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1 三菱 UFJ 銀行 国際業務部 December 20, 2019 本資料は情報提供を唯一の目的としたものであり、金融商品の売買や投資などの勧誘を目的としたものではありません。 本資料の中に銀行取引や同取引に関連する記載がある場合、弊行がそれらの取引を応諾したこと、またそれらの取引の 実行を推奨することを意味するものではなく、それらの取引の妥当性や適法性等について保証するものでもありません。 ・本資料の記述は弊行内で作成したものを含め弊行の統一された考えを表明したものではありません。 ・本資料は信頼できると思われる情報に基づいて作成されていますが、その正確性、信頼性、完全性を保証するものでは ありません。最終判断はご自身で行っていただきますようお願いいたします。本資料に基づく投資決定、経営上の判断、 その他全ての行為によって如何なる損害を受けた場合にも、弊行ならびに原資料提供者は一切の責任を負いません。実 際の適用につきましては、別途、公認会計士、税理士、弁護士にご確認いただきますようお願いいたします。 ・本資料の知的財産権は全て原資料提供者または株式会社三菱 UFJ 銀行に帰属します。本資料の本文の一部または全部 について、第三者への開示および、複製、販売、その他如何なる方法においても、第三者への提供を禁じます。 ・本資料の内容は予告なく変更される場合があります。 MUFG BK Global Business Insight Asia & Oceania .インドネシア語の使用義務 PT. INDOMALCO INFO CENTER .フィリピン会社法改正に伴う発起人に関する施行規則 フェアコンサルティング フィリピン アシスタントマネージャー 戸村 裕輔 バングラデシュにおける海外労働者の送り出し事情 New Vision Solutions Chairman Momtaz Bhuiyan Managing Director Tareq Rafi Bhuiyan (Jun) Business Development Executive 福嶋 祐子 .活力ある組織づくり 階層別人材育成の進め方:専門職編 MERCER(THAILAND) LTD. Principal & ASEAN JMNC Segment Leader, Talent 仲島 基樹

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三菱 UFJ 銀行 国際業務部

December 20, 2019

・ 本資料は情報提供を唯一の目的としたものであり、金融商品の売買や投資などの勧誘を目的としたものではありません。

本資料の中に銀行取引や同取引に関連する記載がある場合、弊行がそれらの取引を応諾したこと、またそれらの取引の

実行を推奨することを意味するものではなく、それらの取引の妥当性や適法性等について保証するものでもありません。

・本資料の記述は弊行内で作成したものを含め弊行の統一された考えを表明したものではありません。

・本資料は信頼できると思われる情報に基づいて作成されていますが、その正確性、信頼性、完全性を保証するものでは

ありません。最終判断はご自身で行っていただきますようお願いいたします。本資料に基づく投資決定、経営上の判断、

その他全ての行為によって如何なる損害を受けた場合にも、弊行ならびに原資料提供者は一切の責任を負いません。実

際の適用につきましては、別途、公認会計士、税理士、弁護士にご確認いただきますようお願いいたします。

・本資料の知的財産権は全て原資料提供者または株式会社三菱 UFJ 銀行に帰属します。本資料の本文の一部または全部

について、第三者への開示および、複製、販売、その他如何なる方法においても、第三者への提供を禁じます。

・本資料の内容は予告なく変更される場合があります。

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Ⅰ.インドネシア語の使用義務 PT. INDOMALCO INFO CENTER

Ⅱ.フィリピン会社法改正に伴う発起人に関する施行規則 フェアコンサルティング フィリピン アシスタントマネージャー 戸村 裕輔

Ⅲ. バングラデシュにおける海外労働者の送り出し事情 New Vision Solutions Chairman Momtaz Bhuiyan Managing Director Tareq Rafi Bhuiyan (Jun) Business Development Executive 福嶋 祐子

Ⅳ.活力ある組織づくり 階層別人材育成の進め方:専門職編

MERCER(THAILAND) LTD. Principal & ASEAN JMNC Segment Leader, Talent 仲島 基樹

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Ⅰ.インドネシア語の使用義務

概要

多民族国家インドネシアの統一言語であるインドネシア語。2019 年 9 月 30 日付大統領令 2019 年第

63 号では、シーン別のインドネシア語の使用義務/規則を定め直しました。この中から、日系企業に

も関わりがありそうなシーンをピックアップしてみましょう。

まず、合意文書や契約書の言語についてです。2019 年大統領令第 63 号では、インドネシアの官民機

関またはインドネシア国籍の個人が関わる合意文書や契約書にはインドネシア語を使用しなければな

らない、としています。例えば、インドネシア人の株主がいる会社の株主総会議事録、インドネシア人

オーナーからアパートを借りる場合の賃貸契約書などは、インドネシア語の使用は避けられないでしょ

う。

ただし、同大統領令では次に、海外の当事者が関わる場合は、その当事者の国語または英語をインド

ネシア語との対照または翻訳した言語として使用できる、としています。インドネシア語と英語や日本

語の併記が可能になるわけですが、解釈に齟齬が生じた場合は、合意文書や契約書で取り決めた言語を

用いる、ともされていますので、どちらの言語を基本とするか、合意文書や契約書内に明記しておく必

要があります。

次に、職場環境における言語について説明します。2019 年大統領令第 63 号は、政府や民間の職場に

おける職員間、機関と機関の間、機関と一般社会との間で行われる公式なコミュニケーションには、口

頭か書面かを問わず、インドネシア語を使用しなければならない、としています。ここで言う公式なコ

ミュニケーションとは、配属、指示、検査、相談、弁護、指針、協議、面接、文書、公表、告知、会議、

討議、データ化、調整、監督、育成、公共サービスなどです。

ただし、国際機関または外国機関の職場では通訳の使用が可能である、とされています。基本言語は

英語としているところでも、表向きはあくまでもインドネシア語が基本で、日本語や英語の通訳者がい

る、ということにしないとならないでしょう。

商標の文言は、インドネシアの個人または法人が保有する商標ならば、インドネシア語を使用しなけ

ればなりませんが、外国のライセンスに該当する場合は例外です。また、歴史や文化、習慣、宗教的な

地域の価値を重視するために、アルファベット表記の外国語の使用が認められることもあるとされてい

ます。

事業機関名には、インドネシアの個人または法人が設立あるいは所有する事業機関名についてはイン

ドネシア語を使用しなければなりません。しかし、法人が株式会社で、その株式の全部または一部を外

国の個人または法人が保有している場合は、必ずしもインドネシア語を使用する必要はありません。イ

ンドネシア語の使用義務は、株式会社の全株式をインドネシアの個人または法人が保有している場合の

みに限られます。

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最後に、商品・サービスに関する情報で使用される言語について解説します。2019 年大統領令第 63

