム日常物品の例解剖学的関節との対応に区分して説明する

[力学メカニズム]筋収縮によって関節を動かす時には「テコの原

理」が働いているテコの原理では関節を「支点=軸(axis)」筋の付着部を「力点(force)」骨への作用部位を「荷重点(load)」あるいは「作用点」と見なすそして骨の支点と力点との距離を「力の腕(arm of force)」支点と荷重点との距離を「荷重の腕(arm of load)」と見なす筋作用においてこの「力の腕」が長くなるか「荷重の

腕」が短くなることを「力学的有利性(advantage

of force)」という第1のテコは「バランスのテコ」と呼ばれる関節運動は力点と荷重点に生じる力量の比率で決まる力点と荷重点の間に支点があるが力点と荷重点は同じ方向に働く第2のテコは「力のテコ」と呼ばれる関節運動の力では有利スピードでは不利である力点と支点との間に荷重点があり力点と荷重点は反対の方向に働く第3のテコは「スピードのテコ」と呼ばれる関節運動のスピードでは有利力では不利である力点と荷重点との間に支点があるが力点と荷重点は反対の方向に働く人体の関節運動では最も多いタイプである

運動なし

運動

求心性収縮

等尺性収縮

運動

遠心性収縮

等張性収縮

図61 上腕二頭筋の等張性収縮(求心性収縮遠心性収縮)と等尺性収縮

テコの分類

第1のテコrarrバランスのテコ第2のテコrarr力のテコ第3のテコrarrスピードのテコ

荷重点力点

第1のテコ

力点荷重点第2のテコ

荷重点力点第3のテコ

図62 テコの力学メカニズム(第1第2第3のテコ)

テコの力学メカニズム

支点(A)axis力点(F)force荷重点(w)load(W=重量weight

抵抗 resistance)力の腕(arm of force)荷重の腕(arm of load)

人間の身体

20

27

28

29

30

3132

3839

40

4142

43

44

4546

4748

333435

3637

1

1 前頭骨 Frontal bone2 眉結節 Superciliary eminence3 眼骨 Orbit4 鼻骨 Nasal bone5 上顎骨 Superior maxillary (Maxilla upper jaw)6 下顎骨 Inferior maxillary (Mandible lower jaw)7 鎖骨 Clavicle8 肩峰 Acromion process of scapula9 烏口突起 Coracoid process of scapula

10 肩甲骨 Scapula11 胸骨 Sternum12 上腕骨 Humerus13 橈骨 Radius14 尺骨 Ulna15 手根骨 Carpals16 中手骨 Metacarpals17 指骨 Phalanges18 骨盤上縁 High point of pelvis19 腸骨粗面 Iliac tubercle (Wide point)

20 頭頂骨 Parietal bone21 側頭骨 Temporal bone22 頰骨 Zygomatic (Malar cheek bone)23 乳様突起 Mastoid process of temporal bone24 下顎枝 Ramus of mandible25 頸椎 Cervical vertebrae26 第 1肋骨 First rib27 第 5肋骨 Fifth rib28 胸椎 oracic (dorsal) vertebrae29 肋軟骨線 Line where rib meets cartilage30 第 10肋骨 Tenth rib31 腰椎 Lumbar vertebrae32 腸骨稜 Iliac crest33 上前腸骨棘

Anterior superior iliac spine (Front point)34 腸骨 Ilium of pelvis35 仙骨 Sacrum36 恥骨 Pubis37 大転子 Great trochanter of femur38 坐骨 Ischium39 小転子 Lesser trochanter of femur40 大腿骨 Shaft (body) of femur41 膝蓋骨 Patella42 外側上顆 Outer epicondyle of femur43 脛骨 Tibia (Shin bone)44 腓骨 Fibula45 外果

Outer (lateral) malleolus of bula (Outer ankle)46 距骨 Tarsals47 中足骨 Metatarsals48 指骨 Phalanges49 踵骨 Calcaneus (Heel bone)

234

5

6

910

12

49

13

19

18

11

87

21222324

25

14

15

16

17

26

[母指球筋](図20)母指球筋は手掌橈側に位置し短母指外転筋短母指屈筋母指対立筋の3筋から構成されるこれらの筋の主な作用は母指を対立位にすることであり筋収縮により母指を他指へと近づける作用をもつなかでも母指対立筋は対立運動に必要不可欠な母指CM関節における内旋を生じさせる筋である

[小指球筋](図21)小指球筋は手掌尺側に位置し短小指屈筋小指

外転筋小指対立筋の3筋で構成されるが短掌筋を含める場合もある筋の走行が母指球筋と似ているためその機能も類似している小指球筋に共通する機能は手の尺側を持ち上げ曲げることであるまた小指外転筋は第5指外転の作用をもちこの運動は大きな物体を把持する際に役立つ

[母指内転筋](図22)母指内転筋は母指CM関節の屈曲内転作用をもつ筋である母指内転筋は母指と示指で物をつまむ際や日常生活動作においてはハサミを使用する際に強い活動を示す

[虫様筋と骨間筋](図23)虫様筋と骨間筋はMP関節屈曲筋でありかつ

PIP関節およびDIP関節の伸筋でもある虫様筋の近位付着は深指屈筋腱遠位付着部は伸展機構の側索であり骨に付着しない特徴的な筋である虫様筋の筋腹はMP関節の掌側を通過するためMP関節に対しては屈曲作用をもち遠位付着部である伸展機構の側索の作用により間接的にPIP関節DIP関節を伸展する骨間筋の主な作用はMP関節の外転および内転

であり掌側骨間筋と背側骨間筋の2つに分類されるまた遠位付着部を虫様筋と同様に伸展機

図20 母指球筋

〈起始〉舟状骨結節大菱形骨〈停止〉母指基節骨底橈側〈支配神経〉正中神経 C8~T1〈作用〉母指 CM関節外転

短母指外転筋(M abductor pollicis brevis)

母指対立筋(M opponens pollicis)〈起始〉大菱形骨結節〈停止〉第 1中手骨橈側〈支配神経〉正中神経 C8~T1〈作用〉母指 CM関節屈曲内旋

短母指屈筋(M flexor pollicis brevis)〈起始〉大菱形骨結節小菱形骨有頭骨〈停止〉母指基節骨底〈支配神経〉浅頭正中神経 C8~T1深頭尺骨神経 C8~T1〈作用〉母指 CM関節屈曲

図19 母指と小指対立時の手内在筋の作用F短母指屈筋と短小指屈筋 O母指対立筋と小指対立筋A短母指外転筋と小指外転筋FCU尺側手根屈筋FPP深指屈筋FPL長母指屈筋(Neumann 2012)

FCUFDP

FPL

AOF F

OA

豆状骨

深指屈筋(FDP)

長母指屈筋(FPL)

人間の身体

部筋収縮のメカニズム骨格筋の収縮に至る過程は興奮収縮連関(exci-

tation-contraction coupling)と呼ばれ次の順序で起こる(図5)1)①神経筋接合部で神経終末から神経伝達物質であるアセチルコリン(ACh)が放出され筋線維(骨格筋細胞)膜の受容体に結合する

②筋線維に活動電位が発生するとその活動電位が筋線維表面全体から横行小管に広がる③三連構造において横行小管の活動電位が隣接する筋小胞体のCaイオン放出チャネルを開き筋形質にCaイオンが放出され筋形質内のCaイオン濃度が増加する

④Caイオンがトロポニンに結合することによりトロポミオシンの立体構造が変化しアクチンの活性部位が露出する⑤ATPの加水分解によってミオシンとアクチンが結合(架橋結合)ミオシン頭部の屈曲解離が繰り返し起こりその結果アクチンが引き込まれ筋線維が短縮する一方骨格筋の収縮の終了に伴い筋の弛緩いわゆる筋が元の状態に戻る過程においては次の順序で起こる①神経終末においてアセチルコリン(ACh)がアセチルコリンエステラーゼ(AChE)によって分解され活動電位の発生が止まる②筋形質内のCaイオンが筋小胞体に取り込まれ筋形質内のCaイオン濃度が減少する

③Caイオン濃度が通常の静止期の値になるとトロポミオシンの立体構造が元の状態に戻りアクチンとミオシンの結合が抑制される④架橋結合がなくなり収縮が終わる⑤筋の弾性力や拮抗筋による牽引重力などの影響を受けて筋は受動的に静止期の長さに戻る図4 神経筋接合部

神経筋接合部α運動ニューロン

筋線維

活動電位

図5 筋の収縮過程(Martiniら 2000)

5弛緩静止時の長さへの受動的回復

4収縮の終了

3活性部位の被  覆架橋の消  失

2筋小胞体に  Caイオンが流入

1AChEによって  AChが分解

収縮終了の各段階

ミオシン

アクチン

Caイオン

5収縮の開始

4活性部位の露出  と架橋結合の形  成

3筋小胞体からの  Caイオン放出

2活動電位が  横行小管に  到達

1ACh放出とレセプター  への結合

横行小管シナプス終末運動終板

収縮開始の各段階

運動学に必須の基礎知識を完全網羅解剖学生理学力学的メカニズム関節運動学 といった運動学のベースとなる知識をくまなく網羅し国 試対策にも万全な内容です

①肩甲上腕リズム「肩甲上腕リズム(scapulohumeral rhythm)」とは肩関節の運動における肩甲上腕関節と肩甲胸郭関節との連動作用のことを表し肩関節挙上運動において肩甲上腕関節と肩甲胸郭関節は21の割合で動く(図19)1314)たとえば肩関節の外転において3degごとの外転のうち2degは肩甲上腕関節残りの1degは肩甲胸郭関節で生じるこの連動作用を肩甲上腕リズムと最初に名づけ

たのはコッドマン(Codman)15)であるコッドマンは肩甲骨を固定した状態で肩関節の運動を行うと90~120degまでの運動しか生じずまた肩関

節内旋位では60degの外転しか生じないことを報告したコッドマンのこの報告は肩関節の運動時に上腕骨と肩甲骨とが協調して動く必要があることを明らかにしたインマン(Inman)16)はさらにその研究を進め

肩関節外転において最初の30degは肩甲上腕関節で生じるがそれ以降では肩甲上腕関節肩甲胸郭関節=21になると報告しているこの原則に基づくと肩関節の完全外転180degは肩甲上腕関節の120deg外転と肩甲胸郭関節の60deg上方回旋が組み合わさって生じていることになるまた肩関節屈曲の際に最初の60degの屈曲は主に肩甲上腕関節で行われそれ以降の運動では外

転時と同様に肩甲上腕関節肩甲胸郭関節=21の関係で動くことが明らかにされている14)

1944年のインマンによる報告以降も数多くの報告がなされているがその多くはインマンが最初に報告した21に近いものばかりである外転時における各関節の動きをもう

少し詳しく説明すると肩甲上腕関節は自動運動では90degまでの外転が可能であり他動的な30degの外転が加わることで120degまで動かすことができる肩甲上腕関節の外転と同時に肩甲骨は回旋を開始するがこの肩甲骨の回旋は胸鎖関節と肩鎖関節によって起こる胸鎖関節の可動域は30degであ

[2]肩関節における運動学のポイント

図19 外転運動における肩甲骨と上腕骨の動き(肩甲上腕リズム)A上肢下垂位B肩関節90deg外転位のうち60degは肩甲上腕関節30degは肩甲胸郭関節で生じるC肩関節外転180degのうち120degは肩甲上腕関節60degは肩甲胸郭関節で生じるS肩甲骨H上腕骨ac肩鎖関節(Cailliet 1966 Ebskov 1975)

S SS

S30deg

60deg

60deg

120deg180deg

90deg

S

A B C

H

ac

H

H

H

04Human Kinesiology Human Kinesiology05

各筋の解説各筋の起始停止や作用についても各部位の筋ごとに詳細に解説し学生の自主学習の際にもとても参照しやすくしています

筋骨格の解剖図解剖学に関しては筋骨格の解剖図を大きく見やすい図を豊富に用いて分かりやすくしています多くの単語に英語解剖学用語にはラテン語の表記も併記ししっかりとした基礎知識を身につけることができます

運動の力学的メカニズム運動の力学的な理解に必須の知識を豊富な図を用いて詳しく解説していますそして評価に欠かせない筋力測定や関節可動域検査を始めとする種々の運動検査法についてもくまなく紹介しています

関節運動学各関節ごとの学習の「ポイント」が整理されているので非常に分かりやすくなっています

生理学生理学の基礎知識についての記述も充実しています特に運動に欠かせない筋収縮のメカニズム感覚調節呼吸循環などの知識について詳細に解説しています

縮の場合は筋が短縮し遠心性収縮の場合は筋収縮しているにもかかわらず筋が延長される「等尺性収縮(アイソメトリックコントラクション)」では筋の張力が発生しているが関節運動は生じない上腕二頭筋の筋収縮力と抵抗とが合致しており肘関節の運動は一定の角度で保持されており動かない重い物体を支えて静止している時などに起こり筋の伸縮度は変化しない

テコの原理テコの原理には第1第2第3のテコの3種

類がある(図62)ここでは力学メカニズム日常物品の例解剖学的関節との対応に区分して説明する

[力学メカニズム]筋収縮によって関節を動かす時には「テコの原

理」が働いているテコの原理では関節を「支点=軸(axis)」筋の付着部を「力点(force)」骨への作用部位を「荷重点(load)」あるいは「作用点」と見なすそして骨の支点と力点との距離を「力の腕(arm of force)」支点と荷重点との距離を「荷重の腕(arm of load)」と見なす筋作用においてこの「力の腕」が長くなるか「荷重の

腕」が短くなることを「力学的有利性(advantage

of force)」という第1のテコは「バランスのテコ」と呼ばれる関節運動は力点と荷重点に生じる力量の比率で決まる力点と荷重点の間に支点があるが力点と荷重点は同じ方向に働く第2のテコは「力のテコ」と呼ばれる関節運動の力では有利スピードでは不利である力点と支点との間に荷重点があり力点と荷重点は反対の方向に働く第3のテコは「スピードのテコ」と呼ばれる関節運動のスピードでは有利力では不利である力点と荷重点との間に支点があるが力点と荷重点は反対の方向に働く人体の関節運動では最も多いタイプである

運動なし

運動

求心性収縮

等尺性収縮

運動

遠心性収縮

等張性収縮

図61 上腕二頭筋の等張性収縮(求心性収縮遠心性収縮)と等尺性収縮

テコの分類

第1のテコrarrバランスのテコ第2のテコrarr力のテコ第3のテコrarrスピードのテコ

荷重点力点

第1のテコ

力点荷重点第2のテコ

荷重点力点第3のテコ

図62 テコの力学メカニズム(第1第2第3のテコ)

テコの力学メカニズム

支点(A)axis力点(F)force荷重点(w)load(W=重量weight

抵抗 resistance)力の腕(arm of force)荷重の腕(arm of load)

人間の身体

20

27

28

29

30

3132

3839

40

4142

43

44

4546

4748

333435

3637

1

1 前頭骨 Frontal bone2 眉結節 Superciliary eminence3 眼骨 Orbit4 鼻骨 Nasal bone5 上顎骨 Superior maxillary (Maxilla upper jaw)6 下顎骨 Inferior maxillary (Mandible lower jaw)7 鎖骨 Clavicle8 肩峰 Acromion process of scapula9 烏口突起 Coracoid process of scapula

10 肩甲骨 Scapula11 胸骨 Sternum12 上腕骨 Humerus13 橈骨 Radius14 尺骨 Ulna15 手根骨 Carpals16 中手骨 Metacarpals17 指骨 Phalanges18 骨盤上縁 High point of pelvis19 腸骨粗面 Iliac tubercle (Wide point)

20 頭頂骨 Parietal bone21 側頭骨 Temporal bone22 頰骨 Zygomatic (Malar cheek bone)23 乳様突起 Mastoid process of temporal bone24 下顎枝 Ramus of mandible25 頸椎 Cervical vertebrae26 第 1肋骨 First rib27 第 5肋骨 Fifth rib28 胸椎 oracic (dorsal) vertebrae29 肋軟骨線 Line where rib meets cartilage30 第 10肋骨 Tenth rib31 腰椎 Lumbar vertebrae32 腸骨稜 Iliac crest33 上前腸骨棘

Anterior superior iliac spine (Front point)34 腸骨 Ilium of pelvis35 仙骨 Sacrum36 恥骨 Pubis37 大転子 Great trochanter of femur38 坐骨 Ischium39 小転子 Lesser trochanter of femur40 大腿骨 Shaft (body) of femur41 膝蓋骨 Patella42 外側上顆 Outer epicondyle of femur43 脛骨 Tibia (Shin bone)44 腓骨 Fibula45 外果

Outer (lateral) malleolus of bula (Outer ankle)46 距骨 Tarsals47 中足骨 Metatarsals48 指骨 Phalanges49 踵骨 Calcaneus (Heel bone)

234

5

6

910

12

49

13

19

18

11

87

21222324

25

14

15

16

17

26

[母指球筋](図20)母指球筋は手掌橈側に位置し短母指外転筋短母指屈筋母指対立筋の3筋から構成されるこれらの筋の主な作用は母指を対立位にすることであり筋収縮により母指を他指へと近づける作用をもつなかでも母指対立筋は対立運動に必要不可欠な母指CM関節における内旋を生じさせる筋である

[小指球筋](図21)小指球筋は手掌尺側に位置し短小指屈筋小指

外転筋小指対立筋の3筋で構成されるが短掌筋を含める場合もある筋の走行が母指球筋と似ているためその機能も類似している小指球筋に共通する機能は手の尺側を持ち上げ曲げることであるまた小指外転筋は第5指外転の作用をもちこの運動は大きな物体を把持する際に役立つ

[母指内転筋](図22)母指内転筋は母指CM関節の屈曲内転作用を

もつ筋である母指内転筋は母指と示指で物をつまむ際や日常生活動作においてはハサミを使用する際に強い活動を示す

[虫様筋と骨間筋](図23)虫様筋と骨間筋はMP関節屈曲筋でありかつ

PIP関節およびDIP関節の伸筋でもある虫様筋の近位付着は深指屈筋腱遠位付着部は伸展機構の側索であり骨に付着しない特徴的な筋である虫様筋の筋腹はMP関節の掌側を通過するためMP関節に対しては屈曲作用をもち遠位付着部である伸展機構の側索の作用により間接的にPIP関節DIP関節を伸展する骨間筋の主な作用はMP関節の外転および内転

であり掌側骨間筋と背側骨間筋の2つに分類されるまた遠位付着部を虫様筋と同様に伸展機

図20 母指球筋

〈起始〉舟状骨結節大菱形骨〈停止〉母指基節骨底橈側〈支配神経〉正中神経 C8~T1〈作用〉母指 CM関節外転

短母指外転筋(M abductor pollicis brevis)

母指対立筋(M opponens pollicis)〈起始〉大菱形骨結節〈停止〉第 1中手骨橈側〈支配神経〉正中神経 C8~T1〈作用〉母指 CM関節屈曲内旋

短母指屈筋(M flexor pollicis brevis)〈起始〉大菱形骨結節小菱形骨有頭骨〈停止〉母指基節骨底〈支配神経〉浅頭正中神経 C8~T1深頭尺骨神経 C8~T1〈作用〉母指 CM関節屈曲

図19 母指と小指対立時の手内在筋の作用F短母指屈筋と短小指屈筋 O母指対立筋と小指対立筋A短母指外転筋と小指外転筋FCU尺側手根屈筋FPP深指屈筋FPL長母指屈筋(Neumann 2012)

FCUFDP

FPL

AOF F

OA

豆状骨

深指屈筋(FDP)

長母指屈筋(FPL)

人間の身体

部筋収縮のメカニズム骨格筋の収縮に至る過程は興奮収縮連関(exci-

tation-contraction coupling)と呼ばれ次の順序で起こる(図5)1)①神経筋接合部で神経終末から神経伝達物質であるアセチルコリン(ACh)が放出され筋線維(骨格筋細胞)膜の受容体に結合する

②筋線維に活動電位が発生するとその活動電位が筋線維表面全体から横行小管に広がる③三連構造において横行小管の活動電位が隣接する筋小胞体のCaイオン放出チャネルを開き筋形質にCaイオンが放出され筋形質内のCaイオン濃度が増加する

④Caイオンがトロポニンに結合することによりトロポミオシンの立体構造が変化しアクチンの活性部位が露出する⑤ATPの加水分解によってミオシンとアクチンが結合(架橋結合)ミオシン頭部の屈曲解離が繰り返し起こりその結果アクチンが引き込まれ筋線維が短縮する一方骨格筋の収縮の終了に伴い筋の弛緩いわゆる筋が元の状態に戻る過程においては次の順序で起こる①神経終末においてアセチルコリン(ACh)がアセチルコリンエステラーゼ(AChE)によって分解され活動電位の発生が止まる②筋形質内のCaイオンが筋小胞体に取り込まれ筋形質内のCaイオン濃度が減少する

③Caイオン濃度が通常の静止期の値になるとトロポミオシンの立体構造が元の状態に戻りアクチンとミオシンの結合が抑制される④架橋結合がなくなり収縮が終わる⑤筋の弾性力や拮抗筋による牽引重力などの影響を受けて筋は受動的に静止期の長さに戻る図4 神経筋接合部

神経筋接合部α運動ニューロン

筋線維

活動電位

図5 筋の収縮過程(Martiniら 2000)

5弛緩静止時の長さへの受動的回復

4収縮の終了

3活性部位の被  覆架橋の消  失

2筋小胞体に  Caイオンが流入

1AChEによって  AChが分解

収縮終了の各段階

ミオシン

アクチン

Caイオン

5収縮の開始

4活性部位の露出  と架橋結合の形  成

3筋小胞体からの  Caイオン放出

2活動電位が  横行小管に  到達

1ACh放出とレセプター  への結合

横行小管シナプス終末運動終板

収縮開始の各段階

運動学に必須の基礎知識を完全網羅解剖学生理学力学的メカニズム関節運動学 といった運動学のベースとなる知識をくまなく網羅し国 試対策にも万全な内容です

①肩甲上腕リズム「肩甲上腕リズム(scapulohumeral rhythm)」とは肩関節の運動における肩甲上腕関節と肩甲胸郭関節との連動作用のことを表し肩関節挙上運動において肩甲上腕関節と肩甲胸郭関節は21の割合で動く(図19)1314)たとえば肩関節の外転において3degごとの外転のうち2degは肩甲上腕関節残りの1degは肩甲胸郭関節で生じるこの連動作用を肩甲上腕リズムと最初に名づけ

