Imagine

8
shishi No.14 Imagine by Masashi Terazaki

description

詩作と詩論が組み合わさった現代詩。作者は経済や金融という、一見詩からもっとも遠い視座から、現在と詩のあるべき姿を見つめ返している。

Transcript of Imagine

shishiNo.14

Imagineby Masashi Terazaki

ディーラーズ 寺崎マサシ

証券アナリスト達が書く企業レポートは一見して

頭に入ってこないという点で現代詩と同じだ

しかし、質の高いレポートには確実にその中を貫くロジックがあり

そして誰もが持ちえなかった視点を提供しているという意味で

まさにひとつの芸術作品と呼べる

彼らはただ一つの企業を分析するために

今年の大西洋の漁獲高や

中国市場における携帯電話の普及率についての正確なデータを調べたりもする

つまりこの混沌に満ち、かつ豊穣な世界を

そうありとあらゆる事象すべてを相手にして

臆することなく意思決定をし、統制するルールを掴み取ろうとする

言葉を使って

田村隆一が「1999」という晩年の詩集の中で書いた

「美しい断崖」を見ているのは今や、詩人たちではない

現代の詩人たちは美しいものをただの一度も見たことがない

現代の詩人たちにはなにひとつ賭けるものがない

喜びも悲しみも、そして自分自身でさえも

株価が描き出すあまりにも美しい曲線それは断崖にも似て

過去刊行されたどの詩集よりも注目を受け輝き

どの詩集よりも全世界に影響を与える

ベンチャーキャピタリスト、機関投資家、

世界の都市の昼と夜の下にいるすべてのディーラーたちが

昨日よりも今日、今日よりも明日、さらに美しく伸びていくであろうそれを

自分の手で描き出そうと、眠ることなく情報を見つめている

そこにはまず、胸がざわめくような気配があり

根源的な欲望があり

確かな動機がある

そしてそれらが飽和点に達し

膨大な数の人々の思惑が一致したとき

一瞬で巨大なフィナンツ、金融資本は欲望の洪水に飲み込まれていく

まるで奇跡のように

そのすべては東南アジアの農村で草を食む水牛の背から一羽の小鳥が飛び立った事から

始まったのかもしれないのだ

想像せよ

アムステルダムの証券取引所の前でかがんで大麻を吸っている若い失業者の瞳の奥を

想像せよ

ブラジルの農園でオレンジを収穫する日系人の日に焼けた黒い腕を

想像せよ

カリフォルニアの自宅のガレージの中でベンチャーを立ち上げた二人の大学生の胸の中を

想像せよ

想像せよ

現在に生きる詩人たちの中でいったい誰がそれらの関係を説明できるだろう

詩人よ

まずあなたはあらゆるものの内部に埋葬された形象を見つけ出す事ができる、と仮定する

その上で答えられるだろうか

あなたがそれを見つけ出す事に何の意味があるのかを

現代詩の衰退は人々の欲望を救い上げるシステムを構築できなかった事に因る

もしも真実というものがあるとしたら

それは

時間軸の上で相互に認識しあい、どこまでも変動を続けていく

そういった連鎖としてあるのかもしれないのだ

寺崎マサシ

Masashi Terazaki

東京出身。高校時代から詩を書き、朗読イベントなどにも多数出演している。

Photographed by:

Kenta Kuwabara

桑田企画

shishishi-shi.org

Copyright © 2011 shishi. All Rgihts Reserved.