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IEEJ: :2000 12 米国におけるエネルギー価格高騰とその背景 小山 * 藤田 正行 ** じめに 1991 にある ガス、 、1998 から 2000 にかけて および 変 (ボラティリティ 大) いう して られた。NYMEX WTI 、1998 から 1999 めにかけて 1 バレルあたり 10 ドル台 移する けたが、1999 3 し、 30 ドル以 いう をつけている。ガソリン 格( 格) 1998 1 から 1999 3 にかけて 100~120 セント/ガロン 移してきたが、そ じ、2000 7 164.2 セント/ガロンに した。 格( 格) 1998 1 から 1999 11 にかけて 80~100 セント/ガロン レンジ 移してきたが、2000 2 に 142.2 セント/ガロンに した(グラフ1)。 について められているカリフォルニア 、2000 、50$/MWh 以 いう 移してきた 格が、5 から 8 し、一 350$/MWh を るほ した。そ 格帯 がった して して かつ している(グラフ2)。 ガス 1998 1 から 1999 7 にかけて 2$/1,000 フィート(以 CF」)を してきたが、1999 12 じ 2000 9 4.26$/ CF 格に した(グラフ3)。 よう 各エネルギー および しい 格変 各々 があろう が、 する して、 びに った られ かったこ バランス バッファー いえる めた してきたこ があ えられる。 しかし、 ってみる 、10 い、エネルギー ける されていた ある 1 して びが されていた ぜそれに対 した られてこ かった ろうか。 ポイント 、エネルギー におけるプレーヤー ある各エネルギー に対する ある えられる。そしてこうした * グループマネージャー E-mail:[email protected] ** グループ 員 E-mail:[email protected] 1 、EIA/AnnualEnergyOutlook1999 、2000 について、 1,991 B/D 1997 1,862 B/D から 6.9% ガス 22.54TCF 21.98TCF から 2.5% 3 3,333 kwh 3 3,130 kwh から 6.5% されていた。

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Page 1: IEEJ - 米国におけるエネルギー価格高騰とその背景eneken.ieej.or.jp/data/old/pdf/usa0012.pdfIEEJ:国際動向:2000年12月掲載 グラフ1 米国におけるガソリン・暖房油価格の推移

IEEJ:国際動向:2000 年 12 月掲載

米国におけるエネルギー価格高騰とその背景�

小山 堅*

藤田 正行**

はじめに

1991 年以降の長期的好況下にある米国では、原油、石油製品、天然ガス、電力の各市場

で、1998 年から 2000 年にかけて価格高騰および価格の大幅な変動(ボラティリティの増大)

という現象が共通して見られた。NYMEX 先物市場の WTI 原油価格は、1998 年から 1999 年初

めにかけて 1バレルあたり 10ドル台で推移する等低迷を続けたが、1999 年 3 月以降、急速

に反発し、現在も 30 ドル以上という高値をつけている。ガソリン価格(税込全米平均小売

価格)は 1998 年 1月から 1999 年 3 月にかけて 100~120 セント/ガロンで推移してきたが、その

後上昇基調に転じ、2000 年 7 月には 164.2 セント/ガロンに達した。暖房油価格(税抜全米平均

小売価格)は 1998 年 1 月から 1999 年 11 月にかけて 80~100 セント/ガロンでのレンジで穏やか

に推移してきたが、2000 年 2 月に 142.2 セント/ガロンに上昇した(グラフ 1)。電力については、

米国各州の中でも先行的に規制緩和が進められているカリフォルニア州で、2000 年当初以

降、50$/MWh 以下という水準で安定的に推移してきた卸電力価格が、5月から 8月に乱高下

し、一時は 350$/MWh を上回るほど高騰した。その後、価格帯は下がったものの依然として

今年前半に比して高い水準でかつ乱高下している(グラフ 2)。天然ガスの平均井戸元価格

は 1998 年 1 月から 1999 年 7 月にかけて 2$/1,000 立方フィート(以下「千 CF」)を中心に

上下を繰り返してきたが、1999 年 12 月以降上昇に転じ 2000 年 9 月には 4.26$/千 CF とい

う高価格に達した(グラフ 3)。

このような各エネルギー価格の高騰および激しい価格変動には各々固有な理由があろう

が、共通する背景として、需要の伸びに見合った供給力の増強が図られなかったこと、需

給バランスのバッファーといえる在庫を含めた供給余力そのものが縮小してきたことがあ

ると考えられる。

しかし、振り返ってみると、10 年に及ぶ好調な経済成長に伴い、エネルギー需要が伸び

続けると予想・予測されていたのも事実である1。では全体としては堅調な需要の伸びが予

測されていた中で、なぜそれに対応した供給面での十分な対策が図られてこなかったのだ

ろうか。

そのポイントとなるのは、エネルギー市場におけるプレーヤーである各エネルギー企業

の供給能力・資産に対する投資戦略・行動であると考えられる。そしてこうした企業戦略・

* 国際動向分析グループマネージャー E-mail:[email protected] ** 国際動向分析グループ研究員 E-mail:[email protected] 1 例えば、EIA/Annual Energy Outlook 1999 では、2000 年の需要について、石油製品では 1,991 万 B/Dと 1997 年 1,862 万 B/D から 6.9%の増加、天然ガスでは 22.54TCF と 21.98TCF から 2.5%の増加、電力では 3兆 3,333 億 kwh と 3 兆 3,130 億 kwh から 6.5%の増加が予測されていた。

