なぜ，オープンデータなのか？

2016年2月24日（水） 水戸市オープンデータ利活用研究会

於 水戸芸術館会議場 後藤玲子（茨城大学人文学部）

reiko.gotoh.az@vc.ibaraki.ac.jp

「社会変革理論」で考える

テーマ

「なぜ，オープンデータを推進する必要があるのか？」

について， “社会変革理論(Theory of Change)” を用いて考える。 「どのようにオープンデータを利活用すればよいのか？」について，私案を述べる。

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社会変革理論とは何か？

ロジック・モデル 公共プログラム等の業績を，顧客中心かつ結果志向で測定評価するためのフレームワーク。

どのような行動や政策介入が目標とする社会変化を生むかについての仮説群からなる理論。

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使命 （ミッション） 戦略 施策・事業 活動・プロセス 予算・資源

目的 達成目標①

アウトプット （顧客に届けられたモノ） 社会的

インパクト

アウトカム①

インプット （投入資源）

スループット （活動・プロセス） リーチ

アウトカム②

アウトカム③

プロセスパート インパクトパート

達成目標② 達成目標③

（参考）後藤玲子[2014]「業務の標準化の効果測定方法について」，総務省「地方自治体における業務の標準化・効率化に関する研究会」第6回会合配布資料

なぜ，オープンデータを推進する必要があるのか？

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* TED: Technology Entertainment Design。世界的な講演会を主催している非営利団体。 (source) https://www.ted.com/talks/bono_the_good_news_on_poverty_yes_there_s_ good_news?language=ja

オープンデータ推進の目的：一般論

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オープンガバメント

（開かれた政府）にする

①透明性の向上，腐敗の抑止

②政策形成への市民参加の促進

③デリバリーでの公民連携の促進

オープンデータの推進

指針策定

カタログ公開

API公開

・・・

使命 目的 施策 活動・プロセス

・・・

※この①～③の目的を，＜オープンガバメントの3原則＞と呼ぶことにする。

米国連邦政府「デジタルガバメント戦略」 (H24.5)

6 （参考）https://www.whitehouse.gov/sites/default/files/omb/egov/digital-government/digital-government.html#top

21世紀型〔政府〕基盤の構築

国民〔と職員〕に， 〔より低コストで〕 より高品質のサービスを提供する

①国民とモバイル労働力が，高品質の電子政府情報・サービスを，いつでも，どこでも，どのデバイスでも

アクセスできるようにする。

②政府が賢く，安全に，手ごろな価格で，機器とアプリとデータを調達・管理できるようにする。

③イノベーションを引き起こし，国民向けサービスの質を改善するために，政府データの力を解き放つ。

使命 戦略目標 施策

情報中心 従来の文書管理から，open data，content，

WebAPIをデフォルトに。

共有基盤 横断組織の設置等により，標準化・効率化・一貫性の保持を促進

顧客中心 顧客がいつでも望む方法で情報を作り共有し消費できるように

セキュリティとプライバシー

オープンデータ推進の使命：日本

日本政府の「電子行政オープンデータ戦略」 (H24.7.4)

策定理由（趣旨，ミッション） 「○○戦略」及び「△△方針」の趣旨に則り、オープンガバメントの推進に当たっては、公共データは国民共有の財産であるという認識の下、公共データの活用を促進するための取組に速やかに着手し、それを広く展開することにより、国民生活の向上、企業活動の活性化等を図り、我が国の社会経済全体の発展に寄与することが重要であるため、公共データの活用促進のための基本戦略として、「電子行政オープンデータ戦略」を以下のとおり策定する。

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オープンデータ推進の目的：日本 １．透明性・信頼性の向上 ２．国民参加・官民協働の推進 広範な主体による公共データの活用が進展し、官民の情報共有が図られることにより、官民の協働による公共サービスの提供、さらには行政が提供した情報による民間サービスの創出が促進される。これにより、創意工夫を活かした多様な公共サービスが迅速かつ効率的に提供され、厳しい財政状況、 諸活動におけるニーズや価値観の多様化、情報通信技術の高度化等我が国を取り巻く諸状況にも適切に対応することができる。

３．経済の活性化・行政の効率化 8

なぜ，オープンデータを推進するのか？

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国民・住民の エンパワーメント

個人・企業の イノベーションの促進

政府の パフォーマンス向上

社会のスマートガバナンス

社会が，公共問題について，より賢く，より素早く，よりクリーンに意思決定し，公共問題の解決に資する新しいアプリケーションやサービスをより革新的な方法で開発し提供できるようにする。

