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国立大学法人 北陸先端科学技術大学院大学 ジャイストナウ NOW 2019 第 18 号 No. 18 同窓会員インタビュー オンとオフをしっかり切り替えて 充実した研究生活 酒井 平祐 さん JAIST HOT NEWS JAIST INFORMATION 13 14 16 研究室訪問 物質化学領域 谷池研究室 セキュリティ・ネットワーク領域 青木研究室 10 JAIST 同窓会 12 特集 6 7 8 9 IoT を活用した、 イノベーションを「デザイン」する手法を追求 知識マネジメント領域 内平 直志 教授 人間を楽しませる、人間に寄り添う、理解する ゲーム AI の成長を追求 ゲーム・エンタテインメント領域 池田 心 准教授 バイオ工学とナノ材料を駆使、 ゲームチェンジングテクノロジーに挑む 物質化学領域 都 英次郎 准教授 持続可能な社会の実現に貢献する、 触媒プロセス技術の構築を目指す 物質化学領域 西村 俊 准教授 学長対談 石川県能美市 井出 敏朗 市長 持続可能なまちづくりに 大学の存在感を 北陸先端科学技術大学院大学 浅野 哲夫 学長 2 C O N T E N T S

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Page 1: NOW - jaist.ac.jp · いけば、能美市全体での取り組みが進みやすで協力して、こんな簡単なところから入ってのに役立てられるかもしれません。市と本学ことを啓発でき、意識を高めていってもらう市やJAISTがSDGsに取り組んでいる配ってみてはどうでしょう。

国立大学法人

北陸先端科学技術大学院大学

国立大学法人

北陸先端科学技術大学院大学

ジャイストナウ

ジャイストナウ

2019

NOW 2019第 18 号

No.1

8発行日   令和元年11月8日

発行   国立大学法人 北陸先端科学技術大学院大学 大学戦略・広報室

      〒 923-1292 

石川県能美市旭台1-1 

tel. 0761-51-1031ホームページ https://w

ww.jaist.ac.jp

No.18

同窓会員インタビュー

オンとオフをしっかり切り替えて充実した研究生活

酒井 平祐 さん酒井 平祐 さんJAIST HOT NEWS

JAIST INFORMATION

オンとオフをしっかり切り替えて充実した研究生活

13

酒井 平祐 充実した研究生活

酒井 平祐

14 JAIST HOT NEWS

JAIST INFORMATION

1416

研究室訪問研究室訪問

物質化学領域谷池研究室物質化学領域谷池谷池研究室セキュリティ・ネットワーク領域青木研究室

研究室訪問

物質化学領域

10

同窓会員インタビュー

セキュリティ・ネットワーク領域

JAIST同窓会

オンとオフをしっかり切り替えて13 同窓会員インタビュー13

セキュリティ・ネットワーク領域セキュリティ・ネットワーク領域

JAIST同窓会12

特集6

7

8

9

特集6IoTを活用した、イノベーションを「デザイン」する手法を追求

知識マネジメント領域内平 直志 教授

7

知識マネジメント領域知識マネジメント領域知識マネジメント領域内平 直志 内平 直志 教授人間を楽しませる、人間に寄り添う、理解するゲームAIの成長を追求

ゲーム・エンタテインメント領域池田 心 准教授

8

ゲーム・エンタテインメント領域ゲーム・エンタテインメント領域ゲーム・エンタテインメント領域ゲーム・エンタテインメント領域ゲーム・エンタテインメント領域ゲーム・エンタテインメント領域池田 心 池田 心 池田 心 池田 心 准教授バイオ工学とナノ材料を駆使、ゲームチェンジングテクノロジーに挑む

物質化学領域都 英次郎 准教授

9

物質化学領域物質化学領域物質化学領域都 英次郎 都 英次郎 都 英次郎 都 英次郎 准教授持続可能な社会の実現に貢献する、触媒プロセス技術の構築を目指す

物質化学領域西村 俊 准教授

学長対談石川県能美市

井出 敏朗市長井出 敏朗井出 敏朗

持続可能なまちづくりに大学の存在感を持続可能なまちづくりに持続可能なまちづくりに

北陸先端科学技術大学院大学

浅野 哲夫学長

石川県能美市

井出 敏朗井出 敏朗

2 学長対談学長対談2C O N T E N T S

井出 敏朗井出 敏朗市長市長

持続可能なまちづくりに市長

持続可能なまちづくりに持続可能なまちづくりに

北陸先端科学技術大学院大学北陸先端科学技術大学院大学

浅野 哲夫浅野 哲夫

INFORMATION[ジャイスト インフォメーション]

詳細はこちら↓http://www.jaist.ac.jp/NanoPlat/index.html【お問合せ先】ナノマテリアルテクノロジーセンターTEL:0761-51-1448E-mail:[email protected]

詳細はこちら↓https://www.jaist.ac.jp/ricenter/activity/technology/【お問合せ先】研究推進課研究協力係TEL:0761-51-1910E-mail:[email protected]

透過電子顕微鏡(TEM) クリーンルーム

800MHz 核磁気共鳴装置

質量分析装置(FT-ICR-MS)

