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33 石油・天然ガスレビュー アナリシス 中国は米国に次いで世界第 2 の 1 次エネルギー消費国 である。2007年には石油換算で約18億6,000万トンの エネルギーを消費している。図1 に示すように、石炭の 消費量が最も多く、約 7 割を占めている。これは中国が 中国のLNG輸入トレンドをよむ ― 日本への影響 ― じめに ここ数年、中国のLNG輸入動向に強い関心を抱いている。中国は2006年にLNGの輸入を開始したが、 この点では新興国である。一時は 2 0 以上の受入基地建設計画があり、日本並みの LNG 輸入大国になる との見方が出たが、2 0 0 3 年の豪州との LNG 長期売買契約締結以降、LNG 調達が難航し、多くの基地建 設計画が先送りを余儀なくされた。LNG 調達難航の主な要因は国際原油価格高騰に伴う LNG 価格の高 騰で、売り手市場への変化があったにもかかわらず、中国が国産ガスなど代替供給源とほぼ等価での LNG 調達にこだわったことにあると思われる。 2 0 0 7 年半ばまで、中国はエネルギー価格を統制しており、価格許容力が弱いことから、日本のよう に国際市場価格で輸入 LNG を大量に購入するには相当時間を要すると思われた。 ところが、2007年以降中国は豪州やカタールと国際市場価格(原油価格高騰のさなか、国際原油価格 とほぼ等価)でLNG長期購入契約を締結し始めた。これをもって、中国は日本と同じ土俵に上がったと の見方が出てきた。 しかし、中国には国産ガスや安価な石炭など、輸入LNGに比べ相対的に安価な代替供給源が存在する。 また、中国の天然ガス市場は発展途上にあり、価格許容力が急激に向上したとは思えず、本当に国際価 格の LNG を利用することが可能であるかとの疑問が生じた。 そこで、2008年夏、アジアのエネルギー政策・事情に精通している株式会社エイジアム研究所(http:// www.asiam.co.jp/)に 2 0 2 0 年頃までの中国の LNG 輸入時期、数量、増加トレンドにかかる調査 ・ 分析 を委託した。国産 ・ 輸入パイプラインガスの供給に加え、油価、為替、物価など、前提となる諸条件を 複数設定させた。 調査 ・ 分析を通じ、中国は日本や韓国に比べ、国産ガスを含む複数の代替供給源を持ち、価格負担能 力が弱く、2020年時点のLNG輸入量は最大でも3,000万トン/年程度で、太平洋LNG市場では日本、 韓国に次ぐ第 3 のプレーヤーにとどまり、中国の LNG 輸入が世界の LNG 市場に大きな混乱をもたらす 可能性は差し当たり低いと思われる。 天然ガス消費の起爆剤となる発電分野で天然ガス(LNG)の位置づけはピーク調整にとどまる。発電 向けに輸入 LNGを利用することが可能な地域は広東などに限られ、さらに地方政府の補助金に依存す る状態が長く続くと思われる。 本調査の最終報告書は2009年2月末に受領するが、それに先立ち、2008年12月に関係企業の方々 を対象に報告会を開催した。本稿は、エイジアム研究所が作成した同報告会資料を基に、筆者が若干の 加筆をしたものである。調査開始時点の昨年 8 月と現在では国際金融危機や原油価格の低迷など諸条件 が大きく変化した。しかし調査対象期間が比較的長期にわたり、なおかつ複数の前提条件を設定してお り、結論が大きく変わることはない。 1. 石炭主体の資源消費大国 JOGMEC 調査部 竹原 美佳

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33 石油・天然ガスレビュー

JOGMEC

アナリシス

 中国は米国に次いで世界第2の1次エネルギー消費国である。2007年には石油換算で約18億6,000万トンの

エネルギーを消費している。図1に示すように、石炭の消費量が最も多く、約7割を占めている。これは中国が

中国のLNG輸入トレンドをよむ― 日本への影響 ―

はじめに

 ここ数年、中国のLNG輸入動向に強い関心を抱いている。中国は2006年にLNGの輸入を開始したが、この点では新興国である。一時は20以上の受入基地建設計画があり、日本並みのLNG輸入大国になるとの見方が出たが、2003年の豪州とのLNG長期売買契約締結以降、LNG調達が難航し、多くの基地建設計画が先送りを余儀なくされた。LNG調達難航の主な要因は国際原油価格高騰に伴うLNG価格の高騰で、売り手市場への変化があったにもかかわらず、中国が国産ガスなど代替供給源とほぼ等価でのLNG調達にこだわったことにあると思われる。 2007年半ばまで、中国はエネルギー価格を統制しており、価格許容力が弱いことから、日本のように国際市場価格で輸入LNGを大量に購入するには相当時間を要すると思われた。 ところが、2007年以降中国は豪州やカタールと国際市場価格(原油価格高騰のさなか、国際原油価格とほぼ等価)でLNG長期購入契約を締結し始めた。これをもって、中国は日本と同じ土俵に上がったとの見方が出てきた。 しかし、中国には国産ガスや安価な石炭など、輸入LNGに比べ相対的に安価な代替供給源が存在する。また、中国の天然ガス市場は発展途上にあり、価格許容力が急激に向上したとは思えず、本当に国際価格のLNGを利用することが可能であるかとの疑問が生じた。 そこで、2008年夏、アジアのエネルギー政策・事情に精通している株式会社エイジアム研究所(http://www.asiam.co.jp/)に2020年頃までの中国のLNG輸入時期、数量、増加トレンドにかかる調査・分析を委託した。国産・輸入パイプラインガスの供給に加え、油価、為替、物価など、前提となる諸条件を複数設定させた。 調査・分析を通じ、中国は日本や韓国に比べ、国産ガスを含む複数の代替供給源を持ち、価格負担能力が弱く、2020年時点のLNG輸入量は最大でも3,000万トン/年程度で、太平洋LNG市場では日本、韓国に次ぐ第3のプレーヤーにとどまり、中国のLNG輸入が世界のLNG市場に大きな混乱をもたらす可能性は差し当たり低いと思われる。 天然ガス消費の起爆剤となる発電分野で天然ガス(LNG)の位置づけはピーク調整にとどまる。発電向けに輸入LNGを利用することが可能な地域は広東などに限られ、さらに地方政府の補助金に依存する状態が長く続くと思われる。 本調査の最終報告書は2009年2月末に受領するが、それに先立ち、2008年12月に関係企業の方々を対象に報告会を開催した。本稿は、エイジアム研究所が作成した同報告会資料を基に、筆者が若干の加筆をしたものである。調査開始時点の昨年8月と現在では国際金融危機や原油価格の低迷など諸条件が大きく変化した。しかし調査対象期間が比較的長期にわたり、なおかつ複数の前提条件を設定しており、結論が大きく変わることはない。

1.石炭主体の資源消費大国

JOGMEC調査部 竹原 美佳

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JOGMEC

アナリシス

世界最大の石炭生産国であるためである。中国は米国、ロシアに次いで世界第3位の石炭埋蔵量を保有し、2007年には世界の石炭生産量の4割、約12億9,000万トンを生産した。 石油は1次エネルギー消費の2割を占めるが、輸送用燃料需要の増加に伴い、石油の輸入依存度は約50%に達している。天然ガスはほぼ自給しているが、1次エネルギーに占める比率は3.3%にすぎない(図1)。 エネルギー消費は国産の石炭消費を中心としているため、自給率は90%を維持しているが、一方で石炭燃焼による深刻な環境問題(大気汚染、酸性雨等)が発生している。 IEAの標準シナリオによると、2030年に中国の1次エネルギー消費総量は石油換算で38億トンに増加する見通しである。中国政府は、国内に豊富に存在する低コストの石炭を今後も基幹エネルギーと位置づけつつ、原子力並びに風力などの再生可能エネルギーの導入を進め、石炭消費を抑制しようとしている。原子力については発電設備容量を2007年の885万kWから、2020年には4,000万kWに拡大する目標を設定している。風力発電についても2008年に「風力発電設備産業化資金管理暫定弁法」を公布、発電容量1,000kW以上の風力発電ユニットに対し助成を行っている模様である。 中国政府は、燃焼時のCO2発生量が石炭の60 %、NOxの排出量が20 ~ 40 %とクリーンな天然ガスについて、石炭・石油の消費抑制や大気環境改善に資する重要なエネルギーと位置づけている。しかし国産天然ガス資源は石炭ほど豊富ではないため、2007年8月に公布した「天然ガス利用政策」において、民生用の都市ガスに重点的に充当するよう指導している(図2)。 中国の膨大な石炭消費量(石油換算13億トン)の半分は発電用に使われている。2007年の発電設備容量は約7億1,329万kWで火力発電が78%を占めており、そのほとんどを石炭で賄っている。中国の2006年の発電電力量約2兆8,600億kWhのうち、火力は8割強を占めている

日 ・ 米 ・ 中の 1 次エネルギー消費図1

中国の 1 次エネルギー需要見通し図2

出所:BP Statistical Review of World Energy Outlook June2008

出所:IEA

日 ・ 中の発電電力量に占める天然ガス(LNG)の割合図3

出所:エネルギー統計集、中国能源統計 2007 年

0 500 1,000 1,500 2,000 2,500

中国

米国

日本

百万トン(石油換算)

石炭 石油 天然ガス原子力 水力

Natural gasOil Nuclear

HydroCoalBiomass & Waste

Other

62.8%62.8%65.5%65.5%

19.0%19.0%

3.8%3.8%

1.1%1.1%

0.8%0.8%

0.9%0.9%

0.4%0.4%

0.2%0.2%

2.3%2.3%1.8%1.8%

5.2%5.2%2.2%2.2%

5.9%5.9%

13.0%13.0%

7.9%7.9%

62.8%62.8%

21.2%21.2%

2.0%2.0%

2.4%2.4%

18.8%18.8%

20152005 2030China Primary Energyconsumption (2005):1,742Mtoe

China Primary Energydemand governmental forecast (2015)2,851Mtoe

China Primary Energydemand referencescenario (2030)3,819Mtoe

火力 60%火力 60%

原子力30%原子力30%

新エネルギー 1%

日本の発電電力量(2006年)

9,900億kWh

水力 15%水力 15%水力 9%水力 9%

火力 83%火力 83%

原子力2%原子力2%

中国の発電電力量(2006年)

2兆8,657億kWh

石炭96.7%

その他 0.4%

石油2.3%

天然ガス(含む」LNG)0.6%

火力発電の内訳

石油13.1%

石炭41.0%

LNG43.3%

その他2.7%

火力発電の内訳

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35 石油・天然ガスレビュー

JOGMEC

中国のLNG輸入トレンドをよむ ―日本への影響―

2. 天然ガス(LNG)需給の現状

(1)国産天然ガスの供給・消費

 2007年の中国の天然ガス生産量は約693億m3/年、消費量は673億m3/年(BP統計)*1 である。天然ガス生産量は需要増大に伴い、2004年以降2けた成長を続けている。現在は需給がほぼバランスしているが、今後需給ギャップは拡大する見通しで、国産ガスの開発、パイプライン・インフラの整備と並行し、LNG輸入とパイプライン輸入の計画を進めている。 2007年末までの天然ガス高圧幹線・支線の総延長は約3万kmで、このうちCNPC(PetroChina)は2万2,000km、CNOOCは2,700km、Sinopecは2,300km、その他が約3,000kmである。 現在、枯渇油田などを利用した地下貯蔵設備が6カ所あり、現在の貯蔵能力(ワーキングガス*2)は18億m3程度で、建設中のものが5カ所(華北地域に3カ所、長江デルタに2カ所)ある。すべて完成すると貯蔵能力は30億m3に達する(図4)。

