明治初期における一裁判官の法意識-三島中州の「民 明治大学 ......Meiji...

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Meiji University Title �-�- Author(s) �,Citation �, 32(2): 1-16 URL http://hdl.handle.net/10291/5593 Rights Issue Date 1994-01-30 Text version publisher Type Departmental Bulletin Paper DOI https://m-repo.lib.meiji.ac.jp/

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Meiji University

 

Title明治初期における一裁判官の法意識-三島中州の「民

事法律聞見隋録」と質地論-

Author(s) 村上,一博

Citation 明治大学社会科学研究所紀要, 32(2): 1-16

URL http://hdl.handle.net/10291/5593

Rights

Issue Date 1994-01-30

Text version publisher

Type Departmental Bulletin Paper

DOI

                           https://m-repo.lib.meiji.ac.jp/

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第32巻 第2一 号1999年 工月

明治初期 における一裁判官の法意識一 三島中洲の 『民事法律聞見隠録』と質地論

村 上 一 博☆

LegalThoughtsofaJudgeintheEarlyMeijiPeriod.

Kazuh{roMurakami

目 次

1.は じめに一司法官 としての三島中洲 一

2.『 民事法律聞見随録」 について

3.質 地論

(一)r随 縁』 と明治6年 「地所質入書入規則」

(二)新 治裁判所時代の質地問題

4.む す び

1. は じめ に一司法 官 と しての三 島中洲 一

漢学者 として世 に聞 こえ,二 松学舎の創設者 としても著名 な三 島毅(号 中洲)は,明 治5年 以来,

司法官 として明治政府 に登用 された経 歴を もつ㈲。彼 は,草 創期 における民事裁判の統一 と近代化 とい

う困難 な課題 を抱えて, フランス民法の法理を学 び,具 体 的紛争 の処理 に携 わった。福島正夫氏 は,

二松学舎大学に保管 されている三島の法律関係資料 を整理 され,彼 が,ボ ア ソナー ドらか らフランス

法理 の教 えを受 け, しか も同時に孔孟 の道 を守 り,こ れを近代法理 と調和 させ て 「礼法合一論」 を説

いた点 に注目 し, その思想展開の過程 を分析 されだ2)。

筆者 は,数 年来, 明治初期 の裁判官 が どのような準則 に則 って実際 の判決 を下 していたのか という

問題 に関心を もって きたが,福 島氏 に導かれなが ら,二 松学舎大学 図書館のご好意 によって 『中洲文

庫』 を閲覧する機会 に恵 まれ,前 編 において,明 治8年 から9年 にかけて三島が 「後来遵奉 スヘキ」

だ と考 えた 「裁判仕方心得」 を収載 した 『手控』 を紹介 した{3)。この 『手控』には,民 刑事 に関 して,

布告 ・指令のほか, 御定書百ケ条,3フ ランス民法,同 僚見込(論 決)な どといった新 旧様々 な典拠か

ら心得が採取 され てお り,明 治初期の裁判官が,フ ランス民法 を含 め,自 己の依 るべ き裁判基準 を模

棄 していた当時 の状況 を一瞥 することがで きた。 しか し,主 に紙幅の制約か ら,法 律 に関す る三島の

☆本学法学部専任講師

一1一

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明治大学社会科学研究所紀要

メモ書 きとい う点で 『手控』と同種のもの と患われ る,① 『聴訟準範』(正 続各三冊)と ② 『民事法律

聞見飽録』については言及することがで きなか った。 とりわ け,後 者 については,福 島氏 も夙に注目

された ところで,「実定法いまだ確立 しない当時の状況を示 して」「きわめて興味深い資料」〔aだと指摘

されなが ら,三 島がボアソー ドの説いた性法 と道徳 について,前 者を 「天法」=義 後者 を 「天道」=

仁 と解 していた部分 を中心に検討 されるに止 まっている⑤。

この ような理 由か ら,本 稿では,ま ず 『民事 法律聞見随録』の内容 を紹介 し,次 いで 『随録』中の

質地の取扱いに関する項 目に焦点をあてて,三 島がいかに裁判基準 を模索 していたか,そ の足跡 を辿

って み るこ とに した い。

(1)三 島の司法官 としての経歴 を示す と次の とお りである。

① 東京裁判所聴訟課勤務時代 明治5年7月 ~6年3月

② 新治裁判所所長時代 明治6年3月 ~8年3月

③ 東京裁判所民事部勤務時代 明治8年4J-1~9年2月

④ 大審院民事課勤務時代 明治9年2月 ~10年6月

⑤ 大審院検事 ・判事時代 明治21年3月 ~23年10月

(2>福 島正夫 「在朝法曹時期の三島中洲」〈『二松学舎百年史』二松学舎,1977年)24~73頁,お よび同 「三

島 中 洲 と中 江 兆 民 」(『 思 想 』641;,'一,1977年)84~100頁 。

(3)拙 稿 「明治初期 の裁判基準一二松学舎創立者:三 島中洲の 『手控』を手掛 か りに一」(『商経学会誌(rl

本文理大学)』第11巻1号,1992年)。 なお,拙 稿 「府県裁判所草創期の聴訟・断獄手続 一新 治裁判所 『四

謀略則』(二 松学舎大学中洲文庫所蔵)一 」(『法律論叢』第66巻3号,1993年)参 照。

(4)福 島正夫 ・前掲 「在朝法曹時期 の三島中洲」36頁 。

(5)そ もそ も東洋には存在 しなかった西欧の諸法理 を,自 己の漢学の素養 といかに整合的 に理解 しえたか

は,三 島に限 らず,明 治初期 の司法官すべてに共通する極めて重要な問題であろう・福島正夫'前 掲 「在

朝法曹時期 の三島中洲」43~71頁 の分析 を参照されたい。

2.『 民事法律聞見随録』 につ いて

『民事法律聞見隠録』(『中洲文庫』整理番号旧22・B)は,二 十行罫紙十一枚 に,三 島の自筆 によ●

り,商 法を含む民法関連の約三十項 目に亙 って記 されたメモ書 きであ る(表 紙 の表題 には 『民刑法律●「

聞見隠録」 とあるが,刑 事関係の事項 は一件 も含 まれてお らず,ま た,本 文の文頭 には 「民事法律聞

見飽録」 と記 されていることから見て,表 題の誤記ではないか と思われ る)。

冒頭 に 「従明治九年十月」,ま た末尾 に 「明治十年四月廿五 日」の記載があ り,三 島が明治9年2月

か ら明治10年6月 にかけて大審院民事課 に勤務 していた期間中に作成 された もの と推測 される。

この 『随録』は,既 に拙稿で紹介 した 『手控』 と同様,三 島が将来参考 とすべきだ と考 えた各種の

法準則 を抜粋記録 した覚書であ り,各 項 目の末尾 に,「 仏法」「玉乃[ノ 説]」 「ボアソ氏」「箕作氏説」'

