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1/8 ページ http://www.fujitsu.com/jp/innovation/workstyle/ ホワイトペーパー ワークスタイル変革 「カイゼン × カイカク」 デザイン思考でサービスエンジニアの未来を拓く! トヨタ自動車 サービス技術部のイノベーションへの取り組み 既存ビジネスの延長ではなく、これまでにない新たな価値を生み出すにはどうすればいいのか。日本企業の多くが、現在このよ うな課題に直面しているはずだ。その一方で働き方改革の実現も喫緊のテーマとなっており、ここでも新たな発想が求められ ている。このような課題に「デザイン思考」という手法を取り入れた企業がある。トヨタ自動車 サービス技術部だ。ここではそ の取り組みについて紹介していく。

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「カイゼン × カイカク」デザイン思考でサービスエンジニアの未来を拓く!トヨタ自動車 サービス技術部のイノベーションへの取り組み

既存ビジネスの延長ではなく、これまでにない新たな価値を生み出すにはどうすればいいのか。日本企業の多くが、現在このような課題に直面しているはずだ。その一方で働き方改革の実現も喫緊のテーマとなっており、ここでも新たな発想が求められている。このような課題に「デザイン思考」という手法を取り入れた企業がある。トヨタ自動車 サービス技術部だ。ここではその取り組みについて紹介していく。

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全国4万人のサービスエンジニアを支えるサービス技術部。そこで不可欠な存在になったデザイン思考とは?