集束イオンビーム加工装置

※技術サービス制度の利用をご希望の際は、ご相談ください。本学で実施可能か判断いたします。

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2019 2

持続可能なまちづくりに

大学の存在感を

学長対談

浅野 哲夫学長

北陸先端科学技術大学院大学

井出 敏朗市長

石川県能美市

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2015年に国連採択された、「持続可

能な開発目標(SDGs)」に呼応して、

国内の企業や自治体はそれぞれの立場で抱

える課題に、「持続可能」、「誰一人取り残

さない」、といったSDGsの理念に沿っ

た解決策を模索し、取り組み始めています。

JAISTの地元、能美市においても市民

が幸せに暮らせる持続可能なまちづくりが

進められており、本学も産業や教育などで

連携し、貢献を目指しています。今回は能

美市役所を訪ね、SDGs時代のまちづ

くりについて井出能美市長と語り合いま

した。

身近に感じてもらうことから、

全市民で取り組むSDGsへ

浅野 

本日は能美市と本学との連携などにつ

いて井出市長と意見交換ができればと思いま

すが、能美市ではSDGsに即した取り組み

を始められていますので、その活動について

もぜひお聞かせいただきたいです。というの

も、先般、市長からお声がかかって話し合い

の機会をいただいた際、能美市がSDGsを

見据えたまちづくりを始めていると聞きまし

て、とても感銘を受け、これは大学の方でも

やらないといけないと思いを新たにしたとい

う次第です。

井出 

SDGsの理念に沿った施策には既に

着手していますが、来年度からはしっかりと

SDGsを取り込んだ予算編成を組んでいこ

うと準備しているところです。具体的には「誰

一人取り残さないまちづくり」をテーマに、

お子さんから高齢者までの全世代、さらに外

国人や障害をお持ちの方を含めて皆さんが安

全、安心、快適に暮らしていけるまちづくり

という課題に、SDGsの17の目標を関連さ

せて組み立てていければと考えています。こ

れを推進するエンジンが、一昨年から国の助

成金を受けて進めている「我が事・丸ごと地

域づくり推進事業」で、この事業を核にして

市民力、地域力を更に強化し、企業や団体を

含めた全市民、いわゆるオール能美市で取り

組んでいきたいと考えています。

浅野 

そういった市の取り組みに我々大学が

協力できることがあると思います。例えば、

環境の領域ではプラスチックの海洋汚染が問

題になっていますが、市で8月に開催されて

いる辰口まつりの「じょんから踊りコンクー

ル」に今年も本学は参加しまして、その際に

小さなうちわを作ったんです。うちわの骨組

みには一般的なプラスチックが使われていま

したが、専門家の先生に聞くとプラスチック

も天然成分由来の新しいものが開発されてい

て、土に埋めると分解されるもの、さらには

海水でも分解されるものも既にできていると

いうことです。当然普通のプラスチックより

コストはかかりますが、極端に値段が高いわ

けでもないらしい。ならば、それを使ったう

ちわを能美市とJAISTが共同で作り、名

入れをして環境への能書きも入れてお祭りで

配ってみてはどうでしょう。市民の皆さんに、

市やJAISTがSDGsに取り組んでいる

ことを啓発でき、意識を高めていってもらう

のに役立てられるかもしれません。市と本学

で協力して、こんな簡単なところから入って

いけば、能美市全体での取り組みが進みやす

くなるかもしれません。

井出 

それはいいアイデアですね。実際のと

ころ、〝SDGsってちょっと難しい〟と捉

えている市民の方も多いものです。そんなに

難しくないんだよ、身近でいろんなことがで

きるんですよ、とわかっていただきたいので

すが、なかなか周知できないので、そういっ

た親しみやすいことでSDGsへの理解が進

めばと思います。

モノサシをどうつくるか、

それが現在の課題

井出 

持続可能なまちづくりを進める上で

は、人口を維持することが重要ですが、能美

市では近年外国人の方が増え、市の人口約

5万人のうち、1、400人を超える外国人

の方がお住まいです。これは人口当たりの外

国人比率で見ると、石川県の19市町のうちで

トップです。この点はまさにJAISTの留

学生さんが増えていることが寄与しているわ

けで、浅野学長が就任以来尽力されてきたこ

とが、キチッと数字になって現れていますね。

浅野 

留学生がなぜ増えたのか、この点につ

いては実はわからない部分も多いのです。私

が闇雲に動いたからということでもなく、も

ちろん本学の構成員の皆さんが非常に熱心に

学生募集に取り組んでくれた結果ではありま

すが、なぜ増えたのか、その本当のところを

突き詰めていくのは、なかなか難しいですね。

井出 

それは同感です。今、我々が行ってい

る事業は、すべて人口を増やしましょうとい

う目標が根底にあるのですが、生まれる子供

が少ない時代ですから、自然増ではなく他か

らの移住・定住による社会増を促進していく

ことになります。そこで、移住を増やしてい

くのにどんな政策を打っていったら良いのか

を考える時、何をモノサシにしたら良いのか

が見えないのです。今回、SDGsを取り入

れようと思い立った一つには、移住策や定住

策を含めてこれまで継続してきた事業が本当

に目的通りの成果を出せているか、本当に市

民の皆さんに喜んでいただいているのか、そ

れをキチッと測れるモノサシが欲しいという

思いもあったんです。ただ、一つひとつの事

業の成果を測るためには相当なエネルギーも

必要ですから、そのモノサシづくりを学長に

も助けていただきたいです(笑)。

浅野 

私も学長になって以来、大学運営につ

いて様々な評価を受けてきましたが、そこで

学んだ一番大事なことは、とにかくPDCA

サイクルを作るということです。プランを

作って実行し、評価し反省して、また別のア

クションを起こすという、このサイクルをあ

らゆる所に作っておけば持続可能な状態で改

善されていくということです。市長がおっ

しゃったのはまさにその点で、プランを作る

まではできても、そのプラン通りに行い、良

くなったか悪くなったか、これを評価しない

ことにはPDCAサイクルが回らないという

ことですね。

3 JAIST NOW No.18

学 長 対 談

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IT教育で特色を強め、

産業と人を呼び込もう

井出 

住み続けたいと思われるまちづくりの

ために、能美市では人間同士の関わり、互助、

共助という部分をしっかり作っていきたいと

考えています。冒頭申し上げた「我が事・丸

ごと地域づくり推進事業」では、他人のこと

も我が事のように一生懸命やりましょうとい

う方針で進めていて、能美市に住めば困った

時に誰かが助けてくれるとか、温かさが感じ

られるとか、そんな雰囲気を作り出していけ

ば、たとえ賑やかな都市ではなくても、ずっ

と住んでいたいまちになれるのではと考えて

います。それと同時に働く場所も大切で、現

在はいわゆるものづくり企業が中心ですが、

女性や障がいのある方も働ける場所をもっと

充実させたい。魅力ある職場を増やすための

企業誘致や産業振興ではJAISTの力もお

借りしたいところです。

浅野 

私は常々、当地の人口増にも寄与する

産業振興にはIT分野が適しているのではな

いかと思っているんです。製造業など重厚長

大な産業を誘致したとして、肝心の雇用はさ

ほど増えない場合もあるし、能美市以外に住

んで通ってくることもあるでしょう。そこで、

ITなんですが、これを教育との関わりの中

で考えていくと、能美市がIT教育に力を入

れて、市民が平均的にこの分野との親和性が

高いと評判になれば、IT企業側もあそこの

人を採用すればけっこうな戦力になりそうだ

と、サテライトオフィスを能美市に作ろうと

いう動きになるかもしれない。こういう形で

能美市民であることにメリットがあれば移り

住んでくるきっかけにもなるでしょう。

井出 

その教育の部分でJAISTが担い手

となってもらえるわけですね。

浅野 

地域ぐるみでIT産業を誘致するなら

ば、我々の大学が核となって社会人向けのリ

カレント教育を積極的に提供していくこと

で、能美市に対して恩返しができたらという

思いも持っています。

井出 

IT関連では、5Gを推進するために

も自治体のサポートは欠かせないですから、

そのための環境を整備していきたいとも思い

ますし、こういったことで能美市はちょっと

違うな、とIT産業の人たちに感じてもらえ

ればと思います。

浅野 

そうですね。例えば農業分野も今後

IoTや5Gの技術による進歩が期待されて

いますが、初めから広域でやるには相当な設

備投資が必要です。まず一定の限られた空間

に5Gのアンテナをたくさん立てて実験的に

行うといった時には、能美市くらいのスケー

ルの自治体と協力体制を組んで実施するのが

有効でしょう。

学生が地域に溶け込み、

いずれは地域を支える道筋を

浅野 

人口増に関連して言えば、能美市は東

洋経済新報社の「住みよさランキング」でこ

こ数年ずっと10位以内に入っていて、人口も

コンスタントに伸びている。こんなまちは滅

多にないと思いますが、高評価を受けている

ことについて、どう分析されていますか?

井出 

今年は能美市が全国で8位、近隣の自

治体でも白山市が1位で、野々市市が3位と

高い水準ですが、このランキングは評価の指

標次第なので、あまり一喜一憂したり声高に

アピールしたりせず、地道に市民の皆さん

に満足いただける施策を行っていくことを

心がけています。その結果がランキングの

維持にもつながっているのではないでしょ

うか。

浅野 

近年は降雪も少なく、冬の雪かきから

解放されて暮らしやすくなったことも人口増

に一役買っているのでしょう。

井出 

そうですね。ただ私など雪を地域の魅

力に変えてしまって、四季折々を楽しめる、

2019 4

井出市長

卒業しても住み続けたい、そんなまちづくりを目指しています

Ide Toshiaki

井出 敏朗能美市長。能美市寺井町に生まれる(1962年)。群馬大学工学部化学工学科卒業(1985年)、大日本インキ化学工業株式会社(現 DIC)入社

(1985年)、株式会社ノリタケ入社(1987年)、井出製陶株式会社入社(1990年)、石川県議会議員就任(2011年)、能美市長就任

(2017年)。

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雪が降るからお酒もうまいし、お米もうまい

と宣伝しています。

浅野 

不利と思えることを有利に捉えるとい

うのは大切ですね。私も学長就任当初は学生

が集まらないことについて、この場所に立地

していることが良くないという話を随分聞き

ました。しかし、ここには都市部にない良さ

がたくさんあって、大学に隣接した寮を完備

でき、生活費も交通費もかからない、アルバ

イトの必要はないし、したくてもするところ

がない(笑)。学業に専念できる環境があり

ます。修士ならば2年間死にものぐるいで勉

強すれば、その頑張りで得たものをバネにし

てその後の人生を生きていくことができます

よ、と大学生に訴えているんです。これに共

鳴する人が大多数でなくてもいい、10%でも

いれば本学の定員が確保できます。そんな考

えでターゲットを絞ってやってきて、それな

りに成功していると感じています。

井出 

大学運営を維持するには海外から学生

を呼び込む必要も高まっていますが、その時

に、東京に一極集中でいいのか、地方にも魅

力ある大学があるべきではないかと思ってい

ます。

浅野 

留学生は日本の伝統や文化を知りたい

という方も多いですが、東京のような国際都

市では他国の大都市とあまり変わらず、日本

の伝統を知る機会も少ないと思います。その

点で地方には日本古来のものがたくさん残っ

ている。本学の周りの地区からもお祭りなど

のイベントに学生を招待していただくのです

が、参加する学生の多くは留学生です。そう

いう場を提供できる

のも地方大学ならで

はの魅力だと思い

ます。

井出 

我々もそんな

留学生の皆さんに安

心・安全・快適に

暮らしてもらえるよ

う、国際交流協会と

いう組織を発足させ

て、悩み事のある外

国の方が気軽に相談

できるような環境を

整備しています。外

国から来て、勉強も

しっかりできるし、

住んでみて周りの人

も温かいし、いろい

ろ相談もできる、そ

う感じてもらい口コ

ミやSNSで広げて

もらえればさらにJ

AISTの学生も増

えるでしょうし、卒

業生が能美市の会社

に勤めたいとか、住

み続けたいという方が多くなるといいなと思

います。

浅野 

本学の博士課程には奥様や子供さんを

連れて来日している男子学生も多いですか

ら、学生本人はもちろん、その家族を含めて

国際交流協会からサポートしていただき、時

には逆に英語の先生となって市の教育などに

貢献もしながら、地域との交流が深まってい

くと良いですね。こういった活動もSDGs

のテーマである誰一人取り残さないまちづく

りに他ならないことと思います。本日は今後

につながる興味深いお話をありがとうござい

ました。

5 JAIST NOW No.18

学 長 対 談

産業振興につながる教育で、能美市に恩返しできたらと

思います

浅野学長

Asano Tetsuo

浅野 哲夫北陸先端科学技術大学院大学長。大阪大学大学院基礎工学研究科修了(1977)、大阪電気通信大学工学部講師(1977)、同教授(1988)、北陸先端科学技術大学院大学情報科学研究科教授(1997)、学長補佐(1999−2000)、評議員(2002−2004)、学長補佐(2008−2010)、大学院教育イニシアティブセンター長(2010−2014)、研究科長(情報科学研究科)

