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4.厚生労働省における摂食障害対策 ~摂食障害治療支援センター設置運営事業~ 1.事業概要 摂食障害は、患者に対する治療や支援方法の確立や生命の危険を伴う身体合併症の治療や栄 養管理等を行うなど、適切な治療と支援により患者が地域で支障なく安心して暮らすことがで きる体制の整備を推進することが求められている。 これらを踏まえ、平成 26 年度より「摂食障害治療支援センター設置運営事業」を実施して いる。 具体的には、全国4カ所の医療機関を「摂食障害治療支援センター(以下、「治療支援セン ター」という。)」に指定し、摂食障害に関する知識・技術の普及啓発、他医療機関への研修・ 技術的支援、患者・家族への技術的支援、関係機関との地域連携支援体制の構築のための調整 等を行うとともに、国立研究開発法人国立精神・神経医療研究センターを全国1カ所の「摂食 障害全国基幹センター」に指定し、診療拠点機関による全国連絡協議会の開催や各支援センタ ーで得られた知見を集積し、支援センターへの技術的支援等を実施して、摂食障害患者の治療 実績や患者・家族のQOLの向上、地域での多職種・他科連携や普及啓発等多くの実績を挙げ てきている。 さらに、第7次医療計画において、「疾病・事業及び在宅医療に係る医療体制について」(平 成 29 年3月 31 日付け医政地発 0331 第3号厚生労働省医政局地域医療計画課長通知)の別紙 「疾病・事業及び在宅医療に係る医療提供体制に係る指針」中「精神疾患の医療体制構築に係 る指針」に基づき、地域の実情を踏まえて、摂食障害に対応できる医療機関を明確にすること が求められていることを踏まえ、これまで実施されてきた「摂食障害治療支援センター設置運 営事業」での多職種・他科連携や研修、摂食障害に関する知識・技術の普及啓発に係る取組み 等を参考とし、地域医療介護総合確保基金の活用も検討しつつ、全都道府県で摂食障害の医療 連携体制が構築されるよう、本事業の活用による体制の整備について、全国障害者保健福祉関 係主管課長会議や担当所管部署等にお願いしているところである。 2.考察 (1)事業成果 本事業は平成 26 年度の開始以降、4カ所の治療支援センター(東北大学病院、国立国際 医療研究センター国府台病院、浜松医科大学附属病院、九州大学病院)を中心に摂食障害の 患者・家族への治療機会の提供や相談支援の取組みを進め、設置自治体を中心に着実かつ大 きな実績を挙げてきている。 また、摂食障害全国基幹センター(以下「全国基幹センター」という。)(国立研究開発法 人国立精神・神経医療研究センター)では、HPを用いて摂食障害に関する情報発信や普及 啓発を行っているが、アクセス数の多さからも摂食障害に関する一般国民の関心の高さと地 域での支援ニーズは潜在的には高いと思われる。 また、今年度は新たな試みとして(一社)日本摂食障害協会主催の「世界摂食障害アクシ ョンディ 2018」(平成 30 年 6月 2日)に厚生労働省が初参加し、本事業の概要と取組み、課 題などを講演する機会を頂き、専門家や聴講者との相互理解や連携の機運を高める契機とな った。