 「お客様がいつまでも安心して、トヨタのクルマにお乗り

いただくために」。このような考え方に基づき、トヨタ自動車

は日本国内だけでも全国約5000店舗、約4万人のサービス体

制で、顧客の快適なカーライフをサポートし続けている。そ

こで働くサービスエンジニアが技術力を最大限に発揮できる

よう、人材育成やサービス情報提供、サービス技術開発、修

理支援を行っているのが、トヨタ自動車 サービス技術部だ。

その人員数は約 300 名。技術情報の編集などを行う関係会社

のスタッフを含めると、約800人に上る。

 トヨタ自動車といえば、現場の作業者が中心になって知恵

を出し合い、ムダをいち早く発見し解消することで効率性と

安全性を高める「カイゼン」を生み出した企業として、世界的

に知られている。サービス技術部ではこの「カイゼン」に加

え、富士通が提案した「デザイン思考」も業務に取り入れるこ

とで、イノベーションに向けた新たな取り組みを進めつつあ

るのだ。

 「課題を解決するカイゼンに関しては、私どもはさまざま

な手法を持っており、それが大きな強みになっています」と

語るのは、トヨタ自動車 カスタマーファースト推進本部で

サービス技術部長を務める大橋甚吾氏。ここにデザイン思考

が加わったことで、仕事の進め方が大きく変わり、社員の発

想や組織文化も変化しつつあるという。「いまのサービス技

術部にとって、カイゼンとデザイン思考はクルマの両輪のよ

うなもの。どちらが欠けてもいけないと感じています」。

 それではトヨタ自動車のサービス技術部長にここまで言わ

しめる富士通が提案した「デザイン思考」とは、いったいどの

ようなものなのか。そしてトヨタ自動車 サービス技術部で

は、実際にどのように取り組み、具体的にいかなる効果を生

み出しているのだろうか。

まずは「未来のありたい姿」をビジョンマップとして描き、皆が何をやりたいのかを「見える化」

 トヨタ自動車 サービス技術部とデザイン思考との出会い

は、2015 年 5 月に遡る。その背景にあったのは、「多治見

サービスセンター」の開設が間近に迫っていたことだった。

ここはトヨタ自動車 販売店のサービスエンジニアの研修や、

各販売店の予選を勝ち抜いた優秀なサービスエンジニアが参

加してその能力を競い合う「全国サービス技術コンクール」の

場となる施設。現在では年間 1 万人近くのサービスエンジニ

アが多治見を訪れ、サービス技術向上に磨きをかけている。

 「多治見サービスセンター設立の狙いは、より高度な技術と

幅広い知識を持つサービス現場のリーダーを育成し、そこか

らさらに現場へとその知見を展開していくことです」と大橋

氏は説明する。トヨタは、サービスエンジニア育成のさらな

る強化と車両修理技術の研究開発を加速するため、新たにこ

の施設の開設を決めたのである。竣工が始まったのは 2013

年。それまで分散していたサービス技術部門をここに集約し、

相乗効果を出していきたいという意図もあったと語る。

 「ここで大きな課題になっていたのが、この多治見サービ

スセンターでどんな新しいことをしていくのかということで

トヨタ自動車株式会社カスタマーファースト推進本部サービス技術部長大橋 甚吾 氏

多治見サービスセンターの俯瞰CGサービスエンジニア育成のさらなる強化と車両修理技術の研究開発を進める、トヨタ自動車「多治見サービスセンター」

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事につなげることができる有効な手法だったという。最初は

「ICTの会社の富士通が、なぜこのようなことを提案するのだ

ろう」と疑問を持ったが、実際に詳しく話を聞いていくにつ

れ、その考えも変化していった。「検討段階で富士通が主催す

るワークショップも実際に体験し、共創活動やオープンイノ

ベーション に力を入れている会社なのだとわかりました」

(井上氏)。

 サービス技術部と富士通は早速、ビジョンデザインのため

のワークショップを開催することになった。まず、ファシリ

テーションするデザイナーが、事前に販売店のサービス工場

に足を運びフィールドワークを行っている。これは、デザイ

ナーが、自らが実際の現場に行き見て感じたことを活かし効

果的なワークショップを行うために必要な基本動作である。

また「新しい発想をするには、一旦、日常の業務から離れるべ

き」というデザイナーの提案により、初回は、東京 六本木の

共創空間で行われた。「サービスエンジニアのありたい姿」を

テーマに、参加者が日頃考えていることをぶつけ合いなが

ら、「ありたい姿」の様々なアイデアが提案されていった。

 ここで得られた結果は、ワークショップをファシリテー

ションしたデザイナー自らがが「ビジョンマップ」としてま

とめあげた。サービス技術部がどのような未来を目指してい

るのか、この「ビジョンマップ」をトヨタ自動車社内のプロ

モーションや「全国サービス技術コンクール」の展示で共有

し、共感者を増やしている。

した」と当時(2015 年 5 月)を振り返るのは、サービス技術部

プロジェクト管理室長の井上達也氏だ。この新しい施設は国

内自動車メーカーとしては最大規模。ここでサービス技術の

未来を示す旗印を作り上げ、全国・全世界のサービスエンジ

ニアに夢をもって貰いたいという強い想いを、移転が決まっ

た頃から持っていたという。「当初は最新設備の展示などを

ここで行おうと考えていました。しかしそれ以上に大切なの

が、サービスを担うサービスエンジニアの働き方です。未来

の働き方がどうなるのか、それを見出すにはどうすべきなの

か、悩んでいたのです」。

 トヨタが得意とするカイゼンの手法は、すでに存在する課

題を解決し、「あるべき姿」に近づいていくには大きな効果を

発揮する。しかし目指すべき方向を自ら見つけ出し、未来に

つながるイノベーションを生み出していくには、これだけで

は十分ではないと感じていたと井上氏は語る。このタイミン

グで行われたのが、富士通によるデザイン思考を活用したビ

ジョンデザインの提案だったのだ。その内容は、まず、「未来

のありたい姿」をビジョンマップとして描き、皆が何をやりた

いのかを「見える化」することだった。「将来に向けてやりたい

ことを多様な立場の人材で考える共創の重要性」「デザイナー

の感性により、参加者がまだ言語化できていない潜在意識ま

で考えを引き出す」「ビジョンを直感的に共感・理解できるグ

ラフィックにまとめあげる」ことが富士通より提案された。

 この提案は、サービス技術部が抱えていた課題認識にマッ

チし、「是非やっていみよう」という結論に至ったのである。

 提案のなかでサービス技術部がまず着目したのが、「未来

のありたい姿(ビジョン)」を描いたうえで、そこから今でき

ること現実解に落とし込む「バックキャスティング」というア

プローチだ。ここで大切なのは、「あるべき姿」ではなく「あ

りたい姿」という、内発的かつ共感にもとづいた発想を重視

している点である。また「未来のありたい姿」を見出すための

着眼点の作り方や発想方法も、誰もが取り組める現実的なも

のを目指した。

 「一般的なセミナーやワークショップは、世のなかのトレ

ンドやそれを知る方法についての話が多いです。しかしそれ

をどう具体的に仕事に結びつけていくかというところにまで

はつながっていません」と井上氏。富士通のデザイン思考を

活用したビジョンデザインの提案は、単にアイデアを生み出

すだけではなく、皆で共創した成果をデザイナーが「未来の

ありたい姿」としてまとめあげることに特長がある。それに

よって、参加者や周囲の共感・理解が深まり、自分たちの仕

トヨタ自動車株式会社カスタマーファースト推進本部サービス技術部プロジェクト管理室長井上 達也 氏

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「未来のありたい姿」を現実の世界に落とし込む場として「サ技ラボ」を開設