(2012−2014)、2014年より現職。『計算幾何』など著書多数。

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 内平教授は、社会人を含む学生や地域企業

との議論を通じてイノベーションマネジメン

ト研究に取り組み、IoTやAIのイノベー

ションを創出する方法論を「IoTイノベー

ションデザイン」と称して研究を進めている。

そのベースは、ソフトウェアの生産技術、人

工知能の研究、研究開発成果の事業化のマネ

ジメントなど、長年にわたる企業経験である。

あらゆるビジネスで実践できる、

イノベーションの方法論

 

現在取り組んでいる具体的な研究テーマは、

主に3つです。

 一つめは「知識科学に基づく技術経営・イ

ノベーションマネジメント」、特に、「研究開発

プロジェクトマネジメントの知識の継承」に焦

点を当てています。研究開発プロジェクトを

成功に導くマネジメントの知識は非常に属人

的で、ベテランから新人へとシステマティック

に継承されないことが珍しくありません。私

たちは知識科学の視点から、過去のプロジェ

クトで得た知識を現在のプロジェクトのマネ

ジャーにどう継承するかという研究を進めて

います。最近は、機械学習やデータマイニン

グによる気づきの支援など人工知能を活用し

たプロジェクトマネジメントなど、より深く広

い研究を展開しています。

 二つめは「製造業のサービス化」と「IoT

イノベーションデザイン」です。従来、製造

業はモノをつくって売る業態でしたが、それだ

けでは価格競争に陥り、国内の企業は生き残

れません。モノとサービスをセットにして新た

な価値を提供する流れが製造業のサービス化

です。これを強力に支えるのがIoTです。

センサーや人工知能、クラウドなどの新技術

が安価に利用できるようになり、中堅・中小

の製造業には飛躍のチャンスが訪れています。

私たちは、IoTを使った新たなサービスビ

ジネスを設計する手法として「IoTイノベー

ションデザイン」を提唱しています。かつて、

ソフトウェア開発でも、一部の専門技術者が属

人的にプログラムを作成していましたが、今

では工学的な手法により特別な人でなくても

簡単に開発ができるようになりました。同様

に「IoTイノベーションデザイン」という多

くの人が簡便に使えるガイドラインがあれば、

スティーブ・ジョブズのような人でなくてもイ

ノベーションのチャンスを活かせるのです。

人間センサーによる「気づき」を

IoTイノベーションに活かす

 

三つめは「音声つぶやきシステム」です。こ

れは看護・介護の現場での活用を想定して研

究開発を始めたもので、患者・入居者のちょっ

とした表情の変化や発言内容など、ケアスタッ

フの気づきを記録するT

witter

のようなシス

テムです。実際に介護施設で試行したところ、

スタッフの連携、ケア記録の品質、業務の品

質において向上効果が確認できました。現在

は、農業、警備、設備保守など対象分野を

広げ、音声つぶやきによる「気づきプラット

フォーム」の研究を

展開しています。音

声つぶやきシステム

は、IoTイノベー

ションのための「人

間の活用」にスポットライトを当てた研究で

す。背景には、IoTを機械だけの閉じたシ

ステムではなく、もっと人間が関与することで

使いやすいものにできるのでは、という発想が

あります。たとえば、農業では省力化と高品

質化を目指してIoT化が進行しており、様々

な物理センサーで温度や湿度などの栽培環境

データを収集活用しています。一方で、農作

物の生育状況や病害虫の発生などは、経験豊

かな人間が目視で行っており、物理センサー

よりも人間の五感というセンサーが有効なの

です。私は、人間センサーと物理センサーの

連携と融合が、今後のIoTイノベーション

のポイントだと考えています。IoTの未来

形は、モノからの情報に加えて人間の「気づ

き」の情報も活用する「IoE(Internet of

Everything

)」なのです。

最先端のIoTイノベーションは

人工知能と人間の知能の融合から

 

今後の研究活動全般で、人工知能と人間の

知能をどう融合させるかという点に焦点を当

てていきたいと考えています。そのためにはコ

ンピュータを研究するだけでは不十分で、人

間をどう扱うか、両者をどう組み合わせるか

が重要になります。それができるのが、人間

の知能と人工知能の双方を扱う「知識科学」

という学問なのです。

 

私が研究室を運営する上で大切にしている

ことは、重箱の隅をつつくような研究ではなく、

ゼロからイチをつくるようなワクワクする研究

を行うということです。世の中にないものを

概念としてつくっていきたい、少々型破りでも

面白いと思える研究を求めていきたいと考え

ています。

IoT を活用した、イノベーションを「デザイン」する手法を追求

内平 直志Uchihira Naoshi

東京工業大学博士(工学)、北陸先端科学技術大学院大学博士(知識科学)。株式会社東芝 研究開発センター次長、技監を経て、2013 年本学に着任。日本 MOT 学会理事、研究・イノベーション学会総務理事。専門はソフトウェア工学、サービス科学、イノベーションマネジメント。

特集 1知識マネジメント領域

内平 直志 教授

2019 6

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 ゲームは人工知能領域の優れた研究対象

である。池田心准教授は、児童期から「ゲー

ムのプログラマや研究者」を志望。一方、

囲碁については父の手ほどきが厳しく、一

時期敬遠していた経験から、「教え上手なコ

ンピュータが指導してくれていれば…」と

いう思いが現在のテーマに繋がっていると

いう。人間の知能に勝る強いゲームAIで

はなく、池田准教授が求める人間に寄り添

うゲームAIとは?

ゲームAIの原点

 

囲碁や将棋は、人間の知性の一種の象徴で

す。ボードゲームはルールが明確で、強さを評

価し易いことから、人工知能のテストベッドと

して優れています。日本ではかつてゲームは学

術的な対象と認知されていない時期がありま

したが、私は本学に赴任して満を持して研究

室を構えました。2005年、有名ゲーム企

業の代表はある国際会議でこのように語ってい

ます。「名刺には社長とありますが、頭脳はゲー

ムの開発者、心はゲーマーです」。私は改めて、

ゲームを面白くするには、研究環境、組織力、

開発技術、そして何よりもゲームを好きであ

ることが不可欠であると確信したのです。

「プレイヤに合わせること」が基本、人

を楽しませるAI

 ゲームAI研究は十数年前まで、ボード

ゲームの強いAIを生み出すことが主流で

した。その強さが人間のプロを凌ぐレベル

に達した今日、私たちは対象をテレビゲー

ムにも拡げ「人間を楽しませる」賢いAI

に取り組んでいます。

 「接待碁・指導碁プログラム」の研究は、人

間の囲碁インストラクターのような、プレイヤ

を指導する・楽しませるためのプログラムです。

プレイヤを楽しませるには、AIには強さに

プラスαの要素が必要です。その要素として、

プレイヤの強さや好みを読み取ること、初中

級者相手ならば勝たせてあげること、その場

合も不自然さがないこと、早打ちをせず、投

了のタイミングを計ること、ワンパターンを避

けて多様に打つことなど6点を洗い出しまし

た。そして、機械学習を用いて不自然な手を

抑制する手法、悪い手を理由や図付きでを手

直しする手法などを開発しています。

プレイヤが疑心をいだかない、乱数の

つくり方

 コンピュータゲームでは、サイコロを振る、

トランプを配るなどの場面に乱数が用いられ

ます。このときプレイヤは、目の出方によっ

て、認知バイアスが働いて「不当に操作して

いるのでは」と不信感を抱くことがあります。

私たちの「偏りがあるように思わせない(偏っ

た)乱数生成」の研究では、人間の認知バイ

アスに対応し、真の乱数よりも「自然に見え

る」乱数生成のアルゴリズムを考案しています。

例えば、同じ目が連続する頻度を落とすなど

の作為的に調整をした乱数に対し、実際、被

験者の大半は、数学的に正しい乱数ではなく、

こちらを「真の乱数」と見なします。この研

究をまとめた論文は情報処理学会の電子図書

館で閲覧1位を記録しました。

人間を洞察し、理解するAIという

新たな挑戦

 私たちは、プレイヤの強さや好みなどの「そ

の人らしさ」に合わせることを重視してきまし

た。例えば、RPGでは仲間と協力して敵と

対戦するというものがありますが、人間プレ

イヤのプレイヤスタイルや意図や場合によって

は勘違いなどの弱さを汲み取り、それに合わ

せる仲間AIという発想で研究を進めていま

す。人間プレイヤはゲームをプレイする際に

見間違いや操作ミスなど実に多くの〝人間ら

しさ〟を持っていることが分かっており(図)、

これを理解することが大事だと考えています。

 