号では、国内で販売される商品またはサービスに関する情報は、国産か輸入かを問わず、全てインドネ

シア語を使用しなければならない、としています。ここで言う情報には、少なくとも商品名、仕様、原

料や成分、使用方法、組立方法、効用、副作用、寸法、重量や正味量、製造費、使用期限、影響、事業

者名と所在地がある、とされています。

ただし、外国語での補完も可能です。

記事提供:PT. INDOMALCO INFO CENTER

(2019 年 11 月 27 日作成)

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Ⅱ.フィリピン会社法改正に伴う発起人に関する施行規則

概要

フィリピンでは、約 40 年ぶりとなる改正会社法が 2019 年 2 月 23 日付で施行された。その後、証券

取引委員会より、施行規則が公表された。本稿では、発起人に関する会社法の主な改正点、当該改正に

より公表された、1 人会社以外の発起人に関する施行規則、1 人会社の設立に関する施行規則について

概要をまとめる。

1.はじめに

フィリピンでは、約 40 年ぶりとなる改正会社法(以下、新会社法)が 2019 年 2 月 23 日付で施行さ

れ、これに対する施行規則の公表が待たれていた。その後、証券取引委員会(以下、SEC:Securities and

Exchange Commission)より、同年 5 月 1 日に、1 人会社の設立に関する施行規則 1が公表された。ま

た、同年 8 月 1 日に、1 人会社以外の発起人に関する施行規則 2が公表された。

本稿では、発起人に関する会社法の主な改正点、当該改正により新たに公表された、1 人会社以外の

発起人に関する施行規則、1 人会社の設立に関する施行規則について概要をまとめる。

2.発起人に関する会社法の改正点

会社設立時の発起人に関する、会社法の主な改正点は表 1 の通りである。

【表 1】発起人に関する新旧対照表

本改正により、新たに法人(外国法人を含む)も発起人となれることとなった。日系企業の場合、例

えば日本の親会社が発起人となることも可能である。また、発起人の人数が 1 名以上に変更され、かつ、

発起人の過半数がフィリピン居住者である規定が撤廃された。これにより、例えばフィリピン非居住者

の親会社の役員のみで発起人を構成することも可能である。

また、取締役の人数も 1~15 名とすることが可能である。ただし、すでに設立済みの会社の取締役の

人数を、旧会社法上の最低 5 名から 2 名 3 とできるかについては、施行規則が公表されていない。

なお、発起人は設立企業の株式のうち、最低 1 株以上を所有しなければならない規定は引き続き存在

する(新会社法第 10 条)。ここで、株主が 1 名である場合には、新会社法で新たに規定された、1 人会

社の規定(新会社法第 115 条~第 132 条)が適用されるため、注意が必要である。 **************************************************** 1 SEC MEMORANDUM CIRCULAR NO.7 Series of 2019

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2 SEC MEMORANDUM CIRCULAR NO.16 Series of 2019

3 取締役が 1 名の場合には、後述する 1 人会社の設立に関する規定が適用される

3.1 人会社以外の発起人に関する施行規則

2019 年 8 月 1 日に公表された、1 人会社以外の発起人に関する施行規則の主な内容・会社設立の概要

は以下の通りである。

・発起人の人数は 2~15 名である(発起人の人数が 1 名である場合には、後述する 1 名会社の規定に

従う)

・発起人は定款(AOI:Article of Incorporation)に記される

・発起人は設立企業の株式のうち、最低 1 株以上を所有する。発起人は自然人に限らず、法人、組合等

も発起人となることができる

・自然人である発起人は、AOI、付属定款(Bylaws)にサインしなければならない。自然人以外の発起

人は、社名等や代表者を記載しなければならない

・外国会社が発起人となる場合には、フィリピン大使館認証やアポスティーユを取得した、フィリピン

で新規設立される企業への投資を承認する取締役会議事録等を SEC に提出しなければならない

・AOI 等に、発起人の TIN(Taxpayer Identification Number)もしくはパスポート番号を記載しなけ

ればならない。なお、会社設立時に TIN が発行されていない外国会社は、法人設立後、登記簿(GIS:

General Information Sheet)等を SEC に提出するまでに、TIN を取得しておく必要がある

・法人が発起人になる場合で、法人の代表である個人が、個人として設立企業の取締役となる場合には、

個人として設立企業の株式のうち最低 1 株以上を所有しなければならない

・外国籍の個人もしくは法人が発起人になる場合には、外資規制の対象となり、最低資本金制度等が適

用される

・当該新規則に基づいて会社設立を行う場合には、SEC から別途公表があるまでの間、オンライン申請

でなく、マニュアルで会社設立申請をしなければならない

4.1 人会社の設立に関する施行規則

旧会社法では規定されていなかった 1 人会社であるが、新会社法では、発起人の人数が新たに 1~15

名に改正されたため、発起人 1 名でも会社設立が可能となった。1 人会社は OPC(One Person

Corporation)として、その他の会社と区別されるため注意が必要である。

なお、2019 年 5 月 1 日に公表された、1 人会社の設立に関する施行規則による、1 人会社の内容・設

立の概要は以下の通りである。

・株主は 1 名であり、自然人、信託、遺産財団(estate)に限られる

・会社の存続期間は無期限(株主が信託、遺産財団(estate)の場合除く)

・“OPC”の文言を、社名の末尾に付す

・1 人株主が、1 名の取締役兼 President となる

・定款(Article of Incorporation)の SEC への提出は必要であるが、付属定款(Bylaws)の提出は要求

されていない

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・名義代理人を指定し定款に記載する。なお、定款に記載した名義代理人は、定款の変更をせずとも

SEC に変更通知をすることで変更は可能。1 人株主が死亡ないし無能力となった場合、指定した名義

代理人が 1 人会社の取締役兼 President を引き継ぐこととなる

・最低資本金の定めなし(ただし、特別法の定めがある場合を除く)

