Max Lucado ”The Oak...この小冊子は、アメリカの牧師であり作家、Max...

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ちいさなどんぐりにとって、自分がいつの日か大きくて力強いカシの木に成長するなんて、信じられませ んでした。しかし、時が経つにつれて、かれは大きなカシの木に成長するのです。そして、ある日気づき ます。自分の力強い丈夫な枝。それが特別なある理由のために存在していることに。 この小冊子は、アメリカの牧師であり作家、Max Lucadoによって書かれた青少年向けの物語、”The Oak Inside the Acorn”を翻訳したものです。 翻訳は、順天高等学校 高校13組(英語選抜クラス)の翻訳チーム、 磯部真歩、内山七海、岡上菜央、小峰茜里、鳩垣美和、町永ゆりあ、宮田和実、劉素穎 によって分担して夏休みから行われてきました。鋭い感受性を持った彼女達は、試行錯誤を経て、この 物語からメッセージを受け取りました。粗削りながら高校1年生とは思えない創造性を発揮して翻訳を 完成させた彼女達を心から尊敬しています。 あなたが今、この地上に生きていることは偶然ではない。神さまが特別な目的があって、そのためにあ なたを創った。あなたにはあなたにしかできない、特別な使命がある。あなたはその使命を果たさないと いけない。それはあなたにしかできないことだから。 この作家が伝えようとしているメッセージは、混沌とした「今」を生きる私たちにとって、年代を問わず大 きな意味を持っていると思います。 まさしく今からその使命に向かっていこうとしている、あるいはその使命を模索している、8人のどんぐ り達。によって紡ぎ出されたメッセージ。どうか確かめてください。 この冊子を取ったあなたの手で。 きっと使命があります。 あなたにしかできない。 翻訳Project編集担当:順天高等学校 英語科 桑村和孝 人類が誕生した100万年の昔から、この地球上にどんなに多くの人間が生まれ出たことでしょう。しかし、 その中に『あなた』はいなかった。現在、この地球上に、数十億の人間が生存しているという。だが、そ の中に『あなた』は1人しかいない。これから先、長い長い地球の未来に向けて、どんなに多くの人間の 命が生まれ出るのか、それは誰も知らないけれど、 もう一度『あなた』が生まれ出ることは、決してないきっと、『あなた』より勉強のできる人はいくらでもいるかもしれない。『あなた』より速く走り、高く飛ぶ人 もいくらでもいるでしょう。しかし、『あなた』と同じように考え、同じ様に悩む人は、決していないのです。 過去にも未来にもたった一つのかけがえのない『あなた』の人生、『あなた』のゆくてには、『あなた』にし かできないことが、『あなた』にだけ結ばせることのできる、実が必ずあるはずです。(小松原 瞳 2002 神戸女学院新入生歓送会にて)

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Page 1: Max Lucado ”The Oak...この小冊子は、アメリカの牧師であり作家、Max Lucadoによって書かれた青少年向けの物語、”The Oak Inside the Acorn”を翻訳したものです。

ちいさなどんぐりにとって、自分がいつの日か大きくて力強いカシの木に成長するなんて、信じられませんでした。しかし、時が経つにつれて、かれは大きなカシの木に成長するのです。そして、ある日気づきます。自分の力強い丈夫な枝。それが特別なある理由のために存在していることに。 この小冊子は、アメリカの牧師であり作家、Max Lucadoによって書かれた青少年向けの物語、”The Oak Inside the Acorn”を翻訳したものです。 翻訳は、順天高等学校 高校1年3組(英語選抜クラス)の翻訳チーム、 磯部真歩、内山七海、岡上菜央、小峰茜里、鳩垣美和、町永ゆりあ、宮田和実、劉素穎

によって分担して夏休みから行われてきました。鋭い感受性を持った彼女達は、試行錯誤を経て、この物語からメッセージを受け取りました。粗削りながら高校1年生とは思えない創造性を発揮して翻訳を完成させた彼女達を心から尊敬しています。