国民・住民が，オープンデータを使って，社会について自分で考え，行動するための技術や能力を獲得できるようにする。

個人・企業が，オープンデータを使って，新しい価値（アプリ，サービス，生産流通方法，販路，組織等）を生み出せるようにする。

政府自らが，オープンデータを意思決定やサービスに有効活用し，業績（効率，効果，満足・品質，組織能力）を向上させる。 ※色は，分かりやすくするため主体別に変えただけ

で，ロジックモデルの色分けには対応していない。

（一試案）

どうすればイノベーションを起こせるのか？ カギは，ほどほどの多様性と，イノベーションを継続的に生み出す仕組みを上手にシステム化することにあるらしい

・・・が！！！！！！

新しい知を求める活動が成果に結びつくかは，本質的に，不確実。

よって，イノベーション促進策が成功するかどうかも，不確実。

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どのようにオープンデータを利活用すればよいのか？（一試案） 政府のパフォーマンス向上や社会問題の解決のために，行政が率先して利活用する。 例） ①顧客目線のデータ開放と利活用 ②社会調査データの意思決定・サービス改善への利活用 ③社会問題解決のためのデータ開放と利活用

その際，＜オープンガバメントの3原則＞に基づいて，リーン・スタートアップ方式で事業を回す。

その取組みを基盤（プラットフォーム）化していくことで，イノベーションを促す。

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①顧客目線のデータ開放・利活用

開放すべきデータは，統計データや予算・決算情報，地理情報のような，明確な入出力規則にもとづく量的情報だけではない。 特に市町村の場合には，明確な入出力規則がない情報，体系的に整理されていない情報，数値化されていない情報にこそ，データとしての有用性があることが多いと考えられる。 そのようなデータは，産業利用を期待する前に，行政が率先して顧客目線で開放・利活用し，事例を蓄積するのがよいのではないか。

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公園情報：水戸市役所のホームページ

誰によるどのような利用を想定しているのだろう？ 一覧情報は，下図のような情報しかない。 公園ごとのホームページを充実させているようだが・・・

13 （出典）水戸市ホームページ（H28年2月15日アクセス）

公園情報：横浜市役所のホームページ

「代表的な公園」ページ 「・・・各公園の名称部分をクリックすると、概要をご覧いただけます・・・」 クリックすると，各公園の特徴，アクセス，住所，駐車場，概要等が掲載されており，Web予約等ができたりもした。（リンク切れもあったが。）

（オープンデータ利活用の試み・・・？） 地図上に公園が表示され，遊具等で検索できるサイトを発見したと思う・・・のだが，2度と訪問できなかった。

14 （参考）横浜市ホームページ（H28年2月15日アクセス）

②意思決定・サービス改善への利活用

政策課題：総合計画，行政評価，社会調査の形骸化

➔「当事者主体の仮説検証型社会調査」により，住民と行政の認識ギャップを可視化

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（出典）茨城大学ホームページ，http://www.ibaraki.ac.jp/news/201

6/02/081106.html （参考）別添のプレスリリース

「手段の目的化」は頻繁に生じうる

16

23.7%

49.9%

77.7%

76.8%

53.9%

22.2%

53.0%

0% 10% 20% 30% 40% 50% 60% 70% 80% 90%

①新しいアプリの導入

②登録分野の最新情報の電子的通知

③お知らせ型の情報提供の充実

④広報誌の充実

⑤公式ホームページの充実

⑥公式SNSの充実

⑦チラシやポスターの充実

図：住民の考える広報活動の充実強化策の重要度（※） （※）「重要」「やや重要」が無回答を除く有効回答に占める割合

（資料）後藤玲子[2015]『東海村情報媒体等利用状況調査報告書』東海村役場；同 [2016]「市民と行政の認識ギャップ」『第22回社会情報システム学シンポジウム学術講演論文集』（ISSN：1882-9473）

（N=1,359）

社会調査データの可能性 「当事者主体の仮説検証型社会調査」の示唆 「勘と経験」に基づく行政経営では，大いなる勘違いが生じうる。「信頼できる根拠」に基づく行政経営が不可欠。

