地域副読本作成の手引き...- 1 - 地域副読本の役割と類型 地域副読本の役割...

47
小学校社会 第3・4学年用 平成 27 年度版『小学社会』準拠改訂版 地域副読本作成の手引き 教育出版株式会社

Transcript of 地域副読本作成の手引き...- 1 - 地域副読本の役割と類型 地域副読本の役割...

Page 1: 地域副読本作成の手引き...- 1 - 地域副読本の役割と類型 地域副読本の役割 第3学年及び第4学年の社会科は,「地域学 習」ともいわれる。それは,おもな学習対象を

小学校社会 第3・4学年用

平成 27 年度版『小学社会』準拠改訂版

地域副読本作成の手引き

教育出版株式会社

Page 2: 地域副読本作成の手引き...- 1 - 地域副読本の役割と類型 地域副読本の役割 第3学年及び第4学年の社会科は,「地域学 習」ともいわれる。それは,おもな学習対象を

目 次

●地域副読本の役割と類型 1

●地域副読本編集・作成の手順と実務 2

●著作権について 10

●小学校学習指導要領における地域学習の取り扱い 13

●単元構成案と各単元の展開例 19

1 (1)わたしたちの住むまちは どんなまち 20

(2)わたしたちの市の様子 22

2 (1)店で働く人と仕事 24

(2)工場で働く人と仕事 26

3 変わるわたしたちのくらし 28

4 (1)事故・事件のないまちを目ざして 30

(2)災害からまちを守るために 32

5 (1)ごみはどこへ 34

(2)水はどこから 36

6 昔から今へと続くまちづくり 38

7 (1)県の地図を広げて 40

(2)(3)県内の特色ある地域 42

(4)わたしたちの県と他地域とのつながり 44

この冊子は,新しい学習指導要領(平成 20 年3月公示,平成 23 年4月完全実

施)にもとづいた,小学校社会(第3学年及び第4学年)の地域副読本の編集・作

成の手引きです。

ここに示した編集・作成の手順,単元構成や展開などの内容は,いずれも一つ

の例にすぎません。各地域で,創意・工夫に溢れた特色ある地域副読本を編集・

作成し,地域学習のますますの活性化を図ってください。その際に,この冊子が

参考になれば幸いです。

Page 3: 地域副読本作成の手引き...- 1 - 地域副読本の役割と類型 地域副読本の役割 第3学年及び第4学年の社会科は,「地域学 習」ともいわれる。それは,おもな学習対象を

- 1 -

地域副読本の役割と類型地域副読本の役割

第3学年及び第4学年の社会科は,「地域学

習」ともいわれる。それは,おもな学習対象を

身近な地域に求め,地域に見られる社会的事象

を具体的に学習することをとおして,地域にお

ける社会生活を総合的に理解することができる

ようにするとともに,地域社会の一員としての

自覚をもたせ,地域社会に対する誇りと愛情を

育てることをねらいとしているからである。地

域学習は,教科の目標である公民的資質の基礎

を養ううえできわめて大きな意義をもっている。

教科書は,日本全国の中から,ある特定の地

域を選んで取りあげ,そこを例にして記述を行

っている。それに対して地域副読本は,児童が

住んでいる地域を取りあげ,そこに固有の事

物・事象を対象にして問題を追究することをと

おして,上に示したねらいや目標を達成する役

割を担う。

地域副読本のタイプ

地域副読本の編集・作成は,社会科の授業に

おける指導のあり方や,指導の際の地域副読本

の活用の仕方といった観点から検討し,どのよ

うなタイプのものにしていくのか,方針を明確

にするところから始まる。地域副読本には,次

に紹介するようなタイプのものが見られる。

内容解説タイプ

これは,教材として取りあげる地域の社会的

事象を,文章記述を中心に展開し,関連する写

真,イラスト,グラフ,地図,年表などの資料

とともに構成したものである。このタイプは,

さらに,内容を平板に解説する「読本型」と,

学習問題や問題を解決していくプロセスなども

提示された「問題解決型」とに大別できる。

資料集タイプ

これは,教材として取りあげる地域の社会的

事象に関連する写真,イラスト,グラフ,地図,

年表などの資料を中心に構成し,それらに最小

限の解説文を付したものである。資料の読み取

りや意味の解釈などを通して地域の社会的事象

を理解させたり考えさせたりする。

作業帳タイプ

ワークブック・ワークシートの形式のもので

ある。児童による記入や操作などの作業が行わ

れることを前提にして内容が構成されている。

作業の指示や,作業の手がかりとなる図版,自

由記入欄なども用意されており,見学・調査活

動などで活用しやすい配慮もなされている。

混合タイプ

上に紹介した各タイプは,いずれも社会科の

学習の様々な側面のなかから一つを強調して打

ち出し,具体化したものである。地域副読本を

活用した指導のイメージが明確かつ具体である

ならば,どのタイプのものであっても大きな効

果を発揮することが期待できる。

他方で,汎用性において優るのは,各タイプ

のそれぞれのよいところを取りあげた混合タイ

プである。学習指導要領に示された目標をバラ

ンスよく実現していこうとすると,このタイプ

の地域副読本への期待が高まる。

地域副読本と検定教科書・地図帳

どのようなタイプの地域副読本を編集・作成

していくのかという方針を立てる際には,教科

書や地図帳の併用・活用という観点からの検討

も不可欠である。

教科書には学び方,調べ方,まとめ方の示唆

やその留意事項がくわしく書かれていたり,実

地踏査を補うときに参考となる緻密なイラスト,

表現活動の参考となる作品例などが豊富に掲載

されていたりする。また,地図帳には地図だけ

でなく,各種の資料や統計,地図の見方に関す

る示唆,47 都道府県の名称と位置を習得して

いくうえでのアイディアなどが掲載されている。

地域副読本の編集・作成にあたっては,教科

書や地図帳の併用・活用を前提に,内容や掲載

する資料などを検討し,参考にすべきところは

参考にするとともに,無意味な重複が生じるこ

とのないよう配慮することも大切である。また,

地域副読本の編集・作成において,紙幅や予算

の関係から生じる諸々の制約についても,検定

教科書や地図帳の併用・活用により工夫して補

っていこうとする発想が大切である。

Page 4: 地域副読本作成の手引き...- 1 - 地域副読本の役割と類型 地域副読本の役割 第3学年及び第4学年の社会科は,「地域学 習」ともいわれる。それは,おもな学習対象を

- 2 -

地域副読本編集・作成の手順と実務手順とスケジュール

下に示したのは,地域副読本編集・作成の手

順の一般的なモデルである。

スケジュールは,地域副読本の使用が始まる

時期から逆算して立てるのが通例である。

印刷所への入稿の時期については,あらかじ

め印刷会社と相談・確認しておくことが必須だ

が,使用が始まる時期の遅くとも4か月前には

入稿を完了しておきたい。すなわち,新年度か

ら使用が始まる場合,前年度の年末から年始に

かけての時期には,印刷所への入稿を完了して

おく必要がある。なお,この入稿の期日は,厳

守すべきものと考えなければならない。したが

ってスケジュールを調整するとなると,それよ

りも前の過程で行わざるをえないが,品質を一

定の水準に保つためには,スケジュールを無理

に圧縮することは避けたい。そうなってくると,

改訂の規模にもよるが,遅くとも使用開始の1

年前には編集委員会を発足させる必要がでてく

る。もちろん,さらに早くできるものなら,そ

うするに越したことはない。なぜなら,掲載す

る写真の一部(農作物の生産過程や,地域の年

中行事など)には,いつでも撮影することがで

きないため,ある程度の範囲の時間のなかで,

計画的に撮影を進めていかなければならないも

のもあるからである。

編集委員会の発足

編集委員の役割は,改訂の方向性の審議・決

定から取材,写真撮影,原案作成,原稿執筆,

校正まで,地域副読本の編集・作成にかかわる

一連の仕事を担うのが一般的である。

編集委員の人数は,委員一人当たりが執筆す

る原稿の量と関係する。人数に余裕があれば,

複数の委員で一つの小単元を担当する場合も考

えられる。余裕がなければ,一人の委員が複数

の大単元を担当せざるをえない場合もある。編

集委員が少人数の場合,内容の系統性や統一性

が保たれやすいメリットはあるが,ある程度の

人数がいたほうが観点の多様性が確保しやすい

し,何より一人あたりの仕事量の負担が少なく

なるので質的な保障にもつながりやすい。

なお,今使われている地域副読本(現行版)

の編集・作成をめぐる経緯の申し送りや実務の

引継ぎなどの点で,現行版から継続して改訂版

の編集委員会に参加する委員がいたほうがよい。

編集委員会の発足

編集会議①

・改訂の方向性の決定

・体裁の検討

・スケジュールと予算の確認

編集会議②

・単元構成の決定

・各単元の配当ページ数の検討

・執筆分担の決定

教材研究・取材・原稿原案の作成

編集会議③

・各単元の原稿原案の検討・審議

・各単元の配当ページ数の確定

・執筆要領の確認

原稿執筆

編集会議④

・原稿の検討・審議

印刷所への入稿

校 正

完 成

Page 5: 地域副読本作成の手引き...- 1 - 地域副読本の役割と類型 地域副読本の役割 第3学年及び第4学年の社会科は,「地域学 習」ともいわれる。それは,おもな学習対象を

- 3 -

編集会議①

この段階の編集会議では,改訂の基本的な方

向性の審議・決定を行う。

学習指導要領の検討

最初に行うべきは,学習指導要領の検討であ

る。『小学校学習指導要領解説・社会編』に収

録されている第3学年及び第4学年社会科の

「目標」「内容」「内容の取扱い」とその解説

を,個々人で読み込むだけでなく,編集委員会

全体で読み合わせをするなどして共通理解化を

図ることが必要である。

検定教科書・地図帳の検討

先に述べたような教科書や地図帳の検討も,

この段階で行っておきたい。

現行版地域副読本の検討

改訂規模の大小に関わらず,現行版副読本の

検討を欠かすことはできない。ここでは,その

検討の観点として四つをあげておく。

第一は,学習指導要領や教科書・地図帳の検

討にもとづき,副読本の改訂すべき点を明らか

にすることである。その際には,学習指導要領

が,調べること・考えること・表現することの

一体化をいっそう重視していることや,地図や

統計資料の効果的な活用を求めていることなど

への配慮も大切である。

第二は,現行版副読本を使っている教師の感

想や意見を聴取し,改訂すべき点を明らかにす

ることである。その際には,児童にとっての理

解のしやすさはもちろんのこと,さまざまな教

師にとっての使いやすさにも配慮したい。

第三は,地域・社会の状況の変化を考慮して,

改訂すべき点を明らかにすることである。地域

学習に関しては,とくに近年,廃棄物の処理に

おける分別や処理の仕方などにめまぐるしい変

化が見られる。また,いわゆる平成の大合併に

伴う市町村の名称や境界線,庁舎・公共施設関

連の変更も著しい。最新の情報を収集し,事実

を踏まえて検証・検討を行うことが大切である。

ところで全国には,都道府県と市区町村のそ

れぞれで編集・作成したものや,ある特定の内

容(郷土史,水道,廃棄物処理など)をテーマ

にしたものなど,複数の種類の副読本が併存す

る地域も見られる。それら各種の副読本を併用

していく際には,無意味な重複が生じるのを避

け,うまく連携させて活用することができるよ

う配慮されたい。

体裁の検討

ここでいう体裁とは,編集・作成する地域副

読本の判型,用紙,印刷,総ページ数をさして

いる。

判型 現在,多くの地域でB5判が採用されて

いる。それは,教科書や地図帳の多くが従来,

このサイズを採用してきたからだというだけで

なく,見開きにしたときの紙面のサイズが,単

位時間あたりの内容(本文と資料)を収めるの

に適切であると一般に認識されてきたからであ

ろう。しかし現在では,小学校社会科の教科書

や地図帳は,このB5判よりもさらに大きな判

型でつくられるようになっている。それは,小

学校社会科の学習において,資料活用の重視が

より強調されるようになっていることと関係し

ている。すなわち,資料の効果的な活用のため

には,資料そのものの精選もさることながら,

資料から読み取る力を育む指導の充実,また必

要に応じた関連資料の提示といった新たな課題

が生じる。こうした課題にこたえていこうとす

るときに,判型を大きくすることが有効となる

のである。とはいえ,児童に提示する単位時間

あたりの情報量には適切な範囲というものがあ

ろうし,児童が使う机やかばんの大きさといっ

た条件も考慮されるべきである。その点,AB

判とよばれる判型(タテの高さはB5判,ヨコ

の幅はA4判と同じサイズ)は,上記の課題に

こたえていくうえで適切な判型であると考えら

れるので,地域副読本の判型を決める際には一

つの候補として検討することをお薦めしたい。

用紙 図書印刷に用いられる用紙は,普通紙と

コート紙とに大別される。コート紙は,表面に

顔料を塗布した用紙で,普通紙と比べると丈夫

で破れにくく,写真などがきれいに印刷できる

が,鉛筆を用いて線や文字を書き込む作業には

向かないものもある。また,同量の普通紙と比

べて重くなるのがふつうである。

印刷 印刷については,モノクロかカラーかと

いう選択肢だけでなく,例えば全ページのうち

一部をモノクロに,残りをカラーにするという

やり方もある。使用する色数やカラーページの

数が多ければ,それだけコストも増える。

Page 6: 地域副読本作成の手引き...- 1 - 地域副読本の役割と類型 地域副読本の役割 第3学年及び第4学年の社会科は,「地域学 習」ともいわれる。それは,おもな学習対象を

- 4 -

総ページ数 地域副読本の改訂が全面に及ぶ場

合は,予算との関係もあるので,この時点で総

ページ数の見通しを立てておきたい。まず,年

間学習指導計画における時数配当の対象となる

ページに,時数配当の対象とならない資料ペー

ジなどの概数を加えて上限を設け,のちに細部

についての調整を進める中で最終的な総ページ

数を確定していくようにするとよい。

なお,この段階で審議しておくべきこととし

て,次の点を付け加えておく。

第一は,地域副読本に準拠した教師用指導書

である。この指導書に必須な要素としては,副

読本を使って指導していく際の年間学習指導計

画,各単元・単位時間のねらいや展開例,留意

点の解説などが考えられる。副読本本体の場合

と同様に,現行版の指導書を検討し,改善すべ

き点の洗い出しを行っておきたい。その際には,

教科書準拠の教師用指導書のあり方が参考にな

るであろう。なお,体裁は,副読本本体と比べ

て簡易なものでも支障はないと思われる。

第二は,地域副読本への「はさみ込み資料」

などの付録である。はさみ込み資料としてよく

見られるのは,都道府県と市区町村を,それぞ

れ両面に印刷した地図である。こうした地図は,

学習のなかでくり返し利用される基本的な資料

であるから,ある程度の情報量をもたせた大き

なものを用意したいし,そうなると副読本の中

に綴じ込んでしまうよりも,折り畳んではさみ

込むようにしたほうが,はるかに使いやすい。

資料の内容や活用場面などを想定しながら検討

しておきたい。

以上,ここでは地域副読本の判型,用紙,印

刷,総ページ数などの体裁について述べてきた

が,これらはいずれも予算にかかわることなの

で,責任者や印刷会社の担当者と相談を重ねな

がら検討を進めていく必要があろう。

なお,学校のコンピューター環境が整備され

てきたことを背景に,地域副読本も紙媒体だけ

ではなく,CD-ROM や DVD など多様なメディア

で製作することが可能になっている。実際に,

そうした媒体の転換を実現した地域は,まだ少

数ではあるが存在する。

地域副読本をデジタル媒体で製作することに

より,動画,音声など多様なコンテンツが使え

るマルチメディア化を実現したり,ウェブサイ

トとリンクしたりすることが可能になるほか,

資料の差し替えやデータ更新がしやすく,小部

数でも比較的低コストでできるといった利点が

ある。ただし,実際の使い勝手は学校のコンピ

ューターの環境の整備状況に左右される。また,

コンピューターゆえに可能な工夫を,いかに効

果的に活用していくことができるかという点で,

デジタル媒体の作り手と使い手の双方の手腕が

問われる。

編集会議②

改訂の基本的な方向性がある程度まとまった

ら,さらに具体的な検討を進めていく。

単元構成の決定

学習指導要領は,小学校社会科の第3学年及

び第4学年において,地域における学習が弾力

的に行われることをめざして,目標と内容を2

学年まとめて示している。したがって,小学校

中学年については,各地域・学校がそれぞれ2

年間という範囲のなかで単元構成を検討・決定

していくことになる。

単元構成を検討・決定する際に留意すべきこ

とがいくつかある。その一つは児童の発達段階

で,例えば「法やきまり」といった比較的抽象

度の高い内容を,2年間のどこで,どのように

取り扱うべきか,といったことである。

もう一つは,取り扱う教材との関係である。

中学年の地域学習は,身近な人々が取り組む諸

活動や行事などに教材を求め,それらに触れた

り体験したりしながら学んでいくことを趣旨と

している。したがって指導時期を,例えば農事

カレンダー,地域の交通安全運動の期間,学校

の交通安全教室の予定日などとできるだけ合う

ようにして単元を構成することが望ましいとい

える。

そのほかにも,教育基本法が改正され,郷土

の歴史に対する理解と愛情を深めることがいっ

そう重視されることになったことなどにも留意

すべきであろう。郷土の歴史に関する学習を,

第3・第4学年の各学年でどのように振り分け

るのかを,十分に考慮する必要が従来に増して

生じている。

各単元の配当ページ数の検討

編集・作成する地域副読本の総ページ数,各

Page 7: 地域副読本作成の手引き...- 1 - 地域副読本の役割と類型 地域副読本の役割 第3学年及び第4学年の社会科は,「地域学 習」ともいわれる。それは,おもな学習対象を

- 5 -

単元の配当ページ数,配当時数を決めておく。

ただし,この時点では,原稿原案の検討・審議

を受けた増減ができるように,弾力的なもので

あったほうがよい。

執筆分担

執筆分担を決め,各執筆者は次回の編集委員

会までに取材と写真撮影を実施し,それをもと

にした原稿原案を作成する。また,次回までに

各執筆者がやっておくべき課題を,全体で確認

し,共通理解化を図っておく必要がある。

教材研究・取材

事例の検討・選択

地域副読本で取りあげる事例を,次のような

観点から検討し,選定する。

・学習指導要領に示された内容を満たす条件を

備えている。

・地域の特性・特色がよく表れている。

・取材(写真撮影を含む)をすることができる。

関係者・関係機関の協力を得ることができる。

・児童による見学が可能である。

取材

取材のときには,企画の趣旨を相手に理解し

てもらうことが大切である。ある地域では,下

のような文書を取材先に提出し,理解と信用を

得るべく努めている。

▲必要に応じて挨拶文,取材日時,取材期間,

取材内容なども記入する。

写真の収集と撮影

地域副読本に掲載する写真は,原稿の執筆者

自らが,ねらいを明確にして撮影するのが基本

である。ただし,地域の昔の様子を撮影した写

真や,取材期間中に撮影することのできなかっ

た写真などは,持ち主を探して借り受けるしか

ない。

使用するカメラ 印刷時の手間やコスト,画像

のクオリティなどの点から,できるだけデジタ

ルカメラで撮影した写真を揃えるのが望ましい。

やむをえずアナログの写真(プリント)を使う

場合は,スキャニングしてパソコンに取り込み,

データ化する必要がある。このスキャニング作

業は印刷会社が引き受けてくれるが,その分,

料金が発生するのがふつうである。

撮影に使用するデジタルカメラは,必ずしも

一眼レフの上級仕様である必要はなく,家庭向

きのものでもじゅうぶんである。ただし,解像

度は 350dpi 以上の画像が必要である。また,

ストロボやズーム機能も必要である。なお,携

帯電話(スマートフォン)一体型のカメラは,

たとえある程度の解像度を確保できてもレンズ

の質が低いことが多く,向いていない。

撮影した写真のデータは,CD-ROM や DVD な

どの媒体におさめて保管する。そのとき,デー

タの所在を確認しやすくするための表書きを忘

れないようにしておく。

撮影許諾 施設の内部(私設の場合は外部も)

