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移りゆくデータ活用基盤のトレンド

~ クラウド・シフトの進展とAIサービスの台頭 ~

株式会社アイ・ティ・アール

C18060109

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目 次

第 1章 企業におけるデータ活用の実態.................................................................................... 1

経営ニーズとして浮上するビッグデータ活用 .............................................................. 1

期待と現実のギャップ .................................................................................................. 2

企業が抱えるデータ活用の課題 ................................................................................... 3

第 2章 データ活用基盤のトレンド ........................................................................................... 6

ばらつきが見られるデータ活用の実施状況 ................................................................. 6

クラウド・シフトが進む DWH市場............................................................................. 7

データ活用基盤におけるクラウドの価値 ..................................................................... 8

変化する勢力図 ............................................................................................................. 9

第 3章 台頭する AIサービス ................................................................................................... 10

多様化する AI活用の目的 .......................................................................................... 10

AIサービスの利用動向 ............................................................................................... 11

クラウドによって促進される AIの民主化 ................................................................. 12

第 4章 データ活用の高度化に向けたステップ ...................................................................... 14

データ活用の高度化を阻む課題 ................................................................................. 14

データ活用の高度化に向けた4つのステップ ............................................................ 15

データ活用基盤としてのクラウド活用のポイント .................................................... 17

提言 ................................................................................................................................................. 20

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移りゆくデータ活用基盤のトレンド ~クラウド・シフトの進展とAIサービスの台頭~

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第1章 企業におけるデータ活用の実態

「ビッグデータ」というキーワードに注目が集まるようになって久しい今日であるが、AI(人工知能)の実用化が進展するなかで、改めてデータ活用に対する期待が高まっている。情報システム部門は、経営陣および事業部門からのニーズに応じるべく、データ活用基盤の整備を迫られている。

経営ニーズとして浮上するビッグデータ活用

業務のデジタル化の進展に伴い、企業が保有するデータの種類・量は確実に増加し

ている。それらのビッグデータをいかにビジネス上有用な資産に変えるかが、今日の

企業にとって重要なテーマとなっている。近年の傾向として注目されるのが、経営・

事業部サイドにおいて、特にそのニーズが高まっているということである。

ITRでは2018年4月、従業員1,000人以上の国内企業を対象に、データ活用とAIに関

する意識調査を行った(有効回答:270件)。その結果、「経営者からビッグデータや

AIを活用したイノベーションが強く求められている」とした回答者は「やや当てはま

る」も含めれば85%、「現場の事業部門においてビッグデータやAIを活用したいとの

要望が強い」とした回答者も79%に上った(図1)。その背景には、社内においてデー

タに基づくビジネス上の判断や意思決定が重視されるようになっていること、競合他

社においてデータを活用した成功事例が出始めているといった事情がある。

図1 ビッグデータ/AI活用に対する企業の意識

出典:ITR(2018年4月調査) ※数値は四捨五入であり、合計値が100%にならない場合がある

37%

30%

32%

23%

49%

49%

46%

50%

13%

18%

20%

20%

2%

4%

2%

7%

0% 25% 50% 75% 100%

経営者からビッグデータやAIを活用したイノベーションが強く

求められている

現場の事業部門においてビッグデータやAIを活用したいとの

要望が強い

自社において、データに基づくビジネス判断や意思決定が

重視されるようになっている

競合他社において、ビッグデータやAIを活用した成功事例が

生まれている

まさに当てはまる やや当てはまる あまり当てはまらない まったく当てはまらない

(N=270)(N=270)

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データ活用の具体的な用途も拡大する傾向にある。現時点で活用が先行しているの

は「販売促進/宣伝/マーケティング」分野であり、ビジネスの現状を適正に把握し

ようとする企業の意向が明確に反映されているが、今後強化したいと考えている用途

はそれ以外のさまざまな分野に及んでいる(図2)。なかでも、設備・機器の保守・メ

ンテナンスに関わる「異常・障害予測」や、生産活動に関わる「需要予測・生産計画」

などの予測系、「市場分析・競合分析」「リスク分析」に代表される経営企画系など

についてはデータ活用の意欲が高い。また、労働人口が減少するなかで注目されてい

る「働き方改革、モチベーション向上」についてもスコアが大きく上昇している。今

後は、売上げや利益に直接かかわるデータだけでなく、足元の経営基盤を支えるため

にもデータ活用が強く求められると考えられる。

図2 データ活用の主な用途

出典:ITR(2018年4月調査)

