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次世代電池 2019 023 全固体電池って何? なぜ電解液をなくせるの? 通り道を固体にする メリットと課題は? 疑問その1 疑問その2 疑問その4 正極と負極の間に電解液がなく、 一種のセパレーターだけがある電池 Liイオン2次電池に代表される「ロッキングチェアー型(シャト ルコック型とも呼ぶ)電池」では、電解液と電極の間での化学反 応(酸化還元反応)を伴わないため、原理上は電解液が不要 安全性が向上 (電解液の液漏れや揮発と、その発 火の恐れがなくなる) 数分で80~90%充電する「超急速充電」が可能に エネルギー密度の大幅向上に道が開ける 自己放電が大幅低減 電池の設計自由度が増し、多層化が可能に フレキシブル化も可能 基板に表面実装できる部品・部材に EV向け高性能品は、液漏れとは別の点で安全性に 懸念(現時点で通り道の性能が高い材料は燃えや すい) 材料の組み合わせによっては、電極と電解質の界 面抵抗が大きい EV向け高性能品は、量産技術が未確立 ポリマー系以外は、 既存のセパレーター 材料と大きく異なる 高い 低い 1990年 電解液を用いるLi イオン 2 次電池 これまでの全固体電池 陸上は “ 道なき道 ” 電極と固体電解 質の接触面が狭 く、界面抵抗値 が非常に大きい 高電圧を印加しても内 部抵抗値が低いままで、 高出力化が容易。Li+ にとっての高速道路に 自己放電が少なく、1年後も容 量90%を維持するという、台 湾ProLogium社のフレキシブ ルセラミックバッテリー 今後の全固体電池 メリット 課題 2011年 開発時期 酸化還元反応は、 電極と電解液の 間で起こる 電極間を行き来 するのは、電解 液由来のイオン Li が正極と負極 間をシャトル便 のように行き来 【既存の電解液に基づく電池】 鉛蓄電池、Ni-Cd電池、 Ni-水素電池など 電極間の“仲人”として電解液が必須 【全固体電池】 【既存のLiイオン2次電池】 電極間でLi を直接やりとり。 電解液はLi の単なる通り道 放電時 充電時 Li Li Li Li Li Li なぜ今になって話題に? 疑問その3 固体電解質の研究は20年以上前からあったが、電解 液を超える“Li の良い通り道”をなかなか実現できな かった。2011年以降にブレークスルーが相次いだ Li+が液中を泳いで移動。 一定以上の高電圧下では内 部抵抗値が急激に増大 「 5分でわかる」全固体電池 技術から業界動向まで

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次世代電池技術Chapter 1

次世代電池 2019 023

全固体電池って何? なぜ電解液をなくせるの?

通り道を固体にするメリットと課題は?

疑問その1 疑問その2

疑問その4

正極と負極の間に電解液がなく、一種のセパレーターだけがある電池

Liイオン2次電池に代表される「ロッキングチェアー型(シャトルコック型とも呼ぶ)電池」では、電解液と電極の間での化学反応(酸化還元反応)を伴わないため、原理上は電解液が不要

● 安全性が向上 (電解液の液漏れや揮発と、その発火の恐れがなくなる)

● 数分で80~90%充電する「超急速充電」が可能に● エネルギー密度の大幅向上に道が開ける● 自己放電が大幅低減● 電池の設計自由度が増し、多層化が可能に● フレキシブル化も可能● 基板に表面実装できる部品・部材に

■ EV向け高性能品は、液漏れとは別の点で安全性に懸念(現時点で通り道の性能が高い材料は燃えやすい)

■ 材料の組み合わせによっては、電極と電解質の界面抵抗が大きい

■ EV向け高性能品は、量産技術が未確立

ポリマー系以外は、既存のセパレーター材料と大きく異なる

高い

低い 1990年

電解液を用いるLiイオン2次電池

これまでの全固体電池陸上は“道なき道”

