John Hejduk 研究 後期作品集『SOUNDINGS』における<端緒>と設計意図

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John Hejduk 研究 後期作品集『SOUNDINGS』における<端緒>と設計意図 古谷誠章研究室 1X08A035-6 風間 健 本研究は建築家ジョン・ヘイダックが 建築設計で最も重要なものであると述 べた<端緒>を、彼の後期作品集 『SOUNDINGS』の中に見出そうとす るものである。 ジョン・ヘイダック (John Quentin Hejduk) は、1940 年代から2000年までの期間に、アンビルドの計画案を 中心として数々のプロジェクトを発表し、独自の創作姿勢 を貫いた建築家であった。 ヘイダックの作品表現は後期に至ると大きく変化するが、 彼は創作上の分離を否定し、根底的な設計意図を示唆して いる。過去の言説の中から、<端緒>を創造することが根底 的な設計意図であったと仮定し、後期の創作の中にそれを 見出していくことが本研究の目的である。 データシートを基にした分析・考察により、事象間の関係性を曖昧にする10の手法を発見・抽出した。 作品集『SOUNDINGS』のドローイング・詩、 全 876 データに関して分析資料を作成 研究概要 目次 考察 分析 結論 主要参考文献 研究背景/目的 文献調査/翻訳 データシート 研究対象/一次資料 『SOUNDINGS』 全訳 ・詩/作品に関する文章等 ・建築家 Wim van den Bergh による序文/論考 二次資料 『SANCTUARIES』 部分訳 ・論考「ARCHITECTURE’ S DESTINY」(Michael Hays) Data:2-2-3 Project:HOUSE/STUDIO AND GROUNDS FOR A BERLIN PAINTER ベルリンの画家のための家/スタジオと土地 種別1:ドローイング  種別2:エスキスドローイング   記譜法:アクソノメトリック等  内部/外部の描写:外部 描写内容:計画建築物、植栽、言葉、その他のメモ ディテールの描写:開口部、出入口 描写方法:フリーハンド  塗り潰し:部分 描写マテリアル:ペン  透明性の表現:有 スケール要素:開口部、出入口 全体のアクソノメトリックを中心として、立面や各室のディテールを 検討している。特に中央ボリュームの屋根は比較的細かい収まりまで スタディされている。 また、言葉を添えながらそれぞれのプログラムも思考されていること がわかる。HOUSE 部分は内部までプランニングがなされている。 Data2-2-3 STUDIO FIGURE PORTRAIT PAINTERS HOUSE STONE STUCCO CONC LANDSCAPE PAINTING GEOMETRIC STILL LIFE LANDSCAPE FIGURE GARDEN STILL LIFO PAINTING STUCCO CONC EATING LIVING SLEEPING BATH 24 12 STUDIO RE GARDEN 屋根のディテール プランニング 第三章 『SOUNDINGS』作品分析 データシート 視点 A 視点 B 視点 C パースペクティブの矛盾 Data6-12-13 手法3:パースペクティブの矛盾 パースペクティブドローイングには、消失点に矛盾をきたして いるものが存在する。それによって観察者は複数の視点の選択 肢の中から、自らと観察者の位置関係を選びとってドローイン グを読み取る行為を行なわなければならない。 手法 6:視点の抽象化 後期の詩は、前期と比べてヘイダックの視点が抽象化され ている。それによって、ヘイダックと詩の主体との関係性 が不明瞭にされている。 ヘイダックの建築表現は事象間の関係性を曖昧にすることで、「理解」出来 ない部分が意図されている。理解出来ない部分に対しては、 「疑問」や「議論」 といった精神の働きが生じる。 このように、「理解」に留まらない多様な精神の働きを引き起こそうとする のが、それぞれの手法の目的であったといえる。 序論 ・研究背景/目的 ・研究概要/構成 第一章 後期 John Hejduk の思想と作品 1-1 思想背景―コーリン・ロウ 1-2 創作時期の定義 1-3 主要3作品集について 1-4 後期ヘイダックの思想 1-5 考察 第二章 『SOUNDINGS』分析資料 2-1 研究対象/方法 2-2 データシート 第三章 詩の分析 3-1 作品集『SOUNDINGS』における詩について 3-2 前期の詩との比較 3-3 分析 3-4 考察 第四章 ドローイングの分析 4-1 作品集『SOUNDINGS』におけるドローイングについて 4-2 記譜法の分析 4-3 形態の分析 4-4 考察 第五章 各プロジェクトの分析 5-1 詩とドローイングの関係性の分析 5-2 文章とドローイングの関係性の分析 5-3 考察 結論 ・結論 作品集『SOUNDINGS』における<端緒>と設計意図 ・展望 晩年の作品に見る<端緒> 資料編 ・『SEVEN MEMOS ON THE GEOMETRY OF PAIN』翻訳 ・『ARCHITECTURE’ S DESTINY』翻訳 ・中期―後期作品資料 参考文献 『Soundings』John Hejduk,Rizzoli,1993 『MASK OF MEDUSA- WORKS 1947-1983』 John Hejduk,Rizzoli,1989 『Vladivostok』John Hejduk,Rizzoli,1989 『SANCTURIES: The Last Works of John Hejduk』 K. Micheal Hays,Whitney Museum,2003 『Columbia Documents of Architecture and Theory Volume 2』 John Hejduk 他 ,Columbia Univ Graduate School,1993 『不気味な建築』 Anthony Vidler, 鹿島出版会 ,1998 『マニエリスムと近代建築』 Colin Rowe, 彰国社 ,1981 『言葉と建築』 Adrian Forty , 鹿島出版会 ,2005 等、計 57 文献 Data2-12-1 Data2-12-2 Data2-12-3 第三章 『SOUNDINGS』作品分析 データシート 建築表現の目的は、観察者に対して内容を「理解」させるものとし て主に捉えられる。建築表現からその空間を想像させようとすると きも、ドローイングや言葉は観察者に「理解」を求めて働きかける。 つまり、この場合に意図された想像の<端緒>は「理解」であり、 それに相反する「疑問」のような精神の働きは、少なくとも意図の レベルでは、原則として排除される。 それに対して、ヘイダックは「疑問」や「議論」すらも建築の知覚 上重要であるとし、自らの建築表現の中にとり込もうとしていた。 つまり、 作品集『SOUNDINGS』のなかでは、「理解」のみならず「疑 問」「関心」「議論」といった多様な精神の働きが、想像の<端緒> として意図されていた。そして、ドローイングや詩の中にみられる 曖昧性は、多様な精神の働きを引き起し、想像の<端緒>とさせよ うとする意図が手法として反映されたものだったものであると結論 づける。 