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4-1-1 第1章 品質工学のチュートリアル 1.1 パラメータ設計による頑健性設計(パラメータ設計) これまで製品設計や製造工程を設計する場合,まず目標とする特性が得られる試作品を作り,さまざまな試 験を行って品質問題を抽出,その原因を分析,改善することで品質を作り込んできました. これは「作って直す」方式であり,やや設計の手直し等が多くなることがありますが,実験計画法は,この 原因分析の場面でよく活用されてきたものと考えられます. しかしながら,本来は設計を行う段階で,はじめから,使用条件のばらつきや劣化などのノイズを予測,ノ イズに強いロバスト(頑健)な設計を行う必要がありますが,パラメータ設計は,そのための実験的方法であ るということができます. 市場品質問題や試作段階の品質問題を未然防止あるいは開発効率を向上させるうえで有効です. パラメータ設計では,手法として実験計画法を利用しますが,言葉や手法は同一でも概念や取り扱い方が異 なる場合が多いと言われており,適用には注意が必要です.両者における用語や使用する手法の共通点と相違 点を参考文献「パラメータ設計・応答曲面法・ロバスト最適化」をもとに次の表のようにまとめました. 1.1 パラメータ設計による頑健性設計(パラメータ設計) 入出力がノイズに影響されない 出力を目標値に調整する ロバスト設計による設計での品質作り込み 頑健な設計 試 作 ミスの発見 手直し

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品質工学のチュートリアル

PART

第1章

第1章 品質工学のチュートリアル

1.1 パラメータ設計による頑健性設計(パラメータ設計) これまで製品設計や製造工程を設計する場合,まず目標とする特性が得られる試作品を作り,さまざまな試

験を行って品質問題を抽出,その原因を分析,改善することで品質を作り込んできました.

これは「作って直す」方式であり,やや設計の手直し等が多くなることがありますが,実験計画法は,この

原因分析の場面でよく活用されてきたものと考えられます.

しかしながら,本来は設計を行う段階で,はじめから,使用条件のばらつきや劣化などのノイズを予測,ノ

イズに強いロバスト(頑健)な設計を行う必要がありますが,パラメータ設計は,そのための実験的方法であ

るということができます.

市場品質問題や試作段階の品質問題を未然防止あるいは開発効率を向上させるうえで有効です.

パラメータ設計では,手法として実験計画法を利用しますが,言葉や手法は同一でも概念や取り扱い方が異

なる場合が多いと言われており,適用には注意が必要です.両者における用語や使用する手法の共通点と相違

点を参考文献「パラメータ設計・応答曲面法・ロバスト最適化」をもとに次の表のようにまとめました.

1.1 パラメータ設計による頑健性設計(パラメータ設計)

入出力がノイズに影響されない

出力を目標値に調整する

ロバスト設計による設計での品質作り込み

頑健な設計 試 作

ミスの発見 手直し

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参考文献:立林和夫(2006):「入門タグチメソッド」 日科技連出版社

山田,立林,吉野(2011):「パラメータ設計・応答曲面法・ロバスト最適化」 日科技連出版社

パラメータ設計 実験計画法

実験目的 出力のばらつきを変える設計パラメ

ータを見出し,そのパラメータの値を

ノイズの影響(ばらつき)が小さくな

るように設定する.

特性の値を変える要因を見出し,目標値

を満たすように,要因の値を設定する.

(特性の平均値を扱う)

使用する

実験計画

手法

2乗和の分解,直交表などの実験計画

手法を使用する.要因効果を見るの

に,因子の水準平均による要因効果図

を利用する.混合系直交表を用いるこ

とが多い.

要因配置実験や直交表実験,応答曲面法

などを利用する.要因効果図,分散分析

法,プーリング,推定値プロットなどを

用いる.

測定する

特性値

技術の入力と出力の関係.品質問題を

測るのはできるだけ避ける.

技術者が考える技術特性や,発生する品

質問題.

誤差の

考え方

ばらつきを発生させるノイズに着目

し,その影響を小さくしようとする.

要因効果の定量的な判定を乱すものが誤

差で,実験・解析することにより,要因

効果と誤差を分離する.

因子の

種類

因子はその性格から,信号因子,制御

因子,誤差因子に分類される.制御因

子は直交表にわりつけ,信号因子と誤

差因子は,ばらつきの評価条件として

使用する.

信号因子と誤差因子を取り上げると

ころに実験計画法との最大の違いが

ある.

特性値を変化させるものの中から,その

効果を実験で見ようとする因子を取り上

げる.因子間で交絡しないように,特に

技術的興味はないが,ブロック因子を取

り上げることもある.信号因子,制御因

子,誤差因子の分類はない.

因子間の

交互作用

の取り扱

制御因子間に交互作用があれば最適

化が困難となるため,意図的に無視

し,直交表には制御因子間の交互作用

はわりつけない.

制御因子と誤差因子との間の交互作

用,信号因子と誤差因子との間の交互

作用を興味の対象とし,それをSN比と

して算出する.

因子間の交互作用を含め,特性値を変え

る要因と考える.線点図などを利用して

直交表に交互作用をわりつけて,効果の

有無を定量的に判定する.

統計的

検定

ほとんど重視せず,行わない. 第1種の過誤を重視し,因子の効果の検

証する上で,統計的検定を用いる

パラメータ設計と実験計画法の共通点と相違点

1.1 パラメータ設計による頑健性設計(パラメータ設計)

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品質工学のチュートリアル

PART

第1章

問題設定

ランプによって上昇した温度を冷却する冷却システムを考えます.

この場合,ファンモータを回転させてランプを冷却するため,冷却システムの入力は,ファンモータの回転

数,出力はランプ位置の風速となりますが,ファンモータの回転数はモータの電圧に比例するため,実際には,

モータ電圧を入力と考えればよいです.