電極と固体電解質の接触面が狭く、界面抵抗値が非常に大きい

高電圧を印加しても内部抵抗値が低いままで、高出力化が容易。Li+にとっての高速道路に

自己放電が少なく、1年後も容量90%を維持するという、台湾ProLogium社のフレキシブルセラミックバッテリー

今後の全固体電池メリット

課題

2011年開発時期

通り道としての性能

酸化還元反応は、電極と電解液の間で起こる

電極間を行き来するのは、電解液由来のイオン

Li+が正極と負極間をシャトル便のように行き来

【既存の電解液に基づく電池】【 】鉛蓄電池、Ni-Cd電池、

Ni-水素電池など電極間の“仲人”として電解液が必須

【全固体電池】【既存のLiイオン2次電池】

電極間でLi+を直接やりとり。電解液はLi+の単なる通り道セ

パレーター

負極

正極

酸化還元反応

酸化還元反応

電解液

電解液

電解液

放電時充電時

負極

負極

電解液

正極

正極

セパレーター

(固体電解質)

負極

正極 Li

Li Li+

Li+Li+

Li+

なぜ今になって話題に?疑問その3固体電解質の研究は20年以上前からあったが、電解液を超える“Li+の良い通り道”をなかなか実現できなかった。2011年以降にブレークスルーが相次いだ

Li+が液中を泳いで移動。一定以上の高電圧下では内部抵抗値が急激に増大

電解液

「5分でわかる」全固体電池技術から業界動向まで

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次世代電池技術Chapter 1

024 次世代電池 2019

なぜ通り道が固体だとエネルギー密度が高まるの?

どんな会社が参入しているの?

疑問その5

疑問その6

より高容量密度、高電位の材料が使える理由その1電解質が固体であることで電極材が溶け出しにくく、しかも電解液に比べて電気化学的安定性が大幅に高い材料が多いため、電解液では使えなかった、出力電圧が高い、または電流容量密度が高い正極材料や負極材料を利用できる可能性がある

パッケージを簡素化できる理由その2液漏れがなく、安全性が高まることで、パッケージや安全確保のための治具、冷却装置などを簡素化できるため、同容量の電池をよりコンパクトにできる

斬新なセル設計が可能理由その3電極と固体電解質を共に非常に薄くし、それを多層に積層するなどの設計が可能で、電極の活物質の利用効率を大幅に高められる可能性がある

・正極に硫黄、負極に金属Liを用いた全固体Li-S電池

・5V級の正極材料(FDKと富士通研究所が開発したピロリン酸コバルトリチウムなど)を利用した全固体電池

理論上は既存の電極材料でも、既存の電池の約2倍の体積エネルギー密度を実現可能という報告もある

円の大きさは、従業員数を基にした企業規模の相対的な違いを示す。円の重なりに意味はない

既存の電池メーカーより、新規参入組が圧倒的に多い。半導体関連や受動部品のメーカーは製品化時期が比較的早い。人を出した側は、全固体電池の開発に積極的でない可能性もある。