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IEEJ:国際動向:2000 年 12 月掲載

行動に影響を与えているのが、他企業・他エネルギーとの競争や導入された市場設計をは

じめとするエネルギー企業を取り巻く経営環境であろう。

つまり、米国全体としての需要が堅調に増加していく予測はあるとしても、各エネルギ

ー企業にとっての需要は競争関係の激化と共に不確実性を高め、この根本的な経営環境の

不透明感が投資マインドに影響し、供給能力増加・予備力保持のための投資を抑制させた

一要因とも考えられるのである。さらに、競争環境の中で打ち勝っていくために、各企業

には不採算資産の廃棄・売却といった効率性・合理化を求める圧力が強く作用し続け、そ

れが従来から存在していた供給予備力の低下につながったと思われる。

こうした認識の下で、本稿では、米国エネルギー市場で起こったエネルギー価格の高騰、

ボラティリティの背景・要因と考えられる点について、需給面、特に供給力および予備能

力がどのように推移したかという点を検証してみることとする。

このような問題意識から、本稿では米国国内の動向に焦点を当てることになるが、こう

した価格高騰問題を検討する上で念頭に置かなくてはならないは、より広範囲な視点であ

ろう。例えば、1998 年から 1999 年にかけて見られた原油価格の低迷が、米国での原油の探

鉱・開発・生産活動そのものに影響を及ぼした2ことに見られる原油価格と企業活動の関連

は看過できないポイントである。また、NYMEX 先物市場での WTI 取引および WTI 先物価格が

他油種、他エネルギー価格にも一定の影響を与えるという関連性も重要である3。こうした

点も念頭に置き、以下では石油製品、電力、天然ガス市場の順に検討を進めていく。

2 その詳細については、谷本誠司「低油価による北米高コスト油田への影響」(日本エネルギー経済研究所、国際エネルギー動向分析 1999 年 6 月号)参照。 3 その詳細については、小山堅「OPEC 総会後の原油価格展望」(日本エネルギー経済研究所、2000 年 4 月13 日開催、第 361 回定例研究報告会資料)参照。

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グラフ1 米国におけるガソリン・暖房油価格の推移

(注)ガソリンは、全米平均小売価格(税込)。暖房油は全米平均小売価格(税抜)。

(出所)EIA/Monthly Energy Review October 2000 より作成

グラフ2 カリフォルニア州におけるリアルタイム卸電力価格の推移(ピーク時週平均)

(出所)カリフォルニア ISO、Weekly Market Watch より作成

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98年13月 5月 7月 9月 11

99年1月 3月 5月 7月 9月 11

2000年1月 3月 5月 7月

セント/ガロン

ガソリン 暖房油

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グラフ3 米国における天然ガス平均井戸元価格の推移

(出所)EIA/Natural Gas Monthly October 2000 より作成

1.石油製品

米国で消費される石油製品は、米国内での精製処理による供給と石油製品輸入により賄

われ、1999年時点の総供給量は1,939万B/Dとなっている(EIA/Annual Energy Review 1999)。

以下では、現在米国市場で特に問題となっている暖房油やガソリンを中心に述べていく。

暖房油やガソリン等の石油製品価格に影響を与える原油価格は、1998 年から 1999 年にか

けて実施された OPEC・非 OPEC による一連の協調減産政策の効果もあって、1999 年 3 月以

降上昇基調に転じた4。こうした原油価格上昇がコスト増となり、ガソリン価格も 1999 年 4

月には 123.2 セント/ガロンに上昇し、その後も上昇基調を継続している。暖房油価格も 1999 年

9 月から上昇に転じている。

このように原油価格の上昇を受け、時間的なラグはあるもののガソリン・暖房油でも一

定の上昇を示してきた中で、2000 年以降には、まさに「高騰」することとなった。また、

今度はガソリン・暖房油価格の高騰に WTI 原油価格が引っ張られる展開も顕在化するよう

になった。この価格高騰の背景の一つとして、米国における石油製品在庫が過去最低とい

われるほどの低水準になったことがあげられる。例えば、グラフ 4に示すとおり 2000 年の

暖房油・軽油等の在庫は 1998 年、1999 年よりもおよそ 0.3~0.4 億バレル程度(前年同期

比 20%程度の減)低い水準で推移してきている。需要水準そのものは年々着実に増加して

いるだけに、在庫量を需要量で除した在庫日数で考えると極めて低い水準となっているの

4 その詳細については、拙稿「OPEC・非 OPEC 協調減産政策を巡る諸問題と今後の行方」(日本エネルギー経済研究所、国際エネルギー動向分析 1999 年 12 月号)参照。