あなたが今、この地上に生きていることは偶然ではない。神さまが特別な目的があって、そのためにあなたを創った。あなたにはあなたにしかできない、特別な使命がある。あなたはその使命を果たさないといけない。それはあなたにしかできないことだから。

この作家が伝えようとしているメッセージは、混沌とした「今」を生きる私たちにとって、年代を問わず大きな意味を持っていると思います。

まさしく今からその使命に向かっていこうとしている、あるいはその使命を模索している、8人のどんぐり達。によって紡ぎ出されたメッセージ。どうか確かめてください。 この冊子を取ったあなたの手で。 きっと使命があります。 あなたにしかできない。 翻訳Project編集担当:順天高等学校 英語科 桑村和孝 人類が誕生した100万年の昔から、この地球上にどんなに多くの人間が生まれ出たことでしょう。しかし、

その中に『あなた』はいなかった。現在、この地球上に、数十億の人間が生存しているという。だが、その中に『あなた』は1人しかいない。これから先、長い長い地球の未来に向けて、どんなに多くの人間の命が生まれ出るのか、それは誰も知らないけれど、 もう一度『あなた』が生まれ出ることは、決してない。

きっと、『あなた』より勉強のできる人はいくらでもいるかもしれない。『あなた』より速く走り、高く飛ぶ人もいくらでもいるでしょう。しかし、『あなた』と同じように考え、同じ様に悩む人は、決していないのです。過去にも未来にもたった一つのかけがえのない『あなた』の人生、『あなた』のゆくてには、『あなた』にしかできないことが、『あなた』にだけ結ばせることのできる、実が必ずあるはずです。(小松原 瞳 2002年 神戸女学院新入生歓送会にて)

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どんぐりは、周りに広がる世界を見渡しました。 後ろには緑の丘がどこまでも広がっていました。 下を見ると、ヒナギクのお花畑。 青い空にはぽっかりと大きな雲の家族が浮かんでいます。 「世界ってとっても大きいんだね。 ママと一緒にいられて僕は嬉しいよ」 小さなどんぐりはお母さんに言いました。

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どんぐりのお母さんは大きくて、きれいなカシの木でした。 「私もよ、小さなどんぐりちゃん。あなたは、まだここにいていいのよ。 外の世界に行くときがくるけどあなたなら大丈夫よ」 「僕、怖いよ」 お母さんカシの木は小さなどんぐりをぎゅっと抱きしめました。 「あなたの中には大きなカシの木があるのよ。神さまはある目的があって あなたを創ったの。あなたはただその木になればいいのよ」 小さなどんぐりにとってお母さんから、離れるのはとても怖いことでした。 だから彼は、そのことを考えないようにしました。 でも、さよならの時が来ることを本当はわかっていました。 どんぐりの兄妹は1人ずつ、お母さんの枝からさよならをしていきました。 みんな本当は怖がっています。お母さんはみんなに同じことを言うのです。 「あなたの中には大きなカシの木があるのよ。神さまはある目的があって あなたを創ったの。あなたはただその木になればいいのよ」 その言葉を聞くたびにどんぐりは思うのでした。 「僕の中にカシの木が……?」 小さなどんぐりには信じることができませんでした。

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さよならの時は、すぐに来てしまいました。 ある夏の日の午後。どんぐりは木の陰でお昼寝をしていました。 するとぐらぐら木がゆれたのです。 お母さんの枝も、どんぐりも揺れました。 農家のおじさんのトラックが木にぶつかってしまったのです。 どんぐりはお母さんの枝にしがみつきました。 茎を枝に押し付けましたが、上手くいきませんでした。 彼は前よりも大きくなっていたのです。 彼の茎は、お母さんから離れそうになりました。 「う、うわぁ…お母さん…っ」 「大丈夫よ、小さなどんぐりちゃん」 お母さんははっきりといいました。 「ずっと一緒にはいられないのよ。さよならの時が来たの。 あなたは行かなければならないの」 どんぐりはたくさん弾んで、ころころ転がって、固いところにおちました。 そこは小さなトラックの後ろでした。 トラックはぶるぶる震えて走り出しました。 「大丈夫よ、どんぐりちゃん」 お母さんは言いました。 「あなたの中には大きなカシの木があるのよ。神さまはある目的があって あなたを創ったの。あなたはただその木に成長していけばいいのよ」 小さなどんぐりは、なんとかお母さんの最後の言葉を聞くことができました。 トラックはどんどん道を下っていきます。 どこへ行くのでしょう。 小さなどんぐりには分かりませんでした。

