日本のコーポレート・ガバナンス - ESRI日本のコーポレート・ガバナンス...

70
経済分析 政策研究の視点シリーズ 12 日本のコーポレート・ガバナンス -構造分析の観点から- 田 中 正 継 (企業経営ユニット) 1998 3 経済企画庁経済研究所

Transcript of 日本のコーポレート・ガバナンス - ESRI日本のコーポレート・ガバナンス...

Page 1: 日本のコーポレート・ガバナンス - ESRI日本のコーポレート・ガバナンス -構造分析の観点から- (経済分析 政策研究の視点シリーズ

経済分析 政策研究の視点シリーズ 12

日本のコーポレート・ガバナンス

-構造分析の観点から-

田 中 正 継

(企業経営ユニット)

1998 年 3 月

経済企画庁経済研究所

Page 2: 日本のコーポレート・ガバナンス - ESRI日本のコーポレート・ガバナンス -構造分析の観点から- (経済分析 政策研究の視点シリーズ

本書についてのお問い合わせは、

経済企画庁経済研究所主任研究官室

(企業経営ユニット)あてご連絡ください。

郵便番号 100-8970

東京都千代田区霞ヶ関 3-1-1 経済企画庁経済研究所

電話番号 03-3581-5853(ダイヤルイン)

本書の性格について

「経済分析 政策研究の視点シリーズ」は、カレント・トピックス研究の論文や経済研究所

における通常の研究過程での中間的な研究試論をとりまとめたものである。

本書の内容は、研究者が広く議論の素材を提供するため個人の責任で執筆した研究試論とい

うべきものであり、研究所としての公式見解を示すものではない。

Page 3: 日本のコーポレート・ガバナンス - ESRI日本のコーポレート・ガバナンス -構造分析の観点から- (経済分析 政策研究の視点シリーズ

日本のコーポレート・ガバナンス -構造分析の観点から-

(経済分析 政策研究の視点シリーズ 12) 田 中 正 継* 目 次 要約 1

I はじめに 2

II コーポレート・ガバナンスの定義

1 さまざまな定義 3

2 本稿における定義 5

III コーポレート・ガバナンスの構造

1 コーポレート・ガバンナンスの構成要素 7

2 エージェンシー理論 8

3 利害関係者とコーポレート・ガバンナンス 11

4 企業経営とコーポレート・ガバナンス 14

IV 日本のコーポレート・ガバナンス

1 従来の日本のコーポレート・ガバナンス 16

2 株式持合とコーポレート・ガバナンス 18

3 金融機関に対するコーポレート・ガバナンス 19

V 結論

1 日本のコーポレート・ガバナンスの再構築 22

2 情報の開示 23

[補論]

[II の補論]コーポレート・ガバナンスの定義に関する補足 27

[III の補論]日本の利害関係者のコーポレート・ガバナンスの特徴 28

[IV の補論]株式持合とコーポレート・ガバナンス 33

[参考 I] 日本におけるコーポレート・ガバナンスの歴史

1 戦前のコーポレート・ガバナンス 38

2 戦時期における変革 42

3 戦後のコポレート・ガバナンス 42

[参考 II] 資本に対する経営者の責任感覚とバブルの原因

1 自己資本とエージェンシー・コスト 49

2 バブル発生の原因 58

[参考文献リスト] 60

* 田中正継(経済企画庁経済研究所総括主任研究官[企業経営ユニット]) 本稿をまとめるにあたっては、糸瀬 茂宮城大学助教授および吉川 満大和総研制度調査室長から貴重なコメントをいただいた。また、小峰隆夫所長、吉川 薫次長、加藤裕己総括主任研究官をはじめとする経済研究所の方々、および新保生二調査局長から懇切丁寧なご指導をいただいた。

Page 4: 日本のコーポレート・ガバナンス - ESRI日本のコーポレート・ガバナンス -構造分析の観点から- (経済分析 政策研究の視点シリーズ

図表目次

表1-利害関係者とその関心 7

表2-利害関係者としての株主と投資家の相違 13

表3-オープン型とインサイダー型のコーポレート・ガバナンス 16

表4-日本のコーポレート・ガバナンスの構造 32

図1-負債・資本の構成 45

図2-総資産・純資産の増加額 45

図3-総資産の増加寄与度 46

図4-額面配当率 46

図5-配当利回り 47

図6-株価・額面比率 47

図7-配当性向 49

図8-内部留保比率 50

図9-自己資本比率 51

図10-負債利子率 52

図11-自己資本配当率 53

図12-株価総額・純資産比率 53

図13-自己資本利益率と負債利子率 54

Page 5: 日本のコーポレート・ガバナンス - ESRI日本のコーポレート・ガバナンス -構造分析の観点から- (経済分析 政策研究の視点シリーズ

- 1 -

要約

コーポレート・ガバナンスとは、「利害関係者(主体)が、自己の利益(利害)を守

る(目的)のために、企業に対して影響力を行使(手段)することである」と定義する

ことができる。各利害関係者の利害は相互に反する場合と、一致する場合があるが、

企業が効率的に運用されることを目的とするものは後者に属する。

前者のコーポレート・ガバナンスは、自己の利益を守るためには各利害関係者が自己

の利益の大きさに応じた影響力を持つ必要があるという意味で私的財的な性質をもつの

に対し、後者のコーポレート・ガバナンスは、いずれかの利害関係者がコーポレート・

ガバナンスを機能させれば他の利害関係者の利益も守られるという意味で公共財的な性

質を持つ。このように考えると、企業に効率的な経営を達成させるシステムにはさまざ

まな形態がありうる。典型的には、多くの利害関係者がモニタリングに参加し、コー

ポレート・ガバナンスを機能させるオープン型(外部市場的形態)と利害関係の大きい

利害関係者間の相互監視によってコーポレート・ガバナンスを機能させるインサイダー

型(内部組織的形態)に分類することができる。

間接金融が優越しており、企業の安定性確保のためには多角化が有効であった高度成

長期から1980年代半ばまでは、日本はメインバンクや株式持合を中心とするインサイダ

ー型のコーポレート・ガバナンスが有効に機能していた。しかし、バブル期には金余り

現象やマネーゲームの氾濫により、経営者の責任感覚や企業間の緊張関係が弛緩し、イ

ンサイダー型のコーポレート・ガバナンスの欠陥が目立つこととなった。

今後、日本の企業の再活性化を達成するためには、インサイダー型のコーポレート・

ガバナンスが機能することに加え、各利害関係者の自己責任に基づくオープン型のコー

ポレート・ガバナンスの役割を増大させる必要がある。そのためには、企業の経営内容

に関する適切な情報開示が不可欠であり、制度面での整備だけでなく、経営者が積極

的に情報開示を行うようなインセンティブの整備が必要となる。

Page 6: 日本のコーポレート・ガバナンス - ESRI日本のコーポレート・ガバナンス -構造分析の観点から- (経済分析 政策研究の視点シリーズ

- 2 -

I はじめに

近年のバブル崩壊に関連した不動産会社や住宅専門金融会社の経営破綻、金融機

関における不良債権問題、金融機関や証券会社における利益供与に関わる不祥事な

ど企業の不適切な経営が表面化するたびに、日本の企業経営にはコーポレート・

ガバナンスが不在だからこのような経営が行われるのであるという趣旨の記事が新

聞や雑誌に頻繁に現れている。ここで、コーポレート・ガバナンスとは株主が企業

の意思決定に影響力を及ぼすことを指しているものと思われる。その根底には、

日本の企業では株主主権が軽視されているからこのような不適切な経営が行われて

いるのであって、株主主権が回復すれば企業においては適切な経営、すなわち企業

本来の利益追求型の経営が達成されるはずであるという暗黙の前提が置かれている

ものと思われる。

このようなコーポレート・ガバナンスに対する過剰とも思われる期待は、その

定義が明確ではなく、イメージがあいまいなまま言葉が先行していること、および社

会的影響の大きい大企業における不適切な経営に対する不満のはけぐちとしてこの

言葉が用いられているためと思われる。そこで本稿では、コーポレート・ガバナン

スに対する私なりの定義を提起するとともに、コーポレート・ガバナンスを議論す

るための分析の枠組みを提案する。

そのため、II ではコーポレート・ガバナンスを定義し、III ではコーポレート・

ガバナンスの構造を構成し、IV ではこれに基づいて日本の企業経営におけるコーポ

レート・ガバナンスの構造を分析するとともに、V では今後いかなるコーポレー

ト・ガバナンスを構築すべきかについて考察する。

Page 7: 日本のコーポレート・ガバナンス - ESRI日本のコーポレート・ガバナンス -構造分析の観点から- (経済分析 政策研究の視点シリーズ

- 3 -

II コーポレート・ガバナンスの定義

1 さまざまな定義

先人がコーポレート・ガバナンスというテーマで何を語ろうとしていたかを知る

ため、各種の文献において、コーポレート・ガバナンスをどのように定義している

かをみてみよう。

(1) アメリカ法律協会の基本的な考え方

アメリカ法律協会は、株式会社の経営において株主の権利をいかにして確保する

かについて10年にわたって研究し、1994年に1,000ページに上るファイナル・ドラ

フト「コーポレート・ガバナンスの原理」を公表した。このなかでアメリカ法律協

会は、株式会社の本来の所有者は株主であるが、企業では必ずしも株主の利害を

反映した経営が行われておらず、株主の権利確保のためには経営者が株主の利益に

合致した経営を行わせる力、すなわちコーポレート・ガバナンスが必要であるこ

とを指摘した。その理論は次のようなものである。

(a) 株式会社は株主のものであり、その利潤は株主に帰属する。

(b) 株主は利潤追求のため、経営者に株式会社の経営を委託する。

(c) 経営者が効率的な(収益率の高い)経営を行うことが、株主の利益を守ること

である。

(d) しかしながら、株主と経営者の利害は必ずしも一致しないので、株主の利益

を害する経営が行われる可能性がある(エージェンシー理論) 。

(e) したがって、経営者に効率的な経営を行わせるような法制度を整備する必要が

ある。

(2)日本における定義の例

日本においても、バブルの崩壊後、不適切な経営によって倒産の危機に瀕した企

業の経営責任を追求する場合、このコーポレート・ガバナンスという言葉がしばし

ば使われるようになった。日本におけるコーポレート・ガバナンスの定義はおおむ

ね次の2つに分類される。

イ)企業と株主の関係としてとらえられるもの

「コーポレート・ガバナンスとは、会社を健全に運営するために会社法の基本的

システムはどうあるべきか、という意味で用いられている。」(奥島96)

ロ)企業と利害関係者の関係としてとらえるもの

「会社の支配構造をいかに構成するかがコーポレート・ガバナンスの問題であ

る。」(宍戸93)

Page 8: 日本のコーポレート・ガバナンス - ESRI日本のコーポレート・ガバナンス -構造分析の観点から- (経済分析 政策研究の視点シリーズ

- 4 -

「コーポレート・ガバナンスとは、企業を取り巻くさまざまな利害関係者の利害

を調整しつつ、企業が効率的な経営を行うように、企業に対し規律づけ、コント

ロールを行うことを意味している。」(鶴94)

「コーポレート・ガバナンスとは企業の統治または統治システムあるいは、誰が企業

を所有するかという問題と企業の経済的パフォーマンスを関連させながら議論する

問題群である。・・・コーポレート・ガバナンスとは、企業の統治形態の問題で

あるが、一般的にはそれは、株主と経営者たちとの間のコントロールを巡る問題と

して扱われている。しかし本来、理論的には企業の統治構造は、企業を形成する

さまざまなステーク・ホルダーの間の関係と定義される。即ち、狭義には経営者

と株主・債権者の関係を、広義には経営者と全てのステーク・ホルダーの関係を考

える。」(高橋95)

「コーポレート・ガバナンスとは、企業と利害関係者の間の権利と責任の構造で

ある。・・・アングロ・アメリカン・システムでは、従業員は労働市場を通じて

雇用・解雇されうる外部者で、雇用者と従業員の間の関係は雇用契約によって規

定されうるとする。もし、従業員に対する報酬が、外部労働市場において定まる

ものとすれば、そうした契約的支払の後の剰余の期待値を最大化することが、企

業価値の最大化と同義となろう。ところで、そうした剰余の請求権者は法律上株

主であるから、アングロ・アメリカン・システムにおけるコーポレート・ガバナ

ンスの問題は、結局株主が株価を最大化するために、いかに経営者をコントロー

ルするかという問題に帰着する。・・・本来、「コーポレート・ガバナンス」構造

とは、英米では、文字通り、法人組織としての企業における株主・経営者の権限・

義務の配置を規制する法的構造を意味した。・・・コーポレート・ガバナンスの問

題を、単に株主と経営者の間の法的関係としてのみみるのではなく、企業の内部

構造や、それを取り巻く金融制度や労働市場の制度との総体的な関連においてみ

ることが必要となる。」(青木95)

「コーポレート・ガバナンスとは、企業が効率よく運営されるためには、株主、

債権者、従業員などの企業のさまざまな利害関係者の間で、どのように権限と責任

が配分されることが必要か、を議論する命題である。」(伊藤96)

「コーポレート・ガバナンスとは、企業を効率的に経営し、会社の経済的繁栄を最

大にするための企業の規律と支配に関するものである。」(OECD97)

「『コーポレート・ガバナンス( corporate governance)』という言葉は、日本

語では『企業統治』と訳されている。コーポレートは『企業の』、ガバナンスは

『統治』という意味がある。広い意味では、これは、家計部門の貯蓄を投資・生

Page 9: 日本のコーポレート・ガバナンス - ESRI日本のコーポレート・ガバナンス -構造分析の観点から- (経済分析 政策研究の視点シリーズ

- 5 -

産活動という形で運用する企業を監視し、必要なときに企業の経営に介入するこ

とを意味する。

これをやや教科書的に説明すると、企業は資本市場から資金(資本)を調達し、

それを投資して、他の生産要素と組み合わせることによって生産活動にあたり、

将来の収益(所得)という形で投資家に還元しようとする。企業は生産主体であ

ると同時に、トップ経営者を頂点に持つ意思決定システムでもある。経営者が勤

勉に働き、資本市場から預かっている資産を効率的に運用しているかどうかを監

視し、そうでないときにはしかるべき措置をとることがコーポレート・ガバナン

スの役割である。」(シェアード97)

2 本稿における定義

上記より、各著者はコーポレート・ガバナンスという主題の下で、何らかの主体

が企業の意思決定に影響力を与える方法を分析しようとしていることが分かる。

ところで、アメリカにおいては、企業は株主のものであるという基本的な考え方

が確立している(吉田93、榊原95)。したがって、コーポレート・ガバナンスとい

う主題の下で株主が企業の意思決定に影響を与えるための手段、すなわち企業の営

業活動の結果を株主の利益と合致させるための方法または制度を検討することにな

る。一方、日本では「従業員主権論」や「人本主義」(伊丹93c )に代表されるよ

うに、企業は必ずしも株主だけのものではなく、従業員をはじめとする企業をと

りまくさまざまな利害関係者が企業に対する請求権を持っているという考え方が

強い(榊原95)。それどころか、日本においては、企業の最大の利害関係者は従業

員であるとする考え方が強く、その結果、株主が企業の法的所有者であるという

事実が軽視されているという見方すら少なくない。したがって、コーポレート・

ガバナンスの主体も株主に限定されるものではなく、企業の利害関係者一般が自

己の利害の強さや状況に応じてそれなりに影響力を持ちうるものとして、コーポ

レート・ガバナンスの主体を「株主」から「利害関係者」に拡張して考えるよう

になったものである。

本稿においては、後者の日本的な思考に基づき、「コーポレート・ガバナンスと

は、企業の利害関係者が、自己の利害に基づいて、自己の利益に合致する経営を行

わせることを目的として、何らかの手段によって、経営者の意思決定に影響力を及

ぼすことである。」と定義する。したがって、コーポレート・ガバナンスについて

検討する際には、上記の定義に基づき、以下の4つの要素に分解して分析する必

要がある。

Page 10: 日本のコーポレート・ガバナンス - ESRI日本のコーポレート・ガバナンス -構造分析の観点から- (経済分析 政策研究の視点シリーズ

- 6 -

(a) 主体(利害関係者の範囲)

(b) 利害(利害関係の内容と大きさ)

(c) 目的(その利害関係者の利益に合致する経営の内容)

(d) 手段(企業に影響力を及ぼすための手段)