点―線―面―立体、正方形―円―三角形・・・――これら基本的関係についての問題・事実・神秘・理解・疑問・ 関心・議論・領域・意味・方向・相互関係といったものすべてが、語彙を形づくりはじめる John Hejduk 分析モデル パースペクティブの矛盾 Data3-3-9 Data3-3-10 Data3-3-11 第二章 『SOUNDINGS』分析資料 2-2 データシート 観察者 理解 疑問 関心 議論 問題・事実・神秘・理解・疑問・ 関心・議論・領域・意味・方向・ 相互関係・・・ ドローイングで欠如している 文章で欠如している One enters a long ramp between the two library structures and arrives in the open at the top terminus of the ramp. One either can go right or left entering the descending steel platforms (roof/outdoors with trees). Once arriving at the bottom of step platforms one enters a door which leads into each library. The Libraries contain either the books on heaven or the books on hell. There are tables in each library for reading. One can also exit at the opposite end of the entry, same side and find oneself in a very long room containing small reading carrels. When finished reading/study one walks down and enters into a large circular room where a circular desk is located. Books are returned to this desk, then one proceeds left or right around the deskthrough a small connector which enters a triangular room filled with ramps. One group descending and the other ascending. He drew her a rose and nailed it to her coffin. 彼女のために薔薇を描き 棺に釘で打ちつけた。 SOULFILAMENT SOULFILAMENT SOULFILAMENT 前後関係 A 記譜法 A 記譜法 B 形態の集合体 単一の形態 視点 A 視点 B 前後関係 A 視点 A 視点 A 視点 A 視点 A B 前後関係 B Chapels Inverted Cloister Inverted Cloister Well Chapels Inverted Cloister Small Chapel and Old Father's House Hejduk 詩の主体 関係性が不明瞭 係性が明瞭 Hejduk 詩の主体 関係性が不明瞭 Hejduk 詩の主関係性が詩の主体 詩の主体 関係性が不明瞭 He She H jd k 主体 n. Hejduk 主体 関係性がHe H She FABRICATION REALITY PRAGUE ANGEL 関係性が不明瞭 の主FABRICATION EALITY AGUE AGUE ANGEL ANGEL 関係性が不明瞭 SOUL FILAMENT FABRICAT EALITY 関係性が不明SOUL FILAMEN 関係性が不明瞭 REALITY FABRICATION 関係性が不明瞭 のために薔薇を棺に釘で打ちつけた。 SOULFILAMENT SOUL FILAMENT 詩の RE PRA PRA RE SOU REALITY FABRICATION 関係性が不明he heard their confessions he married them he baptized their children ドローイングで欠如している Their Father's House is a large space constructed of heavy wood framing, the roof a truss which supports the seating which is enclosed by a reinforced structure with a shell roof structure clad with metal skin. The vaulted space is divided by a wall at center. One room is named Abel's Room, the other room is named Cain's Room. Each room is entered and exited by a set of circular stairs which are made of steel. Opposite the seating is a cube, the viewing side is open. The inside of Abel's cube is white, the inside of Cain's cube is black. The viewers look into the white space or the black space. They stay as long as they like. The cubes are constructed in steel. The remainder of the structure inside is painted grey. The floor oftheir Father's House is earth. ドローイングで欠如している 文章で欠如している 記譜法の分析 7: 主体の捨象 8: 空想的な主体 9: 合成による造語 6: 視点の抽象化 2: 記譜法の混在 1: 黒い塗り潰し 形態同士の統辞的関係 曖昧にされる関係性 形態同士の位置関係 観察者と建築の 位置関係 形態同士の前後関係 形態とプログラムの関係 言葉とドローイングの関係 ヘイダックと 詩の主体の関係 詩の主体同士の関係 事実と虚構の関係 単語と単語の関係 3: パースペクティブ の矛盾 4: ドローイング の透明性 5: 多義的なフォルム 10: 内容の欠如 形態の分析 前期との比較分析 後期の詩の分析 分析・考察 詩の分析 ドローイングの分析 各プロジェクトの分析 関係性に複数の選択肢をつくる手法 (ambiguity) 関係性を不明瞭にする手法 (obscurity) 関係性を曖昧にする手法 (ambiguity/obscurity) 記譜A 記譜法 B 形態の集合体 形態の集合体 一の形he heard their confessions he married them he baptized their children Data1-4-6 Data2-3-1 Data1-2-10 Data1-2-12 Data1-2-17 Data1-2-19 Data1-3-5 Data1-4-5 Data1-7-1 Data1-7-2 Data1-7-5 Data2-1-6 Data2-3-2 Data2-3-3 Data2-3-5 Data2-3-6 Data2-3-7 Data2-3-12 Data2-5-5 Data2-6-1 Data2-6-2 Data2-7-4 Data2-9-1 Data1-6-7 Data2-10-1 Data2-10-2 Data3-2-5 Data3-2-6 Data3-2-8 Data3-2-14 Data3-3-106 Data3-3-109 Data3-3-116 Data4-1-2 Data4-1-3 Data3-3-114 Data6-11-2 Data6-12-6 Data4-3-6 Data4-3-8 Data4-6-1 Data4-8-4 Data4-13-1 Data4-13-3 Data5-1-1 Data5-1-2 Data5-1-4 Data5-2-1 Data5-2-3 Data5-4-1 Data5-5-1 Data5-5-2 Data5-6-1 Data6-1-4 Data6-1-5 Data6-3-2 Data6-3-4 Data6-3-5 Data6-3-6 Data6-6-5 Data6-7-6 Data6-9-5 Data6-11-3 Data6-11-4 Data6-12-2 Data6-12-3 Data6-12-5 Data6-12-8 Data6-12-19 Data6-14-1 Data6-14-2 Data6-14-5