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4.厚生労働省における摂食障害対策

~摂食障害治療支援センター設置運営事業~

1.事業概要

摂食障害は、患者に対する治療や支援方法の確立や生命の危険を伴う身体合併症の治療や栄

養管理等を行うなど、適切な治療と支援により患者が地域で支障なく安心して暮らすことがで

きる体制の整備を推進することが求められている。

これらを踏まえ、平成 26 年度より「摂食障害治療支援センター設置運営事業」を実施して

いる。

具体的には、全国4カ所の医療機関を「摂食障害治療支援センター(以下、「治療支援セン

ター」という。)」に指定し、摂食障害に関する知識・技術の普及啓発、他医療機関への研修・

技術的支援、患者・家族への技術的支援、関係機関との地域連携支援体制の構築のための調整

等を行うとともに、国立研究開発法人国立精神・神経医療研究センターを全国1カ所の「摂食

障害全国基幹センター」に指定し、診療拠点機関による全国連絡協議会の開催や各支援センタ

ーで得られた知見を集積し、支援センターへの技術的支援等を実施して、摂食障害患者の治療

実績や患者・家族のQOLの向上、地域での多職種・他科連携や普及啓発等多くの実績を挙げ

てきている。

さらに、第7次医療計画において、「疾病・事業及び在宅医療に係る医療体制について」(平

成 29 年3月 31 日付け医政地発 0331 第3号厚生労働省医政局地域医療計画課長通知)の別紙

「疾病・事業及び在宅医療に係る医療提供体制に係る指針」中「精神疾患の医療体制構築に係

る指針」に基づき、地域の実情を踏まえて、摂食障害に対応できる医療機関を明確にすること

が求められていることを踏まえ、これまで実施されてきた「摂食障害治療支援センター設置運

営事業」での多職種・他科連携や研修、摂食障害に関する知識・技術の普及啓発に係る取組み

等を参考とし、地域医療介護総合確保基金の活用も検討しつつ、全都道府県で摂食障害の医療

連携体制が構築されるよう、本事業の活用による体制の整備について、全国障害者保健福祉関

係主管課長会議や担当所管部署等にお願いしているところである。

2.考察

(1)事業成果

本事業は平成 26年度の開始以降、4カ所の治療支援センター(東北大学病院、国立国際

医療研究センター国府台病院、浜松医科大学附属病院、九州大学病院)を中心に摂食障害の

患者・家族への治療機会の提供や相談支援の取組みを進め、設置自治体を中心に着実かつ大

きな実績を挙げてきている。

また、摂食障害全国基幹センター(以下「全国基幹センター」という。)(国立研究開発法

人国立精神・神経医療研究センター)では、HPを用いて摂食障害に関する情報発信や普及

啓発を行っているが、アクセス数の多さからも摂食障害に関する一般国民の関心の高さと地

域での支援ニーズは潜在的には高いと思われる。

また、今年度は新たな試みとして(一社)日本摂食障害協会主催の「世界摂食障害アクシ

ョンディ 2018」(平成 30年 6月 2日)に厚生労働省が初参加し、本事業の概要と取組み、課

題などを講演する機会を頂き、専門家や聴講者との相互理解や連携の機運を高める契機とな

った。

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(2)課題

摂食障害に関する医療・支援ニーズの高さに比べ、専門医療機関・専門医の少なさが課

題であり、課題に対応するため治療支援センターの創設が開始されたが、現在のところ 47

都道府県のうち4自治体での設置に止まっている。

各自治体で治療支援センター設置が拡充しない主な理由については、①摂食障害にする

知識や理解について一般国民に広く浸透しておらず関心が低い、②自治体の政策優先度が

低く、なかなか財政措置に結びつかない、などが挙げられる。

一方で治療支援センター設置自治体に未設置自治体の患者が集中しており、潜在的なニ

ーズはあること、行政的視点からは、設置自治体への患者集中は適切とは言えない現象で

あることに留意する必要がある。

また、年 2回開催の全国摂食障害連絡協議会でも厚生労働省に対し、①自治体の治療支

援センター設置増に向けて自治体への働きかけ、②事業の安定及びコーディネーターの人

材確保のための予算増(現状では病院の持ち出しが多いため、経営面から厳しい指摘があ

る)、③事業の安定的な位置付け(単年度会計・裁量的事業のため、自治体からいつ事業が

打ち切られるか不安定)など多くの要望が挙げられている。

(3)今後の方策

摂食障害という病気を患者・家族以外にも広く一般国民に広く理解して頂くため、普及

啓発活動をどのように拡充していくかを検討していく必要がある。

現状では全国基幹センター及び治療支援センターを中心とした普及啓発活動であるが、今

後は厚生労働省に加え、地方自治体、日本摂食障害学会、日本摂食障害協会などの関係機関

とも連携した普及啓発活動の展開が望まれる。

また、治療支援センターの拡充について、引き続き地方自治体への働きかけは行っていく

が、本事業は義務的事業ではなく裁量的補助事業であることから、地方自治体の予算措置の

ハードルは高いが、引き続き本事業の実績と成果を挙げていくとともに、広く一般国民や社

会に目に見える形でその成果をアピールしていくことが求められる。

制度的には、①第7次医療計画による医療機関の整備計画と本事業がうまくリンクできる

よう自治体を政策誘導していく、②診療報酬の他、補助金以外の財源(地域医療介護総合確

保基金など)確保の模索、③指定要件を1都道府県1か所、複数診療科のある総合病院のみ、

ではなく、地域の医療圏や医療事情に配慮した形になるように見直す。例えば診療科を補う

形で複数の病院によるコンソーシアム、越県の病院間でのコンソーシアムなど、連絡協議会

での提案について検討する必要がある。

(4)まとめ

本事業の課題のうち、アカデミアや治療支援センター内の課題だけでなく、行政が検討を

進める内容(予算、普及啓発、事業の制度的安定、行政所掌、多職種・多機関連携科等)

も少なくない。

厚生労働省としては、引き続き全国基幹センター及び治療支援センターの助言や提言を貴

重な意見として真摯に受け止め、課題の改善に向けて自治体や関係機関との協力・連携体制

の構築が進めていく必要がある。