京の食文化ハンドブック Leaf mini 増刊号

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Page 1: 京の食文化ハンドブック Leaf mini 増刊号
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23

4 はじめに「京の食文化」が育まれた背景 5 はじめに「京の食文化」が持つ特質 6-7 暮らしが育む食文化 8-11 暮らしを支える食文化 12-15 暮らしを彩る食文化 16-19 もてなしの食文化 20 知ってる? 豆知識「だしの取り方」 21 知ってる? 豆知識「お箸の作法を知ろう」 22 「和食」ユネスコ無形文化遺産登録について 23 門川大作京都市長が案内する味力再発見 28-29 京都市交通便利帖 32-55 京の食の歳時記

京の食文化ハンドブック

目次

熊倉功夫静岡文化芸術大学学長/「和食」文化の保護・継承国民会議会長/京都をつなぐ無形文化遺産「京の食文化」審査会議長

京都には有職料理、精進料理、懐

石、会席料理、さらに、京都の日常

のおかず、いわゆるおばんざいまで、日

本料理のすべてのスタイルがあって、そ

の中に京都ならではの工夫が詰まって

います。長い歴史の中で培ってきた文

化があればこそ、京料理が日本一の地

位を得るに至りました。

そして、今回の京都市の取組みはもっ

と幅広く「京の食文化」。むしろ庶民

の日常の食に重点があり、京都市民す

べてがその担い手という点に特色があ

ります。今後、あらためて京の食文

化とは何か、次世代に継承する運動

が展開するのを期待しています。

「京の食文化」

 ─京都市民すべてがその担い手

※本誌に掲載されている情報は平成26年10月時点のものです。

発   行:京都をつなぐ無形文化遺産普及啓発実行委員会      (事務局:京都市文化市民局文化財保護課内 tel:075-366-1498)企画・監修:京都市文化市民局文化財保護課協   力:熊倉功夫(静岡文化芸術大学学長、「和食」文化の保護・継承国民会議会長)

(五十音順) 杉本節子(公益財団法人奈良屋記念杉本家保存会 常務理事兼事務局長)      園部平八(京都料理組合組合長)      村田吉弘(日本料理アカデミー理事長)      京都錦市場商店街振興組合      京都刃物組合      京都府菓子工業組合      京都府漬物協同組合      京都料理組合      伏見酒造組合      京都市産業観光局商工部伝統産業課      京都市産業観光局農林振興室農業振興整備課      京の食文化ミュージアム・あじわい館編   集:株式会社リーフ・パブリケーションズ企 画 協 力:京都市都市計画局歩くまち推進室 京都市交通局営業推進室

   平成26年度文化庁文化芸術振興費補助金   (文化遺産を活かした地域活性化事業)