description

ジョン・ヘイダック (John Quentin Hejduk) は、1940年代から2000年までの期間に、アンビルドの計画案を 中心として数々のプロジェクトを発表し、独自の創作姿勢を貫いた建築家であった。 ヘイダックの作品表現は後期に至ると大きく変化するが、彼は創作上の分離を否定し、根底的な設計意図を示唆して いる。過去の言説の中から、<端緒>を創造することが根底的な設計意図であったと仮定し、後期の創作の中にそれを 見出していくことが本研究の目的である。

Transcript of John Hejduk 研究 後期作品集『SOUNDINGS』における<端緒>と設計意図

Page 1: John Hejduk 研究 後期作品集『SOUNDINGS』における<端緒>と設計意図

John Hejduk 研究後期作品集『SOUNDINGS』における<端緒>と設計意図

古谷誠章研究室1X08A035-6 風間 健

本研究は建築家ジョン・ヘイダックが建築設計で最も重要なものであると述べた<端緒>を、彼の後期作品集『SOUNDINGS』の中に見出そうとするものである。

ジョン・ヘイダック (John Quentin Hejduk) は、1940年代から2000年までの期間に、アンビルドの計画案を中心として数々のプロジェクトを発表し、独自の創作姿勢を貫いた建築家であった。ヘイダックの作品表現は後期に至ると大きく変化するが、彼は創作上の分離を否定し、根底的な設計意図を示唆している。過去の言説の中から、<端緒>を創造することが根底的な設計意図であったと仮定し、後期の創作の中にそれを見出していくことが本研究の目的である。

データシートを基にした分析・考察により、事象間の関係性を曖昧にする10の手法を発見・抽出した。

作品集『SOUNDINGS』のドローイング・詩、全 876データに関して分析資料を作成

研究概要目次

考察

分析

結論

主要参考文献

研究背景/目的

文献調査/翻訳

データシート

研究対象/一次資料 『SOUNDINGS』 全訳・詩/作品に関する文章等・建築家Wim van den Bergh による序文/論考

二次資料 『SANCTUARIES』 部分訳・論考「ARCHITECTURE’ S DESTINY」(Michael Hays)

Data:2-2-3Project:HOUSE/STUDIO AND GROUNDS FOR A BERLIN PAINTER ベルリンの画家のための家/スタジオと土地

種別1:ドローイング  種別2:エスキスドローイング  記譜法:アクソノメトリック等  内部/外部の描写:外部描写内容:計画建築物、植栽、言葉、その他のメモディテールの描写:開口部、出入口描写方法:フリーハンド  塗り潰し:部分描写マテリアル:ペン  透明性の表現:有スケール要素:開口部、出入口

全体のアクソノメトリックを中心として、立面や各室のディテールを検討している。特に中央ボリュームの屋根は比較的細かい収まりまでスタディされている。また、言葉を添えながらそれぞれのプログラムも思考されていることがわかる。HOUSE 部分は内部までプランニングがなされている。

Data2-2-3

STUDIO

FIGURE

PORTRAIT

PAINTERS

HOUSE

STONE

STUCCOCONC

LANDSCAPEPAINTING

GEOMETRICSTILL LIFELANDSCAPEFIGURE

GARDENSTILL LIFOPAINTING

STUCCOCONC

EATINGLIVING

SLEEPING

BATH

2412

STUDIO

RE

GARDEN

屋根のディテール

プランニング

第三章 『SOUNDINGS』作品分析

データシート

視点A 視点B 視点Cパースペクティブの矛盾

Data6-12-13

手法3:パースペクティブの矛盾

パースペクティブドローイングには、消失点に矛盾をきたしているものが存在する。それによって観察者は複数の視点の選択肢の中から、自らと観察者の位置関係を選びとってドローイングを読み取る行為を行なわなければならない。

手法 6:視点の抽象化

後期の詩は、前期と比べてヘイダックの視点が抽象化されている。それによって、ヘイダックと詩の主体との関係性が不明瞭にされている。

ヘイダックの建築表現は事象間の関係性を曖昧にすることで、「理解」出来ない部分が意図されている。理解出来ない部分に対しては、「疑問」や「議論」といった精神の働きが生じる。このように、「理解」に留まらない多様な精神の働きを引き起こそうとするのが、それぞれの手法の目的であったといえる。

