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前期量子論 1920年代の中頃の、古典力学、熱力学、統計力学から量子力学の構築が始 まるまでの過渡期を指しており、これまでの物理学を適用したのでは説明 できない物理現象を量子効果(現象)で説明した一連の理論を言う。 前期量子論は黒体放射(輻射)の理論を量子化により提唱したプランクら始まっている。続いて、アインシュタインが量子化の概念を光に拡張し て、光量子仮説を提案することで光電効果を説明することに成功した。そ の後、ボーアが原子を構成する電子軌道について、角運動量を量子化する ことにより、原子の離散的なスペクトルを説明する理論を提唱した。ド・ ブロイはアインシュタインの光を粒子と考える光量子仮説の逆の考え方を 導入し、物質にも波動が付随しているとしてその波長等の性質を計算して 示し、物質波(ド・ブロイ波)提案した。この物質波の提案はアインシュ タインにより認められ博士論文として公表されている。粒子性と波動性を 結びつける物質波の理論が前期量子論の最終段階であり、シュレーディン ガーの波動力学へと繋がって量子力学の構築の時代に入ることになる。

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前期量子論

1920年代の中頃の、古典力学、熱力学、統計力学から量子力学の構築が始

まるまでの過渡期を指しており、これまでの物理学を適用したのでは説明

できない物理現象を量子効果(現象)で説明した一連の理論を言う。

前期量子論は黒体放射(輻射)の理論を量子化により提唱したプランクか

ら始まっている。続いて、アインシュタインが量子化の概念を光に拡張し

て、光量子仮説を提案することで光電効果を説明することに成功した。そ

の後、ボーアが原子を構成する電子軌道について、角運動量を量子化する

ことにより、原子の離散的なスペクトルを説明する理論を提唱した。ド・

ブロイはアインシュタインの光を粒子と考える光量子仮説の逆の考え方を

導入し、物質にも波動が付随しているとしてその波長等の性質を計算して

示し、物質波(ド・ブロイ波)を 提案した。この物質波の提案はアインシュ

タインにより認められ博士論文として公表されている。粒子性と波動性を

結びつける物質波の理論が前期量子論の最終段階であり、シュレーディン

ガーの波動力学へと繋がって量子力学の構築の時代に入ることになる。

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量子力学の歴史

1900年 (量子化概念の導入)黒体放射観測から、プランクはエネルギーと周波数の関係式を導きエネルギーに量子化の概念を導入した。

E=hν 光子のもつエネルギー E は振動数 ν に比例する。hはプランク定数。

1905年 (光子による光電効果)光のエネルギーは量子化された光量子(光子)であると仮定してアインシュタインは光電効果を説明した。

1913年 (量子化による離散的な原子スペクトル)水素原子の離散的なスペクトルを量子化を用いた理論で説明することにボーアは成功し、前期量子論の端緒を開いた。

1924年 (物質波の理論)粒子性と波動性を結び付けるド・ブロイ波(物質波)の理論をド・ブロイが提唱した。

1925年 (量子力学の基礎理論)量子力学の基礎となるシュレーディンガーによる波動力学とハイゼンベルクらによる行列力学によって量子力学の基礎理論が導入された。

1926年 シュレーディンガーはこれらの二つの力学が数学的に等価であることを証明した。

マックス・カール・エルンスト・ルートヴィヒ・プランク

ヴェルナー・カール・ハイゼンベルク エルヴィーン・ルードルフ・ヨーゼフ・アレクサンダー・シュレーディンガー

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1927年 ハイゼンベルクは不確定性関係(不確定性原理)を導出した。同時期にディラックはクリフォード代数を導入することにより、確率が負にならない相対論的量子力学を構成している。これには、ブラ-ケット記法を用いた演算子理論を初めて使用している。

1932年 フォン・ノイマンは演算子理論としての量子力学の厳密な数学的基礎を与えた。

1950年代 ファインマン、フリーマン・ダイソン、シュウィンガー、朝永振一郎らによって量子電磁力学が構築された。

1960年代初頭から 量子色力学の構築が始まっており、現在の種々の理論はポリツァー、グロス、ウィルチェックらにより1975年に構築されている。

また、シュウィンガー、ヒッグス、ゴールドストーンらの先駆的研究に基づき、シェルドン・グラショウ、ワインバーグ、アブドゥス・サラムらは電磁気力と弱い力を単一の電弱力で表されることを独立に証明した(電弱理論)。