・財務役との兼任も可(ただし、財務役を兼任する場合には、表 2 の授権資本金額に基づいた保証金の

SEC への差し入れが要求される)。なお、秘書役との兼任は不可

・監査済財務諸表(ただし、総資産もしくは負債が 60 万フィリピンペソ未満の場合には、財務諸表の

承認は財務役で足りる)、その他書類を決算日後 120 日以内に SEC に提出する

・銀行等の金融機関や上場会社は、1 人会社を設立できない

・外国人の自然人は、1 人会社を設立できるが、外資規制の対象となり、最低資本金制度等が適用され

【表 2】必要保証金算出表 (単位:フィリピンペソ)

*授権資本金額が 5,000,001 フィリピンペソ以上の場合は、必要保証金の額は授権資本金額と同額となる

日系企業の場合、フィリピン子会社を設立することでフィリピンに進出するケースが多いが、上記の

通り、1 人会社の株主には法人が認められていないため、1 人会社設立の対象は、個人としてフィリピ

ンでビジネスを開始するケースになると考えられる。

5.まとめ

今回の施行規則の公表により、株式会社の設立に関して、発起人の人数の改定、また、新たに 1 人会

社の設立が可能となった。従来では、発起人は 5 名以上、かつ、過半数はフィリピン居住者とされてい

たため、日系企業の進出においては、弁護士事務所等に居住者としての発起人の名義貸しを依頼するケ

ースが見られた。

この点、新施行規則の公表により、発起人の過半数はフィリピン居住者との規定は撤廃され、また、

法人も発起人となることができるようになったことから、例えば日本の親会社とその取締役の計 2 名を

発起人とする等、フィリピン非居住者による発起人のみでの会社設立が可能となった。

フィリピン居住者としての発起人に対する名義貸し料が不要になる等、従来よりも設立のハードルは

下がったといえる。

記事提供:フェアコンサルティング フィリピン

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アシスタントマネージャー 戸村 裕輔

(2019 年 10 月 31 日作成)

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Ⅲ.バングラデシュにおける海外労働者の送り出し事情

概要

2018 年 12 月、日本政府は今後 5 年間で 33 万 4000 人の外国人労働者を雇用する法案を可決。2019 年

8 月にはバングラデシュもその対象国となったため、同国の海外移住者福利厚生・海外雇用省は、2018

年 2 月から全国 26 の技術研修センターにて 4 カ月の日本語コースを設け、指導を開始した。民間団体

も多数、同様のコースの準備を進めている。

2018 年 12 月、日本政府は、今後 5 年間で 33 万 4000 人の外国人労働者を雇用する法案を可決した。

当初、外国人労働者の雇用受け入れ対象国は、ベトナム、中国、カンボジア、ミャンマー、インドネシ

ア、フィリピン、タイに限られており、バングラデシュはリストに入ることができなかった。だが 2019

年 8 月、バングラデシュも対象国に選出された。日本政府は、海外労働者雇用計画の一環として、2018

年 4 月に新たに 2 種類の「特定技能ビザ 1 号・2 号」を導入した 1。

特定技能 1 号を取得する外国人に求められる最低技能水準は「相当程度の知識又は経験を必要とする

技能(特定の訓練を受けなくても一定程度の業務を遂行できる水準)」で、日本で 5 年間の勤務が許可

される。特定技能ビザ 2 号は何度でも更新できるため、最長定年までの就業が可能だとされるが、「建

設」「造船・舶用工業」の 2 分野での受け入れしか許可されていない。2 号ビザを取得する外国人の技

能水準は試験等で確認される 2。

バングラデシュが送り出し国に選出されたのは、2019 年 5 月に行われた日バ両国首脳会議の際、ハ

シナ首相が外国人労働者の受け入れを求めたことが一助になったと考えられている 3。ハシナ首相の提

案に、安倍首相は前向きに考える意向を示していた。同会議では、両国の関係強化を目的とした総額

1,326 億 5900 万円を限度とする円借款 4 件「マタバリ港開発計画(第1期)」(供与限度額 388 億 6600

万円)、「ダッカ都市交通整備計画(1 号線)(第1期)」(供与限度額 525 億 7000 万円)、「外国直接投資

促進計画(第2期)」(供与限度額 211 億 4700 万円)、「省エネルギー推進融資計画(フェーズ 2)」(供

与限度額 200 億 7600 万円)4 の政府開発援助(ODA)協定を締結している。

5 月の両国首脳会議から 3 カ月後の 2019 年 8 月、バングラデシュの送り出し元国認定が決まった。

バングラデシュ海外移住者福利厚生・海外雇用省と日本政策庁は「日本国法務省・外務省・厚生労働省

とバングラデシュ海外移住者福利厚生・海外雇用省との間の技能実習に関する協力覚書 (MOC)」と

いう2国間取り決めに署名したことを発表。バングラデシュから日本への外国人労働者の送り出しを進

める第一歩となった。今後、外国人技能実習生は 14 分野(図 1)で採用される予定で、その基本要件

として、「日本語能力検定試験」と「技能能力試験」が必要となる見込みである。

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バングラデシュ海外移住者福利厚生・海外雇用省は、2018 年 2 月から全国にある 26 の技術研修セン

ターを通じて 4 カ月の日本語コースの指導を開始した。また、多くの民間団体が、日本語を教えるため

に同様のコースの準備を進めている 5。

海外労働者による国別海外送金額は世界トップクラス

バングラデシュの海外労働者からの送金は、同国の経済成長を支える柱となっており、世界でも上位

にランクされている。

【グラフ 1:海外労働者からの送金額 (単位:100 万ドル)】

出典:世界銀行と KNOMAD6報告書、2018 年 12 月 7

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バングラデシュ中央銀行の報告書によると、2019 年 1~3 月の国別海外送金は、サウジアラビア(8

億 1,776 万ドル)からの送金が最も多く、全体の 18.70%を占めている。その後に、アラブ首長国連邦

(16.33%)、米国(10.69%)、クウェート(9.20%)、イギリス(7.89%)などが続くが、サウジアラビ

アとアラブ首長国連邦の 2 カ国だけで約 3 分の 1 を占めている。

【グラフ 2:バングラデシュへの送金総額における国別割合 (2019 年 1 月~3 月、単位:%)】

出典:バングラデシュ中央銀行「送金流入に関する四半期報告書」2019 年 1 月~3 月

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また、送金総額の 58.96%は湾岸諸国から送られており、主に「農業」「建設業」「料理人」「運転手」