序論

・研究背景/目的

・研究概要/構成

第一章 後期 John Hejdukの思想と作品

1-1 思想背景―コーリン・ロウ

1-2 創作時期の定義

1-3 主要3作品集について

1-4 後期ヘイダックの思想

1-5 考察

第二章 『SOUNDINGS』分析資料

2-1 研究対象/方法

2-2 データシート

第三章 詩の分析

3-1 作品集『SOUNDINGS』における詩について

3-2 前期の詩との比較

3-3 分析

3-4 考察

第四章 ドローイングの分析

4-1 作品集『SOUNDINGS』におけるドローイングについて

4-2 記譜法の分析

4-3 形態の分析

4-4 考察

第五章 各プロジェクトの分析

5-1 詩とドローイングの関係性の分析

5-2 文章とドローイングの関係性の分析

5-3 考察

結論

・結論 作品集『SOUNDINGS』における<端緒>と設計意図

・展望 晩年の作品に見る<端緒>

資料編

・『SEVEN MEMOS ON THE GEOMETRY OF PAIN』翻訳

・『ARCHITECTURE’ S DESTINY』翻訳

・中期―後期作品資料

参考文献

『Soundings』John Hejduk,Rizzoli,1993『MASK OF MEDUSA- WORKS 1947-1983』 John Hejduk,Rizzoli,1989『Vladivostok』John Hejduk,Rizzoli,1989『SANCTURIES: The Last Works of John Hejduk』 K. Micheal Hays,Whitney Museum,2003『Columbia Documents of Architecture and Theory Volume 2』 John Hejduk 他 ,Columbia Univ Graduate School,1993

『不気味な建築』 Anthony Vidler, 鹿島出版会 ,1998『マニエリスムと近代建築』 Colin Rowe, 彰国社 ,1981『言葉と建築』 Adrian Forty , 鹿島出版会 ,2005

                       等、計 57文献

原文:The Etched SoulTo Him EverlastingHarmonic Soul FluctuationThe Volume of a SoulAnd To Him EverlastingHarmonic FluctuationEtched RevelationsAnd To Him Glory

日本語訳:刻み付けられた魂彼に永遠を魂の調和的な揺らぎ魂のボリュームそして彼に永遠を調和的な変動刻み込まれた発見そして彼に栄光を

Data:2-12-1Project: MUSEUM FOR SOME OF THE WORKS OF GIACOMETTI ジャコッメッティの作品のいくつかのための美術館

種別1:ドローイング  種別2:エスキスドローイング  記譜法:パースペクティブ  内部/外部の描写:外部描写内容:計画建築物ディテールの描写:無描写方法:フリーハンド  塗り潰し:部分描写マテリアル:ペン  透明性の表現:無スケール要素:無

Data2-12-1

Data:2-12-2Project: MUSEUM FOR SOME OF THE WORKS OF GIACOMETTI ジャコッメッティの作品のいくつかのための美術館

種別1:テクスト  種別2:断片的な言葉による記述  記述内容:

Data2-12-2

Data:2-12-3Project: MUSEUM FOR SOME OF THE WORKS OF GIACOMETTI ジャコッメッティの作品のいくつかのための美術館

種別1:ドローイング  種別2:エスキスドローイング  記譜法:立面図等  内部/外部の描写:外部描写内容:計画建築物、数字、寸法、言葉、その他のメモディテールの描写:寸法、素材の目地描写方法:フリーハンド  塗り潰し:部分描写マテリアル:ペン  透明性の表現:無スケール要素:寸法

Data2-12-3

第三章 『SOUNDINGS』作品分析

データシート

建築表現の目的は、観察者に対して内容を「理解」させるものとして主に捉えられる。建築表現からその空間を想像させようとするときも、ドローイングや言葉は観察者に「理解」を求めて働きかける。つまり、この場合に意図された想像の<端緒>は「理解」であり、それに相反する「疑問」のような精神の働きは、少なくとも意図のレベルでは、原則として排除される。

それに対して、ヘイダックは「疑問」や「議論」すらも建築の知覚上重要であるとし、自らの建築表現の中にとり込もうとしていた。つまり、作品集『SOUNDINGS』のなかでは、「理解」のみならず「疑問」「関心」「議論」といった多様な精神の働きが、想像の<端緒>として意図されていた。そして、ドローイングや詩の中にみられる曖昧性は、多様な精神の働きを引き起し、想像の<端緒>とさせようとする意図が手法として反映されたものだったものであると結論づける。

点―線―面―立体、正方形―円―三角形・・・――これら基本的関係についての問題・事実・神秘・理解・疑問・関心・議論・領域・意味・方向・相互関係といったものすべてが、語彙を形づくりはじめる

John Hejduk

分析モデル

パースペクティブの矛盾

原文:2 CUSTOMS INSPECTORHe believes her body to be like the rocks at Cape Anne. Polished to a smoothness-yet hard. He searches its surface sand crevices for new discoveries. It is like putting his hand into the shallow tidal pools along the New England coast. The sun warms him as the sea recedes. He imagines her in the water and is jealous of the ocean's fluidity and its ability to cover all-at once.

日本語訳:2 税関検査官彼は、彼女の体がまるでアン岬の岩のように思われた。堅くはあるものの、とても滑らかに磨かれた身体。彼は、何かを見つけようとして、その表面の砂の裂け目を探った。その感触は、ニュー・イングランド・コーストの浅瀬に手を浸しているようだった。潮が引けば、太陽が彼を暖める。水の中で彼は彼女を想った。そして、海の流れと、海が全てを一度に隠し去ってしまうことを恨めしくも思った。

原文:3 BRIDGEMANThe Bridgeman listened to the conversation of the two men outside the marble egg shop."Would she like a marble egg?""I think she would.""Here, this pink one.""I think she would like the green one.""All right. I will get her the green one.""I think she would like that."The green marble egg was purchased. The two men walked down the bridge ramp. The Bridgeman followed."Wait one moment, I must go back to the shop.""I will wait here."He returned shortly and said, "I also bought her the pink one."The two men continued their journey. The Bridgeman knew they were meeting her daughter.

