Infinite Stratos ~ The Accomplice of Black ID:65118 · きPrologue01き

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Infinite Stratos ~ The Accomplice of Black

餌屋

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【注意事項】

 このPDFファイルは「ハーメルン」で掲載中の作品を自動的にP

DF化したものです。

 小説の作者、「ハーメルン」の運営者に無断でPDFファイル及び作

品を引用の範囲を超える形で転載・改変・再配布・販売することを禁

じます。

  【あらすじ】

 ─ この世界は悲しみで溢れている

 西暦2012年6月7日。

 後に『白騎士事件』と呼ばれる大事件を境に、女性にしか動かせな

い世界最強の兵器、マルチフォームスーツ『IS』によって世界は大

きく変わっていった。

 それから、10年後。

 IS操縦者を育成する学校、IS学園に世界で初めて確認された

『ISを動かせる男子』が入学する。

 時同じくして、ある男性の技術者もIS学園の教師となる。

 名は、黒崎 湊(くろさき みなと)。

 IS開発者、篠ノ之束に並ぶとされる世界最高峰のIS技術者であ

る。

  ***

  初めましての方は初めまして。

 前作からいらっしゃった方はお待たせしました。

 餌屋です。

 本作は、弓弦イズル先生によるライトノベル「IS〜インフィニッ

ト・ストラトス」の二次創作となります。

 長編となりますが、お付き合いよろしくお願いいたします。

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〈注意!〉

 1)本作はオリジナル設定、展開が含まれております。

 基本的には原作通りに話が進みます。

 2)登場するオリジナルISなど各所に別作品ネタが入る事があり

ます。

 3)一部原作キャラに対するアンチ・ヘイト要素が入ります。ただ

し、酷い目に合わせるといった物ではなく、該当する原作キャラ達が

成長する為に必要な壁となるような物とするつもりです。

 4)設定上、オリ主は細胞レベルでオーバースペック。所謂最強系

です。

 現状、物語中盤までは最強の一角にいる予定です。

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  目   次  

Prologue

───────────

 Prologue01 ─ 始まり 

1

──────────

 Prologue02 ─ IS学園 

8

─────────

 Prologue03 ─ 更識として 

12

第1章

───────────────

 第1話: 春は再会の季節 

15

────────

 第2話: 春は木刀で死にそうになる季節 

21

──────

 第3話: 『逃げる』のではなく『受け入れる』 

29

──────────────

 第4話: 訓練開始(前編) 

38

──────────────

 第5話: 訓練開始(後編) 

43

───────────

 第6話: 運命のクラス代表決定戦 

47

─────────

 第7話: こうして続いていく学園生活 

56

第2章

───────────────

 第1話: それぞれの思惑 

63

─────────────

 第2話: 小さな龍と破天荒兎 

69

───────────

 第3話: 嵐、巻き起こる(前編) 

74

───────────

 第4話: 嵐、巻き起こる(後編) 

80

────────────────

 第5話: クラス対抗戦 

84

───────────

 第6話: 全てを焼き尽くす黒き炎 

91

──────────────

 第7話: 嵐が過ぎ去った後 

99

第3章

─────────────────

 第1話: IS委員会 

106

───────────────

 第2話: 転校生は突然に 

113

─────────────────

 第3話: 幸せな時間 

122

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────────────────

 第4話: 本当のキモチ 

126

──────────────────

 第5話: 僕は君が 

131

──────────────────

 第6話: 宣戦布告 

136

───────────────

 第7話: それぞれの決意 

143

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Prologue

Prologue01 ─ 始まり

   ─ この世界は悲しみで溢れている

  西暦2012年5月。

 ここは、趣のある一軒家の離れ。

 そこからは薄い明かりが漏れている。

 薄暗い部屋に沢山の機械類が置かれている。

  ─ この世界は理不尽で溢れている

  その部屋の中心には白銀の鎧のような物がライトに照らされてい

た。

  ─ 正しいモノが損をし、正しくないモノが得をする

  その前では一組の若い男女が端末を操作している。

  ─ どうしようもなく、この世界は残酷だ

 「出力上昇。動作安定。コアシステム、正常に起動確認」

「PIC動作確認。ハイパーセンサー動作りょーこー」

「コア・ネットワーク接続完了。完全動作、確認」

「よーっし、完璧。良い子だねぇ〜」

「・・・最後にもう一度聞く。本当に良いんだな?」

 男の子が女の子に問いかける。

「・・・うん。これは、私にとって第一歩なんだから」

 女の子は男の子に目を向けず、端末を操作しながら答える。

1

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 だが至って真剣で、本気の目をしていた。

  ─ だから俺は力を求めた

 「ああ、そうだな」

  ─ 正しいモノが正しくあれる世界を創る為に

 「みーくんこそ良いの?私なんかに協力して・・・」

 突然、端末を操作する手を止め女の子が申し訳なさそうに男の子の

方を見る。

「良いんだ。俺にも目的があるし・・・何より千冬も言ってただろ?お

前だから協力するんだ」

「・・・へへっ、ありがとう!束さんは世界で一番の幸せ者だよ!!」

 女の子は男の子の言葉に満面の笑みを見せる。

  ─ だから

 「さあ、世界を変えよう」

「さあ、世界を壊そう」

  ─ だから俺は

 「私の」

「俺の」

 『共犯者さん』

    

2

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 西暦2012年6月7日。

 その日、突然日本を射程距離内とする軍事基地が一斉にハッキング

された。

 瞬く間に基地の機能は掌握され、基地に配備されていた長距離弾道

ミサイルおよそ2341発が日本へ向けて発射されてしまう。

 誰もが混乱と絶望に堕とされた。

 しかし突如白銀の鎧のようなスーツを着た女性が現れ、その半数を

手にしていた剣で撃墜し、まだ試作型しか世に存在していないはずの

大型荷電粒子砲で残り半分を打ち落とした。

 周辺各国はこの異常事態に際し、国際条約を無視して現地に部隊を

派遣。

 その全てを白銀のスーツは人命を奪う事なく無力化した。

 この戦闘での被害は、ミサイル2341発、戦闘機207機、巡洋

艦7隻、空母5隻、監視衛星8機。

 この全てを一切の死者無しに撃墜、あるいは無力化した『究極の機

動兵器』に世界中は驚き、恐怖し、そして注目した。

 後に白騎士事件と呼ばれるこの出来事の後、丁度一ヶ月前に発表さ

れた最新技術〈IS〉の評価を改め世界各国がISを受け入れるよう

になる。

 何故なら現行兵器全てを無力化したその白銀のスーツこそ、IS

だったからだ。

  ここから世界は変わっていく。

 急激に、しかし緩やかと。

   Infinite Stratos

  The Accomplice of Black

  

3

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     だが、これはまだ始まりの始まりにすぎない。

「彼ら」にとってまだこれはスタートラインに立っただけなのだ。

  本当の始まりはここから10年後。

 2022年2月。とある雪の日まで飛ぶ。

  ◆

  その日、俺は隠れ家にしている自宅マンションの一室で多くの書類

とモニターに囲まれながらテレビのワイドショーを見ていた。

 手にはコーヒーとお手製のクッキー。

 優雅な午後のティータイムだ。

 「・・・へぇ、この女優結婚するのか。まだまだ若いのに・・・いや若

いからかねぇ」

 今日旬の芸能ニュースは若手女優の電撃結婚のようだ。

 かなり熱狂的なファンがいるようだし、ネットで炎上しなければ良

いんだがねえ。

 大体、ただのファンに人の色恋沙汰に口を出す権利があるのだろう

か。

 女優やアイドルとはいえ、一人間なのだ。

 そうカッカする事もないだろうに・・・

 そんな事を考えていると。

 『ここで臨時ニュースが入ってきました。えーっと・・・え?いや、こ

れ嘘でしょ?本当なの??・・・えー、信じられない事が起きました。本

日午前11時過ぎ、東京都某所で行われた特殊国立高等学校IS学園

4

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の入学試験において、『男性』がISを動かしたという発表がありまし

た』

 ん?

『日本政府の発表によりますと、ISを動かした男性は織斑一夏さん、

15歳・・・なんとあのブリュンヒルデ、織斑千冬さんの実の弟だと

いう事です!』

 ・・・遂に、か。

『今後の織斑一夏さんの処遇についてですが、4月よりIS学園への

入学という方向に動いている模様です。またIS委員会では今回の

事態を受け・・・』

 俺はまだ続くニュースを聞きながらある人物に電話をかけた。

 『もすもす〜!束さんだよ〜!』

「久しぶりだな束。俺の送ったデータはどうだ?」

『おー!みーくんじゃないか!いやぁ〜ありがと〜助かったよ〜。流

石天才束さんのライバルだね!』

「お役に立てたようで何より何より。さて・・・本題だが」

『ん?何かな何かな??』

「『そろそろこちらも動く事にするよ』。取りあえず、今後は学園にい

るから何かあったらこの携帯に連絡をくれ」

『・・・うん!分かった!今度会った時には愛を育もうZE!』

 ピッ!ツーツーツー

 最後何か言ってた気がするが、何も聞こえなかった事にしよう。

  さあ、久しぶりに顔を見に行きますか。

  ◆

  私、織斑千冬はIS学園の職員室で頭を抱えていた。

 いや、本当は頭を抱える程度で済まないのだが。

「何故一夏がISなぞ・・・くそっ!」

5

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 悩みの種は勿論、弟である一夏がISを動かしてしまった事だ。

 私は過去にあった出来事から、一夏がなるべくISと関わらないよ

う手を尽くし、言い聞かせてきた。

 それが、ある日突然本来受験予定だった学校とは別の試験会場に辿

り着き、しかもISを動かしたという。

 これは悪夢か何かだと思いたい。

 別に一夏が嫌いだとか疎ましい訳ではない。愛しているが故、IS

には関わらせたくないのだ。あいつにはもうこれ以上・・・

 ピーッピーッピーッ

 と、机に置いていた端末がけたたましく鳴り響く。これは急を要す

る時に使われる回線だ。

 私は即座に頭を切り換え、端末を取った。

「私だ。何があった」

『あ、織斑先生!警備室です!実は今、校門前で暴れている方がいらっ

しゃいまして・・・』

「あぁ・・・ならいつも通り拘束して近隣の警察に・・・」

『それが・・・織斑先生に会わせろと仰っているんです・・・』

「はぁ?」

 訳が分からん。心当たりが無い。というか何故そんな不審者相手

に敬語を使っているのだろうか。

『相手が相手ですので、私達も手荒な事はやり難くて・・・』

「相手・・・?一体誰なんです?」

『実は・・・』

 電話越しに不審者の名前を聞いた途端。私は端末を放り投げ校門

前へかけだしていた。

  全速力で走った為校門前にはすぐ辿り着いた。

 確かに大声で言い争っている男がいる。

 懐かしい声・・・懐かしい顔・・・

 そこにいたのは

「だーかーらー!用件は千冬に会ってから直接話すって・・・お、よう

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!千冬!何年ぶりだ?」

「・・・湊、何でここに」

 黒崎 湊・・・私の数少ない、『親友』の一人だった。

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Prologue02 ─ IS学園

  広々とした部屋。

 深紅のカーペットが敷かれ、高級そうなソファーとこれまた高級そ

うなテーブルを挟んで置かれている。

 ここは世界中からISについて学ぶため生徒が集まってくる学校、

IS学園の応接室。

 そこに俺は通され、悠々とコーヒーを啜っていた。

  ・・・うん。やはりコーヒーは豆から挽くに限る。

「・・・それで?」

 と、俺の目の前に座り同じくコーヒーを啜っていた千冬が痺れを気

にしたように口を開いた。

「で、何故突然現れたのか、そろそろ説明してくれるんだろうなぁ?」

「あ、あっれ〜千冬さ〜ん?もしかして怒ってます〜?」

 良く見ればこめかみをピクピク震わせながら、無理に笑顔を作って

いるのが分かる。

 俺は冷や汗をかくのを感じながら、どこが爆発するか見当のつかな

い地雷原に一歩足を踏み入れた。

 「当たり前だ!!」

  一歩目で踏み抜いた。

 「連絡も無しに突然やって来て、用件もろくに伝えず守衛と口論!挙

げ句の果てに駆けつけた教員と取っ組み合い寸前!お前、自分の立場

を理解しているのか!?」

「だって、あいつら端っから俺を怪しい目で見てくるんだぜー?失礼

だろ!!」

「・・・束に並んで行方知らずの最重要人物なお前が突然現れたらそ

りゃ警戒もする」

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「えー、束よりかマシだと思うけどなー」

「お前は絶望的にタチが悪い」

「酷え!」

 なんて言いぐさだ!

 こんなんが世界最強か!!昔から変わらずドSだよな本当!

「誰がドSか」

「心読んでんじゃねえ!」

「ふん・・・まあ冗談はこの辺りにしよう。それで?」

 と千冬は俺に鋭い視線を浴びせてくる。

 「はあ・・・頼みたいことがあってな」

「頼みたいこと?お前が?」

「ああ。会わせて欲しい人がいるんだよ」

「・・・誰だ?」

「この学校の一番偉い人。ああ、お飾りじゃない方な」

 俺の言葉に千冬の雰囲気が更にきつくなる。

「湊・・・何を企んでいる?」

「お前本当失礼だな!別に企みとかねえから!・・・まあ、もうわざわ

ざ紹介して貰う必要はなくなったんだけど」

「は?」

「ねえ、そこで盗み聞きしていないで入ってきてくださいよ」

 俺は扉の向こうに声をかける。

 すると、ゆっくりと扉が開き壮年の男性が入ってきた。

「いやあ、流石黒崎君といった所でしょうか。バレないように気をつ

けていたつもりだったんですがねえ・・・」

「十蔵さん、お久しぶりです」

 そう、この温和そうなおじいs・・・男性こそ、IS学園実質的トッ

プの轡木 十蔵。

 男性でありながら、巧みな話術と慧眼でIS学園をここまで成長さ

せた人だ。

 ・・・あの身内以外の他人に全く興味を示さない束でも一目置いて

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いる節がある事からその凄さと恐ろしさは理解できるだろう。

「いやあ2年前に委員会本部の廊下ですれ違った時以来ですか?」

「ああ、あの時はお互い急いでたからろくに話も出来ず」

「いえいえ・・・それより、私に何かご用なのですか?」

「ああ、頼みたいことがあるんでよ」

「・・・というと?」

「俺をIS学園の教員として雇ってくれませんか」

 その言葉に十蔵さんは一瞬眉をピクッとさせ、千冬は動揺で勢いよ

く立ち上がった。

「な!お前突然何を!」

「・・・」

「最近今の生活に飽きてきてな・・・あちこちからのスカウトもいい加

減面倒くさいしここならまだ良いかなって」

「・・・はぁぁ」

 千冬が深い、とても深いため息をつく。

 あきれ果てて何も言えないといった感じだ。

「・・・こちらのメリットは?」

「IS学園専属技術者の確保と、最新技術の優先提供。そして不確定

要素への切り札です」

「切り札・・・なるほど。良いでしょう、黒崎君をIS学園の教師とし

て招きます」

「な!轡木さん!」

 十蔵さんの決定に千冬が異を唱える。

「まあ、良いじゃないですか。こちらのリスクは今のところなさそう

ですし織斑先生は知らない仲じゃないでしょう?そんなに信用でき

ませんか?」

「いや、それは・・・」

「就職に関しての細々としたことはこちらで処理しておきますので織

斑先生は黒崎先生の住む場所など、よろしくお願いしますね」

「・・・分かりました」

「ああ、後地下の区画どこか貸して貰えるとありがたいです。専用ラ

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ボが欲しくて」

「良いでしょう。用意が出来たら伝えますよ」

「どうも」

  こうして、俺はIS学園に教師として就職することがめでたく決定

したのだった。

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Prologue03 ─ 更識として

   俺がめでたく教員として採用されてから1時間ほど経った頃。

 俺は寮の部屋割りを調整してもらうよう頼みに行くという千冬と

別れ、一人校舎の屋上にやってきていた。

 これからの活動の拠点となる学園を見渡し、どこか感慨深い物を感

じる。

「遂にここまで来たか・・・」

「何が来たんですか?」

「っ!?」

 突然後ろから声を掛けられ驚いた俺は思わず臨戦態勢に入る。

 声を掛けてきた相手に鋭い視線をやり、ようやく知り合いだと気付

いた。

「まさか声を掛けただけで思いっきり殺意を向けられるとは思いませ

んでしたよ、黒崎先生」

「・・・気配を消したまま声を掛けてきたくせに良く言う。久し振りだ

な刀n、いや今は楯無だったか」

「ええ。17代目更識楯無になりました。その節はどうもお世話にな

りました」

 ・・・まさか。

「・・・あのぉ〜、楯無さん?」

「何か?」

「・・・いやぁ〜、俺の勘違いなのかもしんないっすけど〜」

「は・い・?」

「・・・もしかしなくても怒ってます?」

「当たり前よ!!」

 さっきもこの下りやった気がするな。

「何を言わず急に姿を消して・・・その後も私達が接触しようとしても

ことごとく逃げ続け・・・」

「親父さん・・・怒ってた?」

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「『今度会ったら殺してやる』って言ってたわ」

「暗部超こええ!!」

 といった具合に超怖いこの女子生徒こそIS学園最強の生徒会長

であり、日本という国の裏仕事を請け負う暗部「更識家」の17代目

当主、更識楯無だ。ちなみに楯無の名は御察しの通り襲名制で本名は

別にある。

 2年生という歳でこの世界の酸いも甘いも知っている。

「・・・それで?一体今度は何を企んでいるの?」

「どいつもこいつも俺を何だと思ってんだ・・・どうせ理由は聞いてる

んだろ?そのまんま、ちょっと今までの生活にうんざりしてな」

「だとしてもそれだけの理由であなたが教師なんて、納得できないわ」

 ん〜、思ったより粘るなあ。

「はぁ、もし俺が何か企んでるとして?お前はどうするつもりだ?」

「・・・もしあなたがこの学園に、生徒に、日本に害を与えるなら」

 楯無は俺を独特な殺意を込めた目で睨みつけながら宣言する。

「あなたを絶対許さない。更識の名にかけて必ず倒す」

「・・・ふっ」

 俺が思わず笑みをこぼすと楯無は馬鹿にされたと感じたのか怒っ

た顔をする。

「私は本気よ?」

「ああ、いや。馬鹿にしたんじゃなくてな。あんなにヤンチャだった

女の子が成長したなあと」

「ヤ、ヤンチャって・・・私そんな風にしか見られてなかったの(小声」

「ん?何だ?」

「な、何でもないです!」

 楯無は顔を真っ赤にして頭を両手を横に振る。

「?よく分からんが、まあ良いか」

(相変わらず鈍いんだから・・・)

「まあ、心配すんな。お前の心配するような事にはならないよう気を

つけるし・・・もし何かやればお前が俺を倒してくれるんだろ?」

「っ・・・もう、子供扱いしてっ」

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「いやいや、充分良い女になったよ。それじゃあまあ、これからよろし

く頼むわ楯無会長」

「あっ・・・」

 そう言って俺は更識の頭を撫で、その場から立ち去ろうと動く。

「刀奈・・・」

「・・・えっ」

 思わぬ言葉を聞き、思わず立ち止まり楯無に顔を向ける。

「・・・刀奈で、良い。昔みたいに」

「・・・お前、それって」

「か、勘違いしないで!あなたに楯無って呼ばれるのが違和感がある

だけよ!!」

「・・・分かったよ。んじゃあまたな、刀奈」

 思わぬ展開に一瞬動揺したが、俺はそのままその場から立ち去っ

た。

「・・・馬鹿」

   こうして俺の学園生活が始まった。

 俺の計画が。

   俺の、願いを叶える戦いが。

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第1章

第1話: 春は再会の季節

  「ふあぁぁ・・・やっと終わった・・・」

 長い退屈な入学式を終え、俺は教室への廊下を歩きながら大きなあ

くびを一つつく。

「だらしがないぞ、黒崎先生」

 隣では厳しい眼で俺を睨む千冬。これからは形式上俺の上司とな

る。

「千冬〜良いじゃねえかよ、あのお飾りババアの話退屈だったんだか

ら。あくびの一つや二つついたって」

「駄目だ。事情はどうであれIS学園と教師を名乗るならその辺りは

気をつけて貰わなければならない。そして名前で呼ぶなと何回言え

ば分かる」

「・・・退屈だったことは否定しないんだな」

 何で校長先生のありがたいお話的な奴って退屈で長くなるんだろ

うか。

「それより、もうすぐ着くぞ」

「お・・・ここか」

 俺達は地味に長い廊下を歩き目的地の教室へ着く。

 中から聞こえてくる声からして今は新学期恒例自己紹介の時間ら

しい。

「・・・お、あいつの番だぞ千冬」

「だから名前で呼ぶな・・・といってもお前は聞かないんだろうな。ど

れ」

 2人揃って前のドアからこっそり中を除くと、真ん中最前列で立ち

上がり追い詰められた顔をする男子の姿があった。

「・・・一夏の奴、完全にテンパってやがるな」

「・・・はぁぁぁ、馬鹿者め」

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 千冬は眉を寄せ、頭を押さえて大きなため息をつく。

 今教室の中で他のクラスメイトほぼ全員から視線を向けられてい

るのが織斑 一夏。

『世界で初めて確認されたISを動かせる男子』であり千冬の弟だ。

 何故追い詰められているかというとそれは勿論クラスメイトが一

夏以外全員女子だからだ。

 というか生徒全員一夏以外女子な訳だ。

 女の園に男が一人。

 これをハーレムと羨ましがるかどうかは人によるだろうが、今の一

夏は珍獣を見るかのような目線を四方から受けているのだ。

 まあ、緊張もするだろうけどな。

 と、千冬が教室に入っていった。

「・・・以上です!」

 突然自己紹介を終えた一夏に何人かのクラスメイトがずっこける。

 もっと詳しい事を期待されてる所で何故終了という答えが出てく

るのだろうか。

 バアンッ!と凄まじい音を立てて一夏の頭が叩かれる。

「いっ─!?げぇっ、関羽!?」

「誰が三國志の英雄か、馬鹿者」

 その手に持つ出席簿を容赦なく再び振り下ろす鬼斑・・・いや織斑

千冬。

「あ、織斑先生。もう打ち合わせは終わられたんですか?」

「ああ、山田君。この後の段取りを確認するだけで済んでな。クラス

への挨拶を押しつけて済まなかった」

「い、いえっ。副担任ですしこれくらいは・・・」

 と照れた様子で応える巨乳副担任が山田 真耶ちゃんだ。

 ほんわかした雰囲気でとても可愛い。

 そんな事を考えていると千冬に突然睨まれた。

 にやけていたのがバレたか。

「諸君、私が織斑千冬だ。諸君ら新人を一年で使い物になる操縦者に

育てるのが仕事だ。私の言うことは良く聴き、良く理解しろ。出来な

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い者には出来るまで指導してやる。私の仕事は弱冠15歳を16歳

までに鍛え抜くことだ。逆らっても構わん。だが私の言うことは聞

け。いいな」

 結論、頑張っていれば助けてやるから逆らうな。

 一見、暴力宣言に聞こえるがきちんと理解すれば優しさに満ちあふ

れた発言なのだ。

  まあ。

 「キャーーーーーー!!本物の千冬様よ!」

「ずっとファンでした!」

「私お姉様の為なら死ねます!」

 黄色い声援を響かせる彼女達は理解していないだろうが。

「・・・毎年よくもこれだけ馬鹿者が集まるものだ。ええいっ!静まれ

!まだ紹介する者が一人いるんだ!」

 千冬が一喝するとそれまで沸き立っていた教室がシンと静まりか

える。

「さて、このクラスは担任である私と副担任である山田君が主に授業

を担当するが、更にもう一人教師が参加する事になる。入ってくれ」

 ようやく出番だ。俺は一夏と違うっていう年長者の良い所をしっ

かり見せつけてやろう。

 俺が一歩教室内に足を踏み入れると教室内に驚きが走るのが分

かった。

 その中でも一夏と窓際に座るポニーテールの女生徒、そして奥に座

る金髪ロングの女生徒3人の驚き具合は尋常では無い。

 皆久しぶりの再会だからな。

「諸君らも入学式で説明を受けただろうが、今年からIS学園専属エ

ンジニア兼IS専門講座を担当する黒崎 湊先生だ。まずは挨拶を」

「えー、初めまして。今年よりこの学園の教師となった黒崎 湊だ。

趣味は読書と料理。得意な事はIS弄りだ。どうか仲良くしてくれ」

 俺が柔らかい笑みを浮かべながら自己紹介すると、先ほどの千冬ほ

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どでは無いが黄色い声援が上がりだした。

「あのISの産みの親と並び立つ技術者が教師って聞いた時はまさか

と思ったけど・・・」

「本当だったんだ!」

「やったぁ!貴重な男性2人もゲット!千冬様が担任だしこのクラス

で本当良かったぁ〜」

「・・・格好いい。織斑君も爽やか系で良いけど黒崎先生は大人な感じ

が超アダルティね・・・」

 そんなに歳変わらないんだけど、喜んで良いのかな?