豊島製作所太陽誘電

日本特殊陶業

村田製作所(元ソニーを含む) TDK

カナダUniversity of CalgaryカナダAvestor社

フランスBolloré社

米Applied Materials社

米FordMotor社 米Sakti3社

英Dyson社

ドイツBosch社

米Intel社

米General Motors社

STMicro electronics社

出光興産

東レ

東芝

日立造船

住友電気工業

SCREENホールディングス

トヨタ自動車

オハラ

ナミックス

日本電気硝子

韓国Samsung Electronics社やSamsung SDI社

韓国Hyundai Motor社

台湾ProLogium社

米Zeptor社

米EnerDel社

米Seeo社

米Fisker社

パナソニック

FDK

GSユアサ

積層セラミックコンデンサー(MLCC)の技術を応用

2007年、工場などを買収

2016年10月出資2015年、買収

2015年出資、買収

2010年に出資

中国、台湾、韓国など 日本 北米 欧州

参入検討自動車メーカー 将来の自動車メーカー

既存の電池メーカー 電池系ベンチャー

車載部品メーカー 酸化物系材料 硫化物系/非酸化物系材料

半導体関連、電子部品メーカー

大学など

カネの流れ 人の流れ

2019年にも量産へ 表面実装できる全固体電池を2018年4月に量産へ

金属Liを用いる電池を量産し、クルマに実装

電解液でも、10Cの急速充電が可能な次世代SCiBを開発 酸化物系電解質とドラ

イポリマーを用いた薄膜電池を開発中

酸化物系材料にイオン流体を加えた擬固体電解質などを開発中

薄膜電池を開発。5V級正極材料も開発

2022~2023年に全固体電池搭載のEVを量産予定

2020年までにEVを量産予定

SamsungやLGとは別に全固体電池を開発中

2020年代前半に全固体電池搭載のEVを量産予定

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自動車への応用Chapter 2

118 次世代電池2019

 2020年代前半に世界に先駆けて全固体電池の実用化を狙うトヨタ自動車─。その基盤となる技術が明らかになった。全固体電池は当初、内部抵抗が大きく出力密度が低いことから、車載用電池としての適用は厳しいと考えられていた。そこに風穴を開けたのが、ここで紹介する内部抵抗を下げるための同社の技術である。出力密度が低いと、セルの設計上で出力密度とトレードオフの関係にあるエネルギー密度も上げにくい。 同社電池生技開発部主査の岩瀬正宜氏によれば、同社は同基盤技術によって、セルの体積出力密度を約2.5kW/Lに、同体積エネルギー密度を2010年ごろのリチウムイオン電

池(LIB)の2倍の約400Wh/Lに引き上げることに成功した(図1)注1)。そのセル性能は現状の先端のLIBには及ばないが、現在はLIB超えを前提に実用化に向けた開発を進めている。 同社が、2020年代前半の実用化で念頭に置いている全固体電池は、固体電解質の中でも現時点ではイオン伝導度が高いとされる硫化物系の固体電解質を使ったものだ(図2)。正負極材には、当面は現行のLIBで主流の活物質を活用する考えという。具体的には、正極は層状酸化物系〔コバルト酸リチウム

(LCO)、ニッケル -マンガン-コバルト酸リチウム(NMC)、ニッケル-コバルト-アルミ

セルの体積エネルギー密度0

0

1.0

2.0

3.0

100 200 300 400 500

セル

の体

積出

力密

対策:正極コーティング

対策:電解質層薄膜化

対策:均一分散対策:緻密化

初期開発目標

(kW/L)

(Wh/L)

現状はさらに高性能化に向けて開発中図1 トヨタが実用化を目指す

全固体電池の基盤技術とその効果トヨタは、図中に対策と示した四つの技術で、全固体電池セルの体積出力密度を約2.5kW/Lに、体積エネルギー密度を約400Wh/Lに引き上げた。体積エネルギー密度は2010年ごろのLIBの2倍程度に達する。同社によれば、これらの技術が、同社が2020年代前半の実用化を目指す全固体電池の基盤となる。トヨタ自動車の資料を基に編集部が作成。

初出:『日経Automotive』、2018年9月号

硫化物系の固体電解質と層状酸化物系の正極材料を使った全固体電池――。トヨタ自動車が2020年代前半の実用化を目指す電池だ。その基盤となるのが、セルの内部抵抗を下げるためのコーティングや製法に関する四つの技術。内部抵抗の低減は、出力密度やエネルギー密度の向上につながる。