0

0.5

1

1.5

2

2.5

3

3.5

4

4.5

98年1 7月 99年1月 7月 2000年1月 7月

$/千CF

平均井戸元価格

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IEEJ:国際動向:2000 年 12 月掲載

である。そこで、本章ではこうした状況に至った背景を中心に考察してみたい。

グラフ4 米国石油製品(暖房油・軽油等)在庫の推移

(出所)EIA/Petroleum Supply Monthly October 2000 より作成

1-1.1999 年までの米国精製事業に係る動向

グラフ 5 は米国製油所数と稼働率の推移を示したものであるが、1980 年代以降米国の石

油会社は 1981 年の 324 個所を頂点に次第に製油所を閉鎖してきたことがわかる。この結果、

1999 年には 159 箇所とピーク時の約半数に減少することとなった。その一方で、稼働率は

製油所の減少と逆比例するように上昇し、1981 年の 68.6%から 1999 年には 92.7%に高ま

っている。

こうした変化の背景としては、米国で規制緩和の一環として 1981 年までに輸入課徴金や

主要石油製品価格規制が撤廃され、競争導入が促進されたことがあげられる。1980 年代前

半の石油高価格による需要低下、下流マージンの低迷に加え、石油会社は激化する競争環

境に対応するため、比較的利益率の低い下流事業で効率化・合理化の必要に迫られ、リス

トラに取り組むこととなった。具体的には不採算製油所の閉鎖、SS 閉鎖、人員削減を早く

も 1980 年代から実施したのである。その合理化努力は 1990 年代に入っても続けられたが、

1990 年代以降には、日本企業の在庫管理手法を取り入れ、いわゆるジャスト・イン・タイ

ム方式を導入、コスト削減のため石油在庫圧縮が図られるようになった。その一方で、接

触分解装置や改質装置設置のために設備投資を行い、対応油種の多様化、需要の季節変動

への対応能力強化を図り、高レベルの稼働率維持を可能としてきた。

0.6

0.8

1

1.2

1.4

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1.8

1月 2月 3月 4月 5月 6月 7月 8月 9月 10月 11月 12月

億バレル

98年 99年 2000年

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IEEJ:国際動向:2000 年 12 月掲載

グラフ5 米国製油所数と稼働率の推移

(出所)EIA/Annual Energy Review 1999 より作成

しかし、このような効率化・合理化策は米国の精製能力に関する予備能力を相対的に縮

小させることとなった。グラフ 6に示すとおり、1981 年には 572 万 B/D あった余剰能力(精

製能力―原油処理量)が 1999 年には 117 万 B/D まで縮小したのである。

以上まとめると、石油会社は、自らのサバイバルのため抜本的なリストラを進め、高稼

働率操業を進めるという意味で、個別の、あるいはミクロの観点からは最適化行動を取っ

てきたといえる。その個別の最適化行動の結果、米国全体での競争の効率性は向上したが、

同時に、米国全体でみた供給予備力は大幅に低下したといえる。

グラフ6 米国製油所精製能力の推移

(出所)EIA/Annual Energy Review 1999 より作成

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150

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製 油 所数

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稼 働 率 %

製 油所数 稼働率

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百 万 B / D

精 製 能 力 原 油 処 理 量 余 剰 能 力

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IEEJ:国際動向:2000 年 12 月掲載

1-2.2000 年の米国石油製品市場を巡る動向

これまで述べた米国精製事業の歴史的背景に加えて、2000 年の在庫状況・価格に影響を

与えたファクターとして以下の点をあげることができる。

① 従来から、低在庫政策をとっていたが、1999 年 3月以降の急激な油価高騰の下で、さら

に在庫保有インセンティブが低下した。(バックワーデーションの状況下では在庫保有

は非合理的)

② 年初の暖房油逼迫による暖房油増産の結果、ドライブシーズンを前に十分なガソリン在

庫積み増しが行われなかった。

③ ドライブシーズン入りし、低在庫の中、ガソリン価格が高騰した。さらに品質規制が非

常に厳しい高品質ガソリン、リフォーミュレーテッド・ガソリン・フェーズⅡ(RFGⅡ)

が 2000 年 6 月に導入され、石油会社は RFGⅡ供給問題に直面し、同ガソリンの供給懸念

が発生。同時に石油会社はガソリン増産に努力した。しかしその結果、今度は暖房油在

庫が低下し、冬場の需要入り前に、十分な積み増しができないという悪循環に入る。

一方、2000 年以降の精製能力については、特に増強は図られておらず、1,650 万 B/D と

横ばいであるのに対し、稼働率は 7月の 96.9%を頂点に高水準で推移している(グラフ7)5。その意味で、米国の製油所はフル稼働状態となっており、石油製品の追加供給能力は国

内にはほとんど残っていない。したがって、2000 年 3 月以降、OPEC の大幅増産によって世

界市場での原油供給は増加したものの、米国では精製能力がネックとなり、消費者向けの

製品供給増加に制約が発生しているとも考えられるのである。なお、統計上で米国の石油

製品在庫状況を見てみると、グラフ 4 で示したとおり、2000 年以降大幅な在庫積み増しは

進んでいない。

EIA では、高稼働率にも係らず在庫積み増しが思うように進まない一つの理由として、デ

ィーラーや需要家レベルでの二次・三次在庫積み増しが進んでいることをあげている。そ

の量は 600 万~800 万バレルとも推定されている6が、あくまで一時的なもので冬場の需要

を支える供給量そのものが増加した訳でないことから市場への影響は軽微と見ている。

また、統計に現れている在庫以外に、新設された北東部暖房油備蓄(NHOR:Northeast

Heating Oil Reserve)には 200 万バレルがストックされているが、小規模であること、緊

急時のみに使用されるべきものである7ことから供給面には依然注意が必要と考えられてい

る。

その他、供給面では 2000 年 10 月に実施した戦略的石油備蓄(SPR)からの原油放出(タ

イムスワップ:2001 年 8 月~11 月に一定量を上乗せして返却)分として 300 万~500 万バ

5 ちなみに 1999 年には 6月 93.5%、7月 94.9%、8 月 95.5%、9 月 94.1%で、2000 年にはこれらを上回る稼働率を示したことになる。 6 EIA では二次・三次在庫統計をとっていない。 7 こうした理由から NHOR は EIA の需給バランスから除外されている。