 老けてるって意味じゃ無いと信じたい。

 そんな声が上がる中、1人の女子生徒が手を上げた。

「ん?何か質問?」

「はい!1年はIS専門講座の授業は無いと思うんですけど黒崎先生

はどんな授業をしてくれるんですか!」

「ああ、それは・・・」

 と俺は千冬に目線を送る。

「彼の本格的な授業はまだ先だがIS戦術理論の授業を私と共に行っ

て貰う。また、このクラスのメンタルサポーターも担当する」

「めんたるサポーター?」

「この1組には今年特殊な事情により男子生徒が参加している。勿

論、何も問題が無ければ御の字だが万が一何か日常生活、学園生活で

男女の差として困ったことや悩むことがあれば彼に遠慮無く相談し

ろ。あいにくこの学園にカウンセリングの心得があり男性目線の考

え方を理解している教師が今までいなかった。その分彼にいつでも

行くように」

「それ以外にも何か悩み事や相談があればいつでも来てくれて構わな

い。研究中の事も多いが、必ず時間を取る」

 更に手があがる。

「あのー、戦術理論の授業をされると仰りましたが・・・」

「・・・『ISを動かせないのに戦術理論が分かるのか』と言いたいん

だな?」

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「そ、そこまで言うつもりはないんですけど・・・」

 台詞の先を言い当てられ、慌てた口調で取り繕う彼女。

「まあ、疑問に思うのも無理はない。しかし俺はこれまで各国の軍や

国家代表に仕事を依頼され様々なプロジェクトに大小はあるが関

わってきた。また新装備や新装甲などの研究開発も行っているし幾

つかは既にロールアウトしている。それだけの経験があれば不足は

無いだろう。それに一から考える場合もISを動かさなくとも戦術

理論を考えることはいくらでも出来る。協力者さえいれば実戦訓練

も容易に可能だ」

「は、はい・・・」

「それにここだけの話だが・・・」

 と、声の音量を落とし内緒話をするように前屈みになって顔を皆に

近づける。

「昔良く千冬との組み手をしていたんだが大体勝率が俺・・・ぐほぉっ

!!」

 突然俺の後ろから出席簿が振り下ろされ、俺の頭は教卓にめり込

む。

「さあ、これ以上は時間が惜しい!早速授業を始める!山田君、後は頼

んだ」

「は、はい・・・」

 頭から煙が出ている気がする。

 そんな俺の首根っこを引っ掴んで引きずりながら千冬は俺と一緒

に教室を後にした。

  ***

  2人が教室から出て行き、山田先生が何とか場の空気を落ち着けて

授業を始めようと声をあげている。

 私はそんな中、1人思案にふけっていた。

  まさか、ここで一夏以外に千冬さんや湊さんに出会うとは・・・

19

Page 25: Infinite Stratos ~ The Accomplice of Black ID:65118 · きPrologue01き

 特に湊さんと話す機会があれば必ず聞かなければならない。

  姉さんの事を・・・

  ***

  私は、織斑先生達が出て行った後もずっとさっきまでいらっしゃっ

た方のお顔が頭から離れませんでした。

「・・・湊さん」

 まさかこんな所で再会するとは夢にも思っていませんでした。

 しかし、これは絶好の機会。あの時の・・・

  彼からの問いに対する私なりの解答を伝えなくてはなりませんか

ら。

20

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第2話: 春は木刀で死にそうになる季節

   クラスでのHRが終わった後。

 俺は千冬と一緒に一般生徒出入り禁止の地下区画へやって来てい

た。

「お〜広いな」

「轡木さんからこのスペースを自由に使って構わないと言われてい

る」

「マジか!さっすが太っ腹だな!」

 俺がIS学園にやってきた際頼んでいたプライベートラボの準備

がようやく整ったので、用意されたスペースを観に来たのだ。

 広さは学園の大教室1個分くらい。これだけあれば使用する端末

がどれだけ多くても十分設置可能だろう。

「よーし、それじゃあ早速荷物を運び入れるかねえ」

「私は授業があるからもう行くが、1人で大丈夫か?」

「大丈夫大丈夫」

 そして千冬は授業のためクラスへ戻っていった。

 時間がある時には真耶ちゃんの授業監督もしてるっていうから驚

きだ。

 常に仕事をノンストップでこなしているに等しい。

  それから俺もノンストップで機材設置を行い、気づけば一日最後の

授業である5限目終了のチャイムが鳴っていた。

  ***

 「は〜食った食った」

 俺は作業を終えた後、流石に空腹に耐えきれず枯渇した糖分を補給

する為、急いで食堂に向かった。

 本日のメニュー。

21

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 ラーメン(大盛り)。

 チャーハン(大盛り)。

 ペペロンチーノ(大盛り)。

  それだけ食べて太らないのかと近くにいた女子に聞かれたが、

「しっかり運動すれば問題ない」と答えると恨めしそうな顔をされた。

 きちんと運動もせず痩せようとするのが間違いなのだ。

 大量の炭水化物を苦も無く食べきり、俺は自分の寝室がある寮へと

向かう。

  さてここで大事な話だ。

 ISは今まで女子しか動かすことが出来ないとされていた。

 しかし今では男子である一夏が動かせるという事が判明している。

 更にこれまで女性教員のみだった学園に男性教員である俺が加

わった。

 また、千冬とは昔からの馴染みで実は轡木さんより一緒に寝泊まり

するよう言われている(まあ、これは監視の意味もあるのだろう)訳

で。

 千冬は寮長だ。

   つまりどういう事かというと。

 「あれ!?黒崎先生!?先生もこの寮なんですか!?」

「織斑君に続いて2人目の男子!キターーーーー!!!」

「織斑君と一緒の部屋なのかしら・・・ハァハァ・・・それは色々と滾

るわねぇ・・・」

 俺と一夏はめでたく花園、女子寮で暮らすことになった。

 ・・・めでたくねえなあ。

 部屋が千冬と相部屋と決まった時から予想はしていたが・・・これ

は少々居心地が悪い。

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Page 28: Infinite Stratos ~ The Accomplice of Black ID:65118 · きPrologue01き

 そして俺でも居心地が悪いのだ。あの一夏はもっとキツいだろう。

 後、最後の婦女子は今度千冬に鉄拳制裁してもらう。

 そんな事を考えながら寮の廊下を歩いていると突然一夏が部屋か

ら飛び出してきた。

 なにやら顔を青ざめて酷く焦った様子だ。

 一夏は背中を扉に預けながらふぅと一息付く。

「助かっ───」

 ズガン!

 突如一夏の顔真横から木刀の切っ先が突き出てくる。

 おい、これまさか・・・

 ズガン!ズガン!

「待て待て待て!本気で殺す気か!!」

 一夏は憤慨しながら扉から距離を空ける。

「あれ、織斑君どうしたの?」

「へー、ここが織斑君の部屋なんだ!良い情報ゲットしちゃった!」

 しかし一連の騒ぎを聞きつけ、女子達がぞろぞろ部屋から出てきて

しまう。

 一夏にとっては最悪の展開だ。

 何せ周りの女子はほぼ男の目を気にしない格好をしている。

 中には下にズボンもスカートも吐かず長めのパーカーのみだった

り胸元が見えている子までいる。

 ったくしょうがねえ。

「おーい、一夏。生きてるかー」

「え、み、湊兄!どうしてここに!?」

「俺もここで千冬と同部屋なんだよ」

「千冬姉と!?」

 その言葉を聞いた瞬間一夏の顔が悔しそうに歪む。

「おらシスコン野郎、何て顔してんだ。別に何もないんだから良いだ

ろ」

「何もないなんて事は・・・」

 駄目だ、それ以上は言わせられない。

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Page 29: Infinite Stratos ~ The Accomplice of Black ID:65118 · きPrologue01き

「それより!中にいるのは箒だな?」

「え、ああ・・・」

「取りあえず事情を聞くがその前に・・・」

 俺は扉の前に立ち、向かいにいるだろう相手に声をかける。

「箒、俺だ。湊だ。事情を聞くから開けろ」

 しばしの沈黙があった後、ゆっくりと扉が開いた。

「どうぞ・・・」

 部屋の中には一夏と同じく古い知り合い、篠ノ之箒がいた。

「お邪魔します。ほら一夏も入れ。さ、今日はここまでだ!もう部屋

に戻って寝ろよー!」

 俺は一夏を部屋に入れ、周りで見物していた女子生徒を解散させ

た。

  ***

  俺はベッドに座る一夏と箒の前に椅子を持ってきてそこに座った。

「さて・・・取りあえずきちんとした挨拶もまだだったな。久しぶり2

人とも」

「お久しぶりです・・・湊さん」

「ああ、久しぶり・・・ってそうじゃなくて!何で湊兄がIS学園の教

師に!?しかも千冬姉と同室って!」

 一夏が更にヒートアップして俺に詰め寄る。

「世界中のスカウト躱して飛び回るのも嫌気が指したんだよ。千冬が

同じ部屋なのは学園の都合だ。んな事よりお前ら一体何があったん

だ?」

「それは・・・」

 と一夏がバツが悪そうに眼をそらす。

「・・・見られたんです」

 顔を赤らめながら俯き気味に箒は一通りの事情を話してくれた。

「なるほどな。一夏」

「な、何だ?」

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Page 30: Infinite Stratos ~ The Accomplice of Black ID:65118 · きPrologue01き

「・・・馬に蹴られて死ね」

「酷え!!」

 酷い事なんてあるか。

「一体何なんだお前は!?いつもいつもラッキースケベ起こしやがって

!しかもその癖鈍いしよお!!」

「鈍いってなにがだよ!!」

「・・・そうだよな。お前ならそう返すよな。もう良いや・・・取りあ

えずそれは謝れ。不用意に入ったお前が悪い」

「ああ・・・すまなかった箒。嫌だったよな」

「いや、その・・・わ、私だって恥ずかしいんだからな・・・」

 一夏の謝罪に箒は更に顔を赤らめて返答する。

 ・・・なんだこれ。

「それと・・・箒も謝れ」

「な、何故ですか」

「お前なあ・・・自分が何をやったか自覚はあるのか?」

「!」

「一夏の不用意な行動に怒るまでは構わんさ。むしろ怒らない方がお

かしい。だがその後木刀を持ちだして攻撃、挙げ句の果てに扉を破損

させるのはいくら何でもやり過ぎだ。上手く一夏が避けたから良い

物の一発でも当たっていたら今頃怪我じゃ済んでないぞ」

「・・・それは」

「お前は剣道を極める者だ。お前の剣は理不尽な暴力のためにあるの

か?」

「っ!」

「違うはずだ。お前は俺とは違う。自らを律し、高める為に剣の道を

歩んでいるんじゃ無いのか」

「はい・・・」

 俺は意気消沈した箒の頭に手をやり努めて優しくなでながら続け

る。

「すぐに治せとは言わねえよ。だがもう少し直情的な性格を押さえな

ければ叶う想いも叶わねえぞ?」

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Page 31: Infinite Stratos ~ The Accomplice of Black ID:65118 · きPrologue01き

「〜〜〜っ!」

 箒は俺の言葉に本日最大に顔を赤らめながらうつむく。

「よし、じゃあこれで話は終わりだ!千冬には上手いこと言っておく

からお前達も早く寝ろよ」

 言いたいことは伝わったと感じた俺は自室に戻るため扉へ歩き出

す。

 と、後ろから箒が呼び止めた。

「み、湊さん!」

「ん、何だ?」

「・・・その、今姉さんは?」

「・・・」

 篠ノ之箒。彼女は束の妹だ。

 昔起こった事件を機に家族は散り散りになっていて、その頃から2

人の仲は悪い。

 というより箒の方から拒絶している感じではあるが。

「・・・まあ、元気にしているみたいだな。どこにいるかは流石に知ら

ないが」

「・・・姉さんは何を考えて」

「さあ、それは簡単に分かる物じゃない。だが、これだけは言える」

「?」

「あいつは、ずっとお前を気にかけてるよ」

 それだけ言って俺は部屋を後にした。

  ***

  自室。

 帰ってくると千冬がデスクで書類整理をしていた。

「ん・・・帰ってきたか」

「ああ、早速メンタルケアをね」

「何かあったのか」

「一夏の唐変木パワーが火を噴いてた。相手は箒」

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Page 32: Infinite Stratos ~ The Accomplice of Black ID:65118 · きPrologue01き

「・・・まったくあいつは」

 千冬は何度目だろうか、頭を抱えてしまう。

「・・・箒は危ないかもな」

「何か気になることでもあるのか?」

「あいつが出場した去年の剣道全国大会見たか?」

「ああ・・・そういえば出場していたな。だがまだ見ていない。それが

?」

「俺は試合後動画で見たんだが、その時のあいつの剣が酷く歪んで見

えてな」

「歪んで?」

「ああ、まるで憂さ晴らしのような・・・相手を心の赴くまま叩きのめ

したいかのような」

 今でも思い出す。

 あの時の箒は見ているだけで気分が悪くなる位歪みきった剣筋を

していた。

「憂さ晴らし、か」

「長い重要人物保護プログラムによる転校生活。しかも一夏とは離れ

ばなれ、連絡も取れない。束の件で執拗なまでに監視と聴取が繰り返

される。そりゃあストレスの一つや二つ溜まる」

「・・・あんな事がなければ」

 千冬は苦々しげに顔を歪める。

「いや、あの事件が無くても時間の問題だったと思う。だからこそ、何

とかしてやりたいんだよ・・・元をたどれば全て俺と束が原因でもあ

るし」

「お前が箒を鍛えてやればどうだ?」

「駄目だ、既に俺は剣の道から外れている。届かんよ」

「難しいものだな・・・」

「過ぎた力は必ず身を滅ぼすし、不用意に力を付けさせるわけには行

かないと思う。かといって俺の剣や言葉じゃきっかけは作れても変

えることは出来ないだろう。この学園生活で少しは何とかなれば良

いが・・・一夏に期待してみるか」

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Page 33: Infinite Stratos ~ The Accomplice of Black ID:65118 · きPrologue01き

「一夏に?」

「ああ・・・あいつの女誑しっぷりはこういう所で活かされないと」

  さて、今日中にラボ設置は終わったし明日は早速研究再開だ。

 今手がけている奴が佳境を迎えているのでそろそろ完成させたい。

  この時は、そう思っていた。

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第3話: 『逃げる』のではなく『受け入れる』

   次の日の昼休み。

 研究に没頭していたら腹が減ってきた俺はラボから出て食堂へ行

こうと中庭を通りかかった。

  それが運の尽きだった。

「・・・・・・」

「お願いします!神様仏様湊兄様!俺を助けてください!!」

 俺は突如現れた一夏に突然土下座されて何かを頼み込まれていた。

 ちなみに何を助けて欲しいのか俺は聞いていない。

「・・・一夏、お前何の真似だ?何の恨みで俺を『生徒を土下座させる

教師』像に陥れようとしている?」

「え、いやそういう事じゃ無く!」

「はぁ・・・取りあえず腹減ってるし、話は食堂で聞く。良いな?」

 俺は嫌な予感を感じながら一夏を連れて食堂へ向かい話を聞くこ

とにした。

  ***

  時は昨日まで遡る。

 湊が地下で設置作業に追われていた頃。

 1年1組教室。

  二時間目の休み時間。俺、織斑一夏は突然女生徒に声をかけられ

た。

「すみません、よろしいかしら?」

「へ?」

 わずかにロールが掛かった鮮やかな金髪、白人特有の透き通ったブ

ルーの瞳。

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Page 35: Infinite Stratos ~ The Accomplice of Black ID:65118 · きPrologue01き

 確か自己紹介の時に聞いた名前はセシリア・オルコットだったはず

だ。

「改めまして、イギリス代表候補生のセシリア・オルコットですわ」

「あ、ああ。織斑一夏だ。それで、何か用?」

「あなた、織斑先生の弟さんだそうですわね」

「一応、な」

「その織斑先生と先ほどのみなt・・・黒崎先生が何か親しげなご様子

だったのが気になりまして。何かご存じかしら?」

「あ〜・・・何と言ったら良いか、まあ幼馴染みみたいな関係かな?」

「お、幼馴染み!?」

 突然セシリアが凄い剣幕で俺の机をバンと思い切り叩き詰め寄っ

てきた。

 だがセシリアは咳払いを一つするとすぐに落ち着きを取り戻した。

 な、何なんだ!?

「そ、それがどうかしたのか?」

「そ、それではあなた自身も黒崎先生とは?」

「ああ、湊兄は千冬姉と俺と同門の道場出身だし昔は何度も稽古に付

き合って貰ったな」

「な、何度も稽古を・・・」

「おう。一緒に風呂にも入って背中を流し合った仲だ」

「お、お風呂もですって!?」

 まあ、俺が小学生の頃の話だけどな。

 離れた所から女子達の黄色い悲鳴が聞こえてくるが何かあったの

だろうか。

「それで・・・それがどうかしたのか?」

「それがって・・・私にとっては重大なのですわ!良いですか!私

は・・・」

 その時三限目開始のチャイムが鳴り響く。

「っ・・・!また後でお話しします!」

 まじか・・・

 憂鬱になりながらも前を向いて授業を受ける体勢に移行する。

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Page 36: Infinite Stratos ~ The Accomplice of Black ID:65118 · きPrologue01き

 次の授業は千冬姉が担当するようだ。

「さて、次の授業を始める前に再来週行われるクラス対抗戦に出る代

表者を決める」

 説明によるとクラス代表者とはそのままの意味で、対抗戦だけで無

く生徒会の開く会議や委員会への出席もしなければならない所謂ク

ラス長の役割もあるようだ。

 まあ面倒そうな役どころだなあ、と思っていると。

「はいっ!織斑君を推薦しまーすっ!」

 ・・・ん?

「私も賛成です!」

「では、候補者一人目は織斑一夏だな。他にはいないか?自薦他薦は

問わんぞ」

「お、俺!?」

 待て待て待て!何で俺が!

「織斑。席に着け。自薦他薦は問わないと言ったはずだ。他薦された

者に拒否権はない。選ばれた以上は覚悟を持て」

 そんな馬鹿な・・・

「お待ちください」

 こ、この声は・・・

「物珍しいからと理由だけで織斑さんに押しつけるのは如何なものか

と思いますわ」

 セシリアが俺の他薦に異論を挟んでくれた。

 何だ、感情的な奴かと思ったが意外と良い奴じゃないか!

「それに幾ら現時点での実力調査とはいえ、実力が定かでは無い男性

にお任せして最下位になってしまえばクラス全体が低く見られてし

まいます。そのような事は避けるべきですわ」

「む・・・それは俺が最下位になるかもしれないって言いたいのか」

 何か、面白くない。

 低く見られるのは好きじゃないんだ。

「当然です。幾らあなたがISを動かせるといってもろくに訓練をし

ていない状態で勝ち抜けるとは思えません」

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Page 37: Infinite Stratos ~ The Accomplice of Black ID:65118 · きPrologue01き

 それは確かにそうかもしれない。

 俺とは違って他の女子達は高校入学前からIS関連の授業を受け

ており多少なりともISを動かしたり、知識をしっかり蓄えてきてい

る子が殆どだ。

 それに比べて俺は初めてISを動かした時と、入学の際に試験官と

模擬戦闘を行った時の二回しかこれまで動かしていない。

「私は代表候補生として訓練しておりますし、一位を取ることも不可

能ではありません。それならば織斑さんより私がクラス代表になる

方が良いですわ」

 だけども。

「納得いかねえ」

「え?」

「確かにセシリアの言うことは一理も二理もあるけど、だからって低

く見られたまま『はいそうですか』って引き下がれるほど俺は大人

じゃねえんだ。男の子だからな」

 俺の発言でセシリアとの間に不穏な空気が生まれる。

「・・・そういえばあなたは黒崎先生と同門だったそうですね。そして

私も祖国で黒崎先生の教えを受けたことがあります」

「え、セシリアも?」

 初耳だ。

「良いでしょう。でしたら決闘ですわ!どちらがクラス代表に相応し

いか、どちらが黒崎先生の教えを受け継いでいるかハッキリさせま

しょう!」

「良いぜ、正々堂々勝負だ!」

 こうして俺は一週間後、セシリアとクラス代表の座を賭けたISバ

トルによる決闘をする事になったのだ。

   あれ、ISバトル?

  ***

32

Page 38: Infinite Stratos ~ The Accomplice of Black ID:65118 · きPrologue01き

 「というわけで俺にISの事を教えて欲しいんだ・・・」

「・・・」

  言って良いか?

 言うぞ?