Page 3: 京の食文化ハンドブック Leaf mini 増刊号

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寒暖差が大きく、四季の移ろいが

鮮やかな京都。良質の水と土に恵ま

れた周辺の農村からは新鮮な野菜が、

また琵琶湖と近海の魚介に加えて遠

く北海からも水産物が届き、豊かな

食文化が発達しました。

千年の都として栄えた京都では、

公家や武家、僧侶と関わる行事やし

きたりが日常の暮らしに溶け込んでい

ます。茶の湯や生け花の発展も、季

節感やおもてなしの心、本物へのこだわ

りとして、食文化に影響を与えました。

「京の食文化」が育まれた背景

自然やいのち、食に関わる人への感

謝を込めた「いただきます」「ごちそ

うさま」の言葉、食材を無駄なく使

う「始末」「もったいない」の精神を大

切にしてきました。また、季節感を楽

しみ、五感で味わうことを尊びます。

普段の食事は一汁三菜を基本に、野

菜や乾物、大豆加工品、漬物を組み合

わせた健康的なもの。食材の持ち味

を引き出す出汁がベースです。その中

で、五色、五味、五法を五感で愉しむ、

洗練された京料理が発達しました。

「京の食文化」が持つ特質

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67

京都の暮らしの中で育まれ

た食文化。暦や年中行事に

合わせてつくる「行事食」、

お食い初めや祝い膳など人生

の節目に作る「儀礼食」の

他に、商家では毎月何日に食

べるものを決めた「おきまり

料理」があります。

家庭で受け継がれるおかず

は、季節感を大切にしながら

食材をムダなく使う生活の知

恵であり、そこには無病息災

や家内安全の願いや食に関わ

る人々への感謝の気持ちが込

められています。

都として栄えた京都には、陶磁器、織物、木工品など伝統工芸の職人さんが多く、多忙な時でも手軽に食べられる食事として丼物が広まりました。

なすの田楽や菜っ葉とお揚げの炊いたんなど京都で受け継がれている日常的な家庭料理で、出汁を効かせた味付けと季節の食材を無駄なく使い切る調理方法が京都流。

「おばんざい」という言葉は、1964年に大村しげさんらが新聞のコラムで使いはじめ全国的に広まったもので、京都の家庭では「おかず」と呼ばれています。

暮らしが育む食文化

お揚げとネギを卵でとじた衣笠丼は京都独自のもの。宇多天皇が夏に雪景色が見たいと衣笠山に白絹を掛けた伝説から、その姿に見立てて名付けられたとか。

豊作を願う田楽舞の踊り手の格好が、豆腐を串に刺して味噌を塗って焼く料理に似ていたことから田楽豆腐と呼ばれたそう。

衣笠丼の名前の由来

田楽の名前の由来

暮らしが育む食文化

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京の台所である市場や商

店街には、食卓のおかずに欠

かせない旬の野菜や乾物、塩

干物が並びます。

乾物や豆腐、湯葉、生麩

などの加工品は禅宗の影響を

受けたもの。また、海から離

れていたため琵琶湖や近海の

魚、北海から運ばれた水産物

の調理に創意工夫を凝らして

独特の食文化を発展させてき

ました。出汁を基本とした白

味噌やうす口醤油の味付け

も素材の持ち味や色合いをい

かすための工夫。京の暮らし

を支える食文化となって息づ

いています。

暮らしを支える食文化

上から時計回りに小かぶ京せり壬生菜九条ねぎ金時にんじんえびいもさつまいもトマト

京都の台所として食文化を支えているのは、昭和2年(1927)、日本で最初に開設された「京都市中央卸売市場」や400年の歴史を持つ「錦市場」のほか、各地域の商店街。四季折々の旬の食材が並びます。

平安遷都に遡る京都の刃物の歴史。職人の技によって研ぎすまされ、京の食文化を支えています。切れ味や使い勝手など、一人一人の好みに仕上げるのが職人の腕の見せどころ。

暮らしを支える食文化

野菜の千切りはまっすぐ切り込む両刃、刺身や飾り切りは斜めに切り込む片刃が向いている。家庭では手入れが簡単で右・左利き関係なく使える両刃がおすすめ。

片刃と両刃

先端が円弧状になった菜切包丁。海の遠い京都では野菜を使うことが多いため、京都の料理人に特に人気が高い。

出刃包丁より刃が薄い場合が多く、アジのような小さい魚がさばきやすい。釣りに行く時などに携帯できる小型。

刃渡り18 〜 36cm程と細長く、魚の切り身を薄く仕上げられる。先端がゆるやかなカーブを描いているのが関西型。

鎌薄刃 鯵切包丁刺身包丁

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1011

それぞれの野菜の最も美味しくなる

季節が「旬」。現代では一年通して色々

な野菜が店頭に並びますが、京都の気

候風土に育まれた旬の野菜は味も栄養

価もバツグン。栽培に余分なエネルギー

を使わないので環境にもやさしいのです。

「京野菜」は京都で採れた野菜の総称ですが、その中でも、明治以前から栽培が続けられている40品目を「京の伝統野菜」と定めています(準ずるものを含む)。残念ながら絶滅してしまった品目もあるので、今味わえる野菜を大切に守っていきたいですね。

京野菜と伝統野菜の違いって?

嵯峨天皇の時代に中国から持ち込まれ、江戸期から栽培が盛んに。特に西京区大枝塚原地域のものは全国有数の品質を誇ります。

起源は不詳。古くは貞享元年(1684)の文献に記載があり、約100年前から上賀茂や西賀茂で栽培されています。大型で形は丸く、皮の柔らかさと締まった肉質が特徴です。

約240年前の安永年間、長崎から青蓮院宮が持ち帰った芋を宮家の菜園で栽培したところ、海老形の大きな芋になったのが始まり。

歴史は古く、奈良時代には深草で栽培が始まっていたそう。九条で栽培が広まったのは平安朝前期。寒さに強く、冬に甘さが増します。

京たけのこ

賀茂なす

えびいも

九条ねぎ

春夏秋冬の野菜京漬物は冷蔵庫のない時

代から野菜の保存を目的に

つくられていた保存食の代

表格。塩漬けや発酵によ

り旨みが生じ、独特の奥深

い味わいをもつ漬物は食卓

で愛され、昨今は贈答品と

しても親しまれています。

京都の伝統野菜の聖護院かぶらをかんなで薄くスライスし、下漬けをします。3~4日後、北海道昆布と醸造酢、砂糖でバランス良く漬け込む本漬けを経て完成。10月~翌年3月頃まで旬を味わえるのが醍醐味です。

