Issue Date 1983-01 -...

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Title 沖縄の踊り (4) : 古典舞踊・女踊り「伊野波節」 : 舞踊譜 の体系化をめざして Author(s) 金城, 光子 Citation 琉球大学教育学部紀要 第二部(26): 73-124 Issue Date 1983-01 URL http://hdl.handle.net/20.500.12000/29934 Rights

Transcript of Issue Date 1983-01 -...

Title 沖縄の踊り (4) : 古典舞踊・女踊り「伊野波節」 : 舞踊譜の体系化をめざして

Author(s) 金城, 光子

Citation 琉球大学教育学部紀要 第二部(26): 73-124

Issue Date 1983-01

URL http://hdl.handle.net/20.500.12000/29934

Rights

NJ.O)~m lJ (4 Jit~.Bm·3cBm ~ IfttJf~iPJ

~1ijfjm-(J)f**1t~~~~ L--C-­

~ jJR -jt T

Dance in Okinawa (4)* *

Classical Women's Dance 'NUFA BUSHI'

Aiming at Systematizing the Dance Notation --

Mitsuko KlNJO *

(Received 20, july 1982)

Abstruct

This study tries to clarify a way of Ryukyuan Dance notation and to systematire it.

Now is the age of mass communication. We can record, and keep pictures easily

by using audio-visual apparatus such as VTR 8 mm, 16 mm, and 35 nun. But the

dance art needs to be systematically analyzed and notated. An important of the

work is to draw the whole figures of the dancer including the form of dance,

movements and gestures.

It is not easy but essential part of my work to draw the figures of motion

so as to see the flow of pattern in dancing. In addition, the research has manymore purposes. This study uses one of the fundamental methods by tracing the

figures in the picture in a 8 nun film. It contains every dance figure from thebegining to the end.

Methods:

1. Photographing the dance with a 8 mm film.

2. Magnifying the pictures with a profile projector.

3. Tracing figures in the picture by everyone or ten frame, then numbering

these.

4. Making reduced pictrues.

5. Drawing the illustrations of motional series of the dance.

6. Numbering the unity so as to see phrasing.

7. Estimating the time of performance by whole frames.

8. Adding ry1i~ under .the figures.

*Phys. Educ., Coll. of Educ., Univ. of the Ryukyus.

* **~~.'1. IlBfU 55 -- 56 ~JJ£3C$~,*$M,-e.1tIJ~ ( -Aim,-ec )( Alm1i% 558049 ) tr.. J: 7.> {i1f,-e.i9'Q)-lm-eS 7.> 0

-73-

琉球大学教育学部紀要第26集

9.Writingainterpretationofthedance・

Inthispresentpaper,Idealwithoneoftheclassicalwomemsdances,"NUI弧BUSHI"・Thetotalnumberoftheframesis20,570,andthetimeisl9

minutesand2seconds、Thenumberofthedrownpicturesis2,509.

ThisdanceusualIytakesfroml8to20minutesinperformance・Thisis

especiaIIylongamongclassicalwomenfsdance・TheaccompanimentmusicisfromtheRyukyuan”KunKunShi凡

Nowad可s,thewayofdancingcanbeseenmafilm、Butinthefuture,agreateffortshouldbemadetosystematizethedance,sotbatadancer

canusethenotationsanddrawingsinacquiringthetechniquesofthedance・

Thedetailedanalysisisreportedinthiscollectedpapersas”AStudyontheRepresentativ巳FeaturesofRyukyuanDance(4)"、pleaserefertoit.

