「深い学び」を考える ·...

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Kawaijuku Guideline 2017.11 26 2014 年頃から、次期学習指導要領や高大接続改革の 議論の中で、初等中等教育における教育改善のキーワー ドの一つとして「アクティブ・ラーニング」(以下、AL) が紹介されてきた。その影響もあり、各種調査を見ると、 グループワークやディスカッション、プレゼンテーショ ン、レポートや論文の執筆などを取り入れた授業を行う 高校が増えている。そして、「生徒が主体的に学習するよ うになった」「学び方・学ぶ力が身に付いた」「課題解決 力やコミュニケーション力が向上した」といった成果を 感じる学校がある一方で、「活動を重視するあまり、知識 の習得や概念の理解がおろそかになりがち」「特定の学 習・指導の型にとらわれている」といった課題も聞かれ るようになった。 そうした状況の中、2016 年 12 月の次期学習指導要領 に関する中央教育審議会答申では、授業改善の視点とし CONTENTS 「深い学び」 を考える て「主体的・対話的で深い学びの実現」という表現が登 場した。では、「主体的・対話的で深い学び」とはどのよ うな学びなのだろうか。ガイドライン読者の先生方への アンケート結果<コラム参照>を見ると、AL に取り組む 高校が増えたこともあり、「主体的な学び」「対話的な学 び」については授業方法や生徒の学びの在り方をイメー ジしやすいと感じる一方で、「深い学び」については、な かなかイメージがしづらいようだ。 そこで、今回の特集では、「深い学び」に注目する。ま ず、「深い学び」とは何か、どのような経緯で学習指導 要領改訂において強調されるようになったのか、「深い学 び」をどのように引き出し、評価するのかなどについて、 学習評価や教育方法、教育課程に詳しい3名の研究者に 話をうかがった。さらに、「深い学び」を高校においてど のように実現していくのか、高校教員にインタビューした。 Interview1 京都大学 松下 佳代 教授 「資質・能力」の総合的な育成をめざして「深い学び」に着目した教育改善を Interview2 國學院大學 田村 学 教授 「深さ」を実現するためのキーワードは“つながる” 授業改善に加えて、「深い学び」を評価する教師力がポイントになる Interview3 東京大学 白水 始 教授 対話的な学びが引き起こす「建設的相互作用」により生徒の理解が深まる ICTを利用して学びが深まるプロセスの可視化も進む Interview4 福岡工業大学附属城東高等学校 石丸 貴史 先生 高校で「深い学び」をどう実現するか …………………………………………………………………p28 …………………………………………………………………p32 ……………………………………………………………………p35 ……………………………………p38

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Kawaijuku Guideline 2017.1126

 2014 年頃から、次期学習指導要領や高大接続改革の

議論の中で、初等中等教育における教育改善のキーワー

ドの一つとして「アクティブ・ラーニング」(以下、AL)

が紹介されてきた。その影響もあり、各種調査を見ると、

グループワークやディスカッション、プレゼンテーショ

ン、レポートや論文の執筆などを取り入れた授業を行う

高校が増えている。そして、「生徒が主体的に学習するよ

うになった」「学び方・学ぶ力が身に付いた」「課題解決

力やコミュニケーション力が向上した」といった成果を

感じる学校がある一方で、「活動を重視するあまり、知識

の習得や概念の理解がおろそかになりがち」「特定の学

習・指導の型にとらわれている」といった課題も聞かれ

るようになった。

 そうした状況の中、2016 年 12月の次期学習指導要領

に関する中央教育審議会答申では、授業改善の視点とし

CONTENTS

「深い学び」を考えるて「主体的・対話的で深い学びの実現」という表現が登

場した。では、「主体的・対話的で深い学び」とはどのよ

うな学びなのだろうか。ガイドライン読者の先生方への

アンケート結果<コラム参照>を見ると、ALに取り組む

高校が増えたこともあり、「主体的な学び」「対話的な学

び」については授業方法や生徒の学びの在り方をイメー

ジしやすいと感じる一方で、「深い学び」については、な

かなかイメージがしづらいようだ。

 そこで、今回の特集では、「深い学び」に注目する。ま

ず、「深い学び」とは何か、どのような経緯で学習指導

要領改訂において強調されるようになったのか、「深い学

び」をどのように引き出し、評価するのかなどについて、

学習評価や教育方法、教育課程に詳しい3名の研究者に

話をうかがった。さらに、「深い学び」を高校においてど

のように実現していくのか、高校教員にインタビューした。

Interview1 京都大学 松下 佳代 教授「資質・能力」の総合的な育成をめざして「深い学び」に着目した教育改善を

Interview2 國學院大學 田村 学 教授「深さ」を実現するためのキーワードは“つながる”授業改善に加えて、「深い学び」を評価する教師力がポイントになる

Interview3 東京大学 白水 始 教授対話的な学びが引き起こす「建設的相互作用」により生徒の理解が深まるICTを利用して学びが深まるプロセスの可視化も進む

Interview4 福岡工業大学附属城東高等学校 石丸 貴史 先生高校で「深い学び」をどう実現するか

…………………………………………………………………p28

…………………………………………………………………p32

……………………………………………………………………p35

……………………………………p38

特 集 2

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特集2  「深い学び」を考える

Kawaijuku Guideline 2017.11 27

<図>「主体的な学び」「対話的な学び」「深い学び」    へのイメージ

※括弧内は、「主体的な学び」「対話的な学び」「深い学び」のイメージに対する回答を表す。(◎=「明確にイメージできる」/〇=「ややイメージできる」/△=「あまりイメージできない」/×=「全くイメージできない」)

 ガイドライン編集部では、今回の特集に関連して、ガ

イドライン読者の先生方を対象にアンケートを実施した

(2017 年9月~ 10 月実施。回答数 96 件)。まず、「主

体的な学び」「対話的な学び」「深い学び」について、ど

の程度イメージできるか、4つの選択肢から選んでも

らったところ、<図>のように、「主体的な学び」「対話的な学び」については8割前後の先生が「明確にイメー

ジできる」または「ややイメージできる」と回答した一

方で、「深い学び」については「明確にイメージできる」

「ややイメージできる」と「あまりイメージできない」「全

くイメージできない」が半数ずつという結果となった。

 さらに、それぞれを選択した理由について自由に記述

してもらった。具体的な記述内容を紹介する。

◆ AL型の授業で主体的・対話的な学びをイメージしたのですが、それだけで本当にいいのか疑問もあります。というのは、週末の金曜日6限の授業でみんなで説明しあって、感想にも「よくわかった」と書かれていたのですが、翌週月曜日1限の授業で確認すると全く定着していなかったことがありました。つまり、わかった気がしていただけで、本当の理解にはつながっていなかったのです。その授業を受けて、自分から主体的に演習を繰り返すことができればいいのですが、なかなか難しいです。[■主〇、■対〇、■深〇]◆本校でも2~3年前から ALやルーブリック評価の研修を行い、実際の取り組みを始めている段階です。主体的・対話的な学びはどうにかできますが、これらが深い学びにつながっているかどうかは、まだよくわかりません。[■主〇、■対〇、■深△]