一2一 一

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第32巻 第2号1994年1月

「自説」「仏説」「大審院決議」「司法省指令 」といった典拠が記 されている。但 し,『 手控』の場合 とは

異な り,布 告や指令が典拠 として引合に出される割合 は少ない。 ちなみに,先 に触れた 『聴訟準範』

では大半が布告や指令の抜粋 である。 こうした点 と,『随録』が三島の大審院判事在任中に記 された点

を併せて考えれば,こ のメモ書 きは,隠 々の懸案事項 を処理するにあたって,布 告や指令があればそ

の趣 旨を記 し,こ れ ら 「先例」が欠散 しているか,あ るいは事案 にそぐわない場合 には,フ ランス法

などを参照 しつつ新たな準則 を模索 していた,い わ ば裁判官 による法創造の過程を看取することがで

きる興味深い資料の一 つであると思われ る。

『随録』は,先 取特権 ・会社の身代限 ・動産質 と売買の効力 などについて,ボ アソナー ドらによる

フランス法の説明 を採用 しているが,必 ず しもフランス法一辺倒 というわけではない。 これ を排 して

日本lll来の習慣 を採用 している場合 も見られる。

例 えば,「期限後 ノ利息」は,フ ランス法が賃金 について出訴後は百分の五の利息 となるのに対 して,

日本ではIR来,契 約上の利息が消滅せず,法 定利息である百分の六が適用されないが,そ の理 由につ

いて,フ ランスの場合利息 は通常百分の五 より少ないの に対 して,日 本の場合は1・2割 であ り,違

約の損害 を被 った債権者の利益 を保護 するためには旧来通 り 「期限後モ約束 ノ利 ヲ取 ラセテ相当也」

とする(玉 乃世履の説 を採用)。

また,実 定法が欠如 している場合には,旧 慣の採否 によって判決が分かれ ることも止 むを得ない と

言 う。 「不動産 ノ負債」と 「不動産 ノ先約」では,質 入書入な ど負債ある不動産 を売買する場合,フ ラ

ンス法では買主が負債 を償却す るが,日 本 には 「成文律」がない。そのため,旧 幕以来の習慣 によっ

て売主に通常の借金 として償却 させる裁判 もあれば,買 主の代金中か ら償却 させ る裁判 もあ り様々で

あるが,「 成文律ナキ故二之 ヲ替ル ヲ得」ない。 さらに この場合,小 作権や借家権は,契 約期間中は不

動産 に伴 うのがフランス法であるが,日 本の旧慣では,売 買によって小作借家契約 は消滅 し 「買主 ノ

勝手」 となる。 これは1無 理 ナル事」であるか ら最近では 「条理」によって買主に先約 を継続 させ る

裁判 もある。旧慣 によるか 「条理」によるかは 「裁判官ノ見込次第」 であるとする(玉 乃世履 の説を

採 用)。

実定法が欠如 している上のような項 目で は,個 々の裁判官が裁判基準を模索 して,日 本の旧慣 とフ

ランス法の問 を揺れ動 き,な かには 「条理」 として実質的にフランス法を適用する裁判官のあった こ

とが窺われ る。『随録』には他 に,司 法省の指令 もい くつか引用 されているが,「 売掛 ノ出訴期 限」の

項 目では,指 令は 「成文律二非 レハ,裁 判官ノ見込次第ニテ,必 スシモ拘々セスシテ可 ナリ」と述べ,

指令の法源性 を相対化 していることも見逃せない。三島によれば,た とえ司法省の指令はあ っても「成

文律ナキ故二」,フ ランス法 ・日本の1日慣 ・指令のいずれ を採用す るかは 「裁判官 ノ見込次第」 であ り,

判決が区々に分 かれ る事態が生 じても 「之 ヲ欝ル ヲ得」ない と言 うのである。

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民事法律聞見随録

モシ差押 ヲ為ス トキハ 一費買ノ契約ナ リタル時ハ動産不動産 トモ所有権ハ移 レリ然 レ冊代 金 ヲ携ハ

先取 リノ権 ア リ サル時ハ實手二於テ其物 件 ヲ取戻 スノ権 ア リ佛法

一[コ ムマ ン ドマン]期 限スギタル時使吏 ヲ以テ愈済方 イタサ ゴルニ於 テハ

要決ノ書 財産 ヲ差押ヘル トテ手切 レノ掛合 ヲ為 ス ノ書ナ リ箕作氏ハ要決 ノ書 ト繹セー 亀

ー一一明治九年十月十二 日正院 ヨ リ司法省へ御達ニテ身代限 リノ節第一國税第二

身代限ノ先取順序 府縣税第三区入費先取 ノ権アルコ定 レ リ布告ニハ非ス

一・別戸 セザル子弟地券 ヲ受 ケ不動産 ヲ所持 ス ト難 モ戸主身代限 リノ節ハ皆没

収 セサル ヲ得 ス玉乃

一一差押へ分派ノ節先取ノ順序第一裁判入費 華聯 勢 菅次二租税ナル事ハ英佛

差押分派ノ順序 圧二同…法 ナ リ然ルニ不動産 ノ税ハ物二就 テ取ルコ故 二至當 ナレ圧動産 ノ

税ハ其物ハ既 二他韓 シ税 ノミ残 リシ時ハ 甲ノ物品 ノ税 ヲ他ノ物品代慣 ヨ リ

先取 リスルハ物二就 テ取ルニ非ス不條理 ナルニ似 タレ臣貸借ハニ人間 ノ私

約 ナ リ租税ハ公義ニテ西洋 出ル ヲ計テ入ル ヲ為ス會計 ナレハ租税一銭 欠 ケ

テ毛千萬人 ノ頭二掛 リ損 トナレ リ然ル時ハ私約二損 ヲサスルカ公i義二損 ヲ

サスル カ ト云ヘハ私約 二損 ヲ掛ケル筋ニ テ且公義 ノ損ハ私約 セシニ人 ノ頭

ニモ少 シノ損ハ掛ル可 シ私ハ公 ヲ滅スル ノ権 ナシ故二動産 ノ税 ト錐モ第二

ノ先取 ノ権 アルハ至當 ノ常理 ナ リ同」二

一佛 ノ訴訟 法不動産差押ヘノ代債 ヲ分派スルニ先取 ノ特権 アルモ ノニ分派 ス昌

差押人ノ先取 ル法ハ アレ托特権 ナキ通常貸金 ノ債主二分派 スル法 ナシ依 テ佛ノ実際 ヲ尋

ネタルニ[ボ アソ氏]苔 日ク通常債主 ノ内ニテハ差押 ヲ為 シタル者第一 二

先取 ヲ為 シ其鯨 ヲ諸債主へ金高 二慮 シ平 均分派スルナ リ

一地所 ヲ萱買 シ斐方戸長役所二出テ賓主 ノ地券工戸長 ノ賞買シタル旨ノ裏書

不動産所有権移ルコ ヲ受 ケ買主其地券 ヲ受取 リ縣鹿 二差出シ書替 ヲ願 中ニモシ萱主身代 限 トナ

リタル時共地券ハ費主 ノ財産二帰 シ費買 ノ契約ハ消滅 ス可シ何 トナレハ地

券 ヲ書替サ レハ所有 ノ権移 ラス トノ成法 アレハ ナ リ玉乃ノ説犀

一佛國ノ脅慣ハ金穀二関係 ノ讃書ハ其金穀 ノ高二從 ヒ割合 ノ謝金 ヲ[ノ テー

公証人へ謝金 ル}二 納ム金穀二関係ナキ委任状 ノ如キモノハ諦書枚数二從 ヒ謝金 ヲ[ノ

テ ー ル]二 納 ル ナ リボアソ氏

未必 ト偶生ノ別 一未必ノ條件讐騎 鍔 ㍊ 朝 輸

一偶生ノ條件倉購 銀 店 甥

右自家ノ憶解

一4一

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第32巻 第2号1994年1月

一未決人已決人民事訴訟差支ナク出来ルコ左 ノ手績ニ ヨル可 シ トボアソ氏 ノ

説 アリ

未決人ハ原告被告 トモニ代言ニテ許可シ

已決人ハ軽罪ハ代言重罪ハ後見 ヨリ訴フ可 シ重罪人ニハ民権 ナシ故二官

ヨリ後見管財人 ヲ命 シアル佛法ナ リ■

右 二付毅案スルニ日本 ニハ後見管財ノ設ケナキ故二重罪人ニテモ民権ア リ

代言 ヲ以テ訴訟 シテ構 ヒナカル可シ

一佛律二附掩物彰 ニハ期満免除ノ法ナシ

一箕作課 ノ五法中大審院 ト課スルモノハ[ホ ー トクール]ノ 事ニテ國事犯等

大審院 ノ重大刑事 ヲ庭分スル高等ナル臨時裁判所ニテ常二置カサル者ナリ覆審院

覆審院 ト繹 ス ルモノハ[ク ー ル トカ ツシヤ シヨ ン]ノ コニ テ控 訴裁 判所 ノ裁判 ヲ

破殿スル所ニテ即チ日本 ノ大審院二當 レリ箕{紙説

一現今 日本ニテ区裁判ハ百円以下 ヲ受理 スル ト定メタルニ千円ノ護書 ヲ百円

区裁判ノ権限 ダケ請求 シ残 リ九百円 ヲ拗棄シタルハ受理シ苦シカラザレ托百円 ツ 〉何度

ニモ割 リタルハ受理 ス可 ラス若 シ千円ヲ十ケ年賦返済 ヲ約シタルハ千円ヲ

十本 ノ談書 二割 リタル ト同一理 ニテ初 メ ヨリ約 ナ レハ受 理 シテ苦 シカラ1ス

ト見込 メ リ玉乃

一・佛國訴訟法義解二撹 初審次審ノ圖ヲ作ル左 ノ如シ

諸裁判所ノ権限

次/初 繍 初審

大審院 鰍{議 認 _螺1糠旛 \

初審 旛_初 審'