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トラックが弾んで、どんぐりも一緒に弾みました。 「痛い!」 どんぐりが言いました。 「乱暴だなぁ」 「すぐにましになるさ」 声の聞こえた方をみると、小さな木がいました。 「君はだれ?」 どんぐりが聞きました。 「僕はオレンジの木だよ。これから植えられるんだ」 「オレンジの木って何をするの?」 どんぐりはききました。 (もう、この頃には道は平らになっていました) 「オレンジを育てるのさ」 「へぇー」 どんぐりは、オレンジが何なのか知りませんでした。 ちょうどその時、トラックが止まりました。 「うわぁ!」 オレンジの木が叫びました。彼には外の様子が見えました。 「なになに?どうしたの?」 どんぐりは聞きました。 「木だよ。オレンジの木がそこらじゅうにたくさんあるんだ」

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「よぉし、小さなオレンジの坊や。君を植える時がきたよ」 農家のおじさんはトラックの後ろのドアを開け、 上りながら言いました。 どんぐりは踏まれないように、ころころと転がりました。 おじさんとオレンジの木はどこかへ行ってしまいました。 たくさん時間がたったけど、帰ってきません。

空が暗くなっていくのを見つめながら、どんぐりはお母さんのところに帰りたくなりました。 今夜がお母さんと離れて過ごす初めての夜だったのです。 後ろのドアをパタンと閉めて、おじさんが帰ってきました。 「早く掃除を終わらせよっと。終わったら家へ帰れるぞー」 小さなどんぐりはホウキを見たことがありませんでした。

かろうじて、ほうきの姿が目に入ったかと思うと、どんぐりは宙に高く舞いました。 そして、ふわふわのホコリの上にコロンと落ちました。

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「なにがあったの?」 オレンジの木が声をかけました。 どんぐりは聞き慣れた声を聞いて嬉しくなりました。 「ここが君の新しいお家なの?」 「うん、そうだよ」 オレンジの木は答えました。 「どうやら君の家にもなるみたいだね、どんぐり君」 どんぐりはもう一つ質問をしました。 「ねぇ、オレンジの木さん。僕は何をすればいいの?」 オレンジの木は眠たそうに答えました。 「ただ、安心して眠ればいいんだよ。神さまが君を大きくしてくれるから」 小さなどんぐりは、彼の言う通り眠りました。 その夜、その次の日、その週、そしてその次の月も。 オレンジの木に囲まれて、小さなどんぐりは土の深い、深いところで眠りました。 ものすごく長い時間、眠りました。

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小さなどんぐりは目を覚ましたとき、自分がどこにいるのかわかりませんでした。 彼はぐーっと伸びをして、暗い土の中から明るい太陽の光の中に飛び出しました。 「おや、目が覚めたの?」 オレンジの木がいいました。 「おはよう。オレンジの木さん。僕はどのくらい眠っていたの?」 「小さな木になるくらい長くだよ」 小さなどんぐりは自分を見て言いました。 「僕、変わってる」 彼の丸い殻は、細い枝に変わっていたのです。 「大きくなったんだよ」 オレンジの木が言いました。 「もう小さなカシの木だね」 彼は背中をぴーんと伸ばすと、お母さんの言葉を思い出しました。 「あなたの中には大きなカシの木があるのよ、、、」 (もしかしたら、お母さんは正しいのかもしれない) カシの木はそう思って、少しだけ背伸びをしました。