また,ノイズは排気ファンの正面に建物の壁がある場合とない場合を考えて,排気口に障害物のあり/なし

とします.信号因子とノイズの組み合わせは下表のようになりますが,制御因子をわりつける直交表の実験No.

ごとに,下表の6条件についてデータを採取することになります.

制御因子はエアの流れをスムーズにする8つの因子を考え,以下のような因子と水準をとることにしました.

第1水準は現行条件です.

直交表L18のわりつけ表にしたがい,18種類の設計条件での熱源位置の風速を測定します. 具体的には, 熱源

を取り去り, その位置に風速計を置いて測定した測定結果を使用します.次のページに測定結果を示します.

信号因子はモータ電圧は5,15,25Vの3水準としています.

信号因子(モータ電圧)

誤差因子

V1

5 V

V2

15 V

V3

25 V

N1 排気口に障害なし 条件1 条件3 条件5

N2 排気口に障害あり 条件2 条件4 条件6

パラメータ 第1水準 第2水準 第3水準

A 遮へい板 なし ▽ あり -

B 外装と吸気部の距離 20 ▽ 40 60

C 吸気部と熱源の距離 110 ▽ 60 40

D 開口部の高さ 30 ▽ 15 0

E 排気ダクトの高さ 30 ▽ 15 0

F 熱源上部の穴径 大 ▽ 中 なし

G 熱源下部の穴径 なし ▽ 中 大

H 熱源と排気ダクトの距離 60 ▽ 50 40

冷却システムの機能性の評価条件

温度上昇改善のパラメータと水準(▽は現行条件)

1.1 パラメータ設計による頑健性設計(パラメータ設計)

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以上の情報をもとに,動特性のパラメータ設計を用いて,冷却システムの頑健な設計条件を求めます.

参考文献:立林和夫(2006):「入門タグチメソッド」日科技連出版社

山田,立林,吉野(2011):「パラメータ設計・応答曲面法・ロバスト最適化」日科技連出版社

No.

1 2 3 4 5 6 7 8

A B C D E F G H

V1 (5V) V2 (15V) V3 (25V)

N1 N2 N1 N2 N1 N2

1

2

3

4

5

6

7

8

9

10

11

12

13

14

15

16

17

18

1 1 1 1 1 1 1 1

1 1 2 2 2 2 2 2

1 1 3 3 3 3 3 3

1 2 1 1 2 2 3 3

1 2 2 2 3 3 1 1

1 2 3 3 1 1 2 2

1 3 1 2 1 3 2 3

1 3 2 3 2 1 3 1

1 3 3 1 3 2 1 2

2 1 1 3 3 2 2 1

2 1 2 1 1 3 3 2

2 1 3 2 2 1 1 3

2 2 1 2 3 1 3 2

2 2 2 3 1 2 1 3

2 2 3 1 2 3 2 1

2 3 1 3 2 3 1 2

2 3 2 1 3 1 2 3

2 3 3 2 1 2 3 1

0.12 0.09

0.18 0.15

0.36 0.31

0.25 0.22

0.24 0.19

0.23 0.20

0.13 0.08

0.23 0.19

0.24 0.19

0.26 0.17

0.06 0.04

0.36 0.34

0.21 0.12

0.31 0.30

0.10 0.04

0.28 0.23

0.27 0.23

0.28 0.19

0.31 0.26

0.28 0.23

1.20 0.96

0.77 0.66

0.84 0.73

0.79 0.67

0.14 0.34

0.57 0.26

0.86 0.68

0.86 0.67

0.23 0.28

1.14 1.04

0.77 0.60

1.12 0.93

0.33 0.24

1.10 0.82

0.83 0.72

0.76 0.57

0.44 0.41

0.44 0.32

1.56 1.46

1.24 1.20

1.26 1.08

1.24 1.02

0.30 0.56

0.91 0.56

1.32 1.12

1.30 0.98

0.37 0.27

1.70 1.58

1.18 1.04

1.66 1.42

0.56 0.47

1.66 1.24

1.30 1.08

1.06 0.71

風速の実験データ

1.1 パラメータ設計による頑健性設計(パラメータ設計)

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品質工学のチュートリアル

PART

第1章

関連手法の説明(概要)

パラメータ設計を現場で活用する上で,いくつかの基本的な考え方や用語があるので,ここでは実験計画法

については理解しているという前提で,参考文献をもとに,主なものを取り上げます.

① パラメータ設計におけるものの見方を表すエンジニア-ド・システム

パラメータ設計では,技術や製品,部品,製造設備などを下図のエンジニアード・システムとよばれる

「物の見方」でとらえることが多いようです.ここには,出力特性,入力信号,設計パラメータ,ノイズ

という4要素があります.そして,技術側で制御できる設計パラメータと,制御できないノイズを区別し

て認識することができます.

このためパラメータ設計の実験では,設計パラメータのことを制御できる因子という意味で制御因子と

よび,ノイズのことを誤差を生み出す因子という意味で誤差因子とよんでいいます.

パラメータ設計でばらつき問題が解決するための視覚的イメージは下図の通りです.

② 動特性とSN比

入力の値の変化に応じて出力の値が変わる(動く)ものを動特性と呼び,入出力をもつシステムのノイズに

対する強さを表す尺度を動特性のSN比とよんでいます.製品,それに使用する技術,あるいは製造工程のほと

んどは,入出力をもつ動特性であるといわれています.