漁猟裁判所

L騰 晧 ヲ許サス

一洋説 ヲ漢訳ニスレハ略左 ノ通 リナル可 シ自説

天道天法ノ別 o天 道モラール道徳 トモ云 仁 ノ如 シ

己之所欲當施於人是天道

○天法 ドロー ナチユ ール性法 トモ云 義 ノ如 シ

己之所不欲勿施於人是天法

天法人法 トモニ左ノ三字ニテ約言ス可シ

勿害人

o勧 善是道徳モラール

o徴 悪是法律 ドロワ

一5一

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右 ノ如ク区分スレ圧其実ハ大法モ天道中ノー 部分ニテ天道ハ廣 ク及 ヒ大法

ハ 限 リア リ

其圖左 ノ如 シ

蹴幽L

一連帯負債主身代限 リノ庭分些里離 奔

連帯ノ身代限 リ 債主

期 限後'甲㌧金百圓

連帯負債主

. 寓/右 乙丙 トモ ニ身代 限 トナル時 ハ百 円 ヲ平 分 シ五 十 円 ツ 》一・・人 ノ負債 トナ シ

甲ハ他ノ債主 ト平頭 ノ割賦 ヲ受可 シ

債主

甲、金百計眼前

連帯負債主

右 ノ内乙他借ノ為二身代限 ヲ出セシ時期眼中ナレ托甲 ヨリ乙 ヲ相手取 リ訴

出 レハ百円ヲ乙丙丁三人二平分 シ三.二十三円三十三銭三三 ヲ一人 ノ負債 トナ

シ乙ノ割賦中へ入 レ甲ハ其割合 ヲ以他ノ債主 ト共二返金 ヲ受 ク可 シ六十六

'円 六十六銭六六 ヲ丙丁 ノ:負債 トナシ満期 ノ節償 ヒヲ受 ク可シ

一會社身代限 リノ処分佛説

會社ノ身代限 有名會社鰍 トモ云 頭弊 謁 婁

' 無名會社解 トモ云 講 多籔 讐

差金會社蒸緊〉混ス 蕪匿1准鴛 ラ蒙塵ヲ護ス

一 分 敬復利 金 ノ]ボ アソノ説

分散後ノ利息 分散後ノ残金鷺 リ再出訴迄利息ノ生セサルハ利息二高下ア リ債主中幸不

幸 アル故ナ リ

一6一 一

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第32巻 第2号1994年1月

一上等裁判所 ニテ法律二依 リ裁判 シタルニ原被 ノ中不服 ヲ唱へ大審院二上告

破鍛ノ審問中法律ノ変 シ同院二於 テ之 ヲ審問スルニ上等 ノ裁判法律二背カサル者 ト見認 タレ圧未

換 タ之 ヲ却下セサル中二政府 ノ法律改 マ リ改法二依 レハ上告者ガ勝訴訟 トナ

ル可キ場合改法二依 リ上等裁判所ノ裁判 ヲ破殿ス可キヤ決シテ破殿ス可ラ

ス何 ン トナ レバ大審院 ハ訴訟 ヲ終審 スル処二非 ス唯終審裁判ノ不適法 ヲ破

般スル権 アル ノ ミ故ニー旦終審裁判法二適 シテ執行 モ為サシメタルモノヲ

謂 レナク破殿 スルノ條理 ナケレハナ リ翼馨鹿癒 月

一佛 ノ法ニテハ利息ノ約 アル貸金モ期限後ハ利息ハ消滅 シ出訴ノ日ヨ リ始テ

期限後ノ利息 法律上百分ノ五ノ利息 ヲ生スルニ我邦ノ習慣ハ期限後モ約束ノ利息ヲ消滅

セシメザルハ不法ナルニ似タ リ然 冊其実不法二非ス何 トナレハ佛 ノ通常利

息ハ百分 ノ五 ヨリ少ナ シ故二法律上 ノ利 ヲ取 レハ債主ハ大二損害 ヲ償 フニ

足 レリ我邦 法律上ノ利 息ハ百分 ノ六ニテ通常一割二割 ノ利息 ヨリ甚 タ少 シ

期限違約サ レタル上二約束 ノ利 息 ヨリ落チ テハ債主ノ迷惑少ナカラス故二

期限後モ約束 ノ利 ヲ取 ラセテ相 當也 トス玉乃ノ説

一 甲者 ア リ乙者 ノ動産 ヲ質二預 リ金 ヲ貸 シ置 キタルニ乙者 甲者二掛合 モナ ク

動産 ノ質ハ費 買ヨリ重 此動産 ヲ丙者 二費ランコ ヲ約 シ代金 ヲ渡 セ トモ動産 ヲ渡サ 穿ルニ付 キ訴出

シ タ リ此時動産 ヲ現在預 リタルモノ権利強 シ其動産 ヲ競買 シ貸金元利 ヲ取 リ

残 リアレハ丙者之 ヲ代 金ノ償 ヒニ取 リ其鹸 ノ不足金ハ乙者 ヨリ償ハ シム可

シ佛説

一明治六年七月三十一 日迄二無年季 ノ質地諮文 ヲ書改 メサル時ハ其後何ケ年

無年期質地 立チテモ金 ヲ返セハ田地受戻 シ出来ル條理ナ リ然 任数十年立チタルモノハ

旧幕十年流地規則ノ節 既二流地 トナ リ唯空誇文遺 リタル者 ナビハ受戻 ノ効

験 ナシ大縦 決議

…丁夘前質入諦文ヲ明治六年七月又明治七年十月迄二書改メサレハ並ノ貸金

讃文書替サル質地 トナレハ元来丁夘前 ノ並貸金故二裁判二及ハス可然 ヤニ似 タレ冊右七月又

ハ十 月ニテ質入ハ消滅 シ八月又ハ十一月 ヨリ新二貸 シタル道理故二取上裁

判 ス可 シ融 省齢

一佛 ニハ期限後 モシ利息 ヲ渡 シ居ル諦 アレハ其利息 ヲ渡サ 》ルコニナ リシ時

出訴期限 ヨリ出訴期限[フ レスル リフシヨン]ヲ 起算スレ陀日本 ニハ右様詳細 ノ成

文律 ナキニ付縦令 ヒ期 限後二利息 ヲ梯 ヒ居 テモ成文律二依 リ期限満 日ヨリ

直二出訴期限ヲ起算スル裁判官アル可シ然レ托文ノ不備故鼻裁判官 ヲ欝ム

可 ラス唯條理 ヲ推究ス レハ利息 ヲ取 リシ迄ハ請求 ノ権利 ヲ馳棄 セサルニ付

利息 ヲ取ルコヲ止 メタル時 ヨリ出訴期限 ヲ請求ス レハ法 ノ不備 ヲ補 スモ ノ

ト謂 可 シ玉乃

一7一

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明治大学社会科学研究所紀要

一不動産ヲ賞ル時其不動産二金ヲ掛ケタルモノアリ笑麓 う懇 騒 タル時ハ其

不動産ノ負債 不動産 ノ負債 ナ リ是負債ハ不動産 二付廻 リ買主ニテ償却ス可キ佛ノ法ナ レ

κ日本ニハ成文律ナシ或ハ椿幕 ノ習慣二依 リ買主ハ素 ヨリ償却セス賓主二

並 ノ借金法 ヲ以 テ償却セシムル裁判モア リ又ハ買主ノ代金中ヨリ償却セ シ

ムル裁判モア リ様々ナレ圧成文律 ナキ故二之 モ智ル ヲ得ス玉乃

一前件 ノ場合小 作人借屋人 モ契約年限中ハ不動産二付廻 ル佛ノ法ナ レ尺日本

不動産ノ先約 ノ落慣ハ費買ノ契約二付小作借屋 ノ契約ハ消滅 シ買主ノ勝手ニナル]ナ レ

圧無理 ナルコニ付近来ハ條理二依 リ買主 ヲシテ先約 ヲ継績 セシムル裁判モ

' ア リ裁判官ノ見込次第 ナ リ玉乃

一金禄公債謹書ハ質入書入 ノ解禁マ テハ身代限 ノ差押二相成 ラス ト明治十年

二月司法省 ノ指令 ア リ

一佛ニテハ商人相互 ヒ費掛 ノ出訴期限ハ三十年商人 ヨリ平人ヘノ責掛ハーケ

年ノ出訴期限ナ リ

一 日本ニテハ右 二反シタル法律ナ リ故二平人 ヨリ商人ヘ ノ賞掛又平人相互 ノ

責掛モ皆一ケ年 ノ出訴期限二入ル可キ指令 ア リ然 托是ハ成文律二非 レハ裁

判官 ノ見込次第ニテ必スシモ拘 々セスシテ可 ナリ,

一明治十年四月中東京上等裁判所 ヨリ預 ケ金 ノ儀二付伺 ヒへ司法省 ヨリノ指

令左 ノ如 シ

伺 ノ趣封 ノ盤預カ リ置力或ハ融通使用 ヲ為サ 〉ル明文ナキ者ハ七年廿七

号布告ニヨリ…切通常貸借同様裁判致ス可キ義二付其旨可心得事

但 シ通常貸借同様処分スルニ於 テハ丁夘以前二係 ル者ハ裁判二及ハサ.

ル儀 卜可心得事

明治十年四月廿五目

3.質 地 論

(一)『 随録』 と明治6年 「地所質入書入規則」

『民事法律聞見随録』の内容 は以上の通 りであるが,問 題 は,三 島が どのような関心 と基準 に基づ

いて吝項 目の準則 を採用 しでいるかである。 『随録』のすべての事項 に言及する余裕はないが,以 下本

節 では,質 地の受戻 について検 討 してみたい。この問題ではフランス法の適用 は一応議論の外 にあ り,

布告 ・指令による錯綜 した旧来の質地慣習の整理が三島の当面の課題 となっているが,後 に述べるよ

うに,質 地 の取 扱 い は, 三島が新治裁判所長で あった時 期以来の懸案 であった と解 されるか らである。

『随録」では,質 地について,次 のような準則が記 されている。9

一8一

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第32巻 第2号1994年1月

④ 「無年期質地」

明治六年七月三十一 日迄三無年季 ノ質地証文 ヲ書改メサル時ハ,其 後何ケ年立チテモ金 ヲ返 七

八田地受戻 シ出来ル条理ナ リ。然 トモ数十年立 チタルモノハ,旧 幕十年流地規則ノ節既二流地 卜

ナ リ,推 察証文遺 リタル者ナ レハ受戻ノ効験ナシ。(大 審院決議)

⑤ 「証文書替サル質地」.

丁夘前質入証文 ヲ明治六年七月又明治七年十月迄二番改メサルハ並ノ貸金 トナレハ,元 来丁夘

前 ノ並貸金故二裁判 二及ハス可燃ヤニ似 タレ トモ,右 七月又ハ十月ニテ質入ハ消滅 シ,八 月又ハ

十一月 ヨリ新二貸 シタル道理故 二取上裁判ス可シ。(司 法省指令)

