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26 特集 インサイト・コミュニティ 参加者もリサーチャーも“熱中するリサーチ” ~ビジョン・クリティカルの事例より~ 事例〜リサーチサイドの対応〜 熱中するリサーチ 株式会社ビジョン・クリティカル・ジャパン杉本 徹 ※現在はビジョン・クリティカル日本パートナーであるセブンシーズ マーケティングリサーチ株式会社に転籍 1.はじめに:インサイト・コミュニティにおける熱中 とは? インサイト・コミュニティとは、リサーチ専用のオン ライン・コミュニティである。特定のブランドやサービ スに興味や関心の高い、あるいは利用経験のある顧 客をオンライン上のクローズドなコミュニティに集め、 ブランド調査、商品開発のための調査、ブランド・コ ミュニケーションに関する調査、生活実態調査など、 さまざまな定量および定性調査を行う。それに対して マーケティング・コミュニティは、キャンペーン情報や 新製品情報などの情報提供を目的としたコミュニティ で、参加者は不特定多数で誰でも参加できるオープン なものが多い。インサイト・コミュニティの場合は、特 定された顧客や関心の高い生活者からなる数千人か ら数万人規模のクローズドなコミュニティとなってい る。広義にはMROC(Marketing Research Online Community)といえると思うが、日本の MROC の場 合は、数百人規模で定性調査を中心とするもののケー スが多い。 通常のオンライン調査では、回収率が30%前後と されているが (注 1) 、インサイト・コミュニティで行われ る調査の平均回収率は 45%以上、コミュニティ・メン バーの継続率は80%である。調査品質が高いほか、 さまざまな価値があるのだが、どうして参加者はこれ ほど熱中して参加してくれるのか? カナダに本社があり、2013 年より日本に進出して きたインサイト・コミュニティ(コミュニティ・リサーチ) のパイオニア、ビジョン・クリティカル社(以下:VC 社) での事例やケーススタディをもとに、コミュニティ・メ ンバー(調査対象者)が調査に積極的に参加していく ノウハウを紹介していきたい。現在、VC 社では、全世 界で 650 以上ものインサイト・コミュニティの運用に プラットフォームを提供している。 インサイト・コミュニティのなかで行われるリサー チでは、ブランドやサービスの利用経験が豊富で、そ の経験について語れる、あるいは語りたいという顧客 や生活者をコミュニティに招待して、インサイトを引き 出していく。初対面同士のグループインタビューでは、 なかなか本音を語ってくれないが、長年のつき合いに よる信頼関係が構築できた顧客からは、普段なら聞け ない消費者の本音や苦言を導き出すことができる。生 活者や消費者のインサイトを導き出すための調査は VOC:Voice of Customer (顧客の声や要求)を傾 聴し、捉えていくということだ。インサイト・コミュニ ティの多くは基本的に顧客をコミュニティ化するので、 コミュニティ形式も特定のブランドやサービス名称を 明記した「Nestle Kitchen Conversation(ネスレ・ キッチンカンバセーション)」 「VOGUE Insiders (ヴォーグインサイダーズ)」といったブランデッド・コ

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一般社団法人日本マーケティング・リサーチ協会の機関紙「マーケティング・リサーチャー 2014 No.123号」の特集「熱中するリサーチ」 セブンシーズ マーケティングリサーチ杉本

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特集

インサイト・コミュニティ参加者もリサーチャーも“熱中するリサーチ”~ビジョン・クリティカルの事例より~

事 例 〜 リ サ ー チ サ イ ド の 対 応 〜熱中するリサーチ

株式会社ビジョン・クリティカル・ジャパン※

杉本 徹

※現在はビジョン・クリティカル日本パートナーであるセブンシーズ マーケティングリサーチ株式会社に転籍

1.はじめに:インサイト・コミュニティにおける熱中  とは?  インサイト・コミュニティとは、リサーチ専用のオンライン・コミュニティである。特定のブランドやサービスに興味や関心の高い、あるいは利用経験のある顧客をオンライン上のクローズドなコミュニティに集め、ブランド調査、商品開発のための調査、ブランド・コミュニケーションに関する調査、生活実態調査など、さまざまな定量および定性調査を行う。それに対してマーケティング・コミュニティは、キャンペーン情報や新製品情報などの情報提供を目的としたコミュニティで、参加者は不特定多数で誰でも参加できるオープンなものが多い。インサイト・コミュニティの場合は、特定された顧客や関心の高い生活者からなる数千人から数万人規模のクローズドなコミュニティとなっている。広義にはMROC(Marketing Research Online Community)といえると思うが、日本のMROCの場合は、数百人規模で定性調査を中心とするもののケー

