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(教育実践報告)「基礎ゼミナール」17 年のあゆみ 伊藤義之([email protected]天理大学人間学部総合教育研究センター 要旨 2003 年に始まった「基礎ゼミナール」は、2019 年度で 17 年目に入った。 これまでの経緯をたどり、今後の展望を考える。開講当初は基礎ゼミナール 1 基礎ゼミナール 2 の通年科目であったが、現在は春学期のみの半期科目となって いる。当初よりの統一シラバス、共通テキスト、共通カリキュラムの方針は変わ っていないが、この 17 年間にはさまざまな進化や変化があった。 キーワード 基礎ゼミナール 初年次教育 総合教育研究センター 2003 年 に 総 合 教 育 研 究 セ ン タ ー( 以 下 、本 セ ン タ ー )が 中 心 と な り 、全 学 で 始 め た 初 年 次 教 育科目が「基礎ゼミナール」である。以来 17 年の間、筆者はその大半にコーディネータとし てまたセンター長として関わってきた。本年度末で筆者はその両方の任を終えるので、本学の 「基礎ゼミナール」の歴史を覚え書きの形で簡単にまとめることにする。基礎ゼミナールが今 後目指すべき方向の一端でも示せれば幸いである。 1. 2003 年に始まった基礎ゼミナール 1.1 基本的コンセプト 1994 年、東京大学が『知の技法: 東京大学教養学部「基礎演習」テキスト』(小林康夫他、 1994 年)を用いて文化系の学生のための初年次教育「基礎演習」を開始した。その後、各地の 大学でも同種の科目を開講するところが出てくる。天理大学は「教育力の向上」を旗印にセメ スター制の導入をはじめとする制度の改革を進め、なかでも目玉のひとつが全学の新入生に向 けて導入されることになった初年次教育科目「基礎ゼミナール」の開講であった。 天理大学が基礎ゼミナールを開講した 2003 年度のテキストで第 1 章の執筆を担当した伊藤 和男は、基礎ゼミナールの基本コンセプトを二つ掲げた。第一は、大学で学ぶレディネスを作 り出すこと、第二は、「学ぶ技法 Learning Skills 」と「考える」基礎能力を身につけることで ある(2003 年度版「基礎ゼミナール 教員用マニュアル」pp.4-5)。 スキルと言われるものにはオーラルコミュニケーションの基礎、「読む」技術、「書く」技術、 ノートテイキングなど大学教育を受けるための基礎技術などが含まれる、とされた。さらにこ れらの「Learning Skills は、たんに大学での学習を進める上で必要不可欠な技術であるだけ でなく、現代社会に生きる一人前の社会人として求められる、それ自体実用的かつ有用な技術 である」(伊藤和男 同書 p.9)。この考えは現在の基礎ゼミナールにも受け継がれている。 1.2 教員みんなで天大生を育てる 担当教員は、基礎ゼミナールの原則、「天理大学の教員みんなで天大生を育てていく」の考え のもとに、敢えて自学科の学生ではなく他学科の学生を担当することにした。例えば文学部で は国文学国語学科の先生が歴史文化学科のクラスを担当し、歴史文化学科の先生が逆に国文学 −25−