期待と現実のギャップ

しかしながら、そうしたデータ活用ニーズの高まりに対する受け皿は必ずしも整っ

ているとは言えない。今回の調査対象となった企業のうち、「情報システムがデータ

活用の要望に十分に応えられていない」とした割合は、「まさに当てはまる」「やや

34

%

33

%

26

%

18

%

12

%

12

%

16

%

23

%

12

%

30

%

20

%

30

%

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20

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13

%

19

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22

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11

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15

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22

%

7%

9% 1

0% 12

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13

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1%

16

% 19

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14

% 15

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%

21

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% 29

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%

16

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% 17

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9%

13

%

13

%

20

%

1%

0%

10%

20%

30%

40%

売上

伝票

・P

OS分

Eコマー

ス/W

ebアクセス分

ソー

シャル

ネットワー

ク分

センサー

などによる顧客行動分析

クー

ポン発

行、レコメンデ

ーション

プロモー

ションの

効果

測定

コンタクトセンター

の自

動応

VO

C(顧

客の

声)の

分析

チャットボット

異常

・障

害予

保守

業務

、人

材配

置の

適正

経営

情報

の可

視化

と分

市場

分析

・競

合分

予実

管理

リスク分

ロジスティクス

/配送

管理

在庫

管理

需要

予測

・生

産計

製造

品質

改善

・不

良品

検知

スキ

ル・ノウハ

ウ継

材料

・素

材開

発(M

I)

実験

デー

タ解

創薬

・ゲ

ノム

解析

新人

採用

人材マッチング、組織開発

人事評価、目標管理

働き方

改革

、モチベー

ション向

その

販売促進/宣伝/マーケティング 顧客サービス 保守・メンテ

ナンス

経営企画 流通/物流 生産 研究開発 人事・従業員管理 その

現在の用途 今後強化したいと考えている用途

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移りゆくデータ活用基盤のトレンド ~クラウド・シフトの進展とAIサービスの台頭~

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当てはまる」を合わせると70%を超えている(図3)。情報システム部門では、今後

経営からのニーズに応えるためにデータ活用に関する現行のシステムやプロセスを

見直す必要があることは明らかである。

図3 「情報システム部門がデータ活用の要望に十分に応えられていない」と感じる割合

出典:ITR(2018年4月調査)

企業が抱えるデータ活用の課題

では、具体的にどのような点がデータ活用の課題として認識されているのであろう

か。10項目の典型的な課題を取り上げ、各項目がどの程度該当するかについて回答を

求めた結果が図4である。

興味深いのは、データの分析ノウハウや戦略、セキュリティ・リスクへの対応といっ

た活用そのものに関わる項目以上に、データの収集、蓄積、処理、システム運用といっ

たデータ基盤にかかわる課題で悩んでいる企業が多いということである。これは、IT

インフラ整備を担う情報システム部門にとって無視することのできない傾向である。

仮に、ビジネスの競争力につながるデータ活用の取り組みが、システム側の不備に

よって十分に進まないという事態が生じるようなことになれば、当然ながら攻めのIT

戦略など到底おぼつかない。

情報システム部門においては、これまで以上にデータ活用のための基盤整備に意識

を振り向け、自社に適した環境を先取りして準備しておく姿勢が求められる。

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図4 データ活用に関わる課題認識

出典:ITR(2018年4月調査)

課題解決に向けて、情報システム部門が特に重視すべきは以下の3点であると考え

られる。

増え続けるデータ量への対応

業務のデジタル化の進展、モバイルデバイスやIoTセンサーの普及に伴うデータの

種類の多様化、さらにはネットワークの高度化などにより、企業が取り扱うデータ量

は爆発的に増加している。自社で生成されるデータ量もさることながら、外部から受

け取るデータ量も当然ながら増加するためである。この傾向は今後も加速すると見ら

れており、総務省が発行する『情報通信白書(平成29年版)』には、全世界のデータ

流通量が2015年から2020年にかけて年平均22%(5年間で約2.7倍)で増大するとの

予測が紹介されている。それらの大量データを適正に保管し、処理できる環境を整え

ることは、データ基盤の必須条件となる。

また、データの有効活用を考えれば、異なるソースから収集されたデータを、用途

データ基盤の視点

データ活⽤の視点

24%

19%

24%

16%

25%

29%

17%

19%

13%

13%

53%

58%

53%

57%

54%

53%

47%

49%

50%

51%

20%

21%

20%

23%

19%

15%

29%

28%

32%

28%

2%

2%

3%

4%

3%

3%

7%

4%

6%

9%

0% 25% 50% 75% 100%

増大するデータ量に基盤整備が追いついていない

データ処理のパフォーマンスが不足している

データの所在が分散しており、統合的な活用ができない

データ基盤システムの運用・保守にかかる工数が負担となっている

データ基盤システムの運用を担うエンジニアが不足している

データ分析を行える人材が不足している

経営層も含めて、企業内でのデータ活用に対する理解がない

データ活用が現場任せであり、全社的な戦略が存在しない

情報漏洩などのセキュリティリスクへの対策が不十分である

どのようなデータを活用したらよいかがわからない

まさに当てはまる やや当てはまる あまり当てはまらない まったく当てはまらない

(N=270)