  聞かなきゃ良かった。

「呆れてなんも言えねえ・・・」

 俺はそのまま食堂の机に力なく倒れ込み顔を置く。

「ど、どうしたんだよ」

「どうしたもこうしたも・・・後先考えず先走りやがる大馬鹿野郎に呆

れているんだよ・・・」

「ぐっ・・・」

 言い返せない一夏は苦い顔をした。

「・・・まあ過ぎたことは仕方ないか。それで?ISの事を教えて欲し

いのか?言っとくけど俺は男だぞ?」

「ああ、それが訓練用のISは貸し出しが無理って断られちゃってさ。

ならISの知識とか戦う時のアドバイスとか貰えればって」

「その位なら教科書や図書館で本漁れば幾らでも出てくるし、俺は何

もしてやんねえ」

「えぇっ!?何でだよ!」

「あのなぁ・・・お前ホント身の程知らずだな」

 俺が白けた目で吐き捨てると流石に一夏がムッとした。

「・・・ずいぶんな言い方だな」

「だってそうだろうよ。相手を誰だと思ってんだ」

「誰って・・・セシリア・オルコット、クラスメイトでイギリスの代表

候補生だろ」

「代表候補生って何か知ってるか?」

「そりゃあ、特待生みたいな感じだろ」

「あのなぁ・・・普通の高校でも特待生っていったら死にそうになるく

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らい勉強して良い成績取ったザ・努力の人なんだ。ここはIS学園、

しかも海外からの特待生で代表候補って事は・・・ここまで言えば分

かるだろ?」

 一夏はハッとした顔をする。

 流石に察することができたみたいだ。

「祖国の名を背負いモンド・グロッソに出場する各国代表になる為、自

分の国で数百時間に及ぶ軍隊仕込みのIS訓練を行い、IS関連の知

識を叩き込まれ、他の代表候補生とのレースに勝ち上がり最新の専用

機を貰っている。その苦労と苦難は計り知れない。お前はそんな相

手と戦うんだ」

「・・・俺は」

「ISが動かせないからISの知識を入れておく?戦う時のアドバイ

ス?そんなのはな、ISバトルにおいて入っていて当たり前の知識

だ。お前は朝千冬と会ったら「おはよう」と挨拶するだろ?それくら

い当然の事なんだよ」

 一夏は俯き、膝の上で握り拳を作っている。

「・・・情けねえな」

「ああ・・・情けねえな。意に反した現状に甘えていたか?お前はただ

逃げているだけだ。受け入れないといけねえ。そして、受け入れ

て・・・『織斑一夏』は何をする?」

 俺の問いに一夏は顔を上げ、凜々しく、決意に満ちた眼差しでこち

らを見る。

「俺は、勝ちたい。勝って、セシリアに謝りたい。甘く見てたって事。

それから・・・もっと強くなる」

「強くなってどうする?ただ腕っ節を強くするるだけなら馬鹿でも出

来るぞ」

「俺は、千冬姉のように誰かを引っ張って皆を守れるようになりたい。

そしていつかは・・・」

 一夏は周りの事も考え声を抑えながらもハッキリと想いと夢を口

にした。

「・・・上出来だ」

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Page 40: Infinite Stratos ~ The Accomplice of Black ID:65118 · きPrologue01き

「えっ」

 口をニンマリさせ呟いた言葉に一夏は驚いたような顔をする。

「そこまで理解して、受け入れて、前に進む気があるなら俺も協力して

やる」

「ほ、本当か!?」

「ああ、だが・・・俺はス・パ・ル・タ・だ・ぞ・?」

「・・・望む所です」

 俺の邪悪な声に怯む一夏。

 試合まで一週間切ってるんだ。やるからには徹底的に。

  ・・・その前に久しぶりにあいつにも会いに行かないとな。

  ***

  その日の放課後。

 俺は一夏に本格的な訓練前の課題としてIS関連書籍10冊を一

晩で読み終えるよう言い渡し、ISアリーナへ向かっていた。

 目的はそこで丁度訓練をしているある生徒と話をするため。

 アリーナの観客席へ足を踏み入れると丁度フィールドを飛び回る

青いISがいた。

「おーい、セシリア〜」

 俺が青いISへ向けて手を振るとISは急停止し、観客席の近くま

で寄ってきた。

「湊さん!お久しぶりですわ!」

 ISを纏っていたのはセシリアだった。

 俺は職員用のアリーナへの通用口を通りセシリアと向かい合う。

「もう!何で昨日挨拶してくださらなかったんですの!?」

「悪い悪い・・・忙しくてな」

 ちなみにHRの時セシリアも出席していたのだが、後ろの方の席だ

からか最初全く気づかなかったのは言わないでおく。

 セシリア、マジごめん。

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Page 41: Infinite Stratos ~ The Accomplice of Black ID:65118 · きPrologue01き

「まあ・・・許して差し上げますわ。折角の再会ですし・・・」

 実はセシリアとは数年前にイギリスで会ったことがある。

 当時のイギリス政府からの依頼で代表候補生達の訓練の特別講師

として1ヶ月指導した時だ。

 その時担当した候補生は6名だったがその中でもセシリアは貪欲

に俺に指導を求めてきて、どんどん実力を伸ばしていった。

 最後の一週間にはセシリアが得た専用機、ブルー・ティアーズを

使った訓練もみっちり行った。

「しかし、あれから2年くらい経ったけどまた一段と動きにキレが出

たな。それにビットの使い方も上手くなってる」

「本当ですか!」

「だが・・・まだ同時操作は難しいか」

「うっ・・・流石すぐにお気づきになりましたか。ええ、仰るとおりで

す。どうも感覚が掴みにくくて・・・未だ、最大稼働にも至っていま

せんし」

「まあ、今のままなら一夏との決闘も楽に勝てるだろ。『今のまま』な

らな」

「お聞きになったんですか・・・ってどういう意味ですの?」

 セシリアは俺の言い回しに眉をひそめる。

「実は俺、一週間一夏の訓練をする事になってな」

「え・・・えぇっ!?」

 セシリアは目を見開き、裏返った叫び声を上げる。

「どどどどど、どういうことですか!何で湊さんが織斑さんを

!?!?」

「落ち着けよ・・・今のまま戦っても勝敗は分かりきってるし、雑魚と

戦ってもセシリアの為にならん」

「それは・・・私が勝利に驕るようになると言う事ですか?」

「ふっ・・・今のお前にそんな心配はしてねえよ」

「では何故ですの?」

 最初、ムッとしていたセシリアだったが今は真剣な顔付きで俺に聞

いてくる。

 分かっているのだ。俺が回りくどい言い方をする時はきちんと理

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解しなければならない、大事な話なのだと。

「今まではお互い性格が分かり、また同じ機体で知っている戦法しか

使わない相手としかお前は戦ってきてない」

「ええ、今までは祖国で競い合った候補生達としか模擬戦は行ってい

ませんわ」

「だが、ここはIS学園だ。望み、研鑽する気概さえあれば未知の相手

と幾らでも戦って吸収していける。その初戦が噂の男子でしかも俺

のスパルタ指導で鍛えられた状態。うってつけじゃないか?」

 俺の誘いにセシリアの目に火が、いや炎が宿る。

「・・・ええ、最高の初戦ですわね」

「いいか、セシリア。俺は一夏を鍛えて、本気で勝ちを取りに行く。だ

からお前は、今実現できる最高のコンディションで掛かってこい」

「望む所ですわ!」

 俺とセシリアは拳と拳を軽く打ち合わせて宣戦布告し合う。

「さて、俺はそろそろ戻るな。頑張れよ」

「ええ!湊さんも織斑さんを是非鍛え上げてくださいまし!」

「おう!あ、そうそう。今度の模擬戦が終わったらお前の訓練も見て

やるよ。ついでにブルー・ティアーズの調整もしてやる。何せ、それ

は『俺が作ったんだから』な」

「はい!お願いしますわ!」

 さあ、面白くなってきたぞ〜!

  ***

 「あぁ〜!!結局湊さんにあの時のお答え、お返しできてませんわ〜!!」

 その後、ISアリーナにセシリアの叫び声が響き渡ったのは運良く

誰の耳にも届いていなかった。

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Page 43: Infinite Stratos ~ The Accomplice of Black ID:65118 · きPrologue01き

第4話: 訓練開始(前編)

  それから二日後。

 集合場所である学校の剣道場にやって来た一夏は、疲れ切った顔を

していた。

「あぁ・・・まだ腕が痛え・・・毎日腕立て腹筋素振り500回ずつは

キツいぜ・・・」

「だらしがないぞ一夏!鍛錬を怠っていたからそうなるんだ!」

「受験勉強にバイトにで忙しかったんだよ・・・」

 一夏の隣で箒が檄を飛ばしている。

 今回、箒には一夏の特訓のサポート役をして貰うことにした。

 まあこれには色々考えがあるわけで。

「よーし、この二日間良く地獄の体力トレーニングをこなしきった!

ここで潰してやろうかとm・・・もとい、ここで踏ん張らなければセ

シリアに勝つなんて夢のまた夢だからな!」

「おい今何言いかけた」

 一度潰してからの反発力で鍛え上げる!

 これぞ黒崎式ブートキャンプだ!!

  勿論嘘だ。

「まあこれである程度体力は元に戻っただろ。こっからは実戦訓練

だ」

「遂に来たぜ・・・」

「しかし、訓練用のISは使えないはずでは?」

「勿論。実戦訓練ってのは剣の訓練の事だ」

 と、俺は持っていた竹刀を一夏に投げ渡す。

「おっと・・・剣?」

「そう。一夏は昔剣道をやっていたし、獲物は剣や刀が慣れてるだろ

う。というか期間的にそっちを磨いた方が良い。射撃は無理だ。使

い物にするにはどれだけ早くても数ヶ月はかかるし知識もセンスも

いる。大体セシリア相手に射撃戦挑むとか自分から負けにいくよう

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Page 44: Infinite Stratos ~ The Accomplice of Black ID:65118 · きPrologue01き

なもんだしな」

「確か、彼女のISは専用機でしたか」

「IS≪ブルー・ティアーズ≫。第3世代兵器『BT兵器』の実用化に

向けたデータサンプリング目的の試験機だ。主兵装である巨大な特

殊レーザーライフルによる狙撃と、全方位からの遠隔無線誘導型射撃

ビット『ブルー・ティアーズ』によるオールレンジ攻撃を得意として

いる。まあようするにわざわざ同じ土俵にあがれば嬲り殺しにされ

る相手って事さ」

 俺が何でもないように言うのを見て一夏は苦笑いを浮かべるしか

なさそうだった。

「嬲り殺しって・・・」

「随分詳しいですね。やはり教員の方には情報が?」

「まあそれも間違いじゃ無いが、元々あの機体の武装は俺が作ったか

らさ」

 そんな俺の突然の告白に。

 「「・・・・・・はあああ

!?!?!?」」

 一夏と箒は驚きのあまり大声をあげた。

「んでまあ今日から剣技の訓練って訳なんだが」

「いやいやいや!何話進めてんだよ!え!?湊兄が作った!?どういう事

だよ!?!?」

「どうもこうも・・・仕事の依頼で一ヶ月イギリスに特別講師で招かれ

た時、めでたく専用気持ちに選ばれたセシリアへプレゼントし

た・・・ってだけなんだが」

 もう少し正確に言うと、イギリスから受けた仕事は『代表候補生選

出の為の最終講義の講師』と『第三世代IS製作における技術協力』の

二つ。

 結局技術協力といっても機体自体はほぼ俺のプラン通りに作らせ

ただけで、実際に一から手がけたのは武装各種だ。

『BT兵器』は俺が手がけた第三世代最新技術の一つなのである。

「本当規格外だな湊兄・・・流石『細胞レベルでオーバースペック』族

39

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の一人」

 おいその族名やめろ。

「初日の挨拶で話していた軍との仕事というのはそういう事だったん

ですね・・・」

「まあな。それより話を戻すが・・・まずは一度箒と剣道のルールで一

本仕合ってくれ。現時点の実力を見たい」

「分かった」

「・・・分かりました」

 そうして一夏と箒は竹刀を片手に所定の位置で向かい合った。

「いくぞ箒」

「ああ、来い」

  ***

 「ちっくしょ〜」

 結果的にいうと一夏の惨敗だった。

 最初はお互い牽制しあいながら相手の隙を探す読みあいが起きて

いたが、唐突に一夏が勝負を決めようと面狙いで踏み込んだ瞬間、が

ら空きになった胴に箒が決め一本勝ちとなった。

「あれだな、一夏は昔から我慢効かないんだよな」

「ぐう・・・」

「まあそれでも相手も悪かったしそこまで気に病むことはねえよ。基

本は一応身についているみたいだからじっくり戦い方を叩き込むぞ」

「お、おう」

「・・・」

 俺が一夏と方針について話していると、箒が黙ったまま俺をじっと

見つめてきた。

「・・・どうした?」

「この間、私に言いましたよね?剣の道を進む事について『お前は俺と

は違う』と」

「そうだな」

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「・・・湊さんは剣の道を捨てたということですか?」

 箒が厳しい顔で俺に問いかけてくる。

 一夏は突然の不穏な空気におろおろし出した。

「・・・だったら?」

「・・・私と一本仕合ってください」

「それで?」

「私が勝ったら一夏の訓練から手を引いてください」

「お、おいおい箒!」

 一夏が慌てて箒をたしなめるがその声は届かない。

「何を言ってるか分かってるな?」

「・・・ええ」

 恐らくだが。

 元々箒は面白くなかったのだろう。

 一夏は特訓に先立ち俺をまっ先に頼り、箒には全く話をしなかっ

た。

 箒は一夏に恋心を抱いている。要は嫉妬だ。

 そして剣道を極める為日々鍛錬を重ねた箒は、剣道を辞めた俺に少

なからず怒りもあると思われる。

「じゃ、まあやるか」

 俺と箒は先ほど同じように竹刀片手に向かい合う。

「一応言っておくが、俺は別に剣道を捨てた訳じゃない。師範の教え

はしっかりと身についている。その上で、俺は実践的な技術を身につ

けるため剣術に進んだ。剣道で培った技術は剣術を身につける中で

非常に助けになった」

 俺は初め両手で正眼に構えていたのを片手で持ち直し、腕を下ろし

一見隙だらけのような体勢になる。

「・・・どういう事ですか」

「お前の考えてることはわかるつもりだ。だから剣術で相手をしてや

る。どちらかが先に相手から一本奪えば勝ちなのは変わらん」

「・・・望む所です」

「良く見とけよ一夏」

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 そして一夏を置いてけぼりにしたまま、俺と箒の試合が始まった。

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第5話: 訓練開始(後編)

   何がなんだか分からないうちに、湊兄と箒の試合が始まってしまっ

た。

 うろたえながらも俺は開始の合図に挙げた右手を振り下ろす。

 瞬間、箒が早速踏み込み胴目掛けて竹刀を振るう。

 普通なら完璧には対処しきれないそれを、湊兄は読んでいたかの如

く最低限の足運びで難なく躱した。

 速い。

 箒のスピードも速いが、湊兄の動き・・・いや判断力というべきか、

はもっと速い。

 流石ブリュンヒルデ、千冬姉と剣技において肩を並べるだけの事は

ある。

 その後も箒は先ほどとは打って変わって臆せず攻め込み続ける。

 面打ち、胴、小手・・・時折牽制に別の場所を狙ってもその軌道は

幾度も空を切ってしまう。

「くっ・・・」

 苦々しい顔をする箒。

 それもその筈で湊兄は箒の連続攻撃を足運び一つで捌ききってお

り、未だ竹刀を動かしていないのだから。

 手加減されているという屈辱と形勢がどんどん悪くなっていく焦

りで箒の動きも乱れ始める。

  と。

「そこだ」

 箒の僅かな、しかし決定的な隙を逃さず湊兄は一瞬で距離を踏みつ

ぶし肉薄する。

 そして次の瞬間、箒の竹刀が吹き飛ばされ宙を舞った。

「なっ・・・」

「はぇぇ・・・」

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Page 49: Infinite Stratos ~ The Accomplice of Black ID:65118 · きPrologue01き

 少しでも視線の先が違えば見逃した所だが、間合いを詰めることに

よって箒の動きを制限し相手の手元に竹刀を差し込んで巻き込ませ

た・・・ようだ。

 箒は一瞬で勝負を決められた事に呆然としている。

「・・・今の歩法は篠ノ之道場で師範から千冬と一緒に教わった物を昇

華させた物だ」

「・・・うちで?」

「剣道は戦うための物じゃない。自らの心技体を鍛え、自らを律する

物だ」

「自らを・・・律する」

「剣術は戦うための物だ。だがそれでも心が鍛えられていなければた

だ力に溺れるのみ。俺は道場での鍛錬を通じてその事を学び、活かし

ている」

「なんと視野が狭いのか私は・・・」

「箒・・・」

「力は所詮力だ。剣道を進む事は力を律することを覚える為にとても

良い。箒はその辺りを忘れているようだがな。さ、もう一本やるぞ」

 湊兄は開始場所にすたすたとあっさり戻っていく。

「え、ちょ湊兄?」

「わ、私は既に負けたのですが・・・」

「なんだ?一回負けたくらいで。お前俺に喧嘩売ったんだ。このまま

終わらせる訳ねえだろ?どうせだ、箒も鍛え直してやる」

 そう、湊兄は気持ちの良いくらいニッコリと微笑んだ。

「あ・・・これアカン奴や」

 めっちゃ怒ってますはい本当にありがとうございました。

 そして箒にとっての地獄が幕を開けた。

  この時の俺は知らなかった。

 まさか俺にも同じだけのキツいしごきが待っているなんて。

  

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Page 50: Infinite Stratos ~ The Accomplice of Black ID:65118 · きPrologue01き

 お手柔らかにお願いします・・・・・・

  ***

  一夏特訓開始から時は経ち、既に土曜日の昼を迎えている。

 今頃、一夏は俺の命に従い箒と地獄の1000本試合を千冬監視の

下行っている事だろう。

 俺が手が空けられなくなったので今日明日だけ千冬に練習メ

ニューの監視を頼んだのだ。

 では俺は何をしているのかというと。

 専用地下ラボでISの最終調整を行っていた。

 事の発端は昨日の夜。

 一夏の専用機開発を担当していた倉持技研から協力を求められた

のがきっかけだった。

 元々、倉持技研は日本代表候補生の専用機開発に携わっていた。

 そこに突然政府から『男性操縦者用のISを作れ』と特命が下り、2

機を同時進行で開発していたがどうにもこうにも手が回らなくなっ

たらしい。

 倉持側には知り合いもいたし、こうして協力している。

 まあ元から自分で手がけるつもりだったのだが。

  とにかく俺は月曜日の試合に間に合うよう、土日をフルに使って一

夏用ISを製作しているのだった。

「う〜ん、やっぱりこのコアはじゃじゃ馬だな・・・一夏に使いこなせ

るのか?」

 今作っているISに使用するコアは特別なコアで、産みの親である

束でも細心の注意を払って扱わなければならない物なのだ。

 正直今の一夏にこの機体は宝の持ち腐れだ。

 だが何としてでも使いこなせるようになって貰わないといけない。

 その為、初戦がセシリアとのバトルなのは好都合だ。

 一夏自身にも、機体自身にも経験値が積まれる。

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 そしていずれは・・・

「まあ、大丈夫だろ。何せ一夏にとってはこれほど嬉しい専用機は他

に無いだろうからな」

  そして、白が鼓動する。

 待ち望んだ瞬間が。

   ──── クラス代表決定戦当日まで、後二日。

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Page 52: Infinite Stratos ~ The Accomplice of Black ID:65118 · きPrologue01き

第6話: 運命のクラス代表決定戦

   月曜日。

 新学期が始まってから丁度一週間が過ぎたこの日の放課後、ISア

リーナには多くの生徒が詰めかけていた。

 一年生の専用機持ちであるイギリス代表候補生と噂の男子操縦者

の決闘ともなれば皆の注目は避けられない。

 その為一年だけではなく、上級生やはたまた教員まで観戦に来てい

た。

 そんな中、一夏はアリーナ横のピットでそわそわしながら俺の到着

を今か今かと待っていた。

「おいーっす、お待たせーぃ」

「「「「 遅い(って)(です)(じゃないですかあ)!!!! 」」」」

「え、皆そこ揃えてくる?」

 その場にいる全員から怒られるとか流石の俺も傷つくんだが。

 ちなみに順番は千冬、一夏、箒、真耶ちゃんの順だ。

「それより湊、時間が押している。さっさと準備してやれ」

「了解・・・それじゃ一夏、始めるぞ」

 と、俺は持ってきたIS用台車を変形させ、簡易ハンガーにする。

「初めての時のようにゆっくり背中を預けろ。ISはただの機械じゃ

無い、パートナーのような物だ。安心して身を任せてやれ」

「パートナー・・・」

「そう。そしてこれがこれからお前のパートナーになる専用機、〈白

式〉だ」

 その名の通り、純白のISが一夏の身体を優しく包み込んでいく。

 俺は初期調整を済ませるため、ハンガーに接続されているキーボー

ドに手を伸ばす。

「1分で終わらせるぞ」

 そして俺はキーボードを『いつものように』猛スピードで叩き始め

た。

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Page 53: Infinite Stratos ~ The Accomplice of Black ID:65118 · きPrologue01き

「各部動作チェック・・・完了。ハイパーセンサー・・・動作確認。移

行作業、開始。初期チェック完了。一夏、気分は悪くないか?」

「ああ、大丈夫。いけるよ」

 その言葉に俺の視界の端で千冬が一瞬ほっとした顔を見せる。

 何だかんだで千冬も心配しているのだ。

「・・・よしOK。一夏、白式の準備が完了するまで後10分かかる。

それまでに落とされなければ十分勝ち目がある。良いな?食らいつ

いてみせろ」

「了解!」

 一夏は、元気よく返事をすると箒の方に顔を向けた。

 実はそれまで一夏に声をかけようか、しかし何とかけたものかと悩

んでいる顔をしていた箒。

 ISのハイパーセンサーはやろうと思えば人の微妙な反応の変化

をも知覚できるほどの精度を誇る。

 故に気づいたのだろう。

「箒」

「な、なんだ一夏?」

「行ってくる」

「あ・・・・・・ああ!勝ってこい!」

 その言葉に一夏は頷くと、そのままゲートへ飛び出した。

  ***

 「ようやく、いらっしゃいましたわね」

 アリーナの空中でセシリアは腕を組んで俺の到着を待っていた。

「悪いな、さっき専用機が届いてさ」

「確かにレディを待たせるなんて失礼ですけど、今回は構いませんわ。

きちんと来てくださったんですから」

 そういってセシリアは長いレーザーライフル・・・確か〈スターラ

イトmkⅢ〉だったか・・・を呼び出し腰に構えた。

『それでは織斑一夏とセシリア・オルコットによる模擬戦を開始する。

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Page 54: Infinite Stratos ~ The Accomplice of Black ID:65118 · きPrologue01き

5秒前・・・』

 アリーナに千冬姉のアナウンスが響き渡る。

 『4、3、2、1・・・試合開始!』

  その瞬間。

「うおっ!?」

 開始の合図と同時にセシリアがライフルの引き金を引き、突然撃っ

てきたのだ。

 腰撃ちで狙いも何もなかった為、驚きはしたものの比較的簡単に避

けられたのだが。

 その驚きが決定的な隙を産んでしまった。

「そこですわ!」

 この状況を狙ったセシリアが次弾を外す訳が無く、稲妻のような閃

光が走り俺に命中した。

  ***

  開始直後のセシリアによる不意撃ちからの狙撃が一夏に命中し、衝

撃で爆炎が舞う。

「一夏!?」

「・・・」

 箒が突然の出来事と一夏の身を案じ悲鳴を上げる。

 それとは真逆に千冬は真剣な目で様子を見つめていた。

「セシリア上手えなあ。だけど」

 すぐに白式が煙から抜け出してきた。

「どれだけ俺達がぼこ・・・特訓したと思ってる」

  ISの基礎知識は参考書で。

 ぶれない剣筋は、毎日の素振りで。

 戦闘の勘と回避の術は試合で。

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Page 55: Infinite Stratos ~ The Accomplice of Black ID:65118 · きPrologue01き

  それが一夏の特訓においてやった事だ。

 習うより慣れろとは良く言った物で、事実その通りだと思ってい

る。

 どれだけ人に教わっても、自分が出来るようにならなければ意味は

ない。

 そして一夏は身体に覚え込ませるという事が非常に得意なタイプ

だった。

「元々一週間って短い期間なんだ。やれる事なんて限られてる。特に

白式はな」

 そんな俺のつぶやきに真耶ちゃんが反応する。

「黒崎さん、特に白式はって・・・どういう事ですか?」

「ふふん、さーね」

 後、7分。

 特訓の成果、見せてみろ。

  ***

 (すげえ・・・まだぎこちない部分はあるけど、白式の反応に何とか追

いつけてる!)

 初撃を肩の装甲を飛ばされるだけで何とかやり過ごし、その後の狙

撃と複数ビット〈ブルー・ティアーズ〉による連続攻撃を俺は何とか

躱し続ける事ができている。

「くっ・・・思った以上に動きが良い・・・これが特訓の成果だと言う

んですの?」

「はは・・・あんまり思い出したくないんだけど・・・なっ!」

 セシリアと言葉を交わしながら、ビットが的確に狙ってくるのを紙

一重で避けていく。

(しっかし、きついな・・・逃げ続けるのは体力がきれないか不安にな

る)

 降り注ぐ射撃の雨を避けながら、俺は焦りを感じた。

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Page 56: Infinite Stratos ~ The Accomplice of Black ID:65118 · きPrologue01き

 白式の準備が出来るまで残り4分。

 俺は賭けに出ることにした。

 俺は武装として唯一積まれている近接ブレードを呼び出す。

 何故ブレード一本だけなのか気になる所だが、今はこれで十分だ。

「ぜああああっ!」

 急ブレーキと加速を行い、それまで逃げに徹していたのを一転攻勢

に出る。

「なっ!」

「スナイパーは近づかれると弱い・・・っていうのはお約束だよな!」

「甘く見ないでください!なら近づかれないようにすれば良いだけで

すわ!」

 セシリアは急速に近づいてくる俺から距離を離しながら、ビットを

俺の周囲に展開させ足止めを狙う。

 放たれるレーザーをくぐり抜け、1機のビットに刀を向ける。

 横薙ぎに振り切り、真っ二つに切り裂き爆散させた。

「そんな!?」

「次!」

 俺は続いて近づいてきた2機のビットの軌道を先読みし同じよう

に爆散させた。

「湊兄には『遠隔無線誘導型射撃ビット』としか聞いていなかったけ

ど、無線誘導って事は毎回自分で命令を送らなければ動かない、自動

じゃ無いって事だよな?」

「くっ・・・」

「しかもその時、お前はそれ以外の攻撃ができない。制御に意識を集

中しないといけないんだ、そうだろ!」

「〜〜〜〜〜!!」

 セシリアが引きつった顔をさせる。

 どうやら図星のようだ。

 残ったビット2機が向かってくる。だがその軌道は既に読んだ。

 あれは必ず俺が一番反応しづらい死角を狙ってくる。

 狙いが分かればもはや死角では無い。

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 俺は難なくビットを落とし、がら空きとなったセシリアへ肉薄し

た。

 勿論、これまで使用していないだけで近接武器を待機させている可

能性はあるが、いくらなんでも間に合わないだろう。

 白式の準備完了まで残り1分を切った。

 だが、その前に勝負は・・・決まる!