たのはコッドマン(Codman)15)であるコッドマンは肩甲骨を固定した状態で肩関節の運動を行うと90~120degまでの運動しか生じずまた肩関

節内旋位では60degの外転しか生じないことを報告したコッドマンのこの報告は肩関節の運動時に上腕骨と肩甲骨とが協調して動く必要があることを明らかにしたインマン(Inman)16)はさらにその研究を進め

肩関節外転において最初の30degは肩甲上腕関節で生じるがそれ以降では肩甲上腕関節肩甲胸郭関節=21になると報告しているこの原則に基づくと肩関節の完全外転180degは肩甲上腕関節の120deg外転と肩甲胸郭関節の60deg上方回旋が組み合わさって生じていることになるまた肩関節屈曲の際に最初の60degの屈曲は主に肩甲上腕関節で行われそれ以降の運動では外

転時と同様に肩甲上腕関節肩甲胸郭関節=21の関係で動くことが明らかにされている14)

1944年のインマンによる報告以降も数多くの報告がなされているがその多くはインマンが最初に報告した21に近いものばかりである外転時における各関節の動きをもう

少し詳しく説明すると肩甲上腕関節は自動運動では90degまでの外転が可能であり他動的な30degの外転が加わることで120degまで動かすことができる肩甲上腕関節の外転と同時に肩甲骨は回旋を開始するがこの肩甲骨の回旋は胸鎖関節と肩鎖関節によって起こる胸鎖関節の可動域は30degであ

[2]肩関節における運動学のポイント

図19 外転運動における肩甲骨と上腕骨の動き(肩甲上腕リズム)A上肢下垂位B肩関節90deg外転位のうち60degは肩甲上腕関節30degは肩甲胸郭関節で生じるC肩関節外転180degのうち120degは肩甲上腕関節60degは肩甲胸郭関節で生じるS肩甲骨H上腕骨ac肩鎖関節(Cailliet 1966 Ebskov 1975)

S SS

S30deg

60deg

60deg

120deg180deg

90deg

S

A B C

H

ac

H

H

H

04Human Kinesiology Human Kinesiology05

各筋の解説各筋の起始停止や作用についても各部位の筋ごとに詳細に解説し学生の自主学習の際にもとても参照しやすくしています

筋骨格の解剖図解剖学に関しては筋骨格の解剖図を大きく見やすい図を豊富に用いて分かりやすくしています多くの単語に英語解剖学用語にはラテン語の表記も併記ししっかりとした基礎知識を身につけることができます

運動の力学的メカニズム運動の力学的な理解に必須の知識を豊富な図を用いて詳しく解説していますそして評価に欠かせない筋力測定や関節可動域検査を始めとする種々の運動検査法についてもくまなく紹介しています

関節運動学各関節ごとの学習の「ポイント」が整理されているので非常に分かりやすくなっています

生理学生理学の基礎知識についての記述も充実しています特に運動に欠かせない筋収縮のメカニズム感覚調節呼吸循環などの知識について詳細に解説しています

学習する人間

①初期接地(initial contactIC)(図21)

歩行周期の0~2の時期であり地面への最初の接地を行う相である反対側は前遊脚期の始まりである従来は踵接地(heel contact)とされていたが踵以外で接地する場合に説明できないため現在では初期接地(initial contact)が用いられることが多い接地の際には直前の約1cmの高さからの自由落下により短時間に激しい床反力が生じその強度は体重の50~125に及ぶとされるそのためこの相では衝撃の吸収を行う必要があり遊脚相から続く筋の収縮とヒールロッカー機能を達成するために踵の位置を決定する下肢の位置関係が重要であるまた前方への運動量の生成という機能も要求される衝撃の吸収は主に遠心性収縮で行われ

るがそれでは身体にブレーキがかかることになるため前進への運動量が低下してしまうそこで踵の形状を利用したヒールロッカーによって前方への回転運動に変換される

[機能]この相の機能は以下の2つである

[各関節の詳細]筋活動の詳細は表2に示す中足指節間(MP)関節関節角度伸展0~25deg床 反 力

筋 活 動長指伸筋長母指伸筋知 覚足尖と地面との距離距骨下関節関節角度0degもしくは軽度内反床 反 力外反方向筋 活 動 前脛骨筋長母指伸筋後脛骨

筋長指伸筋知 覚足底の方向足関節関節角度0degもしくは背屈3~5deg床 反 力底屈方向

初期接地の機能

❶地面への接地(接床)と衝撃の吸収❷ヒールロッカーによるエネルギー変換

[9]歩行分析

図21 初期接地(initial contact)

学習する人間

る神経と筋肉の関係がある程度明確であるため代償動作として典型的な歩容として観察されることが多い

鶏歩(steppage gait)腓骨神経麻痺などによる足関節背屈筋の機能不

全が生じると下垂足(drop foot)を呈し遊脚期に地面とのクリアランスを確保するため下肢を高く挙上しつま先から投げ出すように歩行を行う完全な麻痺ではなく筋が弱化している場合は初期接地期に急激な足関節底屈が生じるスタンプ歩行(stamp gait)がみられる

踵歩行(calcaneal gait)脛骨神経麻痺などによる足関節底屈筋の機能不

全が生じると常に足関節背屈位での歩行となる

大殿筋歩行(gluteus maximus gait)大殿筋は股関節伸筋でありこの筋が機能不全

を起こすと初期接地直後に体幹を伸展骨盤を前方偏位させ股関節に伸展の外部モーメントを発生させながら歩行する

大腿四頭筋歩行(quadriceps femoris gait)大腿四頭筋は膝関節伸筋でありこの筋が機能

不全を起こすと反張膝や膝折れを呈する初期接地直後に膝の不安定性を呈するものは自身の手で大腿を押して膝関節伸展させることがある立ち上がり時にみられる一度体幹を前傾させ上肢で大腿を押し込んで起立するものは登攀(とはん)性起立(Gowers徴候)と呼ばれる

トレンデレンブルグ歩行(Trendelenburg gait)立脚側の中殿筋の機能不全や股関節内転筋の機

能不全脚長差が3cm以上の場合に立脚中期に遊脚側骨盤が過度に下制した歩容となる中殿筋歩行(gluteus medius gait)とも呼ばれる両側で

図66 失調症患者にみられる歩行

小脳性歩行 酩酊歩行

脊髄癆性歩行

図67 末梢神経疾患患者でみられる歩行大殿筋歩行鶏歩 踵歩行 大腿四頭筋歩行 トレンデレンブルグ歩行 デュシェンヌ歩行

患側

動作する人間

交叉性伸展反射( )出現時期 ~ か月背臥位で一側下肢を屈曲一側下肢を伸展させた状態で伸展した下肢を屈曲すると反対側下肢の伸展パターンが出現するまた背臥位で一側の下肢を伸展した状態で足底を刺激すると反対側下肢の伸展パターンが出現するさらに一側下肢の大腿部の内側を検者が軽叩すると反対側下肢の股関節が内転内旋膝関節が伸展足関節が底屈し鋏状肢位(scissors position=下肢の伸展パターン)となる

新生児期と乳児期の反射

バブキン反射( )出現時期 ~ か月背臥位で乳児の両手掌を検者が母指で強く圧迫して刺激すると開口する手掌口反射(hand-mouth

reflex)とも呼ばれる

口角反射( )出現時期 ~ か月口唇の周囲に乳首や指が触れると口や頭部を刺激した方向に動かして乳首や指を探索する探索反射口唇反射十字反射とも呼ばれる

吸啜反射( )出現時期 ~ か月口唇に乳首や指が触れると乳首や指を吸い込む吸啜(きゅうてつ)運動が出現する吸引反射とも呼ばれる

伸筋突張反射( )出現時期 ~ か月背臥位で下肢を屈曲させた状態で足底を刺激すると下肢の伸展パターン(伸展内転内旋)が出現する

屈筋収引反射( )出現時期 ~ か月背臥位で下肢を伸展させた状態で足底を刺激すると下肢を引っ込めるような屈曲パターン(屈曲外転外旋)が出現する逃避反射とも呼ばれる

脊髄レベルの原始反射

運動学習とは 知覚運動の 協応過程である運動学習(motor learning)とは「練習

や経験に関係した一連のプロセスであり結果として熟練した運動を遂行するための能力に比較的永続的な変化をもたらすもの」と定義されている2)運動行動における運動能力は運動体力と運動技能に分けられておりこの定義の中で示されている「熟練した運動を遂行するための能力」とは運動技能のことを表す運動技能は身体内外から発する感覚を手がかりに中枢神経系を通して運動行動をコントロールする能力であることから運動学習において知覚系と運動系の協応関係を構築していくことが重要となる

運動学習の理論アダムズの閉回路理論(closed loop theory)アダムズ(Adams)8)は従来の学習理論である

連合説(ある特定の刺激に対して特定の反応が生じるといった理論)に対する批判のうえに立ちサイバネティクス(cybernetics)における閉回路の考え方を学習の理論へ発展させたサイバネティクスにおける閉回路の考え方は以下のようなものである(図4)ヒトは環境から情報を取り入れその情報を手がかりに目標とする正しい運動行動を引き起こすであろう運動プログ

ラムを生成して運動行動を開始するそしてその運動行動の経過や結果を再び情報として取り入れ(フィードバック)意図している運動行動すなわち目標と比較して差異を調べる(誤差検出error detection)そして誤差が発見されたなら現在行っている運動行動もしくは次の運動行動を修正するよう試みる(誤差修正error correc-tion)これを繰り返すことで正しい運動行動が学習されるという考えである9)アダムズはフィードバックが生起する以前の運動行動の選択を開始するように働く限定的な運動プログラムのことを記憶痕跡(memory trace)と呼びフィードバック情報と比較して誤差を検出するための内的基準のことを知覚痕跡(percep-tual trace)と呼んだ知覚痕跡は過去の運動行動の経験によって形成されこの運動行動を実行すればこのような感じがするといった予期や期待のことを表す運動行動遂行中知覚痕跡は実際の運動行動によって生起されるフィードバック情

[2]運動学習理論

図4 運動学習と誤差検出誤差修正メカニズムのモデル(Keel amp Summers 1976)

基準or

比較センター

その他のフィードバック視覚的聴覚的など

筋肉

修正

運動指令のコピー

筋運動感覚的

フィードバック

筋への

運動指令

運動発生器or

運動プログラムシステム

基礎と臨床をつなぐ運動発達学姿勢動作歩行運動学習運動心理学など臨床で必須となる知識も詳細に解説し卒前教育から臨床現場まで長く活用できます

学習する人間

この合成されたベクトルのことを床反力ベクトルといい鉛直上方前後左右方向の3つの方向の成分に分解して考えることができ前後成分をFx左右成分をFy鉛直上方成分をFzの記号で表す(図8)また床反力ベクトルが作用する点は床反力作用点または足圧中心(COPcenter of pressure)と呼ばれるこの床反力作用点は床反力の平均位置であり身体を支持する力の中心であるそし

て身体が静止する時は重心に作用する重力と床反力ベクトルが同じ大きさかつ互いに逆向きに一直線上に作用している状態であるまた床

図4 身体の重心線

外果の約2~6cm前方

膝関節前部(膝蓋骨後面)

大転子

肩峰

耳垂のやや後方

両内果間の中心

両膝関節内側間の中心

殿裂

椎骨棘突起

後頭隆起

図5  主要なランドマークと重心線との位置関係 (Steen 2010)

前後(矢状面)の偏位(+前 -後)

耳介

T1

T4

T9

L3

股関節中心

-150 -100 -50 0重心線

ステファン2010ラファージュ2008

ガングネット2003シュワブ2006

50 100

図6 支持基底面の変化

椅子座位

両松葉杖の使用

開脚立位閉脚立位

図7 床反力ベクトル

床反力ベクトル

無数の床反力

図8 力の分解

z

Fz

0

Fy

y

x

Fx

06Human Kinesiology Human Kinesiology07

発達反射随意運動の仕組みとその発達のプロセスを詳細に説明しています

臨床的な知見様々な病態やその障害について説明し基礎を臨床へとつなげていくための知識を数多く紹介しています

運動学習近年新しく分かってきた知見も含めて運動学習について詳細に解説し治療を考える際に欠かすことのできない知識を身につけることができます

姿勢動作臨床現場で欠かすことのできない姿勢動作の分析力を支える知識を詳しく解説しています

歩行歩行のメカニズムおよび歩行分析について最新の知見も含めて詳細に解説し臨床現場で歩行を観察する能力を身につけることができます

学習する人間

①初期接地(initial contactIC)(図21)

歩行周期の0~2の時期であり地面への最初の接地を行う相である反対側は前遊脚期の始まりである従来は踵接地(heel contact)とされていたが踵以外で接地する場合に説明できないため現在では初期接地(initial contact)が用いられることが多い接地の際には直前の約1cmの高さからの自由落下により短時間に激しい床反力が生じその強度は体重の50~125に及ぶとされるそのためこの相では衝撃の吸収を行う必要があり遊脚相から続く筋の収縮とヒールロッカー機能を達成するために踵の位置を決定する下肢の位置関係が重要であるまた前方への運動量の生成という機能も要求される衝撃の吸収は主に遠心性収縮で行われ

るがそれでは身体にブレーキがかかることになるため前進への運動量が低下してしまうそこで踵の形状を利用したヒールロッカーによって前方への回転運動に変換される

[機能]この相の機能は以下の2つである

[各関節の詳細]筋活動の詳細は表2に示す中足指節間(MP)関節関節角度伸展0~25deg床 反 力

筋 活 動長指伸筋長母指伸筋知 覚足尖と地面との距離距骨下関節関節角度0degもしくは軽度内反床 反 力外反方向筋 活 動 前脛骨筋長母指伸筋後脛骨

筋長指伸筋知 覚足底の方向足関節関節角度0degもしくは背屈3~5deg床 反 力底屈方向

初期接地の機能

❶地面への接地(接床)と衝撃の吸収❷ヒールロッカーによるエネルギー変換

[9]歩行分析

図21 初期接地(initial contact)

学習する人間

る神経と筋肉の関係がある程度明確であるため代償動作として典型的な歩容として観察されることが多い

鶏歩(steppage gait)腓骨神経麻痺などによる足関節背屈筋の機能不

全が生じると下垂足(drop foot)を呈し遊脚期に地面とのクリアランスを確保するため下肢を高く挙上しつま先から投げ出すように歩行を行う完全な麻痺ではなく筋が弱化している場合は初期接地期に急激な足関節底屈が生じるスタンプ歩行(stamp gait)がみられる

踵歩行(calcaneal gait)脛骨神経麻痺などによる足関節底屈筋の機能不

全が生じると常に足関節背屈位での歩行となる

大殿筋歩行(gluteus maximus gait)大殿筋は股関節伸筋でありこの筋が機能不全

を起こすと初期接地直後に体幹を伸展骨盤を前方偏位させ股関節に伸展の外部モーメントを発生させながら歩行する

大腿四頭筋歩行(quadriceps femoris gait)大腿四頭筋は膝関節伸筋でありこの筋が機能

不全を起こすと反張膝や膝折れを呈する初期接地直後に膝の不安定性を呈するものは自身の手で大腿を押して膝関節伸展させることがある立ち上がり時にみられる一度体幹を前傾させ上肢で大腿を押し込んで起立するものは登攀(とはん)性起立(Gowers徴候)と呼ばれる

トレンデレンブルグ歩行(Trendelenburg gait)立脚側の中殿筋の機能不全や股関節内転筋の機

能不全脚長差が3cm以上の場合に立脚中期に遊脚側骨盤が過度に下制した歩容となる中殿筋歩行(gluteus medius gait)とも呼ばれる両側で

図66 失調症患者にみられる歩行

小脳性歩行 酩酊歩行

脊髄癆性歩行

図67 末梢神経疾患患者でみられる歩行大殿筋歩行鶏歩 踵歩行 大腿四頭筋歩行 トレンデレンブルグ歩行 デュシェンヌ歩行

患側

動作する人間

交叉性伸展反射( )出現時期 ~ か月背臥位で一側下肢を屈曲一側下肢を伸展させた状態で伸展した下肢を屈曲すると反対側下肢の伸展パターンが出現するまた背臥位で一側の下肢を伸展した状態で足底を刺激すると反対側下肢の伸展パターンが出現するさらに一側下肢の大腿部の内側を検者が軽叩すると反対側下肢の股関節が内転内旋膝関節が伸展足関節が底屈し鋏状肢位(scissors position=下肢の伸展パターン)となる

新生児期と乳児期の反射

バブキン反射( )出現時期 ~ か月背臥位で乳児の両手掌を検者が母指で強く圧迫して刺激すると開口する手掌口反射(hand-mouth

reflex)とも呼ばれる

口角反射( )出現時期 ~ か月口唇の周囲に乳首や指が触れると口や頭部を刺激した方向に動かして乳首や指を探索する探索反射口唇反射十字反射とも呼ばれる

吸啜反射( )出現時期 ~ か月口唇に乳首や指が触れると乳首や指を吸い込む吸啜(きゅうてつ)運動が出現する吸引反射とも呼ばれる

伸筋突張反射( )出現時期 ~ か月背臥位で下肢を屈曲させた状態で足底を刺激すると下肢の伸展パターン(伸展内転内旋)が出現する

屈筋収引反射( )出現時期 ~ か月背臥位で下肢を伸展させた状態で足底を刺激すると下肢を引っ込めるような屈曲パターン(屈曲外転外旋)が出現する逃避反射とも呼ばれる

脊髄レベルの原始反射

運動学習とは 知覚運動の 協応過程である運動学習(motor learning)とは「練習

や経験に関係した一連のプロセスであり結果として熟練した運動を遂行するための能力に比較的永続的な変化をもたらすもの」と定義されている2)運動行動における運動能力は運動体力と運動技能に分けられておりこの定義の中で示されている「熟練した運動を遂行するための能力」とは運動技能のことを表す運動技能は身体内外から発する感覚を手がかりに中枢神経系を通して運動行動をコントロールする能力であることから運動学習において知覚系と運動系の協応関係を構築していくことが重要となる

運動学習の理論アダムズの閉回路理論(closed loop theory)アダムズ(Adams)8)は従来の学習理論である

連合説(ある特定の刺激に対して特定の反応が生じるといった理論)に対する批判のうえに立ちサイバネティクス(cybernetics)における閉回路の考え方を学習の理論へ発展させたサイバネティクスにおける閉回路の考え方は以下のようなものである(図4)ヒトは環境から情報を取り入れその情報を手がかりに目標とする正しい運動行動を引き起こすであろう運動プログ

ラムを生成して運動行動を開始するそしてその運動行動の経過や結果を再び情報として取り入れ(フィードバック)意図している運動行動すなわち目標と比較して差異を調べる(誤差検出error detection)そして誤差が発見されたなら現在行っている運動行動もしくは次の運動行動を修正するよう試みる(誤差修正error correc-tion)これを繰り返すことで正しい運動行動が学習されるという考えである9)アダムズはフィードバックが生起する以前の運動行動の選択を開始するように働く限定的な運動プログラムのことを記憶痕跡(memory trace)と呼びフィードバック情報と比較して誤差を検出するための内的基準のことを知覚痕跡(percep-tual trace)と呼んだ知覚痕跡は過去の運動行動の経験によって形成されこの運動行動を実行すればこのような感じがするといった予期や期待のことを表す運動行動遂行中知覚痕跡は実際の運動行動によって生起されるフィードバック情

[2]運動学習理論

図4 運動学習と誤差検出誤差修正メカニズムのモデル(Keel amp Summers 1976)

基準or

比較センター

その他のフィードバック視覚的聴覚的など

筋肉

修正

運動指令のコピー

筋運動感覚的

フィードバック

筋への

運動指令

運動発生器or

運動プログラムシステム

基礎と臨床をつなぐ運動発達学姿勢動作歩行運動学習運動心理学など臨床で必須となる知識も詳細に解説し卒前教育から臨床現場まで長く活用できます

学習する人間

この合成されたベクトルのことを床反力ベクトルといい鉛直上方前後左右方向の3つの方向の成分に分解して考えることができ前後成分をFx左右成分をFy鉛直上方成分をFzの記号で表す(図8)また床反力ベクトルが作用する点は床反力作用点または足圧中心(COPcenter of pressure)と呼ばれるこの床反力作用点は床反力の平均位置であり身体を支持する力の中心であるそし

て身体が静止する時は重心に作用する重力と床反力ベクトルが同じ大きさかつ互いに逆向きに一直線上に作用している状態であるまた床

図4 身体の重心線

外果の約2~6cm前方

膝関節前部(膝蓋骨後面)

大転子

肩峰

耳垂のやや後方

両内果間の中心

両膝関節内側間の中心

殿裂

椎骨棘突起

後頭隆起

図5  主要なランドマークと重心線との位置関係 (Steen 2010)

前後(矢状面)の偏位(+前 -後)

