医療経済学 第7回 情報の非対称性と保険 1 情報の非...

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医療経済学 第7回 情報の非対称性と保険 1 コンテンツ 時間 クイズ 15分 モラルハザードと医療保険 15分 アドバースセレクションと医療保険 40分 シグナリングと医療保険 10分 来週は小テスト(ただし持ち帰り) 10分 情報の非対称性 いままでの事例 企業または医療機関が多く の情報を持っている 企業や医療機関の機会主義 的行動に対して,どのよう なスキームで対処するべき 今回の事例 消費者が自分自身の情報や 行動を隠しているために, 保険会社の情報が少ない その結果引き起こされるモ ラルハザードやアドバース セレクションにどのように 対処すべきか 2 情報の非対称性 モラルハザード 契約の前後で行動が変化する問題一般. アドバースセレクション 契約前に情報が欠如しているために発生する問題 3 契約前 アドバース セレクション 契約 自動車保険 医療保険 契約後 モラルハザード 保険におけるモラルハザードの例 4 保険 事前・加入前 事後・加入後 医療保険 健康注意 健康注意を 怠る 喫煙による疾病には保険 が適用されなかったら? 火災保険 火の元注意 火の元注意を 怠る 飲食店が火災保険に加入 していなかったら? 自動車保険 安全運転 運転が 荒くなる レンタカーで保険をかける のを忘れたら? 自動車保険 保管注意 保管注意を 怠る 盗難保険がなかったらガ レージに車を止める? 失業保険 急いで 仕事探し ゆったり 仕事探し 失業保険で暮らせるなら 仕事を探すのがめんどく さくなる?

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医療経済学 第7回 情報の非対称性と保険

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コンテンツ 時間

① クイズ 15分

② モラルハザードと医療保険 15分

③ アドバースセレクションと医療保険 40分

④ シグナリングと医療保険 10分

④ 来週は小テスト(ただし持ち帰り) 10分

情報の非対称性

いままでの事例 • 企業または医療機関が多くの情報を持っている • 企業や医療機関の機会主義的行動に対して,どのようなスキームで対処するべきか

今回の事例 • 消費者が自分自身の情報や行動を隠しているために,保険会社の情報が少ない • その結果引き起こされるモラルハザードやアドバースセレクションにどのように対処すべきか

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情報の非対称性

• モラルハザード – 契約の前後で行動が変化する問題一般.

• アドバースセレクション – 契約前に情報が欠如しているために発生する問題

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契約前 アドバース セレクション

契約 自動車保険 医療保険

契約後 モラルハザード

保険におけるモラルハザードの例 4  保険 事前・加入前 事後・加入後

医療保険 健康注意 健康注意を 怠る

喫煙による疾病には保険が適用されなかったら?

火災保険 火の元注意 火の元注意を怠る

飲食店が火災保険に加入していなかったら?

自動車保険 安全運転 運転が 荒くなる

レンタカーで保険をかけるのを忘れたら?

自動車保険 保管注意 保管注意を 怠る

盗難保険がなかったらガレージに車を止める?

失業保険 急いで 仕事探し

ゆったり 仕事探し

失業保険で暮らせるなら仕事を探すのがめんどくさくなる?

保険以外でもモラルハザードの例 5

  事前 事後 例

固定給 努力します 努力しない 努力してもしなくても給料は同じ

輪読形式ゼミ 準備万全 担当者以外 準備しない

担当者以外があたらないと分かっていたら

定期試験のみ 毎回出席 します 出席しない 成績評価が定期試験のみだから,出席なんて

出席のみ まじめに 予習復習 スマホいじる 成績評価が出席のみだから,講義なんて...

医療保険とモラルハザード 6

①保険加入

②健康注意減少  健康習慣悪化

③医療需要増加

②自己負担定価

需要曲線のシフトとモラルハザード

受診回数

自己負担医療費

O

D0

2

保険加入後

保険加入前

31

3000円

10000円

4 5

一部負担減少 健康悪化

D1

7 自動車保険とアドバースセレクション 1.  100人の消費者がいる –  高リスクグループは50人,低リスクグループは50人. –  高リスクグループは事故率が0.2,低リスクグループは0.1.