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(教育実践報告)「基礎ゼミナール」17 年のあゆみ

伊藤義之([email protected]) 天理大学人間学部総合教育研究センター

要旨 2003 年に始まった「基礎ゼミナール」は、2019 年度で 17 年目に入った。

これまでの経緯をたどり、今後の展望を考える。開講当初は基礎ゼミナール 1 と

基礎ゼミナール 2 の通年科目であったが、現在は春学期のみの半期科目となって

いる。当初よりの統一シラバス、共通テキスト、共通カリキュラムの方針は変わ

っていないが、この 17 年間にはさまざまな進化や変化があった。 キーワード 基礎ゼミナール 初年次教育 総合教育研究センター

2003 年に総合教育研究センター(以下、本センター)が中心となり、全学で始めた初年次教

育科目が「基礎ゼミナール」である。以来 17 年の間、筆者はその大半にコーディネータとし

てまたセンター長として関わってきた。本年度末で筆者はその両方の任を終えるので、本学の

「基礎ゼミナール」の歴史を覚え書きの形で簡単にまとめることにする。基礎ゼミナールが今

後目指すべき方向の一端でも示せれば幸いである。 1. 2003 年に始まった基礎ゼミナール

1.1 基本的コンセプト

1994 年、東京大学が『知の技法 : 東京大学教養学部「基礎演習」テキスト』(小林康夫他、

1994 年)を用いて文化系の学生のための初年次教育「基礎演習」を開始した。その後、各地の

大学でも同種の科目を開講するところが出てくる。天理大学は「教育力の向上」を旗印にセメ

スター制の導入をはじめとする制度の改革を進め、なかでも目玉のひとつが全学の新入生に向

けて導入されることになった初年次教育科目「基礎ゼミナール」の開講であった。 天理大学が基礎ゼミナールを開講した 2003 年度のテキストで第 1 章の執筆を担当した伊藤

和男は、基礎ゼミナールの基本コンセプトを二つ掲げた。第一は、大学で学ぶレディネスを作

り出すこと、第二は、「学ぶ技法 Learning Skills」と「考える」基礎能力を身につけることで

ある(2003 年度版「基礎ゼミナール 教員用マニュアル」pp.4-5)。 スキルと言われるものにはオーラルコミュニケーションの基礎、「読む」技術、「書く」技術、

ノートテイキングなど大学教育を受けるための基礎技術などが含まれる、とされた。さらにこ

れらの「Learning Skills は、たんに大学での学習を進める上で必要不可欠な技術であるだけ

でなく、現代社会に生きる一人前の社会人として求められる、それ自体実用的かつ有用な技術

である」(伊藤和男 同書 p.9)。この考えは現在の基礎ゼミナールにも受け継がれている。

1.2 教員みんなで天大生を育てる

担当教員は、基礎ゼミナールの原則、「天理大学の教員みんなで天大生を育てていく」の考え

のもとに、敢えて自学科の学生ではなく他学科の学生を担当することにした。例えば文学部で

は国文学国語学科の先生が歴史文化学科のクラスを担当し、歴史文化学科の先生が逆に国文学

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国語学科のクラスを担当した。これは、大学で学ぶ土台は専攻にかかわらず共通であるという

考えに基づいている。それを実現するため、共通カリキュラム、共通テキスト、統一シラバス

で授業を運営することが大前提となり、そこで使用するテキストは本センターの教員が分担で

執筆した。

図1 基礎ゼミナール 2003 年度版 学生用テキストと教員用マニュアル

1.3 1 年間つきあう少人数制

基礎ゼミナールは少人数制を旨とし研究棟の小さめの演習室などを使って授業が始まった

が、3 年目の 2005 年度からは、コンピュータにも触れる機会が持てるようにとその年に整備

されたコンピュータ教室(当時はコンピュータ演習室と呼んでいた)で授業を行うことになっ

た。コンピュータ演習室は収容上限が 24 名なので自ずと基礎ゼミナールの定員は 24 名までと

決まった。 また、基礎ゼミナールは発足当初、春学期に基礎ゼミナール 1、秋学期に基礎ゼミナール 2

を開き、原則として春・秋ともに同じ教員が担当し、1 年間顔を合わせるようにした。そのた

め、学生の中には基礎ゼミナール担当者を担任だと思っている者が少なからずいた。基礎ゼミ

ナール 1 では「大学生入門」の講義から始まって、スピーチ、リーディング、ノートテイキン

グ、ライティングの技法を習得させ、基礎ゼミナール 2 では基礎ゼミナール 1 での学びをもと

に大学におけるレポート作成の技法を徹底的に学ばせ、学期の最後に受講生全員に対して、同

一のルールの下でレポートの提出を求める課題を与えた。

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2. 「基礎ゼミナール 2」

2.1 意義

基礎ゼミナール 2 は卒論執筆の準備を行わせ、本を読み、論理的な文章を書くことに意識を

持たせるための授業だった。この科目が始まるまでは、学科によってはきちんとしたレポート

を書いたり書き方を学んだりする機会がないまま卒業論文に取りかかっていた学生もいた。さ

らに、基礎ゼミナール2のレポート課題は学生に決まった場所に決まった時間までに提出させ

ることとし、期限やルールを守ることが大切である意識を植え付けた。レポートは担当教員に

提出するのではなく、本センターが決めた場所に、決めた期間に提出させ、表紙を含む書式や

文字数も厳格にチェックされて、それらが守られないと単位を取得できないという厳しいもの

であった。実際に提出が数分遅れたために基礎ゼミナール 2 の単位が取れず、再履修になる学

生が毎年何人かいたが、こうしたことを通じて時間や書式を守ることの大切さを体得させ、卒

論の提出期限も守れるようにとの指導方針があった。

図2 基礎ゼミナール 2 学期末レポート表紙(2006 年度版)