最近、新たなキャッチフレーズとして「人

間に寄り添うAI」を掲げています。かつて

ゲームAIを強くするため、プロ棋士の真似

をさせる「教師あり学習」が使われました。

AIがプロを凌駕する強さを備えると、さら

なる強化のためにAI同士の対局という「強

化学習」が行われ、人間は不要になりました。

しかし、私たちの目指す「人間を楽しませる

AI」は人間に学びます。教育学、心理学、

経済学などを取り入れ、人間を考察、理解す

ることが、ゲーム情報学の進展に重要ではな

いか、と私は考えています。

池田 心Ikeda Kokolo

東京大学学士(1999)、東京工業大学博士(工学)(2003)。京都大学学術情報メディアセンター助教を経て本学に着任(2010)。専門は、ゲーム情報学、進化計算、機械学習、エージェントシミュレーション。

ゲーム・エンタテイメント領域

池田 心 准教授

人間を楽しませる、人間に寄り添う、理解する

ゲーム AI の成長を追求

特集 2

7 JAIST NOW No.18

Page 8: NOW - jaist.ac.jp · いけば、能美市全体での取り組みが進みやすで協力して、こんな簡単なところから入ってのに役立てられるかもしれません。市と本学ことを啓発でき、意識を高めていってもらう市やJAISTがSDGsに取り組んでいる配ってみてはどうでしょう。

 

本年7月、本学に着任、研究室を

構えた都英次郎准教授。ナノテクノ

ロジーやバイオ工学など様々な分野を

融合させ、社会のトレンドを一気に変

えるような革新的な技術、ゲームチェ

ンジングテクノロジーに挑んでいる。

医療分野で活躍する

ナノロボットの開発

 

私たちの研究室は、ナノテクノロ

ジー、生物工学、材料化学、ナノメ

ディスンなど様々な領域に興味を抱

いています。これらを組み合わせる

ことにより、医療や産業の分野に変

革をもたらす技術を創出しようとし

ています。

 

主要なテーマの一つは、医療・

薬学分野で有用なナノスケールの

機能性ロボットです。ナノ材料の

多様な物理化学的特性を利用し、

体内の生物学的活性や健康状態の

モニターや疾患の治療を目的とす

る制御可能なナノバイオシステム

を開発しています。

 

例えば、その一つは、抗ガン剤を

運搬するナノロボットの合成です。

ガンは世界の死因の上位に位置する

疾患です。様々な治療法や有効な薬

剤が創られていますが、強い副作用

が難点となっています。そこで私た

ちは、腫瘍細胞を標的として薬剤を

運ぶナノトランスポーターを創製し

ました。光発熱特性を持つカーボン

ナノチューブと温度に応答して構造

を変化させるリポソームとを組み合

わせたナノロボットです(図1)。

このロボットは磁場によって標的と

する病巣部に誘導され、光の照射で

カーボンナノチューブが発熱し、こ

れに反応してリポソーム内の物質が

放出されると

いう仕組みで

す。この研究

は企業との連

携により進め

ています。

農業の将来を支援する

昆虫型ロボット

 

食品産業や農業分野に対しても、

自然から着想を得て設計するネイ

チャーインスパイアード材料とロ

ボット工学を融合した研究を行って

います。

 

現在、農産物の多くは、生産量に

直結する花粉交配を昆虫に依存して

いますが、その激減が世界的な問題

となっています。米国などでは海外

からミツバチを輸入していますが、

遺伝子コンタミネーションの問題が

生じています。昆虫による花粉交配

の代替手段として、人の手で羽毛や

筆を使って受粉する昔ながらの方法

が行われています。しかし、この方

法は大変な労力を要し、農家の方た

ちの高齢化や人手不足は深刻です。

 

私は以前、粘着性があるイオン液体

ゲルという物質を開発したのですが、

花粉媒介昆虫の問題を知り、その新た

な用途を閃きました。このイオン液体

ゲルには、花粉をくっつけたり落とし

たりするのに適した粘着度があり、不

揮発性です。私たちは全自動の人工花

粉交配技術の構築を目指し、粘着性ゲ

ルを塗布した動物体毛を超小型ドロー

ンの下部に取り付けたミツバチ型ロ

ボットを検討しています(図2)。こ

の研究は発表当時、国内よりも海外か

らかなりの反響がありました。ドロー

ンの操作性や受粉の効率化を向上さ

せるため高精度なカメラや全地球測位

システム(GPS)、

人工知能を導入し、

ロボットが移動から

受粉まで自律的に

行うシステムを検討

しています。

革新的な技術、あるいは

新分野を拓く

 

世界には、社会を変革するような

優れた材料になる原石が潜んでい

て、それを探し当て、磨き上げるの

が私たちサイエンティストです。そ

の手法は、生物・有機物と無機物と

の組合せ、新規材料と機械ロボット

との組合せなど、私が興味深い、面

白いと惹かれるテクノロジーです。

ただ、ナノメディスンの研究は、共

同研究者の先生がガンで亡くなられ

たことが私には衝撃的で、それが契

機となっている。あるいは、研究の

キーワードの一つ、バイオミメティ

クスは生物を模倣・再現する科学技

術を意味しますが、模倣ではなく、

生物の構造や機能を超えたい。こう

したモチベーションに突き動かさ

れ、研究に臨んでいます。

バイオ工学とナノ材料を駆使、ゲームチェンジングテクノロジーに挑む

都 英次郎Miyako Eijiro

九州大学博士(工学)。日本学術振興会特別研究員 DC2(九州大学)、フランス国立科学研究センター客員研究員、シンガポール南洋理工大学客員研究員、産業技術総合研究所主任研究員を経て、2019 年に本学着任。専門は生物工学、材料化学、ナノテクノロジー、ナノメディシン。

物質化学領域

都 英次郎 准教授

特集 3

図 1

図 2

2019 8

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目的に応じた性能を発揮できる触

媒プロセス技術は、触媒機能の最大

化やコスト/エネルギーの削減を可能

とし、持続可能な社会の実現に貢献

する。西村准教授は、触媒機能の制

御手法の確立とバイオマス資源変換プ

ロセスの開拓からその技術革新に挑ん

でいる。

固体触媒の高機能化の指針を

確立する

 

触媒は物質変換・合成プロセスに

不可欠な材料です。身の回りにある

製品や環境システムの多くは触媒化

学と関連があります。私たちの研究

テーマの1つは固体触媒の高機能化、

特に活性と選択性を向上させる指針

の確立です。

 

例えば、金とパラジウムは、アルコー

ル化合物の選択酸化や過酸化水素合

成など幅広い反応に高活性を示す合

金触媒を形成します。私たちは、特

定の有機物(PVPやDDAOの略

称で知られる化合物)と担体(ハイ

ドロタルサイト)を用いることで、ア

ルコール化合物の選択酸化に秀でた

活性・選択性を示す金︱パラジウム

触媒を開発しました。この時、添加

する有機物の種類が合金触媒の構造

や電子状態の制御に強く関与するこ

とを発見し、その作用機構を提案し

ています。

 

現代の社会基盤を担う多くの工

業プロセスで使用されている触媒です

が、その機能の発現機構が十分理解

されないままに使用されるケースも

少なくありません。高機能性の要因

を1つ1つ解き明かすことで触媒の振

る舞いを理解し、目的の機能を持っ

た触媒を精度よく設計できる「レシ

ピ」を描くことが夢です。

バイオマス資源変換を高効率

化する、固体触媒プロセス

 バイオマスは、カーボンニュートラル

性と再生可能性から次世代資源とし

て期待されていますが、収集・運搬コ

ストの高さや炭素密度の低さが難点

です。私たちのもう1つの研究テーマ

は、高効率なバイオマス資源変換の実

現です。

 バイオマスから得られるHMFは2

つの官能基を備えた反応展開力に富

む化合物で、例えば酸化的変換でF

DCA、水素化開裂を経てHDOと

いったポリマー原料になります。また、

水素化分解では高性能燃料DMF

を、DMF由来HDの縮合では燃料

と化成品の両方を製造できるMCP

の合成も可能です。私たちは、それ

ぞれのプロセスに有効な触媒の開発に

成功しています。

 