  ***

「すごいですねえ織斑君・・・オルコットさん相手にここまで・・・」

 真耶ちゃんがリアルタイムモニターを見ながら感心したように呟

く。

 確かに一夏の特訓は予想以上の成果を出したようだ。

 健闘どころでは無く確かにこれならセシリアに勝ちそうだった。

 だが。

「あーこれは・・・」

「あの馬鹿者。浮かれおって・・・」

 千冬と俺は微妙そうでどこか忌々しげな表情になっていた。

「え?どういうことですか?」

「左手だよ真耶ちゃん」

「左手・・・?」

「さっきから左手を閉じたり開いたりしているのが分かるか?あれ

は、あいつの昔からの癖でな。あれが出ている時は油断して、たいて

い簡単なミスを犯す」

「そんなミスがISバトルで起きたらどうなるか・・・」

 そんな俺と千冬の解説に真耶ちゃんがはっとした顔をする。

 その横でずっとモニターを険しい様子で眺めている箒。

 その心中を俺は察するが何も声をかけなかった。

  ***

 「はああああああっ!!!」

52

Page 58: Infinite Stratos ~ The Accomplice of Black ID:65118 · きPrologue01き

 俺は猛スピードでセシリアに突っ込む。

 ブレードを振り上げ、袈裟斬りで一撃入るタイミングを掴んだ。

 「かかりましたわね」

 にやり、とセシリアが笑う。

 しまった、と自らの失策に気づき距離を空けようと急反転させよう

と試みるが、もはや遅かった。

 ガシャン!

 そんな音と共にセシリアの腰部に付いていたスカート状のアー

マー、その突起が外れて動く。

「残念ですが、ブルー・ティアーズは全部で6機あるんですの」

 そのビットはしっかりと俺に狙いを定めている。

 あれは、射撃型ビットではない。

 弾道型ミサイルビットだ。

  ドガアアアアアアンッ!!

 白い、爆炎が起こり、俺は直撃を受けた。

  ***

 「一夏っ!」

 箒が血の気の引いた顔をして叫ぶ。

 だけど問題ない。

 「・・・ふん、機体に救われたな」

「・・・ホント、冷や冷やさせやがってあの野郎」

 ***

  完璧にミサイルビットが決まり、織斑さんが爆炎に包まれる。

 思った以上、いやもはやそんな言葉じゃ言い表せないほど素晴らし

い戦いをしてくれた織斑さん。

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 こちらもあれから短い期間ながらもなるべく隙を無くそうと鍛錬

を重ねていたのにここまで追い詰められてしまった。

(結果的に私の勝利となりましたが、後で甘くみた事を謝罪しなけれ

ばなりませんわね・・・)

 私の知っている男性とは確かに違った。

 私もまだまだだ、そう思っていた。

「・・・?なっ!そんな馬鹿な!」

 白い爆炎が晴れ、そこに先ほどとなんら変わりない姿で浮かんでい

た織斑さんを見て私は驚愕する。

 いや、正確には先ほどとは少し・・・織斑さんが纏うISの姿が変

わっていた。

「まさか一次移行!?あなた、今まで初期設定だけの機体で戦っていた

のですか!?」

 それまでの無骨な凹凸が無くなり、なめらかな曲線、シャープなラ

イン、どこか中性の騎士甲冑を思わせるデザイン。

 何より変わったのは、近接ブレードだった。

 あのブレードには見覚えが・・・あれは!

  ***

  本当に危なかった。

 直撃後本当にギリギリエナジーが残り、一次移行の完了ボタンを押

せたのだから。

 やっとこの機体は俺専用になったんだ。

 そして俺は右手に持つブレードに目をやる。

 近接特化ブレード〈雪片弐型〉。

 それはかつて現役時代千冬姉が振るっていた専用IS装備〈雪片〉

と同じ名を冠する武装。

 勿論、その能力もしっかり継承している。

「全く・・・俺は世界で最高の姉さんを持ったよ」

 俺は雪片弐型を構え、セシリアとの距離を一歩で詰める。

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 覚醒した白式のスピードはそれまでとは打って変わって速かった。

 「おおおおおっ!」

 俺は何千回とやった型の通り、ぶれの無い逆袈裟斬りを放つ。

  そしてブザーが鳴った。

   『試合終了。勝者───織斑一夏』

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第7話: こうして続いていく学園生活

   クラス代表決定戦が終わったその日の夜。

 俺は千冬から呼び出され、道場にやって来ていた。

「待たせた」

「いや、私も今来た所だ」

 先にやって来ていた千冬に一言詫びをいれ、道場に入る。

「それで、どうしたんだ?」

「いや何、久しぶりに付き合って貰おうとな」

 そう言って、竹刀を取り出す千冬。

「何だ、そんな事かよ。了解、こっちは素手で良いな?」

「構わん。むしろそっちの方が歯応えがある」

 そして、久しぶりな俺達の遊びが始まった。

 千冬が一瞬で距離を詰め、袈裟斬りを放ってくるのを俺は身体を捻

り避けるとそのまま、体勢を低くし足払いをかける。

 千冬はそれを軽く飛んで避ければ、着地と同時に回し蹴りを放って

俺の脇腹に叩き込もうとする。

 俺はそれを難なく腕でガードしてそのまま脚を持ち、思いっきり投

げ飛ばした。

「むっ」

 脚の付け根に走ったであろう痛みに千冬はほんの少し顔を歪める

が、空中で体勢を直して綺麗に着地を決めた。

 だが俺はそこに出来た隙を狙って、懐に飛び込み服を掴んで背負い

投げを決めようとするが、千冬は千冬で俺の服を掴み同じように背負

い投げをしようと力を込めた。

 お互いに投げるには体勢が安定しないため膠着する。

「・・・湊」

 と千冬が突然神妙な様子で口を開いた。

「何だ?」

「白式を作ったのは束とお前だな?」

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 その言葉に俺は一瞬動揺してしまった。

 しかしすぐに千冬なら気づいて当然だと気持ちを切り替える・・が。

 その一瞬で俺は千冬に投げ飛ばされていた。

「うおおおおっ!?・・・ぐはっ!」

「まさか本当に気を緩めるとは思わなかったぞ」

 床に叩きつけられ、天井を見上げる俺の視界に千冬が入ってくる。

 その言葉と顔は楽しそうにニヤっとした物だった。

「ったく・・・俺だってまさかそんな手を使われるとは思わなかったぞ」

 俺が皮肉交じりにそう返すと、千冬は笑顔のまま俺に手を差し伸べ

てきた。

 俺はそれを掴み、身体を起こし立ち上がる。

「・・・それで?どうなんだ?」

「まあ、確かにそうだ。束の方で作っておいて貰った物を俺が引き継

いだんだよ。雪片もあったしな」

「そうか・・・やはりな」

「・・・悪かったな、どうしても必要な事でよ」

「一夏を巻き込む事がか?」

「ああ。俺と束の計画に一夏の存在は必要不可欠なんだよ」

「湊じゃ駄目だったのか?お前なら・・・」

「俺に正義のヒーローは似合わんよ。良くてダークヒーローだ」

「・・・いや悪の大魔王じゃないか?」

「あいっかわらず酷えな」

 そう言いながらお互い、微笑みを浮かべ合う。

 昔とは違う。これが、今の俺達の関係だ。

  ***

  翌日、朝のSHR。

「では、一年一組代表は織斑一夏君に決定ですね!」

 丁度一繋がりデスネ、ワアビックリ。

 クラスの女子達が大いに盛り上がっている中で俺は一人暗い顔を

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していた。

 昨日の試合、勝ったのは良かったのだがそれは結局、面倒くさかっ

たクラス代表になる訳で。

「・・・まあ、仕方ないか」

 これも『新たな立場を受け入れ、覚悟する』って事だ。

 そう考える事とする。

  そして一時間目終了後の休み時間。

 謝りに来たセシリアと、こちらも悪かったと謝り和解し、和やか

ムードに何故か怒った顔をして箒が乱入。

 訳が分からないといったセシリアと何故かセシリアだけでなく俺

にまで怒ってくる箒とのいざこざが起き、予鈴が鳴ってやってきた千

冬姉に3人仲良く出席簿アタックを食らうという事件が起こったの

はまた別の話だ。

  ・・・何で俺まで。

  ***

  昼休み。

 俺はセシリアからの呼び出しを受けて、研究を中断して待ち合わせ

場所の屋上にやって来た。

 何か、夕べから呼び出されてばっかりだな俺。

「待たせたな、セシリア」

「いえ、私も今来た所ですわ」

 俺の謝罪に笑って首を振るセシリア。

 初めて会った時と比べて、随分態度が穏やかになった物だ。

 初対面の時なんか「篠ノ之博士の栄光のお零れを貰った」とか言わ

れたからな。

 まあ今はその話をするとマジで後悔して泣きそうな顔をするので、

からかいでも言わないようにしているが。

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「それで、どうかしたのか?」

「その・・・あの時の質問にお答えしようと思いまして」

「あの時・・・ってああ、宿題の事か」

「ええ・・・『セシリアは何になりたい?』そう仰りました。あの時は、

今を生き、隙を見せないことだけに必死で何になりたいかなんてお答

えできませんでしたが・・・今なら」

「・・・」

 セシリアは意を決して宣言する。

「私は『セシリア・オルコット』になりたいと思います!オルコット家

当主という肩書きで見られるのでは無く、『セシリア・オルコット』と

して皆から認識され、そして『セシリア・オルコット』としてモンド・

グロッソで優勝したいと思うのです!」

 セシリアは、イギリスの名家「オルコット家」の当主だ。

 両親は3年前に事故で他界し、一人で両親の遺産を狙う金の亡者達

と戦ってきた。

 IS適正テストでA+をだし、それからは代表候補生として研鑽を

積んだ。

 多くの努力を重ねた。

 それでもどうしても付いてきて回った「オルコット家当主」という

肩書き。

 その肩書きがどうしてもセシリアの評価について回る。

「セシリア・オルコット」として見て貰えない、そのジレンマにセシリ

アは悩まされていたのだ。

「そうか・・・良い答えだ」

 上出来だ。

 ジレンマに悩まされていたが、それは言い方を変えると肩書きに自

分が捕らわれてしまっていること。

 その自分から雁字搦めにしていった鎖から解き放たれる、そう宣言

しているのだ。

 彼女なら出来るだろう。

 それに、このIS学園は必ずセシリアをセシリア・オルコットとし

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て見てくれる。

「そ、それでですね・・・」

 セシリアがさっきとは打って変わり顔を真っ赤にして話しかけて

きた。

「・・・ん?何だ?」

「その・・・私がモンド・グロッソで優勝しましたら・・・私とけ、け

けけ・・・」

「・・・け?」

「な、何でもありませんわあああああ〜〜〜!!!」

 突然、セシリアは叫びながら走り出し風のように屋上から去って

行った。

  「・・・すまんな、セシリア。俺には誰かに愛して貰える資格なんても

う無いんだ」

  プルルルルル

 「もしもし」

『やっほぉ〜みーくん白式はどうだった〜?』

「どうせシステムハッキングして見てた癖に・・・完璧だよ。全て問題

なく動作していた」

『みーくんの依頼通り保管していたシステム仕込んでおいたけど、本

当に必要あるのかな?私が言うのも何だけど結構危ないよ?あれ』

「確かに一つ間違えれば大惨事を引き起こすが、今の一夏なら問題な

いさ。万が一の為に準備もしておくつもりだし。それより・・・用件

はそれだけじゃないだろ?」

『おう!そうだったそうだった!中東で馬鹿な奴らが馬鹿な事やって

るんだよ〜』

「・・・あそこの政府ゲリラは本当懲りないんだな。了解。直ぐ対処す

る」

60

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『後、あいつらもいるみたいだからよろしく言っておいて〜』

「・・・任された」

  俺は無意識にポケットの中に入ってる物に手をやり、力強く握りし

める。

  こうして俺の学園生活は続いていくのだ。

  ***

  時同じくして、中国のとある軍事施設。

 その一室で一人、スーツ姿の女性がツインテールの少女の直談判を

受けていた。

「・・・IS学園にですか。確かに貴女が向かってくださるのでしたら

願っても無い話ですが、最初は嫌がってたじゃないですか」

「状況が変わったのよ!」

「織斑一夏、ですね」

「ええ、一夏の幼馴染みの私なら模擬戦も頼みやすいし、男子との戦闘

データも取りやすいわ!それに衝撃砲のデータも取れる、一石二鳥で

しょ?」

「・・・はぁ、分かりました。貴女には色々恩もありますし良いでしょ

う。直ぐに手続きを取ります。ただし、問題だけは起こさないでくだ

さいね?昔とは違って今の我が国はクリーンな存在だとイメージ付

けなければならないのですから」

「分かってるわよ!元々そういうの嫌いだし!」

  こうして小さな龍が動き出す。

 それが織斑一夏の周囲に更なる波乱を巻き起こすことを、今は誰も

知らない。

  

61

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 第1章 完

 第2章に続く────

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第2章

第1話: それぞれの思惑

  「転校生?」

 1組のクラス代表決定戦から3日後。

 朝の職員会議で突然通達された転校生の報告に周りでざわめきが

起こる。

「そうだ。名は凰 鈴音。専用機持ちの中国代表候補生だ。事情があ

り入学式に間に合わなかったらしい」

(何だ鈴か・・・一夏周りが面倒になるかもなあ。箒いるし)

 鈴は箒と入れ違いで一夏と出会った2人目の幼馴染だ。

 そして彼女もまた一夏に惚れた口である。

「突然ですまないが、明日から2組に編入する事になっている。皆は

生徒が騒ぎすぎて問題を起こさないよう気をつけておいて貰いたい」

「「「了解しました」」」

「では解散」

 千冬の鶴の一声で各教師が授業に散らばっていく。

 しかし千冬は何やら眉間に皺を寄せながら俺に近づいてきた。

「ん?どうした」

「いや・・・良ければ凰の事を気にかけておいてくれないか?」

「一夏の事だな?」

「ああ、このタイミングで中国政府が送り込んできたのがどうも引っ

かかってな。あいつの事だ。まさかそんな事は無いと思うが・・・」

「まあ中国も探り入れたいのは当然だと思うが、意外と鈴が一夏に会

いたいだけで無理矢理ねじ込ませたんじゃないか?」

「ははっ・・・ありそうだな」

「・・・ああ、面倒くさい事になりそうだな」

 そして俺と千冬は仲良くため息をついた。

 願わくば、何事も起きない事を。

63

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  まあ、無理だと思うがな・・・

  ***

  その日、私はずっと頭を悩ませ続けていた。

 いや、私はあの日から・・・湊さんと初めて剣道場で立ち会った時

から悩み続けている。

 私は内心面白くなかった。

 一夏が私に相談する前に湊さんの所へ行った事を。

 剣道を辞めた湊さんが一夏を湊さんのやり方で鍛えようとした事

を。

 私なら・・・鍛えてきた私の力なら一夏を強くする事が出来る。

 そうしていれば一夏と一緒にいる事が出来る、と。

 都合の悪い事から目を背けて、湊さんに勝負を挑んだ私。

 結果は、散々なものだった。

 湊さんは強かった。

 剣の道を外れ、剣術という戦う為の技術に走った湊さん。

 だが、その剣は私とは比べ物にならないほど気高く強かった。

  私は弱かった。

 強くなるにはどうしたら良いのだろう。

 どうすれば一夏の側に入れるのだろう。

 剣の道は捨てたくない。

 剣の道には誇りも思い出も詰まっている。

 だがそれだけでは駄目なのか?

 代表決定戦の時の一夏は強かった。

 これからどんどん強くなって行くだろう。

  私は置いていかれるのか?

 

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 私の脳裏にあの日の出来事が思い浮かぶ。

   嫌だ。

 もう離れ離れは嫌だ。

 一人は嫌だ。

   どうすれば良いのだろう。

 悩みが行き着く先は、まだまだ見えていない。

  ***

 「よーし、それじゃあ今日はこの辺りにしておく。お疲れ」

 学園ISアリーナ。

 俺の号令に、ISを纏った一夏とセシリアが反応し近くに降りてく

る。

 ちなみにここに箒はいない。

 最近稽古に参加することなく1人になっている事が多いようだ。

 ・・・全く。

 「くっそぉ・・・また負けた・・・」

「私も代表候補生ですしそうそう負けっぱなしではいけませんから

ね。それでも非常にやり難いのは確かですが」

「動きを読みきって狙撃直撃当ててきてるのに、よく言うぜ・・・」

「多少柔軟に動けるようにはなってるがまだまだ直線的だからな。そ

れにこういうのは、回数を重ねれば重ねるほどお互いのやろうとする

事が見えてくるようになるもんだ」

 結局何事も慣れなのである。

「しっかし自分で作っておいてなんだがやっぱ燃費悪いな、それ」

「本当作った本人が言う事じゃないだろ・・・」

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「零落白夜・・・これを使いこなすというのはやはり織斑先生の実力は

桁外れという事でしょうか」

 一夏の白式を以前俺は『やれる事なんて限られている、特に白式は』

と言った。

 その理由が一夏が今右手に持っている剣にある。

 雪片弐型。

 その一本の刀剣が白式唯一の武装にして切り札なのだ。

 その理由が雪片が持つ単一仕様能力『零落白夜』である。

 自らのシールドエネルギーと引き換えに対象のエネルギーを消滅

させる能力を持ち、エネルギー兵器を無効化したり対象のシールドバ

リアを突破しエネルギーに直接ダメージを与える事が出来るIS殺

しの能力。

 お分かりいただけただろうか。

 要は燃費が物凄く悪い諸刃の剣なのである。

 そして白式自体のエネルギー運用効率も低く、高めな加速性能も拍

車をかけている。

 これが、実は千冬のISにも搭載されていた事があり当時現役の国

家代表として大会に出ていた頃完璧に使いこなしていたのだ。

「まあ何て言っても世界最強だからなあいつは」

「千冬姉のISも確か・・・」

「俺が作った、けど何で白式にも零落白夜が発現したのかはわからん

な。基本的に単一仕様能力はその名の通り、2つと存在しない筈だか

らな」

「嘘っぽいな・・・」

「嘘っぽいですわね・・・」

「お前らが俺の事どう思っているかはよ〜く分かった」

 まあ確かに分からないってのは嘘なんだが。

「まあ取り敢えず零落白夜は決め技として置いておけ。ずっと出しっ

ぱは最低でも止めろ」

「頑張る・・・」

「大体ずっと最高スピード飛ばすのもどうな」

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「・・・あら?」

 俺が内心の動揺を隠し一夏に檄を飛ばしているとセシリアが何か

に気づき俺に近寄ってくる。

「ん?どうした?」

「いえ・・・この間までそのような指輪されていたかと思いまして」

「え、ああこれか...偶々だよ」

「あ、それってまさか...」

 俺の左手の中指に嵌まっているシンプルな指輪に気づいたセシリ

アはどこかムスッとした顔で聞いてくる。

 と、一夏が更に何かに気づき口を開きかけるが。

 「・・・・・・・・・・・・・・・」

 「た、他言無用でしたね...す、すみませんでしたあああああああ!!」

「い、一夏さん!?」

 俺が殺気を混ぜたプレッシャーを放つと一夏はすぐに口を閉ざし

土下座してきた。

「一体何を隠しておりますの・・・水臭いですわよ!」

「うるせえ!何もねえ!気にしたら負けだ!」

 その後アリーナには閉まる時間まで言い争いの声が響く事になっ

た・・・

  ***

  ある日の夜。東京都心部にある高層マンションの一室に2人の女

性がいた。

 1人は腕に怪我を負っており、もう1人が介抱している。

「ちっくしょうあの野郎・・・」

「また現れたわね・・・一体どこから聞きつけてくるのやら」

「いつもいつも邪魔しやがって!何なんだよあいつは!」

「落ち着いて。それにしても貴女が無事で本当に良かったわ。あの子

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とやり合って切り傷一つだけなんて奇跡よ」

 怪我をしている方の女性は血管が切れるのではという勢いで怒り

狂っている。

 それをどこか呆れたようなしかし優しい目で見つめるもう1人の

女性。

「でもこれからどうするんだよスコール。このままじゃ仕事が」

「そうねえ。どうせ長老達も煩く言ってくるだろうし・・・何とかした

いのは山々なんだけど」

  「取り敢えずはその件含め、『彼女』に色々聞く事にしましょうか」

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第2話: 小さな龍と破天荒兎

   次の日、鈴が学園にやって来た。

「よっ」

「げっ」

 俺が校門前で出迎えると鈴は失礼極まりない態度を見せる。

「てめえ教師に対して『げっ』とはなんだ」

「・・・本当にIS学園の教師なのね」

 こいつスルーしやがった。

「まあな。取り敢えず早速職員室に案内する。そこから先は担任に任

せてるから」

「りょーかい。それで?あんた何で教師なんてしてんのよ?柄じゃな

いでしょ」

「本当失礼だな!ったく変わんねえなその態度」

「良いじゃない別に。今更でしょ?」

「千冬の前で同じ事やってみてから言えよ」

「無理。千冬さんだけは絶対無理」

「即答か!」

 初めて会った時から鈴はずっとこの調子なのである。

 まあ、怖がられたり避けられたりするよりかはマシだろうけどな。

 親近感はかなり高い。悪友的な。

「それで?あたしのクラスってどこなの?」

「2組だな」

「ふ、ふ〜ん・・・」

 鈴はどこか顔を赤らめつつ、俺に何か聞こうとする素振りを見せて

いる。

 分かりやすいなあ。

「・・・言っとくが一夏は1組。クラス違うからな」

「何ですってえっ!?」

 俺が聞きたいであろう事を先んじて教えると鈴は耳をつんざくほ

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どの叫び声を上げた。

「うるせえな!」

「ちょっと!何であたしと一夏が一緒じゃないのよ!!虐め!?そうなの

ね!あんたが私に意地悪してるんでしょう!!」

「おい襟元を掴むな頭を揺らすな苦しい気持ち悪いHA☆NA☆SE

!」

 気が動転しているのか俺に詰め寄ってくる鈴。

 目がどこか死にかけているのは気のせいだろうか。

「大体俺の一存で決まるわけねえだろ!クラス毎のレベル差を開けな

いためだ。1組には既に代表候補生がいるしな」

「くっ・・・まさか一夏の事だからその候補生にまた朴念仁かましてる

んじゃ・・・」

「ああ、それは無さそうだぞ。切磋琢磨する良いクラスメイトって感

じだ」

 1人小学生の頃から一夏にゾッコンがいるがな。

「ああもう!とにかく早く一夏に会っておかなきゃ!!」

「お、おい鈴!?」

 そうして鈴は俺の制止を聞かずにクラスの方へ走り去っていった。

 「・・・よし千冬にチクろう」

 生意気ガール許すまじ。慈悲はない。

  ***

  その後、俺は千冬と2組の担任に事の次第を伝え、烈火の如く怒り

に燃える千冬と若干引き気味の2組担任を送り出して地下のラボに

向かった。

「さーって、昨日の続きでもすっかなぁ〜・・・・・・」

 ここ数ヶ月ずっと取り掛かってる作業の続きに取り掛かろうとラ

ボに足を踏み入れた瞬間、僅かな侵入者の気配に気づき静かに臨戦態

勢を整える・・・つもりだったのだが。

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「・・・束、隠れてないで出てこい」

「あっちゃあ〜、流石みーくん気がつかれたか」

 突然、天井の排気口が開いたと思ったらそこから兎耳を付けたおと

ぎ話のアリスが降りてきた。

 こいつこそ、天才にして天災、宇宙一の破天荒兎でIS生みの親の

篠ノ之束その人である。

「お前よく入ってこれたな」

「ふふーん!凡人たちの警備システムなんて束さんにとってはゴミ同

然だよ!!」

「流石、特級指名手配者・・・」

 いかんせん俺や束の立ち位置は国際的最重要人物という事で非常

に面倒くさい。

 例えば俺の場合各国のエージェントが俺の力を得て自国の力を強

めようと考え、接触する為探し回っている。

 それが煩わしい事もあって、俺は偶に各国からの依頼を程よく受け

技術提供しているのだ。

  そして束の場合、俺よりやばい。

 ISコアの製造方法は生みの親である束しか知らないとされ、限ら

れたごく少ないコアしか各国に配布されなかった。

 その為、世界中の国や組織が更なる追加コアを製造させようと犯罪

者を追うかの如く探し回っている。

 そして時には武力行使も辞さない事がある・・・誰かの命を犠牲に

してでも束を捕まえようとするのだ。

 それを束は、追っ手に死人を出さず追い払ったり逃げ果せているの

だ。

 こう見えて、実は千冬よりも人間辞めているのでは無いかと思う事

がある。

「それで?今日はどうしたんだよ」

「いやーみーくんが入れ込んでる奴を見せて貰おうとね!」

「何だそんな事かよ・・・昼までには帰れよ。千冬にバレたら後が面倒

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だ」

「・・・そうだねちーちゃんは好きだけど愛が怖いね」

 束は死んだ目をして震えだす。

 世界最「強」は世界最「恐」だからな俺たちにとって。

  お、今俺上手いこと言ったんじゃね?