–  1件あたりの修理代はどちらも1件あたり10万円. 2.  高リスクグループは3万円以下,低リスクグループは1.5万円以下ならば保険に加入する.

3.  保険会社は高リスクグループには2.4万円,低リスクグループには1.2万円で保険を販売することを計画している.

4.  もしも,保険会社が消費者のタイプを見抜くことが出来るのであれば,両グループとも保険を買うことができる.めでたし,めでたし

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つづき 5.  実際には,保険会社は消費者のタイプを見抜くことはできないが,タイプの分布は知っているとしよう.そこで,平均的な保険料であるに保険料を設定した. –  1.8=(2.4×50+1.2×50)/100

6.  その結果,低リスクグループは保険購入を見送ったが,高リスクグループは保険を購入した.

7.  翌年収支を閉じてみると,収入が足りなくなり保険は破産に追い込まれ,高リスクグループも保険が買えなくなった.

8.  結局だれも保険を買うことができなくなった. 9.  教訓:悪貨は良貨を駆逐する *Akerlof(1970),レモンとピーチ,

9 自動車保険とアドバースセレクション 10

  プランA

見分けがつく場合 プランB

見分けがつかない場合 高リスク 低リスク 高リスク 低リスク

支払い上限 3.0万円 1.5万円 3.0万円 1.5万円 事故率 0.2 0.1 0.2 0.1 保険料 2.4万円 1.2万円 1.8万円 加入者数 50人 50人 50人 0人 保険金 10万円 10万円 10万円 10万円 収入 120万円 60万円 90万円 0万円

*期待支出 100万円 50万円 100万円 0万円 期待利潤 20万円 10万円 -10万円 0万円 合計 30万円 -10万円

*期待支出=事故率×加入者数×保険金

リスク分類 • 前の例では保険会社がリスクタイプを見抜くことができなかったために,保険市場は成立しなかった.破綻を回避するための一つの方法はリスク分類(日本ではリスク細分化)である. • リスク分類のもとでは次のように保険料を設定する. –  見かけ上リスクの小さそうな個人には低い保険料 –  見かけ上リスクの大きそうな個人には高い保険料

• 自動車保険のリスク分類の例 –  年齢(20歳未満+)・性別(男+)・優良運転者(ゴールドカード-・無事故-)・利用方法(レジャー-・通学通勤+)・年間走行距離(長い+・短い-)・居住地域(関東甲信越-・関西九州北海道+)・安全装置(ABS・エアバッグ・イモビライザー,装着車-)・新車(-)

• 医療保険のリスク分類の例 –  年齢・病歴・喫煙の有無・ライフスタイル(ベジタリアン)・遺伝子情報

11 事故歴を使ったリスク分類 • 事故歴のあるドライバーの中には高リスクが多い,反対に事故歴のないドライバーには低リスクが多い(とする). – 保険会社は事故歴は知っている.

• 事故歴あり – 保険料2.4万円. – 事故歴のあるが低リスクのドライバーは保険を購入しない.

• 事故歴なし – 保険料1.2万円 – 事故歴なしには高リスクと低リスクが混じっている.全員購入

• 保険市場は成立する. – 全員が保険に加入できたわけではないから,アドバースセレクションが完全に解消されたわけではない.

– プランAよりも加入できなかったドライバーが存在し,利潤も減少.

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自動車保険とアドバースセレクション 13

 

プランA 見分けがつく場合 プランCリスク分類

高リスク 低リスク 事故歴あり 事故歴なし

高リスク 低リスク 高リスク 低リスク 支払い上限 3.0万円 1.5万円 3.0万円 1.5万円 3.0万円 1.5万円 事故率 0.2 0.1 0.2 0.1 0.2 0.1 保険料 2.4万円 1.2万円 2.4万円 1.2万円 加入者数 50人 50人 45人 0人 5人 45人 保険金 10万円 10万円 10万円 10万円 10万円 10万円 収入 120万円 60万円 108万円 0万円 6万円 54万円 期待支出 100万円 50万円 90万円 0万円 10万円 45万円 期待利潤 20万円 10万円 18万円 0万円 -4万円 9万円 合計 30万円 23万円

交通事故を起こす意外な要因は

•  InsuranceHotline.comの調査では、年齢よりも星座の方が交通違反や事故に大きく影響すると示された。ワーストドライバーはどの星座?

