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ベル 【研究背景】 ピュ ピュ 1985 1994 P.W.Shor ルゴリ (Shor ルゴリ ) [?] ルゴリ ピュ ルゴリ ピュ 0 1 ピュ 0 1 ( :Qubit) 1Qubit (1 ) 2Qubit -NOT(C-NOT) (2 ) 1Qubit ( ピュ ) 1000Qubit ( 、イ ) Qubit (NMR) 7Qubit Shor ルゴリ Qubit 1Qubit 2Qubit ( ) 2Qubit ベル [3] [1]2Qubit 【研究目的】 Qubit ピュ Qubit ベル - 2 2 ベル 2 1. (MOT) 2. MOT 3. ャル 780nm,480nm 4. ャル - 2 (2 ) (1)(2) (3) (4) (1) MOT 6 [1] プ、 イル MOT DFB (2)MOT 1

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光双極子トラップ中のリドベルグ原子の双極子ブロッケード

量子物質工学専攻 中川研究室 玉木 嘉人

【研究背景】現在、世界中で量子情報処理、特に量子コンピュータの実現に向けた取り組みが行われている。量子コンピュータとは量子力学の基本原理に基づく全く新しい計算機のことで、1985年頃概念が提案された。そして、1994年にP.W.Shor が発表した量子計算アルゴリズム (Shor のアルゴリズム)がきっかけとなって、全世界に広まった [?]。このアルゴリズムは、量子テューリングマシンを用いれば、現在の古典コンピューターでは対数時間かかり解くことが不可能な因数分解を、わずか数分で解けるというものであった。現在の暗号技術は因数分解を基礎として利用しているため、このアルゴリズムの出現が社会的・軍事的に与えたインパクトは大きく、現在の暗号技術の崩壊を示唆するものであった。 古典コンピューターが 0と 1の離散的なビットを用いて計算するのに対し、量子コンピューターは 0と 1の重ね合わせ状態がとれるビット (量子ビット:Qubit)を用いて量子並列計算を行うものである。実際に量子万能回路を作るためには、任意の 1Qubitのユニタリー変換 (1量子ゲート操作)と 2Qubitの制御-NOT(C-NOT)ゲート (2量子ゲート操作)があればよい。それには 1Qubitとしての『原子数の確定』とその『独立な量子状態の制御および検出』が必要であり、さらに意味のある (古典コンピューターの性能を超える)演算をするためには、少なくとも1000Qubit程度までの『拡張性』が求められる。これに対する実験的なアプローチも、世界中で様々な媒体 (液体分子、イオン、電子など)を Qubitに用いて行われており、今のところ核磁気共鳴 (NMR)を用いた 7Qubitでの演算により、Shorのアルゴリズムを実証した成果が世界最先端であるといえる。しかし、どのアプローチにも一長一短があり、どんな媒体が一番適しているのかは決定されるに至っていない。 私の研究もこのような Qubitの操作を、中性原子を用いて行うという立場にいる。しかし、今のところ中性原子では任意の 1Qubit操作はできていても、2Qubit操作はまだ実現されていない。そこで、独立な双極子トラップ中にいる (単一)原子同士に原子間相互作用を与える方法を用いて、2Qubitゲート操作を行うことを目指している。しかし、基底状態間の相互作用力は弱く、また極低温にまで冷やさなければならないので、私は大きな双極子モーメントを持つリドベルグ状態に励起させる方法を用いることにした [3]。これまでに我々の研究室では単一原子トラップが実現されており [1]、私はこの単一原子トラップを用いて 2Qubitゲート操作の実現を目指して研究を進めてきた。

【研究目的】 私は単一中性原子を量子ビット(Qubit)として用い

て量子コンピュータ等の量子情報処理へ応用することを目指した研究を進めてきた。本研究の目標は、独立な光双極子トラップ中に Qubitとして用意した単一中性原子をリドベルグ状態まで励起し、双極子-双極子相互作用により起る双極子ブロッケードを用いて 2量子位相ゲート操作を実現することである。そして、そのようなリドベルグ原子を用いた 2量子位相ゲート操作を実現するためにはまず、双極子ブロッケードを確認する必要があり、私は光双極子トラップ中のリドベルグ原子の双極子ブロッケードの観測を行っている。このような 2量子位相ゲート操作実現にむけて行うべきことを段階ごとに分けると次のようになる。

