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ハイパースペクトルデータの一次微分処理を利用した変質鉱物の識別 三石真祐瞳・川上裕・近藤智之・中村英克 (独)石油天然ガス・金属鉱物資源機構(JOGMEC1.はじめに 鉱物資源探査では斑岩銅鉱床等に伴われる変質鉱物を抽出するた めに光学リモートセンシングデータが利用されている。ハイパースペク トルデータによる解析では鉱物の分類精度が高くなることが期待され るものの、吸収パターンが類似している鉱物等の分離精度については 課題が残されている。 今回、米国ネバダ州キュプライト地域を対象に、新たなハイパースペ クトルデータ解析手法を適用し、有効性の検討を行った。 対象地域はカンブリア紀の砕屑岩類及び石灰岩、チャートを基盤とし て、第三紀の火山岩類と第四紀の沖積堆積物が広く分布する。このう ち第三紀の火山岩類の一部が中新世中期~後期に熱水変質を被り、 珪化及び粘土化帯を形成している。 Alunite (USGS GDS84) Buddingtonite (USGS GDS85) Muscovite (USGS GDS107) Kaolinite (USGS CM9) Montmorillonite (USGS Swy-1) Calcite (USGS WS272) Chlorite (USGS HS179.3B) Epidote (USGS GDS26.a) +1 + 2 = +1 +1 + 0 1000 2000 3000 4000 5000 6000 7000 8000 9000 -0.5 0 0.5 1 Frequency Cosθ Histogram Alunite GDS84 Kaolinite CM9 Muscovite GDS107 Montmorillonite Swy-1 Buddingtonite GDS85 Calcite WS272 Chlorite HS179.3 Epidote GDS26a Min Max Mean Stdev Alunite USGS GDS84 -0.1174 0.9614 0.2901 0.2235 Kaolinite USGS CM9 -0.0784 0.8753 0.3774 0.1655 Muscovite USGS GDS107 -0.0347 0.8888 0.4360 0.1827 Montmorillonite USGS Swy-1 -0.0987 0.7985 0.3784 0.1590 Buddingtonite USGS GDS85 -0.1320 0.5669 0.1375 0.0695 Calcite USGS WS272 -0.4929 0.7933 -0.0573 0.1600 Chlorite USGS HS179.3 -0.5109 0.2621 -0.1304 0.0735 Epidote USGS GDS26a -0.5261 0.5440 -0.1869 0.1525 5km 0.9 0.4 Reflectance (Offset for Clarity) 3.解析結果 USGSによる鉱物の反射スペクトルを 教師として、2.082.40μmの波長域 において解析を実施した。 - Alunite (GDS84) - Kaolinite (CM9) - Muscovite (GDS107) - Montmorillonite (Swy-1) - Buddingtonite (GDS85) - Calcite (WS272) - Chlorite (HS179.3) - Epidote (GDS26a) VNIRフォールスカラー画像 R:G:B = 0.8075μm:0.6648μm:0.5580μm P1 P1 P2 P3 P4 P5 Alunite GDS84 0.945 0.611 0.233 0.552 0.001 Kaolinite CM9 0.553 0.841 0.365 0.357 0.117 Muscovite GDS107 0.315 0.401 0.889 0.315 0.185 Montmorillonite Swy-1 0.240 0.376 0.772 0.263 0.006 Buddingtonite GDS85 0.326 0.151 0.181 0.542 0.033 Calcite WS272 -0.123 -0.069 -0.071 -0.307 0.648 Chlorite HS179.3 -0.107 -0.177 -0.168 -0.219 0.044 Epidote GDS26a -0.280 -0.231 -0.072 -0.485 0.347 Hook (1990) Clark & Swayze (1996) Dr: 一次微分値 R: 反射率 λi: バンドiの中心波長 R² = 0.7306 0.2 0.25 0.3 0.35 0.4 0.45 0.5 0.55 0.6 0.3 0.5 0.7 0.9 Kaolinite USGS CM9 Reflectance Muscovite USGS GDS107 Reflectance R² = 0.2048 -8 -6 -4 -2 0 2 4 6 8 -10 -5 0 5 10 Kaolinite USGS CM9 1st-Derivative Muscovite USGS GDS107 1st-Derivative 一次微分前後のスペクトル スペクトルパターンの変化が 大きい波長域 一次微分値の分散 Cosθ=0.855 Cosθ=0.453 P2 P3 P4 P5 一次微分処理をすることでMuscoviteKaoliniteの分離性が向上 解析結果のヒストグラム 上図でカラー表示 している範囲 5 地点の反射スペクトルと解析結果(cosθ値)の比較 各地点でcosθ値が 最も高いもの 赤字 AVIRISデータの反射 スペクトル形状から 推定される鉱物 4.考察・まとめ スペクトル一次微分処理を行うことにより目的とする鉱物の分離性が高くなることが 確認された。 同じ閾値で結果を表示した場合においても、対象とする鉱物の分布域は概ね妥当 であることから、解析者の閾値の設定方法によって結果が異なってしまうという問題 を低減することができると考えられる。 本手法はノイズ等の影響を大きく受け、また本来の反射スペクトルが示す反射率の 高さの違いや、緩やかな吸収特徴等の情報が損なわれるため、解析結果の評価に は必ず元の反射スペクトル形状を併せて確認する必要がある。 課題 2.3μm付近に吸収特徴を有するCalciteChloriteEpidoteでは全体的にcosθが低くなる傾向が認められた。原因として、長波長域においてセンサのS/N比が低下す ることにより正確なスペクトル形状が得られにくいことが可能性の1つとして考えられる が、今後も本手法による解析が有効な鉱物について検討していく必要がある。 X: データスペクトル Y: 教師スペクトル X´: データスペクトルの平均ベクトル Y´: 教師スペクトルの平均ベクトル 参考文献 齋藤元也, 2011. 農業分野でのハイパースペクトルイメージデータの利用, 3ALOS2/3ワークショップ. Clark, R.N. and Swayze, G.A., 1996. Evolution in imaging spectroscopy analysis and sensor signal-tonoize: An examination of how far we have come, Proc. 6 th Annual JPL Airborne Earth Science Workshop, pp. 49-53. De Carvalho, O.A., and Meneses, P.R., 2000. Spectral Correlation Mapper (SCM): An improvement on the Spectral Angle Mapper (SAM), Proc. 9 th Annual JPL Airborne Earth Science Workshop. Hook, S.J., 1990, The combined use of multispectral remotely sensed data from the short wave infrared (SWIR) and thermal infrared (TIR) for lithological mapping and mineral exploration: Fifth Australasian Remote Sensing Conference, Proceedings, Oct., 1990, vol.1, p.371-380. Kodama, S., et al., 2010, Mapping of hydrothermally altered rocks using the Modified Spectral Angle Mapper (MSAM) method and ASTER SWIR data, IJG, 6(1), pp. 41-53. 本研究はJOGMECが資源エネルギー庁から受託した次世代地球観測衛星利用基盤技術の研究開発(金属資源探査技術の研究開発)による成果である。 2.使用データ・解析手法 使用データ AVIRISデータ(2002712日撮影) 4002500nm220バンド ◆空間分解能8m 解析手法 1. ハイパースペクトルデータ、教師スペクトル(USGS Spectral Library)の一次微分 2. 相関性の算出 -SCMCarvalho & Meneses, 2000-Modified SAMKodama et al., 2010スペクトル一次微分処理のメリット ◆幅の広い大きな吸収に隠れた微小ピークを強調する ◆幅の広いピークの肩に乗ったピークの極大吸収波長を明確にする データ解析フロー 反射率の分散