や所蔵品などを撮影するときには,あらかじめ

所有者・管理者の許可を得ておく必要がある。

プライバシー 被写体が少数の人々で,しかも,

その顔が比較的はっきりと写っている場合には,

被写体の人物から掲載許諾を得ておくに越した

ことはない。日本には一般の人々の肖像権を認

めた判例はまだないが,近年,自らのプライバ

シーに敏感な人々が増加しているので,あとで

トラブルが発生しないようにしておきたい。

また,住所や電話番号,さらには自動車のナ

ンバープレートは個人情報にあたるので,画像

処理を施すなどして消去しなければならない。

交通事故や火災の現場の写真は,かつては関

係機関から借り受けることができたが,近年で

はプライバシーとの関係で容易に入手すること

はできなくなっている。しかし,事故や火災の

平成○年○月

○○市立○○小学校

学校長○○○○ 印

住所/電話番号

小学校社会科地域副読本

編集・作成へのご協力のお願い

このたび,○○市内の小学校3・4年

生が使う社会科副読本『わたしたちの○

○市』を改訂することになりました。

つきましては,取材や写真撮影等でご

協力を賜りたく,お忙しいなかを恐縮で

すが,お願い申しあげます。

Page 8: 地域副読本作成の手引き...- 1 - 地域副読本の役割と類型 地域副読本の役割 第3学年及び第4学年の社会科は,「地域学 習」ともいわれる。それは,おもな学習対象を

- 6 -

当事者から掲載許諾を得ることを条件に,借り

受けることができる場合もあるので,関係機関

に相談してみるとよい。それも無理なときには,

報道系のフォト・ストックにあたってみるとよ

い。代金を支払えば,1回に限り,借り受けた

写真を掲載することができる。ただし,フォ

ト・ストックの写真も,必ずしも肖像権の問題

をクリアしているとは限らないので注意が必要

である。なお,フォト・ストックのウェブサイ

トには,検索機能が備わったものもある。

航空写真 地域副読本では,学区や市区町村を

上空から撮影した航空写真がよく使われる。航

空写真も時間がたてば古くなるので,差し替え

が必要なときには現行版副読本の担当者に問い

合わせるなどして写真の入手方法を探るとよい。

航空写真は,都道府県や市区町村などの行政機

関が保有していることがある。専門の会社に依

頼して撮影することもできる。

統計資料の収集

地域副読本に掲載する統計資料は,できるだ

け新しいものであることが望ましい。

地域学習でおもに必要なのは,都道府県や市

区町村を単位とする統計資料である。それらの

うち,都道府県を単位とする統計資料について

は,データベースの整備が比較的進んでおり,

関係省庁・機関,都道府県庁などのウェブサイ

トから収集することが容易である。

他方,市区町村を単位とする統計資料は,関

係機関や市区町村の役所・役場を直接訪ねたり,

電話をかけたりして問い合わせなければ収集す

るのが難しいことが多い。

なお,市区町村の合併が行われた地域では,

副読本に掲載する統計資料の取り扱いにとくに

注意を払う必要がある。なぜなら,合併前と合

併後とでは,人口や面積など,統計資料の前提

となる条件が異なるからである。

そうした点にも留意しつつ,掲載する統計資

料の適否や,補足解説文の必要性の有無などに

ついて判断することが大切である。

原稿原案の作成

教材研究や取材をもとにして,原稿の原案を

作成する。どんなにベテランでも,いきなり原

稿用紙のマス目を文字で埋めていくのはむずか

しい。そこで最初は,配当ページ数の範囲内に

おさめることに留意しながら,展開例を簡潔に

書き表してみるとよい。

▲原稿原案の例(部分)

おもな報道系フォト・ストック

■読売ニュース写真センター

℡03-3217-3471

https://database.yomiuri.co.jp/shashi

nkan/

■毎日新聞データベースセンター

℡03-3212-0321

https://photobank.mainichi.co.jp/php/

KK_search.php

■時事通信フォト

℡0120-050-858

https://www.jijiphoto.jp/dpscripts/Dp

Search.dll?DpSearchInitial

■共同通信イメージズ

℡03-6252-6224

http://www.kyodo.co.jp/corp/ph/

おもな航空写真撮影会社

■近代航空株式会社

℡03-3835-3066

http://www.kindai-aero.co.jp/index.

html

■水産航空株式会社

℡042-231-7598

http://www.suisanair.co.jp/

①単元の導入部【2p/1時間】

家の人たちの買い物の様子を思い出

し,店を選んで買い物をしているのは

なぜなのか,という疑問をもつ。

②買い物調べ(その1)【2p/1時間】

家の人たちが,どこで,どのような商

品を買い求めているのかを調べて,買

い物カードに記入する。

③買い物調べ(その2)【2p/1時間】

買い物カードに記入したことを,表や

グラフ,地図にまとめる。

Page 9: 地域副読本作成の手引き...- 1 - 地域副読本の役割と類型 地域副読本の役割 第3学年及び第4学年の社会科は,「地域学 習」ともいわれる。それは,おもな学習対象を

- 7 -

展開例の構想が一定固まったら,さらに一歩

進めて,今度は見開き単位で,副読本の紙面イ

メージをスケッチしてみるとよいだろう。この

スケッチには,文章や資料の簡潔なあらましの

ほかに,それらを置く位置なども記入しておく。

このようなスケッチがあると,原案の検討・審

議がしやすい。

▲紙面イメージをスケッチした原稿原案の例

編集会議③

原稿原案の検討・審議

編集委員会全体で,原稿原案の検討・審議を

行う。検討・審議の観点として,単元の展開の

適否,内容・要素の過不足,資料の過不足や位

置の適否などが考えられる。必要に応じて各単

元のページ数の調整を行い,総ページ数を確定

する。

執筆要領の確認

各担当者は,決められた執筆要領にもとづい

て原稿を執筆する。執筆要領として決めておか

ねばならないのが,紙面の構成要素,基本レイ

アウト,それに表記である。

紙面の構成要素としては,さしあたり次のよ

うなものが考えられる。

・本文

・囲み文(取材で聞き取った話,コラムなど)

・資料(図,表,写真,イラストなど)

・資料の解説文(資料の名称,補足説明など)

・タイトル・見出し(各単元・各見開き)

・学習問題・ねらい(各単元・各見開き)

・キャラクターとそのフキダシ

これらの要素ごとに,使用するフォントの種

類(明朝体,ゴシック体など),フォントの大

きさ(級数またはポイントとよばれる単位を用

いて指定する),字間・行間の寸法(これを字

送り・行送りともいう),1 行あたりの字詰め

の上限,1 ページあたりの行数の上限なども決

める。さらに,紙面の上下や左右に設ける空白

の寸法を決める。この空白は,原則としてすべ

ての見開きに共通の寸法で設ける。こうして紙

面の基本レイアウトを完成させていく。

紙面の構成要素や基本レイアウトは,検定教

科書など他の出版物も参考に,印刷会社とも相

談しながら決めていくとよい。

表記に関しては,次の観点から原則を設けて

おくようにする。

文体 「です・ます」調にするのか,「であ

る」調にするのかなどを決める。

漢字表記 どのような原則を設けるのかを,学

年別配当漢字をもとにして検討する。教科書で

は,当該学年以下の配当漢字はルビ(ふりが

な)なしで,当該学年の配当漢字はルビを付し

て使用するのを表記の原則としているものが多

く見られるようである。ただし,この原則に例

外を設ける場合もありうる。例えば,漢字と仮

名を混ぜ書きすることで,かえって読みにくく

なってしまう場合(例:調さ,目てき,きょう

土し料館),人名・地名・名詞などで児童も漢

字による表記を知っておいたほうがよいと判断

される場合(例:警察署,消防署,浄水場)な

どである。これらについては,例外的に,当該

学年以上の配当漢字も含めて使用することを検

討してもよいであろう。

また,例えば「聞く」と「聴く」,「作る」

と「造る」と「創る」など,意味内容の微妙な

違いによって表記の異なる漢字については,適

切な判断のもとに使い分けることをとくに心が

けたい。その判断がむずかしいときには,一括

してひらがなを使用する原則を立てることも考

えられる。

さらに,地域副読本は,第3学年及び第4学

年を対象としているから,2年間をとおした学

習指導計画にもとづく漢字表記の原則を検討す

る必要もあろう。

カタカナ表記 外来語のカタカナ表記には,例

えば「コンピューター」と「コンピュータ」,

「ベルトコンベヤー」と「ベルトコンベア」の

ように,どちらが正しいとも間違いであるとも

グラフ

買い物地図

買 い 物カ ー ドに 記 買い 物地 図 にまと

入したあと、グラフ める。

にまとめ直す。

グラフのつく

り方の示唆

囲 み 文 ( レ シ

ートの見方)

Page 10: 地域副読本作成の手引き...- 1 - 地域副読本の役割と類型 地域副読本の役割 第3学年及び第4学年の社会科は,「地域学 習」ともいわれる。それは,おもな学習対象を

- 8 -

いいきれないものが少なくない。しかし,そう

した語彙をあらかじめ特定するのはむずかしい

ので,原稿検討や校正の段階で随時検討に付し,

不統一が生じることのないように気をつけたい。

原稿執筆

原稿用紙と紙面構成

原稿は,執筆要領に則って執筆する。見開き

紙面のなかで,それぞれの構成要素が占める面

積や配置のバランスなどを適切に判断しつつ執

筆を進めていくことが大切である。そのために

も,使用する原稿用紙は,できるだけ原寸大で

あることが望ましい。

判型がAB判の場合,留意すべきは「側」の

スペースを上手に使うことである。ふつう,

「側」のスペースには,本時の問い,写真,グ

ラフ,イラスト,語彙の説明といった要素を置

く。しかし,そうした要素で「側」を埋めきれ

ない場合も往々にしてある。ヨコ幅があるAB

判の場合,「側」に空白がめだつと,よけいに

間の抜けた印象を与える紙面となってしまう。

そうならないようにするためには,本文の一部

を左右いっぱいに広げて,「側」の部分を埋め

てしまうという方法も考えられる。

▲各要素の一般的な配置

▲本文の一部を左右に広げた紙面の例

とはいえ,本文スペースが左右いっぱいに広

がったページがあまり続くと,今度は圧迫感を

与えることになってしまう。上手にバランス感

覚をはたらかせながら,適度を保って紙面を構

成することが大切である。

文字テキストの入力には,ワード・プロセッ

サを用いる。そして,フォントの大きさ,字

間・行間の寸法(概数で可),字詰め・行数を

所定のレイアウトに合わせて設定し,プリンタ

ーで出力する。原稿用紙には,この出力した紙

を切り貼りしていく。なお,ワープロに入力し

た文字データは,テキストファイルに変換し,

組版(レイアウトにそくして文字を流し込む作

業)の際に利用しやすい形式にしておく。

資料スペースは,タテ・ヨコの比率や,読み

取りに耐えうる面積の確保などに留意して寸法

を決め,実寸の罫線で囲んでおく。

文章の書き分け

文章は,地の文,会話文,囲み文,キャラク

ターのフキダシなどのうち,いずれの形式で取

りあげるのが適切なのかを考えながら執筆する。

地の文があまり長く続くとメリハリを欠く。教

科書では「予想」や「気づき」など,期待され

る児童の発言には会話文が用いられることが多

い。また,取材で聞き取った内容は「~さんの

話」と題した囲み文にすると臨場感が高まる。

キャラクターのフキダシは,スペースを大きく

とらないというメリットを生かし,資料の近く

に置いて読み取りの示唆や留意点などを語らせ

たり,地の文や会話文の字数の不足を補う内容

の発言をさせたりするとよい。

写真

写真資料は,取材等で撮影したものをプリン

トし,コピー機で拡縮を施したり不要な部分を

切り取ったりして,原稿用紙の所定の位置に貼

り付ける。

イラスト,地図,グラフなどの原稿

写真資料では表現することができないもの,

例えば,視覚的に捉えにくいもの(例:水の循

環),物体の内部構造(例:浄水場のしくみ),

空間や時間の動態(例:地域探検の経路),制

度や概念(例:119 番のしくみ)などは,イラ

ストを用いて表すとよい。イラストの作画は,

心得のある教師が担当してもよいが,もともと

視覚的にとらえることができないものを具体的

に描き表そうとするわけだから容易なことでは

なく,できればプロのイラストレーターに依頼

側スペース

写真スペース

写真スペース

本 文 本 文

写真スペース

本 文 本 文

写真スペース

Page 11: 地域副読本作成の手引き...- 1 - 地域副読本の役割と類型 地域副読本の役割 第3学年及び第4学年の社会科は,「地域学 習」ともいわれる。それは,おもな学習対象を

- 9 -

するのが無難である。イラストの原稿は,執筆

者自身が作成しなければならないが,作画の資

料として既存のイラストや写真を添付したり引

き写したりする際には,他者の著作権を侵害す

ることのないよう注意する(著作権については

後述)。

図,表,イラストなどは,取材で収集した資

料などをもとにして原稿を作成する。

地図資料は,もとになる地図をコピーし,描

き起こしたい道路などをマーカーで着色したり,

新たに付加すべき要素を書き込んだりして原稿

を作成する。方位や縮尺(スケール)も忘れず

に入れる。

グラフや表は,統計の数値をもとに手書きな

どで原稿を作成し,そこから見いだされる傾向

と文章記述との間に齟齬がないかを原稿検討の

ときにチェックしておく。この手書きのグラフ

や表に,タテ・ヨコの寸法を記入すれば,原稿

として完成である。なお,グラフには絵グラフ,

棒グラフ,折線グラフ,帯グラフなどの種類が

あるが,どの種類のグラフで表すのが適切であ

るのかについては,個々のケースにそくして判

断する。また,面積,体積,重さなどの単位や

百分率など,算数の授業で未習の事項はないか

についても留意したい。

グラフや表で忘れてならないのは,統計資料

の年次や出典の記載である。前者については統

計調査が実施された年次を,後者については統

計調査を実施した機関や個人の名称を,それぞ

れ記載する。

キャラクターの指定や作画

キャラクターに関しては,フキダシの文章を

ワープロに入力し,原稿の適切な位置に切り貼

りしておく。また,位置や大きさのめやすとな

るように,キャラクターの輪郭を描き入れてお

く。なお,副読本には,学習する児童の分身で

あるキャラクターを,最低でも計4名程度(男

子2名,女子2名)は掲載したい。1点1点描

き起こすのが大変なら,各キャラクターのいく

つかの表情をパターンで作画し,場面に応じて

選択して使いまわすとよい。作画は,心得のあ

る教師が担当するケースも見られるが,プロの

イラストレーターに依頼することもできる。そ

の際の作画料金はさまざまだが,印刷会社がイ

ラストレーターを紹介してくれることもあるの

で,予算を伝えて相談してみてはどうだろう。

編集会議④

編集委員会全体で原稿の検討・審議を行う。

ここは地域副読本の編集・作成の過程で最も重

要な場面である。各執筆者は,文章はもちろん

のこと,資料の欠落がないように原稿を用意し

ておく。

ここでの検討・審議の対象は,展開や内容だ

けでなく,構成要素ごとの内容や見せ方,紙面

レイアウト,さらには語彙の選択,漢字やカタ

カナの表記といった原稿の全体に及ぶ。

この検討・審議で洗い出された問題点につい

ては,できるだけその場で修正の方向性を話し

合って決めておくのが望ましい。

各執筆者は,編集委員会における検討・審議

をふまえて修正を施し,原稿を完成させる。軽

微な程度の文字修正であれば,原稿に朱書きを

するだけでもよいが,レイアウトの変更にまで

及ぶ規模の修正を施さねばならない場合は,原

稿をつくり直したほうがよい。

完成した原稿は,編集委員会の代表者を含め

た2~3人で通し読みを行い,表記をはじめ不

揃いなところがないかをチェックする。

校正

校正は,書籍の場合,最低でも3回行う(初

校,再校,三校)のがふつうである。なかでも

とくに大切なのが初校である。誤字,脱字だけ

でなく,字間・行間の寸法に至るまで綿密にチ

ェックし,誤りがあれば朱書きで指摘・訂正す

る。再校や三校は,基本的には初校における修

正が指示どおりに施されているかどうかを確認

するためのものである。しかし,見落としがな

いとも限らないので,どの段階の校正も手を抜

くことなく綿密に行うことが大切である。また,

細部に注意を向けるだけでなく,タイトルなど

の大きな部分や,ノンブル(ページ番号)の並

びが正しいかなど,全体を通して確認すべき点

についても留意されたい。

Page 12: 地域副読本作成の手引き...- 1 - 地域副読本の役割と類型 地域副読本の役割 第3学年及び第4学年の社会科は,「地域学 習」ともいわれる。それは,おもな学習対象を

- 10 -

著作権について 創作的な表現物(言語,音楽,絵画,建築,

図形,映画,写真,コンピュータープログラム

など)のことを「著作物」と呼ぶ。著作物を利

用する権利は,創作をなした者すなわち「著作

者」に占有的に認められている。その権利を

「著作権」と呼び,日本では「著作権法」で保

護されている。

第三者による著作物の無断利用や模写,ある

いは内容の改変などの行為は,著作権の侵害に

あたる。著作権の侵害に対しては,著作権法に

懲役を含めた罰則が規定されている。

著作物を利用する場合には,基本的に,著作

権者からの承認を得て,対価を支払うという正

当な手続きをとることが不可欠である。

他方で,著作権法は,事実の伝達にすぎない

雑報および時事の報道,国や地方公共団体によ

る法令や告示,裁判所による判決や決定などは

著作物にはあたらないとしているほか,著作権

の制限に関する規定も設けている。それについ

ては下に参考資料を掲載した(文化庁のウェブ

サイトから一部省略して転載)。第 32 条の規

定は,地域副読本の編集・作成において,原典

から統計資料を引用する際の根拠となる。

ただし,法律の条文には解釈の余地が残され

ているのがふつうである。したがって,牽強付

会な解釈が過ぎると,あとで問題になることも

ありうるので,慣例なども参照しながら慎重に

対応することを心がけるようにしたい。また,

出典を明示しなければならないことや,許可な

く内容を改変することが許されないことなどは,

ごく一部の例外を除き,どんな場合にも適用さ

れる原則であるので,留意されたい。

■資料■

著作物が自由に使える場合著作権法では,一定の「例外的」な場合に著作

権等を制限して,著作権者等に許諾を得ること

なく利用できることを定めています(第 30 条

~第 47 条の 3)。

これは,著作物等を利用するときは,いかな

る場合であっても,著作物等を利用しようとす

るたびごとに,著作権者等の許諾を受け,必要

であれば使用料を支払わなければならないとす

ると,文化的所産である著作物等の公正で円滑

な利用が妨げられ,かえって文化の発展に寄与

することを目的とする著作権制度の趣旨に反す

ることにもなりかねないためです。

しかし,著作権者等の利益を不当に害さない

ように,また,著作物等の通常の利用が妨げら

れることのないよう,その条件は厳密に定めら

れています。

また,著作権が制限される場合でも,著作者

人格権は制限されないことに注意を要します

(第 50 条)。

なお,これらの規定に基づき複製されたもの

を目的外に使うことは禁止されています(第

49 条)。また,利用に当たっては,原則とし

て出所の明示をする必要があることに注意を要

します(第 48 条)。

【私的使用のための複製(第 30 条)】

家庭内で仕事以外の目的のために使用するた

めに,著作物を複製することができる。同様の

目的であれば,翻訳,編曲,変形,翻案もでき

る。

なお,デジタル方式の録音録画機器等を用いて

著作物を複製する場合には,著作権者等に対し

補償金の支払いが必要となる。

しかし,①公衆の使用に供することを目的と

して設置されている自動複製機器を用いて複製

するときや,②技術的保護手段の回避により可

能となった(又は,その結果に障害が生じない

ようになった)複製を,その事実を知りながら

行うときは,この例外規定は適用されない。

また,映画の盗撮の防止に関する法律により,

映画館等で有料上映中の映画や無料試写会で上

映中の映画の映像を録画することは,私的使用

目的であっても,この例外規定は適用されない。

【図書館等における複製(第 31 条)】

Page 13: 地域副読本作成の手引き...- 1 - 地域副読本の役割と類型 地域副読本の役割 第3学年及び第4学年の社会科は,「地域学 習」ともいわれる。それは,おもな学習対象を