日本語訳:3 架橋工夫架橋工夫は、マーブル・エッグ・ショップの外で、2人の男の話し声を聞いた。

「彼女は、マーブル・エッグが好きだろうか」「好きじゃないかな」「ほら、ピンク色のがあるよ」「彼女は緑色のほうが気に入ると思うよ」「そうか。彼女に緑色のを買っていくことにするよ」「きっと気に入ると思うよ」緑色のマーブル・エッグが購入された。2人の男は橋を歩いていった。架橋工夫はあとに続いた。

「ちょっと待ってくれ、店に戻らなきゃ」「ここで待つよ」彼は素っ気なく言った「ピンク色のやつもくれ」二人の男は歩き続けた。工夫は彼等が今から娘に会うことを悟った。

原文:4 JUDGES MALE/FEMALEThe Judges' chairs for one male and one female are attached to a 12" x 12" central shaft made of metal and wood. Facing in the opposite direction is a pole with iron spikes for climbing. At the top of the pole is a 2' x 12' horizontal wooden plank.The plank is connected to an inverted 180 degree metal support.A female and a male [naked] climb up the pole and place themselves on the seesaw plank at opposite ends. The woman and man's weights are exactly the same. When they are fixed in place the Judges begin their deliberations and eventually come to a decis.ion. The contestants must keep the horizontal plank in perfect balance.

日本語訳:4 男性の/女性の裁判官一人の男性と、一人の女性の裁判官のための椅子は、金属と木で出来た 12 インチ ×12 インチのセントラル・シャフトに取り付けられている。反対側には、鉄製の突起がある登るための棒だ。棒の先端には、2×12 インチの水平な木の板がある。板は、逆さまにされた金属製の支持材に接続されている。裸の男と女は棒を登り、シーソーのそれぞれの端に座る。男と女の体重は丁度一緒だ。彼等が定位置に至ったとき、審議は始められ、最後に結論が下される。争う者達は、板を水平に保ち続けなければならない。

Data:3-3-9Project: BERLIN NIGHT ベルリンの夜

種別1:テクスト  種別2:文章による記述 記述内容:主体-客体に関連する文章

Data3-3-9

Data:3-3-8Project: BERLIN NIGHT ベルリンの夜

種別1:テクスト  種別2:文章による記述 記述内容:主体-客体に関連する文章

Data3-3-10

Data:3-3-11Project: BERLIN NIGHT ベルリンの夜

種別1:テクスト  種別2:文章による記述 記述内容:主体-客体に関連する文章

Data3-3-11

第二章 『SOUNDINGS』分析資料

2-2 データシート

観察者

理解 疑問関心 議論・・・

問題・事実・神秘・理解・疑問・関心・議論・領域・意味・方向・

相互関係・・・

ドローイングで欠如している 文章で欠如している

One enters a long ramp between the two library structures and arrives in the open at the top terminus of the ramp. One either can go right or left entering the descending steel platforms (roof/outdoors with trees). Once arriving at the bottom of step platforms one enters a door which leads into each library. The Libraries contain either the books on heaven or the books on hell. There are tables in each library for reading. One can also exit at the opposite end of the entry, same side and find oneself in a very long room containing small reading carrels. When finished reading/study one walks down and enters into a large circular room where a circular desk is located. Books are returned to this desk, then one proceeds left or right around the desk through a small connector which enters a triangular room filled with ramps. One group descending and the other ascending.

He drew her a roseand nailed it to her coffin.

彼は彼女のために薔薇を描き棺に釘で打ちつけた。

SOULFILAMENTSOULFILAMENTSOULFILAMENT

前後関係A

記譜法A

記譜法B

形態の集合体

単一の形態

視点A

視点B

前後関係A

視点A視点A視点A視点A

視点B

前後関係B

プログラムProgram

類型Type

Chapels

十字形―柱状体

プログラムProgram

類型Type

Inverted Cloister

十字形―柱状体

プログラムProgram

類型Type

Inverted Cloister

十字形―柱状体

プログラムProgram

類型Type

Well

十字形―柱状体

プログラムProgram

類型Type

Small Chapel and Old Father's House

十字形―柱状体

プログラムProgram

類型Type

Building For The Urns Of Ashes

十字形―柱状体 Chapels InvertedCloister

Small Chapel and Old Father's House

Hejduk詩の主体

関係性が不明瞭関係性が不明瞭

Hejduk詩の主体

関係性が不明瞭

Hejduk詩の主体

関係性が不明瞭

詩の主体 詩の主体

関係性が不明瞭

He She

H jd k詩 主体

ffin.