内部抵抗を下げ、実用化に道Part2 明かされた基盤技術

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自動車への応用Chapter 2

次世代電池2019 119

ニウム酸リチウム(NCA)など〕を想定。負極は炭素系などを候補と考えているようだ。

正極活物質の被覆で抵抗層を抑制

 冒頭で紹介したように、かつての全固体電池は、出力密度もエネルギー密度も低すぎて実用レベルとかけ離れていた。トヨタによると、その要因になっていたのが、セルの内部抵抗を上昇させる次の4点だ(図3)。(1)正極内の正極活物質と固体電解質の界面に抵抗層が生じる、(2)固体電解質層が厚くなる、(3)正負極内で活物質が凝集してしまう、(4)正負極や電解質を構成する固体の粒子間に空隙

が生じる─である。 正極活物質と固体電解質の界面に生じる、(1)の抵抗層が問題になるのは、同界面を行き来するリチウム(Li)イオンが通りにくくなるからだ。その結果、電池の内部抵抗が大きくなり、出力密度が上がらない。岩瀬氏によれば、同抵抗層によって「出力密度は2ケタくらい落ちる」。 同界面に抵抗層が生じるのは、正極活物質の層状酸化物の中の、コバルト(Co)、ニッケル(Ni)、マンガン(Mn)といった遷移金属

注1)同セルの質量エネルギー密度は185Wh/kg。

固体電解質(硫化物系)

負極層- +電解質層 正極層

導電助剤

バインダー

負極活物質(本誌推定:炭素系)

正極活物質(層状酸化物系)

図2 トヨタが想定している2020年代前半の全固体電池固体電解質には硫化物系、正極には層状酸化物系を使う。負極は炭素系が一つの候補とみられる。トヨタ自動車の資料を基に編集部が推定を加えて作成。〔出所(写真):トヨタ自動車〕

図3 全固体電池の性能向上を阻んでいた四つの要因正極活物質と固体電解質の界面に生じる抵抗層、厚くなってしまう固体電解質層、正負極内での活物質の凝集、正負極や電解質を構成する固体粒子の間の空隙が、内部抵抗を上げていた。トヨタ自動車の資料を基に編集部が作成。

固体電解質層(正負極層にも混ざっている)

正極層正極活物質

負極活物質負極層

電解質層

問題(3) 凝集

負極層活物質

凝集

固体電解質

問題(4) 空隙

負極層

活物質

空隙(隙間)

固体電解質

問題(2) 厚膜

厚い固体電解質層

問題(1) 抵抗層

正極活物質固体電解質

抵抗層

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航空機への応用Chapter 3

180 次世代電池2019

図6 ファンの「多発分散化」で推進効率を高める電動推進系を導入することで、複数のファンを機体に配置する「多発分散化」により、ファンの総面積を増やして、推進効率を高められる。1つ当たりのファンの大きさは小さくなるので、配置の自由度が高まる。胴体翼の上面に配置すれば、同面で発生する境界層を吸い込めるため、空力抵抗が小さくなって推進効率が高まる。その結果、エネルギー消費量が減る。多発分散ファンを実装したコンセプト機として、例えばAirbusの「E-Thrust」がある。(写真:Airbus)

Airbusの「E-Thrust」 「E-Thrust」のファンの概要

● ファンを多発分散化することで、ファンの総面積を増やして推進効率を高める

●「境界層吸い込み」によって空力抵抗を削減して推進効率を高める

 これまで進めてきた航空機の装備品の電動化に加えて、推進力の電動化も視野に入れている。これまで大型旅客機では、主にターボファンエンジンのファン径を拡大することで、エネルギー消費量を削減してきた。だが、それも限界に近づきつつある(図5)。そこでバイオ燃料などの導入に加えて、推進系の電動化で大幅なCO2の削減を図る。

ハイブリッド推進で10%以上の燃費改善

 中・大型機では、小型機のようなフル電動型ではなく、まずは内燃機関と電気を組み合わせるハイブリッド型で、推進系の電動化を

進める考えだ。具体的には、ガスタービンで発電機を回転させ、その電力でモーターを駆動する「シリーズハイブリッド」が主流である。発電機を用いるのは、2次電池だけでモーターを駆動し、推進力を得るにはあまりに電池が重くなりすぎるからである。 ハイブリッドとはいえ、その燃費改善効果は大きい。およそ10 ~ 20%の燃費改善を見込めるという。仮に、ターボジェットエンジンを「大幅に手を加えたとしても、成熟した技術なので1%未満の改善にとどまる」(同エンジンの技術者)。それに比べると、ハイブリッド型推進系による改善は「劇的な効果」