1. 高磁場勾配の磁気光学トラップ (MOT)を用いた単一原子トラップとその観測

2. 単一原子をMOTから光双極子トラップへと移行させて、原子数と内部状態を保存

3. ポテンシャル中に捕獲された数個の原子に780nm,480nm の光を対向させて当てて、近傍原子の励起が抑制される双極子ブロッケードを観測

4. 独立に制御可能なポテンシャルに入った単一リドベルグ原子同士を接近させて、双極子-双極子相互作用により 2個の原子に相関をもたせる (2操作)

(1)(2)はすでに確立されており (3)は短期的な、(4)は長期的な目標である。(1)すでに高磁場勾配での磁気光学トラップ(MOT)は確立されており、単一原子をトラップして 6個まで分離して観測することに成功している。この単一原子トラップを確立したのは私ではないので本論文では簡単に説明する。詳しくは [1]を参照して頂きたい。まず私がクリアしなければならないのは安定した単一原子トラップ、及びその観測である。これまでの光学系では光源と実際にトラップするコイル等が同じ光学台にあることで実験中の振動や実験室の温度揺らぎによってレーザーの周波数ロックが頻繁にはずれるということがおきていた。これから行う実験ではより安定な光源で MOTを用いて原子を捕獲する必要がある。そこで、冷却光としてこれまで使っていた半導体レーザーから温度ゆらぎや振動に強く安定度の高い DFB レーザーを用いた光源を開発した。  (2)MOTでは時間とともに原子数と内部状態が変化し

1

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てしまう。それを回避し、それらを一定に保つために保存力からなる双極子トラップへの移行が必要である。(3)リドベルグ状態に原子が励起されたことを確認する際には光双極子トラップ光 (λ = 1064µm)によるイオン化検出を行うので、検出を行う為の光としても光双極子トラップ光を用いる。リドベルグ状態への励起にはλ = 480nm, 780nmの 2つの光による 2光子過程を用いる。(4)マイクロ光双極子トラップを用いて、トラップ半径 2µmという狭い領域にトラップされたリドベルグ原子を互いに数~µm程度近づけて、双極子-双極子相互作用による 2量子ゲート操作を行う。

【双極子ブロッケード】2000年に Lukinらによって原子群をリドベルグ状態

に励起することで高速な2量子位相ゲートを実現する提案がなされた [3]。そして、2005年にM.Saffmanらによって、Rydberg原子の双極子-双極子相互作用を用いた量子ゲートの解析がなされた [4]。リドベルグ原子とは主量子数の非常に大きな電子状態であるリドベルグ状態に励起された原子のことである。リドベルグ状態に励起させることによって原子は大きな双極子モーメントを持つので (∝ n2)、原子間相互作用はで n11効いて、数 µm程度離れた原子同士で相互作用が起こる。そして、ゲート操作時間はレーザーの励起等で決まる為、理論的に高速処理が可能になる。

双極子-双極子相互作用

独立なトラップ中に存在する単一リドベルグ原子を考える。この 2原子間が距離 Rだけ離れている場合の双極子-双極子相互作用 Vdd は

Vdd =C6Dφ

R6∝ n11 (1)

と表すことが出来る。ここで、Dφは固有値であり、C6~d4/hδ,d = n2ea0,δ ∝ 1/n3 である (n:主量子数、e:電荷、a0:ボーア半径)。

2量子ゲート操作

Ωj << u を考える。このとき、独立に制御可能なトラップ中の原子 1,2を用いる。原子 1,2のラビ周波数はそれぞれ Ω′1,Ω

′2とし Ω′1 6= Ω′2である。そして原子 1,2の離

調 δ1=δ2=0とする。先ほどと同じように、3つのステップに分けて考える。

1. πパルスを原子 1に照射。

2. 2πパルスを原子 2に照射。

3. 再び πパルスを原子 1に加える。

ここで、原子 1,2 の基底状態 |f = 1〉 を |0〉、励起準位|f = 2を |1〉とし (1)、それぞれの2原子の状態 4つに関して上の 3ステップについて考えてみる (図 2参照)。