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IEEJ:国際動向:2000 年 12 月掲載

レルの石油製品が市場にでることが予想されているが、結局は米国の精製能力を使用する

という点では「新たな」追加供給とはいいがたい面もある。

一方、需要面では、表1に示すとおり引き続き堅調な増加が予測されている。特に 2001

年1Qには前年同期に対し 5.9%もの高い伸びが見込まれているのである。

グラフ7 2000 年米国精製能力と稼働率の推移

(注)9、10 月は週平均データより作成

(出所)EIA/Weekly Petroleum Status Report より作成

表 1 石油製品(暖房油・軽油等)需要の見通し(単位:万 B/D)

1Q 2Q 3Q 4Q 通年

2001 年 398398 363363 357357 382382 375375

2000 年 376 356 363363 383383 369369

1999 年 371 338 345 375 357

(注)2000 年3Q以降は見通し、それ以前は実績

(出所)EIA/Short-Term Energy Outlook November 2000 より作成

上述のように、供給面では、いくつかのオプションは用意されたものの依然として厳し

い制約が存在しているといえる。需要の大幅な増加、現時点で観察されている在庫水準の

低さという状況にあって予断を許さないといえよう。ただし、先述のとおり、現行の在庫

水準の低さが、一次在庫から二次・三次在庫へのシフトの結果だとすれば、いずれかの将

来時点で、逆に市場には大きな供給圧力として作用し、価格下落をもたらす要因となるこ

とも考えられる。

85.7 86.489.8 92.6 94.7 9395.395.996.2

96.9

0

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1月 2月 3月 4月 5月 6月 7月 8月 9月 10月

百万B/D

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98%

精製能力 原油処理量 稼働率

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IEEJ:国際動向:2000 年 12 月掲載

2.電力

規制緩和による競争導入が進展する米国電力市場では、1998 年、1999 年にも中西部地域

等で卸電力価格が高騰した。2000 年には前述のカリフォルニア州以外でもニューヨーク市

で電力価格が高騰した。その背景・要因については、各州の需給や設計された市場の問題

点があると考えられるが、米国電力市場全体に共通する問題として、空前の経済成長に支

えられて需要が堅調に増加していっているのに対し、供給力増加が追いつかず供給予備力

が縮小している点があげられる。そこで、本章では米国全体として供給予備力が縮小して

いる点に触れ、その後、カリフォルニア州に特有の問題について述べることとする。

2-1.全米大の動向

米国全体のピーク負荷は、グラフ8に示すとおり 1989 年の 5 億 2260 万 kw から 1999 年

には 6億 7950 万 kw と年率にして年 2~3%程度で増加した。一方、供給能力は 1989 年の 7

億 2430 万 kw から 1999 年には 7億 8160 万 kw とわずかに増加しているのみで、全体として

供給予備力は縮小傾向にあり、1999 年には予備率「(供給能力―ピーク負荷)/ピーク負荷」

は 15%にまで低下している。

このように発電所建設が需要の増加と同程度のスピードで進まなかった理由としては、

規制当局が、消費者価格を下げるため、各電力会社が保有する余剰能力のコスト回収を認

めなかったこと、発電所建設コストの全額回収を認めなかったこと、発電所建設より他電

力会社からの電力購入を推奨したこと等が指摘されている(「Making Competition

Work」,Edison Electric Institute,以下「EEI」)。こうした点に加えて、競争導入によっ

て電力会社や IPP が投資コスト回収に警戒感を持ち、新規発電所建設に慎重になったこと

が考えられる。実際グラフ9に示すとおり発電設備投資額も近年にかけて減少傾向にある。

グラフ8 米国全体の供給能力(注1)とピーク負荷(注2)(単位:百万 kw)

(注1)夏ピーク時における最大可能出力

(注2)各系統それぞれ別時点で生じた夏ピーク負荷の合計

(出所)EIA/Annual Energy Review 1999、年末時点のデータ

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百 万 k w

供 給 能 力 ピ ー ク 負 荷

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IEEJ:国際動向:2000 年 12 月掲載

グラフ9 米国私営電気事業者の設備投資額の推移(発電設備)(単位:百万ドル)