耳介

T1

T4

T9

L3

股関節中心

-150 -100 -50 0重心線

ステファン2010ラファージュ2008

ガングネット2003シュワブ2006

50 100

図6 支持基底面の変化

椅子座位

両松葉杖の使用

開脚立位閉脚立位

図7 床反力ベクトル

床反力ベクトル

無数の床反力

図8 力の分解

z

Fz

0

Fy

y

x

Fx

06Human Kinesiology Human Kinesiology07

発達反射随意運動の仕組みとその発達のプロセスを詳細に説明しています

臨床的な知見様々な病態やその障害について説明し基礎を臨床へとつなげていくための知識を数多く紹介しています

運動学習近年新しく分かってきた知見も含めて運動学習について詳細に解説し治療を考える際に欠かすことのできない知識を身につけることができます

姿勢動作臨床現場で欠かすことのできない姿勢動作の分析力を支える知識を詳しく解説しています

歩行歩行のメカニズムおよび歩行分析について最新の知見も含めて詳細に解説し臨床現場で歩行を観察する能力を身につけることができます

人間の「錐体路」錐体路(pyramidal tract)あるいは皮質脊

髄路(corticospinal tract)は系統発生的に新しく哺乳類で初めて見られるようになりヒトで最もよく発達した脳内最大の下行性線維束である多くの異なる皮質領域に起始をもち前頭葉では一次運動野運動前野補足運動野帯状皮質運動野から頭頂葉では一次感覚野とさらに高次な57野に由来するまた錐体路の起始細胞は形状の特徴から錐体細胞(pyramidal

cell)といい特に一次運動野の巨大錐体細胞はBetz細胞と呼ばれすべて大脳皮質の第Ⅴ層に位置するこれら錐体路をなす軸索の起始細胞を錐体路ニューロン(PTNspyramidal tract neurons)という「錐体路」の名称は下行する際に延髄の錐体を通ることに由来しておりこれら起始細胞の名称に由来しているのではない大脳皮質の第Ⅴ層に起始した軸索は放線冠を形成し内包の前脚と後脚を通るが一次運動野からの線維はほとんど後脚を通って中脳に至る中脳では大脳脚を通り橋では橋核の間をいくつかの束に分かれて通過し延髄で再びまとまった束となる延髄下部ではおよそ90が対側へ交叉しておりこれを錐体交叉(pyramidal decussation)という交叉した線維は外側皮質脊髄路となって対

側の脊髄側索を下行し脊髄前角の主に四肢遠位の制御に関わる外側領域の運動ニューロンと中間層の介在ニューロンに終止する非交叉線維は前

[6]ヒトの行為と脳機能システム

図53 錐体路の走行(Baumlhrら2010)

C1ⅪⅫⅩⅨ

ⅦⅥⅤ

ⅣⅢ

運動終板

外側皮質脊髄路(交叉)

延髄

大脳脚皮質橋路

中脳

前皮質脊髄路(非交叉)錐体交叉

錐体

皮質脊髄路(錐体路)皮質核路

皮質中脳路尾状核(頭部)内包

レンズ核

視床尾状核(尾部)

第8野から

中心前回

[4] 運動制御のための下行路

人間の身体

[4] 運動制御のための下行路

には1m以上の長さに及ぶものもある特に運動野のベッツ巨大細胞からの軸索は大きく伝導速度が速いしかしながらその大きな軸索の錐体路に占める割合は3程度とわずかであり錐体路のほとんどは運動野の第5層にある錐体路細胞に起始している錐体路の大多数は延髄で錐体交叉し反対側の脊髄側索を下行する外側皮質脊髄路と交叉せずに脊髄前索を下行する前皮質脊髄路とに区分されている錐体交叉率は90以上であり特に手指の筋を支配する錐体路の交叉率は100近いとされている錐体路は個々の運動の個別性分別性分離性といった機能との関係がきわめて深く手指の巧緻動作や道具使用の特殊性の視点から「最も人間的なものである(Pyramidal tract is such a human

feature)」といわれているしかしながら運動野に起始する錐体路(皮質

脊髄路)は筋収縮を引き起こす脊髄前角の運動細胞にすべて直接投射しているわけではない運動野からの下行性の神経線維は脊髄後索の「介在ニューロン(spinal interneuron)」にも接続して「予測的に末梢からの感覚入力を調節する機能」を有していると主張する研究者もいるしたがって運動野は脊髄後索の介在ニューロンを介して体性感覚入力によって引き起こされる反射を制御していると考えられる(図25)50)

人間の巧緻的な運動はこれらの脊髄介在ニューロンを含んだ神経回路のネットワークによって達成されているその意味で錐体路は行為を予測的に制御する機能を有していると考えるべきであろう

[錐体路障害]錐体路障害では痙縮(spasticity)をきたす臨床上錐体路障害が顕著に出現するのは脳性麻痺の両麻痺(diplegia)脳卒中片麻痺(hemi-plegia)脊髄損傷による対麻痺(paraplegia)などであり痙性麻痺深部反射(腱反射)亢進バビンスキー反射陽性が錐体路徴候とされている特徴的な異常姿勢としては片麻痺におけるウェルニッケマン(Wernicke-Mann)肢位(図26)や脳性麻痺の鋏(ハサミ)状肢位(scissors posi-tion)が有名である(上肢屈筋下肢伸筋優位)51)また痙性麻痺に認められる筋緊張の亢進

(hypertone)折りたたみナイフ現象(clasp-knife

phenomenon)クローヌス(clonus)腱反射の亢進(hypertendon refl ex)などは錐体路損傷によって大脳皮質からの脊髄運動ニューロンへの抑制が弱まることで出現する解放現象と考えられているバビンスキー(Babinski)反射は正常な新生児で

も出現するが錐体路損傷の指標として信頼できるものである足底を刺激すると母指が背屈し他の指が扇状に広がる現象であるなおサルで錐体路を実験的に切断すると個々の手指の巧緻運動ができなくなるが筋緊張の亢進や腱反射の亢進はほとんど認められないという

図26 片麻痺におけるウェルニッケマン肢位

図25 錐体路による反射の制御錐体路は前角の運動ニューロンだけでなく同時に脊髄介在ニューロンを支配して感覚ニューロンを予測的に制御する(Perfetti 1987)

具体的には予測的な運動プランと運動結果との因果関係である「再生スキーマ」と実際の運動と感覚フィードバックとの因果関係である「再認スキーマ」が想定されており運動学習は運動課題の多様な経験に対するスキーマ(運動プログラム)の再組織化や改変によって達成されるシュミットはなぜ練習していない左手やペンを口にくわえても文字が書けるのかという謎に対してスキーマ理論を導入することで運動の長期記憶の理論化に一定の成功を収めた

脳の運動制御モデル20世紀後半の脳科学の進歩を集積してつくら

れたアレン(Allen)と塚原20)による「脳の運動制御モデル」によれば随意運動を発現するための頭頂葉の感覚情報が前頭葉の補足運動野や運動前

野に入力されそこで運動のプランとプログラムが大脳基底核と小脳の調節を経て形成され運動野に伝達された後運動野が脊髄の前角細胞に運動指令(motor command)を出して筋収縮が発現するとされている(図6)つまりある目的を達成する随意運動の脳内の神経情報(neural information)流れには運動のプランやプログラムを構築する「認知過程」と実際に運動を実行する「行為過程」が存在しているこの観点に立てば随意運動の最高中枢とされてきた運動野は単に運動を遂行する出口にすぎない随意運動の最高中枢は補足運動野と運動前野でありそこでは具体的な運動のプログラムが決定されている脳の運動制御モデルは随意運動のメカニズムを理解するうえできわめて重要である

図6 随意運動における神経情報の流れ(Allenと塚原1974)

感覚連合野(頭頂葉他)

意 志

体性感覚

大脳基底核

運動前野脊 髄 筋

補足運動野

小 脳

運動遂行運動プログラム

運動野

再生スキーマ(演繹的)

運動プラン

運動結果

再認スキーマ(帰納的)

運動結果

感覚フィードバック

図5 スキーマ理論(Schmidt 1975)

図16 筋皮神経(C5 6)および腋窩神経(C5 6)(Joseph 1982)

筋皮神経

腋窩神経

後枝

前枝

外側前腕皮神経

長頭

短頭上腕二頭筋

烏口腕筋

外側上腕皮神経

三角筋(上枝より)

上腕筋

筋皮神経小円筋後枝腋窩神経

橈骨神経尺骨神経

内側神経束後神経束外側神経束腕神経叢

図18 正中神経(C6~8 T1)(Joseph 1982)

第1および第2虫様筋

尺骨神経との吻合

方形回内筋

深指屈筋(橈側部)関節枝(2)

短母指屈筋(浅頭)

母指対立筋短母指外転筋母指球筋

長母指屈筋

浅指屈筋

橈側手根屈筋長掌筋円回内筋

屈-回内筋群

内側神経束外側神経束

単独支配域

知覚神経分布

図19 尺骨神経(C8 T1)(Joseph 1982)

正中神経参照

短母指屈筋(内側頭)

母指内転筋

正中神経参照

正中神経

尺側虫様筋掌側骨間筋背側骨間筋

23

4小指屈筋小指対立筋小指外転筋短掌筋

皮枝

尺骨神経

深指屈筋(内側12)

尺側手骨屈筋

内側上顆

上腕骨部(分枝なし)

内側神経束外側神経束 単独支配域

知覚神経分布

図17 橈骨神経(C6~8 T1)(Joseph 1982)

単独支配域

知覚神経分布

示指伸筋

短母指伸筋長母指伸筋

長母指外転筋回外筋

尺側手根伸筋小指伸筋総指伸筋

短橈側手根伸筋

深枝肘筋

長橈側手根伸筋腕橈骨筋

伸-回外筋群上腕筋長頭

外側頭上腕三頭筋

橈骨神経浅枝

後前腕皮皮神経

後上腕神経知覚枝上腕三頭筋の内側頭腋窩神経

内側神経束後神経束外側神経束

行為する人間

このような身体意識の成立の背景には前頭頭頂の神経ネットワークが特に重要な役割を担っているがこれは基本的に視覚や触覚といった外受容感覚のネットワークであり人間の自己感の形成にはさらに島皮質の特に右半球前部を中心とした内受容感覚のネットワークが重要である内受容感覚は皮膚や筋などから上行する体性神経信号と血行リンパ行性に上行する体液性の化学信号内臓感覚の自律神経信号によって構成されこれらの身体情報は体性感覚野島帯状皮質に到達したのちヒトで特に発達している前部島(anterior insula cortex)に統合される(図62)32)つまり自己感は視覚や触覚などの外受容感覚と内臓や血中の情報などの内受容感覚の両方のボトムアップ情報が統合されることが基盤となっているがこれらは理想的な状態を仮説的予測的に生成されるトップダウンモデルの随伴発射あるいは遠心性コピーと身体を介したオンラインのボトムアップ情報とが比較照合されなければならないそこで生じた予測誤差(prediction error)を最小化するべくまたモデルをアップデートするという循環によって統一的で整合性のある自己が維持される人間の運動制御と運動学習には身体と外部環境との相互関係を表象する内部モデルが必要とされておりそれには「順モデル(forward model)」と「逆モデル(inverse model)」があるたとえば視覚的に捉えた物体を目標とする時目標から逆算してそれを手にするのに必要な関節や筋の動きを推定するこれが逆モデルである一方実際にそれを行うと手がどのように動くかの予測が成立するこれが順モデルであるすなわち行為を行う際の目的目標に対しては逆モデルを用いて運動プログラムを立て必要な運動指令を生み出すそれをもとに実際に運動を行うがそれと同時にこの運動指令の遠心性コピー情報が身体運動の予測として順モデルを成立させる実際に運動を行うと同時にこの推定された逆モデルと予測される順モデルとが比較照合されることで

不一致があればその段階での修正が可能となるため外部環境や状況に応じた円滑で調節された運動の実行が可能となるまた順モデルで成立させた予測には運動の予測とともに「こういう運動を行えばこんな感じが生じるはずだ」という感覚の予測が含まれているため実際に生じた感覚の求心情報と一致することにより「これを行っているのは私である」という運動の主体感が生じるといえるまたこのような予測と実際の求心情報の不一致あるいは異なる求心情報間の不一致が生じた場合自分の身体自分の運動といった主体感が成立せず適切な運動プログラムの生成に影響を及ぼすことになる

ミラーニューロンシステム高次運動野である腹側運動前野にはつまむ握る引っかくといった特定の行為をコードしているニューロンがあるこれらは行為ごとに選択的な応答を示しまた対象の視覚提示だけでも活動するこれらのニューロンは感覚情報から運動

図62 外受容感覚と内受容感覚の内的モデル(Seth 2013)

望ましい推測された状態

覚醒ネットワーク

生成モデル

生成モデル 運動コントロール

外界

身体

外受容感覚予測誤差

内受容感覚予測誤差

自律神経系コントロール

随伴反射

図61 運動主体感の生成モデル予測である遠心性コピー情報と実際の感覚フィードバック情報が一致することによって運動主体感が生起される(Blakemoreら1999)

予測器

感覚運動システム

遠心性コピー 運動主体感 感覚誤差

実際の感覚フィードバック

一致

予測感覚フィードバック(随伴発射)

運動指令

「脳科学の世紀」の運動学この本の最大の特徴の一つが豊富な「脳神経 科学」についての内容です運動の理解に必要不可欠な脳神経科学の知識 を基礎から最新研究まで幅広く紹介し病態解釈や臨床思考に役立てることができます

08Human Kinesiology Human Kinesiology09

神経解剖学重要な神経構造の図表をくまなく記載しています

脳の運動制御随意運動運動制御の脳神経学的メカニズムについても詳細に解説しています

脳機能と脳障害各神経部位の機能特性の説明に加えその部位が損傷されることでどのような障害がもたらされるかについても詳細に解説していますまた高次脳機能障害についても様々な知見を紹介し臨床に役立てることができます

「人間の運動」の神経基盤「人間の運動」を生み出す脳の仕組みについて分かりやすく解説しています

最新研究の紹介脳科学の最新のトピックスについても豊富に紹介しています

人間の「錐体路」錐体路(pyramidal tract)あるいは皮質脊

髄路(corticospinal tract)は系統発生的に新しく哺乳類で初めて見られるようになりヒトで最もよく発達した脳内最大の下行性線維束である多くの異なる皮質領域に起始をもち前頭葉では一次運動野運動前野補足運動野帯状皮質運動野から頭頂葉では一次感覚野とさらに高次な57野に由来するまた錐体路の起始細胞は形状の特徴から錐体細胞(pyramidal

cell)といい特に一次運動野の巨大錐体細胞はBetz細胞と呼ばれすべて大脳皮質の第Ⅴ層に位置するこれら錐体路をなす軸索の起始細胞を錐体路ニューロン(PTNspyramidal tract neurons)という「錐体路」の名称は下行する際に延髄の錐体を通ることに由来しておりこれら起始細胞の名称に由来しているのではない大脳皮質の第Ⅴ層に起始した軸索は放線冠を形成し内包の前脚と後脚を通るが一次運動野からの線維はほとんど後脚を通って中脳に至る中脳では大脳脚を通り橋では橋核の間をいくつかの束に分かれて通過し延髄で再びまとまった束となる延髄下部ではおよそ90が対側へ交叉しておりこれを錐体交叉(pyramidal decussation)という交叉した線維は外側皮質脊髄路となって対

側の脊髄側索を下行し脊髄前角の主に四肢遠位の制御に関わる外側領域の運動ニューロンと中間層の介在ニューロンに終止する非交叉線維は前

[6]ヒトの行為と脳機能システム

図53 錐体路の走行(Baumlhrら2010)

C1ⅪⅫⅩⅨ

ⅦⅥⅤ

ⅣⅢ

運動終板

外側皮質脊髄路(交叉)

延髄

大脳脚皮質橋路

中脳

前皮質脊髄路(非交叉)錐体交叉

錐体

皮質脊髄路(錐体路)皮質核路

皮質中脳路尾状核(頭部)内包

レンズ核

視床尾状核(尾部)

第8野から

中心前回

[4] 運動制御のための下行路

人間の身体

[4] 運動制御のための下行路

には1m以上の長さに及ぶものもある特に運動野のベッツ巨大細胞からの軸索は大きく伝導速度が速いしかしながらその大きな軸索の錐体路に占める割合は3程度とわずかであり錐体路のほとんどは運動野の第5層にある錐体路細胞に起始している錐体路の大多数は延髄で錐体交叉し反対側の脊髄側索を下行する外側皮質脊髄路と交叉せずに脊髄前索を下行する前皮質脊髄路とに区分されている錐体交叉率は90以上であり特に手指の筋を支配する錐体路の交叉率は100近いとされている錐体路は個々の運動の個別性分別性分離性といった機能との関係がきわめて深く手指の巧緻動作や道具使用の特殊性の視点から「最も人間的なものである(Pyramidal tract is such a human

feature)」といわれているしかしながら運動野に起始する錐体路(皮質

脊髄路)は筋収縮を引き起こす脊髄前角の運動細胞にすべて直接投射しているわけではない運動野からの下行性の神経線維は脊髄後索の「介在ニューロン(spinal interneuron)」にも接続して「予測的に末梢からの感覚入力を調節する機能」を有していると主張する研究者もいるしたがって運動野は脊髄後索の介在ニューロンを介して体性感覚入力によって引き起こされる反射を制御していると考えられる(図25)50)

人間の巧緻的な運動はこれらの脊髄介在ニューロンを含んだ神経回路のネットワークによって達成されているその意味で錐体路は行為を予測的に制御する機能を有していると考えるべきであろう

[錐体路障害]錐体路障害では痙縮(spasticity)をきたす臨床上錐体路障害が顕著に出現するのは脳性麻痺の両麻痺(diplegia)脳卒中片麻痺(hemi-plegia)脊髄損傷による対麻痺(paraplegia)などであり痙性麻痺深部反射(腱反射)亢進バビンスキー反射陽性が錐体路徴候とされている特徴的な異常姿勢としては片麻痺におけるウェルニッケマン(Wernicke-Mann)肢位(図26)や脳性麻痺の鋏(ハサミ)状肢位(scissors posi-tion)が有名である(上肢屈筋下肢伸筋優位)51)また痙性麻痺に認められる筋緊張の亢進

(hypertone)折りたたみナイフ現象(clasp-knife

phenomenon)クローヌス(clonus)腱反射の亢進(hypertendon refl ex)などは錐体路損傷によって大脳皮質からの脊髄運動ニューロンへの抑制が弱まることで出現する解放現象と考えられているバビンスキー(Babinski)反射は正常な新生児でも出現するが錐体路損傷の指標として信頼できるものである足底を刺激すると母指が背屈し他の指が扇状に広がる現象であるなおサルで錐体路を実験的に切断すると個々の手指の巧緻運動ができなくなるが筋緊張の亢進や腱反射の亢進はほとんど認められないという

図26 片麻痺におけるウェルニッケマン肢位

図25 錐体路による反射の制御錐体路は前角の運動ニューロンだけでなく同時に脊髄介在ニューロンを支配して感覚ニューロンを予測的に制御する(Perfetti 1987)

具体的には予測的な運動プランと運動結果との因果関係である「再生スキーマ」と実際の運動と感覚フィードバックとの因果関係である「再認スキーマ」が想定されており運動学習は運動課題の多様な経験に対するスキーマ(運動プログラム)の再組織化や改変によって達成されるシュミットはなぜ練習していない左手やペンを口にくわえても文字が書けるのかという謎に対してスキーマ理論を導入することで運動の長期記憶の理論化に一定の成功を収めた

脳の運動制御モデル20世紀後半の脳科学の進歩を集積してつくられたアレン(Allen)と塚原20)による「脳の運動制御モデル」によれば随意運動を発現するための頭頂葉の感覚情報が前頭葉の補足運動野や運動前

野に入力されそこで運動のプランとプログラムが大脳基底核と小脳の調節を経て形成され運動野に伝達された後運動野が脊髄の前角細胞に運動指令(motor command)を出して筋収縮が発現するとされている(図6)つまりある目的を達成する随意運動の脳内の神経情報(neural information)流れには運動のプランやプログラムを構築する「認知過程」と実際に運動を実行する「行為過程」が存在しているこの観点に立てば随意運動の最高中枢とされてきた運動野は単に運動を遂行する出口にすぎない随意運動の最高中枢は補足運動野と運動前野でありそこでは具体的な運動のプログラムが決定されている脳の運動制御モデルは随意運動のメカニズムを理解するうえできわめて重要である

図6 随意運動における神経情報の流れ(Allenと塚原1974)

感覚連合野(頭頂葉他)

意 志

体性感覚

大脳基底核

運動前野脊 髄 筋

補足運動野

小 脳

運動遂行運動プログラム

運動野

再生スキーマ(演繹的)

運動プラン

運動結果

再認スキーマ(帰納的)

運動結果

感覚フィードバック

図5 スキーマ理論(Schmidt 1975)

図16 筋皮神経(C5 6)および腋窩神経(C5 6)(Joseph 1982)

筋皮神経

腋窩神経

後枝

前枝

外側前腕皮神経

長頭

短頭上腕二頭筋

烏口腕筋

外側上腕皮神経

三角筋(上枝より)

上腕筋

筋皮神経小円筋後枝腋窩神経

橈骨神経尺骨神経

内側神経束後神経束外側神経束腕神経叢

図18 正中神経(C6~8 T1)(Joseph 1982)

第1および第2虫様筋

尺骨神経との吻合

方形回内筋

深指屈筋(橈側部)関節枝(2)

短母指屈筋(浅頭)

母指対立筋短母指外転筋母指球筋

長母指屈筋

浅指屈筋

橈側手根屈筋長掌筋円回内筋

屈-回内筋群

内側神経束外側神経束

単独支配域

知覚神経分布

図19 尺骨神経(C8 T1)(Joseph 1982)

正中神経参照

短母指屈筋(内側頭)

母指内転筋

正中神経参照

正中神経

尺側虫様筋掌側骨間筋背側骨間筋

23

4小指屈筋小指対立筋小指外転筋短掌筋

皮枝

尺骨神経

深指屈筋(内側12)

尺側手骨屈筋

内側上顆

上腕骨部(分枝なし)

内側神経束外側神経束 単独支配域

知覚神経分布

図17 橈骨神経(C6~8 T1)(Joseph 1982)