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2.2 廃止

しかし、2010 年度にこの基礎ゼミナール 2 は廃講となる。理由は基礎ゼミナール 2 が学生

にとって不要だったからということでは決してない。各学科から拠出される担当者が減ったと

いう、いわゆる「大人の事情」である。 基礎ゼミナールの担当者配置は、本科目のスタート以来一貫して本センターが受け持ち、そ

れが 2018 年度まで続いた。センター長として筆者は毎年各学部長あてに、基礎ゼミナールを

担当する教員の拠出を求めてきたが、常に各学部から拠出される数は求める数には達せず、そ

の分を本センターの教員が複数クラスを担当することで補ってきた。当初は半数以上のクラス

を本センター教員が担当してきた。が、本センター教員の退職に伴い所属教員の数が毎年徐々

に減少して、本センターだけでは補いきれなくなった。そこで各学部長にはさらなる担当者数

の増加を求めてきたが、それにこたえるところはなく、基礎ゼミナール 1 と 2 を合わせた約 90クラスを担当する教員の不足が大学全体として深刻化してきた。そして発足 8 年目にして基礎

ゼミナールは春学期だけの半期科目になった。こうした事情を知ってか知らずか、多くの教員

から今も「基礎ゼミナール 2 の効果は大きかった」、「復活させるべきだ」との声を耳にする。

それを聞くたびに、センター長として歯がゆい思いがぬぐえない。 3. ライブラリーツアー 3.1 「図書館ツアー」を始める

基礎ゼミナールでは天理図書館、情報ライブラリーと連携して 2006 年度から全クラスを対

象としたライブラリーツアーを開始した。なお、学生用図書室はライブラリーツアーが始まっ

た当時「八号棟図書室」と呼ばれており、またライブラリーツアーも「図書館ツアー」と呼ば

れていたが、以降の表記は現在の呼び名である「情報ライブラリー」「ライブラリーツアー」に

統一する。

3.2 ライブラリーツアー以前 本センターでは、基礎ゼミナール 2 でレポート作成を指導していたこともあって、ツアーが

開始される以前から受講生に対して書籍や図書館の積極的な利用を促していた。本センターで

は年度末に提出するレポートのトピックをいくつかのジャンルに分け、センターが選定した書

籍を「センター長室図書」として独自に揃えたり、情報ライブラリーの「リザーブ図書」に複

数冊ずつ配架してもらったりして、学生にそれらの本を読むように指導していた。ちなみに

2005 年度に学生に示したレポートのトピックは下表の通りである。学生はこれらの中から好

きなトピックを決めて、本を読みレポートのテーマを決めていた。

表 1 基礎ゼミナール 2 レポートトピック一覧(2005 年度) 1 「地球環境とわたしたち」 2 「オリンピックと平和」 3 「スポーツと文化」 4 「異文化理解」 5 「21 世紀の社会とわたしたちの職業」

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本センターではこれらのトピックに関連する書籍を教員が数種類ずつ選び、同じ本を 5 冊か