- 11 -

政令(施行令第 1 条の 3)で認められた図書

館に限り,一定の条件の下に,①利用者に提供

するための複製,②保存のための複製,③他の

図書館のへの提供のための複製を行うことがで

きる。

利用者に提供するために複製する場合には,

翻訳して提供することもできる。

【引用(第 32 条)】

①公正な慣行に合致すること,引用の目的上,

正当な範囲内で行われることを条件とし,自分

の著作物に他人の著作物を引用して利用するこ

とができる。同様の目的であれば,翻訳もでき

る。②国等が行政の PR のために発行した資料

等は,説明の材料として新聞,雑誌等に転載す

ることができる。ただし,転載を禁ずる旨の表

示がされている場合はこの例外規定は適用され

ない。

【教科用図書等への掲載(第 33 条)】

学校教育の目的上必要と認められる限度で教

科書に掲載することができる。ただし,著作者

への通知と著作権者への一定の補償金の支払い

が必要となる。同様の目的であれば,翻訳,編

曲,変形,翻案もできる。

【教科用拡大図書等の作成のための複製等(第

33 条の 2)】

視覚障害等により既存の教科書が使用しにく

い児童又は生徒の学習のために,教科書の文字

や図形の拡大や,その他必要な方式により複製

することができる。

ただし,教科書の全部又は相当部分を複製し

て拡大教科書等を作成する場合には,教科書発

行者への通知が,営利目的で頒布する場合には

著作権者への一定の補償金の支払いが必要とな

る。

【学校教育番組の放送等(第 34 条)】

学校教育の目的上必要と認められる限度で学

校教育番組において著作物を放送等することが

できる。また,学校教育番組用の教材に著作物

を掲載することができる。ただし,いずれの場

合にも著作者への通知と著作権者への補償金の

支払いが必要となる。同様の目的であれば,翻

訳,編曲,変形,翻案もできる。

【教育機関における複製等(第 35 条)】

教育を担任する者やその授業を受ける者(学

習者)は,授業の過程で使用するために著作物

を複製することができる。また,「主会場」で

の授業が「副会場」に同時中継されている場合

に,主会場で用いられている教材を,副会場で

授業を受ける者に対し公衆送信することができ

る。複製が認められる範囲であれば,翻訳,編

曲,変形,翻案もできる。

ただし,ドリル,ワークブックの複製や,授

業の目的を超えた放送番組のライブラリー化な

ど,著作権者に経済的不利益を与えるおそれが

ある場合にはこの例外規定は適用されない。

【試験問題としての複製等(第 36 条)】

入学試験や採用試験などの問題として著作物

を複製すること,インターネット等を利用して

試験を行う際には公衆送信することができる。

ただし,著作権者に経済的不利益を与えるお

それがある場合にはこの例外規定は適用されな

い許諾が必要となる。

営利目的の模擬試験などのための複製,公衆

送信の場合には,著作権者への補償金の支払い

が必要となる。

同様の目的であれば,翻訳もできる。

【点字による複製等(第 37 条)】

点字によって複製,あるいは,点字データと

してコンピュータへ蓄積しコンピュータ・ネッ

トワークを通じて送信することができる。

また,点字図書館や盲学校の図書室など一定

の施設(政令(施行令第 2 条))では,①もっ

ぱら視聴覚障害者向けの貸出し用,自動公衆送

信用として録音すること,②もっぱら視覚障害

者が利用するためにその録音物を自動公衆送信

することができる。

同様の目的であれば,翻訳もできる。

【聴覚障害者のための自動公衆送信(第 37 条

の 2)】

政令(施行令第 2 条の 2)で指定された聴覚障

害者の福祉の増進を目的とする事業を行う者に

限り,放送され,又は有線放送される著作物に

係る音声を聴覚障害者のために文字にして自動

公衆送信することができる。

【営利を目的としない上演等(第 38 条)】

①営利を目的とせず,観客から料金をとらな

い場合は,公表された著作物を上演・演奏・上

映・口述することができる。ただし,出演者な

Page 14: 地域副読本作成の手引き...- 1 - 地域副読本の役割と類型 地域副読本の役割 第3学年及び第4学年の社会科は,「地域学 習」ともいわれる。それは,おもな学習対象を

- 12 -

どに報酬を支払う場合はこの例外規定は適用さ

れない。

②営利を目的とせず,貸与を受ける者から料

金をとらない場合は,CD など公表された著作

物の複製物を貸与することができる。ただし,

ビデオなど映画の著作物の貸与については,政

令(施行令第 2 条の 3)で定められた視聴覚ラ

イブラリー等に限られ,さらに,著作権者に補

償金を支払いが必要となる。

【時事問題に関する論説の転載等(第 39

条)】

新聞,雑誌に掲載された時事問題に関する論

説は,利用を禁ずる旨の表示がない限り,他の

新聞,雑誌に掲載したり,放送したりすること

ができる。同様の目的であれば,翻訳もできる。

【時事の事件の報道のための利用(第 41

条)】

著作物に関する時事の事件を報道するために,

その著作物を利用する場合,又は事件の過程に

おいて著作物が見られ,若しくは聞かれる場合

にはその著作物を利用できる。同様の目的であ

れば,翻訳もできる。

【情報公開法等における開示のための利用(第

42 条の 2)】

情報公開法等の規定により著作物を公衆に提

供又は提示する必要がある場合には,情報公開

法等で定める方法により,著作物を必要な限度

で利用することができる。

【公開の美術の著作物等の利用(第 46 条)】

屋外に設置された美術の著作物又は建築の著

作物は,方法を問わず利用できる(若干の例外

あり)。

【美術の著作物等の展示に伴う複製(第 47

条)】

美術の著作物の原作品又は写真の著作物の原

作品を公に展示する者は,観覧者のための解説,

紹介用の小冊子などに,展示する著作物を掲載

することができる。

Page 15: 地域副読本作成の手引き...- 1 - 地域副読本の役割と類型 地域副読本の役割 第3学年及び第4学年の社会科は,「地域学 習」ともいわれる。それは,おもな学習対象を

- 13 -

小学校学習指導要領における地域学習の取り扱い

先にも述べたとおり,地域副読本の編集・作成を

進めるにあたって,学習指導要領を検討したり,編

集委員会で共通理解化を図ったりすることは不可欠

である。ここでは『小学校学習指導要領解説・社会

編』(以下『解説』と省略)にもとづき,小学校学

習指導要領「社会科」第3学年及び第4学年社会科

の「目標」「内容」「内容の取扱い」とその解説に

おける地域学習の取り扱いを概観しておきたい。

はじめに,学年の目標と内容である(下線部は平

成 20年改訂で変更のあった箇所)。

【第 2 各学年の目標及び内容】

1 目標

(1)地域の産業や消費生活の様子,人々の健康な生

活や良好な生活環境及び安全を守るための諸活

動について理解できるようにし,地域社会の一

員としての自覚をもつようにする。

(2)地域の地理的環境,人々の生活の変化や地域の

発展に尽くした先人の働きについて理解できる

ようにし,地域社会に対する誇りと愛情を育て

るようにする。

(3)地域における社会的事象を観察,調査するとと

もに,地図や各種の具体的資料を効果的に活用

し,地域社会の社会的事象の特色や相互の関連

などについて考える力,調べたことや考えたこ

とを表現する力を育てるようにする。

「良好な生活環境」という文言は,環境教育の観

点をより重視していることを示している。地域の

人々の協力を得て行う廃棄物の処理などの活動が,

地域の良好な生活環境の維持と向上に役立っている

ことを理解できるようにすることを求めたものであ

る。

「調べたことや考えたことを表現する」という文

言は,言語活動の充実を意味している。「調べたこ

と」を表現する力とは,学習問題にそくして観察・

調査したり,地図や各種の具体的資料から必要な情

報を読み取ったりしたことを工夫して表現すること

ができる力を指している。他方,「考えたこと」を

表現する力とは,調べた事実に基づいて地域の社会

的事象の特色や相互の関連などについて考えたり,

学習問題に対して自分なりに考えたりしたことを,

相手に伝わるように表現することができるような力

を指している。これまでの授業のなかには,調べた

ことを発表する活動にとどまっているものがあると

いう指摘もあり,社会科学習の本来の姿を明確にす

るというねらいがある。

なお,ここで述べられている地域における社会的

事象の観察のあり方について,『解説』には次の5

点があげられている。

・ありのままに観察する。

・数や量に着目して調査する。

・観点にもとづいて観察,調査する。

・他の事象と対比しながら観察,調査する。

・まわりの諸条件と関係づけて観察,調査する。

また,資料の効果的な活用のあり方についても次

のように述べている。

・資料から必要な情報を読み取る。

・資料に表されている事柄の全体的な傾向をとらえ

る。

・必要な資料を収集する。

こうしてみると,学習指導要領の目標は,調べる

こと・考えること・表現することの一体化を,従来

以上に求めていると解釈することができる。

次に内容を見てみよう。第 3 学年及び第 4 学年に

ついては,2学年分の内容をまとめて示している。

これは,各学校が2年間を見通して,地域の実状に

そくして内容の順序や教材の選定等を工夫するなど,

Page 16: 地域副読本作成の手引き...- 1 - 地域副読本の役割と類型 地域副読本の役割 第3学年及び第4学年の社会科は,「地域学 習」ともいわれる。それは,おもな学習対象を

- 14 -

地域に密着した学習を弾力的に展開できるようにす

るという趣旨である。

【第 2 各学年の目標及び内容】

2 内容

(1)自分たちの住んでいる身近な地域や市(区,

町,村)について,次のことを観察,調査した

り白地図にまとめたりして調べ,地域の様子は

場所によって違いがあることを考えるようにす

る。

ア 身近な地域や市(区,町,村)の特色ある

地形,土地利用の様子,主な公共施設などの

場所と働き,交通の様子,古くから残る建造

物など。

身近な地域や市の地形,土地利用,公共施設など

に関する内容については,「古くから残る建造物」

が加わっている。地域の歴史にかかわる内容を重視

しているのである。『解説』は,神社,寺院,伝統

的な家屋,あるいは門前町,城下町,宿場町などの

伝統的な家並みを取りあげることを例示し,その位

置や昔の様子,いわれなどを調べ,白地図に書き表

すことだとしている。しかし,いつの時代のものを

取りあげるべきであるかは明示されておらず,地域

の実状にそくしてより適切なものを取りあげるのが

妥当であると考えられる。

【第 2 各学年の目標及び内容】

3 内容の取扱い

(1)内容の(1)については,方位や主な地図記号に

ついて扱うものとする。

内容の取扱いは「方位や主な地図記号について扱

うものとすること」としている。『解説』は,四方

位と八方位を扱うと明示したうえで,「身近な地

域」の学習で取りあげることも含め,第 4 学年が終

了するまでに身につけるようにすることとしている。

地図記号は,教科の学習や生活の基盤として必要

な知識を,発達段階に応じて確実に習得するという

趣旨から明記されている。『解説』では,学校,警

察署,消防署,工場,神社,寺院,市役所や町役場

などの建物・施設にかかわるもの,田,畑などの土

地利用にかかわるもの,鉄道,駅,道路などの交通

にかかわるものを例示しており,これらのなかから

地域の実状にそくして選択して取りあげることにな

るであろう。

【第 2 各学年の目標及び内容】

3 内容の取扱い

(2)内容の(2)のイについては,次のとおり取り扱う

ものとする。

ア 「生産」については,農家,工場などの中

から選択して取り上げること。

イ 「販売」については,商店を取り上

げ,販売者の側の工夫を消費者の側の

工夫と関連付けて扱うようにするこ

と。

ウ 「国内の他地域など」については,

外国とのかかわりにも気付くよう配慮

すること。

地域の販売や生産に携わっている人々のはたらき

に関する学習については,経済の基礎となる内容を

重視する観点から,内容の取扱いにおいて,「生

産」については農家,工場などの中から選択して,

「販売」については商店を取り上げることとしてい

る。つまり「生産」と「販売」のどちらかではなく,

両方必ず扱うことを求めているのである。

また,どの地域でも共通の取り扱いができるよう

配慮し,「地域の生産活動を取り上げる場合には自然

環境との関係について」触れるようにするという取

り扱いは削除されたが,可能であればその点に触れ

るに越したことはない。また,「販売」については,

販売者の側の工夫を消費者の側の工夫と関連付けて

Page 17: 地域副読本作成の手引き...- 1 - 地域副読本の役割と類型 地域副読本の役割 第3学年及び第4学年の社会科は,「地域学 習」ともいわれる。それは,おもな学習対象を

- 15 -

扱うようにすることとされているが,これも経済の

基礎となる内容を重視する観点にもとづくものであ

る。これについて『解説』は,「販売者の工夫は,

商品の品質や価格などを考えて店や商品を選んで購

入している消費者の工夫にも結び付いていることを

指導する」としている。

【第 2 各学年の目標及び内容】

2 内容

(3)地域の人々の生活にとって必要な飲料水,電

気,ガスの確保や廃棄物の処理について,次の

ことを見学,調査したり資料を活用したりして

調べ,これらの対策や事業は地域の人々の健康

な生活や良好な生活環境の維持と向上に役立っ

ていることを考えるようにする。

ア 飲料水,電気,ガスの確保や廃棄物の処理

と自分たちの生活や産業とのかかわり

イ これらの対策や事業は計画的,協力的に進

められていること。

【第 2 各学年の目標及び内容】

3 内容の取扱い

(3)内容の(3)については,次のとおり取り扱うも

のとする。

ア 「飲料水,電気,ガス」については,それ

らの中から選択して取り上げ,節水や節電

などの資源の有効な利用についても扱うこ

と。

【第 2 各学年の目標及び内容】

3 内容の取扱い

(5)内容の(3)及び(4)にかかわって,地域の社会生

活を営む上で大切な法やきまりについて扱うも

のとする。

地域の人々の健康を守るための諸活動に関する内

容については,資料活用や環境教育の視点の必要性

が示されている。

また,内容の取扱いでは,資源・エネルギーへの

関心を高め,よりよい社会の形成に参画する資質や

能力の基礎を培う観点から,「節水や節電などの資

源の有効な利用についても扱うこと」や「地域の社

会生活を営む上で大切な法やきまりについて扱うも

のとする」こととされている。なお『解説』は,資

源の有効な利用に関して,飲料水の確保については

節水や水の再利用,電気の確保については節電や太

陽エネルギーの利用をあげている。

「法やきまり」について,『解説』は,ごみの出

し方や生活排水の処理,資源の再利用などに関する

ものを例示し,市役所や町役場や町内会などが地域

の人々と協力して,ごみの出し方や集積所などに関

するきまりを決めていることや,地域の人々が資源

の再利用や生活排水の適正な処理などに関する法や

きまりを守って生活していることを取りあげ,法や

自分たちが決めたきまりを守ることが地域の健康な

生活や良好な生活環境の維持と向上を図るうえで大

切であることに気づくようにする必要があると述べ

ている。

【第 2 各学年の目標及び内容】

2 内容

(4)地域社会における災害及び事故の防止につい

て,次のことを見学,調査したり資料を活用し

たりして調べ,人々の安全を守るための関係機

関の働きとそこに従事している人々や地域の

人々の工夫や努力を考えるようにする。

ア 関係機関は地域の人々と協力して,災害や

事故の防止に努めていること

イ 関係の諸機関が相互に連携して,緊急に対

処する体制をとっていること。

Page 18: 地域副読本作成の手引き...- 1 - 地域副読本の役割と類型 地域副読本の役割 第3学年及び第4学年の社会科は,「地域学 習」ともいわれる。それは,おもな学習対象を

- 16 -

【第 2 各学年の目標及び内容】

3 内容の取扱い

(4)内容の(4)の「災害」については,火災,風水

害,地震などの中から選択して取り上げ,「事

故の防止」については,交通事故などの事故防

止や防犯を取り上げるものとする。

(5)内容の(3)及び(4)にかかわって,地域の社会生

活を営む上で大切な法やきまりについて扱うも

のとする。

「事故の防止」については,交通事故などの事故

防止や「防犯」を取りあげることとされているが,こ

れには「盗難」も含まれている。

また,ここでも資料活用を重視する考え方が示さ

れている。

さらに,地域の人々が共に助け合って地域社会の

維持と向上に努めている意味をとらえ,よりよい社

会の形成に参画する資質や能力を培う観点から,

「地域の人々の工夫や努力」や「関係機関は地域の

人々と協力して,災害や事故の防止に努めているこ

と」について考えることとされている。この「関係

機関と地域の人々との協力」について,『解説』は

かなり具体的に例示しているので,地域の実状にそ

くして選択して取りあげることになるであろう。

内容の取扱いにおいては「地域の社会生活を営む

上で大切な法やきまりについて扱うものとする」こ

ととされている。なお,「法やきまり」については,

災害と事故の両方で扱っても,どちらかだけで扱っ

てもよいとされている。『解説』は,登下校のきま

りや交通事故の防止に関する法やきまりを取りあげ

ることを例示している。

【第 2 各学年の目標及び内容】

2 内容

(5)地域の人々の生活について,次のことを見学,

調査したり年表にまとめたりして調べ,人々の

生活の変化や人々の願い,地域の人々の生活の

向上に尽くした先人の働きや苦心を考えるよう

にする。

ア 古くから残る暮らしにかかわる道具,それ

らを使っていたころの暮らしの様子

イ 地域の人々が受け継いできた文化財や年中

行事

ウ 地域の発展に尽くした先人の具体的事例

地域の文化財や年中行事に関する内容については,

地域の伝統や文化の継承・発展に努めることを重視

する観点から,「地域の人々が受け継いできた文化

財や年中行事」について調べることとされている。

したがって,ただ単に「文化財マップ」のような形

式で数多く取りあげればよいということではなく,

「継承」の観点を明確にする必要がある。なお,

『解説』は,古くから伝わる文化財や年中行事を取

りあげ,これらの内容やいわれ,それらを大切に保

存し継承するための地域の人々の取り組みを具体的

に調べることとしている。

Page 19: 地域副読本作成の手引き...- 1 - 地域副読本の役割と類型 地域副読本の役割 第3学年及び第4学年の社会科は,「地域学 習」ともいわれる。それは,おもな学習対象を