食料需給とできるだけ競合しない

バイオマス資源の利用も重要なニーズ

です。フルフラールは、非可食性のバ

イオマス資源から工業規模で製造で

きますが、その用途拡大は大きな課

題です。私たちは、還元的アミノ化

により医薬品や農薬生成に繋がるF

AMを、開裂したSAからポリマー原

料となるBDOを、それぞれ合成で

きる触媒の開発にも成功しています。

ごく最近ではフルフラールからのHM

F合成プロセスに注目しており、フル

フラールの高い生産性とHMFの幅広

い展開力を活かすことで、バイオマス

資源変換プロセスの新しい潮流を生み

出すことを期待しています。

 

私が所属する融合科学共同専攻で

は、異分野融合を基軸とした大学院

教育に取り組んでいます。資源・エネ

ルギー循環への期待、ナノスケールで

の材料探索への興味など、様々な切

り口から触媒開発へ挑戦することが

できます。ぜひ、

一緒に触媒化学

と異分野の融合

による「新たな

知」の創造に挑

戦しましょう。西村 俊

Nishimura Shun

東京学芸大学修士(教育学)、北陸先端科学技術大学院大学博士(マテリアルサイエンス)。2011年本学着任(助教)。本学講師を経て2018年本学准教授。2019年より本学と金沢大学が共同で設置する融合科学共同専攻専任教員。専門は触媒化学、固体触媒、合金触媒、バイオマス変換。

物質化学領域

西村 俊 准教授

持続可能な社会の実現に貢献する、触媒プロセス技術の

構築を目指す

特集 4

OO

OOHO

OO

OOH

ONH2

OHHO

OO O

OHHO

OO

OHO

OH

O

O

HOOH

HMFFurfural DMFMF

SABDO

FA FAM HDO FDCA

MCPHD

Blue: mainly for chemicals Red: mainly for fuels Pink: possibly for chemicals & fuels

9 JAIST NOW No.18

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科学者のミッションとは

 

谷池研究室が目指すのは、社会に

役立つ材料の開発を最小投資(人・

資源・時間)で実現することです。

世界は、環境・エネルギー問題や食

料・水不足など人類存続に係る問題

が山積みされ、科学者はその解決に

総力を挙げて取り組むべきです。日

本も資源無きグローバル化、少子高

齢化に伴う生産年齢人口の縮小など

の課題を抱えつつも、持続的な成長

と国際貢献の術を探らなくてはいけ

ない。こうした現状を前に、世界的

な問題の打開を日本において実現し

たいと私は考えています。

 

従来、材料設計には、仮説を検証

する実験に膨大な時間とマンパワー

を浪費してきましたが、私たちは、

探索・学習・予測という三つの方法

論を駆使した、新たなマテリアルサ

イエンスを展開しています。

探索・学習・予測を相乗的に実践

 

マテリアルサイエンスでは、様々

な元素や物質の最適な組合せや最適

なプロセスを発見し、優れた材料を

創製することが目標の一つです。私

たちの「探索」は、膨大な候補材料

の検証に「ハイスループット実験」

を用います。実験の回転数(スルー

プット)を飛躍的に加速させるため、

自動化・並列化された実験装置を自

ら設計し、例えば、1日に4000

点もの検証実験を実現しました。ス

ループットの最大化により、専ら思

考や情報収集に時間を使うという研

究スタイルを取ることができます。

 

ハイスループット実験では、大量

の材料とともに、各材料の合成条件、

構造、性能という大量データが得ら

れます。材料性能は数多くの構造因

子が複雑に関わった結果であり、そ

うした構造性能相関を明らかにする

ため、大量データの解析に機械学習

を用います。データから「学習」し

た知見は、続くハイスループット実

験に反映させます。

 

コンピュータを使って新しい高性

能材料を「予測」することは、計算

科学の最たる目標といえます。私た

ちは、実験と計算科学を相互支援的

に組み合わせることで、数多くの実

験結果を再現できる高精度な分子モ

デルを提案し、in-silico

材料設計に

取り組んでいます。

 

昨今、注目を集めるマテリアルズ

インフォマティクスではデータの質

と量が重要ですが、材料科学研究の

実験データは非常に少ない。例えば、

ある触媒反応に関する30年分の論文

を検索したところ、触媒の調製法や

評価条件がそれぞれ異なり、機械学

習に必要なデータ数としては全く足

りません。そういう観点から、ハイ

スループット実験と、その実験から

均質な条件下で自家生成される大量

データは、マテリアルズインフォマ

ティクスに有益であろうと考えます。

社会を変革する材料を、

高速かつ最小投資で創出

 

最近の研究成果を一部紹介します。

 

ポリエチレンテレフタラート(P

ET)の工業的合成は、非常にエネ

ルギー効率の悪い高温真空プロセス

を要しますが、私たちは、その工業

触媒の70倍の活性を有する固体触媒

を開発しています。

 

また、ポリマー材料は酸化劣化で

寿命を迎え、焼却処分されています

が、今、海洋プラスチックゴミが問

題となっています。リサイクルやリ

ユース性の向上には十分な寿命を確

保する必要がありますが、寿命を1

個測る実験には1週間から1カ月を

要します。そこで私たちは、有機物

や高分子の酸化に伴う化学発光を捉

える技術を用い、ハイスループット

評価ができる化学発光イメージング

装置を開発。通常の寿命測定実験の

2000倍速を可能にしました。こ

れによって新規材料の寿命開発の研

究を多く手がけています。例えば、

極めて高強度で伸縮性に富む人工ク

モ糸について、その脆弱性の改良に

向けた劣化解析に取り組んでいます。

 

私たちが重視していることは、特

定の材料に限らないということ、そ

して社会の課題に対する最善手を高

速で研究すること。社会に役立つ材

料ということを特に意識しており、

ゆえに、その出口が絶対になくては

いけない。そのように考えています。

PROFILE

谷池 俊明Taniike Toshiaki

東京大学 理学博士。2006 年、北陸先端科学技術大学院大学助手(2007 年 4 月より助教)、2013 年より同大学准教授。専門は、ハイスループット材料実験、マテリアルズインフォマティクス、実験と計算化学の相互利用。

研究室訪問セキュリティ・ネットワーク領域青木研究室ソフトウェア工学、形式手法、形式検証

研究室訪問物質化学領域谷池研究室不均一系触媒、ポリマーナノコンポジット、グラフェン、逆浸透膜、第一原理計算、プログラミング

2 1探索・

学習・

予測のシナジーに

よる次世代マテリアル設計で

社会の課題打開に貢献する

触媒インフォマティクスの実現へ

Obs

. C2

sele

ctiv

ity

Obs

. C2

sele

ctiv

ity

Predicted C2 selectivity Predicted C2 selectivity

ケース❶:文献データベース ケース❷: 実験データベース

10% CV…

90% CV !!

