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41569 胆道系の IVR - PTC, PTCD からステントまで 高知市病院組合立高知中央病院(旧高知県立中央病院)放射線科 森田荘二郎 IVR マニュアル/ 2003 日本血管造影・ IVR 学会「技術教育セミナー」より:森田荘二郎 ・・・・・・・・・・・・・ IVR マニュアル/ 2003 日本血管造影・ IVR 学会総会「技術教育セミナー」より ・・・・・・・・・・・・・ 連載 5 はじめに 閉塞性黄疸に対する減黄術としての「経皮経肝的胆道ド レナージ(percutaneous transhepatic biliary drainage ; PTBD)」は, 超音波誘導下に穿刺が行われることが多い が, 穿刺針・ガイドワイヤー(以下ワイヤー)の種類, 穿刺時の造影の有無, 経路拡張の有無など, 施設毎に特 徴がみられ, 標準的といえる方法は確立されていない。 本稿では, 当院で主に行われている方法について解説する。 PTBD に必要な解剖学的知識 肝外胆管系の区分を図 1a に, 門脈枝の区分に準じた 肝内胆管枝の分枝次数を図 1b に示す。胆道癌取り扱い 規約に則った浸潤範囲の診断, さらに肝門部狭窄では肝 内胆管枝への浸潤範囲を詳細に診断する必要がある。 PTBD の適応 1. 目的からみた適応 PTBD の適応としては, ①閉塞性黄疸の減黄, ②胆管 炎の治療, ③胆管狭窄部の診断および治療, ④肝内結石, 総胆管結石の経皮的治療, などが挙げられる。 2. 病態からみた適応 腹水や出血傾向がある場合や, 良性疾患, 手術および 腔内照射などの適応がない悪性肝外胆管狭窄では, 内視 鏡的胆道ドレナージ(ENBD)を第一選択とする。一方, 胃切ならびに胆管・空腸吻合術後や, 肝門部胆管狭窄で は, ENBD は手技的にも難しく, また, 肝門部胆管狭窄 では, ドレナージチューブが狭窄部を通過すると病変範 囲の正確な診断が困難となることがあるため PTBD が 第一選択となる。 3. 適応外と考えられる状態 悪性疾患による閉塞性黄疸の場合には, CT などの画 像所見・検査データ・全身状態とも照らしあわせて外 瘻術の適応を決定する。①原疾患が高度に進行してお り, 外瘻術を行っても全身状態の改善が見込めず, 予後 が 1 ヵ月以内と推定される症例, ②大量の腹水が貯留し ている症例, ③出血傾向が認められる症例, ④両側肝内 胆管 3 次分枝以降への広範囲な腫瘍進展を認める症例 (多発性孤立性肝内胆管閉塞)では, 黄疸が改善するこ とはほとんど期待できない。 手技 PTBD ルートは, 以後の IVR 操作を考慮して適切なル ートが作成されるように, 穿刺目標胆管・ドレナージす る胆管の本数・ドレナージチューブ挿入部位などを前 もって検討しておくことが重要である。 図1 胆道系の区分(胆道癌取扱い規約 第4版) a : 肝外胆道系の区分 b : 胆管造影像からみた肝内胆管枝の分枝次数 b a

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胆道系のIVR-PTC, PTCDからステントまで

高知市病院組合立高知中央病院(旧高知県立中央病院)放射線科

森田荘二郎

IVRマニュアル/2003日本血管造影・IVR学会「技術教育セミナー」より:森田荘二郎

・・・・・・・・・・・・・IVRマニュアル/2003日本血管造影・IVR学会総会「技術教育セミナー」より・・・・・・・・・・・・・連載 5

はじめに

閉塞性黄疸に対する減黄術としての「経皮経肝的胆道ドレナージ(percutaneous transhepatic biliary drainage ;PTBD)」は, 超音波誘導下に穿刺が行われることが多いが, 穿刺針・ガイドワイヤー(以下ワイヤー)の種類,穿刺時の造影の有無, 経路拡張の有無など, 施設毎に特徴がみられ, 標準的といえる方法は確立されていない。本稿では, 当院で主に行われている方法について解説する。