- 17 -

【第 2 各学年の目標及び内容】

2内容

(6)県(都,道,府)の様子について,次のことを

資料を活用したり白地図にまとめたりして調べ,

県(都,道,府)の特色を考えるようにする。

ア 県(都,道,府)内における自分たちの市

(区,町,村)及び我が国における自分たち

の県(都,道,府)の地理的位置,47 都道

府県の名称と位置

イ 県(都,道,府)全体の地形や主な

産業の概要,交通網の様子や主な都市

の位置

ウ 県(都,道,府)内の特色ある地域

の人々の生活

エ 人々の生活や産業と国内の他地域や

外国とのかかわり

【第 2 各学年の目標及び内容】

3 内容の取扱い

(7)内容の(6)については,次のとお取り扱うもの

とする。

ア ウについては,自然環境,伝統や文

化など地域の資源を保護・活用してい

る地域を取り上げること。その際,伝

統的な工業などの地場産業の盛んな地

域を含めること。

イ エについては,我が国や外国には国

旗があることを理解させ,それを尊重

する態度を育てるよう配慮すること。

県(都,道,府)内の地形や産業,県内の特色あ

る地域に関する内容については,まず,広い視野で

地域社会に対する理解をいっそう深める観点から,

「我が国における自分たちの県(都,道,府)の地

理的位置」や「47 都道府県の名称と位置」が位置づ

けられている。また,「第3 指導計画作成と内容の

取扱い」では「各学年において,地図や統計資料な

どを効果的に活用し,我が国の都道府県の名称と位

置を身に付けることができるように工夫して指導す

ること」とされている。「身に付ける」という文言

から,ただ知っていればよいということではなく,

学習や生活のなかで活用することができる段階まで

到達することが求められており,第 6 学年が修了す

るまでの間に,習得と活用を行き来しながら繰り返

し学習していくことが必要となろう。

なお,『解説』は,「我が国における自分たちの

県(都,道,府)の地理的位置」については,国内

における自分たちの県の位置を調べたり,他県との

位置関係や,日本全体から見た位置について,方位

などを用いて言い表したりすることをとおして,自

分たちの県の位置を広い視野からとらえることがで

きるようにするとしている。 また「47 都道府県の

名称と位置」に関しては,我が国が 47 の都道府県に

よって構成されていることがわかり,都道府県の名

称と位置を一つ一つ地図帳で確かめ,その名称を白

地図に書き表す活動を例示している。

内容の取扱いでは,県内の特色ある地域の事例の

取りあげ方に関して,「自然環境,伝統や文化など

の地域の資源を保護・活用している地域」を取りあ

げることとされている。これは,地域の自然環境,

伝統や文化などへの理解をいっそう深め,地域社会

に対する誇りと愛情を育てるとともに,地域社会で

協力しながら地域の活性化や自立のために工夫や努

力をしている人々の営みを学び,よりよい社会の形

成に参画する資質や能力の基礎を培うことを意図し

たものである。人々が協力し,景観や産物など地域

の豊かな自然や恵みを活かし,伝統や文化を保護・

活用しながら,地域社会の維持・向上に努めている

ような事例というものが考えられる。これに関して

Page 20: 地域副読本作成の手引き...- 1 - 地域副読本の役割と類型 地域副読本の役割 第3学年及び第4学年の社会科は,「地域学 習」ともいわれる。それは,おもな学習対象を

- 18 -

『解説』は,渓谷や森林,高原や湿原,河川や海辺

などの豊かな自然を守りながら,あるいは,歴史あ

る建造物や街並み,祭りなどの地域の伝統や文化を

受け継ぎ保護・活用しながら,地域の人々が互いに

協力して,特色あるまちづくりや観光などの産業の

発展に努めている地域を例示している。

「保護・活用」というからには,かつては荒廃し

たり廃れていたりした地域の資源が,地域の人々の

努力によってよみがえったというプロセスを経てい

る事例を取りあげるのが望ましいということになろ

う。また,「地域の人々」という言葉には,行政に

よって取り組まれた事例であるよりも,民間やボラ

ンティアをも含めた地域の人々の主体的な参加によ

って取り組まれた事例が望ましいと考えられよう。

いずれにせよ,都道府県内から適切な事例を選択し

て取りあげることになるだろう。

扱う事例の数について,『解説』では,伝統的な

工業などの地場産業の盛んな地域を含めて,自然環

境,伝統や文化などの地域の資源を保護・活用して

いる地域のなかから二つ程度を選択して取りあげる

としている。

これまで学習指導要領には,いくつかの箇所で

「無理のない取扱いをする」,「深入りしないよう配

慮する」,「厳選して取り上げる」などの文言が入っ

たいわゆる「歯止め規定」が設けられていたが,そ

れらの文言は中教審における議論や答申を踏まえて

今次の指導要領では概ね削除されている。とはいえ,

中学年の標準配当時数が,第4学年の5時間(単位

時間)増にとどまったことをふまえると,一律に学

習する内容をむやみに増やすべきではない。ただし,

もっと学んでみたいと考える意欲的な児童に対して

は,「発展的な学習」で対応するなどの手立てを考

える必要もあろう。

なお,道徳教育については,教科の特質に応じて

適切な指導をすることとされている。これはあくま

で指導レベルで配慮すべき事項としてあげられてい

るものであるが,地域副読本の編集・作成に際して

は,こうした指導との連携をふまえた工夫について

も考えておくに越したことはないであろう。

「活用」とは?

小学校学習指導要領「総則」は,「基礎的・

基本的な知識及び技能の活用を図る学習活動を

重視する」としている。この記述が意味してい

るのは,身につけた知識を活かして問題を解決

すること,あるいは,身につけた知識を再構成

して新しい知識の習得へとつなげていくことを

重視していくということであろう。それは,問

題解決的な学習を,よりいっそう重視するとい

うことにほかならないともいえる。

そうした学習を,具体的な場面にそくして例

示すると,学習をまとめる際に,キーワードを

使って一定の分量で文章をまとめさせたり,根

拠を明確にして感想を発表させたりすることな

どが考えられる。また,学習の導入の場面など

では,それまでに身につけた知識を,これから

学習する事象に応用・転移させることなどが考

えられる。知識の活用場面を,教師が意図的・

計画的に設定し,指導することが重要である。

目ざされるべきは,身につけた知識を,現実

の社会・生活へと活用させていくことのできる

力の基礎を,社会科の指導をとおして培ってい

くことであろう。

Page 21: 地域副読本作成の手引き...- 1 - 地域副読本の役割と類型 地域副読本の役割 第3学年及び第4学年の社会科は,「地域学 習」ともいわれる。それは,おもな学習対象を

- 19 -

単元構成案と各単元の展開例

学年 学

期 単元名

学習指導要

領の内容

単元構成や選択に関する留意点

(指)=学習指導要領による規定

1 わたしたちの大好きなまち (1)

(1) わたしたちの住むまちはどんなまち ア

(2) わたしたちの市の様子 ア

2 働く人とわたしたちのくらし (2) ・販売の仕事のほかに,農業・工

業・林業・漁業のなかから一つ

を選択する。(指) (1) 店で働く人と仕事 ア、イ

(2) 工場で働く人と仕事 ア、イ

3 変わるわたしたちのくらし (5) ・郷土の歴史に関する学習は,で

きるだけ各学年に配置するのが

適切であると考えられる。 (1) 受けつがれる行事 イ

(2) 昔の道具とくらし ア

4 安全なくらしとまちづくり (4) ・火災,風水害,地震のなかから

一つを選択する。地震と火災を

取りあげて関連的に扱うことも

できる。(指)

(1) 事故・事件のないまちを目ざして ア、イ

(2) 災害からまちを守るために ア、イ

5 健康なくらしとまちづくり (3) ・ごみ,下水のどちらかを選択す

る。(指)

・飲料水,電気,ガスのなかから

一つを選択する。(指)

(1) ごみはどこへ ア、イ

(2) 水はどこから ア、イ

6 昔から今へと続くまちづくり (5)

・開発,教育,文化,産業などの

面で地域の発展に尽くした先人

の具体的事例のいずれかを取り

あげる。(指)

7 わたしたちの県のまちづくり (6)

・「47 都道府県の名称と位置」

とともに,自分たちの住む県

(都,道,府)の位置を確かめ

るようにするのが適切であると

考えられる。

(1) 県の地図を広げて イ、エ

(2) 県内の特色ある地域① ウ ・伝統的な工業など地場産業の盛

んな地域を含め,自然環境,伝

統や文化など地域の資源を保

護・活用している地域のなかか

ら二つ程度を選択する。(指)

(3) 県内の特色ある地域② ウ

(4) わたしたちの県と他地域とのつながり イ、ウ、エ

Page 22: 地域副読本作成の手引き...- 1 - 地域副読本の役割と類型 地域副読本の役割 第3学年及び第4学年の社会科は,「地域学 習」ともいわれる。それは,おもな学習対象を

- 20 -

1(1)わたしたちの住むまちはどんなまち

■単元のねらい

この単元は,自分たちが住んでいる身近な地域について,以下のことを観察,調査したり白地図に

まとめたりして調べ,地域の様子は場所によってちがいがあることを考えられるようにし,地域社会

の一員としての自覚を促し,調査の方法や考える力,表現する力を育てることをねらいとしている。

・身近な地域(学区を中心とした自分たちが住むまち)の特色ある地形

・土地利用の様子(駅前の商業地域や田畑の広がり、住宅地域など)

・おもな公共施設などの場所とはたらき

・交通の様子

・古くから残る建造物

・その他 (方位や地図記号の理解など)

■学習の流れの例

①つかむ ②調べる ③まとめる

■単元の展開例と留意点

この単元は,生活科との接続,社会科との出

会い,第3学年の導入という位置づけにある。

したがって,社会科の学習に対する児童の期待

感を高めるとともに,生活科の学習をふまえつ

つも,社会科らしい学習の方法・技能の基礎を

身につけることができるような内容にすること

が大切である。

工夫したい導入部

単元の導入部では,生活科における既習内容

や児童の日常の経験から出発し,学区内の公園,

神社,寺院,商店街などの知っている場所・好

きな場所を発表し合う活動などを行うとよい。

そのうえで,学校など高い建物の屋上や高い土

地などに上り,地域全体を俯瞰させる活動に進

むようにするのである。

児童は,ふだん「虫の目」で地域を見ている。

そして,自分たちの生活や活動の範囲のなかで

取り入れた情報を結びつけて行動している。そ

うやって得た情報によって知っている場所のほ

かにも,自分たちがまだ知らない場所が地域に

はたくさんあることに気づかせ,その場所に行

って調べてみたいという意欲を引き出したい。

そのためには,高い所から地域全体を俯瞰し,

未知の場所への関心や意欲を高める活動場面を

学習の導入部に設けることが効果的である。ま

た,高い所からの俯瞰は,地図のしくみや考え

方に対する理解にもつながっていく。

地域副読本では,高い所から学区を見下ろす

活動を示唆したり,各校区を上空から撮影した

写真資料を掲載したりすることが考えられる。

場所や時間による

違い,相互の関係

を考える。

・土地利用

・交通機関の乗降

客 数 の 変 化 と

人々の生活

・道路の交通量

・駅と商店街

学区を探検して観

察し,気づいたこ

とを白地図などに

記入する。

・地形と土地利用

・公共施設

・交通

・古くから残る建

造物

・地図記号や方位

わかったことを絵

地図にまとめ,そ

れを見ながら学区

の様子や特色につ

いて話し合う。

学区の知っている場

所を紹介し合う。

学校の屋上から学区

の様子を観察する。

学区の様子と比べ

ながら市の様子を

調べる。

まちの様子はどうな

っているのかという

問いをもち,調べる

計画を立てる。

Page 23: 地域副読本作成の手引き...- 1 - 地域副読本の役割と類型 地域副読本の役割 第3学年及び第4学年の社会科は,「地域学 習」ともいわれる。それは,おもな学習対象を

- 21 -

方位(この時点では4方位が適切であろう)

については,次のことを説明しておきたい。

・方位は,自分が立っている所を中心と考えて

確かめるべきものであること。

・太陽がのぼるのが東,沈むのが西であること。

・右手をあげて東に合わせると顔が向くのが北,

背中が向くのが南であること。

これらのことをしっかりと理解させ,それぞ

れの方位の地域の特色をおおまかに把握したう

えで,探検に出かけるようにする。

ていねいな指導が求められる計画づくりの場面

問題を解決するための調査活動を,自分たち

が立てた計画にもとづいて実施していく技能は,

小学校社会科において獲得すべき必須の技能の

一つである。ここは,児童がはじめて出会う計

画づくりの場面なので,学習の過程にきちんと

位置づけ,ていねいに指導していきたい。

計画づくりでは,探検の日時とコース,持ち

物,調べること(調べる対象),メモすること

(調べる観点),白地図に書き込む建物のマー

ク,安全やマナーについての注意事項などにつ

いて話し合い,ノートなどにまとめておく。

探検のコースは,地域の実状にそくして,北

と南,高い所と低い所,商業地域と住宅地域,

公園の多い所,川や池,水田や畑,神社や寺院,

森林など,学校を中心とした方位,地形の特色,

土地利用の違いなどの観点から地域を選び,そ

れらを組み合わせて探検のコースを決める。

コースが決まったら,道筋を矢印などで白地

図に記入し,クラス全員で共通理解化を図って

おく。

地域副読本では,計画を立てることの大切さ

に触れておきたい。ただし,具体的な計画の例

は教科書に詳しく記述してあるし,しかも,ど

の地域においても適用可能な内容になっている

ので,その活用を検討してもよいであろう。

はじめから地域を分けて,それぞれの地域を

グループで探検するという方法も考えられる。

しかし,ここは社会科の導入にあたる単元であ

り,できるだけ自分自身の直接的な体験をもと

にした認識を大切にしたいところであるので,

できるだけクラス全員で同一のコースをまわる

ようにしたい。

そのあと,「この点をもっと調べてみたい」

という問題意識ごとにグループを組み,自分た

ちで立てた計画にもとづく探検を行うことがで

きれば理想的である。ただし,実際には,時間

や準備の関係上むずかしいところもあろう。

数や量への着目

なお,この探検では,生活科との違いにとく

に留意して観察の観点を設けるようにしたい。

学習指導要領の『解説』には社会科における地

域観察の観点として,ありのままに観察する,

数や量に着目して調査する,観点にもとづいて

観察する,他の事象と対比しながら観察する,

まわりの諸条件と関連づけて観察する,などが

例示されている。この単元では,例えば道の幅

を歩測で調べてみる,単位時間内の自動車の通

行量を数えてみる,信号機の赤信号の長さの違

いをストップウォッチで調べてみるなどの活動

が想定される。また,駅の利用者数を数えて異

なる時間帯で比較したり,同一ポイントの自動

車通行量を数えて上・下線で比較したり,二つ

の地区の店の数を比較することをとおして地域

の特色を考察したりするなど,観点を設け,数

量をもとに観察や比較をしてみることで,地域

の特色や人々の生活とのつながりが鮮明に見え

てくる。地域副読本には,こうした具体的な観

察方法の例も提示したい。

なお,学習指導要領は「地域に古くから残る

建造物」を調べることを求めているが,いつの

時代のものを取りあげるのかについては明示し

ていない。『解説』に例示されている事例のな

かから,比較的古い時期に建てられたものを地

域の実状にそくして選択し,いわれを調べたり

白地図に位置づけたりする活動が考えられる。

絵地図づくり

学区を探検してわかったことは絵地図にまと

めるとよい。どの地図にも方位記号とスケール

を入れ忘れることのないようにしたい。絵地図

の作成手順は,検定教科書に詳しいので,それ

を活用してもよいであろう。完成した絵地図を

見ながら地域の特色について考察することが大

切であることも,きちんと示唆しておきたい。

Page 24: 地域副読本作成の手引き...- 1 - 地域副読本の役割と類型 地域副読本の役割 第3学年及び第4学年の社会科は,「地域学 習」ともいわれる。それは,おもな学習対象を

- 22 -

1(2)わたしたちの市の様子

■単元のねらい

この単元は,学区を中心とした地域の学習を発展させたものとして,自分たちの住む行政的な区分

としての市(区,町,村)域に広げてその地形的な特色や土地利用の様子,施設や交通機関を通した

人々のつながりについて観察,調査をして白地図などにまとめ,市の特色に気づかせるとともに,自

分たちの住む地域を見直す視点を広げ,地域に対する誇りや愛情を育むことをねらいとしている。

ここでは,次に示したことを観察・調査する。

・市(区,町,村)と,学区を中心とした地域とのかかわりや相違点。

・市(区,町,村)の特色ある地形

・市(区,町,村)の土地利用の様子

・市(区,町,村)のおもな公共施設などの場所とはたらき

・市(区,町,村)の交通の様子

・市(区,町,村)の古くから残る建造物

・その他(基本的な地図の見方、方位や地図記号の理解など)

■学習の流れの例

①つかむ ②調べる ③まとめる

④深める

■単元の展開例と留意点

学区を調べた経験を活用して

ここでは,学区を中心とした地域について調

べた経験(方法や認識など)をできるだけ活用

することに留意しつつ,対象を「市」という単

位・領域に広げていく。なお,「区」について,

学習指導要領の『解説』は「東京の 23区のこと

をさす」としている。したがって東京都を除い

た道府県では,市,町,村の各領域がここでの

学習対象となる。

はじめに,市域全体を俯瞰した鳥瞰図や航空

写真などを提示し,自分たちの学区の位置を確

認させたり,場所によって景観に違いが見られ

ることなどに着目させたりして,市の全体の様

子に関心をもたせるようにする。

次に,市の地図を提示して,自分たちの学区

は,市の中心から見てどの方位にあるのかを確

かめる。その際には,まず東・西・南・北で言

い表してみて,4方位の理解の定着を図る。そ

して,4方位のみでは正確に言い表すことがで

きない場合があることに気づかせたうえで,8

方位について指導するとよい。

また,市の地図を写しとって輪郭を書いたり,

その輪郭を動物の形で言い表したりすることな

どをとおして,市のおおまかな形にも関心をも

資料からわかった

ことをもとに考え

合う。

・土地利用の違い

・人々のくらしの

様子

・他地域との結び

つき

写真や地図などを

活用して調べる。

・市の領域や形

・大きな駅の周辺

・市役所の周辺

・海に面した地域

・住宅が増えてい

る地域

・河川の流域

・緑の多い地域

わかったことを地

図にまとめ,それ

を見ながら市の様

子や特色について

話し合う。

航空写真を見て,市

の様子を観察する。

市の様子について問

いをもち,調べる計

画を立てる。

市の紹介ポスター

を作成・発表して

感想をまとめる。

Page 25: 地域副読本作成の手引き...- 1 - 地域副読本の役割と類型 地域副読本の役割 第3学年及び第4学年の社会科は,「地域学 習」ともいわれる。それは,おもな学習対象を