•  「星座」は交通事故を引き起こす重要な要因だ̶̶カナダの保険見積もりサービスInsuranceHotline.comが2006年12月13日、このような調査結果を発表した。同社が集めた過去6年間の北米の交通データを基に、10万人のドライバーについて違反チケットの数や起こした事故の件数などを調べたところ、交通事故の予測において、ドライバーの年齢よりも生まれ月の方がずっと重要であることが示されたという。「その結果、特定の星座のドライバーがより違反チケットをもらう傾向があることが分かった。またある星座のドライバーは事故を起こすよう運命付けられているようだった」と同社の社長リー・ロマノフ氏は述べている。

•  同社によれば、星座別ワーストドライバーは天秤座。「天秤座はバランスとコンセンサスを望む。素早い決定を好まない」という。それに「衝動的な」水瓶座、「自己優先的な性質を持つ」牡羊座が続く。ベストドライバーは「寛大で、快く道路を共有することができる」獅子座だという。「保険会社は保険料率を決めるときに、住んでいる地域や車種など多くの変数を考慮しているが、皮肉なことに星座という最も重要な要素を見落としている」(同氏)

•  http://www.itmedia.co.jp/news/articles/0612/14/news027.html

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交通事故を起こす意外な要因は(つづき)� 15 順位 星座 備考 1 天秤座(9/23-10/22) 素早い決定を好まない 2 水瓶座(1/20-2/18) 衝動的でスピードと反抗の星の下にある 3 牡羊座(3/21-4/19) 自己優先的な性質を持つ 4 魚座(2/19-3/20) 空想にふけるのを好む 5 蠍座(10/23-11/21) 報復に走る性質がある 6 牡牛座(4/20-5/20) 頑固で、赤信号に突進したい衝動にかられる 7 射手座(11/11-12/21) リスクテイカーではあるが、経験のあるリスクテイカー

8 山羊座(12/22-1/19) 目標指向型。交通ルールは自分が目的地に早く着けるよう、ほかのドライバーが守るべきものと考える

9 乙女座(8/23-9/22) 細部を気にする。リスをひかないよう急ブレーキをかけたら、10台の玉突き衝突を起こしてしまった、というタイプ

10 蟹座(6/21-7/22) 家庭的なタイプで、路上のほかのドライバーを家族のように考える。ただし気分屋

11 双子座(5/21-6/20) マルチタスクを得意とする。運転しながら飲食や新聞を読むことなどが可能

12 獅子座(7/23-8/22) 寛大で、快く道路を共有することができる

医療保険の場合 保険会社が消費者のリスクを見抜くことができる • プランAの場合と同じ • 高リスクの消費者には高い保険料 • 低リスクの消費者には低い保険料 • 保険市場はうまく機能する. • どんな消費者のリスクが高い?どんな消費者のリスクが低い?

保険会社が消費者のリスクを見抜くことができない • プランBのように,保険市場は機能しない.だれも医療保険に加入することができない. • プランCのように,なんらかの方法によってリスク分類することによって,プランAほどではないが保険市場は機能する. –  喫煙習慣による分類 –  遺伝子情報による分類 –  年齢による分類 –  ・・・

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喫煙習慣とリスク分類 • 喫煙は喫煙者の健康に害を及ぼし,受診頻度や医療費を引き上げると言われている • 喫煙情報を使わないと,リスクの高い喫煙者ばかりが保険に加入するために保険は破綻(極端な仮定). • 保険会社は喫煙習慣をリスクファクター(リスク分類の指標)として採用. – 自己申告,あるいは血中のニコチン濃度を検査し,喫煙者か非喫煙者を調べる.

– 非喫煙者のリスクが小さそうだから保険料は安くなり,喫煙者はリスクが高そうだから保険料は高くなる.

– 喫煙者だが低リスクの消費者は保険に加入しない.のこりは保険に加入することができる.