「縫製工場」などの業種で派遣されたものである 8。次に多いのは、ヨーロッパ諸国(12.79%)、アジ

ア太平洋諸国 (9.91%)である(表 1)。2019 年 1~3 月の送金総額は 43 億 7,362 万ドルであり、前年

比 (2018 年 1~3 月の 38 億 2,864 万ドル)14.2%増加している。

日本からの海外送金総額は年々増加しているものの、2019 年 1 月~3 月の送金総額は 1,818 万ドルで

全体の 0.42%、アジア太平洋諸国の中でも 4.20%と低い割合を示している 9。

【表 1:国別送金額一覧(単位 100 万ドル)】

出典:バングラデシュ中央銀行「送金流入に関する四半期報告書」、2019 年 1 月~3 月 9

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海外労働者に関する法律

バングラデシュ政府は、すべての海外労働者とその家族の権利を保護するため、2016 年 1 月 11 日、

2013 年の国家労働安全衛生政策や移民法などに基づき、「外国人福祉と海外雇用政策 2016」を 10 年ぶ

りに改訂した。

この政策の主な目的は、国の経済発展に大きく貢献している海外労働者とその家族の安全を確保する

ことである。海外の雇用に関連する問題に対処するために、関係省庁大臣や秘書などによって構成され

る国家運営委員会の設立が提案された。同政策では、海外労働者に適切な訓練を提供すること、海外労

働者送り出し費用をより合理的な金額に修正するよう勧告している。今後は、官民一体となった海外労

働者送り出しの取り組みがより一層強化される必要がある。

また、同政策の重要な目的の一つに、女性労働者の海外雇用プロセスを簡素化することも含まれてい

る。バングラデシュの女性が、海外で活躍できる場を提供するのと同時に、送り出し機関内にも女性職

員を雇用することが推奨されている 9。

日本へ IT 人材を送り出すための取り組み

インドの IT エンジニアが日本語を学び、ブリッジエンジニアとして働く雇用モデルは、インドの隣

国であるバングラデシュでも実現可能なのではないかと期待が寄せられている。

2017 年には、同国の情報通信技術(ICT)省と国際協力機構(JICA)が連携し、“BJIT”というプロジェ

クトが 始動している。同プロジェクトでは、ソフトウエアのオフショア開発を行っていた現地の BJIT

という日系企業と宮崎大学が提携し、バングラデシュの優秀な IT エンジニアに日本語を教え、日本へ

の雇用機会を与えている。バングラデシュの IT エンジニアに日本の企業で働くことを想定した IT エン

ジニアを育成することを目的としているため、日本語以外にも、ビジネスマナー、コーディング品質の

慣習を訓練し、より日本の職場環境に適応できる IT エンジニアを育成している 10。

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また、バングラデシュにはフリーランスエンジニアが多く、インドについで 2 番目にフリーランサー

が多い国としても注目を集めている。

【グラフ 3:国別フリーランスの労働者数の割合 (2017 年)】

出典:Oxford Internet Institute 記事、2017 年 7 月 11 日付

日本語教育レベルの向上や、送り出し機関の正当な費用額の設定など、まだまだ課題はあるものの、

今後、IT 人材も含め、バングラデシュの優秀な人材が日本に送られる日も遠くはないだろう。

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********************************************************************************

記事提供:New Vision Solutions Chairman Momtaz Bhuiyan

Managing Director Tareq Rafi Bhuiyan (Jun)

Business Development Executive 福嶋 祐子

(2019 年 10 月 24 日作成)

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Ⅳ.活力ある組織づくり 階層別人材育成の進め方:専門職編

(前回のレポートは、以下の URL をクリックして本文をご参照ください。) https://www.bk.mufg.jp/report/insasean/AW20191206.pdf 5 回にわたる本シリーズでは、対象者の階層別に以下の点を明らかにしながら、効果的な人材育成の

進め方について考えていきます。

・その階層に求められる役割は何か?

・その役割を果たすためには、何を学ぶべきか?

・それらを学ぶためには、どういったプログラムが有効か?

4 回目は、専門職向け人材育成プログラムの進め方について解説します。

1.専門職層に求められる役割とスキル

専門職といっても、企業によってはこうした職務区分を持たないケースもあるかもしれません。ただ、

ここでは人事制度上の定義の有無にかかわらず、「管理職と同等の専門性を有していながらも、ライン

マネジャーとして組織の管理を任されてはいないポジション」を指すこととします。一般的には「スペ

シャリスト」や「エキスパート」といったジョブタイトルが見受けられます。

こうした専門職の役割定義は実は簡単ではありません。ラインマネジャーが、与えられた組織の目標

達成に向けて業務や組織を管理する役割を担うのに対し、専門職の場合、管理すべき対象組織を持ちま

せん。その結果、何となく「どの組織にも属さない仕事」や「経営幹部からの特命事項」を担当する「何

でも屋さん」になっているケースも少なくありません。

しかしながら、組織における人材活用の観点で考えれば、高い専門性を有する人材を「何でも屋さん」

として抱えておくだけではもったいないでしょう。役割と求められるスキルを明確に示し、自律的に付

加価値を生み出すよう促していく必要があります。

従って、ここでは専門職を以下のように定義します。

組織長であるラインマネジャー:担当する部門/分野における業務・組織管理を通じて、今のビジネ

スの中で成果を生み出していくポジション

専門職であるスペシャリスト:部門/分野横断的な改善・改革や新規事業の創出を通じて、将来に向

けて付加価値を生み出していくポジション

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一般的な分類として、専門職の各階層は主に 3 つに分類できます。

【図 1 組織における一般的な役割構造】

出所:各種資料を基に筆者作成

・現場での業務改善を主たる業務として、個人またはプロジェクトとして取り組みを進める「初級専門

職(=改善推進者)」

・生産性向上に向けた業務プロセスの抜本的な改革を、部門横断的に進める「中級専門職(=改革の担

い手)」

・新たな価値を生み出すために、全社を巻き込みながら、新規事業の創出に取り組む「上級専門職(=

イノベーター)」

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それぞれに求められる主な能力は以下の通りです。

【図 2 専門職に求められる役割と能力】

出所:各種資料を基に筆者作成

初級専門職(=改善推進者)