 しかしビジョンを明確化するだけでは、イノベーションは

生まれない。これを具現化していく活動も不可欠だ。そのた

めにサービス技術部は、2016 年 4 月に「サービス技術開発ラ

ボラトリー(通称「サ技ラボ」)」を開設。ビジョンマップに描

いた「ありたい姿」の実現に向けて、将来のサービス技術を開

発するためのオープンイノベーションの場を新たに立ち上げ

たのである。

 2016 年度に特に注力したのは、人材育成だ。すでにビ

ジョンがあり、そのビジョンを実現する場もつくった、あと

は、ビジョンを具体化していく人材の育成というわけだ。全

3 回、他部門を含めた約 80 名に対して「デザイン思考を体得

するワークショップ(以下、体得ワークショップ)」を開催し

た。人材育成をする中で、「サ技ラボ」でやりたいことを啓発

するとともに、日常的な仕事のなかにもデザイン思考を組み

込んでいく活動を、積極的に進めてきたのである。体得ワー

クショップの実施にあたっては、ビジョンの作成を支援した

デザイナーが自ら講師となり、新しい発想の仕方を実践形式

で伝授した。講師となったデザイナーは、特に「発想の意識改

革の必要性」を伝えたかったという。常に新しい発想を生み

出すコツは「職場だけなく普段の生活の中で、変化の兆しを

見つける、気づきを得る」習慣にあるという。それらの習慣か

「デザイン思考を体得するワークショップ」の様子

チームで練ったアイデア・思いを、ありたい姿の絵にしてプレゼンテーションを実施。皆から評価、フィードバックしてもらう

変化の兆し、気づきを得るフィールドワーク体験 課題解決の糸口。ピン!ときた技術トレンドを選ぶ

トヨタ自動車株式会社カスタマーファースト推進本部サービス技術部企画総括室長長野 益道 氏

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らデザイナーは、アイデアを着想するインプットを得ている

のだ。アイデアが浮かんだら、その実現に向けてデザイン思

考の 5つの要素(共感・理解、課題設定、アイデア発想、プロ

トタイプ、テスト)を“素早く回していく”ことが大切なので

ある。

 「サ技ラボには各室課から代表研究員が参加しており、日

常業務と兼務しながら、週 1 回のワーキング活動を行ってい

ます」と語るのは、サービス技術部 企画総括室長の長野益道

氏である。ここで取り上げている主なテーマは「将来のサー

ビスエンジニアの働き方改革」。その一環として未来のサー

ビスストールで使う整備ツールのアイデア出しやその試作開

発を進めていると説明する。サービスストールとは、クルマ

の点検や修理などを行うための作業場のことであり、作業内

容に応じた機材と作業スペースが用意されている。その環境

をどのように整備するかによって、サービスエンジニアの働

き方が大きく変革される可能性があるのだ。

 サ技ラボから生まれたアイデアの 1つが「ストールカメラ」

だ。これは防犯カメラの技術を応用したものであり、ストー

ルの上部・前部・後部に小型カメラを設置、その画像を正面

の大型ディスプレイに表示することで、クルマを正確にス

トール内に誘導できたり、ランプ類の点検を実施したりす

る。現在は 1人がクルマを運転、点検操作をし、もう 1人が誘

導、確認を行う必要があるが、ストールカメラがあれば 1 人

でこの作業を行える。またストール内の映像を Wi-Fiで送信

すれば、作業中の様子を顧客が確認することも可能。これに

よって顧客満足度や信頼感を、さらに高められる可能性があ

「サービス技術開発ラボラトリー(通称「サ技ラボ」)」での活動の様子。各室課から代表研究員が集まり、「将来のサービスエンジニアの働き方改革」をメインテーマに、週1回のワーキング活動が行われている。

サ技ラボで生まれたアイデアをベースに試作開発された「ストールカメラ」の画面。これは比較的実現性の高いアイデアだが、他にも未来を見据えたアイデアが数多く生まれている。

多治見サービスセンターの技術開発棟で行われている、販売店サービスエンジニアに対するサ技ラボのアイデア紹介の様子。参加者はアイデアやプロトタイプに触れ、それに対するフィードバックを残せるようになっている。