◆主体的な学び、対話的な学びは、現在、各学校が取り組んでいる ALと重なるところがあるので、イメージはできるが、深い学びについては、何を持ってそうできるのかが、あまりピンと来ない。例えば、一昔前の講義型授業では知識を詰め込むという意味では、ある意味深い学びになっている可能性もあるが、現在の視点で考えると、自ら主体的に学び、他者と対話するなかで深い学びを実現するということになるのだろう。ただ、そこにたどり着くには、しっかりとした指導内容が必要であるように感じている。[■主◎、■対◎、■深〇]

◆主体的・対話的な学びというのは、ある意味「見える化」できる気がする。他者の学習活動を「見る」ことで、そのありようを理解しようとできるとは思うが、「深い学び」というのは、何に対してどの程度の学びを「深い」というのか。その程度が自己判断によるものなのか否か。判断に難しいところである。[■主〇、■対〇、■深△]

◆外形的な学習場面と内面的な学びの到達度がどのように評価・測定できるかに確信が持ちづらい。[■主〇、■対〇、■深△]

◆主体的な学び、対話的な学びいずれも、何をどうすればよいのか、具体的なやり方が色々出てきました。しかし、深い学びという概念は、量的なものか質的なものか不明であり、何をもって深いとするのかわかりません。したがって、全くイメージできないと回答しました。[■主〇、■対〇、■深×]◆「主体的な学び」は生徒が自発的に学ぶことであり、本校でもグループ学習、AL やプレゼンテーションを行っているのである程度イメージできます。「対話的な学び」は個人的にはゼミ活動のようなイメージですが、ある程度人数がいる教室では「主体的な学び」との区別が明確ではありません。「深い学び」はどこまでが深い学びなのか、また、基礎学力が不足している生徒にどうやってできるのか、という点で不明確です。[■主◎、■対△、■深△]◆「主体的な学び」はその言葉通り。自分から何か見つけてやっていくことだろうからわかりやすい。「対話的な学び」は「対話的」というのが「対先生」「対生徒」「対その他」だろうとはわかる。「深い学び」は、「深い」という意味がわからない。どこまでやったら「深い」なのかもわからない。[■主◎、■対〇、■深×]◆「主体的な学び」「対話的な学び」については既に実践しているので、「明確」としました。「深い学び」は深めるという点で、教員側の支援と生徒同士でできることとのバランスを試行錯誤中なので「やや」としました。[■主◎、■対◎、■深深〇]

◆生徒の主体性を測ることは難しく、推し量るしかないように感じる。対話的な学びも、一見賑やかな授業でも対話的ではないことが多く、統一したイメージがしにくい。深い学びは、教員の側からはイメージしやすいが、生徒との共有は困難なように思う。[■主△、■対△、■深△]◆自分の授業でめざしている生徒の姿に到達するための段階の話であり、生徒につけたい力がイメージできれば必然的にこのような学びになると思っている。[■主〇、■対〇、■深〇]

高校教員の「主体的・対話的で深い学び」へのイメージコラム

■明確にイメージできる ■ややイメージできる ■あまりイメージできない ■全くイメージできない

0% 20% 40% 80%60% 100%

68% 16%15%

66% 21%10%

48% 45%

2%

1%

3%

5%

主体的な学び

対話的な学び

深い学び

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Kawaijuku Guideline 2017.1128

「アクティブ・ラーニング」における課題と「主体的・対話的で深い学び」

 「アクティブ・ラーニング」(以下、AL)という言葉は、

日本では、2000年代に入ってから、主に大学での教育

改善のキーワードとして使われてきた。教育政策におい

ては、中央教育審議会(以下、中教審)の「新たな未来

を築くための大学教育の質的転換に向けて~生涯学び続

け、主体的に考える力を育成する大学へ~(答申)」で

初めて登場した。初等中等教育においては、2014年12

月の中教審「新しい時代にふさわしい高大接続の実現に

向けた高等学校教育、大学教育、大学入学者選抜の一体

的改革について(答申)」(以下、高大接続改革答申)に

も使用された。そして、これらを契機として高校教育、

大学教育、大学入学者選抜をつなぐキーワードとして、

「ALブーム」とも言えるような拡がりを見せた。

 ALは、学校教育法(2007年改正)における「学力の

3要素」や、その3要素を議論の出発点としながら、め

ざすべき資質・能力を整理した「資質・能力の3つの柱」

を育成するための授業改善の考え方として示されていた。

しかし、グループワーク、ディスカッション、プレゼン

テーションといった授業形態への関心が高まり、あたか

も特定の学習・指導の型や方法の在り方を指すかのよう

な誤解も一部に生じた。さまざまな議論を通じて、

2016年12月の中教審「幼稚園、小学校、中学校、高等

学校及び特別支援学校の学習指導要領等の改善及び必要

な方策等について(答申)」では、「主体的・対話的で深

い学びの実現(「アクティブ・ラーニング」の視点)」と

いう表現になり、さらに2017年3月に告示された小・

中学校の学習指導要領では、括弧書きが削除され、「AL」

という言葉は使われていない。

 こうした用語の変遷の理由について、松下教授は、「AL

は『学力の3要素』で示されている『思考力・判断力・

表現力』や『主体的に学習に取り組む態度』との相性が

良い一方で、『知識・技能』との関連が見えづらいとい

う指摘もありました。『AL』が使われなくなったこと、

『深い学び』が加わった理由には、学習指導要領におけ

る各教科固有の知識の深い理解までもカバーする概念が

必要となったこともあるのではないでしょうか。また、

学習や能力形成に関する国内外での研究成果から、高次

の思考に見合う知識の獲得の必要性という課題が指摘さ

れたこと、日本の教育実践の蓄積を発展的に継承してい

くためによりふさわしい用語が必要になったことなどが

考えられます」と話す。

 また、松下教授によると「深い学び」への関心は日本

に限った話ではなく国際的に関心が高まっているそうだ。

「スキルだけを習得してもそれを他の状況に転移させる

ことは難しいのですが、知識とスキルを結びつけること

で他の状況にも転移・活用できる力にすることができま

す。学校を卒業した後に生きていく支えになる力を、学

校でどうやって育成するかという観点から『深い学び』

は国際的にも注目されています」(松下教授)

学びを深めるための「深い学習」「深い理解」「深い関与」

 ここで言う学びの「深さ」について、どのように捉え

れば良いのだろうか。松下教授によると学習者の学習を

めぐる「深さ」については、「深い学習」「深い理解」「深

 「主体的・対話的で深い学び」の「深い」とは、どのような状態を指しているのだろうか。「深い」という言葉の受け止め方はそれぞれ人によって異なるのではないだろうか。そこで、『ディープ・アクティブラーニング―大学授業を深化させるために―』(勁草書房、2015 年)の著書がある松下佳代教授に、「主体的・対話的で深い学び」および「ディープ・アクティブラーニング」とは何か、「深い学び」とはどのようなことか、また教育活動を進める上で参考となる教育実践などについてもお話をうかがった。