この準則の意味 を理解 し,三 島の抱 えていた問題 を明確 にするため,必 要な限 りで,維 新以来の質

地法制 を概観 してお くω。

明治政府は,廃 藩置県の直後から,旧 幕下の土地に対する諸制限を相次いで撤廃 してい った。明治

5年2月15日 の太政官第50号 布告 は 「地所永代売買ノ儀従来禁制ノ処,自 今四民共売買致所持候儀被

差辞儀事」 と述べて地所永代売買を解禁 し,「沽券」(地 券)発 行に道 を開 く。地券の発行 は,錯 綜 し

た担保地 についての名義決定の困難 さに直面 して,統 一的な土地担保法を不可欠 とする。そ こで発せ

られたのが,明 治6年1月17口 の 「地所質入書入規則」(太 政官第18号 布告)で ある。

そ もそも旧幕時代 の不動産質 には,① 無年季有合次第請戻文言の質 ・②年季明請戻文言の質 ・③年

季明流文言の質,の 三種が あった とされている。ただ し,本 来無期限た るべ き① については御定書の

元文2(1737)年 の制 により質入から10年 を過 ぎれ ば流地 とされ,②(江 戸時代中期で もっとも一般

的な質)は,元 文2年 に年季明後10年 内に請戻 すべきことに定 められた。③(江 戸時代後期でも'つと

も一般的な質)は,御 定書 によれば年季明後2ケ 月間は請戻権iが留保 されていた{2》。

ともあれ,該 布告 により旧来の不動産質の慣習 は整理 されることとな り,質 入 は占有担保 として無

占有担保である書入 と明確 に区別 され(第1~ 第3条),証 書 には戸長の奥書証印を要すること(第9

条),債 権者 に地券を引渡すべ く,年 期 は3年 以内 と定 められた(第4条)。 また,経 過借置 として,

当面年期中 にある質入は当該規則 に照準 して証 文を7月 末 までに書 き改 めるべ きことどされた(第14

条)。

また 同年2月141.1の 太 政官 第51号 布 告 は,地 所売買 解禁 後 は 「質地 ハ貸u_ヒ ノ事柄 」とな った ため,

明治5年2月16日 以後の質地 についての訴訟 は,「 羅売」=競 売 によって債務弁済 をさせ ることとし

た(3,(も っ とも,そ れ以 前 の質地 で 「年季 明 ケ不 受戻 時ハ 」従来 通 り流地 とす る)。 さ らに,同 年3月

27日 の司法省第46号 布達 によって,従 来の質地訴訟 は,証 文中に 「年季明不受戻候ハ ・流地可致 旨」

の文言があれば期限後2ケ 月,な ければ1C年 内に出訴すれば請戻 しが認め られたが,8月 以後は,右

文言の有無にかかわ らず,明 治6年 太政官第51号 布告により直ちに羅売の手続 を とることとされた(4}。

しか し,こ れ らの布告 ・布達 にもかかわ らず,旧 来の多様な質地慣習の取扱 いをめぐる紛糾 は後 を

絶 たず,各 府県や裁判所か らの伺が頻発 したため,同 年5月17日 の太政官第167号 布告 は・「地所質入

書入規則」にx;15条 を追加 して,従 来の質入については 「前約ノ年季据置不苦」〔5)fさらに翌明治7年

7月14日 の太政官第76号 布告では,第16条 を追加 して,明 治6年7月31日 以前 に期限 を過 ぎた質で も・

債権者が貸金返済の延期 をみ とめた場合には,明 治7年10月31日 までに戸長役場へ届出て戸長の奥書

一9一

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明治大学社会科学研究所紀要

割印を受ければ有効 な質 と認 める㈲,と するなど譲歩せ ざるを得なふ ったので ある。

以上のよ うな質地法制の展開を前提 として,先 の 『随録』の記述 を見てみよう。

④ は,「 地所質入書入規則」(太 政官第18号 布告)に よって無年期質地は否定され,明 治6年7月 末

迄 に証文を書 き改めるべき とされたにもかかわ らず,(太 政官第亘67号布告 によって従来の年期の据置

が認め られたためで もあろう)書 き改めなか った場合 には何年経過 して も田地の請戻 しが条理上 は可

能 となる。 しか し,こ れで は年期 を3年 以内 と定めた 「地所質入書入規則」の趣 旨に反す るため,数【

十年経過 した ものは,「 旧幕十年流地規則」すなわ ち,無 年季有合次第請戻文言の質 に関す る御定書の

請戻期限ID年 の定め,に よって既 に流地 となっている,と いう論理 によって,無 年期質地の新たな請

戻請求 を認 めないことを,大 審院判事間で取決 めた とい うのである。

三島が大審院民事課 に所属 していた明治9年2月 ~10年6月 に,無 年期質地の請戻 を直接 の争点 と

した裁判 はみられないが,質 地 をめ ぐっては,明 治9年 第18号 「可受取田地違約難渋」一件や同年第

55号 「質地証文換井流質地引渡一件」な どの事例があ り(η,近い将来 における無年期質地 の請戻訴訟に

備 えて,判 事間で見解の統一が計 られた もの と解 され る。

⑤ は,「 丁夘」す なわち慶応3(1867)年 以前の質入証文 は,「 地所質入書入規則」第19条 によれば

明治6年7月,又 明治7年 太政官第76号 布告によれば明治7年10月 迄 に書 き改めなければ,通 常の貸

金 として取扱 うこととなる。元来1日幕期 の貸金 は金公事 として裁判 にな じまない。 そこで,7月 又は

10月 で質入が消滅 し,翌8月 又はll月 か ら新たに貸金がなされた と考 えて裁判すべ しとする。一

三島は 「司法省指令」 とのみ記 して,出 所 を明 らかにしていないが,こ の準則 は,明 治8年1月22

日の山梨裁判所 からの伺に対する,同 年4月30日 の司法省の指令,す なわち 「明治六年七月三十一一日

以前二,約 定期限ハ過去 ト雌 モ実際未 タ流地ニナラスシテ依然質地 ヲ以テ据置タル分,同 七年十月三

十… 日迄二証書 ヲ改メス,旧 証書 ノ侭同十一月以後二訴 出タル分ハ,尋 常貸借 ノ処分可及事。」の趣 旨

を採 用 した もの と思 われ る(8。

三島は,布 告や布達の規定 を中心に,質 地 に関す る多 くの司法省指令 を参照 しつつ,そ れを取捨選

択 し,さ らに独 自な解釈を加 える ことで,@⑤ のような準則 を採用するに至 っている。 それでは,彼

はどのような視座か ら,質 地問題の処理 に臨んでいたのであろうか。 この点 については,彼 の新治裁

判所長時代が参考 となる。

(二)新 治裁判所時代の質地問題

質地問題の処理 は,新 治裁判所長時代 において も三島に とって頭 を悩 ます ところであった らしく,

司法省に対する新治裁判所 からの伺が数件,『 法例彙iや 『民事要録』〔9)などの伺指令録 に散見 され,.