「さあ!早く見せて見せて〜」

「・・・あいよ」

 俺は右手首のブレスレットのスイッチを入れ、空間モニターとキー

ボードを呼び出す。

 コードがモニターに流れ出すのを束は滅多に見せない真剣な顔で

じっと見つめる。

「へえ・・・面白いね」

「だろ?」

 おっし、エンターキーをッターンッ!!

 と、隣部屋のISハンガーから一機のISが運ばれてくる。

「これがみーくん完全オリジナルISかあ・・・」

「おう。『コアから武装まで全部黒崎湊製』の完全オリジナルIS、『黒

炎(こくえん)プロトタイプ』だ」

 俺たちの目の前にあるIS『黒炎─プロトタイプ』は、光沢のある

黒色をメインカラーとし、端々に真紅のラインがあしらわれている。

 そして特徴的なのはその左手に当たる部分。

 人間大より大きめで鋭いかぎ爪のような指になっている。

「これがこの前話した輻射波動機構だ。これは試作品だけどな」

 輻射波動。

 高周波を短いサイクルで対象に照射することで爆発、膨張させて破

壊するという物。

 要は電子レンジの強力な物だ。

 俺が新開発した名実共に最新技術である。

「仕様予定書じゃあバリアみたいなのを張れるって書いてたけど」

「輻射障壁の事だな。それは今後改造を施す予定だ。まあ今でも左腕

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で簡易版を張れるようになってる」

「へえ・・・それで?これのお披露目はいつになるのかな??」

「よっぽどの事が無い限り、当分無いな」

 俺がそう答えると、束は頬を膨らませて抗議してきた。

「えー!何で何で!こんな凄い偉業出さなきゃ勿体無いじゃーん!」

「お前なあ・・・まだ『ISコアは篠ノ之束にしか作れない』って設定

を崩す段階じゃねえのは分かるだろ?情報を小出しにしていき、然る

べき時明らかにする。忘れたか?」

「でもでもぉ!それを隠したとしても別にこの子や武装を凡人達に見

せるのは良いでしょ!」

「この機体が狙われるだけだ。そういう面倒事は当分御免なの」

 俺が適当にあしらっていると束はようやく諦めてくれたようで腰

に手をあて拗ねたような顔をする。

「もう!・・・よっぽどの事が無い限り出さないんだね!ようし分かっ

たよその言葉忘れちゃダメだぜい!」

 前言撤回。

 すぐに顔が邪悪な笑みに染まった束は入り口から外へ走って飛び

出していった。

 「・・・やべえ。あいつ本気にさせちまった」

 絶対やると言い切れる。あいつは近い内によっぽどの事を起こす。

 俺は誰もくなったラボで自分の甘さに後悔し、これから起きるであ

ろう面倒事を思い一人頭える羽目になってしまったのだった。

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第3話: 嵐、巻き起こる(前編)

    次の日、昼休み。

  俺は生活指導室を借りて鈴と話をしていた。

 これでも学校所属のカウンセラー。生徒のお悩み相談所なのだ。

「ひっどいと思わない!?」

「・・・いや、お前あいつの唐変木っぷり忘れたのかよ」

 机をバンッ!と叩き怒りに燃える鈴。

  実は昨日の夜、一夏の部屋でちょっとしたいざこざが起きたような

のだ。

 一夏と箒がルームメイトという事に鈴が激怒。

 持ち前のフットワークの軽さで箒と部屋を交換しようと鈴が一夏

達の部屋にやって来て箒と少し争ってしまう。

 その後、鈴が一夏に昔の話を覚えているかという話になり・・・あ

ろうことか一夏はその約束を間違って覚えていたらしい。

  実は鈴、両親が離婚している。

 一夏とようやく仲が深まってきたという頃に突然の離婚で中国に

渡ることになった鈴。

 想い人である一夏と離ればなれになってしまう事に悲しむ鈴。

 そして鈴は中国に引っ越す前日、一夏に勇気を振り絞ってこう言っ

たのだ。

 『料理が上手くなったら毎日あたしの酢豚を食べてくれる?』

   普通に考えてだ。

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『毎日味噌汁を〜』的な事なのだろう。

 何で酢豚なんだという突っ込みは置いておく。

 しかし一夏はどう勘違いしたのか・・・

 『ああ、タダ飯食わせてくれるんだろう?(ニコッ』

  昔からだが唐変木にも程がある。

 「でも・・・でもいくら何でもありえないでしょ!!」

「そのありえない事をやってのけるのがあいつだろう・・・そうじゃな

きゃ今頃お前ら付き合ってるよ・・・」

「うぅ・・・」

 頭を抱える鈴。

 ・・・何だろう。本当可哀想になってきた。

 一夏は基本的に良い奴なんだが恋愛ごとになるとこれだからな・・・

「んで、どうすんだよ。多分あいつ何で怒られたのかも良く分かって

ないと思うぞ」

「そんなの謝ってくるまで絶対口聞いてやんない!」

「・・・何年かかるか分からんぞ」

  ・・・取りあえず一夏からも話を聞くか。

  ***

  放課後。

 「いやもう本当何がなんだか・・・」

「お前マジで馬に蹴られて死んでこい」

 案の定、一夏は何も分かってなかった。

「だって・・・」

「だってもくそもあるか・・・何でタダ飯食わせてくれるって考えたん

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だ?」

「鈴の手料理の味見を何度もしていたし、鈴の家中華料理屋だった

し・・・店を継いだらとかそういう事かと・・・」

  ・・・

  誰か、酒もってこい。

 呑まなきゃやってられん。

 「なあ・・・湊兄はどういう意味だったのか分かるのか?」

「・・・教えても良いんだがなあ、自分で気づかんと意味ないと思う

ぞ・・・」

「そうか・・・」

 頭を抱える一夏。

「取りあえずお前はもう一度良く考えてみろ。意外とお前の中であり

えない、って考えてる事が正解かもしれんぞ」

「・・・ありえないと思ってる事、か」

 一夏は馬鹿では無い。

 よく考えれば分かるはずだ。

 「・・・それと、箒と鈴のいざこざについて詳しく聞かせてくれるか」

「え、ああ・・・あれな・・・」

  ***

  その晩。

 「乾杯」

「ああ、乾杯」

 俺は千冬と部屋で静かな酒宴を開いていた。

 

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 コンコン

  そこにノックの音が聞こえてくる。

 「入って良いぞ」

「・・・失礼します」

  俺の返事に反応したのは箒だった。

 実は俺が呼び出していた。

「まあ座れ、ジュースくらいならあるから」

「ありがとうございます・・・」

 千冬は静かに目を閉じ酒を飲んでいる。

 基本的に俺に任せてくれるようだ。

「さて、呼ばれた理由は分かるか」

「・・・」

 黙ったままの箒。

 その様子から理解していると判断し話を続ける。

「鈴に竹刀を向けたらしいな。それもかなり本気の速度で」

  実は強引に部屋を変えるよう詰め寄ってきた鈴にキレた箒は側に

あった竹刀を鈴に向け、本気の速度で振り下ろしたのだ。

 まあ、そこは代表候補生。

 普通では反応できないスピードに追いつき、腕だけISを部分展開

させ防いだようだが。

「まあ、お前の様子を見てて悔やんでいるという事は分かる」

「・・・が・・・」

「ん?」

  「何が分かるって言うんですか!!」

 箒は突然俺に怒鳴り声を上げる。

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 その目からは大粒の涙がこぼれ落ちていた。

  私は一夏が好きで、側にいたい

 でも一夏はどんどん強くなっていき、私とはどんどん差が付いてい

く どれだけ頑張っても一夏の成長には着いていけない

 湊さんには完膚なきに負けてしまうくらい私は弱いと思い知らさ

れる

 弱ければ一夏の側にはいられないんじゃないのか

  新しい幼馴染み?私の他にいたのか

 私と部屋を交換?

 離ればなれ?

  嫌だ

 嫌だ嫌だ

  嫌だ!!

  「なるほどな・・・」

 箒の話を聞き終わり、事情がようやく全て理解できた。

 思った以上に箒の精神状態は悪くなっていたようだ。

 もう少し考えて動くべきだったか?

 もしずっと後まで放っておいたら取り返しのつかない事になって

いたかもしれない。

「・・・私は、どうすれば良いんですか・・・」

「・・・取りあえず色々落ち着いた方が良いと思うぞ」

 箒は缶ジュースを一旦口にし、ようやく多少の落ち着きを取り戻

す。

「・・・さて、箒は色々勘違いしているようだから一つずつ訂正してい

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くぞ?」

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第4話: 嵐、巻き起こる(後編)

   「箒はどうしたいんだ?」

 湊さんが私に問いかける。

 その目は真剣かつ、とても優しく見える。

 つい先ほどまでとは打って変わった印象に私は戸惑いを覚えてい

た。

「私は・・・一夏の側にいたいんです」

「一夏の事が好きなんだな」

 湊さんの直接的な表現に顔が熱くなりながらも私は首を小さく縦

に振った。

「じゃあどういった立場で一夏の側にいたいんだ?」

「・・・どういった立場?」

「いや質問が悪かったな。箒は一夏とどうなりたいんだ?」

  私はどうなりたいのか。

 そんなの決まってる。

 私は一夏と・・・こ・・・恋人同士に・・・

 「ただ恋人同士になりたいなら何故力を求めるんだ?」

   え?

 「恋人同士になりたいならただ良くドラマや映画でもあるようにア

タックしていけば良いだけだ。

 いくら恥ずかしいからって頑張りゃあの朴念仁でも流石に気づく

し、彼女くらいになれるだろ。

 何故弱けりゃ一夏の側にいられないんだ?」

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 「それは・・・」

  言われてみれば・・・確かに何故私は弱くては駄目だと思ったのだ

ろう。

 冷静になってみて思う。

 いつから私は強さを求めるようになったのだろう。

「まさか一夏よりも上に立つ事でしか側にいる事が、恋人になる事が

できないなんて思ってないだろ。」

「そんな!当たり前です!」

「お前が何をきっかけで強さを求めるようになったのかは知らん。

 だがこの間のお前は、俺が一夏のコーチを始めた日のお前は、一夏

を鍛える先生役でしか一夏と共にいる時間は手に入らないと思って

いなかったか?」

「っ!!!」

 「それはただの手段でしか無い。お前は手段を目的にしていた。お前

の目的はそうじゃないだろう。

 強くなりたいという想い自体は間違いじゃ無い。

 だが一夏との関係性においては別に良いじゃ無いか。

 共に並び立つでも、一夏の後ろを支えていくでも。

  安心しろ。

 学園生活は後3年あるんだ。

 その間焦らず、ゆっくり歩いて行け。

 必ず、お前の強さを求める悩みにも、一夏への想いも・・・

  答えはみつかるさ」

   ***

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 「流石はカウンセラー、だな。中々サマになっていたぞ」

「・・・からかうなよ」

 話が終わり、箒が帰って行った後。

 俺は千冬と飲み続けていた。

  正直、自分でも何言ってんだって感じだった。

 もう少し上手く話が出来たんじゃないだろうか。

 変な方向に熱くなっていた気がする。

 あれだ。酒のせいだ酒の。

「いやあ、私には真似できそうに無いな。はっはっはっ」

「絶対『ガキは嫌いだ』とか言ってぶん殴りそう・・・何でもない」

 言い返してやろうと思ったが、一瞬世界最凶の目を向けてきたので

止める事にした。

「そういえばあまり詳しくないのだが自分のカウンセリングとか分析

も出来たりするものなのか?」

「いやそれカウンセリングじゃなくてただの自己解決だからな。

 まあ・・・あえて分析するなら・・・

  悪い大人、かな」

「ぴったりじゃ無いか」

「うるせえなあ!!」

   こうして俺達の夜は更けていった・・・

  ***

  5月に入り、クラス対抗戦を明日に控えトーナメント表が発表され

た。

 

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 第1回戦 第1試合

  織斑一夏 対 凰鈴音

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第5話: クラス対抗戦

   さあやって参りましたクラス対抗戦。

 その第1試合はなんとびっくり一夏VS鈴。

 絶賛喧嘩中である幼馴染み二人の激突という事は既に周知の事実

(どうやら新聞部がデマを混ぜて紹介したようだ)で会場は熱気に包

まれている。

  ちなみに余談ではあるが勝敗予想で賭けを取り仕切っていた2年

の女子は千冬に文字通り制裁されて連行された。南無。

  さて。

  今俺は鈴が待機しているピットに来ている。

 一夏のコーチをしている俺だが、あいつには既に今たたき込める事

はたたき込んだ。

 それよりも・・・

 「さぁ・・・一夏ぁ・・・私が完膚なきまでに叩きのめしてあげる時が

きたわよぉ・・・」

 この俺の目の前の憎悪の炎で燃え上がった鈴をどうにか落ち着か

せる事が先決だ。

 このままじゃまともな勝負にならねえ。

「そうは言うけど鈴、勝てる自信あるのかよ?」

「はっ!何言ってんの。私は国・家・代・表・候・補・生。聞いた話じゃ

ISまともに乗ったのは入学してからっていうじゃない。そんな

一ヶ月そこらの奴に負ける訳が無いじゃない!!」

 まあ、その思考は間違いではない。普通なら。

「いっとくがあいつはセシリアに勝った事あるぞ?」

 だがあいつは普通とは少し違う。

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「・・・セシリアに?」

 ちなみに鈴は転校初日に持ち前のフレンドリーさを活かして、セシ

リアと友人になったらしい。

 仲が良い事は先生も嬉しいぞ。うんうん。

「何だ知らなかったのか。まああの時はセシリアも多少油断があった

からな。でも勝ちは勝ちだ。それに俺も鍛えてやってるからな・・・

そんじょそこらの奴とは比べない方が良い」

「へえ・・・」

 俺がそう言うと鈴はニヤリと口の端を吊り上げ笑みを浮かべる。

「なら、思った以上に楽しめそうね」

 その目には先ほどまでとは違う、『本気』が宿っていた。

  そして、選手入場のアナウンスが入る。

  ***

  大歓声に包まれるアリーナ。

 俺の視線の先では鈴とそのIS『甲龍』が試合開始の合図を静かに

待っている。

『両者、規定ラインまで移動してください』

 アナウンスに促され、俺と鈴は空中で向かい合った。

 そこでオープンチャンネルが入る。

「一夏、今謝るなら少しくらい手加減してあげても良いわよ」

「馬鹿言え。俺がそういうの嫌いだっての知ってるだろ。構わねえ、

全力で来い」

 強がりでもなんでもない。

 例えこれが千冬姉相手でも俺は同じ事を言っただろう。

 その言葉に鈴がため息を吐いた。

「はぁ・・・ま、そう言うと思ってたけどね。ま、良いわ。そっちの方

が都合良いし・・・湊さんから聞いたけどあんた相当特訓してるよう

じゃない。セシリアにも勝ったとか」

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Page 91: Infinite Stratos ~ The Accomplice of Black ID:65118 · きPrologue01き

「それがどうした?」

「素直に褒めてあげてるのよ。いくら相手が油断してても代表候補生

に勝った事は事実。だから・・・」

 私も本気を出してあげる

 『それでは、試合開始!』

 ビーッと試合開始のブザーが鳴り響く。

 瞬間、鈴が猛スピードで二本の青竜刀を構えてこちらに突っ込んで

くる。

 俺は急いで展開した雪片で何とかその攻撃を受け止めた。

「へえ、取りあえず初撃は防ぐか。ならこれはどう?」

 鈴は青竜刀を一本に繋ぎバトンでも振り回すかのように角度を変

えつつ連続で切り込んでくる。

 高速回転している分、さばくのが一苦労だ。

(くっ・・・やっぱりリーチもあるしきついな。一度距離を取ってか

ら・・・)

「させる訳ないでしょ!」

 と距離を取ろうとしたのを読んだのか突然甲龍の肩のアーマーが

スライドして開き、中心の球体が光る。

 と、俺は見えない拳に殴り飛ばされた。

「ジャブの次は?」

 ボクシングと同じ。ジャブの次は・・・ストレート。

 ドガンッ!!

「ぐはっ!」

 続けて放たれた更に威力のある見えない拳に殴られ、俺は地面に叩

きつけられた。

「これが甲龍の第三世代型兵器・・・」

  ***

 

86

Page 92: Infinite Stratos ~ The Accomplice of Black ID:65118 · きPrologue01き

「『衝撃砲』。空間自体に圧力をかけて砲身を生成、余剰で生じる衝撃

を砲弾化して打ち出す・・・これが甲龍の第三世代型兵器だ」

 一人でいるのもなんだったので俺は一夏のピット側に行き箒、セシ

リアと一緒にリアルタイムモニターを見ていた。

「まあ単純に見えない大砲に狙われるって考えれば良い。そしてあれ

はアーマーの全方向に砲身を作り出せる。青竜刀による攻撃を含め

て擬似的に死角を無くしているって訳だ」

「・・・改めて考えると非常に強力ですわね」

 セシリアは真剣な眼差しでモニターに視線を向けながらそう感想

を漏らした。

「一夏・・・」

 箒は既にこちらの話は聞こえておらず、不安そうな様子でモニター

を見つめ続けている。

「ハイパーセンサーで空間の歪みや大気の流れを探り発射の兆候を読

む事はできるがそれだと遅い。一夏が気づけるかどうかだな」

「どういう事ですの?」

 俺の言葉が理解できずセシリアが問いかけてくる。

「言っただろう?あれは要するに見えない大砲だって。ポイントはそ

こだ」

  ***

  本当にまずい。じり貧だ。

 全方向に展開できる衝撃砲に近接武器。

 正直、攻めあぐねている。

 近距離から中距離まで対応できる万能機になすすべが無く、俺は必

死にハイパーセンサーを頼って衝撃砲を避け続ける。

 しかし、どうにも間に合わず直撃は避けているが何度か食らってし

まっている。

「さあどうしたの一夏?逃げてばっかりでその剣は飾りかしら?」

 くそ・・・悔しいが流石候補生。鈴はすげえ強い。

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 きっと俺には想像も付かないくらい努力したんだろう。

 だが、俺にも意地がある。どうにかしたい。

 とにかくあの衝撃砲を避けれるようにならなきゃ・・・

 でもどうすりゃ良いんだ?見えない大砲をどうやって・・・

  ・・・大砲?

 そうか。もし俺の予想が正しければ・・・

 「へっ、この程度大したことねえぜ。大体最初の不意打ち以外一回も

直撃してないじゃねえか。お前こそコントロール大丈夫か?」

 俺はその場に立ち止まって鈴を挑発する。

「なっ・・・馬鹿言ってんじゃないわよ!あたしを誰だと思ってんの!

上等じゃ無い!次はバッチリ当ててやろうじゃない!後悔しても遅

いわよ!」

 案の定鈴は怒りに燃え、衝撃砲を展開・・・こちらに照準を合わせ

てくる。

「食らいなさい!!」

 そして球体がきらめいた。

  ・・・ここだ!!

  ドガンッ!!

 「なっ!?」

 球体がきらめくと同時に俺は最大機動で地面を直線上に移動し、砲

弾を今度こそ完璧に避ける。

「ほーら見ろ」

「こんのぉ!!」

 その後も鈴は俺に向けて衝撃砲を打ち出してくるがそれを全て避

けていく。

 

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Page 94: Infinite Stratos ~ The Accomplice of Black ID:65118 · きPrologue01き

 いくら視認できないとは言え、大砲は大砲。

 誘導弾じゃない。

 砲弾は直線的にしか撃ち出せない。

 なら、真っ向から撃ってくる限り着弾地点から動けば避けるのも不

可能じゃ無い。

 ・・・勿論種がバレれば対策されて終わりだし、既に結構シビアで

冷や冷やなんだけどな。

「な、なんで・・・」

 しかしこれで良い。

 隙は作れた。

「ここだ!」

  ISにはいくつものテクニックが存在する。

 その中でも一番ポピュラーで、かつ非常に難易度が高いが一番習得

しやすいテクニック。

 直線的にしか動けないが、爆発的な機動力で一瞬のうちに距離を詰

める事の出来る移動技法。

 瞬時加速、イグニッション・ブースト。

  湊兄とセシリアに叩き込まれたそれを使って、俺は鈴の眼前に踏み

込んだ。

 「なっ・・・」

 一瞬で目の前に現れた俺に動揺する鈴。

 ここしかない。

 俺は雪片を振り上げ『零落白夜』を展開。

 そのまま振り下ろし勝負を決めてやる。

  しかし邪魔が入った。

  ズドオオオォォォォンッ!!