(出所)EEI/Statistical Yearbook of the Electric Utility Industry 1999 Edition よ

り作成

2-2.カリフォルニア州の卸電力価格高騰について

今年カリフォルニア州で見られた卸電力価格高騰8の背景・要因については、2000 年 8月

2 日にカリフォルニア州公益事業委員会(CPUC)と電力監視委員会(EOB)が共同で州知事

に提出した調査報告資料「California·s Electricity Options and Challenges」や需給調

整を行う California Independent System Operator(以下「ISO」)が 2000 年 8 月 10 日に

発表した「Report on California Energy Market Issues and Performance:May-June, 2000」

や2000年11月にFERCが発表した調査報告書、EEIが2000年10月に発表した「Learning From

California」等がある。各々が価格高騰の要因や今後の対策について取りまとめているが、

全体としてそれぞれの立場を反映したような内容となっている。例えば、価格高騰の要因

として懸念されている、発電事業者による価格操作9については、一連の規制緩和により州

電力市場の規制権限が縮小された側の CPUC・EOB は、その可能性を示唆しているのに対し、

権限を拡大した FERC はその証拠が認められなかったとしている。

このように各調査により見方に違いはあるものの、共通して価格高騰の要因と考えられ

た点について、需給、市場、その他の面から以下で紹介する。

8 卸電力価格高騰だけでなく、一部地域では供給予備率低下による輪番停電実施や小売電力料金高騰が見られた。その概要やその後の規制当局、電力会社の対応等については、山口雅弘・吉永清文「カリフォルニア州の市場構造改革をめぐる動き」(海外電力調査会、海外電力 2000 年 11 月号)参照。 9 この点についての詳細は、飯沼芳樹「混迷する最近の米電力市場」(海外電力調査会、海外電力 2000 年11 月号)参照。

0

2,000

4,000

6,000

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89年 90年 91年 92年 93年 94年 95年 96年 97年 98年

百万ドル

発電設備投資額

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IEEJ:国際動向:2000 年 12 月掲載

需給面

・ カリフォルニア州の需要増加が予測を上回ったこと。具体的には 1998 年時点でカリフ

ォルニア州エネルギー委員会は 1998 年から 2004 年にかけて年率 2.3%(全米大では

1.8%増加を予測)の需要増加を予測していたが、これまでのところそれを上回って増

加した。また、今夏のピーク負荷も 1999 年同期に対し 5.3~21%も増加した。(EEI 報

告)

・ 1996 年から 1999 年にかけてカリフォルニア州の需要は 5,522MW 増加したが、追加され

た発電能力は 672MW に過ぎなかった。(CPUC・EOB 報告)

・ 2000 年 5、6 月のピーク負荷は 1999 年 5、6 月に対し、それぞれ 13%、15%増加した。

(ISO 報告)

・ 他州からの電力輸入に対応した送電設備建設が進んでいない。このため、カリフォルニ

ア州のピーク需要約 45,000MW のうち、輸入に利用可能な送電容量は 12,000MW に止まる

ので、それ以外は州内で賄う必要がある。(EEI 報告)

・ カリフォルニア州市場に接続する送電線建設計画も不透明であり、たとえカリフォルニ

ア州周辺で発電計画があっても市場に持ち込めるか不明。(EEI 報告)

・ カリフォルニア州ではピーク時対応として他州からの電力輸入への依存度が元々高い

ため、輸入可能な地域全体の需給がタイトになった場合の電力のアベイラビィリティが

低下する。(ISO 報告)

市場面10

・ 1日前・1時間前市場からなる California Power Exchange(以下「CalPX」)における

価格決定は、必要需要の最終入札価格が購入価格となるため、需要が供給を下回ってい

る局面では低価格になる傾向があるのに対し、供給力が縮小した場合には高騰しやすい

という性質を持つ。(EEI 報告)

・ ISO は供給不足分をリアルタイム市場で調達しなくてはならないが、ここでの調達価格

は CalPX より高い傾向があり、発電会社にとっては魅力的。(CPUC・EOB 報告)

・ 地域全体の需給がタイトな状況では、発電事業者がマーケットパワーを行使する潜在的

な可能性が生まれる。(ISO 報告)ただし、ISO 報告では、この実態について事実認定は

困難としている

その他

・ 発電事業に対する厳しい環境規制の存在。具体的には、特定の地域の発電会社は NOX 排

出枠を買わなければならないが、1999年には$3.5/MWhだった価格が2000年には$36/MWh

10 おおまかに言うと、発電会社は CalPX(1 日前・1時間前市場)に電力を販売し、電力供給会社はストランデッドコストを回収している間は、そこからしか購入できないという仕組み。それで需給バランスが保てない分を ISO のリアルタイム市場で取引する。

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IEEJ:国際動向:2000 年 12 月掲載

に引上げられた。(EEI 報告)

・ 発電燃料として使用される天然ガス価格が高騰していることも電力価格高騰の一要因。

具体的にはカリフォルニア州において、2000 年 4月から夏場にかけて天然ガス価格が高

騰したことで$15/MWh のコスト増につながった。(EEI 報告)

・ 1999年 6月の卸電力価格に対する2000年 6月上昇分のうち20%は天然ガス価格高騰に

よるもの。(ISO 報告)