PTBDに必要な解剖学的知識

肝外胆管系の区分を図1aに, 門脈枝の区分に準じた肝内胆管枝の分枝次数を図1bに示す。胆道癌取り扱い規約に則った浸潤範囲の診断, さらに肝門部狭窄では肝内胆管枝への浸潤範囲を詳細に診断する必要がある。

PTBDの適応

1. 目的からみた適応PTBDの適応としては, ①閉塞性黄疸の減黄, ②胆管

炎の治療, ③胆管狭窄部の診断および治療, ④肝内結石,総胆管結石の経皮的治療, などが挙げられる。2. 病態からみた適応腹水や出血傾向がある場合や, 良性疾患, 手術および

腔内照射などの適応がない悪性肝外胆管狭窄では, 内視鏡的胆道ドレナージ(ENBD)を第一選択とする。一方,胃切ならびに胆管・空腸吻合術後や, 肝門部胆管狭窄では, ENBDは手技的にも難しく, また, 肝門部胆管狭窄では, ドレナージチューブが狭窄部を通過すると病変範囲の正確な診断が困難となることがあるためPTBDが第一選択となる。3. 適応外と考えられる状態悪性疾患による閉塞性黄疸の場合には, CTなどの画

像所見・検査データ・全身状態とも照らしあわせて外瘻術の適応を決定する。①原疾患が高度に進行しており, 外瘻術を行っても全身状態の改善が見込めず, 予後が1ヵ月以内と推定される症例, ②大量の腹水が貯留している症例, ③出血傾向が認められる症例, ④両側肝内胆管3次分枝以降への広範囲な腫瘍進展を認める症例(多発性孤立性肝内胆管閉塞)では, 黄疸が改善することはほとんど期待できない。

手技

PTBDルートは, 以後のIVR操作を考慮して適切なルートが作成されるように, 穿刺目標胆管・ドレナージする胆管の本数・ドレナージチューブ挿入部位などを前もって検討しておくことが重要である。

図1 胆道系の区分(胆道癌取扱い規約 第4版)a : 肝外胆道系の区分b : 胆管造影像からみた肝内胆管枝の分枝次数

ba

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1. PTBD手技の基礎的知識1)穿刺ルートの選択肝外胆管狭窄では, 減黄目的のみであれば, 左側ルー

ト(心窩部ルート)を第一選択とし, 左腹側枝(B3)→左本幹→左背側枝(B2)の順に穿刺目標胆管を決定する(図2a)。腔内照射などの付加療法, ならびにステント留置術な

どのIVR手技が追加される可能性の高い場合には, 経路のスムースさ, 疼痛軽減の点から考えて, 右側ルート(右肋間ルート)を第一選択とし, 右前下枝(B5)→右前後枝合流部を目標胆管とする(図2b,c)。心窩部ルートと右肋間ルートの長所, 欠点を表1に示す。2)穿刺方法(1)胆道造影下直接穿刺法まず経皮経肝的胆道造影(PTC)あるいは経皮経肝的

胆嚢ドレナージ(PTGBD)を行い, その造影像から至適な胆管を選択してX線透視下に穿刺する方法である。狭窄部の末梢側から充分距離をとった部位からドレナージチューブが留置できる利点がある。(2)超音波誘導下穿刺一般的によく用いられる方法である。以下詳細を述