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 「「!?」」

 俺の雪片による物でもない、鈴の衝撃砲による物でもない、突然大

きな衝撃がアリーナ全体に走った。

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第6話: 全てを焼き尽くす黒き炎

    アリーナに悲鳴が木霊する。

 とんでもない事が起きた。

 一夏と鈴の試合中、突如アリーナ天井のシールドを突き破り、未確

認ISが乱入。

 一夏、鈴と戦闘を開始した。

 その余波は観客席まで及ぶ。

 未確認機、アンノウンと呼ぼうか。奴が打ち出す高火力ビームが観

客席側のシールドに当たり衝撃を与え、いつシールドが破られるか分

かったもんじゃ無い。

 更に。

「開けてよ!!ねえ!!」

「なんでロックがかかってるの!?」

 観客席の出入り口が全てロックされ、解除不能になっている。

「ここも駄目ですわ!」

「こっちもだ!」

「やっぱりか・・・」

 俺と、一緒にいたセシリアと箒もピットから出る事ができないか試

してみたが通常のアクセスでは開ける事が出来なくなっている。

 と、通信が入った。

 俺は右手首のブレスレットを操作し空間モニター通信を呼び出し

た。

「なっ!」

「み、湊さん!何ですのそのブレスレット!」

「ん?俺特製のびっくりドッキリアイテム。千冬、俺だ」

 通信相手は千冬だ。

『湊、今どこにいる』

「一夏側のピットで観戦してた。セシリアと箒も一緒だ。状況は?」

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『最悪だ。アリーナ周辺のドアが外部からのハッキングで完全に封じ

られた。生徒達の避難も出来ず、教師陣のIS部隊を送り込めない。

今三年の精鋭がシステムクラックを試みているが時間が掛かる』

「あーやっぱりそうか」

 俺の頭の中で、この騒ぎの犯人は見当がついている。

 仮にも重要施設であるIS学園のセキュリティを破り、ハッキング

を仕掛ける事が出来る人物。

 更にアリーナに現れたアンノウン。あれは俺が二月に『あいつ』に

渡したデータを使って生み出される予定だった物。

  マジでよっぽどの事起こしやがったな・・・

『やっぱり、だと?湊・・・この事態は』

「詳しい話は後だ。取りあえずそっちは任せた。俺はあのアンノウン

をやる」

『どうするつもりだ』

「悪いけど後始末は頼むぞ。一応顔は隠すが外にバレりゃ色々面倒に

なる」

『・・・まさか、良いのか?』

「・・・仕方ねえだろ。頼んだぞ」

『・・・よし分かった。教師陣と生徒にはこちらから学内箝口令を敷

く・・・すまんな。頼む』

「構わんよ」

 話は済んだので通信を切り、俺は防護シャッターが下りたままの

ピット入り口へ歩を進める。

「一体何を・・・」

「湊さん!今の話は一体!」

「二人とも」

 問い詰めてくる二人の方に顔を向けず制す。

「悪いけど今から見る事は他言無用で頼む。あ、後どっか物陰に隠れ

とけよ」

「???」

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Page 98: Infinite Stratos ~ The Accomplice of Black ID:65118 · きPrologue01き

 俺はゆっくり左手を上げ、前に突き出す。

 その中指には。指輪。

 「──── 来い」

  そしてピット内に黒い閃光が煌めいた。

  ***

 「はぁ・・・はぁ・・・くそっ!」

 鈴との試合中に乱入してきた謎のISと戦いはじめてどれくらい

経ったろうか。

 実際は10分も経っていないと思うが体感的にはもうずっと戦い

続けている気がする。

 乱入したISはとにかく異様だった。

 異常なほど長い手を含めると2メートルを超える巨体。

 全身至る所にあるスラスター口。

 そして何より『全身装甲』というのがその異常さを物語っていた。

「一夏、危ない!」

「うおっと!」

 俺が気を抜いているとそこに向けて容赦なくビームが放たれる。

 と、そこで何かが引っかかった。

(何だ・・・あいつの行動に違和感が・・・)

 俺はこれまでの戦闘を思い返す。

  俺達が周囲を旋回しつつ近づく隙を狙っていれば牽制でビームを

数発打ってきてその後、本命を一発打たれる。

 運良く潜り込めそうな時は、長い腕を振り回しながらビームを乱射

してこちらの行く手を阻む。

 鈴が衝撃砲を打ち込めば、その装甲と腕で砲弾を叩き落としてく

る。

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 ・・・待てよ。

 「なあ、鈴・・・あいつさっきから」

「一夏も気づいた?あいつの攻撃、パターンがある。その隙をつけば

何とか」

「いや、それはそうなんだが・・・」

「何よ?」

 確かに鈴の言うとおりパターンがある。だが・・・

「あまりにもパターンが一定過ぎやしないか?まるで・・・人じゃ無く

て機械が動かしているというか・・・」

 そう、ロボットがプログラムによって決められた動きしかしないか

のように。

「確かに言われてみれば・・・いやでもそんな筈ないわ。無人機なんて

あり得ない。ISは人が乗らないと絶対に動かないのよ」

 それは俺も知っている。しかし・・・本当に無人機の技術は存在し

ないのだろうか?

「仮に・・・仮に無人機だったらどうだ?」

「え?」

「無人機なら気にせず全力で攻撃して止められるか?」

「・・・あり得ないけど、仮に無人機だとするなら。あんたのそれと合

わせて突破できるかも」

「よし・・・やってみるか」

 作戦は決まった。後は・・・

 ドガアアアアァァァンッ!!!

 「なっ!」

「何だあ!?」

 突然爆音がしたので音の方向を向くと、ピットのシャッターが爆破

されたのか粉々に吹き飛ばされ、そこから一機のISが出てくる瞬間

を目撃した。

「あれは・・・」

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「まさか、ここに来て新手だって言うんじゃ無いでしょうね!!」

 そのISは真っ黒な装甲に真紅のラインがあしらわれており、その

大きめな左腕はかぎ爪のように異様な形をしていた。

 操縦者の顔には上半分を覆い隠すようにバイザーが展開されてお

り・・・その体つきは女性とは思えない程筋肉が引き締まってい

て・・・っていや明らかに女性じゃない・・・

「ってまさか!!」

「いよう、頑張ったな二人とも」

 黒いISはゆっくりと俺達2人の方に近づいてきた。

 その声には聞き覚えがある。

 いや、間違えるはずが無い。

「湊さん!?」

「湊兄!?」

「おう。黒崎湊お兄さんの登場だ」

 そう、いつものように軽い口調で正体をバラしてきた。

「な、何で湊兄がIS乗ってんだよ!!」

 俺は驚きのあまり思わずISを纏った湊兄に詰め寄る。

 ちなみに鈴はあまりにもの衝撃に口をあんぐりと開けたまま言葉

を失っている。

「何って・・・俺も動かせるからに決まってんだろ」

「俺が初めてISを動かしたんじゃないのか!?」

「確かに一夏は『世界で初めて確認されたISを動かせる男』だぜ?だ

けど『世界で初めてISを動かした男』は俺だって事さ」

「・・・はぁ!?」

 訳が分からない。

 つまりあれか?俺がISを動かすよりずっと前から湊兄はISを

動かしていたって事か?

 何故?そしてどうしてそれを黙っていた?

「『何で黙っていたんだ』って顔だな・・・んなの面倒な事になるって

分かりきってたからに決まってんだろ。念のために言っとくがこの

事知ってるのはさっきバラしたセシリアと箒、後は千冬と限られた学

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園の人間だけだ。他言無用だかんな・・・そこで惚けてる鈴もだぞ」

「はっ!・・・わ、分かってるわよ。その代わり後できちんと説明しな

さいよね!!」

「・・・まあ黙ってても引いてはくれないだろうしな。良いぜ・・・こ

のデカブツをぶっ壊した後でな」

 湊兄はそう言って一歩前に出る。

「ちょ、ちょっと湊兄!あいつを倒すつもりなのか!?」

「当たり前だろ?じゃなきゃ出てきてねえよ」

「とは言ってもさ!何か作戦でもあるのかよ?」

「別に?」

「〜〜〜!!じゃあ今あいつについて分かってる事を」

「要らない」

「じゃあせめて俺達も手伝って」

「必要ない」

「なっ・・・」

 俺はあんまりな言い方に完全に言葉を失う。

「一夏、お前が気にしてくれるのは分かった。でも大丈夫だ。俺な

ら・・・この俺のISなら・・・」

 全て燃やし尽くして終わりだ

  そう言い放った湊兄の顔は・・・

   恐ろしいくらいに真顔だった。

  ***

  俺の目の前では『あいつ』お手製のアンノウン・・・無人機がジッ

とこちらの行動を待ち続けている。

 別におかしい事は無い。

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 あれはそういう風に俺がプログラムを作ったんだ。

 全く・・・あの野郎・・・

  「ひっさしぶりに俺をキレさせてくれたな」

 そして俺は瞬時加速を用いてアンノウンに肉薄する。

 アンノウンはプログラム通り反撃しようとするが、間に合わない。

 こいつはまだ試作無人機だ。

 その為プログラムの反応速度はどうしても理想より低め。

 一定以上の実力を持ったIS乗りなら超えられる。

「こいつはまだお前と同じプロトタイプだが・・・」

 俺はアンノウンの繰り出すビームの雨を『個別』瞬時加速でかいく

ぐり・・・

「『黒炎』の名を付けた限り、てめえの様な雑魚に負けるわけがねえん

だよ」

  黒炎・・・全てを焼き尽くす黒き炎。

 中二病だって笑われそうだが、俺はこの名に文字通り『全て』を詰

め込むのだ。

 不本意な形の初陣となったが。

  ここで負けるなんてあり得ない。

  俺は相手が機械だと知りつつ言葉を続ける。

「これで終わりだよ、『ゴーレム』」

 そして、目の前に辿り着いた。

 俺はその左手でゴーレムに触れる。

「燃え上がれ」

 黒と真紅に彩られた閃光が走り、爆音と共にゴーレムに向けて輻射

波動を打ち込む。

 そしてボコボコと膨張した世界初の無人機IS『ゴーレム』は、爆

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炎を上げながら倒れ沈黙した。

 「ま、取りあえず束は後でしばき倒すか」

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第7話: 嵐が過ぎ去った後

   翌日。

  結局クラス対抗戦はデータ取りの為来週からそれぞれ1回戦のみ

行うだけで、実質中止となってしまった。

 あの時鈴との試合中に乱入してきたアンノウンと黒い機体・・・湊

兄の件は機密事項となり、箝口令が敷かれた。

「しっかし昨日は本当びっくりしたわね〜」

 今は昼休み。

 箒、セシリア、鈴と一緒に屋上で食事していると、ふと鈴がそう言っ

た。

 昨日あの後鈴とは仲直りしている。

 お互い意地を張りすぎたと謝り合った。

 ちなみに俺が覚えていないという約束については、うやむやのまま

終わった。

『ま、まああたしも一字一句覚えてる訳じゃないし?べ、別にもう良い

わよ。むしろわ、悪かったわね!あははは!』

 というのは鈴談だ。

 「ええ、まさか湊さんがISを動かせるとは・・・今でも信じられませ

んわ」

「だが分からなくもない。IS開発に戦術理論の考察、操縦者への個

人指導・・・自分がISを動かせるからこそなのだろう」

 そう、湊兄はとにかくハイスペックだった。

 細胞レベルでオーバースペック族の1人なのだ。

「まあ発表したくないのも無理ないわね〜ただでさえ『篠ノ之束の盟

友』で『篠ノ之束に次ぐIS技術者』って事で色んな国から引っ張り

だこなのに」

「その上ISを動かせる、しかも超強いなんて分かればどうなる

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か・・・」

「・・・まあ姉さんと同じようになるだろうな」

 篠ノ之束・・・ISの産みの親にして世界で唯一ISコアを製作で

きる人。

 これまでは束さん程重要視されていた訳ではないが・・・

「まさかそういう時の為に教師になったんじゃ・・・」

「ありえますわね」

「ありえるな」

 しかもあの戦闘を見た者にしか分からないだろうけど、あの機動

力、アンノウンを一撃で沈黙させた腕・・・ISだけの力じゃない。

 あの強さは見覚えがある。

 俺が一番憧れている・・・

「ちょっと一夏?聞いてんの?」

「え?」

 ふと気づいてみれば皆が俺の方をじいっと見つめていた。

「ぼーっとして、どうしたのです?」

「まだ昨日の疲れが抜けていないのか?」

「あ、いや少し考え事してて・・・」

「考え事?」

「・・・すげえ強かったなあってな」

「あーね、確かに」

「凄まじかったですわね。個別瞬時加速、まさか会得していらっしゃ

るとは」

「あれ今『使える』のって国家代表クラスだけじゃなかったっけ」

「それでも大国と呼ばれる数カ国の代表くらいですわ。一体どれだけ

の鍛錬を積まれたのかしら・・・」

「しかも誰にもバレないようにでしょ?つくづく化け物よね〜」

「千冬さんは知っていたようだがな」

「って、あんたまさか同じ男なのに湊さんの方が強そうだからって

しょげてるわけじゃないでしょうね?」

「違うって」

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「それでは一体?」

「・・・色々教えて貰う事が出来たなあって思っただけさ」

「うむ、精進あるのみだぞ」

  そう、色々教えて貰わないと。

『千冬姉と同格の強さ』を見せて貰ったんだから。

 「そういえば!まだきちんと説明して貰ってない!約束したのに!」

「あら、そうでしたの?でも今日湊さんはお休みとの事ですが」

「そうなの?」

「ああ、何でも急用が出来たと聞いたが」

  ***

  同時刻。某国上空。

 澄み渡る青空。

 そこは一見何も無いように見える。

 だがそこには確かに人が住んでいる。

  「いやぁ〜流石みーくんだねぇ。束さんのゴーレムが一瞬でやられ

ちゃった」

 そう。ここは篠ノ之束の秘密ラボ。

 ステルス迷彩に滞空機能と束の技術が全て詰め込まれた移動式小

要塞だ。

 今束は自らが放ったゴーレムの戦闘データを眺めていた。

「輻射波動・・・ここまでの威力とは驚きだねぇ。みーくんにお願いし

てデータ貰おうかな〜」

「やるわけねえだろこのクソ兎」

 ガシッ!

 そんな音を現実にさせながら、突然現れた声は束の頭を片手で掴み

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そのまま身体を持ち上げた。

「痛い痛い痛い痛い痛いいいいいいみいいいいくうううんんん

!?!?!?!?」

 その声の正体こそ、学園で一夏達の話の種になっていた黒崎湊、そ

の人だった。

「束・・・マジでよっぽどの事起こしやがったな・・・お仕置きだごらぁっ

!!」

 グリグリィッ!!

「ぎやあああああああああ!!!ごめんごめんってええええええ頭が割れ

るううう!!束さんのハイスペックお脳が耳から鼻からこぼれ出るう

ううう!!」

「おーおースプラッタ映画が撮れるなあ、喜べ束が主役だ」

「たあああすけてえええええ!!」

「束様から離れてください!」

 ガシャッ

 湊が束に文字通りお仕置きをしていると、その背中に銃口が突きつ

けられる。

「あぁん?てめえ誰だ?」

「クロエ・クロニクル。束様に忠誠を誓った者です」

「クーちゃん!?それはマズいって!」

「てめえ・・・俺に銃口向けるとは良い度胸だなあ・・・あ?撃ってみ

ろよ。構わねえぜ?『殺してやるから』さ。」

 本気の殺意をまき散らす湊にクロエは『初めて』『恐怖』という物を

感じる。

「みーくん駄目!お願い!やめて!」

「・・・ふんっ」

 束の懇願を聞き入れたのか湊は束を掴んでいた手を離した。

 束が解放された事が分かるとクロエと名乗る少女はすぐさま銃を

降ろし束の元に駆け寄る。

「束様!大丈夫ですか!!」

「大丈夫だよ・・・全くクーちゃんは冗談が通じないんだから」

「冗談・・・?」

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「・・・」

「みーくんが本気の本気でキレてたら、もっと直接的に私を殺しに来

てるよ。ねえ?」

「・・・結構本気だったけどな」

「あはははみーくんは冗談が上手いんだから〜」

「・・・」

「冗談って言ってよ!!」

「みーくん・・・?まさかあなたが黒崎湊博士なのですか?」

「ああ・・・ってお前どこかで」

 と少し冷静になってきた様子の湊がクロエの顔に見覚えを感じ、記

憶を探る。

「まさか・・・遺伝子強化試験体一号・・・お前一体彼女をどこで」

「拾ったんだよ〜可愛いから私の娘にしようと思って!」

「しかもこの反応・・・」

「うん、元々凄い不安定だったからね。助けるためには『同期』させる

しかなかったんだ」

「・・・あれは二度と使わない事にしただろう、ったく」

 湊はため息を付きながら、クロエをジッと眺めている。

 その眼には既に殺意は無く、代わりに憐れみに似た物が込められて

いた。

「それで・・・みーくんやっぱり怒ってる?」

「当たり前だばーか。最終的に黒炎を出したのは俺の判断だが元はと

いえばお前が余計な事すっからだろ」

 湊が束に白い目を向ける。

「いやあ、ごめんねえどうしてもみーくんのISが動いてる所見た

くってさ。だってこれまでのは『ISだけどISらしくなかった』

じゃん?」

「・・・まあ良いけどよ。おかげで学園の上層部全員にバレて委員会に

まで話が行っちまったらしい」

「ありゃ、ジジイが止めてたんじゃなかったの?」

「お前十蔵さんに殺されるぞってか何でそこまで知ってんだよ・・・勿

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論動いてくれたんだけどな。お飾りがやらかしやがった」

「へえ・・・あいつらやっぱりウザいねえ・・・」

「ああ。だがこれで動きがあれば・・・ビンゴだ。そういう意味では結

果オーライになるかもな」

「じゃあ良かったじゃ・・・何でも無いです」

 束が明るく言いかけるが、湊の視線に黙らずを得なくなった。

「まあ、とにかく今後はもう少しこっちの事も考えて動いてくれよ」

「了解〜」

「じゃあな」

 そう言うと、湊はクロエに一瞬ながらも再度視線を向け、そのまま

立ち去って行った。

 入ってきた時と同じく、ハッチからISで飛び出したのだろう。

 束にとっては別に想像するまでもない事なのだが。

「・・・あれが黒崎湊、ですか」

「そうだよ〜みーくん格好いいでしょ〜」

「格好いい・・・私にはその感情はよく分かりませんが・・・」

  プルルル

  その時、ラボに映像通信が入った。

 発信元は・・・不明。

 「どなたでしょう?」

「ん〜誰だろうね〜・・・もすもす?」

「初めまして篠ノ之束博士」

 束が通信を取ると画面に現れたのは、長く美しい金髪でセレブのよ

うな風貌に抜群の美貌な女性。

「お前は・・・」

「流石は束博士。私の事もご存じでしたか」

「うん、知ってるよ〜しょーもない奴らにしょーもなくこき使われて

るしょーもない奴らだよね〜」

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「・・・ノーコメントという事にさせて頂きましょうか」

「それで〜?この束さんに何の用かな〜?お前らの行動潰しまくって

る報復でもするの?」

「いえいえとんでもない。むしろ束博士と私の間には残念なすれ違い

があると思っておりまして」

「すれ違い?」

「ええ。場合によっては束博士にご協力出来る事もあるかと・・・その

事も合わせてお話したいので一度お食事でもどうでしょう?最高級

のレストランをご用意しておもてなしさせて頂きますよ?」

「へえ・・・面白いねお前」

「恐縮です」

 「良いよ!いつにする?」

「それでは・・・」

   こうして世界は加速していく。

 誰も予想していない未来へと。

   第2章 完

 第3章に続く────

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第3章

第1話: IS委員会

   緊急速報です。

 黒崎湊さんが、IS委員会に呼び出されたとの事です。

 早速現場へ中継を繋いでみましょう。

 現場の黒崎湊さ〜ん。

 はい、こちら現場の黒崎湊です。

 今現在、私は東京都庁横のIS委員会本部の大会議場前通路にいま

す。

 今ここで私は中から入ってOKの合図を貰うのを待っている最中

で・・・

  もう現実逃避は止めておこう。

 むなしくなってきた。

 何故俺が委員会に呼び出されたか。

 この間のISを動かした一件が原因だ。

  やはりというかなんというか。

 あの混乱の中でもゴーレムに続いて出てきた黒いISを目撃した

学内の人間は少なからずいた。

 その為仕方なく、俺と千冬は学園上層部に黒いISには俺が乗って

おり、大事にしたくない。協力をしてくれ、と懇切丁寧にお願いした。

 また十蔵さんも色々と動いてくれたのだが・・・

 こともあろうに表向きの理事長であるお飾りクソババアが独断専

行でその日の内に委員会へその旨を報告してしまった。

 勿論委員会は大混乱。事実確認の為の事情聴取という事で急遽呼

び出された訳だ。

「大丈夫ですか?黒崎君」

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 俺の隣に座っていた十蔵さんが俺にいつもの通り温和な笑みを浮

かべつつ声をかけてくる。

 十蔵さんも事情聴取に呼ばれた一人だった。

「ああ、大丈夫っすよ。いや、いつまで待たせんのかなーとね」

 正直大丈夫ではない。

 こうも早く委員会にバレて呼び出されるなんて予定にはなかった

し、場合によってはこちらのカードを色々切らないといけなくなるか

も知れない。

 本当に束は余計な事をしてくれた。

  ・・・まあ、元々タイミングを見て俺がISを動かせる事をばらし

委員会の動きを伺う、という予定だったので早まっただけっちゃあだ

けなのだが。

 正直、釘は刺しておいたが束は信用出来なくなってきたし、また何

かやらかさない保証なんてどこにもない。

 こちらはこちらで計画の修正も・・・

「お待たせしました。お入りください」

 そこまで思考が行き着いた所、会議場の中からスーツ姿の女性が俺

達を呼びに来た。

「やっとか」

「それじゃあ、行くとしましょうか」

  ***

  大会議場の中はとにかく広かったのだが、緊急の会議だからなのか

中央最前列で円を作るように座っている10名ほどしかいない為、少

し寂しさを感じた。

 ちなみに、当然ながら全員女性で委員会理事。ようはIS第一のこ

の世で一番偉い奴らだ。こいつらを前ではかのアメリカ大統領も頭

が上がらないとか。

 しかし全員そこそこ歳を食っている。

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 若い、美人がいるなんて期待しちゃいけない。

 要は全員文字通り『女尊男卑』を体現しているクソ野郎だ。

「轡木十蔵理事長、黒崎湊博士。発言者席へ」

 俺と十蔵さんは変に反抗する事も無く指示通り円の中央にある椅

子へ座る。

 どう説明したら良いのだろうか。

 エ○ァでゼー○のおっさん達がモノリスで会議している所のど真

ん中にいるゲン○ウ的な状態だ。

 気に食わん。

 「さて・・・黒崎博士、あなたがISを動かせる、更にその操縦技術は

かなり高いレベルにあるという報告が上がってきています。間違い

ありませんか?」

 理事の一人・・・というか委員会の理事長、トップが俺に問いかけ

てくる。

 な〜にが間違いありませんか?だ。知ってるくせに。いちいち態

度が気に食わん。

「間違いありませんねえ」

「そして轡木理事長。あなたはその事を知っていながら報告を上げ

ず、独断で彼を学園に雇用した。間違いありませんか?」

「いやあ、独断で雇用した事は間違いありませんが・・・」

「が、何ですか?」

「私は黒崎君がISを使える事を知りませんでした。何故知っていた

という事になっているのでしょう?」

「あなたは、学園での報告会で彼がISを使える事に何も驚かず、外部

に漏れないよう隠蔽工作を行おうとした。そう聞いています。知ら

なかった、というならこれはどういう事ですか?」

「私はただ、黒崎君がISを動かせてもおかしくはないと思っただけ

です。篠ノ之束博士の盟友でISの共同開発者。そして織斑千冬の

元専属コーチだったのですから。むしろ誰も想像していなかったと

いうのが信じられませんねえ」

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 ちなみに俺は十蔵さんに『俺はISを動かせる』と言った事は一度