2019 10

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PROFILE

青木 利晃Aoki Toshiaki

北陸先端科学技術大学院大学博士(情報科学)。2009 年、北陸先端科学技術大学院大学准教授、2016 年 10 月より同大学教授。専門はソフトウェア工学、ソフトウェア科学。

PROFILE

谷池 俊明Taniike Toshiaki

東京大学 理学博士。2006 年、北陸先端科学技術大学院大学助手(2007 年 4 月より助教)、2013 年より同大学准教授。専門は、ハイスループット材料実験、マテリアルズインフォマティクス、実験と計算化学の相互利用。

研究室訪問セキュリティ・ネットワーク領域青木研究室ソフトウェア工学、形式手法、形式検証

2形式手法を用いて

正しいソフトウェアを開発

 バンキングシステム、携帯電話、自

動車など、社会の様々なシステムや機

器にはソフトウェアが組み込まれてい

ます。それらの組込みソフトウェアは

大規模化・複雑化が進み、その正しさ

の検証、信頼性の保証は困難になって

います。ソフトウェアの誤りはシステ

ムの誤作動を引き起こし、人的被害、

社会活動の混乱など甚大な損害を来

す事例も報告されています。従来、組

込みソフトウェアの検証作業には、レ

ビュー手法や実装後のテスト手法が主

に用いられていますが、これらの手法

では時間がかかりすぎる上に、精度

の高い信頼性や安全性を保証するこ

とが困難になってきています。こうし

た状況に対し、私たちは正しいソフト

ウェアを開発するアプローチとして形

式手法を実践応用することを提案し

ています。形式手法では、対象とする

ソフトウェアの仕様や設計を、数学に

基づいた手法やツールを使うことによ

り開発や検証を行います。

機械学習の安全性を検証する

手法を企業と共同研究

 

本研究室の研究対象は「社会にお

けるソフトウェア」であり、積極的に

企業との共同研究を行っています。主

な研究対象には車載システムがありま

す。現在の自動車には電子制御ユニッ

トとよばれるコンピュータが100以

上も搭載されて複雑化していますが、

ソフトウェアによって自動車を正しく

制御し、高度な安全性を確保するこ

とは困難ながらも必須です。本研究室

ではこの挑戦的な課題に取り組んでい

ます。

 

製品化された車載オペレーティング

システム(OS)を検証する研究では、

検証対象のOSの設計を仕様記述言

語Promela

で記述し、モデル検査ツー

ルSPIN

で検証して設計モデルの正し

さを確認する、対象のOSがこの正し

い設計モデルと同一の振舞いをするこ

とを網羅的なテストにより確認する、

という手法で、このOSが正しいこと

を保証することに成功しています。

 

昨今、機械学習が注目を集め、エ

ンタテイメントシステム、事務処理シ

ステム、自動車の自動運転などの高安

全システムなど多様な産業応用が検討

されています。例えば、自動車などの

画像認識ではライダーやカメラ、レー

ダーが検知した周辺環境のデータを

分析・判断しますが、機械学習の導

入によって認識率は飛躍的に向上し

ました。とはいえ、認識率は100%

ではなく、エラーについてはブラック

ボックス、すなわち、AIの下した答

えがどのような根拠に依るものなの

か、わからないという問題が課されて

います。このような機械学習に対し、

高度な安全性を検証する仕組みはい

まだ確立されていません。私たちは目

下、機械学習を導入したシステムを対

象に、その安全性を系統的に評価す

る手法を、企業とともに探究していま

す。その最初の成果は、ASTER

第12

回善吾賞を受賞しました。

科学技術イノベーションを

見据えた融合科学共同専攻

 

本学では昨年度、金沢大学ととも

に、教員と授業科目を提供し合い、

大学院教育を行う共同教育課程、「融

合科学共同専攻」を立ち上げました。

本学からは主任研究指導教員として

10名が参画し、私もそのうちの一人と

なりました。

 

産業や社会は進展が著しく、その

変化に即応していくためには、私たち

は科学技術のイノベーションに挑むだ

けでなく、人材も輩出していく責務が

あります。イノベーションの創出は従

来のような単一の科学分野では成し難

く、複数分野の横断的、融合的な領

域から新たな知が発見できる。これが

この共同専攻の理念です。カリキュラ

ムは、両大学がそれぞれ得意とする分

野の科目で構成されます。

 

本研究室が手がける車載システムの

研究では人工知能、機械の制御、ボディ

の素材など多様な知識が結集します。

企業もまた、融合的、統合的技術を

用いてプロダクトを製造している。融

合科学共同専攻は、産業界や社会が

真に求める人材を育成する新たな試

みです。

安全・安心な社会を目指し、

自動運転における機械学習の

安全性を検証する手法に挑戦

11 JAIST NOW No.18

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同窓会員インタビュー Interview

2019年1/19

留学生・若手の近況報告若 手:勝村 勇太郎氏(知識 博士前期2017年修了、フューチャー勤務)留学生:Mr. Thanisorn Apasuthirat(情報 博士前期2014年修了、Fujitsu Ltd.)

情報科学研究科修了生の講演 畠中 俊己 様 (情報1期)○「Connecting the dots - JAISTが私にもたらしたもの」Alexa Skills Kit, Developer Evangelist | Amazon Japan G.K.

材料科学研究科修了生の講演 酒井 平祐 様(材料13期)○「アンビエント情報社会に向けたフレキシブルセンサの開発」北陸先端大 マテリアルサイエンス学系 講師

知識科学研究科修了生の講演 山田 広明 様 (知識11期)○「AI分野に広がるソーシャル研究~知識科学研究者(?)からの眺め~」株式会社富士通研究所 人工知能研究所

2018年1/27

情報科学研究科修了生の講演 小林 幹門 様(情報13期)○「文系から理系への転向、JAISTを経て広がった私のキャリアパス」デロイトトーマツリスクサービス シニアコンサルタント

材料科学研究科修了生の講演 矢島 覚 様(マテ4期)○「JAISTでの学びと計測器開発との関わり」東京計器株式会社 計測機器システムカンパニー

知識科学研究科修了生の講演 磯貝 孝 様(知識16期)○「金融分野におけるデータマイニングと人材育成」日本銀行金融機構局 企画役、首都大学東京大学院経営学研究科特任教授

2019年1月19日に東京の品川インターシティにあるJAIST東京サテライトにてJAIST同窓会を開催しました。JAIST修了後、各方面にて活躍している修了生のJAISTでの学びから現在の活躍、取り組みに至るさまざまなお話しを紹介していただきました。講演会終了後は、インターシティ地下で懇親会を行い、旧友や恩師と楽しく語らい、またビジネスでの協業などJAIST卒業生の縁を深めました。以下は同窓会での最近の講演です。

同窓会設立趣旨本会は、会員相互の親睦を厚くし、併せて北陸先端科学技術大学院大学の発展に協力することを目的とする

主な活動

JAIST 同窓会総会

▶同窓会総会 (例年 1月@東京サテライト)・活躍する修了生の講演・懇親会

▶修了生名簿の管理・同窓会Webにて随時入力更新可能

▶アカデミックガウンの貸し出し・同窓会員は無料

▶研究室同窓会の支援・名札の貸し出しなど

https://www.alumni.jaist.ac.jp/アカウントやパスワードが分からない場合は、[email protected] までメールを下さい。

https://www.facebook.com/JAIST%E5%90%8C%E7%AA%93%E4%BC%9A-285261078263329/

または http://bit.ly/JAIST-alumni

同窓会への参加

同窓会Webに登録

Facebook ページ

次回同窓会開催予定

2020年3月14日(土)JAIST東京サテライトにて準備中

2019 12

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同窓会員インタビュー Interview

2019年1/19

留学生・若手の近況報告若 手:勝村 勇太郎氏(知識 博士前期2017年修了、フューチャー勤務)留学生:Mr. Thanisorn Apasuthirat(情報 博士前期2014年修了、Fujitsu Ltd.)

情報科学研究科修了生の講演 畠中 俊己 様 (情報1期)○「Connecting the dots - JAISTが私にもたらしたもの」Alexa Skills Kit, Developer Evangelist | Amazon Japan G.K.

材料科学研究科修了生の講演 酒井 平祐 様(材料13期)○「アンビエント情報社会に向けたフレキシブルセンサの開発」北陸先端大 マテリアルサイエンス学系 講師

知識科学研究科修了生の講演 山田 広明 様 (知識11期)○「AI分野に広がるソーシャル研究~知識科学研究者(?)からの眺め~」株式会社富士通研究所 人工知能研究所

2018年1/27

情報科学研究科修了生の講演 小林 幹門 様(情報13期)○「文系から理系への転向、JAISTを経て広がった私のキャリアパス」デロイトトーマツリスクサービス シニアコンサルタント

材料科学研究科修了生の講演 矢島 覚 様(マテ4期)○「JAISTでの学びと計測器開発との関わり」東京計器株式会社 計測機器システムカンパニー

知識科学研究科修了生の講演 磯貝 孝 様(知識16期)○「金融分野におけるデータマイニングと人材育成」日本銀行金融機構局 企画役、首都大学東京大学院経営学研究科特任教授

2019年1月19日に東京の品川インターシティにあるJAIST東京サテライトにてJAIST同窓会を開催しました。JAIST修了後、各方面にて活躍している修了生のJAISTでの学びから現在の活躍、取り組みに至るさまざまなお話しを紹介していただきました。講演会終了後は、インターシティ地下で懇親会を行い、旧友や恩師と楽しく語らい、またビジネスでの協業などJAIST卒業生の縁を深めました。以下は同窓会での最近の講演です。

同窓会設立趣旨本会は、会員相互の親睦を厚くし、併せて北陸先端科学技術大学院大学の発展に協力することを目的とする

主な活動

JAIST 同窓会総会

▶同窓会総会 (例年 1月@東京サテライト)・活躍する修了生の講演・懇親会

▶修了生名簿の管理・同窓会Webにて随時入力更新可能

▶アカデミックガウンの貸し出し・同窓会員は無料

▶研究室同窓会の支援・名札の貸し出しなど

https://www.alumni.jaist.ac.jp/アカウントやパスワードが分からない場合は、[email protected] までメールを下さい。

https://www.facebook.com/JAIST%E5%90%8C%E7%AA%93%E4%BC%9A-285261078263329/

または http://bit.ly/JAIST-alumni

同窓会への参加

同窓会Webに登録

Facebook ページ

次回同窓会開催予定

2020年3月14日(土)JAIST東京サテライトにて準備中

博士課程修了後も続けられて

いる研究は、いまどのような

段階にありますか?