京都特産のすぐきかぶらを伝統的な製法で乳酸発酵させた独特な酸味のある漬物。千枚漬と並ぶ冬の代表的な漬物です。

茄子を大原産のしその葉とともに塩漬けし乳酸発酵させた漬物。夏の食卓に映える京漬物の一品です。

その他にも… 最近は若い方にも好まれるサラダ感覚のうす味の漬物が人気となっています。

千枚漬

すぐき

しば漬

京都を代表する漬物

先般「和食」がユネスコ

無形文化遺産に登録されま

したことは、大変喜ばしい

ことです。

京漬物は食文化の象徴

とされますが、もとは旬の

野菜を塩蔵保存していたも

ので、家族の健康や食の満

足のために創意工夫が重ね

られてきました。実際に漬

物は乳酸菌を手軽に摂取で

き、炊きたての白いご飯を

より美味しく味わうことが

できます。

家族みんなで囲む食事の

時間は、心身ともに満たさ

れるひととき。共に味わう

幸せを大切に考えてまいり

ます。

京都府漬物協同組合理事長

㈱川勝總本家 代表取締役社長

川勝 康行

「つけものばなし」

しば漬

すぐき

千枚漬

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古くから茶どころ、酒どこ

ろとして名を馳せる京都。特

有の気候と良質な水、肥沃

な土壌に育まれてきたお茶

は、京都から全国に広まった

とされています。茶の湯の世

界と結びつきが深い和菓子

は、伝統行事や茶道の中で

季節感あふれる趣向が凝らさ

れ、洗練されてきました。

清酒も良質な地下水と匠

の創意工夫によって育まれた、

歴史ある食文化。これらは京

都の年中行事や生活文化と

ともに発展しながら食卓の彩

りとして親しまれています。

暮らしを彩る食文化

臨済宗の開祖・栄西禅師が宋から持ち帰った種を植えたのがお茶のルーツといわれます。栽培に適した気候と製茶の技術に優れた名産地に恵まれた京都には、茶の湯文化が発達しました。

暮らしを彩る食文化

番茶や煎茶、茎茶などを炒ったもの。香ばしい香りとすっきりした味わい。

茶葉を蒸して揉み乾燥させた一般的なお茶。蒸し時間が長い深蒸しの方が、コクが深くまろやか。

茶畑をよしずなどで覆い、直射日光が当たらないように育てられる。渋みが少なく、うま味豊か。

日が当たらないように育てた茶葉を蒸して揉まずに乾燥させた「てん茶」を石臼挽きしたもの。

京都で番茶といえば、ほうじ茶のこと。煮立たせて飲むのが定番で、強火で炒るために独特のスモーキーな香りがあります。カフェインが少ないのも特徴。

ほうじ茶煎 茶玉 露抹 茶

京番茶とは?

Page 8: 京の食文化ハンドブック Leaf mini 増刊号

1415

清酒造りに欠かせない良質の

伏流水に恵まれた伏見は、日

本を代表する酒どころ。平成

2年に復活を遂げた京都独自

の酒米「祝」で醸造した酒も

話題の逸品です。美味しい日

本酒は伝統の京焼・清水焼のお

猪口で飲めば、なお美味しい。

ぜひ、Myお猪口で乾杯を!

平成25年、京都市では全国に先駆けて、議員提案による「乾杯は日本酒で」とする条例を制定。平成26年11月29日には全国酒蔵が参加する『日本酒条例サミット』を開催!

餅もの、蒸しもの、焼きもの、揚げものなど製法によって分類される和菓子。練り切りや飴は練もの、水ようかんは流しもの、落雁などは打ちもの、できあがった素材を合わせた最中などは岡ものの類に分けられます。

全国初の乾杯条例、日本酒条例サミットの開催!

和菓子の分類

酒の種類(特定名称酒)