(2) LNG導入の現状

  ―2007年の取引量は、世界のLNG取引量の1.7% ―

 中国は2006年にLNGの輸入を開始した。現在稼働中のものは1基地である。広東(大鵬)受入基地は2006年9月に商業稼働を開始した。 世界の天然ガス消費量(2007年)は約3兆m3だが、7割は国内取引・自家消費である。2割がパイプラインによる国際取引で、LNG取引は1割に満たない約2,300億m3 である。そして、LNG取引の5割強は先行する太平洋市場(日本、韓国、台湾)によるもので、新参者の中国の占める比率はわずか1.7%にすぎない(図5)。 中国の2008年のLNG輸入量は約333万トン(天然ガス換算約46億m3/年、消費の約6%)であった。そしてLNG輸入量の約2割(62万トン)は長期契約ではなくスポット・カーゴ(現物)の購入である。スポット・カーゴは主に夏場の広東向け(5 ~ 9月)だが、この他中国第2の受入基地となる福建基地の試運転(貯蔵タンクのクールダウン向け)用に約12万トンが、上海市政府系企業の

が、火力の95 %以上が石炭火力で、天然ガス(含むLNG)は発電電力量の1%弱を占めるにすぎない。また、天然ガス火力発電の設備容量(2008年)は2,000万kWを超えているが、稼働率は低い。ちなみに、日本の2006年の発電電力量9,900億kWh(一般電気事業用)のうち、火力は約60%で、火力発電のそれぞれ約40%を石炭とLNGが賄っている(図3)。

 IEAの標準シナリオによると、2030年に中国の発電電力量は8兆4,720億kWhに達し、天然ガスは発電電力量全体の約4%(約3,130億kWh)に達する見通しである。原子力は発電設備容量が2007年の885万kWから2030年には3,100万kWに達し、同じく発電電力量は2005年の530億kWhから2030年までに5倍程度増え、発電電力量全体の3%を占める見通しである。

中国の天然ガス供給・消費、パイプライン総延長図4 世界の LNG 貿易量に占める中国の割合図5

出所:中国統計年鑑、各社年報等に基づき作成 出所:BP Statistical Review of World Energy Outlook June 2008

世界の天然ガス消費量(2007年) 世界のLNG貿易量(2007年)

2兆9,219億m3 2,264億m3

パイプライン(国際取引)パイプライン(国際取引)18.8%18.8%

LNG取引LNG取引7.7%7.7% 43.9%43.9%

15.2%15.2%

1.7%

39.2%39.2%

国内取引・自家消費国内取引・自家消費73.4%73.4%

その他その他

韓国韓国

中国

日本日本

0

100

1995

200

300

400

500

600

700

800

1996

1997

1998

1999

2000

2001

2002

2003

2004

2005

2006

2007

0

5,000

10,000

15,000

20,000

25,000

30,000

35,000PL総延長:Km消費量:億m3/年

消費 供給 PL総延長

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JOGMEC

アナリシス

申能(集団)有限公司(Shenergy)*3のピークシェービング用の小規模LNG受入基地(上海5号溝)向けに約1万トン、計13万トンが輸入された(図6)。 福建LNGはインドネシアのタングーとLNG長期売買契約(2009年以降25年)を締結しているが、タングーLNGの供給開始は2009年上半期以降であり、5月と8月の2度、試運転用に赤道ギニアLNGからスポット・カーゴ各1カーゴを購入した。 Shenergyのピークシェービング用小規模LNG受入基地、通称、上海5号溝LNGは西気東輸パイプラインによる天然ガス導入後、2004年にピーク調整のため、貯蔵容量2万m3 のタンクでスタート、その後需要が増大したため、5万m3のタンク2基を増設し、貯蔵容量を12万m3とした。2008年11月に拡張工事が完了し、マレーシアから8,530トンのLNGを輸入した。 現在、中国で確実に建設中と言えるLNG受入基地は3基地ある。上海(小洋山)受入基地(こちらの公称受入能力は300万トン/年)は2009年に稼働開始予定である*4。上海LNGはマレーシア(MLNGⅢ・ティガ)とLNG長期売買契約(2009年以降25年)を締結している。遼寧(大連)

並びに江蘇(如東)受入基地はLNG調達が難航したためか、当初計画より数年遅延したが、いずれも2011年に稼働開始予定である。大連・江蘇LNGの事業者であるPetroChinaはカタール(Qatargas4)とLNG長期売買契約

(2009年以降25年)を締結しており、恐らく両基地ともカタールのLNGを購入すると思われる。 稼働・建設中5基地の2011年時点の公称受入能力(増強分を含まず)は約1,5 0 0万トン/年(200億m3)である

(表1)。

(3)天然ガス(LNG)消費の現状

① 天然ガス消費の6割は工業、2割は家庭部門 中国能源統計年鑑によると、2007年の天然ガス消費量は706億6,000万m3 *5、エネルギー転換部門(発電、地域熱供給など)で104億m3 を消費した。LNG輸入量は天然ガス換算で約40億2,000万m3であり、消費の5.7%を占める。 天然ガス(含む輸入LNG)の6割は工業部門で消費(工業部門の2割は石油ガス開発、生産に伴う自家消費、5割は化学製品分野)している。 家庭部門の天然ガス消費は統計により数値が異なるが、消費の約2割(都市ガスとしての消費は約66億2,000万m3)を占める。家庭用消費は主に調理用で、1戸あたりの消費は日本(平均約30m3/月、45MJベース*6)に比べて少ない。家庭用天然ガス消費が比較的多い北京市と上海市を例に挙げると、北京市の天然ガス利用人口は約1,000万人、1戸あたりのガス消費は約16 m3/月、上海市の天然ガス利用人口は697万人で、1戸あたりガス消費は約15 m3/月(北京、上海ともに53.5MJベース*7)である。 現地ヒアリングによると、都市ガスは炊事のみに利用し(給湯は電気を利用)、ほとんど外食(社食を含む)で済ませ、ひと月の消費量が2 ~ 3m3の家庭もある。ただし、北京や上海では冬場の暖房にガス(主に集合住宅の集中

中国の LNG 輸入量推移図6

出所:広東油ガス商会等に基づき作成

0 50 100 150 200 250 300 350 400

2006

2007

2008

万トン

広東(長期契約・豪州) 広東(スポット)福建(スポット) 上海(スポット)

場所 企業 公称受入能力(万トン / 年)

増強後(万トン / 年) 初期計画 現在計画 LNG 調達先 状況

広東(大鵬) CNOOC 370 670 2006 年 2006 年 オーストラリア 稼働中福建 CNOOC 260 500 2007 年 2009 年 インドネシア 建設中上海(小洋山) CNOOC 300 600 2009 年 2009 年 マレーシア 建設中遼寧(大連) PetroChina 300 600 2008 年 2011 年 カタール 建設中江蘇(如東) PetroChina 300 600 2009 年 2011 年 カタール 建設中

合計 1,530 2,970

稼働・建設中の LNG 受入基地表1

出所:エイジアム研究所、各種資料に基づき作成

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JOGMEC

中国のLNG輸入トレンドをよむ ―日本への影響―

暖房)を利用しており、転換部門ガス消費の約2割を占める地域熱供給の一部はこれらの都市で家庭用暖房に使用されていると思われる(図7)。

② 発電は天然ガス消費のわずか1割―天然ガス火力発電はピーク調整用、政府補助金に依存― 日本の2007年の天然ガス消費902億m3の約6割が発電向けである。同年の電力におけるLNG消費は約4,118万トン(天然ガス換算約568億m3)。2006年末時点の日本のLNG火力の発電設備容量は約6,006万kWで発電設備能力全体の約25.2%を占める。 しかし、中国は冒頭で述べたとおり、石炭火力が火力発電の9割強を占めており、2007年時点で、発電には天然ガス(輸入LNGを含む)消費の1割(約80億m3)が消費されているにすぎない。 なお、天然ガス火力(LNG・国産ガス)の設備能力(稼働中)は約2,000万kW(うちLNG火力は約200万kW)と推計される。ただし稼働率は20%以下で、運転時間は2,000時間以下と推定される。中国は天然ガスを都市ガス向けに優先的に供給する政策(4章「(1)天然ガス利用政策」参照)を採っており、天然ガス火力発電向けの供給は十分ではなく、天然ガス火力発電は基本的にピーク調整として利用している。また、電力価格が低く統制されており、石炭火力や水力発電に比べ、天然ガス火力の卸売価格は高価なため、各地方政府は天然ガス火力発電について発電企業の操業が成り立つよう、補助金を支給している。

― 広東・福建の輸入LNGは大半が発電向け ― 既述のように、中国の天然ガス消費全体に占める発電の比率は1割だが、現在のところ、輸入LNGの大半は発電向けに利用されている。稼働中の広東基地は広東省や香港の発電企業や都市ガス配給企業と天然ガス供給契

約を締結しているが、発電向けが75 %、都市ガスが25%である。広東省は輸入LNG導入の際、都市ガスだけでは消費できないため、LNG受入事業とLNG火力発電所建設や既存の重油火力のLNG火力への転換を組み合わせている。同省では割高な重油発電の比率が高く、LNG火力は重油発電の代替として導入することが可能であり、地方政府が政策的に導入したとはいえ、LNG火力の導入は他の地域に比べ比較的容易であった模様である。 中国能源統計を見ると、広東省における2007年の天然ガス消費は46億m3(約9割、40億m3が輸入LNG)であり、同省の天然ガス消費の7割(約32億m3)が火力発電で消費されており、契約と消費の比率はほぼ合致する。 試運転中の福建LNGについても福建省の発電企業3社、都市ガス配給企業5社と25年間の天然ガス供給契約を締結しており、発電向けが8割と高い。 2008年12月23日、福建莆

プー

田ティエン

ガス火力発電所の1号ユニット(10万kW)が稼働を開始した。同発電所では1期40万kW(10万kW×4基)の建設を計画している。福

建築業 0%サービス業 3%

その他 2%

工業 62%工業 62%

転換部門12%

転換部門12%

家庭 19%家庭 19%

交通輸送業2%

交通輸送業2%

その他6%その他6%

輸送設備 2%

電気・電子設備 1%製鉄業 3%

非金属工業 7%

石油加工 6%石油加工 6%

化学製品52%

化学製品52%

石油ガス採掘業23%

石油ガス採掘業23%

2007 年の天然ガス消費構成図7 工業部門の消費構成図8

転換部門の天然ガス消費図9

出所:エイジアム研究所 出所:エイジアム研究所

出所:エイジアム研究所

20062005200420032002200120001999199819971996

火力発電熱供給ガス製造

0 10 20 30 40 50 60 70億m3

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JOGMEC

アナリシス

建LNG受入基地の事業者である中国海洋石油総公司(CNOOC)は、子会社が福建省でガス火力発電事業に参加している。なお、福建省は現在のところ発電の7割が石炭火力、3割が水力で、天然ガスは使用していない。福建省は広東省と異なり、重油発電をほとんど行っていないので、LNG火力発電が経済的に成り立つのかいささか気がかりである。

― 上海、江蘇受入基地の輸入LNGの使途は不明 ― 現在、LNG受入基地を建設中の上海、江蘇受入基地の輸入LNGは発電、都市ガス配給企業などとの契約状況が不明で、発電・都市ガス向けの比率は分からない。上海市と江蘇省は2004年以降PetroChinaが西気東輸パイプラインの天然ガスを供給しており、その一部を発電で使用している。上海市は2007年に天然ガス消費約28億m3の約2割を発電に利用しており、江蘇省は2007年

に天然ガス消費約45億m3 の約4割を発電に使用した。輸入LNGが発電に向かうかどうかは価格次第だが、やはり割安な国産ガスが優先的に使われると思われる。

― 大連受入基地の輸入LNGの使途は製油所の燃料転換?! ― 遼寧省は石炭火力主体で天然ガス火力発電所はなく、建設計画もない。PetroChinaは2011年の大連LNGの輸入開始に伴い、2010年に河北省秦