原子 1,2とも基底状態にある場合|00〉ではどちらの原子もパルス (Λ = 780nm & 480nm)で励起されないので、3ステップ後も |00〉となる。

原子 1,2のどちらか一方が励起状態にある場合|01〉、|10〉では、励起準位にある原子 |1〉が最初の πパルスによってリドベルグ状態 |r〉に励起され、2回目の πパルスによって、励起準位 |1〉に戻ってくる。このとき位相が π/2づつシフトして、結果として −|01〉、−|10〉という状態になる。

原子 1,2とも励起状態にある場合|11〉では、これまでの場合と違い”双極子ブロッケード”が起る。まず最初の π パルスによって原子 1 がリドベルグ状態に励起される。しかし、次の 2π パルスでは原子 2 は原子 1 の双極子ブロッケードにより準位がシフトして励起が抑制される為、状態は変わらない。ここで、ϕ ≈ πΩ2/2u << πの小さな位相差が蓄積される。そして、2回目の πパルスによって、リドベルグ状態に励起されていた原子 1が元の状態 |1〉に戻ってきて、eϕ = ei(π−ϕ)|11〉の状態になる。そしてトータルでϕ = π−ϕ ≈ πの位相シフトが起るので、結果として-|11〉という状態になり図 2のように |00〉の時だけ位相が変わらない位相ゲートが出来る。ここで、さらに 1量子ゲート (位相反転)と組み合わせることでC-NOTゲートも作ることが出来る。もしくはここでは分かり易い為 52S1/2, F = 1を |0〉、52S1/2, F = 2を |1〉と定義したが、0と 1を初めから逆にしておくことで作ることも出来る。

Rydberg state

原子 1(量子ビット1)

r

双極子・双極子

相互作用

原子 2(量子ビット2)

nd

2325 P

2125 S

780Ω

480Ω

480780 Ω+Ω=Ω j

u

ju Ω>>

0

1

1=F

2=F

図 1: 2量子ゲート操作

π pulse to atom121

00

2110

2111

2101

2100

2110−

211ri

210ri

2π pulse to atom2 21

00

2110−

2111−

2101−

π pulse to atom1

211ri

210ri

2100

2110

双極子ブロッケード

図 2: 2量子ゲート操作 (真理値表)

2

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【実験装置 ~冷却光源~】単一原子トラップの装置に関しては [1]を参考していた

だきたい。私は実験装置に関して主に装置の見直しを行い、MOTの冷却光源をこれまでの半導体レーザから温度揺らぎ・振動に強いDFBレーザーに変え、新たな光源を作成した。ここではその光源に関して説明する。

DFBレーザー:Distributed FeedBack Laser

DFBレーザーとは分布帰還形レーザーと呼ばれ、単一波長発振可能なレーザーである。単一波長発振を可能にしているのはN型半導体の回折格子である。N型半導体のそれぞれの山にレーザー光が当たり、山の周期の2倍の幅を持つ波長は進んできた光波と跳ね返ってきた光波が重なり合って強めあう(図 3)。

私はこのDFBレーザーを用いて冷却用光源を開発した。レーザー光P型半導体N型半導体図 3: DFBレーザーの原理図

光学常盤などからの振動を回避するためにブレッドボード上に DFBレーザーを設置し、同じブレッドボード上で飽和分光、AOMでの離調を行っている。ブレッドボードのサイズは 300mm× 300mm、AOMでの離調∆はダブルパスで-10MHzに設定している。これは通常 (∆~-15MHz)よりも小さくとることで、SN良く観測し、散乱レートを高めるためである。そして、レーザーのロックに関しては半導体レーザーと違い電流にフィードバックしている。この DFBレーザーは温度安定度が高く、非常に安定である。図 4に製作した DFBレーザー光源を、そして図??に製作したレーザー光源の温度による波長安定度のグラフを示した。このレーザーのチューニング定数は 2pm/mAであった。

図 4: DFBレーザー光源 (Cooling)

779.800 780.000 780.200 780.400 780.600

0

10

20

30

40

50

60

779.8 780.0 780.2 780.4 780.6

5

8

9

10

11

12

15

波長λ [nm]

電流値

[mA

]