単独支配域

知覚神経分布

示指伸筋

短母指伸筋長母指伸筋

長母指外転筋回外筋

尺側手根伸筋小指伸筋総指伸筋

短橈側手根伸筋

深枝肘筋

長橈側手根伸筋腕橈骨筋

伸-回外筋群上腕筋長頭

外側頭上腕三頭筋

橈骨神経浅枝

後前腕皮皮神経

後上腕神経知覚枝上腕三頭筋の内側頭腋窩神経

内側神経束後神経束外側神経束

行為する人間

このような身体意識の成立の背景には前頭頭頂の神経ネットワークが特に重要な役割を担っているがこれは基本的に視覚や触覚といった外受容感覚のネットワークであり人間の自己感の形成にはさらに島皮質の特に右半球前部を中心とした内受容感覚のネットワークが重要である内受容感覚は皮膚や筋などから上行する体性神経信号と血行リンパ行性に上行する体液性の化学信号内臓感覚の自律神経信号によって構成されこれらの身体情報は体性感覚野島帯状皮質に到達したのちヒトで特に発達している前部島(anterior insula cortex)に統合される(図62)32)つまり自己感は視覚や触覚などの外受容感覚と内臓や血中の情報などの内受容感覚の両方のボトムアップ情報が統合されることが基盤となっているがこれらは理想的な状態を仮説的予測的に生成されるトップダウンモデルの随伴発射あるいは遠心性コピーと身体を介したオンラインのボトムアップ情報とが比較照合されなければならないそこで生じた予測誤差(prediction error)を最小化するべくまたモデルをアップデートするという循環によって統一的で整合性のある自己が維持される人間の運動制御と運動学習には身体と外部環境との相互関係を表象する内部モデルが必要とされておりそれには「順モデル(forward model)」と「逆モデル(inverse model)」があるたとえば視覚的に捉えた物体を目標とする時目標から逆算してそれを手にするのに必要な関節や筋の動きを推定するこれが逆モデルである一方実際にそれを行うと手がどのように動くかの予測が成立するこれが順モデルであるすなわち行為を行う際の目的目標に対しては逆モデルを用いて運動プログラムを立て必要な運動指令を生み出すそれをもとに実際に運動を行うがそれと同時にこの運動指令の遠心性コピー情報が身体運動の予測として順モデルを成立させる実際に運動を行うと同時にこの推定された逆モデルと予測される順モデルとが比較照合されることで

不一致があればその段階での修正が可能となるため外部環境や状況に応じた円滑で調節された運動の実行が可能となるまた順モデルで成立させた予測には運動の予測とともに「こういう運動を行えばこんな感じが生じるはずだ」という感覚の予測が含まれているため実際に生じた感覚の求心情報と一致することにより「これを行っているのは私である」という運動の主体感が生じるといえるまたこのような予測と実際の求心情報の不一致あるいは異なる求心情報間の不一致が生じた場合自分の身体自分の運動といった主体感が成立せず適切な運動プログラムの生成に影響を及ぼすことになる

ミラーニューロンシステム高次運動野である腹側運動前野にはつまむ握る引っかくといった特定の行為をコードしているニューロンがあるこれらは行為ごとに選択的な応答を示しまた対象の視覚提示だけでも活動するこれらのニューロンは感覚情報から運動

図62 外受容感覚と内受容感覚の内的モデル(Seth 2013)

望ましい推測された状態

覚醒ネットワーク

生成モデル

生成モデル 運動コントロール

外界

身体

外受容感覚予測誤差

内受容感覚予測誤差

自律神経系コントロール

随伴反射

図61 運動主体感の生成モデル予測である遠心性コピー情報と実際の感覚フィードバック情報が一致することによって運動主体感が生起される(Blakemoreら1999)

予測器

感覚運動システム

遠心性コピー 運動主体感 感覚誤差

実際の感覚フィードバック

一致

予測感覚フィードバック(随伴発射)

運動指令

「脳科学の世紀」の運動学この本の最大の特徴の一つが豊富な「脳神経 科学」についての内容です運動の理解に必要不可欠な脳神経科学の知識 を基礎から最新研究まで幅広く紹介し病態解釈や臨床思考に役立てることができます

08Human Kinesiology Human Kinesiology09

神経解剖学重要な神経構造の図表をくまなく記載しています

脳の運動制御随意運動運動制御の脳神経学的メカニズムについても詳細に解説しています

脳機能と脳障害各神経部位の機能特性の説明に加えその部位が損傷されることでどのような障害がもたらされるかについても詳細に解説していますまた高次脳機能障害についても様々な知見を紹介し臨床に役立てることができます

「人間の運動」の神経基盤「人間の運動」を生み出す脳の仕組みについて分かりやすく解説しています

最新研究の紹介脳科学の最新のトピックスについても豊富に紹介しています

まったく新しい運動学の教科書

これが『人間の運動学』のコンセプトですここでいう「新しい」とは

今までの運動学とは別物という意味ではありません

解剖学生理学運動の力学的メカニズム関節運動学といった運動学の基礎となる知識を本書はくまなく網羅しています

そのうえで運動学では今まで扱われる事の無かった学際的な観点や近年新しく分かってきた最新の研究などを加えることで「運動学」をより良くアップデートすることが

本書の狙いです

その中心となるのは近年目覚ましい発展を遂げている脳神経科学そしてそれに伴って少しずつ明らかになってきた

「自己感覚」や「社会脳」をめぐる「意識」についての知識です人間の運動の背後にある神経作用

そしてその源である「身体化された心」までをも視野に入れた学問としての「新しい運動学」というヴィジョンを

本書は提示しています

人間の運動学

運動学

オートポイエーシス

ミラーニューロン社会脳

アフォーダンス

心の理論

行為システム

心の神経哲学

身体表象空間表象

身体所有感運動主体感

意識のハードプロブレム

解剖学

力学的メカニズム 関節運動学

運動発達学

生理学

運動学習

10Human Kinesiology Human Kinesiology11

まったく新しい運動学の教科書

これが『人間の運動学』のコンセプトですここでいう「新しい」とは

今までの運動学とは別物という意味ではありません

解剖学生理学運動の力学的メカニズム関節運動学といった運動学の基礎となる知識を本書はくまなく網羅しています

そのうえで運動学では今まで扱われる事の無かった学際的な観点や近年新しく分かってきた最新の研究などを加えることで「運動学」をより良くアップデートすることが

本書の狙いです

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「自己感覚」や「社会脳」をめぐる「意識」についての知識です人間の運動の背後にある神経作用

そしてその源である「身体化された心」までをも視野に入れた学問としての「新しい運動学」というヴィジョンを

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人間の運動学

運動学

オートポイエーシス

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アフォーダンス

心の理論

行為システム

心の神経哲学

身体表象空間表象

身体所有感運動主体感

意識のハードプロブレム

解剖学

力学的メカニズム 関節運動学

運動発達学

生理学

運動学習

10Human Kinesiology Human Kinesiology11

序章 「人間の運動」の誕生 ~サルからヒトへの奇跡

1人類の誕生2人間の運動の進化3 第1の運動革命~樹上生活での移動と手の使用

4 第2の運動革命~サバンナ生活による直立二足歩行と手の対立運動の発達

5手の進化6人間の営みとしての行為

第Ⅰ部 人間の身体第1章身体の解剖学1解剖学は「運動器」という概念を誕生させた2 身体は左右対称形だが「運動器」の変化によってさまざまな「姿勢」がつくられる

3骨は支持器官であり運動の可動性を決める4関節は連結器官であり運動の空間性をもたらす5靭帯は保護器官であり運動の安定性を与える6筋は実行器官であり運動の出現を可能にする7「人間機械論」の誕生

第2章身体の運動学1運動学は運動動作行為の「観察」から始まる2運動学には「キネマティクス」と「キネティクス」がある

3キネマティクスの基本4キネティクスの基本5立位における重心重心線アライメント基底面体重抗重力筋

6運動連鎖と筋収縮シークエンスを観察する7基本姿勢日常生活動作随意運動代償運動を観察する

8 19世紀の整形外科医と神経科医たちが運動学を進歩させた

第3章身体の神経学1随意運動のメカニズム2大脳皮質の機能局在3大脳皮質の運動制御機構4運動制御のための下行路5運動制御の感覚調節機構6大脳皮質の可塑性7皮質下の運動調節機構8脊髄の運動制御9発達と学習⓾社会脳としての心の器官

第4章身体の生理学1筋収縮のメカニズム2運動の感覚調節機構3運動時の内部環境を調整する呼吸循環4体力トレーニング

第Ⅱ部 運動する人間第5章肩関節の運動学1肩関節の基本事項2肩関節における運動学のポイント3肩関節の進化と機能の変遷

第6章肘関節と前腕の運動学1肘関節と前腕の基本事項

2肘関節と前腕における運動学のポイント3肘関節と前腕の進化と機能の変遷

第7章手関節の運動学1手関節の基本事項2手関節における運動学のポイント3手関節の進化と機能の変遷

第8章手指の運動学1手指の基本事項2手指における運動学のポイント3手指の進化と機能の変遷

第9章股関節の運動学1股関節の基本事項2股関節における運動学のポイント3股関節の進化と機能の変遷

第10章膝関節の運動学1膝関節の基本事項2膝関節における運動学のポイント3膝関節の進化と機能の変遷

第11章足関節と足部の運動学1足関節と足部の基本事項2足関節と足部における運動学のポイント3足関節と足部の進化と機能の変遷

第12章脊柱と頭部の運動学1脊柱の基本事項2脊柱における運動学のポイント3頭部の基本事項と運動学のポイント4脊柱と頭部の進化と機能の変遷

第Ⅲ部 動作する人間第13章発達の運動学1子どもの反射と反応2子どもの運動発達3運動発達と反射反応の関連性4手の運動発達5感覚運動統合6子どもの発達理論7自己意識の誕生

第14章姿勢と動作の運動学1姿勢2上肢の動作3寝返り動作4起き上がり動作5座位6立ち上がり動作7立位

第15章歩行の運動学1人間の歩行は巧緻運動である2歩行周期3パッセンジャーとロコモーター4関節運動と筋活動5重心移動6床反力7ロッカー機能と足圧の変化8歩行の開始停止方向転換9歩行分析⓾歩行の決定要因⓫歩行調節における3つのポイント⓬歩行調節における各関節の機能⓭歩行の障害⓮ヒトの二足移動の特徴

第Ⅳ部行為する人間第16章 行為のニューラルネット

ワーク1行為に向けられた観察者のまなざし2行為を生み出す神経システムの基礎3末梢神経系のニューラルネットワーク4中枢神経各部のニューラルネットワーク5脊髄反射のサーキット6ヒトの行為と脳機能システム

第17章行為の運動学習1運動学習が運動行動を生み出す2運動学習理論3運動学習における知覚の役割4運動学習における注意の役割5運動学習における記憶の役割6運動学習における感覚フィードバックの役割7運動学習における言語の役割8運動学習の転移と発達の最近接領域

第18章行為システム1行為はシステムによって制御されている2 ldquo認知する行為rdquoという捉え方3行為システムの階層性4上肢体幹下肢の行為システム5情報性の運動学へ

第Ⅴ部 身体化された心第19章 運動の鍵盤支配型モデル

を超えて1運動の鍵盤支配型モデルの誕生2頭のないカエル3反射から脳へ4生命の演ずる人形劇5ベルンシュタインの「運動制御理論」6アノーキンによる機能システムの概念7遠心性インパルスだけでは運動を制御することは不可能である

8 ldquo美しい音楽rdquoを奏でる「運動野のピアノ」には音符と和音がある

9人間はldquo無限の意図の自由度rdquoを奏でる

第20章空間を生きる1空間の誕生2身体表象3空間表象4身体空間5身体周辺空間6身体外空間7「私」というイメージ

第21章コミュニケーション行為1世界と対話するための行為2 ldquo指差しrdquoという行為3身振りとしての行為4道具使用という行為

第22章人間はldquo意識rdquoを動かして行為する1意識とは何だろうか2 ldquo意識の志向性rdquoとldquo志向的な関係性rdquo3意識による行為の制御4行為の発達学習回復のために5身体を生きる6身体化された心

終章ヒューマンパフォーマンス

人間の運動学ヒューマンキネシオロジー

目次

協同医書出版社 113-0033 東京都文京区本郷3-21-10Tel03-3818-2361Fax03-3818-2368 httpwwwkyodo-ishocojp

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学習する人間

①初期接地(initial contactIC)(図21)

歩行周期の0~2の時期であり地面への最初の接地を行う相である反対側は前遊脚期の始まりである従来は踵接地(heel contact)とされていたが踵以外で接地する場合に説明できないため現在では初期接地(initial contact)が用いられることが多い接地の際には直前の約1cmの高さからの自由落下により短時間に激しい床反力が生じその強度は体重の50~125に及ぶとされるそのためこの相では衝撃の吸収を行う必要があり遊脚相から続く筋の収縮とヒールロッカー機能を達成するために踵の位置を決定する下肢の位置関係が重要であるまた前方への運動量の生成という機能も要求される衝撃の吸収は主に遠心性収縮で行われ

るがそれでは身体にブレーキがかかることになるため前進への運動量が低下してしまうそこで踵の形状を利用したヒールロッカーによって前方への回転運動に変換される

[機能]この相の機能は以下の2つである

[各関節の詳細]筋活動の詳細は表2に示す中足指節間(MP)関節関節角度伸展0~25deg床 反 力

筋 活 動長指伸筋長母指伸筋知 覚足尖と地面との距離距骨下関節関節角度0degもしくは軽度内反床 反 力外反方向筋 活 動 前脛骨筋長母指伸筋後脛骨

筋長指伸筋知 覚足底の方向足関節関節角度0degもしくは背屈3~5deg床 反 力底屈方向

初期接地の機能

❶地面への接地(接床)と衝撃の吸収❷ヒールロッカーによるエネルギー変換

[9]歩行分析

図21 初期接地(initial contact)

学習する人間

る神経と筋肉の関係がある程度明確であるため代償動作として典型的な歩容として観察されることが多い

鶏歩(steppage gait)腓骨神経麻痺などによる足関節背屈筋の機能不

全が生じると下垂足(drop foot)を呈し遊脚期に地面とのクリアランスを確保するため下肢を高く挙上しつま先から投げ出すように歩行を行う完全な麻痺ではなく筋が弱化している場合は初期接地期に急激な足関節底屈が生じるスタンプ歩行(stamp gait)がみられる

踵歩行(calcaneal gait)脛骨神経麻痺などによる足関節底屈筋の機能不

全が生じると常に足関節背屈位での歩行となる

大殿筋歩行(gluteus maximus gait)大殿筋は股関節伸筋でありこの筋が機能不全

を起こすと初期接地直後に体幹を伸展骨盤を前方偏位させ股関節に伸展の外部モーメントを発生させながら歩行する

大腿四頭筋歩行(quadriceps femoris gait)大腿四頭筋は膝関節伸筋でありこの筋が機能

不全を起こすと反張膝や膝折れを呈する初期接地直後に膝の不安定性を呈するものは自身の手で大腿を押して膝関節伸展させることがある立ち上がり時にみられる一度体幹を前傾させ上肢で大腿を押し込んで起立するものは登攀(とはん)性起立(Gowers徴候)と呼ばれる

トレンデレンブルグ歩行(Trendelenburg gait)立脚側の中殿筋の機能不全や股関節内転筋の機

能不全脚長差が3cm以上の場合に立脚中期に遊脚側骨盤が過度に下制した歩容となる中殿筋歩行(gluteus medius gait)とも呼ばれる両側で

図66 失調症患者にみられる歩行

小脳性歩行 酩酊歩行

脊髄癆性歩行

図67 末梢神経疾患患者でみられる歩行大殿筋歩行鶏歩 踵歩行 大腿四頭筋歩行 トレンデレンブルグ歩行 デュシェンヌ歩行

患側

動作する人間

交叉性伸展反射( )出現時期 ~ か月背臥位で一側下肢を屈曲一側下肢を伸展させた状態で伸展した下肢を屈曲すると反対側下肢の伸展パターンが出現するまた背臥位で一側の下肢を伸展した状態で足底を刺激すると反対側下肢の伸展パターンが出現するさらに一側下肢の大腿部の内側を検者が軽叩すると反対側下肢の股関節が内転内旋膝関節が伸展足関節が底屈し鋏状肢位(scissors position=下肢の伸展パターン)となる

新生児期と乳児期の反射

バブキン反射( )出現時期 ~ か月背臥位で乳児の両手掌を検者が母指で強く圧迫して刺激すると開口する手掌口反射(hand-mouth

reflex)とも呼ばれる

口角反射( )出現時期 ~ か月口唇の周囲に乳首や指が触れると口や頭部を刺激した方向に動かして乳首や指を探索する探索反射口唇反射十字反射とも呼ばれる

吸啜反射( )出現時期 ~ か月口唇に乳首や指が触れると乳首や指を吸い込む吸啜(きゅうてつ)運動が出現する吸引反射とも呼ばれる

伸筋突張反射( )出現時期 ~ か月背臥位で下肢を屈曲させた状態で足底を刺激すると下肢の伸展パターン(伸展内転内旋)が出現する

屈筋収引反射( )出現時期 ~ か月背臥位で下肢を伸展させた状態で足底を刺激すると下肢を引っ込めるような屈曲パターン(屈曲外転外旋)が出現する逃避反射とも呼ばれる

脊髄レベルの原始反射

運動学習とは 知覚運動の 協応過程である運動学習(motor learning)とは「練習

や経験に関係した一連のプロセスであり結果として熟練した運動を遂行するための能力に比較的永続的な変化をもたらすもの」と定義されている2)運動行動における運動能力は運動体力と運動技能に分けられておりこの定義の中で示されている「熟練した運動を遂行するための能力」とは運動技能のことを表す運動技能は身体内外から発する感覚を手がかりに中枢神経系を通して運動行動をコントロールする能力であることから運動学習において知覚系と運動系の協応関係を構築していくことが重要となる

運動学習の理論アダムズの閉回路理論(closed loop theory)アダムズ(Adams)8)は従来の学習理論である

連合説(ある特定の刺激に対して特定の反応が生じるといった理論)に対する批判のうえに立ちサイバネティクス(cybernetics)における閉回路の考え方を学習の理論へ発展させたサイバネティクスにおける閉回路の考え方は以下のようなものである(図4)ヒトは環境から情報を取り入れその情報を手がかりに目標とする正しい運動行動を引き起こすであろう運動プログ

ラムを生成して運動行動を開始するそしてその運動行動の経過や結果を再び情報として取り入れ(フィードバック)意図している運動行動すなわち目標と比較して差異を調べる(誤差検出error detection)そして誤差が発見されたなら現在行っている運動行動もしくは次の運動行動を修正するよう試みる(誤差修正error correc-tion)これを繰り返すことで正しい運動行動が学習されるという考えである9)アダムズはフィードバックが生起する以前の運動行動の選択を開始するように働く限定的な運動プログラムのことを記憶痕跡(memory trace)と呼びフィードバック情報と比較して誤差を検出するための内的基準のことを知覚痕跡(percep-tual trace)と呼んだ知覚痕跡は過去の運動行動の経験によって形成されこの運動行動を実行すればこのような感じがするといった予期や期待のことを表す運動行動遂行中知覚痕跡は実際の運動行動によって生起されるフィードバック情

[2]運動学習理論

図4 運動学習と誤差検出誤差修正メカニズムのモデル(Keel amp Summers 1976)

基準or

比較センター

その他のフィードバック視覚的聴覚的など

筋肉

修正

運動指令のコピー

筋運動感覚的

フィードバック

筋への

運動指令

運動発生器or

運動プログラムシステム

基礎と臨床をつなぐ運動発達学姿勢動作歩行運動学習運動心理学など臨床で必須となる知識も詳細に解説し卒前教育から臨床現場まで長く活用できます

学習する人間

この合成されたベクトルのことを床反力ベクトルといい鉛直上方前後左右方向の3つの方向の成分に分解して考えることができ前後成分をFx左右成分をFy鉛直上方成分をFzの記号で表す(図8)また床反力ベクトルが作用する点は床反力作用点または足圧中心(COPcenter of pressure)と呼ばれるこの床反力作用点は床反力の平均位置であり身体を支持する力の中心であるそし

て身体が静止する時は重心に作用する重力と床反力ベクトルが同じ大きさかつ互いに逆向きに一直線上に作用している状態であるまた床

図4 身体の重心線

外果の約2~6cm前方

膝関節前部(膝蓋骨後面)

大転子

肩峰

耳垂のやや後方

両内果間の中心

両膝関節内側間の中心

殿裂

椎骨棘突起

後頭隆起

図5  主要なランドマークと重心線との位置関係 (Steen 2010)

前後(矢状面)の偏位(+前 -後)

耳介

T1

T4

T9

L3

股関節中心

-150 -100 -50 0重心線

ステファン2010ラファージュ2008

ガングネット2003シュワブ2006

50 100

図6 支持基底面の変化

椅子座位

両松葉杖の使用

開脚立位閉脚立位

図7 床反力ベクトル

床反力ベクトル

無数の床反力

図8 力の分解

z

Fz

0

Fy

y

x

Fx

06Human Kinesiology Human Kinesiology07

発達反射随意運動の仕組みとその発達のプロセスを詳細に説明しています

臨床的な知見様々な病態やその障害について説明し基礎を臨床へとつなげていくための知識を数多く紹介しています

運動学習近年新しく分かってきた知見も含めて運動学習について詳細に解説し治療を考える際に欠かすことのできない知識を身につけることができます

姿勢動作臨床現場で欠かすことのできない姿勢動作の分析力を支える知識を詳しく解説しています

歩行歩行のメカニズムおよび歩行分析について最新の知見も含めて詳細に解説し臨床現場で歩行を観察する能力を身につけることができます

学習する人間

①初期接地(initial contactIC)(図21)

歩行周期の0~2の時期であり地面への最初の接地を行う相である反対側は前遊脚期の始まりである従来は踵接地(heel contact)とされていたが踵以外で接地する場合に説明できないため現在では初期接地(initial contact)が用いられることが多い接地の際には直前の約1cmの高さからの自由落下により短時間に激しい床反力が生じその強度は体重の50~125に及ぶとされるそのためこの相では衝撃の吸収を行う必要があり遊脚相から続く筋の収縮とヒールロッカー機能を達成するために踵の位置を決定する下肢の位置関係が重要であるまた前方への運動量の生成という機能も要求される衝撃の吸収は主に遠心性収縮で行われ

るがそれでは身体にブレーキがかかることになるため前進への運動量が低下してしまうそこで踵の形状を利用したヒールロッカーによって前方への回転運動に変換される

[機能]この相の機能は以下の2つである

[各関節の詳細]筋活動の詳細は表2に示す中足指節間(MP)関節関節角度伸展0~25deg床 反 力

筋 活 動長指伸筋長母指伸筋知 覚足尖と地面との距離距骨下関節関節角度0degもしくは軽度内反床 反 力外反方向筋 活 動 前脛骨筋長母指伸筋後脛骨

筋長指伸筋知 覚足底の方向足関節関節角度0degもしくは背屈3~5deg床 反 力底屈方向

初期接地の機能

❶地面への接地(接床)と衝撃の吸収❷ヒールロッカーによるエネルギー変換

[9]歩行分析

図21 初期接地(initial contact)