しん

皇のう

島とう

の高圧幹線パイプライン(中国西部オルドス盆地の天然ガスを北京に供給する陝

せん

京きょう

パイプラインの支線)を遼寧省大連市まで東に延伸し、大連から瀋陽市まで北上させる秦皇島-瀋陽パイプラインを完成させる計画である。 報道によると、大連の輸入LNGは大連受入基地の事業者であるPetroChina傘下の7製油所における燃料転換に使用する計画の模様である。 200 8 年 12 月 17 日、PetroChina傘下の華北天然気

中国の天然ガス火力発電導入図10

出所:エイジアム研究所

LNG 300万t(2005年)500万t(2009年)

LNG 260万t(2007年)

確認原始埋蔵量(2000年)

トルファン盆地256億m3

トルファン盆地256億m3

四川盆地7,025億m3四川盆地

7,025億m3

タリム盆地5,150億m3タリム盆地5,150億m3

ジュンカル盆地253億m3

ジュンカル盆地253億m3

ツァイダム盆地1,472億m3ツァイダム盆地1,472億m3

オルドス盆地4,088億m3オルドス盆地4,088億m3

渤海湾盆地2,755億m3渤海湾盆地2,755億m3

松遼盆地754億m3松遼盆地754億m3

東海盆地842億m3東海盆地842億m3

東南盆地884億m3東南盆地884億m3

鶯歌海盆地1,606億m3鶯歌海盆地1,606億m3 崖城ガス田崖城ガス田

平湖ガス田平湖ガス田

麗水ガス田麗水ガス田

春暁ガス田春暁ガス田

中原油田中原油田

大慶油田大慶油田

新疆ウイグル自治区

内モンゴル自治区

山西省

チベット自治区

モ ン ゴ ル

黒龍江省

遼寧省

吉林省

山東省

福建省

河南省

江西省

安徽省

淅江省

湖北省

湖南省

広東省広西自治区広西自治区

台湾雲南省

貴州省

甘粛省

海南省

重慶市

青海省

陝西省

寧夏自治区寧夏自治区

四川省

河北省河北省

江蘇省

東シナ海

南シナ海

柳園

膳善

ウルムチ

ハミ

敦煌

輪南 コルラ

渋北

ゴルムド

塔中

石河子

克拉瑪伊

柯克亜

BaikonguanBaikonguan

Kuibage

張掖張掖

武威

蘭州

西安

靖辺

楡林楡林

フホホト

成都

重慶忠県

西寧

銀川銀川甘塘

貴陽

昆明大理

韓城

烏審旗

付家廟

渠県射洪青百江

越渓

景洪

楚雄盤江

遵義

深圳マカオ

長沙

武漢

広州市

潜江

三亜三亜

信陽

桂林

南寧

海口海口

福州

南昌

秤頭角

嵩嶼

香港香港江門江門

楽東

汕尾

東方

鶯歌海鶯歌海

韶関韶関

欽州

湛江十万大山十万大山

剥東剥東

アモイ

瀋陽

ハルビン

長春

満州里

北京市北京市

大慶

天津市天津市

日照

大連

鄭州鄭州

済南

濮陽濮陽

石家荘石家荘

永清永清

依蘭

威海龍口

青島膠州

連雲港

薊県薊県

滄州滄州

侯馬

洛陽

太原

泰安徑鴬

掠兄掠兄

新民興隆台

遼陽遼陽

鞍山

鉄法鉄法

淮北淮北

淮南淮南定遠定遠

撫順撫順

煙台煙台孤島

合肥

南京南京常州常州

上海

温州

杭州杭州寧波

岱山

金華

塩城塩城

南通南通

大蘓島

紹興紹興

中央アジア諸国輸入300億m3

西シベリア輸入200億~300億m3

東シベリアイルクーツク輸入200億m3

ロシア極東サハリン

輸入100億m3

50億~120億m3

50億~120億m3 33億m3

33億m3

50億~100億m350億~100億m3

⑤⑥

⑧⑨⑩

2001~2005年期間のパイプ・ライン建設計画2006~2010年期間のパイプ・ライン建設計画

既設パイプライン省都一般都市油・ガス田炭層ガスLNG受入ステーション

2011~2020年期間のパイプライン建設計画深圳東部 3×35万kw深圳前湾 3×35万kw恵州 3×35万kw

深圳東部 3×35万kw深圳前湾 3×35万kw恵州 3×35万kw

① 蘭州熱電 2×35万kw② 北京第3熱電併給 35万kw③ 浙江片山 3×35万kw④ 江蘇望亭 2×35万kw⑤ 江蘇戚野厭 2×35万kw⑥ 上海曹涇化工区 2×35万kw

⑦ 鄭州 2×35万kw⑧ 南京熱電 2×35万kw⑨ 華能金陵 3×35万kw⑩ 華能石洞口 3×35万kw⑪ 北京高井 6×35万kw⑫ 天津熱電 35万kw

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39 石油・天然ガスレビュー

JOGMEC

中国のLNG輸入トレンドをよむ ―日本への影響―

3.天然ガス事業者の現況

(1)国産ガス供給、LNG輸入事業者

 中国の国産天然ガス供給は主に国有石油企業3社PetroChina、Sinopec、CNOOCが行っている。 主な天然ガス生産地帯である西部(新彊タリム、長慶、四川など)はPetroChinaが中心に探鉱開発を進めており、中国の天然ガスはPetroChinaが7割を生産し、ほぼ独占的な状態にある。Sinopecは新疆ウイグル自治区や四川省の一部で天然ガスの探鉱開発を行っており、生産の約2割を占めている(図11)。海洋の天然ガス探鉱開発はCNOOCが中心に行っており、遼寧、上海、広東、海南省などに天然ガスの供給を行っているが、海洋の天然ガス生産量が国内生産全体に占める比率は1割程度にすぎない(図12)。 PetroChina、Sinopec、CNOOC並びに民間の都市ガス配給会社の新

シン

奥アオ

燃気と中国燃気

販売公司(North China Gas Marketing)は、遼寧省にあ る 7 製 油 所 と 天 然 ガ ス 売 買 に か か る Framework Agreementを締結した。7製油所とは①大連石化(処理能力2,050万トン/年)、②大連西太平洋石化(1,000万トン/年)、③撫

順じゅん

石化(1,000万トン/年)、④ 遼りょう

陽よう

石化(1,050万トン/年)、⑤錦州石化(550万トン/年)、⑥葫

芦ろ

島とう

市・錦きん

西せい

石化(700万トン/年)、⑦盤ばん

錦きん

市・遼りょう

河が

石化(450万トン/年)で、燃料の天然ガス転換を計画する。数量や価格については公表されていない。 報道によると、この燃料転換プロジェクトは中央政府が進めている“藍天工程(都市部を青空にするプロジェクト)”並びに環境保護政策に沿った有意義な事業であるとのことだ。 あくまで試算だが、上記7製油所の燃料を、製油所のオフガス等を考慮せず、すべてLNGに転換した場合、最大で大連基地の設計受入能力に匹敵するLNG300万トン/年程度の需要が生じる可能性がある*8。 しかし、この燃料転換プロジェクトはPetroChinaの苦肉の策と見えないことはない。遼寧省では広東と異なり、LNGをガス火力発電向け消費で大量に販売することができず、大口産業需要家などの需要開拓にも時間を

要するため、市場開拓までの過渡的措置として進めているのではないだろうか。

③ 都市ガスの天然ガス転換の進展 2007年末現在、中国の人口約13億のうち、約1億人が家庭で天然ガスを利用している。ちなみに中国の中流・富裕層は約2億人と言われているが、その約半数が都市ガスとして天然ガスを利用していることになる。 また、中国では都市ガスとして主に人工ガス(石炭ガス)、天然ガス、液化石油ガス(LPG=プロパンガス)が利用されている*9。近年、天然ガス導入地区で石炭ガスから天然ガスへの転換が進められている。2007年末の中国の都市部における都市ガス化率(天然ガス、LPG)は87.4%に達している。都市部のガス配管の総延長は21万9,000km(天然ガス15万5,000km、石炭ガス4万7,000km、LPG1万7,000km)である。供給量は石炭ガスが322億4,000万m3 (家庭用37億4,000万m3)、天然ガス308億6,000万m3 (同66億2,000万m3)、LPGは1,466万8,000トン(同728万トン)である。石炭ガス、天然ガスの供給量は年率2けたの高い伸びだが、LPGはほぼ横ばいである。

中国の地域別天然ガスの生産量(2007年)図11

出所:各社年報に基づき JOGMEC 作成

北京北京タリム盆地タリム盆地

チャイダム盆地チャイダム盆地

ジュンガル盆地ジュンガル盆地

トルファン・ハミ盆地トルファン・ハミ盆地

華北(渤海湾)

盆地

華北(渤海湾)

盆地

松遼盆地松遼盆地

四川盆地四川盆地

陜甘寧(オルドス)

盆地

陜甘寧(オルドス)

盆地

96.796.7

1.51.5

22.222.2

23.123.1

4.84.8

4.34.3

4.44.4

4.54.5

10.410.4

1.71.7

2.12.113.213.2

1.91.9

2.72.724.924.9

41.341.3

59.859.8

44.344.3 14.014.0

6.06.0

天然ガス 万boe/d原油 万b/d

(遼河、大港、華北)

(大慶、吉林)

(長慶、延長)

(トルファン・ハミ)

(青海)

(タリム)

(西北)(勝利、中原)

(四川)

(西南)

.

.

.

(新疆)

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402009.3 Vol.43 No.2

JOGMEC

アナリシス

(チャイナガス)が天然ガスやLPGの輸入ライセンスを保有している模様だが、現在のところ、LNG売買契約を締結した実績があるのはPetroChina、CNOOCの2社である。 CNOOCは、3社中で最も企業規模が小さいが、中国におけるLNG輸入のリーディングカンパニーである。国際LNG価格に対する許容度が最も高い広東省で先行的にLNG市場を開拓したことは同社にとって大きな強みになったと言える。広東の他、経済が発展している上海などの沿海地域で複数のLNG受入基地を建設中(計画を含む)である。 同社がLNG輸入事業を強化する背景には、保有する油ガス埋蔵量が他の2社に比べ劣っているということが挙げられる。LNG事業は同社の事業発展戦略の中核を担っている。 同社の課題は、国内天然ガス資源(バックアップ)の不足と国際LNG価格に対する脆

ぜい

弱じゃく

性であろう。現在のところ、輸入LNGは税制優遇措置を受けており、卸売(輸入)価格も国産ガスのように低く抑えられてはいない。また、PetroChinaのように豊富な国産ガス資源やパイプライン・インフラを保有していないため、国産ガス・輸入ガス間で価格あるいは緊急時の供給調整を行うことが困難である。CNOOCの福建受入基地は、260万トン/年全量をインドネシア(タングー)と契約しているがタングーの供給が遅れ、スポット・カーゴを調達し試運転を行った。商業稼働開始後も、後述のPetroChinaと異なり、国産ガス等による供給調整が行えないので、供給途絶時はスポット・カーゴに頼るしかない。

 PetroChinaはロシアなどとのパイプラインによる天然ガス輸入交渉に注力していたこともあって、LNG輸入事業においてCNOOCに出遅れた。今、その遅れを急ピッチで取り戻そうとしている感がある。2011年頃には建設中の遼寧省(大連)、江蘇省(如東)受入基地が完成する予定である。 PetroChinaは企業規模が大きく、豊富な国産ガス資源やパイプライン・インフラ(地下貯蔵を含む設備)を保有しており、国産ガス・輸入ガス間で価格あるいは緊急時の供給調整を行うことが可能である。同社は同国最大の天然ガス生産者という立場にあり、安定供給に対する義務感が3社のうちで最も強い。 SinopecはLNG輸入事業において完全に出遅れている。同社は山東(青島)でLNG受入基地の建設を計画し、2009 年 3 月に出荷を開始するロシアのサハリン 2 とLNG長期売買契約締結に向け交渉を行っていたが、山東LNGは投資額増大などにより、競争力が低下したという理由で2005年に計画を凍結した。最近、山東LNG受入基地建設計画は再び動き出している模様だが、基地の稼働開始は早くとも2012年以降になると思われる。 Sinopecの課題はCNOOCと同様、国産ガス資源やパイプライン・インフラの不足である。SinopecとCNOOCは南部(珠江デルタ)における天然ガス事業の提携(2007年6月)や「広東省天然ガス管網公司」への共同出資など、協調姿勢をとり、巨人PetroChinaに対し、地域を限定して市場防衛を図ろうとしているかのように見える。

