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78 技術レポート Technical Report 要 約 目 次 技術レポート 見える化による効果的な人材育成 〜科学的な OJT の実施〜 魚住 剛一郎  池ノ内 智浩  佐々木 伸 近年、企業を取り巻く環境が様変わりをみせている中で、企業が人材育成に求め るものは「より高付加価値な人材を育成したい」「より早く・効率的に育成したい」 という点が強まっている。一方、育成の現場では「人材育成方針が不明確である」 「現状を把握できない」「業務遂行が忙しい中で育成の優先順位が下がる」「成長へ の意欲を喚起できない」など、多くの課題をかかえている。 これらの現状課題に対して、育成主体・育成手法を切り分けること及び教育(特 に OJT)の見える化を行うことが、効果的な打ち手の方向性であると考える。 育成主体の切り分けは、人事部門、事業部企画部門、現場(監督者)が育成す る範囲を明確に区分し、役割分担をする。育成手法については、方法を OJT / OffJT、社内/社外に切り分けるとともに、OJT については人材の高付加価値化に 最も寄与する育成方法として、その取り組み内容を明確化し、効率的に実施するこ とが重要である。 また、OJT の取り組み内容を明確化し、効率的な実施を支援、促進するものとし て、「見える化手法」が存在する。具体的には、「人材像」「現状(対象者)」「育成 手法」「進捗」の見える化を行う。今回、それぞれの実施内容の概要を整理した。 1.はじめに 1.1 企業内人材育成のニーズと課題 1.2 求められる取り組みの方向性 2.OJT と OffJT の特徴について 3.効果的な人材育成のための見える化手法 3.1 人材育成における見える化の効果 3.2 人材像の見える化 3.3 現状(対象者)の見える化 3.4 育成手法の見える化 3.5 進捗の見える化 4.育成の企画・実施主体について 5.おわりに

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78 技術レポート Technical Report

要 約

目 次

技術レポート

見える化による効果的な人材育成〜科学的な OJT の実施〜

魚住 剛一郎  池ノ内 智浩  佐々木 伸

近年、企業を取り巻く環境が様変わりをみせている中で、企業が人材育成に求めるものは「より高付加価値な人材を育成したい」「より早く・効率的に育成したい」という点が強まっている。一方、育成の現場では「人材育成方針が不明確である」

「現状を把握できない」「業務遂行が忙しい中で育成の優先順位が下がる」「成長への意欲を喚起できない」など、多くの課題をかかえている。

これらの現状課題に対して、育成主体・育成手法を切り分けること及び教育(特に OJT)の見える化を行うことが、効果的な打ち手の方向性であると考える。

育成主体の切り分けは、人事部門、事業部企画部門、現場(監督者)が育成する範囲を明確に区分し、役割分担をする。育成手法については、方法を OJT /OffJT、社内/社外に切り分けるとともに、OJT については人材の高付加価値化に最も寄与する育成方法として、その取り組み内容を明確化し、効率的に実施することが重要である。

また、OJT の取り組み内容を明確化し、効率的な実施を支援、促進するものとして、「見える化手法」が存在する。具体的には、「人材像」「現状(対象者)」「育成手法」「進捗」の見える化を行う。今回、それぞれの実施内容の概要を整理した。

1.はじめに 1.1 企業内人材育成のニーズと課題 1.2 求められる取り組みの方向性2.OJT と OffJT の特徴について3.効果的な人材育成のための見える化手法 3.1 人材育成における見える化の効果 3.2 人材像の見える化 3.3 現状(対象者)の見える化 3.4 育成手法の見える化 3.5 進捗の見える化4.育成の企画・実施主体について5.おわりに

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79見える化による効果的な人材育成 〜科学的な OJT の実施〜

Summary

Contents

Technical Report

Effective Personnel Development through Visualization– Scientific Implementation of OJT –Koichiro Uozumi, Tomohiro Ikenouchi, Shin Sasaki

In the recent unstable corporate environment, companies are increasingly demanding development of “higher value-added personnel” and personnel development that is “faster and more efficient.” However, there are many problems with actual workplace personnel development, such as “unclear personnel development policy,” “inability to understand the current state of affairs,” “low priority of personnel development due to busy work schedule,” and“inability to stimulate motivation for personal growth,” etc.

To tackle these issues, one effective direction will be to separate the development planning entity and the development methods, and to make education (OJT in particular) more visible.