べる。3)One step法, two step法感染胆汁を腹腔内に漏出させないため, 4a以上の胆

管を目標にする場合は, 18G穿刺針によるone step法(図3)を原則としているが, 拡張が軽度の症例では,

21G穿刺針を用いたtwo step法を行うこともある。4)穿刺用器具(1)穿刺針の種類と特徴主に用いる穿刺針を図4a, bに示す。穿刺針は2重あ

るいは3重構造になっており, 先端の切れ込みが側方を向いたHuber針型や, Chiba needle型などのように全てが金属からなるものと, 外筒がプラスチックからなるエラスター針型に大別される。Huber針型は, 先端の切れ込み方向を胆管の走行に向け, ワイヤーが針先から出る時の方向性を操作できる利点がある。一方, エラスター針型は, 外筒が柔軟であるため, ワイヤーに沿わせて胆管内に挿入できる利点がある。(2)ワイヤーの種類と特徴主に用いるワイヤーを図4c~eに示す。通常, one

step法, two step法いずれの場合もドレナージチューブを留置する際には0.035インチを用いる。代表的なものについて説明する。① J型:先端がJ型にカーブした形状で, カーブ径より細い末梢胆管には進みにくい利点を持つが, 摩擦抵抗が高く, トルク性に欠け, 方向を操作するのは困難である。②ベンソン型:ストレート状で先端部が10b柔軟,スティッフシャフトになっている。胆管が屈曲・蛇行しJ型の先端が壁に当たり深く挿入できない場合に使用する。トルク性に欠けるが, ワイヤー先端が進まなくなっても, 柔軟部分が翻転し, 時にJ型

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左側(心窩部)ルート 右側(右肋間)ルート

利点 利点・血管損傷が少ない ・以後のIVR操作が容易・カテーテルが逸脱しても、再挿入可能な場合が多い ・照射野に手が入らない

欠点 欠点・操作中手が照射野に入る ・肋間動静脈損傷の危険性・以後のIVR操作に難渋することがある ・気胸の危険性

・胆汁性胸膜炎の危険性・カテーテル逸脱時には再挿入は困難・右側臥位がとれない

表1 穿刺ルートによる利点・欠点

a b c

図2 穿刺目標胆管a : 左側(心窩部)ルートb, c : 右側(右肋間)ルート

B3

B5 B8

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よりも大きな弧状を呈し, 最も拡張した胆管に翻転部が進むことがある。③アングル型親水性ワイヤー:先進性, 選択性にすぐれ, トルク性も高いが, 滑り抵抗性が低く, 形状記憶合金でできているため逸脱しやすい欠点を持つ。また, 金属針を使用した場合には, コーティングが切れ込み部に引っかかり, 動かなくなったり, はがれて胆管内に残ったりすることがある。(3)ドレナージチューブの種類と特徴

主に使用するドレナージチューブを図5に示す。形状はストレート型, ピッグテイル型, ρ型, バルーン付,太さは7~9 Fr.のものが使用される。形状付, およびバルーン付のものは, 胆管からのチューブ逸脱を防止する目的で用いられる。手元の糸をたぐり寄せて形状を付けるタイプのものは, チューブ入れ替えの時先端を伸ばしにくく, また抜去に際し糸が肝臓実質を傷つける恐れもある。バルーン付は, 留置されるチューブよりも一回り大きな径を持つピールアウェイシースが必要である。

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図3 One step法のシェーマa : 穿刺ルートに太い血管などの介在物がないよう, 穿刺目標胆管を慎重に決定する。b : 18G穿刺針にて一気に穿刺する。胆管内の穿刺針を矢印で示す。胆汁の逆流を確認する。c : ワイヤー(矢印)を挿入する。d : ドレナージチューブ(矢印)を留置する。

図4 穿刺針・ワイヤー・One punctureaccess kit

a : 上段は誘導針, 下段は穿刺針(US対応針18G ; クリエート)

b : Chiba needle(COOK)c : 0.035インチJ型 (COOK)d : 0.035インチベンソン型(COOK)e : 0.035インチラジフォーカスアングル型(テルモ)

f : 0.018インチCopeワイヤー(One puncture access kit ; COOK)

g : 5 Fr.ダイレータ(One punctureaccess kit ; COOK)

a b c d

f

g

a

b

dc e

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2. 患者管理1)術前ドレナージの必要性, 方法および合併症についての概