ところで、コーポレート・ガバナンスをこのように広く定義すると、企業活動の

あらゆる側面についてコーポレート・ガバナンスを検討しなければならないことに

なる。しかし、それでは議論が発散的になるので、本稿においては、企業経営者

が経営に関する不適切な意思決定を行うことを防止し、これによって企業の健全性

を維持することを目的としたコーポレート・ガバナンスに限定して議論する。

株式会社においては企業の意思決定は基本的には経営者に任されており、出資者

たる株主や債権者が経常的に意思決定に参画しているわけではない。しかし、経営

者が判断を誤ることもあるし、企業の利益を害して自己の利益を図ることもある。

利害関係者が経営者の意思決定を不適切なものであると判断した場合に、自己の利

害に基づいて経営者の意思決定を制約しあるいは変更させ、またはそのような状況

を予防するための手段がコーポレート・ガバナンスであるといえる。株主や従業員

など企業の効率的経営によって利益を受ける利害関係者が適切なコーポレート・ガ

バナンスを有するならば、独断的な意思決定を防止するためのチェック機能が働く

とともに、事前的には経営者に効率的な経営を行うためのインセンティブを与え、

事後的には選択淘汰が行われることになるので、結果として効率的な経営が達成さ

れる可能性が高まることが期待される。

Page 11: 日本のコーポレート・ガバナンス - ESRI日本のコーポレート・ガバナンス -構造分析の観点から- (経済分析 政策研究の視点シリーズ

- 7 -

III コーポレート・ガバナンスの構造

1 コーポレート・ガバナンスの構成要素

(1) 利害関係者とその関心

ある局面において、どの利害関係者の利害をどの程度考慮すべきかは、各利害関

係者の企業に対するコミットメントの強さと、経営活動によって受ける影響の強さ

によって決めるべきである。また、その利害関係者にとって他に自己の影響力を企

業の意思決定に及ぼしうる手段をもっているか否かも考慮する必要がある。

表1-利害関係者とその関心

利害関係者 関心 望ましい経営内容

株主 収益の最大化 利益率の高い経営

資産の保全 健全な経営

投資家 投資効率 投資効率のよい投資先

債権者 債権の保全 健全な経営

(銀行) 貸付先の成長 企業の成長

従業員 給料の上昇 利益率の高い経営

雇用の安定 健全な経営

昇進の可能性 企業の成長

消費者 安価で良質な財貨 生産性の上昇

取引先企業 取引の安定 健全な経営

取引の拡大 企業の成長

国家 安定的かつ適正な経済活動 健全な経営

(2) コーポレート・ガバナンスの手段による分類

株主が企業経営に自己の意思を反映させることを目的として企業に影響を及ぼ

すための第1の方法は株主総会での議決権の行使であり、第2の方法は株式の売

却である。議決権の行使と株式の売却はそれぞれ、客がレストランの味やサービ

スに不満がある場合、店に厳しく注文をつける行為(発言)と二度とその店には

行かないことにする行為(退出)に対比することができるので、前者に類する手

段を発言のメカニズム、後者に類する手段を退出のメカニズムと呼ぶ。

(3) コーポレート・ガバナンスの目的による分類

コーポレート・ガバナンスには、企業の経営効率改善のために機能するものと、

企業に経営上の不祥事などの問題が生じた場合に機能するものがある。ここでは、

Page 12: 日本のコーポレート・ガバナンス - ESRI日本のコーポレート・ガバナンス -構造分析の観点から- (経済分析 政策研究の視点シリーズ

- 8 -

前者を効率改善のためのコーポレート・ガバナンス(以下では、「効率性ガバナンス」

という。)、後者を適法性維持のためのコーポレート・ガバナンス(以下では、「適法性

ガバナンス」という。)と呼ぼう。

ところで、近年の企業の不祥事を契機としてコーポレート・ガバナンスの議論が盛ん

になったため、最近の多くの論文等ではコーポレート・ガバナンスという命題の下

で適法性ガバナンスについて議論されているが、コーポレート・ガバナンスの本質的

部分はむしろ効率性ガバナンスと考えるべきである。

2 エージェンシー理論

(1) エージェンシー関係

ある主体が他の主体との間で何らかの形の契約によって、自己の行うべき仕事を

行わせる場合、この関係をエージェンシー関係という。ここでいう契約には、法的契約

のように明示的なものだけではなく、暗黙の契約も含まれる。ここで、ある主体、す

なわち委託者をプリンシパル、他の主体、すなわち受託者をエージェントという。

企業経営における主要なエージェンシー関係としては、株主と経営者、債権者と企

業の関係がある。

本稿では、エージェンシー関係を拡張して、企業に利害関係を有するもの、すなわ

ち何らかの意味で企業にコミットメントを行っているものは、企業に対するプリン

シパルであると考えられる。例えば、従業員は、通常の意味では企業に対してエー

ジェントの関係にあるが、同時に、企業の経営成績が従業員の利益に大きな影響を

有するという意味で利害関係者であり、したがって、企業に対するプリンシパルで

もあることになる。

(2) エージェンシー・コスト

プリンシパル(委託者)とエージェント(受託者)の間の契約は、いわゆる不完

全契約であって、エージェントの全ての行動について締結されるものではなく、ま

たそのような契約を結ぶことは不可能である。したがって、相当程度の自由裁量権

のある権限がプリンシパルからエージェントに委譲されることとなる。

ところで、契約上はエージェントはプリンシパルの利益に合致した行動をとるよ

うに定められているはずであるが、プリンシパルとエージェントの利害は必ずしも

一致しないため、実際にはエージェントはプリンシパルの利益に合致した行動をと

るとは限らない。エージェントがプリンシパルの利益に合致しない行動をとること

より、あるいはそのような行動をとる可能性が存在することによりさまざまなコス

トが発生する。これをエージェンシー・コストという。

エージェンシー・コストが発生する原因は、プリンシパルがエージェントの行動

Page 13: 日本のコーポレート・ガバナンス - ESRI日本のコーポレート・ガバナンス -構造分析の観点から- (経済分析 政策研究の視点シリーズ

- 9 -

とその結果を完全に把握しあるいは評価することができないからである。これはエ

ージェントの行動に関してプリンシパルとエージェントの間に情報量の格差(情報

の非対称性)が存在することによるものと考えられる。

エージェンシー・コストは、モニタリング・コスト、ボンディング・コストおよ

びその他のエージェンシー・コストの3つに分類される。企業経営における主要な

エージェンシー関係である株主・経営者の関係を考えれば、エージェントである経

営者は企業の内部者として豊富な情報をもっているのに対し、プリンシパルである

株主は限られた情報しか入手しえない。したがって、情報の非対称性は極めて大き

いといえよう。

イ)モニタリング・コスト(監視コスト)

プリンシパルはエージェントの行動を把握し、評価するために、エージェント

の行動を監視する。これはエージェントの不適切な( プリンシパルに不利益とな

る)行動を牽制するとともに、エージェントの行動に対する情報を入手し、エー

ジェントとの間の情報の非対称性を是正しようとするプリンシパルの対応策で

ある。この監視のためのコストがモニタリング・コストである。モニタリング・

コストが情報の非対称性によって発生する(狭義の)エージェンシー・コストの

節約額より低ければ、プリンシパルの行動は経済合理的であるといえる。

ロ)ボンディング・コスト(保証コスト)

プリンシパルはエージェントの行動が自己の利益と整合性を持つように、エー

ジェントの行動に制約を加える。これはエージェントの行動がプリンシパルの利

益に合致するものであることを保証するために発生するコストであり、ボンディ

ング・コストと呼ばれる。プリンシパルがエージェントに報告責任を課すること、

プリンシパルの利益を害する可能性のある行動を契約により制限することなど

がボンディング・コストの例である。具体的には、企業が社債を発行する場合、

減債積立金を積立て、これを配当しないことを社債権者に約束することがこの例

である。ボンディング・コストがエージェントの行動の制約によって節約で

きる(狭義の)エージェンシー・コストより低ければプリンシパルの行動は経済

合理的である。

ハ)その他のエージェンシー・コスト(狭義のエージェンシー・コスト)

上記以外にも、プリンシパルとエージェントの利害が一致しないことにより発

生するコストがある。エージェントは契約の条件の範囲内で自己の利益を最大化

する行動を取るため、エージェントがプリンシパルの利益を最大化する行動をと

Page 14: 日本のコーポレート・ガバナンス - ESRI日本のコーポレート・ガバナンス -構造分析の観点から- (経済分析 政策研究の視点シリーズ

- 10 -

る場合よりもプリンシパルの利益は減少する。この場合のプリンシパルの利益の

減少分が(狭義の)エージェンシー・コストである。

(3) エージェンシー関係と受託責任

「プリンシパルがエージェントに財産の管理を委託する場合、エージェントは受託

した財産をどのように管理し、どのように運用したかおよびその結果をプリンシパ

ルに説明・報告する義務(受託責任)があり、プリンシパルがこの報告を承認する

ことによりエージェントの受託責任は解除される。この受託責任の範囲を財産の保

全に限定すると狭義の受託責任となり、財産の誠実な運用まで含めると広義の受託

責任となり、さらに財産の効率的・効果的な運用まで含めると最広義の受託責任と

なる」(友杉94)。

通常は受託責任というと、主として狭義のものを意味し、せいぜい広義のものまで

を意味すると考えてよい。プリンシパルの権限と関与の度合いが強ければ、プリン

シパルはエージェントを適切に監視するとともに、自由に選任・解任することがで

きるのだから、十分な影響力を持ち、コーポレート・ガバナンスを発揮することが

できる。このように、強いプリンシパルはエージェントに対して適切な受託責任解

明の義務を課すことにより、エージェントの行為を規律づけ、エージェンシー・コ

ストを削減することができる。また、プリンシパルの納得しうる水準での効率的な

運用を達成することができる。

これを企業経営におけるプリンシパル・エージェント関係に置換えて考えてみよ

う。主要なプリンシパル・エージェント関係である株主・経営者の関係を取上げれ

ば、経営者の経営責任を明確にすることが受託責任の解明と同義となる。ところで、

不特定多数を株主とする現代の大企業を前提とすると、いわゆる零細株主の権限は

弱く、経営に対する関与の度合いは少なく、影響力は小さい。また、利害の大きさ

からして十分なモニタリング・コストを負担することは経済的に引合わない。そこ

で零細株主の立場を、企業の所有者である強いプリンシパル(株主)としてよりも、

企業を資産運用の手段とする弱いプリンシパル(投資家)としてとらえる方が適切

となる。

このように考えると、現代社会においては「投資家」の利益はいかにして保護さ

れるべきか、そのためにはいかなるコーポレート・ガバナンスが適切かという問題

が提起されることになる。投資家にとっては、発信のメカニズムは機能させにくく、

退出のメカニズムによるコーポレート・ガバナンスを機能させることが重要となる。

すなわち、企業の経営成績に関する情報開示により経営者の業績評価が適正に行わ

れ、投資家による選択が行われることによって経営効率化のインセンティブが発生

Page 15: 日本のコーポレート・ガバナンス - ESRI日本のコーポレート・ガバナンス -構造分析の観点から- (経済分析 政策研究の視点シリーズ

- 11 -

するというメカニズムが機能する必要がある。

(4) エージェンシー関係とコーポレート・ガバナンス

コーポレート・ガバナンスをエージェンシー関係の文脈に翻訳すると、「コーポ

レート・ガバナンスとは、エージェントである経営者が、プリンシパルである利害

関係者に、経営成績や今後の方針を報告し、その承認を受けることである。いいか

えれば、経営者が利害関係者に対しその経営責任を明確化することにより、利害関

係者の意思を経営に反映させることである。」ということになる。ここで、

イ)経営成績等の報告

経営成績等を報告するとは、経営者が、その経営成績や今後の方針について、

利害関係者に対し、利害関係者の利害との関連を判断するために、必要十分かつ

正確な情報(以下では「適正な情報」という。)を提供することである。

ロ)利害関係者による承認

利害関係者は適正な情報に基づいて、経営成績等を判断し、承認または否認を

決定する。否認の場合は経営者の地位や条件あるいは今後の方針などの修正が必

要となる。なお、ここでいう承認の方法には、議決権の行使などのように積極的、

直接的なものだけでなく、黙認のように消極的なもの、選択のように間接的なも

のも含まれる。

ハ)コーポレート・ガバナンスの分類との関係

手段による分類は承認の方法の違いに対応する。発言のメカニズムは直接的方

法、退出のメカニズムは間接的方法による承認である。目的による分類は承認を

要する命題の違いに対応する。効率性ガバナンスにおける命題は経営効率に関す

ること、適法性ガバナンスでは経営者の行為の適法性に関することである。

3 利害関係者とコーポレート・ガバナンス

(1) 株主のコーポレート・ガバナンス

株主のコーポレート・ガバナンスは、商法の中に設定された各種の制度に基づい

ている。第1は議決権であり、これには議決権の適正な行使を保証するための各種

の情報開示制度や株主総会における質問権などが付随している。第2は株主代表訴

訟制度である。株主のコーポレート・ガバナンスは、手段では両方とも発言のメカ

ニズムに基づくものであるが、目的では前者が効率性ガバナンスが中心、適法性ガバナ

ンスが付随的であるのに対し、後者は本質的に適法性ガバナンスである。

(2) 投資家のコーポレート・ガバナンス

投資家は証券運用による収益率の最大化を目的として行動するので、そのコーポ

Page 16: 日本のコーポレート・ガバナンス - ESRI日本のコーポレート・ガバナンス -構造分析の観点から- (経済分析 政策研究の視点シリーズ

- 12 -

レート・ガバナンスは、手段では退出のメカニズムに基づくものであり、目的では

効率性ガバナンスが主体である。ただし、経営者の違法行為があれば、企業収益に

影響することも多く、企業イメージという要因もあるので、適法性ガバナンスとし

てもある程度は機能する。

(3) 機関投資家のコーポレート・ガバナンス

機関投資家は大量の株式を保有し、株主としてのコーポレート・ガバナンスと投

資家としてのコーポレート・ガバナンスとを有している。

(4) 従業員のコーポレート・ガバナンス

従業員のコーポレート・ガバナンスは、手段では退出のメカニズムの一種である

評判のメカニズムに基づくものであり、目的では効率性ガバナンスが中心である。

ただし、企業が倒産の危機に瀕した場合などには、企業は機会主義的行動を取りや

すいので、大きな影響力を持たなくなる可能性が高い。

(5) 関連企業や取引先のコーポレート・ガバナンス

関連企業や取引先企業のコーポレート・ガバナンスは従業員のコーポレート・ガ

バナンスに類似する。すなわち、例えば元請企業と下請企業との関係のように、見

えざる出資と評判のメカニズムに基づく効率性ガバナンスである。したがって、相

手企業が倒産の危機に瀕した場合などには機会主義的行動を取りやすいため、大き

な影響力を持たなくなる可能性が高い点も従業員のコーポレート・ガバナンスと類

似している。

(6) 金融機関のコーポレート・ガバナンス

金融機関のコーポレート・ガバナンスは、手段では発言のメカニズムと退出のメ

カニズムの両方に基づくものがあり、目的では効率性ガバナンスが中心である。

(7) 債権者のコーポレート・ガバナンス

企業の主要な債権者は、金融機関、関連企業や取引先(買入債務に関するもの)、

社債権者、金融機関に対する預金者である。このうち金融機関、関連企業や取引先

はそれぞれのコーポレート・ガバナンスに、社債権者は投資家としてのコーポレー

ト・ガバナンスに帰着できる。

(8) 消費者のコーポレート・ガバナンス

消費者は企業に対し退出のメカニズムによる効率性ガバナンスを有している。こ

の他、製造物責任法は発信のメカニズムによる適法性ガバナンスを保証する制度で

あると考えることができる。

(9) 利害関係者としての株主と投資家の相違

株主とは企業に対する出資者であり、法律的には企業の共同所有者である。しか

Page 17: 日本のコーポレート・ガバナンス - ESRI日本のコーポレート・ガバナンス -構造分析の観点から- (経済分析 政策研究の視点シリーズ

- 13 -

し実際には、個人株主は分散化し、その大多数は零細化し、企業の経営意思決定に対

する個々の影響力は限りなく零に近い。株式所有の目的は経営に参加することではな

く、株式保有からもたらされる利益を最大化することである。このように考えると、

その行動様式は企業の共同所有者としての株主とは異なることとなる。そこで、上記

のような特性を持つに至った現在の株主および新たな投資先を探しているもの、すな

わち利殖目的による顕在的・潜在的な株主を投資家と定義する。

両者の行動特性は、株主は固定的・機能的、投資家は流動的・無機能的と表現さ

れる。株主は特定の株式会社の経営に関心を持ち、経営成績の向上を期待する。し

たがって、その関心は株式を保有する会社の経営成績である。一方、投資家は、上

場企業全般に興味を持ち、インカムゲイン、キャピタルゲインを合計した投資収益

の増加に関心を持つ。

経営者と株主の間に情報の非対称性があれば、株主は経営者の業績を適切に評価

することができず、経営者は自己の利益を目的とした利己的行動をとりやすいから、

エージェンシー・コストが発生する。この場合、株主にはエージェンシー・コスト

を経営者に転嫁するための手段がないので、エージェンシー・コストは株主が負担

することになる。したがって、経営者は情報を隠すほど有利となり、情報を開示す

る積極的インセンティブは存在しない。この結果、制度的に情報開示を強制するほ

かはなく、なた開示すべき情報ができるだけ広範かつ詳細にわたるような制度を構

築する必要がある。

表2-利害関係者としての株主と投資家の相違

株主 投資家

特徴 固定的・機能的 流動的・無機能的 利害関係 特定会社の経営成績 投資効率 財務情報入手目的 経営者の評価 投資先の選択 影響力の行使 発言のメカニズム 退出のメカニズム 財務情報開示の目的 受託責任の解明 投資の勧誘 対策 法的措置 適切な情報の開示 エージェンシー・コストの負担者 株主 企業