トヨタ自動車株式会社カスタマーファースト推進本部サービス技術部企画総括室 企画グループ長山下 英紀 氏

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見せしたほうがリアリティが強くなり、理解も早くなりま

す」と長野氏。これによってさまざまな意見や反応が得られ

るのだと語る。「そこから新たな発見がもたらされ、アイデア

が改善されることも増えてきています」。

 このように販売店も巻き込んだ取り組みを進めているの

は、当初から富士通が「多様性や部外との共通理解を持つこ

とが重要」と提言していたからだ。その話を受けたサービス

る。

 このほかにも、サービスエンジニアの音声指示に従って修

理書や点検表を表示する「サービスポータル」や、工具による

ボルト類の締めつけ力を ICTを使って管理するなどのアイデ

ア も出ている。さらにサービス技術部 企画総括室 企画グ

ループ長の山下英紀氏は「パワースーツやアシストスーツの

検証も進めています」と語る。

周囲を巻き込み、共感してもらえる取り組みが重要

 これらはまだ検証段階だが、ストールカメラは、コストの

問題さえ解決できれば実現可能であり、そのための取り組み

もすでに進められている。

 またこれらのアイデアや試作品は、多治見サービスセン

ターの技術開発棟で展示も行われている。研修に訪れたサー

ビスエンジニアはこれらのアイデアを実際に見て触れて、そ

れに対する意見やアイデアを付箋などで残せるようになって

いる。

 さらに、セミナーなどのイベントや販売店様との会議の場

にも、これらのアイデアを持ち込んでフィードバックを得る

ようにしている。「言葉で説明するよりも、現物の試作品をお

「サービス技術開発ラボラトリー」が中心となり、サービス技術部で進められているデザイン思考の取り組み。アイデアを生み出し、それを具現化するだけではなく、部外の共感や共通理解を生み出すことも重視されている。