上述のとおり、カリフォルニア州電力価格高騰の背景には様々な要因があると見られて

いるが、特に市場構造に起因する点が多いように見受けられる。しかし、基本的な需給の

面、特に増大する需要に対する供給力確保に問題があったという点も看過できないといえ

よう。

2-3.カリフォルニア州電力市場における今後の需要・供給見通し

今後の需給見通しについてはグラフ 10 に示すとおり、短期的には発電所建設が進まない

中にあって他州からの電力輸入に依存せざるを得ない状況が続き、需給面で極めて脆弱な

状態で推移する模様である。こうした中にあって、高騰した場合の対策や市場の見直し・

修正等が検討されており、今後の動向を注視していく必要があるといえる。

グラフ 10 カリフォルニア州電力市場における今後の需要・供給見通し

(出所)カリフォルニア ISO 資料より作成

3.天然ガス

1 章で述べた石油価格、特に暖房油価格の高騰とその後の高位安定は、競合燃料の天然ガ

ス価格へも影響を及ぼしている。はじめにグラフで示したように暖房油が高騰した 2000 年

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10,000

20,000

30,000

40,000

50,000

60,000

70,000

80,000

2000 2001 2002 2003 2 004 2005 2006 2007

MW

最 大発電容量 最大輸入容量 予測需要+供給予備力

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IEEJ:国際動向:2000 年 12 月掲載

2 月以降、天然ガスも上昇傾向を示しているのである。さらにその後は暖房油価格が若干低

下したものの、天然ガス価格は継続して上昇し、2000 年 6 月にはさらに高騰した。

この要因としては、石油価格高騰に伴う影響に加えて、そもそも 2000 年の米国天然ガス

需給がタイト化し、供給不足の懸念から価格が高騰したと考えられる。需給がタイト化し

ていることの証左として、米国における天然ガス貯蔵量が、1998 年、1999 年よりも低水準

にあることがあげられる(グラフ 11)。例えば、9月時点で見ると、1998 年 2.93TCF、1999

年 2.88TCF に対し、2000 年には 2.5TCF と低下していることがわかる。EIA では、こうした

ファンダメンタルス、需給タイト化およびそれに伴う夏場での貯蔵積み増しが大幅に進ま

なかったことが、冬場の供給に不安感を与え、それが価格高騰の一要因となっていると見

ている。(EIA/Short-Term Energy Outlook November 2000)

こうした点を踏まえて、本章では現在のファンダメンタルスを形成することとなった背

景を中心に考察する。

グラフ 11 天然ガス地下貯蔵量の推移(Working Gas)

(出所)EIA/Natural Gas Monthly October 2000 より作成

3-1.1999 年までの米国天然ガス市場の概要

以下では、1980 年以降の米国天然ガス市場の歴史的な需給関係、平均井戸元価格を示し

たグラフ 12 を基に概要を整理する11。

1980 年代前半、平均井戸元価格は 1978 年の天然ガス政策法(NGPA:The Natural Gas Policy

11 なお、その際、補助的なガス体の生産量や米国からの輸出量は極めて希少であること、両者の増減はほとんどバランスすることから検討対象からはずした。

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0.5

1

1.5

2

2.5

3

3.5

1月 2月 3月 4月 5月 6月 7月 8月 9月 10月 11月 12月

TCF

98年 99年 2000年

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Act)による井戸元価格規制の段階的な撤廃等を背景に 1984 年まで上昇を続けた。しかし、