スが多い。 通常のオンライン調査では、回収率が30%前後とされているが(注1)、インサイト・コミュニティで行われる調査の平均回収率は45%以上、コミュニティ・メンバーの継続率は 80%である。調査品質が高いほか、さまざまな価値があるのだが、どうして参加者はこれほど熱中して参加してくれるのか? カナダに本社があり、2013 年より日本に進出してきたインサイト・コミュニティ(コミュニティ・リサーチ)のパイオニア、ビジョン・クリティカル社(以下:VC 社)での事例やケーススタディをもとに、コミュニティ・メンバー(調査対象者)が調査に積極的に参加していくノウハウを紹介していきたい。現在、VC 社では、全世界で 650以上ものインサイト・コミュニティの運用にプラットフォームを提供している。 インサイト・コミュニティのなかで行われるリサーチでは、ブランドやサービスの利用経験が豊富で、その経験について語れる、あるいは語りたいという顧客や生活者をコミュニティに招待して、インサイトを引き出していく。初対面同士のグループインタビューでは、なかなか本音を語ってくれないが、長年のつき合いによる信頼関係が構築できた顧客からは、普段なら聞けない消費者の本音や苦言を導き出すことができる。生活者や消費者のインサイトを導き出すための調査はVOC:Voice of Customer(顧客の声や要求)を傾聴し、捉えていくということだ。インサイト・コミュニティの多くは基本的に顧客をコミュニティ化するので、コミュニティ形式も特定のブランドやサービス名称を明記した「Nestle Kitchen Conversation(ネスレ・キッチンカンバセーション)」 「VOGUE Insiders

(ヴォーグインサイダーズ)」といったブランデッド・コ

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ミュニティがほとんどである。しかし、ただ利用経験者を集めてくるだけでは、インサイト・コミュニティの運営は成り立たない。コミュニティ・メンバーとインサイト・コミュニティ主催者との間にエンゲージメントのあることがよりよいインサイトをもたらし、ビジネスの意思決定をもサポートできるのである(図1)。エンゲージメントという言葉は、企業のソーシャルメディア活用の場面ではブランドのファン作りや共感度を上げるという意味で使われるキーワードだが、インサイト・コミュニティにおけるエンゲージメントは、それとは少し性質を異にする。「信頼関係がベースとなった継続的な会話」がコミュニティ・メンバーと企業とのエンゲージメントを醸成し、コミュニティ内での「会話=リサーチ」を成立させていく。つまり、マーケティング・コミュニティとは異なって、コミュニティ運営を目的とするために顧客とのエンゲージメントを築くということではなく、ここでのエンゲージメントは「継続的な会話」を行なっていくための手段なのである。

 

ト属性とメンバー数を決める。VC 社のインサイト・コミュニティの調査ツールは掲示板によるオンライン定性調査機能に加え、コミュニティ運営管理者が写真やアイコンなどを質問に加えることのできるビジュアルな調査票を自ら作成することで、定性調査と定量調査をハイブリッドで運用することができるというものだ。実質、インサイト・コミュニティでは、ビジュアル調査票を活用した定量調査を月間1人当たり2 ~ 4回実施し、定量データを深く解釈するために、定量調査で特定の回答をしたメンバーに、定性調査でさらにインタビューしたり、定性調査を行なっている過程である特定の発見があった場合などでは、即、定量調査を行なって妥当性を検証したりしている。このため、日本型MROC(短期間で数十人から数百名規模のものが多い)よりも規模が大きく、1,000人~ 50,000人規模でコミュニティ・メンバーを構築する。世界の650コミュニティの平均メンバー数は、1コミュニティ当たり約7,000人である。このように、大規模にコミュニティ・メンバーをリクルートして「継続的な会話」を行う。 リクルートのアプローチは、基本的に企業が保有しているその企業ブランドやサービスの顧客リストを使う。主にブランドやサービスの利用経験者に、その企業名で招待メールを送付してアプローチする。リクルートのメール内容には、どうしてこのコミュニティに参加してもらうのか、どういった作業をしなければならないのか、参加してもらうことでどんなフィードバックが得られるのか、コミュニティを通じて何を得ることができるのか、それらについての趣旨を明記する。招待されたコミュニティ・メンバーには、リサーチ活動を通して自発的に意見を述べてもらい、アンバサダー、インサイダーあるいはボードメンバーであるかのように、企業の傾聴活動に参加してもらう。そのため、招待者メールを受け取った全員がメンバーになれるのではなく、ブランドやサービスへの関与度や生活実態などによるコミュニティへの参加条件該当者かどうかを確認するためのProfile Question:プロファイル・クエスチョン(以下PQ)というメンバー該当者を選定するスクリーニング調査を必ず行う。このPQには、ブランドやサービスの関与度の質問、顧客セグメント