学習する人間

る神経と筋肉の関係がある程度明確であるため代償動作として典型的な歩容として観察されることが多い

鶏歩(steppage gait)腓骨神経麻痺などによる足関節背屈筋の機能不

全が生じると下垂足(drop foot)を呈し遊脚期に地面とのクリアランスを確保するため下肢を高く挙上しつま先から投げ出すように歩行を行う完全な麻痺ではなく筋が弱化している場合は初期接地期に急激な足関節底屈が生じるスタンプ歩行(stamp gait)がみられる

踵歩行(calcaneal gait)脛骨神経麻痺などによる足関節底屈筋の機能不

全が生じると常に足関節背屈位での歩行となる

大殿筋歩行(gluteus maximus gait)大殿筋は股関節伸筋でありこの筋が機能不全

を起こすと初期接地直後に体幹を伸展骨盤を前方偏位させ股関節に伸展の外部モーメントを発生させながら歩行する

大腿四頭筋歩行(quadriceps femoris gait)大腿四頭筋は膝関節伸筋でありこの筋が機能

不全を起こすと反張膝や膝折れを呈する初期接地直後に膝の不安定性を呈するものは自身の手で大腿を押して膝関節伸展させることがある立ち上がり時にみられる一度体幹を前傾させ上肢で大腿を押し込んで起立するものは登攀(とはん)性起立(Gowers徴候)と呼ばれる

トレンデレンブルグ歩行(Trendelenburg gait)立脚側の中殿筋の機能不全や股関節内転筋の機

能不全脚長差が3cm以上の場合に立脚中期に遊脚側骨盤が過度に下制した歩容となる中殿筋歩行(gluteus medius gait)とも呼ばれる両側で

図66 失調症患者にみられる歩行

小脳性歩行 酩酊歩行

脊髄癆性歩行

図67 末梢神経疾患患者でみられる歩行大殿筋歩行鶏歩 踵歩行 大腿四頭筋歩行 トレンデレンブルグ歩行 デュシェンヌ歩行

患側

動作する人間

交叉性伸展反射( )出現時期 ~ か月背臥位で一側下肢を屈曲一側下肢を伸展させた状態で伸展した下肢を屈曲すると反対側下肢の伸展パターンが出現するまた背臥位で一側の下肢を伸展した状態で足底を刺激すると反対側下肢の伸展パターンが出現するさらに一側下肢の大腿部の内側を検者が軽叩すると反対側下肢の股関節が内転内旋膝関節が伸展足関節が底屈し鋏状肢位(scissors position=下肢の伸展パターン)となる

新生児期と乳児期の反射

バブキン反射( )出現時期 ~ か月背臥位で乳児の両手掌を検者が母指で強く圧迫して刺激すると開口する手掌口反射(hand-mouth

reflex)とも呼ばれる

口角反射( )出現時期 ~ か月口唇の周囲に乳首や指が触れると口や頭部を刺激した方向に動かして乳首や指を探索する探索反射口唇反射十字反射とも呼ばれる

吸啜反射( )出現時期 ~ か月口唇に乳首や指が触れると乳首や指を吸い込む吸啜(きゅうてつ)運動が出現する吸引反射とも呼ばれる

伸筋突張反射( )出現時期 ~ か月背臥位で下肢を屈曲させた状態で足底を刺激すると下肢の伸展パターン(伸展内転内旋)が出現する

屈筋収引反射( )出現時期 ~ か月背臥位で下肢を伸展させた状態で足底を刺激すると下肢を引っ込めるような屈曲パターン(屈曲外転外旋)が出現する逃避反射とも呼ばれる

脊髄レベルの原始反射

運動学習とは 知覚運動の 協応過程である運動学習(motor learning)とは「練習

や経験に関係した一連のプロセスであり結果として熟練した運動を遂行するための能力に比較的永続的な変化をもたらすもの」と定義されている2)運動行動における運動能力は運動体力と運動技能に分けられておりこの定義の中で示されている「熟練した運動を遂行するための能力」とは運動技能のことを表す運動技能は身体内外から発する感覚を手がかりに中枢神経系を通して運動行動をコントロールする能力であることから運動学習において知覚系と運動系の協応関係を構築していくことが重要となる

運動学習の理論アダムズの閉回路理論(closed loop theory)アダムズ(Adams)8)は従来の学習理論である

連合説(ある特定の刺激に対して特定の反応が生じるといった理論)に対する批判のうえに立ちサイバネティクス(cybernetics)における閉回路の考え方を学習の理論へ発展させたサイバネティクスにおける閉回路の考え方は以下のようなものである(図4)ヒトは環境から情報を取り入れその情報を手がかりに目標とする正しい運動行動を引き起こすであろう運動プログ

ラムを生成して運動行動を開始するそしてその運動行動の経過や結果を再び情報として取り入れ(フィードバック)意図している運動行動すなわち目標と比較して差異を調べる(誤差検出error detection)そして誤差が発見されたなら現在行っている運動行動もしくは次の運動行動を修正するよう試みる(誤差修正error correc-tion)これを繰り返すことで正しい運動行動が学習されるという考えである9)アダムズはフィードバックが生起する以前の運動行動の選択を開始するように働く限定的な運動プログラムのことを記憶痕跡(memory trace)と呼びフィードバック情報と比較して誤差を検出するための内的基準のことを知覚痕跡(percep-tual trace)と呼んだ知覚痕跡は過去の運動行動の経験によって形成されこの運動行動を実行すればこのような感じがするといった予期や期待のことを表す運動行動遂行中知覚痕跡は実際の運動行動によって生起されるフィードバック情

[2]運動学習理論

図4 運動学習と誤差検出誤差修正メカニズムのモデル(Keel amp Summers 1976)

基準or

比較センター

その他のフィードバック視覚的聴覚的など

筋肉

修正

運動指令のコピー

筋運動感覚的

フィードバック

筋への

運動指令

運動発生器or

運動プログラムシステム

基礎と臨床をつなぐ運動発達学姿勢動作歩行運動学習運動心理学など臨床で必須となる知識も詳細に解説し卒前教育から臨床現場まで長く活用できます

学習する人間

この合成されたベクトルのことを床反力ベクトルといい鉛直上方前後左右方向の3つの方向の成分に分解して考えることができ前後成分をFx左右成分をFy鉛直上方成分をFzの記号で表す(図8)また床反力ベクトルが作用する点は床反力作用点または足圧中心(COPcenter of pressure)と呼ばれるこの床反力作用点は床反力の平均位置であり身体を支持する力の中心であるそし

て身体が静止する時は重心に作用する重力と床反力ベクトルが同じ大きさかつ互いに逆向きに一直線上に作用している状態であるまた床

図4 身体の重心線

外果の約2~6cm前方

膝関節前部(膝蓋骨後面)

大転子

肩峰

耳垂のやや後方

両内果間の中心

両膝関節内側間の中心

殿裂

椎骨棘突起

後頭隆起

図5  主要なランドマークと重心線との位置関係 (Steen 2010)

前後(矢状面)の偏位(+前 -後)

耳介

T1

T4

T9

L3

股関節中心

-150 -100 -50 0重心線

ステファン2010ラファージュ2008

ガングネット2003シュワブ2006

50 100

図6 支持基底面の変化

椅子座位

両松葉杖の使用

開脚立位閉脚立位

図7 床反力ベクトル

床反力ベクトル

無数の床反力

図8 力の分解

z

Fz

0

Fy

y

x

Fx

06Human Kinesiology Human Kinesiology07

発達反射随意運動の仕組みとその発達のプロセスを詳細に説明しています

臨床的な知見様々な病態やその障害について説明し基礎を臨床へとつなげていくための知識を数多く紹介しています

運動学習近年新しく分かってきた知見も含めて運動学習について詳細に解説し治療を考える際に欠かすことのできない知識を身につけることができます

姿勢動作臨床現場で欠かすことのできない姿勢動作の分析力を支える知識を詳しく解説しています

歩行歩行のメカニズムおよび歩行分析について最新の知見も含めて詳細に解説し臨床現場で歩行を観察する能力を身につけることができます

人間の「錐体路」錐体路(pyramidal tract)あるいは皮質脊

髄路(corticospinal tract)は系統発生的に新しく哺乳類で初めて見られるようになりヒトで最もよく発達した脳内最大の下行性線維束である多くの異なる皮質領域に起始をもち前頭葉では一次運動野運動前野補足運動野帯状皮質運動野から頭頂葉では一次感覚野とさらに高次な57野に由来するまた錐体路の起始細胞は形状の特徴から錐体細胞(pyramidal

cell)といい特に一次運動野の巨大錐体細胞はBetz細胞と呼ばれすべて大脳皮質の第Ⅴ層に位置するこれら錐体路をなす軸索の起始細胞を錐体路ニューロン(PTNspyramidal tract neurons)という「錐体路」の名称は下行する際に延髄の錐体を通ることに由来しておりこれら起始細胞の名称に由来しているのではない大脳皮質の第Ⅴ層に起始した軸索は放線冠を形成し内包の前脚と後脚を通るが一次運動野からの線維はほとんど後脚を通って中脳に至る中脳では大脳脚を通り橋では橋核の間をいくつかの束に分かれて通過し延髄で再びまとまった束となる延髄下部ではおよそ90が対側へ交叉しておりこれを錐体交叉(pyramidal decussation)という交叉した線維は外側皮質脊髄路となって対

側の脊髄側索を下行し脊髄前角の主に四肢遠位の制御に関わる外側領域の運動ニューロンと中間層の介在ニューロンに終止する非交叉線維は前

[6]ヒトの行為と脳機能システム

図53 錐体路の走行(Baumlhrら2010)

C1ⅪⅫⅩⅨ

ⅦⅥⅤ

ⅣⅢ

運動終板

外側皮質脊髄路(交叉)

延髄

大脳脚皮質橋路

中脳

前皮質脊髄路(非交叉)錐体交叉

錐体

皮質脊髄路(錐体路)皮質核路

皮質中脳路尾状核(頭部)内包

レンズ核

視床尾状核(尾部)

第8野から

中心前回

[4] 運動制御のための下行路

人間の身体

[4] 運動制御のための下行路

には1m以上の長さに及ぶものもある特に運動野のベッツ巨大細胞からの軸索は大きく伝導速度が速いしかしながらその大きな軸索の錐体路に占める割合は3程度とわずかであり錐体路のほとんどは運動野の第5層にある錐体路細胞に起始している錐体路の大多数は延髄で錐体交叉し反対側の脊髄側索を下行する外側皮質脊髄路と交叉せずに脊髄前索を下行する前皮質脊髄路とに区分されている錐体交叉率は90以上であり特に手指の筋を支配する錐体路の交叉率は100近いとされている錐体路は個々の運動の個別性分別性分離性といった機能との関係がきわめて深く手指の巧緻動作や道具使用の特殊性の視点から「最も人間的なものである(Pyramidal tract is such a human

feature)」といわれているしかしながら運動野に起始する錐体路(皮質

脊髄路)は筋収縮を引き起こす脊髄前角の運動細胞にすべて直接投射しているわけではない運動野からの下行性の神経線維は脊髄後索の「介在ニューロン(spinal interneuron)」にも接続して「予測的に末梢からの感覚入力を調節する機能」を有していると主張する研究者もいるしたがって運動野は脊髄後索の介在ニューロンを介して体性感覚入力によって引き起こされる反射を制御していると考えられる(図25)50)

人間の巧緻的な運動はこれらの脊髄介在ニューロンを含んだ神経回路のネットワークによって達成されているその意味で錐体路は行為を予測的に制御する機能を有していると考えるべきであろう

[錐体路障害]錐体路障害では痙縮(spasticity)をきたす臨床上錐体路障害が顕著に出現するのは脳性麻痺の両麻痺(diplegia)脳卒中片麻痺(hemi-plegia)脊髄損傷による対麻痺(paraplegia)などであり痙性麻痺深部反射(腱反射)亢進バビンスキー反射陽性が錐体路徴候とされている特徴的な異常姿勢としては片麻痺におけるウェルニッケマン(Wernicke-Mann)肢位(図26)や脳性麻痺の鋏(ハサミ)状肢位(scissors posi-tion)が有名である(上肢屈筋下肢伸筋優位)51)また痙性麻痺に認められる筋緊張の亢進

(hypertone)折りたたみナイフ現象(clasp-knife

phenomenon)クローヌス(clonus)腱反射の亢進(hypertendon refl ex)などは錐体路損傷によって大脳皮質からの脊髄運動ニューロンへの抑制が弱まることで出現する解放現象と考えられているバビンスキー(Babinski)反射は正常な新生児で

も出現するが錐体路損傷の指標として信頼できるものである足底を刺激すると母指が背屈し他の指が扇状に広がる現象であるなおサルで錐体路を実験的に切断すると個々の手指の巧緻運動ができなくなるが筋緊張の亢進や腱反射の亢進はほとんど認められないという

図26 片麻痺におけるウェルニッケマン肢位

図25 錐体路による反射の制御錐体路は前角の運動ニューロンだけでなく同時に脊髄介在ニューロンを支配して感覚ニューロンを予測的に制御する(Perfetti 1987)

具体的には予測的な運動プランと運動結果との因果関係である「再生スキーマ」と実際の運動と感覚フィードバックとの因果関係である「再認スキーマ」が想定されており運動学習は運動課題の多様な経験に対するスキーマ(運動プログラム)の再組織化や改変によって達成されるシュミットはなぜ練習していない左手やペンを口にくわえても文字が書けるのかという謎に対してスキーマ理論を導入することで運動の長期記憶の理論化に一定の成功を収めた

脳の運動制御モデル20世紀後半の脳科学の進歩を集積してつくら

れたアレン(Allen)と塚原20)による「脳の運動制御モデル」によれば随意運動を発現するための頭頂葉の感覚情報が前頭葉の補足運動野や運動前

野に入力されそこで運動のプランとプログラムが大脳基底核と小脳の調節を経て形成され運動野に伝達された後運動野が脊髄の前角細胞に運動指令(motor command)を出して筋収縮が発現するとされている(図6)つまりある目的を達成する随意運動の脳内の神経情報(neural information)流れには運動のプランやプログラムを構築する「認知過程」と実際に運動を実行する「行為過程」が存在しているこの観点に立てば随意運動の最高中枢とされてきた運動野は単に運動を遂行する出口にすぎない随意運動の最高中枢は補足運動野と運動前野でありそこでは具体的な運動のプログラムが決定されている脳の運動制御モデルは随意運動のメカニズムを理解するうえできわめて重要である

図6 随意運動における神経情報の流れ(Allenと塚原1974)

感覚連合野(頭頂葉他)

意 志

体性感覚

大脳基底核

運動前野脊 髄 筋

補足運動野

小 脳

運動遂行運動プログラム

運動野

再生スキーマ(演繹的)

運動プラン

運動結果

再認スキーマ(帰納的)

運動結果

感覚フィードバック

図5 スキーマ理論(Schmidt 1975)

図16 筋皮神経(C5 6)および腋窩神経(C5 6)(Joseph 1982)

筋皮神経

腋窩神経

後枝

前枝

外側前腕皮神経

長頭

短頭上腕二頭筋

烏口腕筋

外側上腕皮神経

三角筋(上枝より)

上腕筋

筋皮神経小円筋後枝腋窩神経

橈骨神経尺骨神経

内側神経束後神経束外側神経束腕神経叢

図18 正中神経(C6~8 T1)(Joseph 1982)

第1および第2虫様筋

尺骨神経との吻合

方形回内筋

深指屈筋(橈側部)関節枝(2)

短母指屈筋(浅頭)

母指対立筋短母指外転筋母指球筋

長母指屈筋

浅指屈筋

橈側手根屈筋長掌筋円回内筋

屈-回内筋群

内側神経束外側神経束

単独支配域

知覚神経分布

図19 尺骨神経(C8 T1)(Joseph 1982)

正中神経参照

短母指屈筋(内側頭)

母指内転筋

正中神経参照

正中神経

尺側虫様筋掌側骨間筋背側骨間筋

23

4小指屈筋小指対立筋小指外転筋短掌筋

皮枝

尺骨神経

深指屈筋(内側12)

尺側手骨屈筋

内側上顆

上腕骨部(分枝なし)

内側神経束外側神経束 単独支配域

知覚神経分布

図17 橈骨神経(C6~8 T1)(Joseph 1982)

単独支配域

知覚神経分布

示指伸筋

短母指伸筋長母指伸筋

長母指外転筋回外筋

尺側手根伸筋小指伸筋総指伸筋

短橈側手根伸筋

深枝肘筋

長橈側手根伸筋腕橈骨筋

伸-回外筋群上腕筋長頭

外側頭上腕三頭筋

橈骨神経浅枝

後前腕皮皮神経

後上腕神経知覚枝上腕三頭筋の内側頭腋窩神経

内側神経束後神経束外側神経束

行為する人間

このような身体意識の成立の背景には前頭頭頂の神経ネットワークが特に重要な役割を担っているがこれは基本的に視覚や触覚といった外受容感覚のネットワークであり人間の自己感の形成にはさらに島皮質の特に右半球前部を中心とした内受容感覚のネットワークが重要である内受容感覚は皮膚や筋などから上行する体性神経信号と血行リンパ行性に上行する体液性の化学信号内臓感覚の自律神経信号によって構成されこれらの身体情報は体性感覚野島帯状皮質に到達したのちヒトで特に発達している前部島(anterior insula cortex)に統合される(図62)32)つまり自己感は視覚や触覚などの外受容感覚と内臓や血中の情報などの内受容感覚の両方のボトムアップ情報が統合されることが基盤となっているがこれらは理想的な状態を仮説的予測的に生成されるトップダウンモデルの随伴発射あるいは遠心性コピーと身体を介したオンラインのボトムアップ情報とが比較照合されなければならないそこで生じた予測誤差(prediction error)を最小化するべくまたモデルをアップデートするという循環によって統一的で整合性のある自己が維持される人間の運動制御と運動学習には身体と外部環境との相互関係を表象する内部モデルが必要とされておりそれには「順モデル(forward model)」と「逆モデル(inverse model)」があるたとえば視覚的に捉えた物体を目標とする時目標から逆算してそれを手にするのに必要な関節や筋の動きを推定するこれが逆モデルである一方実際にそれを行うと手がどのように動くかの予測が成立するこれが順モデルであるすなわち行為を行う際の目的目標に対しては逆モデルを用いて運動プログラムを立て必要な運動指令を生み出すそれをもとに実際に運動を行うがそれと同時にこの運動指令の遠心性コピー情報が身体運動の予測として順モデルを成立させる実際に運動を行うと同時にこの推定された逆モデルと予測される順モデルとが比較照合されることで

不一致があればその段階での修正が可能となるため外部環境や状況に応じた円滑で調節された運動の実行が可能となるまた順モデルで成立させた予測には運動の予測とともに「こういう運動を行えばこんな感じが生じるはずだ」という感覚の予測が含まれているため実際に生じた感覚の求心情報と一致することにより「これを行っているのは私である」という運動の主体感が生じるといえるまたこのような予測と実際の求心情報の不一致あるいは異なる求心情報間の不一致が生じた場合自分の身体自分の運動といった主体感が成立せず適切な運動プログラムの生成に影響を及ぼすことになる

ミラーニューロンシステム高次運動野である腹側運動前野にはつまむ握る引っかくといった特定の行為をコードしているニューロンがあるこれらは行為ごとに選択的な応答を示しまた対象の視覚提示だけでも活動するこれらのニューロンは感覚情報から運動

図62 外受容感覚と内受容感覚の内的モデル(Seth 2013)

望ましい推測された状態

覚醒ネットワーク

生成モデル

生成モデル 運動コントロール

外界

身体

外受容感覚予測誤差

内受容感覚予測誤差

自律神経系コントロール

随伴反射

図61 運動主体感の生成モデル予測である遠心性コピー情報と実際の感覚フィードバック情報が一致することによって運動主体感が生起される(Blakemoreら1999)

予測器

感覚運動システム

遠心性コピー 運動主体感 感覚誤差

実際の感覚フィードバック

一致

予測感覚フィードバック(随伴発射)

運動指令

「脳科学の世紀」の運動学この本の最大の特徴の一つが豊富な「脳神経 科学」についての内容です運動の理解に必要不可欠な脳神経科学の知識 を基礎から最新研究まで幅広く紹介し病態解釈や臨床思考に役立てることができます

08Human Kinesiology Human Kinesiology09

神経解剖学重要な神経構造の図表をくまなく記載しています

脳の運動制御随意運動運動制御の脳神経学的メカニズムについても詳細に解説しています

脳機能と脳障害各神経部位の機能特性の説明に加えその部位が損傷されることでどのような障害がもたらされるかについても詳細に解説していますまた高次脳機能障害についても様々な知見を紹介し臨床に役立てることができます

「人間の運動」の神経基盤「人間の運動」を生み出す脳の仕組みについて分かりやすく解説しています

最新研究の紹介脳科学の最新のトピックスについても豊富に紹介しています

人間の「錐体路」錐体路(pyramidal tract)あるいは皮質脊

髄路(corticospinal tract)は系統発生的に新しく哺乳類で初めて見られるようになりヒトで最もよく発達した脳内最大の下行性線維束である多くの異なる皮質領域に起始をもち前頭葉では一次運動野運動前野補足運動野帯状皮質運動野から頭頂葉では一次感覚野とさらに高次な57野に由来するまた錐体路の起始細胞は形状の特徴から錐体細胞(pyramidal

cell)といい特に一次運動野の巨大錐体細胞はBetz細胞と呼ばれすべて大脳皮質の第Ⅴ層に位置するこれら錐体路をなす軸索の起始細胞を錐体路ニューロン(PTNspyramidal tract neurons)という「錐体路」の名称は下行する際に延髄の錐体を通ることに由来しておりこれら起始細胞の名称に由来しているのではない大脳皮質の第Ⅴ層に起始した軸索は放線冠を形成し内包の前脚と後脚を通るが一次運動野からの線維はほとんど後脚を通って中脳に至る中脳では大脳脚を通り橋では橋核の間をいくつかの束に分かれて通過し延髄で再びまとまった束となる延髄下部ではおよそ90が対側へ交叉しておりこれを錐体交叉(pyramidal decussation)という交叉した線維は外側皮質脊髄路となって対