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でもどんなに背伸びをしたところで、大きなオレンジの木たちには かないませんでした。 オレンジの木たちの枝はどんどん緑の葉っぱをつけていきました。 そしてある日。オレンジの木が大きな声で、小さなカシの木に言いました。 「見て!初めてオレンジがなったんだ」 大きなオレンジの木たちは言いました。 「もっとたくさんの実がなるじゃろう」 「じゃあ、僕もオレンジをならすよ」 小さなカシの木が言うと、他のオレンジの木たちは笑いました。

彼らは、小さなカシの木を傷つけたかったわけではありません。でも、小さなカシの木は傷ついてしまいました。

「君にはオレンジをつけることはできないよ」 彼らはそう言うとカサコソと音を立てました。 小さなカシの木は枝を伸ばし、ありったけの力をこめて広げました。 でもオレンジがなることはありませんでした。 その日も、次の日も、その次の日も、オレンジはなりませんでした。

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農家のおじさんが収穫にやって来たとき、 小さなカシの木は心配になりました。 彼には、渡せるものがなにもなかったのです。 「やあ、こんにちは。カシの木くん」 おじさんは言いました。 「どうやってここまで来たんだい?」 おじさんは立ち去ると、大きなシャベルを持って来ました。 「君にはぴったりの場所があるよ」 そう言ってカシの木を掘り起こしました。 「バイバイ、ぼくのお友達」 オレンジの木は呟きました。

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農家のおじさんは小さなカシの木をそう遠い場所へは運ばずに、 小さな森から大きな白いお家に運びました。 農家のおじさんはオレンジの木がたくさん見える裏庭に彼をおきました。 「ここで君がどう育つか楽しみだな」 そして農家のおじさんは大きな穴を掘って、小さなカシの木をそこに植えました。 彼は土を小さなカシの木の周りに添えて、強く押して固めました。

小さなカシの木はその場所がとても気に入りました。 初めて彼はまわりにいる誰よりも高く立った気がしました。

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小さなカシの木が、根っこを「うーん」と伸ばしていたら、 「こんにちは、私はピンクのペニチュアよ。あなたはだーれ?」 と言う声が聞こえてきました。彼はお家の近くにある綺麗なお花たちを見ました。 彼が返事をする前にピンクのペニチュアさんがまた話し始めました。 「お家の隣にいるのはロージーよ」 バラのロージーさんが明るく「こんにちは」とあいさつをしました。 「デイジーもいるわよ」 白と黄色の花が「デイジーは私よ」と答えました。 「私たちはやわらかくていい香りがするの、あなたは何をするの?」 小さなカシの木はどうやって返事をしていいのか分かりませんでした。 彼が知っていたのはオレンジの実ができないことだけでした。 「何かお花が育つの?」 ピンク色のペニチュアさんが聞きました。

彼はお母さんがロージーさんやペニチュアさんのようなお花を咲かせているのを見たことがありませんでした。 「もしかしたら、僕にもお花を咲かせることができるかもしれない」と思いました。 彼はがんばりました。 できるだけ、彼の友達みたいにお花を咲かせようとがんばりました。

おひさまが暖かくなるとともに、お花たちは虹色のようなピンク色や、赤色、黄色のように咲きました。 しかし小さなカシの木はただ大きく背が伸びて行くだけでした。 日が長くなるとともに、彼の根っこが土の中で深くのびていきました。 毎日のように綺麗なお花を咲かせようとしましたが、彼にはできませんでした。

ピンク色のペニチュアさんも、ロージーさんも、デイジーさんもお花を咲かせることができたけれど、小さなカシの木にはできませんでした。

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とうとうカシの木は少し休むことにしました。 彼の枝はつかれていて、 葉っぱが下に落ちていきました。 お花さんたちもとても眠くて、 「カシの木さん、私たちは少しお休みするわ」 と伝えると、ぐっすり眠りについてしまいました。