一方、投資家が財務情報に関心を持つのは、投資効率のよい会社を知るためであ

るから、効率的な投資先を知るための情報の入手が重要である。したがって、投資

家のコーポレート・ガバナンス強化のための手段は投資先選択のための適正な情報

Page 18: 日本のコーポレート・ガバナンス - ESRI日本のコーポレート・ガバナンス -構造分析の観点から- (経済分析 政策研究の視点シリーズ

- 14 -

の入手である。経営者と投資家の間に情報の非対称性があればエージェンシー・コ

ストが発生するが、投資家がエージェンシー・コストに相当する分だけ高いリター

ンを要求してエージェンシー・コストを会社に転嫁すれば、結局は、エージェンシ

ー・コストは会社が負担することになる。このような状況になれば、経営者にはよ

り有利な(金利の低い)資金を導入するため、情報を積極的に開示するインセンテ

ィブが存在する。したがって、投資家が企業に対し適正な情報を積極的に要求する

こと、および情報開示が不十分な企業に対してはエージェンシー・コストに相当す

るプラス・アルファの金利または収益率を要求して、企業にエージェンシー・コス

トを転嫁するという態度をとることが投資家のコーポレート・ガバナンスを強化す

る最も適切な手段である。

4 企業経営とコーポレート・ガバナンス

(1) コーポレート・ガバナンスの役割

コーポレート・ガバナンスとは、利害関係者が経営者の意思決定に影響力を持つこ

とにより、企業の行動に制限を加えあるいは経営者を規律づける役割を持つもので

ある。しかし、コーポレート・ガバナンスは企業の活動を制約するものであると考

えるべきではない。経営者に対して、日常的な経営的意思決定に対する緊張感を

保たせ、規律づけ、不適切な意思決定を行わないようにするためのコーポレート・

ガバナンスは、見方を変えれば、経営者を守るためのものであるといえる。

また、企業経営にとってもコーポレート・ガバナンスは不可欠である。すなわち、

適正なコーポレート・ガバナンスの存在は企業にとっても好ましいことであり、企

業自身から適正なコーポレート・ガバナンスが存在することあるいは回復したこと

に関するシグナルが発信されると株価の上昇などの効果が現れる。一方、ある企業

のコーポレート・ガバナンスが機能不全に陥ったと判断された場合、その企業の株

価が下落し、資金調達コストが上昇するのは当然のことといえる。

もっとも、コーポレート・ガバナンスが存在することのみによってすばらしい経

営が行われるわけではないし、コーポレート・ガバナンスは保守的に機能する可能

性が高いので、時には革新的な経営の足かせになることもあろう。しかし、コーポ

レート・ガバナンスは意欲的な経営者が陥りがちな独善的経営のチェックになり、

致命的な失敗の可能性は抑制できる。その意味で、コーポレート・ガバナンスは車

のブレーキに例えることができるであろう。車は高性能のブレーキが装備されてい

るからこそ高速度で走れるように、積極的な企業経営には適切なコーポレート・ガ

バナンスが不可欠である。企業経営に関する情報は経営者に最も多く集まり、また

Page 19: 日本のコーポレート・ガバナンス - ESRI日本のコーポレート・ガバナンス -構造分析の観点から- (経済分析 政策研究の視点シリーズ

- 15 -

経営判断のための質的・量的努力は経営者が最も多く費やすはずであるから、通常

は他の利害関係者が経営者より優れた判断を行えるとは考えにくい。したがって、

コーポレート・ガバナンスはあくまで経営者の意思決定の補完的役割を果たすにす

ぎないものと考えるべきである。

ところで、ある企業に適切なコーポレート・ガバナンスが機能していないと外部

利害関係者に判断された結果、企業の信用度が下落することがある。このような状

況になった場合、企業はいかに対処すべきか。また、このような状況にならないた

めには何が必要なのか。その企業は、まず外部利害関係者に対して、コーポレート・

ガバナンスが適切に機能しており、これに基づいて経営が適正に行われていること

を明示する必要がある。そのためには企業の意思決定や経営内容について必要な範

囲で情報の開示を行うとともに、企業の意思決定に適当なチェックメカニズムが機

能していることを示す必要がある。すなわち、現在のように適切なコーポレート・

ガバナンスの存在が疑われているときにこそ、積極的な情報開示などにより、コー

ポレート・ガバナンスの存在を示し、健全な経営が行われていることを外部にアピ

ールすることが企業にとって必要不可欠なものとなっている。

(2) コーポレート・ガバナンスとモニタリング

コーポレート・ガバナンスを行使するためには、企業の状況を的確に把握する必要

がある。したがって、コーポレート・ガバナンスにモニタリングは不可欠である。会

社は株主に対して有価証券報告書などの情報を提供することを義務づけられており、

また取締役の日常的業務執行については監視役が株主に代わって監視するものとし

ているなど、制度的には株主によるモニター制度は整備されている。しかしながら、

個人零細株主では、よほどの場合でない限り、有価証券報告書などの制度で定められ

た情報のみで企業の状況を的確に把握することは不可能に近く、十分にコーポレー

ト・ガバナンスを機能させることはできない。

したがって、企業に十分なコーポレート・ガバナンスが存在するためには、企業の

情報に積極的にアクセスし、分析し、判断しうる主体が必要である。従来はメイン・

バンクがこの役割を担っていたといえる。

Page 20: 日本のコーポレート・ガバナンス - ESRI日本のコーポレート・ガバナンス -構造分析の観点から- (経済分析 政策研究の視点シリーズ

- 16 -

IV 日本のコーポレート・ガバナンスの構造

1 従来の日本のコーポレート・ガバナンス

(1) コーポレート・ガバナンスの公共財的性格

コーポレート・ガバナンスとは、企業の経営者を規律づけるために企業の利害関

係者が有する影響力であると考えると、利害関係者の中のいずれかの主体が企業の

モニタリングを行い、企業経営の健全性を維持させるならば、他の利害関係者もそ

の成果を享受できるという意味で、コーポレート・ガバナンスには公共財的な性質

があるといえる。誰が主としてコーポレート・ガバナンスを担当し、モニタリング・

コストを負担し、さらにモニタリング・コストを負担することによるメリットを享

受するかは、その国の状況や制度に依存する。コーポレート・ガバナンスのこのよ

うな公共財的な性質を考慮するならば、各国で多様なシステムが存在しうるはずで

ある。このような観点から、日本のコーポレート・ガバナンスのどのような特徴が

あるかについて検討する。

表3-オープン型とインサイダー型のコーポレート・ガバナンス

オープン型 インサイダー型

特徴 ・コーポレート・ガバナンスの担い

手は多数 ・株主は広く分散し、流動性が高い ・監視主体は多様 ・参入と退出の自由な市場が前提 ・情報開示や価格システムが重要

・企業と継続的な取引関係のある企業

など特定の限られた主体がコーポ

レート・ガバナンスを担う ・事前的、経過的、事後的な監視をメイン

バンクや親企業などの同じ主体が担う ・情報開示は不十分

長所 ・経営者に強いインセンティブが働く ・企業売買が事業再編成の促進に効

果的

・経営と雇用の安定 ・監視、介入コストの節約 ・調整コストの内部化

短所 ・監視、介入コストが高い ・監視に対するフリーライドの危険 ・レント追求型行動が多い ・調整コストの外部化

・システムの不透明性 ・経営が不確実な場合に有効性が低下 ・経営が硬直化し、事業の再編成を妨害

(資料出所)ポール・シェアード「メインバンク資本主義の危機」より作成

ポール・シェアードは、アメリカのように、多様の主体がコーポレート・ガバナ

ンスに参加するオープン型と、日本のように、企業と継続的関係にある企業など、

特定の限られた主体がコーポレート・ガバナンスを担うインサイダー型に分類し、

Page 21: 日本のコーポレート・ガバナンス - ESRI日本のコーポレート・ガバナンス -構造分析の観点から- (経済分析 政策研究の視点シリーズ

- 17 -

それぞれの特徴を分析している。

同書は、「日本のコーポレート・ガバナンスの構造が、監督官庁→金融機関、金

融機関→一般の企業、中心的企業→関連企業、という階層構造をなしていたこと、

このような関係の中で株式持合が日本のコーポレート・ガバナンスの重要な部分を

構成しており、従来はこれが適切に機能していたこと、しかしながら、バブル期以

降は株式持合に代表されるインサイダー型のコーポレート・ガバナンスの短所が表

面化している」ことを指摘している(シェアード97)。日本の過去の経済的成果を踏

まえれば、コーポレート・ガバナンスは十分に機能していたと考えられるし、メイ

ンバンクによるコーポレート・ガバナンスのみで十分であったとも考えにくいこと

から、株式持合が日本のコーポレート・ガバナンスに及ぼした負の影響のみを強調

する多くの論者の主張よりも妥当な見解であろう。

(2) インサイダー型のコーポレート・ガバナンス

インサイダー型のコーポレート・ガバナンスは長期的関係と相互信頼に立脚して

おり、相手が機会主義的行動をとることがないという前提に基づいて成立している。

一方、オープン型のコーポレート・ガバナンスは法律や契約関係、自己責任に立脚

して成立している。これを前提に、従来のインサイダー型のコーポレート・ガバナ

ンスはなぜ機能しにくくなったかについて検討する。

第1の原因は、金融規制緩和によって企業の資金調達方法が多様化し直接金融の

比重が高まったことに加え、バブル期の金余り現象により金融機関と一般企業の力

関係が変化し、金融機関によるモニタリング機能が低下したことである。さらに、

バブル期における金融機関の担保中心主義が金融機関のモニタリング能力を低下さ

せている可能性も大きい。第2は、バブルの崩壊によって、インサイダー型コーポ

レート・ガバナンスが機能する前提である、相互に機会主義的な行動をとらないと

いう暗黙の合意が守りきれないほど企業が深刻な打撃を受けたことが考えられる。

特に、企業自体は長期的に存続するものであっても取締役の任期は数年であること

から、自分の任期中は事態を糊塗しようとするインセンティブが働き、粉飾決算ま

がいの事が行われたことなどは、エージェンシー理論でいう企業と経営者の利害が

埀離する現象が典型的に現れたものといえよう。第3は、国際化の進展により、と

りわけ国際競争に直面する部門においては調和化を図る必要があり、従来の論理が

通用しにくくなったことがある。

これに加えて、バブルが日本人のモラルに与えた負の影響は相当に深刻であり、

経営面においても緊張感が弛緩したことによってインサイダー型のコーポレート・

ガバナンスが成立する基盤が侵食されてしまったという点も見逃せない。すなわち、

Page 22: 日本のコーポレート・ガバナンス - ESRI日本のコーポレート・ガバナンス -構造分析の観点から- (経済分析 政策研究の視点シリーズ

- 18 -

インサイダー型のコーポレート・ガバナンスは長期的関係に基づくものであるから、

一見したところ、短期的にはその評価基準は厳しさに欠けるものになる(長期的に

は厳しいものとなる可能性が高い)。したがって、モラルが低下し、機会主義的行動

をとるものが増加したときには、コーポレート・ガバナンスの機能は低下する。相

互監視の機能が薄れ、馴合いや庇合いといった現象が生じる。当事者の一方が通常

では挽回不可能な状態(例えば、大幅な債務超過)となり、乾坤一擲あるいは悪あ

がき的行動をとった場合、インサイダー型のコーポレート・ガバナンスは適切な対

応ができなくなる。

2 株式持合とコーポレート・ガバナンス

(1) 株式持合の効果

株式持合を財務面から見ると、両方の企業の「見掛け上の」自己資本をかさ上げ

することにより、企業の規模を拡大させ、信用力を高めようとする企業の行動であ

るということができる。その本質的な意味を考えると、相互に信用保証を行うこと

により信用力を高めようとする行動に類似するものといえる。経済全体に活力があ

り、経済規模が拡大していく状態では、一部の企業の不振を好調な他の企業が補う

ことになるので、多様な業種で構成される企業グループの場合は、リスクヘッジの

ための多角化戦略を1社ではなく、グループとして採用したものとみなすことがで

きる。このように株式持合は互いにリスクを分散しあう効果を持つものであるから、

このような関係にある企業間では明示的あるいは暗黙の相互監視が機能していたも

のと考えられる。

しかるに、バブル期には株価の急上昇により、株式の売買によって容易に利潤を

あげることができ、また新株の発行で多額のフリー・キャッシュフローを手に入れ

ることができたうえ、株式持合により多額の含み益を保有することができた。この

ように多額の含み益を抱える状態となれば、コーポレート・ガバナンスが機能する

ためのもっと重要な要因である株主等の利害関係者に対する責任感から生じる経営

の緊張感が低下したのは当然である。株式持合を行っている会社相互間でも、相手

企業の株価の下落によって自社の足を引っぱられるという懸念が遠のいたことによ

り、緊張感が薄れ、相互の監視機能が低下した。この結果、馴合いや庇合いという

インサイダー型コーポレート・ガバナンスの欠点の面が現れたのであろう。

(2) 今後の株式持合の方向性

今後の株式持合の状況はどうなるか。株式持合は相互の債務保証的機能によって

連鎖的に経営を悪化させる可能性を持つものであるから、今後は経済の趨勢的拡大

Page 23: 日本のコーポレート・ガバナンス - ESRI日本のコーポレート・ガバナンス -構造分析の観点から- (経済分析 政策研究の視点シリーズ

- 19 -

が容易でないとすれば、財務面からみれば、リスクヘッジの効果は減少し、むしろ

共倒れの危険が高まるので、各企業は株式持合の相手企業を選別するようになり、

株式持合の比率が低下する可能性がある。したがって、株式持合構造の外殻部分と

もいうべき、それほど関連の強くない会社との株式持合ははがれ落ちる可能性が高

い。一方、コアの部分ともいうべき、真に関連の強い会社との株式持合は残り、株

式持合が残った企業同士の影響力は維持されるであろう。

では、インサイダー型のコーポレート・ガバナンスが再び有効に機能するように

なるか否かについて考えよう。直接金融市場で主体的に資金を調達しうる大企業は

従来より金融機関に対する独立性を高めていたが、金融制度の規制緩和に伴いこの

傾向は一層強まることになろう。一方、それ以外の中小企業においては、直接金融

市場へのアクセスの整備、すなわち、ベンチャー・キャピタル市場やジャンク・ボ

ンド市場の整備・発展が鍵となる。このような市場が整備・発展すれば、直接金融

の間接金融に対する優位性が高まるであろうが、そうでない場合には、金融機関か

らの独立性を高める大企業と、依然として間接金融に頼る中小企業というように2

層化が進むことになろう。これに伴って、前者に対しては市場によるオープン型に

近いコーポレート・ガバナンスが、後者に対してはインサイダー型に近いコーポレ

ート・ガバナンスが主として機能するようになるのではなかろうか。

3 金融機関に対するコーポレート・ガバナンス

日本の企業経営においてコーポレート・ガバナンスが十分に機能していないこと

について、さまざまな議論が行われてきている。ところで、一般企業についてはイ

ンサイダー型のコーポレート・ガバナンスを中心に、経営に対する規律を高め、経

営の効率化を促進させるためのコーポレート・ガバナンスはかなり回復しているの

ではないかと思われる。ところが、インサイダー型コーポレート・ガバナンスの要

となるべき金融機関自体に対しては、依然としてコーポレート・ガバナンスが十分

に機能していないとみられており、これが非常に目立っているため、日本のコーポ

レート・ガバナンスには問題があると評価されているものと思われる。この意味で、