も無い。

 示唆する話は数え切れないくらい言ってきたが。

「屁理屈を・・・」

「正直に言ったらどうなの!」

「大体私達に伝わらないようにしようとした時点で論外です!」

「一体何を考えて・・・」

「うるせえなババア共」

 十蔵さんの話に他の理事があれこれ言い出した時、俺は声を荒げて

遮った。

 俺のあんまりな言い方に文句も忘れて理事達は全員言葉を失って

いる。

 構いやしない。俺は立ち上がり周りを囲む理事達に向かって話を

続ける。

「こっちはこの後予定があるんだ。ぐだぐだ話さずハッキリ言ったら

どうなんだ?『黒崎湊をクビにして委員会にISセットで引き渡

せ』ってよ」

「っ・・・」

 周りの理事達が『何故分かった!?』と言いたげな表情を見せる。

 分からないと思ってるのが信じられん。

 隣の十蔵さんは笑みを崩さず、黙ったままだ。

 理事長は俺の反撃に面食らったようだが、気を取り直しこちらに話

しかけてきた。

「それでは・・・黒崎博士、今すぐ学園を辞め我々に協力して頂けます

ね?」

「断る」

「何故?」

「どうせお前らの目的は俺の技術と束の居場所、それと男がISを動

かせる原因を調べる、だろ?これ以上男がIS動かせたらお前ら困る

もんなあ」

「ふふ、何を根拠に・・・」

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「別に良いんだぜ?『色々』バラしても」

「・・・」

「・・・大体、IS学園は教師も外部干渉が許されないのが原則なんだ。

まずここに呼び出されてる事自体不本意なんだよ。特記事項第20

項。知らねえとは言わせねえぞ」

  特記事項第20項。

 本学園における教職員は学園との契約期間中においてありとあら

ゆる国家・組織・団体に帰属しない。本人の同意が無い場合、それら

の外的介入は原則として許可されない物とする。

 ただし、出向扱いの非常勤講師に関してはこの限りでは無い。

 特記事項第21項では生徒を守るこの規則。きちんと教職員を守

る物もあるのだ。

「くっ・・・」

 まさかこのような事に使われるとは思わなかったのだろう。

 どこか悔やむ顔を見せる委員長。

「まあ安心しろ。俺にISコアは作れない」

 まあ嘘だが。

「男がISを動かせる原因は俺にも分からんし、俺のこの自作ISも

学園に所有権があるISコアを使っているから渡す理由が無いしど

こにも」

 嘘だ。学園のコアはそういう風に十蔵さんと話しているだけで手

を付けていない。

「さて、話は終わっただろうから俺達は帰らせて貰う。まあ、これまで

通り、ビジネスとして仲良くやりましょうや」

「待ちなさい!せめて束博士の居場所を」

「知らない」

 勿論嘘だ。

  ***

 

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「いやあ私は必要なかったかも知れませんねえ」

 会議場から出ると十蔵さんが未だ笑みを崩さずそう言った。

「いやいや、側にいて貰えるだけで安心出来ましたよ」

「またまた・・・褒めても何も出ませんよ」

「あちゃあ、残念っす」

「さて・・・私は学園に戻りますが黒崎君は用事があるんでしたか?」

「ええ。今日彼女が日本に着くそうなので出迎えに」

「ああ、そういえばそうでした。大事な転校生です。よろしくお願い

しますね」

「ういっす」

  ***

  成田国際空港。

 俺は十蔵さんと別れ、ある女の子を出迎えにやって来た。

 本人からのメールで今日着くと聞いていたのだ。

 いつ以来か・・・まさか俺を追って転校してくるとは。

 勿論国の意向もあるのだろうけれども。

 入国審査ゲートから乗客が次々出てくる。

「お・・・」

 俺の目線の先に待ち合わせの相手がいた。

 小さな鞄・・・俺が買ってあげた奴だ・・・片手にいつも通りの軍

服姿できょろきょろとあたりを見渡している。

 軍服姿は非常に浮いており周りから視線を受けまくっているが全

く気にしていないようだ。

「おーいこっちだ」

 俺が手を振りつつ声をかけると、それに気づいた彼女は俺の方を向

き満面の笑みを浮かべる。

「父様!」

  彼女の名は、ラウラ・ボーデヴィッヒ。

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 明日よりIS学園の学生となる転校生で。

 ドイツ軍IS配備特殊部隊「シュヴァルツェ・ハーゼ」隊長で少佐

で。

 千冬の教え子で。

  形式上ではあるが俺の義理の「娘」だ。

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第2話: 転校生は突然に

   その日、1年1組朝のHRは突然の転校生がやって来たにも関わら

ず静まり返っていた。

 いくら担任が鬼教師織斑千冬だからといっても、突然の知らせに驚

き騒がない十代女子はいない。

 では何故か?

   転校生の片方が銀髪、眼帯、軍服といかにも軍人といった装いなの

に小柄な少女だったからか?

 その少女が色々噂の絶えない黒崎にべたりとくっついて幸せそう

に満面の笑みを浮かべていたからか?

  いやそれはそれで理由の一つではあるが違う。

   もう一人の転校生が男子だったからだ。

  ***

 「シャルル・デュノアです。フランスから来ました。不慣れな事が

多々あるとは思いますが、どうぞよろしくお願いしますね」

 そんな転校生の一人、シャルルはそうにこやかな笑顔で自己紹介し

一礼する。

 人懐っこそうで中性的な顔立ち、礼儀正しい立ち居振る舞い。

『貴公子』という表現がここまで似合うのも中々いないだろう。

「お、男…?」

「はい、こちらのクラスに同じ境遇の男性がいると聞きまして転入を

…」

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「きゃ…」

「きゃ?」

 おっとやっぱり来たな。

 俺は自前の耳栓を自分で着け、さっきから俺にひっついて甘えてく

るラウラの両耳を優しく塞いでやる。

「ん?どうしたんだ?」

 ラウラは俺を見上げ純真無垢な困惑顔を俺に見せる。

「きゃああああああああああああああ

!!!!!!!」

 ぐおおおおっ!?

 クラス中から上がる歓喜の叫び声が衝撃波のように耳栓を突破し

て俺に攻撃をしかけてくる。

 研究したらマジで兵器化できるんじゃねえかな…

「男子!二人目の男子!」

「夢じゃないのよね!?」

「しかも庇護欲を掻き立てられる美男子!」

「お母さん!私を産んでくれてありがとう!!」

「あぁ…私もう死んでもいいわ…」

 最後のやつ、大丈夫か。

「ああもう…騒ぐな、まだ自己紹介は終わっとらん」

「そ、そうですよ〜!!皆さん〜!お静かに〜!!」

 千冬と真耶ちゃんがクラスを宥めにかかる。

 お仕事お疲れ様。

「さて、ラウラ。皆に自己紹介だ」

「うむ、分かったぞ!」

 俺はいつまでもひっついて離れないラウラの背中を押してやる。

「ドイツ空軍特務IS部隊所属、ラウラ・ボーデヴィッヒだ。国からの

指示と父様に会う為にやってきた。私も不慣れな事が殆どだがよろ

しく頼む!」

 おお!完璧すぎる自己紹介だ!!

 成長したのう…父さん感動で涙が止まらないよ…

「む?」

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 おや?ラウラの様子が…?

 ラウラは正面に座っている一夏を見つけるとおもむろに近づいて

いく。

 一夏も突然の事に戸惑い、千冬はそれを止めようと一歩を踏み出そ

うとする。

(まあ、待てって)

(どういうことだ…!)

(見てろって)

「貴様が織斑一夏か」

「あ、ああ。そうだけど…」

 緊張した空気のクラス。

 そしてラウラは右手を…

「織斑教官の弟だそうだな。話は聞いている。会えて嬉しいぞ」

 一夏に差し出し握手を求めた。

「お、おう!よろしくな」

 その友好的な態度に一夏も握手を返す。

(そんな…あのラウラが…!?湊、何かやったのか!?)

(まあちょっとな)

 想像するに千冬はラウラが一夏を引っ叩く未来でも想像したのだ

ろう。

 まあ千冬が知ってるラウラならそうしてただろうな。

 小声でそんな会話をしている間に、シャルルとラウラは既にクラス

メイトに囲まれ歓談を始めていた。

「そういえばラウラ、自己紹介でお父さんに会う為に来たって言って

たけど…」

「ああ!長く離れて暮らしていたのだがようやく連絡が取れたのだ

!」

「そっか〜良かったね〜!」

「でもウチ寮生活で外出も週一じゃない?折角会えたのに寂しくない

?」

「何を言っているんだ。父様とは学園でもずっと一緒にいるぞ?」

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「「「へ?」」」

  …ん?何か嫌な予感が。

 「ふふっ!もう離さないぞ父様!」

 そう言ってラウラは俺に走り寄り飛びついてくる。

「「「は?」」」

「あの〜ラ、ラウラさん?もしかしなくても…そのお父様というのは

…」

 額に青筋を立てながら震え声でラウラに問うセシリア。

「ああ!黒崎湊は私の父様なのだ!」

  「ええええええええええええ

!?!?!?!?」

  クラス中がシャルルの時と同じ位驚きの声をあげる。

 その中に目から光が消え、冷たいオーラを発する金髪と黒髪の女性

が二人。

    あ、ダメだこれ。

  ***

  昼休み。

  応接室に昼食を持ち寄り、俺とラウラ、そして千冬とセシリアの四

人はランチタイムと洒落込んでいた。

「「…………」」

 まあ、若干二名は未だ不機嫌オーラを漂わせ続けていたが。

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「父様!このチーズケーキ凄くおいしいぞ!」

「そうか〜それは良かったな〜食堂のおばちゃん達に後でお礼言おう

な〜」

 ラウラが食べているのは、我がIS学園食堂おばちゃんズフォース

渾身の人気裏メニュー、『日替わりプレミアムスイーツ』だ。

 一日限定10個で値段も1500円と本当に学生食堂のメニュー

なのかと疑うが、昼休み開始10分程で売り切れる超人気メニューな

のだ。

 今日はラウラの転校祝いにと俺が頼みに頼み込んで、1個多く作っ

てもらっていたのだ。

「…はぁ。何かいつまでも不機嫌でいるのが馬鹿馬鹿しくなってくる

な…」

「ええ…こんな穏やかな親子会話を見せられて流石に大人げなくなっ

てきました…」

 千冬とセシリアはそんな俺たちの雰囲気に根を上げたのかなんな

のか、機嫌を直してくれたようだ。

「それで?一体どういう事なんだ?」

「そうですわ!親子というのはどういう事なのです!?」

「どういう事って言われてもなあ…ほら、千冬ドイツにIS訓練の教

官として赴任していた時期があっただろ?」

「ああ」

 自己紹介の時、ラウラが一夏に千冬の事を『織斑先生』ではなく『織

斑教官』と呼んでいたのはそういう事情がある。

 ある事件がきっかけでドイツに借りができた千冬は一年ほど教官

役として派遣されていた。

 ラウラはその時の教え子という訳だ。

「それと入れ違いでドイツ軍に雇われたんだよ。『次世代IS開発へ

の技術協力』って事でな」

「私の時と同じ…」

「なるほどな。そんな計画があるという話だけは聞いていたが…とい

う事は学園に報告された専用機というのは」

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「そ、俺の作品。といっても元々基本フレームやらソフトウェアはド

イツの技術チームが作ってたからな。俺が関わったのはほぼ装備プ

ランだけ」

「それで、乗り手と詰めなきゃ仕事にならんって言ったのがきっかけ

でラウラと知り合ってな…まあ、その、紆余曲折あって義理の娘とし

て引き取ったんだ」

 あの時は色々大変だったな…

「義理の娘…という事はご結婚されたという訳ではないんですの?」

「当たり前だ!ていうかそんな相手いないっつうの!」

「そ、そうですわよね…よし、なら問題なしですわ」

「……」

「ん、何か言ったか?」

「いえ!別に…」

 その時俺は千冬が苦しそうな表情をしていた事に気づかなかった。

  いや、気づいていたが見て見ぬふりをしたのだ。

   ***

  夜。

 寮に戻ってきた俺と千冬は最近日課となっている晩酌をしていた。

「…ところでさ」

「ん?何だ?」

 俺は今朝HR前からずっと気になっていたことがあった。

「…なんであいつ『男のフリ』してんだ?」

「…気づいていたか」

「いやだって滅茶苦茶怪しいだろ」

 一夏の一件で世界的に男性を対象としたIS適性検査が実施され

た。

 結果は空振り。

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 俺というイレギュラーを除き、男でISを動かせるのは一夏以外に

いなかった。

 しかしここに来て突然現れた男性操縦者?

 しかもあの『デュノア』姓ときた。

『デュノア社』とはフランスにあるIS開発の大企業だ。

 デュノア社の量産機IS『リヴァイヴ』は世界第三位のシェアを誇

り、その名は世界に轟いている…

 というのは過去の話。

『リヴァイヴ』は例え世界的シェアがあっても所詮は第二世代型。古

いのだ。

 現在欧州連合で計画されている統合防衛計画『イグニッション・プ

ラン』では次期主力機の選定中で各国は第三世代機をコンペに提出し

ている。

 しかしフランスでは未だ第三世代機の開発に至っておらず、その所

為もあって戦力外としてプランから除名されている。

 勿論これは不味いという事でフランスIS開発の顔であるデュノ

ア社には政府より強いプレッシャーが掛けられているというのはそ

の道の人間には周知の事実。

 そんなデュノア社の血縁者から男性操縦者が見つかったらすぐに

公表し広告塔にするだろう。

 事実デュノア社はシャルルの転入を境に精力的なキャンペーンを

行っている。

  だがここで違和感が残る。

 元々一夏が現れた事から、世界的な適性検査が実施されたのだ。

 例えその時に見つかったとしよう。

 なのにそこから専用機を与えられ、国家代表候補生として選ばれる

?  果たしてたった1、2カ月でそれまで訓練を積んできた周りを押し

のけて候補生になれるものなのだろうか。

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「大体体つきもよく見てみれば違和感だらけだしな。何だあれ、晒で

も巻いてんのか?」

 結果、疑念の行き着く先は一つ。

  シャルル・デュノアは女である。

 「まあ…色々と事情があるのだろう」

「一夏のスパイかもしれないぞ?それでも良いのか」

 男のフリをしてIS学園に潜り込んだという事は何か目的がある

という事だ。

 という事はターゲットとして必然的に思い浮かぶのは男性という

事で近づきやすい、一夏と白式。

 恐らくデュノア社からは白式の稼働データを盗んで来いとか色々

言われている事は間違いないだろう。

 気に入らない。

 「それは…」

「お前はどうなんだ?生徒会長」

 「その時はその時よ」

 俺はさっきからずっと感じていた気配に声をかける。

 するとドアから返事が返ってきて、IS学園生徒会長、更識楯無…

刀奈が部屋に入ってきた。

「聞いていたのか」

「聞き耳とは趣味が悪いなあ」

「すみません織斑センセ。彼女の今日の様子を聞きたくて」

 どうやらというかやはりというか、刀奈はこの件に関わっているよ

うだ。

 まあ『更識』の仕事というのもあるのだろう。

「んで?どうするつもりなんだ?」

 場合によっては、出るとこに出ないといけなくなる。

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Page 126: Infinite Stratos ~ The Accomplice of Black ID:65118 · きPrologue01き

「それは勿論…彼女の『本当の』気持ち次第ね」

   「ところで、ラウラちゃんと親子関係って聞いたんだけどどういう事

か説明してもらえるかしら?」

  お前もか!

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Page 127: Infinite Stratos ~ The Accomplice of Black ID:65118 · きPrologue01き

第3話: 幸せな時間

  あれから五日が経った。

 その後、シャルルは目立った行動を起こす事無く、一夏達と一緒に

仲良く学園生活を送っている。

 結局俺が当初危惧していたスパイ行為も行っている様子は見受け

られない。

 勿論完全に信用できるわけじゃないが、あの後少しデュノア社の内

情を調べた結果も考えると恐らく大丈夫なんじゃないかと思ってい

る。

  全く本当に気に食わない。

  今は午後の自由時間。

 俺は一夏、箒、セシリア、鈴、シャルル、ラウラの訓練指導を行っ

ていた。

 いやあ、父さんはラウラが皆と仲良くしてくれて本当に嬉しいよ。

 ドイツで根性叩き直しておいて良かった良かった。

「ひっ…」

 俺が物思いにふけりながらうんうんとうなずいていると、遠くでラ

ウラが小さな悲鳴を上げた。

「ど、どうしたのです?ラウラさん」

「と、父様があの小さな笑みを浮かべている時は…絶対恐ろしい事を

考えている時だ…」

「どういう事ですの!?」

「あの笑顔…忘れられん…ドイツでの日々…お仕置き千本ノック…う

あ…うあああああああ…」

「一体何があったんですの!?!?」

 …ちょっとやり過ぎたかもな。今さらながら反省した。

「お〜お〜怖くないからこっちおいで〜ラウラ〜」

「うぅ…本当か?」

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「お〜ごめんな〜ラウラ〜怖がらせたな〜」

 ああ〜かわええのお〜

「あ、もしもし。警察ですの?実は今ワタクシの目の前に養女の幼女

に欲情するロリコンが…」

「誤解だああああああああああ!!!」

  ***

 「あいつら相変わらず仲良いわね…」

 鈴が湊兄達の方を呆れた目をしながら見て呟いた。

 湊兄、セシリア、ラウラの三人揃った姿はこの一週間足らずで既に

学園の日常風景となっている。

 なんというか…とにかく微笑ましい光景だ。

 セシリアは湊兄に気があるらしいし、いずれ父母娘の三人家族のよ

うに見えてくるかもと思ってきている。

(だけどセシリアは知らないんだよな…あの事)

 あの時、湊兄に口止めされたため言えずじまいだが…セシリアの恋

は本当に実るか不安だ。

 俺もあまり事情を知らないので何とも言えないのだが…

「しっかし驚いたなあ…まさか湊兄が義理でも父親になるなんて」

 本当…俺はいつまで経っても湊兄の事を理解しきれない。

 凄く、遠い所に居続けている。

「ああ、確かにな」

「うん、あんなに仲が良いなんて羨ましい位だね。本当に…羨ましい

なぁ…」

 俺の呟きに箒、そしてシャルルが続けて同意を口にする。しかし

シャルルの最後のほうが聞き取れなかった。

「ん?何か言ったか?」

「え!?い、いや何もないよ?それよりさ!黒崎先生って一夏の昔から

の知り合いなんだよね?」

「え?ああ、そうだよ。元々は千冬姉と同級生で、俺は道場で知り合っ

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たんだ。要は俺の兄弟子になるな」

「へえ…凄いIS技術者だって聞いたんだけど…」

「ああ、そりゃ凄いぜ。しかも自分でISを動かせる…」

 あ。

「おい!一夏!」

「ちょっとバカ一夏!緘口令忘れたの!?」

「あちゃあ…やっちまった…」

「ど…どういうこと!?」

 シャルルは信じられない事を聞いたといった具合に動揺した顔で

聞き直してきた。

「あー…実は学園内では緘口令が敷かれてるし一般には公表されてな

いんだけどさ…」

「…湊さんはISを動かせる。しかも相当な腕前だ」

「はぁ…少し前に未確認ISの襲撃事件があってね。その時事態の収

拾のためにISで戦ったのよ。瞬殺してたわ」

「黒崎先生が…ISを…?」

 シャルルは未だに信じられないといった顔をしている。

「まあそういう反応になるわよね〜あたし達も同じ感じだったし」

「頼むシャルル!俺が口滑らせた事内緒にしておいてくれないか!?バ

レたら千冬姉に殺されちまう!!」

「それだけなら良いが…湊さんが怒ってしまったら…」

「………(ガクガクブルブル」

 あ、想像したら震えてきた。

「わ、分かったよ!秘密にしておくから!!」

「た、頼む…」

 その時俺はシャルルに頼み込むばかりで気づかなかった。

 シャルルが決意のまなざしを湊兄に向けていたことを。

  ***

  翌日の日曜、午前10時。

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 俺はある人物から連絡を受け、どうしても内密で話がしたいという

事で地下の研究室に併設したミーティングルームで相手を待ってい

た。

 俺が許可を出していれば、普段入る事が許されていない人間でもこ

こまではやって来れる。

 ちなみに千冬など教員は基本入室可能なのでそれ以外だと二人目。

 一人目は一夏だ。千冬と同じくらい信用できる為許可を出した。

 たまに世間話をしにやってくる。

  コンコン

 と、ドアがノックされた。

「入っていいぞ」

「…失礼します」

 返事に続いてゆっくりドアが開く。

  そこにはシャルル・デュノアがいた。

「よう、まあ座ってくれ。コーヒーか紅茶、日本茶どれが良い?」

「えっと…じゃあ日本茶で」

「OK」

 俺はストックの茶葉を出して手早く準備を済ませる。

 後は茶葉の抽出を待つのみ。

 さて…じゃあ本題だ。

「それで?今日は突然どうしたんだ?」

 そう聞くとシャルルは言いづらそうに、でも真剣な表情で口を開い

た。

  「黒崎先生…いえ、黒崎博士。僕の実家であるデュノア社の第三世代

開発計画に、技術協力していただけませんか」

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第4話: 本当のキモチ

   「断る」

  僕は間髪入れず告げられたその一言に一瞬何を言われたのか分か

らなくなった。

 依頼を断られた。

 ここで黒崎博士とのコネクションを繋げることができたら僕の『任

務』も必要なくなるし、連絡役など何らかの形で関わることが出来る

かもしれない。

 そうすれば一夏達とずっと…

 「考えが甘いな」

 ………え?

「お前をここに送り込んだ奴が、その程度の手土産でお前を使い続け

ると思うか?」

「な、何を言って…」

「そうだろう?『シャルロット・デュノア』ちゃん?」

「!!!」

 バレている!?

 そんな!なんで!?

「デュノア社はIS学園を甘く見たんだろうな。怪しすぎるタイミン

グで転校してきた怪しすぎる男性操縦者なんて身元を調べるに決

まってるだろう」

「そんな…じゃあ僕は…」

「ま、泳がされていたって訳だ。何か怪しい動きがあればすぐ捕縛し

て交渉材料に出来るように」

「交渉…材料…?」

 淡々と、それでいてどこか楽し気に話す黒崎博士の姿に、僕は血の

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気が引いていくのを感じた。

 そして思い知らされる。

「フランスに対しての『弱味』って奴だな。何かあった時にこちらの手

駒として動かすための大事な人質だ」

 ここは既に、怪物の胃の中だと。

「そんな…」

「大体よ、俺がそんな下心見え見えの依頼受けると本気で思ったのか

?」

「……」

 段々目の前が暗くなってきた気がする。

 じゃあもう僕は・・・

「…事情は全て知っている。お前をここに送り込んだのはデュノア社

社長夫人、シルヴィア・デュノアだな?」

「…はい」

 嘘を許さないかの如く固い声色に僕は素直に答えるしか出来な

かった。

「今デュノア社は社長であり技術者でもあるエドワード・デュノアが

シルヴィアの傀儡となっており、独裁的な状態だ。さらに開発部もシ

ルヴィアの言いなりとなっている三流技術者しかおらず、有能な人材

は社長と一緒に隅に追いやられてしまっていると」

「そうです…」

「そして、お前の母は…」

「…亡くなりました。お父さんの使用人だったそうです」

 もうどうでも良くなった僕は全て博士に話した。

 今のデュノア社の実情。シルヴィア・デュノアの悪行。

 お母さんとお父さんの話。お父さんの政略結婚。僕がここに送り

込まれる事になった理由。

「それで?お前は抗わなかったと」

「出来るわけないじゃないですか…相手はシルヴィア・デュノア。政

府要人にまでコネを持っているんですよ?相手が悪すぎます」

「……はぁ。じゃあお前はもうあきらめるのか。」

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「……僕は犯罪者ですから。強制送還になって刑務所送りじゃないだ

けまだマシ…」

 「甘ったれるな!!」

 「っ!」

 突然怒りを露わにする博士。

 その怒号は…不思議と胸を締め付けた。

「何が相手が悪いだ。何が刑務所送りじゃないだけまだマシだ。それ

で何になる!お前はいつ解放されるんだ!」

 理由はなんとなく分かった。

 今、本当に僕の事を怒っているんだ。叱られているんだ。

 まるで本当の親みたいに…

「お前は逃げただけだ。周りを取り巻く理不尽に抗おうとせず、自分

の未来を自ら閉ざそうとしている。そんなの許せるか!」

「…でも!僕の末路はもう決まってしまった!僕はスパイとしてこの

学園に潜り込んだ!そして捕まってしまった!もうどう足掻こうと

…」

「誰がスパイで誰が捕まったって言ったんだ?」

「……へ?」

 この人は何を言っているんだろうか。

 「俺は一言も『お前はスパイだ』なんて言ってないし、見た所スパイ行

為を働いた様子もない。

 怪しい行動をしていないんだから捕まえる理由もない。

 万が一罪に問われてもここに送り込まれた状況を考えれば情状酌

量の余地は十二分にある。だろ?」

「……」

 そういえば…確かに博士…いや先生は一言も言っていないし、人質

にする件に関しても確かに計画としての話しかしていない。

「改めて聞こう。シャルロット・デュノア」

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 そして先生は、とても優しい笑顔で僕に話しかける。

「お前の本当の気持ちを教えてくれ」

  「…けて…」

 ダメだ。

 涙が止まらない。

「…助けてください。僕は…ここにいたいんです。一夏達と…幸せな

時間を…」

「…それが聞きたかった。千冬!会長!」

 と、突然先生が名前を呼ぶと、空間ディスプレイが呼び出されそこ

には織斑先生と知らない女の人が映し出されていた。

「先生…それに…」

『初めまして〜シャルちゃん。私は更識楯無、この学園の生徒会長よ』

『ふん…まあなんだ。一週間前よりかマシな顔つきになったな?デュ

ノア』

 そう、生徒会長さんと織斑先生はにこやかな笑顔で話しかけてく

る。

「どうして二人が…」

「この二人はまあ、学園上層部の人間でな。俺の特別授業の見届け

人って訳だ」

「特別授業…」

「お前が俺に話があるって連絡してきた時、内容は想像がついていた。

そこで俺が一芝居打って、シャルロット・デュノアを見極めようとい

う事になったんだよ」

『結果はこの通り。シャルちゃんは本当はとっても優しい女の子だっ

た。なら私たちはあなたを受け入れる』

『そして学園としては生徒の問題は解決してやるべきと判断した』

『全く、こわ〜い顔してこんな良い子を虐めるなんてホント酷い人よ

ね〜』

『全くだな、はっはっは』

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「お前らな・・・」

 何だ…

「全部先生の計画だったんですか…良かった…」

「ふっ、まあそういう訳だ。早速動き出してくれ」

『分かった』

『了解でーす』

 そして通信がきれ、空間ウインドウが消えていく。

 早速僕の為に動いてくれるのだろう。本当感謝してもしきれない。

「…安心しろ。俺たちが必ずお前と父親、それにデュノア社を助けて

やる」

「はい。お願いします」

「それと…一夏には本当の事言っておけよ」

「はい…これ以上嘘を吐きたくないですから。反応が怖いですけど

…」

「何で?」

「だって、『僕は一夏をスパイしに来ました』なんて言われたら…」

  「えっ…スパイ…?」

  「「!?」」

「っ!やべ…」

 今の声…まさか!