- 23 -

たせ,フリーハンドで描けるようにしたい。

地域選定の観点

さらに,地形や社会的条件から見て特色ある

地域をいくつか選択して調べ,土地利用や人々

の生活との関連を考察することができるように

する。そして,それらを総合することにより市

全体へと認識を広げ,最後に白地図にまとめる。

次に,ここで取りあげる地域の例をあげる。

大きな駅のまわり 複数の路線が乗り入れる大

きな駅は,鉄道によって他のさまざまな地域と

結びついており,その周辺には商業施設の集中

が見られる。

市役所のまわり 各種の公的施設が集中し,古

くから残る建造物が見られる場合もある。

海に面した地域 工場や倉庫の集中,漁港など

が見られる。

住む人が増えている地域 丘陵地などを造成し

て新しく開かれた地域では,住宅の建設が進む

とともに人口の増加が見られる。

緑の多い地域 緑地の多くは,山地や丘陵地で

ある。大都市では風致地区に指定され,人々の

憩いの場として利用されていることもある。

これらのほかにも田畑の多い地域,河川の流

域などがあげられるが,地域の実状に応じて選

択し,観点を明確にして取りあげる必要がある。

なお,選択したすべての地域をクラス全員で

訪ね,調査・観察するのは,時間的な制約もあ

ってむずかしいことであろう。そこで先述した

とおり,単元の冒頭で,市域全体を俯瞰した鳥

瞰図や航空写真などを提示し,場所によって景

観に違いが見られる点に着目させておけば,そ

れらの場所をグループごと(または個人)に分

担して調べるという学習展開も可能となる。そ

して,グループごと(または個人)に調べたこ

とは,ポスターセッション形式でまとめ・発表

させるといった方法をとるとよい。ただし,グ

ループや個人による調査活動では,全体の子ど

もの活動の進行が見えなくなりがちである。そ

こで,他のグループや友だちの調査活動の様子

を確かめながら,自分の取り組みに生かす意味

でも,中間発表会を入れるなどして活動に刺激

を与えることも大切である。

資料の活用

この単元は,学区の場合と異なり,学習の対

象が市の全域へと広がるため,すべての地域の

実地踏査を行うことは困難である。そこで,資

料の活用を中心とした学習となるが,とくに航

空写真や土地利用図など,ここで中心となる資

料については,読み取りやすく質の高いものを

提示するように努めたい。

そして,写真と写真,図と図,写真と図をそ

れぞれ関連づけたり比較したりして読み取らせ

ることをとおして,地形の特色と,土地利用や

人々の生活との関連などを考察する。

とはいえ,せめて市役所のまわりなどの中心

的な地域だけでも,学校から公共交通機関など

を利用して出かけ,見学させたいものである。

表現活動のいっそうの重視を

地域副読本には,学習をまとめる活動が位置

づいていないものもある。これは,各学校やク

ラスの実状をふまえた,学校や教師の主体的な

判断・工夫にもとづくまとめの指導が期待され

ているからであろうと思われる。

学習指導要領の目標では「調べたことや考え

たことを表現する力」のいっそうの重視がいわ

れており,調べること・考えること・表現する

ことの一体化をより深めていくことが必要だと

されている。その背景には,従来の実践の一部

に,「調べっぱなし」「(作品の)作りっぱな

し」になっていて,思考活動がしっかりと位置

づいていないものも見られたのではないかとい

う反省があるものと考えられる。

そうした点をふまえると,これからの表現活

動において必要なのは,見聞きしたことを再現

するにとどまるのでなく,そこから考察したこ

とを表現したり,発表や作品を評価し合ったり,

感想を話し合ったりするといった学び合いの場

面を位置づけることであろう。

検定教科書には,そのような表現活動を行っ

ていこうとするときに参考となる留意点の示唆,

作品例,子どもたちによる感想の例やノート例

などが記載されているので,それらを参考にし

て,地域副読本でも工夫して取りあげることが

考えられる。

Page 26: 地域副読本作成の手引き...- 1 - 地域副読本の役割と類型 地域副読本の役割 第3学年及び第4学年の社会科は,「地域学 習」ともいわれる。それは,おもな学習対象を

- 24 -

2(1)店で働く人と仕事

■単元のねらい

この単元では,身近な地域や市(区,町,村)の「販売」と「生産」の仕事を取りあげる。

それらのうち,「販売」の仕事について学習するにあたってのねらいは,次のとおりである。

・販売者は,消費者の信頼を損なうことなく売り上げを高めるために工夫をしていること,また,

それは,品質や価格,環境のことなどを考えて買い物をしている消費者の工夫と結びついている

ことを理解させる。

・自分たちの住む地域は,消費生活をとおして広く国内の他地域や外国とかかわっていることに気

づかせる。

・考えた消費活動を児童自身が行うことができるようにする。

■学習の流れの例

①つかむ ②調べる ③まとめる

■単元の展開例と留意点

事例の選択

この単元では,消費者のニーズにこたえつつ

取り組まれている販売の工夫や努力を,店の見

学をとおして学習していく。まず考えなければ

ならないのが,事例とする店の選択である。

個人商店,スーパーマーケット,コンビニエ

ンスストアなど,さまざまな形態の店があるが,

よりたくさんの工夫を,児童にわかりやすく提

示しやすい点から,スーパーマーケットに比重

をかけた扱いとし,その他については補足的な

取り扱いにとどめるというのが一般的であろう

が,地域の実状や課題にそくして選択してほし

い。児童の見学や,地域副読本の編集・作成に

協力してもらえる店を見つけたい。

導入の工夫

単元の導入部では,「人々は,店を選んで買

い物をしている」ということに児童の意識を向

けたい。そのためには,保護者や子どもたち自

身の買い物をふり返らせ,「どんな店で,何を

買ったのか」を話し合う活動からスタートする

と効果的である。店のある場所,行った時刻,

店までの移動手段などについても言及させなが

ら,話し合いがある程度進んだところで,「み

んな同じまちに住んでいるのに,買い物をして

店を 観察して工夫 を調

べ,その意味について考

え合う。

・だれもが買い物をしや

すくするための施設の

工夫

・消費者のニーズにこた

えるための各種の工夫

や努力

・仕入れを通した他地域

とのつながり

・健康な暮らしや環境の

保全に向けた工夫

家の人の買い物を聞

き取って調べる。

・どこで何を買った

のか

商店の販売の工夫

をまとめ,販売の

仕事と自分たちの

くらしとの関わり

について考え,表

現する。

家の人たちの

買い物の様子

をふり返り,

店を選んで買

い物をしてい

たことを想起

し,それはな

ぜなのかとい

う 問 い を も

つ。

家 の 人た ちの

買 い 物に つい

て 調 べる 計画

を立てる。

店で働く人たちはど

のような工夫をして

いるのかという疑問

をもち,調べる計画

を立てる。

様々な業態の商店の特色を調べ,

その利点について考え合う。

Page 27: 地域副読本作成の手引き...- 1 - 地域副読本の役割と類型 地域副読本の役割 第3学年及び第4学年の社会科は,「地域学 習」ともいわれる。それは,おもな学習対象を

- 25 -

いる店がちがうのはなぜだろう」と発問する。

そして,「深夜だったので,コンビニで買っ

た」「買う物が多かったから,自動車でスーパ

ーまで行った」など,それぞれの店を選んだ理

由がしだいにわかってきたら,「それぞれの店

によいところがあるから店を選んで買い物をし

ているのではないか」「家の人に聞いて調べて

みたい」といった発言が出てくるだろう。

地域副読本には,個人商店,スーパーマーケ

ット,コンビニエンスストアの,それぞれの店

頭の様子を撮影した写真を掲載するとよい。写

真を見て,それぞれの店のちがいを意識しなが

ら話し合うことができる。

買い物調べ

次に,保護者などからの聞き取り調査を行っ

て,家庭における買い物の様子を実証的に確か

めたい。

調査項目は,家の人が「買い物に行った店」

と,その店で「買った品物」である。これらを,

その他の気づいたこととともにカードに記録す

る。調査期間は,各家庭のプライバシーや負担

を考慮して二日間程度とするのが適当だろう。

調査の結果は,表やグラフ,地図などにまと

め,みんなで話し合いをしながら読み取ってい

く。調査の結果で着目させたいのは「もっとも

たくさんの人が買い物に行く店」である。この

結果を根拠にして,のちに見学する店を決定し

たいからである。また「店が集中している場

所」に着目させるのは,商店街の存在や,立地

のうえでの特色(駅の周辺に集中が見られるな

ど)に気づかせたいからである。

なお,「買った品物」を調べることによって,

「いろいろな種類の品物を,一度にたくさん買

うことができる」というスーパーマーケットの

特色を確かめることができる。

地域副読本には,「買い物調べ」の方法や手

順についての説明を掲載するほか,記入したカ

ード,調査の結果をまとめた表やグラフ・地図

なども例示したい。

店を見学する

見学する店は,できるだけ「買い物調べ」の

結果にもとづいて,「最も多くの人が買い物に

行く店」を選びたい。

見学では,次のようなところに着目させたい。

店内の様子 通路の広さ,各種の表示のしかた,

陳列のしかた,カートの工夫,環境保全・省資

源への協力を呼びかける掲示物,ユニバーサル

(バリアフリー)施設,各種のサービスなと。

働く人 品物を並べている人,品物の売れ具合

を調べている人,レジを打っている人,魚や肉

を切っている人,仕入れをしている人など。

商品 各種の表示(産地,地場産品,契約栽培,

無農薬,減農薬,有機栽培,リサイクルなど)。

見学の計画づくりの場面は,学習の過程にき

ちんと位置づけ,ていねいに指導しておきたい。

とくに,ここでは,見学の際に着目すべきとこ

ろをよく確かめておくことや,一般客の買い物

を妨げない,許可なく商品に触れない,などの

約束について徹底して指導しておきたい。

事前の学習では,店内を俯瞰するイラストや

写真資料などを提示して,着目すべきところに

ついての示唆を与えておいてもよいだろう。

見学後は,店で取り組まれていた工夫や努力

を観点ごとに整理して共通理解化を図り,それ

ぞれの工夫の意味について考え合う。

地域副読本には,見学の事前と事後の学習に

活用することができるよう,写真や,働く人た

ちからの聞き取りをまとめた囲み文などの資料

を掲載しておく必要がある。商品の仕入先を調

べる活動に関しては,地図学習のいっそうの重

視をうたった学習指導要領の趣旨にそくして,

地図を使って場所を確かめたり,地図に表した

りさせたい。店内を俯瞰するイラストは,教科

書に掲載されているものを活用するとよい。

大切にしたい「賢い消費者」の視点

学習指導要領の『解説』には「価格」という

観点が示されている。この段階では「価格」を

消費者が店や商品を選ぶときの判断材料の一つ

として位置づけ,販売者側の廉売の工夫として,

契約栽培やルートの多様化といった仕入れの工

夫と関連させて扱うとよい。

ここでは安全や品質,環境に配慮しながら買

い物をすることの大切さを,具体的な事例を取

りあげて,しっかりと考えさせるようにしたい。

Page 28: 地域副読本作成の手引き...- 1 - 地域副読本の役割と類型 地域副読本の役割 第3学年及び第4学年の社会科は,「地域学 習」ともいわれる。それは,おもな学習対象を

- 26 -

2(2)工場で働く人と仕事

■単元のねらい

地域の人々の生産に関する仕事については「工業製品」や「農作物」をつくる仕事のほか,「海産

物」など地域の実状にそくして児童が具体的に調べることのできる仕事を取りあげる。

この単元のねらいは次のとおりである。

・自分たちが住んでいる身近な地域や市において,地域の人々が生産活動に取り組んでいる様子

に関心をもち,意欲的に調べることができるようにする。

・見学や調査活動を通して,自分の必要な情報を収集したり選択したりして,調べたり考察した

りしたことを自分なりの表現方法でまとめることができるようにする。

・地域の生産活動が自分たちの生活を支えていること,またそれらの仕事に携わっている人々の

様々な工夫や努力,願いを理解し,他地域とのかかわりについても気づくことができるようにす

る。

■学習の流れの例

①つかむ ②調べる ③まとめる

④深める

■単元の展開例と留意点事例選択の観点

この単元では,工業製品をつくる仕事,農作

物をつくる仕事,海産物を獲ったり育てたりす

る仕事,木を育てる仕事などのなかから,地域

や学校の実状にそくして一つの具体的な事例を

選択して学習する。

工業製品をつくる仕事を選択する際には,身

近な品物や食料品など,できるだけ児童の興

味・関心を喚起することにつながるものを取り

あげるのが望ましい。

学習指導要領では,生産と地域の自然環境と

のかかわり,すなわち地域の地形や気候などと

生産物とのかかわりについて触れることを必須

の内容とはしていないが,それは,各地域にお

ける事例選択の余地を広げるためなので,可能

であれば,その点に触れるのが望ましい。

導入の工夫

単元の導入部では,自分たちの市で生産され

ている物や生産の現場などに目を向けさせる。

工場や田畑などの写真,製品や農産物の実物,

販売している店頭の様子を撮影した写真などか

ら興味を引き出していきたい。スーパーマーケ

ットを見学する際に,地元産の商品に目を向け

させておけば,そのことを想起させるのも有効

調べたことをもと

に考え合う。

・安全や品質,効

率的で安定的な

供給のための工

夫や努力

・他地域とのかか

わり

・仕事を続けてい

くための工夫と

努力

・地域とのつなが

工場や農家などを

訪ね,観察やイン

タビューをして調

べる。

・生産の様子

・働く人の様子

(人数,時間,通

勤など)

・原料

・出荷先

・環境への配慮

・生産を盛んにす

るための工夫

商店の販売の工夫

をまとめ,販売の

仕事と自分たちの

くらしとの関わり

について考え,表

現する。

地域で生産されてい

る物や,その生産の

現 場 の 存 在 に 気 づ

き,どのように工夫

をしながらつくって

いるのかという関心

と問いをもつ。

仕事の工夫伝える

ちらしを作成・発

表し,感想をまと

める。 調 べ る 計 画 を 立 て

る。

Page 29: 地域副読本作成の手引き...- 1 - 地域副読本の役割と類型 地域副読本の役割 第3学年及び第4学年の社会科は,「地域学 習」ともいわれる。それは,おもな学習対象を

- 27 -

であろう。また,取りあげる事例に関する地図

やグラフ(工場や生産者の数や分布など)を読

み取らせ,自分たちの身近に生産者がいること

に気づかせることも,意欲づけの方法として効

果的である。

ていねいに指導したい見学の計画作り

この単元では,児童自身による見学や調査を

通して学習を進めていくことを大切にしたい。

したがって,見学の計画作りの場面を学習の過

程にきちんと位置づけ,ていねいに指導してい

きたい。とくにここでは,見学先でどんなこと

を調べてくるのかという点をじゅうぶんに話し

合って,くわしく決めておく必要がある。

地域副読本では,計画を立てることの大切さ

に触れておきたい。具体的な計画の例は教科書

にくわしく記述してあるし,どの地域において

も適用可能な内容になっているので,その活用

を検討してもよいであろう。

学習問題づくりにつながる写真資料の選定を

工場や畑などへ行って,実際の生産の過程や,

作物が栽培されている様子を見学する活動は,

児童の興味・関心を喚起するものである。教師

は,生産者と事前の打ち合わせをして,生産の

過程や栽培の様子のうち,見学のときに見るこ

とができる場面と,できない場面とをそれぞれ

把握しておかなければならない。実際には,児

童が見ることができるのは一部の場面に限られ

ることが多いので,見ることのできない他の場

面については事前に取材を行っておく。地域副

読本には,その場面も含めた生産の全過程を,

資料として掲載しておく。調べる対象が工場で

ある場合は,下に示したような場面を選んで写

真を掲載しておくと,次の学習課題づくりにつ

なげやすい。

・安全や清潔を保つための工夫がわかる場面

(働く人の服装,機械の洗浄の様子など)。

・機械の力が人の力以上に活躍している場面。

また反対に,多くの機械のなかで人が活躍し

ている場面(機械による大量生産の様子,機

械を点検している人の様子,機械による農作

業の様子など)。

・環境などに配慮している場面(廃棄物をリ

サイクルしている様子,堆肥を使った土づ

くりの様子など)。

働く人々の姿を仕事の種類ごとにとらえた写

真とともに,それらの人々の工夫や努力の様子,

願いを,あたかも自身が語っているような体裁

(囲み記事やふきだし)で提示することにより

臨場感は高まる。

また,生産工程だけでなく,実際に見学する

ことが困難であっても,学習上,欠かすことの

できない場面については,写真を撮影して掲載

することが必要である。その例として,手洗い

など衛生の確保にかかわる場面,商品開発や安

全点検,流通にかかわる場面などが考えられる。

それらの写真からの読み取りをとおして,一つ

の工場のなかで,いろいろな仕事に携わる人た

ちが協力し合って物づくりをしていることに気

づくことができるようにしたい。

農産物をつくる仕事を取りあげるときには,

人手は少なくても機械化を図り効率よく仕事を

進めている様子や,地元の人たちに消費しても

らうために取り組んでいる直売の様子などの写

真も掲載したい。

原材料の産地や製品の出荷先としてかかわり

のある地域については,その名称と位置を示す

地図を掲載するだけでなく,産地や消費の様子

をイメージできる写真などが掲載できるとよい。

ぜひ取りあげたい「物づくりのこれから」

生産者は誰しも,将来に向けた工夫や努力に

取り組んでいる。それは例えば,工場における

廃棄物リサイクルの取り組みのように,地球規

模の環境に配慮して将来にわたる持続的な生産

を可能にしていくためのものであったり,農家

における農業体験や実習生の受け入れのように

後継者を育成するためのものであったりするな

どさまざまである。そのような生産者の工夫や

努力の具体的な様子を,学習のなかでも積極的

に取りあげたい。そのためには,工場や農家が

抱える廃棄物処理や後継者不足といった課題に

ついても,統計資料や生産者からの聞き取りな

どのかたちで具体的に提示する必要がある。

学習を深める場面として,「販売」または

「生産」の仕事に携わる人々の工夫や努力を,

「ちらし」の形式でまとめて発表し合う活動を

行ってもよいであろう。

Page 30: 地域副読本作成の手引き...- 1 - 地域副読本の役割と類型 地域副読本の役割 第3学年及び第4学年の社会科は,「地域学 習」ともいわれる。それは,おもな学習対象を

- 28 -

3 変わるわたしたちのくらし

■単元のねらい

この単元は,「古くから残る暮らしにかかわる道具,それらを使っていたころの暮らしの様子」及

び「地域の人々が受け継いできた文化財や年中行事」について調べ,地域の人々の生活の変化や人々

の願いについて考え,地域社会に対する誇りと愛情を育てることをねらいとしている。

■学習の流れの例

①つかむ ②調べる ③まとめる ④深める

■単元の展開例と留意点

導入・展開の工夫

この単元は,児童にとってはじめての歴史に

関わる内容となるので,できるだけ具体的に学

習を進められるように配慮したい。

そこで,例えば,児童が見たり参加したりし

ている身近な地域のお祭りを導入に取りあげ,

体験やインタビューを通して調べるなかで昔の

暮らしに興味がもてるようにし,昔の道具やそ

れらを使っていたころの暮らしの様子について

の学習へとつなげるといった導入・展開の工夫

を検討したい。なお,展開については,地域や

学校の実状にそくして取りあげる順番を入れ替

えるなど柔軟に対応することが必要である。

文化財や年中行事の継承

学習指導要領は,「地域の人々が受け継いで

きた文化財や年中行事」について調べることを

通して,人々の願いや継承のための工夫や努力

を考えることとしている。したがって学習の展

開も,「人々が受け継いできた」という点が児

童に実感できるようにしていきたい。まずは児

童が足を運んだり,神輿を担いだりして参加し

ている地域の祭りや民俗芸能を扱い,その写真

を見たり参加した体験談を話したりするなかで,

いつごろから行われているのか,どのようない

われがあるのかに興味をもたせ,学習への意欲

を高めたい。そして,「くわしい人から聞いて

みよう」「地域の図書館で本を調べてみよう」

など,調べ方についても見通しが立てられるよ

うにする。

地域の神社の祭礼を取りあげる場合は,神主

さんや祭りの世話役の方から話を聞いたり,境

内に残る石碑を調べたりする活動などから具体

的に調べられるよう工夫したい。

文化財や年中行事を大切に守り受け継ぐため

に活動している人々にも注目して学習を進めた

い。例えば祭りのお囃子を受け継ぐ人の協力を

得て,練習場所を訪れたり学校に来てもらった

りして,いつごろから,どんな思いでやってい

るかを聞いたり,実際に児童がお囃子を体験す

る活動を取り入れたりするとよい。地域の人々

がまとまることを願い,地域を大切に思う心を

抱いて伝統を受け継いでいる話を聞いたり,実

際におはやしを体験したりする活動を通して,

「自分もやってみたい」「受け継いでいきた

調べたことをも

とに考える。

・祭りや囃子を

継承する人々

の願い

地域の人に聞い

て調べる。

・いわれ

・継承のための

取り組み

トにまとめる。

地域の伝統的な行事や芸

能は,どのように受け継

がれてきたのかという問

いをもち,調べる計画を

立てる。

調べたことをも

とに考える。

・人々の苦労や

知恵

・昔と今の違い

昔の道具の使い方や,使

われていたころの人々の

暮らしについての問いを

もち,調べる計画を立て

る。

郷土資料館で調べる。

・昔の道具の使い方や生活

の様子

年長者から話を聞く。

・幼少のころの生活の様子

まとめる。

述べ合う。

Page 31: 地域副読本作成の手引き...- 1 - 地域副読本の役割と類型 地域副読本の役割 第3学年及び第4学年の社会科は,「地域学 習」ともいわれる。それは,おもな学習対象を