(2)都市ガス事業者

① 1都市に1社以上の都市ガス配給会社 中国には約656の都市があり、数百の都市ガス供給会社がある。 都市には地区級と県級という区分があり、地区級以上

北京北京

海南島

台湾広州

上海

天津

中 国

4.14.13.43.4南シナ海西部

0.50.510.410.4南シナ海東部

0.40.40.10.1東シナ海

1.21.220.720.7渤海湾

天然ガス 万boe/d原油 万b/d

中国海洋部における天然ガス生産量(2007年)図12

LNG 供給各社の特徴図13

出所:各社年報に基づき JOGMEC 作成

出所:エイジアム研究所

LNG市場

その他・政府の実績・財政補助の利用・地方ガス事業の占有

CNOOC・国内(海上)資源不足・ガス価格設定可能・国際市場の参入・拡大

CNPC(PetroChina)・ガス安定供給義務・国産・輸入ガス間の価格 調整可能・市場占有

Sinopec・市場占有・国内資源不足・国産・輸入ガス価格調整 能力なし

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41 石油・天然ガスレビュー

JOGMEC

中国のLNG輸入トレンドをよむ ―日本への影響―

の都市数は286、都市人口は2億3,000万人、非農業人口は3億9,000万人で合計約6億2,000万人である(いずれも2006年)。地区級以上の各都市には都市ガス配給会社が必ず1社は存在する。 地区級、県級都市の概念は一般には分かりにくいと思うので若干、説明したい。例えば、日本の約3分の1の広さの江蘇省(面積約10万2,600km2)を例に挙げると、南京(面積6,582km2、うち市街地部分は513km2)、蘇州、無錫、楊州市など読者も耳にしたことがある市(比較的大きく、経済力のある)が地区級で、江蘇省には13の地区級都市がある。この下に県が106あるが、そのうち昆山市などが県級の都市というわけだ。 都市ガス供給会社は主に 3 種類に分かれている。100%地方政府が株式を保有するガス会社と、中国燃気

(チャイナガス)など民間ガス会社、民間ガス会社との合弁会社などがある。2008年8月に訪問した南京市の都市ガス配給会社、港華ガス燃気有限公司(南京港華ガス)

(写)は、香港上場の香港中華燃気(香港チャイナガス)との合弁会社であった。

② 天然ガス供給者と地方の都市ガス供給者の関係 天然ガス生産(卸)企業と都市ガス配給会社の関係は概

おおむ

ね三つに分類することができる。

1)M:1:N(上海市) 上海市は、西気東輸パイプラインの天然ガスを供給するPetroChina、上海沖合の天然ガスを供給するCNOOCなど複数のガス供給者(M)を有しており、都市幹線会社が1社、複数の都市ガス会社(N)がある。ガス価格設定、ガスの調達は上海市政府系の管網公司(幹線会社)が一括して担当しており、上海市政府側の価格交渉力が高いと言える。

2)M:N(江蘇省)  江 蘇 省 は、 西 気 東 輸 の 天 然 ガ ス を 供 給 す るPetroChinaなど複数のガス供給者(M)を有しており、複数の都市ガス会社(N)がある。幹線パイプラインは天然ガス供給者のPetroChinaが保有しており、同社はシティーゲートがある5都市の都市ガス供給会社並びに発電、ガラス工場などの大口需要家と個別に交渉を行っている。PetroChinaの価格交渉力が総じて高いと言える。

3)1:1(北京市) 北京市は、陝京パイプラインの天然ガスを供給するPetroChina1社に対し、都市ガス供給会社も北京燃気(北京ガス)の1社である。ガス価格設定、ガスの調達はすべて相

あい

対たい

で行っている。

③ 巨人PetroChinaの都市ガス配給事業参入 ここ数年、PetroChinaは都市ガス配給事業への参加にも積極的である。PetroChinaは傘下に地域別の天然ガス販売(卸)企業を保有しているが、その他に崑

こん

崙ろん

燃気(崑崙ガス)を設立、崑崙ガスは2008年現在23省・市・区の50の大中都市部にガスを供給している。

南京港華ガス燃気有限公司写 天然ガス供給者と地方の都市ガス供給者の関係図14

出所:JOGMEC 出所:エイジアム研究所

都市ガス

M:複数のガス供給者1:都市幹線会社N:複数の都市ガス会社ガス価格設定、ガス調達すべて幹線会社(政府系)が担当、将来はLNG事業者になる可能性がある

1:ガス供給者1:都市ガス会社ガス価格交渉、ガス調達すべて1対1の関係、熱量調整はガス供給会社が担当

1:ガス供給者=都市ガス会社ガス供給量、ガス価格は社内で決定

幹線はガス供給会社が所有M:複数のガス供給者N:複数の都市価格交渉、熱量調整など各都市ガス会社が担当

M:1:N(上海市) M:N(江蘇省)

1=11:1(北京市)

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422009.3 Vol.43 No.2

JOGMEC

アナリシス

4.天然ガス政策

(1) 天然ガス利用政策

  ― 政府は天然ガスの民生利用を奨励 ―

 2007年8月30日、中国国家発展改革委員会は「天然ガス利用政策」を公布した。政府は、限られた資源であり需給ギャップが進んでいる国産天然ガスを、主に家庭部門の燃料や天然ガス自動車など民生用に優先的に使用し、地方の化学工業プロジェクトなどへの使用や大型の石炭生産地におけるガス火力発電などの資源浪費を抑制し、国産天然ガスの効率的な利用を図る姿勢を鮮明にした。

(2)天然ガス価格

 中国の天然ガス価格は政府が統制している。価格の調整について、生産企業が申請し、政府がコスト、マージン、および消費者の支払い能力を勘案し、認可することになっているが、2007年の3社の平均販売(卸)価格は3ドル/MMbtu前後で、欧州や日本に比して半分以下の水準に抑えられている。

① 国産天然ガスの卸売価格(井戸元価格)、輸送費 国産天然ガスの卸売価格は“政府指定価格”と“政府指導価格”(以下、政府基準出荷価格)に分かれている。複雑で、社会主義計画経済の名残を多分に残す制度だが、解説したい。 天然ガスは石炭同様、中央政府が生産・供給計画を設定している。 中央政府(国家発展改革委員会の経済運行局)は3大国有石油企業(PetroChina、Sinopec、CNOOC)等の天然

ガス生産能力(年度生産計画)や経済予測に基づき、全体の生産計画を作成する。 そして、国家発展改革委員会(一部地域では経済貿易委員会)が各地方(地方政府・国有企業)の需要に基づき、天然ガスの供給計画を立案する。 供給計画内の天然ガス供給部分については政府の指定価格、計画外の天然ガス供給部分については政府基準出荷価格となる。 例えば、2002年1月から、大慶油田の計画内のガス卸売価格のうち、肥料用ガスは570元/1,000m3、家庭用ガスは670元/1,000m3(約2.2ドル/MMBtu)、工業用ガスは780元/1,000m3(約3ドル/MMBtu)、商業用ガスは920元/1,000m3(約3.6ドル/MMBtu)が適用されている。これに対し、計画外のガスは900元±10%(最大3.8ドル/MMBtu)で販売されている。 政府基準出荷価格制度は2005年11月に見直され、ガスの用途の分類は都市ガス、化学肥料、工業(大口需要家)の3種類に簡便化された。 2005年12月に政府は天然ガス価格を引き上げた。都市ガス向けを100 ~ 150元/1,000m3(約0.3 ~ 0.5ドル/MMBtu)、化学肥料向けを50 ~ 100元/1,000m3(約0.2~ 0.3ドル/MMBtu)引き上げた(いずれも1ドル=8.1元換算)。 その後、石炭やLPG価格が高騰したが、政府は都市ガスについては価格を据え置き、工業用価格については2007年11月に400元/1,000m3(約1.4ドル/MMBtu)引き上げた(1ドル7.5元換算)。

0

1

2

3

4

5

6

7

8

9

10

2004 2005 2006 2007

PetroChina Sinopec CNOOC英国NBP 米国Henry Hub Japan cif

ドル/MMBtu

・家庭部門の燃料・サービス産業のガス利用・天然ガス自動車・コージェネ

・集中式ガス暖房・家庭用ガス空調・産業用燃料、原料(石油代替)・ガス火力発電(ミドル、調整用)

・ガス火力発電(電力負荷高い以外)・アンモニア工場の拡張(石炭代替)・メタン原料として・天然ガス合成アンモニア新規事業

・大型石炭生産地のガス火力発電・天然ガス製メタノール新規事業・メタノール事業の天然ガス転換

優先分野

許可分野

制限分野

禁止分野

中国の天然ガス利用政策のポイント(2007 年 8 月、国家発展改革委員会発表)図15 中国国有石油企業 3 社の天然ガス販売(卸)価格図16

出所:エイジアム研究所出所: 各社 Annual Report、BP Statistical Review of World Energy

Outlook June 2008 に基づき JOGMEC 作成

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43 石油・天然ガスレビュー

JOGMEC

中国のLNG輸入トレンドをよむ ―日本への影響―

 また、政府基準出荷価格は用途とガス田(井戸元)からの距離とにより異なる。四川、長慶、青海、新疆、大港、遼河、中原油ガス田の計画内のガスは1類、その他油ガス田のガスは2類と分類されている(表2)。陝京(オルドスから北京向け)や西気東輸パイプラインなど減価償却が済んでいない、新しく建設されたパイプラインはコストとマージンに基づき、国家発展改革委員会が別途設定している。 実際の卸売価格(シティーゲート価格、大口需要家への直送価格)はガス生産者と地方政府(国有企業)や大口需要家双方の協議により決まる。1類の卸売価格は政府基準出荷価格の±10%の範囲で設定する。2類は政府基準出荷価格の+10%が上限で、下限は制限が設けられていない。

② 輸入LNGの卸売末端小売価格  ― 広東:消費者への売価、長期契約分とスポットは別 ― 輸入LNGの価格は当然のことだが、日本と同様供給側との契約価格に基づいて決まる。配給会社や発電会社への卸売価格はLNGの輸入価格に再ガス化、輸送費、企業のマージンが加味された上で決定する。末端価格は各地方政府が決定する。日本のような燃料費調整制度は導入しておらず、価格引き上げを行う際は公聴会を開催するため、時間を要する。 広東LNGが2002年に長期売買契約を締結した豪州

LNGの輸入価格(CIF)は国産ガスとほぼ等価の3ドル/MMBtu程度である。 ただし、本稿2章「(2)LNG導入の現状」で述べたように、広東は夏季の発電需要向けにスポットLNGを購入している。2005年夏季以降、原油価格高騰によりLNGの国際価格が高騰しており、2008年夏季のスポット価格は長期契約の5倍の最大15ドル/MMBtu程度に達した。 広東省は中国国内で最も末端小売価格が高い(価格許容力のある)地域だが、2008年8月当時の家庭・商業用は13 ~ 14ドル/MMBtu程度であり、高値のスポットLNGは到底許容できないと思われた。筆者は地方政府が補助金を支給しているか、あるいは長期契約とスポット価格を合わせ、配給会社への販売価格を平準化(プール価格を設定)しているのではないかと考えていた。

中国の天然ガス価格の決定原則図17

中国の天然ガス価格体系図18

出所:エイジアム研究所

出所:エイジアム研究所

政府基準出荷価格(元 / 千 m3)

