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2020年3月17日 三井住友DSアセットマネジメント シニアストラテジスト 市川 雅浩 市川レポート 証券化商品暴落で2008年にリーマンが破綻、金融機関は巨額の損失を被り、金融危機が発生。 リーマン・ショックの株安は金融機関に起因、今回はウイルスに起因しており、異なる対処法が必要。 今回は、感染予防と財政政策、次いで金融政策という優先順、政府の役割が極めて重要になる。 株安を止める方法(その1)~リーマン・ショックとの比較で分かること 1 証券化商品暴落で2008年にリーマンが破綻、金融機関は巨額の損失を被り、金融危機が発生 新型コロナウイルスの世界的な感染拡大が続くなか、主要国の株式市場は依然として不安定な値動きが続い ています。そこで、今回と次回の2回にわたって、株安の連鎖を断ち切る方法を考えてみます。1回目となる今回 は、2008年のリーマン・ショックに焦点をあて、危機発生のメカニズムと政策対応、株価の動きを振り返ります。そ して、コロナ・ショックとの相違点や類似点を踏まえつつ、株安を止める手掛かりを探ります。 リーマン・ショックとは、2008年9月の米証券大手リーマン・ブラザーズ破綻を機に発生した世界的な金融危機 のことを指します。当時は米住宅ブームを背景に、信用力の低い借り手向けのサブプライム住宅ローンが急増し、 それを証券化した金融商品のビジネスに、多くの欧米金融機関が関わっていました。しかしながら、住宅ブームの 収束とともに返済延滞が発生すると、証券化商品の価格が暴落し、金融機関は巨額の損失を被りました。 【図表2:日経平均株価のPBRと日本の景気後退期】 【図表1:リーマン・ショック後の主な政策対応】 (出所) 各種資料を基に三井住友DSアセットマネジメント作成 (注) データは2008年1月4日から2020年3月16日。 (出所) QUICK、Bloomberg L.P.のデータを基に三井住友DSアセットマネジメント作成 月日 主な政策対応 2008 9月15日 米リーマン・ブラザーズ破綻。 9月18日 日米欧の6中銀が1,800億ドルの資金供給を発表。 9月29日 世界の10中銀が6,200億ドルの資金供給を発表。 10月3日 公的資金枠7,000億ドルを柱とする米金融安定化法が成立。 10月8日 FRB、FF金利を2.0%から1.5%へ引き下げ。 10月29日 FRB、FF金利を1.5%から1.0%へ引き下げ。 10月30日 日本、事業規模27兆円の経済対策発表。 10月31日 日銀、政策金利を0.5%から0.3%へ引き下げ。 11月9日 中国、投資総額4兆元の大型景気対策発表。 11月25日 FRB、8,000億ドルの資金供給拡大策発表。RMBSなどの買い取りでQE1開始。 12月2日 日銀、企業金融円滑策を発表。 12月16日 FRB、事実上のゼロ金利に。 12月19日 日銀、政策金利を0.3%から0.1%へ引き下げ。 2009 2月3日 日銀、銀行保有株の買い取りの再開決定。 2月17日 米オバマ大統領、7,870億ドル規模の景気対策法に署名。 3月18日 FRB、米長期国債3,000億ドル買い取り表明。 3月21日 米財務省、最大1兆ドルの官民合同の不良債権買い取りファンド設立を発表。 4月10日 日本、事業規模56兆円の経済対策発表。 4月24日 G7財務相・中央銀行総裁会議、共同声明で世界経済に安定化の兆し。 0.6 0.8 1.0 1.2 1.4 1.6 1.8 08 09 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 (倍) (年) 日本の景気後退期 日経平均株価のPBR

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Page 1: 株安を止める方法(その1)~リーマン・ショック … › documents › www › market › ichikawa › ...景気の谷は同年11月)で、0.9倍を割り込みました。3月16日における日経平均株価のPBRは0.82倍で、

2020年3月17日三井住友DSアセットマネジメントシニアストラテジスト 市川 雅浩

市川レポート

証券化商品暴落で2008年にリーマンが破綻、金融機関は巨額の損失を被り、金融危機が発生。

リーマン・ショックの株安は金融機関に起因、今回はウイルスに起因しており、異なる対処法が必要。

今回は、感染予防と財政政策、次いで金融政策という優先順、政府の役割が極めて重要になる。

株安を止める方法(その1)~リーマン・ショックとの比較で分かること

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証券化商品暴落で2008年にリーマンが破綻、金融機関は巨額の損失を被り、金融危機が発生