ら 10 冊ほど購入して「センター長図書」または「リザーブ図書」として用意した。

3.3 初期のライブラリーツアー リザーブ図書の利用を積極的に促してはいたものの、当時は一部の学生を除いて図書室を利

用する学生は少なく、天理図書館や情報ライブラリーの存在すら認識していない学生もいるほ

どだった。この状況を変え、できるだけすべての学生に図書館に親しんでもらう方策を考える

ことが当時の緊急の課題だった。そこで考え出された企画が「図書館ツアー」である。すべて

の基礎ゼミナールのクラスでツアーを行い、図書館の存在とその使い方を知ってもらう企画で

ある。それまでも卒論に備えた学生に図書館の使い方を紹介する説明会や、学科・専攻によっ

ては図書館の利用説明会を行うところはあった。しかし基礎ゼミナールのなかでツアーを行う

ようになって、その結果天理大学の全学生が天理図書館や情報ライブラリーの利用方法を知る

ところとなり、これ以降図書館の利用率が飛躍的に上がった。 ただし、当初のライブラリーツアーは現在のものとは少しちがっている。開始当時はまだ基

礎ゼミナール 2 もあったことから、開催時期はクラスによって基礎ゼミナール 1 の後半(春学

期)または基礎ゼミナール 2 の前半(秋学期)のいずれかの時期で、レポート作成を前提としたも

のであった。当初は1コマのうちに天理図書館ツアーと情報ライブラリーツアーの二本立てツ

アーを行い、天理図書館ツアーでは普段は入れない書庫内のツアーも含まれていた。

3.4 ライブラリーツアーの進化

初期のツアーでは、90 分の間に 2 カ所をまわるため説明が中心となり、現在のような OPACを使った書籍検索やデータベース検索は行われていなかった。しかしツアーを体験した学生や

担当教員からは「実際に本を借りる体験をさせてほしい」という声が多く寄せられ、それに応

えるために本を借りてみたり検索をしたりする「図書館ツアー2 時間目」を行って、1回のツ

アーではできない部分を独自にカバーするクラスも出てきた。 こうした声を聞きながら毎年、本センターと情報ライブラリーは年度の終わりに検討会を開

き、ライブラリーツアーのあり方を徐々に改善してきた。当初は授業開始時刻に直接情報ライ

ブラリーまたは天理図書館に集合して、そこからツアーを開始するスタイルであったが、天理

図書館の案内はやがて中止され、情報ライブラリーのみのツアーとなった。さらに情報ライブ

ラリー内にあるコンピュータをかき集めて検索を練習させたりしていたときもあったが、授業

開始時にいつも授業を行っているコンピュータ教室に学生を集合させ、そこのコンピュータを

使って書籍検索やデータベースの操作などをさせ、その後情報ライブラリーに移動する、現在

のスタイルに変わっていった。 3.5 ライブラリーツアーの今後

2019 年度はあらたな動きが出ている。今年から体育学部が毎週の授業を体育学部校舎で行

うようになり、ライブラリーツアーの週のみ杣之内校舎のコンピュータ教室を使用することに

なった。しかし、ライブラリーツアーの形式がすべてのクラスで共通であることには変わりな

い。 今後も学生、教員の求めに応じてツアーの内容や形式は変化していくだろうが、入学してく

る全学生に対してライブラリーの存在や活用方法を知らしめるライブラリーツアーは、大学に

ある知的財産の活用法を学生に教えるものとして今後も発展していくことだろう。

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4. WebClass の利用

本学の Web 教育支援システムには Campus Square、Active! Mail、WebClass などがある。

WebClass は基礎ゼミナールが始まった年の 2003 年 10 月から仮運用を開始し、2004 年度か

ら本格的に始動した。基礎ゼミナールの一担当教員として、筆者は導入当初から授業の中で積

極的に WebClass を活用してきたが(伊藤義之、2005 年および伊藤義之、2006 年を参照)、基

礎ゼミナールのコーディネータとしても WebClass を利用してきた。

4.1 担当教員用コース

基礎ゼミナールでは他の科目に先駆けて、全担当教員がアクセスできるコースを WebClass上に開設した。そこでは学生用テキストや教員用マニュアルの PDF ファイルをはじめ、各種

資料を掲載し、担当教員が必要な資料を必要なときに自由にダウンロードできる体制を作った。

今年度のコースは下図のような内容になっている。

図 3 WebClass の「基礎ゼミナール担当者」コース(2019 年度)メニュー

4.2 個別コースの準備

教員が自分の授業のコースを WebClass 上に持つためには、個別にコース開設をアドミニス

トレーター(教育研究支援課)に依頼する必要がある。このハードルを下げるため、2018 年度

にはコーディネータである筆者が 40 クラスあるすべてのクラスのコースを開設し、あらかじ

め各種資料と学生名簿をアップロードしておいた。これにより学期が始まると同時に教員や学

生の WebClass の時間割に「基礎ゼミナール」のコースが現れ、担当者や受講生が自分の基礎

ゼミナールのコースを利用できるようになった。これはそのクラス独自のコースなので、担当

教員は他の資料をアップロードしたり新たなメニューを作ったりするなど自分のクラス専用

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にカスタマイズすることもできる。ただし、この全クラスの個別コース開設は、後述する基礎