※認識ギャップ自体は，避けられない。大切なのは，気づくこと。

調査結果の公開・開放・広報により，成果は見えにくいが住民ニーズに沿った施策を優先的に実施しやすくなる。 集計データの素朴な利用だけでは，宝の持ち腐れ。人に制度・政策を紐づけるために，一人ひとりをもっと幸せにするために利活用すべき。

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Anna, 27 Århus

Bjørn, 64, Hjørring

Peter, 33, Frederiksberg

Christian, 19, Nakskov

Ahmad, 34, Nørrebro

Birgit, 60, Korsør

Maria, 34, Østerlars

Mehtap, 21, Albertslund

Rikke, 18, Birkerød

Henrik, 25, Sønderborg

Lars, 58, Svendborg

Helle, 42, Vejle

www.borger.dk/personas

• We have developed our personas from a lot of statistics and surveys about the Danish citizens

• The personas has been with us in all parts of the development

• Design and concepts has been rejected by our personas

• Personas is a strong tool in user-centric design and development

ペルソナ法による市民ポータルの設計開発 （デンマーク）

（資料提供）デンマークNational IT and Telecom Agency

ペルソナ法による市民ポータルの設計開発 （デンマーク）

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○名前：ヘレ ○年齢：42歳 ○家族：16歳の息子マーチンと9歳の娘マーチアス。最近、夫トルベンと離婚してシングルマザーに。 ○ペット：犬1匹 ○住まい：ヴァイレ、2階建ての戸建て ○職業：ヴァイレ病院の看護師 ○状況：仕事と育児でとても忙しい。離婚した ばかりなので、精神的にまいっている。

○名前：ペーテル ○年齢：33歳 ○家族：妻アンネと11カ月の娘アルバ ○住まい：コペンハーゲン、マンション ○職業：製薬会社のコミュニケーション部門 ○状況：妻は育休中なので家計が厳しい。仕事で忙しいが娘が寝る前には帰りたい。

政府ポータルで、彼らをどのように支援できるか？

（資料）デンマークITテレコム庁，（参考）後藤玲子[2012] 「利用者ニーズの先をいく－海外にみるプロアクティブ型行政サービス」，『月刊LASDEC』, 42(3).

③社会問題解決のためのデータ開放・利活用 「問い」の明確なニーズ調査を行う 例）昨年実施した「認知の壁」に関する探索的調査 ある政策分野のターゲット顧客が知っていれば役立つのに，知らない顧客が多い情報は何か？

○商工・観光分野：イベント情報 ○子育て支援分野：待機児童・病児保育情報 ○介護福祉分野：相談窓口情報

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リーン・スタートアップ方式で回す リーン・スタートアップ 不確実性が高い状況で，ビジネスプラン・ビジネスモデルを無駄なくブラッシュアップするための手法。 顧客が必要としない，儲からないモノを作らないように，小さく始め，仮説検証プロセス（構築，測定，学習）を細かく，素早く回す。

～インタビュー，プロトタイプ，ABテスト等で 市民参加・公民連携の取組みを基盤（プラットフォーム）化する際にも，使える考え方。 21 （参考）エリック・リース（伊藤穰一解説，井口耕二訳）[2012]『リーン・スタートアップ』日経BP社

＜オープンガバメントの3原則＞で 住民・企業・団体と共有・協働することにより，単なるフィードバック以上の多彩な成果が得られるはず。 ①オープンデータの認知度と人々の活用技術・スキルが向上する。 ②オープンデータ及び社会問題に対する“当事者意識”が育まれ，“自分事”として考える人が増える。その結果，政府のパフォーマンスが向上し，社会がよくなる（と期待したい）。 ③しかも，イノベーションにつながる・・・かもしれない。

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まとめ

手段の目的化を防ぎ，オープンデータの取組みを有意義で持続的なものにするために，ミッションや目的をしっかり定義し，常に意識されるように仕組化すべき。

行政が率先して ①顧客目線のデータ開放・利活用 ②意思決定・サービス改善への利活用 ③社会問題解決のためのデータ開放・利活用 を＜オープンガバメントの3原則＞ ＆リーン・スタートアップ方式で進めることで，オープンデータの利活用によるイノベーションの生起確率を高めることができるのではないか。

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ご清聴、誠に有難うございました。

質疑応答の時間や会議終了後に，ご質問や ご意見をいただければ誠に幸いです。 ご質問やご意見は，メール等でも，いつでも気軽にご連絡ください。

後藤玲子（茨城大学人文学部） 大学tel&fax: 029-228-8164

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