純米大吟醸酒

大吟醸酒

純米吟醸酒

吟醸酒

特別純米酒

特別本醸酒

純米酒

本醸造

精米歩合50%以下で醸造アルコールは添加しない。吟醸酒特有の香り豊かな日本酒の最高峰。

精米歩合50%以下。吟醸香を引き出すためなどの理由で醸造アルコールを添加したもの。

精米歩合60%以下で醸造アルコールは添加しない。吟醸酒特有の香りがある。

精米歩合60%以下。吟醸香を引き出すためなどの理由で醸造アルコールを添加したもの。

吟醸酒級の精米歩合60%以下で説明を表示したもの。または特別な製法のもの。醸造アルコールは添加しない。

吟醸酒級の精米歩合60%以下で説明を表示したもの。または特別な製法のもの。醸造アルコールを添加する。

米と米こうじで作られるもの、精米歩合は規定なし。醸造アルコールは添加しない。

精米歩合70%以下のもの。醸造アルコールを添加する。

柏は新芽が出るまで古い葉が落ちないことから、子孫繁栄や子の成長を願い、端午の節句の供物として用いられる。

旧暦10月の亥の月亥の日に食べられていた、生地に胡麻などを混ぜたもの。『源氏物語』にも登場する伝統の菓子。

味噌あんと砂糖で煮た牛ご ぼ う

蒡を、白餅で挟んだもの。別名「包み雑煮」。茶道の初釜にも使われるお正月の生菓子。

氷をかたどった三角の外ういろう

郎に小豆を散らした菓子。厄除けの行事「夏

なごしのはらえ

越祓」が行われる6月30日に食べる風習。

端午の節句(5月5日)【柏餅】

亥の月亥の日(11月1日)【亥の子餅】

正月【はなびら餅】

夏越の祓い(6月30日)【水無月】

■和菓子分類餅もの…………………餅・団子・大福など蒸しもの………………饅頭・蒸羊

よう

羹かん

・外うい

郎ろう

・村むら

雨さめ

など煉もの…………………煉

ねり

切きり

・こなし・求ぎゅうひ

肥・飴・葛くず

菓子など焼きもの………………味噌松風・煎

せん

餅べい

・桃もも

山やま

・カステラ・どら焼など流しもの………………錦

にしきだま

玉・煉ねり

羊よう

羹かん

・水みず

羊よう

羹かん

など揚げもの………………揚げ煎

せん

餅べい

・かりんとうなど打ちもの(押しもの)…… 落

らく

雁がん

など岡もの…………………最

も な か

中・きんとん・鹿か の こ

の子・すはまなどかけもの………………金

こん

平ぺい

糖とう

・五ごし き ま め

色豆・石いしごろも

衣など出典:農林水産省「和食 日本人の伝統的な食文化」冊子より

伏見酒造組合

理事長

㈱増田德兵衞商店

代表取締役

増田德兵衞

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有職料理、本膳料理、精進料理、懐石、川魚料理など、様々な伝統を受継ぐ京料理。洗練された盛り付けからは、技を極めた料理人の美意識を感じます。