空が灰色になり、日は短くなって、お庭にあるすべての植物が眠りについていました。

小さなカシの木は、ぐっすりと眠っているときに、彼がお母さんの枝で小さいどんぐりだったころの夢を見ていました。

ぐっすりと眠っている中で、お母さんの優しい声が聞こえました。

「あなたの中には大きなカシの木があるのよ。神さまはある目的があってあなたを創ったの。あなたはただその木に成長すればいいのよ」

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あたたかい日差しが彼の枝をあたためるころ、小さなカシの木は 目を覚ましました。 彼は小さなカシの木ではなく、少し成長したカシの木になっていました。 彼は遠くを見渡せるくらい高く大きくなっていたのです。

小さなカシの木の枝は前よりも太くなっていて風だけではまげることができなくなっていました。

何年も過ぎました。 そのたび大きく太く成長しました。

そして、農家のお庭にいるみんなが大きなカシの木を見上げるようになっていました。

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今ではオレンジの木や花たちは彼を大きなカシの木と呼ぶようになっていました。

彼は大きな枝を広げてあたりを見渡しました。オレンジの木も高かったけど彼ほどではありませんでした。彼は友達の誰よりも背が高くなっていました。 カシの木が一番、背が高くて大きかったのです。 でも彼は自分が何をするべきか、わかりませんでした。 彼はオレンジをならせることも、花を咲かすこともできませんでした。 ただ大きくなっただけでした。彼にはそれがなぜかわかりませんでした。

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大きなカシの木は長い冬から起きたばかりでした。

小さなつぼみができたころ、若い農夫が2本のロープを もってきて頑丈な枝に結びました。 それを小さな女の子が見ていました。

ローズさんにはそれがなんなのかわかりませんでした。 「カシの木さん、あれは何なのかしら?

わからないよ」 大きなカシの木は答えました。でも答えはすぐわかりました。 「パパ乗っていい?こいでいい?」

「いいよ」 青い目をしたデイジー色の髪の毛の女の子がブランコに乗りました。 大きなカシの木はかすかにひっぱられているのを感じましたが、 なんてことはありません。彼は強く、女の子はとても小さいからです。 お父さんに手伝ってもらい、彼女は前へこぎました。 でもあまり大きくこげませんでした。 次の日も、次の日もこぎました。少しずつ大きくこげるようになって いきました。

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日の光が熱くなって、花がいっぱいになるころ、 女の子はひとりでこげるようになっていました。 彼女は足を上へ上へと自分の家の屋根が見えるまでけりあげました 。後ろへこぐとき、彼女は真っすぐ地面が見下ろせるまでこぎました。

大きなカシの木は小さな女の子の笑う声や、彼に向って走る足音、空に向かって高く高くこぎながら楽しそうにする声が大好きでした。 そう、大きなカシの木は小さな女の子を好きになったのでした。 小さな女の子がこぐと大きなカシの木は力強くふんばりました。

彼女のお父さんが木の枝の上に小屋を作ったとき、大きなカシの木はよろこんで支えました。

小さな女の子が草の上でねころんで浮かんでいる雲をながめているときは、かげを作ってあげました。小さな女の子は彼の枝で遊んだり、幹を登ったり、彼がつくる日陰で休み、いっしょに成長していきました。 毎年2人は大きくなっていきました。 毎年2人は強くなっていきました

灰色の空が寒い日々をはこんできたころ、大きなカシの木は眠り、ブランコは音をたてず、木の小屋はからっぽのままでした。

青空があたたかい日々をはこんできたころ、2人は笑い、一緒に遊びました。小さな女の子がしゃべり、大きなカシの木は聞いていました。

そしてついに大きなカシの木は気付いたのです。何故、神さまが自分を創ったのかということに。

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ある日、女の子はどんぐりの木のもとに男の子といっしょに来ました。 でも2人はもうそんなに小さくはありませんでした。