For the development planning entity, the range of responsibility for personnel development should be defined for personnel divisions, business planning divisions, and workplaces (supervisors), respectively, to clarify their roles. Development methods should be divided into OJT/OffJT and internal/external. It is also important to clearly define the contents of OJT and implement OJT effectively so that it serves as the development method that makes the greatest contribution to realizing high value-added personnel.“Visualization methods” are techniques that define the contents of OJT activities and are also utilized to support and promote effective implementation. Specifically, “personnel image,” “current status (of target individuals),”

“educational methods” and “progress” are areas to be visualized. In this paper, we will outline details for practical implementation of each area of visualization.

1.Introduction 1.1 Needs and Challenges of Corporate In-House Personnel Development 1.2 Direction of Required Actions2.Characteristics of OJT and OffJT3.Visualization Methods for Effective Personnel Development 3.1 Effect of Visualization in Personnel Development 3.2 Visualization of Personnel Image 3.3 Visualization of Current Status (of Target Individuals) 3.4 Visualization of Methods 3.5 Visualization of Progress4.The personnel Development Planner and Implementer5.Conclusion

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1.はじめに

1.1 企業内人材育成のニーズと課題近年、企業を取り巻く環境が様変わりをみせている中で、企業内人材育成に求めるものも変

化・高度化をみせている。私達は、技術者など高い専門性を持った人材を育成する仕組みの構築支援を行っているが、その中でよく聞かれる声を整理すると次の 2 点になる。

1 点目は、「高付加価値型の人材を育成したい」という声である。事業環境の変化を受け、「定型業務」が減少し、状況対応や判断が求められる高付加価値な「対応型業務」が相対的に増加している。こういった業務に対応できる人材を育成したいということである。従来中心であった定型業務は、マニュアル整備・体系化が比較的容易で、研修・育成でカバーできる範囲が広く、また同一の業務内容の反復が多いことから、育成の設計が比較的容易であった。一方、近年増加している「対応型業務」は、マニュアル化・体系化が難しい領域であり、幅広い経験にもとづく蓄積が主たる能力向上の手段となるため、育成の設計が難しいということである。

2 点目は、「人を早く、効率的に育てたい」という声である。外部からの人材の調達が十分にうまく機能しなかった経験などを踏まえ、近年あらためて自社内での人材育成が重要であるという認識が増えてきている。しかし、従来のように手間と時間をかけることは難しい。そのため、何とか自社内で早く、そして日常業務への負担を少なく、人材育成を行いたいということである。

このように人材育成に求めるものが高度化する一方、育成の現場でも多くの課題をかかえている。典型的なものが下表に示すものである。

表 1.育成現場での典型的な課題

育成方針関連めざすべき人材像が不明確である

個人の能力を正しく把握できていない

育成機会関連多くの業務の中で、人材育成の優先順位が後回しになりやすい

日常業務におけるリスクへの許容度が下がっており、若手にチャレンジの機会を十分に与え切れない

育成対象者/育成実施者関連能力を高めること、新しいことにチャレンジすることへのモチベーションが高まらない

同一業務に従事する者の数の減少により、「多対多」から「個対個」へと変化した

育成ノウハウ関連 現場の教育においても求められる育成ノウハウの水準が高くなっていると同時に、自社内の優良な手法が散逸して消えていってしまう

作成:三菱総合研究所

1.2 求められる取り組みの方向性前述のような環境下において、人材育成(特に技術者など専門性の高い人材の育成)に

ついて取り組むべき方向性は、「育成主体・育成手法を切り分けること」及び「教育(特にOJT)の見える化を行うこと(教育の課題、めざす方向、現状、育成方法について、情報を生成、整理し、目に見えるようにすること)」であると考える。

従来より我が国では一定以上の規模の企業の人材育成は、全社の教育部門を中心とした階層別教育と現場の OJT の組み合わせで行われてきている。全社の教育部門を中心とした教育では、事業戦略を的確に反映することや現場の細かな技術的なニーズを汲み取ることは難

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81見える化による効果的な人材育成 〜科学的な OJT の実施〜

しい。この全社教育では埋められない面は、現場が主体となって行ってきた。しかし昨今、業務効率の追求など目前の業務への意識が強くなる傾向があり、喫緊の課題とならない人材育成はどうしても後回しになり、結果として現場教育がおざなりになってしまう状況にある。明確に育成主体を切り分け、各主体がそれぞれに適したミッションを負うことで、教育をおざなりにせず、ねらいが的確な育成が可能となる。また、育成手法についても、方法をOJT / OffJT、社内/社外にと明確に切り分けによることにより、適切な手法が適用され育成効果の向上が期待できる。