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移りゆくデータ活用基盤のトレンド ~クラウド・シフトの進展とAIサービスの台頭~

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をまたいで統合的に利用できるようにしておくことも求められる。

人材の確保

データ活用を巡っては、主に分析をつかさどる「データ・サイエンティスト」の不

足がとかく指摘されるが、今回行った調査では、データ基盤システムを担う「データ・

エンジニア」が企業で不足しているという実態も明らかとなった。RDBMSやスト

レージ、データウェアハウス(DWH)、分散処理技術などに精通し、データ基盤の構

築・運用・保守を担える人材の獲得・育成にも注力することが求められる。

データ活用基盤の近代化

上述のような課題を克服するうえでは、現行のデータ活用基盤そのものの見直しも

必要になると考えられる。データの「収集」「蓄積」「処理」「集計/検索」「機械

学習」「レポーティング」といった、データ活用のライフサイクル全般にわたって、

ビッグデータへの対応を進めなければならない。スケーラビリティとコストの両立と

いう観点から、クラウドベースの基盤へと切り替えを図ることが望ましいと考えられ

る。

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第2章 データ活用基盤のトレンド

データ活用の高度化は全ての企業において達成すべき目標であるが、現時点の達成レベルには大きなばらつきが見られる。今後、データ活用基盤を整備する予算と人的リソースの不足といった障壁を乗り越えるための手段としてクラウド環境は極めて魅力的であり、事実、市場のクラウド・シフトが着実に進行している。

ばらつきが見られるデータ活用の実施状況

一口にデータ活用と言っても、現時点での企業の取り組み状況はさまざまである。

企業におけるデータ活用・分析の実施状況について回答を得たところ、25%の企業が

マイニングや統計による探索型のデータ分析や、機械学習・AI技術を活用して推論や

予測を行うレベルに到達している一方で、30%の企業では担当者が個別にPC上で分

析を行うか、それ以前の状態であり、データ活用・分析の実施レベルは企業によって

大きく異なるものとなっている(図5)。

また、組織的にデータの収集を行っている企業は全体の70%に及んでおり、これら

の企業ではすでに何らかの分析用データベースが構築されていると考えられる。

図5 データ活用・分析の実施状況

出典:ITR(2018年4月調査)

特に行っていない

7%

担当者が個別にPC上で

分析を行っている23%

定型データを組織的

に収集して分析を行っている

21%

定型データに加えて非定

型データも組織的に収集し

て分析を行っている

24%

マイニングや統計による探索

型のデータ分析を行っている10%

機械学習・AI技術を活用して

推論や予測を実施している15%

(N=270)

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クラウド・シフトが進むDWH市場

このようにデータ活用・分析の実施レベルは企業によってさまざまであるが、デー

タ活用基盤の運用形態はどのようなものであろうか。データ活用基盤の運用形態につ

いて尋ねたところ、現在は、半数の企業が自社内にデータベースを設置して管理する

オンプレミスを採用しているが、今後については、クラウドサービスを利用したデー

タ管理が有力と考える企業が約半数に上り、逆転するものと見られる(図6)。

このような現状と将来における変化は、実際の製品・サービスの市場シェアにも表

れている。図7は、ITRが市場調査を行ったDWH用DBMS市場の提供形態別の売上金

額シェア(2015~2017年度予測)である。なお、この売上金額は新規ライセンス売上

げ(一部、アプライアンス製品、SaaS、サブスクリプション売上げを含む)を対象に

算出している。

この図から、2015年度には約34%であったクラウド(図中ではSaaS)が、2016年

度にはオンプレミス(図中ではパッケージ)と拮抗し、2017年度(予測値)には大き

く逆転するというクラウド・シフトのトレンドが明確に見て取れる。

図6 データ活用基盤の運用形態(現在/今後)

出典:ITR(2018年4月調査)

54%

29%

28%

24%

18%

48%

0% 25% 50% 75% 100%

現在のシステム環境

今後有力だと考えるシステム環境

自社内にデータベースを設置してデータを管理する(オンプレミス)

自社データベースを社外のデータセンターに設置してデータを管理する(ホスティング)

クラウドサービスを利用してデータを管理する

(N=189)

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図7 DWH用DBMS市場:提供形態別売上金額シェア(2015~2017年度予測)