- 29 -

い」という気持ちを育んでいきたい。

また,日本には季節の変化や地域の特色に合

わせたさまざまな年中行事がある。季節ごとに

どのような年中行事があるか,そこに人々のど

のような思いが込められているかを調べる活動

をとおして,昔の人々のくらしにも目を向けさ

せていきたい。農作業の節目との関連が深い行

事が多いことに気づかせることによって,「昔

の道具」「昔のくらし」の学習との接点が生ま

れる。

昔の道具とくらし

電気や水道,ガスが引かれる前の家の様子を

描いたイラストを読み取り,今とは異なる昔の

道具を見つけたり,どんな使い方をしていたか

予想したりする活動を導入に取り入れる。こう

したイラストは教科書のものや図書資料など活

用するとよい。その際,いろり,釜,七輪,洗

濯板など日常の生活に密着した道具に着目させ

るようにする。実物があれば提示したい。「ど

んなふうに使っていたのだろう」「今の生活で

はどの道具にあたるのだろう」と予想し,「道

具の使い方やこれらの道具を使っていたころの

生活の様子を調べる」という目的意識を明確に

して「昔の道具」の学習へと進む。

「昔の道具」の学習では,地域の郷土資料館

の見学を取り入れたい。そして,道具の絵と名

前,使われていた時期,使い方,道具に込めら

れた工夫などを絵カードにまとめていくとよい。

見学が困難な場合は,たとえば七輪の使い方に

ついて地域の高齢者に聞き,炭の置き方や火の

つけ方,下部の窓を操作することで空気の量を

変え火加減を調節する仕組み,火消し壺を使っ

て次に使う時にすぐ炭に火がつくようにする工

夫など,道具に込められた昔の人々の工夫や知

恵に児童が気づくようにする。

次に地域の高齢者の指導を受けながら七輪で

餅を焼いて食べたり,洗濯板を使って洗濯した

りする活動を行う。実際に道具を使うことで,

昔の人々の苦労だけでなく,道具に込められた

工夫や使う人の知恵についても実感させたい。

たんに「昔は大変だった,苦労が多かった」と

結論するのでなく,昔の人の知恵や物を大切に

する暮らしを「見習いたい,大切にしたい」と

思えるような気づきを,たくさん引き出したい。

道具の移り変わりとともに,人々のくらしや

地域の様子はどのように変化してきたのかにつ

いて知るために,地域の高齢者や児童の保護者

をゲストとして教室に招き,話を聴き取る活動

を取り入れたい。戦争や戦後復興の様子,高度

経済成長,交通の発達や地域の開発,子どもの

遊びや学校の様子の変化など,児童がそれぞれ

の地域や人々の生活の様子の変化を具体的にと

らえることができるよう,事前に学習活動の目

的をはっきりとさせ,ゲストにも伝えておくこ

とが大切である。ゲストから聞き取った話の内

容と,現在の地域や自分たちの生活の様子とを

比べさせ,その変化の様子について考えさせる

場面を必ず設けたい。

くらしの変化を考える

ここまでの学習で得られた道具やくらしの様

子の変化についての知識を,おじいさんおばあ

さんが生まれ育ったころ(およそ50~70年

前),お父さんお母さんが生まれ育ったころ

(およそ30~40年前),わたしたちが生ま

れ育ったころ(およそ10年前~現在)の三つ

の時代を横軸にとり,道具,くらしの様子,世

の中の様子を縦軸にとる大型の年表にまとめる

とよい。学習の途中で作成してきた絵カードや,

資料として使用した写真,インタビューの結果

なども年表に貼っていくのである。道具につい

ては,例えば洗濯板,二槽式洗濯機,ドラム型

全自動洗濯機を取りあげて,年表のうえで変化

が明確に見えるように表し方を工夫したい。

年表を作成する活動をとおして,学習事項が

整理されるとともに,時代の変化にともなって

人々の生活や社会の様子も変化してきたことを

視覚的にとらえさせることができる。

その他の学習活動例

学習を深めるねらいから,地域の文化財を訪

ねて写真を撮影し,「昔さがしマップ」を作る

活動も考えられる。また,古地図を利用した,

今と昔の地域の変化を地図から読み取らせる活

動に挑戦させてもよい。古い地図ほど児童にと

って読み取りがむずかしくなるので,必要に応

じて教師が適切なかたちに加工する必要がある

が,「地図からこんなこともわかるんだ」と,

地図の使い方に対するイメージを広げることが

期待できる学習活動である。

Page 32: 地域副読本作成の手引き...- 1 - 地域副読本の役割と類型 地域副読本の役割 第3学年及び第4学年の社会科は,「地域学 習」ともいわれる。それは,おもな学習対象を

- 30 -

4(1)事故・事件のないまちを目ざして

■単元のねらい

この単元は,交通事故や犯罪などの事故・事件を取りあげ,人々の安全を守る警察署や地域の人々の工夫や

努力について考えられるようにすることをねらいとしている。学習を進める際には,次の点を重視する。

・事故や事件が発生したときには,警察署が中心となって関係諸機関と連携して,事故や事件の処理・捜

査にあたっていることを理解すること。

・事故の防止や防犯には,警察署が中心となり,町会や自治会,PTA等,地域の人々が組織する諸団体

が協力・連携して取り組んでいることを理解すること。

・警察署や交番を見学したり,交通安全運動や防犯活動をしている地域の人々から聞き取り調査を行った

りして,具体的に調べること。

・地域安全マップの作成などをとおして,自分の身の安全は自分で守ることや,法やきまりを守ることの

大切さに気づくこと。

■学習の流れの例

①つかむ ②調べる ③まとめる

■単元の展開例と留意点

充実させたい体験的な活動

地域学習では,児童が実物を直接見たり触れ

たりすることを通して社会的事象を適切に把握

し,具体的,実感的にとらえられるようにする

ことが大切である。

本単元では,学校の周りの交通安全施設調べ,

警察署の見学,地域の人々からの聞き取り活動,

地域の危険な場所・安全な場所をまとめた「安

全マップ」の作成といった具体的に調べる活動

を豊富に取り入れたい。

交通安全施設の意味

信号機や横断歩道橋など,学校の周辺に見ら

れる交通安全施設の種類や設置場所を調べて白

地図などにまとめ,「なぜそこにあるのか」

「誰のためにあるのか」などを考えさせたい。

それとともに,どんなにたくさんの施設があっ

ても,交通の法律やルールを守らなければ交通

事故はなくならないということにも気づかせて,

後述する「法やきまり」の学習へとつなげたい。

関係諸機関の連携

警察署の見学などを通して,事故や犯罪の発

生時には警察署が中心となり,計画にもとづき

関係諸機関と連携して緊急に対処する体制をと

っていることを理解させる。地域副読本には「1

10番のしくみ」を表した図の掲載が必要である。

地域の人々の協力

地域の町会や自治会,PTAその他の諸団体

が,警察署と協力して取り組んでいる事故や犯

調べたことをもとに考

える。

・計画と連携にもとづ

く関係機関の働き

・交通のきまりを守る

ことの大切さ

・地域の人々の協力が

必要な理由

・自分の安全を守るた

めに気をつけること

学校の周りの事故

を防ぐための施設

や工夫を調べる。

事故の写真や目撃談をもと

に話し合い事故の実態や処

理のしかたに関心をもつ。

地域の安 全を

確保する ため

に大切な こと

は何かを 考え

て,ノー トや

安全マッ プに

まとめる。 警察署や地域の人々はどの

ようにして事故を防いでい

るのかという問いをもち,

調べる計画を立てる。

市で起きた事故の件数や原

因などを調べる。

警察署の仕事を調

べる。

地域の人々が協力

して行っている事

故や犯罪を防止す

る活動を調べる。

Page 33: 地域副読本作成の手引き...- 1 - 地域副読本の役割と類型 地域副読本の役割 第3学年及び第4学年の社会科は,「地域学 習」ともいわれる。それは,おもな学習対象を

- 31 -

罪の防止のための活動について,地域の人々か

らの聞き取りなどの手法で調べる。より具体的

には,事故や犯罪の防止を呼びかける活動,P

TAによる校外パトロール,「子ども 110番の

家」の取り組みなど,児童が身近に感じる活動

を取りあげる。地域副読本では,それらを写真

などで紹介したい。

また,ここでは地域の人々の協力が必要であ

る理由についても考えさせ,地域の実状をもっ

ともよく知る人々の協力なくして地域の安全を

確保することはできないことにも気づかせたい。

安全マップづくり

児童を対象とした連れ去りや殺傷等,痛まし

い事件・事故があとを絶たない。大人が児童を守

るだけでなく,児童が自分の身を守る自衛力が

必要である。安全マップづくりの活動は,児童

に危険予知の判断力を培い,事件・事故に巻き

込まれない体質をつくる教育として有効である。

それは,「危険」の認知が知識レベルで止まっ

ていては役に立たず,実際に出かけて目で確か

め,身体で感知するなどの行動化・態度化がと

くに重要だからである。

安全マップづくりの取り組みは,すでに多く

の学校で,安全教育の特別活動などとして実施

されている。学習指導要領に「防犯」が位置づ

いていることを踏まえて,安全教育の特別活動

と社会科とを連携させ,この活動に取り組んで

みてはどうだろう。

安全マップづくりは,実際に地域を歩き,事

故・事件の防止という観点から,「危険な場

所」と「安全な場所」を探し,それらを地図上

に表現するものである。とくに留意しなければ

ならないのは,「不審者マップ」をつくるわけ

ではないので,あくまで「危険な場所」を問題に

すべきだということである。したがって,調査

に出かける前に「危険な場所」についての概念

を形成しておくことが重要である。防犯上の危

険な場所とは,「まわりから見えにくく,だれ

でも入れる場所」であるということを理解させ

たうえで,危険な場所を探すようにする。

法やきまり

「法やきまり」については,「事故・事件の

防止」か「防災」かのどちらか一方で取りあげ

ればよいとされているが,前者のほうが取りあ

げやすいものと思われる。

事件や事故を防止するには国民一人一人に法

律や規則を守ろうとする態度が必要であり,そ

れは子どもの頃から培われるべきものである。

ここでは,児童にとっての身近な法律として,

道路交通法のなかから,自転車の乗り方に関す

るものの一部などを取りあげ,関連する道路標

識の意味を知るとともに,ふだんの乗り方を自

己点検させるといった活動が有効であろう。違

反に対しては罰則があるということにも触れた

い。生活指導と関連させて「登下校のきまり」

「校外活動のきまり」を扱うことも考えられる。

「考えたこと」を表現する

地域における事故や犯罪,火災や災害の防止

についての考えを深める活動として,学習の成

果物である安全マップや消防施設マップ,また,

行政が作成したハザードマップなどを活用した

「地域安全会議」を行ってみてはどうだろう。

この会議では,調査の報告だけでなく,児童が

考えや意見を表現することを大切にし,子ども

と大人の意見交換などの場面も設けるようにし

たい。

表現に関わる技能の基礎・基本として「調べ

たこと」「考えたこと」を区別して説明するこ

とができるようにしておきたい。上述の地域安

全会議においても「調べたこと」と「考えたこ

と」を色分けして書いて発表するなどの工夫を

とり入れ,日常の学習をとおした表現力の育成

に努めたい。

キャリア教育を意識して

この単元では,警察官と接する機会がある。

警察署の仕事やしくみを調べるとともに,警察

官の人となりに触れて,その職業への興味・関

心が芽生えることも予想される。見学のときの

質疑応答では,「なぜ警察官を志したのか」

「警察官になって嬉しかったことは何か」など

を語っていただくと,将来の進路・職業選択や

キャリア教育にもつながる。地域副読本でも,

そうした内容の文章を,囲み記事の体裁で掲載

してみるといった工夫を試みてはどうだろう。

Page 34: 地域副読本作成の手引き...- 1 - 地域副読本の役割と類型 地域副読本の役割 第3学年及び第4学年の社会科は,「地域学 習」ともいわれる。それは,おもな学習対象を

- 32 -

4(2)災害からまちを守るために

■単元のねらい

この単元は,地域社会における災害の防止を取りあげ,人々の安全を守るための関係諸機関のはた

らきと,関係機関や地域の人々の工夫や努力について考えることができるようにすることをねらいと

している。

災害については,火災,風水害,地震などのなかから選択して取りあげることになっているが,こ

こでは,どの地域でも扱いやすい火災を中心にして,消防署や関係機関のはたらき,地域の人々の協

力の様子,法やきまりを扱い,さらに火災と関連づけて地震を扱った構成を例示する。

学習を進めるときの留意点として、次のような点があげられる。

・地域における見学、調査を取り入れて、具体的に調べること。

・消防署を中心として関係諸機関が協力・連携し、緊急事態にすぐに対処している点や,地域の

人々の協力という視点を大切にすること。

■学習の流れの例

①つかむ ②調べる ③まとめる

③まとめる

④深める

■単元の展開例と留意点

導入の工夫

この単元は,火災現場の写真やイラストなど

の資料から導入したい。それは,火災の恐ろし

さを伝えるだけでなく,消火活動の様子(消防

隊員,救助隊員,救急隊員,警察官,ガス・電

力・水道会社の職員,消防団員とそれらの活動

の様子。街頭などに設置された消防設備が使わ

れている様子など)を読み取ることのできるも

のであることが望ましい。その資料とともに,

児童の目撃談などがあれば,それを発表させる

と,より火災を身近なものとしてとらえること

ができる。

そのあと,火災の件数,火災による死傷者数,

原因別件数のグラフなどの資料を提示し,火災

の多さや恐さ,火事の原因などに気づかせる。

そして,火災から人々の暮らしを守るために,

消防署を中心とした関係諸機関がどのようにし

て火災の発生に対処しているか,また火災を防

いでいるのかという学習問題をつかむことがで

きるようにしたい。学習問題をつかむことがで

きたら,その予想をさせ,さらに何を,どのよ

うな方法で調べ,まとめていくのかを話し合わ

せて学習の計画として記録し,主体的な追究を

進めることができるようにする。

調べたことをも

とに考える。

・関係機関や地

域の人々の工

夫と努力

・地域の人々の

協力が必要な

理由

・火災や地震か

ら地域と自分

の身の安全を

守るために必

要なこと

消防署を見学して調べる。

・出動計画

・他の機関との協力

・予防のための諸活動

わかったことや

考えたこと,災

害に備えて自分

にできることを

ノートにまとめ

る。

火災現場の写真やイ

ラスト,火災統計な

どから,学校や地域

はどうやって火災か

ら守られているのか

という関心と問いを

もつ。

地域安全会議を

開き,学習をと

おしてわかった

ことや考えたこ

と を 発 表 し 合

う。

調 べ る 計 画 を 立 て

る。

学校や地域を調べる。

・消防施設の配置

・学校の消防計画

・消防団の活動

資料や聞き取りから調べる。

・地震の被害の実態

・市の防災計画にもとづく地

域の人々の協力

Page 35: 地域副読本作成の手引き...- 1 - 地域副読本の役割と類型 地域副読本の役割 第3学年及び第4学年の社会科は,「地域学 習」ともいわれる。それは,おもな学習対象を

- 33 -

ここで調べる内容として,消防署の仕事,関

係諸機関の協力のしくみ,学校や地域の消火設

備の配置の工夫,地域の人々の協力などがある。

消防署の見学

消防署の見学は関係者からの協力が得やすく,

学習上の効果も大きいで,ぜひ実施したい。見

学は,「火事を早く消すための秘密を探る」と

いうように目的をはっきりさせ,しっかりと計

画を立てたうえで臨みたい。観察や聞き取りは,

次のような点に着目して行うとよい。

・消防車両の種類や台数

・消火や救助に用いる道具

・仮眠室と車庫の配置

・早く出動できる工夫(勤務体制など)

・火災が発生したときの 119 番通報のしくみ

・出動がないときの仕事

・消防官の願いや思い

児童には,119 番通報は消防局の通信司令室

につながること,そこからすぐに域内の消防

署・出張所や関係諸機関に伝えられること,そ

して,そうしたしくみが計画的に整えられてい

ることなどを理解させ,関係諸機関が協力して

いる理由を考えさせたい。また,発生した火災

の位置や規模によっては,隣接する市,町,村

と協力して消火活動を行っていることも理解さ

せたい。地域副読本にも,119 番のしくみ図や,

各種の消防署の配置を示した地図を掲載して,

事前・事後の学習の際に読み取らせる。

消防署の見学をすることができない場合に備

えて,地域副読本には,消防署の内部の様子,

各種の消防車両,救急車,消防ヘリコプター,

消防艇などの写真,それに,囲み文など豊富な

資料を掲載しておきたい。

囲み文は,「消防官から聞き取った話」とい

う体裁でまとめるとリアリティが増す。そして,

早く出動できる工夫や,消防・救急・災害救助

のそれぞれの仕事を説明する文章などを掲載す

るとよい。また,法教育,キャリア教育の視点

から,消防法を守ることの大切さや,消防官と

しての生き甲斐などの話題を取り入れてもよい。

なお,「法やきまり」については,この単元か

「事故・犯罪の防止」のどちらか一方で扱えば

よいこととされている。

学校や地域の消防施設調べ

消防署を見学することによって,児童には消

火や防火の活動に対する一定のイメージが形成

されるであろう。そのうえで,学校や地域に設

置されている消防施設を調べる活動に進みたい。

学校には,熱感知器,煙感知器,消火器,消火

栓,救助袋,受信機などの消防施設がある。そ

れらの配置を調べて分布図にまとめたあと,そ

れぞれの施設が置かれた場所の特性を考えさせ

るのである。また,防火管理を担当する教師か

ら話を聞く機会なども設けたい。そして,学校

でも火災を防ぐ活動に計画的に取り組んでいる

ことや,そこにはさまざまな工夫があることな

どを理解させたい。

地域の消防施設には,消火器,消火栓,防火

水槽などがある。これらも分布図に表すことに

よって地域にくまなく置かれていることがわか

る。その事実をもとに,火災防止に向けた計画

性と工夫について考えさせ,理解させる。

地域の人々の協力

学習指導要領に示されている「関係諸機関と

地域の人々の協力」について,ここでは消防団

の活動や,自治会を中心とした防災・防火のし

くみなどを取りあげることが考えられる。例え

ば地域に消防団の倉庫があることへの気づきか

ら団員たちの活動に目を向け,聞き取り調査を

行うことをとおして地域の人々が協力して防火

や消火に努めていることをとらえさせる。

火災以外の事例を取りあげる場合

学習指導要領は,災害については「火災,地

震,風水害などのなかから選択して取りあげ

る」あるいは「地震との関連で火災を取りあげ

るなど,関連的に扱うことも考えられる」とし

ている。

地震への備えは,日本の多くの地域における

重要な課題である。そこで,副読本で火災を中

心に取りあげる場合でも,消防の仕事を接点に

して,地震を取りあげてみてはどうだろうか。

ただし,地震の対策は,市区町村という単位を

超えて,国家を含めた広がりのなかで取り組ま

れているものであり,小学校中学年の学習とし

て,どこまでおさえておくべきなのかを適切に

判断することが求められる。さしあたり,市,

区、町,村が作成している「防災計画」を参照

しながら教材開発に努めてみてはどうだろうか。

Page 36: 地域副読本作成の手引き...- 1 - 地域副読本の役割と類型 地域副読本の役割 第3学年及び第4学年の社会科は,「地域学 習」ともいわれる。それは,おもな学習対象を