また、見える化手法は、OJT の効果・効率向上につながる。OJT は、定型化されにくい内容の教育に適した手法であり、人材の高付加価値化が求められる中で重要性が増している育成手法であるが、現実には十分に機能していないことが多い。これらを機能させる一助となるものが、見える化手法である。見える化により、現場教育に科学的なメスを入れることで、効果・効率の向上につなげる。

今回、「育成主体・育成手法を切り分けること」及び「教育(特に OJT)の見える化を行うこと」について、取り組む上で示唆を与える具体的な内容を整理する。

2.OJT と OffJT の特徴についてOJT 及び OffJT は、以下に述べるような育成方法としての一般的な特徴をそれぞれ持

つが、育成方法の選択にあたっては、各育成内容が持つ「制限条件」と「適性条件」からOJT / OffJT の手法を検討する必要がある。ここでは、先に育成内容による「制限条件」について述べる。

社内での教育・育成が困難な内容については、OJT での教育を行うことはできない。一般的な「社内教育が困難な内容」及び「社外教育の利用が困難な内容」には、以下に示すようなものがある。

● 社内教育が困難な内容・ 社内にない(新しい)知識・技術の付与・ 資格取得等の条件として、認定教育機関による研修が要求されているもの

● 社外教育の利用が困難な内容・ 自社独自の知識・技術の付与・ 自社特有の制度・システムに対応した事柄

この「制限条件」は、OJT / OffJT の手法の違いによるものではなく、社内での教育が可能かどうかの観点である。

上記の「制限条件」の検討の後に、各育成内容が「OJT に向いている」のか「OffJT に向いている」のかという「適性条件」について検討を行う。それぞれについての向き/不向きに影響する、一般的な要素を以下に示す。

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82 技術レポート Technical Report

図 1.OJT / OffJT の特徴及び適性内容

多人数を対象とした指導が可能現場での例示・実演が可能フィードバックによる指導が可能指導回数を多くできる指導可能な人数が少ない

経験をあまり必要としないもの(知識習得など)

習熟・経験を必要とする能力

状況が固定的機械的な判断が可能なもの

状況が多様複雑な判断を要するもの

マニュアル化・知識体系化が可能なもの

OJTに向いている教育内容OJTに向いている教育内容 OffJTに向いている教育内容OffJTに向いている教育内容

育成方法の特徴

習熟の必要性

スキル発揮の状況

多人数を対象とした指導が可能業務との切り替えのための時間的コストがかかる

現場での例示・実演が可能フィードバックによる指導が可能指導回数を多くできる指導可能な人数が少ない

経験をあまり必要としないもの(知識習得など)習熟・経験を必要とする能力

状況が固定的機械的な判断が可能なもの

状況が多様複雑な判断を要するもの

OJTに向いている教育内容OJTに向いている教育内容 OffJTに向いている教育内容OffJTに向いている教育内容

育成方法の特徴

習熟の必要性

スキル発揮の状況

形式知化形式知化 マニュアル化・知識体系化が可能なもの

ドキュメント化・プロセス化が難しいもの

作成:三菱総合研究所

OJT の持つ特性としては「形式知化しにくいもの」「習熟を要するもの」を教育することに適している。形式知化が困難なものとしては、対応すべき状況が多様なものと、「勘」や

「経験」による技能といったものがあるが、いずれの性質のものに対しても、OJT による教育が有効である。

一方、社内にはない新規スキルの習得のための社外での OffJT を除けば、OffJT によって教育できる内容は、本質的には OJT によって行うことが可能であるが、必要となるコストの点で効率性が異なる。一般的には、OJT は教育を行う側も受ける側も時間的なコストが高く、OffJT で行うことが可能なものは OffJT で実施する方が効率がよいと考えられるが、OffJT に向かない内容の場合、有効な教育とならないので十分な検討と選択が必要である。OffJT に適している内容としては、「知識習得など経験・習熟を要しない」「判断基準と行動が明確化され、体系化されている」という性質がある。OffJT と OJT は必ずしも排他的なものではなく、習熟を要する技能についても、基礎的段階の知識は OffJT により教育を行い、以降 OJT によるフォロー教育を行って技能の習得・高度化を図る、といった連動的な教育体制がより効率的である。

業務内容の高度化・高付加価値化は、人件費の低い海外の産業に対して日本が伍していくための重要なポイントであり、その傾向の中で必要とされる技能・スキルはより高度化・複雑化していく。そのような日本の事業環境下においては、従来以上に OJT による育成の果たす役割が大きくなってきており、次章では特に OJT に対して効果の上がる見える化の手法について論じる。

3.効果的な人材育成のための見える化手法

3.1 人材育成における見える化の効果前述の通り効果的な育成・OJT の重要性が増してきているが、その実現に寄与する手法

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83見える化による効果的な人材育成 〜科学的な OJT の実施〜