日本のコーポレート・ガバナンスの問題の相当部分は金融機関に対するコーポレー

ト・ガバナンスであるともいえる。

大規模な金融機関においては、平均90%程度がいわゆる安定株主であり、個人株

主の影響力は、一般の上場企業と比較してもとりわけ低い。一般企業と株式持合が

行われてはいても、相手企業は極めて多数であり、個々の企業の持株比率は低い。

しかも通常、力関係は金融機関が圧倒的に上である。これらのことから金融機関に

Page 24: 日本のコーポレート・ガバナンス - ESRI日本のコーポレート・ガバナンス -構造分析の観点から- (経済分析 政策研究の視点シリーズ

- 20 -

対する株式持合の相手企業の発言力も極めて小さい。このため、日本のインサイダ

ー型コーポレート・ガバナンスは、民間の範囲では金融機関に対しては適切に機能

していなかった。しかも、保護行政により、預金者からの選択による経営改善圧力

も働きにくかった。

民間による金融機関に対するコーポレート・ガバナンスの機能の低さを、従来は

監督官庁のモニタリング機能によって補ってきた。金融業が極めて外部経済効果の

大きい産業であることを考えると、保護と監視により監督官庁が金融機関の行動を

規制していた従来のシステムは一応合理的なものであったといえる。しかしながら、

保護と監視による産業の規制は、産業の安定はもたらしたが効率化へのインセンテ

ィブは働かず、競争の手段は規模の拡大が中心となった。

金融機関が経営効率化・健全化を促進するためのインセンティブを与える措置に

はいくつかの方法が考えられる。預金保険に対する料率を経営の健全性に応じて変

動させる可変料率制は金融機関の資金コストに直接的に影響を与えることにより経

営効率化のインセンティブを与える方法である。アメリカで金融機関に対し試行さ

れているインセンティブ・コンパティブル・アプローチとは、金融機関の予定する

バリュー・アット・リスクを事前に公示し、事後的にそのレベルを超過した場合に

はその旨を再び公示する方法であって、リスク管理の方針とその結果を情報開示す

ることにより、預金者にその金融機関の信頼度を判断させることにより経営効率化

に対するインセンティブを与えようとする方法である。

ところで、早期是正措置も金融機関の経営効率化に対するインセンティブを与え

る措置といえる。すなわち、早期是正措置の目的は、経営状態の悪い金融機関を排

除することではなく、経営状態が悪化したことの判定基準と経営状態が悪化した場

合の措置を明確にすることにより、経営効率の改善(あるいはこれ以上悪くしては

いけないという認識の強化)のためのインセンティブを与え、経営効率改善に資す

ることである。利潤拡大のための手段が規模の拡大であった従来の金融機関の経営

戦略を、貸出額に自己資本比率という錨を付けることにより、収益率の向上を利潤

拡大の中心的戦略とさせることが目的であるといえる。したがって、金融機関の従

来の行動を前提とすれば、自己資本比率によって金融機関の経営を規制する「早期

是正措置」がとられるのは当然であり、金融機関に経営効率化・健全化のためのイ

ンセンティブを与えるという意味で、早期是正措置はコーポレート・ガバナンスを

機能させるための有効な手段であると評価される。さらに、これは裁量的な措置か

ら客観的な基準による規制への移行を意図したものという意味でも重要である。

早期是正措置による貸出総額の減少を緩和する措置がいくつか出され、あるいは

Page 25: 日本のコーポレート・ガバナンス - ESRI日本のコーポレート・ガバナンス -構造分析の観点から- (経済分析 政策研究の視点シリーズ

- 21 -

検討されている。例えば、低価基準に代わる原価基準の採用は単に会計数値を変え

る方法といえる。一方、地価の時価基準による評価替については、土地の含み益が

ある場合には、取得原価基準の場合より実際の自己資本は多いのだから、貸出可能

額は多いはずであり、時価基準の採用によって実態に整合的な貸出額を達成できる

のではないか、という理論的根拠が成立しうるかもしれない。ここで留意すべき点

は、情報開示および金融機関のコーポレート・ガバナンスという観点からするとこ

れらの措置には問題が生じる可能性があるので、長期的に考えれば、これらを損な

わないような方法とする必要がある。

Page 26: 日本のコーポレート・ガバナンス - ESRI日本のコーポレート・ガバナンス -構造分析の観点から- (経済分析 政策研究の視点シリーズ

- 22 -

V 結論

1 日本のコーポレート・ガバナンスの再構築

(1) バブル期における日本のコーポレート・ガバナンスの機能低下

日本のコーポレート・ガバナンスはインサイダー型、すなわち少数者間での監視

に基づくコーポレート・ガバナンスであった。中でもメインバンクが重要な役割を

果たしていた。しかし、自己資本比率が上昇したこと、証券市場が発達した結果、

企業の資金調達手段が多様化したこと、バブル期の金余り現象などによって企業に

対するメインバンクの影響力は低下し、そのコーポレート・ガバナンスも後退した

と考えられる。このように、従来はそれが適切に機能していたものが、バブル期を

境に機能不全を起こし、企業経営に悪影響を与えたのである。

では、このように低下したコーポレート・ガバナンスの機能をどのようにして強

化するのか。これについて特に目新しい提案があるわけではない。金融機関による

コーポレート・ガバナンス、関連企業によるコーポレート・ガバナンス、個人株主・

投資家自身によるコーポレート・ガバナンスなどが回復し、適正に機能するように

なれば、本源的な出資者である個人株主・投資家の利益は自然と守られるのである

から、結局は、(a)それらのシステムを強化し、(b)再び機能不全に陥らないようにす

るにはどのような方法があるかを考えることが重要となる。

経営者のモラルを信用せず、個人株主・投資家がすべてを監視するアメリカ型を

極端にしたモデルを考えれば、あまりにも直接的コストがかかるものになるであろ

うし、すべてをお任せにする日本型を極端にしたモデルを考えれば,いざという時

の歯止めが全く効かず、結局は多額の間接的コストがかかることになる。このよう

に考えれば、経営者のモラルを維持・高揚させ、インセンティブを提供しつつ、要

所に個人株主・投資家が監視を行うことにより、両者の長所を取り入れることので

きるシステムを構築することが適切である。

(2) 個人投資家の役割

ところで、個人投資家は零細であり個々の寄与は小さいこと、情報収集に相当の

コストを要し、複雑な判断が必要な方法は結局は機能しにくいこと、などを考慮す

れば、できるだけ市場機能を機能させるとともに、その意思決定のための容易かつ

安価な情報アクセスとできるだけ単純な判断基準を用いることができるような措置

が必要かつ適切であろう。このような観点から、以下の提案を行う。

インサイダー型コーポレート・ガバナンスは、一時のお祭り状態が去り、厳しい

競争原理が機能すれば自ずからある程度は回復する。この機能を強化し、企業間の

Page 27: 日本のコーポレート・ガバナンス - ESRI日本のコーポレート・ガバナンス -構造分析の観点から- (経済分析 政策研究の視点シリーズ

- 23 -

馴合いや庇合いが発生しないようにするために、個人投資家はなにができるか。企

業間の資金の流れをやその成果をすべて把握するなどは不可能であり、また適切で

もない。これを何らかの集約した情報として把握し判断の指標というる制度を考え

るべきである。例えば、企業間の投資的行為の規模とこれに関する成果に関する情

報を開示する制度を作ることである。より具体的には、関連会社への出資や株式の

保有状態だけでなく、その投資の成果を明示すべきことである。これによって、株

式持合を通じた相互監視機能を強化することができよう。

さらに、個人株主・投資家自身がより直接的にコーポレート・ガバナンスを機能

させるためには、比較的簡易な情報に基づいて企業の状態を判断しうることが必要

であるから、そのための適切な情報開示制度と、その情報を集約するような機関、

たとえば企業の格付機関の整備発達が必要である。

(3) 機関投資家の役割

企業年金、生命保険、投資信託などは機関投資家といわれ、膨大な資金を有し、

資本市場に大きな影響を与えてきた。しかるに、コーポレート・ガバナンスについ

て従来はその役割を果たしてこなかった。これは、その運用方法に規制が加えられ

ていたことや、機関投資家自身が、その投資成果について出資者から厳しい評価を

受けてこなかったため、自身の投資成果に対する厳しい評価が不足し、ひいては投

資先に対する判断に厳しさが欠けたことがその原因と思われる。出資者の利益を考

えれば、最も投資成績のよい機関投資家を選択しうるシステムを確立する必要があ

る。この結果、機関投資家に対して厳しい選択が行われるようになれば、必然的に

投資対象としての企業に対し資金規模に相応しいコーポレート・ガバナンスを機能

させることになる。

機関投資家の資金の運用に関する規制が緩和され、資金運用の自由度が増加する

とともに、個人出資者にとって、機関投資家の投資成果に対する十分な情報開示が

行われること、すなわち投資成果の判断基準は明確となり、かつ判断のための明確

な資料が提供されるシステムが確立されることになれば、今後は機関投資家が日本

のコーポレート・ガバナンスに大きな役割を果たすようになるであろうし、またな

らざるをえないであろう。

2 情報の開示

(1) 開示すべき情報

開示すべき情報は経営内容を明確にするものである。具体的には、連結財務諸表

の機能の拡大、時価情報の充実、持分法の適用範囲の拡大などが考えられる。これ

Page 28: 日本のコーポレート・ガバナンス - ESRI日本のコーポレート・ガバナンス -構造分析の観点から- (経済分析 政策研究の視点シリーズ

- 24 -

らは会計制度の国際的調和の目的も含めて、企業会計審議会において検討が進めら

れている。従来の日本の会計制度は国際的水準からみてかなり遅れているといわれ

ていたが、現在進行中のものも含めて、近年の改正により制度面での水準はかなり

近づいているといわれる。しかしながら、経営者の情報開示に対する姿勢は依然と

して消極的であり、利害関係者に情報を開示しないで済めばそれに越したことはな

いという意識が強い。

したがって、制度の充実も重要であるが、これとともに、経営者が情報開示に積

極的になるようなインセンティブを与えることが不可欠である。このためには、個

人投資家が開示された情報を適切に活用するという態度が必要である。

イ)連結財務諸表

大企業では多くの子会社や関連企業を有しており、個別財務諸表ではその企業

の経営状態を的確に知ることはできない状況になっている。無論、現在でも連結

財務諸表は証券取引法において制度化されているが、子会社の範囲、持分法適用

の範囲、連結財務諸表において開示すべき情報の内容が不十分なところが多い。

投資家に対する意思決定のために有用な情報を提供するとの観点からも開示の

内容を充実、拡大させる必要がある。

ロ)時価情報の開示

時価情報の開示は次の2つの点で重要である。

第1は、含み資産のオンバランス化である。含み資産は、経営者の資本に対す

るコスト意識を希薄化し、企業の経営成績を不明確にし、エージェンシー・コス

トを発生させる可能性を持つ。さらに、経営者の経営に対する緊迫感を低下させ

る可能性を持つ。したがって、資産の時価評価によりこれをオンバランス化し、

経営責任を明確化する必要がある。

第2は、含み損のオンバランス化である。現行の会計制度では所得原価基準が

採用されているため含み損が発生した場合、これをオフバランスしておき、企業

の財務状態の悪化を隠蔽することが少なくない。この点からも時価評価基準の導

入が重要である。

ハ)持分法の適用範囲の拡大

株式の所得を通じて他の企業の経営に関与する場合、その投下資本の効率を判

断するためには持分法を適用することが望ましい。特にグループ内での株式持合

が行われている場合は、持分法を適用しないと、真の経営状態を知ることが困難

となる。したがって、この場合は持分法を適用すべきである。

(2) 情報開示のためのインセンティブ

Page 29: 日本のコーポレート・ガバナンス - ESRI日本のコーポレート・ガバナンス -構造分析の観点から- (経済分析 政策研究の視点シリーズ

- 25 -

効果的な情報開示が行われるためには何が必要かについて考える。

制度を整備し、法的強制力をもたせれば、ある程度の情報が開示されることは保

証されよう。しかし、情報開示とは自分の財布の中身を広げることであり、他人の

介入を受ける可能性を孕むものである。何らかのメリットがなければ誰でも情報の

開示などはしたくないであろう。いかに制度を整備しても、経営者が情報の開示を

望まなければ、その効果は限られたものにならざるをえない。では、経営者が情報

を開示するインセンティブとしては何があり得るか。

第1は、投資家が開示された情報をいかに活用するかである。投資家が適正に開

示された情報を尊重して意思決定を行うとともに、情報開示の不十分な企業に低い

評価を与えれば、企業は十分な開示を行わざるをえないであろう。

第2に、企業の業績評価に関する格付機関の充実である。すでに数社の格付機関

があるが、まだ十分に企業の経営状態を分析することは容易ではない。したがって

信頼性と能力を備えた格付機関が発達することが投資家によるコーポレート・ガバ

ナンスを確立させる第一歩である。この格付機関が開示された情報にもとづいて、

評価・格付を行う際に開示が十分でない企業に対しては低い評価を付ける(開示し

ないのは内容が悪いからと判断する)ことにすれば、情報開示を促進する効果を持

つであろう。このように、情報開示の不足に起因するエージェンシー・コストはす

べて企業に転嫁するぞ、という投資家の明確な態度が、企業に対して最も効果的な

情報開示のインセンティブとなる。

なお、情報開示制度に不可欠の要因に、開示された情報の信頼性の保証がある。

このため、情報の信頼性を保証するための制度の整備とともに、虚偽情報を開示し

た者に対する厳しい罰則制度を整備する必要がある。

(3) 情報開示制度の拡充と企業負担の増加

情報開示制度の拡充は企業の負担を加重することになるだろうか。

多角化、国際化、分社化により国内外に多くの子会社、関連企業を持つ企業にお

いては、連結会計に基づく情報なしでは企業の経営状態を的確に把握することは困

難となっており、したがって、適切な経営を行うことはできないはずである。また、

原材料や商品・製品の輸出入あるいは資本取引を行う企業では、ディーリングやヘ

ッジングを行う必要があり、このような企業においては、有価証券、相場商品、為

替などの時価評価を行わなければ、自社の財務状態を的確に把握することはできず、

社内の業績管理を適切に行うこともできないはずである。

そもそも株式を上場するほどの規模の企業であれば、たとえ外部公表用の制度で

なくても、経営者の経営管理のために、連結会計や時価評価に類する内部制度を備

Page 30: 日本のコーポレート・ガバナンス - ESRI日本のコーポレート・ガバナンス -構造分析の観点から- (経済分析 政策研究の視点シリーズ

- 26 -

える必要があり、また備えていないはずはない。もし備えていなければ経営者に要

求される善良なる管理者としての注意義務を怠っていることになり、経営責任を問

われても仕方がないことになるであろう。

このように考えれば、情報開示制度は企業に負担の増加を強いるものではない。

むしろ情報開示制度として、国家が一定の基準を設定し、これが企業の経営管理に

も好都合であれば、企業にとっても歓迎すべきものとなるはずである。

Page 31: 日本のコーポレート・ガバナンス - ESRI日本のコーポレート・ガバナンス -構造分析の観点から- (経済分析 政策研究の視点シリーズ

- 27 -

[補論]