政府基準出荷価格(ドル/ 百万 Btu)*

1 類四川 - 重慶 都市ガス 920 3.50

化学肥料 690 2.63工業 875 3.33

長慶 都市ガス 770 2.93化学肥料 710 2.70工業 725 2.76

青海 都市ガス 660 2.51化学肥料 660 2.51工業 660 2.51

新疆 都市ガス 560 2.13化学肥料 560 2.13工業 585 2.23

その他(大港、遼河、中原)

都市ガス 830 3.16化学肥料 660 2.51工業 920 3.50

2 類その他油ガス田

都市ガス 980 3.73化学肥料 980 3.73工業 980 3.73

天然ガス政府基準出荷価格表2

*:1 ドル =7 元出所:各種資料に基づき作成

1. 天然ガス卸売価格(井戸元価格)

2. 天然ガスの輸送価格

政府指定価格 計画内のガス供給量は政府の指定価格

計画外のガス供給量は政府の指導価格と割引き範囲に基づき、需給双方の協議で決定

距離とガスの用途によりガスの価格が異なるガスの用途の分類:肥料生産、住民、商業、工業用

企業が申請、政府が認可認可条件:コスト+マージン+最終消費者の支払能力

政府指導価格

価格分類

価格調整

PLの輸送価格はすべて政府の指定価格コストとマージンの原則に基づき決定

減価償却済みのPLと新規建設PLの価格で分類、各PLの輸送価格は国家発展改革委員会が決定

企業が申請、政府が認可認可条件:コスト+マージン+消費者の支払能力

管理規制

価格分類

価格調整

管理規制

井戸元価格

輸送費

最終ユーザー価格

配送費

工 業

シティーゲート

肥 料 家 庭 サービス業

 庭

中小型工場

サービス部門

大型工場

化学肥料工場

火力発電所

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JOGMEC

アナリシス

 ところが、昨年8月のヒアリングの際、広東LNGは発電会社やガス会社と売買契約(テイク・オア・ペイ)を締結しており、その数量を超える分や新規ユーザーについては、調達価格ベースで販売していることが判明した。発電会社向けの長期契約販売価格は6ドル/MMBtu程度の模様で、超過分(スポット調達)は広東省政府や時にはその下の深圳市政府までもが補助金を支給していた模様である。 また、広東省では工業用(窯業など)としてのLPG需要があり、全国最大のLPG輸入省*10 だが、その代替として輸入LNGが選好されているようである。2008年8月には輸入LPGが熱量等価で24ドル/MMBtu程度に高騰したため、15ドル/MMBtuという高値のスポットLNGについても競争力があったと聞いた。

③ 輸入パイプラインガスの国境渡し価格 中国は現在のところ、パイプラインによる天然ガスの輸入を行っていない。トルクメニスタン、ミャンマーからの天然ガス売買については同国政府と供給者が合意したと伝えられるが、契約数量や輸入開始時期などについて不透明であり、最終的な売買契約締結には至っていないと思われる。 あくまで報道ベースだが、トルクメニスタンからの天然ガスの国境渡し価格は5 ~ 6ドル/MMBtu程度(油価

40ドルベース)、ミャンマーからの天然ガスについては5 ~ 6ドル/MMBtu(近隣の製品価格ベースの価格フォーミュラ)前後と伝えられている(図19)。 原油価格下落を受け、中国側は一気に長期売買契約締結に向け、交渉を加速したいところであろう。

④ 卸売価格制度改革の検討始まる 発電向けについては石炭など代替燃料に比べ天然ガスの価格競争力がないと書いたが、都市ガスや産業向けの天然ガス価格については、国産原油(国際市場価格と連動)や国産LPG価格(一部統制されているが市場化が進んでいる)に比べて低く抑えられている。天然ガスへの燃料転換を促進するためにこのような価格制度となったが、すでに需給ギャップを解消するために、政府が天然ガス利用政策を打ち出している状況である。また、現在は輸入が少量かつ購買力の高い広東省に限定されているため、国際市場価格にリンクしていることによる変動リスク分については地方政府が補助金を支給することで対応している。だが、今後パイプラインガスやLNGの輸入が増えると、地方政府が対応しきれず、PetroChinaやCNOOCなどの輸入事業者が価格変動リスクを負うことにつながりかねず、CNPCは政府に天然ガス価格制度の改革を求めており、国家発展改革委員会が検討を始めているようだ。

国産・輸入天然ガス(LNG)卸売価格(報道ベース)図19

出所:各種情報に基づき、JOGMEC 作成

国産ガス北京CityGate4.5ドル/MMBtu

国産ガス北京CityGate4.5ドル/MMBtu

国産ガス遼寧CityGate3ドル/MMBtu

国産ガス遼寧CityGate3ドル/MMBtu

国産ガス上海CityGate5ドル/MMBtu

国産ガス上海CityGate5ドル/MMBtu

国産ガス新疆CityGate2ドル/MMBtu

国産ガス新疆CityGate2ドル/MMBtu

国産ガス四川CityGate3ドル/MMBtu

国産ガス四川CityGate3ドル/MMBtu

中央アジア→中国国境(新疆)5~6ドル/MMBtu ?(2010年頃~)

中央アジア→中国国境(新疆)5~6ドル/MMBtu ?(2010年頃~)

ミャンマー→中国国境(南雲)約5~6ドル/MMBtu(2010年頃~)

ミャンマー→中国国境(南雲)約5~6ドル/MMBtu(2010年頃~)

豪州→広東大鵬(CIF)約3ドル/MMBtu豪州→広東大鵬(CIF)約3ドル/MMBtu

インドネシア→福建(CIF)約4ドル/MMBtu ?(2009年~)

インドネシア→福建(CIF)約4ドル/MMBtu ?(2009年~)

マレーシア→上海(CIF)約7ドル/MMBtu ? (2009年~)

マレーシア→上海(CIF)約7ドル/MMBtu ? (2009年~)

国産ガス長慶CityGate3ドル/MMBtu

国産ガス長慶CityGate3ドル/MMBtu

TURKMENISTANTURKMENISTAN

UZBEKISTANUZBEKISTAN

KAZAKHSTAN RUSSIA

MYANMARMYANMAR

上海

江蘇

大連

南昌湘潭

深圳香港

広州

南寧

靖辺中衛

輪南

コルガス ウルムチ

トルファン

独山子

徐州  

北京

洛陽

湛江海口

天然ガスパイプライン(建設計画中)LNG受入基地(稼働中・建設中)

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45 石油・天然ガスレビュー

JOGMEC

中国のLNG輸入トレンドをよむ ―日本への影響―

(1)エイジアム研究所による天然ガス需要予測

 中国内外の調査機関が行った天然ガス需要予測によると、2015年の天然ガス需要は1,110億~ 2,100億m3、2020年の天然ガス需要は1,420億~ 2,600億m3 となっている(表3)。 一方、エイジアム研究所は経済低成長(Low)、中成長(Reference)、高成長(High)の3ケースについて需要予測を行った。2007年から2020年までのGDP年平均成 長 率 を Lowケ ー ス 5.6 %、Referenceケ ー ス 6.5 %、Highケース7.5%と設定した。また2020年の対ドル人民元レートを6.8元と設定した。また、2020年の原油価格は、米エネルギー省エネルギー情報局(EIA)のInternational Energy Outlook 2007の価格を参照し、Low 34.5 ドル /バレル、Reference 55 ドル /バレル、High 89.1ドル/バレルと設定した。 その結果、2015年の天然ガス需要はLowケース1,209億m3、Referenceケース1,286億m3、Highケース1,410億m3 となった。2020年の需要はLowケース1,550億m3、Referenceケース1,730億m3、Highケース1,995億m3と2015年に比べ差が大きく出た(図20)。また、分

野別で見ると、2020年Referenceケースにおける需要1,730億m3の5割強を都市ガス(家庭を含む)が占め、4割弱をその他産業が占め、発電が7.5%を占めるという結果になった(表4)。

(2) モデル4地域(遼寧、江蘇、上海、広東)の天然ガス

需給見通し

 今般の調査では沿海4都市(遼寧、江蘇、上海、広東)に対し、8月と11月の2度に分け、現地ヒアリングを行い、都市ごとに2020年頃までの天然ガス(LNG輸入を含む)需要にかかる調査・分析を行った。その大きな目的は二つある。一つは国土が広大で、経済発展状況やエネルギー消費状況が異なる地域の特徴を整理・分類すること、もう一つは消費者の生の声を聞くためである。調査対象の4地域はいずれも複数の天然ガス供給源を持ち、LNGを導入あるいは導入予定の沿海都市であり、経済水準が平均より高いという特徴を備えている。 しかし、4地域の状況を詳細に見ていくと大きく異なることが分かる。

5.天然ガス(LNG)の需給予測

中国内外諸機関による天然ガス需要予測表3

発表月 2010 年 2015 年 2020 年 2025 年 2030 年IEA 2008 年 11 月 1,210 1,550 1,890 2,210米国 Baker 研究所* 2007 年 11 月 1,150 1,960 2,170 2,270 2,330米国エネルギー情報局(EIA) 2008 年 9 月 770 1,110 1,420 1,620 1,820中国 PetroChina 2008 年 12 月 1,200 2,100 3,000中国国家発展改革委員会諮問センター 2007 年 1,200 2,100 2,600 *:James A. Baker Ⅲ Institute for public policy Rice University出所:エイジアム研究所

億 m3

中国の天然ガス需要予測図20出所:エイジアム研究所(~ 2020 年)

Reference 2007 2010 2015 2020 20/07伸び率

都市ガス 309 391 654 914 8.7

 うち家庭部門 (66) (89) (123) (160) (7.0)

発電 46 56 95 131 8.4

熱供給 24 30 40 51 5.8

その他産業 294 402 498 635 6.1

合計 673 879 1,286 1,730 7.5

億 m3

中国の分野別天然ガス需要予測表4

2000

245

673879 901 856

1,2861,410

1,209

1,730

1,995

1,550

2007 2010 2015 2020 年

億m3

Reference Case

High Case

Low Case

2,500

2,000

1,500

1,000

500

0

出所:エイジアム研究所(~ 2020 年)

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462009.3 Vol.43 No.2

JOGMEC

アナリシス

① 遼寧省 東北部の遼寧省は重工業中心の経済構造で、所得水準は4地域のなかで最も低く、天然ガス使用率も低い。2007年の消費量は約14億m3/年である。PetroChinaが大連でLNG受入基地を建設しており、2011年に稼働開始の予定である。 この他、大慶油田の随伴ガス(東北部パイプライン網の整備計画が進んでいる)や西部オルドス盆地の天然ガス(陝京<長慶-北京>パイプラインの支線である河北秦皇島から遼寧省への延伸計画が進行中)が供給される可能性がある。また、時期は未定だが、ロシアの東シベリアあるいはサハリンの天然ガスが供給される場合、同省を経由することになる。 しかし、遼寧省の位置する中国東北部は石炭資源が豊富で天然ガスの価格競争力は弱い。天然ガスシティーゲート価格が2元/m3(7.7ドル/MMBtu)以下であれば、新規需要が期待できるが、天然ガス価格が上昇する場合は、価格競争力があるのか、疑問である。また、発電市場への天然ガス使用は難しく、天然ガスの大幅な使用拡大は困難であると思われる。

② 江蘇省 揚子江デルタに位置する江蘇省は、郷

ごう

鎮ちん

企業*11、加工貿易中心の経済構造で、所得水準は中程度、エネルギーの対外依存度(省外からの移入を含む)が高い。PetroChinaが西気東輸パイプラインにより西部新

疆の天然ガスを供給している。2007年の消費量は約45億m3 で西気東輸パイプライン最大の顧客かつ広東省に並ぶ消費規模である。PetroChinaが如

じょ

東とう

でLNG基地を建設中である。将来的に、輸入LNGの他、第2西気東輸パイプラインを通じ、中央アジアや西部の天然ガスを、使用する計画である。また、Sinopecが建設中の川気東送パイプラインを通じ、四川の天然ガスを購入する計画もある。 江蘇省は天然ガス市場の開発のために大規模工場やガス火力の誘致を図ってきた。例えば南京市では石炭の使用は大幅に制限され、都市ガス燃料は天然ガスに転換済みである。冬季の需給逼迫時期には新疆 広