はじめに 像を拡大し、

(3)フイルムの1コマ~10コマ毎の踊り像を、トレーシ

ングペーパーに描写し、コマ数を記した後、縮小写真

図を作成し、

(4)踊り図の一覧表に整理した。

(5)踊りの各パートがわかるように区切りをつけ、フレ

ーズ毎の一連番号を付した。

(6)舞踊作品の全体構造図を作成(表1)、

(7)フイルムのコマ数によって、踊りの長さを概算し、

(8)踊り像の下に、歌詞を記入した。

(9)伴奏音楽は、琉球古典音楽工工四より、五線譜に採

譜したものを示した。採譜者は比嘉悦子。

⑪踊り手は、琉球舞踊家で沖縄県指定の伝統舞踊技能保持者・宮城能造氏。

⑪撮影は、昭和49~50年に、那覇市民会館大ホールで行なった。

本研究は、琉球舞踊の記譜について、その方法を解明

し体系化を試みることを目的とした研究である。

情報化時代といわれる現代は、視聴覚器材による舞踊

文化のVTR、8ミリ、16ミリ、35ミリフィルムなどの

収録を可能にし、保存・再現が容易になっていることは

周知のとおりである。しかしながら、舞踊文化の形式や

様式性の追究と舞踊の振り、動きなどを含めた、踊りの

全形を整理、記述することは、美的形式のひとつである

舞踊(芸能)の伝統性と創造過程における課題のひとつと

して必要な条件であると思われる。

記譜の方法論を解明する上で、人体の動きによる踊り

の振り・動作の流動体のパターンを明確に書き示すこと

は、むずかしい多くの課題を含んでいる。

これまで、琉球舞踊、主として、古典舞踊に着目し、

男踊りの「かぎやで風」(1975)及び「高平良万歳」(1977)

女踊りの「諸屯」(1976)舞踊について、検討してきたが、

今回は、古典舞踊・女踊りの中から、「諸屯」舞踊と並

んで女踊りを代表する典型的な踊り「伊野波節」をとり

あげ、分析検討した結果を報告するものである。

本研究は、これまで報告してきたように8ミリフィル

ムに収録した映像を基に、「踊り手(演舞者)が、舞台

に登場して踊り始めてから、踊り終わり退場する」まで

の踊り展開について、各踊り像を記述することで作品の

全形がわかるようにすることを出発点とした、記譜体系

化のための基礎的な方法論の解明を試ふる一連の研究を示したものである。

結果と考察

1「伊野波節」の踊りについて

今回とりあげた古典女踊りの「伊野波節」は、先に報

告した「諸屯」Q鋒踊(1976)及び「作田節」と共に、琉球古典舞踊を代表する典型的な踊りとされているもので

ある。踊りに使用されている音楽は三種で、踊りの櫓成

は三部構成となり、次のように示される。

|繍鋼'=…}鴬魏;了鬮愚。

w1il蝋二::IiM1ilF:鰍研究方法

8ミリフィルムに踊りの全形を収録し、

プロフィール・プロジェクターによって、フィルム

(1)

-74-

金城:沖縄の踊り〔4〕古典舞踊・女踊り「伊野波節」

2秒であった。

「出羽」は960コマで、約53秒3

「出羽踊り・伊野波節」は、10525コマで約9分44秒

「中踊り(1)(2)・恩納節」は、5019=マで約4分39秒

「入羽踊り・長恩納節」は、3016コマで約2分47秒5

「入羽」は、383コマで、約21秒3

以上のような踊りの所用時間となった。

前半の踊りの後に、無伴奏で、後半の踊りの準備をす

る間合いがあり、653コマで約35秒3の時間を要してい

る。

古典女踊りは、男踊り(4分~10分)に比べて、作品

の長さが7分~20分というかなり長い時間を要するもの

が殆んどである。その中でも、特にこの「伊野波節」の

作品は、18分~20分を要する長い作品ということができ、

それだけに、踊り手(演舞者)にとっては、感楠を持続

して踊りこむ集中力と技遮を発揮する表現力を要する舞

踊ということになる。特に、民族舞踊の特質である民族

音楽の演奏も、演舞者と共に、呼吸を合わせて延女と歌

唱し調和するという努力と協力が必要になることはいう

までもないことである。,

時間構成である「出羽・中踊り・入羽」の形式(組立て)