ポール・エイドリアン・モーリス・ディラック リチャード・フィリップス・ファインマン 朝永振一郎

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黒体輻射

黒体からの放射は実験ではある波長に極大をもち、その波長は黒体の温度の上昇に

ともない短波長側に移動することが知られていた。この現象を古典力学(統計力学)

の枠内で定式化してレイリー・ジーンズの法則とウィーンの法則が示された。

黒体:外部からのすべての波長の放射を吸収する物体であり、すべての波長を吸収するので色はなく黒くなる。カーボン・ナノチューブは200 nm -200 µm の範囲の広い波長域で 99 % の

光(電磁波)を吸収する

レイリー・ジーンズの法則長波長側で実験結果と一致し、ウィーンの法則は短波長側で実験結果と一致したが、全波長領域には適用できなかった。

レイリー・ジーンズの法則

ウィーンの法則

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空洞放射

黒体放射の実験的なモデルであり、空洞を囲む壁は光を含む一切の電磁波を遮断する十分に大きな空洞を考える。その大きさに対し十分に小さな孔を開けるが、空洞内部の状態の変化は無視する。その孔を通って外部から入った電磁波(光)は内部で反射するが、孔が十分に小さければ外部に出る電磁波は無視できる。この空洞は、外部から入射する電磁波を(ほぼ)完全に吸収する黒体とみなせるので、空洞からの熱などの放射を空洞放射と呼ぶ。理想的な黒体放射の実験系である空洞放射が温度のみに依存する、という法則が1859年にキルヒホッフにより発見された。空洞放射のスペクトルを説明する理論が研究され、1900年にプランクがプランク分布を示した。

空洞放射:黒体放射の実験的なモデル

温度Tの壁で囲まれた空洞が熱平衡状態にある

とき,この空洞にはどのようなスペクトルの光が存在するかを調べる実験を行う。

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プランクの光量子仮説

プランクは黒体では電気双極子が振動して電磁波を放出するとし、振動子の量子化を仮定した。振動子がもつエネルギー (E) は振動数 (ν) の整数

倍に比例するとして、後にプランク定数と呼ばれる比例定数 h=6.626×10-34J・sを導入した。

プランクの法則:振動子がもちうるエネルギー (E) は振動数 (ν) の整数倍に比例しなければならない。

E = nhν (n = 0, 1, 2, ...)

この比例定数 は物理学の基本定数となっている。

そして、ある温度の黒体から放射される電磁波のスペクトルは一定であり、温度 T において、波長 λ の電磁波の黒体放射強度 B(λ) が次式のプランク分布で表されることを示した。

1

12)(

5

2

kT

hc

e

hcB

全波長領域で積分すれば黒体放射の全エネルギーが T4 に比例するとのシュテファン=ボルツマンの法則が得られ、微分して B(λ) が極大となる λ を求めれば 放射強度最大の波長が T に 反比例するとのヴィーンの変位則が得られる。

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物質が光を吸収するとき、その内部の電子が励起され、電子が物質

から放出されることや光伝導や光起電力が生じることであり、励起さ

れた電子を光電子と呼ぶ。1905年にアルベルト・アインシュタインは

プランクの量子化の仮定と、光子の概念を用いて光電効果を説明して

いる。光量子仮説に従えば振動数νの光は電磁波であると同時にhν

というエネルギーをもつ粒子としても振る舞うことになる。

光電効果

1)波長が700nmの赤い光が板に照射しても、電子は放出されない。

2)波長が550nmの緑の光を当てると、速さが毎秒29.6万メートルの電子が放出される。

3)波長が400nmの紫色の光を当てると、放出される電子の速さは毎秒62.2万メートルに増加する。

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ド・ブロイ波

1924年にルイ・ド・ブロイが提唱した粒子性と波動性を結び付ける考え方であり、質量m の粒子が速さv (運動量pで運動する場合は、次式で示される波長λ に相当する波であると見なせ、この波長λ をド・ブロイ波長と呼ぶ。

kp

h

mv

h

2

惑星の公転は重力と遠心力が釣り合いエネルギーは均衡してる。しかし、電子と原子核では事情が異なる。

マックスウェルの方程式から荷をもった粒子が加速運動をするとき電磁場が発生する。エネルギーの保存則から、そのエネルギー源は回転する電子の運動エネルギーしか考えられない。電子の運動エネルギーは減尐して、原子核に落下するはずであるが、そのようなことは生じない。電子に波動性を導入すれば、その矛盾を解消できる。