17 遺伝子情報とリスク分類 • ゲノム解析によって疾病のリスクを測定することができると考えられている.たとえば,がん遺伝子を持っていれば,リスクは高くなる.ただし,実際に発症するかどうかは環境にも依存する. • すべての消費者は遺伝子情報を含めてガンにかかるリスクを知っていると仮定する. • 遺伝子情報を利用しないとリスクの高い消費者ばかりが保険に加入して保険は破綻.アドバースセレクション. • 保険会社は遺伝子情報をリスクファクターとして採用.リスク細分化. • ガンの遺伝子をもたない消費者の保険料は低額になり,ガンにかかりやすい遺伝子をもつ消費者の保険料は高額になる. • 遺伝子情報をリスクファクターに採用した結果,一部の消費者をのぞいて保険に加入できるようになった. – だれが保険に加入できない?

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遺伝子検査の例

DHC • http://www.dhc.co.jp/goods/catop14.jsp

ジーンライフ • http://genelife.jp/disease/index.html

19 赤くなる人飲み過ぎないで 膵臓がんリスク1・5倍�• 酒を飲むと顔がすぐに赤くなる体質の遺伝子を持つ人は、そうでない人より膵臓がんになるリスクが約1・5倍高いことが、愛知県がんセンター研究所(名古屋市)の松尾恵太郎主任研究員らの調査で分かった。10月3日から横浜市で開かれる日本癌学会で発表する。 • 松尾研究員らは、飲酒後に体内でアルコールが分解されてできる有害物質アセトアルデヒドの代謝能力が、3タイプある遺伝子型によって(1)正常(2)低い(3)ほとんどない-と違うことに注目。2001-05年に膵臓がん患者138人と、がんでない690人を対象に、遺伝子型や飲酒量を比較調査し、年齢や生活習慣を加味して膵臓がんのリスクを計算した。 • その結果、日本人の約5割を占めるとされるアセトアルデヒドを正常に代謝できる人に比べ、約4割の人は代謝に時間がかかるため、飲酒で顔が赤くなりやすく、このリスクが1・52倍だった。 •  2007/09/26 18:09 【共同通信】�

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アフラックの医療保険の例 http://www.aflac.co.jp/gan/days/ 21

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シグナリング • アドバースセレクションのある保険市場はうまく機能しない可能性が高い. • そこで保険会社は安い費用(2千円)で加入希望者に受検する機会を与え,検査の結果を利用して保険料を決定するかもしれない. –  検査の結果低リスクとわかれば安い保険料(1万円)になる. –  検査の結果高リスクとわかれば高い保険料(2万円)になる. –  検査を受けなければ高リスクとして高い保険料(2万円)になる.

• 低リスクの消費者は自分が低リスクであることを証明するために検査を受けるし,高リスクの消費者はあえて検査を受けないように健康診断の価格を設定する. • 検査を受けるかどうかで消費者のリスクを自発的に暴露することになる. –  低リスクの消費者にとっては自分が低リスクであることをわざわざ説明するために追加的な費用を負担することになる.

–  情報の非対称性がないときの便益は4千円,検査を受けると便益には検査分だけ減少して2千円になる.

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シグナリング 23 シグナリング

低リスク 高リスク

検査 受ける 受けない 検受ける 受けない

保険に支払ってもよい最大金額

1.5万円 3.0万円

検査料 0.1万円 0万円 0.1万円 0万円

保険料 1.2万円 2.4万円 2.4万円 2.4万円

純便益 +0.2万円 -0.9万円 +0.5万円 +0.6万円

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エース保険の『まかせて安心医療保険』(https://www3.ace-hoken.jp/ssl_link/mcb/index.html) 2014/05/29 16:03 �������������

1/2 ���https://www3.ace-hoken.jp/ssl_link/mcb/index.html

医療保険TOP特長補償・プラン 病気の補償と補償開始日各種お手続きのご案内 よくあるご質問 わるわかりコラム

25 政府の役割 • 情報の非対称性のある医療保険市場での政府の役割は何か? – 市場がうまく機能することを優先する? – なんらかの意味での公平性などを優先する? – どうやって決める?