図 5: DFBレーザーの温度による波長安定度

【実験結果】

MOTを用いての原子の捕獲

まずは新しい光源を用いてMOTでの捕獲を再現した。これまでのトラップでは最初は数mmのビームにしておいて真空セル直前のアイリスで光をカットして迷光を抑え、直径約 1mmのビームでMOTを行っていた。この方法ではアイリスによって光路が変化してしまう為、調整が非常に困難であった。しかし、新たな光源では光源自体の安定度に加え、ファイバーで x, y, zの 3方向に分ける非偏光 BS直前まで持ってきたので最初からほぼ直径 2mmのビームにしておいてアライメントを行い、直前のアイリスで光がけられない程度の直径 (~2mm)のビーム径にしてMOTを行った。その後、迷光を避けるためにあえてファイバーカップリングを悪くすることで光量を調節している。Repump光に関しては NDフィルターを用いてアライメント中では光量を多くし、合ってしまえば 0.5µW程度まで下げている。この程度であれば迷光としての影響はほぼない。また、Repump光程の精度は要求しないので、NDフィルターによりわずかに光路が変わることも問題ない。これにより調整も比較的容易になった。MOTの安定度に関してはこれまでよりも良く、一度合ってしまえばほとんどアライメントをせずとも安定なMOTを行うことができた。MOTでの単一原子状態は最長で 2分以上、そして原子を 6個まで分離して観測することが出来た図 6。(Cooling光は約 3.98mW/cm2、Repump光は約 3.98× 10−2mW/cm2)

010002000300040005000

0 10 20 30 40 50 60 70 80GateTime T[s]

PhotonCount/100ms

0 10 20 30 40 50 60 70 80

GateTime T[s]

0

1000

2000

3000

4000

5000

Pho

tonC

ount

/100

ms

0atom

1atom

2atom

3atom

4atom

5atom

6atom

図 6: APDで観測したMOTからの蛍光

3

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光双極子トラップ

 次のステップとして、MOTから光双極子トラップ(FORT) へ移行する。現在、MOT から FORT へ移行することに成功しており、図 9 のようなタイミングでMOT→MOT+FORTの切り替えを行った。図 8でMOTのみと MOT+FORTの結果を比較している。光双極子トラップポテンシャルを作る FORT光として、Nd;YAGレーザーを SEED光として、ファイバーアンプを用いて増幅しファイバー直後で 2.5Wを得ている 7。そして、アイソレーター、AOM等でのロスにより有効パワーとしてセル直前のレンズで 1.6Wを得ている。 アライメントはリドベルグ励起用 λ = 780nmの光を原子が吹き飛ぶように調整して、対向する向きで FORT光が重なるように直前のミラーでラフに調整した (Dichroicミラーを用いて重ねている。λ = 1064nm:反射、λ =780nm:透過)。このラフな調整の段階で FORT光がリドベルグ励起用 λ = 780nm の光を ON/OFF しているAOM 付近で一致するように合わせた (距離約 1~2m)。そして、微調整は x,y方向はステッピングモーター、z方向は手動のステージを用いた。ステッピングモーターはシグマ光機社”TSDM40-15X”を”SHOT- 602”2軸ステージコントローラーを用いてPCから制御している (制御精度 1µm/パルス)。そして、z方向は 500µm/回転のステージを用いている。この微調整では APD信号を見ながら、MOTからの蛍光レベルが最小になるように FORT光のアライメントを行った。これは FORT光によるライトシフト (40~60MHz)の影響でMOTのCooling光の離調 δが大きく、散乱レートが小さくなることによるものである。そして、図 8からわかるように光双極子トラップポテンシャルは細長い形になるので、CCD画像を見ながら微調整を行い、アライメント完了となる。

Dichroic mirror1.064μm 反射

780nm 透過

吸収体

AO

MDichroic mirror

CCDAPD

Isolator

ステッピング

モーター(X,Y)

Nd;YAGレーザー

Fiber Amplifier

共鳴光780.24nm

図 7: 光双極子トラップ光学系

MOT + FORT104G/cm@8A

MOT 104G/cm@8A

0 0

1500015000

mm µµ 400400 × mm µµ 400400 ×

図 8: 光双極子トラップ中の原子 (右図:MOT 左図:MOT+FORT)

MOT (Cooling & Repump)B Low (104G/cm@8A)

FORT

3sec1sec

0200040006000800010000120001400016000

120 130 140 150 160 170 1800 10 20 30 40 50 600

200040006000

1600014000

12000

800010000

Phot

onC

ount

s/10

0ms

Gate Time [sec]