側の脊髄側索を下行し脊髄前角の主に四肢遠位の制御に関わる外側領域の運動ニューロンと中間層の介在ニューロンに終止する非交叉線維は前

[6]ヒトの行為と脳機能システム

図53 錐体路の走行(Baumlhrら2010)

C1ⅪⅫⅩⅨ

ⅦⅥⅤ

ⅣⅢ

運動終板

外側皮質脊髄路(交叉)

延髄

大脳脚皮質橋路

中脳

前皮質脊髄路(非交叉)錐体交叉

錐体

皮質脊髄路(錐体路)皮質核路

皮質中脳路尾状核(頭部)内包

レンズ核

視床尾状核(尾部)

第8野から

中心前回

[4] 運動制御のための下行路

人間の身体

[4] 運動制御のための下行路

には1m以上の長さに及ぶものもある特に運動野のベッツ巨大細胞からの軸索は大きく伝導速度が速いしかしながらその大きな軸索の錐体路に占める割合は3程度とわずかであり錐体路のほとんどは運動野の第5層にある錐体路細胞に起始している錐体路の大多数は延髄で錐体交叉し反対側の脊髄側索を下行する外側皮質脊髄路と交叉せずに脊髄前索を下行する前皮質脊髄路とに区分されている錐体交叉率は90以上であり特に手指の筋を支配する錐体路の交叉率は100近いとされている錐体路は個々の運動の個別性分別性分離性といった機能との関係がきわめて深く手指の巧緻動作や道具使用の特殊性の視点から「最も人間的なものである(Pyramidal tract is such a human

feature)」といわれているしかしながら運動野に起始する錐体路(皮質

脊髄路)は筋収縮を引き起こす脊髄前角の運動細胞にすべて直接投射しているわけではない運動野からの下行性の神経線維は脊髄後索の「介在ニューロン(spinal interneuron)」にも接続して「予測的に末梢からの感覚入力を調節する機能」を有していると主張する研究者もいるしたがって運動野は脊髄後索の介在ニューロンを介して体性感覚入力によって引き起こされる反射を制御していると考えられる(図25)50)

人間の巧緻的な運動はこれらの脊髄介在ニューロンを含んだ神経回路のネットワークによって達成されているその意味で錐体路は行為を予測的に制御する機能を有していると考えるべきであろう

[錐体路障害]錐体路障害では痙縮(spasticity)をきたす臨床上錐体路障害が顕著に出現するのは脳性麻痺の両麻痺(diplegia)脳卒中片麻痺(hemi-plegia)脊髄損傷による対麻痺(paraplegia)などであり痙性麻痺深部反射(腱反射)亢進バビンスキー反射陽性が錐体路徴候とされている特徴的な異常姿勢としては片麻痺におけるウェルニッケマン(Wernicke-Mann)肢位(図26)や脳性麻痺の鋏(ハサミ)状肢位(scissors posi-tion)が有名である(上肢屈筋下肢伸筋優位)51)また痙性麻痺に認められる筋緊張の亢進

(hypertone)折りたたみナイフ現象(clasp-knife

phenomenon)クローヌス(clonus)腱反射の亢進(hypertendon refl ex)などは錐体路損傷によって大脳皮質からの脊髄運動ニューロンへの抑制が弱まることで出現する解放現象と考えられているバビンスキー(Babinski)反射は正常な新生児でも出現するが錐体路損傷の指標として信頼できるものである足底を刺激すると母指が背屈し他の指が扇状に広がる現象であるなおサルで錐体路を実験的に切断すると個々の手指の巧緻運動ができなくなるが筋緊張の亢進や腱反射の亢進はほとんど認められないという

図26 片麻痺におけるウェルニッケマン肢位

図25 錐体路による反射の制御錐体路は前角の運動ニューロンだけでなく同時に脊髄介在ニューロンを支配して感覚ニューロンを予測的に制御する(Perfetti 1987)

具体的には予測的な運動プランと運動結果との因果関係である「再生スキーマ」と実際の運動と感覚フィードバックとの因果関係である「再認スキーマ」が想定されており運動学習は運動課題の多様な経験に対するスキーマ(運動プログラム)の再組織化や改変によって達成されるシュミットはなぜ練習していない左手やペンを口にくわえても文字が書けるのかという謎に対してスキーマ理論を導入することで運動の長期記憶の理論化に一定の成功を収めた

脳の運動制御モデル20世紀後半の脳科学の進歩を集積してつくられたアレン(Allen)と塚原20)による「脳の運動制御モデル」によれば随意運動を発現するための頭頂葉の感覚情報が前頭葉の補足運動野や運動前

野に入力されそこで運動のプランとプログラムが大脳基底核と小脳の調節を経て形成され運動野に伝達された後運動野が脊髄の前角細胞に運動指令(motor command)を出して筋収縮が発現するとされている(図6)つまりある目的を達成する随意運動の脳内の神経情報(neural information)流れには運動のプランやプログラムを構築する「認知過程」と実際に運動を実行する「行為過程」が存在しているこの観点に立てば随意運動の最高中枢とされてきた運動野は単に運動を遂行する出口にすぎない随意運動の最高中枢は補足運動野と運動前野でありそこでは具体的な運動のプログラムが決定されている脳の運動制御モデルは随意運動のメカニズムを理解するうえできわめて重要である

図6 随意運動における神経情報の流れ(Allenと塚原1974)

感覚連合野(頭頂葉他)

意 志

体性感覚

大脳基底核

運動前野脊 髄 筋

補足運動野

小 脳

運動遂行運動プログラム

運動野

再生スキーマ(演繹的)

運動プラン

運動結果

再認スキーマ(帰納的)

運動結果

感覚フィードバック

図5 スキーマ理論(Schmidt 1975)

図16 筋皮神経(C5 6)および腋窩神経(C5 6)(Joseph 1982)

筋皮神経

腋窩神経

後枝

前枝

外側前腕皮神経

長頭

短頭上腕二頭筋

烏口腕筋

外側上腕皮神経

三角筋(上枝より)

上腕筋

筋皮神経小円筋後枝腋窩神経

橈骨神経尺骨神経

内側神経束後神経束外側神経束腕神経叢

図18 正中神経(C6~8 T1)(Joseph 1982)

第1および第2虫様筋

尺骨神経との吻合

方形回内筋

深指屈筋(橈側部)関節枝(2)

短母指屈筋(浅頭)

母指対立筋短母指外転筋母指球筋

長母指屈筋

浅指屈筋

橈側手根屈筋長掌筋円回内筋

屈-回内筋群

内側神経束外側神経束

単独支配域

知覚神経分布

図19 尺骨神経(C8 T1)(Joseph 1982)

正中神経参照

短母指屈筋(内側頭)

母指内転筋

正中神経参照

正中神経

尺側虫様筋掌側骨間筋背側骨間筋

23

4小指屈筋小指対立筋小指外転筋短掌筋

皮枝

尺骨神経

深指屈筋(内側12)

尺側手骨屈筋

内側上顆

上腕骨部(分枝なし)

内側神経束外側神経束 単独支配域

知覚神経分布

図17 橈骨神経(C6~8 T1)(Joseph 1982)

単独支配域

知覚神経分布

示指伸筋

短母指伸筋長母指伸筋

長母指外転筋回外筋

尺側手根伸筋小指伸筋総指伸筋

短橈側手根伸筋

深枝肘筋

長橈側手根伸筋腕橈骨筋

伸-回外筋群上腕筋長頭

外側頭上腕三頭筋

橈骨神経浅枝

後前腕皮皮神経

後上腕神経知覚枝上腕三頭筋の内側頭腋窩神経

内側神経束後神経束外側神経束

行為する人間

このような身体意識の成立の背景には前頭頭頂の神経ネットワークが特に重要な役割を担っているがこれは基本的に視覚や触覚といった外受容感覚のネットワークであり人間の自己感の形成にはさらに島皮質の特に右半球前部を中心とした内受容感覚のネットワークが重要である内受容感覚は皮膚や筋などから上行する体性神経信号と血行リンパ行性に上行する体液性の化学信号内臓感覚の自律神経信号によって構成されこれらの身体情報は体性感覚野島帯状皮質に到達したのちヒトで特に発達している前部島(anterior insula cortex)に統合される(図62)32)つまり自己感は視覚や触覚などの外受容感覚と内臓や血中の情報などの内受容感覚の両方のボトムアップ情報が統合されることが基盤となっているがこれらは理想的な状態を仮説的予測的に生成されるトップダウンモデルの随伴発射あるいは遠心性コピーと身体を介したオンラインのボトムアップ情報とが比較照合されなければならないそこで生じた予測誤差(prediction error)を最小化するべくまたモデルをアップデートするという循環によって統一的で整合性のある自己が維持される人間の運動制御と運動学習には身体と外部環境との相互関係を表象する内部モデルが必要とされておりそれには「順モデル(forward model)」と「逆モデル(inverse model)」があるたとえば視覚的に捉えた物体を目標とする時目標から逆算してそれを手にするのに必要な関節や筋の動きを推定するこれが逆モデルである一方実際にそれを行うと手がどのように動くかの予測が成立するこれが順モデルであるすなわち行為を行う際の目的目標に対しては逆モデルを用いて運動プログラムを立て必要な運動指令を生み出すそれをもとに実際に運動を行うがそれと同時にこの運動指令の遠心性コピー情報が身体運動の予測として順モデルを成立させる実際に運動を行うと同時にこの推定された逆モデルと予測される順モデルとが比較照合されることで

不一致があればその段階での修正が可能となるため外部環境や状況に応じた円滑で調節された運動の実行が可能となるまた順モデルで成立させた予測には運動の予測とともに「こういう運動を行えばこんな感じが生じるはずだ」という感覚の予測が含まれているため実際に生じた感覚の求心情報と一致することにより「これを行っているのは私である」という運動の主体感が生じるといえるまたこのような予測と実際の求心情報の不一致あるいは異なる求心情報間の不一致が生じた場合自分の身体自分の運動といった主体感が成立せず適切な運動プログラムの生成に影響を及ぼすことになる

ミラーニューロンシステム高次運動野である腹側運動前野にはつまむ握る引っかくといった特定の行為をコードしているニューロンがあるこれらは行為ごとに選択的な応答を示しまた対象の視覚提示だけでも活動するこれらのニューロンは感覚情報から運動

図62 外受容感覚と内受容感覚の内的モデル(Seth 2013)

望ましい推測された状態

覚醒ネットワーク

生成モデル

生成モデル 運動コントロール

外界

身体

外受容感覚予測誤差

内受容感覚予測誤差

自律神経系コントロール

随伴反射

図61 運動主体感の生成モデル予測である遠心性コピー情報と実際の感覚フィードバック情報が一致することによって運動主体感が生起される(Blakemoreら1999)

予測器

感覚運動システム

遠心性コピー 運動主体感 感覚誤差

実際の感覚フィードバック

一致

予測感覚フィードバック(随伴発射)

運動指令

「脳科学の世紀」の運動学この本の最大の特徴の一つが豊富な「脳神経 科学」についての内容です運動の理解に必要不可欠な脳神経科学の知識 を基礎から最新研究まで幅広く紹介し病態解釈や臨床思考に役立てることができます

08Human Kinesiology Human Kinesiology09

神経解剖学重要な神経構造の図表をくまなく記載しています

脳の運動制御随意運動運動制御の脳神経学的メカニズムについても詳細に解説しています

脳機能と脳障害各神経部位の機能特性の説明に加えその部位が損傷されることでどのような障害がもたらされるかについても詳細に解説していますまた高次脳機能障害についても様々な知見を紹介し臨床に役立てることができます

「人間の運動」の神経基盤「人間の運動」を生み出す脳の仕組みについて分かりやすく解説しています

最新研究の紹介脳科学の最新のトピックスについても豊富に紹介しています

まったく新しい運動学の教科書

これが『人間の運動学』のコンセプトですここでいう「新しい」とは

今までの運動学とは別物という意味ではありません

解剖学生理学運動の力学的メカニズム関節運動学といった運動学の基礎となる知識を本書はくまなく網羅しています

そのうえで運動学では今まで扱われる事の無かった学際的な観点や近年新しく分かってきた最新の研究などを加えることで「運動学」をより良くアップデートすることが

本書の狙いです

その中心となるのは近年目覚ましい発展を遂げている脳神経科学そしてそれに伴って少しずつ明らかになってきた

「自己感覚」や「社会脳」をめぐる「意識」についての知識です人間の運動の背後にある神経作用

そしてその源である「身体化された心」までをも視野に入れた学問としての「新しい運動学」というヴィジョンを

本書は提示しています

人間の運動学

運動学

オートポイエーシス

ミラーニューロン社会脳

アフォーダンス

心の理論

行為システム

心の神経哲学

身体表象空間表象

身体所有感運動主体感

意識のハードプロブレム

解剖学

力学的メカニズム 関節運動学

運動発達学

生理学

運動学習

10Human Kinesiology Human Kinesiology11

まったく新しい運動学の教科書

これが『人間の運動学』のコンセプトですここでいう「新しい」とは

今までの運動学とは別物という意味ではありません

解剖学生理学運動の力学的メカニズム関節運動学といった運動学の基礎となる知識を本書はくまなく網羅しています

そのうえで運動学では今まで扱われる事の無かった学際的な観点や近年新しく分かってきた最新の研究などを加えることで「運動学」をより良くアップデートすることが

本書の狙いです

その中心となるのは近年目覚ましい発展を遂げている脳神経科学そしてそれに伴って少しずつ明らかになってきた

「自己感覚」や「社会脳」をめぐる「意識」についての知識です人間の運動の背後にある神経作用

そしてその源である「身体化された心」までをも視野に入れた学問としての「新しい運動学」というヴィジョンを

本書は提示しています

人間の運動学

運動学

オートポイエーシス

ミラーニューロン社会脳

アフォーダンス

心の理論

行為システム

心の神経哲学

身体表象空間表象

身体所有感運動主体感

意識のハードプロブレム

解剖学

力学的メカニズム 関節運動学

運動発達学

生理学

運動学習

10Human Kinesiology Human Kinesiology11

序章 「人間の運動」の誕生 ~サルからヒトへの奇跡

1人類の誕生2人間の運動の進化3 第1の運動革命~樹上生活での移動と手の使用

4 第2の運動革命~サバンナ生活による直立二足歩行と手の対立運動の発達

5手の進化6人間の営みとしての行為

第Ⅰ部 人間の身体第1章身体の解剖学1解剖学は「運動器」という概念を誕生させた2 身体は左右対称形だが「運動器」の変化によってさまざまな「姿勢」がつくられる

3骨は支持器官であり運動の可動性を決める4関節は連結器官であり運動の空間性をもたらす5靭帯は保護器官であり運動の安定性を与える6筋は実行器官であり運動の出現を可能にする7「人間機械論」の誕生

第2章身体の運動学1運動学は運動動作行為の「観察」から始まる2運動学には「キネマティクス」と「キネティクス」がある

3キネマティクスの基本4キネティクスの基本5立位における重心重心線アライメント基底面体重抗重力筋

6運動連鎖と筋収縮シークエンスを観察する7基本姿勢日常生活動作随意運動代償運動を観察する

8 19世紀の整形外科医と神経科医たちが運動学を進歩させた

第3章身体の神経学1随意運動のメカニズム2大脳皮質の機能局在3大脳皮質の運動制御機構4運動制御のための下行路5運動制御の感覚調節機構6大脳皮質の可塑性7皮質下の運動調節機構8脊髄の運動制御9発達と学習⓾社会脳としての心の器官

第4章身体の生理学1筋収縮のメカニズム2運動の感覚調節機構3運動時の内部環境を調整する呼吸循環4体力トレーニング

第Ⅱ部 運動する人間第5章肩関節の運動学1肩関節の基本事項2肩関節における運動学のポイント3肩関節の進化と機能の変遷

第6章肘関節と前腕の運動学1肘関節と前腕の基本事項

2肘関節と前腕における運動学のポイント3肘関節と前腕の進化と機能の変遷

第7章手関節の運動学1手関節の基本事項2手関節における運動学のポイント3手関節の進化と機能の変遷

第8章手指の運動学1手指の基本事項2手指における運動学のポイント3手指の進化と機能の変遷

第9章股関節の運動学1股関節の基本事項2股関節における運動学のポイント3股関節の進化と機能の変遷

第10章膝関節の運動学1膝関節の基本事項2膝関節における運動学のポイント3膝関節の進化と機能の変遷

第11章足関節と足部の運動学1足関節と足部の基本事項2足関節と足部における運動学のポイント3足関節と足部の進化と機能の変遷

第12章脊柱と頭部の運動学1脊柱の基本事項2脊柱における運動学のポイント3頭部の基本事項と運動学のポイント4脊柱と頭部の進化と機能の変遷

第Ⅲ部 動作する人間第13章発達の運動学1子どもの反射と反応2子どもの運動発達3運動発達と反射反応の関連性4手の運動発達5感覚運動統合6子どもの発達理論7自己意識の誕生

第14章姿勢と動作の運動学1姿勢2上肢の動作3寝返り動作4起き上がり動作5座位6立ち上がり動作7立位

第15章歩行の運動学1人間の歩行は巧緻運動である2歩行周期3パッセンジャーとロコモーター4関節運動と筋活動5重心移動6床反力7ロッカー機能と足圧の変化8歩行の開始停止方向転換9歩行分析⓾歩行の決定要因⓫歩行調節における3つのポイント⓬歩行調節における各関節の機能⓭歩行の障害⓮ヒトの二足移動の特徴

第Ⅳ部行為する人間第16章 行為のニューラルネット

ワーク1行為に向けられた観察者のまなざし2行為を生み出す神経システムの基礎3末梢神経系のニューラルネットワーク4中枢神経各部のニューラルネットワーク5脊髄反射のサーキット6ヒトの行為と脳機能システム

第17章行為の運動学習1運動学習が運動行動を生み出す2運動学習理論3運動学習における知覚の役割4運動学習における注意の役割5運動学習における記憶の役割6運動学習における感覚フィードバックの役割7運動学習における言語の役割8運動学習の転移と発達の最近接領域

第18章行為システム1行為はシステムによって制御されている2 ldquo認知する行為rdquoという捉え方3行為システムの階層性4上肢体幹下肢の行為システム5情報性の運動学へ

第Ⅴ部 身体化された心第19章 運動の鍵盤支配型モデル

を超えて1運動の鍵盤支配型モデルの誕生2頭のないカエル3反射から脳へ4生命の演ずる人形劇5ベルンシュタインの「運動制御理論」6アノーキンによる機能システムの概念7遠心性インパルスだけでは運動を制御することは不可能である

8 ldquo美しい音楽rdquoを奏でる「運動野のピアノ」には音符と和音がある

9人間はldquo無限の意図の自由度rdquoを奏でる

第20章空間を生きる1空間の誕生2身体表象3空間表象4身体空間5身体周辺空間6身体外空間7「私」というイメージ

第21章コミュニケーション行為1世界と対話するための行為2 ldquo指差しrdquoという行為3身振りとしての行為4道具使用という行為

第22章人間はldquo意識rdquoを動かして行為する1意識とは何だろうか2 ldquo意識の志向性rdquoとldquo志向的な関係性rdquo3意識による行為の制御4行為の発達学習回復のために5身体を生きる6身体化された心

終章ヒューマンパフォーマンス

人間の運動学ヒューマンキネシオロジー

目次

協同医書出版社 113-0033 東京都文京区本郷3-21-10Tel03-3818-2361Fax03-3818-2368 httpwwwkyodo-ishocojp

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人間の「錐体路」錐体路(pyramidal tract)あるいは皮質脊

髄路(corticospinal tract)は系統発生的に新しく哺乳類で初めて見られるようになりヒトで最もよく発達した脳内最大の下行性線維束である多くの異なる皮質領域に起始をもち前頭葉では一次運動野運動前野補足運動野帯状皮質運動野から頭頂葉では一次感覚野とさらに高次な57野に由来するまた錐体路の起始細胞は形状の特徴から錐体細胞(pyramidal

cell)といい特に一次運動野の巨大錐体細胞はBetz細胞と呼ばれすべて大脳皮質の第Ⅴ層に位置するこれら錐体路をなす軸索の起始細胞を錐体路ニューロン(PTNspyramidal tract neurons)という「錐体路」の名称は下行する際に延髄の錐体を通ることに由来しておりこれら起始細胞の名称に由来しているのではない大脳皮質の第Ⅴ層に起始した軸索は放線冠を形成し内包の前脚と後脚を通るが一次運動野からの線維はほとんど後脚を通って中脳に至る中脳では大脳脚を通り橋では橋核の間をいくつかの束に分かれて通過し延髄で再びまとまった束となる延髄下部ではおよそ90が対側へ交叉しておりこれを錐体交叉(pyramidal decussation)という交叉した線維は外側皮質脊髄路となって対

側の脊髄側索を下行し脊髄前角の主に四肢遠位の制御に関わる外側領域の運動ニューロンと中間層の介在ニューロンに終止する非交叉線維は前

[6]ヒトの行為と脳機能システム

図53 錐体路の走行(Baumlhrら2010)

C1ⅪⅫⅩⅨ

ⅦⅥⅤ

ⅣⅢ

運動終板

外側皮質脊髄路(交叉)

延髄

大脳脚皮質橋路

中脳

前皮質脊髄路(非交叉)錐体交叉

錐体

皮質脊髄路(錐体路)皮質核路

皮質中脳路尾状核(頭部)内包

レンズ核

視床尾状核(尾部)