は、(本紀要・沖縄の踊りの表現特質に関する研究〔4〕

図1参照)の古典舞踊女踊りの構造にも示してあるとお

り、踊りの榊成上の一定の形式性(パターン)のひとつ

としてあげられ、この「伊野波節」もその他の女踊りと

例外なく、このような構成となっているわけである。

舞踊の開始から終止までの振りの一連のまとまり(動

きのフレーズ)をその区切りがわかるように示し一連番

号を付したが、その振り・動作は、〔1〕~〔46〕まで

に区分される(踊り図一覧表参照)。

(表1)の全体構造で見られるように、フレーズの長

さは、最低1秒~1分11秒7とかなり幅広い。特に長い

フレーズでは、ゆっくり展開する「出羽踊り・伊野波節」

で、6秒から1分11秒7までの殆んどの振りが長いまと

まりで、仙息の長い〃振りという点で、後半部「中踊り」

「入羽踊り」の「恩納節」隈恩納節」との差が見られ

る。最も長いフレーズは、5481~6772コマの1291コマ

で、1分11秒7の1Aちゃ-み〃の1A右手(笠)を右下か

ら頭上に振り上げて下ろし、前進、突き〃の部分であり、

また、凧恋ぬなれや〃の9560コマ~10825コマまでの1

分10秒3の部分はゆっくりした歩行のみの表現である。

2歌飼と歌意について

鯛蓮鶉鰯調:霊鱸髻鳳菱麓紹介しておくことにしたい。

(1)「伊野波節」①(P238)「鑑ぬ菱のろ躍茂に鼬錘iやめ篠iizf;も意殿iii鑓ii、や」

(大意)逢いたいと思いつつも、逢えなかった夜の悲

しみを、よそ事のように、思いなしたのか、

逢えない事を恨象ながらも、また忍んで行く、

恋の習わしは哀れである。

(2)「恩納節」(1)(P164)「鰯濯維緊ifiの銃i諺Z;すiililiF1Bのぶ憂総察ii感iきめ」

(大意)恩納間切の役所前の松の下に、禁止の手法の

制札が立っているものの、恋忍ぶことまでの

禁止の定めは、その中にも、無いあのよ・

(3)「恩納節」0)(P65)「臘繼綴!;6蕊;識iiK盾iij?;'第里翰褒腰灘、さめ」

(大意)七重八重にはりめぐらされた、まがきの中の

花も、匂いをよそに送ることまでも禁止する

徒は無いものだ。

(4)「長恩納節」(1)(P66)「鰯いば瀞らに潔譽糠らRim鱸覺iiぱ、皆勤淵:ろ継ぎや当齪雛[パカイ

やI主力、り」

(大意)待ちぼうけて、空しく帰る道すがら恩納岳を

見れば、白雲がかかり、小夜更けの山までが

折角の姿を見せてくれない。ああ会いたい/

やるせなく恋しいことだ。

3「伊野波節」の全体構造について

作品の全体構造は、(表1)に示すとおりである。

(1)作品の時間構成

この踊りの総コマ数は、20570で、踊り時間は、19分

-75-

琉球大学教育学部紀要第26集

長1)WholeStructureoftheDanceArt舞踊fF品の

栂XDEXDE 、振り・動作と運動形式、振り・動作 運ロ功形式

〔1④

JjJjJJJ

1234567

右手に花笠をもち右体側にそえた塗勢で下手奥より上手前の対角i鰯Lこそ摺り足L歩行了登鯵3再舞台中央よりにE…|となる。左ガマク入りと左足突き(両手で笠を体前で持ち)右ガマク入りと右足突き(〃)〔2〕と同じ動作〔3〕と同じ動作左まわり、下手奥向き、歩行、前進

左まわり、上手前向き「五五;9-1

左『足を左足に交差、右手(笠)を左上にあげる。右手(笠)体前に下ろす右斜前へ前進戸古足突き

右手右7i黄に下ろし上二手前向き/」、走り、左まわり下手奥向き対角線上を前進歩行

左まわり右手頭上あげ、体前に右手(笠)を下ろし~歩行・右足突き右まわり右手首(笠)をひねり、右ガマク入り-F手奥向き・歩行

(導入部

JJJJJJ

89,u⑫⑬

10525コマ

9分44秒7

JJJJJ

45678

11111

左二手あごあて、左ガマク入り、上手向き、歩行前進ZE足突き面カケ左まわり後ろ向き前】函(脱力・人形振り)下弓皇奥向き歩行・前進左手袖とり、左上にかざし左ガマク入り、上手向き歩行左足突き左手かざしたまま左まわり下手奥向き歩行前進

下手奥へ向かって対角線上をゆっくり歩く左まわり厄で五言。

女台E2b(槙え)舞台中央へ前進・左まわり舞苣『中央奥へ歩行・後ろ向き坐る

(篁二腱塞鰯苧…髪…….バサラ)ぞと,溺鰯)蕊勺暑霞澪匡亟体前で左手こねり、左まわり・後ろ向き、歩行・前進左まわり、左二手前方指し、右足突き両手袖合わせ左ガマク入り左斜前へ左足突き”右ガマク入り右斜前へ右足突き