Hejduk詩の主体

関係性が不明瞭

HeH She

FABRICATIONREALITY

PRAGUE ANGEL関係性が不明瞭

の主体 詩の主体

FABRICATIONEALITY

AGUEAGUE ANGELANGEL関係性が不明瞭

SOUL   FILAMENT

FABRICATEALITY 関係性が不明瞭瞭

SOUL   FILAMEN関係性が不明瞭

REALITY

FABRICATION

WHISPERS OF PRAGUE

City of whispersyou are darkeven when the sun shinesyour river moves swiftlyover the deep crevicesof its buried topographythe drunken Japaneseshouts at the bridge angelas the town cascadesdown to the stone squareswhere lovers open their lips.The day train to Kutna Horais met by the manwith a double-breasted suitleaning on a black Tatrathe girl waiting at the stationremoves the milk bottlefrom the dog's lipsand then licks its rimKafka was over six feet talland Rilke appeared preoccupied.The trolley passes the clock towerwhere the wedding couple smile and kissthe iron gates of the Baroque churchare closed shutyour building stones entomb

関係性が不明瞭

彼は彼女のために薔薇を描棺に釘で打ちつけた。

SOULFILAMENTSOULFILAMENT

描き

詩の

RE

PRAPRARE

SOU

REALITY

FABRICATION

WHISPERS OF PRAGUE

City of whispersyou are darkeven when the sun shinesyour river moves swiftlyover the deep crevicesof its buried topographythe drunken Japaneseshouts at the bridge angelas the town cascadesdown to the stone squareswhere lovers open their lips.The day train to Kutna Horais met by the manwith a double-breasted suitleaning on a black Tatrathe girl waiting at the stationremoves the milk bottlefrom the dog's lipsand then licks its rimKafka was over six feet talland Rilke appeared preoccupied.The trolley passes the clock towerwhere the wedding couple smile and kissthe iron gates of the Baroque churchare closed shutyour building stones entomb

関係性が不明瞭

he heardtheir confessionshe marriedthemhe baptizedtheir children ・ ・

RURAL PRIEST

He was a rural priestthey calledhim Fatherhe said Masshe heardtheir confessionshe marriedthemhe baptizedtheir childrenhe buriedtheir deadhe walked throughtheir vine mazehe ate the foodthey broughthimhe drank the wine fromtheir fieldshe slept in the bedthey constructed for himhe opened the church doorshe talked tothem whilethey sat on wooden pews

he contemplated the Stations of the Crossthey knelt and stoodthey rang the bellhe looked up to the crucifixionthey looked up to the Virginhe andthey descended to the crypthe received the flowersthey gavehimhe watched the sun risehe watched the sun sethe looked for the moonhe felt the rainhe smiled at the snowhe listened to the windhe cherished the heathe was refreshed by the coldhis voice gave comfortwhenhe diedtheir voices sung the songs fromheavenhe had enteredtheir souls.

ドローイングで欠如している

Their Father's House is a large space constructed of heavy wood framing, the roof a truss which supports the seating which is enclosed by a reinforced structure with a shell roof structure clad with metal skin. The vaulted space is divided by a wall at center. One room is named Abel's Room, the other room is named Cain's Room. Each room is entered and exited by a set of circular stairs which are made of steel. Opposite the seating is a cube, the viewing side is open. The inside of Abel's cube is white, the inside of Cain's cube is black. The viewers look into the white space or the black space. They stay as long as they like. The cubes are constructed in steel. The remainder of the structure inside is painted grey. The floor oftheir Father's House is earth.

ドローイングで欠如している 文章で欠如している

記譜法の分析

7: 主体の捨象

8: 空想的な主体

9: 合成による造語

6: 視点の抽象化

2: 記譜法の混在

1: 黒い塗り潰し 形態同士の統辞的関係

曖昧にされる関係性

形態同士の位置関係

観察者と建築の位置関係

形態同士の前後関係

形態とプログラムの関係

言葉とドローイングの関係

ヘイダックと詩の主体の関係

詩の主体同士の関係

事実と虚構の関係

単語と単語の関係

3: パースペクティブ の矛盾

4: ドローイング の透明性

5: 多義的なフォルム

10: 内容の欠如

形態の分析

前期との比較分析

後期の詩の分析

分析・考察

詩の分析

ドローイングの分析

各プロジェクトの分析

関係性に複数の選択肢をつくる手法(ambiguity)

関係性を不明瞭にする手法(obscurity)

関係性を曖昧にする手法(ambiguity/obscurity)

記譜法

記譜法A

記譜法B

形態の集合体形態の集合体体体

単一の形態

he heardtheir confessionshe marriedthemhe baptizedtheir children ・ ・

Data1-4-6

Data2-3-1

Data1-2-10 Data1-2-12 Data1-2-17 Data1-2-19 Data1-3-5 Data1-4-5

Data1-7-1 Data1-7-2 Data1-7-5 Data2-1-6

Data2-3-2 Data2-3-3 Data2-3-5 Data2-3-6 Data2-3-7

Data2-3-12 Data2-5-5 Data2-6-1 Data2-6-2 Data2-7-4 Data2-9-1

Data1-6-7

Data2-10-1 Data2-10-2 Data3-2-5 Data3-2-6 Data3-2-8 Data3-2-14

Data3-3-106 Data3-3-109 Data3-3-116 Data4-1-2 Data4-1-3Data3-3-114

Data6-11-2

Data6-12-6

Data4-3-6 Data4-3-8 Data4-6-1 Data4-8-4 Data4-13-1 Data4-13-3

Data5-1-1 Data5-1-2 Data5-1-4 Data5-2-1 Data5-2-3 Data5-4-1

Data5-5-1 Data5-5-2 Data5-6-1 Data6-1-4 Data6-1-5 Data6-3-2

Data6-3-4 Data6-3-5 Data6-3-6 Data6-6-5 Data6-7-6 Data6-9-5

Data6-11-3 Data6-11-4 Data6-12-2 Data6-12-3 Data6-12-5

Data6-12-8 Data6-12-19 Data6-14-1 Data6-14-2 Data6-14-5

Page 2: John Hejduk 研究 後期作品集『SOUNDINGS』における<端緒>と設計意図

手法 1:黒い塗り潰し /形態同士の統辞的関係

手法8:空想的な主体 /事実と虚構の関係

手法9:合成による造語 /単語と単語の関係

手法10:内容の欠如 /言葉とドローイングの関係

手法7:主体の捨象 /詩の主体同士の関係

単一の形態形態の集合Data4-1-4

Data1-2-10 Data1-2-12 Data1-2-17

Data1-4-6 Data1-7-1

Data2-3-1 Data2-3-2 Data2-3-3

Data2-3-12 Data2-5-5 Data2-6-1

Data1-6-7

He drew her a roseand nailed it to her coffin.