• ところで, – 消費者はリスクの見積を誤ることもある. – 将来発生するコストを低くみなすこともある. – このような場合の政府の役割は?

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小テスト用問題 小テストはこの中から出題します.毎回数題.300字程度.図表は含まない.

1.  モラルハザードについていろいろな例を挙げて説明し,倫理的な問題かどうか説明しなさい.

2.  一部負担によるモラルハザードについて図を使って説明しなさい.

3.  自動車保険におけるアドバースセレクションを表を使って説明しなさい.

4.  自動車保険におけるリスク分類の結果を表を使って説明しなさい.

5.  医療保険におけるリスク分類の結果について喫煙習慣や遺伝子情報を例として説明しなさい.

6.  リスク分類を実施しないと保険が成立しないことを前提として,あなたは喫煙習慣や遺伝子情報を利用したリスク分類に賛成するかどうか,理由とともに説明しなさい.

27 まとめと予告 1.  医療需要と医療保険によるモラルハザードについて説明できる.

2.  自動車保険におけるアドバースセレクション,リスク分類,シグナリングについて説明できる.

3.  次回の講義は20140606です. – 予定では,持込小テストを実施しますのつもりだったのですが,予定を変更して,持ち帰り小テスト,提出期限は月曜日の1700を実施します.

4.  というわけで,次回のスライドは20140605にアップします.

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2014/05/29 16:53���������

1/5 �� http://www.nikkei.com/news/print-article/?R_FLG=0&bf=0&ng=DGXNASFK1600H_W4A410C1000000&uah=DF170520127709

2014/4/22 7:00 日本経済新聞 電子版1万円からの遺伝子検査 体質の「弱点」あらわに

 自分の遺伝子に潜む、がん、生活習慣病のリスクや個人の体質──。これらを調べる遺伝子検査を誰でも受けられる時代がやってきた。2014年4月には、1万円で自分が「がん体質」かどうか調べられるサービスもスタート。現状の検査で分かることや問題点、検査の選び方、近未来像を明らかにする。

 1万円で自分の遺伝子を調べて「がん体質」かどうか分かる。そんな個人向け検査サービスが、2014年4月に始まった。

 手がけるのは「music.jp」「ルナルナ」などを運営する大手IT(情報技術)企業エムティーアイの子会社、エバージーン。「DearGene」(ディアジーン)の名称で、遺伝子解析サービスを提供する。

 自宅で唾液を取って送ると、胃がん、肺がん、食道がんなど8種類のがんに関わるといわれる遺伝子を調べて、傾向とリスクを報告する。「市場調査では、1万円ならば自分の遺伝子を調べたい人が多く存在する」とエバージーン社長の秋田正倫氏はニーズの高さを期待する。

 同年1月には東大出身者が立ち上げたベンチャー企業、ジーンクエストも、遺伝子検査サービスを新たに始めた。特筆すべきは検査項目の多さ。糖尿病、脳卒中、高血圧症から花粉症、男性型脱毛症、ニコチン依存や記憶力、忍耐力、甘み摂取傾向に至るまで、約200項目の病気リスクや体質を分析できる。

 2014年は日本でも、個人向け遺伝子検査が身近になるとみられる。背景にあるのは遺伝子解析機器の進歩による検査コストの大幅な低下だ。現在、人間1人が持つ全遺伝子(ゲノム)ですら10万円程度で調べられる。健康診断並みの手軽さで誰でも遺伝子を調べられる時代がやって来たといえる。

■遺伝子を知れば「弱点」が分かる

 一般的な健康診断では、血圧やコレステロール値などを測って病気の兆候を調べる。だが、がんや生活習慣病は、個人の体質に由来する部分も3割前後あるといわれている。

 そこで、個人ごとの遺伝子の僅かな違い(遺伝子型)を調べて「あなたの心筋梗塞の遺伝的リスクは平均よりも1.3倍高い」など、健康診断からは分からない自分の体質と病気の遺伝的リスクを解明するのが遺伝子検査だ。