(同技術者)である。

推進効率の向上で燃費改善

 ハイブリッド化によってエネルギー消費量が減るのは、推進効率が高まるからである。発電機の利用で推進システムの熱効率は低下するものの、推進効率の向上分が熱効率の低下分を上回る注9)。 推進効率が高まる理由は大きく2つある。1つは、モーターによるファン駆動によって、複数のファンを機体に配置する「多発分散化」を導入できること(図6)。1つ当たりのファンの大きさは小さくなるものの、ファン

図5 従来技術による燃費改善に限界これまで大型旅客機では、主にエンジン径を拡大することで、エネルギー消費量を削減してきた。だが、それも限界に近づきつつある。そこで、電動化技術などでさらなる省エネを目指す動きが活発である。(図:JAXAの資料を基に本誌が作成)

1950

単位エネルギー消費量(MJ/km/座席)

時期(年)1970 1990 2010 2030 2050

4.0

3.5

3.0

2.5

2.0

1.5

1.0

0.5

0

従来のエンジン径の拡大による省エネに限界

従来技術の改善=エンジン径の拡大 

~1990年代 2010年代~

電動化技術などでさらなる省エネを目指す

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航空機への応用Chapter 3

194 次世代電池 2019

当たりの出力密度を高めることである。もちろん、コスト削減も強く求められる。一方、航空機では軽量化に重きを置く。「航空機分野でも部品のコスト削減は重要だが、優先されるのは軽量化である」(複数の航空機分野の技術者)。 それでも、電動車両向けモーターやインバーターは小型化によって軽くなり、重さ当たりの出力は向上した。例えばモーターの場合、現状でおよそ1.5 ~ 2kW/kgとされる。これは、小型のプロペラ機を電動化できる水準である(図1)。ただし、座席が数席の電動垂

図2 出力密度5kW/kgを超えるモーターSiemensは、電動航空機向けに、出力密度が高いモーターの研究開発に力を入れている。同社は、出力260kWのモーター「SP260D」を試作し、小型飛行機「Extra 330LE」に搭載して飛行試験を実施した。その結果、時速337.5kmを達成した。このモーターの重さは50kgで、出力密度は5.2kW/kgと大きい。2つのインバーターで駆動する。小型・軽量化のために、インバーターにはSiCパワーデバイスを適用した。(写真:(a)~(c)はSiemens)

(b)「SP260D」をファンに取り付けたところ

(c)「SP260D」を搭載した「Extra 330LE」(a)「SP260D」を開発するSiemensの技術者

出力:260kW重さ:50kg

効率: 260kWで94%

回転数:2500rpmトルク:1000Nm

(d)Siemens社内に展示してあった「SP260D」のモックアップインバーターとの接続部。インバーターは2台利用する

長さ14.5cmのペン

(e)「SP260D」を駆動するインバーター厚み

30cm前後

直径50cm前後

直離着陸機(電動VTOL機)や、20席以下の「ビジネス機」では、5kW/kgが必要になる。さらに10kW/kgまで高めれば、数十席のリージョナル機や100席以上の大型旅客機の電動化が見えてくる。 電動航空機用モーターの出力密度向上で先行するのが、ドイツSiemens(シーメンス)である(図2)。同社は、出力260kWのモーター「SP260D」を試作し、小型飛行機「Extra