略を説明し同意を得る。特に, 左側ルートから行う場合には心窩部, 左肩~左頸付け根に, 右側ルートでは右肩~右頸付け根に強い放散痛がみられることがあり, 痛みに関する説明は十分しておく。また, PTBD後, 黄疸が改善するまでドレナージチューブが留置され, 胆汁採集バックを接続した状態で管理することも納得してもらう必要がある。2)術前検査ならびに前処置胆道系に移行しやすい抗生物質の皮内テストを行っ

ておく。前投薬としては, 出棟時に硫酸アトロピン0.5mとアタラックスP 25~50mを筋注する。ただし,体重や全身状態で調節する。3)術中術中の観察点のポイントは疼痛であり, 胆管穿刺時お

よびドレナージチューブ挿入時に強い痛みを訴えた場合には, ペンタジン15~30mを筋注, あるいは静注するが, 効果が低い場合には, 全身麻酔剤であるプロポフォール(ディプリバン:大日本製薬)を用いることもある。4)術後外瘻術後の早期・長期管理上の問題点および対処法

を表2に示す。PTBDの合併症は, ひとたび発生し放置すれば重篤になることが多いため, 術後数時間は頻回のチェックが必要である。挿入部に痛みが出現し, 胆汁排泄量が急激に減少ない

し消失した場合には, ドレナージチューブが胆管から逸

脱していることがあるので, 早急にドレナージチューブの位置確認が必要である。瘻孔が形成された後(通常留置後1週間以降)では, 同じ穿刺部位から再度ドレナージチューブ挿入が可能な場合があるが, それ以前では,胆管が減圧されているため再度胆管が拡張してくるまで再留置は極めて困難である。3. 手技の実際1)PTBDの実際(one step法)麻酔→穿刺→ワイヤー挿入→ドレナージチューブ挿

入→ドレナージチューブ固定の順に手技を進める。(1)穿刺前①皮膚消毒右側胸部~心窩部にかけて広範囲に消毒を施し, 清潔敷布で覆う。②表面麻酔把持する手の一部が必ず患者の体に固定されるようにして穿刺用プローブを操作し, 穿刺目標胆管が太く長く描出される部位を確認する。呼吸停止が不能な症例では, できるだけ呼気の状態で穿刺を行う。麻酔時, 超音波の障害とならないよう, 注射器の脱気は厳重に行う。深部を麻酔する時には, 肝に針先が刺入されていることがあるので, 呼吸停止下に行う。腹膜前組織まで充分に麻酔を施す。③皮膚小切開, 筋膜まで十分拡張皮下組織の拡張操作は, 筋膜まで十分拡張する。その際, 直のモスキート鉗子を押しながら開いたり閉じたりする。筋膜を破る時には「プツッ」という手応えを感じる(図6a~c)。

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図5 ドレナージチューブa : 7.2 Fr.ドレナージチューブ(COOK)b : 8.5 Fr.ウルトラサンドレナージチューブ(COOK)c : 8 Fr. pig-tail catheter (シーマン)d : 7.2 Fr.ρ型PTCDチューブ (クリニカルサプライ)

a

b

c

d

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・術後2~3時間は絶対安静, バイタルサイン, 尿量, 悪寒,発熱, 疼痛の有無のチェック