ゼミナールの方針転換のため 2019 年度には行っていない。 WebClass に限らないが、学生にもできるだけコンピュータリテラシーを身につけてもらう

のが基礎ゼミナールの目的でもあったので、2007 年度からは学生用テキストに WebClass や

Active! Mail など、学内 Web システムの操作説明資料をつけ、情報ライブラリーに備えられて

いるデータベース検索の方法に関する資料もつけている。 4.3 アンケート利用 WebClass は基礎ゼミナールに関するアンケートにも利用している。筆者は基礎ゼミナール

のコーディネータを始めた 2006 年度以降、担当者向けおよび学生向けの 2 種類のアンケート

を WebClass で採ってきたが、ネット上で行うため紙で採るのに比べ回収も集計も容易であり、

回収率も高い。二つのアンケートの質問項目は下表の通りである。 表 2 教員アンケートの質問(2017 年度版)

問1 「学生用テキスト」は使いやすかったですか。

問2 「学生用テキスト」をこう改善すればいいという提案はありますか。

問3 「教員の手引き」は役に立ちましたか。

問4 「教員の手引き」をこう改善すればいいという提案はありますか。

問5 「基礎ゼミナール」のカリキュラムは、全体として適切でしたか。

問6 「基礎ゼミナール」をこう改善すればいいという提案はありますか。

問7 「ライブラリーツアー」は役に立ちましたか。

問8 「ライブラリーツアー」をこう改善すればいいという提案はありますか。

問9 WebClassを基礎ゼミナールで使った方に質問します。WebCLassは役に立ちましたか。

問10 WebClassを基礎ゼミナールで使わなかった方に質問します。利用しなかった理由は何ですか。

問11 WebClassや、WebClassの講習会について希望があれば書いてください。

問12 「第4章リーディング」の授業で使用した教材を教えてください(複数回答可)。 表 3 学生アンケートの質問(2017 年度)

問1 学部を選んでください

問2 学科を選んでください

問3 ノート・テイキングの技術を練習しました。その授業は役に立ちましたか。

問4 スピーチ(話し方)の技術を練習しました。その授業は役に立ちましたか。

問5 リーディング(読解)の技術を練習しました。その授業は役に立ちましたか。

問6 ライティングの技術を練習しました。その授業は役に立ちましたか。

問7 自分がもっと身につけなければいけないと思う技術は何ですか(いくつでも)。

問8 「学生用テキスト」の内容は分かりやすかったですか。

問9 「学生用テキスト」で取り上げられている教材に興味が持てましたか。

問10 授業中の課題の分量は適切でしたか。

問11 ライブラリーツアーは役に立ちましたか。

問12 ライブラリーツアーをこう改善すればいいという提案はありますか。

問13 「基礎ゼミナール」をこう改善すればいいという提案はありますか。 分析結果は毎回、本センター紀要に掲載して今後の基礎ゼミナールやライブラリーツアーの

あり方を検討するための資料としてきた。しかし、これも 2019 年度からの方針転換を機に 2017

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年度を最後とし、2018 年度分については行っていない。 5. 基礎ゼミナールの方針転換そして今後 5.1 担当者の方針転換 2019 年度は天理大学の基礎ゼミナールにとってひとつの転換点となった。大学生が必要と