こうした天然ガス価格の上昇は価格下落した石油への転換を促進したことこともあって、

全体として天然ガス消費量の減少をもたらした。あわせて、天然ガス価格の上昇は、天然

ガスの探鉱・開発を促進し、潜在的な供給力の増加につながった。

こうした需給緩和によって、1980 年代後半には天然ガス価格も低下し、1990 年代始めま

で安定的に推移した。その後 1980 年代後半からの緩やかな景気回復、天然ガス価格の安定

化によって、需要面では、1986 年を底に堅調に増加を続けている。なお、供給面では 1980

年代を通じて国内生産が圧倒的に大きなシェアを占め、輸入は極めて小さなシェアしか占

めていなかったことが特徴である。

1990 年前半以降も需要は引き続き増加してきたのに対し、国内生産量はほぼ横ばいとな

った。その理由としては、天然ガス価格が低位安定する中で、天然ガス探鉱井・開発井数

が 1986 年から極端に減少し、将来の国内生産増加を停滞させたことが考えられる(グラフ

13)。その結果、需給ギャップは輸入量増加が補うこととなった。中でもカナダからの PL

による天然ガス輸入が堅調に増加した。なお、グラフ 14 に示すとおり井戸元価格とパイプ

ライン(PL)輸入価格(主にカナダ)の価格差は縮小し、特に 1980 年代後半以降はほとん

ど同水準で推移してきた。これは、天然ガス市場での自由化・競争が促進される中、PL に

よる輸入価格が井戸元価格にさや寄せされるようになった結果と考えられる。一方、輸入

形態としては LNG による輸入もあるが、そもそも国産ガス、さらには PLで直接リンクされ

た輸入ガスが供給の大部分を占めていたこと、LNG 価格が PL輸入価格より高かったこと(グ

ラフ 14)から、LNG は輸入の中でも極めて限定的な役割しか果たしてこなかった。つまり、

米国天然ガス市場において、LNG は限定的な供給オプションとして位置づけられてきたと考

えられるのである。

ところが、1998 年頃からスポット的な調達も含め、LNG 輸入が堅調な増加を示すように

なった(グラフ 15)。供給全体の中では、LNG のシェアは小さいものの、LNG の限界的供給

オプションとしての位置づけを考えると、この頃から、市場の需給バランスがタイト化し、

国内供給に関し国産ガス、PL 輸入ガスだけで賄いきれなくなっているという状況が発生し

てきたと考えられる。もちろん、LNG 取引そのものの効率化、コストダウンという要因も重

要である。しかし、それでも LNG 輸入価格は PL輸入価格より高めに推移していることを考

えると、需給バランスがタイト化し、(相対的に高値な)LNG へのニーズが高まってきたこ

とは、今回の価格高騰の背景を考える上で重要である。

なお、天然ガス価格の動きについては 1990 年に NYMEX でガス先物市場が開設され、市場

の影響をより強く受けるようになったとの指摘がなされている12。

こうした点を踏まえ、以下では 2000 年に見られた価格高騰問題を考察していく。

12 この点や、米国の LNG 輸入については、安藤宣明「米国の LNG 輸入事情」(日本エネルギー経済研究所、国際エネルギー動向分析 1999 年 7 月号)参照。

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IEEJ:国際動向:2000 年 12 月掲載

グラフ 12 米国天然ガス需給と井戸元価格の推移

(出所)EIA/Annual Energy Review 1999 より作成

グラフ 13 米国天然ガス探鉱井・開発井数の推移

(出所)EIA ホームページより作成

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5

10

15

20

25

80 81 82 83 84 85 86 87 88 89 90 91 92 93 94 95 96 97 98 99

TCF

0

1

2

3

4

5

6$/千CF

国内生産量 輸入量 消費量 平均井戸元価格

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5,000

10,000

15,000

20,000

25,000

80 81 82 83 84 85 86 87 88 89 90 91 92 93 94 95 96 97 98 99

井数

探鉱井 開発井

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グラフ 14 井戸元価格と輸入価格(PL・LNG)の推移

(注)87 年には LNG 輸入実績なし。

(出所)EIA/Annual Energy Review 1999 より作成

グラフ 15 天然ガス輸入量と LNG 比率の推移

(出所)EIA/Annual Energy Review 1999 より作成

3-2.2000 年の米国天然ガス市場を巡る動向

2000 年の天然ガス需給・価格動向は、グラフ 16に示すとおり消費量が冬場から夏場にか

けて減少する一方で、供給面(国産ガス+輸入ガス)ではほぼ横ばいで推移する中で、天

然ガス価格が上昇してきたことがわかる。また、2000 年のこれまでの消費パターン(10月

まで)は、比較的穏やかに価格が推移した 1998 年、1999 年と大きな差異は見られない(グ

ラフ 17)。しかし、それに対応する供給パターンは、前述したとおり、供給に占める輸入の

割合が増大しており、中でも、限定的供給オプションである LNG がシェアを増大させてき

0

1

2

3

4

5

6

7

80 81 82 83 84 85 86 87 88 89 90 91 92 93 94 95 96 97 98 99

$/千CF

平均井戸元価格 PL輸入価格 LNG輸入価格

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IEEJ:国際動向:2000 年 12 月掲載

ている(グラフ 18)。

こうした需給関係の中で、天然ガス価格が特に 5、6月以降急激に上昇した一要因として

は、先述した貯蔵量低下の影響が大きいと考えられる。グラフ 11 に示されるとおり、2000

年の貯蔵水準は 3 月頃までは、前年よりも低かったものの、1998 年とそれほど変わりなか

った。ところが、これまでに述べてきたとおり、需給タイト化が進行する中、4~6 月にか

けて、例年に比べて貯蔵量が非常に低いことが市場で明らかになってきたのである。例え

ば、6 月以降貯蔵量は例年に比べて 0.3~0.4TCF(約1/4程度)低いという状況となって

いる。

こうした需給タイト化、その結果としての貯蔵量減少を受け、そして原油を始めとする

他エネルギー価格が高騰する中、冬場の供給不足懸念が深刻化し、まず先物市場でガス価

格が急騰することとなったと考えられる。そして先物価格を追うように平均井戸元価格も 6

月以降上昇を続けるに至っている。

グラフ 16 2000 年米国天然ガス需給と井戸元価格の推移

(注)輸入量の 9、10 月データと平均井戸元価格の 10 月データは Not Available。

(出所)EIA/Natural Gas Monthly October 2000 より作成

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0.5

1

1.5

2

2.5

3

1月 2月 3月 4月 5月 6月 7月 8月 9月 10月

TCF

1

2

3

4

5

6

7

8$/千CF

国内生産量 輸入量 消費量 平均井戸元価格

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IEEJ:国際動向:2000 年 12 月掲載

グラフ 17 米国天然ガス消費量の推移(1998 年~2000 年 10 月)

(出所)EIA/Natural Gas Monthly October 2000 より作成

グラフ 18 2000 年の LNG 輸入量と LNG 比率の推移

(出所)EIA/Natural Gas Monthly October 2000 より作成

このように貯蔵量を含めた供給面ではタイトな状況が続く中で、天然ガスは環境面での

優位性に加えて自由化の進展する電力市場で発電燃料としての競争力が高まっていくと考

えられ、今後の天然ガス需要は表2に示すとおり堅調に増加していくことが予測されてい

る。特に 2001 年1Qには前年同期に対し 5.8%という高い伸びが予測されているのである。

0

0.5

1

1.5

2

2.5

3

1月 2月 3月 4月 5月 6月 7月 8月 9月 10月 11月 12月

TCF

98年 99年 2000年

0

0.05

0.1

0.15

0.2

0.25

0.3

0.35

 1月 2月 3月 4月 5月 6月 7月 8月

TCF

0.01.02.03.04.05.06.07.08.09.010.0

%

PL LNG LNG比率

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IEEJ:国際動向:2000 年 12 月掲載

表2 天然ガス需要の見通し(単位:TCF)