左まわり後ろ向き歩行前進

左まわり正面向き右足突き厨司

両二手笠にそえ、左ガマク入り左足突き〃右ガマク入り右足突き

両手笠にそえたまま左まわり後ろ向き歩行・前進左まわり、左手前方指し周「ロヨ筐右足突き両手袖(たもと)とり、左斜前向き・右まわり後ろ向き歩行前進左まわ`ル正面i句き、右手前方指し右足突きE冤琵=]

両手ネ由合わせ(右向き)正面へ向いて前進、左足突き左まわり(上手奥向き)前進(対角線上に立つ)左まわり(角切り)下手奥向き歩行・前進左手体前上げ、左上にかざし(月見F手)上手前へ前進、左足突き左まわり、下手奥向き(左二手下ろす)歩行前進評左まわり、上手奥向き両手左ョ斜上あげ、波動(雲払い手j

需菫露罐(ず宝菫焉要宅臺亘豐舌…《露払い手)左手ネ由とりあごあて左ガマク入り上手向き前進左足突き左まわり下手奥向き前進

左手笠にそえ、下手前(やや右斜)向きに坐る(』露壱『中央下手寄り)左手笠にそえたまま、左斜上をみる(みあげる)Z芒手下ろしながら右まわり、下手奥向き

主要部

19〕

蔵8

3333016コマ

2分47秒5

JJjJ

姐妃“妬

終結部) L豆;二錨塑 立ちあがり舞台中央から下手奥に向いて対角線上を歩いて】邑場

-76-

金城:沖縄の踊り〔4〕古典舞踊・女踊り「伊野波節」

全体櫨造

歌詞。 音楽 時間・墨さフィルムコマ数時間・援二さ

3199596

秒秒秒秒秒秒秒

3174522

5211

》》》》》分》

緋..・・1.

■C●●●□

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マ印的エエ恥⑭⑬

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約》印加如恥函⑬

●■●DC●●

『⑬印や函鞁、釦

.瓢“蝿鰹惣鍼鰄

可{川川一圃一川川》》》》》{

せ『擢昏州』三》碑轌》

0-

……961-

……1341-

……1665-

……1935-

……2235-

...…3369-

4196……239…………13秒3

4814……617…………34秒3

4928……113…………6秒3

5480……551…………30秒6

6772……1291……1分11秒7

7156……383…………21秒3

……3957-

……4197-

……4815-

……4929-

……5481-

……6773-

……7157-8190……1033…………57秒4

……8191-8526……335…………18秒6

……8527-9343……816…………45秒3

……9344-9559……215…………11秒9

……9560-10825……1265……1分10秒3

■露……10826-11485……659…………36秒6

653…………35秒3

761…………42秒2

374…………20秒7

377…………20秒8

491…………Z7秒3

227…………12秒6

167…………9秒3

263…………14秒0

317…………17秒5

……11486-12139……

……12140-12901……

……12902-13276……

……13277-13654……

……13655-14146……

……14147-14374……

……14375-14542……

……14543-14806……

……14807-15124……

……15125-15352……

……15353-15526……

……15527-15712……

……15713-16180……

……16181-16828……

……16829-17158……

552992

秒秒秒秒秒秒

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……17159-17572……

……17573-17806……

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……19197-19298……

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虹羽錨“u溺岨、

………恋しさや「商葵]ちみて……………………………(ヤーリーヤーワーヨー)碩奏1…………………みぶしやIよ………………..……・…………

………かい……………..………………・…………

………(スヤースーヤー)

