急性期病院における 認知症ケアの取り組みについて学ぶ ·...

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急性期病院における 認知症ケアの取り組みについて学ぶ 2018年9月14日(金) 13:00~14:00 医療法人社団浅ノ川 浅ノ川総合病院 認知症看護認定看護師 川島由賀子 平成30年度 専門的看護実践力研修【認知症看護】事業

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急性期病院における 認知症ケアの取り組みについて学ぶ

2018年9月14日(金)

13:00~14:00

医療法人社団浅ノ川 浅ノ川総合病院

認知症看護認定看護師 川島由賀子

平成30年度 専門的看護実践力研修【認知症看護】事業

DATA

医療法人社団浅ノ川

浅ノ川総合病院

病院理念

『救急から在宅まで、地域の医療を守り支える病院を目指します』

住所:金沢市小坂町中83

開設:1951年

病床数:499床(一般:339床(障害者施設等入院基本料病棟:47床を含む)、医療療養:160床(回復期リハビリテーション病棟:50床を含む)

診療科:20科目

看護部理念

『患者さんに心のこもった看護・介護を提供します』

⇒考える看護集団

DATAで見る浅ノ川総合病院 【疾患別患者数ランキング】

1位 白内障

2位 脳腫瘍

3位 大腸ポリープ

4位 脳梗塞

5位 誤嚥性肺炎

6位 肺炎等

7位 てんかん

8位 腎臓・尿路の感染症

9位 ウィルス性腸炎

10位 結腸の悪性腫瘍

H29年度実績

“認知症ケア加算”算定の意義と取り組みの概要

当院では、高齢の患者さんが多かったが、認知症ケアに取り組みがなかった

2016年診療報酬で「認知症ケア加算」が新設されたときに算定を目指すのは当然の流れ

医師・社会福祉士・薬剤師・リハビリ・看護師に働きかけ

認知症ケア推進委員会の設立

総合入院体制加算2が平成28年度診療報酬改定で新設され、1日180点を加算することができるようになった。施設基準の1つに、認知症ケア加算1の届出が定められた。

“認知症ケア加算”算定の意義と取り組みの概要

看護部の中でも、認知症に対する理解がまだ深まっていなかったので、まず、全スタッフが認知症を理解することが必要と考え、そのうえで、“認知症ケア加算”とはどのようなものであるかについて勉強会を師長会・副師長会、各部署での勉強会を行った

開催のきっかけは、診療報酬であったが、勉強会の真の目的は、より良い認知症ケアを実践することで患者のもてる力を引き出すこと

医師・社会福祉士・薬剤師・リハビリ・看護師に働きかけ

2016年の診療報酬改定で、身体疾患のために入院した認知症高齢者への病棟での取り組みや多職種チームによる介入が評価され、認知症ケア加算として、新設された

“認知症ケア加算”算定の意義と取り組みの概要

認知症の人の医療とケアの目標

1.生活機能の1日でも長い維持

2.行動・心理症状(BPSD)の緩和

3.家族の介護負担の軽減

4.生活習慣病の治療の継続

認知症ケア回診の概要

方法:毎週木曜日14時~全病棟対象で事前に回診、相

談依頼を受ける

対象患者:主治医、看護師により選出

情報収集:患者、家族、主治医、看護師、カルテより

回診コメント:カルテ記載(回診医師・看護師)

処方・指示:主治医(原則として)

回診メンバーの役割:11名

医師 認知症の診断、処方案の提示

薬剤師 薬物動態、薬物使用上の注意・相互作用に関する情報提供

看護師 認知症に関するアセスメント、ケア内容・方法の検討、ケアや薬剤効果の有害事象の観察、ケアの承認・評価、患者・家族へのケア

• 【認知症高齢者の日常生活自立度判定基準】が入院時・入院後ランクⅢa以上 • 認知症によるBPSDや意思疎通困難さが見られ、治療やケアを進めるうえで、対応に苦慮している

