NCNP AR 2014-20158 National Center of Neurology and Psychiatry (NCNP) NCNP ANNUAL REPORT 2014-2015 9...

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8 National Center of Neurology and Psychiatry (NCNP) 9 NCNP ANNUAL REPORT 2014-2015 概 要 メディカル・ゲノムセンターは、最新の遺伝子解析技術とその 成果を応用し、精神・神経・筋・発達障害について、患者さん一 人ひとりに最適な医療を実現することを目指して2015年4月に設 立されました。これまでに明らかになった遺伝子変化を用いた診 断サービスを提供しつつ、これからの研究開発の資源となる臨床 検体・診療情報を集積し、最新の遺伝子解析技術を用いて、個々 の疾患に適した新たな遺伝子診断法を開発していきます。疾患 の診断だけでなく、薬の選択や副作用の予測、よりよい治療法 や予防法まで、きめ細かい医療の実現を目指します。 ゲノム医療の実現を目指して 遺伝子レベルでの個人差に合わせた 革新的医療を創出するために メディカル・ゲノムセンターを設立。 メディカル・ゲノムセンター設立の経緯 近年、遺伝子解析技術が飛躍的に 進歩し、一人ひとりの遺伝子の変化を高 速かつ低コストで調べられるようになりま した。それとともに診療に役立つ遺伝子 型が次々と明らかになっています。このよ うな遺伝情報を利用した新しい医療(ゲ ノム医療)を国民に一日も早く還元するた め、政府は「ゲノム医療実現化プロジェ クト」を開 始しました。NCNPも、精 神・ 神経・筋・発達障害の担当拠点として、 2015年度よりメディカル・ゲノムセンター (MGC)を設 置しました。これまで検 体 収集や遺伝子診断を担ってきたトランス レーショナル・メディカルセンター(TMC) 臨床開発部を核として始動し、今後、さ らに拡大・充実していく予定です。 MGCの組織と役割 (1)ゲノム診療開発部 (P.6参照) ゲノム診療開発部は、これまでに疾患 との関連が明らかとなっている遺伝子型 の判定を遺伝子診断サービスとして提供 しつつ、蛋白質やアミノ酸など遺伝子に よってつくられる分 子の解 析(オミックス 解析 )や、研究所との連携による細 胞・ 動物実験研究により、疾患の原因の究 明や治療法の開発を目指しています。 (2)臨床ゲノム解析部 臨床ゲノム解析部は、次世代シーク エンサー(全ゲノム解析を行う装置)など 最新の技術を用い、新たな候補遺伝子 を探索する部です。国内最高の技術・ 設 備をもつ理 化 学 研 究 所と連 携・共同 研究を実施しつつ、M G C内においても、 きめ細やかな解析を行っています。ま た、詳細な診療情報と遺伝子情報とを 結びつけるデータベースの構築も行って おり、これらのシステムを用いて、診 療 に役立つ新たな遺伝子型を見い出して いきます。 (3)バイオリソース部 バイオリソース部は研究用の臨床検体 を収集・管理・提供することを目的として います。専属の心理士や検査技師、シ ステム・エンジニアなどが所属し、患者 さんへの説明、検体や情報の処理・管 理などを実施しています。「ナショナルセン ター・バイオバンクネットワーク」 (注1) の一 員として、他のナショナルセンターとも連 携して標 準 化も目指し、本 年 度より「 利 活用推進室」を設けて、研究をさらに活 性化していきます。 リファレンス 服部功太郎、吉田寿美子、後藤雄一:「国立精神・ 神経医療研究センター・バイオバンクの紹介」、脳 21、18巻2号、pp78-82 精神・神経疾患にとって貴重な脳脊髄液を3,000検体以上保存し ている 遺伝子診断サービスのため、検体より抽出したゲノムを解析している様子 遺伝子診断を実施し オミックス解析により 更に病態に迫る 新たな 遺伝子型の 発見 検体を集積するとともに 情報を充実させ研究の 基盤をつくる 最新の遺伝子解析技術で 新たな候補遺伝子を探索 ゲノム診療開発部 (遺伝子診断) 臨床ゲノム解析部 (ゲノム解析技術) バイオリソース部 (バイオリソース) 臨床 基礎 情報 検体 情報 検体 MGCの組織と役割 Research & Medical Front 研究と医療 最前線 2 Personalized medicine オーダーメード医療 メディカル・ゲノムセンター (MGC) 担当組織の特色 NCNPには20年以上続けてきた筋疾患・発達障害の遺 伝子診断サービスや、世界有数の規模を誇る15,000以上の 筋組織をはじめ、脳神経疾患に重要な約3,000の脳脊髄液、 500家系以上の発達障害DNA等のバイオリソースがありま す。これらを用い、理化学研究所とも連携しつつ、次世代 シークエンス法など最新の遺伝子解析技術を応用して、一 人ひとりの体質に合ったオーダーメード医療を開発します。 6年後(中長期計画)の目標 診断・分類・治療選択など に利用できる遺伝子・分子 マーカーを開発する。 マイナス150℃の貯蔵庫から発達障害家系のリンパ芽球 (将来にわたってDNAを増やすことができる細胞)を取 り出す後藤雄一メディカル・ゲノムセンター長 注1) ナショナルセンター・バイオバンクネットワーク http://www.ncbiobank.org/ わが国には、NCNPや国立が ん研究センターなど6つの国立高 度専門医療研究センター(ナショ ナルセンター)が存在し、これらが連携して高度な医 療情報を伴った検体を集めることで、主要な疾患を網 羅した質の高いバイオバンクをつくろうとしています。