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ラザフォード (イギリス: 1871 - 1937)はガイガーとマースデンの実験結果とトムソン模型の不成功とを考慮して、原子内のプラス電荷+Ze は原子全体に広がっているのではなく、かなり狭い範囲に局所的にかたまっており、そのかたまりとα 粒子のプラス電荷とがクーロンの斥力で反発しあって、α 粒子の大角度の散乱が起こると考えた。 そのかたまりを 原子核と呼び、有核原子模型を提案した。負電荷の電子は原子核の周りの軌道を回っている。

ラザフォードの有核原子模型

長岡は土星型模型を提案した。(1903)

しかし,電子が楕円運動をすると電磁波を放射してすぐに内部に落ち込んでしまうはずだから,ほとんど評価されなかった。

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ニールス・ボーア(1885-1962)は電子が決められた円軌道上に存在するかぎり、光を放射したり、吸収したりしないで安定であるという定常状態と、電子が別の軌道に移るとき初めて光の放射や吸収を行うという振動条件( )を仮定した。これらの仮定により水素原子の線スペクトルを説明することができ、水素原子の構造も明らかになった。

ボーアの原子模型

ド・ブロイの理論:電子に波動性があり(電子波)、安定に存在するには円周の長さの整数分の1が波長に等しくなければならない。半径rの軌道上にある電子にともなう波長をλとすれば、2πr/λ=n (n=1,2,…)のとき、電子は安定に存在する。

定常状態にはド・ブロイの量子条件を導入している。

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長岡半太郎やラザフォードの土星型原子模型の物理的な矛盾を解消するために1913年にボーアが提唱した。原子核の周囲を回る電子(負電荷)はクーロン力によって原子核(正電荷)の方向に引かれており、電磁気学の法則から電子は運動エネルギーを電磁波として放射するため、運動エネルギーを失い原子核に吸い寄せられるはずだが、実際には原子核の周囲を回る電子は電磁波を放射せず、原子核との合体もせずに運動を続けている。ボーアは、ド・ブロイの提唱した物質波を電子に導入してこの矛盾を解決した。原子核の周囲を回る電子の物質波は定常波あると主張した。原子核の周囲を運動する電子の軌道の長さは電子の物質波の整数倍であるとのボーアの

量子条件の式 を示した。電子は原子核の周囲を回

るときは特定の軌道のみを取り、これを原子軌道と呼ぶ。軌道に応じて電子のエネルギーの値が決まるので、電子は特定の飛び飛びのエネルギーしかもてず、これをエネルギー準位と呼び、電子が別の軌道に移るときは、エネルギー準位の差と同じエネルギーを吸収するか放出する。これは、原子はなぜ特定の波長の電磁波だけを放出したり吸収したりするのかという疑問をうまく説明した。

),3,2,1(2

nnh

mvr

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地球生物の誕生と進化における熱力学

地球の誕生 海での生命の誕生 植物(光合成)が

支える生態系

-45億年 -38億年 ±0年現在の地球生物系(生態系)

化学進化 地球上の元素で生体関連分子が生成する過程

原始生命の誕生

ダーウィン進化 遺伝情報の蓄積と変異により進化

進化はエネルギー利用システムの発展

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核膜をもつ真核細胞は独自のDNAをもち植物では寄生した葉緑体とミトコンドリアを動物ではミトコンドリアを、さらに小胞体、 ゴルジ体などの細胞内小器官をもつ

・これらは生体膜で区画された構造体である

・区画領域はそれぞれ化学反応槽となる

細胞の模式図

原核細胞は核膜をもたず、DNAは環状になってる

細胞は生体の化学反応槽

細胞は地球生物の基本単位

生体膜は区画性と同時に透過機構を備えている。

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宇宙と地殻における元素の存在量 (Si=1としHeとNeは除く)

原子番号 元素 宇宙 太陽表面 地殻

1 H 4 ×104 5.1 1.4×10-1

6 C 3.5 1 2.7×10-3

7 N 6.6 2.1 3.3×10-4

8 O 2.2 2.8 ×102 2.9

14 Si 1 1 1

・地球に生命が誕生したとき、地上に、さらには、宇宙に存在する元素が構成材料として用いられているはずである

・Siを除けば存在量の多いH、C、N、Oが生物の主要な構成元素である

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人体の元素組成(乾燥重量の%)