出典:ITR「ITR Market View:DBMS/BI市場2018」

データ活用基盤におけるクラウドの価値

このようなクラウド・シフトを引き起こす要因のひとつと考えられるのが、図5で

示したような企業におけるデータ活用レベルのばらつきである。

データ活用レベルを高度化させ、次のレベルに上がるためには、データ活用基盤の

大幅な拡張もしくは刷新が必要となる。例えば、「個人PCによる分析」レベルにある

企業が、定型データを組織的に収集して分析する「定型的な分析」レベルに上がるに

は、RDBMSを導入し、分析用データベースを構築する必要がある。分析用データベー

スの構築は、すでに多くの企業(図5では70%の企業)が実施済みであるが、現時点で

「個人PCによる分析」レベルにとどまっている企業にとっては、従来通りのオンプレ

ミス形態での構築において導入予算や人的リソースの不足といったことが課題に

なっていると考えられる。一方で、データ活用の高度化は全ての企業において達成す

べき目標であるため、これからDWHを構築する企業においては、より安価で、構築

のための工数が削減できるクラウドでの導入形態が、課題を解決する手段として採用

されるのは自然な流れといえよう。

66.1%

53.3%

38.7%

33.9%

46.7%

61.3%

0%

25%

50%

75%

100%

2015年度 2016年度 2017年度

(予測値)

SaaS

パッケージ

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一方で、分析用データベースを構築済みの企業においても、既存のオンプレミス資

産の老朽化やサポート切れに伴い、クラウドへの置き換えを検討することが一般的で

ある。運用コストの軽減を目的としたIaaSの検討はもちろんのこと、データ活用レベ

ルの高度化に向けて必要な新技術を導入するためにPaaSを検討するケースも増加し

ていると考えられる。

変化する勢力図

このようなクラウド・シフトのトレンドを背景に、クラウド形態でのDWH用DBMS

の導入が急激に増加しているが、同時に市場でのベンダー勢力図も大きく変化してい

る。図8は、SaaS型DWH用DBMS市場のベンダー別売上金額推移およびシェア(2015

~2017年度予測)である。

これによると、2015年度から2017年度にかけて市場全体が3倍以上に拡大している

と同時に、2015年度にはAmazon Web Services(サービス名:Amazon Redshift、

Amazon Athena)の1強であったベンダー勢力図が、2017年度にはGoogle Cloud (サー

ビス名:Google BigQuery)も加えた2強へと変化している。

図8 SaaS型DWH用DBMS市場:ベンダー別売上金額推移およびシェア

(2015~2017年度予測)

出典:ITR「ITR Market View:DBMS/BI市場2018」を基に一部ベンダー名の表記を変更

(単位:百万円)

金額 シェア 金額 シェア 前年比 金額 シェア 前年比

1 Amazon Web Services 1,200.0 88.2% 1,700.0 71.4% 141.7% 2,450.0 53.6% 144.1%

2 Google Cloud 100.0 7.4% 500.0 21.0% 500.0% 1,500.0 32.8% 300.0%

3 IBM 10.0 0.7% 80.0 3.4% 800.0% 300.0 6.6% 375.0%

4 マイクロソフト 0.0 0.0% 10.0 0.4% ― 150.0 3.3% 1500.0%

5 三菱電機インフォメーションネットワーク 5.0 0.4% 8.0 0.3% 160.0% 9.0 0.2% 112.5%

その他 45.0 3.3% 82.0 3.4% 182.2% 161.0 3.5% 196.3%

合 計 1,360.0 100.0% 2,380.0 100.0% 175.0% 4,570.0 100.0% 192.0%

位 ベンダー

2015年度 2016年度 2017年度(予測値)

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第3章 台頭するAIサービス

今日のデータ活用ニーズの高まりの背景として、AI/機械学習技術の実用化があることは確かである。今回実施した調査でも、多くのデータ量を保有し、その活用レベルが高い企業ほど、AIの取り組みに前向きな傾向が見られた。本章では、データ活用のネクストステップとしてAI/機械学習にまつわる動向を紹介する。

多様化するAI活用の目的

AI(人工知能)は、今日最も注目を浴びているITキーワードのひとつであるが、そ

れによって企業が得ようとしている効果はさまざまである。今回実施した調査では、

「人為ミスや事故の防止」と「経営に関わる状況判断や予測の高度化」の2項目がほぼ

並んで上位となった(図5)。労働力の減少に代表される社会変化や不透明なビジネス

環境への対応が重視されていることがうかがえる。

だが一方で、ビジネスを拡張するための手段としてAIを活用したいと考える企業も

少なくない。「埋もれた知識・ノウハウの発掘」「新製品・新サービスの創出」といっ

た項目についても、それぞれ25%超の企業が期待を寄せている。特に後者の効果は、

データ活用レベルが現時点で成熟している企業において強く重視されており、AIが競

争力向上のための武器と認知されつつあることがわかる。

図9 AI(人工知能)に期待する効果

出典:ITR(2018年4月調査)