[II の補論] コーポレート・ガバナンスの定義に関する議論の補足

コーポレート・ガバナンスに関する議論は考慮すべき要因によってさまざまとな

る。議論の焦点を明確にするためには、利害関係者、考慮する事項、時期、検討の

対象等について、その範囲を掲示する必要がある。

(1) 考慮すべき事項

イ)経営判断に関する意思決定

ロ)経営者の選任

ハ)経営者の育成システム

企業統治を広義に考えればハ)まで含まれようが、通常はロ)までである。

(2) 不適切な意思決定の内容

イ)経営者が違法行為を行った場合

ロ)経営者が不適切な経営判断を行おうとしている場合

ハ)経営者が不適切な経営判断によって会社の業績が悪化した場合

現在はイ)を意識した議論が少なくないが、これは本質的には司法上の問題であ

り、本来のコーポレート・ガバナンスの問題ではない。経営におけるコーポレート・

ガバナンスの役割は、利害関係者によるモニタリング→情報の開示→経営成績の明

確化→経営責任の明確化→経営規律の確立・強化→効率的経営の達成、という流れ

の中で検討すべきである。

(3) 時期

イ)事後的に行使する場合

ロ)経過的に行使する場合

ハ)事前的に行使する場合

通常はイ)について議論されている。

(4) 目的

イ)ノンゼロサム・ゲーム、すなわち経済的プロセス

(a) 有能な経営者を選択すること

(b) 経営者の適切な経営を行わせること

ロ)ゼロサム・ゲーム、すなわち政治的プロセス

(a) 獲得した付加価値を従業員と株主の間での分配

(b) 企業と地域住民との関係

イ)を議論する場合には、ある主体がコーポレート・ガバナンスを機能させれば、

Page 32: 日本のコーポレート・ガバナンス - ESRI日本のコーポレート・ガバナンス -構造分析の観点から- (経済分析 政策研究の視点シリーズ

- 28 -

利害が一致する範囲で、他の主体はその結果を享受出来る、という意味でコーポレ

ート・ガバナンスは公共財的性質を持っていることに留意する必要がある。この場

合、コーポレート・ガバナンスを機能させる主体には、努力に引き合うような十分

に大きな利害関係があり、またメインバンク・レントのような何らかのメリットに

よるインセンティブが存在する必要がある。

(5) 検討の対象

コーポレート・ガバナンスの議論において、検討の対象となるものは、原則とし

て、所有と経営の分離している会社、すなわち、株式会社の中でも、規模が大きく、

経営者はわずかな持分しか持たず、オーナー的所有者がいない会社である。具体的

には上場企業とほぼ同じ範囲のものといえよう。

[III の補論] 日本の利害関係者のコーポレート・ガバナンスの特徴

(1) 株主のコーポレート・ガバナンス

戦後の株式保有形態は個人株主の大衆化・分散化・零細化と、法人株主化の進行

が大きな特徴となっている。この結果、個人株主の発言権は低下し、経営に与える

影響力は戦前に比べて大きく減少した。一方、法人株主は、安定株主工作などの動

機に基づいて、相互持合の形態で保有している場合が多く、相互に経営に対する緊

張感を保たせるという意味で、コーポレート・ガバナンスを機能させてきたという

面がある。ただし、バブル期における株価の急上昇は含み益を増加させ、株式持合

に対する緊張感を失わせ、コーポレート・ガバナンスの機能を低下させる大きな要

因となった。オーナー的大株主が存在する場合を除けば、個人株主が効率性ガバナ

ンスを持つことは困難であり、危機的状況でのみ機能しうると考えられる。しかし、

適法性ガバナンスについては有効であると考えられ、特に株主代表訴訟は単独株主

として行えるため、取締役の違法行為を牽制する機能が期待される。

(2) 投資家のコーポレート・ガバナンス

日本の企業の経営者は投資家の意思決定のために財務情報を提供するという意

識は薄く、情報開示に関しても証券取引法や商法が定めているから、不本意ながら

これに従っているのであって、法定の範囲で最小限の情報を開示しておこうという

意識が強い。一方、投資家の方も、自らの意思決定のために必要な十分な情報を要

求することが自分の利益を守ることだという意識が弱かった。これは、資金調達面

では、間接金融の役割が大きく直接金融の重要性が低かったため情報の開示を要求

する影響力が小さかったこと、およびこれに対応して金融機関のコーポレート・ガ

バナンスが機能していたため一応代替的な信用情報が存在していたこと、という要

Page 33: 日本のコーポレート・ガバナンス - ESRI日本のコーポレート・ガバナンス -構造分析の観点から- (経済分析 政策研究の視点シリーズ

- 29 -

因がある。また、行政面では、厳しい上場基準、社債発行会社に対する厳しい適格

基準、無担保社債の発行が最近まで許可されていなかったことなど、投資家を危な

いものに近づかせないという、いわば母親的発想で規制が行われていたため、投資

家自身が自己の判断と自己責任によって意思決定を行うという意識が薄かったので

はないだろうか。

いずれにせよ、従来は投資家のために十分な情報開示が行われていたとはいえず、

したがって、投資家がコーポレート・ガバナンスに十分に関与していたとはいえな

い。今後は、国際会計基準との調和化や金融機関の不良債権問題などのため、時価

評価の採用や連結財務諸表の役割の拡張など、企業の財務情報開示制度が充実され

る方向にあり、これに加えて、投資家自身の意識変革が行われれば、投資家のコー

ポレート・ガバナンスが強化される可能性は高い。

(3) 機関投資家のコーポレート・ガバナンス

アメリカでは、年金基金などが機関投資家であり、出資者の利益をかなり忠実に

反映して行動しているといわれている。その利害関係は保有する有価証券の収益で

あり、個人投資家と利害が一致する。さらに、近年は保有する大量の株式を一度の

売却できないため、企業の経営自体にも積極的に発言するようになり、株主として

また投資家として強力な影響力を発揮している。

日本でも、生命保険会社や厚生年金は機関投資家とされ、大量の株式を保有して

いるが、その行動原理にはアメリカとかなりの差がある。例えば、大量の株式を保

有しているとはいえ、その保有動機は相互保有的・安定株主的であり、法人間の相

互持合の一環に組込まれている。また、機関投資家自体の財務情報の開示が不十分

であり、しかも資産運用に対する成果の評価が厳しくないため、収益率最大化のた

めのインセンティブが不十分である(収益最大化よりは一定の収益率確保を重視す

るという行動特性がある)といわれている。したがって、出資者の意思を的確に反

映して行動するともいえず、個人投資家と利害関係の一致する行動をとるとはいえ

ない。また、企業の経営に対しても積極的に関与してはいない。日本には真の機関

投資家が未だいないという見方もあり、機関投資家のコーポレート・ガバナンスが

十分に機能しているとはいえない。しかし、今後、機関投資家による投資活動に厳

しい判断が要求されるようになれば、機関投資家がコーポレート・ガバナンスに関

して重要な役割を果たすようになる可能性は高い。

(4) 従業員のコーポレート・ガバナンス

戦前の企業においては、従業員の発言権は弱く、コーポレート・ガバナンスはほ

とんどなかったといえる。戦後の企業と従業員の関係をみると、日本的企業経営の

Page 34: 日本のコーポレート・ガバナンス - ESRI日本のコーポレート・ガバナンス -構造分析の観点から- (経済分析 政策研究の視点シリーズ

- 30 -

三種の神器(終身雇用、年功序列的賃金、企業内組合)はすべて企業と従業員の関

係に着目しており、企業は従業員の待遇改善に努力し、これに対応して企業に対す

る忠誠心を示すという状況を表している。従来はこれを、江戸時代以来の御家意識

や集団への帰属意識あるいは国民性などウエットな関係として説明しようとする傾

向が強かった。比較制度分析論ではこれを「見えざる出資」や「繰返ゲーム(評判)」

というキーワードによって、より論理的な関係として説明しようと試みている。

経済学の教科書的な表現では、従業員は企業に対し労働力を提供し、その労働の

価値に応じて賃金を受けるだけの存在にすぎないが、現実には企業に対してさまざ

まな出資を行っている。例えば、貸借対照表をみれば、退職給与引当金などは従業

員の持分といえる。あるいは年金基金の形態でオフバランスされていることもある。

また、従業員持株制度により実際に出資を行っている場合もある。これらはいわば

明示的な出資である。

しかしながら、実は従業員にはこれ以外にも、というより暗黙的とはいえこれ以

上に重要な会社に対するコミットメントがあり、比較制度分析論ではこの点に注目

して従業員のコーポレート・ガバナンスについての分析を行っている。例えば、多

くの従業員は自己の帰属する企業に特有の知識、技術、ノウハウ、習慣を身につけ

ている。これらの知識、技術、ノウハウ、習慣は企業内の意思疎通や情報の流通を

よくし、企業活動の効率を高める。このようにして、従業員が企業固有の知識など

を習得することは、企業、従業員両者にとって有利なこととなる。

見えざる出資としての企業に特有の知識の経済的価値を考えてみよう。従業員を

売手、企業を買手と考えると、この企業の特有の知識は、身につける時には相当の

投資を必要とするが、一度身につくと追加的な投資を必要とせず、また使用によっ

て減少することもなく、しかも企業が唯一の買手であるという特徴をもっている。

通常、このような財の売買交渉を一回限りのものとすれば、買手が圧倒的に有利で

ある。しかし、通常は企業は永続するものと考えるので、このような交渉は永続的

に繰返し行われることとなる。

このように交渉が繰り返し行われることが、従業員側の交渉力の源泉となる。す

なわち、企業に特有の知識を企業が適正に評価しなければ、従業員はその種の知識

を努力して身につけようとはせず、企業としても経営の効率化が図れず、結局は企

業にとって得にはならない。さらに大局的に考えれば、企業が従業員の期待を不当

に裏切れば企業の評判は低下し、企業と雇用契約を結ぼうとするものは減少する。

このように、「評判」に象徴される繰返しゲームの論理によって、企業における従業

員の利害は尊重されることとなる。

Page 35: 日本のコーポレート・ガバナンス - ESRI日本のコーポレート・ガバナンス -構造分析の観点から- (経済分析 政策研究の視点シリーズ

- 31 -

平常時には適正に機能している従業員のコーポレート・ガバナンスも、企業が経

営上の危機に瀕した場合には、評判のメカニズムが崩壊するため、その機能が低下

することとなる。

(5) 関連企業や取引先のコーポレート・ガバナンス

例えば下請企業が元請企業の要請により新規投資を行い、それが元請企業のため

のみに必要な投資である場合には、発注量の確保などの点で元請企業がリスクを負

担する。これは、一種の暗黙の契約があるという見方もできるが、結局は評判のメ

カニズムに帰着させることができる。

(6) 金融機関のコーポレート・ガバナンス

戦後の日本の企業の資金調達は銀行借入を中心として行われていた。いわゆる企

業集団に属する企業のみならず、大部分の企業には主たる取引銀行、すなわちメイ

ンバンクがあり、企業経営に大きな影響を与えてきた。さらに、通常メインバンク

は企業との株式持合になどよって、株主としての利害関係も有していた。

このようなメインバンクと企業の関係は単なる債権者・債務者の関係にとどまら

ず、それ以上の意味を持っていた。つまり、メインバンクは企業に対する最大の利

害関係者であり、しかも、メインバンクと企業の力関係を見ると、大部分の場合に

メインバンクが圧倒的に優位にあった。この結果、メインバンクは企業の経営内容

について情報を入手しモニターを行うインセンティブとともに、企業に対して経営

情報の提供を要求しうる影響力を持っていた。さらに、多くの場合、メインバンク

にとって、企業は単なる債務者として現在の貸付が無事に返済されればよいだけの

相手ではなく、将来の優良な資金の需要者として、成長することがメインバンクに

とっても重要なことであり、この意味でも企業において適正な経営が行われること

に大いに関心があった。

一方、企業の経営内容を熟知したメインバンクが企業と取引を継続することによ

り、企業が他の金融機関から借入を行う場合や他の企業と取引を行う場合に信用状

態を保証することとなるので、企業にとってメインバンクと取引を継続することは

エージェンシー・コストを低下させる機能を持った。このように、メインバンクと

企業の関係においてメインバンクはモニタリング・コストの大部分を負担したが、

これはメインバンクが企業の主要な金融取引を担当することにより発生するメイン

バンク・レントによって補償された。また、より大局的にみれば、ある企業に対し

て、取引銀行が別個にモニタリング資源を投入するのではなく、メインバンクが主

として負担することにより金融部門全体としてのモニタリング・コストを節約する

ことになった。

Page 36: 日本のコーポレート・ガバナンス - ESRI日本のコーポレート・ガバナンス -構造分析の観点から- (経済分析 政策研究の視点シリーズ

- 32 -

Page 37: 日本のコーポレート・ガバナンス - ESRI日本のコーポレート・ガバナンス -構造分析の観点から- (経済分析 政策研究の視点シリーズ

- 33 -

これは企業経営に対する分析ノウハウが十分に行き渡っていなかったという意味で、

モニタリング資源が不十分であった時期には、経済システム全体としての資源の有

効活用であった(青木96a)。

このようにメインバンクは企業に対する強力なコーポレート・ガバナンスを持ち、

企業経営に影響を与えるとともに、企業に対する信用保証機能を担った。しかしな

がら、内部留保の充実やエクィティ・ファイナンスによる自己資本の拡大など、企

業の資金調達方法が多様化し、また金融の自由化が行われるとともに、金融機関も

増加した預金の貸付先を積極的に開拓することが必要となった。この結果、金融機

関と企業の力関係が徐々に変化して、メインバンクの企業に対するコーポレート・

ガバナンスも弱体化した。この傾向は、バブル絶頂期には特に著しかった。

ここで、メインバンクの貸付先企業に対する影響力の行使の方法についてみてみ

よう。メインバンクは貸付先企業の経営を規律づける影響力、すなわちコーポレー

ト・ガバナンスを有する。この影響力の行使の方法は企業の経営状態によって変化

する。例えば、

(a ) 企業の経営状態が良好な場合は、金融機関は直接的な影響力は行使しない。

(b) 経営状態が悪化した場合は、取締役を送り込むなどの軽度の介入を行う。

(c) 経営がさらに悪化した場合には、企業再建の可能性を判断して、経営陣を刷

新して救済を行うか、清算するかを選択する。

というように、企業の経営状態が悪化するほど介入の度合いを強めるという形態を

取る。青木は、このように経営状態によって金融機関が企業に対する介入の程度を

変化させるコーポレート・ガバナンスの形態を「状況依存的ガバナンス」(青木96a)

と名づけている。企業経営者は金融機関からこのような介入を招かないように経営

努力を行い、この結果として企業経営の規律づけが行われることとなる。

この状況依存的ガバナンスはいうなれば「凧の糸」のようなものであって、緊張

状態にある時(企業の経営状態が平穏でない時)にはよく機能するが、弛緩状態(懸

念のない状態)ではあまり機能しないし、またさせる必要がないという特徴がある。

したがって、これは債権者が債務者に常にある程度の緊張感を与えている形態によ

る効率性ガバナンスであるといえる。

[IV の補論] 株式持合とコーポレート・ガバナンス

(1) 株式持合がコーポレート・ガバナンスに与える影響

日本では株式持合によって発言のメカニズムだけでなく、退出のメカニズムも働

きにくいことから、株式持合は株主のコーポレート・ガバナンスを空洞化させる元

Page 38: 日本のコーポレート・ガバナンス - ESRI日本のコーポレート・ガバナンス -構造分析の観点から- (経済分析 政策研究の視点シリーズ

- 34 -

凶であるといわれている。例えば、ある企業の業績が低下して売りが増加しても、

敵対的買占めは排除されており、また、株式持合により浮動株が少ないため買支え

が行われやすく、株価に影響が現れにくい、というものである。たしかにこのよう

な面があることは否定できないし、敵対的買占めの脅威は働きにくい。しかし、浮

動株が少ないため、売りや買いの増加による株価の変動度は高まるという見方もあ

る。どちらの現象が現れるかは企業あるいは企業グループの財政的余力などによる

であろうが、長期的には市場機構が機能することになろう。バブル崩壊後の現在で

は、企業の財政的余力が減少しているため、後者の現象が明確に現れている例も少

なくない。この場合、敵対的買占めは起こらないまでも、株価が低下すれば企業の

信用は低下し、借入による資金の調達コストは上昇するので、株式持合という状況

下でも退出のメカニズムが機能する余地はあり、実際機能していると考えられる。

発言のメカニズムは直接的であり、ある程度のかたまりとなれば大きな影響力を

持つことができるが、小さければ無視されやすい。一方、退出のメカニズムは間接

的であるが,経済合理的な方向に力が働くので、各人が自己の利害に基づいて行動

すればよいのだから、零細株主でもそれなりの影響力を持つことができる。したが

って、営利企業に対しては、市場メカニズムを信頼して、退出のメカニズムが適切

に機能しうる環境条件を整備することは株式持合という状況下でも企業経営の改善

に有効であろう。

(2) 経済的側面から見た株式持合の影響

現在、法人株主の特殊比率は上場企業平均で60~70%に達しているといわれる。

また、企業集団内部では、株式の相互保有、すなわち株式持合が発達しており、こ

れが日本の企業経営におけるコーポレート・ガバナンスの大きな特徴の一つとなっ

ている。

株式持合は議決権を空洞化させ、株主総会の形骸化を促進させる大きな要因にな

っていることはコーポレート・ガバナンスに関する多くの文献が指摘しているとこ

ろである。しかし、ここではその点についてではなく、株式持合が企業の財政状態

および経営成績に及ぼす影響について考察する。なお、以下では、有価証券の評価

額は公正価格、すなわち、一株あたり純資産額で表示されているものとする。

企業を1、2、・・・n とする。

aij:第 i 企業が第 j 企業の株式を保有する割合

bi :第 i 企業の「見掛け上」の純資産

ci :第 i 企業の(株式持合の部分を除いた)「真」の純資産

ri :第 i 企業の純利益

Page 39: 日本のコーポレート・ガバナンス - ESRI日本のコーポレート・ガバナンス -構造分析の観点から- (経済分析 政策研究の視点シリーズ

- 35 -

si :グループ企業からの配当を除いた第 i 企業の純利益

ti :配当性向

すると、ciはbiから株式持合の部分を消去したもの(連結財務諸表における

投資と資産の相殺消去のようなもの)、siはriからグループ企業からの配当の部

分を除いたもの(連結財務諸表における配当と受取配当の相殺消去のようなもの)

と考えればよいから、

bi=ci+Σaji*bj

ci=bi-Σaji*bj

ri=si+Σaij*tj*rj

si=ri-Σaij*tj*rj

となる。グループ全体の純資産 c および純利益 s は、

c=Σci=Σ(1-Σaji)*bi

s=Σsi=Σ(1-tj*Σaij)*rj

となる。すると、グループ全体の利益率 s/c は、

s/c={Σ(1-tj*Σaij)*rj}/{Σ(1-Σaji)*bi}

となる。ここで、株式持合の効果についての目安を得るため、極めて簡単なケース

として、

bi=b、ri=r、ti=tとすると、

s/c={Σ(1-t*Σaij)/Σ(1-Σaji)}*(r/b)

≧(r/b)

例えば、Σaij=0.6 、t=0.3とすると、

s/c=2.05*r/b

このように、株式持合は利益率を低く表示する効果を持ち、配当性向が低いほど、

また株式持合比率が高いほど、この効果は大きい。さらに、株式持合は、グループ

内の企業が他の企業について一定のコミットメントを行うことにより、企業の信頼

性を高める効果を持つ。いい換えれば、企業合併を行わずに、また実質的な増資な

ども行わずに、自己資本の持つセーフティネットの効果を大きくするという作用を

持つ。

なお、個々の企業の純粋の経営成績(si/ci)を計算したければ、

A、Tを n 次正方向列、b、c、r、s をn次縦ベクトルとして、

A=(aij)

ti:i=j

0 :i≠j

Page 40: 日本のコーポレート・ガバナンス - ESRI日本のコーポレート・ガバナンス -構造分析の観点から- (経済分析 政策研究の視点シリーズ

- 36 -

b=(bi)

c=(ci)

r=(ri)

s=(si)

とおいて、

b=c+At*b

r=s+A*T*r

より(AtはAの転置行列)、

c=(I-At))*b

s=(I-A*T)(-1)*r

として、ciおよびsiを計算すればよい((-1)は逆行列を表す)。

ただし、これが成立するためには、株価が公正価格で評価されている必要がある。

また、持分法が適用されていれば、配当性向を考慮する必要がない(単位行列とな

るから、s の式からTを除去することができる)。

(3) 株式持合による損得勘定

株式持合を純粋に財務的な投資行為と考えた場合に、株式持合によって両企業は

どれだけ得(損)をしたかについて検討する。ここで、以下を仮定する。

イ)株価総額は正確に会社の価値を表すものとする。

ロ)配当は行われなかったものとする。

ハ)株式持合による営業活動上の効果(連結のれんのようなもの)は無視する。

ニ)両社とも増資により、しかも等価交換によって株式持合が行われたとする。

[記号] 甲社 乙社

株式総数(増資前) Q q

増資比率 R r

株価(第0期) P p

株価上昇率(実質) S s

株価上昇率(見掛上) T t

等価交換だから、PQR=pqr である。

第1期における甲社の純資産は、

PQ(1+R) (1+T) = PQ(1+S) + PQR(1+t)

∴ (1+S) = (1+R) (1+T) + R(1+t)

S-T = R(T-t)