炭素 50 酸素 20

水素 10 窒素 8.5

カルシウム 4 燐 2.5

カリウム 1 硫黄 0.8

ナトリウム 0.4 塩素 0.4

マグネシウム 0.1 鉄 0.01

マンガン 0.001 沃素 0.00005

元素 % 元素 %

・人体の最大の構成分子はその60%以上を占める水である。

・人体の4大構成元素は宇宙に存在する4大構成元素と一致する。

特殊や希有な元素でなく、豊富に存在する元素により生命が誕生していることは、生命の誕生が自然な過程であったとも推測できる。

・原子番号で鉄までの元素は核融合反応で形成されるが、それ以上の元素は超新星爆発で形成される。

生体元素では銅(29Cu)、亜鉛(30Zn)、沃素(53I)が鉄(26Fe)より先の原子番号をもつ元素である。

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平衡状態における分子生成の原理

ある元素組成からなる系の平衡状態は

を最小にする状態として見出される。

(n:i結合の数, Ei : 結合エネルギー, i:共有結合の型)

A≒Σni・Ei

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T.L. Cottrell "The Strength of Chemical Bonds"[Butterworth, London & Washington D.C. 1958]

結合型

C-C

C=C

C≡C

C-H

C-N

C=N

C≡N

C-O

C=O

C-P

C=P

C≡P

C-S

結合エネルギー

[kcal/mol]

82.6

145.8

199.6

98.7

72.8

147

212.6

85.5

174

62

65

結合型

H-H

H-N

H-O

H-P

H-S

N-N

N=N

N≡N

N-O

N=O

N-P

N=P

N≡P

結合エネルギー

[kcal/mol]

104.2

93.4

110.6

77

83.0

21

100

225.8

53

145

50

138

結合型

O-O

O=O

O-P

O=P

O-S

O=S

P-P

P=P

P≡P

P-S

P=S

S-S

S=S

結合エネルギー

[kcal/mol]

41

119.1

84

120

112

48

116.7

55

54

84

CHNOPS元素系の主要菜共有結合の平均結合エネルギー

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化合物 平衡濃度 化合物 平衡濃度

Water 2.24 Carbon dioxide 0.88

Nitrogen 0.50 Methane 0.12

Hydrogen 0.18×10-1 Ammonia 0.15×10-3

Carbon monoxide 0.54×10-4 Ethane 0.34×10-7

Formic acid 0.25×10-9 Acetic acid 0.25×10-9

Methanol 0.73×10-11 Formaldehyde 0.13×10-11

Ethylene 0.88×10-13 Hydrogen cyanide 0.73×10-13

Methylamine 0.64×10-13 Acetaldehyde 0.81×10-14

Ethanol 0.92×10-15 Acetone 0.92×10-17

Ketene 0.19×10-17 Methyl ether 0.30×10-19

Formamide 0.24×10-20 Glycine 0.48×10-21

Acetylene 0.11×10-22 Lactic acid 0.20×10-23

Acetamide 0.11×10-23 Ethylene glycol 0.62×10-24

Benzene 0.52×10-25 Alanine 0.97×10-27

Furan 0.14×10-28 Pyrole 0.31×10-30

Pyridine 0.16×10-30 Cyanogen 0.77×10-31

Benzoic acid 0.65×10-31 Pyruvic acid 0.31×10-31

Pyrimidine 0.13×10-31 Phenol 0.10×10-31

Xylene 0.17×10-33 Benzaldehyde 0.12×10-35

Naphthalene <10-38 Anthracene <10-38

Asphalt <10-38 Oxygen <10-38

元素組成C2H10NO8の系における化合物の分布平衡(1気圧、 500 ℃)

[concentrations in moles per mole of total carbon]

[Dayhoff, M.O., Lippincott, E.R. and Eck, R.V. (1964) Science 146, 1461-1464]

アミノ酸 [glycine, alanine]

生体分子合成の基本分子 [formaldehyde, hydrogen

cyanide]

核酸塩基の基本構造 [pyrimidine]

エネルギー代謝の重要分子[ethanol, acetic acid, lactic

acid, pyruvic acid]

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ミラーの化学進化実験装置 [Miller, S.L.: Science 117 (1953), 528-529]

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CH4 + H2O ―――――→ HCHO + 2H2 メタン 水 放電 ホルムアルデヒド CH4 + NH3 ―――――→ HCN + 3H2 メタン アンモニア シアン化水素 Strecker-type synthesis HCHO + HCN + NH3 ―――→ CH2(NH2)-CN + H20 加水分解↓←2H20 CH2(NH2)-COOH + NH3 グリシン