として「見える化」が存在する。人材育成の見える化を行うことで、具体的なデータにもとづいて、一定の論理を組み立て、判断することができるようになる。いわば、育成・OJTに、科学的なマネジメントの要素を入れ込むことにつながる。

人材育成の見える化とは、具体的には図 2 に示す 4 つの要素から構成される。

図 2.人材育成のための見える化手法

①人材像の見える化

②現状(対象者)の見える化

③育成手法の見える化

④進捗の見える化

作成:三菱総合研究所

「①人材像の見える化」により、育成の方向性を具体化できるとともに、社内でのめざす方向の共有に寄与する。

「②現状(対象者)の見える化」では、各人材の能力を把握することが可能となる。「③育成手法の見える化」は、育成手法の高度化とともに、消失可能性のあるノウハウを

文書化することでノウハウ消失を防ぐことにつながる。「④進捗の見える化」は、育成機会を適切に与えるように各関係者に対する意識付けが可

能になり、また本人への長期的な視点で能力を伸ばしていこうという意欲を与える。第 1 章にて近年の育成現場での典型的な課題を示したが、その課題解決に寄与する手法で

あるといえる。以降では、人材育成の見える化の内容を詳述する。

3.2 人材像の見える化科学的な OJT の実践に向けた第一段階として、育成すべき人材像の見える化を行う。こ

の作業で明確化した人材像は、人材育成方針に関する社内関係者間(経営、育成の企画主体、実施主体、育成対象者など)での意識共有を促進する。また、人材像に対応して構築されるスキル・知識体系は、後述の「現状(対象者)の見える化」「進捗の見える化」の両プロセスにおいて利用され、OJT への科学的アプローチの礎となる。

次に、具体的な手順に触れる前に、企業内の人材育成とは「企業が求める能力の開発」を進めることである、という大前提にあえて立ち戻りたい。つまり、企業内の教育は、OJT/ OffJT に関わらず、学校教育とは異なり経営のニーズを受けて組み立てられることが基本となる。したがって、育成すべき人材像は、それぞれの企業の経営環境(市場、技術など)を踏まえて立案される経営戦略と整合させることが重要である。

所報53号.indb 83 10.5.18 1:43:18 PM

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84 技術レポート Technical Report

それでは、人材像の整理手順について具体的に述べていく。まず最初に行うのは、業務上の重要なタスク(キーアクティビティ)の棚卸しである。例えば、「企画提案」「故障修理」などの内容・粒度である。仮に現状の業務には存在しないタスクであっても、経営戦略上、今後必要となるものは加えておく。

続いて、それぞれのキーアクティビティに対して、それを遂行するために必要な能力(○○が××できる、等)、さらにその能力の土台となるスキルや知識(■■書類作成スキル、自社製品に関する知識など)を整理していく。さらに、これらに加え、タスクの遂行上に必要なコンピテンシーを整理するケースもある。コンピテンシーとは、保有している能力を発揮するために備えているべき行動特性(▲▲している、等)のことである。また、タスクの遂行上、必要または取得が望ましい資格もあわせて整理し、人材像に盛り込んでもよい。

図 3.人材像の見える化プロセス

整合を意識

キーアクティビティの整理

必要な能力の整理

スキル・知識等の整理

A. 電話応対

B. ・・・・・

経営戦略

取り扱い製品の説明ができる

問い合わせの要点を理解し、メモが取れる スキル:

知識 :

資格 :

コンピテンシー:

知識 :

「応対話法に関する知識」

「電話応対技能検定」

「わかりやすい話し方を意識している」

「自社製品に関する知識」

「電話機操作スキル」

作成:三菱総合研究所

ここでのポイントの 1 つ目は、必要な能力やスキル、知識を洩れなく整理し、さらにそれらをできるだけ具体的に表現することである。つまり、最終的に整理されるスキル・知識は、それぞれの教育方法(内容・手法)がある程度明確にイメージできるレベルまで、落とし込む必要がある。

2 つ目のポイントは、上記のキーアクティビティや能力、スキル・知識等に、習得時期のガイドラインを設定するということである。例えば、それぞれの能力とそれに対応するスキル等に「入社○年目レベル」といったガイドラインを設定するケースもある。これにより、後に解説する「進捗の見える化」において、個々人の技術取得の状況を効果的に評価することが可能となる。

所報53号.indb 84 10.5.18 1:43:19 PM

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85見える化による効果的な人材育成 〜科学的な OJT の実施〜

図 4.人材像の表現の一例(イメージ)