(求められる価値観) 常に良いものを求めたいと改善を追求する意欲

(求められる知識) 特定領域の業務プロセスに対する専門性

(求められるスキル)

・さまざまな状況下で原理原則を適用して判断する力(=応用適応力)

・業務改善に向けて、社内外の関係者と良好な関係を構築・維持できる力(=人脈構築力)

・業務プロセスにおける問題点を発見し、改善策を提案できる力(=問題発見力)

(求められる行動) 業務改善を進め、組織に付加価値をもたらす

中級専門職(=改革の担い手)

(求められる価値観) 利害対立を伴う改革プロセスの中でも、困難にくじけず、やり遂げようとする

意欲

(求められる知識) 幅広い業務プロセスに関する社内第一人者としての専門性

(求められるスキル)

・全体の生産性向上に向けて取り組むべき課題を定義し、必要な施策を描く力(=課題発掘力)

・部門間の利害関係を深く理解し、効果的なコミュニケーションを通じて、落としどころを定める力

(=利害調整力)

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・改革によって実現すべき成果を定義し、進捗度合いをモニタリングしながら、必要な施策を推進する

力(=改革駆動力)

(求められる行動) 特定のテーマにおける改革を推進し、組織に付加価値をもたらす

上級専門職(=イノベーター)

(求められる価値観) 「不可能に挑戦したい」「新しいものを生み出したい」といった挑戦心

(求められる知識) 業界内第一人者として深い知識を備え、新たな事業を生み出すことのできる

専門性

(求められるスキル)

・あらゆる情報から新規事業開発または事業再構築のヒントをつかみ、コンセプトとして固められる

(概念的思考力)

・異なる考えを持つ関係者に対しても、新規事業の意義や価値を伝え、共感を引き出していく力

(啓蒙力)

・新規事業のコンセプトを現実的なプロジェクトプランに落とし込み、その実現に向けて取り組みを

駆動する力(具現化力)

(求められる行動) 事業構想を具現化し、組織に付加価値をもたらす

担当者と異なり、専門職は与えられた仕事を効率的に処理するだけでは不十分です。その高い専門性

をフルに活用して、現行の業務プロセスにおける改善・改革の可能性を発掘しなければなりません。ま

た、管理職とは異なり、自分の配下に部下を持ちません。各部門からメンバーを募り、プロジェクトと

して業務を進める必要があります。時には、自分の部下を使って取り組みを進めるよりも難しい業務管

理・組織管理が求められることもあります。部門横断的な改革や新規事業の創出を行う際には、難しい

利害関係を調整する必要もあります。そういった意味では、管理職のポジションよりもより高いハード

スキル・ソフトスキルが求められる場面も少なくありません。

本稿では、こうした観点から、専門職層向けの人材育成プログラムについて階層ごとに分けて紹介し

ます。プログラム設計のポイントについては、「活力ある組織づくり 階層別人材育成の進め方:全体

像&ワーカー編」(2019 年 11 月 8 日付掲載)でも示した 4 つのステップ(価値観→知識→スキル→経

験)に沿って、お伝えします。

2.初級専門職(=改善推進者)向けの人材育成プログラム例

まず、初級専門職に対する人材育成の進め方を見てみましょう。

(1)専門職の役割について理解を深める「専門職研修」

前述の通り、専門職の役割定義は難しく、組織の「何でも屋さん」になってしまいがちです。そうな

らないよう、専門職のポジションに就く人材を集めて、その求められる役割やスキルについての研修機

会を設けるとよいでしょう。

初級専門職は、主に現場の業務改善を推進する役割です。従って、業務改善に関係する内容の知識習

得が必要になります。例えば下記のようなテーマが考えられるでしょう。

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・業務プロセスの標準化と再設計

・要員管理

・業務の見える化

・問題解決手法

・5S など

こうした知識習得の機会を与えることで、専門職としての改善・改革に対する主体性を引き出してい

きます。

一方、こうした研修以前に重要なのが、会社側が専門職に「改善・改革の機会」を与えるということ

です。管理職同等の知識を持ちながら、管理職ほど組織管理業務に忙殺されていないことから、何か問

題が発生すると、つい専門職人材に日々の活動の問題解決を依頼しがちです。しかしながら、本来それ

らは「上級担当者」が主体となり、「初級管理職(=業務監督者)」がサポートをしながら進めるべき内

容です。専門職人材が日々の問題解決に携わっていけないわけではありません。ただし、それに振り回

されて本来の役割である業務改善が進んでいないとしたら、本末転倒です。そうならないよう「業務改

善に関するプロジェクト」をはっきりと立ち上げ、その進捗を管理するプロセスを導入しておく必要が

あるでしょう。

(2)専門職の知識向上に向けた「テーマ別社内コミュニティ」の設置

専門職は、その専門性を維持するために、常に新しい技術や業界動向に目を向け、自分自身の知識を

アップデートしておく必要があります。一方で、すでに高い専門性を持った人材に対しては、管理職と

いえども十分な教育を行えるとは限りません。そうした中で、彼らにスキルアップを促す有効な方法は、

専門家同士で学ばせることです。

具体的には、ある特定のテーマ(例:品質管理、生産性改善、マーケティング、顧客開拓、コーポレ

ートガバナンス、AI 活用など)について、「社内コミュニティ」を作り、定期的に相互学習を図ること

で相互のスキルアップを図ります。専門職にも、その経験や知識の深さによって、上級・中級・初級と

レベル差があるため、初級専門職にコミュニティに参加させ、上位レベルの専門職からいろいろ学ぶこ

とで、現場では得られない学習ができることでしょう。

また、こうしたコミュニティの活動内容や参考になる情報を初級専門職から社内に発信させることで、

組織としても専門職人材のナレッジ(知識)を活用することができます。こうすることで、「専門職=

将来に向けて先進的に改善・改革を進めているポジション」という認知も広がるため、専門職としてよ

り多くの時間を改善・改革に割くことができるようになるでしょう。

(3)専門職のスキル向上に向けた「ストレッチ型業務改善プロジェクト」

通常、専門職のポジションに就く人は、自分の担当する業務についてはある程度精通しています。従

って、業務改善を依頼された場合、自分が描く「現行業務プロセスにおけるあるべき姿」に対して不十

分または不足している箇所を洗い出し、それに対する改善提案をすることが多いです。これはこれで重

要な業務でしょう。

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しかしながら、現行業務の延長線上でしか改善が考えられないとなると、その改善余地は限られてき