- 34 -

5(1)ごみはどこへ

■単元のねらい

この単元は,廃棄物の処理が計画的,協力的に進められており,人々の健康な生活や良好な生活環

境の維持と向上に役立っていることを理解させることをねらいとしている。学習指導要領には「ごみ,

下水のいずれかを選択して取りあげる」と記されているが,多くの地域で扱われると考えられるのは

ごみであろう。ごみを事例とする場合の留意点としては,以下のことがあげられる。

・自分の家庭から出るごみの種類や量を調べる活動や,家庭におけるごみ減量化の取り組みについ

て調べる活動を,単元の展開とともに継続していく。

・「水の供給」の学習と関連性をもたせ,それとの共通点や相違点について考えるようにする。

・環境と経済のそれぞれの視点から,「ごみの量を減らす」ことの大切さに気づくようにする。

・廃棄物の処理や,減量化の活動に携わる人々の声から,その願いや工夫に気づくようにする。

■学習の流れの例

①つかむ ②調べる ③まとめる

■単元の展開例と留意点

導入は「ごみ調べ」の活動を

この単元の学習は,児童の「生活の見直し」

という課題と密接に結びついている。したがっ

て,自分たちの日常生活をふり返りながら学習

を進めていくように留意したい。

導入には,自分たちが日々,出しているごみ

の種類と量を調べる「ごみ調べ」の活動を位置

づけたい。調べる対象は,家庭ごみ・学校ごみ

のどちらでもよく,実状にそくして判断する。

ただし,「生活の見直し」という課題との関係

では,日常の衣食住の場である家庭から出され

るごみを調べるのがより適切であろう。

具体的な調べ方も。実状しだいである。家庭

の協力を得られやすい場合は,秤や体重計など

を使って重さを計測し,具体的な数値にもとづ

く調査を行う。これは,学習と連携させながら,

ごみ減量化の実践を進めていこうとするときに

有効な手法である。実際に,各地の学校が取り

組んでいる「学校環境 ISO」の活動でも,こう

した手法でごみの計測を行っている。

1 週間に排出されるごみの種類と量の多さを

児童が実感することがねらいであるならば,方

法はもっと簡易であってもよい。例えば,あら

かじめ発生するごみの種類を予想して一覧表に

書き表し,実際に出されたものに○をつけて,

1週間調べるという方法である。その際,量に

ついては「ごみ袋が○袋出された」という程度

に記録する。ただし,どんな方法で調べるにし

調 べ た こ と を も と に 考 え

る。

・市と地域の人々の協力に

よるごみ減量化と再資源

化のための工夫や努力

・ごみの量や処理費用の増

加と生活様式の変化との

関係

・ごみそのものを減らすこ

との大切さ

・ごみ減量化のために自分

自身がすべきことは何か

市のごみ処理施設を見学し

て調べる。

・燃やすごみと資源ごみ

・埋め立て処分地

調べた

ことや

考えこ

とをノ

ートに

まとめ

る。

家庭から出るごみの

種類と量を調べて発

表し合う。

調 べ る 計 画 を 立 て

る。

ごみはどのようにし

て集められ処理され

ているのかという問

いをもつ。

ごみをめぐる状況の昔と今

の違い,ごみを減らすため

の市の計画を調べる。

ごみを減らすための地域の

人々の取り組みを調べる。

・商店や工場

・ボランティア

Page 37: 地域副読本作成の手引き...- 1 - 地域副読本の役割と類型 地域副読本の役割 第3学年及び第4学年の社会科は,「地域学 習」ともいわれる。それは,おもな学習対象を

- 35 -

てもプライバシーへの配慮を欠いてはならない。

児童は調査を進める過程で,ごみの分別や種

類ごとの収集日にも気づいていく。そして,調

査結果を発表し合うことを通して,「こんなに

たくさんの種類と量のごみを,どのように処理

しているのだろうか」という問題意識をもつ。

また,「ごみを出すときに分別するきまりがあ

るのはなぜだろう」という問題意識ももつ。そ

れらの問いを学習問題として位置づける。

ごみのゆくえと処理の工夫,「法やきまり」

次に,ごみのゆくえや,ごみを処理する過程

で,どのような人がどのように関わっているの

かを調べる。ここでは,ごみを収集する係の人,

焼却工場で働く人,リサイクル施設で分別に携

わる人などの工夫,願い,呼びかけを取りあげ

たい。このような人々の呼びかけから,きまり

を守ってごみを出すことの大切さについても考

えることができる。ごみ処理施設では,周辺地

域への環境に配慮するとともに,ごみ焼却時に

発生する熱を有効利用したり,灰の一部を道路

の舗装材等にリサイクルしたりしていることに

も気づかせたい。埋め立て処分場は,一般に山

間部または臨海部に設けられている。しかし,

どの地域でも,環境への影響が出ないように工

夫をしていることや,その用地の確保に苦労し

ていることに気づかせたい。また,ごみの処理

には多額のお金がかかっていること,それが税

金から支出されているということにも目を向け

させたい。地域副読本では,市のごみ処理にか

かる費用を取りあげ,一世帯当たりの負担額を

算出してみるのもよい。そして,このままごみ

の量が増え続けると,山や海を新たに埋め立て

て処分場の用地にしていかなければならないと

いう環境の視点,また,ごみを処理する費用の

増大という経済の視点から,ごみの量を減らし

ていくことについての必要感をもたせたい。

なお,学習指導要領に示されている「法やき

まり」は,「廃棄物処理または下水処理」でも

取りあげることになっているので留意されたい。

地域の人々の協力

さらに,「社会のいろいろなところで,ごみ

の量を減らす取り組みが進められているのだ」

という社会の動きにも目を向けていきたい。例

えば,商店におけるごみの分別の様子,リサイ

クル製品の販売の例などを取りあげる。また,

ボランティアとしてごみ減量化に努めている地

域の人々の活動にも触れたい。それは,資源ご

みの回収を促進する活動であったり,人々を啓

発する活動であったり,あるいは,ごみ減量化

に向けた市の計画づくりに参加することであっ

たりする。地域によっては,生ごみを堆肥化し

た土で花を育ててまちに植えたり,その土から

野菜を育てて給食の食材にしたりしているとこ

ろもある。そうした暮らしにかかわる取り組み

を,地域副読本では当事者による具体的な「語

り」の形式で紹介し,そこから人々の工夫や願

いをとらえさせるようにしたい。

自分にできることを考え,実践する

学習をふり返り,まとめる場面では,「ごみ

の量を減らすために自分にできること」につい

て考えをまとめ,クラスで交流する場面を位置

づけたい。そのなかから「こんなことに取り組

んでみよう」というアイディアが出てきたら,

総合的な学習の時間に活動を発展させていくこ

とも考えられる。また,一人一人が考えた「自

分にできること」に 1 週間取り組み,その成果

や課題を報告し合うという活動もある。このよ

うな活動を通して,「自分もごみの量を減らす

ことができた」という手ごたえとともに,活動

を継続することのむずかしさも実感することで

あろう。そのような実践によって,地域の人の

取り組みとその願いや思いにも近づいていくこ

とができる。

ごみ以外の事例を取りあげる場合

「下水の処理」については,「水の供給」か

ら連続して展開することも可能である。ここで

も「環境」と「経済」の視点から,汚れた水を

減らしていくことへの必要感をもたせたい。以

下が展開例である。

①家庭のどんな場所から,どのような汚れた水

が出ているのかについて調べる。

②水再生センターを見学し,汚れた水が浄化さ

れるしくみについて調べる。

③工場における汚れた水を流さない工夫や,浄

化した水を再利用している例について調べる。

④汚れた水を流さない工夫を考え,実践する。

Page 38: 地域副読本作成の手引き...- 1 - 地域副読本の役割と類型 地域副読本の役割 第3学年及び第4学年の社会科は,「地域学 習」ともいわれる。それは,おもな学習対象を

- 36 -

5(2)水はどこから

■単元のねらい

この単元は,水の供給が計画的,協力的に進められており,人々の健康な生活や良好な生活環境の

維持と向上に役立っていることを理解させることをねらいとしている。学習指導要領には,「飲料水,

電気,ガスについては選択して取り上げる」と記されているが,ここでは,多くの地域で扱われると

考えられる水の供給を取りあげた。学習を進めるときの留意点として,以下のことがあげられる。

・自分の家庭で水を使う場面とその量の調査,家庭における「水を大切に使う」取り組み調べなど

を,単元の展開とともに継続していく。

・「廃棄物の処理」の学習との関連性をもたせ,それとの共通点や相違点について考える。

・水道水の供給に携わる人々の声から,その願いや工夫に気づくようにする。

・水資源を守るということ,経済の視点,水道水の供給にかかわる人々の願いなどから,水を大切

に使うことの重要性に気づくようにする。

■学習の流れの例

①つかむ ②調べる ③まとめる

④深める

■単元の展開例と留意点

導入は「水調べ」の活動を

蛇口をひねれば,いつでも水が出る。児童に

はそのことが当たり前になっており,日常生活

のどんな場面でどれくらいの量の水道水を使っ

ているのかということについて自覚していない。

そこで学習の導入として,自分や家族の使って

いる水道水の量調べを行いたい。

水道水を使った場面と,そこで使った量を記

録していくのである。量については,コップ,

洗面器やバケツの容積などから算出していく。

この調査を持ち寄って,クラスで交流すること

によって,「こんなに多くの量の水道水は,ど

こからどのようにして送られてくるのだろう」

という問題をもたせる。そして,その経路を予

想してみることから,水道水をつくり届けるし

くみの追究をスタートしていくのである。

統計資料の読み取りから予想する

また,ここでは,市全体で使用されている水

の量についても統計資料を提示しておきたい。

その際,1970 年代から直近までの推移を,10

年ごとに表したグラフを提示しておくとよい。

一人当たりの水道水の使用量は,地域にもよる

が 1990 年頃以降は,それ以前とくらべて伸び

が鈍くなっている場合が多い。そうした変化に

着目させて,「人々が節水に努めるようになっ

てきたからではないか」あるいはごみの学習を

調べたことをもとに考え

る。

・安全な水を安定的に送

り出すために働く人た

ちの工夫や努力

・有限性と給水コスト

・人間は「水の循環」と

いう自然のシステムを

活用して生活を成り立

たせていること

・節水のために自分自身

がすべきことは何か

水道水をつくり,送り

出す仕組みを調べる。

・浄水場,ダム,水源

調べたこと

や考えたこ

となどをノ

ートにまと

める。

家庭で一日に使う水の

量を調べる。

暮らしを見

直すキャッ

チフレーズ

を考えて発

表する。 調べる計画を立てる。

市の統計資料から,水

の使用量の変化を調べ

る。

水源の森林の機能と,

森林の保全に取り組む

人々について調べる。

水の使用量の変化とそ

の背景を調べる。

・節水の意識調査

・給水にかかるコスト

水道水はどこから送ら

れてくるのか,人々は

水をどのように使って

いるのかという問いを

もつ。

排水のゆくえときまり

Page 39: 地域副読本作成の手引き...- 1 - 地域副読本の役割と類型 地域副読本の役割 第3学年及び第4学年の社会科は,「地域学 習」ともいわれる。それは,おもな学習対象を

- 37 -

想起させて「使い終わった水を再利用すること

が増えてきているのではないか」といった予想

を引き出し,あとの学習へとつなげていくよう

にしたい。

気づかせたい「水の大切さ」

この単元では,水源までさかのぼることので

きる水道の経路図が,必須の資料である。地域

副読本に資料として掲載するか,水道局の資料

を併用するか,検討が必要である。

その資料を活用して,水道水の経路をたどり,

予想を確かめる。そして,「もしも水道水が出

なくなったら,どうなってしまうだろうか」と

いうことを話し合い,水道水が安定して供給さ

れていることのすばらしさに気づかせる。その

際には,渇水による給水制限を報道する新聞記

事や,ペットボトルと水道の水の値段を比べた

資料などを用意すると効果的である。

浄水場,ダム,水源林など,水道水を安定し

て供給するしくみを調べる過程では,水道水の

供給事業が計画的かつ協力して取り組まれてい

ることを理解させるだけでなく,それぞれの現

場で働いている人々の声を取りあげ,その願い

や工夫にも気づけるようにしたい。また,良好

な水環境を保全していくために,河川の上流と

下流の住民が協力して清掃活動などに取り組ん

でいる事実があれば,ぜひ触れるようにしたい。

このようにして,「水道水は,さまざまな場

所で,いろいろな人たちの工夫や努力のもとに

つくり出され,蛇口まで届けられているのだ」

ということに気づかせたい。この気づきが,

「これまでの水道水の使い方を見直していかな

いと…」という問題意識につながっていく。

節水をどう教材化するか

学習指導要領は「節水や節電などの資源の有

効な利用」について取り扱うこととしている。

これに関しては,まず「なぜ水を大切に使う必

要があるのか」ということを話し合いたい。そ

のなかで,「降水量が少ないと渇水になってし

まう」「水道水を作るのにもコストがかかって

いる」「水道水を供給するために働いている人

たちの工夫や努力を無駄にしてはならない」と

いった声を引き出したい。そのうえで,身の周

りで行われている水を大切に使う工夫について

調べる。身近な例としては,歯を磨くときに蛇

口をこまめに閉める,シャワーを流しっぱなし

にしない,風呂の残り湯を雑巾がけや洗濯に使

うなどの工夫があげられるだろう。また校庭へ

の散水,水洗トイレなどに雨水や湧水が利用さ

れていることにも触れておきたい。こうして児

童の視野を広げ,そのうえで,自分自身で取り

組むことを決めて実践してみるのである。

学習を深める表現活動の工夫

本単元には,学習したことを生活実践に結び

つけやすいという特色がある。そこで,学習を

深める場面を設け,児童自身の「暮らしの見直

し」へとつながっていくような活動を行いたい。

ごみの減量化や節水をよびかけるキャッチフレ

ーズを考えて発表し合う活動は,その一例であ

る。「そのキャッチフレーズでよびかけようと

考えたわけ」を説明したり,他の児童の感想を

もとにキャッチフレーズを改善したりする場面

を設けるようにしたい。

水の供給以外の事例を取りあげる場合

学習指導要領は,「飲料水,電気,ガス」に

ついては,それらの中から選択して取りあげる

こととしている。

東日本大震災で原子力発電所の事故が発生し

て以降,電力需給のあり方をどう考えるかが国

民生活に関わる重大かつ喫緊の問題として顕在

化しており,「電気」を取りあげて学習するこ

とに意義が見いだされる状況が生じている。

ただし,電気は不可視のものであり,その事

業が水道以上に広域的に行われていることなど,

教材化にあたって検討すべき課題も少なからず

見られる。また,原子力発電所をめぐる安全性

や,火力発電所における二酸化炭素の排出とい

うむずかしい問題も孕んでいる。

以下は展開例である。水道の場合と大きく異

なるのは,発電のための原料を外国からの輸入

に依存している点である。

①停電の経験などから,電気が送られてこない

と暮らしはどうなるかを話し合い,電気はど

のようにして送られてくるのかという問いを

もつ。

②電気はどのようにしてつくられ,届けられて

いるのかを調べる。

③電力需給のあり方のこれからについて,資料

をもとに考え合う。

Page 40: 地域副読本作成の手引き...- 1 - 地域副読本の役割と類型 地域副読本の役割 第3学年及び第4学年の社会科は,「地域学 習」ともいわれる。それは,おもな学習対象を

- 38 -

6 昔から今へと続くまちづくり

■単元のねらい

この単元は,地域の発展に尽くした先人の具体的な事例を調べ,先人の工夫や努力,地域の変化を

理解させるとともに,郷土に対する愛情を培うことをねらいとしている。

学習を進めていくうえでの留意点として,以下のことがあげられる。

・現在も児童の目に触れ,調べることのできる具体的事例で追究させる。

・遺構や記念碑を調べたり,博物館や郷土資料館を訪ねて実物に触れたり,聞き取り調査をしたり

するなど,児童の体験的追究活動の場面を多く取り入れるとともに,学習の成果を表現活動によ

りまとめるようにする。

用水路や新田などの開発の事例を教材化するにあたってのポイントは,常識的に考えると水を引い

たり埋め立てたりするのは不可能と思える場所を,知恵をはたらかせて造り変えたことである。例え

ば,低い所を流れる川からより高い所へ水路を引く,高い山のある所をトンネルを掘って水を引く,

短期間で労力や物資,財力を集中させて海の埋め立てを行うなどである。先人たちが,工夫と努力に

よって困難な工事を克服していった様子を中心に展開したい。

■学習の流れの例

◇開発の事例

①つかむ ②調べる ③まとめる

④深める

■単元の展開例と留意点

導入の工夫

この単元で取りあげる開発の事例には,用

水開発,埋め立て,治水,土地改良など,さ

まざまなものがある。いずれも,生産手段で

ある土地の確保や,生産力の向上のために行

われる工事である。地域の伝統行事は,一般

に,その土地における生産力の向上を祈願す

るものであることが多い。また,地域には,

開発やその功労者を顕彰する石碑などの史跡

が残されていることがある。この単元では,

そうした伝統行事や史跡から導入することで,

昔の人たちのくらしの願いや,地域の発展に尽

くした人物の存在など,学習の前提となる事実

をとらえることができるようにしたい。

そのときに留意すべきことは,学習の目的に

そくして,伝統行事に込められた先人たちの願

調べたことをもと

に考える。

・当時の人々の暮

らしの願い

・開発の過程にお

ける工夫や努力

・開発による暮ら

しの変化

・現在のまちづく

りとのつながり

歴史博物館で展

示物を見たり,

学芸員さんから

話をうかがった

りする。

・開発を指導し

た人物のこと

・開発の概要

・開発による地

域の生産力の

変化

調べたり考えたり

したことをノート

にまとめる。

古地図などの資料を見

たり,遺構やゆかりの

史跡などを訪ねたりし

て,自分たちの住む地

域は誰が,どのようし

て開いたのかという問

いをもつ。

調べる計画を立てる。

「自分はこれから

どんなまちにして

いきたいか」を地

域の発展に尽くし

た人物に手紙を書

いて伝える。

Page 41: 地域副読本作成の手引き...- 1 - 地域副読本の役割と類型 地域副読本の役割 第3学年及び第4学年の社会科は,「地域学 習」ともいわれる。それは,おもな学習対象を