「資質・能力」の総合的な育成をめざして「深い学び」に着目した教育改善を

京都大学 高等教育研究開発推進センター・大学院教育学研究科 松下 佳代 教授

Interview 1

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特集2  「深い学び」を考える

Kawaijuku Guideline 2017.11 29

い関与」という3つの「深さ」に整理できるという。

 「深い学習」とは、学習のアプローチの仕方を示して

いる。ある課題に対して学習に取り組む際、「深いアプ

ローチ」とは、課題となっている概念を自分で理解しよ

うとしたり、知識や経験と考えを関連付けたりするアプ

ローチである。これに対して「浅いアプローチ」とは、

意味を理解せずに知識を丸暗記したりするなど、知識を

再生産することに焦点を当てたアプローチである<図表1>。また、「深い/浅いアプローチ」の他に、学習の自己調整を意識的に行う「戦略的なアプローチ」という

アプローチ方法もある。

 なお、学習者に深いアプローチを取るように促すため

には、それに見合った教育の仕方が必要となるが、それ

はカリキュラムや授業だけに止まるものではなく、評価

方法も重要となってくる。評価方法がきちんと概念の理

解やその適用を評価するものでなければ、内容を十分に

理解していないが試験対策に長けた「浅い戦略的なアプ

ローチ」を取る生徒の方が高成績を挙げてしまう場合も

あるからだ。

 「深い理解」は、知識とスキルに関する、学習者の理

解の次元に着目した考え方である<図表2>。最も浅い次元には、「事実的知識」と「個別的スキル」が位置付

けられ、より深い次元になると「転移可能な概念」「複

雑なプロセス」が、そして、最も深い次元には「原理と

一般化」が位置付けられる。このうち、「転移可能な概

念」「複雑なプロセス」「原理と一般化」は、学習者が学

習内容の詳細を忘れた後でも残る「永続的理解」を構成

している。「永続的理解」に至ることで、知識やスキル

を新しい状況に当てはめたり、日常生活の場面などで活

用したりすることができるようになる。

 「深い関与」とは、学習者の学習への関わり方のこと

であり、非関与、浅い関与から深い関与まで深さの軸が

ある。深い関与とは、時間を忘れて没頭するような状態

である。例えば、学習者が夢中で取り組む中で時間が経

つのが早く感じられるような場合、深い関与の状態にあ

ると言える。

アクティブ・ラーニングからディープ・アクティブラーニングへ

 ALは外的な活動に注目されがちだが、活動を通じて

学習者が自身の中で考える内的な活動もまたアクティブ

であることが必要だ。このような外的活動と内的活動と

の関係を図示したのが<図表3>である。従来のALは、外的活動は活発でも内的活動が不活発な学習に終わって

<図表1>学習へのアプローチの特徴 <図表2>理解のレベルによる「知の構造」

(松下先生提供)

(『ディープ・アクティブラーニング―大学授業を深化させるために―』(勁草書房、2015 年)P.12より抜粋)

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<図表3>学習の能動性

いる図のCに該当するケースも見られ、外的活動の能動

性を重視するあまり、内的活動の能動性がなおざりにな

るという課題があったと言える。一方で、松下教授は

「ディープ・アクティブラーニングとは、外的活動の能

動性だけでなく、内的活動の能動性も重視した学習であ

り、図ではAの部分に該当します。『深い関与』は内的

活動の深まりを表していると言えるでしょう」と従来の

ALとディープ・アクティブラーニングとの違いを解説

する。

 ただし、ディープ・アクティブラーニングは、全く新

しい理論や実践というわけではない。松下教授は「新し

いことを一から始めるのではありません。これまでも、

学習者が主体的に課題に取り組み、グループワークなど

を通じて対話的に学び、深い学びにつながるような優れ

た実践があります」と述べ、日本における教育実践の中

にも「ディープ・アクティブラーニング」「主体的・対

話的で深い学び」を実現するための多くの蓄積があるこ

とを指摘する。

「内化」と「外化」を組み合わせ知識を再構築することで理解はより深まる

 「深い学び」を実現するための教育実践の蓄積につい

て見ていく前に、ここでは学習活動のプロセスをひとま

ず確認したい。学習活動のプロセスは概ね、「コンフリ

クト→内化→外化→リフレクション」の4つのステップ

で進むと考えられている(『ディープ・アクティブラー

ニング』では6ステップで示されていたが、国語教育研

究者の佐藤佐敏氏はそれを以下の4ステップに整理して

いる。『アクティブ・リーディング』(明治図書、2017年)

参照)。

 まず、学習の出発点は「コンフリクト」である。「コ

ンフリクト」とは、対立・葛藤などの意味があり、学習

者が自分の持つこれまでの知識や経験では対処できない

問題や課題に直面することを指している。この場合、一

人では解決できない課題などは他者と協働して問題解決

を図ることになる(グループでの学習活動等)。そして、

問題や課題を解決するためには新しい知識が必要となっ

てくる。そのために新しい知識を発見・習得(内化)す

る。次に学習者は、学んだ知識を実際に使い、課題等に

適用してコンフリクトの解決を試みる(外化)。最後に

学習者は、「リフレクション」(振り返り)の段階で、課

題解決のためにどんな知識をどのように適用して解決で

きたか、一連のプロセスを振り返る。

 なお、「内化」と「外化」は一方向的なものではなく、

内化された知識は、課題解決等のために使うことや人に

話したりすることなど外化することを通じて、再構築さ

れて再びより深く内化されることになる。これは理解が

より深まることを意味しており、まさにディープ・アク

ティブラーニングの学習サイクルである。

深い学びを実現するための日本の優れた教育実践の蓄積

 前述したように、日本における教育実践の中にも「主

体的・対話的で深い学び」を実現するための多くの蓄積

がある。その代表例として、松下教授は、板倉聖宣氏が

1960年代に提唱した理科の「仮説実験授業」を挙げる。

仮説実験授業は、〈問題→予想→討論→実験〉というプ

ロセスで授業が組み立てられている。例えば、「燃焼」

という単元での問題例として「スチールウールの燃焼実

験」がある。生徒には「スチールウールを燃やすと重さ

はどうなるか」という〈問題〉を与え、〈予想〉を「重

くなる、軽くなる、変わらない」という選択肢から選ば

せる。予想は分かれ、〈討論〉でいろいろな意見が生徒

から出されることでコンフリクトの状態となる。そして、

〈実験〉で燃やした後は重くなる事を確認した後、その

現象を説明するものとして、燃焼=酸化という新しい概

念を生徒に与える。その後、スチールウール以外のさま

ざまな金属、木片などでも実験を繰り返す。このように

学んだ概念をさまざまな事例に活用することを通して、

与えられただけの概念に肉付けしながら概念理解の深化

を促すのである。

 「仮説実験授業では、まさに『コンフリクト・内化・

(松下先生提供)

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特集2  「深い学び」を考える

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外化・リフレクション』というディープ・アクティブラ

ーニングの学習サイクルを回しながら、授業が進んでい

きます。仮説実験授業は、日本が世界に誇ることができ

る教育文化だと言えるでしょう。大学の科学教育では、

ハーバード大学のエリック・マズール氏が提唱したピ

ア・インストラクションという、概念を問う問題と学生

同士の議論を通じて深い理解を促す授業法が知られてい

ます。ピア・インストラクションは大学の大講義の授業

方法として考えられたものなので、もちろん違いはあり

ますが、科学教育の方法としては、仮説実験授業と共通

するところが多いです」(松下教授)

 国語については、「読み方を身に付けさせる」ことを

意識した授業を紹介する。「例えば、私が関わっている

中学校では、『少年の日の思い出』(ヘルマン・ヘッセ)