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ハイパースペクトルデータの一次微分処理を利用した変質鉱物の識別三石真祐瞳・川上裕・近藤智之・中村英克

(独)石油天然ガス・金属鉱物資源機構(JOGMEC)

1.はじめに

鉱物資源探査では斑岩銅鉱床等に伴われる変質鉱物を抽出するた

めに光学リモートセンシングデータが利用されている。ハイパースペク

トルデータによる解析では鉱物の分類精度が高くなることが期待され

るものの、吸収パターンが類似している鉱物等の分離精度については

課題が残されている。

今回、米国ネバダ州キュプライト地域を対象に、新たなハイパースペ

クトルデータ解析手法を適用し、有効性の検討を行った。

対象地域はカンブリア紀の砕屑岩類及び石灰岩、チャートを基盤とし

て、第三紀の火山岩類と第四紀の沖積堆積物が広く分布する。このう

ち第三紀の火山岩類の一部が中新世中期~後期に熱水変質を被り、

珪化及び粘土化帯を形成している。 Alunite (USGS GDS84)

Buddingtonite (USGS GDS85)Muscovite (USGS GDS107)

Kaolinite (USGS CM9)

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Calcite (USGS WS272) Chlorite (USGS HS179.3B) Epidote (USGS GDS26.a)

𝐷𝑟𝜆𝑖+1 + 𝜆𝑖

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Histogram Alunite GDS84

Kaolinite CM9

Muscovite GDS107

Montmorillonite Swy-1

Buddingtonite GDS85

Calcite WS272

Chlorite HS179.3

Epidote GDS26a

Min Max Mean Stdev

Alunite USGS GDS84 -0.1174 0.9614 0.2901 0.2235

Kaolinite USGS CM9 -0.0784 0.8753 0.3774 0.1655

Muscovite USGS GDS107 -0.0347 0.8888 0.4360 0.1827

Montmorillonite USGS Swy-1 -0.0987 0.7985 0.3784 0.1590

Buddingtonite USGS GDS85 -0.1320 0.5669 0.1375 0.0695

Calcite USGS WS272 -0.4929 0.7933 -0.0573 0.1600

Chlorite USGS HS179.3 -0.5109 0.2621 -0.1304 0.0735

Epidote USGS GDS26a -0.5261 0.5440 -0.1869 0.1525

5km

0.9

0.4

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cta

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)