- 39 -

いや,史跡のいわれなどに意識を向けさせるよ

うにし,行事や史跡そのものには深入りしない

ということである。

伝統行事について調べたり,史跡を訪ねたり

した体験に,場合によっては地域の古老や郷土

史家などによる解説なども加えて,「この土地

は,いつごろ開かれたのだろう」「どうやって

開いたのだろう」「田を開いたのは,どんな人

物なのだろう」といった児童の問いを引き出す

ようにしたい。

体験活動を補足する豊富な資料の掲載を

この単元では,動画はもちろんこと,写真さ

え残されていない時代の事例を取りあげるのが

ふつうである。したがって,どうしても文書資

料からの読み取りの場面が多くなる。とはいえ,

可能であれば,できるだけ実地踏査をとり入れ,

体を使った生きた学習をさせたい。そして,白

地図に感じたことや疑問に思ったことを書き込

みながら,学習問題を明確にしたい。

開発の遺構は,できれば実際に見学させたい

ものである。思ってもみなかったような疑問が

湧いてきたり,思わぬ情報を得たりする。例え

ば,新田の跡地は真っ平らといってよいくらい

の平地であることが多い。これなどは水田が広

がっていた証拠であるが,こうした実感は実際

に歩いてみて初めてわかることである。また,

当時使われていたと考えられる道具を実際に使

ってみて,工事に参加した人たちの苦労を想像

してみたり,昔の人の知恵に感じ入ったりする

ことも大切である。

地域副読本には,こうした体験的な学習を

サポートする資料(地図や見学の計画づくり

の示唆)を掲載したい。また,実地見学がで

きない場合や,事後の学習の際などに活用す

る資料(写真,地形図,古地図,現地におけ

る聞き取り調査を代替する囲み文など)も必

要である。さらに,昔の工事に使われたと考

えられる道具や,その使い方を説明したイラ

ストなどの資料も掲載したい。

想定される学習問題

この単元の展開は,取り扱う事例に規定され

るところがとくに大きく,一般化しにくい面が

あるが,以下に,時間ごとの問いを例示してお

く。

・開発が行われる前の村人たちは,どのような

くらしをしていたのだろうか。

・開発を指導した人物(地域の発展に尽くした

先人)は,どのようにして工事を進めたのだ

ろうか。

・工事は,順調に進んだのだろうか。なぜ失敗

したのだろう。

・失敗を乗り越えるために,どのような工事の

工夫をしたのだろう。

・工事には,どのような人たちが協力したのだ

ろう。

・当時の工事を体験してみよう。

・開発が成功した後の村人のくらしは,どのよ

うに変わったのだろう。

年表にまとめる

この単元では,できごとを順序性にそくして

理解していくことが大切である。したがって,

工事の過程や人物の動きなどを年表にまとめる

作業に必ず取り組むようにしたい。年表に取り

あげる一つ一つのできごとの意味を考えながら

作業することが大切である。

「開発」以外の事例を選択した場合

学習指導要領は,開発,教育,文化,産業の

振興をとおして地域の発展に尽くした人物を提

示し,それらのなかから一つを選択して取りあ

げることとしている。副読本の作成に際しては,

地域の実状を踏まえて事例を選択し,教材化を

図ることとなる。

以下に,地域の教育の発展に尽くした先人を

扱った場合の展開例を示しておく。

①私塾や学校を創設するなど,地域の教育の発

展に尽くした人物について,知っていること

を話し合う。

②人物やその事跡について,追究すべき問題を

設定し,実地踏査を行ったり,郷土資料館を

訪ねたりして調べる。

③集めた情報を整理し,人々の願い,先人の工

夫や努力,教育の発展にともなう地域の変化

の様子などについて考える。

④調べたことや考えたことを整理し表現し合う。

Page 42: 地域副読本作成の手引き...- 1 - 地域副読本の役割と類型 地域副読本の役割 第3学年及び第4学年の社会科は,「地域学 習」ともいわれる。それは,おもな学習対象を

- 40 -

7(1)県の地図を広げて

■単元のねらい

この単元では,自分たちの住んでいる県(都,道,府)の特色を考える手がかりとして,県内にお

ける自分たちの市や,日本における自分たちの県の地理的位置, 47都道府県の名称と位置を調べ,学

習する。さらに,県全体の地形や主な産業の概要,交通網などについて調べ,地形と産業の関係,産

業と交通との関係を理解することができるようにする。

学習は,分県地図,地形図,交通地図など各種の地図,統計などの資料を活用し,県内の各地域を

取りあげて具体的に進めていくことを重視する。

また,第6学年が終了するまでに47都道府県の名称と位置を習得することができるようにするため

に,地図帳のくわしい使い方や,地図帳を活用した各種の学び方についてはここで示唆を与えるよう

にし,社会科の学習の内外で積極的に地図帳を活用していく態度を養うようにする。

■学習の流れの例

①つかむ ②調べる ③まとめる

■単元の展開例と留意点

47都道府県の学習の位置づけ

「47都道府県の名称と位置」について,学習指

導要領は,小学校の第6学年が修了するまでに

習得することとしている。つまり,第4学年で

すべてを習得させることが不可欠だということ

ではない。また,学年の配当時数には限りがあ

るから,47都道府県の学習そのものには2時間

程度を配当するにとどめざるをえないであろう。

第6学年修了時までに習得するということにな

ると,ここでは,習得に向けた意識づけや,方

法の示唆などの指導を行っておくことが必要と

なる。

導入の展開例や工夫

単元のはじめに,分県地図を見ながら,クラ

ス全員で話し合いを行いたい。分県地図は,地

図帳の掲載ページを各自に開かせるとともに,

掛図やデジタル教科書などの大きなものも用意

し,児童には双方を見ながら話し合いに参加す

るように指導する。

まず,次のことに着目させたい。

47都道府県 実際に数えて確かめさせる。

五つの都道府県 北海道,東京都,大阪府,

調べたことをもと

に考える。

・産業と地形との

関係

・産業と交通との

関係

・県のおもな産業

とその地理的な

分布

地図帳や統計資

料で調べる。

・おもな産品の

産地の分布

・産出量

わかったことや考

えたことを地図や

ノ ー ト に ま と め

る。

地図から日本が 47 都

道 府 県 か ら な る こ と

や,自分たちの住む県

の位置を読み取る。

等高線の意味や活用の

しかたを知る。

写真や地図など

で調べる

・各産地の地形

の特色

・産品の出荷先

地図で調べる

県内のおもな道路や鉄道,空港

や港の位置

自分たちの住む県の地

形,産業や交通はどの

ような様子なのかとい

う疑問をもつ。

調べる計画を立てる。

Page 43: 地域副読本作成の手引き...- 1 - 地域副読本の役割と類型 地域副読本の役割 第3学年及び第4学年の社会科は,「地域学 習」ともいわれる。それは,おもな学習対象を

- 41 -

沖縄県,それに自県である。これらの五つは,

地図上で北と南の端に位置し,日本の二大都

市であり,自分たちの住んでいる県である。

必要に応じて,都,道,府,県などの呼び方

の違いには,あまりこだわらなくてもよいこ

とを示唆する。その意味や理由にまで立ち入

って説明する必要はない。

自分たちの住む県の位置 北海道,東京都,

大阪府,沖縄県から見た自県,自県から見た

他県,さらに日本全体のなかでの自県の位置

を,それぞれ言い表す。念のために8方位が

一人一人の児童に習得されているかどうかを,

ここであらためて確かめておきたい。

次に,児童たちに,旅行などで行ったこと

があったり,テレビなどで見聞きしたりした

ことのある県外の地名を発表させ,地図上の

場所を指摘させる。このとき発表する地名は,

都道府県名でなくてもよく,市区町村,駅や

施設などの名称で発表する児童もいるにちが

いない。その名称が,地図帳に掲載されてい

ないと予想される場合は,教師が補足して,

地図帳で調べることのできるレヴェル(例え

ば市町村名や主要駅名など)で言い換えるよ

うにする。そのうえで,児童が発表した地名

が,地図上のどの県・どの場所にあるのかを

問いかける。すると,そのなかには,分県地

図では見つけることのできない地名もあるは

ずである。そこで,地図帳に掲載されている,

よりくわしく描かれた地図から探すとよいこ

とを示唆する。児童たちは,日本地図を端の

ほうから目で追っていき,目的の地名を探そ

うとするだろう。そこで教師は,地図帳の巻

末に置かれている「索引」を使えば,より効

率よく調べることができることを指導する。

このときに,地図帳に掲載されている各種

の資料にも着目させ,位置を調べるほかに地

図帳がもっている機能についても気づかせる

ようにしたい。なお,ここに例示した学習は,

白地図への地名の書き込みや着色などの作業

を伴いながら進めるようにする。

こうして,日本全体に目を向けた児童たちの,

自分たちの住む県への関心を喚起させるために,

「他の県の人たちに,自分たちの県を紹介して

みよう」などの発言を投げかけたうえで,自分

たちの住む県の学習へと進めるようにする。

県の地形やおもな産業,交通

学習指導要領は,基本的に「全体のなかに部

分を位置づける」という考え方に立っていると

考えられる。そこで,日本全体のなかに自分た

ちの住む県を位置づけることができたら,今度

は,県全体のなかに自分たちの住む市(区,町,

村)を位置づけ,方位を使って隣接する市(区,

町,村)や県庁(都庁,道庁,府庁)所在市と

の位置関係を言い表してみる。そして,県全体

の形を動物の形にたとえて言い表してみたり,

描き取ってみたりするなど,第3学年で身近な

地域を学習したときの方法を適用するとよい。

次に,県の標高の高・低や,おもな河川につ

いての学習に進みたい。ここでは「等高線」の

基礎についての学習が必要となる。学習指導要

領には等高線の扱いが明示的に位置づいている

わけではないが,第3学年の身近な地域の学習

で,相対的な標高の高・低に触れていることを

ふまえれば,第5学年の国土の学習に先立つこ

の時期に学んでおくことが必要だと考えられる。

ただし,国土地理院作成の地形図を利用するの

はまだむずかしいであろうから,標高を4~5

段階程度に分けて彩色した県の段彩地形図を用

意しておく必要がある。等高線については,ワ

ークシートを使って作業をしたり,段彩地形図

を読み取ったりすることをとおして基礎を理解

させるにとどめたい。そのうえで,「地形がち

がっていると,そこで生産されている物もちが

うのではないか」という疑問へとつなげていく。

その疑問にもとづき,次に,地図帳で,県内の

おもな産品の地理的分布を調べることにより農

業,漁業,工業が盛んな地域を確かめ,地形と

の関係について考えさせる。また県内のおもな

道路や鉄道,空港や港の位置を地図で確かめ,

産業と交通との関係についても考えさせる。

地域副読本には,そうした追究に必要な資料

として,県の地形図,土地利用図,交通地図,

土地利用や生産の様子を読み取ることのできる

写真,出荷額など生産の実態がわかるグラフな

どを掲載したい。

Page 44: 地域副読本作成の手引き...- 1 - 地域副読本の役割と類型 地域副読本の役割 第3学年及び第4学年の社会科は,「地域学 習」ともいわれる。それは,おもな学習対象を

- 42 -

7(2)(3) 県内の特色ある地域

■単元のねらい

この単元は,県(都,道,府)内で自然環境,伝統・文化などの資源を保護・活用している地域や,

そこに見られる人々の生活の様子を調べて理解させ,その特色について具体的に考えることができる

ようにすることをねらいとしている。

取りあげるのは,伝統的な地場産業の盛んな地域のほかに,豊かな自然の景観を守ったり,歴史あ

る街並みや祭りなどの伝統や文化を保護・活用したりして,特色あるまちづくりや産業の発展に努め

ている地域とし,特色が重複しないよう二つ程度を選択する。

学習を進めていくうえでの留意点として,以下のことがあげられる。

・いずれの地域でも,特色を生かした生活や仕事の工夫がされていることに気づかせる。

・手紙や電話,インターネットなどを活用して,取りあげた地域の資料を収集したり,見学や調査

などの体験的な活動を取り入れたりする。

・地場産業や自然の景観については,その背景をなす地形など自然条件との関係にも気づかせたい。

■学習の流れの例

◇伝統的な工芸品を活用した地域振興の事例

①つかむ ②調べる ③まとめる

◇歴史的な景観の保護・活用にもとづく地域振興の事例

①つかむ ②調べる ③まとめる

調べたことをもとに考える。

・伝統工芸品づくりが盛んに

なったわけ

・地場産業を盛んにすること

によって地域を活性化した

いという人々の願い

・地域活性化に向けた願いを

かなえるための人々の工夫

と努力

資 料 を 活 用 し た

り,現地を見学し

たりして調べる。

・伝統工芸品の由

来や工程

・伝統を守りつつ

消費者のニーズ

に応える生産者

の工夫や努力

・地場産業を盛ん

にするための地

域の取り組み

わ か った

こ と や考

え た こと

を ノ ート

に ま とめ

る。

県の地図を広げ,観光

パンフレットなどの資

料も見ながら,観光や

地場産業で有名な地域

を発表し合う。

調べる計画を立てる。

調べたことをもとに

考える。

・地域の特色

・人々の意識が宅地

開発から文化財保

護へと変わった理

・ 歴 史 的 景 観 の 保

護・活用に努める

人々の願いや思い

資料や聴き取り調査から調べる。

・地域に残る史跡や文化財の由来

・地域の歴史的景観を保護してい

くことになる契機となったでき

ごと

・歴史的景観を保護するための地

域の人々の取り組み

・歴史的景観を活用した地域振興

に向けた人々の取り組み

ノートにま

とめる。

その地域に歴史的

景観(伝統的な行

事や文化財等)が

多く残されている

事実をとらえ,そ

れはなぜなのかと

いう問いをもつ。

調べる計画を立て

る。

その地域で地場産業が

盛んになったのはなぜ

かという問いをもつ。

Page 45: 地域副読本作成の手引き...- 1 - 地域副読本の役割と類型 地域副読本の役割 第3学年及び第4学年の社会科は,「地域学 習」ともいわれる。それは,おもな学習対象を

- 43 -

■単元の展開例と留意点

事例の選択

「県(都,道,府)内の特色ある地域」とし

ては,森林や河川などの豊かな自然を守りなが

ら,あるいは歴史ある建造物や街並み,祭りな

どの伝統・文化を受け継ぎ保護・活用しながら,

人々が協力してまちづくりや産業の発展に努め

ている地域が選択の対象となる。事例となる地

域を選定するにあたっては,地域の特色を考慮

し,自然環境,伝統や文化,産業などから見て

異なる特色をもつ地域を選ぶ。一旦は荒廃や衰

退の危機にあった自然の景観や歴史的景観が,

地域の広範な人々の工夫や努力によって保護さ

れるに至っているという経緯の見られる事例が

望ましいとされている。

学習指導要領では,土地の高・低という地形

条件において特色ある地域の学習を,第5学年

の内容としている。本単元においても学年間の

接続を考慮し,地場産業や自然の景観について

は,その背景をなす地形などの自然条件に目を

向けさせることが望ましいと考えられる。

なお、県内の特色ある地域を選ぶにあたっては,

伝統的な工業など地場産業の盛んな地域は必ず

取りあげなければならないことになっている。

導入の工夫

この学習の導入では,県の地図を広げ,観光

パンフレットなどの資料を見ながら観光や地場

産業で有名な地域を探し出させ,「これらの地

域に,多くの人たちが訪れるのはなぜだろう」

といった問いをもたせるようにするとよい。

伝統的な工芸品を活用した地域振興の事例

ここでは,福岡県東峰村の事例を紹介する。

まず,東峰村の伝統工芸品である「小石原焼」

が人気の高い焼き物であることを確認したあと,

「小石原焼伝統産業会館」を取りあげて,小石

原焼の歴史へと学習を進める。学習では,こう

した施設を有効に活用するようにしたい。

このあと,小石原焼の生産工程へと学習を進

めるが,もし可能ならばその前に作陶体験をさ

せてみたい。それによって小石原焼づくりの過

程はもとより,それをつくる人々の思いや願い,

工夫や努力への理解がいっそう深まっていくか

らである。生産工程を追究する段階では,作業

の流れや,受け継がれてきた技術,生産者の工

夫や思いなどに加えて,原材料の確保がどのよ

うに行われているのかを調べるようにする。小

石原焼は、原材料の大半が周囲で産出されてお

り,地域の自然環境と作陶技術が組み合わされ

ることにより,現代まで続く地場産業が形成さ

れてきたことがわかる。

なお,ここでは伝統が,たんなる技術の継承

に止まるものではなく,時代や顧客のニーズに

応じた製品を生み出す技術の革新のうえに成り

立つものであるという点にも気づかせたい。そ

して東峰村の人々が,小石原焼という地場の生

産活動と,催事の開催をとおして地域の振興に

取り組んでいる事実から,その意義や地域的特

色について考えさせる。

歴史の景観を活用した地域振興の事例

次に,福岡県太宰府市を取りあげた事例を紹

介する。今から約1300年前に大宰府政庁が置か

れたことに端を発して数多くの貴重な史跡や文

化財,伝統行事が残されている太宰府市の歴史

的な環境を,宅地開発による消失の危機から保

護し,その継承に努めながら産業の振興,愛郷

心の涵養に活用している地域の人々の取り組み

を教材化したものである。

導入では,太宰府市に集まる観光客が多いこ

とをグラフからとらえて関心を高める。次に,

文化財の写真やその分布を示した地図などから,

市の特色を考えさせる。そのあと,歴史的環境

を宅地開発による消失の危機から保護すること

になるに至る経緯を,地域の人への聴き取り資

料をもとに調べ,人々の意識の変化の理由を考

えさせる。ここでは,歴史的環境の保全を,公

共の問題として認識するに至る人々の意識の変

化を考えることが重要である。そして,歴史的

景観を保護・継承しながら,観光産業の振興,

愛郷心の涵養に活用する人々の努力を,写真や

聞き取り資料からとらえ,その意義や地域的特

色を考えさせる。本単元の教材化に際しては,

地域資源の保護・活用に携わる人々の想いをど

れだけ資料化できるかが大きな課題となる。

Page 46: 地域副読本作成の手引き...- 1 - 地域副読本の役割と類型 地域副読本の役割 第3学年及び第4学年の社会科は,「地域学 習」ともいわれる。それは,おもな学習対象を

- 44 -

7(4)わたしたちの県と他地域とのつながり

■単元のねらい

この単元は,自分たちの住んでいる県(都,道,府)の特色を考える手がかりとして,人々の生活

や産業と国内の他地域や外国とのかかわりについて具体的に調べ,自分たちの住んでいる県の特色を,

より広い視野からとらえることができるようにすることをねらいとしている。

ここで取りあげる事例として,例えば,姉妹都市提携,交通手段,観光振興,生産物の流通などを

とおした県と国内の他地域とのつながりや,県と外国とのつながりなどが考えられる。

なお,ここでの学習をとおして,日本にも外国にも国旗があることを理解させ,それを尊重する態

度が育まれるように配慮する。

■学習の流れの例

①つかむ ②調べる ③まとめる

④深める

■単元の展開例と留意点

「県と他地域とのつながり」の学習は,とく

に独立した単元を設けずとも,例えば自分たち

の住む県の交通網についての学習や,「県内の

特色ある地域」において取り扱うことも考えら

れる。しかし,学習指導要領に例示されている

外国との交流事業や,船や飛行機などの交通手

段による外国との結びつきを,よりていねいに

調べていこうとすると,結果として,県庁所在

市を事例とする独立した単元を設けたほうがよ

いということになる場合もあろう(なお,学習

指導要領は,県庁所在地を取りあげることを必

須の条件とはしていない)。

また,独立した単元を設け,ある程度のボリ

ュームをもたせることで,「県の特色」という

観点を,よりはっきりと打ち出すことができる。

福岡県の場合を事例にして考えると,空港や

港湾などをとおしてつながりのある地域や,そ

れらの地域との間で人や物がどのように移動し

ているのかを詳しく調べるなかで,アジアの諸

地域に近いという福岡県の地理的位置にもとづ

く特色を,より具体的にとらえることができる。

なお,学習指導要領は「我が国や外国には国

旗があること,いずれの国でも国旗を大切にし

ていること,及び我が国の国旗を尊重するとと

もに,外国の国旗を尊重することが大切である

ことなどを指導すること」としている。地図帳

や地球儀で確認するなど,具体的な活動を通し

て指導するように配慮する必要がある。

調べたことをもとに

考える。

・他地域とのつなが

りに見られる特色

とその理由

・人や物の移動を盛

んにする交通や施

設のはたらき

・国旗の意味

わかったことや考

えたことを地図や

ノ ー ト に ま と め

る。

県 外 か ら 多 く

の 人 が や っ て

く る 大 き な 催

し な ど に 着 目

し , 自 分 た ち

の 住 む 県 は ,

他 地 域 と ど の

よ う に つ な が

っ て い る の か

と い う 問 い を

もつ。

調べる計画を立

てる。

調べたことや考え

たことをもとに県

を紹介するパンフ

レ ッ ト を 作 成 す

る。

地図や資料で調べる。

・空港をとおして行き

来のある地域と,そ

れらの地域から来る

人の数

・港をとおして行き来

のある地域と,それ

らの地域から来る人

の数。

・姉妹都市提携や文化

の交流をとおした他

地域とのつながり

・つながりのある国々

の国旗

Page 47: 地域副読本作成の手引き...- 1 - 地域副読本の役割と類型 地域副読本の役割 第3学年及び第4学年の社会科は,「地域学 習」ともいわれる。それは,おもな学習対象を

編集・作成 教育出版株式会社

編集局

発行 平成21年11月

改訂発行 平成26年 7月

この冊子の無断転載・複写を禁じます。