で、登場人物を対比しながら読むことで、対比という読

みの方略を学び、次の『トロッコ』(芥川龍之介)では、

生徒たち自身が『対比』の方略を使って読み進めるよう

な授業をしています。それぞれの教材で、どのような『読

み方』を学ぶのかを明示し、さらに別の教材や単元でも

活用する機会を設けることで、生徒たちの読みの力を深

めています」(松下教授)

 さらに松下教授は「一人ではなくグループ等の複数で

協働して読むことは大切です。自分とは異なる色々な角

度からの意見が出されると読みはさらに深まります」と

「主体的な学び」「対話的な学び」が「深い学び」につな

がっていると話す。

 「国語教育の例で言うと、大村はま先生(1906-2005)

の『国語単元学習』は『主体的・対話的で深い学び』の

典型ではないかと思います。日本には、これまでに優れ

た教育実践の蓄積がありますが、団塊の世代の退職など、

教員の世代交代が急速に進む中で、その継承が課題にな

っています。学習指導要領で『主体的・対話的で深い学

び』を強調する狙いの一つは、過去の優れた実践の中か

ら、これからの時代に合ったものを選び、必要に応じて

作りかえながら、次の世代につないでいくことだと考え

ています」(松下教授)

生徒がどれだけ学んだかをくみ取れるような評価が必要

 こうした「深い学び」をどのように評価するかは重要

な課題である。評価方法がきちんと概念の理解や新しい

場面での適用を評価するものでなければ学習者のアプロ

ーチは深いものとはならないことは前述した通りである。

松下教授は「まず、生徒にどのような力を付けさせるの

かという目標の意識化が重要です。そして、その目標を

意識しながら、授業・単元・カリキュラムを考え、目標

のためにどのような活動を行うかを組み立てます。そう

することで何を評価すれば良いかが明確になります。そ

して、授業で学んだ知識やスキルを総合的に用いながら

取り組むパフォーマンス課題を取り入れたり、学習のプ

ロセスを見るポートフォリオ評価を導入したりすること

により、ペーパーテストだけでは測れない、学びの深さ

を見ることのできるような評価を行う事が大切です。そ

のような評価は、単に〈学びの評価〉であるだけでなく、

〈学びのための評価〉〈学びとしての評価〉にもなってい

ます」と話す。

 「ただ、パフォーマンス課題はそんなに頻繁に行える

ものではないし、その必要もありません。すぐれた授業

の方法では、多くの場合、授業の中に評価の機能が組み

込まれています。例えば、前に挙げた仮説実験授業では、

燃焼という概念をいろいろな事例にあてはめて予想・実

験することそれ自体が、概念理解の評価になっています。

国語単元学習でも、同じテーマ(例えば「青年期の視

点」)をもつ複数の教材に取り組むなかで、ある教材で

身に付けた力を、別のジャンルの教材にも活用するとい

う機会が設けられています。その中で、たえず、ことば

の力が試されることになるのです」(松下教授)

 つまり、「深い学び」の実現のためには、「身に付けさ

せたい力」という目標を明確にした上で、これまでより

もさらに多様な評価方法を組み合わせる必要がある。生

徒がどれだけ学んだかが見えるような評価、さらには「深

い学び」を促すような評価が求められるだろう。

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Kawaijuku Guideline 2017.1132

「深い学び」が求められる背景と新しい学習指導要領の考え方

 次期学習指導要領は、「何を学ぶか」「どのように学ぶか」

「何ができるようになるか」という3つの視点から検討さ

れてきた。

 こうした方向性について、田村教授は「知識・情報・技

術をめぐる変化が加速していますし、情報化やグローバル

化といった社会的変化が急速に進展しています。そうした

時代を生き抜くためには、他者と協働したり、習得した知

識を活用したり、知識を創造することができる力などが求

められますが、これまでの学校教育は、それらを十分に伸

ばせていませんでした。例えば、全国学力・学習状況調

査のB問題の正答率が低いことなどから、知識は身に付い

ているが活用する力に課題があることは常に指摘されてき

ました。そうした力を育成するためには、教育内容だけで

なく教育方法も見直していくことが必要なのです」と語る。

 そこで、小中学校の新しい学習指導要領では、「何がで

きるようになるか」として、育成をめざす資質・能力の三

つの柱、すなわち(「生きて働く知識・技能」「未知の状況

にも対応できる思考力・判断力・表現力等」「学びを人生

や社会に生かそうとする学びに向かう力・人間性等」)を

示した上で、「何を学ぶか」として教科等の新設や内容の

見直しを、「どのように学ぶか」として、「主体的・対話的

で深い学び」が示されており、その方向性については高等

学校も同様である<図>。

「深い学び」を実現するための3つの “ つながる ”

 では、「主体的・対話的で深い学び」とはどのような学

びなのだろうか。高校教員アンケート(27ページ)にも

あるように、「主体的」「対話的」はイメージしやすい言葉

だが、「深い」はイメージがしづらいようだ。それに対し

て田村教授は、3つの“つながる”というキーワードを使

って、「育成をめざす資質・能力の三つの柱」と関連付け

ながら「深い」とはどのような状態かを説明する。

 1つ目の“つながる”は、「知識・技能が相互につながる」

ということである。個別的な知識・技能を単体ではなく、関

連付けてつなげることによって、構造化・概念化されている

状態が深い学びをしている状態と言える。知識・技能を構

造化・概念化することで、他のいろいろなところにも転用で

きるようになる。田村教授は「従来は個々の知識・技能に重

きが置かれ、構造化や概念化はあまり意識されてこなかっ

たかもしれません。一方で、構造化のためには、実は一つ

ひとつの知識・技能の習得も大切だということが改めて見え

てきます。きちんと身に付ける学習もやはり必要なのです。

同様のことは実技系の科目にも言えます。柔道で言うと、『大

外刈り』は、足の運び方、腕の動かし方など、個々の技能

の集合体です。それら個々の技能をしっかり身に付けつな

げることで『大外刈り』は確かになり、『内股』など他の投

げ技にも転用できるようになるのです」と個々の知識・技能

の習得は、構造化や概念化のためにも重要であると説明する。

 2つ目の“つながる”は、「生徒が持っている知識・技能

が場面や状況とつながる」である。

 「主体的・対話的で深い学び」は次期学習指導要領のキーワードである。「主体的・対話的で深い学び」とは、学習指導要領がめざしている資質・能力を育成するための学びを示しており、2016 年 12 月の中央教育審議会「幼稚園、小学校、中学校、高等学校及び特別支援学校の学習指導要領等の改善及び必要な方策等について(答申)」では、「主体的・対話的で深い学びの実現(『アクティブ・ラーニング』の視点)」と記載され、今年3月に告示された小中学校の学習指導要領では括弧内の記載が削除された。「主体的・対話的」に加えて「深い学び」が求められる背景や、アクティブ ・ ラーニングとの関係などについて、文部科学省で初等中等教育局視学官を務めた経歴があり、教育方法学、カリキュラム論の著書もある國學院大學 田村学教授にお話をうかがった。

「深さ」を実現するためのキーワードは“つながる”授業改善に加えて、「深い学び」を評価する教師力がポイントになる國學院大學 人間開発学部 初等教育学科 田村 学 教授