当時の三島が直面 していた問題点 を知 ることがで きる。そのうち,重 要 と思われ る伺 は次の2件 であ

る 。

①明治6年i2月23日 新治裁判所伺㈹

太政官本年五十一母御布告但書二,壬 申二月十五日以前ノ質地ニテ年季明ケ不受戻 トキハ従前

ノ通流地 タルヘ シ ト有之候処,同 年三 月第四十六号御布達,従 前質地 ヨリ起 ル訴訟ハ,証 文 中二塾

年季明不受戻候ハ ・流地可致 旨の文言有之分ハ期限 ヨ リニ箇月,右 文言無之分ハ十ケ年 ノ内訴出 ・

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第32巻 第2号1999年1月

候ハ ・受戻申付来 リ候処,当 八 月以後ハ流地文言有無 二不拘年季明不受戻 シテ訴訟 ヲナス トキハ,

明治六年第五十一号御布告二基キニ箇月又ハ十ケ年ノ猶予ヲ与ヘス直二耀売ノ手続ヲ以テ裁判可

致 ト有之候二付テハ,当 八月以後ハ壬申二月十五 日前後 ノ無区別雑売ノ手続 ヲ以 テ裁判可致義 ト

存候へ共,太 政官五十一・号但書 ト矛楯致 ス様相考候間如何心得可然哉。

本年一・月太政官第十八母御布告地所質入書入御規則第四条中年期ノ儀ハ三年 ヲ限ルヘ シ,且 第

十五条中是迄質入書入二致シ置候分ハ前約ノ年期据置不吉云々有之二付テハ,右 御布告前ノ証書

ニテ,無 年期或ハ金子有合次第可受戻約定ノ質地 ヨリ起訴訟,是 迄ノ通十ケ年 ヲ以 テ期限 ト視倣

シ可 申哉,又 ハ御布告二基 キ三箇年ヲ期限 ト見倣 シ可申哉,或 ハ十年三年 ノ期限 ヲ不立出訴 ノ目

ヲ期限 ト視倣 シ,地 所不受戻時ハ直:二羅売ノ手続 ヲ以 テ裁判可燃哉。

②明治7年7月18日 新治裁判所伺〔"》

従前地所質入二致置年期中ノ分,昨 明治六年第十八号質入書入規則二照準シ,同 年七月限 リ可

書改筈 ノ処等閑置,右 規則二相触 レ候廉 ヲ以 テ即今書改メヲ訴出ル者有之候へ共,已 二其期限 ヲ

過 ルヲ以テ不取揚,追 テ年期後証出候節ハ,本 年第六号御布告二依リ質入又ハ書入無キ尋常貸借

ノ裁判 二及ヘ キハ勿論二俣処,石 質地 ノ権利 ヲ失 ヒシ者,直 小作証文取置,年 期中小作米金 ノ滞

り訴出候節ハ,既 二質地 ノ約定消滅二従 ヒ小作 ノ約定モ消滅スル筋ニテ不及裁判可然哉,然 トモ

質金モ年期後ハ尋常貸借ノ裁判二可及モノニテ尋常貸借 トテモ無利息ノ筈無之筋二付,右 小作米

金ヲ利 息 ト見倣 シ,年 期中ノ滞ハ取揚及裁判可燃哉,相 伺候也。

上の2件 の伺の趣 旨は,第 … に明治6年 太政官第51号 布告の但書は,明 治5年2月16日 以前の質地

で年季明 けに受戻 さなければ従来通 り 「流地」 としているのに対 して,司 法省第46号 布達 が,8'月 以

降は,明 治5年2月16日 以前以後を問わず,直 ちに 「羅売」の手続 を命 じてい るのは矛盾ではないか

とい うこと。第二に,「 地所質入書入規則」第4条 は質入の年期 を3年 以内 とするが,15条(太 政官第

167号 布告)に 「前約 ノ年季据置不吉」とあるか ら,規 則以前の質で無年期の約定 の場合 は従来通 り期

限 を10年 と見倣 してよいのか否か(以 上,伺 ①)。 第三 に,「 地所質入書入規則」第14条 は7月 末迄 に

書 き改 めを命 じたが,怠 った者について は年期後 に出訴 して も,太 政官第6号 布告(明 治7年1月19

日)に より通常貸借 の裁判 となるはずであるが,「 直小作証文」 を取っている場合 はどうか(伺 ②),

とい う こ とで ある。

こ うした新 治裁判 所 か らの疑 問{12)に対 して,司 法省 はそれ ぞれ次 の ように指令 してい る。

① 明治7年2月3H司 法省指令

明治六年第五十一・号太政官布告ノ本 旨ハ,壬 申二月十五 日第五十号布告 ヲ以テ地所売買ノ禁ノ

廃止 ニナ リタル上ハ,質 地ハ貸金 ノ質地ナルユへ,翌 十六 日以後 ノ質地 ノ証書 ヨリ起ル訴訟ハ,

其質地流地 ノ裁判二為サスシテ羅売返金ノ裁判 ニナスヘキ事ナルニ,各 地裁判所中ニハ従前 ノ習

慣 ニ テ流地 二裁 判 スル事 ノ聞ヘ アル ニ囚テ,此 五一1一一号 ノ本文 ノ布 告ニ ナ リタ リ。 壬 申二 月十五

日激前 ノ質地 ノ証書 ヨリ起ル訴訟ハ,従 前 ノ通流地 ノ裁判 ヲナス事適宜 タルニ因テ,此 ノ五十一

号但 書ノ布告ニナリタリ。サス レハ,明 治六年第五十一号布告ハ,質 地 ノ裁判二流地ニ ナス ト羅

売 ニナス ト二様 ノ区別アル事 ヲ布告 セシモノナリ。明治六年三月第四十六号司法省布達 ノ本 旨ハ,

従前質地 ヲ受戻 サン トスル訴訟ハ,其 証文中二流地ノ文言ア リテ,出 訴 ノ日期限後二月以内ナレ

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明治大学社会科学研究所紀要

ハ受戻サセ,其 証文中流地ノ文言 ナクシテ,出 訴 ノ日期限後十年以 内ナレハ受戻サスル習慣 ナ リ

シカ,質 地満期後二流地 ノ二字ノ有無二因 リ二 月 ト十年 トノ猶予 アルハ不都合 ノ事 ナル ヲ以 テ,

同年八月 ヨリ質地満期後 ノ訴 ナレハ,流 地文言 ノ有無二拘 ラス,明 治六年第五十一号 ノ布告二基

ツキ,審 判後直 二耀売 ノ手続ニナシ,二 月又ハ十年 ノ猶予 ヲ与 フル事 ヲナス可ナラス トノ布 達ナ

リ。比布達二,明 治六年第五十一号 ノ布告二基 ク ト云ルハ,本 文 ノ羅売 ヲナス事二基 クヘキ事 ヲ

示スノ ミ,但 書 ノ流地 ノ事ハ基 カスシテ可ナ リト云事 ヲ示スニアラサルナ リ。 サス レハ,明 治六

年第四十六号司法省布達ハ,質 地受戻 ノ裁判二流地文言アル ト流地文言 チキ トニ因 テ二様 ノ区別

アル従前ノ習慣 ヲ廃 シ,流 地文言ア リテモ流地文言ナ クテモ満期後 ノ猶予 ヲ与ヘサル事ハ同一 ナ

ル ヲ布達セシ者ナ リ。右 ノ布達二八,質 地 ハ明治六年第五十一号 ノ布告二基 キ羅売 ノ手続 ヲ以 テ

裁判可致 トノミア リテ,壬 申二月十五 日以前 ノ質地ハ流地ニナスヘキ文言ナキユへ流地 ノ裁判ハ

為 スヘカラサル意味 ナルヘ シ ト解ス可 カラス。同布告 ノ文言 ノ本 文ノ耀売ノ文二基 ク トキハ,同

布告 ノ但書ノ流地ノ文 ニモ基 ク可 ト類推 シテ,流 地 ト耀売 トハ壬申二月十五 日前後ノ区別 アル意

味 ナ リ ト解 スヘ キ事。

無年季等ノ質地ハ,三 ケ年期二証文改メサスヘキ事。

② 明治7年9月25日 司法省指令

明治六年七月迄ハ小作証書 ノ通弁済サセ,同 年八月以降ハ尋常貸借 ノ所分二及 フ可 キ筋二付,

小作 ノ海溝等ノ訴ハ受理 スヘ カラス,尤 旧約満期二王 リ金子返済 ヲ訴ルニ砂テハ八月以後 ノ分ハ

