「経済調査コラム」 近畿地区の鉱工業生産指数と個別業種と...

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1 近畿地区の鉱工業生産指数と個別業種との相関関係について 平成 25 年 11 月 25 日 近畿財務局経済調査課 専門調査員 筒井 1.はじめに 近畿財務局では、四半期ごとに近畿地区の経済動向を「管内経済情勢報告」として公表しています。25 10 月に公表した「管内経済情勢報告」(79 月期の経済概況)では、総括判断は「緩やかに持ち直し ている」とし、3 期連続で上方修正しました。また、生産活動の基調判断については、個別の業種の動きに 生産の増加、減少はあるものの、全体としては基調に変動がない状況を勘案し、前回の「持ち直しつつあ る」との判断を据え置きとしました。 本レポートでは、生産活動の基調判断の主な根拠となっている鉱工業生産指数(季節調整済)について、 月次や四半期からの視点とは異なる長期的視点に着目し、近畿地区全体の生産指数とそれを構成する個 別業種の生産指数との関係性はどのような状況にあるかという視点から、生産全体の増減に対する個別業 種の一定の相関性の状態について考察することとします。 2.鉱工業生産指数(季節調整済)と個別業種の生産指数の相関関係 今回は、近畿経済産業局から公表されている「近畿地域の鉱工業指数(IIP)」を原データとし、相関関係 (注 1 )について統計手法を使用して検証することとします。なお、比較期間は、公表データの 2003 1 2013 8 月とし、業種分類は平成 17 年基準の 18 業種分類とします。 グラフの縦軸は個別業種の生産指数、横軸は近畿地区全体の生産指数を示し、それぞれの月次の生 産指数の交点をプロットしています。また、各グラフ内の右上数値は、個別業種と近畿地区全体の生産指 数の相関係数を示しています。(注 2 (1)正の相関が高い業種 (9 業種) 1 相関の強さや両変数の関連性を測る統計量。その値は-1 から 1 までの値をとり、相関係数の値が 1 に近いほど、変数間の 「正の相関が高い」といい、一方の値が増加するとき、もう一方の値も増加する。また相関係数の値が-1 に近いほど、変数間 の「負の相関が高い」といい、一方の値が増加するとき、もう一方の値は減少する。なお、相関係数が 0 に近いほど、データ間 の関連性が弱くなり、相関係数がほぼゼロのとき、無相関という。 2 鉱工業生産指数は、基準時点において各業種に占める割合が大きい品目(平成 17 年基準は 496 品目)について生産実績を 調査し、その実績値と基準時点のウェイトを用いて加重平均して総合指数を作成している。今回は各業種の季節調整済の値 及び同値ウェイト考慮後の値の両数値を用いて相関係数の計算を行い、いずれも同数値が算出されることを確認している。 60 80 100 120 60 80 100 120 輸送機械 0.876 50 70 90 110 130 50 70 90 110 130 鉄鋼業 0.867 正の相関が高いため(相関係数が 1 に近い)、 右上がりに収斂し、グループを組成 「経済調査コラム」

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Page 1: 「経済調査コラム」 近畿地区の鉱工業生産指数と個別業種と …kinki.mof.go.jp/content/000075447.pdf4 3.まとめ 鉱工業生産指数(季節調整済)と個別業種の生産指数との相関関係を検証することに

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近畿地区の鉱工業生産指数と個別業種との相関関係について

平成 25 年 11 月 25 日

近畿財務局経済調査課 専門調査員 筒井 肇

1.はじめに

近畿財務局では、四半期ごとに近畿地区の経済動向を「管内経済情勢報告」として公表しています。25

年 10 月に公表した「管内経済情勢報告」(7~9 月期の経済概況)では、総括判断は「緩やかに持ち直し

ている」とし、3 期連続で上方修正しました。また、生産活動の基調判断については、個別の業種の動きに

生産の増加、減少はあるものの、全体としては基調に変動がない状況を勘案し、前回の「持ち直しつつあ

る」との判断を据え置きとしました。

本レポートでは、生産活動の基調判断の主な根拠となっている鉱工業生産指数(季節調整済)について、

月次や四半期からの視点とは異なる長期的視点に着目し、近畿地区全体の生産指数とそれを構成する個

別業種の生産指数との関係性はどのような状況にあるかという視点から、生産全体の増減に対する個別業

種の一定の相関性の状態について考察することとします。

2.鉱工業生産指数(季節調整済)と個別業種の生産指数の相関関係

今回は、近畿経済産業局から公表されている「近畿地域の鉱工業指数(IIP)」を原データとし、相関関係

(注1)について統計手法を使用して検証することとします。なお、比較期間は、公表データの 2003 年 1 月

~2013 年 8 月とし、業種分類は平成 17 年基準の 18 業種分類とします。

グラフの縦軸は個別業種の生産指数、横軸は近畿地区全体の生産指数を示し、それぞれの月次の生

産指数の交点をプロットしています。また、各グラフ内の右上数値は、個別業種と近畿地区全体の生産指

数の相関係数を示しています。(注2)

(1)正の相関が高い業種 (9 業種)