40%

40%

28%

26%

23%

24%

12%

0%

4%

4%

0% 10% 20% 30% 40% 50%

人為ミスや事故の防止

経営に関わる状況判断や予測の高度化

埋もれた知識・ノウハウの発掘

新製品・新サービスの創出

従業員の代替

顧客との接点/コミュニケーションの強化

既存事業の売上げ向上

その他

当てはまるものはない

わからない (N=270)

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移りゆくデータ活用基盤のトレンド ~クラウド・シフトの進展とAIサービスの台頭~

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AIサービスの利用動向

AIは、単一のソリューションではなく、現時点では人間の脳機能の一部を代替また

は補完するプログラム機能の総称である。したがって、「AI」として提供されている

サービスもおのずと多様化している。今回の調査で主要なAIサービスの利用動向を問

うたところ、現時点では「画像認識」と「文字認識/OCR」の利用が先行しており、

続いて「顔認識」「動画認識」「音声認識」が続く結果となった(図10)。

こうした人間の目や耳の機能を補完する認知技術は、すでに多くのベンダーから学

習済みモデルを活用したサービスとして提供されており、当面の間、市場を牽引する

と見られるが、今後に向けては「機械学習サービス」「ディープラーニングサービス」

によって、自前のデータを活用してより幅広い用途に対応できるAIシステムの構築を

指向する企業が増えると予想される。

図10 AIサービスの利用動向

出典:ITR(2018年4月調査)

41%

20%

21%

29%

7%

6%

16%

10%

10%

9%

12%

6%

15%

11%

15%

12%

9%

17%

12%

6%

10%

8%

8%

10%

10%

11%

10%

7%

5%

9%

10%

11%

11%

15%

16%

11%

13%

12%

14%

8%

14%

13%

13%

10%

12%

15%

16%

19%

0% 10% 20% 30% 40% 50% 60% 70%

画像認識

動画認識

顔認識

文字認識/OCR

感情認識

性格分析

音声認識(Speech-to-Text)

音声合成(Text-to-Speech)

音声アシスタント

自動対話(チャットボット)

言語翻訳

自然言語分類

Web検索/トレンド検索

知識探索

機械学習サービス

ディープラーニングサービス

実用化しており、一定の成果を

上げているもの

試行段階のもの

今後、利用したいもの

(N=270)

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クラウドによって促進されるAIの民主化

前章で述べたデータ活用基盤と同様に、AIの分野でもクラウドサービスによって、

企業が技術を活用する敷居は下がりつつある。今日の市場において、AI環境を実現す

るためのクラウドサービスの活用方法としては、大きく以下の3つが存在する。

AIインフラサービス

クラウドのIaaS上で、AIに適した仮想マシンを構築するもの。チップ、スト

レージ、機械学習ライブラリなどを選択するかたちで構成する。

機械学習サービス

デプロイ済みの機械学習環境をサービスとして提供するもの。利用できるフ

レームワークの制限はあるが、自前のデータを用いてさまざまな角度から学

習・推論を行うことができる。

学習済みAIサービス

プロバイダーが学習させたモデルをAPIで呼び出して各種アプリケーション

から利用可能とするもの。特定の機能に特化したサービスが中心であり、AI

の専門知識を持たないユーザーでも利用することができる。

現在は、手軽に利用できる学習済みAIサービスに注目が集まっており、主要ベン

ダーから多数のサービスが提供されている(図11)。特定の用途に絞ってAIの価値を

実感する手段としては有効と言える。

ただし、競争力向上につなげるデータ活用の一貫としてAIを捉えるのであれば、自

前のデータを活用した学習と推論が不可欠となるであろう。今後は、機械学習サービ

スやAIインフラサービスの敷居をいかに下げるかが、ベンダー各社にとって大きな

チャレンジとなろう。

その意味で、機械学習サービスの進化系として注目されるのが、Google Cloudが

2018年1月に発表した「Cloud AutoML」である。同サービスは、ユーザーが自前の

データを読み込ませるだけで当該データに適した機械学習モデルを自動生成できる

という特徴をもつ。生成されたモデルは、学習済みAIサービスと同様にAPIを介して

アプリケーションから利用することができる。

このようにクラウドサービスは、「AIの民主化」にも大きく寄与すると期待される。

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移りゆくデータ活用基盤のトレンド ~クラウド・シフトの進展とAIサービスの台頭~