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Page 1: NCNP AR 2014-20158 National Center of Neurology and Psychiatry (NCNP) NCNP ANNUAL REPORT 2014-2015 9 概 要 メディカル・ゲノムセンターは、最新の遺伝子解析技術とその

8 National Center of Neurology and Psychiatry (NCNP) 9NCNP ANNUAL REPORT 2014-2015

◆概 要 ◆

 メディカル・ゲノムセンターは、最新の遺伝子解析技術とその成果を応用し、精神・神経・筋・発達障害について、患者さん一人ひとりに最適な医療を実現することを目指して2015年4月に設立されました。これまでに明らかになった遺伝子変化を用いた診断サービスを提供しつつ、これからの研究開発の資源となる臨床検体・診療情報を集積し、最新の遺伝子解析技術を用いて、個々の疾患に適した新たな遺伝子診断法を開発していきます。疾患の診断だけでなく、薬の選択や副作用の予測、よりよい治療法や予防法まで、きめ細かい医療の実現を目指します。

ゲノム医療の実現を目指して遺伝子レベルでの個人差に合わせた革新的医療を創出するためにメディカル・ゲノムセンターを設立。

メディカル・ゲノムセンター設立の経緯

 近年、遺伝子解析技術が飛躍的に進歩し、一人ひとりの遺伝子の変化を高速かつ低コストで調べられるようになりました。それとともに診療に役立つ遺伝子型が次 と々明らかになっています。このような遺伝情報を利用した新しい医療(ゲノム医療)を国民に一日も早く還元するため、政府は「ゲノム医療実現化プロジェクト」を開始しました。NCNPも、精神・神経・筋・発達障害の担当拠点として、2015年度よりメディカル・ゲノムセンター

(MGC)を設置しました。これまで検体収集や遺伝子診断を担ってきたトランスレーショナル・メディカルセンター(TMC)臨床開発部を核として始動し、今後、さらに拡大・充実していく予定です。

MGCの組織と役割

(1)ゲノム診療開発部 (P.6参照) ゲノム診療開発部は、これまでに疾患との関連が明らかとなっている遺伝子型の判定を遺伝子診断サービスとして提供しつつ、蛋白質やアミノ酸など遺伝子によってつくられる分子の解析(オミックス解析)や、研究所との連携による細胞・動物実験研究により、疾患の原因の究明や治療法の開発を目指しています。

(2)臨床ゲノム解析部 臨床ゲノム解析部は、次世代シークエンサー(全ゲノム解析を行う装置)など最新の技術を用い、新たな候補遺伝子を探索する部です。国内最高の技術・設備をもつ理化学研究所と連携・共同研究を実施しつつ、MGC内においても、

きめ細やかな解析を行っています。また、詳細な診療情報と遺伝子情報とを結びつけるデータベースの構築も行っており、これらのシステムを用いて、診療に役立つ新たな遺伝子型を見い出していきます。

(3)バイオリソース部 バイオリソース部は研究用の臨床検体を収集・管理・提供することを目的としています。専属の心理士や検査技師、システム・エンジニアなどが所属し、患者さんへの説明、検体や情報の処理・管理などを実施しています。「ナショナルセンター・バイオバンクネットワーク」(注1)の一員として、他のナショナルセンターとも連携して標準化も目指し、本年度より「利活用推進室」を設けて、研究をさらに活性化していきます。

リファレンス

◦ 服部功太郎、吉田寿美子、後藤雄一:「国立精神・神経医療研究センター・バイオバンクの紹介」、脳21、18巻2号、pp78-82 精神・神経疾患にとって貴重な脳脊髄液を3,000検体以上保存し

ている

遺伝子診断サービスのため、検体より抽出したゲノムを解析している様子

遺伝子診断を実施しオミックス解析により更に病態に迫る

新たな遺伝子型の発見

検体を集積するとともに情報を充実させ研究の基盤をつくる

最新の遺伝子解析技術で新たな候補遺伝子を探索

ゲノム診療開発部(遺伝子診断)

臨床ゲノム解析部(ゲノム解析技術)

バイオリソース部(バイオリソース)

臨床

基礎

情報検体

情報

検体

● MGCの組織と役割Research & Medical Front

研究と医療 最前線 2 Personalized medicineオーダーメード医療

メディカル・ゲノムセンター(MGC)

▶担当組織の特色 NCNPには20年以上続けてきた筋疾患・発達障害の遺伝子診断サービスや、世界有数の規模を誇る15,000以上の筋組織をはじめ、脳神経疾患に重要な約3,000の脳脊髄液、500家系以上の発達障害DNA等のバイオリソースがあります。これらを用い、理化学研究所とも連携しつつ、次世代シークエンス法など最新の遺伝子解析技術を応用して、一人ひとりの体質に合ったオーダーメード医療を開発します。

6年後(中長期計画)の目標

診断・分類・治療選択などに利用できる遺伝子・分子マーカーを開発する。

マイナス150℃の貯蔵庫から発達障害家系のリンパ芽球(将来にわたってDNAを増やすことができる細胞)を取り出す後藤雄一メディカル・ゲノムセンター長

注1) ナショナルセンター・バイオバンクネットワーク http://www.ncbiobank.org/

 わが国には、NCNPや国立がん研究センターなど6つの国立高度専門医療研究センター(ナショナルセンター)が存在し、これらが連携して高度な医療情報を伴った検体を集めることで、主要な疾患を網羅した質の高いバイオバンクをつくろうとしています。