2.サンプリングフレーム(パネル化のプロセス):イ   ンサイト・コミュニティはどういうプロセスで構築   されるのか?  では、「継続的な会話」を実現するプラットフォームとして、このインサイト・コミュニティに参加するコミュニティ・メンバー(調査対象者)をどう集めるかのプロセスを紹介したい。「誰と継続的に会話をしていきたいか?」ということが、コミュニティ・メンバーのターゲッ

図1  インサイト・コミュニティループ

よい エンゲージメント(絆)が、よりよいインサイトを導き出し、さらにまた良質なエンゲージメント

(絆)に変わっていく。その結果、よりよいビジネスの意思決定ができる。

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特集 熱中するリサーチ 事 例 〜 リ サ ー チ サ イ ド の 対 応 〜

ケースもある。だが、インサイト・コミュニティの場合は同一のパネルメンバーが常設されているため、一度、聴取した質問内容は、パネルメンバーの状況に変化がない限り、質問しなくてよいし、仮に質問内容が漏れていたとしても、いつでも追加質問をすることができる。従って、1回あたりの調査内容は通常のアドホックリサーチに比べて少なく、定量調査は5 ~10 問程度、定性調査(MROC)は3日~1週間程度で、1回当たりの拘束時間の負担が少ない。また、過去の調査結果と現在、実施した調査結果を容易にクロス集計することができたり、定性調査(MROC)に招待する調査対象者のニッチなプロファイル条件によるフィルター設計も可能になる。このように、インサイト・コミュニティでは、適切な頻度で、対象者にとっての負担の少ない

「継続的な会話」のリサーチ・コミュニケーションが可能になり、回答率が高められている。 そのほかにもエンゲージメントの向上に伴う回答率を高めるテクニカルな手法としては、ビジュアルデザインのテンプレートを活用した調査票(図3)による定量調査や、PC仕様で作成した調査票および定性調査の掲示板にスマートフォンやタブレットからもアクセスできる機能がある。

の詳細属性や生活実態を確認する質問、自発的な参加意思を確認するための質問などが含まれる。それと同時に、数千名のコミュニティ・メンバーの割付条件を設定し、メンバーの構成状態を維持するためのパネルリフレッシュの追加リクルートを行う。顧客リストのみによるリクルート活動ができない場合は、インターネット広告やFacebookページなど、オンラインを通じてのリクルート活動や、店頭や商品パッケージによるリクルート活動も行なっている(図2)。

 3.実査:リサーチはコミュニケーションである  では、実際にインサイト・コミュニティを立ち上げてから、どのようなリサーチ運用がされているのかについて、VC 社の事例で紹介したい。リサーチ頻度としては、定量調査が月間1人当たり2 ~ 4回で、定性調査は最頻で月1回程度である。インターネットのリサーチパネルで行う調査に比べると、1人当たりのリサーチ頻度が多いことがわかる。これは、インサイト・コミュニティへの参加モチベーションが自発的なものであり、金銭的モチベーションを主としてはいないので、実現できるリサーチ頻度となっている。また、一般的なアドホックリサーチの場合では、調査プロジェクトごとに集計や分析のための実態情報、背景情報や属性情報などを収集しなければならない。このため、1回当たりの質問数やインタビュー内容が多くなる。年に1回のCS(顧客満足度)調査で300 問以上となる

 4.リサーチ構造設計:どういう会話を、いつ、誰とす   るか?  エスノグラフィー調査のように、生活者の日々の振る舞いや生活文脈や消費行動文脈の理解をベースと

図2 VC社のインサイト・コミュニティの   リクルート・プロセス

図3 VC社のビジュアル調査票

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定期的に、タイミングよくフィードバックすることで、信頼関係やエンゲージメントを向上させ、よりよいリサーチ・コミュニケーション=「継続的な会話」を築きあげていく。