エンジニアード・システム (パラメータ設計での物の見方)

システム (x1, x2, ・・・ ,xn)

入力信号M 出力特性 y

ノイズz1, z2, ・・・, zk y : システムの機能を表す出力

M : 出力を変えるための入力信号

x1,x2,・・・,xn : 設計パラメータ

z1,z2,・・・,zk : システムの機能を乱すノイズ

1.1 パラメータ設計による頑健性設計(パラメータ設計)

パラメータ設計の効果

[ノイズの影響に弱いシステム]

ノイズの影響が最小とする

内部パラメータを設定

理想関係

入力信号

[ノイズの影響に強いシステム]

理想関係

入力信号

パラメータ設計

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③ 動特性の関係から見た理想状態

入力と出力が明確になりましたら,入出力の間の理想関係(線形,非線形関係)を検討しますが,ノイズの

影響のイメージは下図でつかむことができます.

y = βM y = α+βM y-y0 = β( M-M0 )

-ポイント- ○:ノイズがない場合の原理的な関係 ●:ノイズの影響がある場合の関係

④ 動特性のSN比

パラメータ設計では,入出力のロバストネスを動特性のSN比によって定量化(数値化)し,それを評価しま

す.このとき,システムにどんな理想機能を求めるかによって,システムのロバストネス(頑強性)を定量化

するSN比の計算式が変わります.一般的には,この動特性のSN比を大きくすることで,入出力関係を理想に近

づけることができます.

動特性のSN比,感度にはいくつかの種類がありますが,典型的なものでは式(3.1),式(3.2)で求めます.

SN比と感度をデータ解析するときには,対数をとり,以下のデシベル値とすることが多いようです.

⑤ パラメータ設計で使用する混合形直交表

パラメータ設計では,制御因子(設計パラメータ)を直交表にわりつけますが,このとき,制御因子間の交

互作用は取り上げないという点も特徴の1つです.

動特性の感度S(デシベル)= log10 β2

動特性のSN比η(デシベル)= log10 β2

σ2(3.3)

(3.4)

動特性の感度 = β2

(3.1)

(3.2)

動特性のSN比 = β2

σ2

いろいろな理想関係とノイズの影響

1.1 パラメータ設計による頑健性設計(パラメータ設計)

入力M

y

○ 原理上, 原点を通る

● ノイズが入出力の傾きを変

える

y

○ 原理上, 原点を通らない

● ノイズが入出力を平行移動さ

せる

y

○ 原理上, 原点を通らない

● ノイズが入出力の傾きを変

える

入力M

N1

N2

α

α

N1

N2

N1

N2

ノイズの 影響

ノイズの 影響

ノイズの 影響

y0

M0 入力M

(a) ゼロ点比例式 (b) 1次式 (c) 基準点比例式

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品質工学のチュートリアル

PART

第1章

このため,パラメータ設計では,L8,L16,L32などの 2水準直交表や,L9,L27などの 3 水準直交表では

なく,L18,L36,L54 などの混合系直交表を使用することが多いようです.混合系直交表とは,1 つの直交表

の中に異なる水準の列をもち,直交表の大きさ(行の数)が複数の素数の倍数となっているものをいいます.

混合系の直交表は,2 列間の交互作用が他の各列にばらまかれ,交互作用を見ようとしても見ることができ

ない性質をもっています.制御因子間に交互作用があれば,最適水準が選択しにくいばかりか,不安定な設計

となるので,パラメータ設計では交互作用を追及させないためにも,このような混合系直交表を使用しますが,

実験規模の面から,一般には直交表L18を使用することが多いようです.

⑥ 2段階設計による最適化

パラメータ設計では,制御因子の最適化は次の2段階設計によって行います.

[第1段階の最適化]ロバストネスの最大化

ノイズの影響が最小となるように制御因子の値を設定します.

[第2段階の最適化]目標値へのチューニング

ばらつきは変えずに傾きや平均値のみを変えるパラメータを使用し,目標値にチューニングします.

2段階設計の方法をとることによって,ロバストネスを損なうことなく目標値を満たすことができ,設

計の手直しの必要が少なくなります.

ここで,2段階設計では,SN比と感度に対して効果の大きな制御因子を使用して最適化を行います.タ

グチメソッドのパラメータ設計では,効果の大きい因子を目視で判断し,一般の実験計画法のように分散

分析で有意な因子を抽出することはしません.

本事例の解析ストーリー

使用するStatWorksの主な機能

① 実験の計画とデータの取得

② パラメータ設定(実験条件の構築)と実験データの指定

③ 解析データの入出力図と計算過程

④ 制御因子の効果(SN比,感度,推定値)

⑤ 結果の考察

得 ②実験の計画とデータ取

データの指定

③パラメータ設定と実験

と計算過程

④解析データの入出力図

解析目的の明確化

問題の設定

実験計画

解析目的が達成されたか.

⑥結果の考察

対策の検討

比,感度,推定値)

⑤制御因子の効果(SN

実験の解析

1.1 パラメータ設計による頑健性設計(パラメータ設計)

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1.1.1 解析

手順1 サンプルデータを読み込みま

す.

L18直交表を用いて実験No.1~

18 に対して信号因子×ノイズの

6条件(M1N2~M3N2)において得

られた風速データ表が表示され

ます.

データの大きさは 18×6 です

が,第1列目には実験No.がある

ので,18行×7列となっています.

手順2 メニューから「手法選択」-「品質工学」

-「パラメータ設計」を選択します.

「パラメータ設計の設定」画面が表示されますので,下記の条件を設定します.問題の設定(実験条件)と

照らして,全てデフォルトでよいのでそのまま[OK]ボタンをクリックします.

内側計画表の種類の選択 デフォルト:L18

誤差因子のわりつけ デフォルト:2水準

SN比・感度

特性の種類

デフォルト:ゼロ点比例式

SN比の種類とオプション デフォルト: 田口のSN比,オプションなし

(定義式を見ながら選択します.)