観察テーマ設定 課題の定義 アイデアの創出 試作 検証

サービス技術開発ラボトリー

販売店サービスエンジニア社内他部門

展示・紹介 評価

共感 共通理解

トヨタ自動車株式会社カスタマーファースト推進本部サービス技術部企画総括室 企画グループ 主任品田 明 氏

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語る。これによって疑問や問題が生じたときにも、以前より

早く解決できるようになってきていると感じている。

 サービス技術部では働き方改革のワーキンググループも立

ち上げているが、ここでもデザイン思考が活用されている。

様々な会社の働き方を調査したうえで「ありたい姿」を描こう

としているのだ。

 「デザイン思考がもたらす効果はまるで漢方薬のようです」

と大橋氏。投資効果を明確な数字として表すことは難しい

が、長くじっくり取り組んでいくことで、働く人の意識や組

織の体質が変化していくという。「サービス技術部の働き方

も、以前に比べてずいぶんと柔軟になり、以前なら恥ずかし

く発言できなかったアイデアも共有できる環境になりまし

た。また、やりたいことに向かって仕事をすることで、パ

フォーマンスも高まっていると感じています」。

カイゼンとデザイン思考の両輪で未来を拓く

 「富士通が提案してくれたデザイン思考は、私どもに大き

な刺激をもたらしました」と井上氏。物事を成し遂げるには

「場所、時間、方法」が必要になるが、場所と時間を提供する

多治見サービスセンターと共に、デザイン思考は「自由な発

想を生み出すための方法」として重要な役割を担っていると

語る。サービス技術部では今後もサ技ラボを中心に、デザイ

ン思考への取り組みを継続していく方針だ。他の部門への紹

介や巻き込みも、さらに積極的に展開していくという。

 また大橋氏も「トヨタが得意とするカイゼンと、デザイン

思考によるイノベーションは、どちらも大切なものです」と

語る。これからはトヨタのなかだけではなく、より広い視野

で世界を見るという姿勢が重要であり、デザイン思考はその

ための「触媒」の役割を果たすという。「デザイン思考が入っ

たことで、カイゼンにイノベーションを加えることが可能に

なりました。これによって新しい発想が生まれ、さまざまな

可能性が広がっていくと感じています。トヨタがこれまで

培ってきた考え方と、新たなデザイン思考という発想を融合

することで、新たな価値の創出が可能になります。これに

よってこれからも、クルマとサービスの未来を切り拓いてい

きます」。

 トヨタ自動車 サービス技術部が見据える未来が、今後ど

のように具現化されていくのか。そしてデザイン思考という

新たなアプローチが、いかなる影響を与えていくのか。これ

からも目が離せない。

技術でも「その通りだ」と考えていたからだと井上氏はいう。

 先述した「デザイン思考を体得するワークショップ」に他部

門のメンバーを誘い、一緒にデザイン思考を学んでいくとい

う取り組みも進められている。デザイン思考の成果を高めて

いくには、部単独の個別最適ではなく部外の関係者を含めた

全体最適を意識することと、周りからも共感されるアイデア

を生み出していくことが重要だと考えられているからだ。

2017 年度も継続して他部門も含めデザイン思考を学ぶ場を

提供していく。

 「サ技ラボの取り組みは社内でも積極的に紹介しており、

『変わったことをやっているね』と言われる一方で、共感も広

がっていると感じています」と井上氏は語る。

仕事のスタイルや組織の文化も徐々に変化

 しかし「アイデアを生み出しそれらを具現化する」という

のは、デザイン思考がもたらす効果の 1つに過ぎない。それ

以上に注目すべきなのが、サービス技術部の「仕事のスタイ

ル」が、徐々に変化しつつあることだ。

 「仕事以外の日常生活で様々なものを見て、なぜこうなっ

ているのか、どのように実現しているのかを考えることで、

自分の仕事に結びつく新しいアイデアが生まれてきます」と

山下氏。最近では出張の際も、仕事には直接関係しない場所

を訪問・観察することが増えており、このような行動を上司

も奨励しているという。

 サービス技術部 企画総括室 企画グループ 主任の品田明氏

も「実際にデザイン思考に取り組んでみて『こういう仕事のや

り方もあるのか』と驚きました」と語る。やりたいこと、あり

たい姿に向けた取り組みを行うことで、仕事への意欲も高ま

り、毎日が楽しくなっているという。「本当に恵まれた職場だ

と感じています。最近ではより多くの情報に触れるため、『週

末リア充』になるように心がけています」。

 組織の文化も変わりつつある。「目標に向かって論理的に

アプローチするという文化が定着していたこともあり、これ

までは新しいアイデアに対して否定的な意見が出ることも少

なくありませんでした」と井上氏。しかし最近のサービス技

術部では、新しいアイデアを否定する声が少なくなり、多様

性を認めたうえで、アイデアを積極的に育てていく空気が生

まれているという。

 また長野氏も「ホウレンソウ(報告・連絡・相談)といった縦

のやり取りだけではなく、横のやり取りが増えています」と

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※このコンテンツは2017年9月に日経ビジネスオンラインに掲載したものです。

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課題設定テスト

アイデア発想プロトタイプ

共感・理解

デザイン思考の5つの要素 出典:富士通デザイン

デザイン思考は“人間中心”で考える

 デザイン思考とは「デザイナーの課題発見から解決までのプロセスを体系化し誰にでも(デザイナー以外にも)使えるようにした方法」と言われている。最大の特徴は人間を中心に考え、徹底的に観察し本質的な課題や顕在化していない課題をあぶり出していくことである。対象となる人々を観察し、共感・理解することで、潜在的な課題を可視化していくのだ。つまり「本来取り組むべき課題は何なのか、どのようにありたいのか」、人間を中心に徹底的に問うことが、デザイン思考のスタートラインなのである。 その顕在化させた課題を、5つの要素で構成されるプロセスを速やかにかつ短時間で何度も繰り返し、解決に導くのである。

なぜ今、デザイン思考が注目されるのか?

 社会・環境の変化は 10年前に比べ、圧倒的に速いスピードで変わり続け、将来の予測も困難、過去からの延長で未来を考えることができなくなってきている。未来の不確実性・複雑化の高まった社会の課題を速やかに解決に導くツールとして、「デザイン思考」が注目されているのだ。

富士通の実践する“人間中心”のアプローチ「Human Centric Experience Design」

 富士通では、数十年にわたり“人間中心”でものごとを考え、製品や様々なサービスをデザインしてきた。その実践知を集約し、「Human Centric Experience Design」(http://www.fujitsu.com/jp/group/fdl/hcx/index.html)という独自のデザイン手法による

「未来創造のアプローチ」を創りあげた。 デジタル革新が企業の成長戦略に必要不可欠な時代に、人、組織、社会の未来ビジョンを実現するため、テクノロジーを活用しデジタル革新を成功に導くための手法である。