電話応対問い合わせの要点を理解し、メモが取れる取り扱い製品の説明ができる・・・・

高度人材一人前5年目3年目2年目1年目

電話機操作スキル

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自社製品知識パソコン操作スキル

社内資格「○○認定」公的資格「電話応対技能検定」

わかりやすい話し方を意識している

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電話応対問い合わせの要点を理解し、メモが取れる取り扱い製品の説明ができる・・・・

高度人材一人前5年目3年目2年目1年目

電話機操作スキル

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自社製品知識

パソコン操作スキル

社内資格「○○認定」

公的資格「電話応対技能検定」

わかりやすい話し方を意識している

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キーアクティビティ

・能力

必要なスキル

・知識

資格

コンピテンシー

出所:三菱総合研究所

なお、これらの人材像の設定作業は、育成の各企画主体(人事部門、事業部門、上司・ライン長)それぞれの意見を踏まえて進めていくことが重要である。一般的には、社内の人材育成のキーマンを集めたWGによる議論、また各現場のマネージャーに対するインタビュー、アンケート等による意見収集を通して、めざす人材像を設定していくことが多い。

3.3 現状(対象者)の見える化個々の育成対象者について、人材像に対する到達状況を把握する。具体的には、人材像の

見える化により整理した個々のキーアクティビティや能力、スキル・知識について、現状の習得レベルを評価する。これにより、育成対象者の強み・弱みが明確化され、その状況に応じた育成計画を検討することが可能となる。具体的には、以下のような手順を踏んでいく。

① スキル・知識体系の構築まず、人材像の設定において整理したキーアクティビティや必要な能力、スキル・知識等

をもとにスキル・知識体系を構築する。人材像は、対象者の成長プロセスや最終的な姿を表現するものである。一方で、スキル・知識体系は、必要な要素を業務プロセスや技術分類等の軸で整理し直したものに相当する。このスキル・知識体系が、対象者の現状を見える化する際の「評価シート」となる。

② 測定方法の決定、測定の実施次に、具体的な評価方法を検討する。評価方法は、人が判定を行う「主観的評価」と事実

ベースで判定する「客観的評価」がある。

所報53号.indb 85 10.5.18 1:43:19 PM

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86 技術レポート Technical Report

表 2.一般的な評価方法評価方法 概要

A. 主観的評価 上長評価 直接の上長が育成対象者の評価を実施

本人評価 育成対象者自身が評価を実施

360 度評価 上長に加え、同僚・部下が評価を実施

第三者評価 エキスパートや他部署の第三者が評価を実施

B. 客観的評価 業務成果 業務実施回数等から判定を実施

試験結果 試験結果による判定を実施

作成:三菱総合研究所

主観的評価に関して、このような取り組みを実施している企業では、上長評価のみ、または本人評価と上長評価の組み合わせで実施しているケースが多い。後者のケースでは、本人と上長の認識の差を確認し、埋めることができるというメリットがある。また、より評価の精度を高めるために、360 度評価や第三者評価を実施する場合もある。特に、評価の結果を人事処遇等に結び付けている企業は、評価精度の担保を重視する。また、評価データを適正配置や事業計画の検討など戦略的に活用している企業も、同様の傾向がある。一方で、より厳密な評価方法になるほど、運用面での負荷(コスト)が高くなるのは事実であるが、評価プロセスが育成対象者と上長とのコミュニケーション機会となる点や、評価結果の活用を考慮すると、一定の負荷は許容した上で適切な方法を選択する必要がある。あわせて、以下のような評価の運用負荷を抑えていくための取り組みも、取り入れていくことが望ましい。

● 申告・承認の対象項目を前回評価時からの変化部分に限定することによる評価負荷低減● サブマネージャーに承認権限の一部を付与することによるマネージャーの評価負荷低減● 随時評価可能な評価システムで習得状況を逐次申告・承認することによる評価確定期間へ

の負荷集中解消 など

なお、主観的評価で留意すべき点は、評価主体間での評価基準の「ブレ」である。例えば、評価項目に対する評価は、「Yes / No」での判定や、「1(研修を受講)、2(指導の下で実施可能)、3(一人で実施可能)、4(指導できる)、5(社内トップクラス)」といったレベルで判定を行う。例えば、マネージャーごとの判定傾向が厳しめ、甘めといった差が発生する可能性がある。この課題に対しては、まず評価基準をできるだけ具体的かつ明確に設定することが有効である。例としては、クレームの 8 割には対応できる等、量や頻度の目安を基準に含めてもよい(業務経験回数からの自動判定とするものが客観的評価に相当する)。また、評価主体に対し判定基準の概念や仕組みについて周知教育する、また、他組織での評価現場に立ち会ったり意見交換するといった取り組みによっても、評価主体間での評価のブレは低減できる。