したリサーチデザインができることは、インサイト・コミュニティ運営の価値でもある。 VC 社では「継続的な会話」を実現していくために、インサイト・コミュニティの立ち上げ時に、企業のビジネス目的やマーケティングプランに合わせて、いつ、誰に、どれくらいの頻度で、どのような会話をするのかというおおよそのプランを立てる。これをリサーチ・ロードマップと呼んでいる。季節変動要因、プロダクトライフサイクル、新商品開発のプロセス、マーケティングプランに合わせたさまざまな調査計画を作成する。このように、リサーチで生活者のコンテクストを引き出しうるようなプランニングを行い、実行することで、マーケティング・コミュニティでよく耳にするようなネタ切れによる参加者離れといった状況がなくなる。 5.フィードバック:リサーチ・コミュニケーションで エンゲージメントを築く  質のよい「継続的な会話」をきちんと成立させていくには、お買い得情報、クーポン、ポイント、謝礼といった金銭的なモチベーションに依存するのではなく、顧客が企業のアンバサダー、インサイダーあるいはボードメンバーであるかのように企業と対等な立場でいられることが必要だ。メンバーには調査依頼ごとに金銭的なインセンティブを与えるのではなく、傾聴した内容のフィードバックをするということがエンゲージメントを築くのに、非常に重要なポイントとなる。例えば、調査結果による改善結果やコミュニティ・メンバーにしか話さない裏話的なもの、採用された広告クリエイティブの出稿予定など、心理的インセンティブのフィードバックを行うということである。 また、6 ヵ月に1回、コミュニティ・メンバーに対してはリサーチの内容に関する満足度調査を行い、フィードバックする。調査の数が多すぎないか、質問内容にわかりにくいところはないか、フィードバックで不足していることはないか、コミュニティ・メンバーであることに満足しているか、メンバーを継続したいかといったことを調査し、コミュニティ運営の改善を行い、コミュニティ・メンバーの居心地を確認していく(図4)。 聴く姿勢としては、コミュニティ・パネルメンバーに

  (ケーススタディ:キンバリー・クラーク) クリネックスティシューで有名な米国のヘルスケアメーカーのキンバリー・クラークは、「Kimberly-Clark Ideas 4 Life(キンバリー・クラーク アイデアズ・フォー・ライフ」という複数ブランドのインサイト・コミュニティを運営している(図5)。このコミュニティ・メンバーのうちの約 6,000人の赤ちゃんのいる母親たちから成る、Huggies Online Panel(ハギーズ・オンラインパネル)という、おむつについての調査を行

図4 VC社のパネルヘルスチェックレポート

図5 キンバリー・クラークの   インサイト・コミュニティポータル画面

https://www.kcideas4life.com.au/

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特集 熱中するリサーチ 事 例 〜 リ サ ー チ サ イ ド の 対 応 〜

現できるのだ。 6.まとめ:エンゲージメントがインサイトを導き出す  インサイト・コミュニティのポイントを整理すると、以下の5点があげられる(図 6)。 ① より深く:年間のアドホック調査の約2 ~ 3倍の

情報量 ② より正確に:熱中するコミュニティ・メンバーの

回答率は45%以上 ③ より長期に:コミュニティ・メンバーの継続率は

80% ④ より早く:レスポンスのリードタイムは 24 ~ 48

時間以内で約 8 割の回答 ⑤ より効率よく:年間のリサーチ予算が 80%に

軽減

うインサイト・コミュニティを有している。質問の内容としては、例えば赤ちゃんの部屋の様子、おむつの利用状況、どんな色合いのおむつが好みなのかなど、日々の状況を定期的に絶え間なく継続して調査してゆき、子育てママたちの実態をフィードバックすることで、エンゲージメントを高めていった。 いくつかの調査事例の中でも、特にインサイト・コミュニティならではと思った調査の例としては、①母親たちが赤ちゃん関連のニュースにどういった反応をしているか、コミュニティ・メンバーから直ちに数十人のメンバーをリクルートし、チャットで反応を取る。②先週末のベビー用品に関する買い物は、どんなプロセスでブランドの指名買いをしたのか、キャンペーン情報に影響されていたかなど、買い物動向を知る。③今までの調査ではなかなかリクルートできなかった新生児向けの調査で、おむつ交換のタイミングはいつなのかやどうやって交換しているのか、母乳やミルクの与え方などはどうしているかについて、調査を一晩で実施した。このようなリアルタイムな調査を繰り返していくうちに、子育てママの赤ちゃんに関するインサイトをつかむことができ、ビジネスでの意思決定への貢献のみならず、メンバーに対する心理的報酬にも効果が得られている。定期的なニュースレターのフィードバックで、母親たちは「赤ちゃんの睡眠パターン」についても興味と関心を示しており、コミュニティへの参加意識を高めている。このような調査とフィードバックのやり取りを繰り返している結果として、Huggies Online Panelの平均回答率は46%となっており、コスト効率の向上や、非常に価値のあるリサーチ活動がなされてきていること等が証明されている。 このように、1回のグループインタビューやアドホックの定量調査などからでは得られない情報量や時間の経過に従って変化する態度や意見などの良質な回答結果を収集し、積み重ねていくことにより、生活者の生活パターンのトレンドや商品ニーズの予測に役立てている。データドリブンな世界にいながら、しばしば顧客の声が結果論となるケースがあるが、インサイト・コミュニティでは、即座に大量サンプルの「正直なフィードバック」を得ることができる。スピードやコストのみならず、敏感な反応に先回りしたリサーチが実