FORT

MOT + FORT

図 9: MOT(1sec)→MOT+FORT(3sec)

図 9 に MOT(1sec)→MOT+FORT(3sec) の繰り返しを行った際の結果を示した。FORT(Far Off ResonanceTrap)光による影響で原子準位がライトシフトを起こして、蛍光が減っていることが分かる。図 10にFORT(1way)によって原子が誘起されるライトシフトを示した。この時、65.6MHzのライトシフトがある。しかし図 8より FORTとMOTの共存が出来ているので、これまでの 40MHzまででなく 65.6MHzのライトシフトがあっても冷却効果が働くことが分かった。 現在、磁場勾配を変化させて単一原子~少数原子を捕

(32.31MHz)(33.28MHz)

FORT onFORT off

Cooling光780.247nm

3=′F

2=F

MHz10−=δMHzeff 6.65−=δ

図 10: 光双極子トラップが誘起するライトシフト

4

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獲するという方法を用いている。図??に磁場 Low の時と磁場 Highの時のMOT,MOT+FORTの CCD画像を示した。これから、ステッピングモーターで x,y方向をスキャンすることで磁場 Lowから x方向に 33µm,y方向に-58µmの所に磁場Highがあることが分かった (図 11)。z方向に関してはレイリー長 ZR が

ZR =πω2

λ(2)

と表せて220µmであること、また手動ステージが 500µm/回転であることから広範囲で影響が出るので特定できていない。しかし、CCD 及び APD で確認する限りMOT,MOT+FORTの場合で十分に影響が出ているので実験を行うには問題ない。

200μm×200μm200μm×200μm

MOT 104G/cm@8A

0

12000

MOT + FORT104G/cm@8A

0

12000

MOT + FORT260G/cm@20A

0

12000

MOT260G/cm@20A

0

12000

低磁場勾配低磁場勾配低磁場勾配低磁場勾配 高磁場勾配高磁場勾配高磁場勾配高磁場勾配

++++58μμμμm

図 11: 磁場Low→Highによる磁場中心のズレ

リドベルグ状態への励起

光双極子トラップ中の 1~数個の原子を 780nm,480nmのレーザー光で 2光子過程を用いてリドベルグ原子の双極子ブロッケードを確認する。その為の準備段階として、”リドベルグ状態への励起”を確認して”光イオン化による原子ロス”によって双極子ブロッケードを確認しようと考えている。現在、リドベルグ状態への励起を確認して光イオン化による原子ロスの実験を行っている最中である。まずはMOT中の原子 (~10個)にBLUEの光を当てて、原子ロスによってリドベルグ状態に励起されたことを確認する。Cooling光は約 3.98mW/cm2、Repump光は約3.98× 10−2mW/cm2、BLUE光は 5× 106mW/cm2である。BLUE 光を EIT 信号を見ながら AOM での離調δ = 80MHz 分がキャンセルされるように −80MHz シ

フトする位置にあわせて、54D状態に励起するようにした。そして、BLUEをON/OFFすることで確認した。図12に結果を示した。結果から、BLUEの光自体がフィルターを透過して迷光になっている (赤丸部分)が、ローディングレートが非常に高いにも関わらず BLUE光によって原子がリドベルグ状態に励起され、蛍光が減っていることが分かる。同時にCCDの画像でも原子ロスが確認できた。次に、この励起される範囲をBLUE光の離調 δBLUE

01000200030004000500060007000

0 2 4 6 8 10 12 14 16 18 20

3sec2sec

GateTime[sec]

Phot

onC

ount

s

MOT (Cooling & Repump)B Low

0 10 200

2000

4000

6000

Phot

onC

ount

s

迷光

(バックグランド)

BLUE

図 12: リドベルグ状態励起確認

を変化させることで探していった。そして、共鳴ライン(AOMでのON/OFFの 80MHzを考慮して)から赤方離調に 160MHzの範囲で共鳴により原子のトラップロスを確認した。これは BLUEレーザー波長からリドベルグ状態 (54D)付近での共鳴であると思われる。また、青方離調もスキャンしたところ 52P3/2, F