最も単純なアミノ酸のグリシン(Glycine)の生成過程

4大生体元素からホルムアルデヒドとシアン化水素を介してアミノ酸が生成される。

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糖の生成 ブトレーロフが行なった実験 放置 trioses ( C3H603 )

nHCHO ―――――――――→ tetroses ( C4H804 )

(formaldehyde) ←――――――――― pentoses ( C5H1005 )

無機塩基触媒 hexoses ( C6H1206 )

核酸塩基アデニンAdenineの生成 5HCN in Ammonia water ―――――――――→ アデニン

100 ℃、1日放置 [オローとキンバル、1962年]

ヌクレオチドの生成 アデニン+リボース+リン酸―――――――――→ ATP,ADP,AMP 加熱または核エネルギー (ヌクレオチド) 核酸(ポリヌクレオチド)の生成:ATP、TTP、GTP、CTP、UTP:ΔG≒-7 kcal/mol ヌクレオチド ―――――→ ポリヌクレオチド(RNA, DNA) : ΔG<0

ヌクレオチド(Nucleotide)の生成と核酸への発展

ヌクレオチド=プリン塩基/ピリミジン塩基+糖(リボース/デオキシリボース) +リン酸

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原始地球の環境下におけるシアン化水素の生成速度

100 kcalの電気エネルギーで1モルのHCNが生成すると仮定すると、雷による放電は1.7 cal・cm-2・ year-1程度と考えて、4×10-5 mol・ cm-2・ year-

1のHCNが生成する。現在と同じ大きさの海洋に溶ければ、HCNの濃度は1.3×10-7 M・ year-1の割合で増加するので、1千万年経過すれば、1 M程度の濃度に到達できる。

原始地球の環境下におけるホルムアルデヒドの生成速度

Lyman α線 (1.0 cal・cm-2・ year-1) により、量子収率 0.5でHCHOが生成すると仮定すると、2×10-6 mol・ cm-2・ year-1のHCHOが生成する。現在と同じ大きさの海洋に溶けるとすると、HCHOの濃度は0.7×10-8 M・ year-1の割合で増加するので、1億年経過すれば、1 M 程度の濃度に到達できる。

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熱水鉱床(=海洋でのエネルギー源の発見) 熱水鉱床は海底拡大域の高温の地殻に海水がしみ込み熱せられて湧き出す現象として、1977年にコリスがガラパゴス海嶺の探査で発見し、熱水鉱床の周りに200

種類以上の新種のぜん虫や軟体動物,節足動物が見つかっている。地球内部から放出される全熱量の13%は、熱水を介して消費され、仮に 熱水の温度を50℃~400℃とした場合、100万年~1000万年間で全海水と同量の海水が熱水循環サイクルを通過することになる。

2600 mの深梅は、400 ℃近い熱水から硫化水素が噴き出し、硫化水素を使ってエネルギーを得るバクテリアが存在している。チューブワームは口も内臓も消化管もない生物でその内部には重量の90 %にもなる硫化水素で生きるバクテリアを詰めている。

イオウ酸化細菌はイオウ元素を硫酸までに酸化するエネルギーで、NAD(P)HとATPを得ている。

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生体の基本的な高エネルギー分子

ΔG=-7.3 kcal/mol

ATP(Adenosine TriPhosphate)

E0‘=-0.32 V

NAD(Nicotine Adenine

Dinucleotide)

(自由エネルギー変化)

(酸化還元電位)

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生体の合成反応と反応の結合

2つの反応を結合させたものはΔG<0となるので右側の割合を多くさせられる。

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大腸菌の生きている状態(非平衡状態/定常状態)と平衡状態

炭素原子:5.83x109

水素原子:9.83x109

酸素原子:2.67x109

窒素原子:1.55x109

大腸菌の構成元素の数

エネルギーを最小にする結合の分布C-H (98.7 kcal/mol): 4.064x109

C-C (82.6 kcal/mol): 9.64x109

N≡N (225.8 kcal/mol): 0.78x109

O-H (110.6 kcal/mol): 5.34x109

充分な時間

平衡状態

大腸菌構成生体分子の結合エネルギーの総和

-7.482x1010 eV

非平衡状態

-6.9836x1010eV

0.07 ev だけ平衡状態からずれている。