Interview 2

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特集2  「深い学び」を考える

Kawaijuku Guideline 2017.11 33

<図>主体的・対話的で深い学びの実現(「AL」の視点からの授業改善)について(イメージ)

考え方』を働かせながら」実現するよう記載されている。

ここでいう「見方・考え方」が、教科等において「深い学

び」を実現するためのキーワードとなる。

 「各教科等には、固有の『見方・考え方』があります。

これはいわば、『対象をどう捉え、どう認識・表現するか』

ということです。例えば、1枚のお皿を目にしたとき、理

科的な見方・考え方が身に付いていれば、素材となる物

質の組成に着眼して科学的に探究する。社会的な見方・

考え方では、生産地に着目して追究する。数学であれば

形や体積に注目して論理的に考える。美術であれば色や

デザインに目を向けてよさを表現する。こうした教科固有

の学びの有り様、いわば教科の本質となる学びこそが各教

科等における『深い学び』を実現することになります。さ

まざまな視点と関わり方を持つことが、生徒の人生を豊か

にしていくことにつながっていくのです。そして、そうし

た指導をするためには、一人ひとりの教員が、それぞれの

教科を学ぶ意義について、生徒に対して明確に説明でき

るようでなければなりません」(田村教授)

ポイントは一人ひとりの生徒が知識・技能を「活用・発揮する」こと

 こうした「深い学び」を実現し、資質・能力を育成する

ためには、知識・技能を「活用・発揮する」ことが重要と

なる。田村教授は、「生徒が身に付けた知識・技能をどん

どん使う機会を意図的に設けることが必要です。個別の知

識は使えば使うほどにつながり、構造化され、ネットワー

 「そのためには、習得した知識・技能を異なる場面や状

況で使う活動を積極的に取り入れることが必要です。例え

ば、国語で論説文を読んで得られた文章表現の知識を別

の場面や状況で活用することなどが考えられます。そうす

ることで、異なる場面や状況でも活用できる、汎用的な知

識になると考えられます」(田村教授)

 このように、身に付けた知識・技能の中から、課題の解

決に必要なものを選択し、場面や状況に応じて適用したり、

複数の知識・技能を組み合わせたりして、適切に活用で

きるようになっていくことを「思考力・判断力・表現力等」

と考えることができる。

 3つ目の“つながる”は、「知識・技能が学習の目的や方

向性、手ごたえとつながる」ことである。田村教授は「例

えば、地域の自然環境の調査を行った時に、一連の調査

活動が自然の保護に役立てられ、地域の方々が憩う環境

の保持に向かうとすれば、自分の知識・技能が地域の環

境保全や地域に暮らす方々の幸福に役立つことを実感でき、

より一層頑張ろうという生徒の意欲になり、学びはさらに

深まります」と語り、「深い学び」が、学びを人生や社会

に生かそうとする「学びに向かう力・人間性等」の涵養に

つながると説明する。

「深い学び」を実現する鍵となる「教科等の特質に応じた見方・考え方」

 なお、<図>では、「深い学び」は「習得・活用・探究

という学びの過程の中で、各教科等の特質に応じた『見方・

(「幼稚園、小学校、中学校、高等学校及び特別支援学校の学習指導要領等の改善及び必要な方策等について(答申)」より)

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Kawaijuku Guideline 2017.1134

ク化されていくからです。全国学力・学習状況調査の結

果を見ても、生徒が習得した知識を人に説明したり発表し

たりするなど、知識を使って実際に課題や問題を解く機会

を設けている学校の成績は良いのです。高校では、かつ

ては知識のインプットに重きが置かれ、板書と講義など入

力中心の授業、いわゆる“チョーク&トーク”の授業が多

かったと思います。これは知識の暗記と再生には良かった

のかもしれませんが、今後は出力中心の活用・発揮に力

点を置いた授業が必要となります」と強調する。

 知識・技能を活用・発揮し、生徒同士の協働などを取

り入れた授業スタイルが「対話的な学び」である。ただし、

田村教授は「対話的であるということは、他の生徒や教員

など目の前にいる人とのコミュニケーションだけを示して

いるのではありません。教科書をじっくりと読み、作者や

先哲が考えてきた知識の体系と真正面から向き合うことも

十分に対話的です」と、授業中に生徒に発話をさせること

だけが「対話的な学び」ではないと話し、読書などを通じ

て、言葉を使って物事を認識したり、思考したりすること

は大切だと指摘する。

個々の教員に求められるカリキュラム・マネジメント

 ここまで紹介したように知識・技能を活用・発揮するた

めには、「主体的・対話的で深い学び」による授業改善が

必要となるが、もう一つ重要な要素がある。それは「カリ

キュラム・マネジメント」である。そして、次期学習指導

要領におけるカリキュラム・マネジメントには3つの側面

がある。1つ目は、各教科等の教育内容を教科横断的な

視点で組織的に配列することである。2つ目は、教育内容

の質向上のためのPDCAサイクルを確立することである。

3つ目は、教育活動に必要な教育資源を地域など学校の

外部資源も含めて活用することである。

 マネジメントというと管理職が行うことというイメージ

があるかもしれないが、田村教授は「カリキュラム・マネ

ジメントは学級担任の先生方や授業を担当している先生

方にこそ必要です」と全ての教員に必要なものとして位置

付ける。「数学で習った統計の知識が地理・歴史を学ぶと

きに役立ったり、国語で習った表現様式が総合的な学習

の時間での発表の際に役立ったりすることもあるでしょう。

このように、個々の先生方が全教科を俯瞰的に見て、各

教科等のつながりを意識することが大切です。そして、そ

のような視点で指導計画を考えれば、生徒にとってよりわ

かりやすいように学習する内容の順序を入れ替えるなどの

工夫も生まれてくるでしょう。活用・発揮を促すようなカ

リキュラムがデザインできれば、各教科等の知識をつなげ

る、より深い学びの実現に役立つはずです」(田村教授)

「深い学び」をどのように評価するか学び手の学習の状況をつかむことが重要

 生徒たちの学びが深まったとしても、それをどのように

見極め、評価していくのかは大きな課題となるだろう。学

びの深まりは生徒の内面的なことであり、表面的にはわか

りにくいからだ。

 評価には、定期考査や作文などの成果物により最終的

な学習成果を測定する「総括的評価」と、授業の中での

生徒の様子などから学習の過程において評価する「形成

的評価」があり、両者を組み合わせることが必要とされて

いるが、後者について田村教授は、「深い学びができてい

るか、育成をめざす資質・能力が伸びているかを見取る力

が教員にとって重要となります」と語り、生徒の学びを見

取るために3つのポイントを挙げる。

 1つ目は、授業の前に、育成する資質・能力や生徒の

学びの在るべき姿を教員が明確に描くことである。そうし

なければ、評価の基準を適切に定めることは難しい。

 2つ目は、生徒一人ひとりの学びを空間軸でつなげて見

ることである。生徒は1時間の授業の中で、発言したり、考

えを記述したり、さまざまな活動をする。授業中の1つの発

言からはわからなくても、それらをつなげて見ることで、生

徒の理解の深さや思考のプロセスが見えてくる可能性がある。

 3つ目は、時間軸で捉えることである。昨日の授業と今

日の授業、あるいは授業の始まりと終わりでの生徒の変容

を見ることで、その生徒の考え、判断の成長等が見えると

いう。「表面に表れているものを集めて、生徒の内面をよ

り確かに推論できるように経験を積んでいくことが重要です。

こうした評価をすることは手間がかかりますが、生徒の考

えが見えるようになってくることは、先生方にとっては喜

びでもあり、より適切な指導につながります」(田村教授)