五色、五味、五法、五感。味だけでなく、彩りや器、空間のしつらえまでを総合した京料理の奥深い世界を愉しみましょう。

もてなしの食文化

青、黄、赤、白、黒

甘味、酸味、塩味、苦味、うま味

切る、焼く、煮る、揚げる、蒸す

視覚、聴覚、臭覚、味覚、触覚

もてなしの心を大切にする京都では、素人の家庭料理では失礼として仕出しを利用しました。もし口に合わなくても、お互い気まずくないというウラの理由も。

五 色 ……

五 味 ……

五 法 ……

五 感 ……

京都で仕出しが発達したわけ

京料理を形成したといわれ

る有職料理、本膳料理、精

進料理に懐石、川魚料理。

これらはいずれも四季を確実

に表現する料理で、日本料

理のなかでもとくに京料理は

季節感を大切にします。分

かりやすいのは一つの食材を

「走り」「旬」「名残り」と時々

の味わいで楽しませてくれる

料理屋の献立。もてなしの

粋ともいえる、季節の味。

食材をいかす料理人の繊細

な技や器の趣向、そして季

節感と真心を込めたしつらえ

もまた、京のもてなしの食文

化を形成しています。

もてなしの食文化

大広間の床の間に若女将が活けたフジバカマとリンドウは、さりげなくも愛らしい。庭と高野川を背景とした空間づくりや素朴な茶花の表情が、訪れる客の心を和ませる。

Page 10: 京の食文化ハンドブック Leaf mini 増刊号

1819

料理人の技により四季が表現される京料理は、五感で楽しむ料理。

本膳料理、有職料理、懐石、精進料理、川魚料理の五大系統が融合し

て京料理に発展したといわれています。

茶事の席の虫養い(空腹しのぎ)の料理で、千利休が完成したといわれる。「懐石」は禅宗の温石に通じる文字。

明治より海の魚に代わる新鮮な素材として川魚が使われ、京都では昭和の中頃まで多くの川魚料理屋が見られた。

仏教で殺生を禁じる僧への布施として、野菜や豆類を工夫して調理した料理。鎌倉時代、禅とともにもたらされた。

室町時代、大名を接待するために発展したといわれる宴会料理。最も丁重な形式では、一~五の膳までが並ぶ。

寓中の節せ ち え

会で食された雅やかな料理。平安時代より伝統を守る老舗に生間流式包丁で有名な萬亀楼などがある。

懐 石

川魚料理精進料理

本膳料理 有職料理

京料理

ユネスコ無形文化遺産に「和食」

が登録される2ヵ月前、京都市の

「京都をつなぐ無形文化遺産」の第

一号に「京の食文化」が選定されま

した。

これからの食生活には「京の食

文化」の普及こそが一番大切ではな

いかと思います。家族全員で食卓

を囲み、朝ごはんを食べることは「一

家団らん」の復活につながると信じ

ています。若い親御さん方にも「朝

ごはん」「一汁三菜のおかず」を食べ

る習慣、家族全員で食べる習慣を

身につけていただきたいと思います。

一枚瓦の門や刀傷のある柱が歴

史を偲ばせる平八茶屋。打ち水さ

れた庭を通り、広間へ上がると高

野川が見渡せる開放的な眺望。

広間の床の間にはお祝いや法事な

どに応じた掛け軸が飾られる。少

人数用の小部屋は庭の奥にある離

れのような空間で、この小部屋か

らも四季折々の高野川を眺めるこ

とができる。

平八茶屋のしつらえは、庭と高

野川を借景としている。床の間に

飾られる花はさりげなく、茶道を

たしなむ女将と若女将が心を込め

て活ける茶花。スタッフも懐石に

通じる茶の湯に親しめるよう、定

期的に茶会を催しているという。

麦飯とろろでもてなしていた旅

籠の、客を迎え、送りだす温かな

心は今も息づいている。園

平八

京都料理組合組合長

山ばな平八茶屋当主

昭和23年、京都市左京区生まれ。昭和61年から料亭「平八茶屋」を継ぐ。平成21年に京都料理組合長に就任し、京料理の伝統を伝える活動に尽力。和食の普及にも積極的に活動している。

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2021

お箸の国、日本には先人の知恵と経験から生まれたお箸

の作法があります。美しく機能的な箸使いも未来に継承し

たい食文化のひとつ。

所作が美しいことは、マナーを守るというだけでなく、食

事をともにする人にとっても見ていて気持ちが良いものです。

目安の分量を知って、火加減

に注意すれば、家庭でもおいし

いだしがとれます。杉本先生に

聞いた、うまみを引き出す「だ

し」のレシピをご紹介! お吸

い物におすすめの、自然の旨み

が味わえるおだしです。

嫌い箸以外にもこんなマナー違反があります。気をつけてスマートにいただきたいものですね。

まだある!良くないマナー例

こんなお箸の使い方はマナー違反。食事の際は、タブーとされる「嫌い箸」に注意して、美味しく気持ちよくいただきましょう。

4人分(800cc) 昆布 ………………… 15gかつお節(薄けずり) … 15g水 …………………… 1ℓ※鍋は直径18~20㎝を使用。

遠くの食器をお箸で手前に引き寄せること。

昆布に爪が通るほど柔らかくなったらOK!※火傷に注意。

料理を迷い、お箸を料理の上で動かすこと。

鍋に水と昆布を入れて15~20分漬けた後、弱めの中火にかける。

お箸を食器の上に渡し置くこと。

沸騰させないよう、小さな気泡が出ている状態をキープ。約20分経ったら昆布を取り出します。

一度料理を取りかけてから他の料理にお箸をうつすこと。

キッチンペーパーを敷いたザルでこすと、おいしい「一番だし」の完成です。

お箸で人やものを指すこと。

火を強めて沸騰直前にかつお節を入れたら、すぐ火を止めて1分間待ちます。

■正しい使い方

嫌い箸①【寄せ箸】

嫌い箸③【迷い箸】

嫌い箸②【渡し箸】

嫌い箸④【移り箸】

嫌い箸⑤【指し箸】

嫌い箸とは?

昆布とかつおの  「一番だし」

a上側だけを動かす

b先を揃える

c箸は親指と人差指、中指の3本で軽く持つ

d親指は人差指の爪の横にあてる

e薬指の爪の横にあてる

f親指と人差指の間にはさみ固定

g1cmほどはみ出す

□料理の盛り付けを無視して、崩して食べる

□手のひらで受けながら食べたり、大皿から 直接食べる  (小皿を使いましょう)

□器を持たずに口を近づける

□ひじを付いて食べる

□平皿に口をつけてかきこむ

Page 12: 京の食文化ハンドブック Leaf mini 増刊号

23

門川大作 京都市長が案内する

あじわい

館Ajiwa

ikan

世 界 に 誇 る 「 京 の 食 文 化 」 を 体 感

DISCOVERY

KYOTOAjiwaikan

京都のさまざまな食文化を伝える展示とともに、プロに学ぶ料理教室・講演会などが楽しめる「京の食文化ミュージアム あじわい館」の魅力を探ってみよう!

ユネスコ無形文化遺産に「和食」

が登録されて以来、注目度が上

がっている「京の食文化」。JR丹

波口駅から徒歩約3分、日本で最

初に誕生し京都の食文化を支え

続けてきた京都市中央卸売市場

内にある「京の食文化ミュージアム

あじわい館」では、京の食文化を学

び、実際に体感できる場所として

食文化の展示や多くの料理教室・

イベントが実施されている。みて、

つくって、あじわって、家族で楽し

める、あじわい館に行ってみよう。

☎075・321・8680 京都市下京区中堂寺南町130番地京都青果センター3F JR丹波口駅より徒歩約3分京都リサーチパーク前バス停より徒歩約2分 8:30~17:00 水曜(祝日を除く)、及び年末年始(12月30日~1月4日)休館(祝日の場合は開館)入場無料http://www.kyo-ajiwaikan.com/

22

村田吉弘祇園の老舗料亭「菊乃井」主人。日本料理アカデミー理事長として「和食」のユネスコ無形文化遺産登録に尽力。ライフワークは、日本料理を正しく世界に発信すること。