信号因子の水準数と実験による違い デフォルト:3水準で水準値は全て等しい.

1.1 パラメータ設計による頑健性設計(パラメータ設計)

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品質工学のチュートリアル

PART

第1章

次に,「信号因子の水準値」

ダイアログが表示されますので.

信号因子の水準値(特性値)を

入力します.モータ電圧の5,15,

25Vの数値を入力し,[OK]

ボタンをクリックします.

なお,SN比や感度のグラフ

で,大きさの傾向を見るだけな

らばデフォルトのまま[OK]

ボタンをクリックしてもよいです.

「解析データ」タブでは,まず,実験データを入力する必要があります.

L18直交表右側の領域(データ入力セル)にデータが入っていません.

データ表の入力は,以下の3つの方法から1つを選ぶことができます.

① セル上に実験で得られたデータを直接入力する ② すでにStatWorks上のワークシートに保存されたデータを変換する ③ Excelなどに既に入力されているデータ表をコピー&ペーストする

1.1 パラメータ設計による頑健性設計(パラメータ設計)

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ここでは,ワークシート上に

あるデータ表(実際は変数)を

指定しデータ入力します.

「変数指定」ボタンをクリッ

クして,該当するデータ表の変

数を指定します. 該当する変数(信号因子×誤差因子

の6変数分)を指定して,特性値の「選

択」ボタンをクリックします. 「次へ進む」ボタンをクリックしま

す. 表にデータが設定されます. なお,制御因子名と水準値,

誤差因子名と水準値,信号因子

名と水準値等は記号(信号因子

の水準値は入力済み)となって

おり,解析データ内の該当する

タブ上で入力することもでき

ますが,ここでは入力は省略し

ます.

1.1 パラメータ設計による頑健性設計(パラメータ設計)

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品質工学のチュートリアル

PART

第1章

手順3 入出力図を表示するには「入

出力図」タブをクリックします. 入出力図では,実験No.ごとに,

2種類のノイズ(排気口に壁が

ある場合N2 とない場合N1)に

よる影響を入出力特性図で表し

ています.入力信号のモータ電

圧Vをあげたときに,エアの漏

れや渦流などが発生し,排気口

の風速が比例しなくなるという

ような各パラメータの影響を見

ること,あるいは,排気口に壁

がある場合とない場合とで,こ

のノイズの影響を傾きの差とし

て見ることができます.

「計算過程」タブをクリック

すると,様々な計算過程の値を

確認できます.

1.1 パラメータ設計による頑健性設計(パラメータ設計)

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手順4 [効果・推定]タブをクリック

します.

制御因子をわりつけた直交表の

各実験No.ごとにSN比(デシベル)

と感度(デシベル)を求め,水準

平均を求めた結果を要因効果図と

してグラフ化します,上段がSN比,

下段が感度のグラフです.

SN 比に対して効果が大きいもの

が入出力関係のノイズに対する強

さをかえるパラメータであり,感

度に対して効果が大きいものが,

入出力の傾きをかえるパラメータ

ということになります.

最適条件はSN比を優先させ,各因子でSN比を高くする水準は,A2B2C3D1E3F1G1H3である.感度のグラフか

らはA2,B2,C3,D3,E3,F2,G1,H3の水準値がよい.

ここで,SN比と感度で最適水準値が相反するのは因子Dであり,このDについては,感度の高くなるD3に

すると直線性が悪くなり,ノイズに対して弱くなるのでD1を選択する.

画面の上位には,グラフ上で○印のある要因と水準を指定してもとめた最適条件および現行条件,利得につ

いてのSN比,感度の推定値が表示される.

必要に応じて因子水準をクリックすると,その場で推定値を計算し表示します.

手順5 田口玄一氏は「実験した制御因子のうち,半

分の因子を効果があるとし,半分の因子を効果

がないとする」と述べています.それにしたが

うならば,画面上側の「推定使用」ボタンをク

リックし,[条件指定]ダイアログで「効果が

大きい約半分の要因」を選択し,[OK]ボタ

ンをクリックすると,●印の因子を用いて推定

することができます.

1.1 パラメータ設計による頑健性設計(パラメータ設計)

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品質工学のチュートリアル

PART

第1章

まとめ

[推定値・利得]をクリック

します.

その結果,SN比の最適条件は

A2B2C3D1E3F1G1H3で SN 比 2.232,

感度-23.694 と推定されまし

た.

また.現行条件についてはSN

比が-4.188,感度が-32.415,利

得は SN 比が 6.420,感度が

8.721と推定されました.

なお,得られた設計パラメータ条件,推定値の妥当性をチェックするためには,最適条件あるいは現行

条件でSN比,感度の再現性について確認実験を行い検証することが推奨されます.

確認実験を通じて再現性をチェックし,その結果,再現性が極端に低い場合には,入出力特性の選び方,

交互作用効果の有無,その他の要因の有無など調査,原因を考察する必要があります.

1.1 パラメータ設計による頑健性設計(パラメータ設計)

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4-2-1

MTシステムのチュートリアル

PART

第2章

第2章 MTシステムのチュートリアル

2.1 用紙走行性に影響を与える用紙特性の検討(MT法) 本チュートリアルは『【実践】タグチメソッド』,日科技連出版社,渡部義晴編著,桜井良著,2007,第7

章「用紙走行性に影響を与える用紙特性のMTシステムによる検討」をもとに,本マニュアル用に手を加えて作

成しています.

問題設定

複写機やプリンターの媒体として,市場ではさまざまな用紙が使用されています.J社で用紙の走行性につい

てテストしたところ,いくつかの用紙でトラブルが発生しました.そこでMTシステムを使って,用紙の特性と

走行性のトラブルとの関係を解析することにしました.