したがって、例えば、T>t とすると、乙社保有分を除く甲社の株価総額は、株

Page 41: 日本のコーポレート・ガバナンス - ESRI日本のコーポレート・ガバナンス -構造分析の観点から- (経済分析 政策研究の視点シリーズ

- 37 -

式持合をしない場合より、PQR(T-t)だけ減少する。すなわち、同額だけ甲社は損を

したことになる。同様に、乙社は株式持合により、pqr(t-T)だけ得をしたことにな

り、全体とすれば、甲社から乙社に PQR(T-t)だけ移転があったことになる。また、

甲社の株主からみれば両社の(見掛上の)株価上昇率の差に増資比率を掛けた率だ

け株価上昇率が低下した(損をした)ことになる。

このことから、純粋に財務観点からの株式持合の効果は、相手企業の株価が上昇

していればよしとしうるものではなく、相手企業の株価上昇率が自社の株価上昇率

を下回っていればむしろ損をしていることになる。実際の株式持合は取引関係の維

持などが目的であるから、この要因を無視することはできないが、財務的側面も株

式持合の重要な要素である。

Page 42: 日本のコーポレート・ガバナンス - ESRI日本のコーポレート・ガバナンス -構造分析の観点から- (経済分析 政策研究の視点シリーズ

- 38 -

[参考 I] 日本におけるコーポレート・ガバナンスの歴史

日本の企業の特徴は「所有と経営の分離が先進諸国中でも最も進んでおり、株主

の企業に対する発言力・影響力は弱く、日本企業の経営者は、人的組織体の代表者

という性格を持っている」といわれる。このような状況は歴史的要因と社会的に必

然的な要因とがある。このような視点から、日本におけるコーポレート・ガバナン

スの歴史を考察する。

1 戦前のコーポレート・ガバナンス

(1) 株式会社制度の発達

日本における本格的な株式会社制度の導入は1872年の国立銀行条例の制定や

1878年の株式取引所条例の制定を契機として、まず鉄道会社、銀行、株式取引所な

どの設立から始まった。次いで1886年から1890年の第一次企業勃興期に紡績業、鉱

山業などの分野へと波及し、その後も日清戦争後、日露戦争後における第二次、第

三次の企業勃興期が続いた。国立銀行や取引所は株式会社の形式は整えていたとは

いえ、それらの多くは少数者の出資を結合する「組合的」株式会社であり、必ずし

も株式会社としての実態を備えるものではなかった(野田80)。また、設立された企

業の大部分は零細なものであった。

1880年代の第一次鉄道熱によって多くの鉄道会社が設立されるとともに、広く公

衆の資本を糾合する本格的な株式会社が成立するようになったといえる。ちなみに、

当時一般の株式会社の資本金は10万円程度であったといわれるのに対し、巨額の設

備資金を要する鉄道会社では、例えば1881年に鉄道会社として最初に設立された日

本鉄道の設立時の資本金は596万円、その他の鉄道会社のおおむね500万円を超える

ものであり、当時としては圧倒的に巨額の資本金をもって設立されたことが分かる

(野田80)。

このような巨額の資本金を華族や上層士族のみで調達することは不可能であっ

た。そこで、工事に着手すると同時に、沿線各県で一般株主の募集が行われた。も

っとも、株式会社制度そのものがまだ社会的に馴染みがなかったため、各県令、郡

衛、町村の役所、地元有力者を通じて地方資産家に株式の購入を呼びかけた。呼び

かけとはいえ、実質的には割当のようなものであったから、御用金、運上金のよう

に受け取られた。そのため、申込証拠金は払込んだものの、株式の所得時にこれを

放棄したものや、一旦は取得したものの、払込金額の半額以下で株式を手放したも

のが少なくなかった。しかしその後、株主総会で年1割の配当を決定し、また金利

Page 43: 日本のコーポレート・ガバナンス - ESRI日本のコーポレート・ガバナンス -構造分析の観点から- (経済分析 政策研究の視点シリーズ

- 39 -

が低下するのにともなって株価が上昇した。このように株式の値上がりによるキャ

ピタルゲインが得られることが知られるようになるとともに、株式投資のブームが

起こり、増資も順調に行われるようになり、鉄道の建設を促進した。

ところで、この時代の庶民の預貯金は無尽などを通じて行われており、銭の単位

でなされるものが通常であったから、1株50円あるいは100円という金額は大変な

額であった。ちなみに、明治40年頃の一般庶民(職人など)の収入は月収に直して

7~20円であった。したがって、わずか1株の額面金額を払込むためにも数カ月分

の収入が必要であったから、株式などは一般庶民にはおよそ高嶺の花であった(有

沢78)。このことから、この時代に50円を調達できる人間の数が限られていたこと

は容易に想像できる。

このように高額な1株の値段が戦前の株式会社制度のいくつかの特徴を与えて

いる。第1は、株式会社にとってある程度の資力を持った安定的株主層を確保する

必要があったこともあって、株式会社が特定・少数の株主による組合的性格をなか

なか脱却することができなかった。

第2は、分割払込制度が採用されていたことである。すなわち、資産家といえど

も券面額を一時に払込むことは容易ではなく、分割払込制度が普通となっていた。

この制度は、会社の必要に応じて資本の追加払込を行えるという点で、現行商法の

授権資本の制度と類似の機能を持っていたうえ、既存株主に対する資本払込の強制

力を持っているという点でも会社に便利な制度であった。特に、鉄道会社のように

逐次的に巨額の設備投資資金を要する産業では、当初から配当金の負担を過大にし

ないで済むという効果もあった。

第3に、この分割払込制度に関連して、株式会社の資金調達形態に特徴が現れて

いる。戦前の株式会社(大企業)の資本比率を戦後と比較してみると、自己資本比

率は50~60%に達しており、そのうち70~80%を払込資本が占めた(日銀94)。ま

た、銀行借入れによる間接金融への依存度は低かった。一方では、銀行融資に占め

る株式担保の比率が高く、第一次大戦までは全貸出の半分近くを占めていた。この

ことから、株主が株式担保によって会社からの追加払込に応じていたと考えられ、

これらによって銀行融資のうちかなりの部分が株主に対する融資を経由して企業に

回っていた、すなわち銀行→株主→企業という当時の資金調達の流れができていた

と考えられる。

このように、巨額の資本を必要とする鉄道業などでは、広い範囲に株主が分散す

るとともに、紡績業などにおいては、経営支配を目的とした株式への投資が行われ、

組合的な性質を残していたといえる。

Page 44: 日本のコーポレート・ガバナンス - ESRI日本のコーポレート・ガバナンス -構造分析の観点から- (経済分析 政策研究の視点シリーズ

- 40 -

(2) 株式保有状況と株主のコーポレート・ガバナンスの仕組み

株式会社の発達にともなって、資本市場もかなり発達していた。また、株式市場

においては、既にPER(株価収益率)をベースにした株価が形成されていたとい

う実証研究がある。

戦前の商法では、株主総会は「最高かつ万能の機関」とされており、法令、定款

に定められた事項だけでなく、あらゆる事項を決議する権限を有していた。したが

って日常的な業務執行についても総会決議に基づいて取締役を拘束することができ

た。また、取締役および監査役の選任、解任および報酬の決定は株主総会の普通決

議事項とされ、取締役および監査役は任期中でも普通決議によって解任することが

できた。

資本の調達形態からみた三井、三菱、住友などの財閥系企業の特徴のひとつは、

傘下の企業は株式会社形態を取っているにもかかわらず、その資本の大部分が財閥

家族の出資する持株会社に所有され、株式は公開されておらず、企業金融も系列内

部で形成された資金による自己金融の比率が高いことであった。これは、財閥内部

における資本の蓄積が大きかったこと、および財閥家族の家産保全的経営方針によ

り傘下企業に対する外部資本の導入に消極的であったことによるものである。しか

し、1932年の血盟団事件を契機として、財閥に対する世間の批判を緩和するため、

(a)財閥家族の経営の第一線からの引退、および(b)資本の公衆化を目的とした傘下事

業会社株式の公開、を掲げ、1933年より財閥の傘下企業の株式の公開が始まった。

一方、日産をはじめとする新興財閥系企業は公開株式会社が多く、その資金調達の

内容は、払込資本の比率は高かったが内部留保は少なく、借入金や社債への依存度

は高かった。このことから、新興財閥系企業は証券市場を積極的に活用して資産家

層の資金を調達していたことが分かる。

大株主の経営に対する関与という点からみると、財閥系企業においては早くから

所有と経営が分離しており、本社内部昇進者を中心とする傘下企業の経営陣に経営

を委ねたうえで、財閥本社は重要案件を審査・決済するという分権的な制度を採用

した。一方、非財閥系企業においては大株主が役員ポストを獲得し、経営対策に大

きな影響を与える場合があった。

財閥系企業には持株会社である財閥本社があり、非財閥系企業には持株会社であ

る資産家の資産保全会社があった。これらの持株会社は、いずれもリスクを負って

企業に多額の資金を拠出していたため、企業に積極的にコーポレート・ガバナンス

を行使するために必要な大きな犠牲を払うインセンティブがあった。すなわち、戦

前の企業には株主としてのコーポレート・ガバナンスが機能する条件が整っていた

Page 45: 日本のコーポレート・ガバナンス - ESRI日本のコーポレート・ガバナンス -構造分析の観点から- (経済分析 政策研究の視点シリーズ

- 41 -

といえる。

戦前においては大株主への株式の集中度が高かった。財閥系企業においては財閥

家族や財閥本社からの資本出資の比率が高かった。また、非財閥系企業でも、株式

の集中度は財閥系企業ほどではなかったが、その水準は高く、株主は資産家の資産

保全会社などの持株会社が中心であった。いずれにせよ、企業に多額の出資をして

大きな影響力を持った株主がいたことは、企業のコーポレート・ガバナンスの仕組

みとして大株主が機能しており、企業をコントロールしていたことを意味する。

このように、財閥系企業においては、財閥本社から傘下企業に取締役を派遣する

とともに、予算・決算、人事権などを把握することにより企業の経営状況をモニタ

ーした。非財閥系企業においては、大株主が取締役となり、経営陣に参加すること

により、企業の経営状態をモニターし、コントロールした。また、非財閥系企業を

中心に、利益金の配当率は高く、平均配当性向は70%程度にも達していた。株式の

買占めにより経営不振に陥った企業を買収する、いわゆる敵対的買収も行われ、企

業経営の効率化のための規律づけとして機能していた。

上記のように、経営者の地位や執行権限は商法上は株主に規制されていた。しか

し、一方では役員報酬の利益金に占める割合は4%程度と極めて高かった(戦後は

1%程度)。また、役員のかなりの部分は大株主から選ばれていた。このように、エ

ージェンシー理論でいう、経営者と株主の利害を同一化することによる方法により、

プリンシパル・エージェント問題を解決していたといえる。

(3) 戦前のコーポレート・ガバナンスの評価

戦前の株式会社におけるコーポレート・ガバナンスをみると、古典的な意味での

株主主権が成立していたといえる。もっとも、これをすべてポジティブに評価しう

るか否かは議論のあるところであろう。例えば高橋亀吉は「株式会社亡国論」のな

かで、株主はできる限り高い配当を要求し、更に役員となって高級を貪っているこ

と、その結果として十分な資本蓄積が行われず、十分な設備投資が行われないこと、

などを指摘している。また、これらの株式会社のなかで財閥系企業はこのような腐

敗堕落が少ないため、その信用度が高いことを指摘している。実際、財閥系企業と

非財閥系企業を比較すると、財閥系企業の方が平均配当性向が低いという実証分析

がある(日銀94)。

一方、従業員の企業における発言権は極めて小さかった。労働組合の組織率は低

かったうえ、労働組合自体が法的保護を受けていなかった。こうした状況は従業員

の企業への定着率の低さと裏腹な関係にあったといえる。すなわち、従業員の企業

に対するコミットメントが小さかったことが、彼らの活発な企業間移動をもたらし

Page 46: 日本のコーポレート・ガバナンス - ESRI日本のコーポレート・ガバナンス -構造分析の観点から- (経済分析 政策研究の視点シリーズ

- 42 -

たといえる。

銀行については、直接金融の比率が高かったこと、銀行の審査の能力が低かった

ことなどから、十分なモニタリング機能は果たしていなかった。

2 戦時期における変革

経済面ではあらゆる分野で戦時統制が進められた。企業の設備資金統制のため、

臨時資金調整法が制定された。全業種を戦争遂行目的に合わせて甲、乙、丙に分類

し、甲は優先的に資金を供給し、丙には事実上資金供給の道を閉ざし、乙にはケー

ス・バイ・ケースとした。銀行からの借入れだけでなく、株式や社債の発行につい

てもこの基準で統制された。

会社の経営においては株主の権限が制限された。会社利益配当および資金融通令、

会社経理統制によって高配当や高い役員賞与が制限された。役員も大株主や外部出

身者が減少し、内部昇進者が増加した。一方、従業員に対しては、産業報国会が事

務所別に設置され、多くの従業員がこれに加入した。会社の経営における従業員の

影響力は増大した。利潤は株主に対してではなく、従業員に対するインセンティブ

として利用された。

このような臨戦体制化での企業の経営構造の変化が戦後の日本の企業体制に大

きな影響を与えたことは確かである。しかし、「1940年体制論」者が主張するよう

に、これが戦後の日本の経済システムを決定づけ、未だに大きな影響を持っている

とする結論が妥当か否かについては議論の余地のあるところだろう。

たしかに、戦時経済体制は戦前と戦後の経済システムの断層を埋める役割を担い、

また、現在の方向に向ける大きな契機となったことは確かである。しかし、財閥解

体などによる支配的株主の後退と株式の分散化、経済発展による雇用機会の増大や

多様化、所得水準の上昇や平等化などの影響も大きい。

青木の論文にもみられるように、経済システムは歴史的経営に依存する所が大き

いことは確かである。同時に、初期条件が異なってはいても、経済システムを規定

する要因が類似していれば、経済システムはやがて収束する傾向があるともいえる。

3 戦後のコーポレート・ガバナンス

(1) 株式保有の状況と株主のコーポレート・ガバナンスの仕組み

昭和23、25年の商法改正においては、株式会社構造の近代化、合理化を掲げ、以

下のような改正が行われた。

Page 47: 日本のコーポレート・ガバナンス - ESRI日本のコーポレート・ガバナンス -構造分析の観点から- (経済分析 政策研究の視点シリーズ

- 43 -

イ)株式分割払込制度を廃止するとともに、追加的な資本調達を容易にするため、

授権資本制度が採用された。

ロ)株主総会の権限を縮小するとともに、所有と経営の分離を図った。

ハ)取締役会制度を制度化し、取締役会は業務的意思決定を行うとともに、代表取

締役会の業務執行の監督をするものとした。

ニ)形骸化していた監査役の権限を縮小し、会計監査のみを行うものとした(なお、

取締役に対する株主の監視権があまりに形骸化してしまったという反省から、そ

の後の商法改正により監査役の権限強化が図られている)。

ホ)大衆株主の投下資本の回収を保証し、また市場を通じた経営者に対する批判の

方法を確保するため、株式譲渡の自由を絶対的に保証し、定款をもってしても制

限できないものとした(その後、零細な株式会社が圧倒的に大多数であるという

現状を追認する形で、定款をもって譲渡制限を行える旨の改正が行われた)。

このように現行商法では、株主総会の権限は、会社の意思決定に限られ、執行行

為をすることはできない。そしてその意思決定の権限も万能ではなく、原則として、

法令・定款に定められた基本的事項に限られる(有限会社の社員総会には「最高か

つ万能の機関」という特性が残されている)。取締役や監査役の選任および報酬の決

定は普通決議であるが、解任には特別決議を要するとして、取締役の地位の強化が

図られている。このような昭和25年の株主総会の権限の範囲に関する商法改正は、

株主総会が実際には重大な事項のみを決定するに過ぎないという当時の状況を追認

したものである(鈴木93)。