 一方、こうした評価には客観性や公平性などの懸念も

ある。田村教授は「これでは客観的な評価にならないとお

考えになるかもしれませんが、主観を多く集めることで、

より安定的な客観に近づく、間主観性という考えを持つと

よいのではないでしょうか。私は、いつも生徒たちの側に

いる先生方の評価であれば、主観的であってもそれがたく

さん集まることで適切な評価になると思っています。また、

クラスの全ての生徒を見ることはできず、公平でないとい

う意見もあるかもしれませんが、常に全員を同じ条件で見

るのではなく、授業によって注目する生徒を変えて、何回

かの授業を通じて見ていくこともできます。テストなどに

よる一斉評価も組み合わせて、公平性はそこで担保すると

いう考え方もあります」と語る。

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特集2  「深い学び」を考える

Kawaijuku Guideline 2017.11 35

 

 白水教授は、「深い学び」を通じて達成をめざす「深

い理解」について、「『深い理解』とは、概念的理解が達

成できている状態です。授業の前より授業の後が、単元

の最初より単元の後が、学期の始めより学期の後の方が

生徒の概念的理解が深まっていることが大切です。その

際、生徒の頭の中でどのように変化が起きているか、生

徒の言動から教員が見取る必要があります」と話す。

 ここで、白水教授は、概念的な理解の深まりを「一般

化」「機構の探究(whyの解明)」「日常への適用」など

と大くくりに例示している。

 では具体的には生徒の学びはどのように深まっていく

のか。白水教授は教科別の事例も交えながら紹介する。

(1)一般化 「一般化」の例としては、数学の「内角の和」の事例

を挙げる。内角の和について、三角形は180度、四角形

は360度、五角形は540度という知識を個別に覚えてい

る生徒に「102角形の内角の和は何度でしょう」と聞い

ても答えられない。しかし、それぞれの内角の和を見て、

角数が増えると180度ずつ増えるというパターンを見出

すことができれば、「第一段階の深さ」(白水教授)と言

える。ただし、「一般化」のためには、なぜそうなって

いるか理由を説明できることが必要だ。ここからさらに

「180度×(n-2)」(nは角の個数)という計算式まで立

てられることができれば、応用が効き、「一般化」がで

きる理解に至っていると言える。

 「個別具体的な事例から、ある種のパターン化を行い、

パターンの理由について、納得のいく説明をできること

が、『一般化』ができている状態と言えるでしょう」(白

水教授)

(2)機構の探究 「機構の探究」については2つの例を紹介する。

 理科の場合は、「なぜガラスに結露するのか」という

例を挙げる。結露とは、大気中の水蒸気が水滴になって

出てくる「現象」であるが、その背景には、「大気には

もともと水蒸気が含まれている」という要素と「温度に

よって空気が含むことのできる水蒸気量(飽和水蒸気量)

が変わる」という要素が組み合わさった「機構(メカニ

ズム)」がある。そうした、「現象」から「機構」を見出

すことも、概念的な理解の深まりの一つの形である。

 「特に理科の場合は、現象を理解し、現象のメカニズ

ムがわかることで、さらにその詳細なメカニズムに興味

が湧き、次の疑問が生まれ、それを探究する中で、学び

が深まることがあります」(白水教授)

 このような学びは他の教科でも起こり得る。日本史の

例で言えば、「江戸幕府が長く続いた」という現象は、

鎖国、参勤交代、外様大名などをつなぎ合わせて見れば、

幕府の収益を上げ、有力大名を経済的に疲弊させ、それ

によって長期政権を維持するという一連の経済政策によ

るものというメカニズムが見えてくる。一つひとつの政

策を個別の知識として覚えるのではなく、つなぎ合わせ

ることが「機構」の理解につながっていく。

(3)日常への適用 「日常への適用」とは、知識を日常生活へ適用するこ

とだ。例えば、世界史で「モンロー主義」や「保護貿

易」について学んだ後で、現在のアメリカの状況と比較

し、過去と同じことが起きているのか、あるいは今回は

過去とは異なる何かがあるのか、など日常生活で問いを

 新しい学習指導要領では「主体的・対話的で深い学び」が求められており、先生方はそれぞれの授業の中でこれを実現していかなければならない。しかし、授業の中で生徒たちの学びはどのようなプロセスで深まっていくのか、他者と対話を行いながら学ぶことがなぜ深い理解につながるのかといったことは、わからないことも多い。そこで、「知識構成型ジグソー法」を用いた協調学習の実践を数多く行い、また、理解の深まりを確かめる評価方法の開発にも取り組む、白水始教授にお話をうかがった。

対話的な学びが引き起こす「建設的相互作用」により生徒の理解が深まるICTを利用して学びが深まるプロセスの可視化も進む東京大学 高大接続研究開発センター 高大連携推進部門 CoREFユニット 白水 始 教授