上)平成25年12月に行われた「和食」ユネスコ無形文化遺産登録記念イベント下)お客様には「出汁」が振る舞われました

「和食」ユネスコ無形文化遺産登録について

我が国において、和食文化を先祖か

ら受継いだものとして見直す機運が

強くなる中、「京料理・会席料理」

の京都府無形文化財指定、外国人が

日本料理を働きながら学ぶことができ

る特例措置、和食の高等教育機関設

置の働きなど、京都はその先駆けに

なっています。世界においても和食は

ブーム。日本料理アカデミーでは『日

本料理大全』を手がけ、各国語に翻

訳して出版する計画があります。日

本人が思うより、世界でははるかに日

本料理の研究が進んでいるんですよ。

日本料理(和食)を

世界に広げることとは?

平成25年12月,日本

人の伝統的な食文化

である「和食」がユネスコ

無形文化遺産に登録されま

した。豊かな自然の恵みを

尊び素材の味わいを活かす

調理技術や、一汁三菜を

基本とする“うま味”を効か

せた動物性油脂の少ない健

康的な食生活は、世界的に

も注目を集めています。一方

で、現代ではこうした「和食」

の本来の姿が失われつつあ

ります。この登録を契機とし

て、「和食」のあり方を見

つめ直し、次世代へ継承す

る取り組みが大切です。

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▲ 31日 年越そば

京の食の歳時記

二十四節気 大雪(7日頃)冬至(22日頃)

今月の果物:柚子

行事食

おきまり料理

大雪

おきまり料理

おきまり料理

冬至

おきまり料理

大晦日・おきまり料理

二十四節気のひとつ、北半球では最も日が短い「冬至」。柚子湯に入り、かぼちゃを食べて無病息災を祈ります。冬至に「ん」のつく食品を食べると幸運が得られるという言い伝えがあります。また、冬至の七種は「ん」が2つつくもので「なんきん(かぼちゃ)」「にんじん」「れんこん」「ぎんなん」「きんかん」「かんてん」「うんどん(うどん)」でこれらを食べると病気にかからず、うどんは運(うん)・鈍(どん)・根(こん)に通じるので出世するといわれています。

冬至とかぼちゃの炊いたん

大晦日の風物詩である年越し蕎麦は、江戸時代頃から食べられるようになりました。金箔職人が飛び散った金箔を集めるのに蕎麦粉を使ったことから、年越し蕎麦を残すと翌年金運に恵まれないという言い伝えからこの風習が生まれたといわれています。また、そばは細くて長いことから、長寿を願う意味も込められています。江戸時代の京都の商家では、大晦日に焼いた塩いわしを食べる習慣がありました。現在、立春(旧正月元日)の前日の節分に塩いわしを食べる習慣が残されていますが、新年を迎える前日に、塩いわしを焼き、厄を封じるという意味があったのではないかといわれています。

年越そばと塩いわし

京の冬野菜の代表、聖護院大根。大きくて丸い形状ばかりが特徴ではありません。柔らかく煮えて、しかも煮崩れしにくい肉質が京都の人々に愛され続けてきた理由です。お揚げとの炊き合わせは、冬のおばんざいの定番です。大なべでぎょうさん炊いて、一晩、二晩と日を経るごとに味がしみて美味しくなります。大根、お揚げともにいつもより大ぶりに切ってたっぷりと食べたい冬の味です。

大根とお揚げの炊いたん

行 事 食

月12 おきまり料理

師走

1 日:小豆ごはん、にしんと昆布の煮付け、なます8 の付く日:あらめと油揚げの炊いたん15 日:小豆ごはん、棒だらとえび芋の煮しめ、なます月末:おから

22日頃

31日

かぼちゃの煮付け

年越そば

おきまり料理

季節のおかず

おきまり料理

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月10京の食の歳時記

二十四節気 寒露(8日頃)霜降(24日頃)

今月の野菜:マツタケ

行事食

神無月

おきまり料理・寒露

おきまり料理

おきまり料理

二十日えびす

時代祭

霜降

おきまり料理

おきまり料理

1 日:小豆ごはん、にしんと昆布の煮付け、なます8 の付く日:あらめと油揚げの炊いたん15 日:小豆ごはん、棒だらとえび芋の煮しめ、なます月末:おから

船場汁

おきまり料理

黒豆の薄皮から透ける鮮やかな緑色と海老の赤色を生かした彩りの良いかき揚げはいかがでしょう。黒豆は茹でてさやから取り出し、海老と共に天ぷら粉をつけて揚げます。茹ですぎると薄皮がむけてしまうので、少しかために茹であげると、揚げた時にちょうどよい火通りになります。枝豆をアツアツのかき揚げで食べるのは、茹で豆とはひと味違う美味しさです。