2014/05/29 16:53���������

2/5 �� http://www.nikkei.com/news/print-article/?R_FLG=0&bf=0&ng=DGXNASFK1600H_W4A410C1000000&uah=DF170520127709

 2013年、女優のアンジェリーナ・ジョリーが乳がんの遺伝子検査を受けてがんになる可能性が高いことが分かり、予防のために乳腺を除去した。一方、日本の主な個人向け検査は、遺伝が主な要因となる重大な病気は検査していない。がんでも、生活習慣が発病の主な要因となる病気のみを調べている。

 とはいえ、病気になりやすい遺伝子型があることが検査で分かれば、今後の生活を改善する強い動機づけになる。「運動や食事の改善も、遺伝子情報を知る人のほうが長く続ける傾向が強い」(遺伝子検査会社サインポスト社長の山崎義光氏)。

■予期しない遺伝子リスクが明らかに

 個人向けの遺伝子検査には、検査キットを使って自宅で調べ、ウェブサイトで検査結果を確認できるものと、病院や個人経営のクリニック、歯科医院などで受けられるものがある。

 実際に編集部の記者(36歳、男性)が2種類の検査を受けてみた。直近の健康診断の数値は総コレステロール値が249、LDLコレステロール値が159とメタボの危険性が見られた。これらの値を見て、「遺伝要因もあるのでは」と疑っていたところだ。

 だが検査の結果、コレステロール異常に関わる遺伝リスクは低いことが分かった。食事や運動などの生活改善に取り組めば、コレステロール値を下げられる可能性が高いわけだ。

 一方、検査では「PON」「一酸化窒素合成酵素」などの遺伝子型を持っていることが分かった。これらは血管内の活性酸素を増やし、動脈硬化を進みやすくする要因だ。またマラソンなど激しい運動をすると血液の流れが悪くなる可能性があるため、ストレッチやヨガなど静かな運動を選んだほうがいい、という指摘もあった。

 別の検査では、年を取ると失明の原因ともなる「加齢黄斑変性」の遺伝リスクが高いことが分かった。発症倍率(オッズ比)は、最もリスクが低い人に比べると3.85倍だ。ただ結果を詳しく読むと、記者と同じ発症リスクがある遺伝子型を持つ人が日本人の40~49%はいることも分かった。必要以上に気に病む必要はなさそうだ。

 このほか、血栓や肺気腫など、予期していなかった病気の遺伝的リスクも比較的高いことが判明。健康や生活習慣を考え直すきっかけとなった。

 検査では、髪の太さや記憶力、痛みに対する敏感性、寿命など、体質のさまざまな遺伝的特徴も分析された。ただし、こちらは心当たりがある分析(例えば検査結果の通り、耳あかのタイプ

2013年に検査に使う解析機器の価格が急落。以前は数十万円した全遺伝子(ゲノム)解析コストが大幅に下がった

メタボ気味の記者が実際に2種類の遺伝子検査を受けてみた。直前の健康診断ではコレステロール値が高く、遺伝要因も疑っていたが、実際には遺伝的リスクは低いとわかった

2014/05/29 16:53���������

3/5 �� http://www.nikkei.com/news/print-article/?R_FLG=0&bf=0&ng=DGXNASFK1600H_W4A410C1000000&uah=DF170520127709

は湿型)もあれば、今は実感がない分析もあった。興味深いが、参考情報程度に捉えてもいいのだろう。

■検査・分析の質は玉石混交

 こうした遺伝子検査が、病気のリスクをすべて明らかにできるわけではない。例えば肥満に関連する遺伝子は300個以上見つかっているが、多くの検査で調べる肥満遺伝子は3~4個しかない。病気のほとんどは複数の遺伝子や生活環境が複雑に影響し合っており、解明されていない部分も多い。検査結果は、現時点の研究から分かる“傾向”だと思ったほうがいい。

 検査結果の質にもばらつきが大きい。根拠となる研究論文を示して、病気になる確率を慎重に示す検査もあれば、たった1つの遺伝子型から「あなたは○×△の病気のリスクがある」と断定する検査もあるという。