′ = 2, 3クロスオーバーから 32MHz赤方に位置で自然幅程度 (6MHz)の共鳴を確認した。文献値から 56S状態への共鳴ではないかと推測した。これはBLUE光を入れたまま行った実験なので、原子が冷却サイクルから脱して加熱されることによる減衰であると考えられる。CCD画面上でこの原子ロスを確認した。現在、BLUE光の精密な周波数測定が出来ていないので、今後精密測定を行って共鳴ラインを明らかにしていく。

2125 S

2325 P

d54

)56( S

Cooling

λ=480nm

D54

)56( S MHz6

MHz160

リドベルグ状態 共鳴範囲

MHz180

周波数

図 13: リドベルグ状態励起範囲

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まとめと今後の展望本研究の目的は、レーザー冷却技術を用いて冷却・捕獲した中性原子 (87Rb)を光双極子トラップへと移行して、リドベルグ状態へと励起することで双極子ブロッケードを観測することである。この双極子ブロッケードによって単一原子を”量子ビット”として用いて、2量子ゲート操作 (量子情報処理)を実現させることを目指して研究を進めてきた。その為に行った (もしくは行っている)主な取り組みは

1. Cooling光源を半導体レーザーからDFBレーザーに変え、光源の安定化を行った。

2. MOT 中の少数個原子郡に BLUE レーザー (λ =480nm) を照射し、2 光子過程でリドベルグ状態に励起されたことを確認

3. 少数個原子にリドベルグ励起用レーザー (λ =780nm, 480nm) を照射し、双極子ブロッケードを観測

本格的に量子情報処理検証実験を行うにあたって、安定した冷却原子を容易する必要があった。(1)ではこれまで、常盤の振動等によってロックがしばしば外れていた光源の見直しを行った。ブレッドボード上に飽和分光、AOMでの離調 (-10MHz)を全て行い x, y, z の 3方向に分ける直前までファイバーでもっていった。これにより振動による影響をなくし、光学系のズレの影響を軽減することが出来た。また、ファイバーに光を通すことでファイバーカップリング効率をあえて悪くすることで Cooling光のパワーを抑えるようにした。これまではアイリスで迷光をカットしていたが為にアイリスで光がけられて光路がズレることがアライメントの際の障害となっていた。しかし、この新しい方法では迷光に効いてくる Cooling光を光路を変えることなく自由にパワーを抑えることが出来るようになった。これによりアライメントの簡略化、MOTの安定化を達成した。(2)ではMOTのCooling光とBLUE光の 2光子過程を利用して、リドベルグ状態に励起することを確認した。また、BLUE光の離調 δBLUE を変えることで共鳴範囲のスキャンを行い 54D,56Sへの共鳴を確認した。しかし、BLUE光の離調はオシロスコープの値からラフに見積もったものなので今後精度よく BLUE光の周波数測定を行おうと思う。(3)に関しては 5つの光源の AOMでの ON/OFF時間を測定し、現在実験中である。

今後の展望今後の展望として考えている主な取り組みは

1. 定在波型光双極子トラップで原子 1,2個を捕獲・操作

2. リドベルグ原子の双極子ブロッケード確認・2量子ゲート操作実証

3. マイクロ光双極子トラップで単一原子を捕獲・操作

(1) に関しては FORT 中での寿命を稼ぎ、個々のポテンシャルに原子を捕獲することを目標にしている。現在、この定在波型光双極子トラップの実験を行っている最中である。(2) に関しては (1) を達成した後に行おうと考えている。現在各光源の AOMでの ON/OFF時間を測定し、それからタイミングを考えて、BNC 社の”MODEL 575 PULSE DELAY GENERATOR”を用いて PCからのトリガーでスタートさせ、実験を行う準備中である。(3)に関しては長期的な目標である。5章でも述べたが、まだまだ改良の余地があるので設計の段階から見直して、改良していこうと思う。

参考文献[1] 中川悠輔、修士論文『単一原子トラップを用いた原子操作』(2006)

[2] T.A. Johnson, et alRabi flopping between ground and Rydberg stateswith dipole− dipole atomic interactionsarXiv:0711.0401v1 [quant-ph] 2 Nov 2007

[3] D. Jaksch, et alFast Quantum Gates for Neutral AtomsPhys.Rev.Lett.85,2208(2000)

[4] M. Saffman and T.G. WalkerAnalysis of a quantum logic device based on dipole−dipole interactions of optically trapped Rydberg atomsPhys.Rev.A.72,022347(2005)

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