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図11 主要ベンダーのAIサービス一覧

出典:公開情報を基にITRが作成

Amazon WebServices Google IBM Microsoft 富⼠通 NTTドコモ

画像認識 画像認識 画像認識

画像分類

顔認識 Face API

感情・表情認識 Emotion API

⽂字認識 ⼿書き⽂字認識 ⽂字認識

動画分析 AmazonRekognition Video

Cloud VideoIntelligence API Video Indexer

⾳声認識(Speech-to-Text)

AmazonTranscribe Cloud Speech API Speech to Text Bing Speech API ⾳声テキスト化 ⾳声認識

⾳声合成(Text-to-Speech) Amazon Polly Cloud Text-to-

Speech API Text to Speech ⾳声合成 ⾳声合成

⾳声翻訳  Translator Speech

API

話者認証 SpeakerRecognition API

⾃動対話 Amazon LexAmazon Polly

DialogflowEnterprise Edition Conversation 対話型Bot for FAQ 雑談対話

シナリオ対話

⾔語翻訳 Amazon TranslateCloud TranslationAPI

LanguageTranslator

Translator TextAPI

⾃然⾔語分類 AmazonComprehend

Cloud NaturalLanguage API

Natural LanguageClassifier

性格分析 PersonalityInsights

感情認識 AmazonComprehend

Cloud NaturalLanguage API Tone Analyzer 感情認識

Web検索 Retrieve and Rank Bing Web SearchAPI

トレンド記事抽出交通検索

探索 DiscoveryKnowledgeExplorationService

知識情報検索知識情報構造化 知識Q&A

テキスト分析Cloud NaturalLanguage API

Natural LanguageUnderstanding Text Analytics API ⾃然⽂解析 ⾔語解析

リコメンデーション RecommendationsAPI

予測 予測

その他 機械学習 Amazon MachineLearning

Cloud MachineLearning Engine、Cloud AutoML

Watson MachineLearning

Azure MachineLearning

Zinraiディープラーニング

⾳声系

知識・検索系

⾔語系

Visual Recognition

AmazonRekognition

Computer VisionAPI

Cloud Vison API

ベンダー名

視覚系

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第4章 データ活用の高度化に向けたステップ

データ活用の高度化には、いくつかのステップがある。それぞれのステップを適正に登るためには、データ活用基盤の大幅な拡充もしくは刷新が要求されるが、従来のオンプレミス型の導入手法でこれらの要求に対応できるのは、予算と人的リソースが潤沢な一部の先進企業だけである。これからデータ活用の高度化を目指す企業は、クラウドの活用を前提とした新しい導入手法を検討するべきである。

データ活用の高度化を阻む課題

前掲の図5でも示したとおり、データ活用・分析の実施レベルは企業間で大きなば

らつきが見られる。これは、「個人PCによる分析」「定型的な分析」「非定型な分析」

「探索型の分析」「推論・予測」というそれぞれのデータ活用レベルの間に、それぞ

れ乗り越えるべき課題が存在することを示している。図12は、より上位の活用レベル

を目指すうえで直面するであろう課題を端的にまとめたものである。

図12 データ活用の高度化を阻む課題

出典:ITR

データ量に関する課題については、図13の調査結果から推定した。この図は、企業

に分析用途で蓄積されているデータ量に関する回答と、データ活用レベルに関する回

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答をクロス分析した結果を示している。

これによると、10TBを境に「非定型な分析」以上のレベルが、100TBを境に「探索

型の分析」以上のレベルが、1PBを境に「推論・予測」レベルが占める割合が大きく

増加しており、これらのデータ量を境界としたデータ量への対応が、データ活用レベ

ルの高度化において課題となっていることが読み取れる。

図13 データ活用レベルと分析用途で蓄積されているデータ量の関係

出典:ITR(2018年4月調査)

データ活用の高度化に向けた4つのステップ

それではここで、図12に従い、データ活用の高度化に向けて踏むべき4つのステッ

プをそれぞれ概説することにする。

「個人PCによる分析」から「定型的な分析」へ

「個人PCによる分析」のレベルでは、データはExcelシートなどのファイルに散在

し、レポート作成にいたる集計なども手作業で行われている。これを「定型的な分析」

レベルに引き上げることで、データはデータベースで一元的に管理され、集計などの

24%

2%

6%

0%

2%

33%

30%

18%

27%

11%

11%

36%

26%

14%

18%

17%

23%

35%

30%

18%

9%

5%

6%

14%

16%

6%

5%

9%

16%

35%

0% 25% 50% 75% 100%

1TB未満(N=54)

1TB~10TB未満(N=44)