ます。多くの企業で QC(品質管理)活動と呼ばれる改善取り組みが見られますが、その多くが「もう、

改善のネタが出尽くした」「あまりインパクトのある改善提案が出てこない」という声が聞かれるのも、

まさにこの点が背景にあります。

企業が継続的に改善を図っていくためには、まさに現在の常識を超えた改善を図らなくてはなりませ

ん。そのために最も有効なアプローチが「ストレッチ型業務改善プロジェクト」です。

よく「3%のコスト削減の方が 30%のコスト削減よりも難しい」と言われるように、大胆な改善目標

を与えられると、ゼロベースで業務を見直さなければならないため、その中から新しい視点や改善のヒ

ントが生まれやすいのです。例えば次のような取り組みのイメージです。

(通常目標における課題と対応策の例)

経理部門の帳票処理におけるエラーをなくす→個々の作業手順を見直し、エラーが起きそうな作業で

ダブルチェックを行う

(ストレッチゴールにおける課題と対応策の例)

経理部門の人員を半分にする→難しくない作業はアウトソーシング会社に外注する(当然エラーは少

なくなる)

通常業務の改善は、上級担当者や初級管理職でも推進することができます。初級専門職に求められて

いるのは、それを超えるインパクトのある業務改善です。こうしたストレッチゴール(より高い目標)

を与えることで、新しい発想を引き出せるとよいでしょう。

(4)専門職の暗黙知を組織全体の形式知へと変える「マニュアル作成・人材育成」

人材の流動性が高いタイにおいては、人材がいつか退職してしまうことも想定しておかなければなり

ません。従って、業務改善の取り組みや知識・情報の蓄積においても、「XX さんに聞かなければ分から

ない」という状況は極力避けなければなりません。そんな時に有効なのが「業務マニュアルの作成」で

す。

時々、業務マニュアル作成を現在その業務を担当している中級または上級担当者に任せているケース

が散見されます。ただ、あまり好ましいとはいえないでしょう。本人に理解を整理させるにはよいアプ

ローチですが、やはり担当者レベルだと経験ベースの業務知識に基づいてマニュアルを作成しがちです。

例外的な処理が欠落していたり、原理原則にあっていない内容が記述されたりもします。

一方、専門職であれば、十分な経験の上に、すでに前述したような「業務プロセス分析・標準化」と

いったトレーニングを受けています。そのため、マニュアルを作成する際の留意事項や使い方にも注意

しながら、それを作成することができます。万が一、人手不足や専門性の違いから専門職人材に全ての

マニュアル作成を依頼できないのであれば、少なくとも個々の担当者が作成した業務マニュアルに対し

て専門職人材はレビューを行ったり、アドバイスを提供するなどして、品質を保つ努力をする必要はあ

るでしょう。

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最後に、そうした業務管理マニュアルを作成した後は、専門職にその導入教育やそれを用いた人材育

成の一部を担ってもらうことも可能です。こうすることで、専門職自身も新たな業務プロセスに対する

理解が深まる他、専門職ポジションの役割についての他の従業員の理解を促進することもできるでしょ

う。

3.中級専門職(=改革の担い手)向けの人材育成プログラム例

次に、中級専門職に対する人材育成の進め方も見てみましょう。

(1)組織変革の重要性を感じ取る「経営層との対話」

初級専門職(=改善推進者)と中級専門職(=改革の担い手)の 1 番の違いは、「複雑な利害関係の

中で組織変革を進められるか? 」という点にあります。初級専門職が取り組む「業務改善」には、い

わゆる「正しさ」があります。コストの削減や生産性の向上など、さまざまなテーマは考えられるもの

の、改善した部分を明らかにすることができます。一方、中級専門職が対応すべき課題は、時に部門横

断的で、それぞれの立場からすると必ずしも「正しい」とは言い切れないことを含め、全体最適に向け

た抜本的な改革を行うことにあります。例えば以下のような事例が該当します。

(業務改革の例)

これまで営業社員が 1 社 1 社訪問していたスタイルを改め、訪問は一定の取り扱い高のある顧客に絞

り、それ以外はコールセンターから電話で営業活動を行うスタイルへと変更することで、営業組織のス

リム化を図る

(変革の難しさ)

・営業部門の観点では、顧客に対するサービス品質の低下や顧客との関係の希薄化が心配

・コールセンター部門では、従来の既存のシナリオに沿った対応から、一段と難しい臨機応変な対応が

求められるため、人材育成が追い付くかどうかが心配

(成功に向けたポイント)

・営業スタイルの変更を一気に実施せず、来年度からの変更とすることで、顧客への事前告知を可能に

する

・営業部門とコールセンター部門が共同でコールセンターエージェントに対する教育プログラムを設計

し、導入する

・導入後 1 年間は両部門で定期的にミーティングを持ち、問題点やその対応方法を考える

こうした部門横断的な組織・業務改革は、一つの部門の専門性を有しているだけではなかなか発想で

きません。それを引き出すのが、「経営層との対話」です。経営層は常に業務全体を俯瞰し、その最適

解を考えています。対話を通じて、そういった視点を得るのみならず、事業責任者の問題意識の深さや

責任感に触れることで、そうした変革の必要性に気づくことができるでしょう。

こうした対話は、可能であれば中級専門職人材に対して個別に行うとよいでしょう。そうすることで、

変革の担い手としての主体性を醸成することができます。

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(2)組織・業務変革を推進するために必要な「チェンジ・マネジメント研修」

組織・業務の変革を行う際に必要なもの、それはそうした変革の要諦について深く理解し、留意すべ

きポイントを押さえたプロセス設計をする点にあります。「チェンジ・マネジメント(経営改革)研修」

とは、そうした大きな改革に携わる人材に向けて、必要な知識・スキルを身に付けさせるための研修で

す。主なテーマは下記の通りです。

・関係者の利害関係を把握し、適切にコミュニケーションプロセスを描くための「ステークホルダー

マネジメント」

・問題の原因を把握し、適切な解決策を導き出す「コンサルティングスキル」

・変革時に現場で想定される「推進要因」と「抵抗要因」を分析する「フォースフィールド分析」

・ミーティングを通じて相互理解を深め、合意を形成するために必要な「ファシリテーションスキル」

・組織の状態に合わせて必要なコミュニケーションの内容・スタイルを設計する「コミュニケーション

プランニング」

・改革の定着に向け、成果の達成度合いやリスク要因を可視化するための「KPI(=主要業績評価指標)