戦後の株式保有構造の変化は、財閥解体から始まったといえる。占領軍は敗戦の

時にもなお大きな経済的影響力を持っていた財閥を解体し、持株会社整理委員会が

これら財閥系の持株会社の保有する証券を譲り受け、これを処分した。この時に放

出された株式は全国会社総払込金額の半分近い200億円に上った(小林87)。このよ

うな多額の株式は、戦後、財産税などで大きなダメージを受けた旧資産家層のみで

は吸収できなくなり、広く一般大衆の資金をあてにした放出株式吸収策がとられ、

いわゆる証券民主化が行われた。

このような株式保有の大衆化が起こった背景には、戦後のハイパー・インフレー

ションのなかで株価は極めて安定していたため、実質価格が大幅に低下していたこ

とがあげられる。すなわち、戦前・戦後を通じて多くの企業の株式の額面は50円で

あり、株価も額面と大差ない価格であった。一方、通貨価値の面をみると、昭和10

年頃の1日の平均賃金は2円程度であったから、株式1株の値が1か月の賃金に相

当するわけで、庶民にとってはまさに高嶺の花であった。身近なものの値段と比較

Page 48: 日本のコーポレート・ガバナンス - ESRI日本のコーポレート・ガバナンス -構造分析の観点から- (経済分析 政策研究の視点シリーズ

- 44 -

すると、昭和10年頃には朝日1箱の値段は15銭であり、株式1株はその300倍以上

であったが、昭和22年になるとピース1箱の値段が50円となり、株式1株とほぼ同

額となっていた。この時代の株式民主化運動の標語の1つに「ピース1箱で株が買

える」というものがあったそうだが、株式が戦前に比べていかに安い身近なものに

なっていたかが分かる。

戦後の株式の放出により、個人の零細株主が増加し、一時は個人持株比率が70%

程度に達した。しかし、その後は趨勢的に法人企業の持株比率が上昇し、いわゆる

株式の相互持合が常態化する状況となった。このような株主の法人化の動きには、

3回の大きな波があった。

第1の波は、終戦直後の個人株主化の反動として、特に株価下落時に個人が手放

した株式を法人が取得したことによるものである。第2の波は、資本自由化を控え

て、外国資本による買収や経営権の取得を恐れた日本企業が、安定株主工作の一環

として、1960年代に株式の相互持合を進めたことによるものである。第3の波は、

企業がバブル期に、株式の時価発行、ワラント付社債、転換社債などのエクィティ・

ファイナンスにより大量のキャッシュフローを手に入れ、これによって相互持合を

進展させたことによる。また、金融機関がBIS規制をクリアするために発行した

株式を関連企業との相互保有として消化してことも相互持合を加速した。

このような個人株主の比重の低下傾向に対して、証券取引審議会は「株主構成と

資本市場のあり方について(中間報告)」(昭和50年)においてその原因を分析し、

(a)株価の上昇にともなって配当利回りが低下したこと、(b)企業自身が積極的に株式

の相互取得を進めたこと、(c)直接利害関係を持つ金融機関や法人大株主を重視し、

個人株主を軽視する企業があったこと、(d)法人取得を積極的に推進し、大口法人顧

客を優先するという証券会社の経営姿勢があったこと、(e)法人税制がインカムゲイ

ンよりキャピタルゲインに有利であるため、企業に配当より内部留保を選択するイ

ンセンティブが働いたこと、(f)株式投資の尺度が多様化したのに対し、個人投資家

の判断材料となる情報が十分でなかったこと、の6つの要因をあげている。

バブルの崩壊とともに、株式の保有状況に変化が現れているといわれている。浮

沈定まりないとはいえ、趨勢的には上昇してきた株価がバブル時代の上がり過ぎの

反動で下落し、その後は低迷しているため、有価証券の保有利得による含み益を隠

し玉とした経営戦略が行き詰まった。このため多額の不良債権を抱える金融業を中

心として、いわゆる益出しによる財務諸表上のお化粧も行き詰まり、相互保有の株

式についてもコアの部分を除いて売却が行われはじめている。この結果、牢固たる

株式持合も徐々に揺るぎだしているという見方も現れている。

Page 49: 日本のコーポレート・ガバナンス - ESRI日本のコーポレート・ガバナンス -構造分析の観点から- (経済分析 政策研究の視点シリーズ

- 45 -

(2) 企業の資金調達の状況

敗戦直後には、都市銀行をはじめ普通銀行の多くは、生産再開を急ぐ企業からの

強い借入需要を日銀借入に依存していた。ドッジ・ラインによるデフレを緩和する

ための日銀のディスインフレ政索(金融緩和措置)により、日銀借入による都市銀

図1 -負債・資本の構成

(資料出所)開銀データより作成

図2 -総資産・純資産の増加額

(資料出所)開銀データより作成

Page 50: 日本のコーポレート・ガバナンス - ESRI日本のコーポレート・ガバナンス -構造分析の観点から- (経済分析 政策研究の視点シリーズ

- 46 -

行の大企業向融資が増大し、これが事実上の系列融資となり、戦後日本の金融を構

造的に特徴づけた間接金融体制ができあがった。資金調達の容易さ、資金コスト面

での有利さなどから企業の銀行借入への依存度はますます強まった(有沢87)。

図3 -総資産の増加寄与度

(資料出所)開銀データより作成

図4 -額面配当率

(資料出所)開銀データより作成

Page 51: 日本のコーポレート・ガバナンス - ESRI日本のコーポレート・ガバナンス -構造分析の観点から- (経済分析 政策研究の視点シリーズ

- 47 -

終戦直後の日本企業の自己資本比率は30%程度であったが、高度成長期を通じて一貫し

て低下し続け、1970年代中頃には20%を下回った。これは高度成長期における設備投資

のための新規資金需要を主として金融機関からの借入によって調達してきたためである。

このような資金調達戦略は、安定より発展を、安全より効率を追及することが重要で

(資料出所)開銀データより作成

図5 -配当利回り

図6 -株価・額面比

(資料出所)開銀データより作成

Page 52: 日本のコーポレート・ガバナンス - ESRI日本のコーポレート・ガバナンス -構造分析の観点から- (経済分析 政策研究の視点シリーズ

- 48 -

あり、しかも適切であった高度成長期においては、レバレッジ効果が有効に機能したた

め、極めて効果的な財務戦略であった。しかし、石油危機を契機として自己資本比率の

低下傾向は反転する。これは潜在成長力が低下するとともに、企業は景気変動の波を乗

り切るため、財務的な安全性を重視した資本構成、すなわち自己資本比率の上昇を目指

した財務戦略を指向するようになったためと考えられる。

企業は配当性向を低下させ、内部留保による自己資本の充実を図った。額面に対

して一定率の配当を行うという従来からの配当政策と株価の上昇が作用して、(本当

はおかしいが)見かけ上は自然な配当政策により、配当性向の低下が株主からの抵

抗なく達成された。

昭和40年代前半から始まった株式の時価発行により企業は資本市場からの直接の資

金調達が容易となった。さらに、金融規制緩和によって社債の発行が容易となった

ことから、企業の金融機関への依存度が低下した。

Page 53: 日本のコーポレート・ガバナンス - ESRI日本のコーポレート・ガバナンス -構造分析の観点から- (経済分析 政策研究の視点シリーズ

- 49 -

[参考 II] 資本に対する経営者の責任感覚とバブルの原因

1 自己資本とエージェンシー・コスト

(1) コーポレート・ガバナンスと配当

アメリカでは、株主のコーポレート・ガバナンスが強く機能しているので配当性

向が高く、日本では株主のコーポレート・ガバナンスが弱いので配当性向が低いと

いう説がある。多額の内部留保を蓄積していた日本の企業の株式の過半数をアメリ

カの企業が取得した後、アメリカの企業の判断により高い配当を行ったところ、株

価が上昇したという例がある。高配当政策は株主重視の経営方針への変更を意味す

るから、株主はこれに好感をもって、株価が上昇したと解説されている。

ところで、財務理論によれば、企業の配当政策は株主の利益に何の影響も持たな

い、すなわち、配当性向を高めても、配当の増加分だけ株価が低下するのだから、

キャピタル・ゲインとインカム・ゲインの合計は変わらず、株主にとっては損にも

得にもならない。したがって、財務理論的には、配当性向は株主のコーポレート・

ガバナンスの強さとは何の関係もないことになる。

これをコーポレート・ガバナンスの観点から再考する。企業が大量のフリー・キ

ャッシュフローを抱えた場合、会社が危機的状況に陥る危険は低下するため、経営

者の緊張感はゆるみ、厳しい経営判断を行わなくなる可能性が高まる。すなわち、

図7 -配当性向

(資料出所)開銀データより作成

Page 54: 日本のコーポレート・ガバナンス - ESRI日本のコーポレート・ガバナンス -構造分析の観点から- (経済分析 政策研究の視点シリーズ

- 50 -

余剰資金があれば収益率の高くない投資を行う可能性が高まるなど、経営者と株主

の間のエージェンシー・コストが増大することとなる。一方、配当などで過剰なフ

リー・キャッシュフロー(内部留保)を減少させれば、資金調達のための増資や借

入の都度、経営内容や経営方針に対するチェックが機能する。

以上のことから、過剰なフリー・キャッシュフローは経営者の規律を低下させ、

効率的な経営を損なう可能性が生じることがわかる。裏返せば、高配当は企業に対

する株主のコーポレート・ガバナンスを高める効果を持つことになる。コーポレー

ト・ガバナンスの強化が期待できれば、将来における経営の改善が予想されるため、

株価の上昇は妥当な現象ということになる。

日本には十分な投資機会があったことおよび従来はメインバンクのコーポレー

ト・ガバナンスが強く作用し、株主のコーポレート・ガバナンスに代替して経営者

を規律づけていたことを忘れてはならない。これが結果として株主の利益を確保さ

せたにすぎないのであって、企業における株主の利益が十分に尊重されていたわけ

ではないという見方も十分に成り立つと考えられる。

実際、メインバンクのコーポレート・ガバナンスが後退したのち、新たなコーポ

レート・ガバナンスが確立しないままに、エクィティー・ファイナンスや内部留保

による豊富なフリー・キャッシュフローが発生したため経営者の規律を失わせ、十

分な利益率の見込めない安易な投資に走り、バブルを発生させた結果、昨今の株価

図8 -内部留保比率

(資料出所)開銀データより作成

Page 55: 日本のコーポレート・ガバナンス - ESRI日本のコーポレート・ガバナンス -構造分析の観点から- (経済分析 政策研究の視点シリーズ

- 51 -

の大幅下落を含めて、株主は大きな損害を被ることとなった。

(2) コーポレート・ガバナンスと自己資本

イ)自己資本の役割

日本の企業は自己資本比率が低く、特に1970年代には20%を下回る水準まで低

下した。これは高度経済成長期に、新規設備投資などの資金需要を主として金融

機関からの借入によって賄ったためである。このように自己資本比率が低かった

ため、日本の企業は基礎体力が弱く、国際競争に立ち向かう力がないのではない

かと考えられていた。自己資本は、利益のない時には配当を行う必要がなく、返

済の必要もないことから,企業にとってリスクのない資金である。その意味で自

己資本は企業のセーフティ・ネットであるといえる。次に、自己資本は株式会社

における債務に対する基本的な担保として企業の信用度を表すものといえる。さ

らに、「当社はこれだけの資金を自社の経営の成果に対してリスクにさらしてい

るから、いい加減な経営を行うことはありません。」という意思表示であり、そ

の意味で企業の所有者たる株主のコミットメントであり、株主から委託を受けた

経営者の受託責任の大きさを表すものといえる。

オーナー経営者にとっては自己資本とは自分の財産であるから、経営に失敗す

ればそれだけ財産が減少することになるという意味で、その額だけリスクにさら

していることになるので、自己資本が大きいほど経営者の緊張は高まり、コーポ

図9 -自己資本比率

(資料出所)開銀データより作成

Page 56: 日本のコーポレート・ガバナンス - ESRI日本のコーポレート・ガバナンス -構造分析の観点から- (経済分析 政策研究の視点シリーズ

- 52 -

レート・ガバナンスが強く機能することとなる。

では、所有と経営が分離している会社ではどうか。経営者は株式を保有してい

ないか、たとえ保有していてもわずかであるから、経営者にとってのリスクがコ

ーポレート・ガバナンスを高めるというメカニズムは働かない。すなわち、この

限りでは自己資本が大きい会社ほど規律ある経営するとは限らない。また、増資

によってコーポレート・ガバナンスが強化され、経営内容の改善が促されるわけ

でもない。このような会社では出資者たる株主がモニタリングによって経営者を

規律付けることが必要になる。したがって、モニタリング・コストを負担するほ

どの大株主がいるかどうかが問題となる。すなわち、コーポレート・ガバナンス

に影響するのは自己資本の額そのものではなく、その分布であるといえる。

ロ)自己資本のコストについて

資本コストとは、企業が調達した資本に対して必要な収益率の最低水準である。

そこで、企業にとって、自己資本と負債のいずれかのコストが高いかについて検

討する。

自己資本と負債のコストとは何か。負債のコストが負債に関して企業から流出

するキャッシュフローの割合、すなわち負債額に対する支払利息で表されること

は間違いない。では、自己資本に対するコストも自己資本に関して企業から流出

するキャッシュフローの割合、すなわち自己資本配当率(配当額/自己資本)

図10 -負債利子率

(資料出所)開銀データより作成

Page 57: 日本のコーポレート・ガバナンス - ESRI日本のコーポレート・ガバナンス -構造分析の観点から- (経済分析 政策研究の視点シリーズ

- 53 -

であるとしてよいのであろうか。

自己資本は企業にとってリスクのない資金であり、全てのリスクは投資家が負

っている。一方、負債は、企業が倒産しない限り元利が保証されているという意

味でリスクは企業の側にある。ところで、日本では、通常は自己資本配当率は負

図11 -自己資本配当率

(資料出所)開銀データより作成

図12 -株価総額・純資産比率

(資料出所)開銀データより作成

Page 58: 日本のコーポレート・ガバナンス - ESRI日本のコーポレート・ガバナンス -構造分析の観点から- (経済分析 政策研究の視点シリーズ

- 54 -

債利子率より低いことが多い。そうすると、自己資本コストは負債コストより低

いことになる。企業にとってリスクの少ない資金のほうがコストが小さい、すな

わち資金提供者にとってリスクの大きな資金のほうが利益率が小さいことにな

る。これは資本の論理からして明らかに矛盾である。

一般に、投資家は、キャピタルゲインとインカムゲインの合計をリターンと考

えている。キャピタルゲインは株価の上昇によって得られるものであるが、長期

的には株価は1株あたり純資産、すなわち自己資本に連動する。したがって、キ

ャピタルゲインをもたらすものは、長期的には自己資本の増殖分である内部留保

である。

配当と内部留保の増加分を加えたものが当期純利益であるから(役員賞与の割

合は小さいので無視する)、結局、株主にとってのリターンは純利益ということ

になる。別の面からみれば、内部留保は自己資本、すなわち株主持分の増加であ

り、当期純利益を配当しようと内部留保にしようと、直接的な処分権者が変わる

だけで、究極の所有者は株主に他ならないと考えれば、上記の論理はもっと理解

しやすいだろう(ただし、株主にとっても、資金の直接的処分権があることは重

要であるし、エージェンシー・コストの観点からも、配当と内部留保の価値は異

なるとする見解も成り立つ)。

このように考えると、自己資本のコストとは株主が企業に期待する収益率で

図13 -自己資本利益率と負債利子率

(資料出所)開銀データより作成

Page 59: 日本のコーポレート・ガバナンス - ESRI日本のコーポレート・ガバナンス -構造分析の観点から- (経済分析 政策研究の視点シリーズ

- 55 -

あり、自己資本当期純利益率に相当することが分かる。すなわち、企業は株主か

ら委託された資金を効率的に運用し、株主の期待する収益率(自己資本コスト)