まず,室温18℃,湿度55%RHの標準的な使用環境のもとで,ほとんど設計意図どおりに走行した137銘柄をも

とに単位空間を作ります.また,走行テストでしばしばトラブルが発生した35銘柄は単位空間に属さない評価

データとしました.さらに,今後,中国市場で新しく発売される3銘柄について,適合性を予測することにしま

した.

なお,用紙物性や送りロールとの相性などを表す用紙特性は,主成分分析を用いて,機械的特性,電気的特

性,化学的特性,環境依存特性などの重要な11特性に予め絞り込んでおきます.下表のy1,y2,…,y11は11

特性の値を変数変換した値です.

単位空間に属する用紙の特性リスト

用紙銘柄 機械的特性 電気的特性 化学的特性 環境

依存

特性

y1 y2 y3 y4 y5 y6 y7 y8 y9 y10 y11

base-paper1 118.6 87.8 19.14 0.95 3.52 2.22 11.00 1.27 8792 6.35 3.78

base-paper2 99.3 124.6 23.92 1.24 0.83 -10.24 10.91 1.43 5392 7.34 5.95

… … … … … … … … … … … …

base-paper135 166.7 150.1 25.48 1.70 3.45 -2.65 11.19 1.23 8335 10.23 4.44

2.1 用紙走行性に影響を与える用紙特性の検討(MT法)

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4-2-2

関連手法の説明(概要)

①MT法とは MT法は,マハラノビスの距離に基づいて,正常/異常の判定を行うことが主要な分析の目的です.

正常な集団のことを「単位空間」と呼び,判断基準として利用します.そして判断対象サンプルを単位空間

からの離れ具合によって定量的に判断します.

MT法のメリットとして以下のようなものがあります;

1)正常/異常の判定ができる

変数間の相関関係を考慮したマハラノビスの距離を用いるため,単位空間からの逸脱を敏感に捉えること

ができます.

2)原因分析に使える

2 水準系の直交表を利用して,各変数を使用した場合と使用しない場合とのマハラノビスの距離の違いを

推定し,逸脱,すなわち異常の主原因を特定できます.

3)数値化しにくいものに対する尺度を構成できる

MT法で使うマハラノビスの距離は,見た目の違いや波形の違いなどの,1つの数値では表しにくいものに

対する尺度として使えます.

解析手法「MT法」の標準的な分析手順は以下のようになります.

手順1パターンを表現する項目(変数)と,分析の目的によって単位空間を決定し,データを収集します.

<例>

分析の目的:「プリンター用紙の特性と用紙走行トラブルの関係を明らかにする」

項目(変数):用紙厚さ,用紙密度,…

単位空間データ:不具合が生じない用紙のデータ

手順2単位空間データのマハラノビスの距離を計算する.

手順 3(単位空間に属さない)評価データのマハラノビスの距離を計算し,正しく単位空間と識別できている

かを確認する.

手順4直交表を用いて,判定に用いる項目(変数)を選択する.

手順5正常/異常が未知のデータのマハラノビスの距離を計算し,正常/異常を判定する.

手順6さらに必要であれば,異常と判定されたデータに対して,異常の原因となった項目を分析する.

マハラノビスの距離

単位空間

異常データ(マハラノビスの距

離が大きい)

正常データ(マハラノビス

の距離が小さい)

2.1 用紙走行性に影響を与える用紙特性の検討(MT法)

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4-2-3

MTシステムのチュートリアル

PART

第2章

本事例の解析ストーリー

使用するStatWorksの主な機能

① 単位空間の決定

データ入力(「単位空間」-「単位データ」)

モニタリングとマハラノビスの距離の確認(「単位空間」-「グラフ」等)

② 評価

データ入力(「評価」-「信号データ」)

マハラノビスの距離の確認(「評価」-「グラフ」等)

③ 項目選択(「項目選択」-「項目選択」)

④ 項目選択後のマハラノビスの距離の確認(「評価」-「グラフ」等)

⑤ 未知データの判定

データ入力(「判定」-「判定データ」)

判定(「判定」-「判定結果」)

⑥ 原因分析

データ入力(「原因分析」-「分析データ」)

原因分析(「原因分析」-「要因効果図」等)

マハラノビスの距離の確認

②評価データを使った

③項目選択

収集

単位空間の決定とデータ

①問題の設定

⑦結果の考察

⑤未知データの判定

距離の確認

を使ったマハラノビスの

④項目選択後の評価データ

⑥原因分析

2.1 用紙走行性に影響を与える用紙特性の検討(MT法)

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4-2-4

2.1.1 解析

手順1 サンプルデータを読み込みま

す.

単位空間に属する 137 サンプ

ルと単位空間に属さない評価デ

ータの35サンプル,新銘柄3サ

ンプルの,全 175 サンプルのデ

ータが表示されます.ここで,

各サンプルについて用紙特性 11

項目の値が取られています.13

列目はデータのカテゴリー(単

位空間データ A,評価データ B,

未知データC)となります.

手順2 メニューから「手法選択」-「品質工学」-「MT

法」を選択します.

手順3 まず,「単位空間」グループの「単位データ」

タブが表示されます. ここで,ワークシート上にあるデータ表(変数)

を指定します. 「変数指定」ボタンをクリックして,使用する変

数を指定します.

特性値として用紙特性の11変数を指定し,「特

性値」の「選択」ボタンをクリックします.次に

質的変数の「カテゴリー」をクリックして,「カ

テゴリー」の「選択」ボタンを押します. 指定が終わったら「次へ進む」ボタンをクリッ

クします.