3.解析結果

USGSによる鉱物の反射スペクトルを教師として、2.08~2.40μmの波長域において解析を実施した。

- Alunite (GDS84)

- Kaolinite (CM9)

- Muscovite (GDS107)

- Montmorillonite (Swy-1)

- Buddingtonite (GDS85)

- Calcite (WS272)

- Chlorite (HS179.3)

- Epidote (GDS26a)

VNIRフォールスカラー画像

R:G:B = 0.8075μm:0.6648μm:0.5580μm

P1

P1 P2 P3 P4 P5

Alunite GDS84 0.945 0.611 0.233 0.552 0.001

Kaolinite CM9 0.553 0.841 0.365 0.357 0.117

Muscovite GDS107 0.315 0.401 0.889 0.315 0.185

Montmorillonite Swy-1 0.240 0.376 0.772 0.263 0.006

Buddingtonite GDS85 0.326 0.151 0.181 0.542 0.033

Calcite WS272 -0.123 -0.069 -0.071 -0.307 0.648

Chlorite HS179.3 -0.107 -0.177 -0.168 -0.219 0.044

Epidote GDS26a -0.280 -0.231 -0.072 -0.485 0.347

Hook (1990)

Clark & Swayze (1996)

Dr: 一次微分値R: 反射率λi: バンドiの中心波長

R² = 0.7306

0.2

0.25

0.3

0.35

0.4

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Muscovite USGS GDS107 1st-Derivative

一次微分前後のスペクトル

スペクトルパターンの変化が大きい波長域

一次微分値の分散

Cosθ=0.855

Cosθ=0.453

P2

P3

P4

P5

一次微分処理をすることでMuscoviteとKaoliniteの分離性が向上

解析結果のヒストグラム上図でカラー表示している範囲

5地点の反射スペクトルと解析結果(cosθ値)の比較

各地点でcosθ値が最も高いもの

赤字AVIRISデータの反射スペクトル形状から推定される鉱物

4.考察・まとめ• スペクトル一次微分処理を行うことにより目的とする鉱物の分離性が高くなることが

確認された。

• 同じ閾値で結果を表示した場合においても、対象とする鉱物の分布域は概ね妥当

であることから、解析者の閾値の設定方法によって結果が異なってしまうという問題

を低減することができると考えられる。

• 本手法はノイズ等の影響を大きく受け、また本来の反射スペクトルが示す反射率の

高さの違いや、緩やかな吸収特徴等の情報が損なわれるため、解析結果の評価に

は必ず元の反射スペクトル形状を併せて確認する必要がある。

課題:2.3μm付近に吸収特徴を有するCalcite、Chlorite、Epidoteでは全体的にcosθ値

が低くなる傾向が認められた。原因として、長波長域においてセンサのS/N比が低下す

ることにより正確なスペクトル形状が得られにくいことが可能性の1つとして考えられる

が、今後も本手法による解析が有効な鉱物について検討していく必要がある。

X: データスペクトル Y: 教師スペクトルX´: データスペクトルの平均ベクトルY´: 教師スペクトルの平均ベクトル

参考文献• 齋藤元也, 2011. 農業分野でのハイパースペクトルイメージデータの利用, 第3回ALOS2/3ワークショップ.

• Clark, R.N. and Swayze, G.A., 1996. Evolution in imaging spectroscopy analysis and sensor signal-tonoize: An examination of how far we have come, Proc. 6th Annual JPL Airborne Earth Science Workshop, pp. 49-53.

• De Carvalho, O.A., and Meneses, P.R., 2000. Spectral Correlation Mapper (SCM): An improvement on the Spectral Angle Mapper (SAM), Proc. 9 th Annual JPL Airborne Earth Science Workshop.

• Hook, S.J., 1990, The combined use of multispectral remotely sensed data from the short wave infrared (SWIR) and thermal infrared (TIR) for lithological mapping and mineral exploration: Fifth Australasian Remote Sensing

Conference, Proceedings, Oct., 1990, vol.1, p.371-380.

• Kodama, S., et al., 2010, Mapping of hydrothermally altered rocks using the Modified Spectral Angle Mapper (MSAM) method and ASTER SWIR data, IJG, 6(1), pp. 41-53.

※本研究はJOGMECが資源エネルギー庁から受託した次世代地球観測衛星利用基盤技術の研究開発(金属資源探査技術の研究開発)による成果である。

2.使用データ・解析手法

使用データ

◆AVIRISデータ(2002年7月12日撮影)

◆400~2500nmに220バンド

◆空間分解能8m

解析手法

1. ハイパースペクトルデータ、教師スペクトル(USGS Spectral

Library)の一次微分

2. 相関性の算出

-SCM法(Carvalho & Meneses, 2000)

-Modified SAM法(Kodama et al., 2010)

スペクトル一次微分処理のメリット:

◆幅の広い大きな吸収に隠れた微小ピークを強調する

◆幅の広いピークの肩に乗ったピークの極大吸収波長を明確にする

データ解析フロー

反射率の分散