元金 二百分六ノ利息 ヲ加 へ返済致サ ス可キ事。

但 シ,明 治六年八月一 日後ナ レハ証文書改 ヲ為ス事 ヲ願 フノ権利ハ コレナ シ ト錐モ,将 来三年

以内ノ質地証文 ヲ求ル ノ権利ハコレアル可 キニ付,金 主於 テ改テ新規質入証文 ヲ求ルニ借主従ハ

サル ヨリ,ソ ノ証文請求 ノ訴訟 ヲ為スパ格別 ノ事。

第一の論点について,司 法省は指令す る。明治6年 太政官第51号 布告 は,質 地裁判 に 「流地」と「羅

売」の二種類があることを定 めだ もので,明 治5年2月16日 以後の質地の裁判 は 「耀売」に(布 告本

文),同N以 前 の裁判 は 「流地」と(布 告但書)判 決すべ きである。司法省第46号 布達 は,質 地受戻の

場合に流地文言の有無によ り区別 する従来の慣習 を廃す ることを命 じたにす ぎず,同 布達 においても

明治5年2月16f-1前 後 で 「流地」 と 「耀売」を区別 する趣 旨に変わ りはない。第二点 については,無

年期な どの質地 は3ケ 年期 に証文 を改めさせるべ きこと;第 三点 については,8月 以後は通常の貸借

の処分 とし,「 小作 ノ滝 滞 」 とい った訴 えは不受 理 とす べ し,と す る。

三島や,彼 の属 した新 治裁判所 に限 らず,「 地所質入書入規則」を実施 するには,同 規定 に適合す る

ように従来 の錯綜 した多様な質地慣 習を強硬に整理 してい く必 要があった。 そのためには,布 告や布F

達の明確な解釈が不可欠であ ったであろ う。 とりわけ,第 一 の論点についての司法省の指令 には,太

政官第51号 布告 と司法省第46号 布達 を矛盾 な く解釈 しよう とする姿勢が顕著 に見 られる。

しかし,こ のような強硬な慣習整理 は,従 来の慣習に馴染 んだ人民の利益 を損 な うことにな りかね

な い 。

明治7年ll月19日 の新治裁判所伺(L3;には,三 島が新 しい担保法制で ある 「地所質入書入規則」の迅

速な実施 と,人 民 の利益保護 の間で苦悩 していた様子が窺われ る。

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第32巻 第2・号1994年1月

三島の伺(事 実上 は提言)の 要点 は二点であ る。第一 は,明 治5年 の太政官第50号;布 告に よって地

所永代売 買が解禁 された にもかかわず,「 愚昧下民」の問では依然 として,元 来,別 種であるべ き質入

と売買が混 同され,「 無年期元金買戻 ノ約」が行われている。 この契約が 「地所質入書入規則」に違背

す るか らといって通常 の貸借 として裁判す るのでは,「 素 ヨリ不敏 ノ民放甚慨然」であ る。そ こで,今

後 は, 地所売渡証文に 「無年期元金買戻 ノ約」 を禁止 してはどうか ということ。第二には,年 期明け

の節 には事 前に地主か ら受戻の掛合をす るはずであるが,「元来困窮 ヨリ質入致ス身元」であるか ら「金

子才覚遅延 シ」年期が明 けて始 めて受戻 の掛合 に及ぶ ものが大半である。 また,金 主が欲心か ら受戻

に故障 を述べ る場合が ままある。期限に少 しで も遅れれば受戻権 はな くなるが,こ れ は 「其実金主 ノ

不実意」か ら起 こる もので 「地主 タル者偶然」であるか ら,今 後は年期明 けに受戻 を認 める旨の返証

文 を地 主に渡 させ る ことに してはどうか,と 言 うのである。●

以上述べ てきた ように,・三島は,一 方では,旧 来の錯綜 した質地慣習を早急に整理 し,「地所質入書

入規則」を中心 とした近代的な担保法制の迅速な確立 と人民へのその周知徹底を指向しなぷらも,他

方 で は, 旧慣 に馴染 んだ人民 の利益 を可能 な限 り保護 しうる方策 を模索 していたのであ る。

(1) 牧 英正 ・藤 原明久編 『日本法制史」(青 林書院,1993年)289~293頁,丹 波邦男 ・福 島正夫 「土地 に関

す る民事法令の形成」(福 島編 『日本近代法体制の形成』下巻,日 本評論社,1982i{=)57~65頁,参 照。

(2) 石井良助 『f一本 法制史概 説』〈改版〉(創 文社,1960年)556~559頁,石 井 『明治文化 史2法 制a〈 新

装版〉(原 書房,重980年)573頁,お よび,小 早川欣吾 『日本担保法史序説』〈復刻版〉(法 政大学出版会,

1979年)293頁 以 下,参 照 。

(3) 明治6年2月14f1太 政官第51号 布 告

「壬申二月十五日第五十号布告ノ通,地 所売買被差許候上ハ,質 地ハ貸借上ノ事柄二付,翌 十六日以後ノ

証書ニテ質地ヨリ起ル訴訟ハ耀売ノ手続ヲ以テ済方可申付事。但,壬 申二月十五日以前取引ノ質地ニテ,

年季明 ケ不受戻時ハ,従 前 ノ通流地タルヘ キ事。」

(4) 明治6年3月27日 司法省第46号 布達

「従前質地 ヨリ起ル訴訟ハ,証 文中二年季明不受戻候ハ ・流地可教旨ノ文言有之分ハ期限ヨリニケ月,右

文言無之分ハ十年ノ内訴出候ハ ・受戻串付来候処,当 八月ヨリ以後ハ,流 地文言有無二不拘,年 季明不受

戻 シテ訴訟 ヲ為 ス時ハ,明 治六年第五一1…号 布告二基 キニ ケ月又ハ十ケ年 ノ猶予 ヲ与ヘス,直 二羅売 ノ手

続ヲ以裁判可致事。但,原 告被告双方熟議ノ游方ハ此限ニアラサル事。」

(5) 明治6年5月17E3太 政官第167号 布 告

地所質入書入規則増補第}5条

「是迄質入書入二致シ置候分ハ,前 約ノ年季据置不吉,尤 証文面等前文規則二触レ候廉ハ総テ相改可申

事 。」

(6) 明治7年7月14日 太政官第76号 布告

地所質入書入規則増補第16条

「従前取結 ヒタル質入書入 ノ約定 ニテ,明 治六年七月三十一 日前二期 限 ヲ過去 リタル分ニテ・債主 二於テ

貸金返済方二付延期 ノ勘弁ヲ加 フル者ハ,来 十月三十…日マテ三共地所所管ノ戸長役場へ届出・地所質入

書入規則第九条二準 シ奥書割印ヲ受クヘシ。若シ右E:眼 肉奥書割印ヲ受ケスシテ後日其証書ヲ以テ訴訟

二及 フトキハ質入書入ノ証拠ニ八相立サルニ付,裁 判上羅売分配ノトキハ先取ノ権利 ヲ失 ヒ質入書入ナ

キ貸借 同様 ノ処分二及 ブヘキ事。」

(7) 『明治前期大審院民事 判決録』1一 自明治8年9月 ・至明治10年12月 一(三 和書房・1957年)117~121

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頁,お よび178~182頁 。ちなみに,三 島 は,後 者 の事件では担当判事 の一人であ る。