彼は彼女のために薔薇を描き棺に釘で打ちつけた。

詩の主体 詩の主体

関係性が不明瞭

He She

手法8:空想的な手法8:空想的な

詩の主体 詩の主体

関係性が不明瞭

He She

REALITY

FABRICATION

WHISPERS OF PRAGUE

City of whispersyou are darkeven when the sun shinesyour river moves swiftlyover the deep crevicesof its buried topographythe drunken Japaneseshouts at the bridge angelas the town cascadesdown to the stone squareswhere lovers open their lips.The day train to Kutna Horais met by the manwith a double-breasted suitleaning on a black Tatrathe girl waiting at the stationremoves the milk bottlefrom the dog's lipsand then licks its rimKafka was over six feet talland Rilke appeared preoccupied.The trolley passes the clock towerwhere the wedding couple smile and kissthe iron gates of the Baroque churchare closed shutyour building stones entomb

関係性が不明瞭

REALITY

FABRICATIONrand kissrch

関係性が不明瞭

FABRICATIONREALITY

PRAGUE ANGEL関係性が不明瞭

手法9 合成に手法9:合成に

FABRICATIONREALITY

PRAGUE ANGEL関係性が不明瞭瞭

SOULFILAMENTSOULFILAMENTSOULFILAMENT

SOUL   FILAMENT

如 / 言葉とドロー

SOULFILAMENT

SOUL   FILAMENT関係性が不明瞭

ドローイングで欠如している 文章で欠如している

One enters a long ramp between the two library structures and arrives in the open at the top terminus of the ramp. One either can go right or left entering the descending steel platforms (roof/outdoors with trees). Once arriving at the bottom of step platforms one enters a door which leads into each library. The Libraries contain either the books on heaven or the books on hell. There are tables in each library for reading. One can also exit at the opposite end of the entry, same side and find oneself in a very long room containing small reading carrels. When finished reading/study one walks down and enters into a large circular room where a circular desk is located. Books are returned to this desk, then one proceeds left or right around the desk through a small connector which enters a triangular room filled with ramps. One group descending and the other ascending.

詩「WHISPER OF PLAGUE」は、移り変わる風景が描かれている。詩のタイトルからプラハの景色の描写を予測し、観察者は詩の中に入る。しかし、8行目に突然現れる「THE BRIDGE ANGEL」などによって、この詩が決してプラハの景色をそのまま描写したものではないことがわかり、ヘイダックの描いた詩のどこまでが現実で、どこまでが虚構なのか解りかねるような状況が生まれる。このように、「空想的な主体」が用いられることによって、事実と虚構の関係性が不明瞭にされている。

描かれた形態の上からペンによって黒々と塗り潰すことによって、形態の分節が曖昧にされている。そのため、塗り潰しが施されたドローイングは「形態の集合体」とも「一つの形態」とも捉えられる状態にされている。つまり、形態と形態の統辞的関係に複数の選択肢が存在している。また、開口部などのディテールの上から描かれることで、その部分に対して観察者の深い観察を促している。

手法2:記譜法の混在 /形態同士の位置関係

アイソメトリック

パースペクティブ

クアイソメトリックアイソメトリッ

パパースペクティブブ

記譜法A 記譜法BData1-7-6

Data1-3-2 Data2-2-4 Data2-2-5

Data2-6-2 Data2-7-4 Data2-9-2

Data5-1-3 Data5-2-1 Data5-2-3

Data6-3-1 Data6-3-4 Data6-3-6

手法4:ドローイングの透明性 /形態同士の前後関係

透明性の表現(虚の透明性)

前後関係A 前後関係BData1-2-24

Data1-2-11 Data1-2-22 Data1-2-23

Data2-6-5 Data2-7-2 Data2-7-5

Data2-10-6 Data2-11-5 Data2-11-11

Data3-3-123 Data3-3-125 Data3-3-130

作品集『SOUNDINGS』では、「OPAQUEDREAD」というような合成による造語が用いられていることがわかった。もし、「OPAQUE DREAD」という一般的な語法が用いられていれば、「OPAQUE」が「DREAD」を修飾する関係性として一意に解釈可能である。しかし、意図的に「OPAQUEDREAD」として造語化されることによって、読み手は一般的な解釈を適用してよいか疑いながら詩を読み進めなければならない。つまり、単語が合成によって造語化されることによって、元からあった言葉と言葉の関係性が不明瞭にされているのである。

作品集『SOUNDINGS』ではテクストとドローイングの関係性は固定化されておらず、観察者はプロジェクトによってそれぞれの関係性を読み解いていかなければならない。また、各プロジェクトの中を通して共通する部分が2点存在する。ひとつは、ドローイングとテクストのあいだで視線が行き来しながら作品が読み解かれるという点、もうひとつはドローイングとテクストのどちらか、または双方に欠如が存在する点である。観察者は、「言葉からの想像」、「ドローイングからの想像」を交互に繰り返すことで、少しずつ頭の中に空間像を立ち上げていく。そして、言葉とドローイングの一連のやりとりの後、それぞれの内容に欠如が存在することに気付く。欠如の部分が存在することで、言葉とドローイングは一対一で存在するのではなく、関係の上で不明瞭にされている部分が存在することが分かる。観察者の意識をそれぞれの語られざる部分に集中させ、そこをきっかけとして、さらに想像による空間体験を続けさせることが意図されている。以上の考察で見いだされた点を、手法「内容の欠如」と定義する。