マネジメント」

こうした変革に必要な知識・スキルを備えておくと、改革の担い手となる専門職人材も自信を持って

状況に対応することができます。普段の業務では身に付きにくいスキルであるだけに初期教育は必要だ

といえるでしょう。

(3)実務スキル向上に向けた「変革プロジェクトへの周辺的参加」

前述のような知識教育を受けた後、中級専門職人材に大掛かりな組織変革のプロジェクトリーダーを

任せることができるでしょうか? もしかすると、人によっては、かなりハードルが高いかもしれませ

ん。利害対立が深刻な状況であれば、なおさらです。

そうした人にスキルを段階的に身に付けてもらうためには、変革プロジェクトに責任者の立場ではな

く、副責任者または主要メンバーの形で入ってもらうとよいでしょう。これによって経験のあるプロジ

ェクト責任者が、いつどのタイミングでどのような行動を取っているのかを観察することができます。

こうした業務への部分的関与から始める教育スタイルを「周辺的参加」と呼び、OJT(オン・ザ・ジョ

ブ・トレーニング)でよく使われる手法の一つです。

任用する際のポイントは、必ず全体が見渡せるポジションに就けることです。組織・業務改革のプロ

ジェクトを行う際、そのリスク要因は思わぬところから出てきます。それらをタイムリーにキャッチし、

プロジェクト全体として方針を決め、対応していくまでの一連のプロセスを理解していなければ、プロ

ジェクトの責任者としての視点はつかめません。具体的には、副責任者のポジション、または責任者の

右腕としてのアドバイザーポジション、どうしても力量的に難しいのであれば、事務局のコアメンバー

といったポジションが考えられるでしょう。

(4)改革の担い手としての経験を促す「短期的な異動・出向」

弊社で組織改革をサポートする際、その成否を分けるポイントは、「お互いが他部門のことをどれだ

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け知っているか? 」であることを痛切に感じます。相手のことを知らなければ、相手の痛みどころも