グアン

匯フイ

からローリーによる高値のLNGを購入する状況にある。天然ガス火力発電所は供給不足のために稼働時間を延ばせな

需要シナリオ

需要Low

需要Medium

需要High

供給可能性

遼河油田、海上からの天然ガス等

大連 Ⅰ

大連 Ⅱ

華北・東北パイプライン

ロシアパイプライン

ロシアパイプライン

0

50

100

150

200

250

供給

億m3

都市ガス発電その他

需要シナリオ

需要Low

需要Medium

需要High

供給可能性

0

50

100

150

200

250

供給

億m3

都市ガス発電その他

西気東輸

如東LNG Ⅰ

如東LNG Ⅱ

省内油田随伴ガス

川気東送

第2西気東輸

調査対象地域と特徴図21

遼寧省の天然ガス供給可能性と需要シナリオ(2020 年)図22 江蘇省の天然ガス供給可能性

と需要シナリオ(2020 年)図23

出所:エイジアム研究所

出所:エイジアム研究所 出所:エイジアム研究所

上海市上海市

江蘇省江蘇省

遼寧省遼寧省

広東省広東省

対象地域の選定原則・複数ガス供給減、LNG導入計画がある。・経済水準が中国全土の平均より高い。・沿海地域である。

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47 石油・天然ガスレビュー

JOGMEC

中国のLNG輸入トレンドをよむ ―日本への影響―

い。都市ガス供給会社についても供給不足のため、大口ユーザーへの販売機会を逃している。しかし、発電用としての天然ガスは、価格競争力に課題があり、十分な稼働が行われるのかについては疑問がある。ただし、経済成長に伴うエネルギー需要増と、既存天然ガス火力の稼働により、天然ガス需要はある程度増加すると見込まれる。

③ 上海市 経済・金融の中心で、所得水準が高い。エネルギー対外依存度が高く、天然ガスの供給は不足している。PetroChinaが西気東輸パイプラインにより西部新疆の天然ガスを供給している。2007年の消費量は約28億m3である。ShenergyとCNOOCが小洋山にLNG受入基地を建設中である。 将来的に、西気東輸パイプラインと輸入LNGの他、第2西気東輸パイプラインを通じ、中央アジアや西部の天然ガスを、Sinopecが建設中の川気東送パイプラインを通じ、四川の天然ガスを購入する計画である。 市内に3カ所あるガス火力発電所のうち、2カ所は年間わずか500時間前後の稼働(上海市は冬場の暖房需要が多く、夏場の余剰ガスを発電向けに供給している。また、都市ガスの天然ガス転換を進めているものの、石炭ガスを使用している家庭(戸数)が天然ガス使用家庭にほぼ匹敵している。天然ガスは幹線会社が一括して受け入れ、これを各用途(地域都市ガス供給会社、発電、大規模工業)に供給している。 発電用以外では、天然ガスは石油製品との競争になるが、天然ガスの価格競争力は比較的強い。ただし、第3

次産業化が進んでおり、工業用の需要の伸びは期待できないとの見方もある。現在、天然ガス火力の稼働率はガスの供給不足のため著しく低いが、本地域は石炭調達コストが高いため、発電用としての天然ガスにも価格競争力がある。

④ 広東省 対外貿易中心の経済構造で、所得水準は高い。エネルギーの対外依存度(省外からの移入を含む)は高く、天然ガスの供給は不足している。CNOOCとBPなどによる広東大鵬LNG基地が稼働中である。2007年の消費量は約46億m3でほぼ9割を輸入LNGが占める。広東大鵬の他にも珠海など、複数のLNG受入基地建設計画が進行中である。 将来的に、輸入LNGの他、第2西気東輸パイプラインを通じ、中央アジアや西部の天然ガスを購入する計画である。また、Sinopecが建設中の川気東送パイプラインを通じ、四川の天然ガスを購入する計画である。 天然ガス需要の5割強が発電用、2割が工業用であり、都市ガスの天然ガス消費は少ない。現在、都市ガスの幹線パイプライン網が整備されているのは広州市、深圳市、東莞市および佛山市の4市に限られる。都市ガスは軽油、LPGに対し価格競争力を持っている。 しかし2008年に広東省の地区級21都市のガス会社に対して、一括してガス供給を行う管網(幹線パイプライン)公司が設立されたので、天然ガスの都市ガスへの導入可能性が大きくなっている。競合燃料は石油製品が主体であり、天然ガスの価格競争力が強い。また、重油火力の天然ガス転換についても期待できる。

0

20

40

60

80

100

120

140

160都市ガス発電その他

需要シナリオ

需要Low

需要Medium

需要High

供給可能性

供給

億m3

西気東輸

川気東送

小洋山LNGⅠ

小洋山LNGⅡ

東シナ海

第2西気東輸

上海市の天然ガス供給可能性と需要シナリオ(2020 年)図24 広東省の天然ガス供給可能性

と需要シナリオ(2020 年)図25

出所:エイジアム研究所 出所:エイジアム研究所

都市ガス発電その他

需要シナリオ

需要Low

需要Medium

需要High

供給可能性

供給

億m3

第2西気東輸

深圳LNG

珠江LNGⅠ

珠江LNGⅡ

深圳LNG拡張

珠江LNGⅢ

南シナ海

0

50

100

150

200

250

300

350

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482009.3 Vol.43 No.2

JOGMEC

アナリシス

(3)国産ガスの供給見通し

 2007年末時点の天然ガス確認可採埋蔵量3兆2,000億m3、生産量692億4,000万m3、可採年数(R/P)は46年である。PetroChinaによると、未開発ガス田はほとんど西部地域に位置し、低浸透率、高硫黄、深層、高圧などの特徴を持ち(図27)、開発が困難で、増産のためには技術導入・開発、大規模投資が必要。既存ガス田の生産は2015年までにすべて減退期に入るという見方がある。一方で、これはPetroChinaが政府対応で保守的な数字を上げているとする見方もある。 ちなみに、2009年1月に国土資源部が発表した全国鉱産資源計画によると、2008年から2015年までの天

然ガス新規確認原始埋蔵量の追加目標(予期性*12)について、2008 ~ 2010年が1兆5,000億~ 1兆8,000億m3

(毎年約18Tcf)、2011 ~ 15年が2兆8,000億~ 3兆5,000億m3(毎年約20Tcf)という意欲的な目標が設定されている。また、2010年、2015年、2時点の開発利用目標として、天然ガスは2010年が1,100億m3/年、2015年1,600億m3/年、この他コールベッドメタン(CBM)が2010年50億m3/年、2015年100億m3/年となっている。

(4)パイプラインガス輸入予測

① ロシアからの天然ガス輸入の可能性は当面低い 東シベリアのコビクタ・ガス田からのガスを中国東北部・韓国に供給するコビクタガスパイプラインプロジェクトについて、中国とロシアは1990年代から交渉を行っていた。2004年11月に商業化調査の結果が報告され、2008年に天然ガスの供給を開始することになっていたが、中国とロシアが価格などで折り合えず、交渉は難航している模様である。 東シベリアの天然ガスの他、CNPCはサハリン1の天然ガス購入についても交渉を行っていた。2004年12月、CNPCはExxonMobilと覚書を交わした。交渉が進展した場合、2010年以降、中国はサハリン1から100億m3/年の天然ガスを購入する可能性がある。ただし、本件についても、ロシア国内における天然ガスのマーケティングを独占的に行うロシアGazpromと交渉を行うことが必要で、一定の時間を要すると思われる。

② トルクメニスタンからの天然ガス供給 2006年4月、トルクメニスタンのニヤゾフ前大統領が中国を訪問し、トルクメニスタンのアムダリア川右岸のBagty-yarlyk(バグティヤリク)鉱区から中国向けの天然ガスパイプライン建設(中国国境まで1,818km)に関

既存ガス田の生産能力の推移図26 確認埋蔵量の地質状況図27

出所:エイジアム研究所(2007 年中国 LNG セミナー) 出所:エイジアム研究所(2007 年中国 LNG セミナー)

出所:エイジアム研究所

需給見通しのキーポイント 需給見通しの結果概要

遼寧省石炭資源が豊富で天然ガスの価格競争力が弱い

発電市場への天然ガス利用が難しく、天然ガスの大幅な利用拡大は困難

江蘇省

産業用石炭の消費が大きく天然ガス転換の可能性に大きな振れ幅がある

天然ガスの消費が伸びる余地は残されているものの、競争力に課題があり、急速な伸びは期待できない

上海市市域が限定されるものの、石炭、LPG 市場もかなり残存している

環境規制により石炭、LPG市場から天然ガスの転換による需要増がある

広東省

市域では環境制約が強く、石炭産地からも遠いため、天然ガスが競合するのは石油である

都市ガスは LPG からの転換余地が大きく、発電と合わせ大きく天然ガス需要が伸びる可能性がある

面積(万 km2)

人口(万人、2007 年)

1 人あたりGDP(ドル)*

年平均気温(℃)

遼寧省 14.6 4,298 3,430 8.0 江蘇省 10.3 7,625 4,492 17.4 上海市 0.6 1,858 8,713 15.7 広東省 17.8 9,449 4,492 22.4 全国 960.0 132,129 2,525

調査対象地域の天然ガス需給見通しのまとめ表5

新規ガス田

中期ガス田

晩期ガス田

*:1 ドル= 7.5 元とする出所:中国統計年鑑他

柔らかい砂岩4%

柔らかい砂岩4%

深層・高圧 12%深層・高圧 12%

その他11%その他11%

高硫黄8%高硫黄8%

浸透率低い 65%浸透率低い 65%

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49 石油・天然ガスレビュー

JOGMEC

中国のLNG輸入トレンドをよむ ―日本への影響―

する協定に中国との間で調印した。パイプラインの輸送能力は300億~ 400億m3/年、中国国内でPetroChinaが建設中の第2西気東輸パイプラインに接続し、広東省まで延伸する(図28)。 パイプラインは2008年に通過各国で着工した(建設コストは不明、カザフスタン区間で60億ドルという情報もある。ほとんどの建設コストのファイナンスを中国側がアレンジしている)。第2西気東輸パイプラインへ

の供給は、バグティヤリク鉱区と南ヨロテン・ガス田から行われることになる。2007年7月、胡錦涛国家主席とベルディムハメドフ大統領の立ち会いの下、CNPCはバグティヤリク鉱区のPS契約を締結した。また、トルクメニスタン側は中国向けに2009年以降天然ガス170億m3/年を30年間にわたって販売することで合意した。設計輸送能力300億m3/年のうち、130億m3/年はCNPCが権益を保有し、探鉱中のバグティヤリク鉱区で生産する天然ガスを充当することになっている。南ヨロテン・ガス田はトルクメニスタン政府からの依頼を受け、英コンサルタントのGCA(Gaffney, Cline and Associates)が 2008 年に埋蔵量の評価を行い、most likely で6兆m3(約210Tcf)の巨大ガス田であることが判明している。 これで、難航しているロシアの天然ガスはもう不要かと思われたが、最近何やら雲行きが怪しい。 2009年1月、トルクメニスタン広報局は中国向けの