③ 分析、課題の整理、育成対象者の選定評価結果の情報をもとに、組織ならびに個人としての強み・弱みを分析する。分析の視点

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87見える化による効果的な人材育成 〜科学的な OJT の実施〜

としては、以下のようなものがあげられる。

● 組織力に関する分析の視点(一例)・ 現状または計画上の業務量に対して、対応可能な人員数が確保できているか・ 今後の人材の退職に対して対応できるか・ 「教え手」となる高い能力を持った人材が存在するか など

● 個人の能力に関する分析の視点(一例)・ 経験年数に応じて習得すべきスキル等が習得できているか・ 担当している業務内容に対応したスキル・知識が習得できているか など

これらの分析を実施することにより、組織としての課題・個人の課題を整理し、“誰に”“何を”教育すべきかが明確となる。

なお、個人の分析結果は、「3.5 進捗の見える化」で紹介しているレポート(図 5)のような形で表現する。

3.4 育成手法の見える化「現状(対象者)の見える化」の次の段階では、現場における OJT の「手法の見える化」

が求められる。企業の競争環境が厳しくなり、現場の OJT においても求められるノウハウの水準が高く

なっているので、OJT の質を高めるために手法を共有できるようにする。また、1990 年代から導入が進む成果主義により、長期的な視点での人材育成への注力が減る傾向と日常業務の繁忙が加わって、自社内の優良な手法が散逸して消えていってしまう傾向があり、この点に歯止めを掛けることもねらいの 1 つである。

具体的には、以下を作成する。

● ベストプラクティス集● 育成支援ツール(例:育成チェックシート、OJT 実施手順、OJT で利用する問題集)

ベストプラクティス集は、自社内の優良事例とコラムにより構成する。優良事例は、自社内をインタビューして作成する。理想的には自社内の組織診断を実施

し、結果が優良であった組織のマネージャーに対して、特に診断結果がよかった部分について日常どのような行動を行っているかインタビューを行う。この際、優良事例が「マネージャーは当たり前と思って実施していること」である場合があり、表面的なインタビューでは要点が抽出できない可能性があって、行動を丁寧に抽出する調査が求められる。なお、三菱総合研究所が顧客のベストプラクティス集を作成する場合には、社内の事例に加え、世の中の優良な事例から各社にあったものを追加する。ベストプラクティス集は、マネージャーの日常の行動のきっかけ及びヒントとして提供するものであり、各優良事例は 100 文字程度に要約し、日々の業務の中でも参照しやすいものとする(表 3)。一方、コラム部分は、人材育成に関連する簡単な読み物や理論的背景となる内容を整理する。

所報53号.indb 87 10.5.18 1:43:19 PM

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88 技術レポート Technical Report

表 3.優良事例の一例タイトル 内容

抜き打ちで同行し、現場の動きを見るマネージャーが担当者と一緒に現場まで同行して、実際の作業の様子を見てスキルの状況を把握している。その際には、上司やマネージャーであることは顧客には言わず、1 メンバーという立ち位置で行き、一緒に作業しながら部下を見る。

作成:三菱総合研究所

このように整理したベストプラクティス集はただ配布するだけではなく、ワークショップ形式で共有、深めていくことが望ましい。マネージャーを半日程度業務から切り離し、最初の 1 時間程度はベストプラクティス集の概要を解説するとともに、残りの時間は各現場での人材育成課題についてマネージャー間で悩みを共有し、解決の方向について議論を行う。

また、育成支援ツールは、OJT 実施をサポートするためのツールを作成する。各企業・各現場の状況により求められるものは異なるが、必要度・影響範囲の大きさから優先度をつけて実施する。典型的なツールとしては、「育成チェックシート」がある。例えば、プロジェクトマネージャーを育成するということが重要な課題である場合、プロジェクトマネジメントに求められるポイントを業務プロセスごとに整理し、本人もしくは指導者が日々チェックできるツールを作成する。各内容が実施できたかどうか、考慮したかどうかについてチェック()をつけ、すべて網羅できたタイミングで完了証を発行するものである。いわば、自社内の暗黙知の形式知化と位置付けられる。その他、OJT の実施手順をマニュアル化したもの、OJT の場面で利用する問題集などが存在する。

育成手法の見える化の注意点は、見える化された優良事例などの各内容は至極当たり前、一般的なものが多いということである。そのことにより、受け取り手に役に立たないという意識を持たせてしまうことがあるが、育成手法については内容を知っていることだけではなく、実践すること、それも心をこめて継続して実施することで効果が現れてくるということを認識することである。このことは、社内で共有する時点で強調して伝達することが求められる。