• 主治医に同意を得る

• 【認知症ケア回診依頼書】記載し、メールで水曜日16時までに、川島まで提出

水曜日16時までに回診患者・時間を電話で管理者PHSに連絡

認知症看護認定看護師は訪問し、回診する患者・時間を設定 評価管理「認知症ケア」に記載

*随時対応

各委員に毎週水16時までに対象患者を連絡 (メール)

委員

病棟看護師・管理者・多職種

毎週木曜日 14時~ チーム回診・カンファレンス

1. 認知症又は認知症が疑われる患者

焦燥、不穏、攻撃性(暴行、暴言)叫声、活動障害(徘徊、常同行動、被害妄想、嫉妬妄想)、食行動の異常(異食、過食、拒食)、妄想(物とられなど)、幻覚、誤認、感情面の障害(抑うつ、アパシー、不安)

2. 身体拘束を行っている患者

3. 向精神病薬を処方されている、追加、増量となった患者

4. 転倒転落した患者 5. せん妄を発症した患者

標準看護計画立案・NANDAに追加 入院による認知症症状に出現、悪化している *看護指示に毎週木 認知症カンファレスを追加

チームによるケア提供 薬物の調整、治療の見直し、転倒転落予防のための環境調整、痛みや頻回な尿意などの症状への対応、睡眠パターン改善のためのアクティビティなど各職種の

専門性をいかしながら、チーム全体としてケアを調整

回診内容を認知症ケア計画書に記載

看護計画内容確認

委員 病棟

毎週木曜日 14時~ チーム回診・カンファレンス 認知症推進委員、病棟看護師、

必要時応じて主治医参加

当院での状況 H29年3月

入院患者数(実人数) n=992名 認知症高齢者

日常生活自立度Ⅲ以上 ⇒193名(19.5%) 認知症ケア回診 ⇒13名(6.7%) 【疾患名】 • 下腿骨折/腰椎圧迫骨折 • 硬膜下血腫/脳梗塞 • 誤嚥性肺炎 • 蜂窩織炎 • 心不全 • 脱水

75歳以上が約半数

相談依頼詳細 帰宅願望 3

暴力・暴言 2

脱衣行為 1

大声・奇声 7

妄想・幻覚 3

徘徊 3

不潔行為 0

せん妄 3

ケアへの抵抗 5

昼夜逆転 3

その他 3

ルート抜去、不穏、転倒

BPSDの分類 患者本人の影響 看護師への影響 他の入院患者への直接的影響

相談対応の分類 ケア 薬剤調整 その他:精神科受診

介入後のBPSDの変化 NPIの減少:10 NPIの変化なし:3 ⇒身体疾患が改善することで変化

認知症をもつ人を普通にみかける社会

病院で認知症をもつ人が入院

病院における認知症の問題

急性期病棟:9.1~50.4% Hickey,1997

• 治療上のトラブル • 管理上の問題

病院で認知症が疑われるきっかけ

治療の面

① せん妄の発症 ② 脱水 ③ 低栄養 ④ コンプライアンス(アドビアランス)の問題 • 服薬の問題(定期的な内服が管理できない、頓服薬を使えない) • 定期的な受診ができない(予約を守れない) • 処置などのセルフケアが困難 • 緊急時に自分で対応できない(発熱時に病院に連絡できないなど)

管理の面

⑤ 転倒・転落 ⑥ ルートトラブルなどのインシデント ⑦ 退院後の予期しない再入院、緊急入院

認知症高齢者の転倒リスクの特徴

薬剤・環境・その他のリスク

認知症に由来するリスク

認知機能障害 • 記憶障害 • 視空間認知障害 など

行動・心理症状 • 抑うつ、アパシー • 焦燥や攻撃性 など

加齢に伴う身体面のリスク

• 運動機能(筋力やバランス等)の低下 • 間隔機能(視覚や聴覚等)の低下 • 身体状態(心疾患や失禁)の悪化

認知症高齢者の特徴をふまえた 転倒・転落の発生要因

• 認知症に伴う認知機能の低下

• 認知症に伴う身体の症状や運動機能障害

• 薬剤の副作用

• 入院や治療などの影響

転倒を引き起こしやすい作用・副作用ともつ主な薬剤➀

作用・副作用 主な薬剤

精神・神経機能の低下

眠気 ふらつき 注意力低下

• ベンゾジアゼピン系睡眠鎮静薬、抗不安薬 • 抗精神病薬 • 抗ヒスタミン薬 • 抗アレルギー薬

失神 めまい

• 高血圧治療薬(Ca拮抗薬、α1遮断薬、利尿薬)