330LE」に搭載して飛行試験を実施した。その結果、時速337.5kmと、フル電動の航空機として最大の速度を達成した。このモータ

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次世代電池 2019 225

図1 2009年時点の日本における太陽光発電の普及想定

能な大型Liイオン電池の開発は、蓄エネやEVの普及にもつながるのではないか。しかし安全性の高い大型リチウムイオン電池の実用化は、技術的に非常に難しかった。高容量化と安全性が二律背反の関係にあるためだ。このため、大型Liイオン電池に取り組むメーカーはほとんどなく、逆にこれは社会的に意義があると当時教授で現在当社社長の吉田博一は考え、吉田を中心に4名で大型Liイオン電池の製造会社を立ち上げた。 電池を作る装置産業は莫大な資金を要する

 エリーパワーは慶応大学発のベンチャーで2006年に創業した。当初、大学では電気自動車(EV)の開発を進めていた。EVを普及させるためには大型Liイオン電池の実用化が鍵であったが、その過程で電池を自動車以外にも普及させることの重要性に気づいた。 当時、発電側には、従来の発電技術に加え、再生可能エネルギーや省エネなどへの取組みは行われつつあったが、電力を貯めて効率良く使う「蓄エネ」の技術は進んでいなかった。蓄エネには定置用の大容量電池が要る。高性

この記事は2018年6月15日に開催されたセミナー「革新的電池が巻き起こすEVイノベーション」(主催:日経 xTECH/日経BP総研)における河上清源氏の講演「仮想発電所(VPP)実現に向けた高安全・長寿命な大型リチウムイオン電池の開発と車載用電池への技術展開」の内容の一部を、河上氏の許可を得て編集、再構成したものです。

仮想発電所(VPP)実現に向けた安全で長寿命な大型Liイオン電池河上 清源 エリーパワー代表取締役専務執行役員

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エネルギー分野への応用Chapter 4

226 次世代電池 2019

比率は極僅かで、日本の産業界を代表する企業の出資比率が高いことが特徴だ。 現在、主力製品である定置用の大型Liイオン電池は、川崎市に自社で構築したフルオートメーション工場で一貫生産している。電池を作るだけでは蓄エネ社会は普及していかない。そのため、蓄電システムも自ら製造し、市場を開拓してきた。系統側の大きな蓄電システムは重電メーカーが得意とする領域で、当社のようなベンチャー企業が取り組むのは難しい。まずは筆頭株主の大和ハウスと一緒に住宅向け、オフィス向けの蓄電システムから市場開拓に着手した。それらの蓄電システムをすべて遠隔で監視、制御できるような仕組みを最初から構想して開発し、これまで累計3万台ほど出荷した。

定置用電池のニーズ

 太陽光発電が普及し始めた2000年代前半は、その普及は緩やかで、系統インフラに影響を及ぼすと言われる1000万kWを超えるのは、2015 ~ 2016年度ぐらいになるという予測だった(図1)。 しかし東日本大震災が発生し、再生可能エネルギーの導入を後押しするために太陽光発電の全量固定買取制度が2012年7月に始まると、それまでの累計で560万kWだった太陽光発電がわずか1年弱でほぼ倍増した(図2)。あっという間に系統への接続限界を迎えてしまう(図3)。 このため、新規に設置する太陽光発電設備は、電力会社からの要望で、系統連系できないときは指令に沿って出力制御しなくてはならなくなった。この出力制御機能も当初は産業用途だけだったが、2015年から家庭用蓄電システムでも必要になった。このような状況下においても、経産省では2018年4月27

図2 日本における太陽光発電の設置普及実態

図3 2012年以降の日本における太陽光発電の実績

ため、大学単独でやるのは非常に難しい。ましてや個人事業主ではやりようがない。そのため、大型Liイオン電池の重要性を認識し、設立趣意に賛同いただいた企業に出資・支援していただくかたちでスタートした。現在筆頭株主の大和ハウスグループは、創業時からの株主だ。さらに経済産業大臣が筆頭株主である国際石油開発帝石、東レなど株主は約30社で構成されているが、ファンドの出資