紫ずきんとえびのかき揚げ

行 事 食

おきまり料理

20日 ねぎとはんぺんのおつゆ

▲20日 ねぎとはんぺんのおつゆ

季節のおかず

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8月後半頃・地 蔵 盆

月8京の食の歳時記

二十四節気 立秋(8日頃)処暑(23日頃)

今月の野菜:なす

行事食

葉月

おきまり料理

おきまり料理・立秋

おきまり料理

五山送り火

お盆

おきまり料理

おきまり料理

処暑

おきまり料理

1 日:小豆ごはん、にしんと昆布の煮付け、なます8 の付く日:あらめと油揚げの炊いたん15 日:小豆ごはん、棒だらとえび芋の煮しめ、なます月末:おから

おきまり料理

「冬の瓜」と書きますが、夏が旬です。皮が硬いため、冬まで貯蔵できることからそう呼ばれるといわれます。やわらかく煮た冬瓜。冷やしていただくと美味しいです。下茹でしてから煮ると味の含みがよくなります。海老の他には、ひき肉をつかったそぼろあんもよく合います。

冬瓜の海老そぼろあん

行 事 食13日 ~16日

ささげとなすのごま和え、あらめ炊き、かぼちゃの煮物ずいきのなます、湯葉のつゆ

▲ 13日~16日 かぼちゃの煮物

お盆は、正式には「盂蘭盆会」といい、先祖や亡くなった人たちの成仏を願い、報恩や追善の供養をする期間のことです。一般には8月13日をお盆の入りとし、お盆明けは16日。京都のお盆といえば8月16日に行われる「五山送り火 」。送り火そのものは、迎えた精霊を再び送るという意味をもつ宗教的行事ですが、年中行事として定着したのは室町から江戸時代以後といわれています。東山如意ケ嶽の「大文字」、金閣寺大北山(大文字山)の「左大文字」、松ヶ崎西山(万灯籠山)・東山(大黒天 山 )の「 妙 法 」、西 賀 茂 船 山 の「船 形」、嵯 峨 鳥居 本曼 荼 羅 山の「鳥居形」の五山で送り火が灯されます。 精進料理は、植物性の材料で作る料理。精進とは、仏の教えで、肉類を避け、野菜・山菜・穀類などの粗食を修行の一つと考え、「殺生をせずに、心身を清める」という意味。先祖の精霊を迎えたお盆の期間中、精霊にお供えし、家族や集った者でいただきます。

京都のお盆 季節のおかず

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月6京の食の歳時記

二十四節気 芒種(6日頃)夏至(22日頃)

今月の果物:梅

行事食

水無月

おきまり料理

芒種

おきまり料理

おきまり料理

夏至

おきまり料理

おきまり料理

夏越の祓い・おきまり料理

1 日:小豆ごはん、にしんと昆布の煮付け、なます8 の付く日:あらめと油揚げの炊いたん15 日:小豆ごはん、棒だらとえび芋の煮しめ、なます月末:おから

6月30日は1年間の折り返しにあたる日。大祓は半年間の罪や穢れを払い、残り半年を無事に過ごせるようにと祈願する行事で、奈良時代から6月と12月の晦日の年に2回行われると定められていました。この日、京都の主な神社では大きな「茅の輪」が社頭に飾りつけられます。くぐると無病息災・悪厄退散になると伝えられています。スサノオノミコトに旅の宿を供して、難儀を救った蘇民将来がスサノオノミコトの教えに従って腰に茅の輪を下げたところ、子孫代々に至るまで災いなく栄えたと云う故事にちなみ茅の輪をくぐる神事となりました。

夏越の祓い

6月30日、京都では「水無月」を食べる習慣があります。宮中で、冬の間に氷室に保存しておいた氷を切り出し、口にして暑気を払う行事に由来するお菓子。白の外郎生地に小豆をのせて、三角形に切った京菓子で、水無月の上部にある小豆は悪魔払い、三角の形は暑気を払う氷を表しているといわれます。街中の餅屋、菓子屋では必ず「水無月」を売り、白・抹茶・黒砂糖など、生地の味にいくつかのバリエーションを作っている店もあります。

水無月

おきまり料理

ハレの年中行事、節句などとは違う非日常の行事というのが暮らしにはあるもので、半年に一度の大掃除「すすはらい」は、暮らしの歳時記ともいえる大切な行いのひとつ。この日の昼食には、『にしんの昆布巻き』がお決まりの料理でした。大掃除はおくどさんから出た煤を払わなければなりませんから、台所仕事もストップ。前日にはにしんの昆布巻きが炊かれました。作りおきの昆布巻きは、皿に盛るだけでさっと用意できます。ほどほどに味わいもこく、ごちそうの食材だったにしんが芯に巻かれたひと品は、掃除の労作業へのねぎらいの気持ちが込められているものでした。

にしんの昆布巻き

行 事 食30日 水無月

▲ 30日 水無月

季節のおかずなごし はら

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月5京の食の歳時記

二十四節気 立夏(6日頃)小満(21日頃)