  インサイト・コミュニティのなかでは、すでに述べてきたようなリサーチ・コミュニケーションによる「継続的な会話」に基づいた生活者インサイトを抽出することができる。このようなエスノグラフィー調査ができるプラットフォームで、生活者の行動観察を把握したうえでのコミュニケーション評価調査、製品評価調査、顧客経験調査などを行うことと、さらに顧客のCRMデータやWeb 行動履歴データなどの観測データを統合して分析することで、調査内容の解釈レベルがアドホックリサーチに比べて格段に高くなる。このことに

図6 インサイト・コミュニティの価値

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杉本 徹(すぎもと とおる)

セブンシーズ マーケティングリサーチ株式会社アソシエイト・ディレクター2013年までビジョン・クリティカル・ジャパン日本市場の立ち上げに参画。2014年からビジョン・クリティカル日本パートナーである同社で、ビジョン・クリティカル社のインサイト・コミュニティのセールスおよびマーケティングに従事。前職はニールセン(Nielsen/NetRatings)。

注1 一般社団法人 日本マーケティング・リサーチ協会 調査技術研究委員会(2013)「インターネット調査の運用実態に関する調査研究報告書」のP35「14-2)自社パネルを使ったインターネット調査の1 週間の平均協力率」による。

(Chief Customer Offi cer)といったカスタマー・エクスペリエンス向上の執行責任者を配置して、顧客との「継続的な会話」を行い、CMO(Chief Marketing Offi cer)と同様に複数の部門に関与して、ビジネスの意思決定をサポートしている。 今年は日本でもいくつかのインサイト・コミュニティの立ち上げが決まっている。日本市場においても、企業(リサーチャー)と顧客や生活者との間で熱中するリサーチが繰り広げられることにより、良質なインサイトを生み出していけるようになるだろう。リサーチャーと参加者がともに熱中するリサーチを通してエンゲージメントを築きあげ、経営層やマーケターとともにエキサイティングなマーケティング・リサーチが普及する「インサイト・コミュニティ元年」となることを願う。

より、商品開発、営業、顧客サービス、広報・PRなど、企業内のあらゆるステーク・ホルダーが活動するためのインサイトを引き出す調査のデザインも可能となる

(図7)。例えば、製品のコンセプトテスト調査をグルー

プインタビューや会場テスト(CLT)で行う際には、あらかじめスクリーニング調査で家族構成やある程度の生活スタイルなどについての質問をしておき、実際の製品コンセプトのアイデアについての反応を取るわけだが、その背景情報を取得する量や内容には限界があるかと思う。インサイト・コミュニティにおいては、数週間の食生活や日用品の購買行動、メディアへの接触状況など、同じユーザーに対して日々の生活状況やプロファイルの変化などを定期的に追跡する調査ができているから、コンセプトテスト調査をする際に、わざわざ多くの背景情報を質問しなくとも、どういう生活実態や行動が取られているかがわかるため、大量サンプルで、かつ過去の膨大な良質データを用いることができるから、ペルソナなどのシナリオを作成した分析が実現できるようになる。  このように、インサイト・コミュニティは、「継続的な会話」によってリサーチャーとコミュニティ・メンバーとのエンゲージメントを築いていきながら、熱中するリサーチ環境を作りあげていく。この熱中するリサーチ環境が、先に紹介した5つのポイントにもあるように、より良質なデータを長期的に蓄積し、ダイナミックなデータをもとにした良質なインサイトを早く、安く導いていくプラットフォームとなる。欧米ではCCO

図7 VC社による企業における   インサイト・コミュニティの位置づけ