第8野から

中心前回

[4] 運動制御のための下行路

人間の身体

[4] 運動制御のための下行路

には1m以上の長さに及ぶものもある特に運動野のベッツ巨大細胞からの軸索は大きく伝導速度が速いしかしながらその大きな軸索の錐体路に占める割合は3程度とわずかであり錐体路のほとんどは運動野の第5層にある錐体路細胞に起始している錐体路の大多数は延髄で錐体交叉し反対側の脊髄側索を下行する外側皮質脊髄路と交叉せずに脊髄前索を下行する前皮質脊髄路とに区分されている錐体交叉率は90以上であり特に手指の筋を支配する錐体路の交叉率は100近いとされている錐体路は個々の運動の個別性分別性分離性といった機能との関係がきわめて深く手指の巧緻動作や道具使用の特殊性の視点から「最も人間的なものである(Pyramidal tract is such a human

feature)」といわれているしかしながら運動野に起始する錐体路(皮質

脊髄路)は筋収縮を引き起こす脊髄前角の運動細胞にすべて直接投射しているわけではない運動野からの下行性の神経線維は脊髄後索の「介在ニューロン(spinal interneuron)」にも接続して「予測的に末梢からの感覚入力を調節する機能」を有していると主張する研究者もいるしたがって運動野は脊髄後索の介在ニューロンを介して体性感覚入力によって引き起こされる反射を制御していると考えられる(図25)50)

人間の巧緻的な運動はこれらの脊髄介在ニューロンを含んだ神経回路のネットワークによって達成されているその意味で錐体路は行為を予測的に制御する機能を有していると考えるべきであろう

[錐体路障害]錐体路障害では痙縮(spasticity)をきたす臨床上錐体路障害が顕著に出現するのは脳性麻痺の両麻痺(diplegia)脳卒中片麻痺(hemi-plegia)脊髄損傷による対麻痺(paraplegia)などであり痙性麻痺深部反射(腱反射)亢進バビンスキー反射陽性が錐体路徴候とされている特徴的な異常姿勢としては片麻痺におけるウェルニッケマン(Wernicke-Mann)肢位(図26)や脳性麻痺の鋏(ハサミ)状肢位(scissors posi-tion)が有名である(上肢屈筋下肢伸筋優位)51)また痙性麻痺に認められる筋緊張の亢進

(hypertone)折りたたみナイフ現象(clasp-knife

phenomenon)クローヌス(clonus)腱反射の亢進(hypertendon refl ex)などは錐体路損傷によって大脳皮質からの脊髄運動ニューロンへの抑制が弱まることで出現する解放現象と考えられているバビンスキー(Babinski)反射は正常な新生児で

も出現するが錐体路損傷の指標として信頼できるものである足底を刺激すると母指が背屈し他の指が扇状に広がる現象であるなおサルで錐体路を実験的に切断すると個々の手指の巧緻運動ができなくなるが筋緊張の亢進や腱反射の亢進はほとんど認められないという

図26 片麻痺におけるウェルニッケマン肢位

図25 錐体路による反射の制御錐体路は前角の運動ニューロンだけでなく同時に脊髄介在ニューロンを支配して感覚ニューロンを予測的に制御する(Perfetti 1987)

具体的には予測的な運動プランと運動結果との因果関係である「再生スキーマ」と実際の運動と感覚フィードバックとの因果関係である「再認スキーマ」が想定されており運動学習は運動課題の多様な経験に対するスキーマ(運動プログラム)の再組織化や改変によって達成されるシュミットはなぜ練習していない左手やペンを口にくわえても文字が書けるのかという謎に対してスキーマ理論を導入することで運動の長期記憶の理論化に一定の成功を収めた

脳の運動制御モデル20世紀後半の脳科学の進歩を集積してつくら

れたアレン(Allen)と塚原20)による「脳の運動制御モデル」によれば随意運動を発現するための頭頂葉の感覚情報が前頭葉の補足運動野や運動前

野に入力されそこで運動のプランとプログラムが大脳基底核と小脳の調節を経て形成され運動野に伝達された後運動野が脊髄の前角細胞に運動指令(motor command)を出して筋収縮が発現するとされている(図6)つまりある目的を達成する随意運動の脳内の神経情報(neural information)流れには運動のプランやプログラムを構築する「認知過程」と実際に運動を実行する「行為過程」が存在しているこの観点に立てば随意運動の最高中枢とされてきた運動野は単に運動を遂行する出口にすぎない随意運動の最高中枢は補足運動野と運動前野でありそこでは具体的な運動のプログラムが決定されている脳の運動制御モデルは随意運動のメカニズムを理解するうえできわめて重要である

図6 随意運動における神経情報の流れ(Allenと塚原1974)

感覚連合野(頭頂葉他)

意 志

体性感覚

大脳基底核

運動前野脊 髄 筋

補足運動野

小 脳

運動遂行運動プログラム

運動野

再生スキーマ(演繹的)

運動プラン

運動結果

再認スキーマ(帰納的)

運動結果

感覚フィードバック

図5 スキーマ理論(Schmidt 1975)

図16 筋皮神経(C5 6)および腋窩神経(C5 6)(Joseph 1982)

筋皮神経

腋窩神経

後枝

前枝

外側前腕皮神経

長頭

短頭上腕二頭筋

烏口腕筋

外側上腕皮神経

三角筋(上枝より)

上腕筋

筋皮神経小円筋後枝腋窩神経

橈骨神経尺骨神経

内側神経束後神経束外側神経束腕神経叢

図18 正中神経(C6~8 T1)(Joseph 1982)

第1および第2虫様筋

尺骨神経との吻合

方形回内筋

深指屈筋(橈側部)関節枝(2)

短母指屈筋(浅頭)

母指対立筋短母指外転筋母指球筋

長母指屈筋

浅指屈筋

橈側手根屈筋長掌筋円回内筋

屈-回内筋群

内側神経束外側神経束

単独支配域

知覚神経分布

図19 尺骨神経(C8 T1)(Joseph 1982)

正中神経参照

短母指屈筋(内側頭)

母指内転筋

正中神経参照

正中神経

尺側虫様筋掌側骨間筋背側骨間筋

23

4小指屈筋小指対立筋小指外転筋短掌筋

皮枝

尺骨神経

深指屈筋(内側12)

尺側手骨屈筋

内側上顆

上腕骨部(分枝なし)

内側神経束外側神経束 単独支配域

知覚神経分布

図17 橈骨神経(C6~8 T1)(Joseph 1982)

単独支配域

知覚神経分布

示指伸筋

短母指伸筋長母指伸筋

長母指外転筋回外筋

尺側手根伸筋小指伸筋総指伸筋

短橈側手根伸筋

深枝肘筋

長橈側手根伸筋腕橈骨筋

伸-回外筋群上腕筋長頭

外側頭上腕三頭筋

橈骨神経浅枝

後前腕皮皮神経

後上腕神経知覚枝上腕三頭筋の内側頭腋窩神経

内側神経束後神経束外側神経束

行為する人間

このような身体意識の成立の背景には前頭頭頂の神経ネットワークが特に重要な役割を担っているがこれは基本的に視覚や触覚といった外受容感覚のネットワークであり人間の自己感の形成にはさらに島皮質の特に右半球前部を中心とした内受容感覚のネットワークが重要である内受容感覚は皮膚や筋などから上行する体性神経信号と血行リンパ行性に上行する体液性の化学信号内臓感覚の自律神経信号によって構成されこれらの身体情報は体性感覚野島帯状皮質に到達したのちヒトで特に発達している前部島(anterior insula cortex)に統合される(図62)32)つまり自己感は視覚や触覚などの外受容感覚と内臓や血中の情報などの内受容感覚の両方のボトムアップ情報が統合されることが基盤となっているがこれらは理想的な状態を仮説的予測的に生成されるトップダウンモデルの随伴発射あるいは遠心性コピーと身体を介したオンラインのボトムアップ情報とが比較照合されなければならないそこで生じた予測誤差(prediction error)を最小化するべくまたモデルをアップデートするという循環によって統一的で整合性のある自己が維持される人間の運動制御と運動学習には身体と外部環境との相互関係を表象する内部モデルが必要とされておりそれには「順モデル(forward model)」と「逆モデル(inverse model)」があるたとえば視覚的に捉えた物体を目標とする時目標から逆算してそれを手にするのに必要な関節や筋の動きを推定するこれが逆モデルである一方実際にそれを行うと手がどのように動くかの予測が成立するこれが順モデルであるすなわち行為を行う際の目的目標に対しては逆モデルを用いて運動プログラムを立て必要な運動指令を生み出すそれをもとに実際に運動を行うがそれと同時にこの運動指令の遠心性コピー情報が身体運動の予測として順モデルを成立させる実際に運動を行うと同時にこの推定された逆モデルと予測される順モデルとが比較照合されることで

不一致があればその段階での修正が可能となるため外部環境や状況に応じた円滑で調節された運動の実行が可能となるまた順モデルで成立させた予測には運動の予測とともに「こういう運動を行えばこんな感じが生じるはずだ」という感覚の予測が含まれているため実際に生じた感覚の求心情報と一致することにより「これを行っているのは私である」という運動の主体感が生じるといえるまたこのような予測と実際の求心情報の不一致あるいは異なる求心情報間の不一致が生じた場合自分の身体自分の運動といった主体感が成立せず適切な運動プログラムの生成に影響を及ぼすことになる

ミラーニューロンシステム高次運動野である腹側運動前野にはつまむ握る引っかくといった特定の行為をコードしているニューロンがあるこれらは行為ごとに選択的な応答を示しまた対象の視覚提示だけでも活動するこれらのニューロンは感覚情報から運動

図62 外受容感覚と内受容感覚の内的モデル(Seth 2013)

望ましい推測された状態

覚醒ネットワーク

生成モデル

生成モデル 運動コントロール

外界

身体

外受容感覚予測誤差

内受容感覚予測誤差

自律神経系コントロール

随伴反射

図61 運動主体感の生成モデル予測である遠心性コピー情報と実際の感覚フィードバック情報が一致することによって運動主体感が生起される(Blakemoreら1999)

予測器

感覚運動システム

遠心性コピー 運動主体感 感覚誤差

実際の感覚フィードバック

一致

予測感覚フィードバック(随伴発射)

運動指令

「脳科学の世紀」の運動学この本の最大の特徴の一つが豊富な「脳神経 科学」についての内容です運動の理解に必要不可欠な脳神経科学の知識 を基礎から最新研究まで幅広く紹介し病態解釈や臨床思考に役立てることができます

08Human Kinesiology Human Kinesiology09

神経解剖学重要な神経構造の図表をくまなく記載しています

脳の運動制御随意運動運動制御の脳神経学的メカニズムについても詳細に解説しています

脳機能と脳障害各神経部位の機能特性の説明に加えその部位が損傷されることでどのような障害がもたらされるかについても詳細に解説していますまた高次脳機能障害についても様々な知見を紹介し臨床に役立てることができます

「人間の運動」の神経基盤「人間の運動」を生み出す脳の仕組みについて分かりやすく解説しています

最新研究の紹介脳科学の最新のトピックスについても豊富に紹介しています

人間の「錐体路」錐体路(pyramidal tract)あるいは皮質脊

髄路(corticospinal tract)は系統発生的に新しく哺乳類で初めて見られるようになりヒトで最もよく発達した脳内最大の下行性線維束である多くの異なる皮質領域に起始をもち前頭葉では一次運動野運動前野補足運動野帯状皮質運動野から頭頂葉では一次感覚野とさらに高次な57野に由来するまた錐体路の起始細胞は形状の特徴から錐体細胞(pyramidal

cell)といい特に一次運動野の巨大錐体細胞はBetz細胞と呼ばれすべて大脳皮質の第Ⅴ層に位置するこれら錐体路をなす軸索の起始細胞を錐体路ニューロン(PTNspyramidal tract neurons)という「錐体路」の名称は下行する際に延髄の錐体を通ることに由来しておりこれら起始細胞の名称に由来しているのではない大脳皮質の第Ⅴ層に起始した軸索は放線冠を形成し内包の前脚と後脚を通るが一次運動野からの線維はほとんど後脚を通って中脳に至る中脳では大脳脚を通り橋では橋核の間をいくつかの束に分かれて通過し延髄で再びまとまった束となる延髄下部ではおよそ90が対側へ交叉しておりこれを錐体交叉(pyramidal decussation)という交叉した線維は外側皮質脊髄路となって対

側の脊髄側索を下行し脊髄前角の主に四肢遠位の制御に関わる外側領域の運動ニューロンと中間層の介在ニューロンに終止する非交叉線維は前

[6]ヒトの行為と脳機能システム

図53 錐体路の走行(Baumlhrら2010)

C1ⅪⅫⅩⅨ

ⅦⅥⅤ

ⅣⅢ

運動終板

外側皮質脊髄路(交叉)

延髄

大脳脚皮質橋路

中脳

前皮質脊髄路(非交叉)錐体交叉

錐体

皮質脊髄路(錐体路)皮質核路

皮質中脳路尾状核(頭部)内包

レンズ核

視床尾状核(尾部)

第8野から

中心前回

[4] 運動制御のための下行路

人間の身体

[4] 運動制御のための下行路

には1m以上の長さに及ぶものもある特に運動野のベッツ巨大細胞からの軸索は大きく伝導速度が速いしかしながらその大きな軸索の錐体路に占める割合は3程度とわずかであり錐体路のほとんどは運動野の第5層にある錐体路細胞に起始している錐体路の大多数は延髄で錐体交叉し反対側の脊髄側索を下行する外側皮質脊髄路と交叉せずに脊髄前索を下行する前皮質脊髄路とに区分されている錐体交叉率は90以上であり特に手指の筋を支配する錐体路の交叉率は100近いとされている錐体路は個々の運動の個別性分別性分離性といった機能との関係がきわめて深く手指の巧緻動作や道具使用の特殊性の視点から「最も人間的なものである(Pyramidal tract is such a human

feature)」といわれているしかしながら運動野に起始する錐体路(皮質

脊髄路)は筋収縮を引き起こす脊髄前角の運動細胞にすべて直接投射しているわけではない運動野からの下行性の神経線維は脊髄後索の「介在ニューロン(spinal interneuron)」にも接続して「予測的に末梢からの感覚入力を調節する機能」を有していると主張する研究者もいるしたがって運動野は脊髄後索の介在ニューロンを介して体性感覚入力によって引き起こされる反射を制御していると考えられる(図25)50)

人間の巧緻的な運動はこれらの脊髄介在ニューロンを含んだ神経回路のネットワークによって達成されているその意味で錐体路は行為を予測的に制御する機能を有していると考えるべきであろう

[錐体路障害]錐体路障害では痙縮(spasticity)をきたす臨床上錐体路障害が顕著に出現するのは脳性麻痺の両麻痺(diplegia)脳卒中片麻痺(hemi-plegia)脊髄損傷による対麻痺(paraplegia)などであり痙性麻痺深部反射(腱反射)亢進バビンスキー反射陽性が錐体路徴候とされている特徴的な異常姿勢としては片麻痺におけるウェルニッケマン(Wernicke-Mann)肢位(図26)や脳性麻痺の鋏(ハサミ)状肢位(scissors posi-tion)が有名である(上肢屈筋下肢伸筋優位)51)また痙性麻痺に認められる筋緊張の亢進

(hypertone)折りたたみナイフ現象(clasp-knife

phenomenon)クローヌス(clonus)腱反射の亢進(hypertendon refl ex)などは錐体路損傷によって大脳皮質からの脊髄運動ニューロンへの抑制が弱まることで出現する解放現象と考えられているバビンスキー(Babinski)反射は正常な新生児でも出現するが錐体路損傷の指標として信頼できるものである足底を刺激すると母指が背屈し他の指が扇状に広がる現象であるなおサルで錐体路を実験的に切断すると個々の手指の巧緻運動ができなくなるが筋緊張の亢進や腱反射の亢進はほとんど認められないという

図26 片麻痺におけるウェルニッケマン肢位

図25 錐体路による反射の制御錐体路は前角の運動ニューロンだけでなく同時に脊髄介在ニューロンを支配して感覚ニューロンを予測的に制御する(Perfetti 1987)

具体的には予測的な運動プランと運動結果との因果関係である「再生スキーマ」と実際の運動と感覚フィードバックとの因果関係である「再認スキーマ」が想定されており運動学習は運動課題の多様な経験に対するスキーマ(運動プログラム)の再組織化や改変によって達成されるシュミットはなぜ練習していない左手やペンを口にくわえても文字が書けるのかという謎に対してスキーマ理論を導入することで運動の長期記憶の理論化に一定の成功を収めた

脳の運動制御モデル20世紀後半の脳科学の進歩を集積してつくられたアレン(Allen)と塚原20)による「脳の運動制御モデル」によれば随意運動を発現するための頭頂葉の感覚情報が前頭葉の補足運動野や運動前

野に入力されそこで運動のプランとプログラムが大脳基底核と小脳の調節を経て形成され運動野に伝達された後運動野が脊髄の前角細胞に運動指令(motor command)を出して筋収縮が発現するとされている(図6)つまりある目的を達成する随意運動の脳内の神経情報(neural information)流れには運動のプランやプログラムを構築する「認知過程」と実際に運動を実行する「行為過程」が存在しているこの観点に立てば随意運動の最高中枢とされてきた運動野は単に運動を遂行する出口にすぎない随意運動の最高中枢は補足運動野と運動前野でありそこでは具体的な運動のプログラムが決定されている脳の運動制御モデルは随意運動のメカニズムを理解するうえできわめて重要である

図6 随意運動における神経情報の流れ(Allenと塚原1974)

感覚連合野(頭頂葉他)

意 志

体性感覚

大脳基底核

運動前野脊 髄 筋

補足運動野

小 脳

運動遂行運動プログラム

運動野

再生スキーマ(演繹的)

運動プラン

運動結果

再認スキーマ(帰納的)

運動結果

感覚フィードバック

図5 スキーマ理論(Schmidt 1975)

図16 筋皮神経(C5 6)および腋窩神経(C5 6)(Joseph 1982)

筋皮神経

腋窩神経

後枝

前枝

外側前腕皮神経

長頭

短頭上腕二頭筋

烏口腕筋

外側上腕皮神経

三角筋(上枝より)

上腕筋

筋皮神経小円筋後枝腋窩神経

橈骨神経尺骨神経

内側神経束後神経束外側神経束腕神経叢

図18 正中神経(C6~8 T1)(Joseph 1982)

第1および第2虫様筋

尺骨神経との吻合

方形回内筋

深指屈筋(橈側部)関節枝(2)

短母指屈筋(浅頭)

母指対立筋短母指外転筋母指球筋

長母指屈筋

浅指屈筋

橈側手根屈筋長掌筋円回内筋

屈-回内筋群

内側神経束外側神経束

単独支配域

知覚神経分布

図19 尺骨神経(C8 T1)(Joseph 1982)

正中神経参照

短母指屈筋(内側頭)

母指内転筋

正中神経参照

正中神経

尺側虫様筋掌側骨間筋背側骨間筋

23

4小指屈筋小指対立筋小指外転筋短掌筋

皮枝

尺骨神経

深指屈筋(内側12)

尺側手骨屈筋

内側上顆

上腕骨部(分枝なし)

内側神経束外側神経束 単独支配域

知覚神経分布

図17 橈骨神経(C6~8 T1)(Joseph 1982)

単独支配域

知覚神経分布

示指伸筋

短母指伸筋長母指伸筋

長母指外転筋回外筋

尺側手根伸筋小指伸筋総指伸筋

短橈側手根伸筋

深枝肘筋

長橈側手根伸筋腕橈骨筋

伸-回外筋群上腕筋長頭

外側頭上腕三頭筋

橈骨神経浅枝

後前腕皮皮神経

後上腕神経知覚枝上腕三頭筋の内側頭腋窩神経

内側神経束後神経束外側神経束

行為する人間

このような身体意識の成立の背景には前頭頭頂の神経ネットワークが特に重要な役割を担っているがこれは基本的に視覚や触覚といった外受容感覚のネットワークであり人間の自己感の形成にはさらに島皮質の特に右半球前部を中心とした内受容感覚のネットワークが重要である内受容感覚は皮膚や筋などから上行する体性神経信号と血行リンパ行性に上行する体液性の化学信号内臓感覚の自律神経信号によって構成されこれらの身体情報は体性感覚野島帯状皮質に到達したのちヒトで特に発達している前部島(anterior insula cortex)に統合される(図62)32)つまり自己感は視覚や触覚などの外受容感覚と内臓や血中の情報などの内受容感覚の両方のボトムアップ情報が統合されることが基盤となっているがこれらは理想的な状態を仮説的予測的に生成されるトップダウンモデルの随伴発射あるいは遠心性コピーと身体を介したオンラインのボトムアップ情報とが比較照合されなければならないそこで生じた予測誤差(prediction error)を最小化するべくまたモデルをアップデートするという循環によって統一的で整合性のある自己が維持される人間の運動制御と運動学習には身体と外部環境との相互関係を表象する内部モデルが必要とされておりそれには「順モデル(forward model)」と「逆モデル(inverse model)」があるたとえば視覚的に捉えた物体を目標とする時目標から逆算してそれを手にするのに必要な関節や筋の動きを推定するこれが逆モデルである一方実際にそれを行うと手がどのように動くかの予測が成立するこれが順モデルであるすなわち行為を行う際の目的目標に対しては逆モデルを用いて運動プログラムを立て必要な運動指令を生み出すそれをもとに実際に運動を行うがそれと同時にこの運動指令の遠心性コピー情報が身体運動の予測として順モデルを成立させる実際に運動を行うと同時にこの推定された逆モデルと予測される順モデルとが比較照合されることで

不一致があればその段階での修正が可能となるため外部環境や状況に応じた円滑で調節された運動の実行が可能となるまた順モデルで成立させた予測には運動の予測とともに「こういう運動を行えばこんな感じが生じるはずだ」という感覚の予測が含まれているため実際に生じた感覚の求心情報と一致することにより「これを行っているのは私である」という運動の主体感が生じるといえるまたこのような予測と実際の求心情報の不一致あるいは異なる求心情報間の不一致が生じた場合自分の身体自分の運動といった主体感が成立せず適切な運動プログラムの生成に影響を及ぼすことになる