19299-19688……

19689-19874……

19875-20000……

20001-20186……

389…………21秒5

185…………1秒3

125…………6秒9

185…………1秒3

L盾Ⅱ納節の。・・・018・・・ 383…………21秒2

総マコ饗jd句20570舞踊作品の時間約19分2秒

-77-

琉球大学教育学部紀要第26集

(2)作品の空間構成

古典舞踊女踊りの榊造(1)(本紀要・沖縄の踊りの表現

特質に関する研究を参照のこと)に示してあるように、

「伊野波節」の空間榊成は、(2)の形式をとり、「出羽」「入

羽」が下手奥から上手前を結ぶ対角線上を移動し、「出

羽踊り」「入羽踊り」は、この対角線上を往復しながら

方向をかえつつ、前進して踊る移動形式である。「中踊

り」は、舞台中央を前後に移動する、つまり、舞台中央

奥と正面の往復で踊る「奥行舞踊」といえよう。

このような舞台空間の形成は、「諸屯」(o鈍踊(1976)と同一である。

但し、この「伊野波節」独自の空間移動の方法があり

「ゆすにうふ-」の歌詞の、'み〃の部分「出羽踊り」の

〔10〕(4815~4928コマ)では、舞台下手前から上手前

に向かって、v$すっ-〃と小走りして舞台を横切って移

動する、咄感情表現〃の場面があり、この帆小走り〃と

いう動作は、独自な表現形式と見ることができる。

動きのレベル(高さの基準)は、高い位圃(立った姿

勢)と1Nハヤーマーター〃〔15〕(8191~8526コマ)の

振りで行なう舐後ろ向きで脱力して前屈する〃中位の高

さがあり、「長恩納節」の舞踊の終りの部分に帆みぶし

ゃばかい〃〔必〕〔45〕(19875~20186コマ)の歌詞で

は、右足をひいて左立膝で坐り、左手を笠にそえ、、!み

あげる〃表現をし、この動作が低位の高さでの表現とな

る。これらは、「諸屯」舞踊にないユニークな振りとし

て、内容が形式を生孕だした典型的な技法・振りといえ

よう。

〔10〕の、Aゆすにうみ-〃の小走りの部分は4815~

4928コマで、前述したように、「伊野波節」独特の表

現形式といえる。

〔12〕はいちゃ-み"の部分で…-みの曇(贄われるもの、5481~6772コマ。

〔14〕は咽うらみていん〃左手指先を左あごにあてて、

左ガマク入りで左足を摺り出す、7157~8190コマの振

りで、軽快な女雑踊りの咽かなよ-〃の後半の部分にも

用いられる。ここでは、深刻な感傭表現として踊られる。

〔15〕はいハイヤーマーター〃という独特な1Nはやしこと

ば〃で、感'屑の高まりの悲痛な思いを表現する、、左手あ

ごあて〃から、面カケで右、左、右と面の向きをかえなが

ら、後ろへ方向転換をし、脱力と共に前屈し、左手を下

ろし、左足を横に摺り出す振りである。「伊野波節」の

ユニークな表現としてかかげられる技法であるが、時間

は短かいが一種の咽人形振り〃という解説も出来よう。

〔16〕は収しぬ参〃左手で袖口をつか承、左上にあげ

て、ふりかざす形になり、忍んでいく槻子を表現するも

の、8527~9343コマまでの動作。

②「恩納節」(1)

〔22〕、ハヤーリーヤーリーヨー〃体前で左手こねり、

手の平を外に向けたまま左まわり帆切り返し〃をする,

13277~13654コマ。

〔23〕左まわり左手前方指し、1Aたちゆし〃の部分

13655~14146コマ。

〔24〕〔25〕袖合わせ、両手で袖口をつかんだまま、

左右の手を重ねるように体前下に固定する。咽恋しぬ塁

までい〃の、14147~14374コマと14375~14542=マ

までの動作。

(3)主な振り・動作について

①「伊野波節」の踊りの表現形式としてその独自の技法を見ることにしよう。

表1の舞踊作品の全体構造と対応してみると、

〔2〕〔3〕〔4〕〔5〕(961~2234コマ)の両手

で笠を持ち体前に固定させたまま、左ガマク入り、961

~1340コマ、右ガマク入り、1341~1664コマの帆逢

わん夜い〃の動作は、「逢わんの手」とも称すべき独自

の表現形式と承られよう。但しこのようなガマク入り動

作は、古典女踊りの共通した感情表現の技法である。

〔7〕左まわり、咽女立ち〃3369~3956コマの動作も

女踊りの共通技法であり、ひとまとまりの振り、終止に

使われる(区切り)。また、、'女立ち"は、動作の始まる構えのひとつでもある。

〔8〕は、N'ゆずに〃の歌詞で行なわれる振りで、右

手(笠)を左上にあげ笠をうつ伏せたまま、左上から右

へ(体前)下ろして止める3957~4196コマ(ゆすにの手挫蝋れている。

③「恩納節」(2)