→多量の胆汁排泄による迷走神経反射でショックをきたすことあり

・帰室時より水分可, 食事は回診後状態に変化なければ流動食可・胆汁流出状況, 量, 色, 性状の観察

→血性胆汁・流出不良の場合は生食5pをゆっくり注入・排泄を繰り返す

・翌朝まで静脈確保・抗生物質は術後1週間投与・ドレナージチューブの管理

→挿入部付近に痛みが出現したらカテーテルが逸脱していることがあるので透視で確認

表2 PTBD後の早期管理および長期管理上の問題点とその対処法

・胆汁の体外喪失に伴う体液・電解質バランスの失調→定期的な血液生化学検査→早期の内外瘻化・内瘻化

・減黄不良, 胆管炎症状→胆道造影やCTにてドレナージ不良域の存在を確認→追加留置, チューブ先端の位置替え

・胆汁流出量減少, 感染胆汁の流出→チューブの移動・逸脱がないか確認→位置替え, あるいは再留置

・挿入部固定のゆるみ, 感染による皮下膿瘍→固定のやり直し, 創傷処置

・挿入孔より胆汁漏出→チューブ逸脱の前駆症状→胆道造影, 位置替え, 再留置→早期内瘻化

ドレナージチューブ挿入部痛・胆汁流出量低下を認めたら透視で確認せよ!

(2)穿刺(図7a)Huber針型の穿刺針を使用する場合について述べる。

誘導針のエコーが画面上の穿刺ラインに沿っていることを確認しながら, 腹膜直前まで刺入する。次に患者に軽く呼吸停止させ, 18G穿刺針で穿刺するが, 肝表面に刺入されたら一度針を止め, 穿刺ラインとのずれを確認するような気持ちで一気に穿刺する。胆管前壁穿刺が理想的であるが, 後壁を貫いても問題はない。肋間経路では, 肋間動静脈の損傷を避けるため肋骨上縁で穿刺するようにする。エラスター針では誘導針は不要である。(3)胆汁逆流の確認(図7b)穿刺針が動かないよう誘導針を腹壁から抜去後, 穿刺

針の内筒を抜き胆汁の逆流を確認する。以後の操作に際し, 穿刺孔からの胆汁漏出を防止するため胆汁を少量吸引しておく。次のワイヤー操作のために造影を行う場合もあるが, 造影剤の注入量は最小限にとどめ, 採取した胆汁量以上に注入することがないようにする。胆汁の逆流がみられない場合には, 2p注射器で軽い

陰圧をかけながら, ゆっくり穿刺針を引いてくる。胆汁の逆流があれば以後の操作に進むが, ない場合には血液の逆流がみられないことを確認し再穿刺を行う。(4)ワイヤー挿入(図7c)透視下(あるいは超音波ガイド下)に0.035インチJ型

ワイヤーを挿入する。針の切れ込みが目標とする方向に向くよう調節する。エラスター針では親水性ワイヤーを用いて外筒を安全な位置まで進めながら, 狭窄部位までワイヤーを到達させる。肝門部狭窄例など, 胆管刺入部位から狭窄部位までの

距離が短い場合には, ドレナージチューブを挿入する際にワイヤーが反跳しないよう, 胆管内に入っているワイヤーの長さを稼ぐためにUターンさせる。また, ワイヤーが深く挿入できなかったり, イメージ

した走行をとらない時や, 穿刺針が胆管内にあるように見えても, 切れ込みの一部が胆管内・一部が胆管外に位置する場合にはワイヤーが胆管外(グリソン鞘)に挿入されていることがある(図8)。胆管の走行を確認する目的で少量の造影剤を注入し胆管の走行を確認する。胆管であれば, 肝門部方向にゆっくり流れていくか, 樹枝状に溜まってくる。ワイヤーが末梢にしか行かない時は, seeking

catheterを用いた操作か, 親水性ワイヤーで目的の胆管を探る。またはベンソン型ワイヤーを挿入し, ワイヤー先端部がこれ以上進められなくなった状態で, 穿刺針を胆管内から少し抜去しながらワイヤーを進めると, ワイヤーの柔軟部が翻転して肝門部へと進むことがある。どうしても成功しない時には, とりあえず末梢にドレナージチューブを留置し, 後日造影の上, 位置変更を行う。(5)ドレナージチューブ挿入(図7d)目的の部位までワイヤーを挿入できたら, 穿刺針を抜