CHINACHINA

MONGOLIAMONGOLIA

RUSSIARUSSIA

INDIAINDIA

PAKISTANPAKISTAN

AFGHANISTANAFGHANISTAN

BANGLADESHBANGLADESH

MYANMARMYANMAR

NEPALNEPAL

KYRGYZSTANKYRGYZSTAN

TAJIKISTANTAJIKISTANTURKMENISTANTURKMENISTAN

UZBEKISTANUZBEKISTAN

IRANIRAN

KAZAKHSTANKAZAKHSTAN

アルマティアルマティ

上海

南昌

湘潭

深圳

香港

広州

南寧

靖辺中衛

輪南

コルガス

タラス

シムケント

トルクメニスタン・ウズベキスタン国境

ウズベキスタン・カザフスタン国境ウズベキスタン・カザフスタン国境

カザフスタン・中国国境カザフスタン・中国国境

ウルムチトルファン

独山子

徐州  洛陽

湛江海口

0 1,000km

525km

337km596km

360km

2,400km

2,400km

出所:エイジアム研究所

LNG 輸入の予測表6

億 m3

Reference 2007 年 2010 年 2015 年 2020 年

需 要(億 m3) 673 879 1,286 1,730

供 給(億 m3) 798 906 1,477 1,754

・国産ガス 692 750 900 1,000

・ PNG(中央アジア) 66 25 300 400

・ PNG(ミャンマー) 0 0 70 100

・輸入 LNG 39 131 207 254

Low 2007 年 2010 年 2015 年 2020 年

需 要(億 m3) 673 856 1,209 1,550

供 給(億 m3) 731 879 1,423 1,573

・国産ガス 692 750 900 1,000

・ PNG(中央アジア) 0 25 300 300

・ PNG(ミャンマー) 0 0 70 100

・輸入 LNG 39 104 153 173

High 2007 年 2010 年 2015 年 2020 年

需 要(億 m3) 673 901 1,410 1,995

供 給(億 m3) 731 906 1,535 2,107

・国産ガス 692 750 900 1,000

・ PNG(中央アジア) 66 25 300 400

・ PNG(ミャンマー) 0 0 70 100

・ PNG(ロシア) 0 0 0 200

・輸入 LNG 39 131 207 254

中央アジアパイプライン~中国第 2 西気東輸パイプラインルート概略図図28

出所:各種資料に基づき JOGMEC 作成

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502009.3 Vol.43 No.2

JOGMEC

アナリシス

天然ガス供給開始時期を数年先送りすると突如発表した。トルクメニスタンは天然ガス供給先送りの主な理由として、ガス処理施設のトラブルでバグティヤリクガス田の稼働が遅延するためとしている。同処理施設はCNPCが建設中であり、中国へのパイプラインの起点である。CNPC現地関係者は、トルクメニスタンからのガス輸送開始時期の遅延について強く否定。既に建設工事の40%が完了しているとの報道もある。確認はできないがロシアの天然ガス買い取り価格引き上げに伴い、トルクメニスタンが2006年に合意した中国向けの販売価格を引き上げようとしているとの見方がある。2009年末に一部の供給が開始されるかもしれないが、本格的な稼働は第2西気東輸の東部区間完成後の2011年前後になるかもしれない。

③ ミャンマーとの合意 CNPCは韓国大宇*13 と2008年12月24日に天然ガスの長期売買契約を締結した。幹線パイプラインの総延長は約1,800km、建設費は約10億4,000万ドルの見込み

である。パイプライン事業はCNPCが50.9%で、残りはミャンマー国営石油企業MOGEが出資する。建設はCNPCが行う。数量は未公表だが、2012年以降30年間天然ガスが供給される。天然ガスは雲南省の他、重慶市、広西、四川、貴州などに供給される見通しである。

(5)LNG導入計画と輸入予測

 エイジアム研究所は中国の天然ガス需要予測に、国産ガスの供給見通し、パイプラインガスの輸入計画等を加味し、経済低成長(Low)、中成長(Reference)、高成長

(High)の3ケースについてLNG輸入の予測を行っている。2020年の天然ガス需要量はLowケースが1,550億m3、Referenceケースが1,730億m3、Highケースが1,995億m3で、供給はLowケースが1,573億m3、Referenceケースが1,754億m3、Highケースが2,107億m3となる(表6)。供給のうち、国産ガスは一律1,000億m3というやや保守的な前提である。 輸入パイプラインガスは中央アジアからの供給がLow・Referenceの両ケースで300億 m3、Highケースは

出所:エイジアム研究所資料に基づき JOGMEC 作成

LNG 輸入の予測図29

0

500

1,000

1,500

2,000

2,500

2007 2010 2015 2020 2007 2010 2015 2020 2007 2010 2015 2020

ReferenceLow High

需要供給輸入LNGPNG(ロシア)PNG(ミャンマー)PNG(中央アジア)国産ガス

億m3

受入基地別の LNG 輸入予測図30

出所:エイジアム研究所資料に基づき JOGMEC 作成

0

500

1,000

1,500

2,000

2,500

3,000

3,500

2007 2010 2015 2020 2007 2010 2015 2020 2007 2010 2015 2020

天津珠海山東唐山浙江江蘇大連上海福建大鵬

1,880

1,2801,130

770

291

3,010

1,960

970

291

1,530

970

291

万トン

ReferenceLow High

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JOGMEC

中国のLNG輸入トレンドをよむ ―日本への影響―

400億m3 という前提である。ミャンマーは一律100億m3、ロシアのガスはHighケースのみ200億m3という前提である。 2020年のLNG供給量はLowケースで1,280万トン(天然ガス換算173億m3)、Referenceケースで1,880万トン(天然ガス換算254億m3)、Highケースで3,010万トン(同407億m3)となる(図30)。

 中国の現在の契約数量は最大約1,800万トン/年であり、Referenceケースの場合は既存の契約で対応できるが、Highケースの場合は1,200万トン/年(約164億m3)程度、新たに契約を積み増さなければならない。特にSinopecやCNOOCは計画中の基地建設について中央政府の承認を得るために、契約の積み増しを行う必要がある。

① 広東省珠海 CNOOCが政府系地場企業と共同で進めている。LNGの一部は調達できており、2011年の稼働開始に向けて建設準備作業を進めていると伝えられるが、中央政府の最終的な承認が下りているか確認できていない。2007年に東京ガスエンジニアリングが基本設計業務(FEED)を受注した。設計受入能力は300万トン/年で、将来的には600万トン/年に増強する計画がある。

② 浙江省寧波 CNOOCが政府系地場企業と共同で進めている。2005 年に東京ガスエンジニアリングと三井物産がFEEDを受注した。2008年11月に貯蔵タンクの入札要請(ITB)を行っており、2011年の稼働開始に向けて建設準備作業を進めていると伝えられるが、LNGの調達や中央政府の最終的な承認が下りているかについては確

認できていない。設計受入能力は300万トン/年で、将来的に600万トン/年に増強する計画がある。

③ 山東省青島 Sinopecが中国の発電大手華能集団他と共同で進めている。同基地は2章の(1)「国産天然ガスの供給・消費」の項で述べたとおり、山東LNG受入基地の建設地を選定、サハリン2とLNG調達交渉を行っていたが、交渉は決裂し、2005年に計画を中断していた。その後、中国の人民解放軍が基地を建設するため、建設地を当初計画より50km南方の董

ドン

家ジャー

口コウ

に変更している。設計受入能力は300万トン/年で、将来的に500万~ 600万トン/年に増強する計画がある。 新たな建設地における環境影響評価の承認は下りており、2012年の稼働開始を目指していると伝えられるが、今後、中央政府(国家発展改革委員会)から基地建設について最終的な承認を得ることが必要で、最終承認までにはLNGの長期契約を締結しなければならない。Sinopecは以前イランとLNG購入について基本合意(LoI)を締結していたが、イランのLNG液化事業は進展しておらず、中央政府の最終的な承認を得るには、別のLNG供給源を探さねばならないと思われる。最近、Sinopecはタングー LNGのSempra向け契約の販売先変更可能分カーゴの購入について検討していると報じられている。ただし、順調にLNGが調達できたとしても、稼働開始は早くて2012年以降になると思われる。 ちなみに2009年1月、Sinopecが購入する予定であったイランのLNGの供給源であるSouth Pars1 2フェーズガス開発への参加について PetroChinaがイランNIOC(パートナーはTotalとPetronas)と交渉中と報じられている。

場所 企業 初期(万トン)

増強後(万トン) 初期計画 現在計画 LNG 調達先 状況

広東省珠海 CNOOC 300 600 2013 年 未定 未定 申請中

浙江省寧波 CNOOC 300 600 2009 年 2011 年 未定 申請中

山東省青島 Sinopec 300 500 2008 年 2012 年 未定 不明

河北省唐山 PetroChina 350 650 2009 年 2013 年 未定 申請中

海南市 CNOOC 200 300 2012 年 未定 未定 申請中

広西チワン族自治区 PetroChina 300 ー 2010 年 未定 未定 申請中

天津市 CNOOC 300 ー 2010 年 未定 未定 申請中

合計 2,050 2,650

建設準備 ・ 計画中の LNG 受入基地表7

(注)稼働 ・ 建設中の LNG 受け入れ基地は 36 ページ表 1 参照。出所:エイジアム研究所

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アナリシス

④ 河北省唐山 PetroChinaが地元政府と共同で進めている。2008年にCNPC 子会社の中国寰球工程公司*14が“preliminary design”およびEPC(設計・調達・建設)を受注し、2013年末の稼働開始を目指し建設準備作業を進めていると伝えられるが、LNGの調達や中央政府の最終的な承認が下りているか、確認できていない。設計受入能力は350万トン/年で、将来的に600万トン/年に増強する計画がある。

⑤ その他 海南、広西、天津について、LNGの調達並びに中央政府の最終的な承認は下りておらず、計画・構想段階にあると思われる。また、広東省深圳についてCNOOCとPetroChinaの双方が建設を計画、地元政府に働きかけ

ていたが、2009年2月にPetroChinaが建設に向け基礎的な作業を開始したと報じられている。

(6)消費者の価格許容能力分析

 エイジアム研究所の分析によると、都市ガスは比較的価格負担能力が強いが、発電・肥料産業については難しいようである。国際石油価格の予測値、人民元の為替レート予測値、2008年のガス価格に基づき、毎年5%のガス販売価格の値上げを前提にした調査対象4都市の家庭用ガス価格とLNG小売価格の見通しによると、広東省の都市ガス価格は分析初年の2008年から常にLNG小売価格を上回っており、上海市についてもほぼ問題ない。遼寧省の省都瀋陽市についても2010年以降は都市ガス価格がLNG小売価格を上回る見通しとなる。 江蘇省南京市の場合、2015年前後までは厳しそうで

家庭用ガス価格と LNG 小売価格見通し図31 産業(化学肥料、発電、一般産業)価格と LNG 販売価格見通し図32

出所: エイジアム研究所(国際石油価格の予測値、人民元の為替レート予測値、2008 年のガス価格に基づき、毎年 5%の値上げを前提にした計算結果)

出所:エイジアム研究所

ドル/MMBTU

LNG小売価格

北京 上海 広東省 南京 瀋陽 販売価格

30

25

20

15

10

5

0

2008200920102011201220132014201520162017201820192020

ドル/MMBTU

年販売価格 家庭一般産業発電肥料

25

20

15

10

5

0

2009201020112012201320142015201620172018201920202021

中国全土上海市

広東省

江蘇省

遼寧省

北京市

浙江市

福建省

天津市

重慶市 日本

4.54.03.53.02.52.01.51.00.50

日本重慶市天津市福建省浙江市北京市遼寧省江蘇省広東省上海市

中国全土

%0.0 0.5 1.0 1.5 2.0 2.5 3.0

燃料代と消費支出の対比割合図33 電気代と消費支出の対比割合図34

出所:エイジアム研究所 出所:エイジアム研究所

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53 石油・天然ガスレビュー

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中国のLNG輸入トレンドをよむ ―日本への影響―

ある。オルドス盆地の国産天然ガスを利用している北京市では、2015年まで家庭用ガス価格はLNG源ガス小売価格を下回る見通しである。中国の家庭向け都市ガス価格は、東京ガスの「暖らんぷらん」のように、使用量が増えると割引となるような価格設定は設けられていないが、北京市のように、集合住宅向けに天然ガスによる地域熱供給を行っている都市は、暖房用に天然ガスを利用する家庭に臨時の補助金(2008 ~ 2009年冬季は末端価格の8%に相当する0.15元/m3(約2.25円)を支給するなどの対応策を採っている模様である。 中国政府は天然ガス価格を年5 ~ 8%引き上げ、将来的には国際市場価格と連動させる計画である。しかし、急激な価格上昇は社会不安を招きかねないので、政府は段階的に引き上げる方針である。エネルギー価格統制下の中国において、家庭部門の消費支出に占める燃料費の比率は日本よりも低いが、電気代の比率(消費支出対比)は一部地域では日本を上回っており、やはり中流層以上が利用しているガスに比べ、幅広く利用されている電気料金の引き上げはガスに比べ難しい状況である。