10TB~100TB未満(N=66)

100TB~1PB未満(N=44)

1PB以上(N=62)

特に行っていない

担当者が個別にPC上で分析を行っている

定型データを組織的に収集して分析を行っている

定型データに加えて非定型データも組織的に収集して分析を行っている

マイニングや統計による探索型のデータ分析を行っている

機械学習・AI技術を活用して推論や予測を実施している

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作業はバッチ処理として自動実行されるようになる。

このステップにおける最大の課題は、RDBMSを導入し、分析用データベースを構

築することにある。これは、業務アプリケーションとしてパッケージ・ソフトウェア

を利用しているため、間接的にしかRDBMSに触れていない企業にとっては、大きな

課題となりうる。

「定型的な分析」から「非定型な分析」へ

「定型的な分析」のレベルでは、ユーザーは決まった形式のレポートを閲覧するだ

けである。これを「非定型な分析」レベルに引き上げることで、異なる視点での集計

や、新たな指標の作成といった、ユーザーの自発的な分析作業が行われるようになる。

このような「非定型な分析」の要求に応えるためには、可能な限り多様なデータを

事前に収集しておく必要がある。したがって、このステップにおける最大の課題は、

論理的なDBスキーマを定義したうえで、DWHを構築することにある。また、非定型

な分析を行うユーザーが使用する分析ツールとしては、セルフサービスBIツールを導

入するのが一般的である。セルフサービスBIツールは、従来のBIツールの非定型な分

析機能を一般のエンドユーザーでも扱いやすく設計されているため、非定型な分析作

業をデータ分析に関心高いユーザーに委ねることも可能になる。これにより企業は、

意図的なデータ分析チームの組織化を行わずとも、こうしたユーザー層のコミュニ

ティ化を促進することによって、仮想的な分析チームを形成することも可能になろう。

「非定型な分析」から「探索型の分析」へ

「非定型な分析」のレベルでは、ユーザーは加減乗除で計算可能な範囲でデータを

集計し、線グラフや棒グラフといった古典的な可視化手段による分析にとどまる。こ

れを「探索型の分析」レベルに引き上げることで、相関、回帰、確率分布といった統

計的な分析手法を利用して、大量のデータから未知の知見を発見するビッグデータ分

析が行われるようになる。

このような「探索型の分析」を可能にするためには、IoTデバイスから送られてく

るような非構造化データも収集する必要がある。したがって、このステップにおける

最大の課題は、NoSQLデータベースの導入になる。非構造化データは主にクラウドス

トレージで構成されるデータレイクにいったん保存されるが、その一部は非構造化

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データのままNoSQLデータベースに格納され、分析処理が実行される。また、統計的

な分析手法の利用には、データ・マイニング・ツールの導入が必要となるが、これを

使用するユーザーには統計学の知識が必要となるため、データ・サイエンティストの

養成も大きな課題となる。

なお、このレベルに至ると、多種多様なデータが分析対象となるため、メタデータ

の管理が標準的なデータベース管理機能では対応できなくなる。そのため、物理的な

データベースを横断し、仮想的なメタデータのリポジトリを作成するデータカタログ

の導入が必要となる場合がある。

「探索型の分析」から「推論・予測」へ

「探索型の分析」のレベルでは、データ・サイエンティスト自身の経験やスキルに

基づいて、分析が進められる。これをAI/機械学習を利用し、予測モデルの開発を行

うことで「推論・予測」レベルに引き上げられることになる。

このステップにおける最大の課題は、AI/機械学習技術の導入である。第3章で述

べたように、今日ではさまざまなAIサービスが提供されるようになったが、その導入

には、いまだ高度なスキルと高額な費用が必要とされるケースが多く、「推論・予測」

レベルに到達しているのは、一部の先進企業にとどまっているのが現状である。また、

このレベルに至ると、多種多様なデータが分析対象となるため、メタデータの管理が

標準的なデータベース管理機能では対応できなくなる。そのため、物理的なデータ

ベースを横断し、仮想的なメタデータのリポジトリを作成するデータカタログの導入

が必要となる。

データ活用基盤としてのクラウド活用のポイント

データ活用の高度化に向けた4つのステップでは、いずれもデータ活用基盤の大幅

な拡張もしくは刷新が要求されるが、従来のオンプレミスによる導入・構築では、求

められるスピードでの解決は難しく、必然的にクラウドの検討と採用に向かうことに

なる。

これは、第2章で述べたとおり、実際に企業が考えている現実であり、市場データに

も事実として反映されている。しかし、多くの企業にとって、クラウドは基幹システ

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ムや業務アプリケーションの分野で、すでに導入を経験済みであるが、データ活用基