(8)も っとも,山 梨裁判所伺が「明治七年第七十六号公布中,明 治六年七月三十一 日前二期限ヲ過キ去 りタ

ル トアルハ,蓋 シ玉串二 月十五 日前後 ノ別 ナク,広 ク丁夘以前 二係ル辞 ナラン」と述 べている点 について,

司法省指令 は特 に触れ ていない(後 指 『民事要録』中編,998~999頁)。 明治7年 太政官第76号 布 告にい

う 「従前取結ヒタル質入書入ノ約定」を 「丁夘以前」の約定 と解する他の伺・指令は,管 見の限 りでは見

当た らない。

(9)東 京裁判所編 纂 『民事要録」中編(明 治8年12月 印行)は,慶 応3年11{一:か ら明治8年4月14目 までの

太政官布告 ・司法省布達や伺 ・指令 を項 日別 に編纂 した ものである。以下,伺 ・指令の引用 は もっぱ ら本

書 に よ る 。

(10)『 民 事 要 録 』 中 編,886~890頁 。

(11)『 民 事 要 録 』 畔 編,958~960:頁 。

(12>新 治県か らも司法省 に対 して,同 様 な趣 旨を含んだ伺が出 されている。裁判所 か らの伺 との関連 につい

ては不明であ るが,参 考のために掲 げてお く(『民事 要録』 中編,894~898頁)。

明治7年1月23日 新治県伺

質地裁判上ノ儀二付,明 治六年第五十一号太政官公布但書二,壬 申二月十五日以前取引ノ質地ニテ年季明 …

不請戻時ハ従前ノ通可為流地 同年其御省第四十六号質地裁判上御布達二,証 文中年季明不請戻候ハ 、流i…地可致旨ノ文言有之分ハ期限ヨリニケ月

,右文言無之分ハ十ケ年ノ内訴魁傑ハ ・請戻申付来候処,癸 酉八

月ヨ リ以 後ハ流地文言有無二不拘,年 季明不受戻 シテ訴訟 ヲナス トキハ,明 治六年第五十一・号布告二基キE

ニケ月又ハ十ケ月ノ猶予ヲ与ヘス,直二羅売ノ手続ヲ以テ裁判可致 ト有之。右ハ壬申二月十五目前後ノ取

引二不拘,癸 酉八月ヨリ以後訴訟致シ候分ハ年季明ニケ月又ハ十ケ年ノ内訴出候 トモ直二羅売ノ法 ヲ以・ テ御裁判相成振事 ト了解罷在候ヘ トモ

,左 二胡伺候壬申二月十五[以 前 ノ取引ニテ同日以前年季明後二1

ケ月或ハ十ケ年過去分ハ無論流地ノ筋二付御取上無之哉。1

壬申二月十五日前後ノ取引二不拘,癸 酉八月以前季明後従前法猶予ノ年月過去候分モ前条同様相心得可i

金華翁舗 輔 ケ年相漁 モ、∫嬬 轍 二鱗 定勲 勉 質入.年酬 飾 過諦月 旨1

候へ八難取上流地申付候従前ノ法ノ処,第 四十六号御達ノ趣二致比較候ヘハ,右膿ノ分何ケ年相立候テモ

類 八月 ・リ膿 ノ諏 訴訟聯 耀 売ノ御裁判微 騰 然ル時八三1一ケ年針 ケ鰐 撫 引・質地2

先前規則二寄,金 主方ニチハ流地 ト決定所持致シ居候分 ヲモ,癸酉八月後受戻方訴訟致シ候ヘハ質置主ノ1

利運申迄モ無之儀ニテ無際限事二付,是 以癸酉八月以前十ケ年相過候分ハ同月以後ノ訴訟ニチモ御取揚1 1

無之御規則二俣哉。

前条第叶 六号礎 二ニケ月又ハ+ケ 到・ノ猶予・与ヘス ト・徽 言ハ源 告人ヘイ・与徽 言 ト了鰍 シ,…

サスレハ季明ニケ月十ケ年内二訴出候分ハ擢売,右 年月過去候分ハ総テ流地ノ御規則 ト相心得可然哉。併 …

元来質地ハ金銀取引上ノ義務二村,季 明不受戻シテ訴訟ヲナス トキハ金銀游方為致候旨趣ニテ,前三ケ条11

ノ外ハ流地等ノ御裁判八難之儀哉。有相伺候也。

明治7年2月22嗣 瀦 指令i取」・ケ流地ノ裁判可脇i

四十六号布達ハニケ月十 ケ年 ノ猶予 ヲ廃 シ直 二羅売 ノ処分 二及 フ事 ヲ示 シタル迄ニ テ,五 十一一号御 布告i

但 シ書,二 月十五 日前 ノ質地 ヲモ羅売ニ スル トノ儀ニハ無之 二付,二 月十五 口以前定約 ノ質地 ニシテ期月

後訴出ル時ハ直二流地申付,翌 十六日以後ノ質地ニテ期月後訴出ル トキハ直二羅売ノ処分二及 フヘキ事

ト可心得事。

無年季ノ質地ハ,明 治六年第一1ヲV号並第百六十七号御布告二因 リ,質地証文改正ノ節二無年季ノ分ハ三ケ

年二改正ス可キ儀二付,同 八月以後八難年季ノ質地ハ無之筈,若 君改正ヲ経ス従前 ノ証書ヲ以テ訴出ル ト

キハ,本 年第六号御布告二依り尋常貸借ノ処分二及 フ可キ事。

但,決 定所持スル トハ,村 役場ノ簿帳 ラモ書改メ之レ有ラバ流不流 ヲ論スル迄モ之ナク,已 二金主ノ地'1

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第32巻 第2号1994sFl月

所 ナ リ。若 シ然 うス シテ金主於 テ十年 ヲ過去 タル ヲ以 テ自ラ流地 ト心得居 タルマテナ ラバ本条 ノ通 り可

心得事。

季明後ニケ月十ケ年内外二因リ羅売流地ノ差別八難之,総 テ走狗期限過去タル以後ハ訴訟起ルニ従ヒ直二

耀売 ノ処分 二及 フヘシ。尤,壬 申二月十五 日前ノ定約質地ハ流地二可申付事。

(13) この伺は,「民:事要録』などの伺指令録には収載されていない。福島正夫氏が,東 京大学付属図書館所蔵

の 『聴訟規則』(筆写本)中 に見出されたものである。以下,福 島正夫・前掲 「在朝法曹時期の三島中洲」

30~31頁 よ り引 用 す る 。

明治7年ll月19日 新治裁判所伺

壬申二月十五 日御布告,地 所永代売買被差許候二付テハ,右 十五 日前後ノ証書二不拘一切売買ノ契約為相