「一般化」「機構の探究」「日常への適用」を通じて概念的理解を達成することが「深い理解」

Interview 3

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<図表1>授業前後の解答と理由の変化

<図表2>A先生とB先生の「期待する解答の要素」

広めて適用する中でも、概念的な理解は深まっていく。

 こうした深まりは、「この教科ではこの深まり」と決

まっているわけではなく、一回一回の授業で教員がいか

なる深まりを狙うかを決めていく必要がある。

対話的に学ぶとなぜ理解が深まるのか理解深化は一歩引いたときに表れやすい これらの概念的な理解を深める学びを促すには、生徒

同士の対話や生徒と教員の対話を取り入れることが有効

とされている。しかし、なぜ対話的に学ぶことが深い理

解につながるのか。白水教授は折り紙を使った大学生対

象の実験を例に説明する。

 課題は、「折り紙の『4分の3』の『3分の2』の面

積を斜線で示す」というものである。計算すると「4分

の3×3分の2=2分の1」であるため、折り紙の半分

に斜線部分を作ればよいのだが、最初から分数計算を行

う学生はほとんどいない。

 まず、1人で課題に取り組ませると、ほぼ9割の学生

は折り紙を4つ折りにして一度完全に広げる。そして、

今度は紙を90°回転し、3つ折りにする。その上で、12

個のマスができた折り紙の縦に2行、横に3列というよ

うに斜線を引いていくという。

 次に同じ課題を2人で取り組むようにすると、まずど

ちらか1人が折り紙を折り始める。ここでは最初に解き

始める役を課題遂行者という。すると、それを見ている

もう一人(モニター:見守り役)は一歩引いて冷静に見

ていることもあり、「4つ折りにした紙には4分の1が

4列分できる。4分の3の3分の2なのだから、そのう

ちの2列分に斜線を引けばよい」など、さらに効率的な

方法に気がつく。このとき、「モニター」は「話し手」

に立場が変わる。ここで最初の「課題遂行者」は、役割

が変わり「聞き手」となって説明を聞きながら改めて考

える。そうすると、また他の方法に気がつく。こうして、

互いに役割を入れ替えながら議論する中で、計算で解け

ば良いことに気づいて「4分の3×3分の2=2分の1」

という計算式を立てて課題を解くまでに至る。

 こうした状況を白水教授は「建設的相互作用」といい

「課題遂行者は考えを外化します。モニターは少し違う

見方をして見立て直しをします。こうした内省・反省と

いうリフレクションを通して、考えを一般化し、抽象化

していくのです。考えの外化と内省が組み合わされ、役

割の交代を通して理解が深まっていきます」と説明する。

「建設的相互作用」が起きるためには、課題が一緒に取

り組む人たちの間で共有されていることが必要となる。

そして、一人ひとりの考えが見え、それぞれの異なる考

えを結び付けてまとめる機会が保証されていることも必

要だ。白水教授は、「建設的相互作用」を引き起こすた

めの「知識構成型ジグソー法」を用いた協調学習の実践

に、自治体や行政・教育機関、民間企業などと連携して

広く取り組んでいる。東京大学CoREFの取り組みである。

 こうした「建設的相互作用」による深い理解が起きて

いることを確かめるため、評価方法の開発も進められて

いる。その中の1つが、先生からの問いに対して、授業

の始めと終わりに生徒に答えを2回書いてもらい、それ

を比較することで生徒の理解の深まりを確認する「授業

前後理解確認法」という方法である。

 白水教授は「授業の最後に振り返りを生徒に書いても

(東京大学CoREF 研修資料から)

(東京大学CoREF 研修資料から)

授業前の答え(代表例) 授業前の答え(代表例)

答え:E理由:グラフのかたむきとコースのかたむきが同じだから。

答え:D理由:コースのまがるところが3こだから。グラフとコースを比べたら、グラフのかたむきはスピードがさがるところで、コースのまがるところと同じになるから。

A先生の期待する解答の要素

正しいコースを選択し、自分の考えを述べることができる。

B先生の期待する解答の要素

・グラフの変化の様子を根拠に説明できる。(速度が遅くなっているところはカーブ。カーブが3か所ある。カーブの大きさは違っていて、スタートから2つ目が一番急カーブ。直線部分は3か所。2つ目が一番長い。など)・グラフの変化の様子とコースの形状を関係付けて説明できる。・5つの中から、条件にあわないものを消去しながら、論理的に考えた道筋で説明できる。

さまざまな分析方法を用いて生徒の理解のプロセスを可視化する

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特集2  「深い学び」を考える

Kawaijuku Guideline 2017.11 37

らうことだけでは深まりが見えません。生徒によっては、

塾などで習って授業前から答えを知っている場合もある

からです。授業の最初にも答えを作ってもらう『授業前

後理解確認法』を導入することで、授業の中での一人ひ

とりの理解の深まりが見えますし、同じ用紙に書くこと

で生徒自身にも違いが見えます。その際、問いに対する

答えが変わるだけでなく、考えの質が変わったことも把

握できます」と、その意義について語る。

 OECD生徒の学習到達度調査(PISA)2000年調査の数

学的リテラシーの問題として出題された「レーシングカ

ーの速度に関する問題」という問題がある。1周3キロ

メートルのサーキットでのレーシングカーの速度がグラ

フで示されている。ここから折れ線グラフの特徴や傾向

を読み取り、レーシングカーが走ったコースはどれか、

図を選ぶことになる。ある教員が、小学4年生の算数の

授業でこの問題をアレンジし、図を選んだ理由を記述さ

せる問題を出題し、授業前後の解答を比較したところ、

<図表1>のような回答が見られた。書いている理由の量も質も授業の前と後では全く異なることが可視化でき

ている。実際の答えは「B」なので代表例の答えは不正

解だが、白水教授は「正解か、不正解かということだけ

でなく、理解の度合いや躓きまでわかることが重要です。

全く理解が進んでいないように見えても児童・生徒には

必ず変化があります。それが可視化できることで先生方

にとっても気づきが得られ、それが次の授業をどのよう

に構成するかという授業デザインにつながるのです」と

授業の前後で解答を2回書かせて比較する意義を説く。

 また、白水教授は教員がどのような「期待する解答の

要素」を持つかが大切だと指摘する。<図表2>は、異なる2人の架空の教員の「期待する解答の要素」である。

授業前後に書いた答えから、理解の深まりを評価する場

合に、どちらが理解深化の実態をより正確に捉えること

ができるかの差は歴然である。B先生のような基準を持

っていれば、<図表1>の右側の答えを見たときに、不

正解だが、グラフの形状とコースの変化を関連付けて考

えることまではできていることが読み取れる。授業をす

る教員が評価の基準をしっかり持つことで、こうした細

かな点まで見逃すことがなくなり、また、評価に一貫性

を持たせることができる。このようなプロセスを通じて、

教員が評価の基準を立て、授業でのポイントを明確に定

め、それを具体的な課題に落とし込み、可視化された教

員の理解から、次の授業のデザインを進めることが可能

となる。

 とはいえ、毎回の授業の中で、クラス全員の授業前後

の答えや理由などの記述を確認していくのは大きな負担

となる。そこで白水教授は東京大学CoREFとして「最

初は全員ではなく、先生が気になる生徒など任意に選ん

だ3人ぐらいから始めればよいでしょう。あまりハード

ルを上げないで、できることから始めればよいのです」

と、まずは取り組むことが大切だと話す。

 また、ICTを活用することで、評価に関する業務を支

援する技術の開発も進んでいる。

 例えば、手書きの文字を自動的にテキストデータ化し、

キーワード検索できるシステムがある。「このシステム

を利用すれば、毎回の授業のクラス全員分のワークシー

トであっても、データ化することができ、さらに授業の

ポイントとなる用語を『キーワード検索』することで、

個々の理解の深まり評価をしていくことが可能となりま

す」(白水教授)。こうしたシステムは、既に教員研修等

で活用されているという。

 さらに、白水教授は、生徒たちの理解の変化が紆余曲

折を経て、どのように変化して進んでいくかという、授

業の前後だけではなく授業中の理解のプロセス、言わば

学びのメカニズムにも迫ろうと研究を進めている。そこ

で、授業中の生徒の発話を自動的にテキスト化して、全

ての発話のキーワード検索ができるシステムを開発中で

ある。これを利用した「多面的対話分析法」により、授

業中に生徒の考えがどのように進んでいくかが見えてく

るという。それによって専門用語を扱ったときにも、生

徒たちはまず自分たちなりに理解した言葉を用いて話し、

後に専門用語を使うようになるなど、段階的に理解が深

まる様子がわかる。また、ある生徒がしばらく発言して

いない場合でも、巧みなモニターとしての聞き手役に回

っていることなど、対話の状況がまさに多面的に分析で

きるとのことだ。

 「深い学び」を実現するための教授法についてのさま

ざまな研究や実践に加え、その評価を実現するための科

学的な方法やそれを支援するツールの開発が急速に進ん

でいる。生徒を「深い理解」へ誘う授業を進めるための

環境整備は整いつつあると言えるのではないだろうか。

ICT を活用することで個々の学びが深まる様子を評価する

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Kawaijuku Guideline 2017.1138