その痛みの強さも分かりません。誰もが痛みを感じたくない中で、お互いに許容できる範囲で痛みを分

かち合いつつ、その痛み以上のメリットを享受すること、それが変革の要諦です。そのためには、お互

いの業務や組織、人材の特性を知っておくことに越したことはありません。

こうした部門横断的な視点を養うために重要なのが、他部門や子会社への異動や出向です。相手を知

るには、相手の部門に入ってしまった方が早い、という考え方です。これは、会社主導のローテーショ

ンの多い日系企業では、ある程度イメージできる取り組みではないでしょうか? また、本稿をお読み

のみなさんの中にも、そうした組織改革のために現地法人に赴任されているかたもいるかもしれません。

しかしながら、現地人材を含めてこれを行う際には、できれば「期限付き」で、かつ「目的とゴール」

を明らかにした上で行う方がよいでしょう。それがないと、いくら「組織改革の担い手」と言われても、

躊躇(ちゅうちょ)する人も少なくないでしょう。望ましいコミュニケーションとしては、以下のよう

なイメージです。

・「会社として、グループ内シナジーの最大化という目的でタイの製造子会社と販売子会社を合併する

ことになった」

・「ついては、君に合併プロジェクトの副責任者として、現地の販売会社に赴任してもらいたいと思う」

・「ポジションはシニア・スペシャリストだ。現地の GM と同格ではあるが、君には専ら合併プロジェ

クトの責任者である販売会社社長の A 氏の右腕として、実務面一切をまとめてほしい」

・「製造部門出身の君に販売会社に行ってもらうのは、他でもなく、企業文化の統合に向けた最適なア

プローチを考えてほしいからだ。販売会社の人たちともネットワークを築き、彼らの実態を理解した

上で、新会社としてあるべき企業文化を作り出してほしい」

・「赴任期間は 4 月から 3 年だ。1 年後の合併の後、2 年間で組織・業務の定着と相乗効果の発揮に向け

て頑張ってほしい」

目的意識を持たせながら、重要なポジションに登用すること。これが人材育成の王道だといっても過

言ではないでしょう。

4.上級専門職(=イノベーター)の人材育成プログラム例

最後に、上級専門職に対する人材育成の進め方も見てみましょう。

(1)新規事業開発に向けて視野を広げさせるための「社外の要職との兼務」

上級専門職に求められるもの、それは「新しい事業機会(または業務上の付加価値)の創出」です。

初級専門職は業務改善、中級専門職は組織・業務改革の担い手として、いずれも現在の事業を前提とし

た上で、価値を生み出すことが求められていましたが、上級専門職は、そうした現在の事業・組織の前

提を超えて、新しい価値創出の機会を見つけることがミッションになります。

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例えば、

・市場ニーズから新しい事業ドメインを発掘する

・技術動向から、現行製品群の大幅な機能改定を行う

・非連続的な事業成長を実現するために、他社の買収を検討する

・法令改定の動向から、一部機能の別会社化やグループ企業向けサービス提供会社の新設を検討する

といったような取り組みです。

一般的に、上級専門職は、上級管理職(=機能部門の責任者)と同格のポジションです。部下は持た

ないまでも、その担当領域においては、社内ではもとより、業界内でも第一人者と認識されるほどの専

門性を有しています。その専門性や洞察力をフルに活用した上で、新しい事業機会を発掘することが求

められるのです。

そうしたヒントを探すきっかけとして、「社外またはグループ外の組織の要職を兼務する」というア

プローチが有効でしょう。例えば業界団体の幹事や、商工会議所の各種委員会の責任者などです。業界、

業態の異なる企業と交流することで、今まで自社内では得られなかった情報や視点に触れられるほか、

思いもよらぬ業務提携のきっかけも生まれるかもしれません。

こうした交流はもちろん私的な場面でも可能です。ただ、常に仕事の話をするとは限りませんし、参

加しているメンバーの役職や視座も異なります。ある程度、経営管理または業務経験の深いメンバー同

士で集い、業界や地域全体を俯瞰するような議論を行うことで、より直接的なヒントが得られるでしょ

う。

(2)イノベーターとしての基礎知識を身に付ける「イノベーション研修」

イノベーションというと「技術革新」というように長らく訳されてきたことから、日系企業の間では

「何か新しい事業を作るためには、これまでにない優れた技術を持っていなければ難しい」と考える人

が多いように思います。しかしながら、世界各国に目を向ければ、アップルの iPhone に代表されるよ

うに、技術的な優位性が必ずしも高くなくとも、ユーザーニーズに沿った価値提供を生み出すことで爆

発的にヒットした製品やサービスというのは数多く見られます。新規事業の創造を任された上級専門職

には、こうした視点を持つところから始めてもらう必要があります。

こうした上級専門職にぜひお勧めするのが「イノベーション研修」です。最近いくつかの企業で取り

組みが見られますが、新規事業を立ち上げる際に必要となる視点や考え方を身に付けることで、その後

の検討を効率的に進めることができるようになります。例えばプログラムのイメージは以下の通りです。

・事業アイデアの見つけ方

・市場および自社分析の仕方

・事業コンセプトのまとめ方

・新製品・サービス開発プロセスの設計

・組織体制の設計

・財務シミュレーション

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・事業計画書のまとめ方

企業によっては、前述の「企業買収」や「グループ企業再構築」など、必ずしも「新規事業」そのも

のを期待するわけではない場合も多いでしょう。しかしながら、イノベーション研修で学ぶ「新規事業

の立ち上げに必要な知識」には、企業組織をマクロからミクロなレベルで捉えるための視点が多く含ま

れています。経営管理の基礎を身に付けさせるには有効でしょう。

(3)実戦的なスキルを高めるための「産学共同」や「現地訪問」

新規事業の立ち上げを行う際、大きく分けて二つのアプローチがあります。一つは、技術の種(シー

ズ)から、将来できるようになることを予想し、市場のニーズにつなげていく方法、もう一つは、市場

のニーズから将来必要となるものを予想し、自社の製品・サービスと結び付けていく方法です。これら

は相互に絡み合うこともあり(例:技術シーズが市場ニーズを作る、市場ニーズが技術シーズの価値を

高めるなど)、新規事業開発担当者には、両方の視点を身に付けておくことが必要となります。

いろいろな企業の新規事業の立ち上げを観察していると、その難しさは「タイミング」にあるとつく

づく感じます。良い技術があっても、それが十分な経済性のもとで製品化されるには時期尚早であった

り、市場ニーズがあると予想されても、思ったスピードで拡大しなかったりといった状況です。これが、

「コンセプトはよいが、事業計画としてはいまいち」という多くの結果につながっているように思いま

す。

こうした状況の中で、その当たる確率を上げるためには、やはりその最先端の技術や市場に触れ、自

分の肌感覚で将来の可能性を捉えることが重要でしょう。技術の観点でいえば、「産学共同」などが挙

げられます。社内における研究機関との連携もよいでしょう。最新の状況や他社動向に触れることで、

自社としてなすべき意思決定のポイントが明らかになってきます。市場の観点でいえば、やはり現地に

足を運び、市場ニーズやサプライチェーンの実態を自分の目で観察することが必要です。経験的にいえ

ば、こうした状況はインターネット上の情報や専門機関の出すレポートなどではつかみきれません。関

係者へのヒアリングや一定期間の定点観測、特定テーマでの市場調査が必要になります。

こうした場数を踏んだ事業開発担当者は、やはり新規事業に対する感度が磨かれているように思いま

す。新規事業開発は、その性質として非常に成功確率の低いテーマです。成功の確度を上げるためには

上級専門職に質の高い経験をさせることが何よりも大事だといえます。

(4)経験を蓄積させるための「社内ベンチャーの立ち上げ」

上級専門職育成の総仕上げとして最も効果的なのが、実際の「新規事業の立ち上げ」です。検討のみ

ならず、実際に資金を動かし、事業の立ち上げに携わっていくことほど、ダイナミックで学びの多いプ

ロセスはありません。練りに練られた事業計画に基づき、新たな会社を設立し、収支責任を負っていく

経験ほど、貴重なものはないでしょう。

しかしながら、全ての企業にそうした資金力や別会社設立ニーズがあるわけではありません。その場

合は、「社内ベンチャー」という形でバーチャルに進めることが可能です。

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「社内ベンチャー」とは、社内に設けられた新規事業を実際に展開する部門のことで、あたかも独立

したベンチャー企業のように経営管理が行われます。メンバーが集められ、組織化された後は、まさに

親会社から出資してもらった子会社のように、収支計画を定期的に報告し、事業計画に沿って事業の拡

大を図ります。こうした社内ベンチャー制度を有している企業は、通常「撤退基準」(例:X 年間で黒

字化できなければ撤退)を持っており、その基準を下回らないよう、事業責任者は事業運営を行わなけ

ればなりません。

そうした中に、上級専門職が経営幹部の一人として関わっていくことで、社内に新規事業の企画・立

案から運営までの一貫したノウハウが蓄積されます。こうした経験を持った人材が一人でも多く生み出

されることで、その組織の将来性は大きく広がるといえるでしょう。

以上、今回は、専門職に対する人材育成の進め方について、解説しました。専門知識を持った有能な

人材を「何でも屋さん」で終わらせてしまうことは、非常にもったいないことだといえます。各階層に

はっきりとした役割を与えることによって、自社の持続的な成長を促していきたいものです。

次回は最終回として、経営トップおよび経営幹部層に対するアプローチについて取り上げます。

記事提供:MERCER (THAILAND) LTD.

Principal & ASEAN JMNC Segment Leader, Talent 仲島 基樹

(2019 年 11 月 10 日作成)

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~アンケート実施中~

(回答時間:10 秒。回答期限:2020 年 1 月 16 日)

https://s.bk.mufg.jp/cgi-bin/5/5.pl?uri=M6Aj3s

(編集・発行) 三菱 UFJ 銀行 国際業務部 (照会先)小澤 文月 塩山 翠里

(e-mail): [email protected]

次回の MUFG BK Global Business Insight Asia & Oceania の発行は 2020 年 1 月 17 日を予定しています。

本レポートのバックナンバーは、以下の URL からご覧いただけます。 http://www.bk.mufg.jp/houjin/kokusai_gaitame/report/index.html