去し, ドレナージチューブを挿入する。筋層・筋膜が十分に拡張されていれば, ダイレータでの拡張操作なしで10 Fr.程度のドレナージチューブまで一期的に挿入可能である。ドレナージチューブが腹壁と肝臓の間にたるみが生

じ, 挿入困難な場合には, ワイヤーができる限り直線になるよう呼吸, あるいは腹部の膨らませ具合を調節し,ドレナージチューブを捻りながら挿入する。または5 Fr.程度のチューブをまず挿入し, スティッフタイプ(Coons型あるいはAmplatz型)のワイヤーに交換し, ドレナージチューブ挿入を行う。それでもたわんで挿入できない時には, ドレナージチューブよりやや大きなサイズまで, ダイレータを用いて経路を順次拡張する。初回から無理をして大きなチューブを入れる必要は

ない。ドレナージチューブに交換する際, 親水性ワイヤ

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図8 グリソン鞘へのガイドワイヤーの逸脱穿刺針が胆管内にあるように見えても, 切れ込みの一部が胆管内・一部が胆管外に位置する場合, ワイヤーがグリソン鞘に挿入されることがある。

図7 PTBD実際の手技a : 超音波画面上の穿刺ラインを目標胆管にあて, 18G穿刺針で一気に穿刺する。b : 胆汁の逆流を確認する。胆汁を少量吸引する。c : 透視下に0.035インチJ型ワイヤーを挿入する。d : 目的の部位までワイヤーが挿入できたら, 穿刺針を抜去し, ドレナージチューブを挿入する。e : ドレナージチューブを皮膚に固定して手技を終了する。

図6 皮下組織・筋膜の拡張a : 皮下組織の拡張操作は, カテーテルを滑らかに挿入するうえで非常に重要。

b : 筋膜まで十分拡張。直モスキート鉗子で皮下組織・筋膜を押しながら, 開いたり閉じたりして拡張する。

c : 筋膜を破る時には「プツッ」という手応えを感じる。

a b c

d e

c

b

a

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ーは逸脱しやすいので用いない方が無難である。(6)ドレナージチューブの固定(図7e)腹壁にドレナージチューブを固定し, 手技を終了す

る。固定板はドレナージチューブ固定が確実ではあるが, 刺入部を覆ってしまうため, 消毒が不十分となり感染をきたしやすくなる。(7)胆汁吸引・細胞診胆汁細胞診, 細菌感受性試験に提出する。ただし, 胆管の圧を急激に減圧すると, 迷走神経反射により血圧低下をまねくことがあるので, 必要量のみ吸引するにとどめる。2)Two step法Two step法では, 21 G穿刺針で穿刺し, 陰圧をかけな

がら穿刺針をゆっくりと引き, 胆汁が吸引されたら, 胆管の走行が解る程度に2倍希釈の造影剤を少量投与し,0.018インチCopeワイヤー(図4f)のスティッフシャフト部が少なくとも胆管内に入るまで挿入する。その後5Fr.ダイレータ(図4g)で経路を拡張し, 内筒を抜去して0.035インチワイヤーに交換, 以降はone step法と同様の操作でドレナージチューブを留置する。

手技に伴う合併症とその対策

重篤な合併症として, 以下が挙げられる。1. ショックショックは, 胆管穿刺後造影剤を注入した場合など,

胆道内圧が急激に上昇し, 感染胆汁が血液中に逆流して起こる「エンドトキシンショック」や, 逆に胆汁の急激な排泄による迷走神経反射が原因と考えられる「胆道減圧性ショック」がある。造影剤を用いる場合には, 吸引した胆汁量より少な目の量にとどめる。いずれにせよ, 対症的治療を行うとともに, PTBDが成功すれば重篤な状態に移行することはない。2. 出血胆道出血(hemobilia)は, 胆管穿刺経路に門脈, 肝静