2.1 用紙走行性に影響を与える用紙特性の検討(MT法)

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4-2-5

MTシステムのチュートリアル

PART

第2章

カテゴリー「単位空間A」を指定して「実行」ボタンを

クリックします. 単位空間に属する137サンプルのデータが画面

に読み込まれます.

手順4 次に,「変数情報」

タブや「モニタリング」

タブで,単位空間デー

タの特徴を把握します.

変数の最大値・最小

値を見て,外れ値がな

いかどうかを見ます.

また「ひずみ」「とが

り」の値やヒストグラ

ムの形状により,単位

空間のデータが正規分布に従っているかどうか,変数変換をする必要性がないかどうかを確認します.(多く

の場合,「ひずみ」や「とがり」の絶対値が1.5以上の時に,正規分布から大きく外れていると見なします)

本事例では,特に外れ値はなく正規性も問題なさそうです.

手順5 「相関係数行

列」タブでは11項

目の相関を確認し

ます.相関の絶対

値が 0.8 以上のも

のや 0.9 以上のも

のが初期表示で着

色されます.

本事例では,相関係数が0.8や0.9を超えるものがあり,多重共線性に注意が必要です.

他画面に移ると,多重共線性(相関係数行列の固有値の最小値が0.1未満となる)の注意のメッセージが出

ますが,ここでは固有技術的な判断から問題ないものとして,解析を進めます.

2.1 用紙走行性に影響を与える用紙特性の検討(MT法)

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手順6 「グラフ」タブでは,単位空間データの

マハラノビスの距離の度数分布を確認で

きます.

ここで,マハラノビスの距離が大きいデ

ータがあれば,単位空間から外すことを検

討します(単位空間から外す距離は 4.0

以上を目安にすることがあります).

本事例では特に単位空間から外すデー

タはありません.

手順7 「評価」グループに移ります.ここで

は,単位空間に属さない評価データのマ

ハラノビスの距離を計算し,それからが

大きく,単位空間データと正しく識別が

できているかどうかを確認します.

手順3と同様に,「変数指定」ボタンをクリックして,

量的変数の11項目と質的変数の「カテゴリー」を指定し

ます.カテゴリーの指定では「評価データ B」を指定し

て「実行」ボタンを押します.

単位空間に属さない 35 サンプ

ルのデータが画面に読み込まれ

ます.

2.1 用紙走行性に影響を与える用紙特性の検討(MT法)

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4-2-7

MTシステムのチュートリアル

PART

第2章

「基本統計量」や「モニ

タリング」タブでは,単位

空間に属さないデータの

特徴を把握することがで

きます.

手順8 「グラフ」タブでは,単位空間デー

タと評価データのマハラノビス距離

を並べて比較することができます.

評価データのマハラノビスの距離

は2.099~14.835であり,いずれも2

以上で大きく,単位空間と識別できて

いることが分かります.

手順9 「判別表」タブでは,

マハラノビスの距離

を使って,単位空間デ

ータと評価データの

正常と判定されたサ

ンプルの数と,異常と

判定されたサンプル

の数を確認できます.

本事例では,評価データのうち5個のサンプルが正常,30個のサンプルが異常と判定されています.

2.1 用紙走行性に影響を与える用紙特性の検討(MT法)

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4-2-8

手順 10 「項目選択」グループに移ります.

「項目選択」では,どのような項目

がマハラノビスの距離に影響を与え

ているのかを吟味します.具体的に

は,Paley の 2 水準系の直交表を使

って,各変数を使用した場合(第 1

水準)と使用しない場合(第2水準)

のマハラノビスの距離の差を求めま

す.

ここでは,項目数の11の2倍以上

の列数を持つL44 を用いて解析を行

います.

「要因効果図」タブで,マハラノ

ビスの距離の利得(=第1水準を使用

した場合のマハラノビスの距離-第2

水準を使用した場合のマハラノビス

の距離)を確認します.

手順 11 「項目選択」タブでは,マハ

ラノビスの距離の利得をもとに,

どのような項目が判定に影響を

与えるかを確認します.

本事例では,特に項目1,8(y1,

y8)の利得やF比が小さいこと

から,項目1,8は単位空間と単

位空間以外を識別する能力が低

いと考えます.

項目1の利得が小さい理由は,他の項目との相関が高いため,他の項目で項目1の分を含めてマハラノビス

の距離の長短を説明していると考えられるからです.項目8も同様です.

以上より,項目1,8は判定から外

します.項目1(y1)と項目8(y8)

の行をクリックして,「不使用(判

定に使用しない)」に設定します.

2.1 用紙走行性に影響を与える用紙特性の検討(MT法)

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4-2-9

MTシステムのチュートリアル

PART

第2章

手順 12 項目選択後のマハラノビス距離がど

う変わったかを確認します.「評価」グ

ループの「マハラノビス距離」タブに戻

ると,全変数を使用した時と項目選択後

のマハラノビスの距離が並べて表示さ

れます.

項目選択後のマハラノビスの距離が

大きく,単位空間ときちんと識別ができ

ていることを確認します.

手順 13 次に「判定」グループに移ります.

正常/異常が未知であるchina-paperの

3 銘柄について,正常/異常の判定を行

います.

手順 3 と同様に「変数指定」ボタン

を押して,「未知データC」のデータを

読み込みます.

手順 14 「判定結果」タブに移ると,

これらの未知データについ

て正常/異常を判定した結果

が表示されます.

china-paper1 は距離が 1

以内なので,走行トラブルは

起こしにくいと考えられます.一方,china-paper2 は「正常」と判定されていますが,距離が1~4.5 の間の

ため,念のためテストを行います.china-paper3は距離が4.5以上となっており,市場でトラブルを起こしや

すいと考え,テストせずにその情報を営業にフィードバックすることにしました.