〔28〕、ななえやえ〃両手を笠にそえ、左ガマク入

りと左足突き、右ガマク入りと右足突きの動作、15125

~:霧司闘学雛孑噛京鰐鞠噛い,ちまでいぬ〃16181~16828コマの動き。

〔33〕右手前方指し咽ねさ柔〃16829~17158コマ

の動き。

④「入羽踊り・長恩納節」

〔34〕⑧(E)llWli手柚合わせ〃、あわんいたじらに"(逢わんの手)17159~17572コマの動き。この袖合わせの

振りは、「賭屯」舞踊にもあり、女踊りの技法として、

気持ちを深くこめて表現する形式のひとつである。

〔37〕1A月見手〃収うんなだき象りぱ〃の左手を左

-78-

金城:沖縄の踊り〔4〕古典舞踊・女踊り「伊野波節」

文献上にあげ、親指と人差指を結んで、他の三本の指は揃え

て、手の平を外に向けて、手首の下からのぞき、

ボ:斯學聰繍戦雲鵬;,?諾の司菫霧蝋堪亙鰯了Xf臆塵かかる〃の部分で、両手を左右上に押しあげて、手首・

指を波動させる、独特な振りである。

〔42〕左手で袖ロをつかみ、mあごにあてる〃部分

で、n恋しさやちぷてい〃19299~19688コマの動き。

この振りも、「諸屯」舞踊にもある女踊りの技法の一つ

である。

〔45〕咄詮基しゃばかい〃左手を笠にそえて坐り、

左斜上を見上げる1A商い山を下から見上げる〃表現を、

坐って行なうという巧みな振りのひとつである、2001~

20186コマの動き。

以上のように、主な振り・動きを見てきたが、笠踊り

「伊野波節」は、古典女踊りの栂造(2)でも見られるよう

に、笠をもって踊る、笠をかぶって踊る踊り方の点では

「本嘉手久節」に笠使いなど類似した振りが熱られる。

(1)阿波根朝松『集成琉歌新釈』沖縄タイムス社1976

(2)金城光子「沖縄の踊りの表現特質に関する研究(1)

-古典舞踊「かぎやで風」について」『琉球大学教

育学部紀要』第19集第2部1975

(3)金城光子「沖縄の踊り(1)-古典舞踊励念ぎやで風」

-舞踊譜の体系化をめざして」『琉球大学教育学部

紀要』第19集第2部1975

(4)金城光子「沖縄の踊りの表現特質に関する研究(2)

-古典舞踊「諸屯」について」『琉球大学教育学部

紀電第20集第2部1976

(5)金城光子「沖縄の踊り(2)-古典舞踊「諸屯」-舞

踊譜の体系化をめざして」『琉球大学教育学部紀要』

第20集第2部1W6

(6)金城光子・花城洋子「舞踊動作の表現リズムに関

する研究一琉球舞踊とイソド舞踊のEMGバクーソに

ついて」-『琉球大学教育学部紀要』第23集第2部

1979

(7)金城光子・花城洋子「舞踊動作の表現リズムに関

する研究〔Ⅱ〕~琉球舞踊・日本舞踊・インド舞踊の

筋放電及び呼吸パターンについて」『琉球大学教育

学部紀要』第24集第2部1980

(8)金城光子編箸『学校における沖縄の踊り』沖縄の

踊り教材研究会・サン印刷1978

(9)芸術祭運営委員会罎術祭総麹沖縄タイムス社1963

⑩三隅治雄編『沖縄の芸能』邦楽と舞踊出版部1969

付記

本研究をすすめるに当って、舞踊技能を提供して下さ

った、琉球舞踊家の宮城能造氏に対し、紙上をもって厚

くお礼申し上げます。

踊り像の描写作業、資料のせいりについては、保健体

育科の真座智恵子さんの協力を得ました。

-79-

ノヽ

A

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恩 納 節

(1) 恩納松下に 禁止の牌のたちゅすい (ヤーリーヤーリーヨ)

恋忍ぶまでの 費止やねさみい (ス-ヤース-ヤー)

(2) 七重八重立ている ませ垣の花も (ヤーリーヤーリーヨ)

匂うつすまでいの 禁止やねいさみい (ス-ヤース-ヤー)

長恩納節

産わんいたずらに 戻る道すがら (ヤーリーヤーリーヨ)

恩納岳見りば 白等のかかる (ヤーリーヤーリーヨ)

恋しさやついみてい 見ぽしゃばかり (ス-ヤース-ヤー)

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