作品集『SOUNDINGS』では、主体が「HE」や「SHE」のみで表現され、主体が捨象されていることがわかった。これにより、複数の主体が登場する詩では複雑な状況が生まれる。例えば、Data1-0-7 の詩は、極めて短い詩のなかに、「He」と「She」という2人の捨象された登場人物が現れる。もし少なくとも片方の主体が「His Mother」や「His Lover」であったとすれば、観察者は2人の関係性を理解し、詩を想像することができる。しかし、実際には主体が捨象されているため、観察者は2人の関係性に疑問を抱くところから想像をはじめなければならない。すなわち、主体の捨象によって、主体同士の関係性が不明瞭にされているのである。

John Hejduk 研究/事象間の関係性を曖昧にする10の手法 (手法No: 手法名 /曖昧にされる関係性)

1枚のドローイングの中にパースペクティブやアクソノメトリックが混在していることで、全体の記譜法が曖昧にされている。これによって、観察者はそのドローイングを「記譜法A」とも「記譜法 B」とも捉えられるような状態が生じている。どちらの記譜法と捉えるかによって、異なる形態の位置関係の選択肢が生じる。もしくはドローイングの観察の中で双方の記譜法が揺れ動きながら知覚されるようになっている。

手法3:パースペクティブの矛盾 /建築と観察者の位置関係

パースペクティブの矛盾

手手手手手手手法4手法4手手法4 グの

スペクティブの矛盾パース

:: ングイロド グ:: ングイロードド イロードドド

視点A 視点B 視点C Data1-4-6

Data1-4-4 Data2-2-5 Data2-3-7

Data4-1-3

Data4-2-15

Data6-8-3 Data6-12-2Data6-11-2

Data6-12-3

Data6-21-8 Data7-3-5

Data7-6-2

パースペクティブに矛盾が生じさせられることによって、視点の位置が定まらなくなっている。そのため、1枚のドローイングの中で「視点A」とも「視点 B」とも捉えられる状態がつくりだされている。そのため、ドローイング内での観察者と建築の位置関係に複数の選択肢が存在している。また、「記譜法の混在」と同じように、それらが揺れ動きながら知覚されるようにもなっている。

虚の透明性が表現されることで、形態相互の前後関係が曖昧になっている。これにより、前後関係に関して複数の選択肢が観察者に対して呈示されている。

手法5:多義的なフォルム /形態とプログラムの関係

関係性に複数の選択肢を与える手法(ambiguity) 関係性を不明瞭にする手法(obscurity)

プログラムProgram

類型Type

Chapels

十字形―柱状体

プログラムProgram

類型Type

Inverted Cloister

十字形―柱状体

プログラムProgram

類型Type

Inverted Cloister

十字形―柱状体

プログラムProgram

類型Type

Well

十字形―柱状体

プログラムProgram

類型Type

Small Chapel and Old Father's House

十字形―柱状体

プログラムProgram

類型Type

Building For The Urns Of Ashes

十字形―柱状体

手法6:視点の抽象化 /ヘイダックと詩の主体の関係he heardtheir confessionshe marriedthemhe baptizedtheir children ・ ・

Hejduk詩の主体

関係性が不明瞭

手法7:主体の捨

Hejduk詩の主体詩の主体主体

関係性が不明瞭

前期作品集『MASK OF MEDUSA』では明確であった詩を描くヘイダックの視点が、作品集『SOUNDINGS』では抽象的になっていることがわかった。前期では、ヘイダックは詩で描かれる空間の中の一観察者であった。つまり、ヘイダックは空間の中の一主体であり、詩の中で移り変わってゆく主体とはそれぞれが客体となり合う関係性をもっている。しかし、後期の詩はそれとは異なり、ヘイダックは空間内の観察者ではない。あくまで抽象的なところから、特定の主体を凝視し続けるというのが後期での構図であり、ここではヘイダックと主体の関係性が不明瞭になっている。観察者は、どこから、どのような理由でヘイダックが詩を描いているか疑念を抱きながら詩を読み進まなければならない。

プログラムProgram

類型Type

Chapels

十字形―柱状体

プログラムProgram

類型Type

Inverted Cloister

十字形―柱状体

プログラムProgram

類型Type

Inverted Cloister

十字形―柱状体

プログラムProgram

類型Type

Well

十字形―柱状体

プログラムProgram

類型Type

Small Chapel and Old Father's House

十字形―柱状体

プログラムProgram

類型Type

Building For The Urns Of Ashes

十字形―柱状体

複数のプログラムの選択肢多義的なフォルム

作品集『SOUNDINGS』では、あるフォルム(例えば十字形―柱状体)に対して複数のプログラム(十字形の場合、わかるものだけでも5パターン)が与えられている。つまり、形態とプログラムの関係性に複数の可能性を与えることによって、観察者があるフォルムと対峙した時に、「プログラムA」とも「プログラム B」ともとれるような選択肢が生じているのである。このことから、フォルムとプログラムの間にも選択的に想像を行ない、観察者それぞれが多義的に解釈を行なう可能性が内在していることがわかる。ここまで考察してきた内容もヘイダックによる手法と捉え、手法「多義的なフォルム」と定義するものとする。