1Q 2Q 3Q 4Q 通年

2001 年 7.317.31 4.964.96 4.664.66 5.815.81 22.7422.74

2000 年 6.91 4.98 4.684.68 5.715.71 22.2822.28

1999 年 6.80 4.72 4.55 5.49 21.56

(注)2000 年3Q以降は見通し、それ以前は実績

(出所)EIA/Short-Term Energy Outlook November 2000 より作成

では、こうした堅調な需要の伸びが期待される中で、供給面での脆弱性を補強するため

の動きは見られるだろうか。

まず、国内生産については、天然ガス価格の高騰というガス会社にとって好条件下にあ

って、グラフ 19 に示すとおり 1998 年の石油低価格を受けて減少していた掘削探鉱井・開

発井数も次第に増加してきており、2000 年 9 月時点の探鉱井・開発井の掘削総数は 17,822

と 1999 月 9 時点の 12,263 に対し 45%増加し、探鉱・開発活動が再び活発化していること

がわかる。しかし、探鉱・開発から生産への移行は時間を要し、短期的な価格引き下げの

決定打になるとはいえない。実際表3に示すとおり 2000 年、2001 年の国内生産の対前年比

伸び率は 0.6%、1.8%と極めて小さいと予測されているのである。

グラフ 19 2000 年米国天然ガス探鉱井・開発井数の推移

(出所)EIA ホームページより作成

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200

400

600

800

1,000

1,200

1,400

1,600

1月 2月 3月 4月 5月 6月 7月 8月 9月

井数

探鉱井 開発井

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IEEJ:国際動向:2000 年 12 月掲載

表3 天然ガス国内生産の見通し(単位:TCF)

1Q 2Q 3Q 4Q 通年

2001 年 4.764.76 4.784.78 4.84.8 4.84.8 19.1419.14

2000 年 4.70 4.64 4.734.73 4.724.72 18.7918.79

1999 年 4.65 4.67 4.65 4.68 18.66

(注)2000 年3Q以降は見通し、それ以前は実績

(出所)EIA/Short-Term Energy Outlook November 2000 より作成

一方、輸入面では、新設されるアライアンス PLによるカナダからの輸入や LNG 輸入計画13があり、2001 年には 3.88TCF と 2000 年の 3.46TCF から 12%の伸びが予測されている。し

かし、その供給量そのものが相対的に少なく、供給面では当面厳しいと見られる。ただし、

そもそも多数の LNG 輸入計画が検討されていること自体、当面の間、米国ガス市場では、

需給がタイトに推移し、価格が堅調であると市場関係者が予想していることを反映してい

るとも考えられよう。

このように短期的には、需給バランスは厳しい状況が当面続くと見られ、貯蔵量も低レ

ベルにある中で、今冬のガス価格動向に注視する必要性は高いといえる。

おわりに

本稿では、特に供給力および供給予備力としての在庫・貯蔵がどのように推移したかと

いう点から、米国エネルギー市場で起こったエネルギー価格の高騰、ボラティリティ増大

の背景・要因の考察を試みた。早くから規制緩和が展開され、競争導入が促進された石油

市場、天然ガス市場、近年規制緩和により急速に競争導入された電力市場の 3 市場で同じ

ような時期に価格の高騰、ボラティリティを経験した訳だが、激しい競争圧力の下での「企

業の最適化行動」がその背景にあるキーワードの一つという感がある。競争とは客観的に

見て効率化、価格低下を促す面があることは間違いない。しかし、市場における供給能力

の予備・余剰を必然的プロセスとして削減し、その結果、需給変動が大きい時には価格高

騰等のリスクが発生することも示しているように思われる。さらに競争市場とはその主要

プレーヤーであるエネルギー企業にとっては、各々の需要動向が見通せないという点で極

めて厄介であり、その不透明感から投資に対して極めて慎重かつ選択的な行動をとらせる

ように作用する可能性もある。

これまで述べたとおり、需要の増加に対する供給上の制約が、価格の高騰、ボラティリ

ティ一の一要因だったとするならば、競争が進んでいる石油製品市場、天然ガス市場はも

とより、規制緩和が進展中の電力市場を含め、競争市場設計にあたっては、今回の教訓を

生かす必要があるかもしれない。その場合、国全体あるいは地域全体の供給力の確保・増

13 その詳細については、安藤宣明・辻晃「欧米における LNG ターミナル使用状況の実態調査」(日本エネルギー経済研究所ホームページ 2000 年 11 月掲載)参照。

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IEEJ:国際動向:2000 年 12 月掲載

強のインセンティブをいかに確保していくかという視点が重要と思われる。さらに、供給

の手段として、輸入(PL、LNG、州間電力輸送)というオプションも重要であることから、

輸送手段・能力面の対策を考慮する必要性も高いといえよう。