「おいおいマジかよ都合よすぎるだろ…シャルロット、今すぐ追いか

けろ!」

「は、はい!」

 僕は走り去った相手を追いかける。

 「一夏…!」

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Page 136: Infinite Stratos ~ The Accomplice of Black ID:65118 · きPrologue01き

第5話: 僕は君が

  それは『偶然』だった。

 『偶然』朝食の時からシャルルの姿が見えなくなった事に気づき。

『偶然』シャルルが地下に向かっていったという話を聞き。

『偶然』地下への入室権限を俺が持っていて。

『偶然』湊兄と良く会っているミーティングルームを覗いたら湊兄が

シャルルを助けると言うのを耳にした。まあ訳が分からなかった。

 そして。

『偶然』シャルルが俺を探りに来たスパイだと知ってしまった。

  確かに動揺した。

 あんなに仲良くしていたのは全て嘘だったのか?と不安になった。

 だけど、シャルルは本当は良い奴だとも信じていた。

 だから話をちゃんと聞こうと思った。

  ……盗み聞ぎしていたのがバレたのに焦って逃げ出してしまった

のが誤算だったが。

   ***

 「やっちまった…」

 走り続けた俺は校舎の屋上にたどり着いた。

 周りを囲む柵に寄りかかり、息を吐く。

 「逃げるつもりなんて本当は無かったのに…シャルル、傷つけちまっ

たかな」

 恐らくシャルルは、スパイだという事を知った俺が怒ったのだと

思っただろう。

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 どうしてものか…

 そう思っていると。

「一夏!!」

 俺を呼ぶ声に振り向くとそこには俺を追ってきたであろうシャル

ルの姿があった。

「しゃ、シャルル…」

「一夏…お願い…話を聞いて…」

「……」

 そうしてシャルルは全て話してくれた。

 自分の生い立ち、デュノア社の事、学園にやって来た理由。

「…なんだよ、それ」

「一夏…」

「シャルルの気持ちはどうなるんだよ…親が子供を道具みたいに使う

なんて、あって良い訳ないだろ!」

 俺は自分を情けなく思った。

 最初少しでもシャルルの事を疑ってしまった自分を。

「一夏…そこだよ」

「え?」

「僕はそんな優しい一夏の事が好きなんだ」

「シャルル…」

 シャルルは優しげな笑みを浮かべている。

 とても幸せそうに。

「初めて学園に来た時から、一夏はずっと僕に良くしてくれた。例え、

同じ男子だと思っていたからだとしても・・・僕はとても嬉しかった」

「そんな事・・・」

「分かってる。この一週間、側で一夏を見てきて他の女の子達とも凄

く楽しそうに過ごしていて・・・とても幸せだった」

 一体シャルルはこれまでどれだけの重荷をその小さな身体に背

負ってきたんだろう。

 想像もつかないような辛い日々だった事は明らかだ。

「だから、だから僕はずっとここに、学園にいたい!一夏達と一緒にこ

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れからも過ごしていきたい!でも、僕だけの力じゃどうしようもな

かった…」

「そうか…だから」

「そういう事だ」

 屋上の扉が再び開いたと思うと、そこには湊兄に千冬姉、それに…

確か入学式に見かけた生徒会長さんがいた。

「やっと一夏君見つけたよ〜心配したんだからねっ。ああ、初めまし

てだっけ。更識楯無、よろしくね。」

「は、はい。お願いします…じゃなくて、どうして皆ここに!?」

「阿呆。突然走って逃げた大馬鹿者を心配してきたに決まっているだ

ろう」

「ったく…どうせ盗み聞きがバレて思わず逃げちまったんだろうけど

…」

「ご、ごめんなさい…」

 うぅ…二人の視線が痛え…

「ま、とにかく一件落着だな」

「ええ、後はシャルちゃんを助けるだけね」

「そっちも早めに片をつけるか」

 ん?そういえば何か…

  「シャルル…いやシャルロット?」

「ん?何一夏?」

「えーっと…つまりシャルロットは…女?」

「うん…そうだけど…」

  「ええええええええええええええええ

!?!?!?」

  完全にスルーしてた!マジか!

「い、今驚くの!?」

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「いやすげえ自然に流してしまったからさ!?マジか!じゃあ俺本名の

方で呼ぶべきだよな!?」

「な、何か堅苦しい気もするし呼びやすい方で良いよ?」

「よし!じゃあ何かあだ名とかつけよう!シャルってのはどうだ!?

どっちもシャルって付いてるし何か可愛い感じだし!」

「シャル…あだ名…うん、すごく良い!すごく良いよ!」

「よし決まりだ!これからもよろしくなシャル!」

「うん!」

 「青春ねえ…」

「そうか?」

「全く…早めに部屋替えをしないとな」

「だから俺と一夏が一緒に住めばいいだろ?」

「ダメだ」

「何で」

「ダメと言ったらダメだ!」

「あ〜もしかして俺と離れるのが寂し」

「ふんっ!」

「ぐおっ…鳩尾はダメだろ…」

 「お二人も青春してますね…妬けるわぁ…」

  ***

  結局、シャルロットは全て片がつくまでこれまで通り男子として学

園に通うことになった。

 セシリア達いつものメンバーに本当の事を話すかは、二人に任せる

事にした。まあ、言ってしまうと箒や鈴が殺意の波動に目覚めるであ

ろう事は充分想像がついたが・・・あえてその事は一夏に伝えなかっ

た。

 南無。

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 そして翌日。学校に現れたシャルロットの顔は…どこか晴れやか

であった事は言うまでもない。

   そして、学園は次のイベントへ動き出す。

 学年別トーナメント。

  そこであんな事態になるなんて、今の俺たちには想像できなかっ

た。

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第6話: 宣戦布告

  「ん〜困りましたねぇ。思った以上にシルヴィアは手強いようです」

  6月中旬。IS学園理事長室。

 その日俺は轡木さんと千冬、楯無の4人でシルヴィア・デュノアへ

の対抗策を練っていた。

 あれから情報を集め、シャルロットを助けようと動いてきたのだ

が、ここに来て躓くことになってしまった。

  というのも攻め切ることが出来そうにないのである。

  当初俺達は、IS学園の名を使い全世界にデュノア社の違法行為、

そしてシルヴィアの告発を狙っていた。

 被害者であるシャルロットが学園に助けを求め、それを受けて学園

が動いた。

 先に世論をこちらの味方につければ勝つことも容易だろうと。

 しかしシルヴィアは万が一の事を考えてか保険を掛けていた。

 奴は決定的な証拠を残しておらず、調査報告やシャルロットの証言

があってもシルヴィアまで責任問題が届かないのだ。

 今の状態で行動を起こせば奴は必ず、トカゲの尻尾切りとばかりに

他の者へ全責任を擦り付けまんまと逃げおおせるだろう。

  必要なのは、シルヴィア・デュノアが黒幕であるという決定的な証

拠。

 「一応、更識には追加調査を命じてますけど…多分これ以上は何も出

てこないでしょうね」

「くそ…フランス議会の重鎮、警察幹部、軍上層部にデュノア社部門責

任者まで…はっきりクロの奴はどんどん出てくるが肝心のシルヴィ

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アにたどり着かないとは…」

 刀奈と千冬もどうしても苦い顔になってしまうようだ。

 正直手詰まりの状態。

  こうなっては…

 「もう賭けに出るしかねえなあ…」

「賭け?」

「奴が関わっている確かな証拠がいる。なら自白してもらうしかもう

手はねえだろ」

「自白って…」

 刀奈が何言ってんだこいつといった目で俺を見る。

 こいつめ…

「どうするつもりだ?」

「そうだなあ…」

  ***

 「…っていうのはどうだ?」

 「「・・・・・・」」

 「なんだよその目は」

  人が折角案を出したというのに、この女子二人と来たら人の事を白

い目で見やがって。

  泣くぞ。

 「…相変わらず単純そうでえげつない事思いつくわよね」

「考えもしない事にたどり着くというのは良い事だが…上手くいくも

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のか?」

「ずる賢い奴ほど思わぬ手に弱いもんなんだよ」

「シルヴィアもお前だけにはずる賢いなんて言われたくないだろう

な」

「ホント、あなただけには言われたくないわね」

「お前らホント容赦ねえな」

 千冬といい刀奈といい、昔はもっと優しかったと思うんだが…

 俺が何かしたか?…ダメだ心当たりが多すぎる。

「まあ、黒崎君なら大丈夫でしょう。学園としてもメリットの大きい

話です。頼みましたよ」

「了解です」

 若干話が逸れかかっていたのを轡木さんが話を締める。

 二人も元々反対ではないようで、何も言うことはなかった。

「そういえば…織斑先生、そろそろトーナメントの告知時期でしたか。

準備の方は?」

「問題ありません。各国にも連絡を送り、既にスケジュール調整に

入っているようです」

「トーナメント?なんだそれ」

 聞きなれない単語に首をかしげる俺。

 すると千冬は呆れた顔で再び白い目を向けてきた。

「あぁ、お前はこの間の職員会議すっぽかしていたからなあ。そりゃ

あ知らないだろうなあ」

「…申し訳ありませんでした」

「まったく…あのね。IS学園ではこの時期、学年別トーナメントっ

ていう参加者を募ったISバトルの大会を開くのよ」

 完全に俺の落ち度だった。

 そんな俺に刀奈がこちらも呆れ顔をしつつ詳細を話してくれた。

「あぁ、なんか生徒が話しているのを聞いたような」

「ま、希望制といっても代表候補生や専用機持ちなんかは基本全員参

加だし、あくまで授業の一環だから不参加の生徒も絶対観戦しないと

いけないんだけどね」

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「なるほど…」

「ただ例年はシングルマッチだったが、今年はタッグマッチになる」

「タッグマッチて…ああ、この間の」

「ああ。万が一が起きる可能性は否定しきれないからな」

 俺たちの脳裏に、先日のゴーレム襲撃事件が思い出される。

 問題が起きた際の生徒たちの生存確率を上げる為にも、連携行動と

いう要素は非常に重要なものとして学ぶべきだ。

 普通なら、ただ1回襲撃事件が起きただけでこの対応は過剰反応だ

ろう。

 だが、今年はイレギュラーが多すぎる。

 初の男子生徒に、黒崎湊という存在、そしてゴーレムを送り込んだ

束の動向。

 各国政府も情勢の動きに敏感と聞く。

「今年はどのような大会になるか楽しみですねえ。織斑一夏君の成長

も期待できますし」

「理事長…私としてもお気持ちは嬉しいですが、流石にあいつはまだ

ひよっこも良い所かと…」

「そうですか?黒崎君が中心となって特別指導しているとも聞きます

し、男の子という物は時に想像もつかないような成長を見せてくれる

ものですよ?」

「はぁ…」

「ま、3か月の成長度合い楽しみにしてようぜ?」

  ***

 「失礼します!」

 それから数日後、学年別トーナメントの告知と参加受付が始まって

すぐ職員室に一夏とシャルロットがやってきた。

「お、早速来たか」

「湊兄…トーナメントの参加申請に来たんだけど」

 と、ここで俺は違和感に気づいた。

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 どうも一夏の様子がいつもと違う。

 何だろうか…どこか固いというか、何か決意したような…

「あいよ、受け取ろう。相方は…シャルロットか。意外だったな。

てっきり箒か鈴と組むのかと思ってたぞ」

「ええ、僕もそう思ってたんですけど一夏が…」

「…シャルはまだ男って事になってるし、下手に別々にタッグ組めば

正体がバレてしまう事もあるかもだろ」

「ん…まあそうだな」

「それに…シャルには色々教えてもらいたい事がまだまだ多いし、

トーナメントの特訓でそれが出来たら良いなって」

「ああ、確かに。シャルロットはサポート型の高い才能がある。良い

コンビだと思うぞ」

「それでさ…頼みがあるんだ」

「頼み?」

 力強いまなざしで俺を見据える一夏。

 ああ、久しく見ていなかったこの目は…俺が一夏に期待するように

なった『あの日』の目と一緒だ。

 「俺たちがトーナメントで優勝したら、俺と一対一で模擬戦をして欲

しいんだ。本気の」

  その言葉に職員室にいた教師全員とシャルロットが息を呑んだ。

  今、彼は黒崎湊に喧嘩を売ったのだ。

 「…一応理由を聞こうか」

 ある程度答えは予想がついているが、念のため一夏に確認を取る。

「俺は強くなりたい。それもただがむしゃらに力が欲しいんじゃなく

て、皆と並んで、一緒に戦えるように。俺の大事なものを自分の力で

守れるように」

「一夏…」

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「その為には今俺がどの位置にいるのか身をもって知らなきゃならな

いと思ったんだ。『本当の強さ』を持つ相手と戦う事で」

 「はは…あっはっはっはっは!!!」

 「な、笑い事じゃないんだぞ!俺は本気で…」

「いや、すまんすまん。別に馬鹿にした訳じゃないんだ」

 まったく…千冬よ、これは本当にもしかするかもだぞ。

 覚悟を決めた一夏は、とても強い。

「良いだろう。その喧嘩買ってやる」

  「ここまで辿り着いてみろ。織斑一夏」

   ***

  某国軍事施設。

 秘密裏に運営されているその施設の司令室で一組の男女が向かい

合っていた。

 豪華な椅子に座る年配の男。

 その前には白衣に身を包んだ眼鏡の若い女。

「実戦テストですか」

「ああ、1週間後日本のIS学園で生徒同士によるタッグマッチの大

会が行われる。アレも専用機持ちとして参加するそうだ。そこで例

のシステムを動かせ」

「ですが…よろしいのですか?アレは仮にも代表候補生。政府の方々

も目を掛けていると聞きます」

「構わん。アレは所詮我が軍が作り上げた兵器に過ぎない。使いつぶ

しても替えはいくらでもいる」

「しかし、彼の怒りを買う事にはなりませんか?」

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「ふん、確かに委員会から奴がISを動かせるという話は聞いている

が、だからといって我々に牙を向ける力などない」

「…だと良いのですが」

「第一、たとえ奴が報復に出ようとしても我々まで辿り着けるわけが

ない。この計画は秘密裏に動かしてきた最上級機密事項なのだ」

「…了解いたしました。ではそのように準備します」

  彼らは気づかない。

  傍にあるパソコンの画面に小さく、兎のマークが浮かび上がってい

る事を。

  自らがどうしようもなく誤った道に進んでいる事を。

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第7話: それぞれの決意

   それは一夏が参加申請に職員室を訪れる数時間前。

  学園校舎屋上スペース。

 「「一夏!」」

  放課後にトーナメント参加受付開始を控えた昼休み、いつものメン

バーで昼食を取っていた時。

「な、なんだよ二人とも」

 突然の事で呆気に取られているセシリア、シャルロット、ラウラを

尻目に一夏へ詰め寄る箒と鈴の姿があった。

「次のトーナメント私とタッグを組むんだ!」

「次のトーナメントあたしとタッグ組みなさいよ!」

 全く同時に同じ台詞を口にした二人はお互いにらみ合いながら一

夏争奪戦を繰り広げる。

 (…本当は僕も一夏とタッグが良いんだけど…言い出せる雰囲気じゃ

ないよね)

  そんな光景を見ながらシャルロットが一人残念そうな顔をしてい

る事は幸か不幸か誰も気づいていなかった。

「お、おいいきなり言われても…」

「なんでよ!まだタッグ相手決めてないならあたしで良いじゃない

!」

「それとも何だ!?私とタッグを組むのは不都合なのか!?」

「誰もそんな事言ってないだろ!?」

「「じゃあ良いじゃない!」」

 

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(ここでタッグ組んで二人きりの時間を作れば流石の一夏もあたしの

気持ちに気づくでしょ!絶対箒には負けられないわ!)

(湊さんに言われて分かった。私は『あの事件』があってからもう何も

失わないように力を求めだし、いつからか道を外してしまった。でも

今度は間違えない!このタッグで一夏の隣に立てるような自分に

なってみせる!)

(湊兄が言ってたな…『あり得ないと思っている事が正解かも』って。

まさか二人は俺の事…いやでもなあ…)

 「悪いけど、俺シャルと組みたいって思ってるんだ」

「!?!?!?!?」

「…へ?」

 箒と鈴、そしてシャルが驚きのあまり固まってしまう。

「だって、俺箒や鈴とタッグ練習とか全くと言っていい程してないし、

この中じゃシャルが一番サポート戦闘に精通してると思う。絶対優

勝するならこの組み合わせが一番勝ち上がれると思うんだ。勿論俺

も頑張るけどさ」

「まあ、確かにシャルロットは一夏とタッグ相性は良いと思うぞ」

 とここまで発言の無かったラウラが口を開く。

「箒は刀剣による近接戦闘において高い実力があるが専用機が無いか

らどうしてもIS性能差で一夏との差が出てしまう。必ずしもそれ

だけが勝負を決める訳ではないが、タッグにおいて最も重要なのは二

人の息と足並みを合わせる事。なるべく避けたいデメリットだ。専

用機抜きで考えたとしても近接同士のタッグだと相手が遠距離戦を

仕掛けてきた場合、圧倒的に不利になるしな」

「くっ…」

「鈴は近中距離戦が得意だが、戦闘スタイルが前衛寄りで武装もサ

ポートに適しているかと言われれば怪しいな」

「そんな…!」

「安心しろ二人とも。勿論それだけが全てじゃ無い事は分かってい

る。圧倒的な力で押し込んだり、上手く連携を取り合って相手のペー

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スに持ち込ませないようにするのは近接同士でも可能だ。だが今の

一夏の戦い方は一撃必殺、悪く言えば猪突猛進と言える。本気で勝ち

上がるなら今の状態では難しいと言わざるを得ないだろう」

「……」

「まあこの辺りの知識は軍の経験と父様から教わった事が殆どなんだ

がな」

「まあ…確かにお二人と比べると遠距離戦に心得がある私やシャル

ロットさんの方が相性は良いかもしれませんわね」

 セシリアにまでそう言われてしまうと二人は何も言えなくなって

しまう。

「…悔しいけど仕方ないわね」

「………」

「それにしても一夏さん、やけに優勝を狙っているように思えたので

すが…どうかなさったのですか?」

「え、ああ…実はさ、トーナメントで優勝したら湊兄に模擬戦の相手を

して貰おうと思って」

  「………え?」

  ***

 「…まさか本当に湊さんに勝負を挑むとはな」

「ホント、言われた時は冗談かと思ったのに」

「というかわたくし達職員室を覗き見るような事していて良いので

しょうか…」

「嫌な予感がする…父様があの笑顔でこっちを見下ろすような気がす

る…」

 時は戻って放課後、一夏が湊に模擬戦を申し込んだ同時刻。

 箒、鈴、セシリア、ラウラは職員室での一部始終をを扉とは反対側

の窓から覗き見していた。

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「それにしてもあんた『納得できない〜』みたいな顔してた割にはあっ

さり引いたわよね?」

「それはお前も同じだろう、鈴」

「まーね…あんな顔であんな事言われれば一夏の判断を尊重するしか

ないでしょうよ」

 一同の脳裏に昼間の一夏が蘇る。

『俺は強くなりたい。強くなって今度こそ自分の大事な物を守り抜き

たい。その為には目標とする強さを持ってる湊兄と戦ってみるのが

一番だと思うんだ』

  一夏はずっと考えていた。

 『あの日』、自分にもっと力があれば大事な家族に辛い道を歩ませる必

要はなかったのではないか。

  IS学園に来て、ここで頑張っていこうと決心して、そして周りと

の実力差に不甲斐なさを感じた。

   黒崎湊。

 篠ノ之道場からの付き合いで、自分が『本当の強さ』を持っている

と思っている姉と並び立つ存在。

 そして同じ『男』。

 子供心に湊の強さを理解してからずっと慕い続けてきた兄弟子。

 そこに近づくために、一歩足を出してみたい。

   その決意を箒と鈴は目の当たりにし、その意志を尊重すると決め

た。

「でも、さ」

「ああ、それでもな」

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 それでも簡単に諦めるわけにはいかない。

「このまま引き下がる訳にはいかないわよね」

「ああ、それに…」

 それに一夏には知ってもらわないといけない事があるのだ。

「あたしだって強くなりたいんだもの」

「私も一夏と共に歩きたいのだから」

 二人はお互いの顔を見合わす。それだけで相手の考えてる事が自

分と同じだと理解できた。

  過程は違えど

 立ち位置は違えど

 例えライバルだとしても

  目指す場所は同じだから。

 「タッグ組むわよ」

「ああ、望むところだ」

  ***

 「ふむ…二人とも覚悟を決めたようだな」

「ええ、なんとなく予想はしていましたが」

 一方、流石にこれ以上覗き見るのはと思い少し離れた場所から箒達

を見守っていたセシリアとラウラ。

「さて…中々面白い戦闘が見れそうだ。しかしそうなると私はどうす

るか」

「あら?ラウラさんはまだパートナーがいないんですの?」

「ああ、最初はシャルロットに頼もうかと思ったのだが…」

「でしたらわたくしと組んでいただけませんか?」

「セシリアと?お前もまだ相手がいなかったのか」

「ええ、というか今日発告知ですぐにパートナーを決めるというのも

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中々ないですわよ?」

「それもそうか…なら頼みたい」

「ええ。湊さんに成長を見せる絶好の機会ですわね!」

「ああ!」

   こうしてそれぞれの道は重なる。

 学年別トーナメントまで、後1週間 ───

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