ミラーニューロンシステム高次運動野である腹側運動前野にはつまむ握る引っかくといった特定の行為をコードしているニューロンがあるこれらは行為ごとに選択的な応答を示しまた対象の視覚提示だけでも活動するこれらのニューロンは感覚情報から運動

図62 外受容感覚と内受容感覚の内的モデル(Seth 2013)

望ましい推測された状態

覚醒ネットワーク

生成モデル

生成モデル 運動コントロール

外界

身体

外受容感覚予測誤差

内受容感覚予測誤差

自律神経系コントロール

随伴反射

図61 運動主体感の生成モデル予測である遠心性コピー情報と実際の感覚フィードバック情報が一致することによって運動主体感が生起される(Blakemoreら1999)

予測器

感覚運動システム

遠心性コピー 運動主体感 感覚誤差

実際の感覚フィードバック

一致

予測感覚フィードバック(随伴発射)

運動指令

「脳科学の世紀」の運動学この本の最大の特徴の一つが豊富な「脳神経 科学」についての内容です運動の理解に必要不可欠な脳神経科学の知識 を基礎から最新研究まで幅広く紹介し病態解釈や臨床思考に役立てることができます

08Human Kinesiology Human Kinesiology09

神経解剖学重要な神経構造の図表をくまなく記載しています

脳の運動制御随意運動運動制御の脳神経学的メカニズムについても詳細に解説しています

脳機能と脳障害各神経部位の機能特性の説明に加えその部位が損傷されることでどのような障害がもたらされるかについても詳細に解説していますまた高次脳機能障害についても様々な知見を紹介し臨床に役立てることができます

「人間の運動」の神経基盤「人間の運動」を生み出す脳の仕組みについて分かりやすく解説しています

最新研究の紹介脳科学の最新のトピックスについても豊富に紹介しています

まったく新しい運動学の教科書

これが『人間の運動学』のコンセプトですここでいう「新しい」とは

今までの運動学とは別物という意味ではありません

解剖学生理学運動の力学的メカニズム関節運動学といった運動学の基礎となる知識を本書はくまなく網羅しています

そのうえで運動学では今まで扱われる事の無かった学際的な観点や近年新しく分かってきた最新の研究などを加えることで「運動学」をより良くアップデートすることが

本書の狙いです

その中心となるのは近年目覚ましい発展を遂げている脳神経科学そしてそれに伴って少しずつ明らかになってきた

「自己感覚」や「社会脳」をめぐる「意識」についての知識です人間の運動の背後にある神経作用

そしてその源である「身体化された心」までをも視野に入れた学問としての「新しい運動学」というヴィジョンを

本書は提示しています

人間の運動学

運動学

オートポイエーシス

ミラーニューロン社会脳

アフォーダンス

心の理論

行為システム

心の神経哲学

身体表象空間表象

身体所有感運動主体感

意識のハードプロブレム

解剖学

力学的メカニズム 関節運動学

運動発達学

生理学

運動学習

10Human Kinesiology Human Kinesiology11

まったく新しい運動学の教科書

これが『人間の運動学』のコンセプトですここでいう「新しい」とは

今までの運動学とは別物という意味ではありません

解剖学生理学運動の力学的メカニズム関節運動学といった運動学の基礎となる知識を本書はくまなく網羅しています

そのうえで運動学では今まで扱われる事の無かった学際的な観点や近年新しく分かってきた最新の研究などを加えることで「運動学」をより良くアップデートすることが

本書の狙いです

その中心となるのは近年目覚ましい発展を遂げている脳神経科学そしてそれに伴って少しずつ明らかになってきた

「自己感覚」や「社会脳」をめぐる「意識」についての知識です人間の運動の背後にある神経作用

そしてその源である「身体化された心」までをも視野に入れた学問としての「新しい運動学」というヴィジョンを

本書は提示しています

人間の運動学

運動学

オートポイエーシス

ミラーニューロン社会脳

アフォーダンス

心の理論

行為システム

心の神経哲学

身体表象空間表象

身体所有感運動主体感

意識のハードプロブレム

解剖学

力学的メカニズム 関節運動学

運動発達学

生理学

運動学習

10Human Kinesiology Human Kinesiology11

序章 「人間の運動」の誕生 ~サルからヒトへの奇跡

1人類の誕生2人間の運動の進化3 第1の運動革命~樹上生活での移動と手の使用

4 第2の運動革命~サバンナ生活による直立二足歩行と手の対立運動の発達

5手の進化6人間の営みとしての行為

第Ⅰ部 人間の身体第1章身体の解剖学1解剖学は「運動器」という概念を誕生させた2 身体は左右対称形だが「運動器」の変化によってさまざまな「姿勢」がつくられる

3骨は支持器官であり運動の可動性を決める4関節は連結器官であり運動の空間性をもたらす5靭帯は保護器官であり運動の安定性を与える6筋は実行器官であり運動の出現を可能にする7「人間機械論」の誕生

第2章身体の運動学1運動学は運動動作行為の「観察」から始まる2運動学には「キネマティクス」と「キネティクス」がある

3キネマティクスの基本4キネティクスの基本5立位における重心重心線アライメント基底面体重抗重力筋

6運動連鎖と筋収縮シークエンスを観察する7基本姿勢日常生活動作随意運動代償運動を観察する

8 19世紀の整形外科医と神経科医たちが運動学を進歩させた

第3章身体の神経学1随意運動のメカニズム2大脳皮質の機能局在3大脳皮質の運動制御機構4運動制御のための下行路5運動制御の感覚調節機構6大脳皮質の可塑性7皮質下の運動調節機構8脊髄の運動制御9発達と学習⓾社会脳としての心の器官

第4章身体の生理学1筋収縮のメカニズム2運動の感覚調節機構3運動時の内部環境を調整する呼吸循環4体力トレーニング

第Ⅱ部 運動する人間第5章肩関節の運動学1肩関節の基本事項2肩関節における運動学のポイント3肩関節の進化と機能の変遷

第6章肘関節と前腕の運動学1肘関節と前腕の基本事項

2肘関節と前腕における運動学のポイント3肘関節と前腕の進化と機能の変遷

第7章手関節の運動学1手関節の基本事項2手関節における運動学のポイント3手関節の進化と機能の変遷

第8章手指の運動学1手指の基本事項2手指における運動学のポイント3手指の進化と機能の変遷

第9章股関節の運動学1股関節の基本事項2股関節における運動学のポイント3股関節の進化と機能の変遷

第10章膝関節の運動学1膝関節の基本事項2膝関節における運動学のポイント3膝関節の進化と機能の変遷

第11章足関節と足部の運動学1足関節と足部の基本事項2足関節と足部における運動学のポイント3足関節と足部の進化と機能の変遷

第12章脊柱と頭部の運動学1脊柱の基本事項2脊柱における運動学のポイント3頭部の基本事項と運動学のポイント4脊柱と頭部の進化と機能の変遷

第Ⅲ部 動作する人間第13章発達の運動学1子どもの反射と反応2子どもの運動発達3運動発達と反射反応の関連性4手の運動発達5感覚運動統合6子どもの発達理論7自己意識の誕生

第14章姿勢と動作の運動学1姿勢2上肢の動作3寝返り動作4起き上がり動作5座位6立ち上がり動作7立位

第15章歩行の運動学1人間の歩行は巧緻運動である2歩行周期3パッセンジャーとロコモーター4関節運動と筋活動5重心移動6床反力7ロッカー機能と足圧の変化8歩行の開始停止方向転換9歩行分析⓾歩行の決定要因⓫歩行調節における3つのポイント⓬歩行調節における各関節の機能⓭歩行の障害⓮ヒトの二足移動の特徴

第Ⅳ部行為する人間第16章 行為のニューラルネット

ワーク1行為に向けられた観察者のまなざし2行為を生み出す神経システムの基礎3末梢神経系のニューラルネットワーク4中枢神経各部のニューラルネットワーク5脊髄反射のサーキット6ヒトの行為と脳機能システム

第17章行為の運動学習1運動学習が運動行動を生み出す2運動学習理論3運動学習における知覚の役割4運動学習における注意の役割5運動学習における記憶の役割6運動学習における感覚フィードバックの役割7運動学習における言語の役割8運動学習の転移と発達の最近接領域

第18章行為システム1行為はシステムによって制御されている2 ldquo認知する行為rdquoという捉え方3行為システムの階層性4上肢体幹下肢の行為システム5情報性の運動学へ

第Ⅴ部 身体化された心第19章 運動の鍵盤支配型モデル

を超えて1運動の鍵盤支配型モデルの誕生2頭のないカエル3反射から脳へ4生命の演ずる人形劇5ベルンシュタインの「運動制御理論」6アノーキンによる機能システムの概念7遠心性インパルスだけでは運動を制御することは不可能である

8 ldquo美しい音楽rdquoを奏でる「運動野のピアノ」には音符と和音がある

9人間はldquo無限の意図の自由度rdquoを奏でる

第20章空間を生きる1空間の誕生2身体表象3空間表象4身体空間5身体周辺空間6身体外空間7「私」というイメージ

第21章コミュニケーション行為1世界と対話するための行為2 ldquo指差しrdquoという行為3身振りとしての行為4道具使用という行為

第22章人間はldquo意識rdquoを動かして行為する1意識とは何だろうか2 ldquo意識の志向性rdquoとldquo志向的な関係性rdquo3意識による行為の制御4行為の発達学習回復のために5身体を生きる6身体化された心

終章ヒューマンパフォーマンス

人間の運動学ヒューマンキネシオロジー

目次

協同医書出版社 113-0033 東京都文京区本郷3-21-10Tel03-3818-2361Fax03-3818-2368 httpwwwkyodo-ishocojp

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まったく新しい運動学の教科書

これが『人間の運動学』のコンセプトですここでいう「新しい」とは

今までの運動学とは別物という意味ではありません

解剖学生理学運動の力学的メカニズム関節運動学といった運動学の基礎となる知識を本書はくまなく網羅しています

そのうえで運動学では今まで扱われる事の無かった学際的な観点や近年新しく分かってきた最新の研究などを加えることで「運動学」をより良くアップデートすることが

本書の狙いです

その中心となるのは近年目覚ましい発展を遂げている脳神経科学そしてそれに伴って少しずつ明らかになってきた

「自己感覚」や「社会脳」をめぐる「意識」についての知識です人間の運動の背後にある神経作用

そしてその源である「身体化された心」までをも視野に入れた学問としての「新しい運動学」というヴィジョンを

本書は提示しています

人間の運動学

運動学

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身体表象空間表象

身体所有感運動主体感

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解剖学

力学的メカニズム 関節運動学

運動発達学

生理学

運動学習

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まったく新しい運動学の教科書

これが『人間の運動学』のコンセプトですここでいう「新しい」とは

今までの運動学とは別物という意味ではありません

解剖学生理学運動の力学的メカニズム関節運動学といった運動学の基礎となる知識を本書はくまなく網羅しています

そのうえで運動学では今まで扱われる事の無かった学際的な観点や近年新しく分かってきた最新の研究などを加えることで「運動学」をより良くアップデートすることが

本書の狙いです

その中心となるのは近年目覚ましい発展を遂げている脳神経科学そしてそれに伴って少しずつ明らかになってきた

「自己感覚」や「社会脳」をめぐる「意識」についての知識です人間の運動の背後にある神経作用

そしてその源である「身体化された心」までをも視野に入れた学問としての「新しい運動学」というヴィジョンを

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人間の運動学

運動学

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心の理論

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心の神経哲学

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身体所有感運動主体感

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生理学

運動学習

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序章 「人間の運動」の誕生 ~サルからヒトへの奇跡

1人類の誕生2人間の運動の進化3 第1の運動革命~樹上生活での移動と手の使用

4 第2の運動革命~サバンナ生活による直立二足歩行と手の対立運動の発達

5手の進化6人間の営みとしての行為

第Ⅰ部 人間の身体第1章身体の解剖学1解剖学は「運動器」という概念を誕生させた2 身体は左右対称形だが「運動器」の変化によってさまざまな「姿勢」がつくられる

3骨は支持器官であり運動の可動性を決める4関節は連結器官であり運動の空間性をもたらす5靭帯は保護器官であり運動の安定性を与える6筋は実行器官であり運動の出現を可能にする7「人間機械論」の誕生

第2章身体の運動学1運動学は運動動作行為の「観察」から始まる2運動学には「キネマティクス」と「キネティクス」がある

3キネマティクスの基本4キネティクスの基本5立位における重心重心線アライメント基底面体重抗重力筋

6運動連鎖と筋収縮シークエンスを観察する7基本姿勢日常生活動作随意運動代償運動を観察する

8 19世紀の整形外科医と神経科医たちが運動学を進歩させた

第3章身体の神経学1随意運動のメカニズム2大脳皮質の機能局在3大脳皮質の運動制御機構4運動制御のための下行路5運動制御の感覚調節機構6大脳皮質の可塑性7皮質下の運動調節機構8脊髄の運動制御9発達と学習⓾社会脳としての心の器官

第4章身体の生理学1筋収縮のメカニズム2運動の感覚調節機構3運動時の内部環境を調整する呼吸循環4体力トレーニング

第Ⅱ部 運動する人間第5章肩関節の運動学1肩関節の基本事項2肩関節における運動学のポイント3肩関節の進化と機能の変遷

第6章肘関節と前腕の運動学1肘関節と前腕の基本事項

2肘関節と前腕における運動学のポイント3肘関節と前腕の進化と機能の変遷

第7章手関節の運動学1手関節の基本事項2手関節における運動学のポイント3手関節の進化と機能の変遷

第8章手指の運動学1手指の基本事項2手指における運動学のポイント3手指の進化と機能の変遷

第9章股関節の運動学1股関節の基本事項2股関節における運動学のポイント3股関節の進化と機能の変遷

第10章膝関節の運動学1膝関節の基本事項2膝関節における運動学のポイント3膝関節の進化と機能の変遷

第11章足関節と足部の運動学1足関節と足部の基本事項2足関節と足部における運動学のポイント3足関節と足部の進化と機能の変遷

第12章脊柱と頭部の運動学1脊柱の基本事項2脊柱における運動学のポイント3頭部の基本事項と運動学のポイント4脊柱と頭部の進化と機能の変遷

第Ⅲ部 動作する人間第13章発達の運動学1子どもの反射と反応2子どもの運動発達3運動発達と反射反応の関連性4手の運動発達5感覚運動統合6子どもの発達理論7自己意識の誕生

第14章姿勢と動作の運動学1姿勢2上肢の動作3寝返り動作4起き上がり動作5座位6立ち上がり動作7立位

第15章歩行の運動学1人間の歩行は巧緻運動である2歩行周期3パッセンジャーとロコモーター4関節運動と筋活動5重心移動6床反力7ロッカー機能と足圧の変化8歩行の開始停止方向転換9歩行分析⓾歩行の決定要因⓫歩行調節における3つのポイント⓬歩行調節における各関節の機能⓭歩行の障害⓮ヒトの二足移動の特徴

第Ⅳ部行為する人間第16章 行為のニューラルネット

ワーク1行為に向けられた観察者のまなざし2行為を生み出す神経システムの基礎3末梢神経系のニューラルネットワーク4中枢神経各部のニューラルネットワーク5脊髄反射のサーキット6ヒトの行為と脳機能システム

第17章行為の運動学習1運動学習が運動行動を生み出す2運動学習理論3運動学習における知覚の役割4運動学習における注意の役割5運動学習における記憶の役割6運動学習における感覚フィードバックの役割7運動学習における言語の役割8運動学習の転移と発達の最近接領域

第18章行為システム1行為はシステムによって制御されている2 ldquo認知する行為rdquoという捉え方3行為システムの階層性4上肢体幹下肢の行為システム5情報性の運動学へ

第Ⅴ部 身体化された心第19章 運動の鍵盤支配型モデル

を超えて1運動の鍵盤支配型モデルの誕生2頭のないカエル3反射から脳へ4生命の演ずる人形劇5ベルンシュタインの「運動制御理論」6アノーキンによる機能システムの概念7遠心性インパルスだけでは運動を制御することは不可能である

8 ldquo美しい音楽rdquoを奏でる「運動野のピアノ」には音符と和音がある

9人間はldquo無限の意図の自由度rdquoを奏でる

第20章空間を生きる1空間の誕生2身体表象3空間表象4身体空間5身体周辺空間6身体外空間7「私」というイメージ

第21章コミュニケーション行為1世界と対話するための行為2 ldquo指差しrdquoという行為3身振りとしての行為4道具使用という行為

第22章人間はldquo意識rdquoを動かして行為する1意識とは何だろうか2 ldquo意識の志向性rdquoとldquo志向的な関係性rdquo3意識による行為の制御4行為の発達学習回復のために5身体を生きる6身体化された心

終章ヒューマンパフォーマンス

人間の運動学ヒューマンキネシオロジー

目次

協同医書出版社 113-0033 東京都文京区本郷3-21-10Tel03-3818-2361Fax03-3818-2368 httpwwwkyodo-ishocojp

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序章 「人間の運動」の誕生 ~サルからヒトへの奇跡

1人類の誕生2人間の運動の進化3 第1の運動革命~樹上生活での移動と手の使用

4 第2の運動革命~サバンナ生活による直立二足歩行と手の対立運動の発達

5手の進化6人間の営みとしての行為

第Ⅰ部 人間の身体第1章身体の解剖学1解剖学は「運動器」という概念を誕生させた2 身体は左右対称形だが「運動器」の変化によってさまざまな「姿勢」がつくられる

3骨は支持器官であり運動の可動性を決める4関節は連結器官であり運動の空間性をもたらす5靭帯は保護器官であり運動の安定性を与える6筋は実行器官であり運動の出現を可能にする7「人間機械論」の誕生

第2章身体の運動学1運動学は運動動作行為の「観察」から始まる2運動学には「キネマティクス」と「キネティクス」がある

3キネマティクスの基本4キネティクスの基本5立位における重心重心線アライメント基底面体重抗重力筋

6運動連鎖と筋収縮シークエンスを観察する7基本姿勢日常生活動作随意運動代償運動を観察する

8 19世紀の整形外科医と神経科医たちが運動学を進歩させた

第3章身体の神経学1随意運動のメカニズム2大脳皮質の機能局在3大脳皮質の運動制御機構4運動制御のための下行路5運動制御の感覚調節機構6大脳皮質の可塑性7皮質下の運動調節機構8脊髄の運動制御9発達と学習⓾社会脳としての心の器官

第4章身体の生理学1筋収縮のメカニズム2運動の感覚調節機構3運動時の内部環境を調整する呼吸循環4体力トレーニング

第Ⅱ部 運動する人間第5章肩関節の運動学1肩関節の基本事項2肩関節における運動学のポイント3肩関節の進化と機能の変遷

第6章肘関節と前腕の運動学1肘関節と前腕の基本事項

2肘関節と前腕における運動学のポイント3肘関節と前腕の進化と機能の変遷

第7章手関節の運動学1手関節の基本事項2手関節における運動学のポイント3手関節の進化と機能の変遷

第8章手指の運動学1手指の基本事項2手指における運動学のポイント3手指の進化と機能の変遷

第9章股関節の運動学1股関節の基本事項2股関節における運動学のポイント3股関節の進化と機能の変遷

第10章膝関節の運動学1膝関節の基本事項2膝関節における運動学のポイント3膝関節の進化と機能の変遷

第11章足関節と足部の運動学1足関節と足部の基本事項2足関節と足部における運動学のポイント3足関節と足部の進化と機能の変遷

第12章脊柱と頭部の運動学1脊柱の基本事項2脊柱における運動学のポイント3頭部の基本事項と運動学のポイント4脊柱と頭部の進化と機能の変遷

第Ⅲ部 動作する人間第13章発達の運動学1子どもの反射と反応2子どもの運動発達3運動発達と反射反応の関連性4手の運動発達5感覚運動統合6子どもの発達理論7自己意識の誕生

第14章姿勢と動作の運動学1姿勢2上肢の動作3寝返り動作4起き上がり動作5座位6立ち上がり動作7立位

第15章歩行の運動学1人間の歩行は巧緻運動である2歩行周期3パッセンジャーとロコモーター4関節運動と筋活動5重心移動6床反力7ロッカー機能と足圧の変化8歩行の開始停止方向転換9歩行分析⓾歩行の決定要因⓫歩行調節における3つのポイント⓬歩行調節における各関節の機能⓭歩行の障害⓮ヒトの二足移動の特徴

第Ⅳ部行為する人間第16章 行為のニューラルネット

ワーク1行為に向けられた観察者のまなざし2行為を生み出す神経システムの基礎3末梢神経系のニューラルネットワーク4中枢神経各部のニューラルネットワーク5脊髄反射のサーキット6ヒトの行為と脳機能システム

第17章行為の運動学習1運動学習が運動行動を生み出す2運動学習理論3運動学習における知覚の役割4運動学習における注意の役割5運動学習における記憶の役割6運動学習における感覚フィードバックの役割7運動学習における言語の役割8運動学習の転移と発達の最近接領域

第18章行為システム1行為はシステムによって制御されている2 ldquo認知する行為rdquoという捉え方3行為システムの階層性4上肢体幹下肢の行為システム5情報性の運動学へ

第Ⅴ部 身体化された心第19章 運動の鍵盤支配型モデル

を超えて1運動の鍵盤支配型モデルの誕生2頭のないカエル3反射から脳へ4生命の演ずる人形劇5ベルンシュタインの「運動制御理論」6アノーキンによる機能システムの概念7遠心性インパルスだけでは運動を制御することは不可能である

8 ldquo美しい音楽rdquoを奏でる「運動野のピアノ」には音符と和音がある

9人間はldquo無限の意図の自由度rdquoを奏でる

第20章空間を生きる1空間の誕生2身体表象3空間表象4身体空間5身体周辺空間6身体外空間7「私」というイメージ

第21章コミュニケーション行為1世界と対話するための行為2 ldquo指差しrdquoという行為3身振りとしての行為4道具使用という行為

第22章人間はldquo意識rdquoを動かして行為する1意識とは何だろうか2 ldquo意識の志向性rdquoとldquo志向的な関係性rdquo3意識による行為の制御4行為の発達学習回復のために5身体を生きる6身体化された心

終章ヒューマンパフォーマンス

人間の運動学ヒューマンキネシオロジー

目次

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