 

柔かいトランジスタやセンサーと

いったフレキシブルデバイスの作製

を進めています。現在は薄いプラス

チック基板上に溶液プロセスや印刷

法を適用し、ある程度湾曲性のある

デバイスの作製が可能になっていま

す。将来的には人の体に貼っても違

和感を与えない、絆創膏のように薄

く柔らかなものを作ることを目指し

ています。それが実現されれば、例

えばセンサーを仕込んだシートを身

体に貼り付けておき、1週間分の血

圧や脈拍、体温のデータを蓄積して

取り出す、あるいは靴にセンサーを

入れて歩く際の重心を測ることで、

体調の良し悪しの判断

に活かすなど、医療や

健康管理での活用が期

待できるでしょう。ま

た例えばスポーツな

ら、ゴルフクラブは柔

らかく握りなさいと言

われますが、初心者に

はいったいどれくらい

の力で握っていいか、

その感じが掴めない。

もし、上手な人の握り

をセンサーで計測して

定量化できれば、それを数値で伝え

られるようになります。柔らかなセ

ンサーで生活の様々な場面をモニタ

リングし、便利さや快適さのために

役立てて、暮らしの豊かさに貢献し

たいと考えて研究を進めています。

JAISTに進んだ理由は

どこにありましたか?

 

学部の頃から現在の領域を学んで

いましたが、化学科に所属していた

のでどちらかというと分析に重心が

あり、同時に有機デバイスの作製も

進めるというスタイルでした。私自

身は、ものづくりの方が性に合うよ

うなところがあって、より深くデバ

イス作りに携わりたいという思いを

叶えるために、有機デバイスの作製

を含めた研究をされていたマテリア

ルサイエンス研究科の村田研究室を

志望したという次第です。そこから

現在につながる有機トランジスタあ

るいは有機センサの研究を深めてい

き、博士課程を修了後も大学等で継

続しています。2014年には教員

としてJAISTに戻り、5年弱勤

めましたので、学生時代と合わせて

10年間ほど石川生活を送ったことに

なります。

長く過ごしたJAISTでは、ど

んな研究生活を送りましたか?

 

研究する時にはとことん集中す

る、遊ぶ時には思いっきり遊ぶとい

う毎日でした。村田研究室で私が所

属していたトランンジスタ班のモッ

トーは、「ON/OFF比を大きく」

というもので、ONの研究時とOF

Fの遊びの時間をきちんと切り分け

て、その差をできるだけ広げようと

心がけて研究生活を送りました。J

AISTにはそのためのうってつけ

の環境があったと思います。自分の

テーマを追求するための様々なサ

ポートもありがたかったです。他の

研究室の先生と気軽にコミュニケー

ションでき、アドバイスしていただ

けましたし、ナノマテリアルテクノ

ロジーセンターの方に難題を持ちか

けても「こうしたらできるんじゃな

いか」と、非常に親身になって協力

してもらえました。ハード面でも最

先端の装置をトレーニングさえ受け

れば自由に使うことができ、これは

他大学に比べても非常に恵まれてい

たと感じます。とにかく、研究を志

して入ったらフルスロットルで突き

進める環境があるんですよね。

では、もう一方の「OFF」の

時間はどうだったのでしょう?

 

JAISTは山の中で何もないよ

うですが、石川はお魚が美味しいし

日本酒も美味しい。学生時は金沢の

片町で朝まで飲み明かしたり、週末

には日帰り温泉の本を頼りに、片っ

端から出かけて行って温泉三昧した

り、地元を満喫していました。教員

として戻ってきてからも、学生たち

と夜9時にゴルフの打ちっ放しに集

合したりと、時間を有効に使って楽

しく過ごしましたね。研究に没頭で

きる環境だからこそ、そういったメ

リハリのある生活が送れると思いま

す。これから入学する皆さんにも、

ぜひそんな姿勢で臨んで欲しいと思

います。とことんやろうと思えば、

それに付き合ってくれるのがJAI

STです。

オンとオフをしっかり切り替えて充実した研究生活

学部の頃より有機デバイスの開発・作製に興味を持っていた酒井さんは、その思いを実現するために JAIST へ進学。産業や生活の場で多彩な活用が期待される新たなデバイスの創造を目指して始めた取り組みは、教員となった現在も進行中です。本学には、研究への熱意に正面から応えてくれる環境があったと当時を振り返ります。

酒井 平祐 Sakai Heisukeさかい・へいすけ国士舘大学 理工学部 理工学科 准教授

マテリアルサイエンス研究科 博士後期課程 2010 年修了

13 JAIST NOW No.18

Page 14: NOW - jaist.ac.jp · いけば、能美市全体での取り組みが進みやすで協力して、こんな簡単なところから入ってのに役立てられるかもしれません。市と本学ことを啓発でき、意識を高めていってもらう市やJAISTがSDGsに取り組んでいる配ってみてはどうでしょう。

平成31年4月

加賀電子と産学連携包括契約を締結 加賀電子株式会社と、産業や社会全体の発展に寄与する新事業創出に向けて、加賀電子グループの取引先企業及び加賀電子が出資したベンチャー企業が持つ基幹技術が抱える課題を解決し、魅力的な製品開発を目的とした共同研究作業に関する包括契約を締結しました。 今回の産学連携包括契約では、本学が持つ世界レベルの研究インフラを新事業創出のための研究開発活動に活用し、委託を受ける研究テーマによっては本学が持つ国内外の大学・研究機関等と連携した研究ネットワークも活用します。 ■共同研究開始:2019年4月より ■包括契約期間:5年間 ■目的:産学連携を強化し、新事業創出につなげる ■主な委託テーマ: エレクトロニクス分野を中心とした基幹技術

の課題解決          ① 成長分野向けセンサー開発

(車載、医療、介護)          ② 次世代エネルギー素材の探求

(ナノテクノロジー他)          ③ ビックデータ活用基盤を構成する基礎技術

(高度セキュリティー、暗号化、ラッピング)、など

令和元年6月

ロシア・シェレホフ市少年親善使節団が本学を訪問 6月26日、能美市の姉妹都市であるシェレホフ市(ロシア)より、シェレホフ市少年親善使節団18名が来訪しました。 浅野学長による歓迎の挨拶の後、シェレホフ市出身の本学学生シャドリン・ジェニースさんも歓迎の挨拶を行いました。 使節団一行は、本学に関する概要説明を受けた後、最先端の研究設備や附属図書館、世界有数のパズルコレクションを展示した JAIST ギャラリー等を見学しました。 初めて見るものの数々に目を輝かせ、使節団の中には、シャドリン・ジェニースさんに本学への入学の方法を質問する子もいるなど、本学に興味を持った様子でした。

令和元年6月

欧州連合(EU)発の大学ランキング「U-Multirank」において、本学の研究等が優れた評価を獲得 本学は、欧州連合(EU)の主導で発足した大学ランキング「U-Multirank」に6年連続で参加し、「研究」、「知識移転」、「国際指向」及び「地域貢献」分野のうち、研究成果、産業界との共同出版比率、外国語プログラム、外国人学生への学位授与率、地域との共同出版物などの主要項目で、最高ランクの評価を獲得しました。また、特許件数に関して「Top 25 performing universities」として紹介されました。 U-Multirank は、EU の出資を受けたコンソーシアムが、ドイツ・高等教育開発センター(CHE:Center for Higher Education)やオランダ・トゥウェンテ大学高等教育政策研究センター(CHEPS:Center for Higher Education Policy Studies at the University of Twente)等の専門機関の支援を得て実施しています。 このランキングの特徴は、既存の国際的な大学ランキングとは異なり、異なる活動の成果を集めた混合得点による大学の順位表は作成せず、教育・学習、研究、国際指向、知識移転等の各分野のパフォーマンスを分野ごとに比較できる多元的評価を導入していることです。第6回となる2019年ランキングは、世界96カ国、1,711の高等教育機関が対象となりました。