(注1)相関の強さや両変数の関連性を測る統計量。その値は-1 から 1 までの値をとり、相関係数の値が 1 に近いほど、変数間の

「正の相関が高い」といい、一方の値が増加するとき、もう一方の値も増加する。また相関係数の値が-1 に近いほど、変数間

の「負の相関が高い」といい、一方の値が増加するとき、もう一方の値は減少する。なお、相関係数が 0 に近いほど、データ間

の関連性が弱くなり、相関係数がほぼゼロのとき、無相関という。

(注2)鉱工業生産指数は、基準時点において各業種に占める割合が大きい品目(平成17年基準は496品目)について生産実績を

調査し、その実績値と基準時点のウェイトを用いて加重平均して総合指数を作成している。今回は各業種の季節調整済の値

及び同値ウェイト考慮後の値の両数値を用いて相関係数の計算を行い、いずれも同数値が算出されることを確認している。

60

80

100

120

60 80 100 120

輸送機械 0.876

50

70

90

110

130

50 70 90 110 130

鉄鋼業0.867

正の相関が高いため(相関係数が 1 に近い)、

右上がりに収斂し、グループを組成

「経済調査コラム」

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(2)正の相関が認められるが低い業種 (2 業種)

50

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50 70 90 110 130

非鉄金属0.858

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電気機械0.858

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70

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50 70 90 110 130

一般機械0.840

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プラスチック製品0.837

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70 80 90 100 110

パルプ・紙・紙加工品0.760

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100

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60 80 100 120

精密機械0.759

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110

70 80 90 100 110

金属製品 0.738

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60

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120

40 60 80 100 120

情報通信機械0.511

70

80

90

100

110

120

70 80 90 100 110 120

化学工業0.477

相関係数がゼロ以上であるが、0.5 程度であり、正の

相関はそれほど強くない

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(3)おおむね無相関と判断される業種 (4 業種)

.

(4)負の相関が高い業種 (1 業種)

(5)判別が困難な業種 (2 業種)

60

80

100

120

60 80 100 120

窯業・土石0.295

60

90

120

150

180

60 90 120 150 180

電子部品・デバイス0.225

70

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90

100

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70 80 90 100 110 120

石油・石炭製品0.185

60

120

180

240

60 120 180 240

鉱業0.004

70

80

90

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110

120

70 80 90 100 110 120

食料品・たばこ-0.122

70

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90

100

110

120

70 80 90 100 110 120

その他工業0.778

50

70

90

110

130

50 70 90 110 130

繊維工業0.498

負の相関と無相関が混在2 つの無相関のグループ

が存在

相関係数がマイナス

相関係数がゼロ近傍

右下がりのグループを組成

全体の生産指数と反対の動きをとる

相関係数がゼロ近傍にあるため、ばらついて分布

し、相関性は、あまり認められない

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3.まとめ

鉱工業生産指数(季節調整済)と個別業種の生産指数との相関関係を検証することに

より、おおむね、5つのグループに区分されることが分かりました。全体の生産指数と個別業

種の生産指数の動きは、月次ベースでは、その時々の個別の要因によって当然に一致、

不一致のケースが発生します。しかし、10 年程度の期間で両者の関係をみると、ある程度

の相関性を有していることが示されます。

上記 2.(1)の正の相関が認められる 9 業種は、業種により相関性の強さは異なりますが、

近畿地区全体の生産指数と同様の動きを示し、生産指数の上昇、下降に合わせて同一

方向に推移しています。

(2)の 2 業種は、(1)と比較すると相関性の強さは弱まりますが、正の相関が認められま

す。

特に「情報通信機械」は、地デジ化スタートの際の薄型テレビ等の駆け込み需要の反動

影響などにより 2010 年 11 月以降、景気の変動に関わらず生産減少が継続していることが

正の相関関係が弱い一因であると思われます。

また、「化学工業」は、品目内容のうち約 30%のウェイトを占める医薬品の生産が安定

的であると推測されるため、同様に相関関係が弱いと考えられます。

(3)のおおむね無相関と判断される 4 業種は、近畿地区全体の生産指数とは、あまり関

係のない動きを示しています。

「窯業・土石」は、計測期間 128 ヶ月のうち、期中の景気の変動に関わらず 79 ヶ月で生

産指数が 100 を超えているため、近畿地区全体の生産指数との相関関係は、あまり認めら

れません。主に海外向けのガラス基板などが生産増加の背景にあると思われます。

「電子部品・デバイス」は、海外の生産や需給状況、市況等外部環境に影響を受けるこ

とから、生産に大きなばらつきが生じています。このため、相関係数がゼロに近づき、近畿地

区全体の生産指数の動きとはあまり相関性が認められない状況となっています。

また、「石油 ・石炭製品」と「鉱業 」は、基準時点のウェイトが低く、反映されるデータ量も

小さいこともあり、相関係数がほぼゼロのため、相関なしといえるでしょう。

(4)の「食料品・たばこ」は、相関係数がマイナスのため、近畿地区全体の生産指数とお

おむね逆の動きを示すことが分かります。品目内容のほとんどが、生活必需品である消費

財のため、景気変動に関わらず一定の生産が行われているためであろうと思われます。

なお、(5)の「その他工業」と「繊維工業」は、生産財と消費財など異なる性質、用途のも

ので品目内容が構成されていることもあって判別不能の状況を示しています。

近畿地区全体の生産指数と個別業種の生産指数との相関関係について一定の検証

が進みましたが、今後、動きの背景にある業種ごとの特性について月次の検証の中で考察

していきたいと考えています。