今月の野菜:京うど

行事食

皐月

おきまり料理

端午の節句

立夏

おきまり料理

おきまり料理

小満

葵祭・おきまり料理

おきまり料理

おきまり料理

1 日:小豆ごはん、にしんと昆布の煮付け、なます8 の付く日:あらめと油揚げの炊いたん15 日:小豆ごはん、棒だらとえび芋の煮しめ、なます月末:おから

節句には、その行事についての謂れのある菓子を食べる楽しみもあります。平安時代に中国から端午の節句が伝来したときにちまきが伝えられ、全国に広がりました。江戸時代に五節句になってから、江戸では柏餅が主流となり、京都ではちまきが伝承したのです。当時の文献には、関東では柏餅、関西ではちまきを食べる傾向が幕末にほぼ定着していたことや、初節句にはちまきを、2年目からは新しい芽がでるまで古い葉を落とさないことから「家督が途絶えない」縁起物として「柏餅」を食べるならわしが生まれたと記されています。

ちまきと柏餅

葵祭り京都三大祭の一つ。平安京建都の百年以上も前から上賀茂、下鴨、両神社の祭礼として行われ『賀茂祭』と呼ばれます。平安朝の公家貴族の優雅な装束、美しく飾られた牛車、頭にカモアオイの花を挿して京都御所を出発、下鴨神社を経て、上賀茂神社へ向かう様子はまさに王朝絵巻そのものです。京都の中心部は海から遠く、かつては海産生鮮品の入手が困難でした。京都で親しまれたのは、若狭湾で水揚げされ、浜で塩を振られた鯖、甘鯛などで、木箱に収められ人足によって一晩かけて京都へ運ばれました。ひと塩ものの鯖は、京都の者には贅沢なごちそうの食材。ハレの日の寿司に欠かせない食材でした。竹皮で包んでぎっちりと押しをきかせ、一晩おいて味を馴染ませます。鯖寿司は家庭それぞれの味・好みがあり、台所をあずかる京女の腕のみせどころのひと品です。

おきまり料理

鯛のあらを兜に見立て「兜煮」と料理名にすることも。5月の端午の節句にも相応しいひと品です。旬のうどとの炊き合わせは、鯛のコクとうどのさわやかな香味が際立つ季節の出会いもの。うどは、大昔から日本原産の野菜として各地に自生していたと考えられています。京都では、江戸時代に現在の伏見区桃山の城下で、地元農家の工夫により在来種が栽培されるようになり、現在も伝統野菜のひとつとして栽培されています。うどの大木という例えは、うどは多年草ながら、2~3mの大きさに育ち、その頃には、食用にも木材にも適さなくなることから。「図体は大きいが中身が伴わず、役に立たないもの」に例えられるようになりました。

鯛のあらとうどの炊きあわせ

行 事 食5日 ちまきと柏餅

▲ 5日 柏餅

季節のおかず

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月2京の食の歳時記

行 事 食

二十四節気 立春(4日頃)雨水(19日頃)

今月の野菜:水菜

行事食

如月

おきまり料理

初午・立春

節分

おきまり料理

おきまり料理

雨水

おきまり料理

おきまり料理

(

おきまり料理)

1 日:小豆ごはん、にしんと昆布の煮付け、なます8 の付く日:あらめと油揚げの炊いたん15 日:小豆ごはん、棒だらとえび芋の煮しめ、なます月末:おから

節分のおきまり料理は、塩いわしと炒り豆。いわしの生臭い香りと焼く時の煙と熱い豆で、季節の変わり目に潜んでいる邪気(鬼)を追い払うという謂れがあります。

京都の旧家では、塩いわしは節分だけではなく、年の暮大晦日の夜にも食べるならわしを残す家もあります。いわしの頭に柊の枝を刺して玄関にかざす家もみられます。

節分・塩いわし

節分に巻き寿司を食べるならわしは、京都の旧家の記録にも残されていますが、恵方を向いて丸ごとかぶりつくという食べ方は、近年、全国的に広まったことのようです。旧家では、麦飯をそえました。

巻き寿司

初午 畑菜(水菜)の辛子和え

3日 塩いわし

初午祭は稲荷神の祭礼。初めての午の日に神が誕生したことが謂れ。京都の伏見稲荷大社が総本宮で毎年初午祭は大勢の人でにぎわいます。伏見稲荷の初午の参詣の折に、布袋神の伏見人形を買うことが楽しみとされていました。この布袋の人形を厄の年から毎年小さいものから大きいものへと順に7つ揃えるというもの。これをお竈戸さん(竈)の向こうの棚に並べることをならわしとする商家も多くありました。初午の日のおきまり料理は、水菜の辛子和え。畑菜を使う家もあります。辛子をつんと効かせるのは、きつねにだまされないように、との謂れから。

水菜の辛子和え

おきまり料理

▲ 3日 塩いわし

季節のおかず

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