3.5 進捗の見える化最終的には、「進捗の見える化」を行う。各 OJT 対象者の能力の変化状況を見えるように

することである。職場において人材育成は、日常業務が忙しくなると、優先順位が後回しになる傾向があ

る。このことは人材育成の成果が見えにくいことにも起因しており、能力の変化を見える化することにより、能力開発も意識した日常業務を可能とする。また、各人が目前の業務遂行は一生懸命実施する一方で、長期的な視点で新しいことにチャレンジする、能力を高めるということについて意欲的でないという声も聞かれる。各人の能力の現状と目標、そしてその変化を見える化することにより、各人が長期的な視点で意欲的に能力開発しやすい環境を構築する。

具体的には、以下の点が見えるレポートを作成し、各人に配布する。

● 能力の現状

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89見える化による効果的な人材育成 〜科学的な OJT の実施〜

● 個人の目標 (その目標を設定するための目途値や他者の情報)● 目標と現状とのギャップ● 能力の変化

「能力の現状」は、「3.3 現状(対象者)の見える化」で作成した内容そのものとなる。その上で、「個人の目標」を同じスキル・知識体系で設定する。目標設定を支援するために、各人ごとの目途値(到達して欲しい能力水準)や他者の情報をレポートに表示する。目途値は、「3.2 人材像の見える化」で設定した内容を、スキル・知識体系上で具体的に表現したものである。年次ごとや業務領域ごとに人事部もしくは各事業部が到達して欲しい水準を設定し、その内容をレポートに表示する。目途値の設定が困難な場合には、同年代平均といった他者の情報を表示する。

図 5.個人別レポート(イメージ)

歳年齢 xx

マンナンバー氏名

xxxxxx○○ ○○

所属部署名従業員区分

  ○○○  正社員

0.0

0.5

1.0

1.5

2.0

2.5

3.0

3.5

4.0

領域1領域2 領域3 領域4 領域5 領域6 領域7 領域8 領域9 領域10 営業

総務

得点

あなた 5年目目安

0.0

1.0

2.0

3.0

4.0

項目

項目

項目

項目

項目

項目6

項目7

項目

項目

項目

10

項目

11

項目

12

項目

13

項目

14

項目15

項目16

項目17

項目

18

項目

19

項目

20

項目

21

項目

22

項目

23

項目

24

項目25

小分類1 小分類2 小分類3 小分類4 小分類5 小分類1 小分類2 小分類3

分野d 分野e

あなた 5年目平均

各項目の点数

・以下は○○年度の分析結果です。右上のボックスで比較対象(折れ線グラフで示す内容)を変更できます。

0.0

4.0技術A

技術B

技術C

技術D

技術E

技術F

技術G

技術H

技術I

技術J

技術K

技術L

あなた 5年目目安

・あなたの事業分野の総合評価の傾向を表示しています。・各レベルは、該当する事業分野内の総合判定評価の最大値を表示しています。

・個別の総合判定評価の結果を表示しています。・得点はA:4、B:3、C:2、D:1として換算しています。

・項目別の技術力を確認したい事業分野をプルダウンから選択してください。グラフが表示されます。・あなたの技術力(A~D)と比較対象の差から、あなたの技術力の強み・弱みを確認してください。・また、ガイドラインを選択すると、支社にて設定された項目毎のガイドラインが表示されますので、今後のスキルアップの参考にしてください。

技術力 フィードバックレポート 個人用 5年目目安

3.項目別評価の状況 5年目目安

1.総合評価の傾向 2.総合評価の詳細

作成:三菱総合研究所

このレポートを年に 1 回(もしくは半期 1 回)作成し、提供する。継続的に提供することで、自身の能力の変化が確認でき各人の動機付けになるとともに、必要に応じて方向修正を行うことを可能とする。本ツールが特に有効に機能するのは、目途値との比較である。自分に対して会社が求めている水準と自身の能力を比較することで、その差分が明確になる。レポートからわかる差分の情報をもとに、各人が能力開発目標を立てやすくなり、またレポートを継続的に配布することでその進捗の確認も容易になる。