新型コロナウイルスの世界的な感染拡大が続くなか、主要国の株式市場は依然として不安定な値動きが続い

ています。そこで、今回と次回の2回にわたって、株安の連鎖を断ち切る方法を考えてみます。1回目となる今回

は、2008年のリーマン・ショックに焦点をあて、危機発生のメカニズムと政策対応、株価の動きを振り返ります。そ

して、コロナ・ショックとの相違点や類似点を踏まえつつ、株安を止める手掛かりを探ります。

リーマン・ショックとは、2008年9月の米証券大手リーマン・ブラザーズ破綻を機に発生した世界的な金融危機

のことを指します。当時は米住宅ブームを背景に、信用力の低い借り手向けのサブプライム住宅ローンが急増し、

それを証券化した金融商品のビジネスに、多くの欧米金融機関が関わっていました。しかしながら、住宅ブームの

収束とともに返済延滞が発生すると、証券化商品の価格が暴落し、金融機関は巨額の損失を被りました。

【図表2:日経平均株価のPBRと日本の景気後退期】【図表1:リーマン・ショック後の主な政策対応】

(出所) 各種資料を基に三井住友DSアセットマネジメント作成 (注) データは2008年1月4日から2020年3月16日。(出所) QUICK、Bloomberg L.P.のデータを基に三井住友DSアセットマネジメント作成

年 月日 主な政策対応

2008 9月15日 米リーマン・ブラザーズ破綻。

9月18日 日米欧の6中銀が1,800億ドルの資金供給を発表。

9月29日 世界の10中銀が6,200億ドルの資金供給を発表。

10月3日 公的資金枠7,000億ドルを柱とする米金融安定化法が成立。

10月8日 FRB、FF金利を2.0%から1.5%へ引き下げ。

10月29日 FRB、FF金利を1.5%から1.0%へ引き下げ。

10月30日 日本、事業規模27兆円の経済対策発表。

10月31日 日銀、政策金利を0.5%から0.3%へ引き下げ。

11月9日 中国、投資総額4兆元の大型景気対策発表。

11月25日 FRB、8,000億ドルの資金供給拡大策発表。RMBSなどの買い取りでQE1開始。

12月2日 日銀、企業金融円滑策を発表。

12月16日 FRB、事実上のゼロ金利に。

12月19日 日銀、政策金利を0.3%から0.1%へ引き下げ。

2009 2月3日 日銀、銀行保有株の買い取りの再開決定。

2月17日 米オバマ大統領、7,870億ドル規模の景気対策法に署名。

3月18日 FRB、米長期国債3,000億ドル買い取り表明。

3月21日 米財務省、最大1兆ドルの官民合同の不良債権買い取りファンド設立を発表。

4月10日 日本、事業規模56兆円の経済対策発表。

4月24日 G7財務相・中央銀行総裁会議、共同声明で世界経済に安定化の兆し。

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日本の景気後退期 日経平均株価のPBR

Page 2: 株安を止める方法(その1)~リーマン・ショック … › documents › www › market › ichikawa › ...景気の谷は同年11月)で、0.9倍を割り込みました。3月16日における日経平均株価のPBRは0.82倍で、

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リーマン・ショックの株安は金融機関に起因、今回はウイルスに起因しており、異なる対処法が必要

金融機関が危機的な状況に陥ったことで、信用収縮が発生し、金融システムの機能は大きく低下しました。そ

の結果、短期金融市場では流動性が干上がり、世界的に株価が暴落して経済活動が停滞しました。つまり、

リーマン・ショックの株安は、「金融機関」に起因していました。そのため、各国の政策対応も金融機関の支援が中

心となり、包括的な景気対策は実体経済への影響を緩和するために打ち出されました(図表1)。

これに対し、今回は多くの金融機関が余剰資金を抱えている状況で、金融システムも総じて安定しています。

それでも市場が混乱しているのは、コロナ・ショックの株安が「ウイルス」に起因しているためです。その感染力の強さ

で、すでに多くの国や地域で人やモノの行き来が停滞しています。これがリーマン・ショックとの相違点であり、当然

ながらリーマン・ショックとは異なる対処法が求められます。

今回は、感染予防と財政政策、次いで金融政策という優先順、政府の役割が極めて重要になる

なお、日経平均株価の株価純資産倍率(PBR)は、リーマン・ショックによる景気後退期(景気の山が

2008年2月、景気の谷は2009年3月)および欧州債務危機による景気後退期(景気の山が2012年3月、

景気の谷は同年11月)で、0.9倍を割り込みました。3月16日における日経平均株価のPBRは0.82倍で、

景気後退を織り込む水準と考えられます(図表2)。実際に景気後退となれば、これがリーマン・ショックとの類

似点になります。

一般に、①金融機関の支援は中央銀行の金融政策、②家計や企業の支援は政府の財政政策、③感染予

防は政府の政策が、役割を担います。リーマン・ショックでは、①に重点が置かれ、景気への影響を緩和するため

に②が実施されました。今回のコロナ・ショックでは、まずは③が優先され、感染の影響の大きい先に的を絞って②

を実施し、景気後退回避のために、包括的な②や①の実施・検討が求められます。次回のレポートでは、株安を

止めるための、それぞれ具体的な施策を考えます。

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