脈, 肝動脈などが介在する場合が一般的な原因であるが, 時に肝細胞癌で胆管内腫瘍塞栓を伴っている例では, ワイヤーやドレナージチューブにより腫瘍からの出血をきたすことがある。穿刺針から血液の逆流がみられたら, まずは造影し原

因を明らかにする。肝静脈ならそのまま抜去してもよい。門脈なら血管外まで抜去し, 血液の逆流がなければしばらく放置する。肝表面になってもまだ血液の逆流がある場合には, 穿刺針を介して塞栓を行う。塞栓物質にはまず自己凝血塊(2pの注射器に穿刺針から血液を吸引し, 空気と混ぜて放置し凝固させたもの)を用いる。それでもまだ血液の逆流が見られる場合には, 「こより状」にしたゼラチンスポンジ(スポンゼル;山之内)を外筒に入れ, 内筒で押し出してルートの塞栓を行う。動脈性出血では, ルートを「こより状」にしたスポン

ゼルでの塞栓が成功することもあるが, 血管造影で破綻した肝動脈を塞栓する方法が確実である。胆管内腔が凝血塊によりドレナージ不良となること

を防ぐためには, 生食での洗浄を繰り返す。胆道出血のほとんどはこの操作により改善する。時に穿刺部位からの出血が止まらなかったり, 洗浄しても止血されない場合には, 一回り太いドレナージチューブに交換し圧迫止血を試みる。3. 胆汁性腹膜炎・胸膜炎胆汁性腹膜炎は, 感染胆汁が腹腔内に漏出して起こ

る。局所的であれば問題ないが, 汎発性腹膜炎をきたすと, 緊急ドレナージ手術が必要となる。胸腔への胆汁漏出がみられた場合には, 早急に胸水排

液後, 内外瘻あるいはステント留置を行う必要がある。4. 気胸右肋間ルートをとった場合, 胸腔を介して穿刺が行わ

れると気胸をきたすことがある。経路拡張に際し, 胸壁を貫いた時, 空気が「シュッ」と入っていく場合には, すぐに指で切開部を塞ぐようにしないと, 局所的な気胸を併発し, 超音波の障害となる。軽度の場合特に処置は必要ないが, 呼吸困難などの症状が出現したら, 胸腔ドレナージが必要となる。気胸の発生を少しでも防止するためには, 穿刺前に透視で穿刺経路と横隔膜の位置を確認することも役に立つ。

保険に関する一口メモ

保険請求は,「K682-2 胆管外瘻造設術 2 経皮経肝によるもの」11,200点であるが, 挿入時に行う画像診断及び検査の費用は算定できない。カテーテルセットは, 24時間以上体内留置した場合に算定できるが, セット化されていない穿刺針, ワイヤー, ダイレーターなどを使用すると別途には算定できない。当院で使用しているPTBDに係る材料費は, 穿刺針

(18G US対応針;クリエート)6,000円, 7.2 Fr.ストレート型PTCDチューブ(COOK)14,500円, 0.035インチJ型ワイヤー(COOK)4,980円の計25,480円である。Twostep法の時には, 1ステップドレナージセット(COOK)23,700円が, ダイレータ(COOK)を使用した場合には1本2,950円が追加されるが, 償還価格が設定されているのは, 7.2 Fr.ストレート型PTCDチューブ 14,500円のみである。

おわりに

PTBDは, IVRの中でも特に疼痛を伴う手技であるため, 何回も穿刺したり, ワイヤーやドレナージチューブ挿入に時間がかかると, 患者に多大なる苦痛を与える。したがって, 次の治療のことも念頭に置きながら, 適切な穿刺経路を慎重に選択し, 穿刺からドレナージチューブ留置まで余計な拡張操作などはできるだけ省略して,腹腔内に胆汁を漏らすことなく短時間で終了することを心がけることが必要である。最も重要なことは, 一度手技を開始したら, 絶対成功

してみせるという心がけで行うが, 無理はしないということであろう。

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