「進捗の見える化」の注意点は、内容は簡単なものでよいが、継続するということである。継続するためには各人の能力調査を継続的に行う必要があり、大きな労力を必要とする

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90 技術レポート Technical Report

が、継続により効果が得られるものであることを十分認識し、当初の制度設計及び運用体制の整備を行う必要がある。

4.育成の企画・実施主体についてここまで述べてきたような企業内における人材育成体系の策定・実施にあたっては、どの

「育成主体」がどのような層や育成内容を策定実施範囲とするか、という切り分けを適切に行うことが重要である。「育成主体」の各層には、それぞれが有している従業員についての情報や研修タイプごとの得手/不得手の差があり、それぞれの層に適した切り分けを行うことで、人材育成の有効性及び効率性を高めることができる。

「育成主体」としては、育成体系や内容の策定を行う「企画主体」と、実際の育成を実施する「実施主体」がある(表 4、表 5)。「企画主体」については、表 4 にあるような階層的な区分により分けることができるが、企業の規模・体制によっては全社を統括する人事部門と事業部企画部門の区分がない場合や、事業部企画部門と現場(監督者)の区分が明確でない場合がある。「企画主体」は、いずれかの階層区分が人材育成のすべてを管轄するということがよいのではない。経営戦略・事業計画の方向性や育成対象者の状況についてなど、それぞれが保有している情報及びその深度や、育成についてのソフト/ハード両面のリソースに適した管轄範囲を区分ごとに設定し、分業管轄体制をとることが、有効性及び効率性の観点から望ましい。一方で、人材育成の根幹となる育成戦略やそれぞれが行う育成内容・結果については、各「企画主体」が相互に情報共有を図っていかなければならない。「実施主体」については表 5 にあるような分類ができ、「企画主体」と一致しなければいけないものではない(全社の人事部門が企画し、現場の監督者によって実施される場合など)。「実施主体」については、第 2 章での育成方法についての検討とあわせて、どの主体による育成が効率的かを検討の上、選択すべきである。

表 4.企画主体の分類

企画主体 対象者の規模 現在の事業・業務への反映度 育成計画スパン

人事部門(全社) 多い 低い 長期的(各階層の核人材の育成、社会環境変化への対応)

事業部企画部門 中間 中間 中期的(事業戦略を実現するための人材・人員計画)

監督者(上司・ライン長) 少ない 高い 短期的(直近の課題・ニーズに対応した能力育成)

作成:三菱総合研究所

所報53号.indb 90 10.5.18 1:43:20 PM

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91見える化による効果的な人材育成 〜科学的な OJT の実施〜

表 5.実施主体による企業内教育行為の分類実施主体 対象 分類

社内

管理者 部下

OJT育成に必ずしも慣れ ていない/すぐれて いない者が教育を実施

熟練者 未熟練者

先輩 後輩

スタッフ

従業員 OffJT 育成に特化/すぐれた者が教育を実施

(育成担当スタッフ)

(社内 有技能者)

社外 (社外講師)

本人 自分 自分 自己啓発

作成:三菱総合研究所

5.おわりに以上、「OJT / OffJT の特徴」「教育(特に OJT)の見える化を行うこと」「育成主体・育

成手法を切り分けること」について、取り組む上で示唆を与える具体的な内容を整理した。OJT で行うべきことを明確に切り分けし、見える化により OJT(を中心とした教育)の

質と効率を高める。このことが、求められる高付加価値の人材を早期に効率的に生み出すと考えている。

人材の高付加価値化は、我が国産業が世界と伍していくために重要なポイントであり、日本の強みの維持・伸長につながる。しかし、人材の高付加価値化に大きく寄与する OJT が、日常業務の多忙などの理由により弱くなっている現実がある。今回整理した内容が、各社の人材の高付加価値化、さらには長期的な競争力の一助となれば幸いである。

参考文献[1] 遠藤功:『見える化 強い企業をつくる「見える」仕組み』,東洋経済新聞社(2005).[2] 桐村晋次:『人材育成の進め方<第 3 版>』,日本経済新聞出版社(2005).[3] 柴田励司:『組織を伸ばす人、潰す人』,PHP 研究所(2007).[4] 新巻基文:『「教え方」教えます』,産業能率大学出版部(2008).[5] 関根雅康:『教え上手は、学ばせ上手』,クロスメディア・パブリッシング(2009).[6] 寺澤弘忠:『OJT の実際<第 2 版>』,日本経済新聞出版社(2005).[7] 畠山芳雄:『人を育てる 100 の鉄則』,日本能率協会マネジメントセンター(2006).[8] 前間孝久、魚住剛一郎:「技術経営における技術資源管理に関する一考察」『三菱総合研究所所

報』No.42,102-13(2003).[9] 宮崎洋、佐々木康浩、前間孝久、木村孝、魚住剛一郎:「『見える化』実践のポイント」『三菱

総合研究所所報』No.47,134-55(2006).

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