 現状、日本では遺伝子検査に関する法規制がなく、「頭の良さが分かる」など科学的根拠が明確でない検査もある。つまり、やった者勝ちの状況なのだ。「気軽に受けたものの、結果が正しいかどうか判断できず、不要なサプリメントなどを買わされるケースもある」と北里大学大学院

もう一方の遺伝子検査では、加齢黄斑変性や血栓、肺気腫などの遺伝的リスクが比較的高いことが判明。ただし、同様の遺伝子型を持つ日本人は数十パーセントおり、気に病むほどのリスクではなさそうだ

一般の遺伝子検査では、個々人の遺伝子の僅かな配列の違いである遺伝子型を検査。研究論文などのデータを基に、その遺伝子型にどの程度の発症リスクがあるかを算出する

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4/5 �� http://www.nikkei.com/news/print-article/?R_FLG=0&bf=0&ng=DGXNASFK1600H_W4A410C1000000&uah=DF170520127709

医療系研究科教授の高田史男氏は警鐘を鳴らす。

 そこで、経済産業省主導の研究会が検査のルール作りに乗り出した。分析に利用する研究論文の信憑性にレベル付けをするなどの案が出されており、今年度中にはある程度のガイドラインが出される見込みだ。

■将来は「全遺伝子で1万円」

 遺伝子検査を受けるときには、「どの遺伝子を調べたのか」「判断の根拠とする論文やデータは何か」「同じ遺伝子型を持つ人は人口の何パーセントいるか」などが明記されているサービスが望ましく、検査結果を見るときもその点をチェックしたい。

 例えば、病気のリスクを評価する基となる研究論文は、欧米人の遺伝子を調べたものが主流。だが、発症リスクは人種による差が大きいため、「日本人に合った解析結果を知るには、同じ日本人や東アジア人を調べた論文やデータベースを使っているほうが望ましい」(遺伝子検査大手、ジェネシスヘルスケア遺伝学研究所所長の佐藤バラン伊里氏)。

 検査結果の意味が分からないときに電話などで問い合わせができる業者かどうかも、サービスを選ぶ判断基準の一つになる。

遺伝子解析技術の進歩に合わせて、新しい検査サービスが次々に登場している。目立つのは検査の低料金化と、検査項目の大幅増加だ。一般向けで国内初となるがんの遺伝子検査「ディアジーン」は、1万円を切る戦略的な料金設定に注目が集まる。従来の検査とは桁違いに多い約200項目を検査するジーンクエストのサービスも今年始まった

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 現在は多くの課題があるが、北里大学の高田教授は「ルール作りが進めば、遺伝子検査はさらに進歩する」と話す。というのも、人間の全遺伝子(ゲノム)を検査する速度やコストはさらに下がる。数年後には1人分のゲノムが数分間で解析でき、コストも1万円程度で済むようになると予測されている。そうなれば、数十万人規模のゲノムを解析・比較でき、より正確な病気リスクの解明が進むとみられる。

 近い未来には、遺伝子検査と健康診断の結果を照合することで、病気のさらなる予防に活用できる可能性が高い。日本人で初めて、自分のゲノム情報を実名公開した慶應義塾大学先端生命科学研究所所長の冨田勝氏は、「ゲノム解析によって個人の体質が明らかになれば、病気を治療するときに、その人の体質に合った薬を効果的に投与しやすくなるだろう」と予測する。

 民間でも「検査結果を基に、スマートフォン(スマホ)やウエアラブル機器が個人の食事や運動を指導する」など、遺伝子検査を起点とした新たな健康サービスが盛んになるとみられる。IT企業などのさらなる市場参入も予想され、この分野は今後注目の的となるはずだ。

(ライター 根本佳子、日経トレンディ 荒井優、写真:近森千展)

[日経トレンディ2014年4月号の記事を基に再構成]

経済産業省の調べでは、国内で遺伝子検査を受け付ける企業やクリニックは740以上あり、現在も急増中。ただ肝心の遺伝子検査は専門の検査機関に委託する業者が多く、パッケージや価格が違っても検査内容は同じケースも少なくない。また、サービスの質は玉石混交で、粗雑な検査、分析がなされる危険性もある。そこで検査を選ぶ際に、上記の項目についてチェックしておきたい

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