彼らは大きなカシの木の枝に座って話しはじめました。 大きなカシの木はそんな2人を抱えました。

彼らは自分たちの名前を大きなカシの木に刻みましたが、彼は気にしませんでした。 男の子はブランコを押しました。

小さな女の子は笑って、そして大きなカシの木は2人を急な雨から守りました。

時がたち、女の子はあんまりブランコに乗らなくなりました。

木の小屋に登っても、遊ばないで座っていることが多くなりました。

いつのまにか小さな女の子は大きな女の子になっていたのです。

今では大きな女の子は大きなカシの木の低い枝と同じ背の高さになりました。

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ある日、バラさんは大きなカシの木に言いました。 「大きなカシの木さん…彼女は成長しているわ。彼女はもうすぐここを離れちゃうのね」 大きなカシの木は答えませんでしたが、わかっていました。

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大きな女の子は広く青い空の下の地面に座り込み、大きなカシの木の幹にもたれかかり、流れていく雲を眺めていました。 大きなカシの木は女の子が大きな悩みを抱えていることに気がつきました。 「私は何をすれば良いのかしら…」 「ここを離れるのがこわいの…」 「どうすれば私が誰だかわかるの?」 彼女がそう言っていたからです。 大きなカシの木は女の子と話がしたかったのです。 彼は何を言うべきかわかっていました。 「きみの中には輝く可能性が眠っているんだよ。 神さまが導く通りに大きくなればいいんだよ。」 と彼は伝えたかったのです。 「オレンジの木はオレンジをならせるよね」彼は言います。

「お花はお花を咲かせるんだよ。カシの木はね、ブランコをするのに十分なくらい大きくなって、ブランコの揺れに耐えられるほど力持ちになって、小さな女の子が大きな女の子になっても支えられるほどに大きくなるんだよ。」 彼はそう伝えたかったのです。 でも、彼は何も言えませんでした 。

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ある日大きな女の子はとても悲しそうでした。 昔大きなカシの木の影で楽しそうに笑っていた小さな女の子は 今、ただ静かに泣いていました。 「ここを離れるのがこわいわ…」 と彼女は言いました。 大きなカシの木はそれを聞き良いアイデアを思いついたのです。 彼は自分の枝の先にある小さなどんぐりを見下ろしました。 「君には特別な仕事を頼みたいんだ。」と彼は言いました。

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次に風が彼の枝を揺らした時、彼はその枝を他のどの枝よりも揺らしました。 すると、小さなどんぐりが、ぽんっとはずれ、大きな女の子の膝の上に落ちました。 大きな女の子はそのどんぐりを拾って、投げようとしましたがやめました。 彼女は小さなどんぐりを手に取り、じっと見つめました。 そして振り向いて大きなカシの木を見上げました。 「あなたはこんなに小さかったの?」 彼女は自分の質問に答えるように続けました。 「もちろんそうよね。あなたは小さなどんぐりから立派なカシの木になったのね。 あなたはただ、神さまが導くように成長したんだよね。」 彼女はもう一度どんぐり、そして後ろの木を見ました。 彼女の目は輝いていました。 「あなたは私も神様がつくったような人生を歩んでいけばいいと思う?」 大きなカシの木は「そうだよ!」と叫びたかったのです。 でもその必要はありませんでした。 大きな女の子は立ち上がって言いました。 「もちろんそうよね。 私にも旅立つ時、そして神様が導く自分に向かっていく時がきたのね」

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大きな女の子はにっこり笑って そのどんぐりをポケットにしまい、歩き始めました。

でも数歩歩くと、立ち止まり、振り返りました。 彼女はブランコを見ました。

木の家を見ました。 そして彼女は大きなカシの木を見まし

た。彼女は大きなカシの木に近づくと、幹に手を触れました。

何も言わず、 彼女はさよならしました。

何も言わず、

大きなカシの木もさよならをしました