(7)LNG大量輸入を可能とする条件

 中国がLNGを大量購入する条件は、次に記すとおりだが、当面LNGの大量購入に結びつくような状況にはないと思われる。

① 電力市場の自由化と電気料金制度の見直しが行われれば、ガス火力発電の収益が改善され、火力発電向けのLNG需要が上向く可能性がある。

 ← 社会安定、(輸出)産業への影響から、見直しは当面困難と思われる。

② CO2削減義務による環境規制が強化された場合、CO2

排出量の比較的少ない天然ガス火力発電向けのLNG需要も高まると思われる。

 ← 中国政府はCO2 排出抑制にかかる数値目標の設定に強い抵抗感があり、少なくとも京都議定書期限の2012年まで数値目標を対外的にコミットする可能性は低いと思われる。

③ 都市ガス幹線パイプライン網の整備が急速に進み、人工ガス(石炭ガス)やLPGから天然ガスへの転換が進んだ場合、LNG需要も高まる可能性がある。

 ← 幹線パイプライン網の整備は一定の進展が期待できるが、家庭部門中心では需要への貢献度は小さい。

④ 輸入パイプラインガス(PNG)供給が不足(中央アジア、ロシア、ミャンマー)した場合、輸入LNGの需要が高まる可能性がある。

 ← 輸入PNGの供給時期、供給量について不確定要素は残るが、ゼロということはないと思われる。

中国の LNG 大量輸入を可能にする条件図35

出所:エイジアム研究所

電力市場の自由化と電気料金制度の見直しが行われれば、ガス火力発電の収益が改善され、火力発電向けのLNG需要が上向く可能性がある。

社会安定、(輸出)産業への影響から、見直しは当面困難と思われる。

CO2削減義務による環境規制が強化された場合、CO2排出量の比較的少ない天然ガス火力発電向けのLNG需要も高まる可能性がある。

中国政府はCO2排出抑制にかかる数値目標の設定に強い抵抗感があり、少なくとも京都議定書期限の2012年まではないと思われる。

都市ガス幹線パイプライン網の整備が急速に進み、人工ガス(石炭ガス)やLPGから天然ガスへの転換が進む場合、LNG需要も高まる可能性がある。

一定の進展が期待できるが家庭部門中心では需要への貢献度は小さい。

輸入パイプラインガス(PNG)供給が不足(中央アジア、ロシア、ミャンマー)した場合、輸入LNGの需要が高まる可能性がある。

輸入PNGの供給時期、供給量について不確定要素は残るが、ゼロということはないと思われる。

国産天然ガスの生産能力が低下、供給が不足した場合、輸入LNGの需要が高まる可能性がある。国内天然ガス田の地質難易度は増大しており、2015年の生産ピーク説もささやかれる。

投資が不足し、新規発見がなければあり得るが、政府の国内供給強化を求める政策の下、積極投資が続く可能性が高く、生産ピークは2015年ではないと思われる。

国際LNG価格の低位安定が続いた場合、輸入LNGの需要は高まる可能性がある。 価格の見通しは難しいが、世界のLNG価格と相対的に割安な中国の石炭価格との価格差が縮小する可能性は低い。

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アナリシス

6.結論

(1)日本のLNG調達への影響

 中国は日本や韓国に比べ、価格負担能力が弱く、アジア太平洋LNG市場において日本、韓国に次ぐ第3のプレーヤーにとどまると思われる。油価下落を機に国有石油企業各社が政府から受入基地建設の最終承認を得るため、売買契約締結に動く可能性は十分にあるが、中国のLNG輸入が世界のLNG市場に大きな混乱をもたらす可能性は差し当たり低いと思われる。 2020年の中国のLNG需要はReferenceケースが1,880万トン/年(254億m3)、Highケースで3,010万トン/年(407億m3)だが、Highケースでも世界のLNG貿易量(2007年)の2割弱にとどまる。2010年以降世界のLNG供給能力は増加する見込み(カタールの供給増米国の需要減退など)で、買い手市場に戻るとの見方もある。

― 太平洋LNG市場の需給逼迫は一段落か?!― 近年、先行するアジア市場ではLNG需給が逼迫しており、LNG調達に対する先行き不安感が高まっていた。LNG需給逼迫は半永久的に続き、その売買価格が原油等価に収

しゅう

斂れん

されるとの見方が強まっていた。 しかし、2008年上期に頂点に達したLNG売り手市場は、最近風向きが変わってきた気配がある。豪州東部クイーンズランド州のCBM-LNG案件の進展とともに、ここ数年来停滞していたGorgonなど豪州沖合のLNG案件が進展する見通しである。また、2008年から2011年にかけてカタールの大型LNG液化設備が次々と完成する。カタールのLNGは本来主に欧米向けだが、その半数程度が他市場に振り向けることが可能なflexible LNGカーゴと言われており、アジア太平洋市場のLNG市場の長期契約で充足しない部分はカタールの短期供給に

よって満たされる可能性があるとの見方がある(詳しくは「アジア太平洋LNGはどこへ向かうか」(本誌2008年11月)をご参照頂きたい)。 ちなみに、豪州のCBM-LNGについて、売買契約はこれからの運びになると思うが、CBM-LNGは総じて熱量が約9,000kcalと低く、日本が都市ガス事業で使うにはLPGを加え、熱量を調整しなければならず、コストアップにつながる。しかし、中国は元々同程度の熱量の国産ガスが主体で、都市ガスの熱量については各地でばらつきがあるようだが、総じて日本に比べ低い。したがって、中国の、特に国産ガス供給が主体の地域ではCBM-LNGを熱量調整せずに都市ガスに使うことが可能になるかもしれない。

(2)日本企業における事業機会の可能性

 輸出、技術提供、共同調達の3点が挙げられる。

① 輸出 日本の鉄鋼・エンジニアリング企業が強みを持つ配管素材(X80鋼管)、大型LNG船のディーゼル機関・蒸気タービン機関、ガスタービン、ガスエンジンなどの需要がある。中国でLNG船を建造している造船所は一カ所しかないので、LNG需要増大に伴い、大型LNG船の建造需要も生じる可能性がある。

② 技術提供 LNG分野に限ったことではないが、技術提供にかかる中国の日本への期待は高い。具体的にはLNG冷熱利用技術、小型LNG船(2万m3 以下)、LNG受入基地のFEED(基本設計)、EPC(設計、調達、建設)、都市ガ

⑤ 国産天然ガスの生産能力が低下、供給が不足した場合、輸入LNGの需要が高まる可能性がある。国内天然ガス田の地質難易度は増大しており、2015年の生産ピーク説もささやかれる。

 ← 投資が不足し、新規発見がなければあり得るが、政府の国内供給強化を求める政策の下、積極投資が続く可能性が高く、生産ピークは2015年ではないと思われる。

⑥ 国際LNG価格の低位安定が続いた場合、輸入LNGの需要は高まる可能性がある。

 ← 価格の見通しは難しいが、世界のLNG価格と相対的に割安な中国の石炭価格との価格差が縮小する可能性は低い。

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中国のLNG輸入トレンドをよむ ―日本への影響―

<注・解説>*1:BP Statistical Review of World Energy Outlook June 2008.*2:実際に使用可能な貯蔵量。*3: 1996年設立、上海市国有資産監督管理委員会が出資・管轄する国有企業、発電や都市ガスなど上海市のエネ

ルギー事業を独占的に行っており、傘下に上海燃気(ガス)などを有する。*4:2009年2月に事故があり、稼働開始は若干遅延する可能性がある。*5:前掲のBP統計と天然ガス消費・LNG輸入量の数値が異なるが、部門別消費を見るためそのまま使用する。*6:1万750kcal/Nm3

*7:約1万 kcal/m3(20℃)*8: 稼働率を80%、自家消費を7%とした場合、7製油所の精製処理能力約110万バレル/日に対し原油7万7,000

バレル/日(LNG換算で約310万トン/年)が消費される。

さいごに

 中国のLNG輸入については一般的に、中国内外の天然ガス(LNG)供給企業サイドに立った話が主として流布され、LNG需要の増加トレンドは増すばかりという、供給側にとって有利な情報に偏りがちであるように思われる。 中国のLNG需要はそれほど急速に伸びるのかと疑問を感じつつ、2007年以降のPetroChinaやCNOOCの調達契約の勢いに煽られ、やはり伸びるのかと自問自答をする日々が続いた。 しかし、今般の調査ではエイジアム研究所による綿密な資料・統計の分析の下、上述の結論を得るに至った。また、LNG供給企業の他、実際の消費者である地方政府、

都市ガス供給企業、同国のLNG事業に従事している企業の方の生の声を聞くことができたことは、非常に大きな収穫であった。この場を借りて、エイジアム研究所の張さん、佐川さん、酒井さんを筆頭にお世話になった皆様に御礼を申し上げたい。 結論で述べた日本企業における事業機会の可能性だが、言うは易

やす

く、行うは難しと承知してはいる。しかし筆者は、中国という、新しいばかりでなく、需要が右肩上がりのLNG需要家と一定の情報を共有し、信頼関係を醸成していくことは、アジア太平洋LNG市場の安定調達にもつながる意義深いことであると考えている。

ス事業の管理ノウハウなどについて需要があるようだ。 2008年11月に厦

ア モ イ

門で行われたLNG国際会議で、中国では今後小型LNG船による各都市間のLNG融通が盛んになるという発表があったことを付け加えておきたい。

③ 共同調達 中国側はLNG事業について自分たちは後発組であり、アジア太平洋市場における需要家サイド間で信頼関係を構築、日本のLNG輸入事業のノウハウを学びたいという思いがあるようだ。韓国とも協力に向け、交流している模様である。

日本企業における事業機会の可能性図36

出所:エイジアム研究所

・冷熱利用技術・小型 LNG船(2万m3程度以下)・LNG 受入基地設計、機器調達、 建設(EPC)・都市ガスの管理ノウハウ

・LNGの共同購入・タンカーの共同利用

・配管素材(X80)・大型 LNG船の主機や主要補機・ガスタービン、ガスエンジン・大型 LNG船の建造

輸出

技術提供

共同調達

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執筆者紹介

竹原 美佳(たけはら みか)東京都出身平成5年4月:石油公団(当時)入団  9年4月~13年1月:石油公団中国室  13年~16年2月:石油公団企画調査部(中国担当)  16年3月~現在:現職(中国ならびにサブサハラ担当)

家族は夫、娘とネコ2匹。今年も調査分析能力の向上と減量に努めたいと思っています。

*9:ナフサガスや製油所のオフガスも利用されている。*10:2007年には中国のLPG輸入の7割、約290万トンを輸入。*11:中国の行政区画区分である省、市、県の下の郷・鎮(村や町)における中小企業を指す。*12:拘束性のある数値ではなく、状況により変動。*13: 韓国大宇はミャンマー A-1、A-3鉱区でShwe、Shew Phyu、Myaガス田を発見しており、埋蔵量は4兆5,300

億~ 7兆7,400億立方フィートで、2010年以降600MMcfd(約60億m3/年)のガスを20 ~ 25年間生産可能とされている。

*14: China Huangqiu Contracting & Engineering Corp./HQCEC、旧化学工業部系エンジニアリング会社、2005 年にCNPCが吸収合併。