を達成する義務を負っていると考えるべきであり、その収益率は、当然負債利子

率を上回るべきものである。実際、自己資本当期純利益率と負債利子率の時系列

をみると、おおむね前者が後者を上回っており、石油危機後の不況時と現在は例

外的に自己資本利益率が負債利子率を下回る状況にある。

ハ)資本コストと最適資本構成

資本コストの理論では、縦軸に資本コスト、横軸に負債比率を取ると、資本コ

ストを表す曲線は下に凸となり、ある負債比率で最適な資本構成が達成されるこ

ととなる。これは、(a)自己資本コストは負債コストより高い、(b)自己資本コスト

も負債コストも負債比率の増加関数である、(c)資本コストは自己資本コストと負

債コストの加重平均である、という想定から導かれるものである。

(b)は、負債比率の上昇にともなって企業の財務健全性や頑健性に懸念が生じる

ため、株主と経営者の間のエージェンシー・コストにより自己資本コストが、債

権者と企業の間のエージェンシー・コストにより負債コストが上昇するためであ

る。

ところで、メインバンク制が成立している場合には、資本コストはどのように

変化するか。メインバンクの監視機能が十分に機能している場合には、債権者と

企業の間のエージェンシー・コストが低下するため、負債コストはなだらかにな

る。また、メインバンクの保証によって企業の経営規律に対する信頼性が高まり

リスクが低下するため、株主と経営者の間のエージェンシー・コストが低下し自

己資本コストもなだらかになると考えられる。これにより資本コストの水準が低

下するとともに、最適資本構成が自己資本比率の低いほうにシフトする。

したがって、メインバンク制は資本コストを低下させるとともに、より低い自

己資本比率での効率的な企業経営を可能にしたといえる。

(3) コーポレート・ガバナンスと借入金

エージェンシー理論によれば、負債比率が上昇するほど債権者のエージェンシ

ー・コストは増加し、経営に対する規律は失われると考える。一方、負債が増加す

るほど経営者には適正な経営を行うインセンティブが高まる可能性がある(倉沢

89)という見方がある。このような一見すると矛盾する考え方があるのはなぜかに

ついて考察する。これは、両者で意思決定者、すなわち経営者が企業経営の結果に

対していかなる利害関係をもち、またいかなるインセンティブを持つかに関する想

定、すなわちその意思決定モデルが異なるためであることは明らかである。

Page 60: 日本のコーポレート・ガバナンス - ESRI日本のコーポレート・ガバナンス -構造分析の観点から- (経済分析 政策研究の視点シリーズ

- 56 -

前者においては、債権者は経営内容に関する十分な情報を持たないか、あるいは

情報を得るためにかなりのコストを要する。債権に対する法的請求権があるのみで、

経営に対する直接的な発言権はなく、経営の安全性を判断してリスク・プレミアム

を要求する方法で間接的に経営に影響を与える存在である。一方、経営者(この場

合は会社の所有者を含む)は残余利益請求者として、(短絡的な)期待利益を最大化

する行動をとる。このため、経営者はハイリスク・ハイリターンな経営方針を採る

可能性が高まる。

後者においては、経営者は企業に対して最大の利害関係を有し、投資家である株

主や債権者は資金の分散による危険の分散が可能であるのに対し、経営者は多くの

企業の経営に関与することが困難であるため、危機の分散が困難であるとする。そ

の結果、企業の倒産により最大のダメージを受けるのは経営者となる。したがって、

倒産とならない範囲で経営が行われるように熟慮し、一定水準の利潤率の達成を前

提として、安全なプロジェクトを選択するようになる。また、債権者は恒常的なモ

ーター機能を有し、しかも経営悪化の場合には経営に直接的な関与を行う。

このように、経営方針の選択に関するモデルの違いによって結論は異なる。した

がって、金融機関からの借入は、通常は多額のものになるのでコーポレート・ガバ

ナンスを強化するよう機能しする可能性が高い。一方、社債は、総額は大きくても

ここの債権者は小口なので、コーポレート・ガバナンスを低下させるように機能す

る可能性が高い。

(4) コーポレート・ガバナンスと会計基準

最近の企業の経営内容を評価する記事のなかには、含み資産の多寡が判断材料と

なっていることが少なくない。また、当期の業績が不振であった企業が益出しによ

って利益を確保し、配当を行っていることに何の疑問をもたないような表現の経済

記事が少なくないことは不思議なことである。そこで、企業にとって、含み資産や

益出しが何を意味するかについて検討する。

現在の会計基準においては、資産は取得原価で評価されているため、資産価値が

上昇すると、時価と取得原価の差額はその企業にとって含み資産となる(ここでは

資産といってもそのうちの有価証券と土地のみを考えればよいであろう)。

含み資産は、企業が経営困難に直面した場合、それが一時的なものであれば、そ

の急場をしのぐための原資となりうるものであり、自己資本と同じ役割の持つもの

である。貸借対照表が債権者に対する企業の債務返済能力を表すべきものであると

いう商法的な考え方に立てば、含み資産をオフバランスにしておくことは、債務返

済能力を過小評価することであり、債権者の安心感を増すものであり、会計処理上

Page 61: 日本のコーポレート・ガバナンス - ESRI日本のコーポレート・ガバナンス -構造分析の観点から- (経済分析 政策研究の視点シリーズ

- 57 -

問題はないことになる。しかし、経営者の責任を明示するための経営成績の表示と

いう観点からはいくつかの、しかも深刻な問題点がある。

第1に、企業の財政状態の表示が不正確となる。すなわち、資産が公正価値で評

価されていないのであるから、貸借対照表の貸方(資産の部)が不正確となり、こ

れに対して貸方(この場合は資本の部)も不正確となる。したがって、企業の真の

経済的状態を表す資産、負債、資本の状態が正確に表示されていないこととなる。

第2に、企業の経営成績の表示が不正確となる。すなわち、資本利益率によって

評価しようとしても、分母(資本)が過小評価となるから、利益率は過大評価とな

る(なお、分子(利益)に資産評価益を含めるべきであると考えれば、分母・分子

が過小評価となっているので、利益率の評価の過大・過小は不明となり、ますます

訳の分からないこととなる)。

第3に、含み資産であっても、企業の活用すべき資金の一部を構成することには

変わりないのに、オフバランスされるため、この部分に対する経営者のコスト意識

が希薄化する。

第4に、企業は経営不振の場合、益出しによって利益を捻出し、経営成績をお化

粧し、配当を行うことがある。資本コストの項で述べたように、配当を行うことが

株主の利益を考慮することではない。企業が資金不足となり、経営困難を招く懸念

が増大するならばむしろ株主の利益を害するものである。経営不振が一時的なもの

であり、資金上の問題がないならば、堂々と任意積立金を取り崩し配当を行えばよ

い。いずれにせよ、益出しは百害あって一利のない行為である。そして含み資産が

あるからこそ益出しが行われるのである。最大の問題は、このような益出しを容認す

ることで、経営者の経営に対する責任感覚が希薄化することである。

第5に、含み資産を認めるから、含み損も許容することになる。実際、現在の金

融システムの混乱はこのような含み損を容認していたことに起因する部分が少なく

ない。

現行の企業の評価方法においては、含み資産の多寡が企業の優良度を図る重要な

指標とされ、含み資産が多いことはポジティブに評価されている。しかし、過剰な

含み資産がなくなることは、企業に対するコーポレート・ガバナンスが回復し、規

律ある企業経営が行われるようになり、より適切な経営を行うようになるための契

機とみなすこともできる。またコスト意識を明確にすることもできる。このような

観点から企業評価を行う必要もあろう。

したがって、コーポレート・ガバナンスを強化するためには、企業の財政状態お

よび経営成績をできるだけ正確に表示する会計基準が必要となる。

Page 62: 日本のコーポレート・ガバナンス - ESRI日本のコーポレート・ガバナンス -構造分析の観点から- (経済分析 政策研究の視点シリーズ

- 58 -

2 バブル発生の原因

(1) 日本の企業の経営目標から生じた経営上の問題点

企業の経営目標、すなわち経営成績を判断する指標としては資本利益率や残余利

益を用いるのがよいとされている。いずれも投下資本をどの程度効率的に活用した

かによって企業の経営成績を測定しようという考えに基づくものである。

ところで、日本の企業においては、現在でも、投下資本に対する比率ではなく、

売上高や経常利益など企業の規模を表す経営指標を選択する傾向があるといわれて

いる。これはひたすら規模の拡大を目指した高度成長期の意識が残っているためも

あると思われる。

このように通常は適切とはいいがたい指標によって意思決定を行っても、従来は

経営上の問題を生じることが少なかったのはなぜか。負債比率が高かった高度成長

期には、負債コストを賄うために自然と投資効率を意識せざるをえなかったため、

という指摘がある(渡辺92)。ここでも金融機関のコーポレート・ガバナンスが機

能し、結果として株主の利益が守られたものと考えられる。

しかしながら、自己資本比率が高まり、フリー・キャッシュフローが豊富となっ

た1980年代以降になっても量的基準(経常利益の額など)を経営目標にしていたた

め、投資効率に対する意識が弱かったことに加え、自己資本コストは負債コストよ

り高いことを忘れたため、過剰な投資が行われてしまったものと思われる。

(2) バブルとコーポレート・ガバナンス

バブル発生の原因をコーポレート・ガバナンスの観点から考察してみよう。

日本の企業は主として銀行借入に依存した資金調達を行っていた。しかも、借入

の中心となる銀行(メインバンク)が存在し、メインバンクは当該企業のかかわる

資金の出入りや社債の発行業務を引き受けるなどの役割を担い、企業と密接な関係

を維持した。メインバンクは企業に対する貸付(リスク負担)に対応して企業の財

務内容について詳細な情報を入手した。一方、企業にとってメインバンクとの取引

の継続は一種の信用保証になることから、企業はメインバンクに積極的に情報を提

供した。

高度成長期を通して、このようなメインバンクによるコーポレート・ガバナンス

が機能し、長い間企業の経営を規律づける役割を果たしていた。

ところが、1970年代後半以降、企業内で生み出されるキャッシュフロー(減価償

却費+内部留保)は豊富になり、企業の設備投資はこれで賄われるようになり、企

業に対するメインバンクのコーポレート・ガバナンスは後退した(渡辺92)。証券

Page 63: 日本のコーポレート・ガバナンス - ESRI日本のコーポレート・ガバナンス -構造分析の観点から- (経済分析 政策研究の視点シリーズ

- 59 -

市場の発達により各種のエクィティ・ファイナンスが可能となると、企業の資金調

達手段は間接金融から直接金融へとシフトした。このためメインバンクによるコー

ポレート・ガバナンスはますます後退した。このように従来のコーポレート・ガバ

ナンスが後退したにもかかわらず、新たなコーポレート・ガバナンスが形成されて

いないという状況にあった。

豊富なフリー・キャッシュフローと多額の含み資産、金融機関の積極的な貸出に

よって企業の資金は豊富となり、メインバンクが企業の経営に介入しなければなら

なくなるような資金不足となる懸念がなくなった。このような状況で、長期的視点

からの投資という日本的企業経営の特質が逆作用して投資効率に対する厳しい検討

が不足し、安易な投資が行われた可能性もある。

高度成長期が終わっても、企業の意識は依然として利益率より成長率を重視した

ものとなっており、売上高や経常利益率など規模の拡大に重点を置いたものであっ

た。これに加えて、自己資本のコストは負債のコストよりも高いという意識が弱か

った。このようなことが重なって、予想利益率の低いプロジェクトに対しても投資

され、過大な投資が行われることとなった。

以上のように、イ)適当なコーポレート・ガバナンスが存在しなかったこと、ロ)

過剰なフリー・キャッシュフローが存在していたこと、ハ)長期的視点という日本

的企業経営の長所が逆作用した可能性があること、ニ)自己資本に対するコスト意

識が低かったこと、ホ)規模拡大を重視した経営目標が採用されていたこと、によ

って不適切な意思決定が行われたこと、がコーポレート・ガバナンスという観点か

らみたバブルの要因であると考えられる。

Page 64: 日本のコーポレート・ガバナンス - ESRI日本のコーポレート・ガバナンス -構造分析の観点から- (経済分析 政策研究の視点シリーズ

- 60 -

[参考文献リスト]

青木96a :『日本のメインバンク・システム』 青木昌彦、H・パトリック編 東洋経

済新報社 1996年

青木96b :『経済システムの比較制度分析』 青木昌彦、奥野正寛編 東京大学出版会

1996年

青木95a :「経済システムの進化と多元性-比較制度分析序説」 青木昌彦 東洋経済

新報社 1995年

青木95b :『システムとしての日本企業』 青木昌彦、R.ドーア編 NTT出版 1995

青木86:「日本企業の経済学」 青木昌彦、小池和男、中谷巌 TBSブリタニカ 1986

有沢78:「日本証券史(1、2、3)」 有沢広巳監修 日経文庫 1978

伊丹93a :「マネジメント・ファイル’93-企業は誰のものか」 伊丹敬之 NTT出

版 1993年

伊丹93b :「日本の銀行業-ほんとうに発展したのか」 伊丹敬之+伊丹研究室 NT

T出版 1993年

伊丹82:「エージェントの経済理論」 伊丹敬之 『内部組織の経済学』 今井賢一、

伊丹敬之、小池和夫 東洋経済新報社 1982年

伊藤96:『日本の企業システム』 伊藤秀史編 東京大学出版会 1996年

伊藤89:「企業:日本的取引形態」 伊藤元重、松井彰彦 『応用ミクロ経済学』 伊

藤元重、西村和雄編 東京大学出版会 1989年

糸瀬96:「銀行のディスクロージュアー」 糸瀬茂 東洋経済新報社 1996年

糸瀬95:「しのびよる平成金融恐慌」 糸瀬茂、藤原洋二 東洋経済新報社 1995年

岩田95:『経済制度の国際的調整』 岩田一政、深尾光洋編 日本経済新聞社 1995年

岩村95:「銀行の経営革新」 岩村充 東洋経済新報社 1995年

大橋95:「日本的経営の解明」 大橋昭一、小田章 千倉書房 1995年

岡崎94:「日本におけるコーポレート・ガバナンスの発展 -歴史的パースペクティブ

-」 岡崎哲二 『ワークショップ「日本企業のコーポレート・ガバナンス」

(金融研究第13巻3号)』 日本銀行金融研究所 1994年

岡崎93:『現代日本経済システムの源流』 岡崎哲二、奥野正寛編 日本経済新聞社

1993年

奥島97:『会社はだれのものか』 奥島孝康編 金融財政事情研究会 1997

Page 65: 日本のコーポレート・ガバナンス - ESRI日本のコーポレート・ガバナンス -構造分析の観点から- (経済分析 政策研究の視点シリーズ

- 61 -

奥島96:『コーポレートガバナンス-新しい危機管理の研究』 奥島孝康編 きんざい

1996年

OECD97:「OECDによる日本経済への提言」 経済企画庁調整局訳 1997年

カルダー94:「戦略的資本主義-日本型経済システムの本質」 ケント・カルダー(谷

口智彦訳) 日本経済新聞社 1994年

川北95:「日本型株式市場の構造変化-金融システムの構造変化とガバナンス」 川北

英隆 東洋経済新報社 1995年

小林87:「産業の昭和社会史10 証券」 小林和子 日本経済評論社 1987

榊原95:『日米欧の経済・社会システム』 榊原英資編 東洋経済新報社 1995

宍戸93:「経営者に対するモニター制度」 宍戸善一 『日本の企業システム(第1巻)』

伊丹敬之、加護野忠男、伊藤元重編 有斐閣 1993年

シェアード97:「メインバンク資本主義の危機」 ポール・シェアード 東洋経済新報

社 1997年

ジョンソン82:「通産省と日本の奇跡」 チャーマーズ・ジョンソン(矢野俊比古監訳)

TBSブリタニカ 1982年

鈴木93:「新版会社法」 鈴木竹雄 弘文堂 1993年

醍醐95:『時価評価と日本経済』 醍醐聰編 日本経済新聞社 1995年

高橋95:『コーポレートガバナンス-日本とドイツの企業システム』 高橋俊夫編 中

央経済社 1995年

田中96:「新しい産業社会の構造」 田中直毅 日本経済新聞社 1996年

鶴94 :「日本的市場経済システム-強みと弱みの検証」 鶴光太郎 講談社現代新書

1994年

友杉94:「スタンダード監査論」 友杉芳正 中央経済社 1994

徳田89:『自己資本比率規制と銀行経営戦略の転換』 徳田博美編 きんざい 1989年

中島90:「株式の持合と企業法」 中島修三 商亊法務研究会 1990年

中谷96:「日本経済の歴史的転換」 中谷巌 東洋経済新報社 1996年

日経94:「ゼミナール現代企業入門」 日本経済新聞社編 日本経済新聞社 1994年

野田80:「日本証券市場成立史」 野田正穂 有斐閣 1980年

深尾97:「企業ガバナンス構造の国際比較」 深尾光洋、森田康子 日本経済新聞社

1997年

深尾95:「金融国際化、コーポレート・ガバナンス構造と企業のパフォーマンス」 深

尾光洋 『経済制度の国際的調整』 岩田一政、深尾光洋編 日本経済新聞社

1995年

Page 66: 日本のコーポレート・ガバナンス - ESRI日本のコーポレート・ガバナンス -構造分析の観点から- (経済分析 政策研究の視点シリーズ

- 62 -

深尾94:「コーポレート・ガバナンスに関する論点整理および制度の国際比較」 深尾

光洋、森田康子 『ワークショップ「日本企業のコーポレート・ガバナンス」

(金融研究第13巻第3号)』 日本銀行金融研究所 1994年

本間94:「提言-新・日本型経済システム」 本間正明 TBSブリタニカ 1994年

森田91:「インサイダー取引」 森田章 講談社現代新書 1991

吉田94:「日本型銀行経営の罪」 吉田和男 東洋経済新報社 1994年

吉田93:「日本型経営システムの功罪」 吉田和男 東洋経済新報社 1993年

若林94:「日本的経営の制度化を考える」 若林政史 中央経済社 1994年

渡辺92:「日本企業のコーポレート・ガバナンス」 渡辺茂・山本功 財界観測 1992

年9月号

Page 67: 日本のコーポレート・ガバナンス - ESRI日本のコーポレート・ガバナンス -構造分析の観点から- (経済分析 政策研究の視点シリーズ

- 63 -

[雑誌に掲載された論文] (注)

ジュリスト

『特集・コーポレート・ガバナンス』1050号(1994年)

河村貢、河本一郎、近藤光男、中村稔、若林敬明

:日本の会社のコーポレート・ガバナンス

仁田道夫 :日本の労使関係とコーポレート・ガバナンス

久保利英明:日本の会社組織の実態とコーポレート・ガバナンス

川北英隆 :株主構成-現状と将来

高橋文利 :会社と官庁

吉田英法 :会社と暴力団

吉川満 :米国におけるコーポレート・ガバナンス

正井章筰 :ドイツにおけるコーポレート・ガバナンス

北村雅史 :イギリスにおけるコーポレート・ガバナンス

小田切宏之:経済学から三田コーポレート・ガバナンス

加護野忠男:経営学の視点からみた企業のガバナンス

三輪芳朗 :市場における競争の役割

水口宏 :経営コントロールに関わる株式市場と機関投資家の役割

弥永真生 :一株運動と会社法

西尾征郎 :企業の社会貢献

中原俊明 :会社の政治運動の限界

奥島孝康 :従業員の経営参加

神作裕之 :コーポレート・ガバナンスと会社法の強行法規性

酒巻俊雄 :社外取締役と社外監査役の機能

宍戸善一 :大株主の権利行使

森田章 :企業買収と対抗策

中島弘雅 :株主代表訴訟-民事訴訟手続上の問題点

古城誠 :企業経営と行政的監督

芝原邦爾 :会社と役員の刑事責任

旬刊商事法務

吉川満:米国のコーポレート・ガバナンス(上中下) 1299、1304、1308号(1992

年9月)

安達精司=ダハティ:米国におけるコーポレート・ガバナンスをめぐる論議(上下)

Page 68: 日本のコーポレート・ガバナンス - ESRI日本のコーポレート・ガバナンス -構造分析の観点から- (経済分析 政策研究の視点シリーズ

- 64 -

1300、1301号(1992年10月)

竹下ちえ子:アメリカにおける社外取締役の役割とコーポレート・ガバナンス(上下)

1327、1328号(1993年7月)

佐藤正典:わが国企業の会社運営に対する問題提起-米国機関投資家の株主行動主義

(上中下) 1357、1358、1360号(1994年67月)

アイラ=ミルシュタイン「米国における会社と株主の関係-米国のコーポレート・ガ

バナンスに関する考察(上下) 1358、1360号(1994年67月)

齋藤惇:日本のコーポレート・ガバナンス 1360号(1994年7月)

ビーバス=ロングストレス:コーポレート・ガバナンス論に内在する危険性 1361号

(1994年7月)

バムウス:ドイツにおけるコーポレート・ガバナンス 1363号(1994年8月)

ファイナンス

荒巻健二:コーポレート・ガバナンス(企業統治のあり方-米国の経験とわが国企業

のガバナンスの実態、今後の課題(上下) 1994年78月

一橋論叢

伊藤邦雄:資本コスト・収益性・投資活動のリンケージ 110巻5号(1993年)

川村正幸:会社法とコーポレート・ガバナンス 111巻4号(1994年)

インベストメント

佐賀卓雄、三和裕美子:米国証券市場の機関化とコーポレート・ガバナンス(1,2)

1991年24月

九州産業大学商経論叢

水口雅夫:アメリカにおける機関株主と会社支配 第33巻4号(1993年)

三田商学研究

植田晃久:コーポレート・ガバナンスの問題状況と分析視点 第37巻1号(1994年)

証券アナリストジャーナル

『特集 株式持合(1)』第31巻6号(1993年)

小林孝雄 :日本のリスク負担システムと株式持合

萩島誠治 :株式持合が株価形成に与える影響

川北英隆 :株式安定保有の形状と現状

鈴木誠 :邦銀の資本コストの計測

森平爽一郎、宮下一典:日本企業の株式持合-実態調査

『特集 コーポレート・ガバナンス』第31巻7号(1993年)

加護野忠男:日本企業のコーポレート・ガバナンス

Page 69: 日本のコーポレート・ガバナンス - ESRI日本のコーポレート・ガバナンス -構造分析の観点から- (経済分析 政策研究の視点シリーズ

- 65 -

水口宏 :日本企業における株主主権の実質的回復

ホーキンス:日米企業のコーポレート・ガバナンス

『特集 株式持合(2)』第32巻5号(1994年)

倉沢資成 :株式持合

大村敬一・鈴木誠:銀行の株式持合解消効果について

若杉敬明・大村敬一・宮下一典:株式持合の意識に関する実証研究

東京銀行月報

仲野昭:コーポレート・ガバナンスについて 1994年3月

財界観測

小谷野薫:米国のコーポレート・ガバナンス 第57巻5号(1992年)

渡辺茂・山本功:日本企業のコーポレート・ガバナンス 第57巻9号(1992年)

水口宏:日本大企業における「株式会社」の蘇生-経営者支配の克服による株主主

権の実質的回復 第58巻5号(1993年)

金融研究

『ワークショップ「日本企業のコーポレート・ガバナンス」』第13巻3号(1994年)

深尾光洋、森田泰子:コーポレート・ガバナンスに関する論点整理及び制度

の国際比較

岡崎哲二 :日本におけるコーポレート・ガバナンスの発展-歴史的パース

ペクティブ

浅沼萬里 :日本企業のコーポレート・ガバナンス-雇用関係と企業取引関

係を中心に

堀内昭義 :日本おけるコーポレート・ガバナンス-そのメカニズムと有効性

会計人コース

加護野忠男:企業のガバナンスについて 1994年1月号

ビジネスレビュー

伊藤邦雄:日本の会社制度とチェック機構-新たな日本型モデルを求めて 1993年2

企業会計

『特集・コーポレート・ガバナンスの多面的検討』第46巻2号(1994年)

伊藤邦夫 :コーポレート・ガバナンスの現状と課題

近藤光男 :株主代表訴訟とコーポレート・ガバナンス

渡辺茂 :コーポレート・ガバナンスの再構築

今福愛志 :コーポレート・ガバナンスとディスクロージャー

Page 70: 日本のコーポレート・ガバナンス - ESRI日本のコーポレート・ガバナンス -構造分析の観点から- (経済分析 政策研究の視点シリーズ

- 66 -

高田正淳 :コーポレート・ガバナンスから見た監査役監査と会計士監査

産業経理

今福愛志:コーポレート・ガバナンスをめぐる財務報告制度の展開 第52巻3号

(1992年)

旬刊経理情報

上田晶平、久保保則:米国のコーポレート・ガバナンスの現状-株主として企業経

営に影響を与える公的年金 697号(1993年)

産業経営(早稲田大学産業経営研究所刊)

岡崎政昭:企業財務とステイク・ホルダー理論 16号(1990年)

慶応経営論集

小野桂之介:コーポレート・ガバナンスの改革に関する基礎的考察 第11巻1号

(1993年)

資本市場

神田秀樹:企業法制の将来-欧米のコーポレート・ガバナンスから何を学ぶか 87

号(1992年11月)

龍田節:会社運営のあり方-アメリカ法律家協会「会社運営の諸原理:分析と勧告」

に学ぶ 92号(1993年4月)

加護野忠男:日本的株式会社制度の再構築 94号(1993年6月)

(注)他にも多くの論文があると思われるが、入手できたもののみを記載した。