• 糖尿病治療薬(Su薬、インスリン) • 抗コリン薬(クラスⅠa群不整脈薬、鎮痙薬)

せん妄 • パーキンソン病治療薬 • H2受容体遮断薬 • Β遮断薬 • ベンゾジアゼピン系睡眠薬 • 麻薬

転倒を引き起こしやすい作用・副作用ともつ主な薬剤②

作用・副作用 主な薬剤

運動機能の低下

失調 • 抗てんかん薬

脱力 筋緊張低下

• 筋弛緩薬 • ベンゾジアゼピン系睡眠薬、抗不安薬

パーキンソン様症状(錐体外路症状)

• 抗精神病薬 • 抗うつ薬 • 制吐剤 • 胃腸障害治療薬

その他

起立性低血圧 • 抗うつ薬 • 高血圧治療薬(α1遮断薬) • 排尿障害治療薬

視力障害 • 抗コリン薬 • 抗結核薬 • 副腎皮質ホルモン

転倒に関連した危険な行動

1 突発的な行動をとる

2 興奮して動き回る

3 看護・介護援助に対して抵抗する

4 車椅子の座位姿勢バランスが崩れる

5 危険に対して意識せず行動する

6 指示に従わず1人で行動(移乗・トイレ・歩行など)しようとする

7 状態が悪い時でも普段と同じような行動をする

8 車椅子から急に立ち上がったり、歩き出そうとする

9 実際はできない行動(歩行・立位・移乗など)を自分1人でできると思って行動する

10 尿意・便意を感じると、突発的にトイレに行こうとする

11 尿意・便意が気になって落ち着かない

鈴木みずえ:認知症高齢者の転倒の特徴と予防対策:Modern Physician.,34(10),1183.2014

認知症高齢者の特徴をふまえた 転倒・転落予防策

• 認知症患者の尊厳を大切にした視点

• 声にならない声に耳を傾け行動の意味を理解しようしたうで、転倒リスクをアセスメントするとともに予防策を検討する

• 入院前の生活や人生史をケアに生かす

• 生活リズムを整える

• 療養環境を整える

• 本人・家族との十分なコミュニケーション

事故防止委員会とのコラボレーション

• 各部署の年間の転倒転落に関するデータをフィードバックし、対策・実践

• 入院時転倒転落チェック表の見直し

• 転倒に関するポスターの作成

まとめ

オーダーメイドの対応を目指す

一人ひとりの患者について、認知機能、生活機能、生活スタイルなど様々な情報を多角的にアセスメントし、一人ひとりオーダーメイドで対応の仕方を検討し、ケアにかかわるもの全員が決めたことに取り組めるようにする

“認知症ケア加算”算定の取り組みを通し、スタッフの意識が変わった?

• スタッフの認知症への関心が確実に広がった。結果、学習意欲が高まり、自発的に研修に参加しているスタッフもいる

• 患者対応においても、それでまでどちらかといえば、治療優先だったものが、入院生活全体をケアする視点に立つものになった

今後の方針

病院に入院した患者さんはいろんなステージの方がいる。認知症の人も確実に増えている。スタッフはそれぞれの患者さんに応じたケア、家族への対応ができることが大事。患者さんが退院した後も、訪問看護・訪問リハビリできるような病院として、今後も地域の中での役割を果たしていく

総合病院であっても患者さんが退院したらそれで関係が終わるのではない。地域に根差した病院としてはその後のフォローも重要。地域としての役割をしっかり果たしていきたい。

おわりに

2016年診療報酬改定の認知症ケア加算の要件に課題はあると思いますが、この機会をケアの原点に戻るチャンスととらえ、今一度自施設のケアを把握し、認知症ケアを考え学ぶ時間をつくって、自施設の質の向上にいかすチャンスなので、今後も

取り組んでいきましょう!