令和元年7月

駐日インド大使が本学を訪問 7月19日、駐日インド大使のサンジェイ・クマール・ヴァルマ閣下が本学を訪問されました。今回の訪問は、ヴァルマ大使がインドとの交流について高い実績を持つ本学を視察されたものです。大使、インド大使館関係者、石川インド協会関係者を含め計8名が来学しました。 浅野学長、寺野、永井、新田の各理事及び川西副学長との懇談、川西副学長から本学の概要説明の後、大使と本学教員との意見交換会が行われました。意見交換会は、インド出身の教員らが研究内容を大使に紹介するなど、終始和やかな雰囲気で進み、会の終わりには記念品の交換が行われました。 また、同日午後には、インド大使館及び北陸経済連合会が主催し、本学が共催機関として参加した「北陸・インド交流会議」が金沢市内で開催され、浅野学長が「インドの大学との交流を通じて感じること」と題して講演しました。

U-Multirank から提供された評価結果「Sunburst Chart」

2019 14

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[ジャイスト ホットニュース]HOT NEWS

平成30年9月

能美市の課題をIoT や AIを活用して解決するアイディアソンを実施 9月25日 か ら4日 間、 能美市の課題を IoT や AI を活用して解決するアイディアソン(アイデアとマラソンを組み合わせた造語であり、短期集中(ブートキャンプ)形式のグループワークで新しいアイデアや提案を生み出すためのイベント)が開催され、本学の学生16名が参加しました。 本アイディアソンは、本学のグループ副テーマ研究の一環として実施され、4日間のアイディアソンでは、本学の教員4名と AI ベンチャーである株式会社 mynet.ai の梅野社長による講義と課題演習に加え、井出能美市長の2回にわたる講演と質疑、能美市役所における関連部門へのヒアリングを行い、最終的に産業課題解決、交通課題解決、コミュニティ課題解決、農業課題解決に係る4つの提案をまとめました。

平成30年11月

北陸発の産学官金連携マッチングイベント「Matching HUB Kanazawa 2018」を開催

 11月1日、2日、ANA クラウンプラザホテル金沢において「北陸発の産学官金連携マッチングイベント『Matching HUB Kanazawa 2018』」を開催し、2日間で約1,300名が来場しました。 本イベントは、北陸地域全体の活性化を目的に産学官連携本部が主催するもので、今年で5回を数え、昨年に引き続き公益財団法人北陸先端科学技術大学院大学支援財団と国立研究開発法人産業技術総合研究所中部センターとの共催で、「地方創生と起業・創業」をテーマに数多くのプログラムを執り行いました。 初日は、同テーマによる講演、パネルディスカッションのほか、次代を担う学生によるビジネスアイデアコンテスト「M-BIP」の最終審査(プレゼンテーション)が行われました。2日目は、出展企業等による235ブースのパネル展示を実施したほか、学生ビジネスアイデアコンテスト「M-BIP」の入選者によるポスターセッションとして23ブースが設けられ、学生から詳しい説明を聞くため多数の来訪者がブースに集まりました。パネル展示と同時に、関係機関セミナーや出展企業によるプレゼンテーション、「M-BIP」最終審査の結果発表及び表彰式を行い、会場は最後まで熱気に包まれました。

平成31年2月

サイバー攻撃防御演習の研修で11ヵ国の ICT 担当官が本学を訪問 2月25日、国際協力機構(JICA)によるサイバー攻撃防御演習の研修を受ける ASEAN など計11ヵ国(カンボジア、インドネシア、イラン、イラク、ラオス、マレーシア、ミャンマー、フィリピン、 タイ、ベトナム、ジンバブエ)のサイバーセキュリティを担当する技術者21名が、本学を訪問しました。 これは、JICA が実施する研修員受入事業の1つである課題別研修のうち、サイバーセキュリティ攻撃に対応する能力の向上を目的とした「サイバー攻撃防御演習」のプログラムの中の研究機関視察として実施されたものです。 参加者は、本学が取組むサイバーセキュリティの演習環境の自動構築技術の研究開発について説明を受けた後、本学のスーパーコンピューターなどの設備を見学しました。その後、いしかわサイエンスパーク内の情報通信研究機構(NICT)の実験施設「北陸 StarBED 技術センター」で日本の実践的サイバー防御演習を支えるテストベッド StarBED を視察しました。

平成30年10月

タイ先端科学技術機関連合と学術交流協定を締結 10月25日に、タイ先端科学技術機関連合と学術交流協定締結にかかる調印式をタイにて実施し、浅野学長が調印式に出席しました。  タイ先端科学技術機関連合は、タイ政府の機関であるタイ国立科学技術開発庁と、本学が協働教育プログラムを実施しているタマサート大学シリントン国際工学部の2機関による連合体です。  タマサート大学シリントン国際工学部と本学は2011年から、タイ国立科学技術開発庁のコンピューター系部門の支援の下で、知識科学系・情報科学系にかかる協働教育プログラムを実施しておりましたが、2016年よりマテリアル系に協働教育プログラムを拡張するにあたり、タイ国立科学技術開発庁は同庁マテリアル系部門を含めた同庁全体としての支援を行うことに合意し、国立科学技術開発庁全体としての協定締結に至りました。 調印式に先立ち、浅野学長が本学の研究教育について紹介し、タイ国立科学技術開発庁副長官及びタマサート大学シリントン国際工学部長からも研究教育及び本学との連携事業について紹介がありました。

平成30年12月

体育館竣工式を挙行 本学では、このたび念願の体育館を新設し、そのお披露目と完成を祝して12月14日竣工式を執り行いました。 式には、大学関係者、丹沢文部科学省大臣官房文教施設企画・防災部文部科学戦略官のほか、体育館の設立に尽力いただいた馳元文部科学大臣・衆議院議員、谷本石川県知事、井出能美市長や地元選出の県議会議員、市議会議員、自治会長など多くの来賓が出席しました。 同体育館は、地球環境に優しい建築資材である集成材を多く使用しており、屋根・外壁へは断熱材を施工し、設備にはペアガラスや LED 照明器具を採用したほか、多目的トイレやスロープを設けるなど、省エネやユニバーサルデザインにも配慮しています。木による温かみのあるアリーナは、バレーボールのコートが2面とれる広さで、学生の課外活動や教職員の福利厚生に使用するほか、地域住民の体育活動及び災害時には避難所として開放するなど、大学関係者のみならず地域にも利用の門戸を広げて多目的に活用する予定です。

15 JAIST NOW No.18

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国立大学法人

北陸先端科学技術大学院大学

国立大学法人

北陸先端科学技術大学院大学

ジャイストナウ

ジャイストナウ

2019

NOW 2019第 18 号

No.1

8発行日   令和元年11月8日

発行   国立大学法人 北陸先端科学技術大学院大学 大学戦略・広報室

      〒 923-1292 

石川県能美市旭台1-1 

tel. 0761-51-1031ホームページ https://w

ww.jaist.ac.jp

No.18

同窓会員インタビュー

オンとオフをしっかり切り替えて充実した研究生活

酒井 平祐 さんJAIST HOT NEWS

JAIST INFORMATION

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研究室訪問

物質化学領域谷池研究室セキュリティ・ネットワーク領域青木研究室

10

JAIST同窓会12

特集6

7

8

9

IoTを活用した、イノベーションを「デザイン」する手法を追求

知識マネジメント領域内平 直志 教授人間を楽しませる、人間に寄り添う、理解するゲームAIの成長を追求

ゲーム・エンタテインメント領域池田 心 准教授バイオ工学とナノ材料を駆使、ゲームチェンジングテクノロジーに挑む

物質化学領域都 英次郎 准教授持続可能な社会の実現に貢献する、触媒プロセス技術の構築を目指す

物質化学領域西村 俊 准教授

学長対談石川県能美市

井出 敏朗市長

持続可能なまちづくりに大学の存在感を

北陸先端科学技術大学院大学

浅野 哲夫学長

2C O N T E N T S

INFORMATION[ジャイスト インフォメーション]

詳細はこちら↓http://www.jaist.ac.jp/NanoPlat/index.html【お問合せ先】ナノマテリアルテクノロジーセンターTEL:0761-51-1448E-mail:[email protected]

詳細はこちら↓https://www.jaist.ac.jp/ricenter/activity/technology/【お問合せ先】研究推進課研究協力係TEL:0761-51-1910E-mail:[email protected]

透過電子顕微鏡(TEM) クリーンルーム

800MHz 核磁気共鳴装置

質量分析装置(FT-ICR-MS)

集束イオンビーム加工装置

※技術サービス制度の利用をご希望の際は、ご相談ください。本学で実施可能か判断いたします。

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