盤としての導入には、異なる注意点が存在する(図14)。

図14 データ活用基盤としてのクラウド活用のポイント

出典:ITR

最も重要なのは、データ活用の高度化において、自社が今どのレベルにあるのかを

認識し、上位のレベルに上がるために解決すべき課題を正確に把握することである。

一足飛びにレベルを上げようとしても解決すべき課題が膨大となり、成功する確率は

極めて低くなるであろう。例えば、現在「定型的な分析」レベルにとどまっている企

業が「ビッグデータ活用」「AI利用」というトレンドに乗った方針を立てて、「探索

型の分析」あるいは「推論・予測」レベルのデータ活用を行おうとしても、データの

絶対量やその統合度合い、分析ツールの整備といった多くの課題を同時に解決しなけ

ればならない。

解決すべき課題を明確にしたうえで、クラウドの比較検討を行う際には、IaaSとし

ての機能だけではなく、PaaSとしての機能も検討に含める必要がある。例えば、現在

のデータ活用レベルが「定型的な分析」にある企業が、オンプレミス資産としてOracle

を使用した分析データベースを持っている場合、これを単純にクラウドに移行するの

であれば、IaaSとしての機能を比較、検討するだけで十分であろう。しかし、「非定

型な分析」レベルまで高度化することを視野に入れるのであれば、第2章で述べたデー

タ活用基盤におけるクラウドの価値を最大限に生かせるPaaSとしての機能も含めて

比較検討すべきである。

•自社のデータ活用レベルを確認し、次のレベルに上がるための課題を正しく認識する

• IaaSとしてだけではなく、PaaSとしての機能も含めて比較、検討を行う

選定基準

•オンプレミス資産の置き換えプロジェクトと、データ活用の高度化に向けてのプロジェクトでは、アプローチが異なる

•データ活用の高度化に向けてのプロジェクトにおいては、試行錯誤を前提としたPOC(コンセプト検証)、スパイラルアプローチを採用する

導入の進め方

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もう1つの重要なポイントは、導入の進め方にある。オンプレミス資産の単純な置

き換えプロジェクトであるならば、基幹システムや業務アプリケーションの分野で使

われる一般的なウォーターフォール型アプローチでも問題はない。しかし、データ活

用の高度化に向けたプロジェクトであるならば、この進め方は望ましくない。データ

活用基盤の構築にあたっては、高度なレベルに上がれば上がるほど、最終的なユー

ザー要件や外部仕様の文書化は難しくなるため、ウォーターフォール型アプローチよ

りもPOC(コンセプト検証)やスパイラルアプローチの採用が適切である。

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提言

ビッグデータ/AI活用に対するニーズは、すでに一部の先進企業にとどまるもので

はなくなっている。とりわけ、経営陣や事業部門にとっては極めて優先度の高いテー

マとなっており、今後、情報システム部門は、そうしたニーズにいかに応えられるか

が問われることになるであろう。

本稿執筆にあたって実施した調査では、多くの企業において、ビッグデータを蓄積・

処理できる基盤の脆弱さと人材不足が特に重大な課題となっていることがうかがえ

た。また、保有するデータ量やその活用レベルについても、企業間で大きな格差が生

じており、その背景としてデータ活用を取り巻く“エンジニアリング力”が影響を与え

ている可能性も示唆された。システム・エンジニアリングの専門集団である情報シス

テム部門が、データ活用で果たすべき役割は極めて大きいと言える。

クラウドサービスは、データ活用基盤の近代化および人材不足解消の両面において、

企業に価値を提供する。前者の基盤整備においては、初期投資を抑え、データ活用レ

ベルの高度化に追従できる拡張性を有するという点で効力を発揮する。後者の人材不

足に関しては、システム開発・運用・保守の省力化に加えて、迅速なデータの抽出や

モデリングの自動化といったデータ・サイエンティストの負担を軽減する機能を盛り

込むサービスが登場している。情報システム部門は、データ活用基盤のクラウド・シ

フトを視野に入れて技術動向を注視することが推奨される。

市場で注目を集めているAIも、そのベースとなるのはデータである。テクノロジの

民主化が進み、ツールやサービスが誰でも利用できるようになれば、競争力のカギを

握るのは、活用できるデータの量や広さ、深さということになる。情報システム部門

は、現状の自社のデータ活用レベルを冷静に見極め、次のステップに進むための施策

と同時に、数年先を見据えたデータ活用基盤整備のロードマップを描くべきである。

分析: 舘野 真人/平井 明夫

text by Masato Tateno & Akio Hirai

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C18060109

発行 2018年6月1日

発行所 株式会社アイ・ティ・アール

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