遂候ハ勿論二候へ共,右 売買渡証文ノ内往々年期無年期元金買戻ノ約定有之,其 実質地二不興候処,癸 酉

十二月七日新潟県不動産無年期買戻ノ約定裁判方ノ伺へ,旧 幕質地 ノ規則 ヲ以御指令有之上ハ,売 渡証文

ニチモ買戻ノ約定有之モノハ総テ質地ノ裁判可致儀者承知致シ候特典,元 来質入 ト売渡ハ別種 ノモノニ

テ,愚 昧下民二於テ裁判上ノ儀迄承知モ不致候処ヨリ,是 迄取置候質入証文ノ儀ハ,癸 酉第十八号質入御

規則通 リ書改メ候得共,売 渡証文ハ書改不申,且 以後 トテモ買戻シノ約定差止メ候期モ無之,因 テ差纏 ヲ

生シ訴出候節俄二右質入御規則二違背候 トテ尋常貸借ノ裁判致シ候而者,素 ヨリ不教ノ民放甚偶然二被存

候。左候 トテ買戻ノ約 ヲ為遂候 トキハ,売 渡 ノ名ヲ仮 リ質入ノ実ヲ行 ヒ折角御定メノ質入規則モ有名無実

二帰シ可申 ト被存候。外国ニチモ典契売契混清不明ノ弊有之者 ト被存,清 律典売田宅条例中,嗣 後期係典

契務於契内謹明回続字様如係売契亦於契内証明,絶 売永不同蹟字様 ト有之。本朝二於テモ,今 後地所売渡

証文二年期無年期元金買戻ノ約ハ御禁止被為在候テハ如何可有之哉。

質地年期至レバ前以地主ヨリ受戻ノ掛合可致筈二俣得共,元 来困窮ヨリ質入致ス身元ノ事故,金 子才覚遅

延 シ,年 期明ケ候節始 テ受戻ノ掛合二及 フモノ十 ノ八 九ニテ,金 子無子細受戻 ヲ許 ス者 モ有之候へ共,往 々

地所 ヲ貧ル ノ心 ヨリ,半U一 一日ニチモ期限二後 レタル ヲ幸二受戻 ヲ許 サズ,或 ハ期限前 ヨリ掛合二及 ベ ド

モ態 ト返答遷延 中二期限 ヲ切 ラシ受戻 シヲ許サズ,依 テ地主 ヨリ訴出候処,既 二年期明 レバ半11一 「1過候

テモ受戻 ヲ求ルノ権ナク,又 前以掛合候旨申立候得共無証拠二付是迄取揚裁判不致候処,其 実金主ノ不実

意 ヨリ起 り地主タル者慨然二付,右 受戻ノ掛合又訴訟ノ為二,年 期後半月或パー月ノ猶予御許二相成候へ

ハ可燃哉ニモ被存候ヘ ドモ,窮 民ノ麟惰,右 猶予日限 ヲ目的二気分相弛 ミ猶予日限後二王 リ始テ受戻ノ掛

合二及 ビ詰 り年季 ヲ延 シタル同様可相成ハ必 然二付,今 後ノ質地 ハ,必 ス金主 ヨリ年期明ケレバ受戻 ヲ許

ス旨ノ返証文 ヲ地主二為渡置,後 日年期明ケ金主欲心 ヨリ受戻ヲ故障スル節,地 主ヨリ返証文ヲ以テ取戻

掛合中差纏 ノ証拠 トシテ訴出ル トキハ取揚裁判可致筋 ト被存候間,右 等ノ御規則被為立候テハ如何可有之

哉奉伺也。

この ような提言に対 して,司 法省 は,「意 見申出 ノ趣承置キ候。評議 ノ上改 正致サ スシテハ差支之 レアル

事二決スルニ於 テハ其 旨正院へ建白致 ス可 ク候事。」 と指令 してい るがその後の経緯 は不明 である。

なお,伺 の前段の始めに 「癸酉十二月七日新潟県不動産無年期買戻ノ約定裁判方ノ伺へ,旧 幕質地 ノ規

測 ヲ以御指令有之」として引用 されているのは,次 のよ うな伺 ・指 令である(『 民事 要録』中編,881~882

頁)。

明治6年12月7日 新潟県伺

不動壕 ヲ買取 シ,売 者へ,右 不動産ハ代金返済次第何時ニ チモ相違 ス可 キ趣 ノ証文 ヲ入 レ置 ク者ア リ。数

十年ノ後,売 者 ヨリ賢者へ掛 り受返 ヲ求ル訴訟ハ,旧 幕府規則,年 季限無之金子有合次第可受証文,質 入

ノ年 ヨ リ十ケ年過 候ハ ・流地 トアルニ准シ,裁 判不及哉,此 段相伺候也。

明治7年1月13EI司 法省指令

伺之通,受 返 ヲ求 ムル権 ハ之 レ無キ旨理会 シ,訴 状下ケ戻 ス可キ事。

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明治大学社会科学研究所紀要

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4,む す び

本稿 では,三 島中洲が,大 審院民事課の判事であった時期に纏 められた と推測 され る 『民事法律聞

見随録』の内容 を紹介 し,そ の中の質地の取扱いに関す る項 目を中心に,三 島がいかに裁判基準 を模

索 して いたか,そ の足 跡 を辿 ってみ た。 、.

実定法が整備 されていなか った当時 一少な くとも旧民法の公布以前一にあっては,太 政官布告や司

法省か らの布達 ・達や指令 が,裁 判 に際 して重要な拠 り所 とされていたことは言 うまで もないが,こ

れ らが相互 に矛盾 すると思われる場 合 も少な くな く,整 合的 に解釈す るには多 くの困難 を伴 っていた

し,こ うした場合,裁 判官による個別的な取捨選択の余地が相 当程度に残 されていた。 また,こ れら

の 「先例」が欠如あるいは不十分 な事項 を処理する際 には,フ ランス法理が参考 された ことも十分な

説得力 をもって窺われるのである。

本稿では,『 中洲文庫』の関連資料 が断片的なこともあって,こ うした諸点についての論証 は不十分

であ ると言わね ばならない。明治初期の司法官の法思想 についての研究が殆 ど進展 していない現状 に

おいては,今 後,新 たな資料の発掘が切望 され るところである。

(む らかみ かずひろ〉

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