「居眠りする生徒をゼロにする」を目標に授業改革を進める

 私は2015年頃から、グループワークやペアワークを

取り入れた授業改革を進めています。

 授業改革を始めたきっかけは「居眠りをする生徒をゼ

ロにするにはどうすればよいか」ということでした。私

がどんなに生徒に理解してもらおう、学んでもらおうと

講義内容を工夫しても、居眠りをされてしまったら聴い

てはもらえない。「思考力・判断力・表現力」や「傾聴

力・読解力」を鍛えなくてはいけないのに、それ以前の

問題ということになります。私は、塾講師を経験した後

教員になり、22年間教壇に立ち続けていますが、「居眠

りゼロにする」ことは学びに向かう重要なステップだと

考えていました。どんな授業をすれば居眠りしてしまう

生徒を無くすことができるかと常に試行錯誤していたの

ですが、小林昭文先生の『アクティブラーニング入門』

(産業能率大学出版部、2015年)を読んで「自分の教え

方や授業方法を変えなくても、生徒の活動を変えてアク

ティブにすればよい」と発想を転換することができまし

た。では生徒をアクティブにするためにどうしたらよい

かと考えた時に、授業を改革しようと思ったのです。

 授業冒頭で「メニュー」を配布

 授業では、冒頭に「メニュー」を配布します<資料>。表面には「この時間の目標」「授業内容」「演習」「次回

までの予習内容」「授業を通して身に付けるべき能力」

や「授業に臨む姿勢」を、裏面には教科書の練習問題の

解答を掲載しています。「メニュー」配布は、50分間の

授業時間を最大限に活用するための発想です。

 授業では、最初の15分程度は講義形式できちんと話

をします。その際、心がけているのは「何を教えないか」

ということです。読めばわかることを口頭で説明したり

板書したりする必要はありませんし、目的となる課題に

向けて考えさせたいことはあえて教えないこともありま

す。それは生徒の状況や教材に合わせて検討しています。

 講義においては、発問を工夫しています。練習問題の

解法を私が解説するときも、「この時どうする?」「これ

は何を使う?」「どんな方法がある?」といった小さな

質問を重ね、生徒の思考を促しています。

 なお、今年度は1年生の授業を担当していることもあ

り、講義の際には「聴く時は聴く」「読む時は読む」と

生徒たちに指示をしています。こうした「傾聴力」「読

解力」など基本的な力が身に付いていなければ、「思考

力・判断力・表現力」などは伸ばすことができないから

です。

生徒が一人で問題の解法を考えた上でペアワークやグループワークに進む

 講義をある程度終えたところで、「その日やるべき問

題」に入っていきます。取り組む問題は、教科書の練習

問題などです。その際、最初からグループにせず、「ま

ず一人で考えなさい」と言っています。これを私は「主

体的な時間」と位置付けています。問題に向き合う時間

であり、自分自身だけの力でどれだけ問題を読み解いて

考え、解法を考えることができるか。主体的に思考力を

発揮する時間と言っていいでしょう。この時間を取らず

にペアワークやグループワークを始めても、雑談にしか

ならないため、どんなに短くても、この時間は確保する

ようにしています。

 「主体的」に考えたら、次に「対話的な学び」を取り

入れます。対話を交えるのは、「思考の言語化」を重視

 電気科、電子情報科など工業大学の附属高校ならではの学びを充実させながら、近年、国公立大・難関私大への進学実績も着実に伸ばしている福岡工業大学附属城東高等学校。同校で教務主任を務める石丸貴史先生(数学科)はグループワークやペアワークを導入し「主体的・対話的で深い学び」を意識した授業改善を進めている。生徒の「深い学び」をどう捉え、その実現のためにどのような工夫をされているのかをうかがった。

高校で「深い学び」をどう実現するか福岡工業大学附属城東高等学校 教務主任 石丸 貴史 先生

Interview 4

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特集2  「深い学び」を考える

Kawaijuku Guideline 2017.11 39

しているからです。数学の場合は特に、解法がわかって

いても、それを言葉にできなければ答案を作れませんか

ら、日ごろからその経験を積ませたいと考えています。

 問題の内容や単元によってペアで取り組んだり、最大

4人のグループにすることもあります。生徒に好評だっ

たのは、「わかった人は立って」と声をかけ、立ちあが

った生徒には「周囲を眺めてみて、解き方がわからない

人に教えに行ってあげて」というものです。こちらの方

が、私がクラス全体に解説するよりも生徒の理解度は高

いと感じています。

 ペアワークは、冒頭の講義部分でも取り入れています。

私の解説に対する反応がよくないときには、「30秒間、

ペアで考えてみよう」などと言っています。現在では、

「私がカウントダウンを始めたら話し合ってもよい」と

いうルールを生徒と共有しているので、板書しながら

「この次に書く数式は? はい、10、9、8、7…」と

カウントダウンを始めると生徒たちが口々に話を始める

といった具合です。

リフレクションシートへの記入や復習を通じて「深い学び」へとつなげる

 「主体的・対話的な学び」を「深い学び」につなげる

ためには、「トレーニング」と「リフレクション」が欠

かせません。「トレーニング」とは、自宅での問題演習

です。「リフレクション」については、毎回、A5サイズ

のリフレクションシートを配布し、「その日の授業が理

解できたか」「メニューに示した目標がどの程度達成で

きたか」「質問事項」などについて書き込んでもらい、

授業後に提出してもらっています。全員必須ではありま

せんが、各授業、ほぼ全員分が提出されます。気になる

コメントには返信を書いて返却しますが、それができな

い場合は検印を押したり「OK」と書いたりするだけで

も、生徒は意欲が高まるようです。

 このように、私の授業では、「個で考えて、集団で深

めて、個に返す」という流れを重視しています。そして、

最後の「個に返す」部分がなければ学習は深まらないと

考えています。

 「深い学び」とは何か、まだ明確にイメージできない

部分もありますが、主体的・対話的な学びをクリアした

先に「深い学び」があるとも考えています。主体的に考

え、他者と対話することがバランス良くできた状態、成

り立った状態でなければ深い学びには至らないのではな

いでしょうか。この点については、授業研究などを通じ

てさらに検討していきたいと考えています。

生徒は教員の姿を映し出す「鏡」生徒の様子を見ながら授業の在り方を再考する

 また、今年度から教務主任になり校内研修などを行う

ことも増えました。若手教員には、ペアワークやグルー

プワークを取り入れた授業やICTの導入に関心を持つ教

員も多いのですが、それらは伝統的な授業のスキルがあ

ってこそ有効なものです。特に授業経験が少ない教員に

は、新しい手法ばかりを求めるのではなく、まずは教科

の知識や板書などのスキルを高め「チョーク&トーク」

の授業をできるようになろうと言っています。一方で、

ベテランの中には、「アクティブ・ラーニング」といっ

た言葉に抵抗を感じる教員も少なくありません。そこで

本校の教務部では、「アクティブ・ラーニング」などの

言葉を使わず、「生徒の様子を見ながら、『私の授業はこ

れでよいのか?』『授業をもっとよくできるのではない

か?』と足元を見つめ直して、授業を改善してほしい」

とお願いしています。

 生徒は教員の姿を映し出す鏡のような存在です。授業

中の生徒の様子を変えたいのであれば、教員が授業を変

えていかなければなりません。教員には、そうしたマイ

ンドセットの変化が求められていると思います。

(石丸先生提供)

<資料>「メニュー」の例