2.1 用紙走行性に影響を与える用紙特性の検討(MT法)

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4-2-10

手順 15 最後に,手順14でマハラノビスの距

離が大きかった china-paper2 と

china-paper3 について,原因分析を行

ってみます.「原因分析」グループに

移り,手順13と同様に,「変数指定」

ボタンを押して,未知データを読み込

みます.

一旦,3個のデータが読み込まれます

が,china-paper1は対象としないため,

china-paper1 の行をクリックして「行

削除」ボタンを押します.

手順 16 「要因効果図」タブでは,china-paper2

とchina-paper3について,マハラノビス

の距離の利得(第1 水準を使用した場合

のマハラノビスの距離から第2 水準を使

用した場合のマハラノビスの距離を引い

た差)を示します.

これを見るとchina-paper2では項目5

の利得が正の方向で若干大きくなってい

ることが読み取れます.また,

china-paper3では項目6の利得が正の方

向でかなり大きく,影響を与えていそう

です.すなわち,これらの項目の影響で,

china-paper2 と china-paper3 のマハラ

ノビスの距離が大きくなっていることが

分かりました.

まとめ

・単位空間に属するとされた137サンプルは,外れ値がなく,正規性にも問題はありませんでした.さら

にマハラノビス距離に特に大きいものはなく,単位空間としてほぼ適切なデータが選ばれていたようで

す.

・一方,単位空間に属さないとされた評価データ 35 サンプルのマハラノビス距離は大きく,単位空間デ

ータとほぼよく識別できていることが分かりました.

・マハラノビスの距離の利得により,項目 1,8 が単位空間と単位空間以外を識別する能力が低いことが

分かりました.よってこれらの2項目は判定の計算には使用しないことにしました.

・未知データのchina-paperの3銘柄のうち,2銘柄のマハラノビスの距離が大きくなっていました.特

にchina-paper3の距離が大きく,異常と判定されました.原因分析を行ったところ,china-paper2で

は項目5,china-paper3では項目6が影響していることが分かりました.

2.1 用紙走行性に影響を与える用紙特性の検討(MT法)

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4-2-11

MTシステムのチュートリアル

PART

第2章

2.2 文字のパターン認識(MT法)

本チュートリアルは『入門MTシステム』,日科技連出版社,立林和夫編著,手島昌一著,2011,第4章4.1

「文字認識の例」を参考に,当社の責任で手を加えて作成しています.

問題設定

数字の”5”の文字のパターン認識をMT法を使って行います.「5と読める文字群」を単位空間とし,下記の

16通りの文字パターンを準備しました.

また,文字パターンからの特徴抽出方法として,変化量1~7と存在量1~7を取り上げます.変化量は各行で,

白→黒,もしくは黒→白と変化した個所の数で,存在量は黒いマスの数です.

特徴抽出の例

(2番目のパターン) (3番目のパターン)

0 1 2 3 4 5 変化量 存在量 0 1 2 3 4 5 変化量 存在量

1 2 4 1 1 5

2 2 1 2 2 1

3 2 1 3 2 1

4 2 4 4 2 4

5 1 1 5 1 1

6 1 1 6 3 2

7 2 4 7 2 3

この単位空間の文字パターンをもとに,以下の4つの対象パターンが5と読めるかどうかを判定します.

さらに5と読めない異常データがあった場合は,原因分析を行います.

2.2 文字のパターン認識(MT法)

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関連手法の説明(概要)

①MT法とは MT法は,マハラノビスの距離に基づいて,正常/異常の判定を行うことが主要な分析の目的です.

正常な集団のことを「単位空間」と呼び,判断基準として利用します.そして判断対象サンプルを単位空間

からの離れ具合によって定量的に判断します.

MT法のメリットとして以下のようなものがあります;

1)正常/異常の判定ができる

変数間の相関関係を考慮したマハラノビスの距離を用いるため,単位空間からの逸脱を敏感に捉えること

ができます.

2)原因分析に使える

2 水準系の直交表を利用して,各変数を使用した場合と使用しない場合とのマハラノビスの距離の違いを

推定し,逸脱,すなわち異常の主原因を特定できます.

3)数値化しにくいものに対する尺度を構成できる

MT法で使うマハラノビスの距離は,見た目の違いや波形の違いなどの,1つの数値では表しにくいものに

対する尺度として使えます.

解析手法「MT法」の標準的な分析手順は以下のようになります.

手順1パターンを表現する項目(変数)と,分析の目的によって単位空間を決定し,データを収集します.

<例>

分析の目的:「プリンター用紙の特性と用紙走行トラブルの関係を明らかにする」

項目(変数):用紙厚さ,用紙密度,…

単位空間データ:不具合が生じない用紙のデータ

手順2単位空間データのマハラノビスの距離を計算する.

手順 3(単位空間に属さない)評価データのマハラノビスの距離を計算し,正しく単位空間と識別できている

かを確認する.

手順4直交表を用いて,判定に用いる項目(変数)を選択する.

手順5正常/異常が未知のデータのマハラノビスの距離を計算し,正常/異常を判定する.

手順6さらに必要であれば,異常と判定されたデータに対して,異常の原因となった項目を分析する.

マハラノビスの距離

単位空間

異常データ(マハラノビスの距

離が大きい)

正常データ(マハラノビス

の距離が小さい)

2.2 文字のパターン認識(MT法)

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MTシステムのチュートリアル

PART

第2章

本事例の解析ストーリー

使用するStatWorksの主な機能

① 単位空間の決定

データ入力(「単位空間」-「単位データ」)

モニタリングとマハラノビスの距離の確認(「単位空間」-「グラフ」等)

② 未知データの判定

データ入力(「判定」-「判定データ」)

判定(「判定」-「判定結果」)

③ 原因分析

データ入力(「原因分析」-「分析データ」)

原因分析(「原因分析」-「要因効果図」等)

収集

単位空間の決定とデータ

①問題の設定

④結果の考察

②未知データの判定

③原因分析

2.2 文字のパターン認識(MT法)

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4-2-14

2.2.1 解析

手順1 サンプルデータを読み

込みます.