する基本的な Learning Skills や学問への動機付けは分野を超えて共通であり「天理大学の教

員みんな」が「天理大学の学生みんな」を育てることが当初からのコンセプトであったため、

教員は自学科・専攻の学生ではないクラスを担当することになっていた。しかし徐々にその前

提は崩れてきていた。一部学部・学科が「自学科の学生を担当するなら担当教員を拠出する」

といった条件を出し、自学科・専攻の学生を担当していたからである。そこには「早くから自

学科・専攻の学生を知り、教員と学生の良好な関係性を築き上げたい」との思いや「基礎ゼミ

ナールを専門科目につながる形で実施したい」などの思惑があった。そして 2019 年、すべて

のクラスが自学科・専攻の新入生を担当するように原則が転換された。教室も体育学部はライ

ブラリーツアーを除いて体育学部校舎を使用するようになり、専攻によっては 24 名以上の大

きなクラスも作られるようになった。 本センターは基礎ゼミナール発足時より一貫して統一カリキュラム、共通シラバス、共通テ

キストの作成という役割を担ってきた。基礎ゼミナールの方針を変更するには教務委員会が発

議し、作られた原案が教授会において全学で検討され決定される。本センターはその決められ

た方針に沿って、上記の役割を遂行する立場にある。共通テキストを用い、共通のカリキュラ

ムで授業を行うという原則は現在も不変だが、自学科・専攻を担当することによって、授業内

容、方法に関する担当者の裁量は大きくなり、基礎ゼミナールの性格が変化していく可能性は

否定できない。 5.2 よりよい「基礎ゼミナール」に向けて

こうした大きな方針転換以外にも、基礎ゼミナールはつねに大学や社会の要請を受け、時代

の変化に応じて、さまざまな修正や変更を行ってきた。それまでテレビ番組の録画を利用して

きたノートテイキング用ビデオを、卒業生や在学生を使って自前で撮るようにしたり、同学科

の先輩学生を SA(スチューデント・アシスタント)として導入したり、また現代の学生に求

められている「研究倫理」に関するパートをテキストのなかに掲載したり、などがその例であ

る。 現在天理大学ではビジョン 2025 を掲げた改革が進行中で、教育のあり方も大きく変わろう

としている。しかし、大学がいかに変わっていこうとも入学してくる学生にとって基礎ゼミナ

ールの必要性はいつもある。これから様々な形で基礎ゼミナールに関わっていく教員、そして

天理大学のすべての教員には基礎ゼミナールの重要性を認識していただきたいと同時にさら

によいものに発展させていっていただきたいと思う。

参考文献

伊藤義之 『大学の授業における WebClass 活用の可能性』,2005 年, 「総合教育研究センター紀要」,第 3 号,pp.36-48

同 ,『基礎ゼミナール試論』,2006 年

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「総合教育研究センター紀要」,第 4 号,pp.25-37

同 ,『基礎ゼミナール・アンケート報告(2006 年)』,2007 年, 「総合教育研究センター紀要」第 5 号,pp.46-61

同 ,『基礎ゼミナール・アンケート報告(2007 年)』,2008 年, 「総合教育研究センター紀要」第 6 号,pp.46-61

同 ,『基礎ゼミナール・アンケート報告 3(2010 年度)』,2011 年, 「天理大学総合教育研究センター紀要」,第 9 号,pp.46-57

同 ,『基礎ゼミナール・アンケート報告 4(2011 年度)』,2012 年, 「天理大学総合教育研究センター紀要」,第 10 号,pp.70-82

同 ,『基礎ゼミナール・アンケート報告 5(2012 年度)』,2013 年, 「天理大学総合教育研究センター紀要」,第 11 号,pp.61-75

同 ,『基礎ゼミナール・アンケート報告 6(2013 年度)』,2014 年, 「天理大学総合教育研究センター紀要」,第 12 号,pp.39-52

同 ,『基礎ゼミナール・アンケート報告 7(2014 年度)』,2015 年, 「天理大学総合教育研究センター紀要」,第 13 号,pp.85-99

同 ,『基礎ゼミナール・アンケート報告 8(2015 年度)』,2016 年, 「天理大学総合教育研究センター紀要」,第 14 号,pp.95-110

同 ,『基礎ゼミナール・アンケート報告 9(2016 年度)』,2017 年, 「天理大学総合教育研究センター紀要」,第 15 号,pp.61-78

同 ,『基礎ゼミナール・アンケート報告 10(2017 年度)』,2018 年, 「天理大学総合教育研究センター紀要」,第 16 号,pp.19-31

小林康夫、船曳建夫 『知の技法 : 東京大学教養学部「基礎演習」テキスト』,1994 年 総合教育研究センター編 『基礎ゼミナール学生用テキスト』(2003 年度版~2019 年度版)

同 ,『基礎ゼミナール 教員用マニュアル』(2003 年度版~2010 年度版)

同 ,『基礎ゼミナール 教員の手引き』(2011 年度~2019 年度版)

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