単位空間に属する16サ

ンプルと判定対象の 4 サ

ンプルの,全20サンプル

のデータが表示されます.

ここで,各サンプルについ

て変化量 1~7 と存在量 1

~7 の計 14 項目の値が取

られています.15 列目は

データのカテゴリー(単位

空間データA,未知データ

B)となります.

手順2 メニューから「手法選択」-「品質工学」-「MT

法」を選択します.

手順3 まず,「単位空間」グループの「単位データ」

タブが表示されます. ここで,ワークシート上にあるデータ表(変数)

を指定し,データ入力します. 「変数指定」ボタンをクリックして,使用する変

数を指定します.

特性値として変化量1~7と存在量1~7の 14 変数

を指定して,「特性値」の「選択」ボタンをクリック

します.次に質的変数「カテゴリー」をクリックして,

「カテゴリー」の「選択」ボタンを押します. 指定が終わったら「次へ進む」ボタンをクリックし

ます.

2.2 文字のパターン認識(MT法)

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4-2-15

MTシステムのチュートリアル

PART

第2章

カテゴリー「単位空間A」を指定して「実行」ボタンを

クリックします. 単位空間に属する 137 サンプルのデータが

画面に読み込まれます.

手順4 次に,「変数情報」

タブや「モニタリング」

タブで,単位空間デー

タの特徴を把握します.

変数の最大値・最小

値を見て,外れ値がな

いかどうかを見ます.

また「ひずみ」「とが

り」の値やヒストグラ

ムの形状により,単位

空間のデータが正規分布に従っているかどうか,変数変換をする必要性がないかどうかを確認します.(多く

の場合,「ひずみ」や「とがり」の絶対値が1.5以上の時に,正規分布から大きく外れていると見なします)

本事例では,特に外れ値はなく正規性も問題なさそうです.

手順5 「相関係数行

列」タブでは11項

目の相関を確認し

ます.相関の絶対

値が 0.8 以上のも

のや 0.9 以上のも

のが初期表示で着

色されます.

本事例では,相関係数が0.8や0.9を超えるものがあり,多重共線性に注意が必要です.

他画面に移ると,多重共線性(相関係数行列の固有値の最小値が0.1未満となる)の注意のメッセージが出

ますが,ここでは固有技術的な判断から問題ないものとして,解析を進めます.

2.1 用紙走行性に影響を与える用紙特性の検討(MT法)

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4-2-16

手順6 「マハラノビス距離」タブでは,単位空

間データのマハラノビスの距離を確認で

きます.

ここで,マハラノビスの距離が大きいデ

ータがあれば,単位空間から外すことを検

討します(単位空間から外す距離は4.0以

上を目安にすることがあります).

本事例では特に単位空間から外すデー

タはありません.

手順7 次に「判定」グループに移ります.正常/異常が未

知である4サンプルについて,正常/異常の判定を行

います.

手順3と同様に,「変数指定」ボタンをクリック

して,量的変数の14項目と質的変数の「カテゴリー」

を指定します.カテゴリーの指定では「未知データ

B」を指定して「実行」ボタンを押します.

4つの未知データm1~m4が読み込まれます.

手順8 「判定結果」タブに移ると,これら

の未知データについて正常/異常を判

定した結果が表示されます.

m1とm3は距離が4以内なので,「5

と読めそう」です.一方,m2は距離が

4.056と4を若干超えていて「5と読めるかどうか微妙」であり,m4は距離が110.179で「5と読めなさそう」

であることが分かります.

2.2 文字のパターン認識(MT法)

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4-2-17

MTシステムのチュートリアル

PART

第2章

手順9 手順8で異常と判定されたサンプルm2

とm4について,原因分析を行います.「原

因分析」グループに移り,手順 7 と同様

に,「変数指定」ボタンを押して,未知

データを読み込みます.

一旦,未知データの 4 サンプルが読み

込まれますが,正常と判定されたm1とm3

は対象としないため,m1とm3の行をクリ

ックして「行削除」ボタンを押します.

手順 10 「要因効果図」タブでは,m2とm4につ

いて,マハラノビスの距離の利得(第 1

水準を使用した場合のマハラノビスの距

離から第 2 水準を使用した場合のマハラ

ノビスの距離を引いた差)を示します.

これを見るとm2については変化量7が正

の方向で大きく,m4 ついてはほとんどの

変化量,存在量の利得が正の方向で大き

くなっていることが分かりました.

まとめ

・16通りの文字パターンで単位空間を作成し,未知データを判定したところ,m2とm4が異常と判定され

ました.

・m2については,変化量7のマハラノビスの距離の利得が大きくなっていました.m2の変化量7が1で

あることが,影響を与えているようです.

・m4 はほとんどの項目のマハラノビスの距離の利得が大きくなっていました.m4 の個々の変化量や存在

量の値が異常なわけではないので,パターン全体のバランス(相関)が崩れていると判断することがで

きます.

m2 m4

0 1 2 3 4 5 変化量 存在量 0 1 2 3 4 5 変化量 存在量

1 1 5 1 2 4

2 2 1 2 3 2

3 2 1 3 2 1

4 2 1 4 2 3

5 2 1 5 3 2

6 1 1 6 3 2

7 1 4 7 2 4

2.2 文字のパターン認識(MT法)